(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101219
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】炭素固定装置の気体導入機構
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20240722BHJP
【FI】
C01B32/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005086
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】506213382
【氏名又は名称】アンヴァール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 重利
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB01
4G146BA09
4G146BA48
4G146BC02
4G146BC03
4G146BC35B
4G146BC36B
4G146DA02
4G146DA38
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素を残しつつ、水分を除去した導入気体を燃焼反応室に導入することができる炭素固定装置の気体導入機構を提供する。
【解決手段】導入気体A3に含まれる二酸化炭素をマグネシウムと反応させる燃焼反応室30と、燃焼反応室30の廃熱を燃焼反応室30に導入される前の導入気体A0に伝える伝熱手段101と、伝熱手段101により加熱された導入気体A1から水分を回収する水回収手段23,25と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入気体に含まれる二酸化炭素をマグネシウムと反応させる燃焼反応室と、
前記燃焼反応室の廃熱を前記燃焼反応室に導入される前の導入気体に伝える伝熱手段と、
前記伝熱手段により加熱された導入気体から水分を回収する水回収手段と、
を備えることを特徴とする炭素固定装置の気体導入機構。
【請求項2】
前記伝熱手段は、前記燃焼反応室内に設けられ前記燃焼反応室に導入される前の導入気体が流れる流路であることを特徴とする請求項1に記載の炭素固定装置の気体導入機構。
【請求項3】
前記伝熱手段は、前記燃焼反応室内に設けられる流路と接続され、該流路を流れる熱媒と前記燃焼反応室に導入される前の導入気体との熱交換を行う熱交換器であることを特徴とする請求項1に記載の炭素固定装置の気体導入機構。
【請求項4】
前記伝熱手段は、前記燃焼反応室の外周に設けられ前記燃焼反応室に導入される前の導入気体が流れる流路であることを特徴とする請求項1に記載の炭素固定装置の気体導入機構。
【請求項5】
前記伝熱手段は、前記燃焼反応室の外周に設けられる流路と接続され、該流路を流れる熱媒と前記燃焼反応室に導入される前の導入気体との熱交換を行う熱交換器であることを特徴とする請求項1に記載の炭素固定装置の気体導入機構。
【請求項6】
前記伝熱手段は、前記燃焼反応室から排出された高温の気体が流れる流路と接続され、該流路を流れる高温の気体と前記燃焼反応室に導入される前の導入気体との間で熱交換を行う熱交換器であることを特徴とする請求項1に記載の炭素固定装置の気体導入機構。
【請求項7】
前記水回収手段は、前記伝熱手段により加熱された導入気体を加圧する圧縮機であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の炭素固定装置の気体導入機構。
【請求項8】
前記水回収手段は、前記伝熱手段により加熱された導入気体と熱媒との間で熱交換を行う熱交換器であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の炭素固定装置の気体導入機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素固定装置の気体導入機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火力発電、ガスフレアリング等で化石燃料の燃焼に伴って発生した二酸化炭素を低減するために、炭素固定を行う技術が知られている。このような技術には、化学反応を利用して二酸化炭素を捕集し、炭素固定を行うものがある。
【0003】
