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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101285
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】無線通信ネットワークシステム
(51)【国際特許分類】
   H04W 72/56 20230101AFI20240722BHJP
   H04W 28/02 20090101ALI20240722BHJP
   H04W 76/30 20180101ALI20240722BHJP
   H04W 76/19 20180101ALI20240722BHJP
   H04W 24/08 20090101ALI20240722BHJP
【FI】
H04W72/56
H04W28/02
H04W76/30
H04W76/19
H04W24/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005183
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【弁理士】
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】木下 夢輝
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA21
5K067EE02
5K067EE10
5K067HH22
5K067LL11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】特定の無線端末の通信を優先的に行うことができる無線通信ネットワークシステムを提供する。
【解決手段】無線通信ネットワークシステムにおいて、制御装置であるアプリサーバ1とコアネットワーク装置2とが、複数の無線端末のうち通信を優先させたい特定の無線端末(優先端末)4aに関して取得した通信パフォーマンス情報を参照して、当該通信パフォーマンス情報がアプリケーションの要件を満たしているか否かを判定し、アプリケーションの要件を満たしていない場合は、当該優先端末4aの通信の優先度を、設定されているものより高くするよう変更する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信ネットワークを介して複数の無線端末の接続を制御する制御装置を有する無線通信ネットワークシステムであって、
前記制御装置は、特定の無線端末に関して取得した通信パフォーマンス情報を参照して、当該通信パフォーマンス情報が特定の要件を満たしているか否かを判定し、前記特定の要件を満たしていない場合は、前記特定の無線端末の通信の優先度を設定されているものより高くするよう変更することを特徴とする無線通信ネットワークシステム。
【請求項2】
前記制御装置は、再度、前記特定の無線端末に関する通信パフォーマンス情報を取得し、当該通信パフォーマンス情報が特定の要件を満たしているか否かを判定し、前記特定の要件を満たしていない場合は、前記特定の無線端末以外の無線端末の優先度を設定されているものより低くするよう変更することを特徴とする請求項1記載の無線通信ネットワークシステム。
【請求項3】
前記制御装置は、再再度、前記特定の無線端末に関する通信パフォーマンス情報を取得し、当該通信パフォーマンス情報が特定の要件を満たしているか否かを判定し、前記特定の要件を満たしていない場合は、前記特定の無線端末以外の無線端末の接続を切断することを特徴とする請求項2記載の無線通信ネットワークシステム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記特定の無線端末の通信パフォーマンス情報が特定の要件を満たさない状態から満たす状態になった場合は、接続を切断した無線端末を無線通信ネットワークに接続可能とすることを特徴とする請求項3記載の無線通信ネットワークシステム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記特定の無線端末の通信パフォーマンス情報が特定の要件を満たさない状態から満たす状態になった場合は、通信の優先度を変更した無線端末について変更前の優先度に戻すことを特徴とする請求項1又は2記載の無線通信ネットワークシステム。
【請求項6】
無線通信ネットワークを介して複数の無線端末の接続を制御する制御装置を有する無線通信ネットワークシステムであって、
