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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101305
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/60 20060101AFI20240722BHJP
   C07C 39/07 20060101ALI20240722BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240722BHJP
【FI】
C07C37/60
C07C39/07
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005210
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古家 吉朗
(72)【発明者】
【氏名】小谷 和広
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC41
4H006BA10
4H006BA33
4H006BA35
4H006BA71
4H006BC31
4H006BE32
4H006DA12
4H006FC52
4H006FE13
4H039CA60
4H039CC30
(57)【要約】
【課題】従来の製造方法に比べて高い選択率および高い収率で芳香族ヒドロキシ化合物を製造する方法を提供すること。
【解決手段】周期表の3~5族および13~15族からなる群より選ばれる金属元素を含むシリケート(A)と、過酸化水素(B)と、含炭素置換基を含有する芳香族炭化水素化合物(C)と、25℃水溶液でのpKaが0.5~4.2の範囲内である化合物(D)とを接触させて、かつ、下記(α)および(β)の要件を満たす条件で反応させる工程を含む芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法;
(α)前記シリケート化合物(A)中の金属元素に対する前記化合物(D)の質量比((D)/(A))が0.1~25質量%である;
(β)前記芳香族炭化水素化合物(C)に対する前記過酸化水素(B)のモル比((B)/(C))が1/150~10/1である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表の3~5族および13~15族からなる群より選ばれる金属元素を含むシリケート(A)と、
過酸化水素(B)と、
含炭素置換基を含有する芳香族炭化水素化合物(C)と、
25℃水溶液でのpKaが0.5~4.2の範囲内である化合物(D)と、を接触させて、かつ、下記(α)および(β)の要件を満たす条件で反応させる工程を含む、芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法;
(α)前記シリケート(A)中の金属元素に対する前記化合物(D)の質量比((D)/(A))が0.1~25質量%である;
(β)前記芳香族炭化水素化合物(C)に対する前記過酸化水素(B)のモル比((B)/(C))が1/150~10/1である。
【請求項2】
前記化合物(D)が無機酸である、請求項1に記載の芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法。
【請求項3】
前記化合物(D)がリン酸である、請求項1に記載の芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法。
【請求項4】
前記芳香族炭化水素化合物(C)が、一分子中、2個以上の含炭素置換基を含む芳香族炭化水素化合物である、請求項1に記載の芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法。
【請求項5】
前記(α)および前記(β)に加え、下記(γ)の要件をさらに満たす、請求項1に記載の芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法;
(γ)前記シリケート(A)、前記過酸化水素(B)、前記芳香族炭化水素化合物(C)および前記化合物(D)の総質量に対する前記シリケート(A)の質量比が0.1~30質量%である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化水素基などの含炭素置換基を有する芳香族炭化水素化合物と過酸化水素とを反応させることにより、芳香族ヒドロキシ化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クレゾールなどの含炭素置換基を有する芳香族ヒドロキシ化合物は、医薬品、食品、サプリメント、飼料などの用途において種々の有機合成中間体または原料物質として重要である。そのため、このような芳香族ヒドロキシ化合物を製造する方法は、多様な構造の化合物を効率的に製造できる方法提供するための開発が継続的になされている分野である。
芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法としては、フェノール類に置換基を導入させる方法と、置換基を含有する芳香族炭化水素化合物にヒドロキシ基を導入する方法とに大別することができる。前者の方法としては例えば、フェノールやクレゾールとプロピレンなどのオレフィンとを反応させる方法が知られている。また、後者の他の方法として、置換基を有する芳香族化合物と過酸化水素とを酸触媒存在下に反応させる方法が知られている。
例えば、特許文献1には、キシレンなどの置換基含有芳香族化合物と過酸化水素とを、トリフルオロ酢酸およびフッ化水素の存在下で反応させる方法が開示されている。特許文献1に開示された方法では、過酸化水素ベースの収率、目的とする芳香族モノヒドロキシ化合物の選択率も高いことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭52-17015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フェノール類に置換基を導入させて芳香族ヒドロキシ化合物を合成する方法は、複数種の異性体や副生成物が発生することが多い。置換基を含有する芳香族炭化水素化合物にヒドロキシ基を導入して芳香族ヒドロキシ化合物を合成する方法としては、置換基含有芳香族ハロゲン化物の加水分解法が知られている。この加水分解法は、適用できる化合物の範囲が狭い傾向があるとされている。置換基を有する芳香族化合物と過酸化水素とを酸触媒存在下に反応させる方法でも複数種の化合物が生成し、選択性に目的とする化合物を効率的に製造し難い傾向があると言われている。このように、従来の芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法には、過酸化水素ベースでの収率の改善が必要な場合も含め、高収率および高選択率を両立できる芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法は少ない。