特許文献1の炭素固定装置は、二酸化炭素とマグネシウムを反応室に導入し、燃焼させることにより炭素固定を行い、主に酸化マグネシウムと炭素からなる混合物を生成する。また、特許文献1においては、二酸化炭素とマグネシウムの燃焼反応により発生する約1500℃~約3000℃の高温高圧の気体を利用してガスタービン発電装置により発電を行うことで、二酸化炭素を発生させることなくクリーンエネルギを創出できるようになっている。
【0004】
また、特許文献1の炭素固定装置は、還元装置において生成される二酸化炭素をマグネシウムと燃焼反応させることにより炭素固定を行っているが、還元装置で得られる導入気体には、二酸化炭素の他に窒素、水素、酸素、水蒸気等の不純物が含まれているため、パルスストリーマ放電によって発生する非熱平衡プラズマにより、これらの不純物を反応させ、ある程度の量まで減らしたものを燃焼反応に利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-84237号公報(第5頁~第9頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の炭素固定装置にあっては、パルスストリーマ放電による処理によって導入気体から不純物をある程度の量まで減らすことは可能であるが、水分を完全に除去することが難しく、導入気体に水分が残っていると、反応室における二酸化炭素とマグネシウムによる燃焼反応による高熱(2000℃以上)により水が分解して酸素と水素を発生させてしまい、所定濃度の酸素と水素が混合された状態となると水素爆発を起こす虞があるため、常時、反応室内の酸素と水素の濃度を適正に管理して安全性を確保しなければならないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、二酸化炭素を残しつつ、水分を除去した導入気体を燃焼反応室に導入することができる炭素固定装置の気体導入機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の炭素固定装置の気体導入機構は、
導入気体に含まれる二酸化炭素をマグネシウムと反応させる燃焼反応室と、
前記燃焼反応室の廃熱を前記燃焼反応室に導入される前の導入気体に伝える伝熱手段と、
前記伝熱手段により加熱された導入気体から水分を回収する水回収手段と、
を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、燃焼反応室に導入される前の導入気体に、伝熱手段によって燃焼反応室における二酸化炭素とマグネシウムの反応により得られる高温の廃熱を伝えることにより加熱し、該導入気体中の水分を水回収手段によって回収することにより、二酸化炭素を残しつつ、水分を除去した導入気体を燃焼反応室に導入することができる。
【0009】
前記伝熱手段は、前記燃焼反応室内に設けられ前記燃焼反応室に導入される前の導入気体が流れる流路であることを特徴としている。
この特徴によれば、燃焼反応室内の高温の廃熱により燃焼反応室内に設けられる流路内を流れる導入気体を効率よく高温に加熱することができる。
【0010】
前記伝熱手段は、前記燃焼反応室内に設けられる流路と接続され、該流路を流れる熱媒と前記燃焼反応室に導入される前の導入気体との熱交換を行う熱交換器であることを特徴としている。
この特徴によれば、熱交換器により燃焼反応室内の高温の廃熱により加熱された流路内の熱媒と導入気体との熱交換を行うことにより、導入気体の加熱温度の調整を行いやすい。
【0011】
前記伝熱手段は、前記燃焼反応室の外周に設けられ前記燃焼反応室に導入される前の導入気体が流れる流路であることを特徴としている。
この特徴によれば、燃焼反応室内の高温の廃熱により加熱された燃焼反応室の壁を介して流路内の導入気体に伝熱されるため、導入気体の過度な加熱を防止しやすくなるとともに、流路構成部材の耐熱強度を下げることができる。
【0012】
前記伝熱手段は、前記燃焼反応室の外周に設けられる流路と接続され、該流路を流れる熱媒と前記燃焼反応室に導入される前の導入気体との熱交換を行う熱交換器であることを特徴としている。
この特徴によれば、燃焼反応室内の高温の廃熱により加熱された燃焼反応室の壁を介して流路内を流れる熱媒に伝熱され、熱交換器により流路内の熱媒と導入気体との熱交換を行うことにより、導入気体の加熱温度の調整を行いやすい。
【0013】
前記伝熱手段は、前記燃焼反応室から排出された高温の気体が流れる流路と接続され、該流路を流れる高温の気体と前記燃焼反応室に導入される前の導入気体との間で熱交換を行う熱交換器であることを特徴としている。
この特徴によれば、燃焼反応室から排出された高温の気体を熱媒として利用して導入気体との熱交換を行うことができるため、気体導入機構を簡素に構成することができる。
【0014】
前記水回収手段は、前記伝熱手段により加熱された導入気体を加圧する圧縮機であることを特徴としている。
