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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101386
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240722BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B41J2/14 303
B41J2/16 509
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005348
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 翼
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳史
(72)【発明者】
【氏名】横山 周平
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF40
2C057AF65
2C057AG45
2C057AG75
2C057AN05
2C057AP47
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】良好な吐出特性を確保することができる液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】一実施形態に係る液体吐出ヘッドは、複数の側壁と、カバー部材と、を備える。複数の側壁は、複数の圧力室及び複数の空気室を交互に構成する複数の溝を形成する。カバー部材は、前記空気室の両側を構成する一対の前記側壁間に形成される内壁部及び一対の前記側壁の端部より外側に配される外壁部を有する。カバー部材は、少なくとも一部に空隙部を有し、前記空気室の開口端部を塞ぐ。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧力室及び複数の空気室を交互に構成する複数の溝を形成する複数の側壁と、
前記空気室の両側を構成する一対の前記側壁間に形成される内壁部及び一対の前記側壁の端部より外側に配される外壁部を有するとともに、少なくとも一部に空隙部を有し、前記空気室の開口端部を塞ぐ、カバー部材と、
を備える、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記空隙部は、両側を構成する一対の前記側壁の端部の間に形成される、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記圧力室は、液滴を吐出するノズルと連通し、
前記カバー部材は、前記側壁の空気室の内側面に形成される前記内壁部と、前記内壁部から前記空気室の延出方向外側に延出する前記外壁部と、を一体に有する一対の延出壁と、一対の前記延出壁を接続する接続壁と、を有し、前記一対の延出壁の間に、一対の前記側壁間の幅よりも小さい前記空隙部が形成される、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記側壁は圧電材料で構成され、
前記カバー部材は、前記圧電材料よりも硬度が低い感光性樹脂材料で構成されるとともに、
前記空隙部は前記空気室の延出方向における外側に向けて開口する、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記側壁は圧電材料で構成され、
前記カバー部材は、前記圧電材料よりも硬度が低い感光性樹脂材料で構成されるとともに、
前記空隙部は前記空気室の延出方向における内側に向けて開口する、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットヘッドにおいて、高生産性が求められ、高速化や液滴量増加が課題となっている。例えば、シェアモードシェアードウォールのインクジェットヘッドにおいては、同じ駆動素子を2つの圧力室で共有し、複数配列される室のうちの1/3を圧力室として同時に駆動する所謂3サイクル駆動が一般的である。また、駆動する圧力室の両側をダミー圧力室として、1つの圧力室を独立した2つの駆動素子で駆動する独立駆動ヘッドも開発されている。例えば、圧電体に多数の溝を形成し、1本おきに出入り口を感光性樹脂の壁などで塞ぎ、出入り口が塞がれない溝を圧力室とし、塞がれた溝を空気室として、独立駆動とする構造が開発されている。
