IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立オートモティブシステムズ株式会社の特許一覧

特開2024-101243車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システム
<>
  • 特開-車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システム 図1
  • 特開-車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システム 図2
  • 特開-車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システム 図3
  • 特開-車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システム 図4
  • 特開-車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システム 図5
  • 特開-車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システム 図6
  • 特開-車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システム 図7
  • 特開-車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101243
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/029 20120101AFI20240722BHJP
   B60W 30/045 20120101ALI20240722BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240722BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20240722BHJP
   B60G 17/015 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B60W50/029
B60W30/045
B62D5/04
B62D6/00
B60G17/015 B
B60G17/015 C
B60G17/015 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005120
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】松浦 諒
(72)【発明者】
【氏名】園田 大樹
【テーマコード(参考)】
3D232
3D241
3D301
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC38
3D232CC39
3D232DA03
3D232DA04
3D232EA01
3D232EB04
3D232EB12
3D232EC23
3D232EC37
3D232GG01
3D241BA16
3D241BA64
3D241BC04
3D241BC05
3D241BC06
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC18
3D241DA52Z
3D241DB13Z
3D301AA03
3D301AA04
3D301AA05
3D301AA48
3D301AB02
3D301CA01
3D301DA14
3D301DA15
3D301DA26
3D301DA38
3D301EA03
3D301EA04
3D301EA43
3D301EA76
3D301EB02
3D301EB03
3D301EB04
3D301EB09
3D301EB10
3D301EB16
3D301EB17
3D301EB44
3D301EC01
3D301EC05
3D301EC06
3D301EC37
3D301EC42
3D333CB02
3D333CB29
3D333CB44
3D333CE39
3D333CE41
(57)【要約】
【課題】操舵装置の転舵機能に異常が発生したときの制駆動力の配分制御による旋回制御性を向上させることができる、車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムによれば、その1つの態様において、ステアバイワイヤ方式の操舵装置における転舵機能の異常信号を取得した際、操舵操作入力部材に入力される操舵操作に応じて、駆動力を正の物理量、制動力を負の物理量としたとき、車両の旋回内側の後輪に与える駆動力と制動力の合計値を、車両の旋回外側の後輪に与える駆動力と制動力の合計値より小さくし、旋回外側の後輪に対応する第1後輪懸架アクチュエータによって上向きの力を発生させ、旋回内側の後輪に対応する第2後輪懸架アクチュエータによって下向きの力を発生させ、旋回外側の前輪に対応する第1前輪懸架アクチュエータによって上向きの力を発生させる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵輪と切り離された操舵操作入力部材及び前記転舵輪に転舵力を与える転舵アクチュエータを有するステアバイワイヤ方式の操舵装置と、前記車両の車輪に制駆動力を与える制駆動アクチュエータと、前記車両の上下方向に力を与える懸架アクチュエータとを有する前記車両に備えられた車両制御装置であって、
