(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101414
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】操船システムおよびそれを備える船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 25/42 20060101AFI20240722BHJP
B63H 20/00 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B63H25/42 B
B63H20/00 803
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005379
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠平
(72)【発明者】
【氏名】中西 諒
(57)【要約】
【課題】推進機を備える船舶に適した態様でステアリングアクチュエータを制御できる操船システムを提供する。
【解決手段】操船システム100は、複数の船外機OMと、複数の転舵装置STGと、複数の船外機のそれぞれの舵角を検出する複数の舵角センサ29と、複数のステアリングコントローラ22と、を含む。各ステアリングコントローラは、目標舵角を達成するように舵角センサの出力信号に基づいてステアリングアクチュエータ25をフィードバック制御する。フィードバック制御は、第1フィードバックパラメータを適用する第1モードと、第1フィードバックパラメータとは異なる第2フィードバックパラメータを適用する第2モードとを含む。ステアリングコントローラは、複数の船外機の少なくとも一つが運転中であれば第1モードでフィードバック制御を実行し、複数の船外機の全てが停止中であれば第2モードで前記フィードバック制御を実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に装備される複数の推進機と、
ステアリングアクチュエータをそれぞれ備え、前記複数の推進機の舵角をそれぞれ変化させる複数の転舵装置と、
前記複数の推進機のそれぞれの舵角を検出する複数の舵角センサと、
前記複数の転舵装置のステアリングアクチュエータをそれぞれ制御する複数のステアリングコントローラと、を含み、
各ステアリングコントローラは、目標舵角を達成するように前記舵角センサの出力信号に基づいて前記ステアリングアクチュエータをフィードバック制御し、前記フィードバック制御は、第1フィードバックパラメータを適用する第1モードと、前記第1フィードバックパラメータとは異なる第2フィードバックパラメータを適用する第2モードとを含み、
前記ステアリングコントローラは、前記複数の推進機の少なくとも一つが運転中であれば前記第1モードで前記フィードバック制御を実行し、前記複数の推進機の全てが停止中であれば前記第2モードで前記フィードバック制御を実行する、操船システム。
【請求項2】
前記ステアリングコントローラは、前記複数の推進機の少なくとも一つの運転状態が不明であれば前記第1モードで前記フィードバック制御を実行する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項3】
前記ステアリングコントローラは、通信ネットワークを介する通信によって前記複数の推進機の運転状態の情報を取得し、前記通信ネットワークに通信フェールが生じていれば前記第1モードで前記フィードバック制御を実行する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項4】
前記第2フィードバックパラメータは、前記第1モードよりも前記第2モードの方が前記ステアリングアクチュエータの応答性および転舵速度の少なくとも一つが低下するように定められている、請求項1に記載の操船システム。
【請求項5】
前記第2フィードバックパラメータは、前記第1フィードバックパラメータよりも小さい、請求項1に記載の操船システム。
【請求項6】
各推進機は、エンジンの駆動力によって推進力を発生し、
前記ステアリングコントローラは、前記複数の推進機の少なくとも一つのエンジンが運転中であれば前記第1モードで前記フィードバック制御を実行し、前記複数の推進機の全てのエンジンが停止中であれば前記第2モードで前記フィードバック制御を実行する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項7】
各推進機は、前記エンジンの駆動力によって電力を発生する発電機を含み、
前記ステアリングアクチュエータは、前記発電機が発生する電力によって充電されるバッテリから供給される電力によって作動し、
前記第2フィードバックパラメータは、前記第1モードよりも前記第2モードの方が前記ステアリングアクチュエータの消費電力が小さくなるように定められている、請求項6に記載の操船システム。
【請求項8】
船体に装備され、エンジンの駆動力によって推進力を発生する推進機と、
ステアリングアクチュエータを含み、前記推進機の舵角を変化させる転舵装置と、
