(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101365
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/13 20060101AFI20240722BHJP
B60C 5/00 20060101ALI20240722BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B60C11/13 C
B60C5/00 H
B60C11/03 B
B60C11/03 100C
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005321
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 香菜
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BC03
3D131BC20
3D131BC33
3D131CB06
3D131EB05U
3D131EB11V
3D131EB11X
3D131EB47X
(57)【要約】
【課題】排水性および摩耗性を確保しつつ、空気抵抗の増大を抑制することができる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】一対のビード10およびサイドウォール20と、複数の陸60および主溝70を有するトレッド30とを備え、複数の主溝70は、車幅方向の最も外側に配置される外側主溝73と、車幅方向の最も内側に配置される内側主溝74と、を含むとともに、陸60は、車幅方向外側に配置される外側ショルダー陸63と、車幅方向内側に配置される内側ショルダー陸64とを含み、タイヤ周方向と交差する方向に延び、かつ、タイヤ周方向に間隔をおいて配置される複数のスリット98が、外側ショルダー陸63のみに設けられ、複数のスリット98のそれぞれは、内側主溝74に連通しており、複数のスリット98の内側主溝74から車幅方向内側に延びる根元部分98aと、タイヤ幅方向とがなす角度θが30°以上36°以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装着される空気入りタイヤであって、
一対のビードと、
前記一対のビードのそれぞれからタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォールと、
前記一対のサイドウォールの間に配置され、複数の陸、および複数の前記陸の間に配置されてタイヤ周方向に延びる複数の主溝を有するトレッドと、を備え、
車両に装着された状態で、前記複数の主溝は、車幅方向の最も外側に配置される外側主溝と、車幅方向の最も内側に配置される内側主溝と、を含むとともに、前記陸は、前記外側主溝よりも車幅方向外側に配置される外側ショルダー陸と、前記内側主溝よりも車幅方向内側に配置される内側ショルダー陸と、を含み、
タイヤ周方向と交差する方向に延び、かつ、タイヤ周方向に間隔をおいて配置される複数のスリットが、前記外側ショルダー陸および前記内側ショルダー陸の双方においては当該内側ショルダー陸のみに設けられ、
前記複数のスリットのそれぞれは、前記内側主溝に連通しており、
前記複数のスリットのそれぞれにおける前記内側主溝から車幅方向内側に延びる根元部分と、タイヤ幅方向とがなす角度が30°以上36°以下である、空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の溝によりトレッドパターンが形成されているトレッドを備えた空気入りタイヤが知られている。複数の溝としては、例えば、タイヤ周方向に沿った主溝や、タイヤ周方向に交差する方向に延在して主溝よりも細いスリットやサイプ等が挙げられる。特許文献1には、トレッドのタイヤ幅方向両端を形成する一対のショルダー陸のそれぞれに、複数のスリットがタイヤ周方向に間隔をおいて配置されたタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トレッドに設けられるスリットは排水性を向上させるが、スリットの数や容積を増大させると空気抵抗が増大するというデメリットが生じる。また、スリットの形成による偏摩耗も懸念される。
【0005】
