(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101409
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】車両用排気口構造
(51)【国際特許分類】
F01N 13/20 20100101AFI20240722BHJP
【FI】
F01N13/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005374
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】村上 強
(72)【発明者】
【氏名】吉田 達哉
(72)【発明者】
【氏名】三原 秀文
(72)【発明者】
【氏名】林 大雅
(72)【発明者】
【氏名】小林 秋子
【テーマコード(参考)】
3G004
【Fターム(参考)】
3G004BA02
3G004DA01
3G004DA21
(57)【要約】
【課題】テールチューブ内を上流側に向かって進行する反射波のエネルギーを低減し、この反射波と排気音の進行波とが共鳴して生じるこもり音を低減できる車両用排気口構造を提供する。
【解決手段】本発明の車両用排気口構造は、排気管のテールチューブに共鳴阻害板を備える。
そして、上記共鳴阻害板が、テールチューブの外周面と隙間を開けて上記テールチューブに沿って配置され、上記共鳴阻害板が、上記テールチューブの開口端よりも下流側に突出した出代を有し、前記共鳴阻害板の下流側の端部から上流側方向にスリットを有することとしたため、上記回折波と対を成す管内球面波も阻害され、反射波と進行波との共鳴が抑制されて、こもり音を低減可能な車両用排気口構造を提供することができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気管のテールチューブに共鳴阻害板を備える車両用排気口構造であって、
上記共鳴阻害板が、テールチューブの外周面と隙間を開けて上記テールチューブに沿って配置され、
上記共鳴阻害板が、上記テールチューブの開口端よりも下流側に突出した出代を有し、前記共鳴阻害板の下流側の端部から上流側方向にスリットを有することを特徴とする車両用排気口構造。
【請求項2】
上記テールチューブが、排気口近傍で一方向に曲がっていることを特徴とする請求項1に記載の車両用排気口構造。
【請求項3】
上記共鳴阻害板がテールチューブの曲がり方向とは逆側に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用排気口構造。
【請求項4】
上記テールチューブの曲がり方向が車両下方であり、この車両下方において、上記共鳴阻害版はスリットを有することを特徴とする請求項3に記載の車両用排気口構造。
【請求項5】
上記共鳴阻害板と上記テールチューブの外周面との間の隙間が、上流側よりも下流側が大きいことを特徴とする請求項1~3のいずれか1つの項記載の車両用排気口構造。
【請求項6】
上記共鳴阻害板と上記テールチューブの外周面との間の隙間の大きさが、下流側に向かうに従って増加することを特徴とする請求項5に記載の車両用排気口構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用排気口構造に係り、更に詳細には、内燃機関の排気音を低減できる車両用排気口構造に関する。
【背景技術】
【0002】
外観上の美しさを付与する排気管の先端に取り付ける車両用のマフラーカッターが知られている。特許文献1には、金属筒体の表面にホーロー層を設けて、排気ガスの熱による変色を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1に示すように、内燃機関の排気管内を進行する排気音の進行波cは、テールチューブの開口端で回折し、回折波aとなって拡散する。また、テールチューブの開口端では、上記回折波aと対を成し、上記回折波aの中心を中心として拡がる位相が180°ずれた、点線で示す管内球面波bが生じる。
【0005】
この管内球面波bがテールチューブの開口端の全周で発生し、互いに干渉し合うことでテールチューブ内を上流側に向かって進行する反射波となり、上記進行波cと共鳴してこもり音を発生させる。
【0006】
