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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101245
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】免震構造物の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240722BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240722BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
F16F15/02 E
F16F15/04 E
F16F15/04 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005123
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】山本 章起久
(72)【発明者】
【氏名】田井 暢
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB03
2E139AC10
2E139AC26
2E139AC33
2E139AC40
2E139AD03
2E139BA03
2E139BA12
2E139CA02
2E139CA03
2E139CA11
2E139CA24
2E139CB03
2E139CB19
2E139CC02
2E139CC07
3J048AA02
3J048AA03
3J048AC01
3J048AC06
3J048BA08
3J048BE12
3J048BG02
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】施工性の低下を抑制しつつ、積層ゴム支承の性能低下を抑制することを目的とする。
【解決手段】免震構造物の施工方法は、下部構造体20と、下部構造体20にすべり支承60を介して支持される第一上側支持体34と、下部構造体20に積層ゴム支承70を介して支持される第二上側支持体36と、を有する上部構造体30と、を備える免震構造物10の施工方法であって、下部構造体20にすべり支承60を介して第一上側支持体34を支持させた状態で、第一上側支持体34及び第二上側支持体36の支点間距離Lを変動させた後に、積層ゴム支承70を介して下部構造体20と第二上側支持体36とを連結する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体と、
前記下部構造体にすべり支承又は転がり支承を介して支持される第一支点部と、前記下部構造体に積層ゴム支承を介して支持される第二支点部と、を有する上部構造体と、
を備える免震構造物の施工方法であって、
前記下部構造体に前記すべり支承又は前記転がり支承を介して前記第一支点部を支持させた状態で、前記第一支点部及び前記第二支点部の支点間距離を変動させた後に、前記積層ゴム支承を介して前記下部構造体と前記第二支点部とを連結する、
免震構造物の施工方法。
【請求項2】
前記積層ゴム支承は、減衰力を発生する減衰機構を有する、
請求項1に記載の免震構造物の施工方法。
【請求項3】
前記第一支点部と前記第二支点部とを連結するコンクリート部材の乾燥収縮及び熱伸縮の少なくとも一方によって、前記第一支点部及び前記第二支点部の前記支点間距離を変動させた後に、前記積層ゴム支承を介して前記下部構造体と前記第二支点部とを連結する、
請求項1又は請求項2に記載の免震構造物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性すべり支承及び積層ゴム支承が併用された免震構造物が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、高減衰積層ゴム支承、弾性すべり支承、及び剛すべり支承が併用された免震構造物が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-035157号公報
【特許文献2】特開2007-107186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複数の積層ゴム支承で上部構造体の支点部をそれぞれ支持する場合、複数の積層ゴム支承の設置後に、上部構造体の乾燥収縮や熱伸縮、施工誤差等の種々の要因によって上部構造体の支点間距離が変動する可能性がある。そして、上部構造体の支点間距離が変動すると、積層ゴム支承が弾性変形(せん断変形)するため、積層ゴム支承の性能が低下する可能性がある。
【0005】
この対策として、例えば、上部構造体の支点間距離を変動させた後、複数の積層ゴム支承を設置することが考えられる。