前記舵角を検出する舵角センサと、
目標舵角を達成するように前記舵角センサの出力信号に基づいて前記ステアリングアクチュエータをフィードバック制御するステアリングコントローラと、を含み、
前記ステアリングコントローラは、前記エンジンの運転中には第1フィードバックパラメータを適用する第1モードで前記フィードバック制御を実行し、前記エンジンの停止中には前記第1モードよりも前記ステアリングアクチュエータの消費電力が小さくなるように定めた第2フィードバックパラメータを適用する第2モードで前記フィードバック制御を実行する、操船システム。
【請求項9】
前記推進機は、前記エンジンの駆動力によって電力を発生する発電機を含み、
前記ステアリングアクチュエータは、前記発電機が発生する電力によって充電されるバッテリから供給される電力によって作動する、請求項8に記載の操船システム。
【請求項10】
前記第2フィードバックパラメータは、前記第1フィードバックパラメータよりも小さい、請求項8に記載の操船システム。
【請求項11】
前記第2フィードバックパラメータは、前記第1フィードバックパラメータよりも前記ステアリングアクチュエータの応答性および転舵速度の少なくとも一つが低下するように定められている、請求項8に記載の操船システム。
【請求項12】
船舶に装備される推進機と、
ステアリングアクチュエータを含み、前記推進機の舵角を変化させる転舵装置と、
前記舵角を検出する舵角センサと、
目標舵角を達成するように前記舵角センサの出力信号に基づいて前記ステアリングアクチュエータをフィードバック制御するステアリングコントローラと、を含み、
前記フィードバック制御は、第1フィードバックパラメータを適用する第1モードと、前記第1フィードバックパラメータよりも小さい第2フィードバックパラメータを適用する第2モードとを含み、
前記ステアリングコントローラは、所定のモード選択基準に基づいて、前記第1モードまたは前記第2モードを選択する、操船システム。
【請求項13】
前記所定のモード選択基準は、前記ステアリングアクチュエータに電力を供給するバッテリの充放電状態に関する基準を含む、請求項12に記載の操船システム。
【請求項14】
前記所定のモード選択基準は、前記推進機の運転状態の情報に関する基準を含む、請求項12に記載の操船システム。
【請求項15】
前記操船システムは、前記推進機とは異なる他の推進機をさらに含み、
前記所定のモード選択基準は、前記他の推進機の運転状態の情報に関する基準を含む、請求項12に記載の操船システム。
【請求項16】
前記操船システムは、当該操船システム内での情報通信のためのネットワークを含み、
前記所定のモード選択基準は、前記ネットワーク内での通信状態に関する基準を含む、請求項12に記載の操船システム。
【請求項17】
船体と、
前記船体に装備される、請求項1~16のいずれか一項に記載の操船システムと、
を含む、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、操船システムおよびそれを備える船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両に適用されるステアリング装置を開示している。このステアリング装置は、ステアリングホイール、ステアリングシャフト、ラック軸等を含む。ラック軸には、第1ピニヨンシャフトに結合された第1のピニヨンギヤおよび第2ピニヨンシャフトに結合された第2ピニヨンギヤが噛合している。第1ピニヨンシャフトとステアリングシャフトとの間にクラッチが設けられており、このクラッチを接続/遮断することで、ステアリングシャフトと第1ピニヨンシャフトとの間の操舵力の伝達を接続したり遮断したりすることができる。第1ピニヨンシャフトおよび第2ピニヨンシャフトには、ウォームギヤを介して第1転舵モータおよび第2転舵モータがそれぞれ連結されている。クラッチを遮断している状態では、ステアリングホイールの操作に応じて第1転舵モータおよび/または第2転舵モータが駆動されることで車輪の転舵を達成するステアバイワイヤモードとなる。
【0003】
アイドルストップ中にステアバイワイヤを通常どおりに作動させると、バッテリの電圧が低下し、他の電気系統に影響を与えてしまう可能性がある。そこで、アイドリングストップ機能によってエンジンが停止し、かつ始動要求がないときには、第1転舵モータおよび第2転舵モータへの電流指令に対するリミッタ処理を実行し、電力消費の抑制が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、船舶に適用するためのステアリング装置に関する記載はない。また、アイドルストップ中に実行するリミッタ処理の詳細についての記載もない。
【0006】