前記車両制御装置が備えるコントロール部は、
前記操舵装置における転舵機能の異常信号を取得した際、
前記操舵操作入力部材に入力される操舵操作に応じて、駆動力を正の物理量、制動力を負の物理量としたとき、前記車両の旋回内側の後輪に与える駆動力と制動力の合計値を、前記車両の旋回外側の後輪に与える駆動力と制動力の合計値より小さくする制駆動制御指令を前記制駆動アクチュエータへ出力し、
前記懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回外側の後輪に対応する第1後輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における上向きの力を発生させ、前記懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回内側の後輪に対応する第2後輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における下向きの力を発生させ、前記懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回外側の前輪に対応する第1前輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における上向きの力を発生させる、懸架制御指令を前記懸架アクチュエータへ出力する、
車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回内側の前輪に対応する第2前輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における上向きの力を発生させる懸架制御指令を前記懸架アクチュエータへ出力する、
車両制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回内側の前輪に対応する第2前輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における下向きの力を発生させる懸架制御指令を前記懸架アクチュエータへ出力する、
車両制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記車両の旋回内側の後輪に制動力を与える制駆動制御指令を前記制駆動アクチュエータへ出力する、
車両制御装置。
【請求項5】
車両の転舵輪と切り離された操舵操作入力部材及び前記転舵輪に転舵力を与える転舵アクチュエータを有するステアバイワイヤ方式の操舵装置と、前記車両の車輪に制駆動力を与える制駆動アクチュエータと、前記車両の上下方向に力を与える懸架アクチュエータとを有する前記車両に備えられたコントロールユニットが実行する車両制御方法であって、
前記コントロールユニットは、
前記操舵装置における転舵機能の異常信号を取得した際、
前記操舵操作入力部材に入力される操舵操作に応じて、駆動力を正の物理量、制動力を負の物理量としたとき、前記車両の旋回内側の後輪に与える駆動力と制動力の合計値を、前記車両の旋回外側の後輪に与える駆動力と制動力の合計値より小さくする制駆動制御指令を前記制駆動アクチュエータへ出力し、
前記懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回外側の後輪に対応する第1後輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における上向きの力を発生させ、前記懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回内側の後輪に対応する第2後輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における下向きの力を発生させ、前記懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回外側の前輪に対応する第1前輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における上向きの力を発生させる、懸架制御指令を前記懸架アクチュエータへ出力する、
車両制御方法。
【請求項6】