【0005】
また、特許文献1に記載の芳香族モノヒドロキシ化合物の製造方法は原料であるフッ化物が高価であることや、反応器の使用に制約が生じるなどの課題がある。また、特許文献1に記載の製造方法は反応性が高過ぎるため、低温(例えば、0℃以下)での反応が必要とされており、工業化の面では不利である。このような事情を鑑み、本発明の一実施形態は、従来の製造方法に比べて高い選択率および高い収率で芳香族ヒドロキシ化合物を工業的に好適な条件でも製造できる方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために検討した結果、特定の金属元素を含むシリケートと特定の範囲のpKa値を示す化合物との存在下において、置換基を含有する芳香族炭化水素化合物と過酸化水素とを反応させることで、従来の製造方法に比べて高い収率および選択率で芳香族ヒドロキシ化合物を製造できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、固体酸触媒を用いて工業化に好適な温度(例えば、100℃前後の温度範囲)でも反応することができ、目的とする芳香族ヒドロキシ化合物を高い選択性で製造できる方法である。
【0007】
即ち、本発明は、下記の要件によって特定される。
<1> 周期表の3~5族および13~15族からなる群より選ばれる金属元素を含むシリケート(A)と、
過酸化水素(B)と、
含炭素置換基を含有する芳香族炭化水素化合物(C)と、
25℃水溶液でのpKaが0.5~4.2の範囲内である化合物(D)と、を接触させて、かつ、下記(α)および(β)の要件を満たす条件で反応させる工程を含む、芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法;
(α)前記シリケート(A)中の金属元素に対する前記化合物(D)の質量比((D)/(A))が0.1~25質量%である;
(β)前記芳香族炭化水素化合物(C)に対する前記過酸化水素(B)のモル比((B)/(C))が1/150~10/1である。
<2> 前記化合物(D)が無機酸である、<1>に記載の芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法。
<3> 前記化合物(D)がリン酸である、<1>または<2>に記載の芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法。
<4> 前記芳香族炭化水素化合物(C)が、一分子中、2個以上の含炭素置換基を含む芳香族炭化水素化合物である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法。
<5> 前記(α)および前記(β)に加え、下記(γ)の要件をさらに満たす、<1>~<4>のいずれか1つに記載の芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法;
(γ)前記シリケート(A)、前記過酸化水素(B)、前記芳香族炭化水素化合物(C)および前記化合物(D)の総質量に対する前記シリケート(A)の質量比が0.1~30質量%である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、従来の製造方法に比べて高い選択率および高い収率で芳香族ヒドロキシ化合物を工業的に好適な条件でも製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の内容の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されることはない。
本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後いずれか一方に記載される単位は、特に断りがない限り同じ単位を示すことを意味する。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0010】
本発明の芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう場合がある。)は、前記の通り、周期表の3~5族、および、13~15族元素からなる群より選ばれる金属元素を含むシリケート(A)と、過酸化水素(B)と、含炭素置換基を含む芳香族化合物(C)と25℃水溶液でのpKaが0.5~4.2の範囲である化合物(D)とを接触させて、後述する(α)および(β)の要件を満たす条件で反応する工程(以下、単に「反応工程」ともいう場合がある。)を含む芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法である。本発明の芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法は、特定のpKaの範囲の化合物を用いることによって、前記のような工業化に有利な条件下で高い収率および高い選択率で芳香族ヒドロキシ化合物を製造することができる。このため、本発明の製造方法は工業的に効率よく芳香族ヒドロキシ化合物を製造するのに重要な意味を持つ。
以下、反応工程で用いられる各成分について説明する。
【0011】
<周期表の3~5族および13~15族元素からなる群より選ばれる金属元素を含むシリケート(A)>
シリケート(A)は、周期表の3~5族および13~15族元素からなる群より選ばれる金属元素を含むシリケートであれば特に制限なく用いることができる。シリケート(A)は好ましくは固体酸触媒の性質を示すものである。
前記金属元素の好ましい具体例としては、周期表3族元素であるのスカンジウムおよびイットリウム;同4族元素であるチタン、ジルコニウムおよびハフニウム;同5族元素であるバナジウムおよびニオブ、同13族元素であるアルミニウムガリウムおよびインジウム、同14族元素であるゲルマニウム、スズおよび鉛、同15族元素であるヒ素、アンチモンおよびビスマス等を挙げることができる。これらの中でも、金属元素としては、チタン、ジルコニウム、バナジウム、アルミニウム、スズ、アンチモン、または、ビスマスが好ましく、より好ましくはチタン、バナジウム、アルミニウム、または、ビスマスであり、さらに好ましくはチタン、または、アルミニウムであり、特に好ましくはチタンである。
【0012】