前記制御装置は、特定の無線端末の通信パフォーマンス情報に基づいて、前記無線端末の優先度を動的に変更することを特徴とする無線通信ネットワークシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信ネットワークシステムに係り、特に、特定の無線端末の通信を優先的に行うことができる無線通信ネットワークシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
[従来の技術]
5G(5th Generation)を用いた無線通信ネットワークシステムにおけるデータ通信では、端末の通信の優先度を決める値である5QI(5G QoS Identifier)が端末に固定的に割り当てられる。
5QIの優先度が高いほど無線リソースが多く分配され、5QIの優先度が低ければ、無線リソースの分配は少なくなる。
そのため、優先的に通信させたい端末がある場合、予め当該端末(特定の端末)に対して、優先度の高い5QIを設定しておく。
【0003】
しかし、複数の端末が接続されて、同時に通信を行う場合には、トラフィックが輻輳して、特定の端末に高い5QIを付与していても、アプリケーションの要件を満たすパフォーマンスが得られない場合がある。
【0004】
[関連技術]
尚、関連する先行技術として、特開平11-163947号公報「ゲートウェイ装置、無線端末装置、ルータ装置および通信ネットワークのゲートウェイ制御方法」(特許文献1)、特開2015-192210号公報「端末装置、通信制御システム及び通信制御方法」(特許文献2)がある。
【0005】
特許文献1には、有線網に接続された端末のトランスポート層の実装を変更することなく、有線端末と無線端末間のトランスポート層コネクションをアプリケーションに適した形で設定し、通信の性能を向上させるゲートウェイ装置が示されている。
【0006】
特許文献2には、接続切替部が、アプリケーションレイヤにおいて確立したセッションを保持した状態で、所定時間経過後に、物理レイヤにおいて他の周辺機器の接続を切断し、所望の周辺機器に接続を切り替える端末装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-163947号公報
【特許文献2】特開2015-192210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来の無線通信ネットワークシステムでは、複数の移動局の無線端末が同時に通信を行う場合に、トラフィックが輻輳して、特定の無線端末に高い通信の優先度を付与しても、通信アプリケーションの要件を満たすパフォーマンスが得られず、優先的に通信できないという問題点があった。
【0009】
具体的には、通信を優先させたい特定の無線端末以外の無線端末が特定時間に数多く接続されて同時に通信を行えば、無線通信の帯域を十分に確保することが困難となり、また、特定の無線端末以外の無線端末の優先度が相対的に高い場合には、同様に無線通信の帯域を十分に確保することが困難となり、特定の無線端末の通信のパフォーマンスを得られないものとなっていた。
【0010】
尚、特許文献1,2には、特定の無線端末の通信のパフォーマンスに応じて、特定の無線端末や他の無線端末の通信の優先度を変更する構成の記載がない。
【0011】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、同時に接続された複数の無線端末の通信優先度を動的に制御することで、特定の無線端末において常に十分な通信パフォーマンスを得ることができる無線通信ネットワークシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、無線通信ネットワークを介して複数の無線端末の接続を制御する制御装置を有する無線通信ネットワークシステムであって、制御装置は、特定の無線端末に関して取得した通信パフォーマンス情報を参照して、当該通信パフォーマンス情報が特定の要件を満たしているか否かを判定し、特定の要件を満たしていない場合は、特定の無線端末の通信の優先度を設定されているものより高くするよう変更することを特徴としている。
【0013】
また、本発明は、上記無線通信ネットワークにおいて、制御装置は、再度、特定の無線端末に関する通信パフォーマンス情報を取得し、当該通信パフォーマンス情報が特定の要件を満たしているか否かを判定し、特定の要件を満たしていない場合は、特定の無線端末以外の無線端末の優先度を設定されているものより低くするよう変更することを特徴としている。
【0014】
また、本発明は、上記無線ネットワークシステムにおいて、制御装置は、再再度、特定の無線端末に関する通信パフォーマンス情報を取得し、当該通信パフォーマンス情報が特定の要件を満たしているか否かを判定し、特定の要件を満たしていない場合は、特定の無線端末以外の無線端末の接続を切断することを特徴としている。
