(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101320
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】マメ科植物の栽培装置及び栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 22/40 20180101AFI20240722BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20240722BHJP
A01G 31/00 20180101ALI20240722BHJP
A01G 9/02 20180101ALI20240722BHJP
【FI】
A01G22/40
A01G7/00 601B
A01G31/00 617
A01G31/00 610
A01G9/02 103W
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005242
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彩菜
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
2B327
【Fターム(参考)】
2B022AA03
2B022AB20
2B022DA06
2B314MA38
2B314MA67
2B314NA25
2B314NA29
2B314NA36
2B314ND06
2B314PD16
2B314PD19
2B314PD27
2B314PD29
2B314PD31
2B327NA10
2B327NB01
2B327NC39
2B327NC54
2B327NE01
2B327RC09
2B327UA20
2B327UB03
2B327UB11
2B327VA05
(57)【要約】
【課題】効率よく収穫ロスを削減できるマメ科植物の栽培装置及び栽培方法を提供する。
【解決手段】大豆Aが栽培される栽培ベッド10の上方に設けられ、大豆Aの茎が通される貫通孔75を有するシート部材70と、シート部材70の高さ位置を変更可能な昇降部80と、を具備し、大豆Aの茎が貫通孔75を通るように大豆Aを栽培ベッド10に栽培する栽培工程(種まき工程S11、シート装着工程S12、育苗・開花工程S13)と、大豆Aの子実を肥大させる子実肥大工程S14と、大豆Aの茎が貫通孔75を通った状態のまま、昇降部80によりシート部材70の高さ位置を下降位置から上昇位置に変更するシート引き上げ工程S15(高さ位置変更工程)と、子実が肥大化した大豆A(マメ科植物)を乾燥させる大豆化(乾燥)工程S16(乾燥工程)と、を具備する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マメ科植物が栽培される栽培ベッドの上方に設けられ、前記マメ科植物の茎が通される貫通孔を有するシート部材と、
前記シート部材の高さ位置を変更可能な昇降部と、
を具備する、
マメ科植物の栽培装置。
【請求項2】
前記シート部材は、
前記貫通孔を有し、前記栽培ベッドを上方から被覆する被覆部と、
上下に開口を有すると共に上下方向に伸縮可能な筒状に形成され、下側の開口が前記被覆部と接続されるマチ部と、
前記マチ部の上側の開口を絞る絞り部と、
を具備する、
請求項1に記載のマメ科植物の栽培装置。
【請求項3】
前記被覆部の上面は、光を乱反射可能に形成される、
請求項2に記載のマメ科植物の栽培装置。
【請求項4】
前記貫通孔は、カバー部材により被覆され、
前記カバー部材は、
透過性及び可撓性を有すると共に、切込みが形成される、
請求項1に記載のマメ科植物の栽培装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れか一項に記載のマメ科植物の栽培装置を用いてマメ科植物を栽培する栽培方法であって、
マメ科植物の茎が前記貫通孔を通るように当該マメ科植物を前記栽培ベッドに栽培する栽培工程と、
マメ科植物の子実を肥大させる子実肥大工程と、
マメ科植物の茎が前記貫通孔を通った状態のまま、前記昇降部により前記シート部材の高さ位置を第1位置から前記第1位置よりも高い第2位置に変更する高さ位置変更工程と、
子実が肥大化したマメ科植物を乾燥させる乾燥工程と、
を具備する、
マメ科植物の栽培方法。
【請求項6】
前記栽培装置は、
前記シート部材は、
前記貫通孔を有し、前記栽培ベッドを上方から被覆する被覆部と、
