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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101246
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】免震構造物の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240722BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
E04H9/02 331A
F16F15/04 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005124
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】山本 章起久
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB03
2E139AC10
2E139AD03
2E139CA02
2E139CB03
2E139CC02
2E139CC07
3J048AA01
3J048BA08
3J048CB30
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】施工性の低下を抑制しつつ、積層ゴム支承の性能低下を抑制することを目的とする。
【解決手段】下部構造体20と、下部構造体20に積層ゴム支承60を介して支持される上部構造30と、を備える免震構造物10の施工方法において、供用時の熱伸縮に伴う下部構造体20及び上部構造30の水平方向の相対変位量を算出し、算出された相対変位量を吸収するように、積層ゴム支承60に予備せん断変形を予め付与した状態で、積層ゴム支承60を下部構造体20と上部構造30とに連結する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体と、前記下部構造体に積層ゴム支承を介して支持される上部構造体と、を備える免震構造物の施工方法において、
供用時の熱伸縮及び乾燥収縮の少なくとも一方に伴う前記下部構造体及び前記上部構造体の水平方向の相対変位量を算出し、算出された相対変位量を吸収するように、前記積層ゴム支承に予備せん断変形を予め付与した状態で、該積層ゴム支承を前記下部構造体と前記上部構造体とに連結する、
免震構造物の施工方法。
【請求項2】
前記上部構造体は、前記下部構造体と異なる温度帯で供用され、
前記積層ゴム支承には、少なくとも供用時の熱伸縮に伴う前記下部構造体及び前記上部構造体の前記相対変位量を吸収するように、前記予備せん断変形を付与する、
請求項1に記載の免震構造物の施工方法。
【請求項3】
前記積層ゴム支承に前記予備せん断変形を付与した状態で保持する保持具を取り付け、該積層ゴム支承を前記下部構造体と前記上部構造体とに連結した後に、該積層ゴム支承から前記保持具を取り外す、
請求項1又は請求項2に記載の免震構造物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層ゴム支承をせん断変形させた状態で保持する保持装置が知られている(例えば、特許文献1,2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3-002407号公報
【特許文献2】特開平5-171622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、下部構造体に積層ゴム支承を介して上部構造体が支持される免震構造物において、積層ゴム支承の設置後に、下部構造体及び上部構造体の乾燥収縮や温度変形、施工誤差等の種々の要因によって下部構造体及び上部構造体が水平方向に相対変位する可能性がある。そして、下部構造体及び上部構造体が水平方向に相対変位すると、積層ゴム支承が弾性変形(せん断変形)するため、積層ゴム支承の性能が低下する可能性がある。
【0005】
この対策として、例えば、下部構造体及び上部構造体を水平方向に相対変位させた後に、積層ゴム支承を設置することが考えられる。
【0006】
