(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101221
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】車両のフロアパネル構造
(51)【国際特許分類】
G10K 11/168 20060101AFI20240722BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
G10K11/168
G10K11/16 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005090
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】長尾 邦昭
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 伸
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061BB01
(57)【要約】
【課題】ロードノイズの低減と乗り心地の向上とを両立できるとともに、材料開発にかかる手間を小さくすることが可能なフロアパネル構造を提供する。
【解決手段】上面部と、上面部の下方に位置する下面部と、上面部と下面部との間に位置する中間層部と、を設ける。中間層部を、粘弾性を有する減衰層と減衰層よりも損失係数の小さい充填層とを含む複数の層を上下方向に積層することで構成する。充填層が中間層部に占める体積の割合を20%以下とし、充填層の損失係数を減衰層の損失係数の10%以上且つ100%未満とし、充填層の弾性率を減衰層の弾性率の1倍以上且つ600倍以下とし、充填層の密度を減衰層の密度の50%以上とするとともに、少なくとも中間層部の最下層に充填層を配置する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のキャビンの底面を構成する上面部と、
前記上面部の下方に位置する下面部と、
前記上面部と前記下面部との間に位置する中間層部と、を備え、
前記中間層部は、粘弾性を有する減衰層と前記減衰層よりも損失係数の小さい充填層とを含む複数の層が上下方向に積層されて構成されており、
前記充填層が前記中間層部に占める体積の割合は、20%以下であり、
前記充填層の損失係数は、前記減衰層の損失係数の10%以上且つ100%未満であり、
前記充填層の弾性率は、前記減衰層の弾性率の1倍以上且つ600倍以下であり、
前記充填層の密度は、前記減衰層の密度の50%以上であり、
少なくとも前記中間層部の最下層に前記充填層が配置される、ことを特徴とする車両のフロアパネル構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のフロアパネル構造において、
前記充填層は、前記中間層部の最下層を含む下部にのみに設けられる、ことを特徴とする車両のフロアパネル構造。
【請求項3】
請求項1に記載の車両のフロアパネル構造において、
前記中間層部は、前記減衰層と前記充填層とが上下方向に合わせて10層積層されることで構成されており、当該中間層部の1または2つの層が前記充填層である、ことを特徴とする車両のフロアパネル構造。
【請求項4】
請求項1に記載の車両のフロアパネル構造において、
前記充填層が前記中間層部に占める体積の割合は、10%以下である、ことを特徴とする車両のフロアパネル構造。
【請求項5】
請求項1に記載の車両のフロアパネル構造において、
前記充填層の密度は、前記減衰層の密度の50%以上且つ100%以下である、ことを特徴とする車両のフロアパネル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられるフロアパネルの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、乗員の快適性を高めるための種々の検討が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、キャビン内の静粛性を高めるために、エンジン室とキャビンとの隔壁として用いられるパネル部材に防音効果を持たせた構造が開示されている。具体的に、特許文献1には、内壁と外壁とがこれらの間に空間が区画されるように接合され、且つ、この空間内に減衰材が充填された中空二重壁構造が開示されている。この構造によれば、エンジン室側からパネル部材に付与された振動を減衰させることができ、エンジン室内の騒音がキャビン側に伝達されるのを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
