(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101284
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】クルミアレルゲンのサンドイッチELISAによる検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240722BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240722BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
G01N33/53 Q
G01N33/543 501A
G01N33/531 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005181
(22)【出願日】2023-01-17
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000113067
【氏名又は名称】プリマハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】大黒 そのみ
(72)【発明者】
【氏名】迫田 紘史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 重城
(57)【要約】
【課題】食品等の被検試料から、検出対象以外の木の実との交差反応性を示すことなく、クルミアレルゲンのみを、及び/又は、クルミアレルゲンとペカンナッッツとを、検出できる手段を提供すること。
【解決手段】第二モノクローナル抗体をサンドイッチELISAにおける標識化抗体として使用した場合には、クルミアレルゲンのみを検出することができるが、第二モノクローナル抗体をサンドイッチELISAにおける固相化抗体として使用した場合には、クルミアレルゲンとペカンナッツアレルゲンとを検出できることを確認した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプル、又は拭き取り液若しくは洗浄液からなる測定サンプルを被検試料とするサンドイッチELISAにおいて、クルミ11Sグロブリンに結合する第一モノクローナル抗体と、第一モノクローナル抗体と異なるエピトープを認識してクルミ11Sグロブリンに結合する第二モノクローナル抗体とを用いるクルミアレルゲンの検出方法であって、
前記第一モノクローナル抗体を固相化抗体とし、前記第二モノクローナル抗体を標識化抗体とした場合、クルミ11Sグロブリンを検出することができ、ペカンナッツ11Sグロブリンを検出することができず;
前記第二モノクローナル抗体を固相化抗体とし、前記第一モノクローナル抗体を標識化抗体とした場合、クルミ11Sグロブリン及びペカンナッツ11Sグロブリンをともに検出することができる;
ことを特徴とする、クルミアレルゲンの検出方法。
【請求項2】
第二モノクローナル抗体が、クルミの11Sグロブリンのアミノ酸配列(配列番号2)におけるアミノ酸配列QRRGIVRV(配列番号1)をエピトープとして認識することを特徴とする請求項1記載のクルミアレルゲンの検出方法。
【請求項3】
抽出液が、陰イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び非イオン性界面活性剤からなる群から選択される一又は二以上を含むことを特徴とする請求項1又は2記載のクルミアレルゲンの検出方法。
【請求項4】
検体から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルにおけるクルミのタンパク質濃度が15.6ppb~1ppmであることを特徴とする請求項1又は2記載のクルミアレルゲンの検出方法。
【請求項5】
拭き取り液又は洗浄液からなる測定サンプルにおけるクルミのタンパク質濃度が0.78125ppb~50ppbであることを特徴とする請求項1又は2記載のクルミアレルゲンの検出方法。
【請求項6】
第一モノクローナル抗体及び/又は第二モノクローナル抗体が、ペカンナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、及び落花生と反応性を示さないことを特徴とする請求項1又は2記載のクルミアレルゲンの検出方法。
【請求項7】
担体に固相化するためのクルミ11Sグロブリンに結合する第一モノクローナル抗体、及び、前記第一モノクローナル抗体と異なるエピトープを認識してクルミ11Sグロブリンに結合する、標識化された第二モノクローナル抗体を含む、クルミアレルゲンをサンドイッチELISAにより検出するためのキット。
【請求項8】
さらに、陰イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び非イオン性界面活性剤からなる群から選択される一又は二以上を含むことを特徴とする請求項7記載のクルミアレルゲンをサンドイッチELISAにより検出するためのキット。
【請求項9】
標識化された第一モノクローナル抗体、及び、第一モノクローナル抗体と異なるエピトープを認識してクルミ11Sグロブリンに結合する、担体に固相化するための第二モノクローナル抗体を含む、クルミアレルゲンとペカンナッツアレルゲンとをサンドイッチELISAにより検出するためのキット。
【請求項10】
さらに、陰イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び非イオン性界面活性剤からなる群から選択される一又は二以上を含むことを特徴とする請求項9記載のクルミアレルゲンとペカンナッツアレルゲンとをサンドイッチELISAにより検出するためのキット。
【請求項11】
クルミの11Sグロブリンにおけるアミノ酸配列QRRGIVRV(配列番号1)をエピトープとして認識することを特徴とするモノクローナル抗体。
【請求項12】
ハイブリドーマ(NITE P-03530)が産生するPDWN2モノクローナル抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クルミアレルゲンのみ、又は、クルミアレルゲンとペカンナッツアレルゲンとをサンドイッチELISAにより検出する方法やキットに関する。
【背景技術】
【0002】
自然環境の減少、車や工場などからの排気ガス、住宅事情等、或いは食べ物の変化など様々な要因により、現在では、3人に1人が何らかのアレルギー疾患をもつといわれている。特に、食物アレルギーは、食品中に含まれるアレルギー誘発物質(以下、「食物アレルゲン」という)の摂取が原因となる有害な免疫反応であり、皮膚炎、喘息、消化管障害、アナフィラキシーショック等を引き起こすことが知られている。これらの症状は死に至ることもあることから、卵、乳、小麦、えび、かに、落花生、そばの7品目が特定原材料として、容器包装された加工食品で表示が義務づけられている。また、アーモンド、アワビ、イカ、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、クルミ、ごま、さけ、サバ、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、マツタケ、モモ、ヤマイモ、リンゴ、ゼラチンの21品目が、特定原材料に準ずるものとして、できるだけ表示することが推奨されている。
【0003】
上記の食物アレルゲンを迅速かつ簡易に検出するため、抗原抗体反応を利用して特定の抗原又は抗体よりなる被検出物質を検出する免疫測定法が広く用いられており、試料中の被検出物質に、蛍光物質等からなる標識物質により標識された抗体又は抗原を免疫反応により結合させ、結合した標識物質を測定する免疫測定法が採用されている。これらの免疫測定法では、競合型反応、サンドイッチ型反応が広く用いられており、サンドイッチ型反応を利用したイムノクロマトグラフィー法(例えば、特許文献1参照)等によるアレルゲン検出方法が提案されている。
