(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101322
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】ろう材付き金属板とそれを用いた絶縁回路基板
(51)【国際特許分類】
H01L 23/12 20060101AFI20240722BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20240722BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20240722BHJP
C04B 37/02 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
H01L23/12 Q
H01L23/12 C
H01L23/36 C
C04B37/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005246
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】木宮 駿
(72)【発明者】
【氏名】岸 泰成
【テーマコード(参考)】
4G026
5F136
【Fターム(参考)】
4G026BA01
4G026BA16
4G026BA17
4G026BB22
4G026BB27
4G026BF20
4G026BF24
4G026BF42
4G026BF44
4G026BF52
4G026BG02
4G026BH07
5F136BB04
5F136EA14
5F136FA02
5F136FA03
5F136FA14
5F136FA16
5F136FA18
5F136GA12
(57)【要約】
【課題】表裏を判別することができるろう材付き金属板を提供する。
【解決手段】他部材との接合用のろう材層で板表面11Aが覆われて一方の面12Aが形成されたろう材付き金属板10であって、少なくとも一つの切り欠き部14が周縁13に形成されており、表裏反転したときの一方の面12Aと他方の面11Bとで平面視での輪郭が異なる。周縁13が矩形状に形成されており、切り欠き部14が周縁13の少なくとも一つの角部に形成されてもよい。切り欠き部14が、周縁13の一つの角部、周縁の二つの対角の角部、三つの角部のいずれかの位置に形成されてもよい。切り欠き部14が矩形状の周縁13の少なくとも一つの直線部に形成されてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
他部材との接合用のろう材層で板表面が覆われて一方の面が形成されたろう材付き金属板であって、
少なくとも一つの切り欠き部が周縁に形成されており、表裏反転したときの前記一方の面と他方の面とで平面視での輪郭が異なることを特徴とする、ろう材付き金属板。
【請求項2】
前記周縁が矩形状に形成されており、前記切り欠き部が前記周縁の少なくとも一つの角部に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のろう材付き金属板。
【請求項3】
前記切り欠き部が、前記周縁の一つの角部、前記周縁の二つの対角の角部、三つの角部のいずれかの位置に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のろう材付き金属板。
【請求項4】
前記周縁が矩形状に形成されており、前記切り欠き部が前記周縁の少なくとも一つの直線部に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のろう材付き金属板。
【請求項5】
セラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に第一ろう材により接合した第一回路層と、前記第一回路層の前記セラミックス基板とは反対の面に設けられた第二回路層と、を備え、
前記第一回路層は、周縁に形成された少なくとも一つの切り欠き部を備え、前記第一回路層を表裏反転したときの一方の面と他方の面とで平面視での輪郭が異なっており、
前記第二回路層は、前記第一回路層の前記切り欠き部よりも平面視で外に張り出すオーバーハング部を備えていることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項6】
前記第一回路層と前記第二回路層とが中間層を間に配置して接合されており、
前記中間層が、前記第二回路層と平面視で同一形状であって、前記第二回路層と平面視で同じ位置にオーバーハング部を有することを特徴とする請求項5に記載の絶縁回路基板。
【請求項7】
前記第二回路層の前記オーバーハング部から前記第一回路層の前記切り欠き部の端面にわたって形成されている被覆部をさらに備え、
前記被覆部は、金属を含むことを特徴とする請求項6に記載の絶縁回路基板。
【請求項8】
前記第一回路層と前記第二回路層とが第二ろう材により接合されており、
前記第二回路層の前記オーバーハング部から前記第一回路層の前記切り欠き部の端面にわたって形成されている被覆部をさらに備え、
前記被覆部は、金属を含むことを特徴とする請求項5に記載の絶縁回路基板。
【請求項9】
前記第一回路層が、純度99.99%以上のアルミニウムであることを特徴とする請求項5から請求項8のいずれか一項に記載の絶縁回路基板。
【請求項10】
前記第二回路層が、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、および銅合金のいずれかであることを特徴とする請求項9に記載の絶縁回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス基板などの他部材に接合されるろう材付き金属板と、このろう材付き金属板を用いた絶縁回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の自動車、鉄道車両、エレベータ、産業機器などには種々の半導体素子を搭載した絶縁回路基板が用いられている。
特許文献1に開示の絶縁回路基板は、例えばAlN(窒化アルミニウム)やSi3N4(窒化珪素)などからなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性、放熱性が優れた金属板を接合して形成した回路層を備え、他方の面に放熱性が優れた放熱層を備えている。
また、従来の絶縁回路基板としては、回路層が、セラミックス基板に形成された純アルミニウム(4Nアルミニウム)を材料とした第一回路層と、この第一回路層に接合した、銅(無酸素銅)やアルミニウム合金を材料とした第二回路層とで構成されたものがある。
【0003】
このように回路層が二層に構成された絶縁回路基板の製造では、セラミックス基板にアルミニウム板を接合して、第一回路層をセラミックス基板に形成する(第一の接合工程)。次に、銅板やアルミニウム板を第一回路層に載せて、積層体を作り、この積層体に荷重をかけた状態で加熱して接合して、第二回路層を形成する(第二の接合工程)。
なお、特許文献1には、金属板をセラミックス基板の一方の面にろう付けにより接合するパワーモジュール用基板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回路層が複数の層で構成された絶縁回路基板の製造では、プレス加工等により予め形成された第一回路層(以下、放熱層についてもプレス加工等により予め形成されたものを前提に議論する。)をセラミックス基板に形成する際に、ろう材層が片面を覆っている金属板を用いることがある。この金属板をセラミックス基板に接合する際に、ろう材層をセラミックス基板に接触させることが必要であり、積層時に表裏の判別が必要である。しかしながら、ろう材層と金属板のろう材層を設けていない非被覆面との見え方の差異が小さいため、画像検出による表裏の判別は難しい。加えて、金属板の平面積が小さくなると一層表裏の判別は難しくなる。ろう材層を設けていない非被覆面をセラミックス基板に接触させると、接合できなくなる。回路層が複数の層(例えば二層や三層)で構成される場合に限らず、ろう材層が片面を覆っている金属板一枚をセラミックス基板に接合して回路層を形成する場合にも表裏判別が必要である。またろう材層が片面を覆っている金属板を用いて絶縁回路基板の放熱層(金属層)を形成する際にも表裏判別が必要である。
【0006】
そこで、本発明は、表裏を容易に判別することができるろう材付き金属板と、このろう材付き金属板を用いた絶縁回路基板と、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、他部材との接合用のろう材層で板表面が覆われて一方の面が形成されたろう材付き金属板であって、少なくとも一つの切り欠き部が周縁に形成されており、表裏反転したときの前記一方の面と他方の面とで平面視での輪郭が異なる。
【0008】
本発明は、切り欠き部を周縁に設けて一方の面と他方の面とで平面視での輪郭が異なるため、ろう材付き金属板の表裏を判別することができる。
例えば前記周縁が矩形状に形成されている場合には、前記切り欠き部は前記周縁の少なくとも一つの角部に形成されている。さらに前記切り欠き部は、前記周縁の一つの角部、前記周縁の二つの対角の角部、三つの角部のいずれかの位置に形成されてもよい。または、前記切り欠き部は矩形状の前記周縁の少なくとも一つの直線部に形成されていてもよい。