このような金属元素を含む固体酸としては、例えばTS-1と呼称されるチタノシリケートや、UZM-35型、MCM-68型、YNU-3型などのゼオライトベースのアルミノチタノシリケート等を挙げることができる。これらのシリケートは、例えば、特許第5734538号公報、国際公開第2019-225549号公報等に開示されたシリケートを挙げることができる。好適な一例として、前者のチタノシリケートについて以下に説明する。
【0013】
前記チタノシリケートの組成は(SiO2)x・(TiO2)(1-x)で示される構造のものを指す。この場合x/(1-x)の値の範囲は、好ましくは5~1000、より好ましくは10~500である。チタノシリケートは公知の方法により製造することができる。たとえば、米国特許第4,410,501号公報、Catalysis Today 147 (2009) 186-195等に記載されているようにケイ素のアルコキシドとチタンのアルコキシドを4級アンモニウム塩などの存在下、水熱合成する方法が一般的である。用いる4級アンモニウム塩がテトラプロピルアンモニウム塩の場合、得られるチタノシリケートがMFI(sコード)構造となり、好適に使用される。またMFI型チタノシリケートは、(SiO2)x・(TiO2)(1-x)が所定の範囲のものであれば、市販されているものを用いても差し支えない。
前記の金属元素がチタン以外の場合のSiとのモル比も、上記と同様の数値範囲であることが好ましい。
【0014】
また、触媒はそのままの形状で使用してもよいが、触媒の充填方式に合わせて成型して使用してもよい。これは形状を粒子が制御された粒子や錠剤であれば、例えば粒子凝集や、反応器の内壁への付着による反応性の低下の防止、抑制が期待される。
上記触媒の成型方法として具体的には、押し出し成型、打錠成型、転動造粒、噴霧造粒などが一般的である。固定床の方式で触媒を使用する場合は、成型方法としては押し出し成型および打錠成型が好ましい。懸濁床の方式の場合は成型方法としては噴霧造粒が好ましい。前記、噴霧造粒方法としては例えば、米国特許第4,701,428号公報等に記載されているようにあらかじめ調製したチタノシリケート懸濁液とシリカ等のケイ素原料を混合し、スプレードライヤーを用いて噴霧造粒を行う方法が一般的である。噴霧造粒方法での前記ケイ素原料は、いわゆるバインダーとしての働きを持つといわれている。バインダーとして機能することがあるシリケート(A)以外の原料(以下、「(a)成分」という場合がある。)としては、前記のシリカ等のケイ素原料の他、アルミナ類、カーボンブラック等のカーボン類や樹脂などの公知の材料を例示することができる。(a)成分は、シリケート(A)に対して不活性な成分であることが好ましい。そのような観点から(a)成分として特に好ましいのはシリカなどのケイ素原料が挙げられる。
一方、シリケート(A)自身がバインダーとして機能する場合もある。このような場合の(a)成分は、シリケート(A)よりも粒子径の小さなケイ素原料を用いることが好ましい。
このようなケイ素原料としては、ケイ素のアルコキシドやコロイダルシリカ、水中溶存シリカ、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)、ケイ酸カリウムなどを用いることができるが、触媒性能が十分に得られやすい観点から、不純物の少ないケイ素のアルコキシドやコロイダルシリカ、水中溶存シリカが好ましい。
【0015】
また、ケイ素原料は噴霧造粒後に乾燥や焼成を行ってもよい。噴霧造粒して成型された触媒の平均粒径は、好ましくは0.1μm~1000μm、より好ましくは5μm~100μmの範囲である。平均粒径が0.1μm以上であると触媒のろ過などのハンドリングがしやすいため好ましく、平均粒径1000μm以下であると触媒の性能が良く強度が高いため好ましい。
【0016】
シリケート(A)成分と(a)成分と合計質量に対する前記の(a)成分の質量比((a)/(A)+(a))は、通常0~99質量%であり、好ましい上限値は90質量%、より好ましくは70質量%、さらに好ましくは50質量%、特に好ましくは40質量%である。(a)成分を含む場合、上記質量比の好ましい下限値は1質量%、より好ましくは5質量%、さらに好ましくは8質量%、特に好ましくは10質量%である。
(a)成分およびシリケート(A)を併用すると、前記の粒子や錠剤などに成形した場合に強度が高く、形状が安定し、触媒性能が高く安定して発現する触媒とすることができる傾向がある。この理由は明らかではないが、シリケート(A)が凝集し難い等の理由で、触媒性能が発揮され易くなり、触媒性能の経時劣化がより抑制されると本発明者らは考えている。
【0017】
<(B)過酸化水素>
過酸化水素(B)は、市販品を含め、公知の品物を制限なく用いることができる。過酸化水素(B)は濃度によっては爆発性が高まる危険性があるので、市販品は通常、水溶液であり、様々な濃度の製品がある。本発明の製造方法で用いる過酸化水素の濃度は特に限定しないが、通常の30質量%濃度の水溶液を用いてもよいし、さらに高濃度の過酸化水素水をそのまま、あるいは反応系において不活性な溶媒で希釈して用いてもよい。希釈に用いる溶媒としては、例えば、アルコール類、水などが挙げられる。過酸化水素は一度に加えてもよいし、時間をかけて徐々に加えてもよい。
【0018】
<含炭素置換基を含有する芳香族炭化水素化合物(C)>
芳香族炭化水素化合物(C)は、基本骨格として、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン等の共鳴構造をとる炭素6員環が連続する構造(以下、単に「芳香族基本骨格」ということがある。)を有する。含炭素置換基を含有する芳香族炭化水素化合物(C)(以下、単に「芳香族炭化水素化合物(C)」という場合がある。」は、この芳香族基本骨格に含炭素置換基が結合した化合物である。
【0019】
芳香族基本骨格は、単環であってもよいし、縮合環であってもよいが、単環が好ましく、ベンゼン環であることがより好ましい。
【0020】
芳香族炭化水素化合物(C)の置換基の数としては、芳香族基本骨格の数(環員数)によって適宜選択することができるが、芳香族炭化水素化合物(C)は一分子中、好ましくは2個以上の含炭素置換基を含む。芳香族炭化水素化合物(C)の置換基の数の好ましい上限値は「環員数」によって異なるのは自明ある。例えば、単核の構造であるベンゼン骨格を有する構造の場合、好ましい上限値は4であり、より好ましくは3である。
【0021】
芳香族炭化水素化合物(C)が含有する含炭素置換基は、炭素原子を含む置換基であれば特に制限はなく、例えば、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基が示され、これらのうち2個以上が互いに連結していてもよい。