【0004】
一方、クルミ(Juglandaceae Juglans)は、多価不飽和脂肪酸、ビタミン、ミネラルを多く含むことが知られており、近年、菓子類等への利用が増えているが、上記特定原材料に準ずるものとして挙げられており、2022年6月に消費者庁は、現在は「推奨」品目であるクルミの食品アレルギー表示を義務化する方針を示しているため、原料、食品、食品製造装置、食品包装等に混入したクルミの適切な検出手段が求められている。
【0005】
しかしながら、クルミのアレルゲンの検出においては、クルミ科ペカン属(Juglandaceae Carya)に属するペカンナッツとの交差反応性があることが問題となっていた。例えば、非特許文献1においては、クルミの可溶性タンパク質を検出・定量するためのELISA法によるクルミアレルゲンを検出する方法が提案されているが、クルミのアレルゲンとペカンナッツのアレルゲンとの間に交差反応性があることが示されている。
【0006】
また、市販されているクルミアレルゲン検出用キット「AgraStrip(登録商標)Walnut(COKAL0910AS)」(Romer Labs社製)の説明書には、ペカンナッツとライとの交差反応性があることが記載されており、ELISA法によるキットである「AgraQuant(登録商標)Walnut Assay(COKAL0948)」(Romer Labs社製)の説明書には、ペカンナッツ、カシューナッツ等と交差反応性があることが記載されている。また、「Walnut Assay Kit」(Neogen社製)においてもペカンナッツ等と交差反応性を有することが説明書に記載されている。そしてまた、「EnzymeImmunoassay for the Quantitative Determination of Walnut in Food」(Diagnostic Automation, Inc.社製)においてもペカンナッツ、ヘーゼルナッツ等と交差反応性を有することが説明書に記載されている。
【0007】
他方、クルミ科matK遺伝子における塩基配列の相違を利用したクルミとペカンナッツの分別検出方法(例えば、特許文献2等参照)が提案されているが、PCRを行う必要があり、判定までに時間が必要であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5-010950号公報
【特許文献2】国際公開WO2008/093753パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Agric. Food Chem.2008,56,7625-7630
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のとおり、クルミは食品表示において、法的に表示を義務付けられる見通しであるため、クルミアレルゲンを精確に検出する必要がある。一方、クルミアレルギーを有する者は、クルミと交差反応性を示すことが多いペカンナッツを摂取した場合においても、呼吸困難やアナフィラキシー等の重篤な症状が出るおそれがあるため、食品中にペカンナッツが含まれているか否かを知ることができることが望ましい。
【0011】
本発明の課題は、食品等の被検試料から、検出対象以外の木の実との交差反応性を示すことなく、クルミアレルゲンのみを、及び/又は、クルミアレルゲンとペカンナッツとを、より精密に検出できる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、イムノクロマト法により、クルミアレルゲンを検出するが、ペカンナッツを検出しない方法(特願2021-189447)を既に開発しているが、より精密なアレルゲン検出手段としてサンドイッチELISAを採用し、検討を続けることとした。
【0013】
上記イムノクロマト法においては、クルミアレルゲンの異なるエピトープを認識する2つのモノクローナル抗体の内、少なくとも一方がクルミ11Sグロブリンに結合するが、ペカンナッツに結合しないモノクローナル抗体(以下「第二モノクローナル抗体」とも呼ぶことがある。)を用いることにより、クルミアレルゲンを検出しペカンナッツアレルゲンを検出しないという効果を奏することに貢献したので、サンドイッチELISAにおいても、上記イムノクロマト法において使用した2つの抗体を用いて検討を始めたところ、第二モノクローナル抗体をサンドイッチELISAにおける標識化抗体として使用した場合には、クルミアレルゲンのみを検出することができるが、第二モノクローナル抗体をサンドイッチELISAにおける固相化抗体として使用した場合には、驚くべきことにクルミアレルゲンとペカンナッツアレルゲンとを検出できることを確認した。さらに、サンドイッチELISAによるクルミアレルゲンの検出方法を適用した場合、試料中の1ppb以下のクルミアレルゲンを検出できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]検体から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプル、又は拭き取り液若しくは洗浄液からなる測定サンプルを被検試料とするサンドイッチELISAにおいて、クルミ11Sグロブリンに結合する第一モノクローナル抗体と、第一モノクローナル抗体と異なるエピトープを認識してクルミ11Sグロブリンに結合する第二モノクローナル抗体とを用いるクルミアレルゲンの検出方法であって、
前記第一モノクローナル抗体を固相化抗体とし、前記第二モノクローナル抗体を標識化抗体とした場合、クルミ11Sグロブリンを検出することができ、ペカンナッツ11Sグロブリンを検出することができず;
前記第二モノクローナル抗体を固相化抗体とし、前記第一モノクローナル抗体を標識化抗体とした場合、クルミ11Sグロブリン及びペカンナッツ11Sグロブリンをともに検出することができる;
ことを特徴とする、クルミアレルゲンの検出方法。
[2]第二モノクローナル抗体が、クルミの11Sグロブリンのアミノ酸配列(配列番号2)におけるアミノ酸配列QRRGIVRV(配列番号1)をエピトープとして認識することを特徴とする上記[1]記載のクルミアレルゲンの検出方法。
[3]抽出液が、陰イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び非イオン性界面活性剤からなる群から選択される一又は二以上を含むことを特徴とする上記[1]又は[2]記載のクルミアレルゲンの検出方法。
[4]検体から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルにおけるクルミのタンパク質濃度が15.6ppb~1ppmであることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のクルミアレルゲンの検出方法。
[5]拭き取り液又は洗浄液からなる測定サンプルにおけるクルミのタンパク質濃度が0.78125ppb~50ppbであることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のクルミアレルゲンの検出方法。
[6]第一モノクローナル抗体及び/又は第二モノクローナル抗体が、ペカンナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、及び落花生と反応性を示さないことを特徴とする上記[1]又は[2]記載のクルミアレルゲンの検出方法。
[7]担体に固相化するためのクルミ11Sグロブリンに結合する第一モノクローナル抗体、及び、前記第一モノクローナル抗体と異なるエピトープを認識してクルミ11Sグロブリンに結合する、標識化された第二モノクローナル抗体を含む、クルミアレルゲンをサンドイッチELISAにより検出するためのキット。
