(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101244
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】構造物の施工方法、及び構造物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/35 20060101AFI20240722BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20240722BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
E04B1/35 K
E04H9/02 331Z
E04G21/02 103Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005122
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】山本 章起久
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 公彦
【テーマコード(参考)】
2E139
2E172
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC26
2E139AC33
2E139AC40
2E139AD01
2E139CA02
2E139CA11
2E139CA21
2E139CC02
2E139CC07
2E172AA05
2E172AA09
2E172AA17
2E172BA25
2E172DB03
2E172DB07
2E172HA03
(57)【要約】
【課題】柱に接合されるとともに、異なる温度帯で供用される第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材を備える構造物において、柱の傾きを低減することを目的とする。
【解決手段】構造物の施工方法は、コンクリート柱32に接合されるコンクリート梁40Aと、コンクリート梁40Aの上方に配置され、コンクリート柱32に接合されるとともに、コンクリート梁40Aと異なる温度帯で供用されるコンクリート梁40Bと、を備える構造物の施工方法であって、コンクリート梁40Aの乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値と、コンクリート梁40Bの乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値との差分が、閾値以内になるように、乾燥収縮率が異なるコンクリートによって、コンクリート梁40A,40Bを施工する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱に接合される第一コンクリート水平部材と、前記第一コンクリート水平部材の上方に配置され、前記柱に接合されるとともに、前記第一コンクリート水平部材と異なる温度帯で供用される第二コンクリート水平部材と、を備える構造物の施工方法であって、
前記第一コンクリート水平部材の乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値と、前記第二コンクリート水平部材の乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値との差分が、閾値以内になるように、乾燥収縮率が異なるコンクリートによって、前記第一コンクリート水平部材及び前記第二コンクリート水平部材を施工する、
構造物の施工方法。
【請求項2】
柱に接合される第一コンクリート水平部材と、
前記第一コンクリート水平部材の上方に配置され、前記柱に接合されるとともに、前記第一コンクリート水平部材と異なる温度帯で供用される第二コンクリート水平部材と、
を備え、
前記第一コンクリート水平部材及び前記第二コンクリート水平部材は、前記第一コンクリート水平部材の乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値と、前記第二コンクリート水平部材の乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値との差分が、閾値以内となるように、乾燥収縮率が異なるコンクリートで形成される、
構造物。
【請求項3】
前記第一コンクリート水平部材と前記第二コンクリート水平部材とを隔てる断熱層を備える、
請求項2に記載の構造物。
【請求項4】
前記第一コンクリート水平部材は、免震層の直上階に設けられた冷蔵倉庫の床を形成するスラブを有し、
前記第二コンクリート水平部材は、前記冷蔵倉庫内に設けられ、
前記断熱層は、前記スラブ上に設けられる、
請求項3に記載の構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の施工方法、及び構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