より具体的な含炭素置換基の好ましい例としては、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、炭化水素置換シリル基、炭化水素置換シロキシ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリーロキシ基、アリールチオ基、アシル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、イミド基、アミノ基、イミノ基、スルホンエステル基、スルホンアミド基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基、スルホ基、メルカプト基、アルミニウム含有基およびヒドロキシ基等が挙げられる。
【0022】
炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、n-ヘキシルなどの炭素原子数が好ましくは1~30、より好ましくは1~20、さらに好ましくは1~10の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基;ビニル、アリル(allyl)、イソプロペニルなどの炭素原子数が好ましくは2~30、より好ましくは2~20の直鎖状または分岐鎖状のアルケニル基;エチニル、プロパルギルなど炭素原子数が好ましくは2~30、より好ましくは2~20の直鎖状または分岐鎖状のアルキニル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アダマンチルなどの炭素原子数が好ましくは3~30、より好ましくは3~20の環状の飽和炭化水素基;シクロペンタジエニル、インデニル、フルオレニルなどの炭素原子数が好ましくは5~30の環状の不飽和炭化水素基;フェニル、ナフチル、ビフェニル、ターフェニル、フェナントリル、アントラセニルなどの炭素原子数が好ましくは6~30、より好ましくは6~20のアリール(aryl)基;トリル、イソプロピルフェニル、t-ブチルフェニル、ジメチルフェニル、ジ-t-ブチルフェニルなどのアルキル置換アリール基が挙げられる。
【0023】
前記の炭化水素基は、水素原子がハロゲンで置換されていてもよい。その具体例としては、トリフルオロメチル、ペンタフルオロフェニル、クロロフェニルなどの炭素原子数1~30、好ましくは1~20のハロゲン化炭化水素基が挙げられる。
【0024】
また、前記の炭化水素基は、水素原子が他の炭化水素基で置換されていてもよい。その具体例としては、ベンジル、クミル、ジフェニルエチル、トリチルなどのアリール基置換アルキル基が挙げられる。
【0025】
前記の炭化水素基は、さらに、ヘテロ環式化合物残基;アルコキシ基、アリーロキシ基、エステル基、エーテル基、アシル基、カルボキシ基、カルボナート基、ヒドロキシ基、ペルオキシ基、カルボン酸無水物基などの酸素含有基;アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、ヒドラジノ基、ヒドラゾノ基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、シアン酸エステル基、アミジノ基、ジアゾ基などおよびこれらの基が適宜形成する塩となったものなどの窒素含有基;ボランジイル基、ボラントリイル基、ジボラニル基などのホウ素含有基;メルカプト基、チオエステル基、ジチオエステル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、チオアシル基、チオエーテル基、チオシアン酸エステル基、イソチオシアン酸エステル基、スルホンエステル基、スルホンアミド基、チオカルボキシ基、ジチオカルボキシ基、スルホ基、スルホニル基、スルフィニル基、スルフェニル基などのイオウ含有基;ホスフィド基、ホスホリル基、チオホスホリル基、ホスファト基などのリン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を有していてもよい。
【0026】
上記の炭化水素基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、アダマンチルなどの炭素原子数が好ましくは1~30、より好ましくは1~20、さらに好ましくは1~10、特に好ましくは1~4の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基;フェニル、ナフチル、ビフェニル、ターフェニル、フェナントリル、アントラセニルなどの炭素原子数が好ましくは6~30、より好ましくは6~20のアリール基;これらのアリール基にハロゲン原子、炭素原子数が好ましくは1~30、より好ましくは1~20のアルキル基、アルコキシ基またはアミノ基、炭素原子数が好ましくは6~30、より好ましくは6~20のアリール基またはアリーロキシ基などの置換基が1~5個置換した置換アリール基が好ましい。
【0027】
前記炭化水素基の置換基が、酸素含有基、窒素含有基、イオウ含有基および/またはリン含有基である場合、それら基の具体例としては、炭化水素基に含まれていてもよい置換基として先に例示したものと同様のものが挙げられる。中でも、置換基としては、酸素含有基、窒素含有基、およびイオウ含有基が好ましく、酸素含有基および窒素含有基がより好ましい。
【0028】
前記窒素含有基としては、例えば、アミド基、アミノ基、イミド基、イミノ基が挙げられる。アミド基の具体例としては、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルベンズアミドが挙げられる。アミノ基の具体例としては、ジメチルアミノ、エチルメチルアミノ、ジフェニルアミノが挙げられる。イミド基の具体例としては、アセトイミド、ベンズイミドが挙げられる。イミノ基の具体例としては、メチルイミノ、エチルイミノ、プロピルイミノ、ブチルイミノ、フェニルイミノが挙げられる。
【0029】
前記イオウ含有基としては、例えば、アルキルチオ基、アリールチオ基、チオエステル基、スルホンエステル基、スルホンアミド基が挙げられる。アルキルチオ基の具体例としては、メチルチオ、エチルチオが挙げられる。アリールチオ基の具体例としては、フェニルチオ、メチルフェニルチオ、ナフチルチオが挙げられる。チオエステル基の具体例としては、アセチルチオ、ベンゾイルチオ、メチルチオカルボニル、フェニルチオカルボニルが挙げられる。スルホンエステル基の具体例としては、スルホン酸メチル、スルホン酸エチル、スルホン酸フェニルが挙げられる。スルホンアミド基の具体例としては、フェニルスルホンアミド、N-メチルスルホンアミド、N-メチル-p-トルエンスルホンアミドが挙げられる。