そこで、この発明の一実施形態は、推進機を備える船舶に適した態様でステアリングアクチュエータを制御できる操船システムおよびそれを備える船舶を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一実施形態は、船体に装備される複数の推進機と、ステアリングアクチュエータをそれぞれ備え、前記複数の推進機の舵角をそれぞれ変化させる複数の転舵装置と、前記複数の推進機のそれぞれの舵角を検出する複数の舵角センサと、前記複数の転舵装置のステアリングアクチュエータをそれぞれ制御する複数のステアリングコントローラと、を含む、操船システムを提供する。各ステアリングコントローラは、目標舵角を達成するように前記舵角センサの出力信号に基づいて前記ステアリングアクチュエータをフィードバック制御する。前記フィードバック制御は、第1フィードバックパラメータを適用する第1モードと、前記第1フィードバックパラメータとは異なる第2フィードバックパラメータを適用する第2モードとを含む。前記ステアリングコントローラは、前記複数の推進機の少なくとも一つが運転中であれば前記第1モードで前記フィードバック制御を実行し、前記複数の推進機の全てが停止中であれば前記第2モードで前記フィードバック制御を実行する。
【0008】
この構成によれば、複数の推進機の舵角が複数の転舵装置によってそれぞれ変化させられる。複数の転舵装置のステアリングアクチュエータをそれぞれ制御する複数のステアリングコントローラは、舵角センサの出力信号に基づくフィードバック制御を実行する。ステアリングコントローラは、第1フィードバックパラメータを適用する第1モードと、第2フィードバックパラメータを適用する第2モードとを制御モードとして有しており、複数の推進機の運転状態に応じて第1モードまたは第2モードを適切に選択して適用する。具体的には、少なくとも一つの推進機が運転中であれば第1モードが選択され、全ての推進機が停止中であれば第2モードが選択される。このようにして、推進機を備える船舶に適した態様でステアリングアクチュエータを制御できる。
【0009】
一つの実施形態では、前記ステアリングコントローラは、前記複数の推進機の少なくとも一つの運転状態が不明であれば前記第1モードで前記フィードバック制御を実行する。
【0010】
この構成により、少なくとも一つの推進機の運転状態が不明であっても、フィードバックパラメータを決定してステアリングアクチュエータを制御できる。
【0011】
一つの実施形態では、前記ステアリングコントローラは、通信ネットワークを介する通信によって前記複数の推進機の運転状態の情報を取得し、前記通信ネットワークに通信フェールが生じていれば前記第1モードで前記フィードバック制御を実行する。
【0012】
通信ネットワークに通信フェールが生じていると少なくとも一つの推進機の運転状態が不明である可能性がある。そこで、この実施形態では、ステアリングコントローラは、通信ネットワークに通信フェールが生じているときには、第1モードで前記フィードバック制御を実行する。これにより、少なくとも一つの推進機の運転状態が不明である可能性があるときには、第1フィードバックパラメータを適用してステアリングアクチュエータを制御できる。
【0013】
一つの実施形態では、前記第2フィードバックパラメータは、前記第1モードよりも前記第2モードの方が前記ステアリングアクチュエータの応答性および転舵速度の少なくとも一つが低下するように定められている。
【0014】
この構成によれば、第2フィードバックパラメータを適用する第2モードにおいては、ステアリングアクチュエータの応答性および転舵速度の少なくとも一つが低下するので、それに応じて、エネルギー消費を低減できる。第2モードは、全ての推進機が停止中に適用されるので、応答性および転舵速度の優先度は低い。加えて、応答性および転舵速度の少なくとも一つが低下することで、転舵装置の作動音を低減することもできる。第2モードは、全ての推進機が停止中に適用されるので、推進機の作動音のない状況では第2モードが適用されることになる。したがって、いずれの推進機も作動していないときに、転舵装置の作動音を低減できることにより、静音性がよく、商品性の高い操船システムを提供できる。いずれの推進機も作動していないときの転舵は、主として、出航前の点検やメンテナンスの際に行われる。したがって、応答性/転舵速度に対する要求は低く、むしろ省エネルギー性および静音性の観点でフィードバックパラメータを設定することにより、商品性を高めることができる。
【0015】
一方、少なくとも一つの推進機が運転中であるときに適用される第1モードでは、ステアリングアクチュエータの応答性/転舵速度を高める第1フィードバックパラメータが適用されることになる。これにより、操舵応答性のよい操船システムを提供できる。推進機の作動音のある状況では転舵装置の作動音は目立たないので、商品性に影響しない。
【0016】
また、少なくとも一つの推進機が運転中であれば、全ての転舵装置のステアリングアクチュエータは第1モードでフィードバック制御されるので、同様の応答性/転舵速度で作動する。そのため、複数の推進機が接近して配置される場合であっても、隣り合う推進機の干渉を生じることなく、複数の推進機を同期して転舵させることができる。
【0017】
一つの実施形態では、前記第2フィードバックパラメータは、前記第1フィードバックパラメータよりも小さい。
【0018】
一般に、フィードバックパラメータを小さくすることにより、応答性/転舵速度が小さくなる。それに応じて、省エネルギー性が高まり、作動音が小さくなる。
【0019】