この特徴によれば、圧縮機によって導入気体を圧縮し、水分を凝縮させて回収することにより、導入気体中の水分を略全て除去することができる。
【0015】
前記水回収手段は、前記伝熱手段により加熱された導入気体と熱媒との間で熱交換を行う熱交換器であることを特徴としている。
この特徴によれば、熱交換器によって導入気体の温度を低下させ、水分を凝縮させて回収することにより、導入気体中の水分を略全て除去することができるとともに、導入気体から奪った熱を再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例における炭素固定装置の気体導入機構が適用される炭素固定システムを示す概要図である。
【
図2】実施例1における炭素固定装置の気体導入機構を示す模式図である。
【
図3】実施例1における炭素固定装置の気体導入機構が火力発電所に適用された変形例を示す模式図である。
【
図4】(a)は、燃焼反応室内に設けられる流路(伝熱手段)を示す模式図であり、(b)は、燃焼反応室の外周に設けられる流路(伝熱手段)を示す模式図である。
【
図5】実施例2における炭素固定装置の気体導入機構を示す模式図である。
【
図6】実施例3における炭素固定装置の気体導入機構を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、マグネシウム(Mg)と二酸化炭素(CO2)を混在させた状態で燃焼させる炭素固定装置の燃焼反応室に導入される前の導入気体(以下、「導入前気体」と表記する。)を、燃焼反応室における燃焼反応により得られる高温の廃熱により加熱し、加熱された導入気体中の水分を回収することによって、CO2を残しつつ、水分を除去した導入気体を燃焼反応室に導入可能とし、炭素固定装置の燃焼反応室における安全性の確保と管理の簡略化を図ったものである。
【0018】
尚、導入気体とは、燃焼反応室におけるMgとの燃焼反応に必要となるCO2を含む気体である。
【0019】
本発明に係る炭素固定装置の気体導入機構を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0020】
実施例1における炭素固定システム1は、
図1に示されるように、海水を電解して炭酸カルシウム(CaCO
3)と水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)を得る電解装置2と、電解装置2で得られたMg(OH)
2または後述する炭素固定装置10の燃焼反応室としての第1反応室30で得られた酸化マグネシウム(MgO)を基に炭化カルシウム(CaC
2)を還元剤とする還元反応によりマグネシウム(Mg)と二酸化炭素(CO
2)を得る還元装置3と、主に還元装置3で発生したCO
2を同じく還元装置3で得られたMgと反応させる第1反応室30、第1反応室30の反応熱を利用して酸化カルシウム(CaO)と第1反応室30の反応により得られた炭素(C)を反応させる第2反応室32、電解装置2で得られたCaCO
3を熱分解して第2反応室32で反応させるCaOを得る第3反応室33を備える炭素固定装置10と、を備えている。
【0021】
詳しくは、還元装置3においては、CaC2を還元剤として下記反応式1により表されるMgOの還元反応が行われ、炭素固定装置10の第1反応室30における反応に利用されるMgが生成される。尚、還元装置3において用いられる還元剤はCaC2に限らず、MgOを還元できるものであれば、他の還元剤であってもよい。
MgO+CaC2→Mg+CaO+2C・・・(反応式1)
【0022】
MgOの還元反応に必要なエネルギは、例えばパルスパワー波によって与えることができ、不活性ガス及び還元性ガスの雰囲気下でパルスパワー波を照射することにより、MgOの還元効率を高めることができる。不活性ガスとしては、アルゴンガス、ネオンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等を挙げることができる。還元性ガスとしては、CaC2との反応性が低い一酸化炭素(CO)が用いられることが好ましく、パルスパワー波の照射によりMgOがプラズマ化して発生する副産物としての酸素(O2)とCOが反応してCO2が発生する。尚、還元性ガスとしてのCOには、後述する炭素固定装置10の第1反応室30における反応(反応式3参照)や第2反応室32における反応(反応式5参照)で生成されたCOを回収したものが利用されてもよい。また、MgOの還元反応に必要なエネルギは、パルスパワー波によって与えられるものに限らず、例えば高温に加熱することによって与えられてもよい。
【0023】