上下に開口を有すると共に上下方向に伸縮可能な筒状に形成され、下側の開口が前記被覆部と接続されるマチ部と、
前記マチ部の上側の開口を絞る絞り部と、
を具備し、
前記栽培方法は、
マメ科植物の子実を収穫する収穫工程をさらに具備し、
前記収穫工程において、
前記マチ部の上側の開口を上方へ引き上げ、前記シート部材の下方においてマメ科植物の茎を切断すると共に、前記絞り部により前記マチ部の上側の開口を絞る、
請求項5に記載のマメ科植物の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マメ科植物の栽培装置及び栽培方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物の栽培装置及び栽培方法の技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1には、水耕栽培により栽培されている植物の根圏を覆う水耕栽培用カバーが記載されている。前記水耕栽培用カバーは、その中央部に設けられた開孔部に植物の茎を貫通させることにより、根圏を上方から覆うことができる。これによれば、根圏に雨水や土、ごみ等が入るのを抑制することができる。
【0004】
ここで、例えば大豆(マメ科植物)は、収穫直前の乾燥した状態において鞘から子実がはじけ易い状態であるため、収穫前の子実の落下により収穫ロスが生じる場合がある。そこで例えば収穫前の大豆の茎に前記水耕栽培用カバーを取り付けると、落下した子実を当該水耕栽培用カバーで受けて、収穫ロスの削減を図れる場合がある。
【0005】
しかし、前記水耕栽培用カバーは、根圏が配置されるポットの開口を覆うように設けられるに過ぎず、例えば子実が落下した勢いで当該水耕栽培用カバーの外側に転がり出ることも考えられる。また大豆の茎の1本ずつに前記水耕栽培用カバーを取り付ける作業は非効率である。このように、前記水耕栽培用カバーは、マメ科植物の収穫ロスの削減を図るには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、効率よく収穫ロスを削減できるマメ科植物の栽培装置及び栽培方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、マメ科植物が栽培される栽培ベッドの上方に設けられ、前記マメ科植物の茎が通される貫通孔を有するシート部材と、前記シート部材の高さ位置を変更可能な昇降部と、を具備するものである。
【0010】
請求項2においては、前記シート部材は、前記貫通孔を有し、前記栽培ベッドを上方から被覆する被覆部と、上下に開口を有すると共に上下方向に伸縮可能な筒状に形成され、下側の開口が前記被覆部と接続されるマチ部と、前記マチ部の上側の開口を絞る絞り部と、を具備するものである。
【0011】
請求項3においては、前記被覆部の上面は、光を乱反射可能に形成されるものである。
【0012】
請求項4においては、前記貫通孔は、カバー部材により被覆され、前記カバー部材は、透過性及び可撓性を有すると共に、切込みが形成されるものである。
【0013】
請求項5においては、請求項1から請求項4までの何れか一項に記載のマメ科植物の栽培装置を用いてマメ科植物を栽培する栽培方法であって、マメ科植物の茎が前記貫通孔を通るように当該マメ科植物を前記栽培ベッドに栽培する栽培工程と、マメ科植物の子実を肥大させる子実肥大工程と、マメ科植物の茎が前記貫通孔を通った状態のまま、前記昇降部により前記シート部材の高さ位置を第1位置から前記第1位置よりも高い第2位置に変更する高さ位置変更工程と、子実が肥大化したマメ科植物を乾燥させる乾燥工程と、を具備するものである。
【0014】
請求項6においては、前記栽培装置は、前記シート部材は、前記貫通孔を有し、前記栽培ベッドを上方から被覆する被覆部と、上下に開口を有すると共に上下方向に伸縮可能な筒状に形成され、下側の開口が前記被覆部と接続されるマチ部と、前記マチ部の上側の開口を絞る絞り部と、を具備し、前記栽培方法は、マメ科植物の子実を収穫する収穫工程をさらに具備し、マメ科植物の子実を収穫する収穫工程をさらに具備し、前記収穫工程において、前記マチ部の上側の開口を上方へ引き上げ、前記シート部材の下方においてマメ科植物の茎を切断すると共に、前記絞り部により前記マチ部の上側の開口を絞るものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
本発明においては、効率よく収穫ロスを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る大豆の栽培装置を示した模式図。
