(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101385
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】車両用灯具システム、制御装置、配光制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/04 20060101AFI20240722BHJP
F21S 41/153 20180101ALI20240722BHJP
B60Q 1/24 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B60Q1/04 Z
F21S41/153
B60Q1/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005347
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100122183
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 重之
【テーマコード(参考)】
3K339
【Fターム(参考)】
3K339AA02
3K339AA12
3K339BA01
3K339BA02
3K339BA21
3K339BA22
3K339BA25
3K339CA01
3K339DA01
3K339GB01
3K339HA03
3K339KA07
3K339KA09
3K339LA06
3K339LA26
3K339LA31
3K339MA01
3K339MC13
3K339MC14
3K339MC15
3K339MC17
3K339MC26
3K339MC27
3K339MC74
3K339MC77
3K339MC90
(57)【要約】
【課題】悪天候の場合の車両周囲の視認性を向上する新たな技術を提供する。
【解決手段】車両用灯具システムは、複数の発光領域がマトリックス状に配列した光源を有し、該光源から出射した光で車両前方を照射可能な車両用灯具と、複数の発光領域のそれぞれから出射する光の量を制御することで選択された配光パターンを照射するように車両用灯具を制御する制御部と、を備える。制御部は、雨天時に、路肩を判別するための判別用配光パターンで車両前方を照射するように車両用灯具を制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光領域がマトリックス状に配列した光源を有し、該光源から出射した光で車両前方を照射可能な車両用灯具と、
前記複数の発光領域のそれぞれから出射する光の量を制御することで選択された配光パターンを照射するように前記車両用灯具を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
雨天時に、路肩を判別するための判別用配光パターンで車両前方を照射するように前記車両用灯具を制御することを特徴とする車両用灯具システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記判別用配光パターンで照射された車両前方を撮像した画像情報に基づいて路肩と判定された領域が通常の配光パターンよりも明るい、路肩配光パターンを雨天時に照射するように前記車両用灯具を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記車両用灯具にハイビーム用配光パターンを照射させる信号を取得した場合、前記判別用配光パターンで車両前方を照射するように前記車両用灯具を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用灯具システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記ハイビーム用配光パターンよりも明るい前記判別用配光パターンで車両前方を照射するように前記車両用灯具を制御することを特徴とする請求項3に記載の車両用灯具システム。
【請求項5】
前記制御部は、雨天時に走行中の所定のタイミングで、前記判別用配光パターンとして第1の判別用配光パターンと該第1の判別用配向パターンより暗い第2の判別用配光パターンを照射し、