【0006】
しかしながら、この場合、複数の積層ゴム支承を設置するまでの間に、複数の支点部を他の支持部材等で支持しなければならず、施工性に手間がかかる。
【0007】
本発明は、上記の事実を考慮し、施工性の低下を抑制しつつ、積層ゴム支承の性能低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の免震構造物の施工方法は、下部構造体と、前記下部構造体にすべり支承又は転がり支承を介して支持される第一支点部と、前記下部構造体に積層ゴム支承を介して支持される第二支点部と、を有する上部構造体と、を備える免震構造物の施工方法であって、前記下部構造体に前記すべり支承又は前記転がり支承を介して前記第一支点部を支持させた状態で、前記第一支点部及び前記第二支点部の支点間距離を変動させた後に、前記積層ゴム支承を介して前記下部構造体と前記第二支点部とを連結する。
【0009】
請求項1に係る免震構造物の施工方法によれば、免震構造物は、下部構造体と、上部構造体とを備える。上部構造体は、下部構造体にすべり支承又は転がり支承を介して支持される第一支点部と、下部構造体に積層ゴム支承を介して支持される第二支点部とを有する。
【0010】
ここで、免震構造物の施工時には、下部構造体にすべり支承又は転がり支承を介して第一支点部を支持させた状態で、第一支点部及び第二支点部の支点間距離を変動させた後に、積層ゴム支承を介して下部構造体と第二支点部とを連結する。
【0011】
これにより、第一支点部及び第二支点部の支点間距離が変動したときに、積層ゴム支承の弾性変形が抑制される。したがって、積層ゴム支承の性能低下が抑制される。
【0012】
また、積層ゴム支承を介して下部構造体と第二支点部とを連結する前に、すべり支承又は転がり支承によって上部構造体の第一支点部を支持するため、当該第一支点部を他の支持部材等で支持する必要がない。したがって、施工性の低下が抑制される。
【0013】
さらに、第一支点部及び第二支点部の支点間距離が変動したときに、すべり支承又は転がり支承が作動(スライド)しても、すべり支承又は転がり支承の性能に大きな影響はない。
【0014】
このように本発明では、施工性の低下を抑制しつつ、積層ゴム支承の性能低下を抑制することができる。
【0015】
請求項2に記載の免震構造物の施工方法は、請求項1に記載の免震構造物の施工方法において、前記積層ゴム支承は、減衰力を発生する減衰機構を有する。
【0016】
請求項2に係る免震構造物の施工方法によれば、積層ゴム支承は、減衰力を発生する減衰機構を有する。これにより、積層ゴム支承とは別に、ダンパー等の減衰機構を設置する必要がなく、又はその設置数を低減することができる。したがって、施工性が向上する。
【0017】
請求項3に記載の免震構造物の施工方法は、請求項1又は請求項2に記載の免震構造物の施工方法において、前記第一支点部と前記第二支点部とを連結するコンクリート部材の乾燥収縮及び熱伸縮の少なくとも一方によって、前記第一支点部及び前記第二支点部の前記支点間距離を変動させた後に、前記積層ゴム支承を介して前記下部構造体と前記第二支点部とを連結する。
【0018】
請求項3に係る免震構造物の施工方法によれば、第一支点部と第二支点部とを連結するコンクリート部材の乾燥収縮及び熱伸縮の少なくとも一方によって、第一支点部及び第二支点部の支点間距離を変動させた後に、積層ゴム支承を介して下部構造体と第二支点部とを連結する。
【0019】
これにより、コンクリート部材の乾燥収縮(乾燥ひずみ)や熱伸縮(熱ひずみ)に伴う積層ゴム支承の弾性変形を抑制することができる。したがって、積層ゴム支承の性能低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、施工性の低下を抑制しつつ、積層ゴム支承の性能低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一実施形態に係る免震構造物の施工方法によって施工された免震構造物を示す平面図である。
図2図1の2-2線断面図である。
図3図1に示される免震構造物の施工過程を示す図2に対応する断面図である。
図4図1に示される免震構造物の施工過程を示す図2に対応する断面図である。
図5】一実施形態に係る免震構造物の施工方法の変形例を示す図2に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係る免震構造物の施工方法について説明する。
【0023】
(免震構造物)
図1には、本実施形態に係る免震構造物の施工方法によって施工された免震構造物10が示されている。免震構造物10には、複数のすべり支承60及び複数の積層ゴム支承70が併用されている。
【0024】
複数のすべり支承60は、一例として、平面視にて千鳥状に配列されている。これと同様に、複数の積層ゴム支承70は、一例として、平面視にて千鳥状に配列されている。