【0009】
本発明の絶縁回路基板は、セラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に第一ろう材により接合した第一回路層と、前記第一回路層の前記セラミックス基板とは反対の面に設けられた第二回路層と、を備え、前記第一回路層は、周縁に形成された少なくとも一つの切り欠き部を備え、前記第一回路層を表裏反転したときの一方の面と他方の面とで平面視での輪郭が異なっており、前記第二回路層は、前記第一回路層の前記切り欠き部よりも平面視で外に張り出すオーバーハング部を備えている。
【0010】
第一回路層の切り欠き部よりも外に張り出すオーバーハング部を、第二回路層に設けることで、高温、低温が繰り返される環境下に設置される場合に累積する相当塑性歪み(以下、累積相当塑性歪み)は、オーバーハング部が変形することで緩和される。ここで、オーバーハング部の変形は、オーバーハング部が下層の束縛を受けずに線膨張することを意味し、第二回路層内に生じる歪みがオーバーハング部へと解放される。以下、オーバーハング部の変形については、特筆無い限り同意のものとして扱う。これにより、セラミックス基板と第一回路層との接合面に作用する応力を低減させることができ、接合面における剥離やセラミックス基板の破壊を防止することができる。
【0011】
本発明の絶縁回路基板は、前記第一回路層と前記第二回路層とが中間層を間に配置して接合されてよい。この中間層は、前記第二回路層と平面視で同一形状であって、前記第二回路層と平面視で同じ位置にオーバーハング部を有する。
【0012】
高温、低温が繰り返される環境下に設置される場合に中間層のオーバーハング部が変形することで、累積相当塑性歪みを低減でき、セラミックス基板と第一回路層との接合面に作用する応力を緩和することができる。
【0013】
本発明の絶縁回路基板は、好ましくは、前記第二回路層の前記オーバーハング部の端面から前記第一回路層の前記切り欠き部の端面にわたって連続的に形成されている被覆部をさらに備え、前記被覆部は、金属を含む。
被覆部を設けることで、前記の第二回路層及び中間層累積相当塑性歪みを一層低減することができる。
本発明の絶縁回路基板は、好ましくは、前記第一回路層と前記第二回路層とが第二ろう材により接合されており、前記第二回路層の前記オーバーハング部の端面から前記第一回路層の前記切り欠き部の端面にわたって形成されている被覆部をさらに備え、前記被覆部は、金属を含む。
【0014】
前記被覆部は前記切り欠き部の端面を経て前記セラミックス基板まで形成されてもよい。
【0015】
本発明の絶縁回路基板は、好ましくは、前記第一回路層が純度99.99%以上のアルミニウムである。
第一回路層が純度の高いアルミニウムで構成されていると、応力緩和特性が良好となる。
前記第二回路層は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、銅、および銅合金のいずれかである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のろう材付き金属板によれば、周縁の一部を切り欠き部として形成することで、画像検査によっても表裏を容易に識別することができる。これにより、他部材との接合を確実に行うことができる。
本発明の絶縁回路基板によれば、オーバーハング部が切り欠き部から張り出すように配置されていることで、オーバーハング部によって応力を緩和して良好に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(a)は本発明の実施形態に係るろう材付き金属板を示す平面図であり、(b)は(a)からみた裏側のろう材を設けた面を示す平面図であり、(c)は(a)のA1-A1の破線に沿ったろう材付き金属板の断面図である。
【
図2】(a)~(c)は、本発明の実施形態に係るろう材付き金属板の変形例を示す平面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るろう材付き金属板の表裏を判別する判別装置のブロック図である。
【
図4】(a)は本発明の実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板を示す平面図であり、(b)は(a)のA2-A2の破線に沿ったヒートシンク付き絶縁回路基板の断面図である。
【
図5】(a)は本発明の実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板の製造に用いるブレージングシートを示す平面図であり、(b)は(a)のA3-A3の破線に沿ったブレージングシートの断面図であり、(c)は本発明の実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板の製造に用いる金属板を示す平面図であり、(d)は(c)のA4-A4の破線に沿った金属板の断面図である。
【
図6】(a)は
図4(a)の一点鎖線の円で囲った部分の拡大図であり、(b)は(a)のA5-A5の破線に沿ったヒートシンク付き絶縁回路基板の断面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法を示す図である。
【
図8】(a)は
図7の第一接合工程を示す図であり、(b)は
図7の第二接合工程を示す図である。
【
図9】(a)は本発明の実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板の変形例を示す平面図であり、(b)は(a)のA6-A6の破線に沿ったヒートシンク付き絶縁回路基板の断面図である。
【
図10】(a)は本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の第一変形例を示す平面図であり、(b)は(a)のA7-A7の破線に沿ったヒートシンク付き絶縁回路基板の断面図である。
【
図11】(a)は本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の第二変形例を示す平面図であり、(b)は(a)のA8-A8の破線に沿ったヒートシンク付き絶縁回路基板の断面図であり、(c)は(b)のオーバーハング部とその周辺の拡大図であり、(d)は(a)の絶縁回路基板の製造工程を示す図である。
【
図12】(a)は本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の第三変形例を示す平面図であり、(b)は(a)のA9-A9の破線に沿ったヒートシンク付き絶縁回路基板の断面図であり、(c)は(a)の絶縁回路基板の製造工程を示す図である。
【
図13】本発明の実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板の他の変形例を示す部分断面図である。
【
図14】(a)~(c)は累積相当塑性歪みの経時変化のシミュレーションに用いる実施例の絶縁回路基板を考慮した二次元モデル図である。
【
図15】
図14の(a)~(c)の絶縁回路基板の累積相当塑性歪みの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
[ヒートシンク付き絶縁回路基板の概略製造方法]
本発明の実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板は、
図8(a)~(b)に示されるところの、第一回路層121、セラミックス基板110、金属層(放熱層)130からなる絶縁回路基板90Aを製造する第一接合工程と、絶縁回路基板90Aに対し、ブレージングシート20を介して、金属板30及びヒートシンク200を接合する第二接合工程からなる。
(第一接合工程)
第一接合工程においては、ろう材付き金属板10を用いる。このろう材付き金属板10は、Al-Si系合金等からなるろう材箔を粘稠液体等により金属板11の一方の面に接着させた後に、プレス加工等により所望の形状の通り成形されており、他部材との接合用のろう材層で金属板11の板表面が覆われた一方の面12Aが形成されている。第一接合工程では、ろう材付き金属板10を、セラミックス基板110の一方の面110Aに対してろう材層が接触する様に積層し、セラミックス基板110の他方の面110Bにもろう材付き金属板10を積層する。この第一積層体に所定の荷重を負荷し、600℃以上Al-Siの共晶温度未満で真空加熱することで絶縁回路基板90Aを製造できる。ここでいう金属板11についてはアルミニウムを想定しているが銅を用いても良く、その場合に用いられるろう材は限定されるものではないが、例えば活性金属等を含むろう材ペーストが使用でき、印刷等により金属板11の一方の面に成形し乾燥工程により固化させる。これらのろう材を用いて接合を実施する場合の温度は700以上900℃以下となる。
これまで、ろう材が一方の面に付いていて形状対称性を有する従来金属板をセラミックス基板に積層する際に生じる従来金属板の表裏反転について、画像検査で判別不可能であった。そこで本発明では、その原因である平面視で表裏が同一の形状を有する基材(例えば輪郭が矩形のアルミニウム板)の形状対称性を切り欠き形状を設けることによって損なわさせ、表裏反転を画像検査上でも検出可能にした。従って、本発明の主旨に反しない限りで、構成部材の材質を制限することはない。