このようなインクジェットヘッドにおいて、感光性樹脂を用いて空気室を封止する壁を形成する際、感光性樹脂の収縮応力によって感光性樹脂と接着面である駆動素子との間で剥離が生じる場合がある。空気室の壁の形成が不十分であると空気室にインクが侵入して、隣接する圧力室の固有振動周期がずれ、面内の圧力室固有振動周期ばらつきが大きくなり、吐出性能が低下する要因となる。また、空気室がインクで満たされると隣接圧力室へ振動が伝わる(クロストーク)現象が発生し、結果的に着弾精度の悪化や抜けが発生し、吐出性能が低下する要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-189031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、良好な吐出特性を確保することができる液体吐出ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る液体吐出ヘッドは、複数の側壁と、カバー部材と、を備える。
複数の側壁は、複数の圧力室及び複数の空気室を交互に構成する複数の溝を形成する。カバー部材は、前記空気室の両側を構成する一対の前記側壁間に形成される内壁部及び一対の前記側壁の端部より外側に配される外壁部を有する。カバー部材は、少なくとも一部に空隙部を有し、前記空気室の開口端部を塞ぐ。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係るインクジェットヘッドを示す斜視図。
図2】実施形態に係るインクジェットヘッドの一部の構成を示す分解斜視図。
図3図2のインクジェットヘッドの要部を部分的に拡大した斜視図。
図4】同インクジェットヘッドの一部の構成を拡大して示す断面図。
図5図4のインクジェットヘッドをF5-F5線に沿って切断した断面図。
図6図4のインクジェットヘッドをF6-F6線に沿って切断した断面図。
図7図2のインクジェットヘッドをF7-F7線に沿って切断した断面の一部を拡大した部分拡大断面図。
図8】実施形態に係るインクジェットヘッドの駆動動作を説明するための部分拡大断面図。
図9】実施形態に係るインクジェットプリンタを示す模式図。
図10】他の実施形態にかかるインクジェットヘッドの一部の構成を拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、第1実施形態に係る液体吐出ヘッドであるインクジェットヘッド10の構成について、図1乃至図8を参照して説明する。図1は、第1実施形態に係るインクジェットヘッドを示す斜視図であり、図2はインクジェットヘッドの一部の分解斜視図である。図3はインクジェットヘッドの一部の構成を拡大して示す斜視図であり、図4乃至図7はインクジェットヘッドの一部の構成を拡大して示す断面図である。図8は駆動状態の説明図である。図中X、Y、Zは互いに直交する第1方向、第2方向、及び3方向をそれぞれ示す。なお、本実施形態において、インクジェットヘッド10のノズル28や圧力室31の並列方向がX軸に、圧力室31の延出方向がY軸に、液体の吐出方向がZ軸に、それぞれ沿う姿勢を基準として方向の説明を記載するが、これに限られるものではない。
【0008】
図1乃至図7に示すように、インクジェットヘッド10は、いわゆるサイドシュータ型のシェアモードシェアードウォール方式インクジェットヘッドである。インクジェットヘッド10は、インクを吐出するための装置であり、例えばインクジェットプリンタの内部に搭載される。例えばインクジェットヘッド10は圧力室31と空気室32が交互に配される独立駆動式のインクジェットヘッドである。空気室32は、インクが供給されない空気室であり、ノズル28を備えない。
【0009】
インクジェットヘッド10は、アクチュエータベース11と、ノズルプレート12と、フレーム13と、を備えている。アクチュエータベース11は、基材の一例である。インクジェットヘッド10の内部に、液体の一例としてのインクが供給されるインク室27が形成される。
【0010】
さらに、インクジェットヘッド10は、インクジェットヘッド10を制御する回路基板17や、インクジェットヘッド10とインクタンクとの間の経路の一部を形成するマニホールド18などの部品を備える。
【0011】
図2に示すように、アクチュエータベース11は、基板21と、一対のアクチュエータ22と、を備える。
【0012】
基板21は、例えばアルミナなどのセラミックスによって矩形の板状に形成される。基板21は平坦な実装面を有する。基板の実装面に一対のアクチュエータ22が接合されている。基板21には複数の供給孔25と排出孔26とが形成されている。
【0013】
図2図5、及び図6に示すように、アクチュエータベース11の基板21には、パターン配線211が形成される。パターン配線211は、例えばニッケル薄膜によって形成される。パターン配線211は、共通パターンや個別パターンを有し、アクチュエータ22に形成された電極層34に接続される所定のパターン形状に構成される。例えばパターン配線211は、供給孔25や排出孔26を避けた位置に形成される。
【0014】