また、還元装置3においては、電解装置2で得られたMg(OH)2に熱を与えることにより、下記反応式2により表される熱分解が行われ、上記還元反応(反応式1参照)に利用されるMgOが生成される。
Mg(OH)2→MgO+H2O・・・(反応式2)
【0024】
炭素固定装置10の第1反応室30においては、還元装置3で得られるCO2をMgと反応させ、下記反応式により表される炭素の固定が行われる。尚、第1反応室30における反応は、発熱反応である。詳しくは、CO2濃度を大気よりも比較的高くした状態でCO2をMgと反応させると、CO2はMgとは完全に反応せず一酸化炭素(CO)が一部生じ、反応熱の温度が約1500℃~約2000℃となる(反応式3参照)。
Mg+CO2→MgO+CO ・・・(反応式3)
【0025】
また、CO2濃度が高濃度、例えば95%以上である場合には、CO2はMgと略完全に反応し、MgOとCとが生成されCOは生成されず、反応熱の温度が約3000℃以上となる(反応式4参照)。CO2とMgの反応の観点からはCO2濃度が100%であることが好ましい。本実施例においては、第1反応室30における反応熱の温度が約2000℃~約3000℃となるようにCO2濃度が調整されることが好ましい。
2Mg+CO2→2MgO+C・・・(反応式4)
【0026】
第2反応室32においては、第1反応室30で得られたCを第3反応室33で得られたCaOと反応させ、下記反応式5により表されるようにCaC2が生成され、Cのリサイクルが行われる。尚、第2反応室32における反応は、約2000℃の温度を必要とする吸熱反応である。
CaO+3C→CaC2+CO・・・(反応式5)
【0027】
第3反応室33においては、電解装置2で得られたCaCO3に熱を与えることにより、下記反応式6により表される熱分解が行われ、第2反応室32における反応に利用されるCaOが生成される。また、CaOと共に生成されるCO2は、第1反応室30における反応に利用可能である。尚、第3反応室33における反応は、800℃~900℃程度の温度を必要とする吸熱反応である。
CaCO3→CaO+CO2・・・(反応式6)
【0028】
尚、電解装置2において、電解によりCaCO3とMg(OH)2が回収された海水には、炭酸ガス(重炭酸イオン)が含まれていないため、該海水に還元装置3で発生したCO2や炭素固定装置10の第3反応室33で生成されたCO2の一部を吸収させることにより、炭素を固定してもよい。
【0029】
次いで、炭素固定装置10について
図2を用いて詳しく説明する。
図2に示されるように、本実施例1の炭素固定装置10は、還元装置3において還元反応に必要なエネルギをパルスパワー波によって与えることで発生した二酸化炭素(CO
2)リッチな導入前気体A0を気体導入機構100に導入することにより、CO
2を残しつつ、水分を除去した導入気体A3を用いて炭素固定及び発電が可能となっている。
【0030】
尚、本実施例1において、炭素固定装置10の気体導入機構100は、炭素固定システム1においてMgを生成する還元装置3に適用される形態について説明しているが、これに限らず、例えば
図3に示されるように、火力発電所103に適用され、火力発電所103で発生したCO
2リッチな排ガスが導入前気体A0として気体導入機構100に導入されてもよい。また、気体導入機構100に導入される導入前気体A0は、所定のCO
2濃度となる気体であれば、各種発電所や工場等から排出される排ガス、バイオマス由来のバイオガス等であってもよく、これらの気体と還元装置3で発生した気体を混合したものであってもよい。
【0031】
炭素固定装置10は、CO2をマグネシウム(Mg)と反応させる第1反応室30と、第1反応室30で得られる炭素(C)を酸化カルシウム(CaO)と反応させる第2反応室32と、炭酸カルシウム(CaCO3)を熱分解させる第3反応室33と、CO2リッチかつ水分を除去した導入気体A3を第1反応室30に導入する気体導入機構100と、第1反応室30内にパルスパワー波を照射する第2パルスパワー波照射器31と、第1反応室30から供給された気体A4のエネルギを用いて発電する発電手段40と、発電手段40の下流側に配設されCO2と一酸化炭素(CO)を分離可能なセパレータ60と、セパレータ60によりCOが分離されたCO2を含む気体A9を気体導入機構100に供給する循環手段80と、発電手段40により発電にエネルギが使用された残気体A10を排出する排出手段90と、を主に備えている。尚、以降の説明において、還元装置3側を上流側、排出手段90の後述する第9連通路91側を下流側として説明する。
【0032】