【0015】
また、本発明は、上記無線ネットワークシステムにおいて、制御装置は、特定の無線端末の通信パフォーマンス情報が特定の要件を満たさない状態から満たす状態になった場合は、接続を切断した無線端末を無線通信ネットワークに接続可能とすることを特徴としている。
【0016】
また、本発明は、上記無線ネットワークシステムにおいて、制御装置は、特定の無線端末の通信パフォーマンス情報が特定の要件を満たさない状態から満たす状態になった場合は、通信の優先度を変更した無線端末について変更前の優先度に戻すことを特徴としている。
【0017】
また、本発明は、無線通信ネットワークを介して複数の無線端末の接続を制御する制御装置を有する無線通信ネットワークシステムであって、制御装置は、特定の無線端末の通信パフォーマンス情報に基づいて、無線端末の優先度を動的に変更することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、無線通信ネットワークを介して複数の無線端末の接続を制御する制御装置を有する無線通信ネットワークシステムであって、制御装置は、特定の無線端末に関して取得した通信パフォーマンス情報を参照して、当該通信パフォーマンス情報が特定の要件を満たしているか否かを判定し、特定の要件を満たしていない場合は、特定の無線端末の通信の優先度を設定されているものより高くするよう変更する無線ネットワークシステムとしているので、特定の無線端末に無線リソースをより多く割り当てることができ、データ通信において、優先して通信したい無線端末で通信アプリケーションの要件を満たすよう、パフォーマンスを向上させることができる効果がある。
【0019】
また、本発明によれば、制御装置は、再度、特定の無線端末に関する通信パフォーマンス情報を取得し、当該通信パフォーマンス情報が特定の要件を満たしているか否かを判定し、特定の要件を満たしていない場合は、特定の無線端末以外の無線端末の優先度を設定されているものより低くするよう変更する上記無線通信ネットワークとしているので、特定の無線端末の通信の優先度を相対的に高くして、更に多くの無線リソースを割り当て、優先して通信したい無線端末で通信アプリケーションの要件を満たすよう、パフォーマンスを向上させることができる効果がある。
【0020】
また、本発明によれば、制御装置は、再再度、特定の無線端末に関する通信パフォーマンス情報を取得し、当該通信パフォーマンス情報が特定の要件を満たしているか否かを判定し、特定の要件を満たしていない場合は、特定の無線端末以外の無線端末の接続を切断する上記無線通信ネットワークとしているので、特定の無線端末に一層多くの無線リソースを割り当て、優先して通信したい無線端末で通信アプリケーションの要件を満たすパフォーマンスを得ることができる効果がある。
【0021】
また、本発明によれば、特定の無線端末の通信パフォーマンス情報が特定の要件を満たさない状態から満たす状態になった場合は、接続を切断した無線端末を無線通信ネットワークに接続可能とする上記無線ネットワークシステムとしているので、一旦接続が切断刺された無線端末が迅速に通信に復帰できるようにして、システム全体の通信サービスを良好にすることができる効果がある。
【0022】
また、本発明によれば、制御装置は、特定の無線端末の通信パフォーマンス情報が特定の要件を満たさない状態から満たす状態になった場合は、通信の優先度を変更した無線端末について変更前の優先度に戻す上記無線ネットワークシステムとしているので、状況に応じて柔軟に優先度を設定して、システム全体の通信サービスを良好にすることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本システムの構成概略図である。
図2】第1の処理(優先端末の通信の優先度を高くする処理)のフローチャートである。
図3】第2の処理(非優先端末の優先度を低くする処理)のフローチャートである。
図4】第3の処理(非優先端末の接続を切断する処理)のフローチャートである。
図5】第1の処理のシーケンスを示す説明図である。
図6】第2の処理のシーケンスを示す説明図である。