[8]さらに、陰イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び非イオン性界面活性剤からなる群から選択される一又は二以上を含むことを特徴とする上記[7]記載のクルミアレルゲンをサンドイッチELISAにより検出するためのキット。
[9]標識化された第一モノクローナル抗体、及び、第一モノクローナル抗体と異なるエピトープを認識してクルミ11Sグロブリンに結合する、担体に固相化するための第二モノクローナル抗体を含む、クルミアレルゲンとペカンナッツアレルゲンとをサンドイッチELISAにより検出するためのキット。
[10]さらに、陰イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び非イオン性界面活性剤からなる群から選択される一又は二以上を含むことを特徴とする上記[9]記載のクルミアレルゲンとペカンナッツアレルゲンとをサンドイッチELISAにより検出するためのキット。
[11]クルミの11Sグロブリンにおけるアミノ酸配列QRRGIVRV(配列番号1)をエピトープとして認識することを特徴とするモノクローナル抗体。
[12]ハイブリドーマ(NITE P-03530)が産生するPDWN2モノクローナル抗体。
【発明の効果】
【0015】
本発明のサンドイッチELISAによるクルミアレルゲンの検出方法によると、2種類の抗体を用いる場合に、固相化抗体と標識化抗体とを入れ替えることにより、クルミアレルゲンを特異的に検出することと、クルミアレルゲンとペカンナッツアレルゲンを検出することとの両方のパターンのアレルゲンの検出をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)固相化したPDWN1抗体が調製された抗体組合せ1について、主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値をY軸に、各測定サンプルのクルミ加熱変性処理粗タンパク質の濃度をX軸に表したグラフである。(b)固相化したPDWN2抗体が調製された抗体組合せ2について、主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値をY軸に、各測定サンプルのクルミ加熱変性処理粗タンパク質の濃度をX軸に表したグラフである。
【
図2】(a)抗体組合せ1によってサンドイッチELISAによる検出を行った場合のクルミ以外の各木の実の検出についての結果を示すグラフである。(b)抗体組合せ2によってサンドイッチELISAによる検出を行った場合のクルミ以外の各木の実の検出についての結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のクルミアレルゲンの検出方法としては、検体から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプル、又は拭き取り液若しくは洗浄液からなる測定サンプルを被検試料とするサンドイッチELISAにおいて、クルミ11Sグロブリンに結合する第一モノクローナル抗体と、第一モノクローナル抗体と異なるエピトープを認識してクルミ11Sグロブリンに結合する第二モノクローナル抗体とを用いるクルミアレルゲンの検出方法であって、上記第一モノクローナル抗体を固相化抗体とし、上記第二モノクローナル抗体を標識化抗体とした場合、クルミ11Sグロブリンを検出することができ、ペカンナッツ11Sグロブリンを検出することができず;上記第二モノクローナル抗体を固相化抗体とし、上記第一モノクローナル抗体を標識化抗体とした場合、クルミ11Sグロブリン及びペカンナッツ11Sグロブリンをともに検出することができる;ことを特徴とする、クルミアレルゲンの検出方法であれば特に制限されず、上記11Sグロブリンとは、一般に可溶性の球状タンパク質であるグロブリンのうち、沈降係数が11Sに相当するものの総称であって、植物における貯蔵タンパク質として知られており、クルミ等における主要アレルゲンのひとつとしても知られている。また、クルミの11Sグロブリンとしては、例えば、配列番号2に示される511アミノ酸からなるタンパク質及び/又は配列番号2に示される511アミノ酸の一部若しくは全部を含むアレルゲンとなりうるタンパク質を挙げることができる。
【0018】
上記サンドイッチELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)としては、抗原認識部位(エピトープ)の異なる2種類の抗体を用いて、あらかじめ一方の抗体をマイクロプレートのウェル等の固相に固定して固相化抗体とし、検出対象の抗原を含む可能性のある被検試料をウェルに添加し、検出可能なシグナルをもたらすことができる標識物質で標識した他方の抗体を標識抗体として添加することにより、検出対象の抗原(アレルゲン)を2種類の抗体で挟んで、抗体-抗原-抗体複合体を形成させ、標識物質に応じた反応を行い、検出対象の抗原を検出・定量する方法を挙げることができ、上記第一モノクローナル抗体及び第二モノクローナル抗体は、いずれか一方を固相化抗体とし、他の一方を標識化抗体とすることにより抗体-アレルゲン-抗体複合体を形成して、アレルゲンを検出することができる。
【0019】
本発明におけるクルミ(Walnut)としては、クルミ科クルミ属(Juglandaceae Juglans)に属する植物における、11Sグロブリンを含む組織であれば特に制限されないが、貯蔵タンパク質を多く含む可食部を挙げることができ、具体的には、種子の内部の胚乳を含む「仁」と呼ばれる部分であることが好ましい。クルミ科クルミ属に属する植物としては、欧米で広く栽培されているペルシャグルミ(Juglans regia)、テウチグルミ(カシグルミ)(Juglans regia var.orientis)、ペルシャグルミとテウチグルミとの自然交雑によって生じた雑種といわれるシナノグルミ(Juglans regia, (Syn. Juglans regia var. orientis))、日本在来種とされるオニグルミ(Juglans mandshurica var. sachalinensis)、ヒメグルミ(Juglans mandshurica var. cordiformis)等を挙げることができる。
【0020】
上記ペカンナッツ(Carya illinoinensis)としては、(クルミ科ペカン属(Juglandaceae Carya))に属する植物、とりわけ11Sグログリンを含むその可食部を挙げることができる。
【0021】
上記第一の、及び第二のクルミ11Sグロブリンモノクローナル抗体の抗体産生細胞の調製方法としては、加熱処理したクルミ11Sグロブリン若しくはその粉砕処理物を、そのまま又は適当なアジュバントと共に免疫原として哺乳動物に投与し、免疫感作させる方法を例示することができる。
【0022】
上記哺乳動物としては、ラット、マウス、ウサギを挙げることができるが、作製の簡便性からマウスを用いることが好ましく、マウスに由来するモノクローナル抗体が好適に用いられる。投与箇所としては、静脈注射、皮下、腹腔内を例示することができる。追加免疫は、数日から数週間後に行うことができ、10日~3週間後がより好ましい。抗クルミ11Sグロブリンモノクローナル抗体産生細胞の分離は、最終の免疫日から1~60日後、好ましくは1~10日後に免疫動物から採取することにより行うことができ、抗体産生細胞としては、脾臓細胞やリンパ節細胞や末梢血由来細胞が好ましく、リンパ節細胞がより好ましい。
【0023】