キャビンの壁を構成するパネル部材としては、上記隔壁の他にキャビンの底面を構成するフロアパネルがある。フロアパネルについても、いわゆるロードノイズであってキャビン外部からキャビン内に伝達される騒音を抑制することが求められる。これより、特許文献1の構造をフロアパネルに適用して上記減衰材の物性をロードノイズとして認識される振動を減衰可能な物性にすることが考えられる。しかしながら、フロアパネルには乗員が着座するシートが設けられることから、フロアパネルには乗り心地を左右する振動の低減も求められる。そして、乗り心地を左右する振動はフロアパネルに生じる膜振動であり、この膜振動の周波数と、ロードノイズとして乗員が認識する振動の周波数とは互いに異なる。具体的に、フロアパネルの膜振動の周波数は、ロードノイズとして認識される振動の周波数よりも低い。そのため、単に、特許文献1の構造をフロアパネルに適用して減衰材の物性を上記のような物性にしただけでは、ロードノイズは低減できるものの乗り心地を良好にすることができない。
【0006】
ここで、上記の減衰材として用いられる材料の物性を、ロードノイズとして認識される振動を減衰可能な物性で、且つ、フロアパネルの膜振動を低減可能な物性にすれば、ロードノイズの低減と乗り心地の向上とを実現することは可能であるが、このような材料を開発するには手間がかかる。特に、車種等に応じて、各振動の詳細な周波数や、求められるロードノイズの低減効果と乗り心地の向上効果の度合いは異なるため、それぞれに対応して適切な材料を開発するには多大な手間がかかる。
【0007】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、ロードノイズの低減と乗り心地の向上とを両立できるとともに、材料開発にかかる手間を小さくすることが可能なフロアパネルを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、車両のキャビンの底面を構成する上面部と、前記上面部の下方に位置する下面部と、前記上面部と前記下面部との間に位置する中間層部と、を備え、前記中間層部は、粘弾性を有する減衰層と前記減衰層よりも損失係数の小さい充填層とを含む複数の層が上下方向に積層されて構成されており、前記充填層が前記中間層部に占める体積の割合は、20%以下であり、前記充填層の損失係数は、前記減衰層の損失係数の10%以上且つ100%未満であり、前記充填層の弾性率は、前記減衰層の弾性率の1倍以上且つ600倍以下であり、前記充填層の密度は、前記減衰層の密度の50%以上であり、少なくとも前記中間層部の最下層に前記充填層が配置される、車両のフロアパネル構造を提供する(請求項1)。
【0009】
本発明によれば、粘弾性を有して損失係数が高い減衰層が中間層部に設けられているため、中間層部によってフロアパネルの振動を減衰させることができる。また、損失係数が低い充填層が設けられていることで、上面部および下面部の膜振動に対して充填層を位相がずれた状態で振動させることができ、上面部および下面部の膜振動の振幅および振動エネルギーを小さくできる。従って、ロードノイズとして認識されるフロアパネルの振動を減衰させてロードノイズを低減し、且つ、フロアパネルの膜振動を小さく抑えて乗り心地を良好にすることができる。
【0010】
しかも、本願発明者らは、充填層を中間層部の最下層に設けると上記の膜振動を効果的に小さくできることを突き止めた。また、本願発明者らは、各層の物性および各層が中間層部に占める割合と、上面部と下面部の膜振動の低減代とについて鋭意研究した結果、減衰層と充填層の物性を、充填層の損失係数が減衰層の損失係数の10%以上且つ100%未満となり、充填層の弾性率が減衰層の弾性率の1倍以上且つ600倍以下となり、充填層の密度が減衰層の密度の50%以上となるように構成し、且つ、中間層部における充填層が占める体積の割合が20%以下となるように構成すれば、減衰層を構成する部材のみで中間層部を構成した場合に比べて、上記の膜振動を有意に小さくできることを突き止めた。これより、本発明によれば、各層の物性および各層が中間層部に占める割合を上記のように構成していることで、上面部と下面部の膜振動を確実に小さくして乗り心地を確実に向上できる。また、損失係数が高い減衰層が中間層部に占める体積の割合が80%以上となることで、ロードノイズとして認識されるフロアパネルの振動を確実に減衰できる。