前記第1の判別用配光パターンで照射された車両前方を撮像した画像情報と前記第2の判別用配光パターンで照射された車両前方を撮像した画像情報とに基づいて路肩と判定された領域が通常の配光パターンよりも明るい、路肩配光パターンを照射するように前記車両用灯具を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記路肩と判定された領域を照射する、前記光源の一部の発光領域から出射する光の量が多くなるように該光源を制御することを特徴とする請求項2又は5に記載の車両用灯具システム。
【請求項7】
前記制御部は、前記判別用配光パターンで照射された車両前方を撮像した画像情報の路面に相当する部分の反射光の強度より、所定値以上大きな値の反射光の強度を有する部分がある領域を路肩と判定することを特徴とする請求項2又は5に記載の車両用灯具システム。
【請求項8】
前記制御部は、前記路肩と判定された部分の反射光の強度と、前記路面に相当する部分の反射光の強度との差が所定値以下の場合、前記路肩配光パターンの照射を停止するように車両用灯具を制御することを特徴とする請求項7に記載の車両用灯具システム。
【請求項9】
複数の発光領域がマトリックス状に配列した光源を有し、該光源から出射した光で車両前方を照射可能な車両用灯具を制御する制御装置であって、
前記複数の発光領域のそれぞれから出射する光の量を制御することで選択された配光パターンを照射するように前記車両用灯具を制御する制御部を有し、
前記制御部は、
雨天時に、路肩を判別するための判別用配光パターンで車両前方を照射するように前記車両用灯具を制御することを特徴とする制御装置。
【請求項10】
複数の発光領域がマトリックス状に配列した光源を有し、該光源から出射した光で車両前方を照射可能な車両用灯具を制御する配光制御方法であって、
前記複数の発光領域のそれぞれから出射する光の量を制御することで選択された配光パターンを照射するように前記車両用灯具を制御し、
雨天時に、路肩を判別するための判別用配光パターンで車両前方を照射するように前記車両用灯具を制御する、
ことを特徴とする配光制御方法。
【請求項11】
複数の発光領域がマトリックス状に配列した光源を有し、該光源から出射した光で車両前方を照射可能な車両用灯具を制御する制御部に実行させるためのプログラムであって、
前記プログラムは、前記制御部に、
前記複数の発光領域のそれぞれから出射する光の量を制御することで選択された配光パターンを照射するように前記車両用灯具を制御するステップと、
雨天時に、路肩を判別するための判別用配光パターンで車両前方を照射するように前記車両用灯具を制御するステップと、を実行させる、
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前方路面の視認性は降雨時、降雪時、または霧発生時のような悪天候下において様々な要因により低くなる。例えば、降雨時には、自車からの照明光の多くが路面上の水膜によって鏡面反射されるので、路面で拡散反射または再帰反射されて自車に戻る光は少なくなる。そのため路面全体が見にくくなり、車線幅も認識しづらくなる。
【0003】
車線幅の認識を向上するためには、左右の路肩に沿ったレーンマークを視認できることが有効である。そこで、車両前方の水平方向に広がる拡散配光パターンを形成可能な第1光学系と、自車線側の路肩に沿って延びる自車線側レーンマーク上およびその周辺にのみ光が照射される雨天時配光パターンを形成可能な第2光学系と、を備える車両用灯具システムが考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の車両用灯具システムの第2光学系は、自車線側レーンマーク周辺の視認性は向上できるものの、対向車線の路肩の視認性は特段変化しないため、車線幅の認識の向上には更なる改善の余地がある。加えて、前述の第2光学系は、ロービーム用配光パターン及びハイビーム配光パターンを形成する第1灯具とは別に、フォグランプ用配光パターンを形成する第2灯具に設けられている。そのため、前照灯全体が大型化する。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、悪天候の場合の車両周囲の視認性を向上する新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車両用灯具システムは、複数の発光領域がマトリックス状に配列した光源を有し、該光源から出射した光で車両前方を照射可能な車両用灯具と、複数の発光領域のそれぞれから出射する光の量を制御することで選択された配光パターンを照射するように車両用灯具を制御する制御部と、を備える。制御部は、雨天時に、路肩を判別するための判別用配光パターンで車両前方を照射するように車両用灯具を制御する。