上記クルミ11Sグロブリンに対するモノクローナル抗体の調製方法としては、上記抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合をおこない、上記クルミ11Sグロブリンを認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを、培地上で培養するか、又は動物腹腔内に投与して腹水内で増殖させた後、培養培地又は腹水からモノクローナル抗体を採取する、ケラーとミルシュタインによるハイブリドーマ法(Nature 256, 495-497, 1975)等の公知の方法を挙げることができる。
【0024】
上記ミエローマ細胞としては、一般に入手可能な株化細胞を用いることができるが、未融合の状態ではHAT選択培地で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ、陽性ハイブリドーマとして生存できる性質を有することが好ましく、具体的には、P3-X63-Ag8-U、P3X63Ag8.653、NSI/1-Ag4-1、NS0/1等のマウスミエローマ細胞株、YB2/0等のラットミエローマ細胞株などを挙げることができる。
【0025】
上記細胞融合の方法としては、抗体産生細胞とミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の融合促進剤の存在下で混合することにより行なうことができる。細胞融合終了後、RPMI1640培地等で適当に希釈し、遠心分離し、沈殿をHAT培地等の選択培地に懸濁して培養することによりハイブリドーマを選択し、次いで、培養上清を用いて酵素抗体法等により抗体産生ハイブリドーマを検索し、限界希釈法等によりクローニングを行ない、クルミ11Sグロブリンを認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。
【0026】
本発明者らにより作製された、ハイブリドーマ(NITE P-03529)が産生する抗クルミ11Sグロブリンモノクローナル抗体PDWN1(PDWN1抗体)や、ハイブリドーマ(NITE P-03530)が産生する抗クルミ11Sグロブリンモノクローナル抗体PDWN2(PDWN2抗体)を好適に例示することができる。上記2種類のハイブリドーマは、2021年9月8日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(NPMD)(住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に受託されている。
【0027】
上記第一及び第二のモノクローナル抗体としては、それぞれ、アーモンド(Amygdalus dulcis:バラ科サクラ属(Rosaceae Cerasus))、カシューナッツ(Anacardium occidentale:ウルシ科カシューナットノキ属(Anacardiaceae Anacardium))、ヘーゼルナッツ(Corylus avellana:カバノキ科ハシバミ属(Betulaceae Corylus)一部はセイヨウハシバミとムラサキセイヨウハシバミの雑種)、ピスタチオ(Pistacia vera:ウルシ科カイノキ属(Anacardiaceae Pistacia))、マカデミアナッツ(Macadamia integrifolia:ヤマモガシ科マカダミア属(Proteaceae Macadamia))、及び、落花生(Arachis hypogaea:マメ科ラッカセイ属(Fabaceae Arachis))のタンパク質、とりわけ可食部を構成するタンパク質を認識しないモノクローナル抗体が好ましく、第一のモノクローナル抗体としては、上記PDWN1抗体を例示することができ、第二のモノクローナル抗体としては、PDWN2抗体を例示することができる。
【0028】
上記第一モノクローナル抗体としては、サンドイッチELISAにおいて、クルミ11Sグロブリンと結合して、抗原抗体複合体を形成することができるモノクローナル抗体であれば特に限定されない。
【0029】
上記第二モノクローナル抗体としては、固相化された場合に、上記第一モノクローナル抗体と異なるエピトープを認識してクルミ11Sグロブリンとペカンナッツに結合して、サンドイッチELISAにおいて、抗原抗体複合体を形成することができるモノクローナル抗体であれば特に限定されないが、イムノクロマト法においてはペカンナッツ11Sグロブリンの検出に寄与しない抗体であってもよい。
【0030】
上記イムノクロマト法においてはペカンナッツ11Sグロブリンの検出に寄与しない抗体としては、クルミの11Sグロブリンにおけるアミノ酸配列であるQRRGIVRV(配列番号1)を認識できる抗体を例示することができ、より具体的には、クルミの11Sグロブリンのアミノ酸配列(配列番号2)における268~275のアミノ酸配列QRRGIVRV(配列番号1)の配列を認識できる抗体を好適に挙げることができ、具体的には、上記PDWN2抗体を例示することができる。
【0031】
上記固相化抗体を調製するための固相化の方法としては、従来公知の方法を利用することができるが、化学的な固定化や物理吸着、共有結合、イオン結合等の手段を適宜用いることができる。
【0032】
上記サンドイッチELISAに用いる担体の材質としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂、架橋デキストラン、ポリサッカライド等の高分子化合物、その他、ガラス、金属、磁性粒子及びこれらの組合せ等を挙げることができ、また、担体の形状としては、トレイ状、球状、棒状、盤状、容器状、セル、マイクロプレート、試験管等を用いることができるが、マイクロプレートが好ましい。
【0033】
上記標識化抗体を調製するために用いられる標識物質としては、単独で又は他の物質と反応することにより検出可能なシグナルをもたらすことができる標識物質であれば特に制限されず、上記標識物質としては、酵素、蛍光物質、化学発光物質等を例示することができる。上記酵素としてはペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコ-ス-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ペニシリナーゼ、カタラーゼ、ルシフェラーゼ等を挙げることができ、上記蛍光物質としては、フルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、ダンシルクロライド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート等を挙げることができ、発光物質としては、ルミノール類、ジオキセタン類、アクリジニウム塩類等を挙げることができる。上記標識物質が酵素である場合には、発色剤、蛍光剤、発光剤、基質等を用いて反応させることにより、検出可能なシグナルがもたらされる。
【0034】
上記サンドイッチELISAを行うことによりもたらされるシグナルが酵素活性に基づく吸光度として測定できる場合には、クルミ11Sグロブリンの濃度が既知の試料(標準品)を用いて検量線を作成し、該検量線を用いて、濃度の異なる標準液の吸光度をプロットして標準曲線(検量線)を作成し、被検試料における吸光度を検量線と対比させることにより、被検試料中の検出対象となる抗原の検出の有無を判断することができ、また、抗原の定量化を行うことができる。
【0035】
本発明における被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルとしては、被検試料から抽出液を用いて抽出することにより調製される測定サンプルであれば特に制限されないが、上記被検試料としては、アレルゲンが存在する可能性のある食品等の被検試料を挙げることができ、かかる食品等の被検試料には、食品のほか、該食品を製造するために用いられる原料、該食品を製造するために使用された装置に残るカス、沈殿物等の残留物、該装置を洗浄した洗浄液、該洗浄液を取り除くために使用されたすすぎ液、該食品を包装した包装紙や包装容器など、食品中に存在するアレルゲンが二次的に存在する可能性がある試料を例示することができる。