(第二接合工程)
第二接合工程においては、ヒートシンク200の面200Aに、心材21の両面にろう材層22及び23をクラッドしたブレージングシート20’を積層し、その反対の面に金属層130が接触する様に絶縁回路基板90Aを積層する。さらに、絶縁回路基板90Aの面121Aにブレージングシート20を積層し、その上に金属板30を積層する。その第二積層体に所定の荷重を負荷した状態で580℃以上615℃以下で真空中で加熱し、ヒートシンク付き絶縁回路基板1を製造できる。この第二接合工程は全ての反転が生じる部材において、反転することによる問題は生じないため、部材の材質を制限することはない。例えば、金属板30はアルミニウムでも銅を用いても良い。但し、金属板30とヒートシンク200とがアルミニウムからなり、かつ、第一回路層121と金属層130とが銅からなる場合と、金属層30とヒートシンク200とが銅からなり、かつ、第一回路層121と金属層130とがアルミニウムからなる場合とにおいては、加圧条件下で加熱することによる固相拡散接合法を用いるため、ブレージングシート20または20’を必ずしも必要としない。
【0019】
(ろう材付き金属板10)
次に、本発明の実施形態に係るろう材付き金属板10を説明する。
ろう材付き金属板10は、
図1(a)~(c)に示すように、金属板11と、この金属板11の一方の面11Aに形成されたろう材層12と、を備えていて、ろう材層12で形成される面12Aを例えばセラミックス基板、アルミニウム板、銅板などの他部材に当接させて加熱することで、ろう材層12によって金属板11を他部材に接合するものである。
【0020】
金属板11は、アルミニウム板又は銅板からなる。
アルミニウム板は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、アルミニウムは、JIS規格での純アルミニウムであり、特に1N90(純度99.9質量%以上:いわゆる3Nアルミニウム)又は1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。アルミニウム合金は、JIS規格でA3003,A6063,A5052等を用いることができる。
銅板は、純度99.96質量%以上の銅(JIS規格でC1020)や純度99.90質量%以上の銅(JIS規格でC1100)又は銅合金からなる。
【0021】
ろう材層12は、乾燥した状態のろう材からなり、金属板11の一方の面11A(一方の板表面)を覆っている。また、ろう材層12は、金属板11を他部材に接合させるものであり、金属板11の材質と接合相手の他部材の材質とによって選定されたろう材を用いて、金属板11の一方の面11Aに形成されている。
例えば、アルミニウム板からなる金属板11とセラミックス製部材との接合用には、Al-Si系、Al-Ge系、Al-Cu系、Al-Mg系、Al-Mn系、又はAl-Si-Mg系等のろう材を用いることができ、アルミニウム板からなる金属板11とアルミニウム製部材(アルミニウム又はアルミニウム合金)との接合用には、Al-Si-Mg系ろう材を用いることができ、銅板からなる金属板11とセラミックス製部材との接合用には、例えば活性金属ろう材ペースト(例えばAg:72質量%,Cu:28質量%,Ti4質量%の活性金属ろう材)を用いることができる。また、この場合のろう材はペースト以外に箔であってもよい。
このように、ろう材付き金属板10では、ろう材層12で形成された面12Aが『本発明の一方の面』に相当し、金属板11のろう材層12を設けていない面11B(非被覆面)が『本発明の他方の面』に相当する。
また、ろう材付き金属板10は、例えば金属板11の厚さを0.1mm以上1.6mm以下とし、ろう材の厚さを0.005mm以上1.2mm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0022】
ろう材付き金属板10の周縁13は、平行に横に延びた長辺縁13A,13Bと、平行に縦に延びた短辺縁13C,13Dと、長辺縁13A,13Bと短辺縁13C,13Dとをつなぎ外に凸となる弧状縁の角部13E,13F,13Gと、一方の長辺縁13Bと一方の短辺縁13Dとをつなぐ切り欠き縁13Jと、を備えている。
例えば、図示される形状では縦の寸法L11よりも横の寸法L12が大きく設定されている。ろう材付き金属板10の縦と横の寸法L11,L12は例えば1mm以上100mm以下であり、寸法L11,L12の比率を変えて形成することもできる。また、図示の切り欠き縁13Jでは、縦の寸法L21と横の寸法L22とが等しく設定されているが、寸法L21,L22の比率を変えてもよい。なお、実際には切り欠き縁13Jの縦の寸法L21はろう材付き金属板10の縦の寸法L11の2分の一よりも小さく設定され(L21<L11/2)、切り欠き縁13Jの横の寸法L22はろう材付き金属板10の横の寸法L12の2分の一よりも小さく設定されている(L22<L12/2)。
この切り欠き縁13Jを介して、一方の長辺縁13Bと一方の短辺縁13Dとがつながることで、周縁13の一部に切り欠き部14が形成されている。
【0023】
ろう材付き金属板10の周縁13は、長辺縁13A,13Bと短辺縁13C,13Dと角部13E,13F,13Gとが周縁13の全体を略占めていることで、概略矩形状を呈しているが、その矩形の一つの角部の位置に切り欠き部14を配置していることで、ろう材付き金属板10では、表裏反転したときに、
図1(b)に示すろう材層12からなる面12Aと
図1(a)に示す金属板11からなる面11Bとで平面視での輪郭が異なっている。このように、ろう材付き金属板10では、周縁13が矩形の基本パターンの形状対称性が崩れて形成されていることで、平面視での輪郭を表側と裏側の判別に利用することができる。なお、形状対称性とは、表裏反転したときに平面視での表側の輪郭と平面視での裏側の輪郭とが同一であることを意味する。
また、基本パターンは、弧状縁の角部13E,13F,13Gに代えて直角を成す角部を配置して、輪郭が長方形に形成されたもの、或いは正方形に形成されたものを利用してもよい。
【0024】
切り欠き部14の形状や切り欠き部14を設ける位置は図示例に限られるものではなく、切り欠き部14があることで、ろう材付き金属板を表裏反転したときに、ろう材付き金属板の一方の面と他方の面とで平面視での輪郭が異なる形状であればよい。
図2(a)に示す切り欠き部14は、外側に凸となる弧状の縁を形成している。表裏の判別に利用する切り欠き部14の曲率半径r1は、非判別用の各角部13E,13F,13Gの曲率半径r2と異なっており、例えば各角部13E,13F,13Gの曲率半径は同じに設定されていると共に、切り欠き部14の曲率半径は角部13E,13F,13Gの曲率半径よりも大きく或いは小さく設定されている。なお、切り欠き部14は、一点鎖線で示すように外に凹となる弧状の縁として形成することもできる。
図2(b)に示すろう材付き金属板10では、二つの切り欠き部14が設けられている。切り欠き部14を二つ設ける場合は対角の位置に切り欠き部14が形成される。また、図中のハッチングを付した角部13Gも切除して、切り欠き部14を三つ設けてもよい。
図2(c)に示すろう材付き金属板10は、四つの角部13E,13F,13G,13Hを有して輪郭が矩形状に形成されており、また切り欠き部14が短辺縁13Dに形成されている。なお、切り欠き部14は長辺縁13A,13Bや弧状縁(角部13E,13F,13G,13H)に形成することもでき、長辺縁13A,13Bや短辺縁13C,13D等に設ける切り欠き部14の数は複数でもよい。
ろう材付き金属板10は、縦と横の寸法の比率も変えることもでき、例えば縦と横の寸法の比率を同じとしてもよい。
【0025】
例えば、前記のろう材付き金属板10は、金属板11がアルミニウム板であれば、Al-Si系などのろう材箔を、粘稠液体等により金属板11の一方の面11Aに剥離可能に接着させることによりろう材層12を形成することができる。また、Al-Si-Mg系のろう材箔を超音波接合などでアルミニウム板に溶着させると、ろう材付き金属板10を疑似クラッド材として構成することができる。金属板11が銅板である場合は、銅板の一方の面を印刷などによってろう材ペーストで覆い、このろう材ペーストを乾燥させてろう材層12を形成することで、ろう材付き金属板10を製造することができる。
【0026】
次に、ろう材付き金属板10の表裏の判別方法について説明する。
本実施形態では、ろう材付き金属板10の表裏の判別を、
図3に示す判別装置400を用いて行う。判別装置400は、ろう材付き金属板10を平面視した状態でろう材付き金属板10を撮像する撮像部410と、撮像部410で撮像した画像からろう材付き金属板10の輪郭を抽出する画像処理部421と、画像処理部421で抽出したろう材付き金属板10の形状が表側の輪郭に相当するか或いは裏側の輪郭に相当するかを判別する判別処理部422と、判別処理部422での表裏の判別の結果を出力する出力部423と、を備えている。
撮像部410は、CCDカメラなどの静止画像を作成する。また、画像処理部421と判別処理部422とは、電子計算機の記録部に格納されたソフトウェアを実行することで機能するものであり、例えば撮像部410からの静止画像を以下のように処理する。
画像処理部421では、撮像部410で撮像した画像を二値化して白黒などのモノクローム画像に変換し、モノクローム画像からろう材付き金属板10の周縁に相当するエッジを検出する。このエッジ検出では、例えば