【0025】
なお、すべり支承60及び積層ゴム支承70の配置や数は、適宜変更可能である。
【0026】
図2に示されるように、すべり支承60及び積層ゴム支承70は、免震構造物10の免震層10B1に設置されている。具体的には、免震構造物10は、下部構造体20及び上部構造体30を備え、下部構造体20と上部構造体30との間に免震層10B1が形成されている。
【0027】
下部構造体20は、基礎とされている。この下部構造体20は、鉄筋コンクリート造の基礎スラブ22を有している。基礎スラブ22は、地盤上に設けられている。この基礎スラブ22には、すべり支承60及び積層ゴム支承70を介して上部構造体30が支持されている。
【0028】
上部構造体30は、鉄筋コンクリート造とされている。この上部構造体30は、複数のコンクリート柱32と、隣り合うコンクリート柱32に架設された複数のコンクリート梁(基礎梁)40と、コンクリート梁40に支持された床スラブ50とを有している。
【0029】
コンクリート柱32及びコンクリート梁40は、例えば、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造とされている。また、床スラブ50は、鉄筋コンクリート造とされている。この床スラブ50は、免震層10B1の直上階(1階)10F1の床を構成している。
【0030】
なお、上部構造体30の柱は、鉄筋コンクリート造等に限らず、例えば、鉄骨造(鉄骨柱)でも良い。
【0031】
前述したように、下部構造体20と上部構造体30との間には、免震層10B1が形成されている。免震層10B1には、複数のすべり支承60及び積層ゴム支承70が設置されている。これらのすべり支承60及び積層ゴム支承70は、下部構造体20に対して上部構造体30を水平方向に移動可能に支持している。
【0032】
すべり支承60は、一例として、剛すべり支承とされている。このすべり支承60は、ベース体62と、スライダ64と、すべり板66とを有している。ベース体62は、金属やコンクリートによって形成されている。
【0033】
ベース体62は、コンクリート柱32の柱脚部に設けられた第一上側支持体(第一免震上部基礎)34の下面に、図示しないボルト等によって固定(連結)されている。このベース体62の下面には、スライダ64が取り付けられている。
【0034】
スライダ64は、低摩擦材によって形成されている。このスライダ64は、すべり板66にスライド可能に支持されている。すべり板66は、例えば、上面が低摩擦材によってコーティングされた金属板等によって形成されている。このすべり板66は、基礎スラブ22の上面から突出する第一下側支持体(第一免震下部基礎)24の上面に、図示しないボルト等によって固定されている。
【0035】
なお、すべり支承60は、剛すべり支承に限らず、例えば、弾性すべり支承でも良い。なお、弾性すべり支承としては、例えば、低摩擦すべり支承が好ましい。低摩擦すべり支承とは、例えば、摩擦係数が0.01~0.014の弾性すべり支承である。
【0036】
積層ゴム支承70は、一例として、鉛プラグ入り積層ゴム支承(LRB)とされている。この積層ゴム支承70は、積層ゴム本体72と、図示しない鉛プラグと、下側フランジ74と、上側フランジ76とを有している。
【0037】
鉛プラグは、積層ゴム本体72の内部に設けられている。この鉛プラグは、積層ゴム本体72のせん断変形に伴って塑性変形し、振動エネルギーを吸収する。なお、鉛プラグは、減衰機構の一例である。
【0038】
下側フランジ74は、積層ゴム本体72の下端部に設けられている。この下側フランジ74は、基礎スラブ22の上面から突出する第二下側支持体(第二免震下部基礎)26の上面に、図示しないボルト等によって固定(連結)されている。
【0039】
一方、上側フランジ76は、積層ゴム本体72の上端部に設けられている。この上側フランジ76の上面には、複数のスタッド78が設けられている。これらのスタッド78を、コンクリート柱32の柱脚部に設けられた第二上側支持体(第二免震上部基礎)36の後施工部(後打ち部)36Aに埋設することにより、上側フランジ76が第二上側支持体36に固定(連結)されている。
【0040】
なお、積層ゴム支承70は、鉛プラグ入り積層ゴム支承(LRB)に限らず、例えば、減衰機構を有する高減衰積層ゴム支承でも良い。また、積層ゴム支承70は、鉛プラグ等の減衰機構を有しない積層ゴム支承でも良い。また、免震層10B1には、必要に応じて、オイルダンパー等の減衰機構を設けても良い。
【0041】
隣り合う第一上側支持体34及び第二上側支持体36には、コンクリート梁40が架設されている。つまり、隣り合う第一上側支持体34及び第二上側支持体36は、コンクリート梁40を介して連結されている。
【0042】
なお、第一上側支持体34は、第一支点部の一例であり、第二上側支持体36は、第二支点部の一例である。また、コンクリート梁40及び床スラブ50は、コンクリート部材の一例である。