冷蔵倉庫内の鉄骨梁を長手方向に分割し、冷蔵倉庫の冷却後に、収縮した鉄骨梁同士をボルト接合する冷蔵倉庫の施工方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、膨張率が異なるコンクリートによって形成される区画を交互に配置することにより、隣り合う区画の打継ぎ部のひび割れ等を抑制する床スラブの施工方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-035157号公報
【特許文献2】特開2007-107186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、例えば、構造物の所定階が冷蔵倉庫の場合、供用時において、冷蔵倉庫階と、それ以外の一般階との間に温度差が生じる。この結果、冷蔵倉庫階と一般階とでは、コンクリートスラブや梁の熱収縮量の差が大きくなり、冷蔵倉庫階の柱、又は冷蔵倉庫階の直上若しくは直下の一般階の柱が傾いたり、当該柱の傾きが大きくなったりする可能性がある。
【0006】
本発明は、上記の事実を考慮し、柱に接合されるとともに、異なる温度帯で供用される第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材を備える構造物において、柱の傾きを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の構造物の施工方法は、柱に接合される第一コンクリート水平部材と、前記第一コンクリート水平部材の上方に配置され、前記柱に接合されるとともに、前記第一コンクリート水平部材と異なる温度帯で供用される第二コンクリート水平部材と、を備える構造物の施工方法であって、前記第一コンクリート水平部材の乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値と、前記第二コンクリート水平部材の乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値との差分が、閾値以内になるように、乾燥収縮率が異なるコンクリートによって、前記第一コンクリート水平部材及び前記第二コンクリート水平部材を施工する。
【0008】
請求項1に係る構造物の施工方法によれば、構造物は、第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材を備える。第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材は、柱に接合される。
【0009】
ここで、第二コンクリート水平部材は、第一コンクリート水平部材の上方に配置され、第一コンクリート水平部材とは異なる温度帯で供用される。そのため、供用時に、第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材の熱伸縮量に差が生じる。この結果、第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材が接合された柱が傾き、又は柱の傾きが大きくなる可能性がある。
【0010】
これに対して本発明では、第一コンクリート水平部材の乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値と、第二コンクリート水平部材の乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値との差分が、閾値以内になるように、乾燥収縮率が異なるコンクリートによって、第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材を施工する。
【0011】
つまり、本発明では、第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材の乾燥収縮率を調整することにより、供用時に第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材に生じる伸縮量の差を小さくする。これにより、第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材が接合された柱の傾きを低減することができる。
【0012】
請求項2に記載の構造物は、柱に接合される第一コンクリート水平部材と、前記第一コンクリート水平部材の上方に配置され、前記柱に接合されるとともに、前記第一コンクリート水平部材と異なる温度帯で供用される第二コンクリート水平部材と、を備え、前記第一コンクリート水平部材及び前記第二コンクリート水平部材は、前記第一コンクリート水平部材の乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値と、前記第二コンクリート水平部材の乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値との差分が、閾値以内となるように、乾燥収縮率が異なるコンクリートで形成される。
