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特開2024-101309情報処理装置、推論モデルの生成方法、推論方法、および推論プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101309
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】情報処理装置、推論モデルの生成方法、推論方法、および推論プログラム
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20240722BHJP
【FI】
B29C45/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005217
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】津川 城
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AM22
4F206AM23
4F206AM32
4F206AP03
4F206AP05
4F206AP18
4F206AR03
4F206AR06
4F206JA07
4F206JL02
4F206JL09
4F206JP01
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】分解温度が低い樹脂の成型に用いる金型の管理を適切に行う。
【解決手段】情報処理装置(2)は、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と当該溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差を含む推論用データを取得するデータ取得部(201)と、推論用データと金型の管理に関する所定の事項との関係を学習することにより生成された推論モデル(211)を用いて推論する推論部202とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と前記溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差、および前記流路に前記溶融樹脂が滞留した時間、の少なくとも何れかを含む推論用データを取得するデータ取得部と、
前記推論用データと前記金型の管理に関する所定の事項との関係を学習することにより生成された推論モデルを用いて、前記データ取得部が取得する前記推論用データから前記事項を推論する推論部と、を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記推論モデルは、前記推論用データと前記金型を用いた射出成形により成形された成形品の良否との関係を学習することにより生成されたものであり、
前記推論部は、前記金型を用いた射出成形により成形される成形品の良否を予測する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記推論用データには、射出成形に用いた金型を最後に洗浄した後の射出成形の累積回数が含まれている、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記推論用データには、溶融樹脂を前記金型に導く流路に沿って設けられた、当該流路内の溶融樹脂を所定の温度に維持するためのヒーターの出力値を用いて算出された溶融樹脂の流動状態を示すパラメータが含まれている、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記推論用データには、射出圧力の変化の態様を示すパラメータが含まれている、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記推論用データには、前記金型に含まれる複数のキャビティのそれぞれに接続された複数の前記流路に関するパラメータが含まれており、
前記推論部は、複数の前記キャビティのそれぞれについて前記事項を推論する、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記推論用データには、前記射出成形の条件を示す条件データが含まれており、
前記推論部による製品の良否の予測結果に基づき、前記条件とは異なる他の条件を示す条件データを生成するデータ生成部と、
前記データ生成部により生成された条件データを用いた前記推論部による予測と、当該予測結果に応じた前記データ生成部による条件データの生成とを繰り返し実行させる条件探索部と、を備える請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項8】
1または複数の情報処理装置により実行される推論モデルの生成方法であって、
射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と前記溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差、および前記流路に前記溶融樹脂が滞留した時間の少なくとも何れかを含む推論用データに対し、金型の管理に関する所定の事項についての正解データを対応付けた訓練データを取得するデータ取得ステップと、
前記訓練データを用いた機械学習により、前記推論用データから前記事項を推論するための推論モデルを生成する学習ステップと、を含む推論モデルの生成方法。
【請求項9】
1または複数の情報処理装置により実行される推論方法であって、
射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と前記溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差、および前記流路に前記溶融樹脂が滞留した時間の少なくとも何れかを含む推論用データを取得するデータ取得ステップと、
