(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101413
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】操船システムおよびそれを備える船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 25/42 20060101AFI20240722BHJP
B63H 25/02 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B63H25/42 B
B63H25/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005378
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠平
(72)【発明者】
【氏名】中西 諒
(57)【要約】
【課題】舵角センサの出力信号を利用できないときにも操舵機能を保持できる操船システム、およびこのような操船システムを備えた船舶を提供する。
【解決手段】操船システム100は、ステアリングホイール6と、ステアリングホイール6の操作速度を検出する操作速度センサ12と、ステアリングアクチュエータ25を有する転舵装置と、を含む。操船システムは、さらに、舵角センサ29と、操作速度センサの出力信号および舵角センサの出力信号に応じてステアリングアクチュエータを制御するステアリングコントローラ22と、を含む。ステアリングコントローラは、舵角センサの出力信号の異常を監視し、異常がなければ、舵角センサの出力信号に基づいて目標舵角を達成するようにステアリングアクチュエータをフィードバック制御し、異常が検出されると、操作速度センサの出力信号に基づいてステアリングアクチュエータをフィードフォワード制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の操舵のために操作者によって操作される操舵操作子と、
前記操舵操作子の操作量を検出する操作量センサと、
ステアリングアクチュエータを含み、舵角を変化させる転舵装置と、
前記舵角を検出する舵角センサと、
前記操作量センサの出力信号および前記舵角センサの出力信号に応じて前記ステアリングアクチュエータを制御するステアリングコントローラと、を含み、
前記ステアリングコントローラは、
前記舵角センサの出力信号の異常を監視し、
前記異常がなければ、前記舵角センサの出力信号に基づいて目標舵角を達成するように前記ステアリングアクチュエータをフィードバック制御し、
前記異常が検出されると、前記操作量センサの出力信号に基づいて前記ステアリングアクチュエータをフィードフォワード制御する、操船システム。
【請求項2】
前記操作量センサは、前記操舵操作子の操作速度を検出する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項3】
前記ステアリングコントローラは、前記舵角センサの出力信号および前記操作量センサの出力信号に基づいて前記目標舵角を演算し、前記異常が検出されると、前記目標舵角の演算を中止する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項4】
前記操舵操作子は、操作領域端のないステアリングホイールを含む、請求項1に記載の操船システム。
【請求項5】
前記ステアリングホイールの回転を規制する回転規制装置と、
前記回転規制装置を制御するヘルムコントローラと、をさらに含み、
前記ステアリングコントローラは、前記異常がなければ、前記転舵装置の舵角に関する舵角情報を前記ヘルムコントローラに送信し、
前記ヘルムコントローラは、前記舵角情報に基づき前記転舵装置の舵角が転舵端に相当するときに、前記回転規制装置を作動させて前記ステアリングホイールの回転を規制する、請求項4に記載の操船システム。
【請求項6】
前記ヘルムコントローラは、前記異常が生じているときは、前記回転規制装置を作動させず、前記ステアリングホイールの無限回転を許容する、請求項5に記載の操船システム。
【請求項7】
前記ステアリングホイールの操作によらない操船モードにおいて目標舵角を生成して前記ステアリングコントローラに供給するメインコントローラをさらに含み、
前記メインコントローラは、前記ステアリングコントローラから前記異常が通知されると、前記ステアリングホイールの操作による通常操船モードに遷移し、前記目標舵角の生成を中止する、請求項4に記載の操船システム。
【請求項8】
前記ステアリングホイールの操作によらない操船モードは、前記メインコントローラがジョイスティックの操作に応答して目標舵角を生成するジョイスティックモードおよび自動操船モードのうちの少なくとも一つを含む、請求項7に記載の操船システム。
【請求項9】
前記ステアリングコントローラは、前記フィードフォワード制御において、前記操作量センサによって検出される操作量に対応して前記転舵装置の舵角が変化するように、前記ステアリングアクチュエータを制御する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項10】
前記ステアリングアクチュエータは、油圧シリンダと、前記油圧シリンダに作動油を供給する電動ポンプとを有する油圧アクチュエータを含む、請求項1に記載の操船システム。
【請求項11】
前記転舵装置は、船体に取り付けられる船外機を転舵させる、請求項1に記載の操船システム。
【請求項12】
船舶の操舵のために操作者によって操作される操舵操作子と、
前記操舵操作子の操作量を検出する操作量センサと、
ステアリングアクチュエータを含み、舵角を変化させる転舵装置と、
前記舵角を検出する舵角センサと、
前記操作量センサの出力信号および前記舵角センサの出力信号に応じて前記ステアリングアクチュエータを制御するステアリングコントローラと、を含み、
前記ステアリングコントローラは、前記舵角センサの出力信号に基づいて目標舵角を達成するように前記ステアリングアクチュエータをフィードバックするフィードバックモードと、
前記操作量センサの出力信号に基づいて前記ステアリングアクチュエータをフィードフォワード制御するフィードフォワードモードと、を有する、
操船システム。
【請求項13】
船体と、
前記船体に装備される、請求項1~12のいずれか一項に記載の操船システムと、
を含む、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、操船システムおよびそれを備える船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、船外機の操舵角を検出する操舵角センサに故障が生じても船外機の操舵を継続できる操舵装置を開示している。この装置は、ステアリングホイールの回転角を検出する回転角センサと、船外機の操舵角を検出する操舵角センサと、船外機の操舵用電動モータを制御する電子制御ユニット(ECU)とを備えている。ECUは、回転角センサが検出する回転角に基づいて目標操舵角を設定する目標操舵角設定部と、船外機の操舵角が目標操舵角に近づくように操舵用電動モータの駆動電流を決定するコントローラと、フィードフォワード回路とを含む。フィードフォワード回路には、船外機のエンジン回転数と、操舵用電動モータの駆動電流と、操舵角センサが検出する操舵角とが入力される。フィードフォワード回路は、入力された駆動電流を、操舵角およびエンジン回転数に対する特性として記憶する。操舵角センサの故障時には、フィードフォワード回路は、駆動電流およびエンジン回転速度に基づいて、船外機の操舵角を推定し、推定操舵角をコントローラに供給する。