供給孔25は、基板21の中央部であって一対のアクチュエータ22の間において、アクチュエータ22の長手方向に並んで設けられている。供給孔25は、マニホールド18のインク供給部に連通する。供給孔25は、インク供給部を介してインクタンクに接続される。供給孔25はインクタンクのインクをインク室27に供給する。
【0015】
排出孔26は、供給孔25及び一対のアクチュエータ22を挟んで、二列に並んで設けられている。排出孔26は、マニホールド18のインク排出部に連通する。排出孔26は、インク排出部を介してインクタンクに接続される。排出孔26はインク室27のインクをインクタンクに排出する。
【0016】
一対のアクチュエータ22は、基板21の実装面に接着される。一対のアクチュエータ22は供給孔25を挟んで二列に並んで基板21に設けられている。各アクチュエータ22は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)によって形成された板状の二つの圧電体によってそれぞれ形成される。二つの圧電体は、分極方向がその厚さ方向に互いに逆向きになるように貼り合わされる。アクチュエータ22は、例えば熱硬化性を有するエポキシ系接着剤によって基板21の実装面に接着される。図2に示すように、アクチュエータ22は、二列に並ぶノズル28に対応して、インク室27内において平行に並んで配置される。アクチュエータ22は、インク室27を、供給孔25が開口する第1共通室271と、排出孔26が開口する二つの第2共通室272とに区切る。
【0017】
アクチュエータ22は、短手方向の幅が頂部側から基板側に向かって漸次大きくなる。アクチュエータ22の長手方向に直交する方向(短手方向)に沿う断面形状は台形状に形成される。アクチュエータ22の側面部221は、第2方向及び第3方向に対して傾斜する傾斜面を有する。アクチュエータ22の頂部は、ノズルプレート12に接着される。アクチュエータ22は、複数の圧力室31と、複数の空気室32と、を備える。アクチュエータ22は、駆動素子となる複数の側壁33を有し、複数の側壁33の間に、圧力室31及び空気室32を構成する溝を有する。言い換えると、側壁33は、圧力室31及び空気室32を形成する溝の間に形成される柱状の駆動素子となる。
【0018】
図4は、図2に示したインクジェットヘッド10のアクチュエータ22の一方を部分的に拡大した断面図である。図5は、図4に示したインクジェットヘッド10の圧力室31を構成する溝をF5-F5で切断した断面図である。そして、図6は、図4に示したインクジェットヘッド10の空気室32を構成する溝をF6-F6で切断した断面図である。
【0019】
図2図5図6に示すように、溝の底面部と基板21の主面とは傾斜する側面部221によって繋がる。圧力室31と空気室32とは、交互に配置される。圧力室31および空気室32は、アクチュエータ22の長手方向と交差する方向にそれぞれ延び、アクチュエータ22の長手方向である第1方向(図中X軸)において複数並列する。本実施形態において例えば溝は、X方向の幅寸法が、Z方向に沿う深さ方向において一定に構成され、溝の延出方向であるY方向に直交する断面が矩形状に構成される。
【0020】
なお、圧力室31の形状と空気室32の形状とが異なっていても良い。側壁33は、圧力室31と空気室32の間に形成され、駆動信号に応じて変形することで、圧力室31の容積を変化させる。
【0021】
アクチュエータベース11の圧力室31及び空気室32の内壁面、及び側面部221にはそれぞれ電極層34が設けられている。電極層34は、例えばニッケル薄膜等の導電膜によって形成される。電極層34は溝の内面部から側面部221を通って基板21上に至り、パターン配線211に接続される。例えば電極層34は、側壁33の側面部及び底面部の少なくともいずれかに形成されている。
【0022】
複数の圧力室31は、頂部に接合されるノズルプレート12の複数のノズル28に連通する。圧力室31の第2方向の両端はインク室27に連通する。すなわち、一方の端部はインク室27の第1共通室271に開口し、他方の端部は、インク室27の第2共通室272に開口する。このため、圧力室31の一方の端部からインクが流入し、他方の端部からインクが流出する。また、圧力室31の両方の端部からインクが流入してもよい。
【0023】
図3図6に示すように、空気室32は第3方向(Z方向)における一方側が頂部に接合されるノズルプレート12によって塞がれる。また複数の空気室32は例えば第2方向の両端がカバー部材23により塞がれる。すなわち、インク室27の第1共通室271と空気室32の間、及び空気室32と第2共通室272との間にそれぞれカバー部材23が配され、空気室32の両端はインク室27と隔てられている。このため、空気室32はインクが流入しない空気室を構成する。
【0024】