前記推論用データと前記金型の管理に関する所定の事項との関係を学習することにより生成された推論モデルを用いて、前記データ取得ステップで取得された前記推論用データから前記事項を推論する推論ステップと、を含む推論方法。
【請求項10】
請求項1に記載の情報処理装置としてコンピュータを機能させるための推論プログラムであって、前記データ取得部および前記推論部としてコンピュータを機能させるための推論プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形の支援に利用可能な情報処理装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形は従来から広く用いられている技術であり、射出成形を支援するための技術の開発も従来から進められている。例えば、下記の特許文献1には、射出成形された製品を撮像した製品画像に基づいて、成形に用いられた金型の汚れ度を推定する金型管理システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-107954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような従来技術には、分解温度が低い樹脂の成型に用いる金型の管理を適切に行うという点において改善の余地がある。例えば、近年、生物によって分解される生分解性プラスチックが注目されているが、生分解性プラスチックは一般的な樹脂と比べて分解温度が低い。このため、生分解性プラスチックを射出成形する場合、熱分解物による流路および金型の汚れや、金型内のガスを排気するエアーベントの詰まり等も発生しやすく、これらの発生は充填不足(ショート)や充填過剰によるバリの発生などの成形不良を引き起こす。
【0005】
しかし、エアーベントの詰まりのような微細な変化は射出成形された製品の外観には反映され難いため、特許文献1の金型管理システムは、分解温度が低い樹脂の成型に用いる金型の管理には十分なものであるとはいえない。本発明の一態様は、分解温度が低い樹脂の成型に用いる金型の管理を適切に行うことを可能にする情報処理装置等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理装置は、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と前記溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差、および前記流路に前記溶融樹脂が滞留した時間、の少なくとも何れかを含む推論用データを取得するデータ取得部と、前記推論用データと前記金型の管理に関する所定の事項との関係を学習することにより生成された推論モデルを用いて、前記データ取得部が取得する前記推論用データから前記事項を推論する推論部と、を備える。
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る推論モデルの生成方法は、1または複数の情報処理装置により実行される推論モデルの生成方法であって、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と前記溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差、および前記流路に前記溶融樹脂が滞留した時間の少なくとも何れかを含む推論用データに対し、金型の管理に関する所定の事項についての正解データを対応付けた訓練データを取得するデータ取得ステップと、前記訓練データを用いた機械学習により、前記推論用データから前記事項を推論するための推論モデルを生成する学習ステップと、を含む。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る推論方法は、1または複数の情報処理装置により実行される推論方法であって、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と前記溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差、および前記流路に前記溶融樹脂が滞留した時間の少なくとも何れかを含む推論用データを取得するデータ取得ステップと、前記推論用データと前記金型の管理に関する所定の事項との関係を学習することにより生成された推論モデルを用いて、前記データ取得ステップで取得された前記推論用データから前記事項を推論する推論ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、分解温度が低い樹脂の成型に用いる金型の管理を適切に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態1に係る情報処理装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態1に係る情報処理システムの概要を示す図である。
図3】射出成形機およびその流路の構成の例を示す図である。
図4】正常時とエアーベント閉塞時のそれぞれにおける射出成形機のスクリューの位置と射出圧力との関係を示す図である。
図5】射出成形におけるショット数と不良率との関係を示す図である。
図6】本発明の実施形態1に係る推論モデルの生成方法の一例を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態1に係る推論方法の一例を示すフローチャートである。
図8】本発明の実施形態2に係る情報処理装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
図9】本発明の実施形態2に係る情報処理装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施形態1〕
(システム概要)