車両の転舵輪と切り離された操舵操作入力部材及び前記転舵輪に転舵力を与える転舵アクチュエータを有するステアバイワイヤ方式の操舵装置と、
前記車両の車輪に制駆動力を与える制駆動アクチュエータと、
前記車両の上下方向に力を与える懸架アクチュエータと、
コントロールユニットであって、
前記操舵装置における転舵機能の異常信号を取得した際、
前記操舵操作入力部材に入力される操舵操作に応じて、駆動力を正の物理量、制動力を負の物理量としたとき、前記車両の旋回内側の後輪に与える駆動力と制動力の合計値を、前記車両の旋回外側の後輪に与える駆動力と制動力の合計値より小さくする制駆動制御指令を前記制駆動アクチュエータへ出力し、
前記懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回外側の後輪に対応する第1後輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における上向きの力を発生させ、前記懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回内側の後輪に対応する第2後輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における下向きの力を発生させ、前記懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回外側の前輪に対応する第1前輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における上向きの力を発生させる、懸架制御指令を前記懸架アクチュエータへ出力する、
前記コントロールユニットと、
を備える、車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の車両用電動式操舵装置は、車両の操舵を行う操舵部と、車両の車輪を転舵する転舵部とが機械的に連結されておらず、操舵に応じて転舵部の転舵用アクチュエータを介して転舵する車両用電動式操舵装置であって、転舵用アクチュエータが故障した場合、左右輪の駆動力又は制動力を独立に制御し、車両の旋回運動を制御すると共に、操舵部側へ車両挙動に応じた操舵反力を与える機能を具備する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-248660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、操舵装置の転舵機能に異常が発生したときに、旋回内側の車輪に与える制駆動力と、旋回外側の車輪に与える制駆動力との配分を制御することで、車両の進路を変更することが可能である。
しかし、制駆動力の配分制御による車両の旋回によって、旋回外側に荷重が偏って車体がロールし、ロールによって旋回内側の荷重が小さくなって、旋回内側のタイヤグリップ力が減少する。
このため、制駆動力の配分制御によって得られるモーメントが変化し、制駆動力の配分制御による旋回制御性が低下する可能性があった。
【0005】
本発明は、従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、操舵装置の転舵機能に異常が発生したときの制駆動力の配分制御による旋回制御性を向上させることができる、車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムによれば、その1つの態様において、ステアバイワイヤ方式の操舵装置における転舵機能の異常信号を取得した際、操舵操作入力部材に入力される操舵操作に応じて、駆動力を正の物理量、制動力を負の物理量としたとき、車両の旋回内側の後輪に与える駆動力と制動力の合計値を、前記車両の旋回外側の後輪に与える駆動力と制動力の合計値より小さくする制駆動制御指令を制駆動アクチュエータへ出力し、懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回外側の後輪に対応する第1後輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における上向きの力を発生させ、前記懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回内側の後輪に対応する第2後輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における下向きの力を発生させ、前記懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回外側の前輪に対応する第1前輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における上向きの力を発生させる、懸架制御指令を前記懸架アクチュエータへ出力する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、操舵装置の転舵機能に異常が発生したときの制駆動力の配分制御による旋回制御性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】車両制御システムを示すブロック図である。