一つの実施形態では、各推進機は、エンジンの駆動力によって推進力を発生する。前記ステアリングコントローラは、前記複数の推進機の少なくとも一つのエンジンが運転中であれば前記第1モードで前記フィードバック制御を実行し、前記複数の推進機の全てのエンジンが停止中であれば前記第2モードで前記フィードバック制御を実行する。
【0020】
この構成により、推進機のエンジンの運転状態に応じて、複数の転舵装置のステアリングアクチュエータを適切なモードでフィードバック制御できる。
【0021】
第1モードよりも第2モードの方がステアリングアクチュエータの応答性および転舵速度の少なくとも一つが低下するように第2フィードバックパラメータを定めておけば、全ての推進機のエンジンが停止中のときに、転舵装置の作動音を低減できる。また、いずれかの推進機のエンジンが運転中であれば、応答性/転舵速度を優先する第1モードを適用できる。
【0022】
一つの実施形態では、各推進機は、前記エンジンの駆動力によって電力を発生する発電機を含む。前記ステアリングアクチュエータは、前記発電機が発生する電力によって充電されるバッテリから供給される電力によって作動する。前記第2フィードバックパラメータは、前記第1モードよりも前記第2モードの方が前記ステアリングアクチュエータの消費電力が小さくなるように定められている。
【0023】
この構成によれば、全ての推進機のエンジンが停止中であり、したがって、発電機が電力を発生せず、バッテリを充電できないときには、第2フィードバックパラメータが適用され、省電力が図られる。これにより、バッテリ残量の低下を抑制できる。
【0024】
この発明の一実施形態は、船体に装備され、エンジンの駆動力によって推進力を発生する推進機と、ステアリングアクチュエータを含み、前記推進機の舵角を変化させる転舵装置と、前記舵角を検出する舵角センサと、目標舵角を達成するように前記舵角センサの出力信号に基づいて前記ステアリングアクチュエータをフィードバック制御するステアリングコントローラと、を含む、操船システムを提供する。前記ステアリングコントローラは、前記エンジンの運転中には第1フィードバックパラメータを適用する第1モードで前記フィードバック制御を実行し、前記エンジンの停止中には前記第1モードよりも前記ステアリングアクチュエータの消費電力が小さくなるように定めた第2フィードバックパラメータを適用する第2モードで前記フィードバック制御を実行する。
【0025】
この構成によれば、推進機のエンジンが停止中であれば、第2フィードバックパラメータが適用され、省電力が図られる。一方、推進機のエンジンが運転中であれば、第1フィードバックが適用され、応答性/転舵速度のよい第1モードでステアリングアクチュエータをフィードバック制御できる。こうして、エンジンを駆動源とする推進機を備える船舶に適した態様でステアリングアクチュエータを制御できる。
【0026】
一つの実施形態では、前記推進機は、前記エンジンの駆動力によって電力を発生する発電機を含む。前記ステアリングアクチュエータは、前記発電機が発生する電力によって充電されるバッテリから供給される電力によって作動する。
【0027】
この構成によれば、推進機のエンジンが停止中であり、したがって、発電機が電力を発生せず、バッテリを充電できないときには、第2フィードバックパラメータが適用され、省電力が図られる。これにより、バッテリ残量の低下を抑制できる。
【0028】
一つの実施形態では、前記第2フィードバックパラメータは、前記第1フィードバックパラメータよりも小さい。
【0029】
一般に、フィードバックパラメータを小さくすることにより、応答性/転舵速度が小さくなる。それに応じて、省エネルギー性が高まり、作動音が小さくなる。
【0030】
一つの実施形態では、前記第2フィードバックパラメータは、前記第1フィードバックパラメータよりも前記ステアリングアクチュエータの応答性および転舵速度の少なくとも一つが低下するように定められている。
【0031】
この構成によれば、第2フィードバックパラメータを適用する第2モードにおいては、ステアリングアクチュエータの応答性および転舵速度の少なくとも一つが低下するので、それに応じて、エネルギー消費を低減できる。第2モードは、推進機のエンジンが停止中に適用されるので、応答性および転舵速度の優先度は低い。加えて、応答性および転舵速度の少なくとも一つが低下することで、転舵装置の作動音を低減することもできる。第2モードは、推進機のエンジンが停止中に適用されるので、エンジン音のない状況では第2モードが適用されることになる。したがって、推進機のエンジンが運転されていないときに、転舵装置の作動音を低減できることにより、静音性がよく、商品性の高い操船システムを提供できる。推進機のエンジンが停止しているときの転舵は、主として、出航前の点検やメンテナンスの際に行われる。したがって、応答性/転舵速度に対する要求は低く、むしろ省エネルギー性および静音性の観点でフィードバックパラメータを設定することにより、商品性を高めることができる。
【0032】