第1反応室30は、高耐熱かつ高耐圧に形成されており、図示しない投入口からMg粉末を投入可能となっている。尚、投入するMgは粉末以外の形状例えばフレーク状、バー状であってもよい。また、第1反応室30内には、第2パルスパワー波照射器31のプラグ31aが配置されており、第1反応室30内で第2パルスストリーマ放電を実行可能となっている。また、第1反応室30内の下流側には、ガスタービン発電装置41のタービン42が配置されている。本実施例では、第2パルスパワー波照射器31は、半値幅40nsの高電圧を繰り返し動作で発生可能であり、充電電圧を100kV、放電電流を170Aとし、電源を10ppsで運転させることで、第2パルスパワー波を照射し、第2パルスストリーマ放電を生じせしめる。このように、短パルス、高電圧小電流、短サイクルで運転させ、グロー放電やアーク放電とならないようにすることが肝要である。
【0033】
発電手段40は、第1反応室30内でCO2とMgとが反応することで発生した高温高圧の気体A4を用いて発電可能なガスタービン発電装置41を有している。ガスタービン発電装置41は、高温高圧の気体A4の圧力により回転されるタービン42と、タービン42の回転に応じて発電可能な発電装置43と、から主に構成されている。
【0034】
第2反応室32は、ガスタービン発電装置41のタービン42の下流側に配設され、タービン42を通過して温度と圧力が低下した気体A5が通過するとともに、図示しない投入口から第3反応室33で得られたCaO粉末を投入可能となっている。尚、投入するCaOは粉末以外の形状例えばフレーク状、バー状であってもよい。また、CaO粉末は、第3反応室33で得られたものに限らず、例えば還元装置3におけるCaC2を還元剤としたMgOの還元反応により得られるCaOであってもよい。
【0035】
第3反応室33は、第2反応室32の下流側に配設され、第2反応室32を通過して温度と圧力がさらに低下した気体A6が通過するとともに、図示しない投入口から電解装置2(
図1参照)で得られたCaCO
3粉末を投入可能となっている。
【0036】
本実施例1における気体導入機構100は、上流側から順に、還元装置3の下流側に連結された第1連通路20と、第1反応室30内に設けられ導入前気体A0が流れる伝熱手段としての流路101(
図4(a)参照)と、流路101を通過した後の高温導入前気体A1が流れる第2連通路21と、第2連通路21内にパルスパワー波を照射する第1パルスパワー波照射器22と、第2連通路21の下流側に配設された水回収手段としての冷却器23と、冷却器23の下流側に配設された第3連通路24と、第3連通路24の下流側に連結された水回収手段としての軸流式の圧縮機25と、圧縮機25の下流側及び第1反応室30の上流側に連結された第4連通路26と、から主に構成されている。尚、第2連通路21は、還元装置3ばかりでなく、後述する循環手段80の逆止弁82とも連結されており、逆止弁82から第2連通路21内に気体A9が流入可能となっている。
【0037】
図4(a)に示されるように、本実施例1における流路101は、コイル形状に形成され、第1反応室30内に一部を露出させた状態で、残りの部分が第1反応室30を構成する壁30aの内部に埋設されている。尚、流路101は、第1反応室30を構成する壁30aの内部に一部が埋設されることにより、第1反応室30内における燃焼反応によって発生する高温高圧の気体A4の影響による流路構成部材の変形や位置ずれが防止されている。
【0038】
また、伝熱手段としての流路は、上記した流路101のように第1反応室30内に設けられるものに限らず、第1反応室30の外周に設けられる流路であってもよい。詳しくは、
図4(b)に示される流路102のように、コイル形状に形成され、第1反応室30内に露出せず、第1反応室30を構成する壁30aの内部に全体が埋設された状態で、第1反応室30の外周に設けられていてもよい。また、説明の便宜上、図示を省略するが、流路は、第1反応室30を構成する壁30aの外部に一部あるいは全体を露出させた状態で、第1反応室30の外周に設けられていてもよい。
【0039】
このように、本実施例1における伝熱手段としての流路は、第1反応室30に対する配置を変更することにより、流路を流れる導入前気体A0の加熱温度を調整することができる。また、伝熱手段としての流路は、流路の長さや径等の条件を変更することにより、流路を流れる導入前気体A0の加熱温度を調整できることは言うまでもない。尚、導入前気体A0は、下流側に設けられる水回収手段により水分を十分に除去できる温度まで伝熱手段により加熱されればよいが、導入前気体A0に含まれるCO2の熱分解を防止する観点から、2000℃以下に加熱されることが好ましく、さらに導入前気体A0に含まれる窒素酸化物や硫黄酸化物等の不純物を熱分解する観点から、900℃以上2000℃以下に加熱されることがさらに好ましい。