【0011】
そして、本発明によれば、車種等の変更に伴ってフロアパネルに加えられる振動の周波数が変わったときや、求められるロードノイズの低減効果と乗り心地の向上効果の度合いが変わったときでも、減衰層および充填層の枚数や厚み、また、これらの割合を調整することで、ロードノイズの低減効果と乗り心地向上効果とを適切な度合いで両立させることが可能になる。そのため、仮に粘弾性を有する1つの減衰部材で中間層部を構成して、この減衰部材の物性を、ロードノイズの低減効果と乗り心地の向上効果とが適切な度合いでそれぞれ得られるように調整する場合に比べて調整にかかる手間を低減できる。従って、本発明によれば、ロードノイズの低減と乗り心地の向上とを両立でき、且つ、材料開発にかかる手間を小さくできるフロアパネルを実現することができる。
【0012】
前記構成において、好ましくは、前記充填層は、前記中間層部の最下層を含む下部にのみに設けられる(請求項2)。
【0013】
この構成によれば、充填層の上方に減衰層を配置するだけで中間層部を実現できるため、中間層部の製造が容易になる。
【0014】
前記中間層部としては、前記減衰層と前記充填層とが上下方向に合わせて10層積層されることで構成されており、当該中間層部の1または2つの層が前記充填層であるものが挙げられる(請求項3)。
【0015】
前記構成において、好ましくは前記充填層が前記中間層部に占める体積の割合は、10%以下である(請求項4)。
【0016】
この構成によれば、減衰層が中間層部に占める体積の割合が90%よりも大きくなることで、減衰層によるフロアパネルの振動減衰効果を高めることができる。
【0017】
前記構成において、好ましくは、前記充填層の密度は、前記減衰層の密度の50%以上且つ100%以下である(請求項5)。
【0018】
この構成によれば、充填層の密度を50%以上として良好な乗り心地を可能としつつ、充填層の密度を100%以下にすることによって充填層およびフロアパネルの軽量化が可能になる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の車両のフロアパネル構造によれば、ロードノイズの低減と乗り心地の向上とを両立できるとともに、材料開発にかかる手間を小さくすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる車両の構造を概略的に示した上面図である。
【
図3】
図3は、フロアパネルの断面構造を示す模式図である。
【
図4】
図4は、フロアパネルの層のパターンを示した図である。
【
図5】
図5は、複数のパターンのフロアパネルについて調べた乗り心地性能の向上効果の結果を表したグラフである。
【
図6】
図6は、複数の層で構成された物体の等価弾性率の算出手順を説明するため図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明のフロアパネル構造が適用される車両の構造を概略的に示した上面図である。
図2は、フロアパネル1の概略斜視図である。フロアパネル1は、全体として板状の部材である。フロアパネル1は、その上面が車両Vのキャビンの底面を構成し、且つ、その下面が車両Vの車体V0の下面を構成するように車両Vに設けられる。
図1の例では、フロアパネル1は、所定の方向に延びる略長方形状を呈する。
図1の例では、車両Vに、2枚のフロアパネル1が、それぞれ車両Vの前後方向に延びる姿勢で車幅方向に並設されている。また、各フロアパネル1の上方にシート(不図示)が載置されるようになっており、フロアパネル1の上方には、シートを支持する支持部V1が配置される。
【0022】
図3は、フロアパネル1の断面構造を示す模式図である。フロアパネル1は、フロアパネル1の上面を構成する上面部10と、フロアパネル1の下面を構成する下面部20と、これらの間に配置される中間層部40と、中間層部40の外周を囲むように上面部10と下面部20とをつなぐ壁面部30とを有する。
【0023】