【0043】
ここで、上部構造体30は、一例として、冷蔵倉庫とされている。そのため、上部構造体30の供用時には、上部構造体30の内部温度が、例えば-25℃に冷却される。この上部構造体30は、免震層10B1の直上階10F1で、床下断熱(床下防熱)とされている。なお、冷蔵倉庫には、冷凍倉庫も含まれる。
【0044】
具体的には、免震層10B1の直上階10F1の床を構成する床スラブ50の下面、及び床スラブ50を支持するコンクリート梁40の両側の側面、及び下面には、断熱層52が設けられている。断熱層52は、例えば、スチレン成型板等の断熱材によって形成されている。
【0045】
これにより、上部構造体30の供用時には、断熱層52よりも上側に配置されたコンクリート梁40及び床スラブ50が、例えば-25℃に冷却される。なお、コンクリート柱32は、床スラブ50の上面よりも上側で、断熱パネル等の断熱層38によって被覆されている。
【0046】
一方、断熱層52よりも下側の免震層10B1、及び下部構造体20は、供用時に冷却されないため、常温(例えば、10℃)となる。より具体的には、断熱層52よりも下側に位置するすべり支承60、積層ゴム支承70、及び基礎スラブ22は、供用時に常温となる。
【0047】
このように免震構造物10は、常温度帯(高温度帯)で供用される免震層10B1と、免震層10B1よりも低温度帯で供用される冷蔵倉庫とを有するため、供用時に、断熱層52を境に階高方向(上下方向)に大きな温度差が生じる。
【0048】
そのため、例えば、断熱層52よりも上側に配置されるコンクリート梁40及び床スラブ50の熱収縮量(熱伸縮量)は、断熱層52よりも下側に配置される基礎スラブ22の熱収縮量(熱伸縮量)よりも大きくなる。特に、免震構造物10の外周部では、コンクリート梁40及び床スラブ50の熱収縮量と、基礎スラブ22との熱収縮量との差が大きくなる。
【0049】
そして、図3及び図4に示されるように、コンクリート梁40及び床スラブ50が熱収縮すると、基礎スラブ22に対してコンクリート梁40及び床スラブ50が水平方向に相対変位する。
【0050】
なお、図3には、コンクリート梁40及び床スラブ50の熱収縮前の状態が示されており、図4には、コンクリート梁40及び床スラブ50の熱収縮後の状態が示されている。
【0051】
また、コンクリート梁40及び床スラブ50が熱収縮すると、図4に示されるように、隣り合う第一上側支持体34及び第二上側支持体36の支点間距離L1(L1<L0)が短くなる。そして、隣り合う第一上側支持体34及び第二上側支持体36間の支点間距離L1が短くなると、図2に二点鎖線で示されるように、積層ゴム支承70が弾性変形(せん断変形)するため、積層ゴム支承70の性能が低下する可能性がある。
【0052】
この対策として本実施形態では、後述するように、複数のすべり支承60によって上部構造体30を支持した状態で、隣り合う第一上側支持体34及び第二上側支持体36間の支点間距離L(L0→L1)を変動させた後に、積層ゴム支承70を介して第二上側支持体36と第二下側支持体26とを連結する。これにより、積層ゴム支承70の弾性変形が抑制される。
【0053】
(免震構造物の施工方法)
次に、本実施形態に係る免震構造物の施工方法の一例について説明する。
【0054】
(仮支持工程)
先ず、仮支持工程について説明する。図3に示されるように、仮支持工程では、下部構造体20、複数のすべり支承60、及び上部構造体30を施工し、千鳥状に配列された複数のすべり支承60によって、上部構造体30の複数の第一上側支持体34をそれぞれスライド可能に支持する。
【0055】
この際、積層ゴム支承70を介して、第二下側支持体26と第二上側支持体36とを連結しない。具体的には、図3では、一例として、積層ゴム支承70が第二下側支持体26と連結されている。しかし、第二上側支持体36には、後施工部36Aが設けられており、積層ゴム支承70が第二上側支持体36とは連結されていない。これにより、積層ゴム支承70が、床スラブ50及びコンクリート梁40の熱収縮に追従することが抑制される。
【0056】
(変動工程)
次に、変動工程について説明する。変動工程では、前述したように、下部構造体20に複数のすべり支承60を介して上部構造体30の第一上側支持体34を支持させた状態で、上部構造体30の冷蔵倉庫を冷却し、免震層10B1の直上階10F1の床スラブ50、当該床スラブ50を支持するコンクリート梁40を熱収縮させる。これにより、図4に示されるように、隣り合う第一上側支持体34及び第二上側支持体36の支点間距離Lが短くなる(L0→L1)。
【0057】
(積層ゴム支承連結工程)
次に、積層ゴム支承連結工程について説明する。積層ゴム支承連結工程では、免震層10B1の直上階10F1の床スラブ50及びコンクリート梁40の熱収縮が収束した後、すなわち隣り合う第一上側支持体34及び第二上側支持体36の支点間距離Lの変動(L0→L1)が収束した後、積層ゴム支承70を介して第二下側支持体26と第二上側支持体36とを連結する。