【0003】
操舵角センサが正常であれば、コントローラは、操舵角センサが検出する操舵角を目標操舵角に調節するフィードバック制御を実行する。操舵角センサに故障が生じると、コントローラは、フィードフォワード回路から供給される推定操舵角および目標操舵角に基づいて駆動電流を決定し、それによって、船外機の操舵角を目標操舵角に導く。すなわち、操舵角センサに故障が生じると、フィードバック制御のための操舵角を推定操舵角に置き換えることにより、操舵用電動モータが駆動される。したがって、操舵角センサが正常なときおよび故障が生じているときのいずれの場合にも、目標操舵角および操舵角に基づくフィードバック制御が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、ステアリングホイールの回転角が回転角センサによって検出され、その回転角に基づいて目標操舵角が設定される。
【0006】
しかし、船舶のステアリングホイールは、操作領域端がないように構成されている場合、すなわち、無限に回転操作できるように構成されている場合がある。このような場合には、ステアリングホイールの絶対的な回転角を検出できる回転角センサではなく、ステアリングホイールの操作量を検出する操作量センサが設けられることがある。操作量センサは、たとえば、単位時間あたりの操作角変位(操作量)を検出する操作速度センサであってもよい。このような操作量センサの出力信号は、絶対的な回転角を表さないので、それに基づいて目標操舵角を設定することができない。したがって、特許文献1の構成を適用することができない。
【0007】
そこで、この発明の一実施形態は、操舵操作子の操作量を検出する操作量センサを備え、かつ舵角センサの出力信号を利用できないときにも操舵機能を保持できる操船システム、およびこのような操船システムを備えた船舶を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の一実施形態は、船舶の操舵のために操作者によって操作される操舵操作子と、前記操舵操作子の操作量を検出する操作量センサと、ステアリングアクチュエータを含み、舵角を変化させる転舵装置と、前記舵角を検出する舵角センサと、前記操作量センサの出力信号および前記舵角センサの出力信号に応じて前記ステアリングアクチュエータを制御するステアリングコントローラと、を含む、操船システムを提供する。前記ステアリングコントローラは、前記舵角センサの出力信号の異常を監視し、前記異常がなければ、前記舵角センサの出力信号に基づいて目標舵角を達成するように前記ステアリングアクチュエータをフィードバック制御し、前記異常が検出されると、前記操作量センサの出力信号に基づいて前記ステアリングアクチュエータをフィードフォワード制御する。
【0009】
この構成によれば、舵角センサの出力信号に異常がなければ、舵角センサの出力信号に基づいて目標舵角を達成するようにステアリングアクチュエータがフィードバック制御される。舵角センサの出力信号に異常があれば、このようなフィードバック制御を行うことができない。そこで、舵角センサの出力信号の異常が検出されると、舵角センサの出力信号は用いず、操作量センサの出力信号に基づいてステアリングアクチュエータがフィードフォワード制御される。したがって、舵角センサの出力信号に異常があるときでも、操舵操作子を操作することにより、ステアリングアクチュエータによって転舵装置を作動させることができ、それによって、舵角を変化させることができる。こうして、舵角センサの出力信号に異常が生じたときでも、操舵操作子の操作による操舵機能を保持することができる。
【0010】
転舵装置を手動で、すなわちステアリングアクチュエータの駆動力を用いることなく作動させる手動機構を備えることにより、舵角センサの出力信号に異常が生じたときでも舵角を変化させることができる。操舵操作子と転舵装置との間に機械的な結合を持たない(SBW(ステアバイワイヤ)システムにおいては、緊急時に備えて、手動で転舵装置を作動できる設計が望ましい。しかし、緊急時用の手動機構は、操舵操作子を用いる通常時の操作に比較すると、多くの労力を要する。上記の実施形態の構成によれば、舵角センサの出力信号に異常が生じても、操舵操作子の操作に応じて制御されるステアリングアクチュエータの動力を利用する操舵機能が保持される。それにより、手動機構を用いるよりも少ない労力で、船舶を操舵できる。
【0011】
一つの実施形態では、前記操作量センサは、前記操舵操作子の操作速度(単位時間あたりの操作量)を検出する。
【0012】
一つの実施形態では、前記ステアリングコントローラは、前記舵角センサの出力信号および前記操作量センサの出力信号に基づいて前記目標舵角を演算し、前記異常が検出されると、前記目標舵角の演算を中止する。
【0013】
この構成によれば、舵角センサの出力信号に異常が検出されなければ、ステアリングコントローラは舵角センサおよび操作量センサの出力信号に基づいて目標舵角を演算する。したがって、操舵操作子の操作に応じて演算される目標舵角を用いたフィードバック制御によってステアリングアクチュエータを制御できる。それにより、操舵操作子の操作に応じて転舵装置を作動させ、舵角を変化させることができる。舵角センサの出力信号の異常が検出されれば、目標舵角の演算は中止され、操作量センサの出力信号を用いるフィードフォワード制御が有効になり、操舵操作子の操作による操舵機能が保持される。
【0014】
ステアリングコントローラには、外部から目標舵角が指令されてもよい。外部から目標舵角が指令されるとき、ステアリングコントローラは、操作量センサの出力信号に基づく目標舵角ではなく、外部から指令される目標舵角を用いて、ステアリングアクチュエータをフィードバック制御してもよい。操船システムが複数の制御モードを有する場合に、ステアリングコントローラは、制御モードに応じて、内部で演算される目標舵角および外部から指令される目標舵角のいずれかを選択することが好ましい。また、ステアリングコントローラは、外部から目標舵角が指令される制御モードのときには、操作量センサの出力信号に基づく目標舵角の演算を中止してもよい。
【0015】
一つの実施形態では、前記操舵操作子は、操作領域端のない(無限の回転操作領域を有する)ステアリングホイールを含む。
【0016】
この構成により、舵角センサの出力信号に異常が生じても、ステアリングホイールの操作に応じてステアリングアクチュエータをフィードフォワード制御して転舵装置を作動させることができる。したがって、ステアリングホイールの操作による操舵機能が保持される。
【0017】
ステアリングホイールと転舵装置との間に機械的な結合がないSBWシステムにおいては、ステアリングホイールは無限の回転操作領域を有する設計とすることができ、その操作領域に端が存在しない構成とすることができる。それにより、操船システムが作動開始したときのステアリングホイールの位置を初期位置として制御動作を開始できる。この場合、ステアリングホイールの絶対的な回転位置に実質的な意味はなく、その初期位置からの操作量や単位時間あたりの操作量(すなわち操作速度)に意味がある。したがって、ステアリングホイールの絶対的な回転位置を検出するセンサではなく、ステアリングホイールの操作量を検出する操作量センサが用いられる。このような操作量センサを用いながら、舵角センサの出力信号に異常が生じても、ステアリングホイールの操作による操舵機能を維持することができる。