図2に基づいて本実施形態に係る情報処理システム5の概要を説明する。図2は、情報処理システム5の概要を示す図である。情報処理システム5は、射出成形の支援に利用可能なシステムであり、情報処理装置1と情報処理装置2とを含む。以下では、支援の対象となる射出成形について説明した上で、情報処理装置1および2について説明する。
【0012】
射出成形には、射出ユニットと金型と型締めユニットとを含む射出成形機が用いられる。射出成形においては、まず、ホッパーから樹脂ペレットをシリンダー内に供給し、シリンダー内の樹脂をヒーターによって加熱して溶融樹脂とする。続いて、モーターによりスクリューを前進させ、金型内に溶融樹脂を射出する。射出された溶融樹脂は金型内で冷却されて固化する。溶融樹脂が固化した後、クロスヘッドを移動させてタイバーに沿って金型を開き、エジェクタ機構により金型内の成形品を取り出す。
【0013】
取り出された成形品は品質に問題がないか確認された上で製品とされる。図2には成形品がスプーンであり、外観検査機によりその良否を判定する例を示している。なお、情報処理システム5は、任意の射出成形について支援することが可能であり、その射出成形に用いられる射出成形機の構成、および射出成形される成形品は特に限定されないが、情報処理システム5は分解温度が低い樹脂の成型に特に好適である。例えば、情報処理システム5は、生分解性プラスチック等の成形に好適に利用できる。具体例を挙げれば、当該樹脂は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂や、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)のような、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂(以下、PHA樹脂と呼ぶ)であってもよい。PHA樹脂は、生分解性を有する脂肪族ポリエステルである。
【0014】
情報処理装置1は、訓練データを用いた機械学習により推論モデルを生成し、情報処理装置2は、当該推論モデルを用いて、推論用データから金型に関する所定の推論事項を推論する。
【0015】
詳細は後述するが、上記訓練データは、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と、溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差、および流路に溶融樹脂が滞留した時間の少なくとも何れかを含む推論用データに対し、金型の管理に関する所定の事項についての正解データを対応付けたものである。これにより、分解温度が低い樹脂の成型に用いる金型の管理を適切に行うことが可能になる。
【0016】
(情報処理装置の構成)
図1は、情報処理装置1および2の要部構成の一例を示すブロック図である。以下では、情報処理装置1および2の各構成について図1に基づいて順次説明する。
【0017】
図示のように、情報処理装置1は、情報処理装置1の各部を統括して制御する制御部10と、情報処理装置1が使用する各種データを記憶する記憶部11を備えている。また、情報処理装置1は、情報処理装置1が他の装置と通信するための通信部12、情報処理装置1に対する各種データの入力を受け付ける入力部13、および情報処理装置1が各種データを出力するための出力部14を備えている。また、制御部10には、訓練データ取得部101および学習部102が含まれている。そして、記憶部11には、訓練データ111が記憶されている。
【0018】
訓練データ取得部101は、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と当該溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差、および当該流路に溶融樹脂が滞留した時間の少なくとも何れかを含む推論用データに対し、金型の管理に関する所定の事項についての正解データを対応付けた訓練データ111を取得する。推論用データは、推論モデルにおける説明変数と言い換えることができ、上記事項および上記正解データは推論モデルにおける目的変数と言い換えることができる。
【0019】
学習部102は、上記訓練データを用いた機械学習により、推論用データから上記事項を推論するための推論モデルを生成する。機械学習のアルゴリズムは特に限定されない。例えば、学習部102は、回帰分析あるいは重回帰分析により推論モデルを生成してもよいし、ニューラルネットワークモデルや木モデル等の推論モデルを生成してもよい。
【0020】
また、金型の管理に関する所定の事項は、上述の推論データと関連がある、金型の管理に関する事項であればよい。例えば、上記推論モデルは、金型を用いた射出成形により成形された成形品の良否を予測するものであってもよい。この場合、学習部102は、推論用データと金型を用いた射出成形により成形された成形品の良否との関係を示す訓練データ111を用いて学習を行うことにより推論モデルを生成すればよい。成形品の良否は、例えば、製品の不良率や製品の品質を評価した評価値等で表すことができる。また、推論モデルは、例えば、金型の汚れ度合い、製造条件の良否、金型の清掃の要否、洗浄が必要になるまでの残り射出回数、あるいは金型の次の清掃時期等を推論するものであってもよい。
【0021】
一方の情報処理装置2は、情報処理装置2の各部を統括して制御する制御部20と、情報処理装置2が使用する各種データを記憶する記憶部21を備えている。また、情報処理装置2は、情報処理装置2が他の装置と通信するための通信部22、情報処理装置2に対する各種データの入力を受け付ける入力部23、および情報処理装置2が各種データを出力するための出力部24を備えている。また、制御部20には、データ取得部201、推論部202、および出力制御部203が含まれている。そして、記憶部11には、推論モデル211が記憶されている。
【0022】
データ取得部201は、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と当該溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差、および当該流路に溶融樹脂が滞留した時間の少なくとも何れかを含む推論用データを取得する。
