(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010124
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】偏光膜および偏光板
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240116BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240116BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240116BHJP
【FI】
G02B5/30
B32B27/30 102
B32B7/023
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023185055
(22)【出願日】2023-10-27
(62)【分割の表示】P 2019117770の分割
【原出願日】2019-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】嶋津 亮
(72)【発明者】
【氏名】後藤 周作
(72)【発明者】
【氏名】森崎 真由美
(57)【要約】
【課題】高温高湿環境下における耐久性に優れた偏光膜を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態による偏光膜は、ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、表面に処理層が形成されており、該処理層は、ポリビニルアルコール系樹脂を含むpHが3.0以下の処理液の塗布膜の固化層である。この偏光膜は、温度60℃および相対湿度95%で240時間の耐久試験後の波長600nmにおける吸光度Abs
240が、該耐久試験前の吸光度Abs
0に対して以下の関係を満足する。
1.05≦Abs
240/Abs
0≦1.44
1つの実施形態においては、処理層の厚みは0.2μm~1.7μmである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、
表面に処理層が形成されており、
該処理層は、ポリビニルアルコール系樹脂を含むpHが3.0以下の処理液の塗布膜の固化層であり、
温度60℃および相対湿度95%で240時間の耐久試験後の波長600nmにおける吸光度Abs240が、該耐久試験前の吸光度Abs0に対して以下の関係を満足する、偏光膜:
1.05≦Abs240/Abs0≦1.44
【請求項2】
前記処理層の厚みが0.2μm~1.7μmである、請求項1に記載の偏光膜。
【請求項3】
単体透過率が43.0%以上である、請求項1または2に記載の偏光膜。
【請求項4】
厚みが8μm以下である、請求項1から3のいずれかに記載の偏光膜。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層とを有する、偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜および偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な画像表示装置である液晶表示装置には、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光膜が配置されている。偏光膜の製造方法としては、例えば、樹脂基材とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層とを有する積層体を延伸し、次に染色処理を施して、樹脂基材上に偏光膜を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1)。このような方法によれば、厚みの薄い偏光膜が得られるため、近年の画像表示装置の薄型化に寄与し得るとして注目されている。しかし、薄型偏光膜においては、高温高湿環境下における耐久性のさらなる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、高温高湿環境下における耐久性に優れた偏光膜、偏光板、およびそのような偏光膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態による偏光膜は、ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、表面に処理層が形成されており、該処理層は、ポリビニルアルコール系樹脂を含むpHが3.0以下の処理液の塗布膜の固化層である。この偏光膜は、温度60℃および相対湿度95%で240時間の耐久試験後の波長600nmにおける吸光度Abs240が、該耐久試験前の吸光度Abs0に対して以下の関係を満足する。
1.05≦Abs240/Abs0≦1.44
1つの実施形態においては、処理層の厚みは0.2μm~1.7μmである。
1つの実施形態においては、上記偏光膜は、単体透過率が43.0%以上である。
1つの実施形態においては、上記偏光膜は、厚みが8μm以下である。
本発明の別の局面によれば、偏光板が提供される。この偏光板は、上記の偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層とを有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、偏光膜をpHが3.0以下の処理液に接触させることにより、高温高湿環境下における耐久性に優れた偏光膜を得ることができる。具体的には、本発明の実施形態による偏光膜は、温度60℃および相対湿度95%で240時間の耐久試験後の波長600nmにおける吸光度Abs240が、該耐久試験前の吸光度Abs0に対して以下の関係を満足する:
Abs240/Abs0>1.00
すなわち、本発明の実施形態による偏光膜は、波長600nmにおける吸光度が加熱加湿耐久試験により増加する。これは、本発明の実施形態による偏光膜は、偏光性能が高温高湿環境下で向上し得ることを意味している。偏光膜の偏光性能は通常高温高湿環境下で低下すると予想されるところ、本発明の実施形態による偏光膜の高温高湿環境下における耐久性の向上は、予期せぬ優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の1つの実施形態による偏光板の概略断面図である。