【0013】
請求項2に係る構造物によれば、第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材を備える。第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材は、柱に接合される。
【0014】
ここで、第二コンクリート水平部材は、第一コンクリート水平部材の上方に配置され、第一コンクリート水平部材とは異なる温度帯で供用される。そのため、供用時に、第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材の熱伸縮量に差が生じる。この結果、第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材が接合された柱が傾き、又は柱の傾きが大きくなる可能性がある。
【0015】
これに対して本発明では、第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材は、第一コンクリート水平部材の乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値と、第二コンクリート水平部材の乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値との差分が、閾値以内となるように、乾燥収縮率が異なるコンクリートで形成される。
【0016】
つまり、本発明では、第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材の乾燥収縮率を調整することにより、供用時に第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材に生じる伸縮量の差を小さくする。これにより、第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材が接合された柱の傾きを低減することができる。
【0017】
請求項3に記載の構造物は、請求項2に記載の構造物において、前記第一コンクリート水平部材と前記第二コンクリート水平部材とを隔てる断熱層を備える。
【0018】
請求項3に係る構造物によれば、第一コンクリート水平部材と第二コンクリート水平部材とは、断熱層によって隔てられる。そのため、供用時に、第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材に生じる熱伸縮量の差が大きくなり易く、柱の傾きが大きくなる可能性がある。
【0019】
このような場合に本発明は特に有効であり、前述したように、乾燥収縮率が異なるコンクリートによって、第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材を施工することにより、柱の傾きを低減することができる。
【0020】
請求項4に記載の構造物は、請求項3に記載の構造物において、前記第一コンクリート水平部材は、免震層の直上階に設けられた冷蔵倉庫の床を形成するスラブを有し、前記第二コンクリート水平部材は、前記冷蔵倉庫内に設けられ、前記断熱層は、前記スラブ上に設けられる。
【0021】
請求項4に係る構造物によれば、第一コンクリート水平部材は、スラブを有する。スラブは、免震層の直上階に設けられた冷蔵倉庫の床を形成する。この冷蔵倉庫には、第二コンクリート水平部材が設けられる。また、スラブ上には、断熱層が設けられる。
【0022】
ここで、冷蔵倉庫内は、供用時に、免震層よりも低温度帯になる。そのため、第二コンクリート水平部材の熱伸縮量が、第一コンクリート水平部材の熱伸縮量よりも大きくなる。
【0023】
これに対して本発明では、第一コンクリート水平部材の乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値と、第二コンクリート水平部材の乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値との差分が、閾値以内になるように、乾燥収縮率が異なるコンクリートによって、第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材を施工する。
【0024】
つまり、本発明では、第二コンクリート水平部材が、第一コンクリート水平部材よりも乾燥収縮率が小さいコンクリートによって施工される。これにより、柱の傾きを低減することができる。
【0025】