下面部20は、車体V0の下面を構成する。つまり、下面部20は、いわゆるアンダーカバーとして機能する。上面部10は、車両Vのキャビンの上面を構成する。つまり、上面部10は、いわゆるフロアマットとして機能する。本実施形態では、上面部10と下面部20とは、それぞれ樹脂製のパネル部材である。
【0024】
中間層部40は、減衰層50と、減衰層50とは異なる物性の充填層60とを含む複数の層が上下方向に積層されることで構成されている。すなわち、減衰層50は、所定の物性を有する材料が層状に成形されたものであり、充填層60は、減衰層50を構成する材料とは別の物性を有する材料が層状に成形されたものであり、中間層部40では、これらの層が上下方向に重ねて配置されている。
【0025】
本実施形態では、
図3に示すように、減衰層50と充填層60とが合わせて10層積層されている。また、最下層にのみ充填層60が設けられており、上から1番目から9番目までの層はすべて減衰層50となっている。
【0026】
本実施形態では、充填層60と各減衰層50の体積はほぼ同じに設定されている。詳細には、充填層60と各減衰層50は、各厚みと各面積(上下方向と直交する方向の断面積)とがそれぞれ互いに同じ値に設定されている。これより、充填層60が中間層部40に占める体積の割合は10%となっており、減衰層50が中間層部40に占める体積の割合は90%となっている。
【0027】
減衰層50は粘弾性を有する。例えば、アクリル系の粘弾性部材が減衰層50として用いられる。
【0028】
充填層60の損失係数は減衰層50の損失係数よりも小さく、充填層60の損失係数は減衰層50の損失係数の100%未満である。また、充填層60の損失係数は、減衰層50の損失係数の10%以上の値に設定されている。例えば、減衰層50として損失係数が1.0のものが用いられ、充填層60として損失係数が0.1であって減衰層50の損失係数の10%の値となるものが用いられる。例えば、損失係数が上記のように設定されたウレタン系の硬質発泡充填剤が充填層60として用いられる。
【0029】
充填層60の弾性率は、減衰層50の弾性率の1倍以上且つ600倍以下に設定されている。例えば、減衰層50として弾性率が1.5(MPa)のものが用いられ、充填層60として弾性率が800(MPa)であって減衰層50の弾性率の600倍程度のものが用いられる。
【0030】
また、充填層60の密度は、減衰層50の密度の50%以上且つ100%以下に設定されている。例えば、減衰層50として密度が1.0×10-6(Kg/mm3)のものが用いられ、充填層60として密度が5.8×10-7(Kg/mm3)であって減衰層50の密度の60%程度のものが用いられる。
【0031】
以上のように、上記実施形態では、フロアパネル1の中間層部40に、粘弾性を有して損失係数が高い減衰層50が設けられている。そのため、中間層部40によってフロアパネル1の振動を減衰できる。従って、ロードノイズとして認識されるフロアパネル1の振動を減衰させてロードノイズを低減することができる。特に、上記実施形態では、減衰層50が中間層部40に占める体積の割合が90%であるので、ロードノイズを確実に低減できる。
【0032】
また、上記実施形態では、フロアパネル1の中間層部40に、損失係数が減衰層50の損失係数の100%未満であって比較的低い値に設定された充填層60が設けられている。そのため、上面部10および下面部20の膜振動に対して充填層60を振動させて、充填層60の振動と上面部10および下面部20の膜振動との間に位相ずれを生じさせることが可能になる。これより、上面部10および下面部20の膜振動の振幅および振動エネルギーを小さくすることができ、乗り心地を良好にできる。具体的に、フロアパネル1には乗員の足が載置される。また、上記のようにフロアパネル1の上方にはシートが配置されるようになっている。そのため、フロアパネル1が大きく膜振動するとそれが乗員に伝わることで乗り心地が低下する。これに対して、上面部10および下面部20の膜振動の振幅および振動エネルギーが小さくなれば、乗員が感じる乗り心地が向上する。
【0033】
しかも、中間層部40の最下層に充填層60が設けられ、充填層60が中間層部40に占める体積の割合が10%とされ、充填層60の損失係数が、減衰層50の損失係数の10%以上(且つ100%未満)の値に設定され、充填層60の弾性率が減衰層50の弾性率の1倍以上且つ600倍以下とされるとともに、充填層60の密度が減衰層50の密度の50%以上とされている。そのため、上面部10および下面部20の膜振動を確実に小さくして乗り心地を確実に向上できる。