【
図2】加熱ロールを用いた乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.偏光膜
本発明の実施形態による偏光膜は、ヨウ素を含むポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムで構成され、温度60℃および相対湿度95%で240時間の耐久試験後の波長600nmにおける吸光度Abs240が、該耐久試験前の吸光度Abs0に対して以下の関係を満足する。
Abs240/Abs0>1.00
これは、本発明の実施形態による偏光膜においては600nm付近に吸収を有するPVA-I5
-錯体が加熱加湿耐久試験においても破壊されず、むしろ増大し得ることを示している。PVA-I5
-錯体は高温高湿環境下において破壊され、偏光膜の偏光性能は通常高温高湿環境下で低下すると予想されるところ、本発明の実施形態による偏光膜のこのような優れた耐久性は、予期せぬ優れたものである。理論的には明らかではないが、このような優れた耐久性は、偏光膜をpHが3.0以下の処理液に接触させることにより実現され得る。Abs240/Abs0は、好ましくは1.05以上であり、より好ましくは1.10以上であり、さらに好ましくは1.15以上であり、特に好ましくは1.20以上であり、とりわけ好ましくは1.25以上である。Abs240/Abs0の上限は、例えば2.00であり得る。なお、吸光度は、代表的には直交吸光度である。直交吸光度は、後述する偏光度を求める際に測定される直交透過率Tcに基づいて、下記式により求められる。
直交吸光度=log10(100/Tc)
なお、耐久試験前の吸光度Abs0は偏光膜の通常の状態での吸光度であり、波長600nmにおける偏光膜のAbs0は例えば5.0未満であり、好ましくは4.3以下であり、より好ましくは4.0以下である。Abs0の下限は、例えば2.0であり得る。
【0010】
偏光膜の厚みは、好ましくは8μm以下であり、より好ましくは7μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下であり、特に好ましくは3μm以下である。偏光膜の厚みの下限は、1つの実施形態においては1μmであり得、別の実施形態においては2μmであり得る。このような厚みは、後述するように、例えば、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて偏光膜を作製することにより実現され得る。偏光膜を単一の樹脂フィルムから作製する場合には、偏光膜の厚みは、例えば12μm~35μmであり得る。
【0011】
偏光膜は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の単体透過率は、好ましくは42.0%以上であり、より好ましくは42.5%以上であり、さらに好ましくは43.0%以上であり、特に好ましくは43.5%以上であり、とりわけ好ましくは44.0%以上である。一方、単体透過率は、好ましくは47.0%以下であり、より好ましくは46.0%以下である。偏光膜の偏光度は、好ましくは99.95%以上であり、より好ましくは99.99%以上である。一方、偏光度は、好ましくは99.998%以下である。本発明の実施形態によれば、このように、高い単体透過率と高い偏光度とを両立させることができ、かつ、上記のように高温高湿環境下における優れた耐久性を実現することができる。上記単体透過率は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定し、視感度補正を行なったY値である。また、単体透過率は、偏光板の一方の表面の屈折率を1.50、もう一方の表面の屈折率を1.53に換算した時の値である。上記偏光度は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定して視感度補正を行なった平行透過率Tpおよび直交透過率Tcに基づいて、下記式により求められる。
偏光度(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
【0012】
1つの実施形態においては、8μm以下の薄型の偏光膜の透過率(単体透過率)は、代表的には、偏光膜(表面の屈折率:1.53)と保護層(保護フィルム)(屈折率:1.50)との積層体を測定対象として、紫外可視分光光度計を用いて測定される。偏光膜の表面の屈折率および/または保護層の空気界面に接する表面の屈折率に応じて、各層の界面での反射率が変化し、その結果、透過率の測定値が変化する場合がある。したがって、例えば、屈折率が1.50ではない保護層を用いる場合、保護層の空気界面に接する表面の屈折率に応じて透過率の測定値を補正してもよい。具体的には、透過率の補正値Cは、保護層と空気層との界面における透過軸に平行な偏光の反射率R1(透過軸反射率)を用いて、以下の式で表わされる。
C=R1-R0
R0=((1.50-1)2/(1.50+1)2)×(T1/100)
R1=((n1-1)2/(n1+1)2)×(T1/100)
ここで、R0は、屈折率が1.50である保護層を用いた場合の透過軸反射率であり、n1は使用する保護層の屈折率であり、T1は偏光膜の透過率である。例えば、表面屈折率が1.53である基材(シクロオレフィン系フィルム、ハードコート層付きフィルムなど)を保護層として用いる場合、補正量Cは約0.2%となる。この場合、測定により得られた透過率に0.2%を加算することで、表面の屈折率が1.53である偏光膜を屈折率が1.50である保護層を用いた場合の透過率に換算することが可能である。なお、上記式に基づく計算によれば、偏光膜の透過率T1を2%変化させたときの補正値Cの変化量は0.03%以下であり、偏光膜の透過率が補正値Cの値に与える影響は限定的である。また、保護層が表面反射以外の吸収を有する場合は、吸収量に応じて適切な補正を行うことができる。
【0013】