また、免震層は、断熱層によって冷蔵倉庫と隔てられる。したがって、例えば、免震層に設置された積層ゴム支承等の温度劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、柱に接合されるとともに、異なる温度帯で供用される第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材を備える構造物において、柱の傾きを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】一実施形態に係る構造物の施工方法によって施工された構造物を示す立面図である。
【
図3】比較例に係る構造物の施工方法によって施工された構造物を示す立面図である。
【
図4】比較例に係るコンクリート梁の乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値を示す側面図である。
【
図5】一実施形態に係るコンクリート梁の乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値を示す側面図である。
【
図6】
図1に示される構造物の施工過程を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、一実施形態について説明する。
【0029】
(構造物)
図1には、本実施形態に係る構造物の施工方法によって施工された構造物10が示されている。構造物10は、一例として、免震構造物とされている。この構造物10は、下部構造体20と、上部構造体30と、複数の免震装置60とを備えている。
【0030】
下部構造体20は、一例として、基礎とされている。この下部構造体20は、鉄筋コンクリート造の基礎スラブ22を有している。基礎スラブ22は、地盤上に設けられている。この基礎スラブ22には、複数の免震装置60を介して上部構造体30が支持されている。
【0031】
上部構造体30は、複数階(本実施形態では、3階)で構成されている。また、上部構造体30は、鉄筋コンクリート造とされている。この上部構造体30は、複数のコンクリート柱32と、隣り合うコンクリート柱32に架設された複数のコンクリート梁40と、コンクリート梁40に支持されたスラブ50とを有している。
【0032】
コンクリート柱32及びコンクリート梁40は、例えば、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造とされている。また、スラブ50は、鉄筋コンクリート造とされている。このスラブ50は、上部構造体30の各階の床を構成している。また、上部構造体30の最上階における上側のスラブ50は、上部構造体30の屋根を構成している。
【0033】
なお、上部構造体30は、複数階に限らず、1階10F1のみで構成されても良い。また、上部構造体30の柱は、鉄筋コンクリート造等に限らず、例えば、鉄骨造(鉄骨柱)でも良い。
【0034】
また、以下では、説明の便宜上、上部構造体30の1階10F1の下側のコンクリート梁40をコンクリート梁40Aとし、コンクリート梁40Aよりも上方のコンクリート梁40をコンクリート梁40Bとする。また、上部構造体30の1階10F1の下側のスラブ50をスラブ50Aとし、当該スラブ50Aよりも上方のスラブ50をスラブ50Bとする。
【0035】
下部構造体20と上部構造体30との間には、免震層10B1が形成されている。免震層10B1には、複数の免震装置60が設置されている。複数の免震装置60は、水平二方向に配列されている。これらの免震装置60は、下部構造体20に対して上部構造体30を水平方向に移動可能に支持している。
【0036】
図2に示されるように、免震装置60は、一例として、積層ゴム支承とされている。この免震装置60は、積層ゴム本体62、下側フランジ64、及び上側フランジ66を有している。
【0037】
下側フランジ64は、積層ゴム本体62の下端部に設けられている。この下側フランジ64は、基礎スラブ22の上面から突出する下側支持体(免震下部基礎)24の上面に図示しないボルト等によって固定されている。
【0038】
一方、上側フランジ66は、積層ゴム本体62の上端部に設けられている。上側フランジ66は、コンクリート柱32の柱脚部に設けられた上側支持体(免震上部基礎)34の下面に図示しないボルト等によって固定されている。
【0039】
なお、上側支持体34には、コンクリート梁40Aが接合されている。また、免震装置60は、積層ゴム支承に限らず、例えば、すべり支承や転がり支承等でも良い。
【0040】
ここで、上部構造体30は、一例として、冷蔵倉庫とされている。そのため、上部構造体30の供用時には、上部構造体30の内部温度が、例えば-25℃に冷却される。この上部構造体30は、1階10F1、すなわち免震層10B1の直上階で、床上断熱(床上防熱)とされている。なお、冷蔵倉庫には、冷凍倉庫も含まれる。
【0041】
具体的には、
図2に示されるように、上部構造体30の1階10F1の床を構成するスラブ50Aの上面には、断熱層52を介して押さえコンクリート54が設けられている。断熱層52は、例えば、スチレン成型板等の断熱材によって形成されている。
【0042】