図1(a)のろう材付き金属板10の周縁13を構成する、長辺縁13A,13Bと、短辺縁13C,13Dと、角部13E,13F,13Gと、切り欠き縁13Jと、が抽出され、またこれらそれぞれの寸法も計測される。なお、エッジ検出では、周縁13を構成する、長辺縁13A,13Bと、短辺縁13C,13Dと、角部13E,13F,13Gと、切り欠き縁13Jの並びとして、例えば切り欠き縁13Jを始点として時計周りの配置としてのエッジ情報を抽出する。なお、撮像部410は裏面から撮像してもよい。
例えば
図1(a)の場合は次の方法で表裏反転を検出できる。
判別処理部422では、記録部に予め格納されている、ろう材付き金属板10の表側の輪郭に関する第一参照情報と、ろう材付き金属板10の裏側の輪郭に関する第二参照情報と、を用いて、撮像した画像から抽出した輪郭が、表側の輪郭であるか或いは裏側の輪郭であるか判別する。なお、ここでは、金属板11の面11Bを表側とし、ろう材層12の面12Aを裏側とする。
第一参照情報は、ろう材付き金属板10を表側から見た場合の周縁13の情報として、切り欠き縁13Jを始点として時計周りに、切り欠き縁13J⇒短辺縁13D⇒角部13G⇒長辺縁13A⇒角部13F⇒短辺縁13C⇒角部13E⇒長辺縁13Bが並んだ配置の情報が含まれている。第二参照情報では、切り欠き縁13Jを始点として時計周りに各縁の並びが第一参照情報とは逆で、切り欠き縁13J⇒長辺縁13B⇒角部13E⇒短辺縁13C⇒角部13F⇒長辺縁13A⇒角部13G⇒短辺縁13Dの順の並びになる。
そして、判別処理部422は、画像処理部421で抽出したエッジ情報で特定される各縁の並びが第一参照情報或いは第二参照情報の何れかに該当するか判断する。撮像したろう材付き金属板10の静止画像から抽出された輪郭が第一参照情報に該当すれば、撮像画像を臨む面は表側であると判別され、抽出された輪郭が第二参照情報に該当すれば、撮像画像を臨む面は裏側であると判別される。
なお、エッジ情報は、周縁13の全体に限らず、その一部として、例えば切り欠き縁13Jとこの切り欠き縁13Jから時計周りに一つ目の縁を用いて、表裏を判別するようにしてもよい。また、切り欠き縁13Jの縦の寸法L21と横の寸法L22の比率が異なる場合には、切り欠き縁13Jと長辺縁13Bとの間の角度θ1と切り欠き縁13Jと短辺縁13Dとの間の角度θ2(≠θ1)とを用いて、表裏を判別することもできる。
もう一つの表裏判別方法として、例えば
図1(a)の場合は次の方法で表裏判別を検出できる。
判別処理部422では、予め切り欠き縁13Jの輪部の位置と形状を記録部へ予め格納しておく。複数の別サンプルで実施して予め機械学習させてもよい。この場合、輪部は直線として記録される。表裏判定時、反転してなければ、切り欠き縁13Jの位置の輪部の形状は直線と検出され、記録部へ格納した輪部を比較し、同じと判別する。表裏反転してないことを出力する。
一方、表裏判定時、反転していれば、本来切り欠き縁13Jの位置には、弧状縁の角部13G或いは角部13Eが配置される為、輪部の形状は円弧状態で検出される。予め記録部へ格納してある直線状の輪部と反転時の円弧状を比較し、判定は表裏反転として出力される。
直線と円弧の判定には、輪郭部検出の際、調整可能な閾値を用いることにより、製造上の輪部に生じる公差やバラツキやバリや歪みによる誤検出を解消する。閾値についてはサイズや切り欠き部の形状、製造公差の量によって個々に設定する。
出力部423は、ディスプレイなどの表示装置や印字する印刷部などを備えていて、撮像したろう材付き金属板10の静止画像を処理した結果として、撮像画像を臨む面が表側或いは裏側であるかを示す判別情報を、出力する。
【0027】
本実施形態のろう材付き金属板10では、切り欠き部14が周縁13に形成されて、表裏反転したときに、
図1(a)に示す一方の面11Bと
図1(b)に示す他方の面12Aとで平面視での輪郭が異なっている。このように、ろう材付き金属板10は、矩形の基本パターンの形状対称性が崩されて周縁13が形成されていることで、画像検査によっても表裏を容易に識別することができる。これにより、他部材との接合を確実に行うことができる。従来の画像処理での測定では、ろう材層12の面12Aと金属板11側の面11Aの見え方の差異が小さいため表裏の判別は難しく、特にろう材層が片面を覆っている従来の金属板ではその縦横の寸法が8mm以下であると撮像画像からは表裏を検出しにくいものである。本実施形態のろう材付き金属板10によれば寸法L1,L2が8mm以下の板片状に形成されていても、切り欠き部14が周縁13にあることで表裏を画像処理によって容易に判別することができる。但し、切り欠きサイズが十分に画像で認識出来るサイズで、かつ、ノイズ等に起因する誤認識が生じない程度のサイズが必要である。この必要サイズはシステムに依存するため、本内容で限定されるものではない。また、画像処理に限らず、目視によってろう材付き金属板10の表裏の判別を行うこともできる。
【0028】
(ヒートシンク付き絶縁回路基板1)
次に、ろう材付き金属板10を用いたヒートシンク付き絶縁回路基板1を説明する。
図4(a)及び(b)に示すように、ヒートシンク付き絶縁回路基板1は、絶縁回路基板100と、複数のフィンが立設されたフィン一体型のヒートシンク200と、を備えている。
【0029】
[絶縁回路基板100の構成]
絶縁回路基板100は、セラミックス基板110と、セラミックス基板110の一方の面110Aに積層された回路層120と、セラミックス基板110の他方の面110Bに積層された金属層(放熱層)130とを備える。セラミックス基板110は、回路層120と金属層130の間の電気的接続を防止する絶縁材であって、例えば窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3)等により形成され、その板厚は0.2mm~1.2mmである。
【0030】
回路層120は、セラミックス基板110の一方の面110Aに接合した第一回路層121と、第一回路層121のセラミックス基板110とは反対側の面に接合した中間層122と、中間層122の第一回路層121とは反対側の面に接合した第二回路層123と、を備えている。
【0031】
第一回路層121は、
図1(a)及び(b)に示すろう材付き金属板10がセラミックス基板110の一方の面110Aに接合されて形成されている。
以下、ろう材付き金属板10の金属板11が純度99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)からなり、ろう材層12がAl-Si系ろう材からなる場合を前提に説明を進める。
【0032】
中間層122は、JIS規格でA3003,A6063等のアルミニウム合金によって形成されている。中間層122の厚さは例えば50μm以上300μm以下に設定されている。
また、本実施形態の中間層122は、
図5(a)及び(b)に示すブレージングシート20を第一回路層121と接合させることで形成される。このブレージングシート20は両面ろうクラッドのブレージングシートであり、JIS規格でA3003等のアルミニウム合金からなる心材21と、この心材21の両面に形成されたろう材層22,23と、を備えている。
ろう材層22,23は、Al-Si-Mg系ろう材からなり、例えばJIS規格でA4005などの真空ろう付け用のろう材アルミニウム合金を用いることができる。
このブレージングシート20は、例えば心材21の厚さを50μm以上300μm以下とし、各ろう材層22,23のそれぞれの厚さを5μm以上100μm以下として、ブレージングシート20全体の厚さを60μm以上500μm以下の範囲内とすることが好ましい。
ブレージングシート20の心材21がろう材層22によって第一回路層121に接合して、中間層122が形成されている。
図示例では、ブレージングシート20の周縁24は、平行に横に延びた長辺縁24A,24Bと、平行に縦に延びた短辺縁24C,24Dと、長辺縁24A,24Bと短辺縁24C,24Dとをつなぎ外に凸となる弧状縁の角部24E,24F,24G,24Hと、を備えており、またブレージングシート20は、縦の寸法L31よりも横の寸法L32が大きく設定されていて、横長の矩形状に形成されている。
ブレージングシート20は、ろう材付き金属板10の縦と横の寸法が等しく、さらにろう材付き金属板10に重ねた際に切り欠き部14を除いてろう材付き金属板10と縁が揃うように形成されている。
【0033】
第二回路層123は、
図5(c)及び(d)に示す金属板30が中間層122の第一回路層121とは反対側の面122Aに接合されて形成されている。金属板30は、JIS規格で純度99.0質量%以上のいわゆる2Nアルミニウム(例えばA1050等)や、A3003,A6063,A5052等のアルミニウム合金のアルミニウム板であり、第二回路層123の厚さは例えば0.5mm~1.5mmに設定されている。
図示例では、金属板30の周縁31は、平行に横に延びた長辺縁31A,31Bと、平行に縦に延びた短辺縁31C,31Dと、長辺縁31A,31Bと短辺縁31C,31Dとをつなぎ外に凸となる弧状縁の角部31E,31F,31G,31Hと、を備えており、また第二回路層123は、縦の寸法L41よりも横の寸法L42が大きく設定されていて、横長の矩形状に形成されている。