しかしながら、この場合、例えば、積層ゴム支承を設置するまでの間に、上部構造体を他の支持部材で支持しなければならず、施工に手間がかかる。
【0007】
本発明は、上記の事実を考慮し、施工性の低下を抑制しつつ、積層ゴム支承の性能低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の免震構造物の施工方法は、下部構造体と、前記下部構造体に積層ゴム支承を介して支持される上部構造体と、を備える免震構造物の施工方法において、供用時の熱伸縮及び乾燥収縮の少なくとも一方に伴う前記下部構造体及び前記上部構造体の水平方向の相対変位量を算出し、算出された相対変位量を吸収するように、前記積層ゴム支承に予備せん断変形を予め付与した状態で、該積層ゴム支承を前記下部構造体と前記上部構造体とに連結する。
【0009】
請求項1に係る免震構造物の施工方法によれば、供用時の熱伸縮(熱ひずみ)及び乾燥収縮(乾燥ひずみ)の少なくとも一方に伴う下部構造体及び上部構造体の水平方向の相対変位量を算出する。そして、算出された相対変位量を吸収するように、積層ゴム支承に予備せん断変形を予め付与した状態で、当該積層ゴム支承を下部構造体と上部構造体とに連結する。
【0010】
これにより、供用時に、熱伸縮及び乾燥収縮の少なくとも一方によって下部構造体及び上部構造体が水平方向に相対変位したときに、積層ゴム支承の予備せん断変形量が小さくなる。この結果、積層ゴム支承のせん断変形量が低減される。したがって、積層ゴム支承の性能低下を抑制することができる。
【0011】
請求項2に記載の免震構造物の施工方法は、請求項1に記載の免震構造物の施工方法において、前記上部構造体は、前記下部構造体と異なる温度帯で供用され、前記積層ゴム支承には、少なくとも供用時の熱伸縮に伴う前記下部構造体及び前記上部構造体の前記相対変位量を吸収するように、前記予備せん断変形を付与する。
【0012】
請求項2に係る免震構造物の施工方法によれば、上部構造体は、下部構造体と異なる温度帯で供用される。そのため、熱伸縮に伴う下部構造体及び上部構造体の水平方向の相対変位量が大きくなり易い。
【0013】
このような免震構造物に対して本発明は特に有効であり、少なくとも供用時の熱伸縮に伴う下部構造体及び上部構造体の水平方向の相対変位量を吸収するように、積層ゴム支承に予備せん断変形を付与することにより、供用時の積層ゴム支承のせん断変形量を低減することができる。
【0014】
請求項3に記載の免震構造物の施工方法は、請求項1又は請求項2に記載の免震構造物の施工方法において、前記積層ゴム支承に前記予備せん断変形を付与した状態で保持する保持具を取り付け、該積層ゴム支承を前記下部構造体と前記上部構造体とに連結した後に、該積層ゴム支承から前記保持具を取り外す。
【0015】
請求項3に係る免震構造物の施工方法によれば、例えば、工場等において、積層ゴム支承に保持具を取り付けることにより、積層ゴム支承に予備せん断変形を容易に付与することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、施工性の低下を抑制しつつ、積層ゴム支承の性能低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態に係る免震構造物の施工方法によって施工された構造物を示す立面図である。
図2】免震層を示す図1の一部拡大立面図である。
図3】比較例に係る免震構造物の施工方法によって施工された構造物を示す立面図である。
図4】免震層を示す図3の一部拡大立面図である。
図5】一実施形態に係る免震構造物の施工方法の施工過程を示す図2に対応する立面図である。
図6】一実施形態に係る免震構造物の施工方法の施工過程を示す図2に対応する立面図である。
図7】一実施形態の変形例に係る免震構造物の施工方法の施工過程を示す図2に対応する立面図である。
図8】一実施形態の変形例に係る免震構造物の施工方法の施工過程を示す図2に対応する立面図である。
図9図8の9-9線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、一実施形態について説明する。
【0019】
(構造物)