【
図2】(a)シート部材を示した斜視図。(b)シート部材を示した平面図。
【
図4】(a)下降位置にあるシート部材を示した図。(b)上昇位置にあるシート部材を示した図。
【
図5】(a)収穫工程において大豆の主茎を切断する様子を示した図。(b)収穫工程においてマチ部を引き上げる様子を示した図。
【
図6】(a)収穫工程においてマチ部の上側の開口を絞る様子を示した図。(b)運搬可能な袋状のシート部材を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本発明の一実施形態に係るマメ科植物の栽培方法の概略について説明する。
【0019】
本実施形態に係る栽培方法は、マメ科植物としての大豆(ダイズ)Aを栽培するものである。大豆Aの品種としては、フクユタカやエンレイ、ツルの子、トヨマサリ等、種々の品種を採用可能である。
【0020】
また、本実施形態に係る栽培方法は、土耕栽培ではなく、大豆Aに養液(培養液)を与える養液栽培により大豆Aを栽培する。ここで、養液とは、肥料を水に溶かした液である。養液としては、例えば、一般的な植物に適した割合で配合された各種成分(窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、鉄、マンガン等)を含有する養液を用いることができる。
【0021】
養液栽培には、養液の中で根が育つ水耕、土の替わりに種々の培地に作物を定植する固形培地耕、根に養液を噴霧する噴霧耕等が含まれる。本実施形態では、養液栽培として、特に固形培地耕を想定している。固形培地耕において使用される固形培地としては、ロックウールやピートモス、バーミキュライト等の種々の固形培地を採用可能である。
【0022】
本実施形態に係る栽培方法は、露地栽培などの自然環境下で行われるものではなく、屋内で栽培環境を制御可能な植物工場において行われる。植物工場としては、例えば人口光を光源とした光の光強度や照射時間、二酸化炭素濃度、栽培温度、湿度等の栽培環境を制御可能な完全制御型(閉鎖環境型)の施設や、ビニールハウス等を採用できる。
【0023】
以下では、
図1及び
図2等を用いて、植物工場内において、本実施形態に係る栽培方法に用いられる栽培装置1の一例について説明する。なお各図面においては、便宜上、大きさや形状が誇張して示され、また部材の図示が省略される場合がある。
【0024】
栽培装置1は、大豆Aを栽培するための装置である。本実施形態において、栽培装置1は、養液栽培により大豆Aを栽培する。また栽培装置1は、植物工場としてビニールハウスHに設けられる。こうして、ビニールハウスHは、空調や照明等を管理可能に構成されると共に屋外の風雨に晒されないように設けられる。
【0025】
栽培装置1は、栽培ベッド10、ポット20、養液タンク30、養液供給部40、冷却部50、照射部60、シート部材70及び昇降部80を具備する。
【0026】
栽培ベッド10は、大豆Aが栽培されるものである。栽培ベッド10は、上部が開放された略箱状のトレイにより構成される。栽培ベッド10は、水平方向に延びた長手状に形成される。栽培ベッド10の内側には、大豆Aの根に吸収させる養液を溜めることができる。
【0027】
ポット20は、大豆Aが育てられる容器である。ポット20は、栽培ベッド10の内側において当該栽培ベッド10の底部に載置される。ポット20は、上部が開放された有底筒状に形成される。ポット20の底部には、開口が設けられる。ポット20の内側には、大豆Aを栽培するための培地が収納される。前記培地は、ポット20の前記開口を介して、栽培ベッド10に溜められた養液を吸収できる。
【0028】
養液タンク30は、栽培ベッド10に供給するための養液を貯溜するものである。養液タンク30としては、養液を貯溜可能な種々の容器を採用可能である。
【0029】
養液供給部40は、養液タンク30に貯溜された養液を、栽培ベッド10に供給するものである。養液供給部40は、養液供給管41及びポンプ42を具備する。
【0030】
養液供給管41は、養液の流路を構成するものである。養液供給管41は、一端部が養液タンク30内に位置し、他端部(吐出口)が栽培ベッド10内に位置する。
【0031】
ポンプ42は、養液タンク30に貯溜された養液を吸引及び吐出可能なものである。ポンプ42は、養液供給管41の中途部に設けられる。こうして、ポンプ42が稼動すると、養液タンク30に貯溜された養液が、養液供給管41を介して栽培ベッド10に供給される。
【0032】