これにより、上部構造体30の供用時には、断熱層52よりも上側の上部構造体30が、例えば-25℃に冷却される。なお、コンクリート柱32は、スラブ50の上面よりも上側で、断熱パネル等の断熱層36によって被覆されている。
【0043】
一方、断熱層52よりも下側の免震層10B1、及び下部構造体20は、供用時に冷却されないため、常温(例えば、10℃)となる。より具体的には、断熱層52よりも下側に位置するスラブ50A、コンクリート梁40A、免震装置60、及び基礎スラブ22等の下部構造体20は、供用時に常温となる。
【0044】
このように構造物10は、常温度帯(高温度帯)で供用される免震層10B1、及び免震層10B1よりも低温度帯で供用される冷蔵倉庫を有するため、供用時に、断熱層52を境に階高方向(上下方向)に大きな温度差が生じる。
【0045】
そのため、例えば、
図3に示される比較例のように、断熱層52よりも上側に配置されるコンクリート梁40B及びスラブ50Bの熱伸縮量(熱収縮量)は、断熱層52よりも下側に配置されるコンクリート梁40A及びスラブ50Aの熱伸縮量よりも大きくなる。特に、構造物10の外周部では、コンクリート梁40B及びスラブ50Bの熱伸縮量(熱収縮量)と、コンクリート梁40A及びスラブ50Aの熱伸縮量との差が大きくなる。
【0046】
この結果、コンクリート梁40A及びスラブ50Aに対してコンクリート梁40B及びスラブ50Bが水平方向に相対変位する。そのため、柱脚部にコンクリート梁40A及びスラブ50Aが接合され、柱頭部にコンクリート梁40B及びスラブ50Bが接合された1階10F1のコンクリート柱32が傾き、又はコンクリート柱32の傾きが大きくなる可能性がある。
【0047】
ここで、コンクリート梁40A、スラブ50A、コンクリート梁40B、及びコンクリート梁40Bは、熱(環境温度)だけでなく、乾燥によっても収縮する。そこで、本実施形態では、コンクリート柱32の傾きが低減されるように、コンクリート梁40A、スラブ50A、コンクリート梁40B、及びスラブ50Bの乾燥収縮量を調整する。
【0048】
なお、コンクリート梁40A,40Bの乾燥収縮量の調整方法と、スラブ50A,50Bの乾燥収縮量の調整方法とは、同様である。そのため、以下では、コンクリート梁40A,40Bの乾燥収縮量の調整方法について説明し、スラブ50A,50Bの乾燥収縮量の調整方法については説明を省略する。また、コンクリート梁40A及びスラブ50Aは、第一コンクリート水平部材の一例であり、コンクリート梁40B及びスラブ50Bは、第二コンクリート水平部材の一例である。
【0049】
コンクリート梁40A,40Bの乾燥収縮量は、次のように調整される。すなわち、コンクリート梁40A,40Bの設計時に、供用時におけるコンクリート梁40Aの乾燥収縮量(乾燥ひずみ)及び熱伸縮量(熱ひずみ)の合計値と、供用時におけるコンクリート梁40Bの乾燥収縮量及び熱伸縮量(温度伸縮量)の合計値との差分が、予め定められた閾値以内になるように、コンクリート梁40A,40Bを形成するコンクリートの乾燥収縮率を調整する。
【0050】
本実施形態では、コンクリート梁40Bの熱伸縮量(熱収縮量)が、コンクリート梁40Bの熱伸縮量(熱収縮量)よりも大きくなるため、コンクリート梁40Bの乾燥収縮率を、コンクリート梁40Aの乾燥収縮率よりも小さくする。例えば、コンクリート梁40Bのコンクリートの乾燥収縮率を一般的なコンクリートの乾燥収縮率である800[μm]とし、コンクリート梁40Aのコンクリートの乾燥収縮率を800[μm]よりも小さい400[μm]とする。
【0051】
図4及び
図5には、一例として、コンクリート梁40Aの乾燥収縮量Da及び熱伸縮量(熱収縮量)Taの合計値Sa(=乾燥収縮量Da+熱伸縮量Ta)、及びコンクリート梁40Bの乾燥収縮量Db及び熱伸縮量Tbの合計値Sb(=乾燥収縮量Db+熱伸縮量Tb)が示されている。
【0052】
図4では、比較例として、コンクリート梁40A,40Bを形成するコンクリートの乾燥収縮率が同じに設定されている。この場合、コンクリート梁40Bの熱伸縮量Tbが、コンクリート梁40Aの熱伸縮量Taよりも大きいため、コンクリート梁40Bの乾燥収縮量Db及び熱伸縮量Tbの合計値Sbが、コンクリート梁40Aの乾燥収縮量Da及び熱伸縮量Taの合計値Saよりも大きくなる。そのため、
図3に示される比較例のように、コンクリート柱32に傾きが発生する。
【0053】
一方、
図5では、実施形態の一例として、コンクリート梁40Aの乾燥収縮量Da及び熱伸縮量Taの合計値Saと、コンクリート梁40Bの乾燥収縮量Db及び熱伸縮量Tbの合計値Sbとの差分がゼロになるように、コンクリート梁40Bを形成するコンクリートの乾燥収縮率(乾燥収縮量Db)が、コンクリート梁40Aを形成するコンクリートの乾燥収縮率(乾燥収縮量Da)よりも小さく設定されている。
【0054】
このようにコンクリート梁40A,40Bを形成するコンクリートの乾燥収縮率を調整することにより、コンクリート柱32の傾きを無くすことができる。