図1には、本実施形態に係る構造物の施工方法によって施工された免震構造物10が示されている。免震構造物10は、一例として、基礎免震構造とされている。この免震構造物10は、下部構造体20と、上部構造体30と、複数の積層ゴム支承60とを備えている。
【0020】
下部構造体20は、基礎とされている。この下部構造体20は、鉄筋コンクリート造の基礎スラブ22を有している。基礎スラブ22は、地盤上に設けられている。この基礎スラブ22には、複数の積層ゴム支承60を介して上部構造体30が支持されている。
【0021】
上部構造体30は、複数階(本実施形態では、3階)で構成されている。また、上部構造体30は、鉄筋コンクリート造とされている。この上部構造体30は、複数のコンクリート柱32と、隣り合うコンクリート柱32に架設された複数のコンクリート梁40と、コンクリート梁40に支持された床スラブ50とを有している。
【0022】
コンクリート柱32及びコンクリート梁40は、例えば、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造とされている。また、床スラブ50は、鉄筋コンクリート造とされている。この床スラブ50は、上部構造体30の各階の床を構成している。また、上部構造体30の最上階における上側の床スラブ50は、上部構造体30の屋根を構成している。
【0023】
なお、上部構造体30は、複数階に限らず、1階10Fのみで構成されても良い。また、上部構造体30の柱及び梁は、鉄筋コンクリート造及び鉄骨鉄筋コンクリート造に限らず、鉄骨造(鉄骨柱、鉄骨梁)でも良い。
【0024】
下部構造体20と上部構造体30との間には、免震層10B1が形成されている。免震層10B1には、複数の積層ゴム支承60が設置されている。複数の積層ゴム支承60は、水平二方向に配列されている。これらの積層ゴム支承60は、下部構造体20に対して上部構造体30を水平方向に移動可能に支持している。
【0025】
図2に示されるように、積層ゴム支承60は、積層ゴム本体62、下側フランジ64、及び上側フランジ66を有している。下側フランジ64は、積層ゴム本体62の下端部に設けられている。この下側フランジ64は、基礎スラブ22の上面から突出する下側支持体(免震下部基礎)24の上面に、ボルト68によって固定されている。
【0026】
一方、上側フランジ66は、積層ゴム本体62の上端部に設けられている。上側フランジ66は、コンクリート柱32の柱脚部に設けられた上側支持体(免震上部基礎)34の下面に、ボルト68によって固定されている。なお、上側支持体34には、コンクリート梁40が接合されている。
【0027】
ここで、上部構造体30は、一例として、冷蔵倉庫とされている。そのため、上部構造体30の供用時には、上部構造体30の内部温度が、例えば-25℃に冷却される。この上部構造体30は、免震層10B1の直上階(1階)10F1で、床下断熱(床下防熱)とされている。なお、冷蔵倉庫には、冷凍倉庫も含まれる。
【0028】
具体的には、免震層10B1の直上階10F1の床を構成する床スラブ50の下面、及び床スラブ50を支持するコンクリート梁40の両側の側面、及び下面には、断熱層52が設けられている。断熱層52は、例えば、スチレン成型板等の断熱材によって形成されている。
【0029】
これにより、上部構造体30の供用時には、断熱層52よりも上側に配置されたコンクリート梁40及び床スラブ50が、例えば-25℃に冷却される。なお、コンクリート柱32は、床スラブ50の上面よりも上側で、断熱パネル等の断熱層36によって被覆されている。
【0030】
一方、断熱層52よりも下側の免震層10B1、及び下部構造体20は、供用時に冷却されないため、常温(例えば、10℃)となる。より具体的には、断熱層52よりも下側に位置する積層ゴム支承60、及び基礎スラブ22は、供用時に常温となる。
【0031】
このように免震構造物10は、常温度帯(高温度帯)で供用される免震層10B1と、免震層10B1よりも低温度帯で供用される冷蔵倉庫とを有するため、供用時に、断熱層52を境に階高方向(上下方向)に大きな温度差が生じる。
【0032】
そのため、例えば、断熱層52よりも上側に配置されるコンクリート梁40及び床スラブ50の熱収縮量(熱伸縮量)は、断熱層52よりも下側に配置される基礎スラブ22の熱収縮量(熱伸縮量)よりも大きくなる。特に、免震構造物10の外周部では、コンクリート梁40及び床スラブ50の熱収縮量と、基礎スラブ22の熱収縮量との差が大きくなる。