【0018】
一つの実施形態では、前記操船システムは、前記ステアリングホイールの回転を規制する回転規制装置(具体的にはブレーキ装置)と、前記回転規制装置を制御するヘルムコントローラと、をさらに含む。前記ステアリングコントローラは、前記異常がなければ、前記転舵装置の舵角に関する舵角情報を前記ヘルムコントローラに送信する。前記ヘルムコントローラは、前記舵角情報に基づき前記転舵装置の舵角が転舵端に相当するときに、前記回転規制装置を作動させて前記ステアリングホイールの回転を規制する。
【0019】
前記舵角情報は、転舵装置の舵角が転舵端に相当する値かどうかを表す情報であってもよい。たとえば、目標舵角または舵角センサが検出する舵角が転舵装置の転舵端に相当する値であるときに、ステアリングコントローラは、そのことを表す舵角情報をヘルムコントローラに与えてもよい。このような舵角情報は、回転規制装置を作動すべきことを表す作動指令(ヘルムロック指令)であってもよい。
【0020】
また、前記舵角情報は、目標舵角または舵角センサが検出する舵角の値を表す情報であってもよい。この場合、ヘルムコントローラは、舵角情報が転舵装置の転舵端に相当する値であるときに、回転規制装置を作動させればよい。
【0021】
上記の構成により、舵角センサの出力信号に異常がなければ、転舵装置の舵角が転舵端に到達すると、回転規制装置が作動してステアリングホイールの回転を規制する。それにより、ステアリングホイールの操作者は、ステアリングホイールからの触覚フィードバックにより、舵角が転舵端に達したことを認識できる。舵角センサの出力信号に異常があるときには、転舵端を適切に検出できないので、ステアリングコントローラは舵角情報をヘルムコントローラに送信しない。この場合、回転規制装置を作動させることはできないが、ステアリングホイールの操作による操舵機能を保持することができる。
【0022】
一つの実施形態では、前記ヘルムコントローラは、前記異常が生じているときは、前記回転規制装置を作動させず、前記ステアリングホイールの無限回転を許容する。
【0023】
この構成により、舵角センサの出力信号に異常が生じているときに回転規制装置によってステアリングホイールの回転が規制されることがないので、ステアリングホイールの操作による操舵機能を保持できる。
【0024】
前記ヘルムコントローラは、前記異常の発生の通知を受けて、前記回転規制装置の制御を中止し、それによって、前記ステアリングホイールの無限回転を許容するように構成されていてもよい。
【0025】
また、前記ヘルムコントローラは、ステアリングコントローラからの舵角情報に基づいて回転規制装置を制御するので、前記舵角情報が与えられないときには、前記回転規制装置を作動させないように構成されていてもよい。ステアリングコントローラは、前記異常を検出すると舵角情報をヘルムコントローラに供給しないので、結果として、ヘルムコントローラは、異常発生時には回転規制装置を作動させず、前記ステアリングホイールの無限回転を許容することになる。
【0026】
一つの実施形態では、前記操船システムは、前記ステアリングホイールの操作によらない操船モードにおいて目標舵角を生成して前記ステアリングコントローラに供給するメインコントローラをさらに含む。前記メインコントローラは、前記ステアリングコントローラから前記異常が通知されると、前記ステアリングホイールの操作による通常操船モードに遷移し、前記目標舵角の生成を中止する。
【0027】
この構成によれば、舵角センサの異常検出に関する情報がメインコントローラと共有され、舵角センサの出力信号の異常の有無に応じて、メインコントローラは、制御モードの遷移、ならびに目標舵角の生成およびその中止を適切に行える。とくに、ステアリングホイールの操作によらない操船モードにおいて舵角センサの出力信号に異常が生じると、ステアリングホイールの操作によって操船するための通常操船モードへの自動遷移が生じる。それにより、使用者は、その後の操船をステアリングホイールの操作によって行うことができる。
【0028】
舵角センサの出力信号に異常が生じたことは、適切な報知装置によって、使用者に対する報知が行われることが好ましい。それにより、使用者は、異常が発生したことを認識して、ステアリングホイールによる操船を開始できる。
【0029】
一つの実施形態では、前記ステアリングホイールの操作によらない操船モードは、前記メインコントローラがジョイスティックの操作に応答して目標舵角を生成するジョイスティックモードおよび自動操船モードのうちの少なくとも一つを含む。
【0030】
この構成によれば、ジョイスティックモード等の操船モードのときに舵角センサの出力信号に異常が生じると通常操船モードに自動遷移する。それにより、使用者は、ステアリングホイールの操作による操舵へとスムーズに移行できる。
【0031】
一つの実施形態では、前記ステアリングコントローラは、前記フィードフォワード制御において、前記操作量センサによって検出される操作量に対応して前記転舵装置の舵角が変化するように、前記ステアリングアクチュエータを制御する。
【0032】
この構成により、フィードフォワード制御によってステアリングアクチュエータを作動させ、操舵操作子の操作量に応じて舵角を変化させることができる。
【0033】
一つの実施形態では、前記ステアリングアクチュエータは、油圧シリンダと、前記油圧シリンダに作動油を供給する電動ポンプとを有する油圧アクチュエータを含む。
【0034】
このほか、ステアリングアクチュエータは、電動モータと、電動モータによって駆動されるボールねじ機構とを有する構成であってもよい。
【0035】
一つの実施形態では、前記転舵装置は、船体に取り付けられる船外機を転舵させる。
【0036】
この構成により、船外機を転舵させる構成の操船システムにおいて、舵角センサの出力信号に異常が生じたときでも、操舵操作子の操作による操舵機能を保持できる。
【0037】
この発明の一実施形態は、船舶の操舵のために操作者によって操作される操舵操作子と、
前記操舵操作子の操作量を検出する操作量センサと、ステアリングアクチュエータを含み、舵角を変化させる転舵装置と、前記舵角を検出する舵角センサと、前記操作量センサの出力信号および前記舵角センサの出力信号に応じて前記ステアリングアクチュエータを制御するステアリングコントローラと、を含む、操船システムを提供する。前記ステアリングコントローラは、前記舵角センサの出力信号に基づいて目標舵角を達成するように前記ステアリングアクチュエータをフィードバックするフィードバックモードと、前記操作量センサの出力信号に基づいて前記ステアリングアクチュエータをフィードフォワード制御するフィードフォワードモードと、を有する。
【0038】
この構成によれば、舵角センサの出力信号を利用できないときでも、操作量センサの出力信号に基づくフィードフォワード制御によってステアリングアクチュエータを作動させ、転舵装置の舵角を変化させることができる。それにより、操舵操作子の操作による操舵機能を保持できる。
【0039】
この発明の一実施形態は、船体と、前記船体に装備される前記操船システムと、を含む、船舶を提供する。