偏光膜は、単一の樹脂フィルムを用いて作製されてもよく、二層以上の積層体を用いて作製されてもよい。積層体を用いて得られる偏光膜の具体例としては、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光膜が挙げられる。樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光膜は、例えば、PVA系樹脂溶液を樹脂基材に塗布し、乾燥させて樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を得ること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光膜とすること;により作製され得る。本発明の実施形態においては、偏光膜をpHが3.0以下の処理液に接触させる。これにより、上記のような高温高湿環境下における優れた耐久性を実現することができる。好ましくは、樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成する。延伸は、代表的には積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することを含む。さらに、延伸は、必要に応じて、ホウ酸水溶液中での延伸の前に積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸することをさらに含み得る。加えて、本実施形態においては、好ましくは、積層体は、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理に供される。代表的には、本実施形態の製造方法は、積層体に、空中補助延伸処理と染色処理と水中延伸処理と乾燥収縮処理とをこの順に施すことを含む。補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVAを塗布する場合でも、PVAの結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVAの配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVAの配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。さらに、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光膜の光学特性を向上し得る。さらに、乾燥収縮処理により積層体を幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。得られた樹脂基材/偏光膜の積層体はそのまま用いてもよく(すなわち、樹脂基材を偏光膜の保護層としてもよく)、樹脂基材/偏光膜の積層体から樹脂基材を剥離し、当該剥離面に目的に応じた任意の適切な保護層を積層して用いてもよい。偏光膜の製造方法の詳細については、C項で後述する。
【0014】
B.偏光板
図1は、本発明の1つの実施形態による偏光板の概略断面図である。偏光板100は、偏光膜10と、偏光膜10の一方の側に配置された第1の保護層20と、偏光膜10の他方の側に配置された第2の保護層30とを有する。偏光膜10は、上記A項で説明した本発明の偏光膜である。第1の保護層20および第2の保護層30のうち一方の保護層は省略されてもよい。なお、上記のとおり、第1の保護層および第2の保護層のうち一方は、上記の偏光膜の製造に用いられる樹脂基材であってもよい。
【0015】
第1および第2の保護層は、偏光膜の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001-343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN-メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。当該ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。
【0016】
偏光板100を画像表示装置に適用したときに表示パネルとは反対側に配置される保護層(外側保護層)の厚みは、代表的には300μm以下であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは5μm~80μm、さらに好ましくは10μm~60μmである。なお、表面処理が施されている場合、外側保護層の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
【0017】
偏光板100を画像表示装置に適用したときに表示パネル側に配置される保護層(内側保護層)の厚みは、好ましくは5μm~200μm、より好ましくは10μm~100μm、さらに好ましくは10μm~60μmである。1つの実施形態においては、内側保護層は、任意の適切な位相差値を有する位相差層である。この場合、位相差層の面内位相差Re(550)は、例えば110nm~150nmである。「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差であり、式:Re=(nx-ny)×dにより求められる。ここで、「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率であり、「d」は層(フィルム)の厚み(nm)である。
【0018】
C.偏光膜の製造方法
本発明の1つの実施形態による偏光膜の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側にPVA系樹脂溶液を塗布および乾燥させてPVA系樹脂層を形成して積層体とすること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光膜とすること;および、当該偏光膜をpHが3.0以下の処理液に接触させること;を含む。偏光膜をpHが3.0以下の処理液に接触させることにより、高温高湿環境下における耐久性に優れた偏光膜を実現することができる。好ましくは、PVA系樹脂溶液は、ハロゲン化物をさらに含む。好ましくは、上記製造方法は、積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む。PVA系樹脂溶液(結果として、PVA系樹脂層)におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部である。乾燥収縮処理は、加熱ロールを用いて処理することが好ましく、加熱ロールの温度は、好ましくは60℃~120℃である。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは2%以上である。このような製造方法によれば、上記A項で説明した偏光膜を得ることができる。特に、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層を含む積層体を作製し、上記積層体の延伸を空中補助延伸及び水中延伸を含む多段階延伸とし、延伸後の積層体を加熱ロールで加熱することにより、優れた光学特性(代表的には、単体透過率および単位吸光度)を有する偏光膜を得ることができる。