金属板30とブレージングシート20との縦と横の寸法が等しく、また金属板30とブレージングシート20とは平面視での輪郭が同一形状に形成されており、縁を揃えて重ねることができる。
【0034】
図6(a)は
図4(a)の一点鎖線の円で囲った部分の拡大図であり、第二回路層123を実線で表し、その下層にある第一回路層121の切り欠き部14を一点鎖線で表していて、第二回路層123の角部31Hは、第一回路層121の切り欠き部14よりも外に張り出していて、オーバーハング部123Pを構成している。
オーバーハング部123Pは、第一回路層121の切り欠き部14から張り出す最大の長さL
maxが例えば0.1mm以上0.5mm以下に設定されている。切り欠き部14の縦方向の寸法L21を1.00mm、横方向の寸法L22を1.00mmとしてその切り欠き縁13Jを平面視で直線状に形成し、第二回路層123の角部31Hの曲率半径r2を1.00mmとすると、オーバーハング部123Pの最大長L
maxを0.28mmに設定することができる。この最大長L
maxは、平面視で切り欠き部14に対して垂直な方向に沿った寸法である。
また、
図6(b)に示すように、中間層122の角部24Hも、第一回路層121の切り欠き部14よりも外に張り出してオーバーハング部122Pを構成しており、このオーバーハング部122Pは第二回路層123のオーバーハング部123Pと平面視で同じ位置に設けられている。また、中間層122のオーバーハング部122Pは第二回路層123のオーバーハング部123Pと平面視での輪郭が同一形状に形成されていて、第二回路層123のオーバーハング部123Pに接合されている。なお、
図6(b)では金属層130と後述の中間層150とヒートシンク200を省略している。
【0035】
さらに、
図6(b)に示すように、中間層122と第二回路層123の各オーバーハング部122P,123Pの端面123Eから切り欠き部14の端面14Eに亘った領域が、連続的に被覆部125で覆われている。この被覆部125は、金属からなり、例えば第一回路層121と中間層122と第二回路層123とを接合する際にはみ出た余剰のろう材で構成されている。また、余剰のろう材に代えて、金属のペーストを別途塗布して被覆部125を形成してもよい。
なお、
図6(b)に図示された被覆部125の形状は、図示の関係上強調されている。実際には、各オーバーハング部122P,123Pの端面122E,123E、非接合領域122B及び切り欠き部14の端面14Eに亘って連続的な薄膜形状で端面122E,123E,122B,14Eを被覆している。また、被覆部125が、中間層122と第二回路層123との間及び122Bから余剰となったろう材がはみ出して形成された場合、入隅部C1及び出隅部C2も覆ってろう溜まり部を形成しており、ろう材は中間層122と第二回路層123との接合界面の解放端部E1に多く溜まることになる。被覆部125はセラミック基板110まで達している。また、第二回路層123の中間層122と接合する面123Lとは反対に位置に位置し電子部品を実装する上平面123Tにまで這い上がることがある。以降の図示についても形状を強調して記述するが、実際の被覆部形状については強調表現に内包されているので、同様のことが言える。
【0036】
(金属層130)
金属層130は、純度99質量%以上のアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板が用いられている。金属層130は、
図1(a)及び(b)に示すろう材付き金属板10がセラミックス基板110の他方の面110Bに接合されて形成されている。
金属層130の厚さは0.1mm以上2.0mm以下に設定されており、回路層120の厚さ寸法と金属層130の厚さ寸法とを同一に設定してもよい。
以下、金属層130が純度99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)からなる場合を前提に説明を進める。
【0037】
[ヒートシンクの構成]
この絶縁回路基板100に中間層150を介して接合されるヒートシンク200は、アルミニウム又はA3003,A6063,A5052等のアルミニウム合金からなる板材や銅又は銅合金からなる板材として形成される。また、ヒートシンク200としては、Al-SiC複合材を用いることができ、Al-SiC複合材は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔体にアルミニウム又はアルミニウム合金(Al)を主成分とする金属を含浸して形成されたアルミニウムと炭化ケイ素の複合体であり、多孔体の表面にはアルミニウム又はアルミニウム合金の被覆層が形成されている。
図4(b)に示すヒートシンク200は、一方の面200Aに中間層150を介して金属層130が接合され、他方の面200Bには、複数のピン状フィン210が立設している。ピン状フィン210の先端位置は水平面上に揃えられ、面200Bの表面からほぼ等しい立設高さとなるように形成されている。
なお、ヒートシンク200やこれに立設されるフィンの形状は特に限定されるものではなく、ヒートシンク200は面200Aから立ち上がって絶縁回路基板100を囲う壁部を備えてもよく、また本実施形態のようなピン状フィン210の他、ひし形フィンや帯板状のフィン等を形成することもできる。
以下、ヒートシンク200がJIS規格でA6063等のアルミニウム合金で構成されている場合を前提に説明を進める。
【0038】
中間層150は、前記の中間層122と同様に、
図5(a)及び(b)に示す両面ろうクラッドのブレージングシート20′を用いて、金属層130とヒートシンク200とを接合させる場合に形成される。このブレージングシート20′は、金属層130の縦と横の寸法が等しく、さらに金属層130に重ねた際に金属層130と縁が揃うように形成されている。
【0039】
このように構成されるヒートシンク付き絶縁回路基板1の製造方法について説明する。
図7に示すように、ヒートシンク付き絶縁回路基板1の製造方法は、ろう材付き金属板10の表裏を判別する判別工程と、判別工程で表裏を判別したろう材付き金属板10等をセラミックス基板110の一方の面110Aに接合して第一接合体を形成する第一接合工程と、第一接合体にアルミニウム板やヒートシンクを接合する第二接合工程と、を備えている。
以下、工程別に説明する。
【0040】
(判別工程)
判別工程では、
図3に示す判別装置400を用いて、ろう材付き金属板10の表裏を判別する。撮像部410で撮像したろう材付き金属板10を平面視した画像からろう材付き金属板10の輪郭の情報が抽出されて、撮像部410を臨む面が表側か裏側であるかを判別される。第一接合工程では、表裏を判別した二つのろう材付き金属板10を利用する。
【0041】
(第一接合工程)
先ず、
図8(a)に示すよう、一方のろう材付き金属板10のろう材層12の面12Aをセラミックス基板110の一方の面110Aに当てて積層し、他方のろう材付き金属板10のろう材層12の面12Aをセラミックス基板110の他方の面110Bに当てるように積層して、これらを第一積層体とする。
図8では、ろう材付き金属板10を
図4の破線箇所に沿った第一回路層121や金属層130の形状に対応させて表している。そして、この第一積層体を積層方向に荷重を加えた状態で加熱することによって、ろう材付き金属板10の金属板11及びアルミニウム板41のそれぞれをセラミックス基板110に接合して、第一接合体90を製造する。ここで、ろう材付き金属板10の金属板11がセラミックス基板110の一方の面110Aに接合して第一回路層121が形成され、アルミニウム板41がセラミックス基板110の他方の面110Bに接合して金属層130が形成される。なお、接合条件は、必ずしも限定されるものではないが、真空雰囲気中で、積層方向の加圧力が0.3MPa以上1.5MPa以下で、630℃以上655℃以下の加熱温度に20分以上120分以下保持するのが好適である。
なお、第一接合体90は、第一回路層121、セラミックス基板110、金属層(放熱層)130からなる絶縁回路基板90Aを構成する。この絶縁回路基板90Aの第一回路層121に電子部品を実装するなどして、利用することもできる。
【0042】
(第二接合工程)
次いで、
図8(b)に示すように、第一接合体90の第一回路層121のセラミックス基板110とは反対の面121Aに、ブレージングシート20を介して金属板30(アルミニウム板)を積層し、第一接合体90の金属層130のセラミックス基板110とは反対の面130Aに、ブレージングシート20′を介してヒートシンク200を積層して、これらを第二積層体とする。
第一回路層121にブレージングシート20を積層する際に、ブレージングシート20の周縁の内、ブレージングシート20の角部24Hを第一回路層121の切り欠き部14よりも張り出させ、さらにブレージングシート20の長辺縁24A,24B、短辺縁24C,24Dや角部24E,24F,24Gを第一回路層121(4Nアルミニウム)の長辺縁13A,13B、短辺縁13C,13Dや角部13E,13F,13Gに揃えて、ブレージングシート20を第一回路層121に重ねる。金属板30をこれと平面視での輪郭が同一形状に形成されたブレージングシート20に積層する際には、金属板30の周縁31をブレージングシート20の周縁24に揃え、また金属板30の角部31Hも第一回路層121の切り欠き部14よりも外に張り出させる。