【0034】
また、中間層部40の下部にのみ充填層60が設けられていることで、充填層60の上方に減衰層50を配置するだけで中間層部40を実現できる。従って、中間層部40およびフロアパネル1の製造にかかる手間を低減できる。
【0035】
次に、上記の充填層60の物性および充填層60の配置と乗り心地性能の向上効果の関係の詳細について説明する。
【0036】
本願発明者らは、中間層部を構成する層のパターンが互いに異なる複数のフロアパネルについて、それぞれ乗り心地性能の向上効果を調べた。
【0037】
図4は、調査を行った各フロアパネルの層のパターンを示した図である。つまり、各フロアパネルの中間層部を模式的に示した図である。
図4に示す各フロアパネルの中間層部は、いずれも、上記実施形態と同様に合計10個の層で構成されている。また、各層の体積は、上記実施形態と同様に互いに同じ体積とされている。
【0038】
図4の(P1)に示すパターンでは、中間層部を構成する10層の全てが減衰層50である。以下では、層のパターンが
図4の(P1)のパターンであるフロアパネルを、第1パネルという。
【0039】
図4の(P2)に示すパターンは、上記実施形態と同じパターンである。つまり、
図4の(P2)に示すパターンでは、中間層部の最下層のみが充填層60であり、残りの上から9つ分の層が減衰層50である。以下では、上記実施形態に係るフロアパネルであって、層のパターンが
図4の(P2)のパターンであるフロアパネルを、第2パネルという。
【0040】
図4の(P3)に示すパターンでは、中間層部の最上層のみが充填層60であり、残りの上から2番目~10番目の層が減衰層50である。以下では、層のパターンが
図4の(P3)のパターンであるフロアパネルを、第3パネルという。
【0041】
図4の(P4)に示すパターンでは、中間層部の上下方向の中央付近に位置する1つの層、具体的には、上から6番目の層のみが充填層60であり、残りの9つの層が減衰層50である。以下では、層のパターンが
図4の(P4)のパターンであるフロアパネルを、第4パネルという。
【0042】
図4の(P5)に示すパターンでは、最下層と最下層の1つの上の層、つまり、下から2つ分の層が充填層60であり、残りの上から1番目~8番目の層が減衰層50である。以下では、層のパターンが
図4の(P5)のパターンであるフロアパネルを、第5パネルという。
【0043】
図4の(P6)に示すパターンでは、最下層と最上層が充填層60であり、残りの上から2番目~9番目の層が減衰層50である。以下では、層のパターンが
図4の(P6)のパターンであるフロアパネルを、第6パネルという。
【0044】
図4の(P7)に示すパターンでは、中間層部の上下方向の中央付近に位置する2つの層、具体的には、上から5番目の層と6番目の層とが充填層60であり、残りの8つの層が減衰層50である。以下では、層のパターンが
図4の(P7)のパターンであるフロアパネルを、第7パネルという。
【0045】
図4の(P8)に示すパターンでは、最上層と最上層の1つの下の層、つまり、上から2つ分の層が充填層60であり、残りの上から3番目~10番目の層が減衰層50である。以下では、層のパターンが
図4の(P8)のパターンであるフロアパネルを、第8パネルという。
【0046】
図4の(P9)に示すパターンでは、中間層部の上下方向の中央付近に位置する1つの層、具体的には、上から6番目の層と、最上層と最下層とが充填層60であり、残りの7つの層が減衰層50である。以下では、層のパターンが
図4の(P9)のパターンであるフロアパネルを、第9パネルという。
【0047】
図4の(P10)および(P11)に示すパターンでは、減衰層50と充填層60とが交互に配置されている。ただし、
図4の(P10)に示すパターンでは、最上層が減衰層50となり最下層が充填層60となるように配置されている。一方で、
図4の(P11)に示すパターンでは、最上層が充填層60となり最下層が減衰層50となるように配置されている。以下では、層のパターンが
図4の(P10)のパターンであるフロアパネルを、第10パネルといい、層のパターンが