【0040】
また、伝熱手段としての流路には、熱交換の効率を高めるためのフィンが設けられていてもよい。詳しくは、流路を構成する配管の内周面から内径方向(配管内)に突出するフィンや、流路を構成する配管の外周面から外径方向(第1反応室30内または壁30aの内部)に突出するフィンが設けられていてもよい。特に第1反応室30内に設けられる流路101(
図4(a)参照)の場合には、配管の内周面から内径方向に突出するフィンのみが設けられることが好ましく、第1反応室30内の高温高圧の気体A4による損傷や、MgOやC等の生成物の付着・堆積等による悪影響を受けることなく、流路内を流れる導入前気体A0の加熱効率を高めることができる。
【0041】
本実施例において、第2連通路21内に設けられる第1パルスパワー波照射器22は、第2連通路21内かつ後述する逆止弁82との合流箇所よりも上流側に配置されたプラグ22aから第1パルスストリーマ放電を実行可能となっている。本実施例では、第1パルスパワー波照射器22は、半値幅80nsの高電圧を繰り返し動作で発生可能であり、充電電圧を20kV、放電電流を170Aとし、電源を5pps(Pulses Per Second)で運転させることで、第1パルスパワー波を照射し、第1パルスストリーマ放電を生じせしめる。このように、短パルス、高電圧小電流、短サイクルで運転させ、グロー放電やアーク放電とならないようにすることが肝要である。尚、本実施例においては、例えば還元装置3においてパルスパワー波を与えることで発生したCO2リッチかつ不純物が少ない導入前気体A0が用いられる場合、第1パルスパワー波照射器22は配設されなくてもよい。
【0042】
セパレータ60は、第3反応室33の下流側に連結された第5連通路50の下流側に配設されている。また、セパレータ60の下流側には、気体A7からCOが回収された気体A8が流入する第6連通路70と、回収したCOによりCO濃度が高い気体A11が流入する第8連通路71がそれぞれ連結されている。また、第8連通路71の下流側には、COの貯蔵タンク72が連結されている。
【0043】
循環手段80は、上述した第6連通路70と、第6連通路70の下流側に連結された三方向弁Vと、三方向弁Vの一方の下流側に連結された第7連通路81と、第7連通路81の下流側に連結された逆止弁82と、から主に構成されている。
【0044】
排出手段90は、上述した第6連通路70と、三方向弁Vと、三方向弁Vの他方の下流側に連結され、炭素固定装置10の外部に連通する第9連通路91と、から主に構成されている。尚、
図2では、三方向弁Vの第9連通路91が連結されている弁が閉弁状態となっている。
【0045】
次に、動作について説明する。本実施例において、還元装置3で得られたCO2リッチな導入前気体A0は、第1連通路20に流入される。導入前気体A0は、CO2濃度が約70%以上であり、CO2以外にも、窒素(N2)、水素(H2)、酸素(O2)、水蒸気(H2O)等が含まれている。また、導入前気体A0の温度は、300℃程度であり、単位時間当たりの流量は、0.1×10-4m3/sである。
【0046】
矢印で示されるように、第1連通路20から流路101に導入された導入前気体A0は、第1反応室30における燃焼反応によって得られる高温の廃熱が伝熱されることにより加熱され、加熱された高温導入前気体A1が第2連通路21に導出される。
【0047】
第2連通路21内に導入された高温導入前気体A1は、矢印で示されるように、第1パルスパワー波照射器22のプラグ22aから連続的に照射され続けている第1パルスストリーマ放電により発生している非熱平衡プラズマにより、高温導入前気体A1に含まれるH2、O2、H2O等の反応が促進され不純物がさらに少なくなる。
【0048】
そして、高温導入前気体A1は、矢印で示されるように、冷却器23に導出されて冷却されることにより水分が回収され、約30℃~100℃程度の低温導入前気体A2となる。尚、本実施例における冷却器23は、高温導入前気体A1と熱媒との間で熱交換を行う熱交換器である。
【0049】
低温導入前気体A2は、矢印で示されるように、第3連通路24を通過した後、圧縮機25により圧縮される。
【0050】
矢印で示されるように、圧縮機25において圧力約2.0MPa、単位時間当たり流量5.0×10-5m3/sに圧縮・加圧されることにより、水分が略全てに回収され乾燥した導入気体A3が第4連通路26を通過してMg粉末が投入されている第1反応室30に流入する。尚、水分が略全てに回収され乾燥した導入気体A3とは、常温での相対湿度が3%以下、好ましくは1%以下のものである。