そして、第二積層体を積層方向に荷重を加えた状態で加熱することにより、ブレージングシート20の心材21を介して金属板30(アルミニウム板)及び、ブレージングシート20′の心材21を介してヒートシンク200を第一接合体90のそれぞれの面に接合する。例えば、積層方向の加圧力が0.1MPa以上0.5MPa以下で、590℃以上615℃以下の加熱温度に3分以上20分以下保持するのが好適である。これにより、ブレージングシート20の心材21が第一回路層121のセラミックス基板110とは反対側の面121Aに接合して中間層122が形成され、金属板30が中間層122の第一回路層121とは反対側の面122Aに接合して第二回路層123が形成される。ブレージングシート20′の心材21が金属層130のセラミックス基板110とは反対側の面130Aに接合して中間層150が形成される。これによりヒートシンク200のピン状フィン210の反対側にある面200Aが、金属層130のセラミックス基板110とは反対側の面130Aに中間層150を介して接合される。
また、
図6(b)に示すように、中間層122及び第二回路層123の角部24H,31Hが第一回路層121の切り欠き部14よりも張り出して、オーバーハング部122P,123Pが形成される。
【0043】
さらに、中間層122や第二回路層123を第一回路層121上に形成する過程で使用されたブレージングシート20のろう材の内、余剰のろう材が、第二積層体に加える荷重で第一回路層121と心材21(中間層122)との間から外にはみ出し、さらに心材21(中間層122)と金属板30(第二回路層123)の間からも外にはみ出す。また、ブレージングシート20のオーバーハング部122Pは第一回路層121と接合しないため、セラミックス基板110を臨むオーバーハング部122Pの非接合領域122Bに設けられたろう材は接合に使用されずに残ることになる。そして、これらの余剰のろう材(金属)が、中間層122のオーバーハング部122Pや第二回路層123のオーバーハング部123Pの端面123Eから切り欠き部14の端面14Eにわたった領域を覆い、第二接合工程の後に硬化して、連続的な被覆部125が形成される。
なお、第一回路層121の端面14Eと中間層122のオーバーハング部122Pの非接合領域122Bとで構成される入隅部C1が被覆部125で埋められ、またオーバーハング部122Pの非接合領域122Bと端面122Eとで構成される出隅部C2が被覆部125で包まれる。また、被覆部125は、中間層122のオーバーハング部122Pと第二回路層123のオーバーハング部123Pとの端面122E、123Eに亘って設けられている。
このように第二接合工程を経て、ヒートシンク付き絶縁回路基板1が完成する。
【0044】
本実施形態のヒートシンク付き絶縁回路基板1の製造方法によれば、表裏を判別されたろう材付き金属板10を用いることで、ヒートシンク付き絶縁回路基板1を製造する際に、ろう材付き金属板10の金属板11(アルミニウム板)をセラミックス基板110に確実に接合させることができる。
また、中間層122や第二回路層123が、第一回路層121の切り欠き部14よりも外に張り出すオーバーハング部122P,123Pを設けることで、高温、低温が繰り返される環境下に設置される場合に第一回路層121に累積する相当塑性歪み(以下、累積相当塑性歪み)は、オーバーハング部122P,123Pが変形することで緩和されて、セラミックス基板110と第一回路層121との接合面に作用する応力を低減させることができる。例えばヒートサイクル試験では、オーバーハング部122P,123Pが下層の束縛を受けずに線膨張することで、第二回路層123内に生じる歪みがオーバーハング部122P,123Pへと解放されることで減少し、第一回路層121での累積相当塑性歪みを緩和して試験が進行していく。オーバーハング部122P,123Pを設けていないと、応力が接合面に作用して、剥離などが生じ、又はセラミックス基板110を破壊するおそれがある。
また、
図6(b)に示すように、オーバーハング部122P,123Pに加えて、被覆部125を設けていることで、累積相当塑性歪みを一層低減することができる。
【0045】
(ヒートシンク付き絶縁回路基板の変形例)
図9に示す変形例のヒートシンク付き絶縁回路基板2は、セラミックス基板110の一方の面110Aに形成される回路層が、それぞれ離れて形成される第一島部IS1と第二島部IS2と第三島部IS3とからなる。
第三島部IS3は、他の複数の島部(第一島部IS1と第二島部IS2)と比べて面積を小さく形成されており、また第三島部IS3の第一回路層121が切り欠き部14を設けたろう材付き金属板10を用いて形成されていると共に、中間層122や第二回路層123が第一回路層121の切り欠き部14よりも外に張り出すオーバーハング部122P,123Pを設けている。
回路層として平面視での輪郭が矩形状の島部をセラミックス基板110上に形成する際に、周縁に表裏判別用の切り欠き部14を設けていない、例えば輪郭を矩形とした図示省略のろう材付きアルミニウム板を用いると、ろう材から成る面を判別できず、非ろう材の面をセラミックス基板に合わせた状態で接合処理を行うおそれがある。
本実施形態では、平面視での輪郭が矩形状の第三島部IS3をセラミックス基板110上に形成する際に、切り欠き部14を設けたろう材付き金属板10を用いることで、その表裏を容易に判別して、ろう材付き金属板10の金属板11をセラミックス基板110に確実に接合させることができる。
【0046】
以下、絶縁回路基板100の変形例を説明する。
前述の
図4に示す絶縁回路基板100では、回路層120の第一回路層121と金属層130とが切り欠き部14を設けているが、表裏判別用の切り欠き部14を設けたろう材付き金属板10は、第一回路層121と金属層130の形成に限らず、金属層が第一金属層とこれに接合した第二金属層とからなる場合にセラミックス基板と接合する第一金属層の形成に、また中間層を省いて回路層が第一回路層とこれに接合した第二回路層とからなる場合にセラミックス基板と接合する第一回路層の形成等に用いることができる。また、
図4に示すヒートシンク付き絶縁回路基板1ではブレージングシート20を用いて第二回路層123を第一回路層121に接合し、ブレージングシート20′を用いてヒートシンク200を金属層130に接合しているが、ブレージングシート20,20′に代えて、ろう材箔やろう材ペーストを用いて第二回路層123と第一回路層121とを接合し、さらにヒートシンク200と金属層130とを接合して、絶縁回路基板やヒートシンク付き絶縁回路基板を構成することもできる。この場合には必ずしも中間層122,150は存在しなくてもよい。
また、金属板30が銅又は銅合金からなる銅板である場合にはブレージングシート20を省いて、金属板30を第一回路層121に積層した状態でこれらを銅とアルミニウムの共晶温度未満で加熱して、金属板30を第一回路層121に固相拡散接合によって接合することもできる。
【0047】
(第一変形例)
図10(a)及び(b)に示す第一変形例の絶縁回路基板101は、セラミックス基板110と、セラミックス基板110の一方の面110Aに積層された回路層120Aと、セラミックス基板110の他方の面110Bに積層された金属層(放熱層)130′と、を備えている。前述の実施形態の構成と同じ構成には同じ符号を用いて、それらの詳細な説明は省略する。
回路層120Aは、アルミニウム板からなり、Al-Si系ろう材を介してセラミックス基板110の一方の面110Aに接合されている。
金属層130′は、セラミックス基板110の他方の面110Bに接合された第一金属層131′と、第一金属層131′のセラミックス基板110とは反対側の面に接合された中間層132′と、中間層132′の第一金属層131′とは反対側の面に接合された第二金属層133′と、を備えている。
第一金属層131′は、
図1に示すろう材付き金属板10を、そのろう材層12をセラミックス基板110の面110Bに当てて、ろう材付き金属板10の金属板11がセラミックス基板110に接合することで形成されている。ここで、ろう材付き金属板10の金属板11はアルミニウム板からなり、ろう材層12はAl-Si系ろう材からなる。なお、
図10(a)では第一金属層131′の切り欠き部14(切り欠き縁13J)を一点鎖線で表している。
中間層132′は、
図5(a)及び(b)に示すブレージングシート20を、その一方のろう材層(例えばろう材層22A)を第一金属層131′に当てて、心材21が第一金属層131′に接合することで形成されている。
第一金属層131′にブレージングシート20を積層する際に、ブレージングシート20の心材21の周縁の内、ブレージングシート20の角部24Hを第一金属層131′の切り欠き部14よりも張り出させ、さらにブレージングシート20の長辺縁24A,24B、短辺縁24C,24Dや角部24E,24F,24Gを第一金属層131′の長辺縁13A,13B、短辺縁13C,13Dや角部13E,13F,13Gに揃えて、ブレージングシート20を第一金属層131′に重ねられる。
第二金属層133′は、
図5(c)に示す金属板30を、
図5(a)及び(b)に示すブレージングシート20の他方のろう材層23に当てて、金属板30が心材21に接合することで形成されている。金属板30をこれと平面視での輪郭が同一形状に形成されたブレージングシート20に積層する際には、金属板30の周縁31をブレージングシート20の周縁24に揃えて積層する。