【0023】
推論部202は、推論用データと金型の管理に関する所定の事項との関係を学習することにより生成された推論モデル211を用いて、データ取得部201が取得する推論用データから上記事項を推論する。
【0024】
出力制御部203は、推論部202の推論結果を出力部24に出力させる。出力の態様は任意であり、例えば、出力制御部203は、表示出力、音声出力、および印字出力の少なくとも何れかの態様で推論結果を出力させてもよい。また、推論結果を出力させる装置は、情報処理装置2の外部の装置であってもよい。
【0025】
また、出力制御部203は、推論部202の推論結果に応じた情報を出力させてもよい。例えば、出力制御部203は、推論部202の推論結果が不良率上昇の兆しがあることを示している場合や、推論結果に示される金型の汚れ度合いが閾値を超えた場合に、金型の洗浄を促す通知を出力させてもよい。また、出力制御部203は、このような通知を出力させる際に、予測された不良率や金型の汚れ度合いについても併せて出力させてもよい。
【0026】
また、出力制御部203は、推論用データに射出成形の条件(例えば、加熱温度、樹脂の種類、物性、成形サイクル、同時に成型する製品の個数等)を示す条件データが含まれる場合、条件データと推論結果の推移を示す情報を表示させてもよい。例えば、出力制御部203は、条件データと推論結果の推移をグラフとして表示させてもよい。また、この場合、出力制御部203は、金型が汚染されにくい理想的な条件(例えば過去に長期間安定して製造ができたときの条件)の推移を示すグラフについても併せて表示させてもよい。これにより、射出成形機のオペレータは、これらのグラフを指標として用い、適切なオペレーションを行うことができる。
【0027】
また、オペレータは、様々な射出成形の条件を入力して推論部202に推論を行わせることにより、射出成形のシミュレーションを行うこともできる。このように、情報処理装置2は、金型が汚染されにくい条件を決めるための補助ツールとして利用することもできる。
【0028】
以上のように、情報処理装置2は、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と当該溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差、および当該流路に溶融樹脂が滞留した時間の少なくとも何れかを含む推論用データを取得するデータ取得部201と、推論用データと金型の管理に関する所定の事項との関係を学習することにより生成された推論モデル211を用いて、データ取得部201が取得する推論用データから上記事項を推論する推論部202とを備えている。
【0029】
ここで、溶融樹脂が熱分解する分解温度と当該溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差が小さくなるほど溶融樹脂が熱分解する可能性が高くなる。そして、溶融樹脂の熱分解は、溶融樹脂の熱分解物による流路および金型の汚れや、金型内のガスを排気するエアーベントの詰まり等を発生させ、充填不足(ショート)や充填過剰によるバリの発生などの成形不良を引き起こす。
【0030】
この点、分解温度と流路温度との差を用いる上述の構成によれば、樹脂の熱分解のしやすさを考慮した推論を行うことができるから、分解温度が低い樹脂の成型に用いる金型の管理を適切に行うことが可能になる。
【0031】
また、流路に溶融樹脂が滞留した時間が長いほど熱分解が進みやすくなる。例えば、不良品の処置等により射出間隔が長引くケースがあり、そのような場合には滞留時間が通常よりも長くなり熱分解が進行するリスクがある。
【0032】
この点、流路に溶融樹脂が滞留した時間を含む推論用データを用いて推論を行う上述の構成によれば、流路に溶融樹脂が滞留した時間を考慮した推論を行うことができるから、分解温度が低い樹脂の成型に用いる金型の管理を適切に行うことが可能になる。
【0033】
また、上述のように、推論モデル211は、推論用データと金型を用いた射出成形により成形された成形品の良否との関係を学習することにより生成されたものであってもよい。この場合、推論部202は、上記金型を用いた射出成形により成形される成形品の良否を予測することができる。これにより、予測結果に応じて射出成形の条件を調整する、あるいは金型の清掃を適時に行う等の措置を採ることができ、所望の品質の成形品を形成することが可能になる。
【0034】
(推論用データについて)
上述のように、推論用データには、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と当該溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差、および当該流路に溶融樹脂が滞留した時間の少なくとも何れかが含まれている。また、推論用データには、これらのデータ以外のデータが含まれていてもよい。ここでは推論用データに含めることができるデータについて図3に基づいて説明する。図3は、射出成形機およびその流路の構成の例を示す図である。
【0035】
図3のA1には図2と同様の射出成形機を示している。図示のように、シリンダーにはその内部の樹脂を加熱するヒーターh1~h3が設けられている。また、シリンダーの端部の射出口eから射出される溶融樹脂を金型におけるキャビティcに導く流路にもヒーターh4が設けられている。当該流路はホットランナーと呼ぶこともできる。なお、シリンダーの後段(射出口e付近)も当該流路の一部とみなしてもよい。
【0036】
上記流路の温度は、ヒーターh4付近に温度センサを設けることにより測定することができる。よって、当該温度センサの測定値を用いれば、溶融樹脂が熱分解する分解温度と当該溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差を算出することができる。また、流路内に溶融樹脂が流れているか否かにより、上記温度センサの測定値は有意に変わるから、当該温度センサの測定値を用いれば流路に溶融樹脂が滞留した時間を特定することもできる。