図2】制駆動力の配分制御を示す機能ブロック図である。
図3】制動力の配分制御の一態様を示す状態図である。
図4】制動力の配分制御とロール抑止のための懸架制御とを実施したときの状態図である。
図5】操舵角と懸架制御指令との相関を示す線図である。
図6】駆動力の配分制御とロール抑止のための懸架制御とを実施したときの状態図である。
図7】制動力の配分制御とロール及びピッチ抑止のための懸架制御とを実施したときの状態図である。
図8】制動力の配分制御とロール及びピッチ抑止のための懸架制御とを実施したときの状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムの実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、車両100に搭載される車両制御システム200の一態様を示すブロック図である。
【0010】
車両100は、左前輪101,右前輪102,左後輪103,及び右後輪104を有する4輪自動車である。
車両制御システム200は、ステアバイワイヤ方式の操舵装置300、制動アクチュエータ400、駆動アクチュエータ500、懸架アクチュエータ600、及び、車両制御装置700を有する。
【0011】
ステアバイワイヤ方式の操舵装置300は、操舵入力装置310、転舵アクチュエータ装置320、操舵制御装置330を有する。
操舵入力装置310は、操舵操作入力部材としてのステアリングホイール311、反力モータ312、操舵角センサ313を有する。
【0012】
反力モータ312は、ステアリングホイール311に反力トルク(換言すれば、疑似反力トルク)を付与する。
操舵角センサ313は、ステアリングシャフトの回転角を検出することで、ステアリングホイール311の操舵操作量である操舵角θ[deg]を検出する。
【0013】
転舵アクチュエータ装置320は、転舵アクチュエータとしての転舵モータ321、転舵モータ321が発生する転舵力によって転舵輪である前輪101,102を転舵する転舵機構322、転舵モータ321の位置(或いは、転舵機構322の位置)から転舵輪である前輪101,102の転舵角δ[deg]を検出する転舵角センサ323を有する。
ここで、操舵入力装置310と転舵アクチュエータ装置320(換言すれば、ステアリングホイール311と転舵輪である前輪101,102)は、機械的に切り離されている。
【0014】
そして、操舵制御装置330は、操舵角センサ313が検出するステアリングホイール311の操舵角θに基づき設定した目標転舵角δtg[deg](転舵角指令)と、転舵角センサ323が検出する実際の転舵角δとの比較に基づいて転舵モータ321を駆動制御し、前輪101,102の転舵角δをステアリングホイール311の操舵角θに応じた目標転舵角δtgに制御する。
また、操舵制御装置330は、操舵角θなどに基づき、反力モータ312がステアリングホイール311に付与する反力トルクを制御する。
【0015】
制動アクチュエータ400は、たとえば、油圧源を備えた油圧式の制動装置や、電動制動装置などであって、各車輪に与える制動力を個別に電子制御することが可能な制動装置である。
駆動アクチュエータ500は、少なくとも後輪103,104に与える駆動力を個別に電子制御することが可能なインホイールモータなどの駆動装置である。
懸架アクチュエータ600は、減衰力の電子制御が可変なショックアブソーバを備えたセミアクティブサスペンション、または、油圧や空気圧などのエネルギー源をもち、各アクチュエータの圧力を制御することで、車両100の姿勢制御や車高制御などが可能なアクティブサスペンション(フルアクティブサスペンション)である。
【0016】
車両制御装置700は、入力した情報に基づいて演算を行って演算結果を出力するコントロール部としてのマイクロコンピュータ710を備える。
マイクロコンピュータ710は、図示を省略したMPU(Microprocessor Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備える。
なお、マイクロコンピュータ710は、MCU(Micro Controller Unit)、プロセッサ、処理装置、演算装置などと言い換えることができる。
【0017】
車両制御装置700(マイクロコンピュータ710)は、操舵装置300の転舵機能に異常が発生し、運転者によるステアリングホイール311の操作に応じて前輪101,102の転舵角δを変化させることができなくなったときに、制駆動力の配分制御を行なうことで車両100にヨーモーメントを作用させ、車両100の進行方向をステアリングホイール311の操作に応じた方向に変更する制御機能を備える。