【0008】
この態様によると、車両用灯具が、雨天時に、路肩を判別するための判別用配光パターンで車両前方を照射することで、路肩が判別しやすくなる。
【0009】
制御部は、判別用配光パターンで照射された車両前方を撮像した画像情報に基づいて路肩と判定された領域が通常の配光パターンよりも明るい、路肩配光パターンを雨天時に照射するように車両用灯具を制御してもよい。これにより、運転者が車線幅を認識しやすくなる。
【0010】
制御部は、車両用灯具にハイビーム用配光パターンを照射させる信号を取得した場合、判別用配光パターンで車両前方を照射するように車両用灯具を制御してもよい。ハイビーム用配光パターンを照射させようとする場合、車両前方の視認性が低下していることが多い。そこで、ハイビーム用配光パターンを照射させる信号の取得をきっかけとして、ハイビーム用配光パターンの初期に判別用配光パターンを照射することで、路肩を早めに判別できる。
【0011】
制御部は、ハイビーム用配光パターンよりも明るい判別用配光パターンで車両前方を照射するように車両用灯具を制御してもよい。これにより、より精度よく路肩を判定できる。
【0012】
制御部は、雨天時に走行中の所定のタイミングで、判別用配光パターンとして第1の判別用配光パターンと該第1の判別用配向パターンより暗い第2の判別用配光パターンを照射し、第1の判別用配光パターンで照射された車両前方を撮像した画像情報と第2の判別用配光パターンで照射された車両前方を撮像した画像情報とに基づいて路肩と判定された領域が通常の配光パターンよりも明るい、路肩配光パターンを照射するように車両用灯具を制御してもよい。これにより、より精度よく路肩を判定できる。
【0013】
制御部は、路肩と判定された領域を照射する、光源の一部の発光領域から出射する光の量が多くなるように該光源を制御してもよい。
【0014】
制御部は、判別用配光パターンで照射された車両前方を撮像した画像情報の路面に相当する部分の反射光の強度より、所定値以上大きな値の反射光の強度を有する部分がある領域を路肩と判定してもよい。これにより、雨天のような路面からの反射光の強度が低く、車線幅を認識しづらい状況において、路肩を判定できる。
【0015】
制御部は、路肩と判定された部分の反射光の強度と、路面に相当する部分の反射光の強度との差が所定値以下の場合、路肩配光パターンの照射を停止するように車両用灯具を制御してもよい。例えば、路面からの反射光の強度が低くなるような状況が解消された場合は、路肩配光パターンによる路肩の増光照射が不要となる。そこで、不要な配光パターンの照射を停止することで、不要な配光パターンの切り替わりにより運転者が感じる違和感を低減できる。
【0016】
本発明の別の態様は、制御装置である。この装置は、複数の発光領域がマトリックス状に配列した光源を有し、該光源から出射した光で車両前方を照射可能な車両用灯具を制御する制御装置であって、複数の発光領域のそれぞれから出射する光の量を制御することで選択された配光パターンを照射するように車両用灯具を制御する制御部を有する。制御部は、雨天時に、路肩を判別するための判別用配光パターンで車両前方を照射するように車両用灯具を制御する。
【0017】
この態様によると、車両用灯具が、雨天時に、路肩を判別するための判別用配光パターンで車両前方を照射することで、路肩が判別しやすくなる。
【0018】
本発明の更に別の態様は、配光制御方法である。この方法は、複数の発光領域がマトリックス状に配列した光源を有し、該光源から出射した光で車両前方を照射可能な車両用灯具を制御する配光制御方法であって、複数の発光領域のそれぞれから出射する光の量を制御することで選択された配光パターンを照射するように車両用灯具を制御し、雨天時に、路肩を判別するための判別用配光パターンで車両前方を照射するように車両用灯具を制御する。
【0019】
この態様によると、車両用灯具が、雨天時に、路肩を判別するための判別用配光パターンで車両前方を照射することで、路肩が判別しやすくなる。
【0020】
本発明の更に別の態様は、プログラムである。このプログラムは、複数の発光領域がマトリックス状に配列した光源を有し、該光源から出射した光で車両前方を照射可能な車両用灯具を制御する制御部に実行させるためのプログラムである。また、このプログラムは、制御部に、複数の発光領域のそれぞれから出射する光の量を制御することで選択された配光パターンを照射するように車両用灯具を制御するステップと、雨天時に、路肩を判別するための判別用配光パターンで車両前方を照射するように車両用灯具を制御するステップと、を実行させる。