【0055】
なお、供用時におけるコンクリート梁40A,40Bの乾燥収縮量及び熱伸縮量は、供用時のコンクリート梁40A,40Bの想定温度に基づいてそれぞれ算出する。また、コンクリート梁40A,40Bを形成するコンクリートの乾燥収縮率は、例えば、水セメント比や、当該コンクリートに添加する混和材(膨張材や収縮低減材など)によって調整する。
【0056】
コンクリート梁40A,40Bを形成するコンクリートの水セメント比が大きくなると、コンクリート梁40A,40Bの乾燥収縮量が増加し、当該水セメント比が小さくなると、コンクリート梁40A,40Bの乾燥収縮量が減少する。
【0057】
また、供用時におけるコンクリート梁40Aの乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値と、供用時におけるコンクリート梁40Bの乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値との差分の閾値は、例えば、コンクリート柱32の曲げ剛性や曲げ耐力、許容傾斜角等に基づいて適宜設定する。
【0058】
(構造物の施工方法)
次に、本実施形態に係る構造物の施工方法の一例について説明する。
【0059】
先ず、前述したように、コンクリート梁40A,40Bの設計時に、供用時におけるコンクリート梁40Aの乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値と、供用時におけるコンクリート梁40Bの乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値との差分が、予め定められた閾値以内になるように、コンクリート梁40A,40Bを形成するコンクリートの乾燥収縮率を調整する。
【0060】
次に、
図6に示されるように、構造物10を順に施工する。この際、コンクリート梁40A,40Bとは、設計時に調整された乾燥収縮率が異なるコンクリートによって施工する。
【0061】
ここで、
図6には、上部構造体30の冷蔵倉庫の冷却前で、かつ、コンクリート梁40A,40Bが乾燥収縮した状態の構造物10が示されている。この状態では、コンクリート梁40Aの収縮量(乾燥収縮量)が、コンクリート梁40Bの収縮量(乾燥収縮量)よりも大きくなる。
【0062】
次に、
図1に示されるように、上部構造体30の冷蔵倉庫を冷却する。これにより、コンクリート梁40Bが熱収縮する。一方、コンクリート梁40Aは、常温であるため、基本的に熱伸縮しない。この結果、コンクリート梁40Aと、コンクリート梁40Bの伸縮量の差が予め設定した閾値以内になる。したがって、1階10F1のコンクリート柱32の傾きが低減される。
【0063】
(効果)
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0064】
図1に示されるように、本実施形態によれば、構造物10は、免震構造物とされている。この構造物10は、コンクリート梁40A,40Bを備えている。これらのコンクリート梁40A,40Bは、上部構造体30のコンクリート柱32に接合されている。
【0065】
ここで、コンクリート梁40Bは、コンクリート梁40Aの上方に配置され、コンクリート梁40Aとは異なる温度帯で供用される。具体的には、構造物10の上部構造体30は、冷蔵倉庫とされており、この冷蔵倉庫内にコンクリート梁40Bが配置されている。冷蔵倉庫内は、供用時に、冷蔵倉庫外よりも低温度帯(例えば-25℃)になる。そのため、冷蔵倉庫内に配置されたコンクリート梁40Bは、例えば-25℃で供用される。
【0066】
一方、コンクリート梁40Aは、冷蔵倉庫外の免震層10B1に配置されているため、常温(例えば、10℃)で供用される。そのため、供用時には、コンクリート梁40Bの熱伸縮量(熱収縮量)が、コンクリート梁40Aの熱伸縮量よりも大きくなる。この結果、
図3に示される比較例のように、コンクリート梁40A,40Bが接合されたコンクリート柱32が傾き、又はコンクリート柱32の傾きが大きくなる可能性がある。
【0067】
これに対して本実施形態では、
図1に示されるように、コンクリート梁40Aの乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値と、コンクリート梁40Bの乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値との差分が、閾値以内になるように、乾燥収縮率が異なるコンクリートによって、コンクリート梁40A,40Bを施工する。具体的には、本実施形態では、コンクリート梁40Bを、コンクリート梁40Aよりも乾燥収縮率が小さいコンクリートによって施工する。
【0068】