本発明は、排水性および摩耗性を確保しつつ、空気抵抗の増大を抑制することができる空気入りタイヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の空気入りタイヤは、車両に装着される空気入りタイヤであって、一対のビードと、前記一対のビードのそれぞれからタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォールと、前記一対のサイドウォールの間に配置され、複数の陸、および複数の前記陸の間に配置されてタイヤ周方向に延びる複数の主溝を有するトレッドと、を備え、車両に装着された状態で、前記複数の主溝は、車幅方向の最も外側に配置される外側主溝と、車幅方向の最も内側に配置される内側主溝と、を含むとともに、前記陸は、前記外側主溝よりも車幅方向外側に配置される外側ショルダー陸と、前記内側主溝よりも車幅方向内側に配置される内側ショルダー陸と、を含み、タイヤ周方向と交差する方向に延び、かつ、タイヤ周方向に間隔をおいて配置される複数のスリットが、前記外側ショルダー陸および前記内側ショルダー陸の双方においては当該内側ショルダー陸のみに設けられ、前記複数のスリットのそれぞれは、前記内側主溝に連通しており、前記複数のスリットのそれぞれにおける前記内側主溝から車幅方向内側に延びる根元部分と、タイヤ幅方向とがなす角度が30°以上36°以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、排水性および摩耗性を確保しつつ、空気抵抗の増大を抑制することができる空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係るタイヤのタイヤ幅方向の半断面を示す図である。
【
図2】実施形態に係るタイヤのトレッド面を示す一部拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤであるタイヤ1の内部構造を示す図であって、タイヤ幅方向の半断面を示している。
図2は、タイヤ1を上から見た平面図の一部拡大図であり、トレッドパターン80が形成されたタイヤ1のトレッド面37を示している。実施形態に係るタイヤ1は、例えば、乗用車用の空気入りタイヤである。
【0010】
はじめに、
図1を参照しながらタイヤ1の内部構造を説明する。
図1中、符号S1は、タイヤ1の回転軸線に直交するタイヤ赤道面を示している。タイヤ1の基本的な内部構造は、タイヤ赤道面S1を対称面として左右対称となっている。
図1は、タイヤ1の右半分の半断面を示しており、不図示の左半分も同じ構造である。なお、
図2には、タイヤ赤道面S1に対応し、トレッド面37上をタイヤ周方向に延在するタイヤ赤道S2を示している。
【0011】
図1の断面図は、タイヤ1を図示せぬ規定リムに装着し、かつ、規定内圧を充填した無負荷状態でのタイヤ1のタイヤ幅方向半断面図である。なお、規定リムとは、タイヤサイズに対応してJATMAに定められた標準となるリムを指す。また、規定内圧とは、例えばタイヤが乗用車用である場合には180kPaである。
【0012】
図1においては、タイヤ幅方向を矢印X、タイヤ径方向を矢印Yで示している。タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向であり、
図1における紙面左右方向である。タイヤ幅方向内側とは、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面S1に近づく方向であり、
図1においては紙面左側である。タイヤ幅方向外側とは、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面S1から離れる方向であり、
図1においては紙面右側である。
【0013】
また、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向であり、
図1における紙面上下方向である。
図1においては、タイヤ径方向Yとして図示している。タイヤ径方向外側とは、タイヤ回転軸から離れる方向であり、
図1においては紙面上側である。タイヤ径方向内側とは、タイヤ回転軸に近づく方向であり、
図1においては紙面下側である。
【0014】
実施形態のタイヤ1は、図示しない車両に装着する向き、すなわち車両に装着された状態でのタイヤ幅方向の両側のうち、車両の外側に配置される側と、車両の内側に配置される側とが指定されている。この車両に装着する向きは、トレッド面37に形成されるトレッドパターン80に基づいて判別される。