冷却部50は、栽培ベッド10に供給される養液を冷却可能なものである。冷却部50は、熱交換等の適宜の冷却方法により養液を冷却する。本実施形態では、冷却部50を、養液供給管41の中途部に配置し、当該養液供給管41を流通する養液を冷却可能な構成としている。なお、このような構成に限られず、冷却部50を養液タンク30内の養液を冷却可能な構成としてもよい。冷却部50は、適宜の操作部を介して操作可能に構成される。
【0033】
照射部60は、栽培ベッド10の大豆Aに光を照射可能なものである。照射部60はLED等の人工光を光源としている。照射部60は、光の光強度や照射時間を設定可能とされる。照射部60は、適宜の操作部を介して操作可能に構成される。
【0034】
シート部材70は、栽培ベッド10の上方に設けられるものである。シート部材70は、栽培装置1に脱着可能に設けられる。シート部材70は、後述するように、高さ位置を変更可能に構成される。なお
図1においては、シート部材70の高さ位置が低い状態(後述する下降位置)が示される。シート部材70は、被覆部71、及び絞り部73を具備する。
【0035】
被覆部71は、栽培ベッド10を上方から被覆する部分である。被覆部71は、平面視で略矩形状の1枚のシート状に形成される。被覆部71は、平面視において栽培ベッド10のポット20の全てが、当該被覆部71の内側に位置する程度の大きさに形成される。被覆部71は、複数個所で昇降部80に載置される。被覆部71は、昇降部80に載置された状態でその形状を維持できる程度(すなわち、撓んで折り曲がらない程度)の剛性を有する。被覆部71は、照射された光を反射し易い素材により構成される。被覆部71の上面は、光を乱反射可能に形成される。例えば被覆部71の上面には、光を乱反射可能なように微小な凹凸が形成される。被覆部71には、上下方向に貫通する貫通孔75が形成される。
【0036】
貫通孔75は、大豆Aの茎が通される部分である。貫通孔75は、被覆部71に複数設けられる。なお
図2では、1枚の被覆部71に対して8つの貫通孔75が形成されるが、当該貫通孔75の個数及び配置は適宜変更できる。貫通孔75は、収穫時の大豆Aの茎(主茎)の径よりも大きな径を有する。貫通孔75は、略円形状に形成される。貫通孔75は、透明カバー76により被覆される。
【0037】
透明カバー76は、透過性を有する。これにより、上方から照射された光が透明カバー76を透過できるため、ポット20の上方に設けられる被覆部71にかからわず、当該ポット20の培地(より詳細には、大豆Aの根の周囲)を照射できる。また透明カバー76は、可撓性を有し、菊割れ状の切込みが形成される。これにより、
図2(a)に示すように、貫通孔75に通される大豆Aの成長に応じて透明カバー76が上方へ捲られるため、被覆部71により大豆Aの生育が阻害されるのを抑制できる。また透明カバー76によれば、大豆Aの収穫時又は収穫前に子実が鞘から落下した場合、当該子実が貫通孔75を介して被覆部71の下方(すなわち、シート部材70の外部)へと移動するのを抑制できる。
【0038】
マチ部72は、被覆部71の外縁(周縁)と、後述する絞り部73と、の間の遊びの部分である。マチ部72は、布等の柔軟性を有する素材により上下に開口を有する略筒状に形成される。マチ部72は、下側の開口が被覆部71の外縁に接続されると共に、上側の開口が絞り部73に接続される。マチ部72は、被覆部71の外縁近傍において撓んだ状態で設けられる。マチ部72は、上方へ引き伸ばし可能に構成される(
図5(b)参照)。このように、マチ部72は、上下方向(被覆部71の厚み方向)に伸縮可能に構成される。
【0039】
絞り部73は、マチ部72の上側の開口を絞る部分である。絞り部73は、紐通し部77及び絞り紐78を具備する。紐通し部77は、マチ部72の上側の開口の周縁に沿って延びる筒状に形成される。絞り紐78は、紐状に形成され、紐通し部77に挿通される。絞り紐78の一部は、紐通し部77の外部を通るループ状に設けられる。こうして、絞り部73においては、絞り紐78(紐通し部77の外部にあるループ状の部分)を引っ張ることにより、絞り部73と共にマチ部72の上側の開口を小さく絞ることができる(
図6(a)参照)。
【0040】
昇降部80は、シート部材70の高さ位置を変更させるものである。本実施形態では、昇降部80は、ジャッキにより構成される。昇降部80は、栽培ベッド10の上端部に設けられ、シート部材70を載置可能に構成される。こうして、昇降部80は、シート部材70が栽培装置1に装着された状態(当該昇降部80に載置された状態)において、栽培ベッド10とシート部材70との間に設けられる。昇降部80は、複数設けられる。なお昇降部80は、