【0019】
C-1.積層体の作製
熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を作製する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、熱可塑性樹脂基材の表面に、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成する。上記のとおり、PVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部である。
【0020】
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。上記塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
【0021】
PVA系樹脂層の厚みは、好ましくは、3μm~40μm、さらに好ましくは3μm~20μmである。
【0022】
PVA系樹脂層を形成する前に、熱可塑性樹脂基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、熱可塑性樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。このような処理を行うことにより、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。
【0023】
C-1-1.熱可塑性樹脂基材
熱可塑性樹脂基材としては、任意の適切な熱可塑性樹脂フィルムが採用され得る。熱可塑性樹脂基材の詳細については、例えば特開2012-73580号公報に記載されている。当該公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0024】
C-1-2.塗布液
塗布液は、上記のとおり、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含む。上記塗布液は、代表的には、上記ハロゲン化物および上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部~20重量部である。このような樹脂濃度であれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。塗布液におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部である。
【0025】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用され得る。
【0026】
上記PVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコールおよびエチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%~100モル%であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光膜が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0027】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択し得る。平均重合度は、通常1000~10000であり、好ましくは1200~4500、さらに好ましくは1500~4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
【0028】
上記ハロゲン化物としては、任意の適切なハロゲン化物が採用され得る。例えば、ヨウ化物および塩化ナトリウムが挙げられる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、およびヨウ化リチウムが挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。
【0029】
塗布液におけるハロゲン化物の量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部であり、より好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して10重量部~15重量部である。PVA系樹脂100重量部に対するハロゲン化物の量が20重量部を超えると、ハロゲン化物がブリードアウトし、最終的に得られる偏光膜が白濁する場合がある。
【0030】
一般に、PVA系樹脂層が延伸されることによって、PVA系樹脂中のポリビニルアルコール分子の配向性が高くなるが、延伸後のPVA系樹脂層を、水を含む液体に浸漬すると、ポリビニルアルコール分子の配向が乱れ、配向性が低下する場合がある。特に、熱可塑性樹脂とPVA系樹脂層との積層体をホウ酸水中延伸する場合において、熱可塑性樹脂の延伸を安定させるために比較的高い温度で上記積層体をホウ酸水中で延伸する場合、上記配向度低下の傾向が顕著である。例えば、PVAフィルム単体のホウ酸水中での延伸が60℃で行われることが一般的であるのに対し、A-PET(熱可塑性樹脂基材)とPVA系樹脂層との積層体の延伸は70℃前後の温度という高い温度で行われ、この場合、延伸初期のPVAの配向性が水中延伸により上がる前の段階で低下し得る。これに対して、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層と熱可塑性樹脂基材との積層体を作製し、積層体をホウ酸水中で延伸する前に空気中で高温延伸(補助延伸)することにより、補助延伸後の積層体のPVA系樹脂層中のPVA系樹脂の結晶化が促進され得る。その結果、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光膜の光学特性を向上し得る。