【発明の効果】
【0040】
この発明によれば、操舵操作子の操作量を検出する操作量センサを備える操船システムまたはこのような操船システムを備える船舶において、舵角センサの出力信号を利用できないときにも操舵機能を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、この発明の一実施形態に係る操船システムを搭載した船舶の構成例を示す平面図である。
【
図2】
図2は、操船システムの構成例を説明するための図である。
【
図3】
図3は、転舵装置の構成例を説明するための図である。
【
図4】
図4は、ステアリングコントローラの構成例を説明するためのブロック図である。
【
図5】
図5は、ステアリングコントローラによる処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0043】
図1は、この発明の一実施形態に係る操船システム100を搭載した船舶1の構成例を示す平面図である。船舶1は、船体2と、推進機の一例である船外機OMとを備えている。船外機OMは、船体2の船尾3に取り付けられている。船外機OMを左右に転舵するために、転舵装置STGが船尾3に設けられている。転舵装置STGは、船外機OMが発生する推進力の方向を左右に変化させる機構であり、船外機OMのボディを船体2に対して左右に旋回(転舵)させ、それによって、船舶1の針路変更のために、舵角を変化させる。舵角は、この実施形態では、船外機OMの推進力が船体2の前後方向に対してなす角によって定義される。端的には、平面視において船体2の前後方向に沿う中心線2aに対して船外機OMの推進力の方向がなす角が舵角である。
【0044】
船体2の内部には、乗船者のための居住空間4が確保されている。居住空間4内に操船席5が設けられている。操船席5には、ステアリングホイール6、リモコンレバー7、ジョイスティック8、ゲージ9(表示パネル)などが設けられている。ステアリングホイール6は、船舶1の針路を変更するために使用者によって操作される操舵操作子の一例である。リモコンレバー7は、船外機OMの推進力の大きさ(出力)およびその方向(前進または後進)を変更するために使用者によって操作される操作子であり、アクセル操作子に相当する。ジョイスティック8は、ステアリングホイール6およびリモコンレバー7の代わりに、操船のために使用者によって操作される操作子である。ジョイスティック8は、操舵操作子の他の例でもある。ゲージ9は、操船のための情報を表示するための表示装置であり、報知装置の一例である。
【0045】
図2は、船舶1に備えられる操船システム100の構成例を説明するための図である。
【0046】
船外機OMは、エンジン船外機または電動船外機のいずれの形態であってもよい。
図2には、エンジン船外機の例を示す。船外機OMは、船外機コントローラ(電子制御ユニット)21、エンジン23、シフト機構24、プロペラ20、発電機30などを備えている。発電機30は、エンジン23によって駆動される。発電機30は、船外機OMの電装品に電力を供給するほか、船体2(
図1参照)に搭載されるバッテリ15を充電する。
【0047】
エンジン23が発生する動力は、シフト機構24を介してプロペラ20に伝達される。シフト機構24は、前進位置、後進位置およびニュートラル位置のうちのいずれかのシフト位置を選択可能に構成されている。シフト位置が前進位置のとき、エンジン23の回転が伝達されることによってプロペラ20が正転方向に回転し、船外機OMは前進方向に推進力を発生する前進運転状態となる。シフト位置が後進位置のとき、エンジン23の回転が伝達されることによってプロペラ20が逆転方向に回転し、船外機OMは後進方向に推進力を発生する後進運転状態となる。シフト位置がニュートラル位置のとき、エンジン23とプロペラ20との間の動力伝達が遮断され、船外機OMはアイドリング状態となる。
【0048】
船外機OMは、さらに、スロットルアクチュエータ27およびシフトアクチュエータ28を備えており、これらは船外機コントローラ21によって制御される。スロットルアクチュエータ27は、エンジン23のスロットルバルブ(図示せず)を作動させる電動アクチュエータ(典型的には電動モータを含む。)である。シフトアクチュエータ28は、シフト機構24を作動させるためのアクチュエータ(典型的には電動モータを含む。)である。
【0049】
転舵装置STGは、ステアリングコントローラ22と、ステアリングアクチュエータ25とを備えている。ステアリングコントローラ22は、ステアリングアクチュエータ25を駆動する。ステアリングアクチュエータ25は、転舵装置STGの駆動源であり、典型的には、電動モータを含む。ステアリングアクチュエータ25は、電動モータによって駆動されるボールねじ機構を有していてもよい。また、ステアリングアクチュエータ25は、電動モータによって駆動されるポンプ(電動ポンプ)によって作動油が供給される油圧シリンダを有する油圧アクチュエータであってもよい。
【0050】
転舵装置STGは、この実施形態では、船外機OMとは別のユニットとして構成され、船尾3に取り付けられている。しかし、転舵装置STGは、船外機OMと一体化され、船外機OMに組み込まれていてもよい。また、転舵装置STGの一部分(たとえばステアリングコントローラ22)が船外機OMのボディ内に組み込まれていてもよい。転舵装置STGには、舵角を検出するための舵角センサ29が組み込まれている。舵角センサ29は、ステアリングアクチュエータ25の可動部の位置を検出する位置センサで構成されていてもよい。また、舵角センサ29は、ステアリングアクチュエータ25の駆動力を船外機OMに伝達するリンク機構(図示せず)の可動部の位置を検出する位置センサで構成されていてもよい。それにより、舵角センサ29は、船外機OMの舵角に対応する信号を出力する。位置センサは、ホール素子およびマグネットで構成した非接触型磁気センサであってもよい。
【0051】
ステアリングホイール6は、回転軸線まわりに回転操作可能に構成されている。ステアリングホイール6は、操作領域端がなく、無限回転操作領域を有する操舵操作子である。ステアリングホイール6に関連して、その回転操作の速度(操作速度)を検出する操作速度センサ12が設けられている。操作速度センサ12は、ステアリングホイール6の操作量を検出する操作量センサの一例であり、単位時間当たりの操作量を操作速度として検出し、その操作速度を表す信号を発生する。操作速度センサ12の出力信号は、ヘルムコントローラ16に入力される。ステアリングホイール6の回転軸に関連して、ステアリングホイール6の回転を規制する回転規制装置としてのブレーキ装置13(典型的には電磁ブレーキ装置)が設けられている。ブレーキ装置13は、ヘルムコントローラ16によって制御され、ステアリングホイール6の回転軸の回転を規制し、それによって、ステアリングホイール6の回転を規制する。
【0052】
前述のとおり、ステアリングホイール6は無限回転操作領域を有しており、右方向および左方向に無限に回転操作することができる。一方、船外機OMの転舵範囲には機械的な制約があるので、右転舵端および左転舵端が存在する。そこで、ヘルムコントローラ16は、船外機OMの舵角が右転舵端または左転舵端に相当するときに、ブレーキ装置13を作動させ、ステアリングホイール6の回転を規制する。それにより、ステアリングホイール6を操作する使用者は、ステアリングホイール6からの触覚フィードバックによって、船外機OMの舵角が転舵端に達したことを知ることができる。なお、転舵装置STGによって船外機OMが転舵される範囲の右転舵端および左転舵端は、船外機OMの機械的な転舵限界よりも内側(舵角中立位置寄り)に設定される場合がある。