【0037】
また、上述の流路は分岐した構成となっていてもよい。図3のA2には分岐した流路の構成の例を示している。当該流路には、一段目の流路r1、二段目の流路r2、および三段目の流路r3が含まれている。シリンダーから射出された溶融樹脂は、まず一段目の流路r1に流入する。流路r1はその終端部で2股に分岐し、各分岐先が二段目の流路r2となっている。したがって流路r2は2つとなる。そして、2つの流路r2のそれぞれは4つに分岐し、各分岐先が三段目の流路r3となっている。したがって流路r3は8つとなる。これら8つの流路r3はキャビティc1~c8のそれぞれに接続している。このような分岐を有する流路を有する金型を用いることにより、一回の射出成形で8つの成形品を同時に製造することができる。ホットランナーでは、分岐する流路のそれぞれをヒーターにより調温する。なお、キャビティ間での偏りをなくすため、各流路の長さは等しくなるように設計されることが一般的である。
【0038】
このように金型に複数のキャビティが含まれている場合、複数のキャビティのそれぞれに接続された複数の流路に関するパラメータを含む推論データを用いてもよい。そしてこの場合、推論部202は、複数のキャビティのそれぞれについて所定の推論事項の推論を行ってもよい。これにより、キャビティ単位で金型の管理を行うことが可能になる。
【0039】
例えば、各キャビティに接続された流路のそれぞれに温度センサを設けることにより、各流路を流れる溶融樹脂の温度を測定することができる。これにより、溶融樹脂の分解温度と当該溶融樹脂を金型に導く流路温度との差や、流路に溶融樹脂が滞留した時間をキャビティごとに算出することができる。そして、これにより、例えば、成形品の良否をキャビティごとに予測することも可能になる。
【0040】
また、推論用データには、溶融樹脂を金型に導く流路に沿って設けられた、当該流路内の溶融樹脂を所定の温度に維持するためのヒーターの出力値を用いて算出された溶融樹脂の流動状態を示すパラメータが含まれていてもよい。これにより、ヒーターの出力値という取得が容易な値を用いて、金型の汚れに起因する成形不良の予兆となる流動状態の変化を反映させた妥当な推論結果を得ることが可能になる。
【0041】
例えば、図3のA1の例であれば、ヒーターh4の出力値を用いて溶融樹脂の流動状態を示すパラメータを算出することができる。例えば、流路を流れる溶融樹脂の温度が所定範囲に収まるようにヒーターh4の出力を制御する場合、ヒーターh4の出力の正常時に対する比または差を上記パラメータとしてもよい。溶融樹脂の流動状態が悪化して流速が低下すると、溶融樹脂の温度を所定範囲に収めるために必要な所定時間あたりの熱量が少なくなるため、ヒーターh4の出力は正常時と比べて有意に低下するからである。
【0042】
同様に、図3のA2の例であれば、各流路にそれぞれ設けられた各ヒーターの出力値から上記パラメータを算出することができる。例えば、キャビティc1で成形される成形品の品質を予測する場合、流路r1~r3における各ヒーターの出力値から上記パラメータを算出すればよい。なお、1つのキャビティに対応する複数の流路のそれぞれについて算出したパラメータのそれぞれを推論用データとしてもよいし、1つのキャビティに対応する複数の流路について1つのパラメータを算出してもよい。後者の場合、例えば各流路におけるヒーターの出力の正常時に対する比または差の代表値(例えば、平均値や最大値)を上記パラメータとしてもよい。
【0043】
また、金型に複数のキャビティが設けられている場合、各ヒーターの出力値のキャビティ平均に対する比または差を、流動状態を示すパラメータとしてもよい。例えば、図3のA2の例であれば、11本の流路のそれぞれについて、当該流路におけるヒーターの出力値の当該11本の流路におけるヒーターの出力値の平均値に対する比または差を上記パラメータとすればよい。また、上述のように、このようなパラメータは、キャビティごとに算出してもよい。
【0044】
また、推論用データには、射出成形時に測定された温度、圧力、およびヒーターの出力値等が含まれていてもよいし、これらの値を用いて算出されたパラメータが含まれていてもよい。例えば、図3のA1の例であれば、ヒーターh1~h4の出力値、これらヒーター付近の温度、および射出口eにおける射出圧力等を推論用データとしてもよい。また、温度の累積値や圧力の変化率等を推論データに含めてもよい。この他にも、例えばスクリューの位置等を推論用データとしてもよい。また、例えば、図3のA2の例であれば、各流路に設けられたヒーターの出力値、およびこれらヒーター付近の温度等を推論用データとしてもよい。このように、キャビティまでの流路各部の温度やヒーター出力値を推論用データとすることができる。
【0045】
(推論用データの他の例)
図4は、正常時とエアーベント閉塞時のそれぞれにおける射出成形機のスクリューの位置と射出圧力との関係を示す図である。上述のように、射出成形時にはスクリューにより溶融樹脂が金型内に押し出されて射出されるが、この際、図示のように、スクリューの位置が金型側に移動するにつれて射出圧力が上昇する。このスクリューの位置の遷移に伴う射出圧力の上昇は、正常時とエアーベント閉塞時の何れにも共通する現象であるが、エアーベントが閉塞している場合には金型からガスが抜けにくいため、正常時と比べて早いタイミングで射出圧力が上昇する。
【0046】
このように、射出圧力の変化の態様には、エアーベント閉塞の有無が反映される。このため、推論用データには、射出圧力の変化の態様を示すパラメータを含めてもよい。これにより、エアーベント閉塞の有無のような微細な変化を反映させた高精度な推論を行うことが可能になる。
【0047】