図1および
図2には、タイヤ1において車両の外側に配置される側を車幅方向外側として示し、車両の内側に配置される側を車幅方向内側として示している。すなわち、
図1および
図2において、紙面右側が車幅方向外側であり、紙面左側が車幅方向内側である。
【0015】
図1に示すように、タイヤ1は、タイヤ幅方向両側に設けられた一対のビード10と、一対のビード10のそれぞれからタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール20と、一対のサイドウォール20の間に配置されたトレッド30と、トレッド30とサイドウォール20との間に配置されたショルダー25と、一対のビード10の間に架け渡されて配置されたカーカスプライ40と、カーカスプライ40のタイヤ内腔側に配置されたインナーライナー50と、を備える。
【0016】
ビード10は、ビードコア11と、ビードコア11からタイヤ径方向外側に延びるビードフィラー12と、を有する。
【0017】
ビードコア11は、ゴムが被覆された金属製のビードワイヤがタイヤ周方向に複数回巻かれた環状の部材である。ビードコア11は、空気が充填されたタイヤ1を、リムに固定する役目を果たす部材である。ビードフィラー12は、タイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側に延びるにつれて厚みが減じる先細り形状となっている。ビードフィラー12は、ビード10の周辺部分の剛性を高め、高い操縦性および安定性を確保するために設けられる。ビードフィラー12は、例えば、周囲のゴム部材よりも硬度の高いゴムにより構成される。
【0018】
ビード10は、カーカスプライ40を間に挟んでリムストリップゴム13で囲まれている。リムストリップゴム13は、ビード10のタイヤ幅方向内側からタイヤ径方向内側の端を経てタイヤ幅方向外側まで回り込む態様で、タイヤ1のタイヤ径方向内側に配置されている。リムストリップゴム13は、タイヤ1が装着されるリムの内面に接触する。リムストリップゴム13のタイヤ幅方向外側の外表面には、タイヤ周方向に沿ったリムライン13aが形成されている。
【0019】
サイドウォール20は、カーカスプライ40のタイヤ幅方向外側に配置されたサイドウォールゴム21を含む。サイドウォールゴム21は、タイヤ1の外側および内側の側壁面を構成する。サイドウォールゴム21は、タイヤ1がクッション作用をする際に最も撓む部分であり、通常、耐疲労性を有する柔軟なゴムが採用される。
【0020】
トレッド30は、無端状のベルト31およびキャッププライ34と、エッジプライ35と、トレッドゴム36と、を備える。ベルト31は、カーカスプライ40のタイヤ径方向外側に配置されている。キャッププライ34は、ベルト31のタイヤ径方向外側に配置されている。トレッドゴム36は、キャッププライ34のタイヤ径方向外側に配置されている。
【0021】
ベルト31は、トレッド30を補強する部材である。実施形態のベルト31は、インナーライナー50のタイヤ径方向外側に配置された内側ベルト32と、内側ベルト32のタイヤ径方向外側に配置された外側ベルト33と、を備えた二層構造である。内側ベルト32および外側ベルト33は、いずれも複数のスチールコード等のベルトコードがゴムで覆われた構造を有する。
【0022】
内側ベルト32は、外側ベルト33よりも幅広である。ベルト31を設けることにより、タイヤ1の剛性が確保され、路面に対するトレッド30の接地性が向上する。なお、ベルト31は二層構造に限らず、一層、あるいは三層以上の構造を有していてもよい。
【0023】
キャッププライ34は、ベルト31とともにトレッド30を補強する部材である。キャッププライ34は、例えば、ポリアミド繊維等の絶縁性を有する複数の有機繊維コードがゴムで覆われた構造を有する。キャッププライ34は、ベルト31全体をタイヤ外表面側から覆っている。エッジプライ35は、キャッププライ34のタイヤ幅方向外側の端34aと、ベルト31のタイヤ幅方向外側の端31aとの間に挟まれており、ベルト31のタイヤ幅方向外側の端31aをタイヤ内腔側に押さえる態様となっている。なお、エッジプライ35は、キャッププライ34のタイヤ幅方向外側の端34aと、トレッドゴム36との間に挟まれる形態であってもよい。キャッププライ34を設けることにより、耐久性の向上や走行時のロードノイズの低減を図ることができる。なお、実施形態のキャッププライ34は一層であるが、二層以上の構造であってもよい。