図4の(P11)のパターンであるフロアパネルを、第11パネルという。
【0048】
図5は、上記の10個のパターンのフロアパネルの各乗り心地性能向上効果の調査結果を示したグラフである。ここで、
図5のグラフに示した結果は、減衰層50を、弾性率が1.5(MPa)、密度が1.0×10
-6(Kg/mm
3)、損失係数が1.0の粘弾性体とし、充填層60を、弾性率が800(MPa)、密度が5.8×10
-7(Kg/mm
3)、損失係数が0.1の発泡充填剤としたときの結果である。つまり、
図5のグラフに示した結果は、充填層60の損失係数が減衰層50の損失係数の10%であり、充填層60の弾性率が減衰層50の弾性率の600倍程度であり、充填層60の密度が減衰層50の密度の60%程度であるときの結果である。
【0049】
具体的に、本願発明者らは、乗り心地への影響が大きいことがわかっている50Hz以上200Hz以下の範囲に含まれる振動を、各パターンのフロアパネルにそれぞれ付与するというシミュレーションを行い、上記振動が付与されたときの各フロアパネルのイナータンスを算出した。また、フロアパネルから中間層部40を除いた中空のパネル部材、つまり、上面部10と下面部20と壁面部30のみからなる部材にも同様に上記の振動を付与するシミュレーションを行い、当該部材のイナータンスを基準値として算出した。そして、各フロアパネルのイナータンスと基準値とを比較して、各フロアパネルのイナータンスの基準値に対する低減割合を、乗り心地性能の向上効果を表す指標として算出した。具体的に、基準値から各フロアパネルのイナータンスを引いた値を基準値で割った値をフロア振動低減代(%)として算出した。つまり、所定のパターンのフロアパネルのイナータンスをA1とし、基準値をA0とすると、フロア振動低減代(%)はフロア振動低減代(%)=(A0-A1)/A0×100によって算出される。
図5のグラフの縦軸は、このようにして算出したフロア振動低減代(%)である。なお、フロア振動低減代が高いほど、振動の低減効果は高く、乗り心地はより良好になる。
【0050】
図5の横軸は、中間層部40の全体での弾性率を表す等価弾性率である。等価弾性率は、減衰層50と充填層60の各弾性率と、減衰層50および充填層60の各寸法とに基づいて算出される。
【0051】
図6は、複数の層で構成された物体の等価弾性率の算出手順を説明するため図である。ここでは、
図6のように、弾性率が互いに異なる物質で構成されるとともに厚みが互いに異なる一方で断面積(厚み方向と直交する面の面積)が互いに同じ3つの層で構成された物体の等価弾性率を算出する例を説明する。以下では、
図6の物体Bの各層を上から順に第1層D1、第2層D2、第3層D3という。
図6の例では、物体Bの等価弾性率Eは、次の式(1)で算出される。
E=√(αE
T2+βE
H2)・・(1)
式(1)において、αおよびβはαとβの合計が1となる係数である。E
Tは、物体Bの縦弾性係数に相当する値であり、3つの層を直列で接続された3つのバネと見立てることで以下の式(2)を用いて算出される。E
Hは、物体Bの横弾性係数に相当する値であり、3つの層を並列で接続された3つのバネと見立てることで以下の式(3)で算出される。
E
T=E
1E
2E
3(L
1+L
2+L
3)/(E
1E
2L
3+E
2E
3L
1+E
1E
3L
2)・・(2)
E
H=(E
1L
1+E
2L
2+E
3L
3)/(L
1+L
2+L
3)・・(3)
E
1、E
2およびE
3は、それぞれ第1層D1、第2層D2および第3層D3の弾性率である。また、
図6に示すように、L
1、L
2およびL
3は、それぞれ第1層D1、第2層D2および第3層D3の厚み寸法である。
【0052】
図5において、P1~P11の各点は、それぞれ、第1~第11パネルの結果を示した図である。また、
図5に鎖線で示したラインZは、中間層部を減衰層を構成する材料のみで構成したフロアパネル(詳細には、減衰層を構成する材料を中間層部の10層分の体積を有する塊に成形してこれを中間層部としたフロアパネル)の弾性率とフロア振動低減代とをシミュレーションにより算出した結果である。
【0053】
図5の鎖線に示すように、中間層部の弾性率が小さい範囲では弾性率が高いほどフロア振動低減代は増加して乗り心地性能が高くなる。一方、この範囲を超えると中間層部の弾性率が高くなるに従ってフロア振動低減代は低減し、その低減幅は大きくなる。このことから、中間層部の弾性率が所定の範囲を超えて高くなると、フロア振動低減代は小さくなるといえる。