【0036】
上記測定サンプルを調製する際に用いられる抽出液としては、陰イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び非イオン性界面活性剤からなる群から選択される一又は二以上を含むことが好ましく、陰イオン性界面活性剤としては、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩などを挙げることができ、具体的にはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を好適に例示することができる。チオ硫酸塩としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウムなどを挙げることができ、具体的にはチオ硫酸ナトリウムを好適に例示することができる。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ソルビタン脂肪酸エステルなどを挙げることができ、具体的にはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween20)を好適に例示することができる。上記陰イオン性界面活性剤の濃度は0.1~2.0%、好ましくは0.25%~1.0%であり、チオ硫酸塩の濃度は0.01~5.0%、好ましくは0.05%~0.5%であり、非イオン性界面活性剤の濃度は0.01~1.0%、好ましくは0.1~0.5%であり、これらの濃度範囲の陰イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び/又は非イオン性界面活性剤を含む抽出液を用いると、抽出効率が高く且つ非特異反応を抑制しうる点で好ましい。
【0037】
本発明における拭き取り液若しくは洗浄液からなる測定サンプルとしては、クルミアレルゲンを含む可能性のある液体であれば特に制限されず、食品製造現場等におけるクルミアレルゲンを含む可能性のある溶液を挙げることができる。例えば、食品等を製造するために用いられる装置を洗浄した洗浄水;該洗浄水を取り除くために使用されたすすぎ液;上記洗浄水の乾燥物、上記すすぎ液の乾燥物、食品を製造するために用いられる原料又はその飛散物、該食品を製造するために使用された装置に残るカス、食品製造工程における沈殿物等の残留物、食品を包装した包装紙や包装容器における残留物等を(拭き取り用)溶媒で拭き取った拭き取り液を例示することができる。
【0038】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例0039】
[実施例1]
[クルミ11Sグロブリンモノクローナル抗体の確立]
(加熱変性処理粗クルミタンパク質溶液の調製)
クルミ科クルミ属(JuglandaceaeJuglans)に属する生クルミ(チャンドラー種)の可食部(核果の種子の部分:仁)をミルサーにより粉砕し、アセトンを用いて脱脂したのち一晩室温にて風乾し、アセトンを除去したものを脱脂クルミ粉末として調製した。かかる脱脂クルミ粉末を0.1g量り取り、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.2%Tween20、0.1%チオ硫酸ナトリウムを含むダルベッコPBS(5913、日水製薬社製)を20mL加えて攪拌し、沸騰水中で10分間加熱して変性処理を行い、冷却遠心し、上清をクルミ加熱変性処理粗タンパク質(D-WN)溶液として調製した。
【0040】
(加熱変性処理粗木の実タンパク質溶液の調製)
ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ピスタチオ、落花生、及びペカンナッツの可食部をそれぞれミルサーにより粉砕した後各1gを量り取り、0.5%SDS、0.2%Tween20、0.1%チオ硫酸ナトリウムを含むダルベッコPBSを19mL加えて撹拌した後、沸騰水中で10分間加熱して変性処理を行い、冷却遠心し、各上清を、ヘーゼルナッツ加熱変性処理粗タンパク質(「D-HZ」)、マカダミアナッツ加熱変性処理粗タンパク質(「D-MC」)、アーモンド加熱変性処理粗タンパク質(「D-AM」)、カシューナッツ加熱変性処理粗タンパク質(「D-CS」)、ピスタチオ加熱変性処理粗タンパク質(「D-PS」)、落花生加熱変性処理粗タンパク質(「D-PN」)、及びペカンナッツ加熱変性処理粗タンパク質(「D-PE」)の各溶液として調製した。各溶液におけるタンパク質の濃度は、2-DQuantKit(GEHealthcareLifeScience社製)を用いて必要に応じて測定した。
【0041】
(クルミアレルゲンの指標となるクルミ11Sグロブリンの精製)
上記脱脂クルミ粉末を、プレップセル960(BioRad社製)を用いて精製した。11Sグロブリン画分を透析後、凍結乾燥を行った。かかる凍結乾燥粉末を用い、生理食塩水で0.1%のクルミ11Sグロブリンの溶液を作製し、1mL容チューブに500μLずつ分注して、クルミ11Sグロブリンの抗原溶液とし、免疫に供するまで-40℃にて凍結保管した。
【0042】
(ラット由来抗クルミ11Sグロブリンモノクローナル抗体の作製)
(1)ラットへの免疫
供試動物として、8週齢のF344/DuCrlCrljラット(日本チャールズリバー社から入手)1匹を用いた。ラットの初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Sigma-Aldrich社製)を0.1%のクルミ11Sグロブリン溶液が500μL入ったチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを用い、このエマルジョン200μLを尾根部より注射した。初回免疫から2週間後に、100μLの0.1%11Sグロブリン溶液を尾部静脈より注射して追加免疫とした。
【0043】
(2)ラット由来抗体産生ハイブリドーマの作製
ラット由来抗体産生ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、上記尾部静脈注射から4日後、供試ラットから腸骨リンパ節を無菌的に摘出した。腸骨リンパ節を細切後、RPMI1640(富士フィルム和光純薬社製)で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(CellStrainer、70mm、Becton Dickinson社製)に通し、腸骨リンパ節細胞懸濁液を得た。1000rpm×10分の遠心分離により腸骨リンパ節細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この腸骨リンパ節細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.65)懸濁液を混合し、再度1000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加えて希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40μMの2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106細胞/ウェルとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson社製)に分注し、5%CO2下37℃にて培養した。
【0044】