【0024】
トレッドゴム36は、キャッププライ34のタイヤ径方向外側に配置されている。トレッドゴム36は、トレッド30の外表面であって路面に接地するトレッド面37を構成する部材である。トレッドゴム36のタイヤ幅方向外側の端36aは、キャッププライ34のタイヤ幅方向外側の端34aを越えてタイヤ径方向内側に湾曲している。キャッププライ34のタイヤ幅方向外側の端34aは、サイドウォールゴム21のタイヤ径方向外側の端21aで覆われている。
【0025】
トレッド面37には、トレッドパターン80が設けられている。トレッドパターン80は本開示において特徴的な構成を有し、それについては後で詳述する。
【0026】
実施形態のショルダー25は、路面に接地するトレッド面37のタイヤ幅方向外側の端から、サイドウォール20のタイヤ径方向外側の端にわたって湾曲する部分である。ショルダー25は、トレッドゴム36のタイヤ幅方向外側の端36aおよびサイドウォールゴム21のタイヤ径方向外側の端21aを含む。
【0027】
カーカスプライ40は、一対のビード10の間に架け渡されている。カーカスプライ40は、タイヤ1の骨格となるプライを構成する。カーカスプライ40は、一対のビード10の間を、一対のサイドウォール20およびトレッド30のタイヤ内腔側を通過する態様で、タイヤ1内に埋設されている。トレッド30においては、カーカスプライ40のタイヤ径方向外側にベルト31が配置されている。
【0028】
カーカスプライ40は、プライ本体部40Aと、左右一対の折り返し部40Bと、左右一対の屈曲部40Cと、を有する。プライ本体部40Aは、一方のビード10のビードコア11のタイヤ幅方向内側から、一方のサイドウォール20、トレッド30、他方のサイドウォール20を経て、他方のビード10のビードコア11のタイヤ幅方向内側付近まで延在する部分である。
【0029】
折り返し部40Bは、プライ本体部40Aのタイヤ径方向内側からビードコア11周りに折り返されることによりビード10のタイヤ幅方向外側においてタイヤ径方向外側に延びる部分である。折り返し部40Bは、ビードフィラー12を越えてタイヤ1の最大幅位置付近よりもタイヤ径方向内側までタイヤ径方向外側に延びている。折り返し部40Bの、ビードフィラー12よりもタイヤ径方向外側の部分は、プライ本体部40Aのタイヤ幅方向外側に重なっている。
【0030】
屈曲部40Cは、プライ本体部40Aからビードコア11周りにU字状に屈曲し、折り返し部40Bにつながる部分である。屈曲部40Cは、ビードコア11のタイヤ幅方向内側に接触している。プライ本体部40Aと折り返し部40Bとは、屈曲部40Cを介して連続している。
【0031】
カーカスプライ40は、並列された複数のプライコードをゴムで被覆した構成を有する。プライコードは、スチールコード、あるいはポリエステルやポリアミド等の絶縁性の有機繊維コード等により構成され、タイヤ1の骨格として機能する。なお、実施形態のカーカスプライ40は一層構造であるが、カーカスプライ40は、二層あるいはそれ以上の複数層の構造を有するものであってもよい。
【0032】
上述したリムストリップゴム13は、屈曲部40Cを含むカーカスプライ40のタイヤ径方向内側の端を取り囲んでいる。
【0033】
インナーライナー50は、一対のビード10の間においてカーカスプライ40のプライ本体部40Aの内面を覆っている。インナーライナー50のタイヤ径方向内側の端は、リムストリップゴム13のタイヤ幅方向内側の部分を覆っている。実施形態のインナーライナー50は、第1インナーライナー51および第2インナーライナー52が重ねられた二層構造を有する。第1インナーライナー51が、第2インナーライナー52のタイヤ内腔側に配置されている。第1インナーライナー51および第2インナーライナー52は、耐空気透過性ゴムにより構成されており、タイヤ内腔内の空気が外部に漏れるのを防ぐ。
【0034】
ここで、ビードフィラー12に採用するゴムとしては、少なくともサイドウォールゴム21およびインナーライナー50よりも硬度が高いゴムが用いられる。ゴムの硬度は、JIS K6253-3:2012のデュロメータ硬さ タイプAである。