【0054】
また、
図5のP1~P11の各点の比較から明らかなように、充填層60の数が増えるほど、つまり、充填層60が中間層部に占める体積の割合が増えるほど、フロアパネルの等価弾性率は大きくなる。上記のように、中間層部の弾性率が所定の範囲を超えて高くなると、フロア振動低減代は小さくなる。特に、弾性率の変化に対してフロア振動低減代の低減幅が大きくなる。これより、充填層60が中間層部に占める体積の割合が所定の範囲を超えて大きくなると、フロア振動低減代は小さくなり、且つ、フロア振動低減代の低減幅が大きくなるといえる。
【0055】
そして、
図5の点P1~P8のグループと、残りの点P9~P11との比較から明らかなように、充填層60を有しない第1パネルおよび1または2個の充填層60を有する第1~第8パネルのフロア振動低減代は、3個の充填層60を有する第9パネルおよび5個の充填層60を有する第10、第11パネルのフロア振動低減代に対して大幅に高くなっている。つまり、充填層60が中間層部に占める体積の割合が20%以下のパネルのフロア振動低減代は、充填層60が中間層部に占める体積の割合が20%よりも高いパネルのフロア振動低減代に対して大幅に高くなっている。このことから、充填層60が中間層部を占める体積の割合を20%以下にすれば、中間層部の弾性率を上記の所定の範囲内として当該割合が20%よりも高いフロアパネルよりも高いフロア振動低減代が得られることがわかる。
【0056】
ただし、
図5の点P2~P4の比較、および、
図5のP5~P8の比較から明らかなように、充填層60が中間層部に占める体積の割合が同じであっても、充填層60の位置に応じてフロア振動低減代は変化する。具体的に、1個の充填層60を有する第2パネル(P2)~第4パネル(P4)では、充填層60が最下層に設けられた第2パネル(P2)のフロア振動低減代が、充填層60が最上層に設けられた第3パネル(P3)および充填層60が中間層部の上下方向の中央付近に設けられた第4パネル(P4)のフロア振動低減代よりも高くなる。また、2個の充填層60を有する第5パネル(P5)~第8パネル(P8)では、充填層60が最下層と最下層の1つの上の層に設けられた第5パネル(P5)のフロア振動低減代と、充填層60が最下層と最上層に設けられた第6パネル(P6)のフロア振動低減代とが同じであって、これら第5パネル(P5)と第6パネル(P6)の各フロア振動低減代は、充填層60が中間層部の上下方向の中央付近に設けられた第7パネル(P7)および充填層60が最上層と最上層の1つの下の層に設けられた第8パネル(P8)の各フロア振動低減代よりも高くなる。
【0057】
このことから、最下層に充填層60を設ければ高いフロア振動低減代を得られることがわかる。具体的に、第2パネル(P2)のフロア振動低減代と、第5パネル(P5)および第6パネル(P6)のフロア振動低減代は、充填層60を有しない第1パネル(P1)のフロア振動低減代X0に対して有意に高くなる。詳細には、第2パネル(P2)、第5パネル(P5)および第6パネル(P6)のフロア振動低減代は、第1パネル(P1)のフロア振動低減代X0に対してこれの5%以上高くなる。つまり、第1パネル(P1)が実現するフロア振動低減代X0の1.05倍の値をX1とすると、第2パネル(P2)、第5パネル(P5)および第6パネル(P6)のフロア振動低減代は、この値X1以上となる。
【0058】
ここで、仮に、充填層60の弾性率を
図5のグラフに示す結果が得られた場合よりも大きくすると、中間層部40の弾性率が大きくなって上記の所定の範囲を超えることになる。そのため、充填層60の弾性率を
図5のグラフに示す結果が得られた場合よりも大きくすると、充填層60が中間層部40を占める体積の割合を20%以下にし、且つ、最下層に充填層60を設けても、第1パネル(P1)に対して有意にフロア振動低減代を高くできないおそれがある。これより、第1パネル(P1)に対して有意にフロア振動低減代を高くするためには、充填層60の弾性率を、
図5のグラフに示す結果が得られる弾性率、つまり、減衰層50の弾性率の600倍の値よりも小さくする必要がある。
【0059】