図1では便宜上2つ図示されるが、その個数は特に限定されない。
【0041】
また昇降部80は、作業者の操作により動作可能に構成される。なお以下では、昇降部80が上昇した場合のシート部材70の高さ位置を「上昇位置」と称し、昇降部80が下降した場合(上昇する前)のシート部材70の高さ位置を「下降位置」と称する。シート部材70の高さ位置は、後述するように大豆Aの栽培方法の工程に応じて切り替えられる。
【0042】
以下では、
図3のフローチャート、
図4から
図6を用いて、上述の如く構成された栽培装置1を用いた、本実施形態に係る大豆Aの栽培方法について説明する。
【0043】
本実施形態に係る大豆Aの栽培方法は、
図3に示すように、種まき工程S11、シート装着工程S12、育苗・開花工程S13、子実肥大工程S14、シート引き上げ工程S15、大豆化(乾燥)工程S16及び収穫工程S17を具備する。
【0044】
種まき工程S11は、大豆Aの種をまく工程である。種まき工程S11は、シート部材70が栽培装置1に装着されていない状態で(後述するシート装着工程S12の実行前に)実行される。種まき工程S11では、ポット20の培地に大豆Aの種まき(又は、挿し芽)が行われる。種まき工程S11が実行されると、次にシート装着工程S12が実行される。
【0045】
シート装着工程S12は、シート部材70を栽培装置1に装着する工程である。シート装着工程S12においては、シート部材70が昇降部80に載置される。
図4(a)に示すように、シート部材70は、装着された状態において、下降位置に位置する。またこの際、シート部材70の貫通孔75は、ポット20にまかれた種の上方となる位置に配置される(不図示)。シート装着工程S12が実行されると、次に育苗・開花工程S13が実行される。
【0046】
育苗・開花工程S13は、種まき(もしくは挿し芽)が行われた後、発芽した大豆Aの根や本葉を充実させると共に、本葉が展開した大豆Aの花芽及び子実を形成させる工程である。育苗・開花工程S13は、大豆Aの種まき等が行われたことで開始される。大豆Aは、発芽すると、シート部材70の貫通孔75を通って上方へ伸びていく(
図2(a)参照)。こうして、例えば大豆Aの育成途中において当該大豆Aの双葉が落下する場合、ポット20の培地へ落下するのではなく、シート部材70に落下するため、培地上に落下した双葉に起因するカビの発生を抑制できる。
【0047】
なお育苗・開花工程S13においては、照射部60を用いて所定の光環境を形成する。具体的には、照射部60を停止することで夜間のような光環境を形成し、また照射部60を作動することで昼間のような光環境を形成する。また、大豆Aに供給される養液温度の水温(ポット20内の根圏における養液の水温)を所定の水温(例えば、20度以上)とする。こうして、例えば大豆Aの本葉のうち、特に第2本葉が展開した場合に、昼間のような光環境の時間を短くすることにより、短日植物(日長が短くなることで花芽が形成される植物)である大豆Aの花芽の形成を促進できる。育苗・開花工程S13が実行されると、次に子実肥大工程S14が実行される。
【0048】
子実肥大工程S14は、大豆Aの子実を肥大化させる工程である。子実肥大工程S14は、育苗・開花工程S13において大豆Aの全ての花芽のうち所定量の花芽(花)の花弁が散るか又は子実が形成された場合に開始される。子実肥大工程S14においては、大豆Aの生育状況に応じて、適宜の光環境や養液の水温が採用される。例えば育苗・開花工程S13の場合と比べて、昼間のような光環境の時間を長くすることにより、大豆Aの子実を肥大化を促進できる。子実肥大工程S14が実行されると、次にシート引き上げ工程S15が実行される。
【0049】
シート引き上げ工程S15は、シート部材70の高さ位置を、下降位置から上昇位置に切り替える工程である。シート引き上げ工程S15は、大豆Aの子実の所定量(例えば60%以上)が肥大化した場合に開始される。ここで、大豆Aの子実が肥大化した場合とは、大豆Aの子実が枝豆として収穫できる状態となった場合を指す。
【0050】
シート引き上げ工程S15において、シート部材70の上昇位置は、例えば大豆Aの本葉よりも下方に位置するように設定される。またシート部材70の上昇位置は、例えば大豆Aの根元から分岐までの間に位置するように設定される。シート部材70の高さ位置の切り替えは、作業者による昇降部80の操作により行われる。
【0051】