【0018】
操舵制御装置330は、転舵アクチュエータ装置320の異常、たとえば、転舵モータ321や転舵モータ321の駆動回路などの異常を診断する機能を有し、診断結果に応じて失陥フラグを設定し、失陥フラグの信号を出力する。
そして、車両制御装置700(マイクロコンピュータ710)は、操舵制御装置330から失陥フラグの信号を取得し、失陥フラグが転舵機能の異常状態を示すとき(換言すれば、転舵機能の異常信号を取得したとき)、転舵失陥時制駆動制御を実施する。
【0019】
図2は、マイクロコンピュータ710において制駆動力の配分制御を実施するための機能部を示すブロック図である。
マイクロコンピュータ710は、制駆動アクチュエータ(制動アクチュエータ400,駆動アクチュエータ500)に制駆動制御指令を出力する制駆動制御部711、懸架アクチュエータ600に懸架制御指令を出力する懸架制御部712を有する。
【0020】
さらに、懸架制御部712は、転舵失陥時制御部712Aと、通常制御部712Bとを有する。
そして、懸架制御部712は、通常制御部712Bが出力する通常の懸架制御指令に、転舵機能の異常状態において転舵失陥時制御部712Aが出力する失陥時懸架制御指令を付加し、最終的な懸架制御指令を出力する。
【0021】
制駆動制御部711は、操舵制御装置330から、目標転舵角δtg(又は操舵角θ)の信号、及び、操舵装置300における転舵機能の異常の有無を示す失陥フラグの信号を取得する。
そして、制駆動制御部711は、失陥フラグが操舵装置300における転舵機能に異常が発生していることを示す場合、目標転舵角δtg(又は操舵角θ)の信号に応じて、車両100の旋回内側の車輪に与える制駆動力と、車両100の旋回外側の車輪に与える制駆動力との配分を制御する制駆動制御指令を、制駆動アクチュエータ(制動アクチュエータ400、駆動アクチュエータ500)へ出力する。
【0022】
つまり、制駆動制御部711は、操舵装置300における転舵機能に異常が発生し、前輪101,102の舵角制御によって車両100の進行方向を変えることができなくなると、制駆動力の配分制御を実施して、車両100の進行方向をステアリングホイール311の操舵操作に応じた方向に制御する。
また、転舵失陥時制御部712Aは、失陥フラグが操舵装置300における転舵機能に異常が発生していることを示し、制駆動制御部711が制駆動力の配分制御を実施するときに、車両100のロールを抑制して旋回内側の車輪のタイヤグリップ力(荷重)を上げるように、懸架アクチュエータ600に懸架制御指令を出力する。
【0023】
図3は、制駆動制御部711による制駆動力の配分制御の一態様を示す。
なお、図3は、車両100の運転者が、車両100の進行方向を右側に変更するようにステアリングホイール311を操舵操作したとき、つまり、車両100を右旋回させようとしてステアリングホイール311を操舵操作したときの制駆動力の配分制御を示す。
【0024】
ここで、制駆動制御部711は、制駆動力の配分制御として、旋回内側の後輪である右後輪104に所定の制動力を付加するように制動アクチュエータ400を制御することで、車両100を右旋回させるヨーモーメントを発生させる。
つまり、制駆動制御部711は、駆動力を正の物理量、制動力を負の物理量としたとき、車両100の旋回内側の後輪(図3の例では右後輪104)に与える駆動力と制動力の合計値を、車両100の旋回外側の後輪(図3の例では左後輪103)に与える駆動力と制動力の合計値より小さくする制駆動制御指令を制駆動アクチュエータに出力する。
【0025】
ところで、制駆動制御部711による制駆動力の配分制御によって車両100が旋回するときに、旋回外側に荷重が偏ることで、車両100の旋回内側が持ち上がり、旋回外側が沈み込む方向のロールが発生する。
そして、車両100のロールによって旋回内側の車輪の荷重が小さくなると、旋回内側のタイヤグリップ力が下がり、旋回内側の車輪(図3の制御例における右後輪104)実現可能な制動力が低下する。
【0026】
このため、制駆動制御部711が、車両100を旋回させるために旋回内側の後輪に制動力を付加しても、これによって得られるヨーモーメントが小さくなって、制駆動力の配分制御による車両100の旋回性が低下する。
そこで、転舵失陥時制御部712Aは、制駆動制御部711が制駆動力の配分制御を実施するときに、車両100のロールを抑制して旋回内側の車輪のタイヤグリップ力を上げるように、懸架アクチュエータ600を制御することで、制駆動力の配分制御による車両100の旋回性を向上させる。
【0027】
図4は、転舵失陥時制御部712Aによる懸架制御の一態様として、制駆動力の配分制御によって車両100を右旋回させるときの制御動作を示す。