【0033】
そして、図3及び図4に矢印Sで示されるように、コンクリート梁40及び床スラブ50が熱収縮すると、基礎スラブ22に対してコンクリート梁40及び床スラブ50が水平方向に相対変位する。なお、図3及び図4には、比較例に係る免震構造物110が示されている。
【0034】
ここで、積層ゴム支承60を介して下側支持体24と上側支持体34とを連結した状態で、前述したように、基礎スラブ22に対してコンクリート梁40及び床スラブ50が水平方向に相対変位すると、積層ゴム支承60がせん断変形(弾性変形)するため、積層ゴム支承60の性能が低下する可能性がある。
【0035】
この対策として本実施形態では、後述するように、供用時の熱伸縮に伴う基礎スラブ22とコンクリート梁40及び床スラブ50との水平方向の相対変位量を算出し、算出された相対変位量を吸収するように、積層ゴム支承60に予備せん断変形を予め付与した状態で、当該積層ゴム支承60を下部構造体20と上部構造体30とに連結する。これにより、積層ゴム支承60のせん断変形が抑制される。
【0036】
(免震構造物の施工方法)
次に、本実施形態に係る免震構造物の施工方法の一例について説明する。
【0037】
(予備せん断変形付与工程)
先ず、予備せん断変形付与工程について説明する。図5には、上部構造体30の冷蔵倉庫を冷却する前の免震構造物10の免震層10B1が示されている。また、図5では、積層ゴム支承60の上側フランジ66は、ボルト68によって上側支持体34に固定されているが、積層ゴム支承60の下側フランジ64は、下側支持体24に固定されておらず、下側支持体24に対して水平方向に移動(スライド)可能とされている。
【0038】
この状態で、予備せん断変形付与工程では、予め算出された供用時の熱伸縮に伴う基礎スラブ22とコンクリート梁40及び床スラブ50との水平方向の相対変位量に基づいて、積層ゴム支承60に予めせん断変形(予備せん断変形)を付与する。
【0039】
ここで、供用時の熱伸縮に伴う基礎スラブ22とコンクリート梁40及び床スラブ50との水平方向の相対変位量は、次のように算出する。すなわち、供用時の基礎スラブ22の想定温度(例えば10℃)に基づいて、供用時の基礎スラブ22の熱伸縮量を算出する。
【0040】
これと同様に、供用時のコンクリート梁40、及び床スラブ50の想定温度(例えば-25℃)に基づいて、供用時のコンクリート梁40及び床スラブ50の熱伸縮量(熱収縮量)を算出する。
【0041】
次に、算出された基礎スラブ22の熱伸縮量と、コンクリート梁40及び床スラブ50の熱伸縮量との差分から、下側支持体24及び上側支持体34の水平方向の相対変位量を算出する。そして、算出された下側支持体24及び上側支持体34の水平方向の相対変位量、及び供用時の積層ゴム支承60の許容初期せん断変形量に基づいて、積層ゴム支承60の予備せん断変形量を決定する。
【0042】
なお、図3に示される比較例のように、積層ゴム支承60のせん断変形の方向、及びせん断変形量は、積層ゴム支承60の設置位置によって異なる。そのため、積層ゴム支承60の設置位置に応じて、各積層ゴム支承60の予備せん断変形の方向、及び予備せん断変形量を算出する。
【0043】
次に、算出された下側支持体24及び上側支持体34の水平方向の相対変位量を吸収するように、すなわち当該相対変位に伴う積層ゴム支承60のせん断変形の方向とは逆方向に、積層ゴム支承60に予備せん断変形を付与する。
【0044】
具体的には、図5に示されるように、積層ゴム支承60の周囲の反力体70と、積層ゴム支承60の下側フランジ64との間にジャッキ72を設置する。次に、図6に示されるように、反力体70に反力を取りながら、ジャッキ72によって積層ゴム支承60の下側フランジ64の外周部を水平方向(矢印方向)に押す。
【0045】
そして、積層ゴム支承60のせん断変形量が予備せん断変形量に達したら、ボルト68によって、積層ゴム支承60の下側フランジ64を下側支持体24に連結(固定)する。これにより、積層ゴム支承60に予備せん断変形を付与する。
【0046】
なお、反力体70は、仮設でも良いし、本設でも良い。