【0035】
例えば、サイドウォールゴム21の硬度を基準としたとき、ビードフィラー12の硬度は、サイドウォールゴム21の硬度の1.2倍以上2.3倍以下程度が好ましい。リムストリップゴム13の硬度は、サイドウォールゴム21の硬度の1倍以上1.6倍以下程度がより好ましい。このような硬度とすることで、タイヤとしての柔軟性とビード10付近の剛性のバランスを確保することができる。また、トレッドゴム36の硬度は、接地性が良好で、かつ低燃費となる観点から比較的低いことが好ましく、例えば上記デュロメータ硬さ タイプAで50以上60以下程度が好ましい。
【0036】
以上が、実施形態に係るタイヤ1の内部構造である。次いで、
図2を参照して、トレッド面37に形成されたトレッドパターン80について説明する。なお、
図2には、タイヤ幅方向Xおよびタイヤ周方向Cを示している。また、上述したように
図2はトレッド面37の平面図の一部であるが、この
図2では、タイヤ1が車両に装着された状態での、車両の前側を上側とし、車両の後側を下側とする。以下の説明での前側および後側はこれに対応し、上側が前側、下側が後側としている。また、以下の説明では、タイヤ1が車両に装着された状態での、車幅方向に対する外側を車幅方向外側または右側といい、車幅方向に対する内側を車幅方向内側または左側という。
【0037】
実施形態のトレッドパターン80は、複数の陸60、および複数の陸60の間に配置されてタイヤ周方向に延びる複数の主溝70を有する。複数の陸60のそれぞれは、タイヤ周方向に沿って環状に延在するリブである。複数の主溝70のそれぞれは、タイヤ周方向に沿って環状に延在する比較的幅広の溝である。陸60は、路面に接地して摩擦し、路面に車両の動力を伝達したり制動したりする機能を担う。主溝70は、主にタイヤ1の排水機能を担う。なお、以下の説明において、陸60および主溝70における幅方向とはタイヤ幅方向と同意であり、陸60および主溝70における幅とは、タイヤ幅方向の寸法をいう。
【0038】
複数の主溝70は、タイヤ幅方向中央に配置される第1中央主溝71および第2中央主溝72と、外側主溝73および内側主溝74と、を含む。第1中央主溝71は、タイヤ赤道S2の車幅方向外側に配置される。第2中央主溝72は、タイヤ赤道S2の車幅方向内側に配置される。外側主溝73は、第1中央主溝71の車幅方向外側に配置される。内側主溝74は、第2中央主溝72の車幅方向内側に配置される。実施形態において4つの主溝70の幅は同じであるが、異なっていてもよい。
【0039】
複数の陸60は、第1中央主溝71と第2中央主溝72との間の中央陸65と、中央陸65のタイヤ幅方向外側の第1中間陸61および第2中間陸62と、トレッド30におけるタイヤ幅方向外側の端に配置される外側ショルダー陸63および内側ショルダー陸64と、を含む。中央陸65は、その幅方向中央にタイヤ赤道S2が通る位置に配置されている。第1中間陸61は、第1中央主溝71と外側主溝73との間に配置されている。第2中間陸62は、第2中央主溝72と内側主溝74との間に配置されている。外側ショルダー陸63は、外側主溝73のタイヤ幅方向外側に配置されている。内側ショルダー陸64は、内側主溝74のタイヤ幅方向外側に配置されている。複数の陸60のうち、外側ショルダー陸63は車幅方向の最も外側に配置され、内側ショルダー陸64は車幅方向の最も内側に配置される。外側ショルダー陸63および内側ショルダー陸64のそれぞれは、ショルダー25に連なる。
【0040】
実施形態の第1中間陸61および第2中間陸62は幅が同じであり、中央陸65の幅は第1中間陸61および第2中間陸62の幅よりも小さいが、これに限定されない。実施形態の外側ショルダー陸63および内側ショルダー陸64の幅は同じであって中央陸65および各中間陸61、62よりも幅は大きいが、これに限定されない。
【0041】
第1中間陸61の幅方向中央には、タイヤ周方向に沿って延在する環状の副溝75が形成されている。この副溝75の幅は、各主溝70よりも細い。
【0042】
複数の陸60のそれぞれの表面には、トレッドパターン80を構成する溝として、タイヤ周方向に交差する方向に延びる複数の溝が形成されている。これら溝は、サイプおよびスリットであり、いずれもタイヤ周方向に間隔をおいて配置されている。ここで、サイプとは、溝幅が1mm以下の溝をいい、スリットとは、溝幅が1mmを超える溝をいう。
【0043】