上記特許文献1に記載のものにあっては、上記反射波を阻害する機能が充分でなく、こもり音を低減することができない。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、テールチューブ内を上流側に向かって進行する反射波のエネルギーを低減し、この反射波と排気音の進行波とが共鳴して生じるこもり音を低減できる車両用排気口構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、上記反射波の基となる管内球面波と対を成すテールチューブの開口端で生じる回折波を阻害することで、上記反射波のエネルギーが低減され、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の車両用排気口構造は、排気管のテールチューブに共鳴阻害板を備える。
そして、上記共鳴阻害板が、テールチューブの外周面と隙間を開けて上記テールチューブに沿って配置され、上記共鳴阻害板が、上記テールチューブの開口端よりも下流側に突出した出代を有し、前記共鳴阻害板の下流側の端部から上流側方向にスリットを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、排気管のテールチューブに共鳴阻害板を設け、テールチューブの開口端で生じる回折波を阻害することとしたため、上記回折波と対を成す管内球面波も阻害され、反射波と進行波との共鳴が抑制されて、こもり音を低減可能な車両用排気口構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】排気音の進行波が開口端で回折する状態を説明する図である。
【
図2】本発明の車両用排気口構造の一例を示す斜視図である。
【
図3】本発明の車両用排気口構造の一例を示す要部断面図である。
【
図4】本発明の車両用排気口構造が開口端で回折した回折波を阻害する状態を説明する図である。
【
図5】リブを有する共鳴阻害板の一例を示す要部断面図である。
【
図6】円弧部を有する共鳴阻害板の一例を示す要部断面図である。
【
図7】開口部を有する共鳴阻害板の一例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の車両用排気口構造について詳細に説明する。
本発明の車両用排気口構造は、
図2に示すように、内燃機関の排気音を低減する排気管のテールチューブの開口端部、すなわち、排気口の近傍に共鳴阻害板を備える。
【0013】
上記共鳴阻害板は、テールチューブの外周面と隙間を開けて上記テールチューブに沿って配置され、テールチューブの周方向の少なくとも1部(
図2では下側)にスリットを有し、上記テールチューブの外周の少なくとも1部を開放し、露出させた状態でテールチューブを覆っている。そして、テールチューブの開口端よりも下流側、すなわちテールチューブ内部を進行する音波の進行方向に突出した出代を有する。
【0014】
テールチューブ内部を進行する音波、すなわち排気音は、
図1に示すように、テールチューブの開口端で回折して回折波aを生じさせる。
【0015】
本発明の車両用排気口構造は、
図3に示すように排気音の進行方向に突出した出代を有するので、
図4に示すように、上記回折波aは共鳴阻害板3に当たって拡散し、そのエネルギーが低減される。
【0016】
排気音の進行波cと共鳴する反射波は、回折波aと対を成す管内球面波bに起因するため、回折波aのエネルギーが低減されることで管内球面波bのエネルギーも低減される。 したがって、テールチューブ内を上流側に向かう反射波のエネルギーが減少する。
【0017】
また、共鳴阻害板3に当たった回折波aは、共鳴阻害板3とテールチューブ2との間に溜まり、後に続く回折波aに対する共鳴阻害板の阻害効果を減殺させる。
【0018】
本発明の車両用排気口構造は、
図3に示すように、共鳴阻害板とテールチューブの外周面との間に、上流側が開放された隙間4を有し、回折波aを上流側に逃がすので、上記後に続く回折波aに対する阻害効果が減殺されることがなく、回折波aの阻害効果が高いので、こもり音を低減することが可能である。
【0019】
上記テールチューブ2は、排気口近傍で一方向に曲がっていることが好ましい。
テールチューブ内を進行する排気音は平面波(疎密波)であり指向性を有するため、テールチューブ2が急激に曲がっていると、その曲がりに追従せず、曲がった方向とは逆側(
図4では上側)に音波が集中することになる。
【0020】
これにより、テールチューブ2の開口端22で生じる回折波aは、テールチューブ2が曲がった方向で小さく、曲がった方向とは逆側で大きくなる。
【0021】