また、充填層60の密度を小さくすると、質量則により充填層60が50Hz以上200Hzの振動を打ち消す効果が小さくなる結果、第1パネル(P1)に対して有意にフロア振動低減代を高くできないおそれがある。これより、第1パネル(P1)に対して有意にフロア振動低減代を高くするためには、充填層60の密度を、
図5のグラフに示す結果が得られる密度同等またはそれ以上にする必要がある。つまり、減衰層50の密度の50%以上にする必要がある。
【0060】
このように、中間層部40の最下層に充填層60を設け、充填層60が中間層部40に占める体積の割合を20%以下とし、充填層60の弾性率を減衰層50の弾性率の1倍以上且つ600倍以下とするとともに、充填層60の密度を減衰層50の密度の50%以上とすれば、充填層60を有しない第1パネルに対して有意にフロア振動低減代を高くできる。
【0061】
また、
図5のグラフで示した結果とは別に、本願発明者らは、充填層60の損失係数を10%未満にすると、充填層60による振動減衰効果が低下することで、充填層60の損失係数が10%以上のフロアパネルに対してフロア振動低減代が有意に低下することを突き止めた。
【0062】
以上の知見に対して、上記実施形態では、中間層部40の最下層にのみ充填層60が設けられ、充填層60が中間層部40に占める体積の割合が20%以下の10%とされ、充填層60の損失係数が減衰層50の損失係数の10%以上(且つ100%未満)の値に設定され、充填層60の弾性率が減衰層50の弾性率の1倍以上且つ600倍以下とされるとともに、充填層60の密度が減衰層50の密度の50%以上とされている。従って、充填層60を有しないフロアパネルに対して有意にフロア振動低減代を高くでき、確実に、上面部10および下面部20の膜振動を低減して乗り心地性能を高めることができる。
【0063】
また、上記実施形態によれば、車種等の変更に伴ってフロアパネルに加えられる振動の周波数が変わったときや、求められるロードノイズの低減効果と乗り心地の向上効果の度合いが変わったときでも、減衰層50および充填層60の枚数や厚み、また、これらの割合を調整することで、ロードノイズの低減効果と乗り心地向上効果とを適切な度合いで両立させることができる。そのため、仮に粘弾性を有する1つの減衰部材で中間層部を構成して、この減衰部材の物性を、ロードノイズの低減効果と乗り心地の向上効果とが適切に得られるように調整する場合に比べて、材料開発にかかる手間を小さくすることができる。
【0064】
(変形例)
上記実施形態では、充填層60が中間層部40に占める体積の割合が10%の場合を説明したが、上記のように、当該体積の割合を20%以下とすれば有意な効果を得ることができる。これより、充填層60が中間層部40に占める体積の割合は、20%以下の範囲で適宜変更可能である。
【0065】
例えば、第5パネル(P5)のように、中間層部40のうち下から2つ分の層を充填層60として、充填層60が中間層部40に占める体積の割合を20%としてもよい。また、第6パネル(P6)のように、中間層部40の最下層と最上層を充填層60として、充填層60が中間層部40に占める体積の割合を20%としてもよい。
【0066】
ただし、充填層60が中間層部40に占める体積の割合を小さくすれば、減衰層50が中間層部40に占める体積の割合が大きくなることでロードノイズの低減効果を大きくできる。
【0067】
また、第6パネル(P6)のように、中間層部40の最下層に加えて他の層を充填層60としてもよい。ただし、上記実施形態つまり第2パネル(P2)のように充填層60を中間層部40の下部にのみ設ければ、上記のように、充填層60の上方に減衰層50を配置するだけで中間層部40を実現できるので、フロアパネルの製造にかかる手間を低減できる。
【0068】
また、上記実施形態では、充填層60の密度が、減衰層50の密度の50%以上且つ100%以下である場合を説明したが、充填層60の密度は減衰層50の密度の100%よりも大きくされてもよい。ただし、充填層60の密度を減衰層50の密度の100%以下とすれば、充填層60の重量を小さく抑えてフロアパネル1の軽量化が可能になる。
【0069】
また、上記実施形態では、中間層部40が10層で構成される場合を説明したが、中間層部40の層の総数はこれに限られない。
【符号の説明】
【0070】
1 フロアパネル
10 上面部
20 下面部
30 壁面部
40 中間層部
50 減衰層
60 充填層