【0031】
C-2.空中補助延伸処理
特に、高い光学特性を得るためには、乾式延伸(補助延伸)とホウ酸水中延伸を組み合わせる、2段延伸の方法が選択される。2段延伸のように、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂基材の結晶化を抑制しながら延伸することができ、後のホウ酸水中延伸において熱可塑性樹脂基材の過度の結晶化により延伸性が低下するという問題を解決し、積層体をより高倍率に延伸することができる。さらには、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂を塗布する場合、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度の影響を抑制するために、通常の金属ドラム上にPVA系樹脂を塗布する場合と比べて塗布温度を低くする必要があり、その結果、PVA系樹脂の結晶化が相対的に低くなり、十分な光学特性が得られない、という問題が生じ得る。これに対して、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVA系樹脂を塗布する場合でも、PVA系樹脂の結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVA系樹脂の配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVA系樹脂の配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。
【0032】
空中補助延伸の延伸方法は、固定端延伸(たとえば、テンター延伸機を用いて延伸する方法)でもよいし、自由端延伸(たとえば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよいが、高い光学特性を得るためには、自由端延伸が積極的に採用され得る。1つの実施形態においては、空中延伸処理は、上記積層体をその長手方向に搬送しながら、加熱ロール間の周速差により延伸する加熱ロール延伸工程を含む。空中延伸処理は、代表的には、ゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程とを含む。なお、ゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程の順序は限定されず、ゾーン延伸工程が先に行われてもよく、加熱ロール延伸工程が先に行われてもよい。ゾーン延伸工程は省略されてもよい。1つの実施形態においては、ゾーン延伸工程および加熱ロール延伸工程がこの順に行われる。また、別の実施形態では、テンター延伸機において、フィルム端部を把持し、テンター間の距離を流れ方向に広げることで延伸される(テンター間の距離の広がりが延伸倍率となる)。この時、幅方向(流れ方向に対して、垂直方向)のテンターの距離は、任意に近づくように設定される。好ましくは、流れ方向の延伸倍率に対して、自由端延伸により近くなるように設定されうる。自由端延伸の場合、幅方向の収縮率=(1/延伸倍率)1/2で計算される。
【0033】
空中補助延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。空中補助延伸における延伸方向は、好ましくは、水中延伸の延伸方向と略同一である。
【0034】
空中補助延伸における延伸倍率は、好ましくは2.0倍~3.5倍である。空中補助延伸と水中延伸とを組み合わせた場合の最大延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上、より好ましくは5.5倍以上、さらに好ましくは6.0倍以上である。本明細書において「最大延伸倍率」とは、積層体が破断する直前の延伸倍率をいい、別途、積層体が破断する延伸倍率を確認し、その値よりも0.2低い値をいう。
【0035】
空中補助延伸の延伸温度は、熱可塑性樹脂基材の形成材料、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定することができる。延伸温度は、好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、さらに好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、特に好ましくはTg+15℃以上である。一方、延伸温度の上限は、好ましくは170℃である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。
【0036】
C-3.不溶化処理、染色処理および架橋処理
必要に応じて、空中補助延伸処理の後、水中延伸処理や染色処理の前に、不溶化処理を施す。上記不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。上記染色処理は、代表的には、PVA系樹脂層を二色性物質(代表的には、ヨウ素)で染色することにより行う。必要に応じて、染色処理の後、水中延伸処理の前に、架橋処理を施す。上記架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。不溶化処理、染色処理および架橋処理の詳細については、例えば特開2012-73580号公報(上記)に記載されている。
【0037】
C-4.水中延伸処理
水中延伸処理は、積層体を延伸浴に浸漬させて行う。水中延伸処理によれば、上記熱可塑性樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら、高倍率に延伸することができる。その結果、優れた光学特性を有する偏光膜を製造することができる。
【0038】