(3)ラット由来抗体産生ハイブリドーマの限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清を、ELISA法の一次抗体として供試し、抗11Sグロブリン抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISA法により11Sグロブリンに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9細胞/ウェルとなるように96ウェルの細胞培養用プレートに移し、限界希釈法によるクローニングを行った。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40μMの2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0045】
(4)ラット由来モノクローナル抗体のスクリーニング
上記培養上清の、クルミ11Sグロブリンを含むD-WNに対する反応性が認められるクローンについて、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、アーモンド、カシューナッツ及びピスタチオそれぞれにおける11Sグロブリン含む加熱変性処理粗タンパク質、すなわち、D-HZ、D-MC、D-AM、D-CS及びD-PSに対する反応性をダイレクトELISA法にて判定し、D-WNに対して陽性を示し、D-HZ、D-MC、D-AM、D-CS、及びD-PSに対して陰性を示すラット由来モノクローナル抗体を3種類選抜した。
【0046】
(5)マウスの腹水の採取及びラット由来モノクローナル抗体の精製
Jonesら(1990)に従い、まず、CB-17/scidマウス(日本クレア社から入手)に不完全フロイントアジュバント(Sigma-Aldrich社製)を200μL腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106細胞にクローニングされた、上記選抜された抗体を産生する3種類のハイブリドーマをそれぞれ接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採取した腹水をProteinGカラム(GEヘルスケア社製)により精製し、クルミ11Sグロブリンに対して特異性を有する3種類のラット由来精製モノクローナル抗体(MAb)を取得し、それぞれA、B及びPDWN1抗体と呼ぶこととした。
【0047】
(マウス由来抗クルミ11Sグロブリンモノクローナル抗体の作製)
(1)マウスへの免疫
供試動物として、4週齢のBALB/cマウス(日本クレア社から入手)2匹を用いた。マウスの初回免疫には、完全フロイントアジュバントを0.1%のクルミ11Sグロブリン溶液が500μL入ったチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試し、このエマルジョンを一尾当たり100μL腹腔内に注射した。追加免疫には、不完全フロイントアジュバントを0.1%の11Sグロブリン溶液が500μL入ったチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1匹当たり100μL腹腔内に注射した。
【0048】
(2)血中抗体価の測定
初回又は追加免疫で11Sグロブリンを注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温にて2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISA法によりマウス血中の抗11Sグロブリン抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(JacksonImmunoResearchLaboratories社製)を用いた。さらに追加免疫を2週間の間隔で5回行い、十分に抗体価が上がったマウスに、100μLの0.1%11Sグロブリン溶液を尾部静脈より注射した。
【0049】
(3)マウス由来抗体産生ハイブリドーマの作製
マウス由来抗体産生ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、上記11Sグロブリン溶液の尾部静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュを通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を混合し、再度1000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40μMの2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106細胞/ウェルとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(BectonDickinson社製)に分注し、5%CO2下37℃にて培養した。
【0050】
(4)マウス由来抗体産生ハイブリドーマの限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清を、ELISA法の一次抗体として供試し、抗11Sグロブリン抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISA法により11Sグロブリンに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9細胞/ウェルとなるように96ウェルの細胞培養用プレートに移し、限界希釈法によるクローニングを行った。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40μMの2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0051】
(5)マウス由来モノクローナル抗体のスクリーニング
上記培養上清の、クルミ11Sグロブリンを含むD-WNに対する反応性が認められるクローンについて、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、アーモンド、カシューナッツ及びピスタチオそれぞれにおける11Sグロブリン含む加熱変性処理粗タンパク質、すなわち、D-HZ、D-MC、D-AM、D-CS及びD-PSに対する反応性をダイレクトELISA法にて判定し、D-WNに対して陽性を示し、D-HZ、D-MC、D-AM、D-CS、及びD-PSに対して陰性を示すマウス由来モノクローナル抗体を9種類選抜した。
【0052】
(6)マウスの腹水の採取及びマウス由来モノクローナル抗体の精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを200μL腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106細胞のクローニングされた、上記選抜された抗体を産生するハイブリドーマをそれぞれ接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採取した腹水をProteinGカラム(GEヘルスケア社製)により精製し、クルミ11Sグロブリンに対して特異性を有する9種類のマウス由来精製モノクローナル抗体を取得し、それぞれC、D、E、F、G、H、I、J及びPDWN2抗体と呼ぶこととした。
【0053】
[実施例2]
[抗体の組合せ評価]
前記3種類のラット由来精製モノクローナル抗体であるA、B及びPDWN1抗体と、上記9種類のマウス由来精製モノクローナル抗体であるC、D、E、F、G、H、I、J及びPDWN2抗体との、合計12種類の精製モノクローナル抗体から、二種類の抗体を選択することによる、クルミタンパク質の検出に適した抗体の組合せを検討することとした。