【0053】
リモコンレバー7は、リモコンユニット17に回動操作可能に設けられている。リモコンユニット17は、リモコンレバー7の操作位置を検出する操作位置センサ19を有している。操作位置センサ19の出力信号は、リモコンECU51(電子制御ユニット)に入力されている。
【0054】
船外機コントローラ21およびステアリングコントローラ22は、船外機制御ネットワーク56に接続されている。船外機制御ネットワーク56には、さらに、ヘルムコントローラ16およびリモコンECU51が接続されている。
【0055】
ヘルムコントローラ16は、操作速度センサ12によって検出される操作速度を船外機制御ネットワーク56を介してステアリングコントローラ22に供給する。ステアリングコントローラ22は、ヘルムコントローラ16から与えられる操作速度に応じて、ステアリングアクチュエータ25を制御する。ステアリングコントローラ22は、舵角センサ29が検出する船外機OMの舵角または後述する目標舵角を船外機制御ネットワーク56に送出してもよい。ステアリングコントローラ22は、船外機OMの舵角が転舵端に到達すると、ヘルムコントローラに対して、ヘルムロック指令を与えてもよい。ヘルムコントローラ16は、ステアリングコントローラ22からヘルムロック指令を受けると、ブレーキ装置13を作動させ、ステアリングホイール6の回転を規制する。
【0056】
ステアリングコントローラ22は、たとえば、後述する目標舵角が転舵端に相当する値になると、ヘルムコントローラ16にヘルムロック指令を与えてもよい。また、ステアリングコントローラ22は、舵角センサ29によって検出される舵角(実舵角)が転舵端に相当する値になると、ヘルムコントローラ16にヘルムロック指令を与えてもよい。ヘルムロック指令は、船外機OMの舵角が転舵端に相当することを表す舵角情報の一例である。
【0057】
ステアリングコントローラ22がヘルムロック指令を送出する代わりに、ヘルムコントローラ16が、船外機制御ネットワーク56に表れる目標舵角または実舵角に応じて、ブレーキ装置13を作動させてもよい。すなわち、ヘルムコントローラ16は、目標舵角または実舵角が転舵端に相当する値になると、ブレーキ装置13を作動させて、ステアリングホイール6の回転を規制するように構成されていてもよい。
【0058】
リモコンECU51は、操作位置センサ19によって検出されるリモコンレバー7の位置に応じて、推進力指令を生成し、船外機制御ネットワーク56を介して船外機コントローラ21に供給する。推進力指令はシフト指令および出力指令を含む。船外機コントローラ21は、シフト指令に基づいてシフトアクチュエータ28を制御し、シフト機構24のシフト位置を制御する。また、船外機コントローラ21は、出力指令に基づいてスロットルアクチュエータ27を制御し、それによって、エンジン23の出力(回転速度)を制御する。
【0059】
リモコンECU51には、船内ネットワーク55(CAN:コントロールエリアネットワーク)を介して、メインコントローラ50が接続されている。メインコントローラ50に、ジョイスティックユニット18が接続されている。ジョイスティックユニット18は、前後左右(すなわち、360度の全方位)に傾倒させる操作と、軸まわりに回す(ツイストする)操作とが可能なジョイスティック8を備えている。図示は省略するが、ジョイスティックユニット18は、ジョイスティック8の傾倒操作方向および傾倒操作量を検出する傾倒センサと、ジョイスティック8の回動操作方向および回動操作量を検出する回動センサとを備えている。傾倒センサは、ジョイスティック8の前後方向傾倒成分を検出する前後方向成分センサと、ジョイスティック8の左右方向傾倒成分を検出する左右方向成分センサとを含む。傾倒センサおよび回動センサの検出値はメインコントローラ50に入力される。
【0060】
ジョイスティックユニット18は、この例では、さらに、複数の操作ボタンを備えている。複数の操作ボタンは、ジョイスティックボタン180および保持モード設定ボタン181~183を含む。ジョイスティックボタン180は、ジョイスティック8を用いる制御モード(操船モード)、すなわち、ジョイスティックモードを選択するときに操船者によって操作される操作子である。保持モード設定ボタン181~183は、位置/方位保持系の制御モード(自動操船モードの一例)を設定するために使用者によって操作される操作ボタンである。より具体的には、保持モード設定ボタン181は、船舶の位置および船首方位(または船尾方位)を保持する定点保持モード(Stay Point)を設定するために操作される。保持モード設定ボタン182は、船舶の位置を保持し船首方位(または船尾方位)は保持しない位置保持モード(Fish Point)を設定するために操作される。保持モード設定ボタン183は、船首方位(または船尾方位)を保持し位置の保持は行わない方位保持モード(Drift Point)を設定するために操作される。
【0061】
船内ネットワーク55には、さらに、GPS(Global Positioning System)受信機52、方位センサ53、アプリケーションスイッチパネル60などが接続されている。GPS受信機52は、位置検出装置の一例であり、地球を周回する人工衛星からの電波を受信して船舶1の位置を特定し、船舶1の位置を表す位置データと、船舶1の移動速度を表す速度データとを出力する。これらのデータは、メインコントローラ50によって取得され、船舶1の位置および/または方位の表示や制御のために用いられる。方位センサ53は、船舶1の方位を検出して、方位データを生成する。その方位データはメインコントローラ50によって利用される。
【0062】
アプリケーションスイッチパネル60は、予め定義した機能の実行を指令するための複数のファンクションスイッチ61を含む。たとえば、ファンクションスイッチ61は、自動操船を指令するためのスイッチを含んでいてもよい。より具体的には、一つのファンクションスイッチ61は、前進中に船首方位を維持する自動操舵を行う船首保持モード(Heading Hold)を指令するために割り当てられていてもよい。また、別のファンクションスイッチ61は、前進中に船首方位を保持し、かつ直進する進路を保持する自動操舵を行う直進保持モード(Course Hold)を指令するために割り当てられていてもよい。さらに別のファンクションスイッチ61は、指定した複数の通過点を順に通る経路(ルート)に従って航行させる自動操舵を行う通過点追従モード(Track Point)を指令するために割り当てられていてもよい。さらに別のファンクションスイッチ61は、所定の航走パターン(ジグザグパターン、スパイラルパターンなど)に従って航走させる自動操舵を行うパターン航走モード(Pattern Steer)を指令するために割り当てられていてもよい。これらのモードは、自動操船モードの例である。
【0063】