【0058】
具体的には、図2に示されるように、第二上側支持体36の後施工部36Aに後打ちコンクリートを打設し、当該後施工部36Aに、積層ゴム支承70の上側フランジ76から突出するスタッド78を埋設する。これにより、積層ゴム支承70を介して第二下側支持体26と第二上側支持体36とが連結される。その後、免震構造物10が供用される。
【0059】
なお、床スラブ50及びコンクリート梁40の熱収縮の収束は、例えば、床スラブ50及びコンクリート梁40の冷却温度及び冷却時間に基づいて判断しても良いし、予め算出された床スラブ50及びコンクリート梁40の推定熱収縮量に基づいて判断しても良い。推定熱収縮量は、冷却温度、及びコンクリート梁40の材軸長さ等に基づいて適宜算出される。
【0060】
(効果)
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0061】
図2に示されるように、本実施形態によれば、免震構造物10は、下部構造体20と、上部構造体30とを備えている。上部構造体30は、下部構造体20にすべり支承60を介して支持される第一上側支持体34と、下部構造体20に積層ゴム支承70を介して支持される第二上側支持体36とを有している。
【0062】
ここで、前述したように、変動工程では、下部構造体20にすべり支承60を介して第一上側支持体34をスライド可能に支持させた状態で、上部構造体30の冷蔵倉庫を冷却し、免震層10B1の直上階10F1の床スラブ50及びコンクリート梁40を熱収縮させる。この結果、図4に示されるように、隣り合う第一上側支持体34及び第二上側支持体36の支点間距離Lが変動(L0→L1)する。
【0063】
これにより、隣り合う第一上側支持体34及び第二上側支持体36の支点間距離Lが変動(L0→L1)したときに、積層ゴム支承70が弾性変形することが抑制される。したがって、積層ゴム支承70の性能低下が抑制される。
【0064】
また、積層ゴム支承70を介して下部構造体20と第二上側支持体36とを連結する前に、すべり支承60によって上部構造体30の第一上側支持体34を支持するため、当該第一上側支持体34を他の支持部材等で支持する必要がない。したがって、施工性の低下が抑制される。
【0065】
さらに、隣り合う第一上側支持体34及び第二上側支持体36の支点間距離Lが変動(L0→L1)したときに、すべり支承60が作動(スライド)しても、すべり支承60の性能に大きな影響はない。
【0066】
このように本実施形態では、施工性の低下を抑制しつつ、積層ゴム支承70の性能低下を抑制することができる。
【0067】
また、積層ゴム支承70は、減衰機構としての図示しない鉛プラグを有している。これにより、本実施形態では、積層ゴム支承70とは別に、ダンパー等の減衰機構を設置する必要がなく、又はその設置数を低減することができる。したがって、施工性がさらに向上する。
【0068】
さらに、本実施形態では、断熱層52によって免震層10B1と上部構造体30の冷蔵倉庫とが隔てられている。したがって、例えば、免震層10B1に設置された積層ゴム支承70等の温度劣化を抑制することができる。
【0069】
また、本実施形態では、複数のすべり支承60及び複数の積層ゴム支承70が平面視にて千鳥状に配列されている。これにより、仮支持工程において、複数のすべり支承60によって上部構造体30の複数の第一上側支持体34をそれぞれ支持した場合に、隣り合うすべり支承60の支持スパンが短くなる。したがって、コンクリート梁40及び床スラブ50のたわみ等が低減される。
【0070】
(変形例)
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0071】
上記実施形態では、仮支持工程において、複数のすべり支承60によって上部構造体30の複数の第一上側支持体34をそれぞれ支持した。しかし、例えば、図5に示される変形例のように、仮支持工程において、複数のすべり支承60によって上部構造体30の複数の第一上側支持体34をそれぞれスライド可能に支持するとともに、複数の積層ゴム支承70によって上部構造体30の複数の第二上側支持体36をそれぞれスライド可能に支持しても良い。
【0072】
具体的には、図5に示される変形例では、第二上側支持体36に後施工部36Aが設けられておらず、積層ゴム支承70の上側フランジ76が第二上側支持体36の下面をスライド可能に支持している。なお、積層ゴム支承70の上側フランジ76の上面には、すべり材等を設けても良い。
【0073】
これにより、変動工程において、免震層10B1の直上階10F1における床スラブ50及びコンクリート梁40の熱収縮に、積層ゴム支承70が追従することが抑制される。したがって、上記実施形態と同様に、積層ゴム支承70の弾性変形を抑制することができる。