こうして、シート部材70の高さ位置が上昇位置になると、上下方向において大豆Aの子実とシート部材70の被覆部71との間の距離が近くなる。これによれば、大豆Aの収穫前(後述する収穫工程S17が実行される前に)に子実が鞘から落下した場合、落下する距離を短くすることができる。すなわち、子実が落下した勢いでシート部材70の外部へと転がり出ることを抑制できため、当該子実をシート部材70(被覆部71)の上面に溜めておくことができる。シート引き上げ工程S15が実行されると、次に大豆化(乾燥)工程が実行される。
【0052】
大豆化(乾燥)工程S16は、大豆Aの大豆化を促し、大豆Aを子実を成熟(登熟)させる工程である。ここで、一般的に大豆A等のマメ科植物は、子実を肥大化させた後、茎や葉に蓄積した栄養を用いて子実を成熟(登熟)させる。子実の成熟は、大豆A(マメ科植物)が枯れる(葉が黄変・落葉する)につれて進行する。そこで、大豆化(乾燥)工程S16においては、適宜の光環境や養液の水温を採用し、大豆Aを枯らせる。
【0053】
ここで、一般的に、大豆A(マメ科植物)に対して生育環境に関するストレスを与えると、根の機能が弱まり細根の発生等が抑制され、養液を徐々に吸い難くすることができるため、ストレスを与えない場合(自然界での栽培)と比べて短期間のうちに当該大豆Aを枯らせることが知られている。そこで、本実施形態では、冷却部50を作動させ、子実肥大工程S14と比べて養液の水温を低温(例えば、10度)として、子実が肥大化した大豆Aの根を冷やした状態(冷温状態)を維持する。これにより、養液を徐々に吸い難くすることができ、葉から子実へ栄養を運ばせてから、大豆Aを枯らせることができる。
【0054】
また本実施形態では、上述の如きシート引き上げ工程S15においてシート部材70の高さ位置を上昇位置とすることにより、大豆Aにストレスを与え、当該大豆Aが枯れるのを効果的に促進している。
【0055】
具体的には、上述の如くシート部材70の高さ位置が上昇位置になると、上下方向において大豆Aの葉とシート部材70の被覆部71との間の距離が近くなる。またシート部材70の被覆部71は、光を反射し易い素材により、光を乱反射可能に形成される。このような生育環境下において、大豆Aは、シート部材70よりも上方の部分において光合成が促進される一方で、上述の如く根が冷温状態のため養液を吸い難くなっている。すなわち、生育環境が悪化した状態の中、大豆Aの反応を過剰とすることができ、当該大豆Aが枯れるのを効果的に促進できる。
【0056】
なお上述の如くシート部材70の高さ位置を上昇位置になると、大豆Aの葉とシート部材70との距離が近くなるため、風通しが悪くなる。すなわち、シート部材70の高さ位置を上昇位置にすること自体でも、大豆Aにストレスを与えることができる。またシート部材70の高さ位置を変更する際に、貫通孔75の透明カバー76が下方へと捲くられ、当該透明カバー76の上面と大豆Aの主茎とが擦れて当該主茎に傷が付くと、大豆Aにストレスを与えることができる。なお透明カバー76の上面は、大豆Aの主茎に傷を付け易いような形状とすることもできる。これによれば、大豆Aに効果的にストレスを与えることができ、ひいては当該大豆Aが枯れるのを効果的に促進できる。
【0057】
大豆化(乾燥)工程S16は、大豆Aの子実の収穫時期となった場合に終了する。ここで、大豆Aの子実の収穫時期とは、大豆Aの莢の大部分が乾燥した状態(茶褐色となり、降るとカラカラと音がする状態)である。大豆化(乾燥)工程S16が実行されると、次に収穫工程S17が実行される。
【0058】
収穫工程S17は、大豆Aの子実を収穫する工程である。収穫工程S17においては、作業者により収穫作業が行われる。収穫作業では、
図5(a)に示すように、まず作業者は、所定の切断具を用いて、高さ位置が上昇位置であるシート部材70の下方において大豆Aの主茎を切断する。主茎が切断された大豆Aは、シート部材70の貫通孔75に挿通された状態であるため、切断前と比べて多少傾いた状態のまま当該シート部材70に支持される。次に
図5(b)に示すように、作業者は、シート部材70のマチ部72の上部や絞り部73を掴んで、当該マチ部72を上方へ引き上げる。これにより、シート部材70は、撓んだ状態のマチ部72が引き伸ばされることにより、上下方向に幅を有し、内側に大豆Aを収容した(包み込んだ)袋状となる。なお主茎の切断とマチ部72の引き上げとを行う順序は逆であってもよい。
【0059】
次に
図6(a)に示すように、作業者は、シート部材70の絞り紐78を引っ張ることにより、絞り部73と共にマチ部72の上側の開口を小さく絞り、袋状となったシート部材70を閉じることができる。これによれば、