例えばカバー部材23は、各空気室32の延出方向であるY方向(第2方向)の両端に、それぞれ設けられている。カバー部材23は、側壁33の端部同士を接続するとともに、共通室271,272と空気室32との間を隔てる。カバー部材は少なくとも一部に空隙部233を有し、空気室32の開口端部を塞ぐ。
【0025】
カバー部材23は、空気室32の延出方向に延びる一対の延出壁231と、一対の延出壁231を接続する接続壁232と、を備えるとともに、一対の延出壁231の間に形成される空隙部233を有する。例えば、一対の延出壁231の間に、一対の側壁33間の幅よりも小さい空隙部233が形成される。すなわち、一対の延出壁231は変形方向となる第1方向(X方向)において、離間している。例えばカバー部材23は図4に示すように平面視において、空気室32の延出方向の外側に向けて開口するコ字状あるいはU字状に形成される。
【0026】
一対の延出壁231は、対象となる空気室32の延出方向及び深さ方向に延出する壁部材である。一対の延出壁231は、空気室32の並び方向の両側を構成する一対の側壁の内面に形成される内壁部234と、一対の側壁の端部より外側に配される外壁部235と、を一体に有する。例えば一対の延出壁231はZ方向において溝の深さの全長に渡って、ノズルプレート12の対向面から溝の底部に至る範囲に形成される。一対の延出壁231の間には、空隙部233が形成される。一例として空隙部233のX方向の幅寸法は、延出方向の全長に渡って一定であり、内壁部234が外壁部235よりも並び方向の厚み寸法が小さく、薄肉に構成される。
【0027】
空隙部233は、幅方向において、空気室32よりも狭い幅寸法を有するスリット状の空間である。空隙部233は、延出方向において両側の側壁33の端部の間に形成される。空隙部233は、側壁33の端部と並ぶ位置から、空気室32および接続壁232から遠ざかる方向に、一対の延出壁231の端部にわたって形成される。本実施形態においては外側に向けて開口する空隙部233が、側壁33の端部よりも内側に設けられた接続壁232まで形成される。
【0028】
接続壁232は、側壁33の端部よりも空気室32の延出方向における内側の位置で空気室32の塞ぐ壁状部材である。接続壁232は空気室32の長手方向と直交する面に沿う壁部材である。接続壁232は並び方向において一対の延出壁231の内側の端部同士を接続するとともに、Z方向においてノズルプレート12の対向面から溝の底部に至って形成され、空気室32の端部を覆う。
【0029】
カバー部材23は、圧電材料よりも硬度が低い材料で構成される。例えばカバー部材23は、側壁33よりも軟質の樹脂材料で構成される。一例として、カバー部材23は感光性樹脂材料で構成される。例えばカバー部材23は空気室32の両端部に感光性樹脂を塗布した後、カバー部材23の形状に露光硬化させて形成される。カバー部材23は、側壁33の振動方向であるX方向において互い離間する一対の延出壁231の間に空隙部233が介在することにより、硬化時の収縮応力による剥離を抑制できる。
【0030】
ノズルプレート12は、例えばポリイミド製の矩形のフィルムによって形成される。ノズルプレート12は、アクチュエータベース11の実装面に対向する。ノズルプレート12には、ノズルプレート12を厚さ方向に貫通する、複数のノズル28が形成される。
【0031】
複数のノズル28は、圧力室31と同数設けられ、圧力室31にそれぞれ対向して配置される。ノズル28は、第1方向(X方向)に沿って複数並び、一対のアクチュエータ22に対応して2列に配列される。各ノズル28はそれぞれ軸が第3方向に延びる筒状に構成される。例えばノズル28は径が一定であっても、中央部または先端部にかけて縮径する形状であってもよい。ノズル28は、一対のアクチュエータ22に形成される圧力室31の延出方向の中途部に対向配置され、圧力室31にそれぞれ連通する。ノズル28は、各圧力室31の、両端部の間に対応する位置であって、例えば長手方向中央部に、1つずつ、配置される。
【0032】
フレーム13は、例えばニッケル合金によって矩形の枠状に形成される。フレーム13は、アクチュエータベース11の実装面とノズルプレート12との間に介在する。フレーム13は、アクチュエータベース11の実装面とノズルプレート12とにそれぞれ接着される。すなわち、ノズルプレート12は、フレーム13を介してアクチュエータベース11に取り付けられている。
【0033】
マニホールド18は、アクチュエータベース11のノズルプレート12とは反対側に接合される。マニホールド18の内部に、供給孔25に連通する流路であるインク供給部や排出孔26に連通する流路であるインク排出部が形成される。
【0034】