また、第一金属層131′のセラミックス基板110とは反対側の面131Aに中間層132′及び第二金属層133′を接合する際に、ブレージングシート20(心材21)の周縁の内、ブレージングシート20の角部24Hを第一金属層131′の切り欠き部14よりも張り出させ、さらに金属板30の角部31Hも第一金属層131′の切り欠き部14よりも外に張り出させることで、中間層132′及び第二金属層133′にはオーバーハング部132P,133Pが形成される。
第一変形例の絶縁回路基板101では、第一金属層131′が切り欠き部14を設けたろう材付き金属板10を用いて形成されることで、接合の際に表裏を容易に判別して、ろう材付き金属板10の金属板11をセラミックス基板110に確実に接合させることができる。
また、中間層132′や第二金属層133′が、第一金属層131′の切り欠き部14よりも外に張り出すオーバーハング部132P,133Pを設けることで、高温、低温が繰り返される環境下に設置される場合の、第一金属層131’における累積相当塑性歪みは、オーバーハング部132P,133Pへと線膨張による歪みが解放されることで緩和されて、セラミックス基板110と第一金属層131′との接合面に作用する応力を低減させることができる。
【0048】
(第二変形例)
図11(a)及び(b)に示す第二変形例の絶縁回路基板102は、セラミックス基板110と、セラミックス基板110の一方の面110Aに積層された回路層120Bと、セラミックス基板110の他方の面110Bに積層された金属層(放熱層)130″と、を備えている。前述の実施形態の構成と同じ構成には同じ符号を用いて、それらの詳細な説明は省略する。なお、
図11(a)では第一回路層121の切り欠き部14(切り欠き縁13J)を一点鎖線で表している。
前述の
図4に示す絶縁回路基板100の回路層120は第一回路層121と第二回路層123との間に中間層122が配置されていたが、第二変形例の絶縁回路基板102の回路層120Bは前記の中間層122を省いて構成されていて、回路層120Bは、セラミックス基板110の一方の面110Aに接合された第一回路層(アルミニウム板)121と、この第一回路層121のセラミックス基板110とは反対側の面に接合された金属板30からなる第二回路層123と、を備えている。第二回路層123は銅板又はアルミニウム板を用いて形成されている。
第一回路層121は、
図11(d)に示すように、
図1に示すろう材付き金属板10を、そのろう材層12をセラミックス基板110に当てて、セラミックス基板110に接合することで形成されている。ここで、ろう材付き金属板10の金属板11はアルミニウム板からなり、ろう材層12はAl-Si系ろう材からなる。
図11(d)では、ろう材付き金属板10を
図11(a)の破線箇所に沿った第一回路層121の形状に対応させて表している。
第二回路層123は、
図11(d)に示すように、アルミニウム板からなる金属板30をAl-Si-Mg系ろう材箔53を介して第一回路層121(ろう材付き金属板10の金属板11)に接合することで形成されている。
また、絶縁回路基板102では、
図11(b)に示すように、被覆部125′が第二回路層123のオーバーハング部123Pの端面123Eから第一回路層121の切り欠き部14の端面14Eを経てセラミック基板110の面110Aまで形成されている。被覆部125′は、第二回路層123を第一回路層121に接合する際に用いた余剰のろう材箔53が第二回路層123と第一回路層121との間から端面123E,14Eにはみ出して、またオーバーハング部123Pの下面の非接合領域123Bに残るろう材箔53によって形成されている。また、被覆部125′は、余剰のろう材に代えて、金属を含むペーストをオーバーハング部123Pの端面123Eから切り欠き部14の端面14Eにわたって塗布して形成されてもよい。
なお、
図11(c)に示すように、第一回路層121の端面14Eと第二回路層123のオーバーハング部123Pの非接合領域123Bとで構成される入隅部C1′と、オーバーハング部123Pの非接合領域123Bと端面123Eとで構成される出隅部C2′が被覆部125′で覆われる。
図11(c)では金属層130″を省略している。
金属層130″は
図11(d)に示すように、アルミニウム板42をAl-Si系ろう材箔51を用いてセラミックス基板110の他方の面110Bに接合させて形成されている。図示例ではろう材箔51を用いることとしたが、これに限らず、ろう材ペーストを用いてもよい。この場合、ろう材ペーストは、セラミックス基板110に塗布してもよいし、アルミニウム板42に塗布してもよい。
第二変形例の絶縁回路基板102によれば、第一回路層121を形成する材料として、表裏判別用の切り欠き部14を設けたろう材付き金属板10を用いることで、表裏を容易に判別することができ、金属板11をセラミックス基板110に確実に接合させることができる。さらにオーバーハング部123Pが設けられることで、高温、低温が繰り返される環境下に設置される場合に累積相当塑性歪みを一層緩和することができる。
なお、金属板30が銅板からなる場合にはAl-Si-Mg系ろう材箔53を省いて、銅とアルミニウムの共晶温度未満で加熱して、銅板を第一回路層121のアルミニウム板に固相拡散接合によって接合することもできる。
また、図示することを省略するが、
図10(b)に示す金属層130′も、中間層132′を省いて、第二金属層133′をAl-Si-Mg系ろう材を用いて第一金属層131′に接合させて、絶縁回路基板を構成することもできる。
【0049】
(第三変形例)
図12(a)及び(b)に示す第三変形例の絶縁回路基板103は、セラミックス基板110と、セラミックス基板110の一方の面110Aに積層された回路層120Cと、セラミックス基板110の他方の面110Bに積層された金属層(放熱層)130″と、を備えている。前述の実施形態の構成と同じ構成には同じ符号を用いて、それらの詳細な説明は省略する。
前述の第二変形例の絶縁回路基板102では第二回路層123がオーバーハング部123Pを設けているが、第三変形例の絶縁回路基板103では、第二回路層123′がオーバーハング部123Pを設けずに形成されている。
第一回路層121は、
図12(c)に示すように、
図1に示すろう材付き金属板10(
図12では符号10Aを付している。)を、そのろう材層12をセラミックス基板110に当てて、セラミックス基板110に接合することで形成されている。例えば、ろう材付き金属板10Aの金属板11はアルミニウム板からなり、ろう材層12はAl-Si系ろう材からなる。
第二回路層123′は、
図12(c)に示すように、
図1に示すろう材付き金属板10(
図12では符号10Bを付している。)のろう材層12を、第一回路層121を形成するためのろう材付き金属板10Aに当てて、このろう材付き金属板10Aに接合することで形成されている。例えば、ろう材付き金属板10Bの金属板11はアルミニウム板からなり、ろう材層12はAl-Si-Mg系ろう材でもAl-Si系ろう材でもよい。
図12(c)では、ろう材付き金属板10A,10Bを
図12(a)の破線箇所に沿った第一回路層121や第二回路層123′の形状に対応させて表している。
ろう材付き金属板10Bは、ろう材付き金属板10Aと平面視での輪郭が同一形状に形成されている。ろう材付き金属板10Aは、その周縁13をろう材付き金属板10Bの周縁13に揃えて、セラミックス基板110の一方の面110Aに積層され、さらにアルミニウム板42がセラミックス基板110の他方の面110BにAl-Si系ろう材箔51を介して積層されて第一積層体を構成し、この第一積層体を積層方向に荷重を加えた状態で加熱することで、絶縁回路基板103が形成される。
このように、第一回路層121と第二回路層123′とを形成する材料として、表裏判別用の切り欠き部14を設けたろう材付き金属板10A,10Bを用いることで、表裏を容易に判別することができ、各金属板11(ろう材付き金属板10A,10B)を接合相手の部材に確実に接合させることができる。
この第三変形例においては、断面2次元モデルにおける構造は、切り欠きを設けない構造と同一となるため、第一回路層における累積相当塑性歪みに関する挙動も同一と言える。
【0050】
本発明は、前記の説明や図示例に限らず実施をすることができる。
本発明は、図示することを省略する、アルミニウム板(アルミニウム又はアルミニウム合金)をセラミックス基板に接合してなるDBA(Direct Bonded Aluminium)基板、銅板(銅又は銅合金)をセラミックス基板に接合してなるAMC(Active Metal Bonded Copper)基板などの接合体に適用することができる。また、セラミックス基板に設けられる回路層や金属層(放熱層)が複数の金属板(アルミニウム板や銅板)を積層してなる場合には、少なくともその一層を本発明のろう材付き金属板を用いて形成してもよい。
【0051】
(切り欠き部,ろう材付き金属板の輪郭)
ろう材付き金属板に設ける切り欠き部は図示例に限らず、その他の形状であってもよい。
また、ろう材付き金属板は、角部が外や内に凸の弧状縁に限らず、平面視で直角などの角として形成することもできる。また、ろう材付き金属板の輪郭は矩形状に限らず、台形、五角形などの多角形などでもよい。