図6(b)に示すように、内側に大豆Aを収容したシート部材70を栽培装置1から取り外し、所定の集積場所へ運搬することができる。こうして、収穫した大豆Aの運搬に関する作業性の向上を図ることができる。また仮に、ビニールハウスH内に、クレーンを設置すれば、袋状となった(内側に大豆Aを収容した)シート部材70を、上方から吊るして運搬できるため、作業性の向上をより効果的に図ることができる。
【0060】
また収穫工程S17において、大豆Aは、収穫前から集積場所に到着するまでの間に亘って、シート部材70の内側に収容した状態となる。ため、子実が鞘から落下した場合であっても、シート部材70の内側に留めておくことができる。すなわち、大豆Aの収穫作業における収穫ロスを効果的に削減できる。
【0061】
以上の如く、本実施形態に係る栽培装置1は、
大豆A(マメ科植物)が栽培される栽培ベッド10の上方に設けられ、前記大豆A(マメ科植物)の茎が通される貫通孔75を有するシート部材70と、
前記シート部材70の高さ位置を変更可能な昇降部80と、
を具備するものである。
【0062】
このような構成により、効率よく収穫ロスを削減できる。
すなわち、大豆Aの子実とシート部材70の被覆部71との間の距離が近くなるため、収穫前に子実が鞘から落下した場合でも、当該子実をシート部材70(被覆部71)の上面に溜めておくことができる。またシート部材70は、例えば大豆Aの1本ずつに着脱作業を行う必要がないため、作業性の向上を図ることができる。
【0063】
また本実施形態に係る栽培装置1においては、
前記シート部材70は、
前記貫通孔75を有し、前記栽培ベッド10を上方から被覆する被覆部71と、
上下に開口を有すると共に上下方向に伸縮可能な筒状に形成され、下側の開口が前記被覆部71と接続されるマチ部72と、
前記マチ部72の上側の開口を絞る絞り部73と、
を具備するものである。
【0064】
このような構成により、撓んだ状態のマチ部72を引き伸ばすことにより、シート部材70を、上下方向に幅を有し、内側に大豆Aを収容可能な袋状とすることができる。これによれば、効率よく収穫ロスを削減できる。
【0065】
また本実施形態に係る栽培装置1においては、
前記被覆部71の上面は、光を乱反射可能に形成されるものである。
【0066】
このような構成により、例えばシート部材70の高さ位置を上昇位置にすると、大豆Aにストレスを与えることができ、当該大豆Aが枯れるのを効果的に促進できる。これによれば、大豆Aの子実を効果的に成熟できるため、効率よく収穫ロスを削減できる。
【0067】
前記貫通孔75は、透明カバー76(カバー部材)により被覆され、
前記透明カバー76(カバー部材)は、
透過性及び可撓性を有すると共に、切込みが形成されるものである。
【0068】
このような構成により、光が遮られることで大豆Aの生育を阻害することなく、大豆Aの子実が貫通孔75を介してシート部材70の外部へと移動するのを抑制できる。すなわち、効率よく収穫ロスを削減できる。
【0069】
また本実施形態に係る栽培方法は、
本実施形態に係る大豆A(マメ科植物)の栽培装置1を用いて大豆A(マメ科植物)を栽培する栽培方法であって、
大豆A(マメ科植物)の茎が前記貫通孔75を通るように当該大豆A(マメ科植物)を前記栽培ベッド10に栽培する栽培工程(種まき工程S11、シート装着工程S12、育苗・開花工程S13)と、
大豆A(マメ科植物)の子実を肥大させる子実肥大工程S14と、
大豆A(マメ科植物)の茎が前記貫通孔75を通った状態のまま、前記昇降部80により前記シート部材70の高さ位置を下降位置(第1位置)から前記下降位置(第1位置)よりも高い上昇位置(第2位置)に変更するシート引き上げ工程S15(高さ位置変更工程)と、
子実が肥大化した大豆A(マメ科植物)を乾燥させる大豆化(乾燥)工程S16(乾燥工程)と、
を具備するものである。
【0070】
このような構成により、効率よく収穫ロスを削減できる。
すなわち、シート部材70の高さ位置を上昇位置にすると、大豆Aにストレスを与えることができ、当該大豆Aが枯れるのを効果的に促進できる。また大豆Aの子実とシート部材70の被覆部71との間の距離が近くなるため、収穫前に子実が鞘から落下した場合でも、当該子実をシート部材70(被覆部71)の上面に溜めておくことができる。
【0071】
また本実施形態に係る栽培方法は、
大豆A(マメ科植物)の子実を収穫する収穫工程S17をさらに具備し、
前記収穫工程S17において、