中央陸65には、複数の第1サイプ91が形成されている。第1サイプ91は、第1中央主溝71に開口し、その開口端から、車幅方向内側に延びるにつれて後側に僅かに湾曲しながら全体としては後側に斜めに延び、タイヤ赤道S2をまたいでから第2中央主溝72には到達せずに終端している。
【0044】
第1中間陸61には、複数の第2サイプ92および複数の第3サイプ93が形成されている。第2サイプ92は、第1中央主溝71に開口し、その開口端から、車幅方向外側に延びるにつれて前側に斜めにほぼ真っ直ぐに延び、副溝75には到達せずに終端している。第3サイプ93は、副溝75に開口し、その開口端から、車幅方向外側に延びるにつれて後側に僅かに湾曲しながら全体としては前側に斜めに延び、外側主溝73には到達せずに終端している。第1サイプ91の右側への延長上に第2サイプ92が延び、さらに第2サイプ92の右側への延長上に第3サイプ93が延びるような態様で、これらサイプは配置されている。
【0045】
第2中間陸62には、複数の第4サイプ94および複数の第5サイプ95が形成されている。第4サイプ94は、内側主溝74に開口し、その開口端から、車幅方向外側に延びるにつれて前側に僅かに湾曲しながら全体としては前側に斜めに延び、第2中央主溝72には到達せずに終端している。第5サイプ95は、内側主溝74に開口し、その開口端から、車幅方向外側に延びるにつれて前側に斜めにほぼ真っ直ぐに延び、第2中間陸62の幅方向中央からやや第2中央主溝72寄りの位置で終端している。第4サイプ94のタイヤ幅方向長さは、第5サイプ95のタイヤ幅方向長さよりも長い。第5サイプ95は、タイヤ周方向に並ぶ第4サイプ94の間に1つずつ配置されている。第4サイプ94および第5サイプ95の、斜め前側に延びる方向は、ほぼ同じ角度で延び、全体的には互いにほぼ平行である。溝幅に関しては、第4サイプ94の方が第5サイプ95よりも大きい。
【0046】
外側ショルダー陸63には、複数の第6サイプ96が形成されている。第6サイプ96は、概ねタイヤ幅方向に沿った横溝であって、全体的には右側に向かうにつれて前側に斜めに延びている。第6サイプ96は、外側主溝73に開口し、その開口端から、車幅方向外側に延びるにつれて前側に斜めに延びてから、湾曲しながら屈曲して傾斜角度が緩くなり、さらに車幅方向外側に延びるにつれて緩やかに斜め前側に真っ直ぐに延びている。第6サイプ96の車幅方向外側の端は、車幅方向外側のショルダー25付近まで延び、そこで終端している。
【0047】
内側ショルダー陸64には、複数の第7サイプ97および複数のスリット98が形成されている。第7サイプ97およびスリット98は、いずれも概ねタイヤ幅方向に沿った横溝であって、全体的には車幅方向内側に向かうにつれて後側に斜めに延びている。第7サイプ97は、内側主溝74に開口し、その開口端から、車幅方向内側に延びるにつれて後側に斜めに短く延びてから、後側に凸となるように緩やかに湾曲し、次いで傾斜角度が緩くなってさらに車幅方向内側に真っ直ぐ延びている。
【0048】
スリット98は、第7サイプ97に沿った形状を有する。すなわちスリット98は、内側主溝74に開口し、その開口端から、車幅方向内側に延びるにつれて後側に斜めに短く延びてから、後側に凸となるように緩やかに湾曲し、次いで傾斜角度が緩くなってさらに車幅方向内側に真っ直ぐ延びている。複数のスリット98のそれぞれは、右側の端が内側主溝74に開口している。したがって複数のスリット98は、内側主溝74に連通している。
【0049】
第7サイプ97およびスリット98の車幅方向内側の端は、いずれも車幅方向内側のショルダー25付近まで延び、そこで終端している。スリット98のタイヤ幅方向長さは、第7サイプ97のタイヤ幅方向長さよりも長い。
【0050】
上述したように、第1サイプ91~第7サイプ97は、いずれも溝幅が1mm以下の細い溝である。一方、スリット98の溝幅は1mmを超え、第1サイプ91~第7サイプ97の溝幅よりも大きい。タイヤ周方向に並ぶ第1サイプ91~第7サイプ97およびスリット98のそれぞれのタイヤ周方向の間隔は、等ピッチであってもよく、不等ピッチであってもよい。
【0051】
実施形態のタイヤ1は、外側ショルダー陸63および内側ショルダー陸64の双方においては、内側ショルダー陸64のみに複数のスリット98が設けられている。外側ショルダー陸63には、サイプすなわち第6サイプ96のみが複数設けられている。