【0047】
(変動工程)
次に、変動工程について説明する。変動工程では、積層ゴム支承60に予備せん断変形を付与した状態で、上部構造体30の冷蔵倉庫を冷却し、免震層10B1の直上階10F1の床スラブ50、当該床スラブ50を支持するコンクリート梁40を熱収縮(熱伸縮)させる。
【0048】
これにより、図2に示されるように、下側支持体24に対して上側支持体34が、積層ゴム支承60の予備せん断変形とは逆方向(矢印S方向)に相対変位する。この結果、積層ゴム支承60が復元し、積層ゴム支承60のせん断変形量が、許容初期せん断変形量の範囲内に収束する。
【0049】
(効果)
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0050】
図2に示されるように、免震構造物10は、常温度帯(高温度帯)で供用される免震層10B1、及び免震層10B1よりも低温度帯で供用される冷蔵倉庫を有するため、供用時に、断熱層52を境に階高方向(上下方向)に大きな温度差が生じる。そのため、供用時には、前述したように、基礎スラブ22に対してコンクリート梁40及び床スラブ50が水平方向に相対変位する。
【0051】
ここで、積層ゴム支承60を介して下側支持体24と上側支持体34とを連結した状態で、前述したように、基礎スラブ22に対してコンクリート梁40及び床スラブ50が水平方向に相対変位すると、積層ゴム支承60がせん断変形するため、積層ゴム支承60の性能が低下する可能性がある。
【0052】
この対策として本実施形態では、供用時の熱伸縮に伴う基礎スラブ22とコンクリート梁40及び床スラブ50との水平方向の相対変位量を算出する。そして、算出された相対変位量を吸収するように、積層ゴム支承60に予備せん断変形を予め付与した状態で、当該積層ゴム支承60を下側支持体24と上側支持体34とに連結する。
【0053】
これにより、供用時の熱伸縮に伴って、基礎スラブ22に対してコンクリート梁40及び床スラブ50が水平方向に相対変位したときに、積層ゴム支承60の予備せん断変形量が小さくなる。この結果、積層ゴム支承60のせん断変形量が低減される。したがって、積層ゴム支承60の性能低下を抑制することができる。
【0054】
このように本実施形態では、下部構造体20と異なる温度帯で供用される上部構造体30を備える免震構造物10に対して特に有効であり、供用時の熱伸縮に伴う下部構造体20及び上部構造体30の水平方向の相対変位量を吸収するように、積層ゴム支承60に予備せん断変形を付与することにより、供用時の積層ゴム支承60のせん断変形量を低減することができる。
【0055】
さらに、本実施形態では、断熱層52によって免震層10B1と上部構造体30の冷蔵倉庫とが隔てられている。したがって、例えば、免震層10B1に設置された積層ゴム支承60等の温度劣化を抑制することができる。
【0056】
(変形例)
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0057】
上記実施形態では、積層ゴム支承60の下側フランジ64をジャッキ72によって水平方向に押すことにより、積層ゴム支承60に予備せん断変形を付与した。しかし、例えば、図7に示される変形例のように、例えば、反力体80と上側支持体34との間に配置されたジャッキ82によって、上側支持体34を水平方向に押すことにより、積層ゴム支承60に予備せん断変形を付与しても良い。
【0058】
また、例えば、工場等において、積層ゴム支承60に予備せん断変形を付与しても良い。例えば、図8及び図9には、工場等において、予備せん断変形が付与された積層ゴム支承60が示されている。この積層ゴム支承60には、当該積層ゴム支承60をせん断変形させた状態で保持する保持具90が取り付けられている。
【0059】
保持具90は、積層ゴム支承60の両側にそれぞれ取り付けられる一対の下側ブラケット92及び上側ブラケット94を備えている。一対の下側ブラケット92及び上側ブラケット94は、断面L字形状の鋼板等によって形成されている。これらの下側ブラケット92及び上側ブラケット94は、横フランジ92A,94A及び縦フランジ92B,94Bをそれぞれ有している。
【0060】