【0052】
(ブレージングシート20)
両面ろうクラッドのブレージングシート20は、ろう材付き金属板10の輪郭形状に合わせて形が形成されてもよい。例えば
図5(a)に示すように、ブレージングシート20″では、ブレージングシート20のハッチングを付した角部24Hが切除されて、直線状の切り欠き縁24Jを形成することで、周縁部の一部が切り欠き部25として構成されている。このブレージングシート20″とろう材付き金属板10とを用いてヒートシンク付き絶縁回路基板の回路層120Dを構成することができる。ろう材付き金属板10を用いて第一回路層121を形成し、さらにこの第一回路層121のセラミックス基板110とは反対側の面にブレージングシート20″を用いて中間層122″(心材21)を形成し、さらに金属板30(アルミニウム板)を中間層122″(心材21)に接合して第二回路層123を形成すると、
図13に示すように、第二回路層123のオーバーハング部123Pが、第一回路層121や中間層122″の切り欠き部14,25よりも外に張り出す。
第二回路層123にだけオーバーハング部123Pを設けた場合も、好ましくは、金属からなる被覆部125″で、オーバーハング部123Pの端面123Eからオーバーハング部123Pの非接合領域123Bと中間層122″の端面122E″及び切り欠き部14の端面14Eを経てセラミックス基板110の面110Aまで形成されるとよい。中間層122″の端面122E″と第二回路層123のオーバーハング部123Pの非接合領域123Bとで構成される入隅部C1″やオーバーハング部123Pの非接合領域123Bと端面123Eとで構成される出隅部C2″が被覆部125″で覆われる。なお、
図13では放熱側の金属層を省略している。
このように、オーバーハング部123Pが下層の束縛を受けずに線膨張することで、第二回路層123内に生じる歪みがオーバーハング部123Pへと解放されることで減少する。このオーバーハング部123Pに加えて、被覆部125″を設けていることで、累積相当塑性歪みを一層低減することができる。
【0053】
(金属層130)
図8(a)に示す第一接合工程ではろう材付き金属板10をセラミックス基板110の他方の面110Bに接合して、金属層130を形成しているが、4Nアルミニウムからなるアルミニウム板を、粘稠液体等により固定されていないAl-Si系ろう材箔を別途に用いることやろう材ペーストを介してセラミックス基板110の他方の面110Bに積層して、金属層(放熱層)130を形成してもよい。
【0054】
(第二回路層と第二金属層)
第二回路層123と第二金属層133′とは、両面ろうクラッドのブレージングシート20,20′及び金属板30に代えて、片面ろうクラッドのブレージングシート(心材がアルミニウム板)を第一回路層121や第一金属層131′に接合して形成することもできる。
【実施例0055】
セラミックス基板の一方の面に回路層が形成され、他方の面に金属層(放熱層)が形成された絶縁回路基板において、温度変化に伴う前記回路層における最大の累積相当塑性歪みεをシミュレーションした。
シミュレーションの対象となる絶縁回路基板は、いずれもセラミックス基板の一方の面に接合した第一回路層と、この第一回路層に接合した中間層と、この中間層に接合した第二回路層と、を備えていて、切り欠き部の有無と被覆層の有無とで各モデルは断面構造が相違しており、具体的には
図14(a)に示す断面構造を持つ二次元モデル(以下、モデルAと称す。)と、
図14(b)に示す断面構造を持つ二次元モデル(以下、モデルBと称す。)と、
図14(c)に示す断面構造を持つ二次元モデル(以下、モデルCと称す。)である。
また、各モデルA,B,Cは、放熱側の構成が同じであり、セラミックス基板110の他方の面110Bに接合した第一金属層131″と、この第一金属層131″に接合した中間層132″と、この中間層132″に接合した第二金属層133″、とを備え、これらは端面を揃えて接合されている。
各構成材も各モデルA,B,Cで同じであり、第一回路層と第一金属層131″とはそれぞれアルミニウム板(4Nアルミニウム)からなり、回路側及び放熱側の各中間層はそれぞれアルミニウム板(A3003のアルミニウム合金)からなり、第二回路層と第二金属層133″とはそれぞれアルミニウム板(A6063のアルミニウム合金)からなる。
【0056】
〇モデルAの回路層について
図14(a)に示すモデルAは、第一回路層121と中間層122″とが切り欠き部14,25を備え、且つ第二回路層123がオーバーハング部123Pを備えている。オーバーハング部123Pが第一回路層121及び中間層122″の端面14E,122E″から張り出す長さを1.0mmとした。さらに、モデルAは被覆部126を備えており、この被覆部126はオーバーハング部123Pの端面123Eと出隅部C2″とセラミックス基板側に露出している面(非接合領域123B)と、入隅部C1″と、切り欠き部14,25の端面14E、122E″とを連続的に覆っている。
【0057】
〇モデルBの回路層について
図14(b)に示すモデルBは、
図14(a)のモデルAと比べて、被覆部126を省いて構成されている点で相違し、その他の構成はモデルAと同じである。
【0058】
〇モデルCの回路層について
図14(c)に示すモデルCは、
図14(b)に示すモデルBと比べて、第一回路層127と中間層128がそれぞれ切り欠き形状を備えずに形成されていて、第一回路層127と中間層128との輪郭がモデルA,Bの第一回路層121と中間層122″の輪郭と相違し且つ第二回路層123の輪郭と同じ形状であり、さらに第一回路層127と中間層128の各端面127E,128Eが第二回路層123の端面123Eに揃えて配置されている。
【0059】
〇シミュレーション内容
絶縁回路基板の温度を変化させて、この温度変化に伴う第一回路層における最大の累積相当塑性歪みεをシミュレーションする。温度変化を行う前の初期状態の温度を600℃とし、各構成材が600℃で線膨張係数に従った長さの状態で互いに接合されており、この初期状態での歪みの量(累積相当塑性歪み)は0である。そして、温度600℃の初期状態から温度変化を始め、具体的には600℃から25℃、25℃から-40℃、-40℃から150℃、150℃から25℃という4つの連続した温度変化を想定したシミュレーションを実施した。絶縁回路基板の構成材のうち、第一回路層121,127の歪みの量が最大となる、セラミックス基板110との接合端に着目し、その点(モデルAでは点P1,モデルBでは点P2,モデルCでは点P3)で各温度における最大の累積相当塑性歪みεを算出する。なお、シミュレーションツールとしてANSYS社製の「Mechanical」を用いた。
また、モデルAについては、その被覆部126でのメッシュ生成等に困難な点があるため、被覆部126としては図示するように、第二回路層123の端面123Eを覆う被覆部126Aは0.1mmの厚みをもち、第一回路層121及び中間層122″の端面14E,122E″を覆う被覆部126Bは0.2mmの厚みをもちセラミックス層110まで到達しており、さらに被覆部126Cが被覆部126Aと被覆部126Bとの間に配置されて、これら矩形状の被覆部126A,126B,126Cが連続体であるとして実際のシミュレーションには適用した。
シミュレーションによって、算出した最大の累積相当塑性歪みεを表1と
図15に示す。
【0060】
【0061】
〇シミュレーション結果
各温度(600℃,25℃,-40℃,150℃,25℃)到達時における累積相当塑性歪みεをモデルB,Cで比較することで、切り欠き部14をもたないモデルCに対して、切り欠き部14をもつモデルBで小さいことを確認した。この累積相当塑性歪みεの低減は、モデルBの第二回路層123においてオーバーハング部123Pが切り欠き部14から突出していることにより、4Nアルミニウムからなる第一回路層121にかかる膨張や収縮による応力が低減されていることを示唆している。
さらに、モデルBに対してモデルAを比較することにより、モデルAでは累積相当塑性歪みεが減じられることを確認した。この結果により、ろう材等の金属を含む被覆部126がオーバーハング部123Pの端面123Eから切り欠き部14の端面14Eにわたって形成されていることによって、第一回路層121に発生する累積相当塑性歪みεが減少させられることを確認した。なお、モデルAにおいては、被覆部126A,126Bが矩形状に形成されているとしても、被覆部126A,126Bが第一回路層121を構成する4Nアルミニウムの硬度よりも高い硬度をもつ金属(例えば、A3003等)によって構成されることから、モデルAの応力シミュレーションの結果は、実際に被覆部126が滑らかに形成されている構造での結果と同等の力学的環境での現象として扱うことができる。
以上のシミュレーションから、切り欠き構造を絶縁回路基板に適用することによって、使用時の絶縁回路基板の破壊発生確率を低減できることを確認した。
また、4Nアルミニウムからなる第一回路層121,127に発生する累積相当塑性歪みεが閾値を超過したときには、第一回路層121,127の破断、つまり冷熱信頼性試験における絶縁回路基板の破壊が発生する。この破壊に対しては、モデルAはろう材等による被覆部126が存在することによって、その破壊発生確率を更に減じることができることも確認した。