【0074】
その後、例えば、第二上側支持体36の下面に埋設された図示しない埋め込みナットに、積層ゴム支承70の上側フランジ76を貫通するボルトを締め込むことにより、積層ゴム支承70を第二上側支持体36に固定(連結)する。これにより、積層ゴム支承70を介して、第二下側支持体26と第二上側支持体36とが連結される。
【0075】
なお、第二上側支持体36の下面に埋設する埋め込みナットの位置は、例えば、予め算出された第一上側支持体34及び第二上側支持体36間の支点間距離Lの変動量に基づいて適宜調整される。
【0076】
また、上記実施形態では、仮支持工程において、第二下側支持体26上に積層ゴム支承70を設置した。しかし、積層ゴム支承70は、積層ゴム支承連結工程において、第二下側支持体26上に設置しても良い。
【0077】
この場合、例えば、第二上側支持体36をジャッキ等によってジャッキアップし、第二下側支持体26と第二上側支持体36との間に、積層ゴム支承70を挿入する。その後、図示しないボルト等によって積層ゴム支承70を第二下側支持体26及び第二上側支持体36にそれぞれ連結する。これにより、積層ゴム支承70を介して第二下側支持体26(下部構造体20)と第二上側支持体36とが連結される。
【0078】
また、上記実施形態では、上部構造体30の第一上側支持体34をすべり支承60によって支持した。しかし、上部構造体30の第一上側支持体34は、すべり支承60に限らず、例えば、転がり支承によって支持しても良い。
【0079】
また、複数の第一上側支持体34のうち、一部の第一上側支持体34をすべり支承60によって支持し、残りの第一上側支持体34を転がり支承によって支持しても良い。つまり、上記実施形態において、すべり支承、転がり支承、及び積層ゴム支承70を併用することも可能である。
【0080】
また、上記実施形態では、免震構造物10が基礎免震構造とされている。しかし、免震構造物10は、基礎免震構造に限らず、中間免震構造でも良い。
【0081】
また、上記実施形態では、下部構造体20が基礎とされている。しかし、下部構造体20は、基礎に限らず、例えば、地下階や地上階等でも良い。
【0082】
また、上記実施形態では、上部構造体30に、下部構造体20よりも低温度帯で供用される低温領域としての冷蔵倉庫が設けられている。しかし、これとは逆に、下部構造体20に、上部構造体30よりも低温度帯で供用される冷蔵倉庫等の低温領域が設けられても良い。
【0083】
また、上記実施形態では、上部構造体30に、下部構造体20よりも低温度帯で供用される低温領域としての冷蔵倉庫が設けられている。しかし、上部構造体30には、例えば、下部構造体20よりも高温度帯で供用される温室等の高温領域が設けられても良い。
【0084】
この場合、変動工程では、下部構造体20にすべり支承60を介して上部構造体30の第一上側支持体34を支持させた状態で、上部構造体30の温室を加温し、免震層10B1の直上階10F1の床スラブ50及びコンクリート梁40を熱伸長させる。これにより、床スラブ50及びコンクリート梁40の熱伸長に、積層ゴム支承70が追従することが抑制される。
【0085】
このように上記実施形態は、上下方向に異なる温度帯で供用される複数の領域(低温領域及び高温領域)を有する免震構造物10に適用することができる。なお、熱伸縮量は、熱収縮量及び熱伸長量の両方を含む概念である。
【0086】
また、隣り合う第一上側支持体34及び第二上側支持体36間の支点間距離Lは、床スラブ50及びコンクリート梁40の熱伸縮(熱収縮又は熱伸長)に限らず、床スラブ50及びコンクリート梁40の乾燥収縮や、施工誤差、その他の種々の要因によって変動させても良い。
【0087】
また、上記実施形態では、隣り合う第一上側支持体34及び第二上側支持体36がコンクリート部材としてのコンクリート梁40及び床スラブ50によって連結されている。しかし、隣り合う第一上側支持体34及び第二上側支持体36は、コンクリート梁40及び床スラブ50の少なくとも一方によって連結することができる。
【0088】
また、隣り合う第一上側支持体34及び第二上側支持体36は、鉄骨梁等の鉄骨部材によって連結されても良い。この場合、変動工程において、鉄骨梁等の鉄骨部材が熱伸縮することにより、隣り合う第一上側支持体34及び第二上側支持体36の支点間距離が変動する。
【0089】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0090】
10 免震構造物
20 下部構造体
30 上部構造体
34 第一上側支持体(第一支点部)
36 第二上側支持体(第二支点部)
40 コンクリート梁(コンクリート部材)
50 床スラブ(コンクリート部材)
60 すべり支承
70 積層ゴム支承
L 支点間距離
図1
図2
図3
図4
図5