転舵失陥時制御部712Aは、旋回開始時の懸架アクチュエータ600の位置(換言すれば、旋回開始時の車体と車輪の相対距離やダンパのストローク)を基準として、旋回外側の車輪である左前輪101及び左後輪103では懸架アクチュエータ600が縮まないように制御し、旋回内側の車輪である右前輪102及び右後輪104では、懸架アクチュエータ600が伸びないように制御する。
つまり、転舵失陥時制御部712Aは、旋回外側の左前輪101及び左後輪103では、車両100の上下方向における上向きの力を発生させ、旋回内側の右前輪102及び右後輪104では、車両100の上下方向における下向きの力を発生させる。
【0028】
詳細には、転舵失陥時制御部712Aは、懸架アクチュエータ600のうち車両100の旋回外側の後輪(図4の例では左後輪103)に対応する第1後輪懸架アクチュエータ600R1によって上向きの力を発生させ、懸架アクチュエータ600のうち車両100の旋回内側の後輪(図4の例では右後輪104)に対応する第2後輪懸架アクチュエータ600R2によって下向きの力を発生させる。
さらに、転舵失陥時制御部712Aは、懸架アクチュエータ600のうち車両100の旋回外側の前輪(図4の例では左前輪101)に対応する第1前輪懸架アクチュエータ600F1によって上向きの力を発生させ、懸架アクチュエータ600のうち車両100の旋回内側の前輪(図4の例では右前輪102)に対応する第2前輪懸架アクチュエータ600F2によって下向きの力を発生させる。
【0029】
なお、懸架アクチュエータ600が、車体と車輪の相対距離を任意に変更できるアクティブサスペンションである場合、転舵失陥時制御部712Aは、旋回開始時の車体と車輪の相対距離を保持するように懸架アクチュエータ600を制御する。
また、懸架アクチュエータ600が、減衰力の制御が可能なセミアクティブサスペンションである場合、旋回外側では懸架アクチュエータ600が縮む方向に対して減衰力を高くし、旋回内側では懸架アクチュエータ600が伸びる方向に対して減衰力を高くする。
【0030】
図5は、転舵失陥時制御部712Aにおける操舵角θと懸架アクチュエータ600の制御指令との相関を例示する。
なお、操舵角θ[deg]は、ステアリングホイール311の中立位置で零であって、中立位置からの操舵方向がプラス、マイナスで区別される。
【0031】
転舵失陥時制御部712Aは、失陥フラグが操舵装置300における転舵機能の異常状態を示すときに、操舵角θ(又は目標転舵角δtg)の左右転舵の向きに応じて、旋回外側となる車輪と旋回内側となる車輪とを判断し、操舵角θの大きさに応じて懸架アクチュエータ600の制御指令を決定する。
ここで、転舵失陥時制御部712Aは、旋回内側のタイヤグリップ力が車両100のロール挙動によって失われる懸念がない、操舵角θの絶対値が閾値θth以下の領域では、懸架アクチュエータ600の制御指令を零とする。
つまり、操舵角θの絶対値が閾値θth以下の領域では、制駆動力の配分制御によって発生するロールが十分に小さいので、転舵失陥時制御部712Aは、ロールを抑制するための懸架アクチュエータ600の制御を実施しない。
【0032】
一方、転舵失陥時制御部712Aは、操舵角θの絶対値が閾値θthを超える領域では、操舵角θの増大に比例して制御指令を大きくする。
つまり、操舵角θの増大に伴ってロールが大きくなるので、転舵失陥時制御部712Aは、操舵角θの大きくなるほどロールを抑止する方向に働く上下方向の力を大きくする。
【0033】
係る転舵失陥時制御部712Aによる懸架制御によって、制駆動制御部711が制駆動力の配分制御を実施するときの車両100のロールが抑制される。
このため、車両100のロールに伴って旋回内側のタイヤグリップ力が下がることが抑止され、旋回内側の車輪で実現可能な制動力の低下が抑制される結果、制駆動力の配分制御、詳細には、旋回内側の後輪に制動力を付加する制御(図4参照)による車両100の旋回性を改善できる。
【0034】
ところで、制駆動制御部711は、運転者によるステアリングホイール311の操舵操作に応じて車両100を旋回させるための制駆動力の配分制御として、駆動力の配分制御を実施することができる。
図6は、制駆動制御部711による駆動力の配分制御の一態様を示す図であって、車両100を右旋回させるときの駆動力の配分制御を示す。
ここで、制駆動制御部711は、左右後輪103,104に駆動力を与えて車両100を走行させるときに、旋回外側の左後輪103に与える駆動力を変えずに、旋回内側の右後輪104に与える駆動力を、旋回外側の左後輪103に与える駆動力よりも低下させる。
【0035】
つまり、制駆動制御部711は、駆動力を正の物理量、制動力を負の物理量としたとき、駆動力の配分制御によって、車両100の旋回内側の後輪(図6の例では右後輪104)に与える駆動力と制動力の合計値を、車両100の旋回外側の後輪(図6の例では左後輪103)に与える駆動力と制動力の合計値より小さくするように、駆動アクチュエータ500を制御する。