図7】第3の処理のシーケンスを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る無線通信ネットワークシステム(本システム)は、無線通信ネットワークを介して複数の無線端末の接続を制御する制御装置を有し、制御装置は、特定の無線端末に関して取得した通信パフォーマンス情報を参照して、当該通信パフォーマンス情報がアプリケーションの要件を満たしているか否かを判定し、アプリケーションの要件を満たしていない場合は、当該特定の無線端末の通信の優先度を、設定されているものより高くするよう変更するものであり、同時に接続された複数の無線端末の通信優先度を動的に制御優先的に通信させたい特定の無線端末の通信の優先度を上げることで無線リソースがより多く分配されるようにして、通信パフォーマンスを向上させるものである。
【0025】
また、本システムは、特定の無線端末の通信の優先度を高くしても、通信パフォーマンス情報がアプリケーションの要件を満たさない場合には、特定の無線端末以外の通信の優先度を低くするよう変更するものであり、特定の無線端末に更に多くの無線リソースが分配されるようにして、通信パフォーマンスを向上させるものである。
【0026】
また、本システムは、特定の無線端末以外の通信の優先度を低くするよう変更しても、依然として特定の無線端末の通信パフォーマンス情報がアプリケーションの要件を満たさない場合には、特定の無線端末以外の接続を切断するものであり、他の無線端末には無線リソースを分配せず、特定の無線端末が十分な無線リソースを利用して、確実に良好な通信パフォーマンスが得られるようにするものである。
【0027】
[本システムの構成:図1
本システムの構成について図1を参照しながら説明する。図1は、本システムの構成概略図である。
本システムは、図1に示すように、通信アプリケーションサーバ(アプリサーバ)1と、コアネットワーク装置2と、基地局3と、複数の無線端末4(4a,4b,4c)とを有している。
尚、アプリサーバ1とコアネットワーク装置2とを合わせて請求項では「制御装置」と記載している。また、本システムでは通信方式として5Gを用いたネットワークシステムを例として説明するが、通信方式は5Gに限るものではない。
【0028】
[各部]
本システムの各部について具体的に説明する。
アプリサーバ1は、本システムの特徴部分であり、複数の無線端末4とデータ通信を行うと共に、無線端末4の5QI(通信の優先度)を制御する。
特に、アプリサーバ1は、優先的に通信させたい特定の無線端末4の通信のパフォーマンスがアプリケーションの要件を十分満たして良好な通信が行えるよう、5QIの制御を行う。アプリサーバ1の処理については後述する。
【0029】
コアネットワーク装置2は、基幹通信網の制御装置であり、ゲートウェイ、ルータ、スイッチ等を備えて交換制御や転送の制御等を行う。
また、コアネットワーク装置2は、各無線端末4に対応する5QIを管理しており、無線端末が接続される度に5QIを付与し、優先度に応じて通信を行わせる。
【0030】
具体的には、コアネットワーク装置2は接続している無線端末4の識別番号であるIMSI(International Mobile Subscriber Identity)と5QIの値(優先度)とを対応付けて記憶している。
そして、本システムの特徴として、コアネットワーク装置2は、アプリサーバ1の指示に基づいて、各無線端末4の通信の優先度である5QIの値を上げ下げして更新し、各無線端末4の通信開始時には更新された優先度で通信を行わせる。
【0031】
基地局3は、無線通信システムの基地局装置であり、圏内の無線端末4と無線通信を行い、コアネットワーク装置2と有線通信を行う。
無線端末4は、移動局装置であり、移動局41と、アプリクライアント42とを備えている。
移動局41は、無線通信部及び信号処理部を備え、無線通信に伴う信号処理を行って基地局3と無線通信を行う。
アプリクライアント42は、無線端末4でアプリケーションを実現する処理部である。
【0032】
[アプリサーバ1における動作]
本システムのアプリサーバ1の動作について説明する。
特定の無線端末4の通信を優先させる場合、まず、アプリサーバ1は、優先する対象の無線端末4の識別番号と通信アプリケーションに応じて必要とされるパフォーマンスの要件とを記憶しておく。本実施の形態では、通信を優先する対象(優先端末)を無線端末4aとする。無線端末4aを優先端末4aと称することもある。
【0033】
そして、アプリサーバ1は、コアネットワーク装置2のAPI(Application Programming Interface)や、アプリサーバ1のインタフェースをモニタすることで、優先端末4aの通信のパフォーマンス(通信パフォーマンス)を取得し、記憶されたパフォーマンスの要件と比較する。
通信パフォーマンスの要件としては、スループット性能、遅延時間性能、ジッタ特性等があり、適用されるシステムに応じて適宜選択可能である。
【0034】