【0030】
前記の置換基がヘテロ環式化合物残基である場合、そのヘテロ環式化合物残基の具体例としては、ピロール、ピリジン、ピリミジン、キノリン、トリアジンなどの含窒素化合物、フラン、ピランなどの含酸素化合物、チオフェンなどの含硫黄化合物などの残基、およびこれらのヘテロ環式化合物残基に炭素原子数が好ましくは1~30、より好ましくは1~20のアルキル基、アルコキシ基などの置換基がさらに置換した基が挙げられる。
【0031】
前記の置換基がホウ素含有基である場合、そのホウ素含有基の具体例としては、炭化水素基に含まれていてもよい置換基として先に例示したものと同様のものが挙げられる。さらに、アルキル基置換ホウ素、アリール基置換ホウ素、ハロゲン化ホウ素、アルキル基置換ハロゲン化ホウ素の基も挙げられる。アルキル基置換ホウ素の基としては、例えば、(Et)2B-、(iPr)2B-、(iBu)2B-、(Et)3B、(iPr)3B、(iBu)3Bがある。アリール基置換ホウ素の基としては、例えば、(C652B-、(C653B、(C653B、(3,5-(CF32633Bがある。ハロゲン化ホウ素の基としては、例えば、BCl2-、BCl3がある。アルキル基置換ハロゲン化ホウ素の基としては、例えば、(Et)BCl-、(iBu)BCl-、(C652BClがある。ここで、Etはエチル基、iPrはイソプロピル基、iBuはイソブチル基を表す。また、三置換のホウ素は、配位結合した状態にある場合がある。
【0032】
前記の置換基がアルミニウム含有基である場合、そのアルミニウム含有基の具体例としては、アルキル基置換アルミニウム、アリール基置換アルミニウム、ハロゲン化アルミニウム、アルキル基置換ハロゲン化アルミニウムの基が挙げられる。アルキル基置換アルミニウムの基としては、例えば、(Et)2Al-、(iPr)2Al-、(iBu)2Al-、(Et)3Al、(iPr)3Al、(iBu)3Alがある。アリール基置換アルミニウムの基としては、例えば、(C652Al-がある。ハロゲン化アルミニウムの基としては、例えば、AlCl2-、AlCl3がある。アルキル基置換ハロゲン化アルミニウムの基としては、例えば、(Et)AlCl-、(iBu)AlCl-がある。ここで、Etはエチル基、iPrはイソプロピル基、iBuはイソブチル基を表す。また、三置換のアルミニウムは、配位結合した状態にある場合がある。
【0033】
前記の置換基がケイ素含有基である場合、そのケイ素含有基の具体例としては、シリル基、シロキシ基、炭化水素置換シリル基、炭化水素置換シロキシ基が挙げられる。炭化水素置換シリル基としては、例えば、メチルシリル、ジメチルシリル、トリメチルシリル、エチルシリル、ジエチルシリル、トリエチルシリル、ジフェニルメチルシリル、トリフェニルシリル、ジメチルフェニルシリル、ジメチル-t-ブチルシリル、ジメチル(ペンタフルオロフェニル)シリルがある。中でも、メチルシリル、ジメチルシリル、トリメチルシリル、エチルシリル、ジエチルシリル、トリエチルシリル、ジメチルフェニルシリル、トリフェニルシリルが好ましく、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリフェニルシリル、ジメチルフェニルシリルがより好ましい。炭化水素置換シロキシ基としては、トリメチルシロキシがある。
【0034】
前記の置換基がゲルマニウム含有基および/またはスズ含有基ケイ素含有基である場合、それらの基の具体例としては、先に例示したケイ素含有基のケイ素をゲルマニウムまたはスズに置換したものが挙げられる。これらの置換基は複数含まれていることが好ましい。また、前記の置換基の態様は、複数種の置換基の組み合わせの態様であってもよい。また、前記の含炭素置換基が必須であれば以外に、任意の置換基としてヒドロキシ基やハロゲン原子などの置換基が含まれていてもよい。
これらの中でも、高い収率および選択率で芳香族ヒドロキシ化合物が得られる観点から、炭化水素基は炭素と水素とのみから成る基であることが好ましい。
【0035】
芳香族炭化水素化合物(C)の具体例としては、トルエン、0-キシレン、p-キシレン、m-キシレン、メシチレン、クメン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,4,5-テトラメチルベンゼン、1,2,3,5-テトラメチルベンゼン、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン、ペンタメチルベンゼン、エチルベンゼン、1-エチル-2-メチルベンゼン、1-エチル-3-メチルベンゼン、1-エチル-4-メチルベンゼン、1-エチル-2,3-ジメチルベンゼン、1-エチル-2,4-ジメチルベンゼン、1-エチル-2,5-ジメチルベンセン、1-エチル-2,6-ジメチルベンセン、1-エチル-3,4-ジメチルベンゼン、1-エチル-3,5-ジメチルベンゼン、1-エチル-2,3,4-トリメチルベンゼン、1-エチル-2,3,5-トリメチルベンゼン、1-エチル-2,3,6-トリメチルベンセン、1-エチル2,4,6-トリメチルベンゼン、1-エチル-2,4,5-トリメチルベンゼン、1-エチル-3,4,5-トリメチルベンゼン、1-エチル-3,4,6-トリメチルベンセン、1-エチル-2,3,4,5-テトラメチルベンゼン、1-エチル-2,3,4,6-テトラメチルベンセン、1-エチル-2,3,5,6-テトラメチルベンセン、イソプロピルベンゼン、1-メチル-2-イソプロピルベンゼン、1-メチル-3-イソプロピルベンセン、1-メチル-4-イソプロピルベンゼン、1,2-ジメチル-3-イソプロピルベンゼン、1,3-ジメチル-4-イソプロピルベンゼン、1,4-ジメチル-3-イソプロピルベンゼン、1,3-ジメチル-2-イソプロピルベンゼン、1,2-ジメチル-4-イソプロピルベンセン、1,3-ジメチル-5-イソプロピルベンセン、l1,2,3-トリメチル-4-イソプロピルベンセン、1,3,4-トリメチル-5-イソプロピルベンゼン、1,2,4-トリメチル-3-イソプロピルベンセン、1,2,4-トリメチル-5-イソプロピルベンセン、1,3,5-トリメチル-2-イソプロピルベンゼン、1,2,3-トリメチル-5-イソプロピルベンゼン、1,2,3,4-テトラメチル-5-イソプロピルベンセン、1,2,3,5-テトラメチル-6-イソプロピルベンセン、1,2,4,5-テトラメチル-3-イソプロピルベンゼン、t-ブチルベンゼン、1-t-ブチル-3-メチルベンゼン、1-t-ブチル-4-メチルベンゼン、1-t-ブチル-3,4-ジメチルベンゼン、1-t-ブチル-3,5-ジメチルベンゼン、1-t-ブチル-3,4,5-トリメチルベンゼン、p-t-フチルトルエン、ジ-t-ブチルベンゼン、p-t-