一対の下側ブラケット92及び上側ブラケット94は、積層ゴム支承60の上側フランジ66と下側フランジ64との間に配置されている。下側ブラケット92の横フランジ92A,94Aは、積層ゴム支承60の下側フランジ64の外周部の上面に、ボルト96によって固定されている。また、上側ブラケット94の横フランジ92A,94Aは、積層ゴム支承60の上側ブラケット94の下面にボルト96で固定されている。
【0061】
一対の下側ブラケット92及び上側ブラケット94は、各々の縦フランジ92B,94B同士を重ねた状態で配置されている。これらの縦フランジ92B,94B同士は、工場等において、図示しない加力装置によって積層ゴム支承60に予備せん断変形を付与した状態で、ボルト100及びナット102によって接合される。これにより、保持具90によって、積層ゴム支承60が予備せん断変形した状態で保持される。
【0062】
このように、工場等において積層ゴム支承60に保持具90を取り付けることにより、積層ゴム支承60に予備せん断変形を容易に付与することができる。
【0063】
また、予備せん断変形が付与された積層ゴム支承60は、現場において下側支持体24及び上側支持体34に連結される。その後、積層ゴム支承60から保持具90を取り外した状態で、前述した変動工程を行う。これにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
また、上記実施形態では、免震構造物10が基礎免震構造とされている。しかし、免震構造物10は、基礎免震構造に限らず、中間免震構造でも良い。
【0065】
また、上記実施形態では、下部構造体20が基礎とされている。しかし、下部構造体20は、基礎に限らず、例えば、地下階や地上階等でも良い。
【0066】
また、上記実施形態では、上部構造体30に、下部構造体20よりも低温度帯で供用される低温領域としての冷蔵倉庫が設けられている。しかし、これとは逆に、下部構造体20に、上部構造体30よりも低温度帯で供用される冷蔵倉庫等の低温領域が設けられても良い。
【0067】
また、上記実施形態では、上部構造体30に、下部構造体20よりも低温度帯で供用される低温領域としての冷蔵倉庫が設けられている。しかし、上部構造体30には、例えば、下部構造体20よりも高温度帯で供用される温室等の高温領域が設けられても良い。
【0068】
この場合、変動工程では、免震層10B1の直上階10F1の床スラブ50及びコンクリート梁40が熱伸長(熱伸縮)する。そのため、予備せん断変形付与工程では、床スラブ50及びコンクリート梁40の熱伸長量に基づいて、供用時における下側支持体24及び上側支持体34の水平方向の相対変位量を算出し、当該相対変位量を吸収するように、積層ゴム支承60の予備せん断変形量を付与する。これにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0069】
このように上記実施形態は、上下方向に異なる温度帯で供用される複数の領域(低温領域及び高温領域)を有する免震構造物10に適用することができる。なお、熱伸縮量は、熱収縮量及び熱伸長量の両方を含む概念である。
【0070】
また、上記実施形態では、免震層10B1の直上階10F1の床スラブ50及びコンクリート梁40の熱収縮量(熱伸縮量)に基づいて、積層ゴム支承60の予備せん断変形量を算出した。しかし、積層ゴム支承60の予備せん断変形量は、床スラブ50及びコンクリート梁40の熱収縮量(熱伸縮量)に限らず、床スラブ50及びコンクリート梁40の乾燥収縮量に基づいて算出しても良い。また、積層ゴム支承60の予備せん断変形量は、床スラブ50及びコンクリート梁40の熱伸縮量及び乾燥収縮量に基づいて算出しても良い。
【0071】
つまり、積層ゴム支承60の予備せん断変形量は、免震層10B1の直上階10F1の床スラブ50及びコンクリート梁40の熱伸縮量及び乾燥収縮量の少なくとも一方に基づいて算出することができる。
【0072】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0073】
10 免震構造物
20 下部構造体
30 上部構造体
60 積層ゴム支承
90 保持具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9