前記マチ部72の上側の開口を上方へ引き上げ、前記シート部材70の下方において大豆A(マメ科植物)の茎を切断すると共に、前記絞り部73により前記マチ部72の上側の開口を絞るものである。
【0072】
このような構成により、絞り部73と共にマチ部72の上側の開口を小さく絞り、袋状となったシート部材70を栽培装置1から取り外して、所定の集積場所に収穫した大豆Aを移動させることができる。
【0073】
また、本実施形態に係る栽培方法によれば、栽培装置1がビニールハウスHに設けられるため、大豆Aの収穫量が天候に左右されず、また種まき工程S11の開始から数ヶ月程度で大豆Aの子実を収穫することができる。これによれば、露地栽培では1年に1回しか子実を収穫できないことに対し、1年に複数回子実を収穫することができるため、収穫量の向上を図ることができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0075】
例えば、シート部材70の構成は本実施形態のものに限定されない。具体的には、シート部材70の被覆部71は、光を乱反射可能に形成されなくともよい。また、マチ部72は、折り畳み可能な柔軟性を有する素材により、蛇腹状に形成されてもよい。また、絞り部73は、マチ部72の上側の開口を絞る(狭くする)ことができれば、紐通し部77及び絞り紐78を具備していなくともよい。
【0076】
また昇降部80の構成は本実施形態のもの(ジャッキ)に限定されず、任意の構成を採用できる。例えば、昇降部としては、高さの異なる複数の台を用いることができる。この場合、作業者が手作業にて異なる高さの台にシート部材70を載せかえることにより、当該シート部材70の高さ位置が変更される。
【0077】
また、上述した実施形態に係る栽培方法においては、大豆Aの成長度合いに応じて各工程を開始又は終了する構成としている。上記大豆Aの成長度合いの判定は、目視によって行う方法を採用可能である。なお、上記目視による判定に代えて、カメラを介した映像を基に、適宜のプログラムの算出結果を用いて大豆Aの成長度合いを判定する方法も採用可能である。
【0078】
また、上述したような大豆Aの成長度合いに応じて各工程を開始又は終了する構成に代えて、各工程において例示した期間が経過したことを条件に、各工程を開始又は終了する構成を採用可能である。
【0079】
また、各工程において冷却部50、照射部60、昇降部80の動作の切り替えは、作業者の手動の操作により行う方法を採用可能である。なお、上記手動による操作に代えて、適宜の制御部により、上記動作の切替制御を自動で行う方法も採用可能である。
【0080】
また、本実施形態では、固形培地耕により大豆Aを栽培する例を示したが、このような態様に限られない。例えば、水耕や噴霧耕等の他の養液栽培により大豆Aを栽培するものとしてもよい。
【0081】
ここで、養液栽培の方法として水耕を用いる場合は、養液供給部40により供給された養液を所定の容器の中に溜めて、当該容器内の養液に大豆Aの根を常時浸すようにして栽培する。この場合には、冷却部50を作動し、容器内の養液の水温を低下させることで大豆Aの根を冷やした状態を保つことができる。
【0082】
養液栽培の方法として噴霧耕を用いる場合は、所定の容器内に大豆Aの根を収容し、養液供給部40からの養液を所定の噴霧手段を介して容器内に供給することで、養液を大豆Aの根に噴霧するようにして栽培する。この場合には、冷却部50を作動し、噴霧される養液の水温を低下させることで大豆Aの根を冷やした状態を保つことができる。
【0083】
また、本実施形態では、養液の水温を低下させることで大豆Aの根を冷やす例を示したが、このような態様に限られない。例えば、栽培ベッド10(または大豆Aの根が収容される容器)自体を冷却することで、大豆Aの根を冷やす構成を採用可能である。
【0084】
また、本実施形態では、養液栽培により大豆Aを栽培する例を示したが、このような態様に限られない。例えば、土耕栽培により大豆Aを栽培するものとしてもよい。この場合は、土壌に供給される水(又は養液)を低温とすることで、大豆Aの根を冷やした状態を保つことができる。
【0085】
また、本実施形態では、マメ科植物として大豆Aを栽培する例を示したが、このような態様に限られない。本発明に係るマメ科植物の栽培方法及び栽培装置1は、例えば、ソバやゴマ、いんげん豆、小豆等の種々のマメ科植物に適用可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 栽培装置
10 栽培ベッド
70 シート部材
75 貫通孔
80 昇降部