したがって、テールチューブ2の曲がり方向とは逆側に上記共鳴阻害板3を配置し、曲がり方向とは逆側のテールチューブ2の外周を覆うことで、大きな回折波aを阻害することができ、回折波aのエネルギーを効率よく低減して反射波のエネルギーを減少させることができる。
【0022】
上記テールチューブ2は、その外周の一部が共鳴阻害板3で覆われていれば、回折波aのエネルギーを低減できるので、共鳴阻害板3で覆われた部分の割合は特に制限はないが、テールチューブ2の外周の1/3以上が共鳴阻害板3で覆われていることが好ましい。
【0023】
また、テールチューブ2が曲がる方向は、どのような方向であってもかなわないが、車両下側に曲がっていることで、共鳴阻害板3をテールチューブの上側に配置し、テールチューブ2の下側を共鳴阻害板3から露出させることが可能である。
【0024】
したがって、排気口部分の地上高が共鳴阻害板3によって低くなることを防止でき、共鳴阻害板3が地面に当たって破損することを防止できる。
【0025】
また、上記共鳴阻害板の出代31の長さ、すなわち、テールチューブ2の開口端22から共鳴阻害板3の先端までの長さは、テールチューブの開口端22におけるテールチューブと共鳴阻害板との間の開口端の隙間5以下であることが好ましい。
【0026】
出代31の突出長さが、開口端の隙間5よりも長くなると、排気ガスが共鳴阻害板に当たり易くなるため、排気ガスの放出に起因した排気音とは別の異音が発生し易くなることがある。
【0027】
上記共鳴阻害板3は、テールチューブ側の表面積が大きいことが好ましい。
上記のように、出代31の突出長さが制限されるので、テールチューブ側の表面積を大きくすることで、回折波aのエネルギー低減効果を向上させることができる。
【0028】
具体的には、
図5に示すように、共鳴阻害板3のテールチューブ側にリブ32を設けることや、
図6に示すように、共鳴阻害板のテールチューブの開口端22に対応する位置に、テールチューブとは反対側に凸のドーム形の円弧部33を設けることなどが挙げられる。
【0029】
上記共鳴阻害板と上記テールチューブの外周面との間の隙間は、
図3に示すように、上流側よりも下流側が広いことが好ましい。
【0030】
共鳴阻害板3で阻害された回折波aは、上記のように、共鳴阻害板3と上記テールチューブ2の外周面との間の隙間4から上流側に逃げる。
【0031】
上流側の隙間4が狭くなっていることで、阻害された回折波aのうち、上流側の隙間4に対応する共鳴周波数以上の高周波成分のみが上流側の隙間4を通って上流側に逃げ、上流側の隙間4に対応する共鳴周波数以下の低周波成分は、上流側の隙間4を通れないので下流側に逃げるようになり、車室側に低周波が進行し、こもり音となることを防止できる。
【0032】
上流側の隙間4の最も狭い部分の間隔は、内燃機関の気筒数や常用回転数などにもよるが、4~6mm程度であることが好ましい。
【0033】
上記共鳴阻害板3と上記テールチューブ2の外周面との間の隙間の隙間の大きさが、下流側に向かうに従って増加することが好ましく、さらにその大きさの拡大率が、下流側に向けて増加することが好ましい。
【0034】
隙間の拡がり方が、一定の割合で拡がるのではなく、下流側に行くほど急激に拡がることで、出代31の突出長さの範囲内で開口端の隙間5を大きくすることができ、より低周波成分に対応する共鳴周波数を有する隙間を設定することができるようになる。つまり、低周波成分の音を車室とは反対側の下流に進行させやすくなり、車室側に進行する低周波のこもり音を防止できる。
【0035】
また、共鳴阻害板3は、
図7に示すように、上流側に向けて開口した開口部35を備えることが好ましい。
共鳴阻害板3が開口部35を有することで、高周波成分を上流側に効率よく逃がすことができ、共鳴阻害板3とテールチューブ2との間に回折波aが溜まり難くなるので、回折波阻害効果が向上する。
【0036】
上記のように、本発明の車両用排気口構造によれば、排気口の開口端で生じる反射波とテールチューブ内を進行する排気音の進行波との共鳴が抑制されて、こもり音が車内に伝わることを抑制でき、静かな車内環境を実現することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 車両用排気口構造
2 テールチューブ
21 排気口
22 開口端
3 共鳴阻害板
31 出代
32 リブ
33 円弧部
35 開口部
4 上流側の隙間
5 開口端の隙間
a 回折波
b 管内球面波
c 進行波