船内ネットワーク55には、さらに、ゲージ9が接続されている。ゲージ9は、操船のための各種情報を表示するための表示装置である。ゲージ9は、たとえば、メインコントローラ50、リモコンECU51等と通信可能である。それにより、ゲージ9は、船外機OMの運転状態、船舶1の位置および/または方位などの情報を表示することができる。ゲージ9には、タッチパネルやボタン等の入力装置10が備えられていてもよい。使用者が入力装置10を操作することにより、操作信号が船内ネットワーク55に送出され、様々な設定や指令が行えるようになっていてもよい。ゲージ9に関連する表示制御信号を伝達するために、船内ネットワーク55とは別のネットワークが構築されていてもよい。
【0064】
メインコントローラ50は、プロセッサおよびメモリ(いずれも図示省略)を含み、メモリに格納されたプログラムをプロセッサが実行することによって、複数の機能を達成するように構成されている。メインコントローラ50は、複数の制御モードを有している。メインコントローラ50の制御モードは、操作系の観点からは、通常操船モード、ジョイスティックモードおよび自動操船モードに分類できる。
【0065】
通常操船モードは、ステアリングホイール6の操作に応じて転舵制御を行い、かつリモコンレバー7の操作に応じて推進力制御を行う制御モードである。この実施形態では、通常操船モードは、メインコントローラ50のデフォルト制御モードである。転舵制御とは、具体的には、ステアリングホイール6の操作に応じて操作速度センサ12が生成する操作速度信号またはリモコンECU51が生成する転舵角指令(具体的には目標舵角の指令)に応じて、ステアリングコントローラ22がステアリングアクチュエータ25を駆動させる制御動作をいう。これにより、船外機OMが左右に転舵して、船体2に対する推進力の方向が左右に変化する。推進力制御とは、具体的には、リモコンECU51が船外機コントローラに与える推進力指令(シフト指令および出力指令)に応じて、船外機コントローラ21がシフトアクチュエータ28およびスロットルアクチュエータ27を駆動させる制御動作をいう。これにより、船外機OMのシフト位置が前進位置、後進位置またはニュートラル位置に設定され、かつエンジン出力(具体的にはエンジン回転速度)が変化する。
【0066】
ジョイスティックモードは、ジョイスティック8の操作信号に応じて転舵制御および推進力制御を行う制御モードである。ジョイスティックモードでは、ジョイスティック8の操作に応じて転舵制御および推進力制御が行われる。すなわち、メインコントローラ50は、ジョイスティック8の操作に応じて、リモコンECU51に転舵角指令および推進力指令を与え、リモコンECU51はそれらをステアリングコントローラ22および船外機コントローラ21に与える。
【0067】
自動操船モードは、ステアリングホイール6、リモコンレバー7およびジョイスティック8の操作によることなく、メインコントローラ50等の働きによって、転舵制御および/または推進力制御を自動で行う制御モードである。すなわち、自動操船が行われる。自動操船には、航走時に使用される航走系の自動操船と、位置および方位の一方または両方を維持する位置/方位保持系の自動操船とがある。航走系の自動操船の例は、ファンクションスイッチ61の操作によって指令される前述の自動操舵である。位置/保持系の自動操船は、保持モード設定ボタン181~183の操作によって指令される、定点保持モード、位置保持モードおよび方位保持モードによる操船を含む。このような自動操船モードにおいて、メインコントローラ50は、GPS受信機52が生成する位置情報および/または方位センサ53が生成する方位情報を利用して、転舵角指令および推進力指令を生成する。自動操船モードにおいても、ジョイスティックモードの場合と同じく、メインコントローラ50は、リモコンECU51に転舵角指令および推進力指令を与え、リモコンECU51は、それらをステアリングコントローラ22および船外機コントローラ21に与える。
【0068】
ジョイスティックモードおよび自動操船モードにおいては、ヘルムコントローラ16は、操作速度センサ12の出力を船外機制御ネットワーク56に供給しなくてもよい。あるいは、ステアリングコントローラ22は、リモコンECU51から転舵角指令が与えられるときには、ヘルムコントローラ16が船外機制御ネットワーク56に送出する操作速度信号に応答しないようにプログラムされていてもよい。
【0069】
図3は、転舵装置STGの構成例を説明するための図である。転舵装置STGは、この例では、油圧式の転舵装置である。転舵装置STGは、油圧ポンプ45と、油圧ポンプ45を駆動する電動モータMと、油圧シリンダ40と、油圧ポンプ45と油圧シリンダ40との間で作動油を流動させる油圧回路46とを含む。油圧シリンダ40は、複動式シリンダであり、シリンダチューブ47と、シリンダチューブ47内に設けられたピストン43と、ピストン43に固定されその両側に延びたピストンロッド44とを含む。
【0070】
シリンダチューブ47およびピストンロッド44は左右方向に延びている。ピストンロッド44の両端部は、船外機OMのスイベルブラケット33に結合されている。シリンダチューブ47内の空間は、ピストン43によって右シリンダ室41および左シリンダ室42に区画されている。シリンダチューブ47は、船外機OMのステアリングアーム34に連結されている。シリンダチューブ47は、ピストンロッド44に案内されて左右に移動可能であり、それにより、船外機OMのステアリングアーム34を左右に移動させ、船外機OMをステアリング軸35まわりに左右に旋回(転舵)させる。
【0071】
油圧回路46は、右シリンダ室41および左シリンダ室42に接続されている。電動モータMは正逆回転可能に構成されており、その回転方向に応じて、油圧ポンプ45が、2つのシリンダ室41,42の一方に作動油を送り込む。それにより、そのシリンダ室の容積が大きくなり、他方のシリンダ室の容積が小さくなるように、シリンダチューブ47が左右に移動する。
【0072】
電動モータMおよび油圧ポンプ45により、電動ポンプが構成されている。また、電動モータM、油圧ポンプ45、油圧回路46および油圧シリンダ40によって、油圧アクチュエータからなるステアリングアクチュエータ25が構成されている。舵角センサ29は、シリンダチューブ47の左右方向の位置を検出してもよい。また、舵角センサ29は、ステアリングアーム34の回転位置を検出してもよい。それによって、舵角センサ29は、船外機OMの舵角を検出する。
【0073】
油圧回路46には、左右のシリンダ室41,42の間を連通させるバイパス油路46aと、そのバイパス油路46aを開閉するためのリリーフバルブ46bとが設けられていることが好ましい。リリーフバルブ46bを手動で開くことにより、左右のシリンダ室41,42がバイパス油路46aを介して連通するので、使用者は、船外機OMに外力を加えて、左右に手動で転舵させることができる。そして、所望の舵角の状態でリリーフバルブ46bを手動で閉じると、その舵角を保持することができる。こうして、リリーフバルブ46b等により、緊急時のための手動機構を構成することができる。
【0074】
図4は、ステアリングコントローラ22の構成例を説明するためのブロック図である。ステアリングコントローラ22は、処理装置65と駆動回路66とを備えている。処理装置65はプロセッサ65aおよびメモリ65bを備え、プロセッサ65aがメモリ65bに記憶されているプログラムを実行することにより複数の機能を実現するように構成されている。具体的には、処理装置65は、異常検出部67、フィードバック制御部70、フィードフォワード制御部80等の機能を有するようにプログラムされている。