積層体の延伸方法は、任意の適切な方法を採用することができる。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。好ましくは、自由端延伸が選択される。積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、後述の積層体の延伸倍率(最大延伸倍率)は、各段階の延伸倍率の積である。
【0039】
水中延伸は、好ましくは、ホウ酸水溶液中に積層体を浸漬させて行う(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた光学特性を有する偏光膜を製造することができる。
【0040】
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~10重量部であり、より好ましくは2.5重量部~6重量部であり、特に好ましくは3重量部~5重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂層の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の偏光膜を製造することができる。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
【0041】
好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部~15重量部、より好ましくは0.5重量部~8重量部である。
【0042】
延伸温度(延伸浴の液温)は、好ましくは40℃~85℃、より好ましくは60℃~75℃である。このような温度であれば、PVA系樹脂層の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。具体的には、上述のように、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、優れた光学特性が得られないおそれがある。積層体の延伸浴への浸漬時間は、好ましくは15秒~5分である。
【0043】
水中延伸による延伸倍率は、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは3.0倍以上である。積層体の総延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上であり、さらに好ましくは5.5倍以上である。このような高い延伸倍率を達成することにより、光学特性に極めて優れた偏光膜を製造することができる。このような高い延伸倍率は、水中延伸方式(ホウ酸水中延伸)を採用することにより、達成し得る。
【0044】
C-5.乾燥収縮処理
上記乾燥収縮処理は、ゾーン全体を加熱して行うゾーン加熱により行っても良いし、搬送ロールを加熱する(いわゆる加熱ロールを用いる)ことにより行う(加熱ロール乾燥方式)こともできる。好ましくは、その両方を用いる。加熱ロールを用いて乾燥させることにより、効率的に積層体の加熱カールを抑制して、外観に優れた偏光膜を製造することができる。具体的には、加熱ロールに積層体を沿わせた状態で乾燥することにより、上記熱可塑性樹脂基材の結晶化を効率的に促進させて結晶化度を増加させることができ、比較的低い乾燥温度であっても、熱可塑性樹脂基材の結晶化度を良好に増加させることができる。その結果、熱可塑性樹脂基材は、その剛性が増加して、乾燥によるPVA系樹脂層の収縮に耐え得る状態となり、カールが抑制される。また、加熱ロールを用いることにより、積層体を平らな状態に維持しながら乾燥できるので、カールだけでなくシワの発生も抑制することができる。この時、積層体は、乾燥収縮処理により幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。PVAおよびPVA/ヨウ素錯体の配向性を効果的に高めることができるからである。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは1%~10%であり、より好ましくは2%~8%であり、特に好ましくは4%~6%である。
【0045】
図2は、乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。乾燥収縮処理では、所定の温度に加熱された搬送ロールR1~R6と、ガイドロールG1~G4とにより、積層体200を搬送しながら乾燥させる。図示例では、PVA樹脂層の面と熱可塑性樹脂基材の面を交互に連続加熱するように搬送ロールR1~R6が配置されているが、例えば、積層体200の一方の面(たとえば熱可塑性樹脂基材面)のみを連続的に加熱するように搬送ロールR1~R6を配置してもよい。
【0046】
搬送ロールの加熱温度(加熱ロールの温度)、加熱ロールの数、加熱ロールとの接触時間等を調整することにより、乾燥条件を制御することができる。加熱ロールの温度は、好ましくは60℃~120℃であり、さらに好ましくは65℃~100℃であり、特に好ましくは70℃~80℃である。熱可塑性樹脂の結晶化度を良好に増加させて、カールを良好に抑制することができるとともに、耐久性に極めて優れた光学積層体を製造することができる。なお、加熱ロールの温度は、接触式温度計により測定することができる。図示例では、6個の搬送ロールが設けられているが、搬送ロールは複数個であれば特に制限はない。搬送ロールは、通常2個~40個、好ましくは4個~30個設けられる。積層体と加熱ロールとの接触時間(総接触時間)は、好ましくは1秒~300秒であり、より好ましくは1~20秒であり、さらに好ましくは1~10秒である。
【0047】
加熱ロールは、加熱炉(例えば、オーブン)内に設けてもよいし、通常の製造ライン(室温環境下)に設けてもよい。好ましくは、送風手段を備える加熱炉内に設けられる。加熱ロールによる乾燥と熱風乾燥とを併用することにより、加熱ロール間での急峻な温度変化を抑制することができ、幅方向の収縮を容易に制御することができる。熱風乾燥の温度は、好ましくは30℃~100℃である。また、熱風乾燥時間は、好ましくは1秒~300秒である。熱風の風速は、好ましくは10m/s~30m/s程度である。なお、当該風速は加熱炉内における風速であり、ミニベーン型デジタル風速計により測定することができる。
【0048】
C-6.処理液との接触