【0054】
[1.サンドイッチELISA法による抗体の組合せ評価]
サンドイッチELISA法により、抗体の組合せ評価を行った。
【0055】
(抗体の固相化)
96ウェルマイクロプレート(Nunc-ImmunoModuleplateF8NAL、468667)を2プレート用い、固相化抗体を調製した。上記12種類の精製抗体をそれぞれリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS)で5μg/mLの固相用抗体溶液に調製し、各抗体について100μL/ウェルを12ウェルずつ分注した。37℃にて1.5時間静置して固相化反応させた後、PBST250μLで各ウェルを5回洗浄し、1%牛血清アルブミン(BovineSerumAlbumin:BSA、Sigma-Aldrich社製)/PBSを150μL/ウェル分注し、37℃にて1時間静置して反応させてブロッキングを行い、その後PBST250μLで各ウェルを5回洗浄して、12種類の固相化抗体を12ウェルずつ調製した。
【0056】
(測定用クルミタンパク質溶液の調製)
上記D-WNを、PBSTを用いて1ppmのD-WN溶液となるように調製し、測定用クルミタンパク質溶液とした。上記固相化した抗体が調製された144ウェルに1ppmのD-WN溶液を100μL/ウェル分注し、37℃にて1.5時間静置して、D-WNと各固相化抗体とを反応させた。その他PBSTをブランクとした。その後PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。
【0057】
(HRP標識抗体による反応)
上記12種類の精製モノクローナル抗体それぞれについて、西洋わさびペルオキシダーゼ(Horseradishperoxidase;HRP)による酵素標識をPeroxidaseLabelingKit-SH(LK09、株式会社同仁化学研究所製)を用いて行った。PBSTを用いて12種類の0.1μg/mLのHRP標識抗体を調製し、12ウェルずつ100μL/ウェル分注し、37℃にて1.5h静置して反応させた。その後、PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。
【0058】
(発色剤の添加)
発色剤3、3’、5、5’テトラメチルベンジジン溶液(TMB溶液、1-ComponentMicrowellPeroxidaseSubstrate,SureBlue、5120-0075、KPL社製)を100μL/ウェル分注し、遮光下常温にて10分静置して反応させた。1規定塩酸を100μL/ウェル分注することにより反応を停止させ、主波長450nm、副波長620nmにて吸光度を測定した。マイクロプレート上の抗体の組合せのレイアウト、及び、各ウェルにおける主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値を差し引いた値を実質吸光度として、以下の表1に示す。なお、620nmの副波長は、検体によるウェル内の汚れや洗浄操作等によるウェルのくもり、キズ等によるウェル間吸光度差をキャンセルするために測定された吸光度である。
【0059】
【0060】
(結果)
表1から明らかなとおり、太字で表記されている、固相化抗体PDWN1-HRP標識抗体PDWN2、固相化抗体PDWN2-HRP標識抗体PDWN1、固相化抗体PDWN2-HRP標識抗体B、固相化抗体PDWN2-HRP標識抗体C、固相化抗体A-HRP標識抗体C、固相化抗体B-HRP標識抗体PDWN2、固相化抗体E-HRP標識抗体C、固相化抗体F-HRP標識抗体C、固相化抗体H-HRP標識抗体C、固相化抗体I-HRP標識抗体Cにおいて、主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値を差し引いた値(実質吸光度:450nm-620nm)が1.000以上であって反応性が高かった。とりわけ、PDWN1抗体とPDWN2抗体の組合せにおいて、実質吸光度が高いことが確認され、クルミタンパク質に対する反応性が強いことが確認された。
【0061】
[実施例3]
[2.ELISAの構成における抗体の組合せの検討]
上記クルミタンパク質に対する反応性が強いことが確認されたPDWN1抗体とPDWN2抗体とを用いて、ELISAの構成における固相化抗体と標識抗体との抗体の組合せの検討を行った。具体的には、96ウェルマイクロプレートを用い、固相化抗体PDWN1-HRP標識抗体PDWN2(抗体組合せ1)、及び、固相化抗体PDWN2-HRP標識抗体PDWN1(抗体組合せ2)の二通りの抗体の組合せについて、クルミタンパク質の濃度を変えた場合の検出精度の検討を行った。
【0062】
(一次抗体固相化反応1)
上記抗体組合せ1において、PDWN1抗体を、ダルベッコPBS(日水製薬社製、5913)で5μg/mLのPDWN1抗体溶液を調製し、8ウェルに100μL/ウェル分注した。37℃にて1.5時間静置して固相化反応させた後、PBST250μLでPDWN1抗体を反応させた各ウェルを5回洗浄した。その後1%牛血清アルブミン(Bovine Serum Albumin:BSA、Sigma-Aldrich社製)/PBSを150μL/ウェル分注し、37℃にて1時間静置して反応させてブロッキングを行い、その後PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。
【0063】
(一次抗体固相化反応2)
上記抗体組合せ2において、PDWN2抗体についても、ダルベッコPBSで5μg/mLのPDWN2抗体溶液を調製し、上記PDWN1抗体の一次抗体固相化反応1と同様の手順で、上記8ウェルとは別の8ウェルに分注し、固相化反応させた後、ブロッキングを行った。
【0064】
(クルミタンパク質を含む測定サンプルの作製)
抽出後に緩衝液で20倍希釈することを想定し、上記D-WNをそれぞれ被検液中の濃度が0ppb、0.78125ppb(0.015625ppm)、1.56250ppb(0.03125ppm)、3.12500ppb(0.0625ppm)、6.25000ppb(0.125ppm)、12.5ppb(0.25ppm)、25ppb(0.5ppm)、及び50ppb(1ppm)の8段階となるように1.0%BSA/PBSTを用いて調整し、各濃度のクルミ加熱変性処理粗タンパク質を含む測定サンプルを作製した。PBSTをブランク(0ppb)とした。なお、カッコ内は、20倍抽出を想定した製品換算濃度である。
【0065】
(測定サンプルの添加1)
上記固相化したPDWN1抗体が調製された8ウェルに、上記8段階の濃度に調製した8種類のクルミ加熱変性処理粗タンパク質を含む測定サンプルを標準溶液としてそれぞれ100μL/ウェル分注し、室温にて1.0時間静置して、D-WNと各固相化抗体とを反応させた。その後PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。
【0066】
(測定サンプルの添加2)
上記固相化したPDWN2抗体が調製された8ウェルに、上記8段階の濃度に調製した8種類のクルミ加熱変性処理粗タンパク質を含む測定サンプルを標準溶液としてそれぞれ100μL/ウェル分注し、室温にて1.0時間静置して、D-WNと各固相化抗体とを反応させた。その後PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。
【0067】
(HRP標識抗体による反応1)
PDWN2抗体に、西洋わさびペルオキシダーゼ(Horseradishperoxidase;HRP)による酵素標識をPeroxidaseLabelingKit-SH(LK09、株式会社同仁化学研究所製)を用いて行い、HRP標識PDWN2抗体を調製した。PBSTを用いて100ng/mLのHRP標識PDWN2抗体を調製し、上記固相化したPDWN1抗体が調製された8ウェルに100μL/ウェル分注し、室温にて1.0h静置して反応させた。その後、PBST250μLで各ウェルを5回洗浄し、抗体組合せ1による抗原抗体複合体を形成させた。