【0075】
異常検出部67は、舵角センサ29の出力信号の異常を監視する処理を実行する。舵角センサ29の出力信号が異常値であることを検出することにより、舵角センサ29の異常、舵角センサ29に関連する配線の異常などを検出できる。舵角センサ29の異常は、舵角センサ29自体の異常のほか、舵角センサ29が所定の取付位置から外れてしまった場合も含む。配線の異常の典型例は、配線の断線、短絡等を含む。これらの異常は、舵角センサ29の出力信号を監視することによって検出することができる。具体的には、舵角センサ29の出力信号が所定範囲外の値をとる場合には、舵角センサ29自体に異常が生じていたり、配線に異常が生じていたりする可能性がある。また、ステアリングアクチュエータ25を駆動する制御信号が発生されているにもかかわらず、舵角センサ29の出力信号が変化しない場合には、舵角センサ29が所定の取付位置から外れている可能性がある。
【0076】
フィードバック制御部70は、目標舵角を達成するように舵角センサ29の出力信号に基づいてステアリングアクチュエータ25(より具体的には電動モータM)をフィードバック制御する。フィードフォワード制御部80は、操作速度センサ12の出力信号(操作速度信号)に基づいてステアリングアクチュエータ25(より具体的には電動モータM)をフィードフォワード制御する。異常検出部67が舵角センサ29の出力信号の異常を検出していなければ、フィードバック制御部70が有効化され、異常検出部67が舵角センサ29の出力信号の異常を検出していると、フィードフォワード制御部80が有効化される。
【0077】
フィードバック制御部70は、目標舵角演算部71、偏差演算部72、PID(比例積分微分)制御部73、およびPWM(パルス幅変調)信号生成部74としての機能を有する。目標舵角演算部71は、ヘルムコントローラ16から与えられる操作速度信号に基づいて、目標舵角を演算する。具体的には、操作速度信号を積算して目標舵角を演算する。積算のための初期値には、舵角センサ29によって検出される舵角が用いられる。偏差演算部72は、舵角センサ29によって検出される舵角(実舵角)の目標舵角に対する偏差を演算する。用いられる目標舵角は、目標舵角演算部71によって演算される目標舵角である場合と、リモコンECUから与えられる転舵角指令に含まれる目標舵角の場合とがある。PID制御部73は、偏差演算部72によって求められる偏差に対して比例積分微分演算を行って、偏差を減少させるための制御値を生成する。その制御値に応じたデューティ比のPWM信号がPWM信号生成部74によって生成される。PWM信号生成部74によって生成されるPWM信号によって駆動回路66が駆動される。
【0078】
駆動回路66は、船外機OMに備えられる発電機30によって充電されるバッテリ15(
図2を併せて参照)に接続されたH型ブリッジ回路で構成されている。より具体的には、上アームスイッチング素子U1,U2および下アームスイッチング素子L1,L2の直列回路が2組設けられており、この2組の直列回路がバッテリ15に対して並列に接続されている。スイッチング素子U1,U2,L1,L2は、典型的には、パワートランジスタ等の半導体スイッチである。第1の直列回路を構成する一対のスイッチング素子U1,L1の間の接続点N1と、第2の直列回路を構成する一対のスイッチング素子U2,L2の間の接続点N2とに、電動モータMの一対の端子がそれぞれ接続されている。電動モータMは、たとえば、DCモータ(直流モータ)である。PWM信号生成部74によって生成されるPWM信号によって、各スイッチング素子U1,U2,L1,L2がスイッチングされることにより、PWM信号のデューティ比に応じた電圧が電動モータMに印加される。
【0079】
たとえば、電動モータMを正転方向に駆動するときには、第1の直列回路の下アームスイッチング素子L1および第2の直列回路の上アームスイッチング素子U2はオフ状態に維持される。そして、第1の直列回路の上アームスイッチング素子U1および第2の直列回路の下アームスイッチング素子L2がPWM信号によってオン/オフされる。また、電動モータMを逆転方向に駆動するときには、第1の直列回路の上アームスイッチング素子U1および第2の直列回路の下アームスイッチング素子L2をオフ状態に維持する。そして、第1の直列回路の下アームスイッチング素子L1および第2の直列回路の上アームスイッチング素子U2がPWM信号によってオン/オフされる。
【0080】
こうして、実舵角の目標舵角に対する偏差(舵角偏差)に応じたデューティ比のPWM信号によって駆動回路66が駆動されることにより、舵角偏差を減少させる電圧が電動モータMに印加され、それによって、船外機OMを目標舵角へと導くことができる。すなわち、舵角センサ29によって検出される実舵角を目標舵角へと導くように、ステアリングアクチュエータ25のフィードバック制御が実行される。
【0081】
フィードフォワード制御部80は、操作速度センサ12によって検出される操作速度に対応して舵角が変化するようにステアリングアクチュエータ25を制御する。より具体的には、操作速度に対応する舵角変化量を達成するように、ステアリングアクチュエータ25が制御される。舵角センサ29の出力信号は用いられない。
【0082】
フィードフォワード制御部80は、舵角変化量演算部81と、PWM信号生成部82とを有する。舵角変化量演算部81は、操作速度センサ12によって検出される操作速度に対応する舵角変化量を演算する。舵角変化量演算部81は、たとえばPID(比例積分微分)演算によって舵角変化量を演算してもよい。PWM信号生成部82は、舵角変化量演算部81によって演算された舵角変化量に対応するデューティ比のPWM信号を発生する。PWM信号生成部82によって生成されるPWM信号によって駆動回路66が駆動される。駆動回路66の構成および動作は前述のとおりである。したがって、操作速度に応じたデューティ比のPWM信号によって駆動回路66が駆動されることにより、ステアリングホイールの操作速度に応じた電圧が電動モータMに印加され、それによって、船外機OMをステアリングホイール6の操作に応じて転舵させることができる。すなわち、舵角センサ29の出力信号を用いることなく、ステアリングアクチュエータ25(電動モータM)がフィードフォワード制御される。
【0083】
駆動回路66から電動モータMに供給される電流(モータ電流)を検出するための電流センサ68(電流検出回路)が設けられている。電流センサ68の出力信号は処理装置65に入力されている。処理装置65は、電流センサ68の出力信号に基づいてモータ電流を検出できる。処理装置65は、モータ電流を監視し、必要に応じてPWM信号のデューティ比を制限して、電動モータMに印加される電圧を制限してもよい。
【0084】
図5は、ステアリングコントローラ22による処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【0085】
ステアリングコントローラ22は、舵角センサ29の出力信号の異常を監視する異常検出処理を実行する(ステップS1。異常検出部67の機能)。
【0086】