図1に示す回路基板17は、フィルムキャリアパッケージ(FCP)である。回路基板17は、複数の配線が形成されるとともに、柔軟性を有する樹脂製のフィルム51と、フィルム51の複数の配線に接続された駆動IC52と、を有する。駆動IC52はフィルム51の配線やパターン配線211を介して電極層34に電気的に接続される。
【0035】
以上のように構成されたインクジェットヘッド10の内部において、アクチュエータベース11と、ノズルプレート12と、フレーム13とに囲まれるインク室27が形成される。すなわち、インク室27は、アクチュエータベース11とノズルプレート12との間に形成される。例えばインク室27は、2つのアクチュエータ22によって第2方向(Y方向)において3つの区間に仕切られ、排出孔26が開口する共通室としての二つの第2共通室272と、供給孔25が開口する共通室としての第1共通室271と、を有する。第1共通室271及び第2共通室272は、複数の圧力室31に連通している。
【0036】
図7は、図2のインクジェットヘッド10を長手方向にF7-F7で切断した部分の拡大断面図である。図8は、図7の側壁33をシェアモード変形させた状態の一例を示す部分拡大断面図である。
【0037】
以上のように構成されたインクジェットヘッド10において、供給孔25、圧力室31、及び排出孔26を通って、インクはインクタンクとインク室27との間で循環する。例えばインクジェットプリンタの制御部から入力された信号によって、駆動IC52がフィルム51の配線を介して圧力室31の電極層34に駆動電圧を印加することにより、圧力室31の電極層34と、空気室32の電極層34との間に電位差を生じさせることで、側壁33を選択的にシェアモード変形させる。圧力室31と空気室32の間に形成された側壁33を駆動信号に応じて変形することで、圧力室31の容積を変化させる。
【0038】
図8に実線で示すように、側壁33がシェアモード変形することにより、当該電極層34が設けられた圧力室31の容積が増加し、圧力が減少する。これにより当該圧力室31にインク室27のインクが流入する。
【0039】
圧力室31の容積が増加した状態で、駆動IC52が圧力室31の電極層34に逆電位の駆動電圧を印加する。これにより、図8に二点鎖線で示すように、側壁33がシェアモード変形して当該電極層34が設けられた圧力室31の容積が減少し、圧力が増加する。これにより、圧力室31の中のインクが加圧され、ノズル28から吐出される。
【0040】
インクジェットヘッド10の製造方法について説明する。まず、板状の基板21に複数の溝を形成する圧電部材を接着剤等で貼り付け、ダイシングソーやスライサー等を使用した機械加工を施して所定形状の外形を有するアクチュエータベース11を成形する。なお、例えば予め複数枚分の厚さのブロック状のベース部材を形成してから分割し、所定形状のアクチュエータベース11を複数枚製造してもよい。
【0041】
続いて、圧力室31や空気室32を構成する溝の内面や基板21の表面に電極層34やパターン配線211を形成する。以上により、アクチュエータベース11の表面に、電極層34、及びパターン配線211が所定箇所にそれぞれ形成される。
【0042】
続いて、空気室32の端部に、カバー部材23を形成することによって空気室32の両端を塞ぐ。例えば空気室32を構成する溝に感光性樹脂を充填し、露光により対象部位を硬化させてカバー部材23を形成する。あるいは感光性樹脂を硬化させた後、空隙部233となる部位を除去してスリット状の空隙部233を形成し、感光性樹脂層をコ字状に成形することで、カバー部材23が形成される。
【0043】
そして、アクチュエータベース11をマニホールド18に組み付け、アクチュエータベース11の基板21の一方の面に、熱可塑性樹脂の接着シートにより、フレーム13を貼付ける。
【0044】
そして、組立てられたフレーム13、アクチュエータ22の側壁33の頂部、及びカバー部材23のノズルプレート12側の面が同一面となるよう研磨する。そして、側壁33の頂部、フレーム13、カバー部材23の研磨面にノズルプレート12を接着して取り付ける。このとき、圧力室31にノズル28が対向するように位置決めを行う。さらに、図1に示すように基板21の主面に形成されたパターン配線211に、フレキシブルプリント基板を介して駆動IC52や回路基板17を接続することで、インクジェットヘッド10が完成する。
【0045】
以下に、インクジェットヘッド10を備えるインクジェットプリンタ100の一例について、図9を参照して説明する。インクジェットプリンタ100は、筐体111と、媒体供給部112と、画像形成部113と、媒体排出部114と、搬送装置115と、制御部116と、を備える。
【0046】
インクジェットプリンタ100は、媒体供給部112から画像形成部113を通って媒体排出部114に至る所定の搬送路Aに沿って、吐出対象物である記録媒体として例えば用紙Pを搬送しながらインク等の液体を吐出することで、用紙Pに画像形成処理を行う液体吐出装置である。