【0068】
(HRP標識抗体による反応2)
PDWN1抗体に、上記PDWN2抗体と同様の手順で、西洋わさびペルオキシダーゼによる酵素標識を行い、100ng/mLのHRP標識PDWN1抗体を調製し、上記固相化したPDWN2抗体が調製された8ウェルに100μL/ウェル分注し、室温にて1.0h静置して反応させた。その後、PBST250μLで各ウェルを5回洗浄し、抗体組合せ2による抗原抗体複合体を形成させた。
【0069】
(発色剤)
上記抗体組合せ1及び抗体組合せ2それぞれにおいて、前記発色剤の添加の項目に記載されている手順に従い、発色剤3、3’、5、5’テトラメチルベンジジン溶液を各ウェルに分注して反応させ、その後塩酸を分注することにより反応を停止させ、主波長450nm、副波長620nmにて吸光度を測定した。各ウェルにおける主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値を差し引いた値を実質吸光度とした。
【0070】
(結果1)
固相化したPDWN1抗体が調製された上記抗体組合せ1の8ウェルについて、主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値をY軸に、各測定サンプルのクルミ加熱変性処理粗タンパク質の濃度をX軸に表したグラフを
図1(a)に示す。
【0071】
図1から明らかなとおり、0.78ppb~50ppbの範囲で直線性の高い検量線が得られ、クルミタンパク質濃度の測定が可能であることが確認された。
【0072】
(結果2)
固相化したPDWN2抗体が調製された上記抗体組合せ2の8ウェルについて、主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値をY軸に、各測定サンプルのクルミ加熱変性処理粗タンパク質の濃度をX軸に表したグラフを
図1(b)に示す。
図1(b)から明らかなとおり、0.78ppb~50ppbの範囲で直線性の高い検量線が得られ、クルミタンパク質濃度の測定が可能であることが確認された。
【0073】
[PDWN1抗体とPDWN2抗体の組合せによるクルミ以外の木の実タンパク質との交差反応性の確認]
前記D-HZ、D-MC、D-AM、D-CS、D-PS、D-PN、及びD-PEを検出対象として、上記抗体組合せ1と抗体組合せ2とを用いた場合のELISAアッセイにおける交差反応性の有無を評価することとした。
【0074】
(各種加熱変性処理粗木の実タンパク質溶液の調製)
ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ピスタチオ、落花生、及びペカンナッツの可食部をそれぞれミルサーにより粉砕した後各1gを量り取り、0.5%SDS、0.2%Tween20、0.1%チオ硫酸ナトリウムを含むダルベッコPBSを19mL加えて撹拌した後、沸騰水中で10分間加熱して変性処理を行い、冷却遠心し、各上清を、ヘーゼルナッツ加熱変性処理粗タンパク質(「D-HZ」)、マカダミアナッツ加熱変性処理粗タンパク質(「D-MC」)、アーモンド加熱変性処理粗タンパク質(「D-AM」)、カシューナッツ加熱変性処理粗タンパク質(「D-CS」)、ピスタチオ加熱変性処理粗タンパク質(「D-PS」)、落花生加熱変性処理粗タンパク質(「D-PN」)、及びペカンナッツ加熱変性処理粗タンパク質(「D-PE」)の各溶液として調製した。抽出後に緩衝液で20倍希釈することを想定し、上記各溶液を、1.0%BSA/PBSTを用いて20倍希釈して各種木の実タンパク質の測定溶液とした。各溶液におけるタンパク質の濃度は、2-DQuantKit(GE Healthcare Life Science社製)を用いて必要に応じて測定した。
【0075】
上記抗体組合せ1によってサンドイッチELISAによる検出を行った場合のクルミ以外の各木の実の検出についての結果を
図2(a)に示す。
【0076】
(結果)
図2(a)から明らかなとおり、固相化抗体としてPDWN1を用い、HRP標識抗体としてPDWN2を用いる抗体組合せ1においては、クルミのみ検出でき、クルミ以外のヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ピスタチオ、落花生、及びペカンナッツの可食部から調製された各加熱変性処理粗タンパク質は検出できないことが確認された。
【0077】
上記抗体組合せ2によってELISAによる検出を行った場合のクルミ以外の各木の実の検出についての結果を
図2(b)に示す。
【0078】
(結果)
図2(b)から明らかなとおり、固相化抗体としてPDWN2を用い、HRP標識抗体としてPDWN1を用いる抗体組合せ2においては、クルミとペカンナッツとを検出でき、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ピスタチオ、及び落花生の可食部から調製された各加熱変性処理粗タンパク質は検出できないことが確認された。
【0079】
(まとめ)
PDWN1とPDWN2を用いる場合においても、固相化抗体としてPDWN1を用い、HRP標識抗体としてPDWN2を用いる抗体組合せ1と、固相化抗体としてPDWN2を用い、HRP標識抗体としてPDWN1を用いる抗体組合せ2とにおいては、異なる結果となった。すなわち、抗体組合せ1ではクルミに対する特異性の高い検出が可能であり、抗体組合せ2ではクルミとペカンナッツとを検出することが可能であることが確認された。
【0080】
抗体組合せ1では、クルミに対する特異性の高い検出が可能であるから、特定原材料として、容器包装された加工食品において表示を義務づけることが検討されているクルミについて、食品、装置等において検出の有無について精度の高い判定が可能となる。抗体組合せ2では、クルミとペカンナッツの検出が可能であるから、クルミ、及び、クルミと交差反応性を示す頻度が高いペカンナッツに対してもアレルギーを有する者に対して注意喚起を行うことができる等の点で有利となる。
【0081】
[食品中のクルミタンパク質の検出]
市販のクルミ含有加工食品を想定して、ELISAによる測定を行った。クルミを含有していないことが明らかな市販のクッキー、オレンジジュース、パン、ゼラチンゼリー及びおかゆについて、それぞれ1g×4サンプル用意し、各食品中のクルミタンパク質が10ppm、5ppm、2ppm、1ppmとなるように上記D-WNを添加した。それぞれに、0.5%SDS、0.2%Tween20、0.1%チオ硫酸ナトリウムを含むダルベッコPBSを抽出液として19mLを添加して沸騰水中で10分間抽出した後、1.0%BSA/PBSTで20倍希釈して各測定溶液とした。
【0082】
固相化抗体としてPDWN1を用い、HRP標識抗体としてPDWN2を用いる抗体組合せ1と、固相化抗体としてPDWN2を用い、HRP標識抗体としてPDWN1を用いる抗体組合せ2との2種類の組合せにより、前記一次抗体固相化反応、測定サンプルの添加、HRP標識抗体による反応、及び発色の手順に従い、ELISAアッセイを行った。
【0083】
前記標準溶液の測定で得られた検量線を用いて、各測定溶液中のクルミタンパク質濃度を直線回帰にて算出した。回収率の算出は、定量値/添加量×100とした。結果を以下の表2に示す。
【0084】
【0085】
(結果)
上記表2から明らかなとおり、添加濃度が10ppm、5ppm、2ppm、1ppmのいずれの場合もクルミアレルゲンを検出することができることが示された。したがって、クルミアレルゲンが1ppm~10ppm含まれる各種食品において、クルミアレルゲンを略100%検出できることが確認された。