【0051】
第1反応室30内では第2パルスパワー波照射器31のプラグ31aから短時間の第2パルスストリーマ放電が行われ、第1反応室30内に非熱平衡プラズマが発生する。この非熱平衡プラズマにより、導入気体A3に含まれるCO2とMgが直接反応し、酸化マグネシウム(MgO)、炭素(C)、一酸化炭素(CO)等が生成されることを確認した。すなわち、CO2の炭素固定がなされ、導入気体A3のCO2濃度が低減された。
【0052】
この反応により、反応熱が発生し、第1反応室30内の温度が約2000℃~約3000℃となった。第2パルスパワー波照射を停止した以降にも、第1反応室30内に導入気体A3が流入することで、CO2とMgとが連続的に反応することが観察された。
【0053】
このように、MgとCO2とがまだ反応していない状態では、第2パルスストリーマ放電をトリガーとしてMgとCO2とを反応させることが可能であり、MgとCO2との反応が開始して以降の反応については、発生する高温の反応熱により連続的に反応させ続けることができる。
【0054】
また、CO2とMgとの反応により、導入気体A3の温度が急激に上昇することに伴って、導入気体A3が急激に膨張するため、高温高圧の気体A4となり、下流側に噴出される。
【0055】
気体A4は、矢印で示されるように、第1反応室30の下流側から第2反応室32に流入しようとする。このとき、気体A4は、第1反応室30と第2反応室32との間に配設されているガスタービン発電装置41のタービン42を回転させる。この気体A4の通過に伴いタービン42が回転されることにより、ガスタービン発電装置41の発電装置43による発電が行われる。
【0056】
第2反応室32に流入した約2000℃~約3000℃の高温の気体A5には、第1反応室30における反応により生成され主にMgOとCからなる混合物の粒子が含まれており、気体A5中のCが第2反応室32に投入されているCaO粉末と反応し、炭化カルシウム(CaC2)、一酸化炭素(CO)等が生成されることを確認した。
【0057】
また、吸熱反応であるMgOとCとの反応により、気体A5の温度が急激に低下することに伴って、気体A5が急激に収縮するため、温度と圧力が低下した気体A6となり、下流側に噴出される。
【0058】
第3反応室33に流入した約1100℃の高温の気体A6は、第3反応室33に投入されているCaCO3粉末と反応し、酸化カルシウム(CaO)、二酸化炭素(CO2)等が生成されることを確認した。
【0059】
また、吸熱反応であるCaCO3の熱分解反応により、気体A6の温度が急激に低下することに伴って、気体A6が急激に収縮するため、温度と圧力がさらに低下した気体A7となり、下流側に噴出される。
【0060】
第3反応室33から流出した気体A7は、矢印で示されるように、第5連通路50を通じてセパレータ60に導出される。セパレータ60では、気体A7に含まれるCOが分離されるため、高濃度のCOが含まれる気体A11と、COが分離された残りの気体である気体A8に分離される。高濃度のCOが含まれる気体A11は、矢印で示されるように、第8連通路71を通じて貯蔵タンク72に封入される。
【0061】
一方、COが分離された残りの気体である気体A8は、矢印で示されるように、第6連通路70に導出される。第6連通路70には、気体A8に含まれるCO2濃度を測定可能な図示しない濃度センサが設けられており、CO2濃度が一定(本実施例では、10vol%)以上である気体A9の場合には、三方向弁Vの第9連通路91側が閉弁状態となり、第6連通路70及び第7連通路81側が開弁状態となる。これにより、気体A9は、矢印で示されるように、三方向弁V、第7連通路81及び逆止弁82を通じて、第2連通路21に導出され、高温導入前気体A1と共に上述したサイクルが繰り返し行われることとなる。すなわち、第3反応室33におけるCaCO3の熱分解反応により生成されたCO2の一部は、第1反応室30におけるMgとの反応により炭素固定される。
【0062】
また、CO2濃度が一定(本実施例では、10vol%)未満である残気体A10の場合には、三方向弁Vの第7連通路81側が閉弁状態となり、第6連通路70及び第9連通路91側が開弁状態となる。これにより、残気体A10は、点線矢印で示されるように、三方向弁V及び第9連通路91を通じて外部に排出される。
【0063】