上記のようにして、熱可塑性樹脂基材と偏光膜との積層体が得られ得る。本発明の実施形態においては、偏光膜をpHが3.0以下の処理液に接触させる。1つの実施形態においては、当該積層体をそのまま処理液と接触させることにより、偏光膜を処理液と接触させることができる。この場合、代表的には、熱可塑性樹脂基材がそのまま偏光膜の保護層として用いられ得る。あるいは、処理液と接触させた積層体の偏光膜表面に樹脂フィルム(保護層となる)を貼り合わせて保護層/偏光膜/熱可塑性樹脂基材の積層体を作製し、当該積層体から熱可塑性樹脂基材を剥離して保護層/偏光膜の構成を有する偏光板を作製してもよい。別の実施形態においては、積層体の偏光膜表面に樹脂フィルム(保護層となる)を貼り合わせて保護層/偏光膜/熱可塑性樹脂基材の積層体を作製し、当該積層体から熱可塑性樹脂基材を剥離して保護層/偏光膜の積層体(偏光板)を作製する。得られた偏光板を処理液と接触させることにより、偏光膜を処理液と接触させることができる。
【0049】
偏光膜と処理液との接触は、任意の適切な方法により行われ得る。代表例としては、偏光膜への処理液の塗布、偏光膜(実質的には、積層体または偏光板)の処理液への浸漬が挙げられる。塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。具体例としては、塗布液の塗布方法としてC-1項で説明した方法が挙げられる。浸漬もまた、任意の適切な様式により行われ得る。例えば、洗浄処理の洗浄浴に処理液を添加してもよく、洗浄浴の代わりに処理液の浴を用いてもよく、処理液の浴を洗浄浴とは別に設けてもよい。なお、洗浄処理は、代表的には、水中延伸処理の後、乾燥収縮処理の前に行われる。処理液の浴を別途設ける場合には、処理液の浴は、洗浄浴と乾燥収縮処理設備との間に設けられてもよく(すなわち、処理液との接触が洗浄処理と乾燥収縮処理との間に行われてもよく)、熱可塑性樹脂基材を剥離する手段の下流に設けられてもよい(すなわち、処理液との接触が熱可塑性樹脂基材剥離後に行われてもよい)。
【0050】
処理液としては、pHが3.0以下である限りにおいて任意の適切な酸性液体を用いることができる。処理液の具体例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、クエン酸が挙げられる。処理液は、好ましくは強酸水溶液である。強酸の具体例としては、塩酸、硫酸、硝酸が挙げられる。処理液のpHは小さいほど(酸性が強いほど)好ましい。具体的には、pHは、好ましくは2.7以下であり、より好ましくは2.5以下であり、さらに好ましくは2.0以下であり、特に好ましくは1.5以下である。
【0051】
処理液の酸濃度は、好ましくは0.02重量%~3.0重量%であり、より好ましくは0.04重量%~2.0重量%であり、さらに好ましくは0.1重量%~1.0重量%である。
【0052】
処理液は、水溶性樹脂(例えば、PVA系樹脂)を含んでいてもよい。水溶性樹脂はバインダーとして機能し得る。処理液における水溶性樹脂濃度は、好ましくは3重量%~5重量%である。この場合、処理液を塗布・乾燥することにより処理層が形成され得る。このような処理層を形成することによっても、上記所望の耐久性を有する偏光膜が得られ得る。処理層の厚みは、好ましくは1.7μm以下であり、より好ましくは0.2μm~1.4μmである。
【0053】
処理液との接触後、必要に応じて乾燥が行われ得る。乾燥温度は、好ましくは40℃~90℃であり、より好ましくは50℃~70℃である。
【0054】
C-7.変形例
C-1項~C-6項では樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いる製造方法を説明したが、本発明は、単一のPVA系樹脂フィルムを用いる製造方法にも適用され得る。このような製造方法は、代表的には、長尺状のPVA系樹脂フィルムを、ロール延伸機により長尺方向に一軸延伸しながら、膨潤、染色、架橋および洗浄処理を施し、最後に乾燥処理を施すことを含む。処理液との接触は、代表的には、処理液を添加した洗浄浴への浸漬、洗浄処理後の処理浴への浸漬、または、洗浄処理後の処理液の塗布により行われ得る。
【実施例0055】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。なお、特に明記しない限り、実施例および比較例における「部」および「%」は重量基準である。
(1)厚み
干渉膜厚計(大塚電子社製、製品名「MCPD-3000」)を用いて測定した。
(2)単体透過率および直交吸光度
実施例および比較例の偏光板(保護層/偏光膜)について、紫外可視分光光度計(大塚電子社製、製品名「LPF-200」)を用いて測定した単体透過率Ts、平行透過率Tp、直交透過率Tcをそれぞれ、偏光膜のTs、TpおよびTcとした。これらのTs、TpおよびTcは、JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。なお、保護フィルムの屈折率は1.50であり、偏光膜の保護フィルムとは反対側の表面の屈折率は1.53であった。
また、各波長での測定されたTcを用いて、下記式により直交吸光度を求めた。
直交吸光度=log10(100/Tc)
測定波長600nmの直交透過率Tcから直交吸光度Abs0を、大塚電子社製「LPF-200」を用いて求めた。なお、Abs0については、日本分光製「V-7100」などでも同等の測定をすることが可能である。
次に、偏光板を温度60℃および相対湿度95%で240時間の耐久試験に供した。耐久試験後の直交吸光度Abs240を上記と同様にして求めた。
【0056】
[実施例1]
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用いた。樹脂基材の片面に、コロナ処理(処理条件:55W・min/m2)を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ410」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加し、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み20μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.4倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光板の単体透過率(Ts)が45.0%となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4.0重量%、ヨウ化カリウム5重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液、pH=6)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに約2秒接触させた(乾燥収縮処理)。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は2%であった。