アミルトルエン、t-アミルベンゼン、t-ヘキシルベンゼン、p-t-ブチルフェノール、p-t-アミルフェノール、p-t-ヘキシルフェノール、o-t-ブチルフェノール、o-t-アミルフェノール、t-プチルナフタレン、t-アミルナフタレン、1-t-ブチル-2-ナフトール、1-t-アミル-ナフトール、1-t-へキシル-2-ナフトール、t-ブチルアントラセン、t-アミルアントラセン、t-ヘキシルアントラセン、t-ヘプチルアントラセン、t-オクチルアントラセン、1-t-ブチル-2-アントラコール、1-t-アミル-2-アントラコール、1-t-へキシル-2-アントラコール、t-ブチルフェナントレン、t-アミルフェナントレン、t-へキシルフェナントレン、t-へブチルフェナントレン、t-オクチルフェナントレン、1-t-フチルー2-フエナントラコール、ビフェニル、2,2′-ジメチルビフェニル、2,3′-ジメチルビフェニル、2,4′-ジメチルビフェニル、3,3′-ジメチルビフェニル、3,4′-ジメチルビフェニル、4-4’-ジメチルビフェニル、2-メチルビフェニル、3-メチルビフェニル、4-メチルビフェニル、ナフタレン、α-メチルナフタレン、β-メチルナフタレン、2,6-シメチルナフタレン、2,7-シメチルナフタレン、1,6-シメチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-ジメチルフェノール、2,4-ジメチルフェノール、2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、3,4-ジメチルフェノール、3,5-ジメチルフェノール、2,3,5-トリメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2,4,6-トリ/チルフェノール、2,3,4-トリメチルフェノール、メトキシベンゼン、エトキシベンゼン、メチルアニソール等を挙げることができる。なお、芳香族炭化水素化合物(C)の具体例は上記化合物に限定されない。
これらの中でも芳香族炭化水素化合物(C)としては、トルエン、キシレン、1,2、4-トリメチルベンゼンなどの、メチル基が芳香族基本骨格に結合した化合物を特に好ましい例として挙げることができる。
【0036】
<特定のpKaを示す化合物(D)>
本発明の製造方法は、25℃水溶液でのpKaが0.5~4.2の範囲にある化合物(D)を、前記の(A)~(C)の化合物と併用することを特徴とする。
pKaは、水溶液中での酸解離定数(pKa)のことを表し、例えば、化学便覧(II)(改訂4版、1993年、日本化学会編、丸善株式会社)に定義される。酸解離定数pKaの値が低いほど酸強度が大きいことを示す。上記pKaは情報で測定される実測値であってもよいし、カタログ値がある場合、当該値をpKaとして採用してもよい。
上記のpKa値の下限値は0.5であり、好ましくは1、より好ましくは1.5、さらに好ましくは2である。一方、上記のpKa値の上限値は4.2であり、好ましくは3.7、より好ましくは3、さらに好ましくは2.5である。
上記の化合物(D)は、無機化合物であることが好ましい。具体的な好ましい化合物(D)としてはリン酸、ヒ酸などを挙げることができ、特に好ましくはリン酸である。
化合物(D)の具体例としては、リン酸(H3PO4:pKa=2.15)、ヒ酸(H3AsO4:pKa=2.44)、モリブデン酸(H2MoO4:pKa=3.62)、タングステン酸(H2WO4:pKa=3.60)、シュウ酸(pKa=1.04)、コハク酸(pKa=4.00)、マレイン酸(pKa=1.75)、フマル酸(pKa=2.85)、酒石酸(pKa=2.82)等を挙げることができる。
【0037】
本発明の製造方法では、上記化合物(D)を用いることで、過酸化水素ベースでの高い収率と、高い選択率で、芳香族ヒドロキシ化合物を製造することができる。本発明の製造方法において化合物(D)を用いることで、上記のような効果が発現する理由は現時点では不明であるが、本発明者が下記のように推測している。
上記シリケート(A)は、酸性または塩基性活性点を有することが知られているが、固体状であるので、その酸性度や塩基性度には、ある程度のバラツキがあることが予想される。一方、特定のpKaを示す化合物(D)は、弱い酸性を示す化合物である。化合物(D)は、シリケート(A)が有する強い酸性や塩基性の活性点に作用してその働きを弱め、全体として反応性の均一化を図るバッファー的な役割を担うことが考えられる。
一方、過酸化水素(B)は、前記の通り分解し易い、即ち、反応性が高い化合物であるので、酸性または塩基性度の高い活性点によって、過激な反応が起こり、副反応を誘発する可能性があると考えられる。しかし、本発明の製造方法では、前記の化合物(D)によって、そのような副反応の進行が抑制されることが考えられる。
このため、本発明の芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法においては、過酸化水素ベースでの収率に優れ、副反応も抑制されることから選択率がより高まるのではないかと本発明者らは推測している。
【0038】
本発明の製造方法は、下記(α)および(β)の要件を満たす。
<<要件(α)>>
シリケート(A)中の金属元素に対する化合物(D)と質量比((D)/(A))が0.1~25質量%である。
上記の質量比(D)/(A)の下限値は0.1質量%であり、好ましくは0.2質量%、より好ましくは0.3質量%、さらに好ましくは1.0質量%、特に好ましくは3質量%である。一方、上記の質量比(D)/(A)の上限値は好ましくは20質量%、より好ましくは15質量%、さらに好ましくは13質量%、特に好ましくは10質量%である。
上記質量比(D)/(A)の下限値以上である場合は、シリケート(A)に反応性の高すぎる活性点が増えることが予想されるので、向上する。一方、上記質量比(D)/(A)の上限値以下であると、シリケート(A)の反応性が向上する。
【0039】
シリケート(A)は、シリケート(A)と化合物(D)とがいわゆる担持されて一体化した態様で使用することもできる。シリケート(A)と化合物(D)とが一体化した態様では、化合物(D)がシリケート(A)に対して効率的に作用するので、化合物(D)のシリケート(A)に対する質量%の好ましい上限値はさらに低い値となり、好ましくは1.2質量%、より好ましくは1.0質量%、さらに好ましくは0.9質量%、特に好ましくは0.8質量%である。またこの場合の好ましい下限値は0.15質量%、より好ましくは0.2質量%、さらに好ましくは0.25質量%、特に好ましくは0.3質量%である。
【0040】