【0052】
図3は、
図2のIIIで示す部分を拡大した図である。
図3に示すように、内側ショルダー陸64に設けられたスリット98は、内側主溝74への開口端から車幅方向内側に延びる根元部分98aを有する。この根元部分98aと、タイヤ幅方向と平行な線W1とがなす角度θは、30°以上36°以下であることが好ましい。
【0053】
一般に、トレッドのタイヤ幅方向の両側にショルダー陸を有する空気入りタイヤにおいては、それらショルダー陸に、実施形態のスリット98のようなスリットが形成されているか否かで、回転するタイヤ周辺の渦構造が異なり、Cd値(空気抵抗係数)に影響を及ぼす。そして、ショルダー陸がスリットを有しない方が、有する場合よりもCd値が低く空気抵抗が小さく、さらにいえば、車幅方向内側よりも車幅方向外側のショルダー陸に設けられるスリットが、Cd値への影響が比較的大きい。これは、車幅方向外側のショルダー陸は、車体の影響を受けにくく、車幅方向外側のショルダー陸への空気の流れがCd値に大きく影響することに起因する。
【0054】
ここで、実施形態のタイヤ1は、外側ショルダー陸63および内側ショルダー陸64の双方においては、内側ショルダー陸64のみに複数のスリット98が設けられ、空気抵抗に関して比較的影響の大きい外側ショルダー陸63にスリット98は有さない。これにより、空気抵抗の増大が抑制される。一方、内側ショルダー陸64側のスリット98により、排水性が確保される。
【0055】
図3に示す角度θは、タイヤ1の排水性および摩耗性に影響を及ぼす。すなわち、角度θが大きいと、スリット98の根元部分98aが、タイヤ周方向すなわち排水方向に沿う方向に近付くため、排水性は向上する。しかしながら、角度θが大きくなると、パターン剛性が低くなって摩耗性の悪化を招く。実施形態においては、角度θを30°以上36°以下とすることにより、排水性と摩耗性とをバランスよく両立させることが可能となり、33°付近が特に好ましい。
【0056】
また、複数のスリット98はいずれも内側主溝74に連通しているため、排水性の向上が図られる。
【0057】
さらに、
図2に示すように、各スリット98の内側主溝74への開口端98bと、各第4サイプ94の内側主溝74への開口端94bおよび各第5サイプ95の開口端95bとは、タイヤ周方向で一致しておらず、タイヤ周方向に互いにずれている。これにより、走行中におけるパターンノイズの増大を抑えることができる。
【0058】
上記実施形態のタイヤ1によれば、以下の効果を奏する。
【0059】
(1)実施形態に係るタイヤ1は、車両に装着される空気入りタイヤであって、一対のビード10と、一対のビード10のそれぞれからタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール20と、一対のサイドウォール20の間に配置され、複数の陸60、および複数の陸60の間に配置されてタイヤ周方向に延びる複数の主溝70を有するトレッド30と、を備え、車両に装着された状態で、複数の主溝70は、車幅方向の最も外側に配置される外側主溝73と、車幅方向の最も内側に配置される内側主溝74と、を含むとともに、陸60は、外側主溝73よりも車幅方向外側に配置される外側ショルダー陸63と、内側主溝74よりも車幅方向内側に配置される内側ショルダー陸64と、を含み、タイヤ周方向と交差する方向に延び、かつ、タイヤ周方向に間隔をおいて配置される複数のスリット98が、外側ショルダー陸63および内側ショルダー陸64の双方においては内側ショルダー陸64のみに設けられ、複数のスリット98のそれぞれは、内側主溝74に連通しており、複数のスリット98のそれぞれにおける内側主溝74から車幅方向内側に延びる根元部分98aとタイヤ幅方向とがなす角度が、30°以上36°以下である。
【0060】
実施形態に係るタイヤ1は、外側ショルダー陸63および内側ショルダー陸64の双方においては内側ショルダー陸64のみに複数のスリット98が設けられるとともに、内側主溝74に連通する各スリット98の根元部分98aとタイヤ幅方向とがなす角度θが30°以上36°以下である。これにより、排水性および摩耗性を確保しつつ、空気抵抗の増大を抑制することができる。また、スリット98が内側主溝74に連通していることによっても排水性が向上する。