【0047】
筐体111は、インクジェットプリンタ100の外郭を構成する。筐体111の所定箇所に、用紙Pを外部に排出する排出口を備える。
【0048】
媒体供給部112は複数の給紙カセットを備え、各種サイズの用紙Pを複数枚積層して保持可能に構成される。
【0049】
媒体排出部114は、排出口から排出される用紙Pを保持可能に構成された排紙トレイを備える。
【0050】
画像形成部113は、用紙Pを支持する支持部117と、支持部117の上方に対向配置された複数のヘッドユニット130と、を備える。
【0051】
支持部117は、画像形成を行う所定領域にループ状に備えられる搬送ベルト118と、搬送ベルト118を裏側から支持する支持プレート119と、搬送ベルト118の裏側に備えられた複数のベルトローラ120と、を備える。
【0052】
支持部117は、画像形成の際に、搬送ベルト118の上面である保持面に用紙Pを支持するとともに、ベルトローラ120の回転によって所定のタイミングで搬送ベルト118を送ることにより、用紙Pを下流側へ搬送する。
【0053】
ヘッドユニット130は、複数(4色)のインクジェットヘッド10と、各インクジェットヘッド10上にそれぞれ搭載された液体タンクとしてのインクタンク132と、インクジェットヘッド10とインクタンク132とを接続する接続流路133と、循環部である循環ポンプ134と、を備える。ヘッドユニット130は、インクタンク132と、インクジェットヘッド10の内部に作りこまれた圧力室31、空気室32、及びインク室27において液体を常時循環させる循環型のヘッドユニットである。
【0054】
本実施形態において、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラックの4色のインクジェットヘッド10と、これらの各色のインクをそれぞれ収容するインクタンク132を備える。インクタンク132は接続流路133によってインクジェットヘッド10に接続される。接続流路133は、インクジェットヘッド10の供給口に接続される供給流路と、インクジェットヘッド10の排出口に接続される回収流路と、を備える。
【0055】
また、インクタンク132には、図示しないポンプなどの負圧制御装置が連結される。そして、インクジェットヘッド10とインクタンク132との水頭値に対応して、負圧制御装置はインクタンク132内を負圧制御することで、インクジェットヘッド10の各ノズル28に供給されたインクを所定形状のメニスカスを形成する。
【0056】
循環ポンプ134は、例えば圧電ポンプで構成される送液ポンプである。循環ポンプ134は、供給流路に設けられている。循環ポンプ134は、配線により制御部116の駆動回路に接続され、CPU(Central Processing Unit)による制御によって制御可能に構成される。循環ポンプ134は、インクジェットヘッド10とインクタンク132を含む循環流路で液体を循環させる。
【0057】
搬送装置115は、媒体供給部112から画像形成部113を通って媒体排出部114に至る搬送路Aに沿って、用紙Pを搬送する。搬送装置115は、搬送路Aに沿って配置される複数のガイドプレート対121と、複数の搬送用ローラ122と、を備えている。
【0058】
複数のガイドプレート対121は、それぞれ、搬送される用紙Pを挟んで対向配置される一対のプレート部材を備え、用紙Pを搬送路Aに沿って案内する。
【0059】
搬送用ローラ122は、制御部116の制御によって駆動されて回転することで、用紙Pを搬送路Aに沿って下流側に送る。なお、搬送路Aには用紙の搬送状況を検出するセンサが各所に配置される。
【0060】
制御部116は、コントローラであるCPU等の制御回路と、各種のプログラムなどを記憶するROM(Read Only Memory)と、各種の可変データや画像データなどを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)と、外部からのデータの入力及び外部へのデータの出力をするインターフェイス部と、を備える。
【0061】