【0021】
この態様によると、車両用灯具が、雨天時に、路肩を判別するための判別用配光パターンで車両前方を照射することで、路肩が判別しやすくなる。
【0022】
以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を製造方法や制御方法などの方法、灯具や照明、制御装置などの装置、発光モジュール、光源、プログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、悪天候の場合の車両周囲の視認性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施の形態に係る車両用灯具システムのブロック図である。
【
図2】車両用灯具システムによって通常天候時に形成される第1の配光パターンの一例を模式的に示す図である。
【
図3】本実施の形態に係る配光制御方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】車線幅の認識向上のための路肩配光パターンについて説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0026】
本実施の形態に係る車両灯具は、車両前方に配置された車両用前照灯であり、様々な制御部やセンサ等と適宜組み合わされることで車両用灯具システムを構成する。はじめに、本実施の形態に係る車両用灯具システムの概略構成について説明する。
図1は、本実施の形態に係る車両用灯具システムのブロック図である。
【0027】
車両用灯具システム10は、ADAS(Advanced Driver-Assistance Systems:先進運転支援システム)に対応したカメラユニット12と、センタECU14と、ワイパスイッチ18と、ランプスイッチ20と、を備える。カメラユニット12は、車両前方を撮像する前方カメラ22と、前方カメラ22で撮像した画像情報に基づいて車両前方に存在する標識や車両等の物体を検出するカメラECU24と、を有する。本実施の形態に係るカメラユニット12やセンタECU14は車両本体側に設けられているが、車両全体のどこに設けてもかまわない。
【0028】
さらに、車両用灯具システム10は、ランプECU26と、ランプECU26によって配光制御されるLoビーム用ランプ28及びHiビーム用ランプ30と、高精細ADB(Adaptive Driving Beam)用のコントローラ32と、コントローラ32で制御される高精細ADB用のLEDユニット34と、を備える。本実施の形態に係るランプECU26やコントローラ32は、車両用灯具であるLoビーム用ランプ28やHiビーム用ランプ30、LEDユニット34のいずれかに設けられている。
【0029】
図2は、車両用灯具システムによって通常天候時に形成される第1の配光パターンの一例を模式的に示す図である。通常天候時か否かは、例えば、ワイパスイッチ18や不図示の雨滴センサの状態、前方カメラ22で撮像した画像情報等に基づいてセンタECU14で判定される。具体的には、ワイパスイッチ18がONであれば悪天候(雨天)時、ワイパスイッチ18がOFFであれば通常天候(晴天)時と判定され、天候情報としてその後の配光パターンの決定に用いられる。
【0030】
図2に示す第1の配光パターンP1は、Loビーム用ランプ28により形成されるロービーム用配光パターンPLと、Hiビーム用ランプ30により形成されるハイビーム用配光パターンPHと、LEDユニット34により形成されるADB配光パターンPHLと、が重なったパターンである。
【0031】
Loビーム用ランプ28は、H-H線より下方の車両近傍領域を照射するように光源や光学部材が適宜選択されている。Hiビーム用ランプ30は、H-H線より上方の遠方領域を照射するように光源や光学部材が適宜選択されている。Hiビーム用ランプ30は、8個のLEDが一方向に並んでおり、各LEDの点消灯を制御することで、ハイビーム用配光パターンPHの一部が遮光又は減光された配光パターンを形成できる。
【0032】