このとき、転舵失陥時制御部712Aは、旋回外側の左前輪101及び左後輪103では、車両100の上下方向における上向きの力を発生させ、旋回内側の右前輪102及び右後輪104では、車両100の上下方向における下向きの力を発生させるように、懸架アクチュエータ600を制御する。
【0036】
上記のように、制駆動制御部711が駆動力の配分制御を行なう場合においても、転舵失陥時制御部712Aによる懸架アクチュエータ600の制御によって、車両100のロール挙動が抑えられ、タイヤグリップ力の変化が抑制されるので、駆動力の配分制御による旋回制御性を改善できる。
なお、制駆動制御部711は、制動力の配分制御と、駆動力の配分制御とを並行して実施することができる。
【0037】
また、転舵失陥時制御部712Aは、制駆動制御部711が制動力の配分制御を実施するときに、懸架アクチュエータ600の制御によって、車両100の旋回に伴うロールを抑制しつつ、ピッチを抑制することができる。
つまり、制駆動制御部711が制動力の配分制御を実施すると、車両100の前方側が沈み込み、車両100の後方側が持ち上がるピッチ挙動が発生し、後輪103,104のタイヤグリップ力が下がることで、後輪103,104に対する制動力の配分制御による旋回性が低下する。
そこで、転舵失陥時制御部712Aは、後輪103,104に対する制動力の配分制御によって車両100が旋回するときに、車両100のロール及びピッチを抑制するように懸架アクチュエータ600を制御することで、制動力の配分制御による旋回性を改善する。
【0038】
図7は、転舵失陥時制御部712Aが、懸架アクチュエータ600の制御によって、車両100のロール及びピッチを抑制するときの動作例を示す。
ここで、転舵失陥時制御部712Aは、図4に示した動作例と同様に、旋回外側の左前輪101及び左後輪103では、車両100の上下方向における上向きの力を発生させ、旋回内側の右前輪102及び右後輪104では、車両100の上下方向における下向きの力を発生させる。
【0039】
但し、図7に示す動作例では、転舵失陥時制御部712Aは、旋回外側の左前輪101に発生させる上向きの力が、旋回外側の左後輪103に発生させる上向きの力よりも大きくなり、かつ、旋回内側の右前輪102に派生させる下向きの力が、旋回内側の右後輪104に発生させる下向きの力よりも小さくなるように、懸架アクチュエータ600を制御する。
つまり、旋回外側の左前輪101及び旋回外側の左後輪103に上向きの力を発生させることでロールを抑制しつつ、旋回外側の左前輪101に発生させる上向きの力を、旋回外側の左後輪103に発生させる上向きの力よりも大きくすることで、ピッチ、換言すれば、車両100の前方側の沈み込みを抑制する。
【0040】
同様に、旋回内側の右前輪102及び旋回内側の右後輪104に下向きの力を発生させることでロールを抑制しつつ、旋回内側の右前輪102に派生させる下向きの力を、旋回内側の右後輪104に発生させる下向きの力よりも小さくすることで、ピッチ、換言すれば、車両100の前方側の沈み込みを抑制する。
このように、転舵失陥時制御部712Aが、車両100のロール及びピッチを抑制すれば、旋回に伴うタイヤグリップ力の変化をより小さく抑えることができ、制動力の配分制御による旋回制御性をより効果的に改善できる。
【0041】
また、転舵失陥時制御部712Aは、車両100のロール及びピッチを抑制するときに、旋回内側の後輪に車両100の上下方向における下向きの力を発生させ、旋回内側の後輪以外の3輪、つまり、旋回外側の後輪及び左右の前輪に車両100の上下方向における上向きの力を発生させるように、懸架アクチュエータ600を制御することができる。
図8は、制駆動制御部711が、後輪103,104における制動力の配分制御によって車両100を右旋回させるときに、転舵失陥時制御部712Aが、旋回内側の後輪である右後輪104に下向きの力を発生させ、右後輪104以外の3輪、つまり、左後輪103及び左右の前輪101,102に上向きの力を発生させるように、懸架アクチュエータ600を制御する動作を示す。
【0042】
換言すれば、転舵失陥時制御部712Aは、旋回外側の後輪に対応する第1後輪懸架アクチュエータ600R1によって上向きの力を発生させ、旋回内側の後輪に対応する第2後輪懸架アクチュエータ600R2によって下向きの力を発生させ、旋回外側の前輪に対応する第1前輪懸架アクチュエータ600F1によって上向きの力を発生させ、旋回内側の前輪に対応する第2前輪懸架アクチュエータ600F2によって上向きの力を発生させる。
【0043】
ここで、転舵失陥時制御部712Aは、旋回外側の左前輪101に発生させる上向きの力が、旋回外側の左後輪103に発生させる上向きの力よりも大きくなるように、懸架アクチュエータ600を制御する。
また、転舵失陥時制御部712Aは、旋回内側の右前輪102に発生させる上向きの力が、旋回外側の左後輪103に発生させる上向きの力よりも小さくなるように、懸架アクチュエータ600を制御する。