以上のように構成されたインクジェットプリンタ100において、制御部116は、例えばインターフェイスにおいてユーザが操作入力部の操作による印刷指示を検出すると、搬送装置115を駆動して用紙Pを搬送するとともに、所定のタイミングでヘッドユニット130に対して印字信号を出力することで、インクジェットヘッド10を駆動する。インクジェットヘッド10は吐出動作として、画像データに応じた画像信号により、駆動IC52に駆動信号を送り、配線を介して圧力室31の電極層34に駆動電圧を印加してアクチュエータ22の側壁33を選択的に駆動してノズル28から液滴としてのインクを吐出し、搬送ベルト118上に保持された用紙Pに画像を形成する。また、液体吐出動作として、制御部116は、循環ポンプ134を駆動することで、インクタンク132とインクジェットヘッド10とを通る循環流路で液体を循環させる。循環動作により、インクタンク132内のインクは、循環ポンプ134が駆動されることにより、インクタンク132のインクが、マニホールド18のインク供給部を通って、供給孔25からインク室27の第1共通室271に供給される。このインクは、一対のアクチュエータ22の複数の圧力室31に供給される。インクは、圧力室31を通ってインク室27の第2共通室272に流入する。このインクは、排出孔26から、マニホールド18のインク排出部を通ってインクタンク132に排出される。
【0062】
上述した実施形態によれば、空隙部233を有するカバー部材23で空気室32を塞ぐ構成としたことで、カバー部材23を形成する際の感光性樹脂硬化時の収縮応力を緩和することができる。このため、カバー部材23の接着面が側壁33から剥離することや材料破壊を抑制でき、空気室32内へのインク侵入を抑制することができる。また、空気室32へのインクの侵入を抑制することにより、隣接する圧力室31内のインクの圧力に影響を及ぼす、いわゆるクロストークを抑制でき、吐出性能を維持しやすい。また、カバー部材23は、側壁33がX方向に変位すると、延出壁231がX方向に変位するように弾性変形することで、側壁33の変位振動を吸収することができ、一方の側壁33から他方の側壁33への振動の伝達を抑制する。すなわち、一方の側壁33の振動が他方の側壁33に伝わることを抑制でき、いわゆるクロストークを抑制でき、吐出性能を維持しやすい。
【0063】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0064】
例えばカバー部材23は空気室32の延出方向外側に向けて開口しコ字状に屈曲する形状を例示したが、これに限られるものではない。例えば例えばU字状に湾曲する湾曲部を有する構成であってもよく、あるいは空気室32の延出方向内側に開口する形状であってもよい。
【0065】
また、上記実施形態において、接続壁232は側壁33の端部よりも内側に配される例を示したが、これに限られるものではない。例えば他の実施形態として図10に示すカバー部材230のように、接続壁232が、側壁33の端部よりも外側に配される構成であってもよい。
【0066】
例えば、カバー部材230は、一対の延出壁231と、接続壁232とを備え、接続壁232は、延出壁231のうち、延出方向の外側の端部に配置される。接続壁232は、側壁33の端部よりも空気室の延出方向において外側に位置する。一例として、カバー部材230は平面視において、延出方向の内側に開口するコ字状に構成される。一対の延出壁231は、側壁33の内面に形成される内壁部234と、外壁部235とを有する。一対の延出壁231の間に空隙部233が形成される。例えば接続壁232は平板状の壁部材であってもよいし、湾曲した壁であってもよい。一例として空隙部233のX方向の幅寸法は、延出方向の全長に渡って一定であり、内壁部234が外壁部235よりも並び方向の厚み寸法が小さく、薄肉に構成される。
【0067】
一対の延出壁231は、対象となる空気室32の延出方向に延出する壁部材である。一対の延出壁231は、空気室32の並び方向の両側を構成する一対の側壁の内側面に形成される内壁部234と、一対の側壁の端部より外側に配される外壁部235と、を有する。一対の延出壁231の間には、空隙部233が形成される。一例として空隙部233は延出方向に一定の幅を有し、内壁部234が外壁部235よりも並び方向の寸法である厚み寸法が小さく、薄肉に構成される。
【0068】
空隙部233は、幅方向において、空気室32よりも狭い幅寸法を有するスリット状の空間である。空隙部233は、延出方向において両側の側壁33の端部の間に形成される。本実施形態においては内側に向けて開口する空隙部233が、側壁33の端部と並ぶ位置から、側壁33の端部よりも外側に設けられた接続壁232にまで形成される。本実施形態においては、空隙部233は、空気室32と連通している。空隙部233は、空気室32を兼ねてもよい。
【0069】
接続壁232は、側壁33の端部よりも空気室32の延出方向における外側の位置で空気室32の塞ぐ壁状部材である。接続壁232は空気室32の延出と直交または交差する面に沿う壁部材である。接続壁232は並び方向において一対の延出壁231同士を接続するとともに、Z方向においてノズルプレート12の対向面から溝の底部に至って形成され、空気室32の端部を覆う。
【0070】