上記(シリケート(A)と化合物(D)とを一体化させる方法としては、例えば所定量比のシリケート(A)と化合物(D)との水溶液とを混合し、水分を減圧法などの常法で留去した後、100~600℃の温度で処理する方法を挙げることができる。(A)と(D)とを一体化した成分を調製する観点から、化合物(D)は無機化合物であることが好ましい。
上記の質量比(D)/(A)を決定する際のシリケート(A)は、原則として前記の(a)成分を含まない数値を用いて計算される。
【0041】
<<要件(β)>>
芳香族炭化水素化合物(C)に対する過酸化水素(B)のモル比((B)/(C))は、1/150~10/1であり、好ましくは1/150~10/1であり、より好ましくは1/50~1/3であり、さらに好ましくは1/40~1/5、特に好ましくは1/30~1/10である。
過酸化水素(B)のモル比率が上記範囲内であると、過激な反応が抑制され選択率が向上することや、過酸化水素を基準とした目的物の収率が向上する傾向がある。
【0042】
本発明の製造方法は、要件(γ)をさらに満たしていてもよい。
<<要件(γ)>>
本発明において、シリケート(A)、前記過酸化水素(B)、前記芳香族炭化水素化合物(C)および前記化合物(D)の総質量に対するシリケート(A)の質量比は0.1~30質量%であることが好ましい。質量比の下限値はより好ましくは1.0質量%、さらに好ましくは1.5質量%、特に好ましくは4.0質量%である。一方、質量比の上限値はより好ましくは20質量%、さらに好ましくは18質量%、特に好ましくは15質量%である。
【0043】
本発明の芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法では、溶媒を用いることもできる。このような溶媒としては公知の有機化合物や水が挙げられる。好ましい具体的な有機化合物溶媒としては、アセトニトリル、ニトロメタン等の、非プロトン性の極性の高い有機化合物であることが好ましい。
上記の溶媒は、好ましくは芳香族炭化水素化合物(C)の濃度が1~99質量%となるような量で使用されることが好ましい。
【0044】
本発明の芳香族ヒドロキシ化合物の製造方法での反応温度は50~200℃であることが好ましい。反応温度の下限値はより好ましくは60℃、さらに好ましくは80℃、特に好ましくは90℃である。一方、反応温度の上限値はより好ましくは150℃、さらに好ましくは120℃、特に好ましくは110℃である。
なお、反応圧力は特に制限がないが、過酸化水素(B)や芳香族炭化水素化合物(C)、溶媒の沸点を超える反応温度の場合は、それらが気化しないよう加圧条件の下、反応を行うのが好ましい。
【0045】
本発明の製造方法での反応時間は反応液が目的の組成に達する時間は任意に設定できる。例えば、過酸化水素(B)と芳香族炭化水素化合物(C)のモル比((B)/(C))が1/1以上である場合、過酸化水素(B)が完全に消費する時間、または、(B)/(C)のモル比が1/1以下の場合は芳香族炭化水素化合物(C)が完全に消費する時間とすることができる。例えば、過酸化水素(B)が消費する時間は、要件(α)~(γ)を満たす条件で行った場合1~12時間の範囲である。連続反応の場合は反応器の出口組成が目的の組成となる滞留時間を任意に設定できる。
【0046】
本発明の製造方法を実施するに際して、その方法はバッチ式、セミバッチ式、または連続流通式のいずれの方法においても実施することが可能である。シリケート(A)の充填方式としては、固定床、流動床、懸濁床、棚段固定床等種々の方式が採用され、いずれの方式で実施しても差し支えない。固定床等の方法で使用したシリケート(A)を含む固体は、経時的に触媒性能が低下することがあるが、このような場合は、公知の方法で焼成処理を行うと、性能が回復し、再使用することができる。
【0047】
本発明の製造方法は、前記の反応終了後の反応物の回収および精製方法は、公知の方法を制限なく使用することができる。例えば、水による洗浄、中和、油水分離、抽出、蒸留、晶析等の工程を適宜、採用することができる。
前記の工程で回収される未反応原料や溶媒などは、反応に再使用することもできる。
【0048】
<芳香族ヒドロキシ化合物>
本発明の製造方法により得られる芳香族ヒドロキシ化合物は、前記の芳香族化合物(C)の芳香族骨格にヒドロキシ基(OH基)が、基本的には1個結合した構造の化合物である。代表例としては芳香族化合物(C)がp-キシレンの場合、2,5-キシレノールである。
本発明の製造方法により得られる芳香族ヒドロキシ化合物は、例えば、下記式(1-1)で表される化合物が挙げられる。
【0049】
【化1】
【0050】
式(1-1)中、Rはそれぞれ独立に含炭素置換基を表し、Arは芳香族炭化水素環を表し、nは、1~nAr-1を表し、nArは最大置換数を表す。
式(1-1)における含炭素置換基は、上述の芳香族炭化水素化合物(C)における含炭素置換基と同義であり好ましい態様も同様である。
芳香族炭化水素環としては、共鳴構造をとる炭素6員環が連続する構造であれば特に制限はなく、単環であってもよいし、縮合環であってもよい。芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられる。これらの中でも、芳香族炭化水素環としては、単環が好ましく、ベンゼン環であることがより好ましい。
nは、1~nAr-1を表し、好ましくは2~nAr-1である。
【0051】
式(1-1)は、下記式(1-2)で表される化合物であることが好ましい。
【0052】
【化2】
【0053】
式(1-2)中、Rはそれぞれ独立に含炭素置換基を表し、nは、1~5の整数を表す。
式(1-2)における含炭素置換基は、上述の芳香族炭化水素化合物(C)における含炭素置換基と同義であり好ましい態様も同様である。
式(1-2)中、nは、好ましくは1~4であり、より好ましくは2~4であり、さらに好ましくは2または3である。
【0054】
上記の方法で得られた芳香族ヒドロキシ化合物は、食品、サプリメント、飼料などの製造に用いられる種々の有機合成中間体または原料物質として有用であり、色々な分野に利用することができる。
【実施例0055】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例
に限定されるものではない。以下の実施例および比較例において、各物性は、以下の方法により測定あるいは評価した。
【0056】
後述する実施例および比較例で得られた反応生成物について、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、型番;GC-2010)を用いて、内標を用いた常法で定量を行い、過酸化水素の転化率、選択率および収率をそれぞれ算出した。
分析測定条件は以下の通りである。
[ガスクロマトグラフィーの分析条件]