上記パラメータは、例えば、スクリュー位置の変化量に対する射出圧力の変化量の比(図4に示すグラフの傾き)であってもよい。また、射出期間(スクリューが射出口に向かって移動している期間と言い換えることもできる)における単位時間あたりの圧力上昇速度を上記パラメータとしてもよい。なお、上述の各パラメータは、射出期間における平均値であってもよいし、最大値であってもよい。また、所定のタイミング(例えば、スクリューが所定の位置まで移動したタイミング)における射出圧力の値を上記パラメータとしてもよい。
【0048】
(推論用データのさらに他の例)
図5は、射出成形におけるショット数と不良率との関係を示す図である。また、同図では、金型の清掃を行ったタイミングを矢印で示している。図示のように、金型の清掃は、不良率が高くなったことを契機として行われ、清掃後しばらくは不良率が低く抑えられている。成形品の不良の原因は金型の汚れのみではないが、特に充填不足(ショート)については金型の汚れの影響が大きいため、充填不足が頻発したときには金型の清掃が有効な解決策となることが多い。
【0049】
また、充填不足の回避策として、成形温度を上げることにより溶融樹脂の流動性を高めるという措置も一般に行われる。ただし、この措置を採った場合、溶融樹脂の高温による熱分解で生じる熱分解物によるエアーベントの閉塞等も起こりやすくなり、これが充填不足の原因となる、という悪循環に陥る可能性がある。このため、成形温度を上げる措置は採らずに、適切なタイミングで金型の清掃を行うことが好ましい。
【0050】
ここで、図5に示すように、射出成形に用いた金型を最後に洗浄した後の射出成形の累積回数が増えると不良率が上昇する傾向がある。このため、推論用データには、射出成形に用いた金型を最後に洗浄した後の射出成形の累積回数を含めてもよい。これにより、金型の汚れに起因する成形不良の予兆となる累積射出回数を反映させた妥当な推論結果を得ることが可能になる。例えば、成形温度を上げることなく他の成形条件を変更する等の措置を採って金型の汚染が進みにくいようにしたり、適切な清掃タイミングを予測したりすることも可能になる。
【0051】
(推論モデルの生成方法)
情報処理装置1が実行する推論モデル211の生成方法について図6に基づいて説明する。図6は、推論モデル211の生成方法の一例を示すフローチャートである。
【0052】
S11では、訓練データ取得部101が、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差に基づいて生成された訓練データ111を取得する。より詳細には、訓練データ111は、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差を含む推論用データに対し、金型の管理に関する所定の事項についての正解データを対応付けたものである。
【0053】
なお、訓練データ111は、説明変数として、分解温度と流路温度との差の代わりに、あるいは当該差と共に、流路に溶融樹脂が滞留した時間を含むものであってもよい。また、当該説明変数には、金型を最後に洗浄した後の射出成形の累積回数等の各種データが含まれていてもよい。
【0054】
S12では、学習部102が、S11で取得された訓練データ111を用いた機械学習により、推論用データから所定の事項を推論するための推論モデル211を生成し、これにより図6の処理は終了する。なお、学習部102は、生成した推論モデル211を記憶部11等に記憶させてもよいし、情報処理装置2に送信してもよい。
【0055】
以上のように、図6に示す推論モデルの生成方法は、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と前記溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差、および流路に溶融樹脂が滞留した時間の少なくとも何れかを含む推論用データに対し、金型の管理に関する所定の事項についての正解データを対応付けた訓練データ111を取得するデータ取得ステップ(S11)と、訓練データ111を用いた機械学習により、推論用データから所定の事項を推論するための推論モデル211を生成する学習ステップ(S12)と、を含む。これにより、分解温度が低い樹脂の成型に用いる金型の適切な管理に寄与する推論モデル211を生成することができる。そして、これにより、分解温度が低い樹脂の成型に用いる金型の管理を適切に行うことが可能になる。
【0056】
(推論方法)
情報処理装置2が実行する推論方法について図7に基づいて説明する。図7は、推論方法の一例を示すフローチャートである。
【0057】
S21では、データ取得部201が、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差を含む推論用データを取得する。なお、推論用データには、説明変数として、分解温度と流路温度との差の代わりに、あるいは当該差と共に、流路に溶融樹脂が滞留した時間が含まれていてもよく、これら以外のデータが含まれていてもよい。
【0058】
S22では、推論部202が、推論用データと金型の管理に関する所定の事項との関係を学習することにより生成された推論モデル211を用いて、S21で取得された推論用データから上記事項を推論する。
【0059】
S23では、出力制御部203が、S22の推論結果を出力部24に出力させる。これにより、図7の処理は終了する。なお、S22の推論結果は、出力部24以外に出力させてもよい。また、S23の処理は省略し、推論結果を記憶部21等に記憶させて推論を終了してもよい。
【0060】
以上のように、図7に示す推論方法は、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差、および流路に溶融樹脂が滞留した時間の少なくとも何れかを含む推論用データを取得するデータ取得ステップ(S21)と、推論用データと金型の管理に関する所定の事項との関係を学習することにより生成された推論モデル211を用いて、データ取得ステップで取得された推論用データから上記事項を推論する推論ステップ(S22)と、を含む。これにより、分解温度が低い樹脂の成型に用いる金型の管理を適切に行うことが可能になる。