【0044】
つまり、転舵失陥時制御部712Aは、[左前輪101(旋回外側の前輪)に発生させる上向きの力]>[左後輪103(旋回外側の後輪)に発生させる上向きの力]>[右前輪102(旋回内側の前輪)に発生させる上向きの力]となるように、旋回内側の後輪(右後輪104)以外の3輪101,102,103に上向きの力を発生させる。
さらに、転舵失陥時制御部712Aは、旋回内側の右後輪104に下向きの力を発生させるように、懸架アクチュエータ600を制御する。
係る懸架アクチュエータ600の制御によっても、車両100のロール及びピッチを抑制でき、制駆動制御部711による制駆動力の配分制御による車両100の旋回性を改善できる。
【0045】
上記実施形態で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合わせて使用することができる。
また、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【0046】
上記実施形態は、車両100が備える操舵装置を、ステアリングホイール311と転舵輪である前輪101,102とが機械的に切り離されているステアバイワイヤ方式の操舵装置300とするが、操舵装置は、ステアリングホイール311と転舵輪である前輪101,102とが機械的に連結され、かつ、転舵輪である前輪101,102の転舵力を発生する転舵モータを備えた電動パワーステアリング装置(EPS:Electric Power Steering)であってもよい。
【0047】
そして、電動パワーステアリング装置の転舵モータを目標の転舵角に基づき制御することで、車両100を自動運転させている状態で、電動パワーステアリング装置の転舵機能に異常が発生したときに、車両制御装置700は、制駆動力の配分制御と、ロール(及びピッチ)を抑制する懸架アクチュエータ600の制御とを実施することができる。
このとき、車両制御装置700は、自動運転制御で生成される転舵角指令などの情報から旋回方向を特定し、制駆動力の配分制御及び懸架アクチュエータ600の制御を実施する。
【0048】
なお、ステアバイワイヤ方式の操舵装置300を備えた車両100において、自動運転される場合も、車両制御装置700は、自動運転制御で生成される転舵角指令などの情報から旋回方向を特定し、制駆動力の配分制御及び懸架アクチュエータ600の制御を実施することができる。
一方、ステアバイワイヤ方式の操舵装置300を備えた車両100において、運転者がステアリングホイール311を操作する場合、ステアリングホイール311の操舵角θが転舵角指令に相当することになる。
【0049】
つまり、本発明に係る車両制御装置は、その一態様として、車両の転舵輪に転舵力を与える転舵アクチュエータを有する操舵装置と、前記車両の車輪に制駆動力を与える制駆動アクチュエータと、前記車両の上下方向に力を与える懸架アクチュエータとを有する前記車両に備えられた車両制御装置であって、前記車両制御装置が備えるコントロール部は、前記操舵装置における転舵機能の異常信号を取得した際、前記転舵輪の転舵角指令に応じて、駆動力を正の物理量、制動力を負の物理量としたとき、前記車両の旋回内側の後輪に与える駆動力と制動力の合計値を、前記車両の旋回外側の後輪に与える駆動力と制動力の合計値より小さくする制駆動制御指令を前記制駆動アクチュエータへ出力し、前記懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回外側の後輪に対応する第1後輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における上向きの力を発生させ、前記懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回内側の後輪に対応する第2後輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における下向きの力を発生させ、前記懸架アクチュエータのうち前記車両の旋回外側の前輪に対応する第1前輪懸架アクチュエータによって前記車両の上下方向における上向きの力を発生させる、懸架制御指令を前記懸架アクチュエータへ出力する。
【符号の説明】
【0050】
100…車両、101…左前輪、102…右前輪、103…左後輪、104…右後輪、200…車両制御システム、300…操舵装置、311…ステアリングホイール(操舵操作入力部材)、321…転舵モータ(転舵アクチュエータ)、400…制動アクチュエータ(制駆動アクチュエータ)、500…駆動アクチュエータ(制駆動アクチュエータ)、600…懸架アクチュエータ、700…車両制御装置(コントロールユニット)、710…マイクロコンピュータ(コントロール部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8