カバー部材230は、圧電材料よりも硬度が低い材料で構成される。例えばカバー部材23は、側壁33よりも軟質の樹脂材料で構成される。一例として、カバー部材23は感光性樹脂材料で構成される。例えばカバー部材23は空気室32の両端部に感光性樹脂を塗布した後、カバー部材23の形状に露光硬化させて形成される。カバー部材230は、側壁33の振動方向であるX方向において互い離間する一対の延出壁231の間に空隙部233が介在することにより、硬化時の収縮応力による剥離を抑制できる。
【0071】
本実施形態においても、カバー部材230が空隙部233を有することにより、カバー部材230を形成する際の感光性樹脂の収縮応力を緩和し、収縮応力によるカバー部材23の剥離を抑制できるため、良好な吐出性能を確保できる。また、カバー部材230は、側壁33がX方向に変位すると、延出壁231がX方向に変位するように弾性変形することで、側壁33の変位振動を吸収することができ、一方の側壁33から他方の側壁33への振動の伝達を抑制する。すなわち、一方の側壁33の振動が他方の側壁33に伝わることを抑制でき、いわゆるクロストークを抑制でき、吐出性能を維持しやすい。
【0072】
なお、接続壁232が一対の延出壁231の延出方向の中途部に設けられ、延出方向の内側と外側にそれぞれ空隙部233を有する形状であってもよい。
【0073】
上記実施形態においては、基板21の主面部分に複数の溝を備えるアクチュエータ22を配した例を示したが、これに限られるものではない。たとえば基板21の端面に、アクチュエータを備える構成であってもよい。また、ノズル列の数も上記実施形態に限られるものではなく、1列、あるいは3列以上備える構成としてもよい。
【0074】
また、上記実施形態においては、基板21に圧電部材からなる積層圧電体を備えたアクチュエータベース11を例示したが、これに限るものではない。例えば基板を用いずに圧電部材のみでアクチュエータベース11を形成しても良い。また、2枚の圧電部材を用いずに、1枚の圧電部材としてもよい。また供給側と排出側が逆であってもよく、あるいは切り替え可能に構成されていてもよい。
【0075】
また、上記実施形態においては、一例として、圧力室31の一方側が供給側であり、他方側が排出側であり、第1共通室のインクが圧力室の一方側から流入して他方側から流出する循環型のインクジェットヘッドを例示したがこれに限られるものではない。例えば非循環型としてもよい。また、例えば圧力室31の両側の共通室が供給側であって、両側からインクが流入する構成であってもよい。すなわち、圧力室31の両側からインクが流入し、圧力室31の中央に配置されるノズル28から流出する構成であってもよい。また、両端にそれぞれ形成されるカバー部材23の形状が互いに異なっていてもよい。基板21に設けられた供給孔25は、図2に示すような一対のアクチュエータ22の間に設けられる複数の円形の孔の形状に限らない。例えば、供給孔25は、一対のアクチュエータ22の間に設けられる1つの長孔としてもよい。
【0076】
また、例えば、吐出する液体は印字用のインクに限られるものではなく、例えばプリント配線基板の配線パターンを形成するための導電性粒子を含む液体を吐出する装置等であっても良い。
【0077】
また、上記実施形態において、インクジェットヘッドは、インクジェットプリンタ等の液体吐出装置に用いられる例を示したが、これに限られるものではなく、例えば3Dプリンタ、産業用の製造機械、医療用途にも用いることが可能であり、小型軽量化及び低コスト化が可能である。
【0078】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、安定的な吐出特性を確保することができる液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法を提供できる。
【0079】
この他、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
10…インクジェットヘッド、11…アクチュエータベース、12…ノズルプレート、13…フレーム、17…回路基板、18…マニホールド、21…基板、22…アクチュエータ、23、230…カバー部材、231…延出壁、232…接続壁、233…空隙部、25…供給孔、26…排出孔、27…インク室、31…圧力室、32…空気室、33…側壁、34…電極層、51…フィルム、52…駆動IC、100…インクジェットプリンタ、111…筐体、112…媒体供給部、113…画像形成部、114…媒体排出部、115…搬送装置、116…制御部、117…支持部、118…搬送ベルト、119…支持プレート、120…ベルトローラ、121…ガイドプレート対、122…搬送用ローラ、130…ヘッドユニット、132…インクタンク、133…接続流路、134…循環ポンプ、211…パターン配線、221…側面部、271…第1共通室、272…第2共通室。
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