そして、優先端末4aの通信パフォーマンスが要件を満たしていない場合には、アプリサーバ1は、以下の第1~第3の処理を行う。第1の処理を行っても要件を満たさない場合に第2の処理を行い、それでも要件を満たさない場合には第3の処理を行うものである。
後述するように、第1の処理は、優先端末4aの5QIの優先度を上げる処理、第2の処理は、優先端末4a以外の無線端末4(非優先端末)の5QIの優先度を下げる処理、第3の処理は、非優先端末の接続を切断する処理である。
【0035】
[アプリサーバ1における処理:図2~4]
以下、本システムの第1~第3の処理について図2~4を参照しながら具体的に説明する。
図2は、第1の処理(優先端末の通信の優先度を高くする処理)のフローチャートであり、図3は、第2の処理(非優先端末の優先度を低くする処理)のフローチャートであり、図4は、第3の処理(非優先端末の接続を切断する処理)のフローチャートである。
尚、図2~4は、アプリサーバ1で実行される処理であり、連続して行われるものであるが、説明を容易にするために第1、第2、第3の処理として分けて説明する。
【0036】
また、ここでは、優先的に通信させたい無線端末4a(例えば映像伝送用のカメラ)と、それ以外の無線端末4b,4c(例えばスマートフォン)が同時に通信することによりトラフィックが輻輳し、優先端末4aで十分良好な通信パフォーマンスが得られない場合を例として説明する。
【0037】
[第1の処理:図2
まず、第1の処理について図2を用いて説明する。
図2に示すように、アプリサーバ1は、まず、優先的に通信させたい無線端末4の識別番号であるIMSI(International Mobile Subscriber Identity)と、優先端末に実現させるべき通信パフォーマンスの要件を設定する(100)。通信パフォーマンスの要件(単に「要件」と記載することがある)は、アプリケーションに応じて良好な通信を実現するために必要なパフォーマンスのしきい値である。
上述したように、通信パフォーマンスは、スループット、遅延、ジッタ等の特性を任意に設定可能であり、ここではスループットの値とする。また、ここでは優先端末を1台として説明するが、複数台指定してもよい。
【0038】
そして、アプリサーバ1は、設定されたトリガが発生すると、インタフェースをモニタして、優先端末の通信パフォーマンス情報を取得する(102)。また、優先端末の通信パフォーマンス情報をコアネットワーク装置2のAPI等を通じて取得してもよい。
トリガとしては、開始コマンドの入力や、優先端末として設定された無線端末4(優先端末4aとする)のデータ通信開始があり、任意に実装可能である。
【0039】
次に、アプリサーバ1は、取得した優先端末のパフォーマンス情報と記憶している要件とを比較し、優先端末のパフォーマンス情報が要件を満たしているか(しきい値以上であるか)どうかを判断する(104)。
ステップ104で優先端末のパフォーマンス情報が要件を満たしている場合には、アプリサーバ1は、処理102に戻って優先端末4aのパフォーマンスを監視する。
また、ステップ104で優先端末のパフォーマンス情報が要件を満たしていない場合には、アプリサーバ1は、コアネットワーク装置2から、優先端末の現在の5QIの値を取得する(106)。
【0040】
アプリサーバ1は、取得した現在の5QIの値が優先度の最高値であるか否かを判断し(108)、最高値でなければ(Noの場合)、まだ優先度を上げる余裕があるため、アプリサーバ1は、コアネットワーク装置2に対して優先端末の5QIの優先度を上げるよう指示し(110)、ステップ102に移行する。
ここで、上げ幅は予めアプリサーバ1とコアネットワーク装置2との間で取り決めておくものとする。
【0041】
また、ステップ108で、優先端末の現在の優先度が最高値である場合には(Yesの場合)、これ以上優先端末の優先度を上げることはできないので、アプリサーバ1は、図3に示す第2の処理に移行する(A)。
このようにしてアプリサーバ1における第1の処理が行われる。
【0042】
[第2の処理:図3
次に、第2の処理について図3を用いて説明する。
図2に示した第1の処理において、処理108で現在優先端末の優先度が最高値であった場合、Aに移行して、図3に示す第2の処理が開始される。
図3に示すように、第2の処理では、アプリサーバ1は、コアネットワーク装置2から現在接続されている全ての無線端末4のIMSI(識別番号)と5QIの値を取得する(200)。
ここで、アプリサーバ1は、取得したIMSIごとに、本来の5QIの値、及び5QIの変遷をテーブル等で履歴情報として時系列に記憶しておく(時系列履歴テーブル)。
【0043】