これと同様に、本実施形態では、スラブ50Aの乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値と、スラブ50Bの乾燥収縮量及び熱伸縮量の合計値との差分が、閾値以内になるように、乾燥収縮率が異なるコンクリートによって、スラブ50A,50Bを施工する。具体的には、本実施形態では、スラブ50Bを、スラブ50Aよりも乾燥収縮率が小さいコンクリートによって施工する。
【0069】
このように本実施形態では、コンクリート梁40A,40B、及びスラブ50A,50Bの乾燥収縮率を調整することにより、供用時にコンクリート梁40A,40B及びスラブ50A,50Bに生じる伸縮量の差を小さくする。したがって、コンクリート梁40A,40B及びスラブ50A,50Bが接合されたコンクリート柱32の傾きを低減することができる。
【0070】
また、本実施形態では、コンクリート梁40A及びスラブ50Aと、コンクリート梁40B及びスラブ50Bとは、上部構造体30の1階10F1のスラブ50A上に設けられた断熱層52によって隔てられている。そのため、供用時に、コンクリート梁40A,40B及びスラブ50A,50Bに生じる熱伸縮量の差が大きくなり易く、コンクリート柱32の傾きが大きくなる可能性がある。
【0071】
このような場合に本実施形態は特に有効であり、前述したように、乾燥収縮率が異なるコンクリートによって、コンクリート梁40A,40B及びスラブ50A,50Bを施工することにより、コンクリート柱32の傾きを低減することができる。
【0072】
また、本実施形態では、断熱層52によって免震層10B1と上部構造体30の冷蔵倉庫とが隔てられている。したがって、例えば、免震層10B1に設置された免震装置60の温度劣化を抑制することができる。
【0073】
(変形例)
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0074】
上記実施形態では、コンクリート梁40A,40B及びスラブ50A,50Bを形成するコンクリートの乾燥収縮率を調整した。しかし、コンクリート梁40A,40Bを形成するコンクリートの乾燥収縮率を調整しても良いし、スラブ50A,50Bを形成するコンクリートの乾燥収縮率を調整しても良い。
【0075】
つまり、上記実施形態は、コンクリート梁40A,40B及びスラブ50A,50Bの少なくとも一方を形成するコンクリートの乾燥収縮率を調整することができる。また、第一コンクリート水平部材は、コンクリート梁40A及びスラブ50Aの少なくとも一方を含む概念であり、第二コンクリート水平部材は、コンクリート梁40B及びスラブ50Bの少なくとも一方を含む概念である。
【0076】
また、上記実施形態では、構造物10の上部に、構造物10の下部の高温領域(常温領域)よりも低温度帯で供用される低温領域としての冷蔵倉庫が設けられている。しかし、構造物10の上部には、冷蔵倉庫に限らず、例えば、構造物10の下部の高温領域よりも低温度帯で供用される他の低温領域を設けることができる。
【0077】
また、上記実施形態とは逆に、構造物10の下部に、構造物10の上部の高温領域(常温領域)よりも低温度帯で供用される冷蔵倉庫等の低温領域が設けられても良い。
【0078】
さらに、構造物10の上部には、例えば、構造物10の下部の低温領域(常温領域)よりも高温度帯で供用される温室等の高温領域が設けられても良い。この場合、高温領域に設けられる第二コンクリート水平部材は、熱伸長するため、低温領域に設けられる第一コンクリート水平部材よりも熱伸長量が大きくなる。
【0079】
このような場合、第二コンクリート水平部材を形成するコンクリートの乾燥収縮率を、第一コンクリート水平部材を形成するコンクリートの乾燥収縮率よりも大きくする。これにより、第一コンクリート水平部材の乾燥収縮量及び熱伸長量(熱伸縮量)の合計値と、第二コンクリート水平部材の乾燥収縮量及び熱伸長量(熱伸縮量)の合計値との差分を、閾値以内にすることができる。
【0080】
このように上記実施形態は、上下方向に異なる温度帯で供用される複数の領域(低温領域及び高温領域)を有する構造物に適用することができる。換言すると、上記実施形態は、同じ柱に接合されるとともに、異なる温度帯で供用される第一コンクリート水平部材及び第二コンクリート水平部材に適用可能である。なお、熱伸縮量は、熱収縮量及び熱伸長量の両方を含む概念である。
【0081】
また、上記実施形態では、構造物10が基礎免震構造とされている。しかし、構造物10は、基礎免震構造に限らず、中間免震構造でも良い。
【0082】
また、上記実施形態では、構造物10が免震構造物とされている。しかし、構造物10は、免震構造物に限らず、非免震構造物でも良い。
【0083】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0084】
10 構造物
32 コンクリート柱(柱)
40A コンクリート梁(第一コンクリート水平部材)
40B コンクリート梁(第二コンクリート水平部材)
50A スラブ(第一コンクリート水平部材)
50B スラブ(第二コンクリート水平部材)
52 断熱層