舵角センサ29の出力信号に異常が生じていなければ(ステップS2:NO)、ステアリングコントローラ22は、フィードバック制御部70を有効化(フィードフォワード制御部80は無効化)してフィードバックモードとなる(ステップS3)。したがって、ステアリングコントローラ22は、舵角センサ29の出力信号に基づいて目標舵角を達成するように、ステアリングアクチュエータ25をフィードバック制御する。
【0087】
ステアリングコントローラ22は、フィードバック制御中は、ヘルムコントローラ16から与えられる操作速度を積算することによって、ステアリングホイール6の操作に対応する目標舵角を演算する。ステアリングコントローラ22は、リモコンECU51から転舵角指令(目標舵角を含む)が与えられるときには、目標舵角の演算を中止してもよい。
【0088】
さらに、ステアリングコントローラ22は、目標舵角が転舵端に相当する値かどうかを判断する(ステップS4)。目標舵角が転舵端の値であれば(ステップS4:YES)、ステアリングコントローラ22は、ヘルムコントローラ16にヘルムロック指令を送出する(ステップS5)。これにより、ヘルムコントローラ16は、ブレーキ装置13を作動させて、ステアリングホイール6の回動を規制する。目標舵角が転舵端の値でなければ(ステップS4:NO)、ステップS5の処理は省かれる。ステップS4の判断には、目標舵角の代わりに舵角センサ29によって検出される実舵角を用いてもよい。
【0089】
一方、舵角センサ29の出力信号に異常が生じていると(ステップS2:YES)、ステアリングコントローラ22は、フィードフォワード制御部80を有効化(フィードバック制御部70は無効化)してフィードフォワードモードとなる(ステップS6)。したがって、ステアリングコントローラ22は、操作速度センサ12の出力信号に基づいてステアリングアクチュエータ25をフィードフォワード制御する。この場合、ステアリングコントローラ22は、操作速度の積算による目標舵角の演算は行わない。
【0090】
舵角センサ29の出力信号の異常が検出されると、ステアリングコントローラ22は、船外機制御ネットワーク56を介してヘルムコントローラ16およびリモコンECUに異常発生を通知する(ステップS7)。この通知は、ゲージ9およびメインコントローラ50にも伝達される。ゲージ9には、異常発生が表示され、使用者に対する報知が行われる。
【0091】
メインコントローラ50は、異常発生の通知を受けると、制御モードを通常操船モードとする。すなわち、異常発生の通知を受けたときの制御モードが通常操船モード以外(ジョイスティックモード、自動操船モード等)であれば、制御モードを通常操船モードに切り替える。異常発生の通知を受けたときの制御モードが通常操船モードであれば、そのまま通常操船モードが維持される。
【0092】
ヘルムコントローラ16は、舵角センサ29の出力信号の異常が通知されていなければ、ステアリングコントローラ22から与えられる舵角情報(たとえばヘルムロック指令)に基づいて、ブレーキ装置13を制御する。すなわち、転舵装置STGの舵角(目標舵角または実舵角)が転舵端に相当するときに、ブレーキ装置13を作動させてステアリングホイール6の回転を規制する。ヘルムコントローラ16は、舵角センサ29の出力信号の異常が通知されると、ブレーキ装置13に対する制御を中止する。すなわち、ヘルムコントローラ16は、ブレーキ装置13を作動させず、ステアリングホイール6の無限回転を許容する。
【0093】
なお、ヘルムコントローラ16は、ステアリングコントローラ22から与えられる舵角情報(たとえばヘルムロック指令)に基づいてブレーキ装置13を制御するので、異常発生によって舵角情報が供給されなければブレーキ装置13を作動させることはない。したがって、舵角センサ29の異常の通知に基づくブレーキ装置13の制御中止の処理は、省かれてもよい。
【0094】
このように、この実施形態によれば、ステアリングコントローラ22は、舵角センサ29の出力信号の異常を監視する。ステアリングコントローラ22は、異常がなければ、舵角センサ29の出力信号に基づいて目標舵角を達成するようにステアリングアクチュエータ25(より具体的には電動モータM)をフィードバック制御する。異常が検出されると、ステアリングコントローラ22は、操作速度センサ12が検出するステアリングホイール6の操作速度に基づいて、ステアリングアクチュエータ25(より具体的には電動モータM)をフィードフォワード制御する。こうして、舵角センサ29の出力信号に異常があるときでも、ステアリングホイール6の操作による操舵機能を保持することができる。
【0095】
緊急時に船外機OMを手動で転舵させるための手動機構は、ステアリングホイール6の操作に比較すると、ステアリングホイール6の操作による操舵に比較すると多くの労力を要する。したがって、舵角センサ29の出力信号に異常が生じてもステアリングホイール6の操作による操舵機能が保持されることにより、使用者の労力を大幅に削減できる。
【0096】
ジョイスティックモードや自動操船モード中に舵角センサ29の出力信号に異常が生じると、ステアリングコントローラ22はフィードフォワードモードとなり、ステアリングコントローラ22からの通知を受けたメインコントローラ50は通常操船モードへと自動遷移する。これにより、ステアリングホイール6による操船が可能な状態へとスムーズに移行することができる。また、メインコントローラ50は、制御モードの遷移を適切に行うことができ、かつ目標舵角の生成およびその中止を適切に行える。
【0097】
また、舵角センサ29の出力信号に異常が生じると、ステアリングホイール6の回転を規制するブレーキ装置13の制御が無効になり、ステアリングホイール6の無限回転が許容される。それにより、ステアリングホイール6の操作が可能な状態を確保できるので、ステアリングホイール6の操作による操舵機能を保持できる。
【0098】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、以下に例示するとおり、この発明は、さらに他の形態で実施することができる。
【0099】
前述の実施形態では、1機の船外機OMを船体2に取り付けた構成の船舶1を示したが、2機以上の船外機を船体2に取り付けた構成の船舶に上記の実施形態が応用されてもよい。
【0100】
船外機以外の形態の推進機が用いられてもよい。具体的には、船内機、船内外機、ウォータージェット等の形態の推進機を備える船舶に上記の実施形態が応用されてもよい。
【0101】
推進機の原動機は、エンジンである必要はなく、電動モータであってもよい。
【0102】
舵角は、船外機の舵角である必要はなく、舵板の角度であってもよい。
【0103】
操舵操作子としては、ステアリングホイールの代わりにジョイスティックが用いられてもよい。
【0104】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0105】
1:船舶、2:船体、6:ステアリングホイール、8:ジョイスティック、9:ゲージ、12:操作速度センサ、13:ブレーキ装置、16:ヘルムコントローラ、22:ステアリングコントローラ、25:ステアリングアクチュエータ、29:舵角センサ、40:油圧シリンダ、45:油圧ポンプ、46a:バイパス油路、46b:リリーフバルブ、50:メインコントローラ、55:船内ネットワーク、56:船外機制御ネットワーク、65:処理装置、66:駆動回路、67:異常検出部、70:フィードバック制御部、80:フィードフォワード制御部、100:操船システム、M:電動モータ、OM:船外機、STG:転舵装置