そして、アプリサーバ1は、接続中の全ての非優先端末(優先端末ではない無線端末4)の5QIの優先度が最低値であるかどうかを判断し(202)、全ての非優先端末の優先度が最低値でない場合(Noの場合)には、コアネットワーク装置2に対して特定の非優先端末の5QIの優先度を下げるように指示を出力する(204)。
【0044】
その際、優先度を下げる非優先端末は、ランダムに選択してもよいし、一定の優先度以上が設定されている非優先端末から下げてもよいし、逆に優先度の低いものから順に指定して下げてもよい。更に、接続中の全ての非優先端末の優先度を一斉に下げてもよい。
また、下げ幅は予め設定しておくものとする。これらは、任意に設定可能である。
【0045】
ここで、アプリサーバ1は、ステップ204を行う度に、全ての接続中の無線端末4のIMSIと5QIの値を履歴情報の時系列履歴テーブルに追加して記憶しておく。これにより、後述するように、一旦下げた優先度を元に戻す処理を可能とするものである。
【0046】
また、ステップ202で全ての非優先端末の5QIの優先度が最低値であった場合には(Yesの場合)、これ以上非優先端末の優先度を下げることはできないので、アプリサーバ1は、図4の第3の処理に移行する(B)。
【0047】
そして、アプリサーバ1は、優先端末のパフォーマンス情報を取得し(206)、優先端末のパフォーマンス情報が要件を満たしているかどうかを判断し(208)、要件を満たしている場合には(Yesの場合)、図2の処理102に移行する(C)。
【0048】
また、ステップ208で優先端末4aのパフォーマンス情報が要件を満たしていない場合には(Noの場合)、ステップ200に移行して、第2の処理を繰り返す。
このようにしてアプリサーバ1における第2の処理が行われる。
【0049】
[第3の処理:図4
次に、第3の処理について図4を用いて説明する。
図3に示した第2の処理において、ステップ202で全ての非優先端末の優先度が最低値であった場合、Bに移行して、図4に示す第3の処理が開始される。
図4に示すように、第3の処理が開始されると、アプリサーバ1は、非優先端末の接続を切断するよう、コアネットワーク装置2に指示を出力する(300)。
接続を切断する非優先端末は、第2の処理と同様に、ランダムに選択してもよいし、優先度の低いものから順に切断してもよいし、全ての非優先端末を一斉に切断してもよい。
【0050】
そして、アプリサーバ1は、優先端末4aのパフォーマンス情報を取得し(302)、通信パフォーマンスの要件を満たしているか否かを判断する(304)。
ステップ304で優先端末4aのパフォーマンス情報が要件を満たしていた場合(Yesの場合)、アプリサーバ1は、図2のステップ102に移行する(C)。
【0051】
また、ステップ304で優先端末4aのパフォーマンス情報が要件を満たしていなかった場合(Noの場合)、アプリサーバ1は、コアネットワーク装置2から現在接続されている全端末のIMSIを取得し(306)、現在接続中の端末の中に、非優先端末があるかどうかを判断し(308)、非優先端末があれば(Yesの場合)、ステップ300に戻って第3の処理を繰り返す。
また、ステップ308で非優先端末がなければ、処理を終わる。
このようにして、アプリサーバ1における第3の処理が行われるものである。
【0052】
尚、アプリサーバ1は、各無線端末4に対応して、時系列履歴テーブルにおいて優先度の履歴に加えて、切断の履歴も記憶しておき、履歴情報に切断の履歴が記憶されている各無線端末の接続を切断する指示を、コアネットワーク装置2へ一定時間ごとに繰り返し出力する。切断の履歴が残っている端末(時系列履歴テーブルにおいて切断の履歴が記憶されている端末)が再度接続されていた場合、コアネットワーク装置2はアプリサーバ1の指示に従って、当該無線端末の接続を切断する。この動作により、ステップ300で接続が切断された端末が意図せずネットワークに再接続された場合も、即座に接続が切断される。
尚、履歴情報として、時系列履歴テーブルの他に、現在切断されている無線端末のIMSIを記憶したテーブル(切断履歴テーブル)を備えておき、切断履歴テーブルに基づいて、切断する指示を繰り返し出力する処理を行ってもよい。
【0053】
[優先端末のパフォーマンスが改善した場合の制御]
尚、第1の処理において、優先端末4aの優先度を上げる制御を行った後で、再度優先端末4aのパフォーマンス情報を取得した際に、優先端末4aのパフォーマンス情報が要件を必要以上に上回っていた場合には、アプリサーバ1は、コアネットワーク装置2に対して、一旦上げた優先端末4aの優先度を、元(本来の優先度)に戻すよう下げる指示を出力してもよい。その際には、アプリサーバ1は、記憶している優先度の履歴に基づいて制御を行う。