LEDユニット34は、H-H線とV線との交点を中心とした領域を照射するように光源や光学部材が適宜選択されており、LEDユニット34から出射した光で車両前方を照射可能な車両用灯具である。ADB配光パターンPHLは、H-H線とV線との交点を中心にロービーム用配光パターンPLとハイビーム用配光パターンPHの両方と重なる配光パターンである。また、各LEDの駆動電流を個別に制御し、一部のLEDの駆動電流をゼロまたは減らすことで、ADB配光パターンPHLを構成するマトリックスの一部のピクセルを遮光又は減光した状態にできる。これにより、ADB配光パターンPHLの範囲に含まれる車両や人へのグレアを防止する際の遮光領域を極力小さくできるとともに、その他の領域への視認性を維持できる。
【0033】
LEDユニット34は、縦64個、横256個のLED34a(発光領域)がマトリックス状に配列された光源を有し、コントローラ32からの指示に基づいて各LEDの駆動が個別に制御される。なお、LEDユニット34は、矩形の短辺方向に20以上の発光素子が配列され、長辺方向に100以上の発光素子が配設されていてもよい。また、LED以外でもマトリックス状の発光領域を個別に点消灯できるのであれば、有機EL素子や液晶シャッタ、MEMSミラーといったものも光源として適用可能である。
【0034】
コントローラ32は、複数の発光領域のうち一部の発光領域の照射状態を変化させることで部分領域の明るさが異なる複数の配光パターンを形成可能に構成されている。換言すると、コントローラ32は、複数の発光領域のそれぞれから出射する光の量を制御することで選択された配光パターンを照射するように車両用灯具を制御する。これにより、一つのLEDユニット34で様々な配光パターンを形成できる。また、反射物が存在する部分領域が複数あっても、それぞれの部分領域の明るさが調整された配光パターンを形成できる。
【0035】
次に、街灯や照明のない郊外の真っ暗な夜道の視認性について説明する。真っ暗な夜道を走行中の車両は、先行車や対向車が存在しない場合、ハイビーム用配光パターンで前方を照射することで視認性を向上することが多い。この場合、センターラインだけでなく車道両側の車道外側線も問題なく視認できる。しかしながら、雨天時に路面が濡れていると、ヘッドランプの光が水膜で散乱してしまい反射光として車両側に戻ってこない。そのため、ハイビーム用配光パターンで前方を照射しているにもかかわらず、走行する道路の車線幅がわかりにくい状況が生じ得る。そこで、本願の発明者は、雨天で濡れた路面は反射率が低く、路肩にある立体物は反射率が高い(反射光が戻ってきやすい)という現象を利用し、路肩を判別できる可能性に想到した。
【0036】
本実施の形態に係る車両用灯具システム10は、ハイビーム用配光パターンとは異なる路肩判別用の配光パターンを、ハイビーム用配光パターンが形成される状況の前後や最中に照射することができる。具体的には、コントローラ32は、雨天時に、路肩を判別するための判別用配光パターンで車両前方を照射するようにLEDユニット34を制御する。なお、各種検知、判別、制御がどのECUやコントローラで実行するかは特に限定されず、適宜選択すればよい。
【0037】
図3は、本実施の形態に係る配光制御方法の一例を示すフローチャートである。本実施の形態では、カメラECU24、センタECU14、ランプECU26及びコントローラ32(以下、これらをまとめて制御部と称する場合がある。)のいずれかにおいて、運転者によるランプスイッチ20の操作やカメラユニット12の情報に基づいて、ハイビーム用配光パターンを形成する状況か否かを判定する。
【0038】
制御部は、ハイビーム用配光パターンである第1の配光パターンP1を照射させる信号を取得した場合、
図3に示す制御を開始する。次に、制御部は、カメラユニット12の画像情報(路面画像等)やワイパスイッチ18の操作情報に基づいて雨天か否かを判定する(S10)。制御部において雨天でないと判定された場合(S10のNo)、
図3に示す制御を一端終了する。
【0039】
制御部において雨天であると判定された場合(S10のYes)、コントローラ32は、路肩を判別するための判別用配光パターンを形成し(S12)、その判別用配光パターンで車両前方を照射するようにLEDユニット34を制御する。ハイビーム用配光パターンを照射させようとする場合、車両前方の視認性が低下していることが多い。そこで、ハイビーム用配光パターンを照射させる信号の取得をきっかけとして、ハイビーム用配光パターンの初期に判別用配光パターンを照射することで、路肩を早めに判別しやすくできる。
【0040】
本実施の形態に係るコントローラ32は、ハイビーム用配光パターンよりも明るい判別用配光パターンで車両前方を照射するようにLEDユニット34を制御する。具体的には、コントローラ32は、第1の配光パターンP1におけるADB配光パターンPHLを照射する際のLEDユニット34の各LED34aの駆動電流Iaよりも大きい駆動電流IbでLEDユニット34の各LED34aを駆動する。これにより、より精度よく路肩を判定できる。