【0061】
〔実施形態2〕
(情報処理装置の構成)
図8は、本実施形態に係る情報処理装置3の要部構成の一例を示すブロック図である。情報処理装置3は、実施形態1の情報処理装置2と同様に、機械学習により生成された推論モデルを用いて、推論用データから金型に関する所定の推論事項を推論する。また、情報処理装置3は、この推論結果を用いて射出成形の好適な条件を自動で探索する機能を備えている。
【0062】
図示のように、情報処理装置3は、情報処理装置3の各部を統括して制御する制御部30と、情報処理装置3が使用する各種データを記憶する記憶部31を備えている。また、情報処理装置3は、情報処理装置3が他の装置と通信するための通信部32、情報処理装置3に対する各種データの入力を受け付ける入力部33、および情報処理装置3が各種データを出力するための出力部34を備えている。また、制御部30には、データ取得部301、推論部302、条件探索部303、データ生成部304、および出力制御部305が含まれている。そして、記憶部31には、推論モデル311が記憶されている。
【0063】
データ取得部301は、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と当該溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差、および当該流路に溶融樹脂が滞留した時間の少なくとも何れかを含む推論用データを取得する。また、当該推論用データには、射出成形の条件を示す条件データが含まれている。この他にも、当該推論用データには、金型を最後に洗浄した後の射出成形の累積回数等の各種説明変数が含まれていてもよい。
【0064】
推論部302は、推論モデル311を用いて、データ取得部301が取得する推論用データから金型の管理に関する所定の事項を推論する。具体的には、推論部302は、製品の良否を予測する。
【0065】
推論モデル311は、推論用データと金型の管理に関する所定の事項との関係を学習することにより生成されたものである。上記所定の事項は、具体的には、製品の良否である。推論モデル311は、例えば、実施形態1の情報処理装置1により生成することができる。生成する処理の流れは図6に示した通りであり、推論モデル211を生成する場合との相違点は訓練データのみである。
【0066】
推論モデル311の生成に用いる訓練データは、射出成形の条件を示す条件データと、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差、および流路に溶融樹脂が滞留した時間の少なくとも何れかと、を含む推論用データに対し、当該条件で生成された製品の良否を示す正解データを対応付けたものである。製品の良否は、例えば不良率であってもよい。また、複数のキャビティを含む金型を用いる場合、キャビティごとの製品の良否を予測する推論モデル311を用いてもよい。
【0067】
推論モデル311の説明変数には、射出成形時に測定されるデータあるいは当該データを用いて算出されるパラメータが含まれていてもよい。この場合、射出成形時に測定されるデータあるいは当該データを用いて算出されるパラメータの値を予測する予測モデルを予め生成しておけばよい。そして、当該予測モデルを用いて算出された予測値を推論モデル311に入力することにより、それらのデータを反映させた予測結果を出力させることができる。
【0068】
条件探索部303は、射出成形の好適な条件を探索する。より詳細には、条件探索部303は、データ生成部304により生成された条件データを用いた推論部302による予測と、当該予測結果に応じたデータ生成部304による条件データの生成とを繰り返し実行させることにより射出成形の好適な条件を探索する。
【0069】
データ生成部304は、射出成形の条件を示す条件データを含む推論用データを用いた推論部302による製品の良否の予測結果に基づき、当該条件とは異なる他の条件を示す条件データを生成する。
【0070】
出力制御部305は、条件探索部303が検出した条件を出力部34に出力させる。出力の態様は任意であり、例えば、出力制御部305は、表示出力、音声出力、および印字出力の少なくとも何れかの態様で条件を出力させてもよい。また、条件を出力させる装置は、情報処理装置3の外部の装置であってもよい。また、出力制御部305は、条件探索部303が検出した条件を、射出成形を制御する装置に出力し、射出成形に当該条件を適用させてもよい。
【0071】
以上のように、情報処理装置3は、実施形態1の情報処理装置2と同様に、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と当該溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差、および当該流路に溶融樹脂が滞留した時間の少なくとも何れかを含む推論用データを取得するデータ取得部301と、推論用データと金型の管理に関する所定の事項との関係を学習することにより生成された推論モデル311を用いて、データ取得部301が取得する推論用データから上記事項を推論する推論部302とを備えている。これにより、分解温度が低い樹脂の成型に用いる金型の管理を適切に行うことが可能になる。
【0072】
また、本実施形態における推論用データには、射出成形の条件を示す条件データが含まれている。そして、情報処理装置3は、推論部302による製品の良否の予測結果に基づき、上記条件とは異なる他の条件を示す条件データを生成するデータ生成部304と、データ生成部304により生成された条件データを用いた推論部302による予測と、当該予測結果に応じたデータ生成部304による条件データの生成とを繰り返し実行させる条件探索部303と、を備える。これにより、射出成形の好適な条件を自動で探索することができる。
【0073】
(処理の流れ)
情報処理装置3が実行する処理の流れについて図9に基づいて説明する。図9は、情報処理装置3が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【0074】