これにより、優先端末4aに無駄に多くのリソースを分配することなく、柔軟な制御を可能として、システム全体で良好なパフォーマンスが得られるものである。
【0054】
同様に、第2の処理においては、優先端末4aのパフォーマンス情報が要件を必要以上に上回っていた場合には、アプリサーバ1は、一旦下げた非優先端末の優先度を、履歴情報に基づいて元に戻すように上げる指示をコアネットワーク装置2に出力してもよい。
その際、1回に制御する非優先端末の台数や、優先度を段階的に上げるか、一度に上げるかといった方法は任意に設定可能である。
【0055】
更に、第3の処理においては、アプリサーバ1は、一旦切断された非優先端末を再度接続可能とする処理を行ってもよい。
具体的には、時系列履歴テーブルに切断履歴がある場合、再接続を可能とする際には、時系列履歴テーブルの当該切断履歴にフラグ等を付して、コアネットワーク装置2に対して繰り返し出力している“端末の接続を切断する指示”を停止する。フラグが付された切断履歴は、復帰済みとして、当該非優先端末に対する“端末の接続を切断する指示”の出力の対象外とするものである。
または、切断履歴テーブルにおいて、再接続させる非優先端末のIMSIを削除することで、コアネットワーク装置2への“端末の接続を切断する指示”を停止してもよい。これにより、コアネットワーク装置2が当該非優先端末をネットワークに接続可能とするものである。切断履歴テーブルを用いると、時系列履歴テーブルを用いるよりも、再接続の処理を簡易に行うことができるものである。
尚、接続を切断する指示が停止された非優先端末について、通信のパフォーマンス状況に応じて、履歴情報に基づき優先度を段階的に上げる又は元に戻す処理を行ってもよい。
【0056】
上述したように、本システムでは、無線端末4の優先度を動的に変更することを繰り返すことで、無線通信ネットワークにおける各無線端末4を最適な優先度に落ち着かせることができ、無線通信ネットワークの安定性を向上させ、良好な通信を実現することができる。
【0057】
次に、第1~第3の処理について、コアネットワーク装置2を含めたシーケンスを説明する。
[第1の処理のシーケンス:図5
まず、第1の処理のシーケンスについて図5を用いて説明する。図5は、第1の処理のシーケンスを示す説明図である。
図5に示すように、アプリサーバ1は、優先端末4aとUL(Up Link)/DL(Down Link)でユーザデータのやり取りを行うと(S11)、当該通信について通信パフォーマンス情報を取得する(S12)。
【0058】
そして、アプリサーバ1は、パフォーマンス判定を行い、その結果がアプリケーションの通信パフォーマンスの要件を満たさず、不満足であった場合(S13)、コアネットワーク装置2から現在優先端末4aに割り当てられている5QIを取得する(S14)。
アプリサーバ1は、当該5QIの優先度が最高値ではない場合(S15)、コアネットワーク装置2に対して優先端末4aのIMSIを付して、5QIの優先度を上げるよう5QI変更要求を出力する(S16)。
【0059】
コアネットワーク装置2は、5QI変更要求を受信すると、変更要求に含まれるIMSIに対応する優先端末4aの5QIの優先度を、所定の上げ幅で上げて更新する。
そして、次に優先端末4aの通信が発生した際に、更新した5QIの優先度で通信を行わせる(S17)。
このようにして第1の処理のシーケンスが行われる。
【0060】
[第2の処理のシーケンス:図6
次に、第2の処理のシーケンスについて図6を用いて説明する。図6は、第2の処理のシーケンスを示す説明図である。
図6に示すように、アプリサーバ1は、図5に示した第1の処理のシーケンスの後で優先端末4aとUL/DLでユーザデータのやり取りを行って(S21)、優先端末4aのパフォーマンス情報が要件を満たしていない場合、コアネットワーク装置2から優先端末4aに割り当てられている5QIの値を取得する。
そして、優先端末4aの優先度が最高値であった場合には(S22)、現在ネットワークに接続されている全ての端末のIMSIとその5QIの値を取得する(S23)。
【0061】
そして、アプリサーバ1は、全ての非優先端末に割り当てられている5QIの優先度が最低ではない場合には(S24)、コアネットワーク装置2に対して特定の非優先端末の優先度を下げるよう、5QI変更要求を出力する(S25)。図6では、特定の非優先端末を非優先端末4bとしている。
上述したように、優先度を下げる非優先端末の選択方法は、予め任意に設定可能であり、各無線端末4の5QIの優先度を変更する度に優先度変遷の履歴を時系列履歴テーブルに保存しておく。
【0062】