【0041】
図4は、車線幅の認識向上のための路肩配光パターンについて説明するための模式図である。カメラユニット12は、前述のステップS12において形成された判別用配光パターンで車両前方が照射されているタイミングで撮像する(S14)。
図4に示す撮像画像X1において、濡れた路面R1は反射率が低く、路肩R2にある立体物は反射率が高いという現象を利用して路肩部分の判定が制御部で行われる(S16)。
【0042】
具体的には、制御部は、判別用配光パターンで照射された車両前方を撮像した画像情報の路面R1に相当する部分の反射光の強度より、所定値以上大きな値の反射光の強度を有する部分がある領域を路肩R2と判定する。これにより、雨天のような路面からの反射光の強度が低く、車線幅を認識しづらい状況において、路肩を判定できる。
【0043】
そして、制御部は、路肩と判定された領域の少なくとも一部の領域R3が通常の配光パターンよりも明るい、路肩配光パターンP2を照射するようにLEDユニット34を制御する。具体的には、コントローラ32は、領域R3を照射する、LEDユニット34の一部のLED34aから出射する光の量が多くなるようにLEDユニット34を制御する。これにより、運転者が車線幅を認識しやすくなる。また、路面R1に相当する部分の反射光の強度と、路肩R2に相当する部分の反射光の強度との差に応じて、路肩配光パターンの領域R3に相当する部分の増光率(明るさ)を変化させてもよい。例えば、強度の差が大きい場合は増光率を大きくし(比較的明るくし)、強度の差が小さい場合は増光率を小さくし(比較的暗くし)てもよい。
【0044】
なお、路面からの反射光の強度が低くなるような状況が解消された場合は、路肩配光パターンによる路肩の増光照射が不要となる。例えば、雨天に路肩配光パターンで車両前方を照射しながら走行する状況であっても、雨量が減少し路面の水膜が徐々に解消することで路肩が判別可能な状況に変化する場合もある。そこで、制御部は、定期的に判別用配光パターンで車両前方を照射した状態で車両前方を撮像し、撮像した画像情報に基づいて、路肩と判定された部分の反射光の強度と、路面R1に相当する部分の反射光の強度との差が所定値D以下の場合(差がない場合も含む)、その後の路肩配光パターンP2の照射を停止するようにLEDユニット34を制御する。これにより、不要な配光パターンの照射を停止することで、不要な配光パターンの切り替わりにより運転者が感じる違和感を低減できる。
【0045】
次に、複数の撮像画像から得た画像情報に基づいて路肩を判定する場合について説明する。制御部は、雨天時に走行中の所定のタイミング(例えば一定周期)で、判別用配光パターンとして第1の判別用配光パターンと該第1の判別用配向パターンより暗い第2の判別用配光パターンを照射する。なお、第2の判別用配光パターンは通常のADB配光パターンPHLと同じであってもよいし異なっていてもよい。制御部は、第1の判別用配光パターンで照射された車両前方を撮像した画像情報と第2の判別用配光パターンで照射された車両前方を撮像した画像情報とに基づいて路肩と判定された領域が通常の配光パターンよりも明るい、路肩配光パターンを照射するようにLEDユニット34を制御する。これにより、より精度よく路肩を判定できる。
【0046】
なお、第1の判別用配光パターンや第2の判別用配光パターンの形成は、走行中に人間の目で分からない程度の短時間であってもよい。これにより、配光パターンの切り替わりによる運転者が感じる違和感を減少できる。
【0047】
また、本実施の形態に係る車両用灯具システムの発明を、制御部を有する制御装置単体の発明と捉えることができる。また、車両用灯具を制御する制御部に実行させるプログラムの発明と捉えることもできる。
【0048】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0049】
10 車両用灯具システム、 12 カメラユニット、 14 センタECU、 18 ワイパスイッチ、 20 ランプスイッチ、 22 前方カメラ、 24 カメラECU、 26 ランプECU、 28 Loビーム用ランプ、 30 Hiビーム用ランプ、 32 コントローラ、 34 LEDユニット、 34a LED、 P1 第1の配光パターン、 P2 路肩配光パターン、 R1 路面、 R2 路肩、 R3 領域、 X1 撮像画像。