S31では、データ取得部301が、射出成形において溶融樹脂が熱分解する分解温度と溶融樹脂を金型に導く流路の温度との差と、条件データの初期値とを含む推論用データを取得する。なお、推論用データには、分解温度と流路温度との差の代わりに、あるいは当該差と共に、流路に溶融樹脂が滞留した時間が含まれていてもよく、これら以外のパラメータが含まれていてもよい。
【0075】
また、推論用データに含まれる分解温度と流路温度との差は、直近に行われた射出成形における分解温度と流路温度との差であってもよい。また、例えば、データ取得部301は、条件データから流路温度を予測する予測モデルを用いて、S31で取得した推論用データに含まれる条件データから流路温度を予測し、予測した流路温度から、分解温度と流路温度との差を算出してもよい。流路に溶融樹脂が滞留した時間についても同様であり、データ取得部301は、条件データから予測した滞留時間を推論データに含めてもよいし、直近に行われた射出成形における滞留時間を推論データに含めてもよい。
【0076】
また、条件データの初期値は、ユーザが設定してもよいし、推論モデル311で学習した条件データの範囲の中から、それぞれの説明変数毎に乱数を用いる等してデータ取得部301が設定してもよい。また、製品の良否を示す目的変数の良好値が得られることが判っている説明変数の組み合わせが存在する場合、データ取得部301は、その近傍値を条件データの初期値に設定してもよい。
【0077】
S32では、推論部302が、推論モデル311を用いて、S31で取得された推論用データから製品の良否を予測する。なお、S31では複数の推論用データを取得してもよく、複数の推論用データが取得された場合、推論部302は各推論用データについて同様の予測を行う。
【0078】
S33では、条件探索部303が、条件探索の終了条件を満たしているか否かを判定する。条件探索の終了条件は任意に設定しておけばよい。例えば、S32で不良率が予測された場合、不良率の予測値が所定の許容範囲内であることを終了条件としてもよい。S33でNOと判定された場合にはS34に進み、S33でYESと判定された場合にはS35に進む。
【0079】
S34では、データ生成部304が、S32の予測結果に基づいて、当該予想に用いた条件データとは少なくとも一部が異なる新たな条件データを生成する。条件データの生成方法は予め定めておけばよく、例えば、データ生成部304は、条件データに含まれる所定の説明変数を所定量増加または減少させることにより新たな条件データを生成してもよい。S34の後、処理はS32に戻り、S34で生成された条件データを用いた予測が行われる。
【0080】
S35では、条件探索部303は、射出成形の条件を直近の予測に用いた条件データに示される条件に決定し、これにより図9の処理は終了する。なお、出力制御部305は、決定された条件を出力部34等に出力させてもよい。
【0081】
(遺伝的アルゴリズムの適用)
好適な条件データの探索には様々な手法を適用することができる。例えば、遺伝的アルゴリズムにより条件データを探索することも可能である。この場合、S31では、条件探索部303が、最適な条件データの候補を含む推論データを複数生成する。条件データに含まれる説明変数のそれぞれが「遺伝子」であり、それら遺伝子を含む1つの推論データが1つの「個体」、生成される推論データ群が1つの「世代」ということになる。
【0082】
続いて、S32では、推論部302が、推論モデル311を用いて、S31で生成された各推論データのそれぞれを用いて製品の良否を予測する。この予測結果が各個体の「適応度」ということになる。そして、S33では、条件探索部303が、適応度が所定の条件を満たす個体の有無を確認し、そのような個体があればS35に進み、当該個体の条件データに示される条件を射出成形の条件に決定する。一方、条件探索部303は、適応度が所定の条件を満たす個体がなければS34に進み、次の世代の個体群を生成する。次の世代の個体群の生成の際には、適応度の高い個体の選別、交叉、突然変異等の処理を行ってもよい。なお、好適な条件データの探索方法は任意であり、例えば数理最適化等の他の方法を用いてもよい。
【0083】
〔変形例〕
上述の各実施形態で説明した各処理の実行主体は任意であり、上述の例に限られない。つまり、相互に通信可能な複数の情報処理装置により、情報処理装置1~3と同様の機能を実現することができる。例えば、図6図7、および図9に示す各処理を複数の情報装置に分担で実行させてもよい。また、情報処理装置1と2の機能を兼ね備えた情報処理装置や、情報処理装置1と3の機能を兼ね備えた情報処理装置も本発明の範疇に含まれる。
【0084】
〔ソフトウェアによる実現例〕
情報処理装置1~3(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御10、20、30に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラム(推論プログラム/学習プログラム)により実現することができる。
【0085】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0086】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0087】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0088】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0089】
2 情報処理装置
201 データ取得部
202 推論部
211 推論モデル
3 情報処理装置
301 データ取得部
302 推論部
303 条件探索部
304 データ生成部
311 推論モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9