・検出器;水素炎イオン化検出器(FID)
・カラム;TC-FFAP(ジーエルサイエンス(株)製)、内径0.25mm、長さ60m、膜厚0.25μm
・カラム温度;50℃4分保持、昇温速度4℃/分、240℃まで昇温
・注入口温度;240℃
・検出器温度;240℃
・キャリアーガス;ヘリウム
・流速;35.4cm/sec
【0057】
(実施例1)
撹拌翼、温度計、圧力計、窒素ラインおよび電気ヒーターを備えた内容積120mLのSUS製オートクレーブ(テフロン(登録商標)製カップを内装)に、Catalysis Today 147 (2009) 186-195 に記載の方法で調製したチタノシリケート(以下、「TS-1」ともいう。)触媒と市販のシリカバインダーとを用いて造粒した触媒(TS-1/シリカバインダーの質量比≒80/20))1.71g、パラキシレン15g(141.3mmol)、35質量%過酸化水素水溶液0.46g(過酸化水素として4.7mmol)およびpKaが2.15であるリン酸を0.5質量%含むアセトニトリル24.9gを仕込み、窒素にてオートクレーブ内を0.3MPaGに調整した後、十分に撹拌しながら電気ヒーターにてオートクレーブを加熱し100℃で3時間保持した。なお、チタノシリケートに対するリン酸の質量比(リン酸/チタノシリケート)は9.1質量%であった。
オートクレーブを冷却後、取り出した反応液にアセトニトリル12gを加えたのち触媒を濾別したのち、反応液の一部を取り、残存した過酸化水素について電位差自動滴定装置(京都電子工業(株)製、型式:AT-710)によるチオ硫酸ナトリウムを用いたヨードーメトリーで定量し、得られた反応生成物は前記のガスクロマトグラフィーを用いて上記条件にて定量した。
その結果、過酸化水素の転化率は91%、過酸化水素を基準としたときの2,5-キシレノールの選択率は59%、過酸化水素を基準としたときの2,5-キシレノールの収率は54%であった。
【0058】
(比較例1)
実施例1においてリン酸を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、パラキシレンと過酸化水素とを接触させて反応を行った。
過酸化水素の転化率は91%、過酸化水素を基準としたときの2,5-キシレノールの選択率は38%、過酸化水素を基準としたときの2,5-キシレノールの収率は34%であった。
【0059】
(実施例2)
〔トルエンのヒドロキシ化反応〕
実施例1においてパラキシレンをトルエン15g(163mmol)に変更した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。
その結果、過酸化水素の転化率は91%、過酸化水素を基準としたときのクレゾールの収率は47%であった。
【0060】
(比較例2)
実施例2においてリン酸を用いなかったこと以外は実施例2と同様の上記と同様にして、トルエンを過酸化水素との反応を行った。
過酸化水素の転化率は92%、過酸化水素を基準としたときのクレゾールの選択率は37%であった。
【0061】
(実施例3)
〔リン酸固定化シリケートの作製方法〕
温度計およびマグネチックスターラーチップを備えた内容積50mLのガラス製フラスコに前記チタノシリケート(TS-1)含有触媒粒子10g、イオン交換水20g、75質量%リン酸水溶液0.14gを加え、室温で12時間、十分に撹拌した。その後、十分に撹拌しながら減圧下、50℃で水分を留去した。得られた固体を電気炉にて空気雰囲気下、400℃で2時間保持しリン酸固定化処理したシリケート(リン酸固定化シリケート)を得た。得られたリン酸固定化シリケート触媒のリン含量をInductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:ICP-AES法(ICP発光分光分析法)で分析した結果、リン含量は0.26質量%であり、チタノシリケートに対するリン酸の質量比(リン酸/チタノシリケート)率は0.33質量%あった。
上記のICP-AES分析は、ICP発光分析装置((株)島津製作所製、型式;1CP-7510)を用い、常法で行った。
【0062】
(パラキシレンと過酸化水素との反応)
撹拌翼、温度計、圧力計、窒素ラインおよび電気ヒーターを備えた内容積120mLのSUS製オートクレーブ(テフロン製カップを内装)に、前記リン酸固定化シリケート触媒1.73g、パラキシレン15g(141mmol)、35質量%過酸化水素水溶液1.37g(過酸化水素として14.1mmol)、及びアセトニトリル24.9gを仕込み、窒素にてオートクレーブ内を0.3MPaGに調整した後、撹拌しながら電気ヒーターにてオートクレーブを加熱し100℃で3時間保持した。反応器を冷却後、取り出した反応液にアセトニトリル7.5gを加えたのち、触媒を濾別し、反応液の一部を取り、残存した過酸化水素をヨードーメトリーで、反応生成物を上記条件にてガスクロマトグラフィーで定量した。
その結果、過酸化水素の転化率は87%、過酸化水素を基準としたときの2,5-キシレノールの選択率は48%、過酸化水素を基準としたときの2,5-キシレノールの収率は41%であった。
【0063】
(実施例4)
実施例3においてリン酸固定化シリケートの代わりに実施例1と同様のチタノシリケート(TS-1)触媒を用い、アセトニトリルをリン酸の含有率が0.5質量%であるアセトニトリル24.9gに変更した以外は、実施例3と同様の方法でパラキシレンと過酸化水素との反応を行った。なお、チタノシリケートに対するリン酸の質量比(リン酸/チタノシリケート)は9.0質量%であった。
過酸化水素の転化率は84%、過酸化水素を基準としたときの2,5-キシレノールの選択率は42%、過酸化水素を基準としたときの2,5-キシレノールの収率は35%であった。
【0064】
(比較例3)
実施例4においてリン酸を用いらなかった以外は、実施例4と同様にして、パラキシレンと過酸化水素との反応を行った。
過酸化水素の転化率は95%、過酸化水素を基準としたときの2,5-キシレノールの選択率は26%、過酸化水素を基準としたときの2,5-キシレノールの収率は24%であった。
【0065】
上記の結果から、実施例1~4の本発明の製造方法を用いれば、従来の方法である比較例1~2の製造方法に比して、目的とする芳香族ヒドロキシ化合物を高い選択率で得ることができる。また、本発明の製造方法は、目的とする芳香族ヒドロキシ化合物を高い選択率で得ることができるので、芳香族ヒドロキシ化合物が生成された後の工程での蒸留などによる精製分離の際に有利であると考えることができる。
また、上記の結果から、本発明の製造方法は、比較例1~2の製造方法と比べて目的とする芳香族ヒドロキシ化合物の収率も高い場合が多く、工業的な優位性を有すると考えることができる。