このようにして、樹脂基材上に厚み5.0μmの偏光膜を形成し、偏光膜表面に、保護層(保護フィルム)としてのシクロオレフィン系フィルム(ZEON社製、製品名「G-Film」)をUV硬化型接着剤(厚み1.0μm)により貼り合わせ、その後、樹脂基材を剥離して保護層/偏光膜の構成を有する積層体を得た。得られた積層体の単体透過率(Ts)は、45.0%であり、これは、当該積層体を構成する偏光膜/保護層の表面屈折率が1.53/1.53であるため、実際の測定値に+0.2%補正し、1.53/1.50の状態に換算した値である。
次いで、積層体の偏光膜表面に、0.3重量%の塩酸、3.5重量%のPVA(JC-25)を水に溶解して得られた処理液(pH=1.3)を厚み0.6umとなるように塗工し、60℃で4分間乾燥し、処理層を形成した。
このようにして、本実施例の偏光板を得た。
【0057】
得られた偏光板(実質的には、偏光膜)について、単体透過率およびAbs240/Abs0を表1に示す。
【0058】
[実施例2]
染色浴の濃度を調整して偏光膜の単体透過率(Ts)を44.0%としたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板(実質的には、偏光膜)について、単体透過率およびAbs240/Abs0を表1に示す。
【0059】
[実施例3~19]
偏光膜の単体透過率、処理液との接触方法、処理液のpH、処理液に含まれる酸の種類、ならびに処理層の厚みを表1に示すように調整して偏光板を作製した。得られた偏光板(実質的には、偏光膜)について、単体透過率およびAbs240/Abs0を表1に示す。
【0060】
[実施例20]
処理液にPVA系樹脂を含めなかったこと(すなわち、処理層を形成しなかったこと)、および、処理液のpHを0.9としたこと以外は実施例2と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板(実質的には、偏光膜)について、単体透過率およびAbs240/Abs0を表1に示す。
【0061】
[実施例21]
実施例2と同様にして、熱可塑性樹脂基材/PVA系樹脂層の積層体を空中補助延伸処理、不溶化処理、染色処理、架橋処理および水中延伸処理に供した。水中延伸処理された積層体を液温20℃の処理浴(pH=1.6)に浸漬させた(処理液との接触)。なお、処理浴は、通常の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に塩酸を添加して調製した。
その後、90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに約2秒接触させた(乾燥収縮処理)。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は2%であった。
次いで、偏光膜表面に、保護層(保護フィルム)としてのシクロオレフィン系フィルム(ZEON社製、製品名「G-Film」)をUV硬化型接着剤(厚み1.0μm)により貼り合わせ、その後、樹脂基材を剥離して保護層/偏光膜の構成を有する偏光板を得た。得られた偏光板(実質的には、偏光膜)について、単体透過率およびAbs240/Abs0を表1に示す。
【0062】
[比較例1~2]
処理液との接触を行わなかったこと以外はそれぞれ実施例1~2と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板(実質的には、偏光膜)について、単体透過率およびAbs240/Abs0を表1に示す。
【0063】
[比較例3]
偏光膜の単体透過率を43.0%としたこと以外は比較例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板(実質的には、偏光膜)について、単体透過率およびAbs240/Abs0を表1に示す。
【0064】
[比較例4~9]
偏光膜の単体透過率、処理液との接触方法、処理液のpH、処理液に含まれる酸の種類、ならびに処理層(形成した場合)の厚みを表1に示すように調整して偏光板を作製した。得られた偏光板(実質的には、偏光膜)について、単体透過率およびAbs240/Abs0を表1に示す。
【0065】
[実施例22]
厚み55μmのPVA系樹脂フィルム(日本合成社製、製品名「PS7500」)の長尺ロールを、ロール延伸機により総延伸倍率が6.0倍になるようにして長尺方向に一軸延伸しながら、同時に膨潤、染色、架橋および洗浄処理を施し、最後に乾燥処理を施すことにより厚み23μmの偏光膜を作製した。洗浄処理後および乾燥処理前に、PVA系樹脂フィルム(偏光膜)の一方の面に実施例2と同様の処理液を実施例2と同様にして塗布した。得られた偏光膜について、単体透過率およびAbs240/Abs0を表1に示す。
【0066】
[実施例23]
洗浄処理の洗浄浴の代わりに実施例21と同様の処理浴にPVA系樹脂フィルム(偏光膜)を通したこと(したがって、洗浄処理後に処理液の塗布を行わなかったこと)以外は実施例22と同様にして、厚み23μmの偏光膜を作製した。得られた偏光膜について、単体透過率およびAbs240/Abs0を表1に示す。
【0067】
【0068】
表1から明らかなように、本発明の実施例の偏光膜は耐久試験後のAbs240/Abs0が1.00を超えており、高温高湿環境下における耐久性に優れている。処理液との接触を行わなかった比較例1~3の偏光膜ならびにpHが3.0を超える処理液と接触させた比較例4~9の偏光膜はいずれも、Abs240/Abs0が1.00未満であった。なお、ホウ酸を処理液として用いた比較例7は、処理液がゲル化してしまい、接触自体が不可能であった。