コアネットワーク装置2は、5QI変更要求を受信すると、変更要求に含まれるIMSIに対応する非優先端末4bの5QIの優先度を、所定の下げ幅で下げて更新する。
そして、該当する非優先端末4bの通信が次に発生した際に、更新した5QIの優先度で通信を行わせる(S26)。
このようにして第2の処理のシーケンスが行われる。
【0063】
[第3の処理のシーケンス:図7]
次に、第3の処理のシーケンスについて図7を用いて説明する。図7は、第3の処理のシーケンスを示す説明図である。
図7に示すように、アプリサーバ1は、図6に示した第2の処理のシーケンスの後で優先端末4aとUL/DLでユーザデータのやり取りを行い(S31)、優先端末4aのパフォーマンス情報が要件を満たしておらず、全ての非優先端末に割り当てられている5QIの優先度が最低であると(S32)、コアネットワーク装置2に対して特定の非優先端末のPDU(Protocol Data Unit)セッションを切断するよう要求する(PDUセッション切断要求、S33)。図7では、特定の非優先端末を非優先端末4bとしている。
アプリサーバ1は、特定の非優先端末4bの接続を切断したことを履歴情報として時系列履歴テーブル、切断履歴テーブルに保存しておく。
【0064】
コアネットワーク装置2は、PDUセッション切断要求を受信すると、切断要求に含まれるIMSIに対応する非優先端末4bの接続を切断する(PDUセッション切断)。
このようにして第3の処理のシーケンスが行われる。
【0065】
[実施の形態の効果]
本無線通信ネットワークシステムによれば、無線通信ネットワークを介して複数の無線端末とデータ通信を行うアプリサーバ1を有し、アプリサーバ1は、通信を優先させたい特定の無線端末(優先端末)4aに関して取得した通信パフォーマンス情報を参照して、当該通信パフォーマンス情報がアプリケーションの要件を満たしているか否かを判定し、アプリケーションの要件を満たしていない場合は、当該優先端末4aの通信の優先度を、設定されているものより高くして変更するようコアネットワーク装置2に指示し、コアネットワーク装置2が、優先端末4aの優先度を上げて更新するシステムとしているので、同時に接続された複数の無線端末の通信優先度を動的に制御することで、優先端末4aに無線リソースをより多く分配して、通信パフォーマンスを向上させることができる効果がある。
【0066】
また、本システムによれば、優先端末4aの優先度を上げても、まだ優先端末4aの通信パフォーマンス情報がアプリケーションの要件を満たしていない場合には、アプリサーバ1は、コアネットワーク装置2に非優先端末の優先度を下げるよう指示を出力するシステムとしているので、非優先端末に割り当てられる無線リソースを低減し、その分、優先端末4aに割り当てられる無線リソースを増大させて、優先端末4aの通信パフォーマンスを向上させることができる効果がある。
【0067】
また、本システムによれば、非優先端末の優先度を下げても、まだ優先端末4aの通信パフォーマンス情報がアプリケーションの要件を満たしていない場合には、アプリケーションサーバ1は、コアネットワーク装置2に対して、非優先端末の接続を切断するよう指示を出力するシステムとしているので、優先端末4aが無線リソースを最優先で使用でき、通信パフォーマンスを一層向上させて、アプリケーションに応じた良好な通信パフォーマンスを実現することができる効果がある。
【0068】
更に、本システムによれば、アプリケーションサーバ1が、各無線端末4の優先度を制御する際に、各無線端末4の本来の優先度と、優先度の変遷の履歴を記憶しているので、上述した動作を行った結果、優先端末4aの通信パフォーマンス情報が必要以上に向上した場合には、優先端末4aの優先度を元の値に下げたり、優先度を下げた非優先端末の優先度を元の値に戻したりするシステムとしているので、優先度を柔軟に制御して良好な通信を実現することができる効果がある。
【0069】
更にまた、本システムは、ローカル5G等の閉鎖ネットワークに限らず、一般の公衆回線網に適用することも可能であり、特に災害時等に、限られた無線リソースを、例えば行政や災害復旧に関わる優先端末等に多く割り当てることで、被災者支援や復旧業務を効率良く進めることができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、特定の無線端末の通信を優先的に行うことができる無線通信ネットワークシステムに適している。
【符号の説明】
【0071】
1…アプリサーバ、 2…コアネットワーク装置、 3…基地局、 4…無線端末、 4a…優先端末、 4b,4c…非優先端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7