【0061】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で変形、改良などを行っても、本発明の範囲に含まれる。
【0062】
以上説明した実施形態の構成は、乗用車の他に、ライトトラック、トラック、バス等の各種車両用のタイヤとして採用することができる。
【実施例0063】
以下、実施例について説明する。上記実施形態のように内側ショルダー陸のみに複数のスリットを設け、そのスリットの根元部分の上記角度θが30°以上36°以下の範囲とした表1に示す実施例1~3のタイヤを用意した。一方、上記角度θを27°および39°とし、それ以外の構成は実施例と同様の構成とした表1に示す比較例1、2のタイヤと、内側ショルダー陸および外側ショルダー陸の双方にスリットを形成し、上記角度θをいずれも27°とした比較例3のタイヤを用意した。表1に示す「スリット角度」は、上記角度θのことをいう。なお、各タイヤについては、実機モデルと、シミュレーションモデルのそれぞれを用意し、下記のCd値および摩耗性の評価はシミュレーションモデルを用い、排水性の評価は実機モデルを用いた。
【0064】
実施例1~3および比較例1~3のタイヤにつき、下記の要領でCd値、排水性、摩耗性を評価した。各評価結果を表1に示す。なお、表1は、比較例1のタイヤを指数100として他のタイヤを指数評価している。なお、Cd値は指数評価の値が小さいほど空気抵抗が小さくて良好と判断される。排水性は、指数評価の値が大きいほどよく排水されて良好とされる。摩耗性は、指数評価の値が大きいほど摩耗しにくく良好とされる。
【0065】
(Cd値の評価方法)
各タイヤについて、抗力(空気の流れ中におかれたタイヤに働く力で、かつ流れに平行な方向で同じ向きの力)を測定し、下記(1)式より抗力係数Cd値を算出した。抗力は、シミュレーションによるタイヤ前後の圧力差から求めた。
Cd値=D/(1/2ρU2S)・・・(1)
なお、Dは、発生する抗力である。ρは、空気密度であり、1.225[kg/m3]とした。Uは、タイヤと空気の相対速度である代表速度であり、27.8[m/s]とした。Sは、タイヤの代表面積(前面投影面積)である。
【0066】
(排水性の評価方法)
車両に前輪および後輪として各タイヤをそれぞれ装着した状態で、水深8mmのウェット路面上で各タイヤを回転させ、ハイドロプレーニング現象が発生したときの速度を測定した。タイヤ装着条件としては、空気圧を、前輪:230kPa、後輪:220kPaとし、荷重を、前輪:913kgf、後輪:772kgfとした。なお、タイヤの排水性に関しては、排水性が悪いと、走行時に路面との接地面内からの水の除去が間に合わなくなり、残った水は、路面とトレッド面との間で水膜となり、路面への接地性が失われてハイドロプレーニング現象を引き起こす。そのため、排水性の指標としてハイドロプレーニング現象が起こる際の速度を測定し、その速度が遅いほど、ハイドロプレーニング現象が起こりやすい、すなわち排水性が低いと評価した。
【0067】
(摩耗性の評価方法)
車両に前輪および後輪として各タイヤをそれぞれ装着した状態で、トレッドの接地面が厚さ1mm摩耗するまでの走行距離Dmmを下記(2)式より求める方法で、摩耗性をシミュレーション評価した。摩耗性は、Dmmが大きいものを良好と評価する。
Dmm=D/Ceave
タイヤ装着条件としては、空気圧を、前輪:230kPa、後輪:220kPaとし、荷重を、前輪:913kgf、後輪:772kgfとした。
【0068】
【0069】
表1によれば、外側ショルダー陸のみにスリットを有し、そのスリットの根元部分とタイヤ幅方向とがなす角度θ(スリット角度)が、30°以上36°以下の範囲である実施例1~3は、Cd値に基づく空気抵抗に関しては大きく増大することなく実用的に十分である。スリット角度が大きいほど排水性は向上するものの、摩耗性はこれに反して低減する傾向にあり、実施例1~3は、比較例1よりも排水性が良好で、摩耗性も実用レベルに確保される。スリット角度が比較的大きい比較例2は、スリットの延在方向がタイヤ周方向に近付くことにより排水性はよくなるが、摩耗性が悪化する。また、スリットを外側ショルダー陸にも有する比較例3では、スリットが多いことにより排水性は向上するが、空気抵抗が増大する。したがって、外側ショルダー陸のみにスリットが設けられ、かつ、スリット角度が30°以上36°以下の場合に、排水性および摩耗性を確保しつつ、空気抵抗の増大を抑制することができる。