以上説明したように、本実施例1の炭素固定装置10の気体導入機構100では、第1反応室30に導入される前の導入気体(導入前気体A0)に、伝熱手段である流路101によって第1反応室30の燃焼反応により得られる高温の廃熱を伝えることにより導入前気体A0を加熱し、水回収手段である冷却器23及び圧縮機25によって導入前気体(高温導入前気体A1,低温導入前気体A2)中の水分を回収することにより、CO2を残しつつ、水分を除去した導入気体A3を第1反応室30に導入することができるため、炭素固定装置10の第1反応室30において水が分解して酸素と水素が発生することによる水素爆発の危険性がなくなり、安全性の確保と管理の簡略化を実現することができる。
【0064】
また、本実施例1において、気体導入機構100を構成する伝熱手段は、第1反応室30内に設けられ第1反応室30に導入される前の導入前気体A0が流れる流路101(
図4(a)参照)であることにより、第1反応室30内の高温の廃熱により流路101内の導入前気体A0を効率よく高温に加熱することができる。
【0065】
尚、本実施例1において、気体導入機構100を構成する伝熱手段は、例えば第1反応室30の外周に設けられ第1反応室30に導入される前の導入前気体A0が流れる流路102(
図4(b)参照)である場合には、第1反応室30内の高温の廃熱により加熱された壁30aを介して流路102内の導入前気体A0に伝熱されるため、導入前気体A0の過度な加熱を防止しやすくなるとともに、流路102を構成する流路構成部材の耐熱強度を下げることができる。
【0066】
また、本実施例1においては、導入前気体A0を第1反応室30に導入するまでの流路の一部を形成する流路101,102を利用して第1反応室30との間で伝熱することができるため、気体導入機構100の構成を簡素化することができる。
【0067】
尚、本実施例1においては、伝熱手段としての流路101,102がコイル形状に形成されるものとして説明したが、これに限らず、流路の形状は自由に変更されてよく、例えば分岐した複数の流路が第1反応室30に沿って並行して延びて再び合流する多管式等の形状であってもよい。
【0068】
また、気体導入機構100を構成する水回収手段は、伝熱手段により加熱された高温導入前気体A1と熱媒との間で熱交換を行う熱交換器である冷却器23であり、冷却器23によって高温導入前気体A1の温度を低下させ、水分を凝縮させて回収することにより、高温導入前気体A1中の水分を除去することができる。また、冷却器23における熱交換により熱媒が高温導入前気体A1から奪った熱は、例えば還元装置3におけるMgOの還元反応に必要なエネルギや第3反応室33におけるCaCO3の熱分解に必要なエネルギとして再利用することができる。
【0069】
また、本実施例において、気体導入機構100を構成する水回収手段は、上記冷却器23の下流側にさらに圧縮機25が設けられることにより、圧縮機25によって低温導入前気体A2を圧縮し、冷却器23において回収しきれなかった水分を凝縮させて回収することにより、低温導入前気体A2中の水分を略全て除去することができる。すなわち、導入気体A3を水分が略全て除去された乾燥気体とすることができる。
【0070】
尚、本実施例においては、水回収手段として冷却器23、圧縮機25の順に導入前気体から水分を回収する形態について説明したが、これに限らず、圧縮機、冷却器の順に導入前気体から水分を回収する形態であってもよい。また、水回収手段は、導入前気体から略全ての水分を回収することができれば、冷却器(熱交換器)と圧縮機のいずれか一方だけを利用してもよい。
【0071】
また、本実施例において、循環手段80は、水回収手段である冷却器23、圧縮機25よりも上流側の第2連通路21にセパレータ60によりCOが分離されたCO2を含む気体A9を供給するため、気体A9に水分が混入した場合であっても、水分を確実に回収することができる。
詳しくは、第1熱媒流路202を流れる熱媒B0は、熱交換器201において第1連通路20から導入された導入前気体A0との間で熱交換を行った後の相対的に低温となった熱媒である。また、第2熱媒流路203を流れる熱媒B1は、第1熱媒流路202から流路101に流入した熱媒B0が炭素固定装置10の第1反応室30における燃焼反応によって得られる廃熱(高温の気体A4)との間で熱交換を行った後の高温の熱媒である。
これによれば、本実施例2の気体導入機構200を構成する伝熱手段は、第1反応室30に設けられる流路(例えば流路101)と接続される熱交換器201であることにより、第1反応室30内の高温の廃熱により加熱された熱媒B1と導入前気体A0との熱交換を行うことができるため、導入前気体A0の加熱温度の調整を行いやすい。
また、熱交換器201における熱媒B1と導入前気体A0との熱交換により相対的に低温となった熱媒B0に残された熱エネルギは、例えば還元装置3におけるMgOの還元反応に必要なエネルギや第3反応室33におけるCaCO3の熱分解に必要なエネルギとして再利用することが可能である。