一方、推進機のエンジンが運転中であるときに適用される第1モードでは、ステアリングアクチュエータの応答性/転舵速度を高める第1フィードバックパラメータが適用されることになる。これにより、操舵応答性のよい操船システムを提供できる。エンジン音のある状況では転舵装置の作動音は目立たないので、商品性に影響しない。
【0033】
この発明の一実施形態は、船舶に装備される推進機と、ステアリングアクチュエータを含み、前記推進機の舵角を変化させる転舵装置と、前記舵角を検出する舵角センサと、目標舵角を達成するように前記舵角センサの出力信号に基づいて前記ステアリングアクチュエータをフィードバック制御するステアリングコントローラと、を含む、操船システムを提供する。前記フィードバック制御は、第1フィードバックパラメータを適用する第1モードと、前記第1フィードバックパラメータよりも小さい第2フィードバックパラメータを適用する第2モードとを含む。前記ステアリングコントローラは、所定のモード選択基準に基づいて、前記第1モードまたは前記第2モードを選択する。
【0034】
この構成によれば、ステアリングコントローラは、第1フィードバックパラメータを適用する第1モードと、第2フィードバックパラメータを適用する第2モードとを制御モードとして有しており、所定のモード選択基準に基づいて、第1モードまたは第2モードを適切に選択して適用する。それにより、推進機を備える船舶に適した態様でステアリングアクチュエータを制御できる。
【0035】
一つの実施形態では、前記所定のモード選択基準は、前記ステアリングアクチュエータに電力を供給するバッテリの充放電状態に関する基準を含む。
【0036】
バッテリの充放電状態に関する基準の具体例としては、充電中かどうか、バッテリ残量が所定の閾値以上かどうかなどを挙げることができる。たとえば、バッテリが充電中であれば第1モードを適用し、バッテリへの充電が停止されているときには第2モードを適用してもよい。また、バッテリ残量が閾値以上であれば第1モードを適用し、バッテリ残量が閾値未満であれば第2モードを適用してもよい。
【0037】
推進機がエンジンを備え、そのエンジンによって駆動される発電機によって前記バッテリが充電される場合には、エンジンが停止中であればバッテリへの充電が停止される。よって、バッテリの充放電状態に関する基準は、エンジンが運転中かどうかを含んでもよい。
【0038】
一つの実施形態では、前記所定のモード選択基準は、前記推進機の運転状態の情報に関する基準を含む。
【0039】
たとえば、推進機が運転中であれば第1モードを適用し、推進機が停止中であれば第2モードを適用してもよい。
【0040】
推進機の運転状態とは、推進機に備えられる原動機の運転状態であってもよい。原動機は、エンジン(内燃機関)であってもよいし、電動モータであってもよい。
【0041】
一つの実施形態では、前記操船システムは、前記推進機とは異なる他の推進機をさらに含む。前記所定のモード選択基準は、前記他の推進機の運転状態の情報に関する基準を含む。
【0042】
たとえば、前記推進機および前記他の推進機の少なくとも一つが運転中であれば第1モードを適用し、前記推進機および前記他の推進機のいずれもが停止中であれば第2モードを適用してもよい。
【0043】
一つの実施形態では、前記操船システムは、当該操船システム内での情報通信のためのネットワークを含む。前記所定のモード選択基準は、前記ネットワーク内での通信状態に関する基準を含む。
【0044】
たとえば、前記ネットワーク内の通信にエラーが生じているときには第1モードを適用し、第2モードの適用を回避するようにしてもよい。
【0045】
この発明の一実施形態は、船体と、前記船体に装備される前記操船システムと、を含む、船舶を提供する。
【発明の効果】
【0046】
この発明によれば、推進機を備える船舶に適した態様でステアリングアクチュエータを制御できる操船システムおよびそれを備える船舶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】
図1は、この発明の一実施形態に係る操船システムを搭載した船舶の構成例を示す平面図である。
【
図2】
図2は、操船システムの構成例を説明するための図である。
【
図3】
図3は、転舵装置の構成例を説明するための図である。
【
図4】
図4は、ステアリングコントローラの構成例を説明するためのブロック図である。
【
図5】
図5は、フィードバック制御部におけるモード切り替え基準の一例を定めるテーブルを示す。
【
図6】
図6は、ステアリングコントローラが実行する処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図7】
図7は、この発明の他の実施形態の特徴を説明するための図であり、ステアリングコントローラが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0049】
図1は、この発明の一実施形態に係る操船システム100を搭載した船舶1の構成例を示す平面図である。船舶1は、船体2と、推進機の一例である船外機OMとを備えている。船外機OMは、船体2の船尾3に取り付けられている。この実施形態では、2機の船外機OMが左右方向に並んで船尾に取り付けられている。これらを区別するときには、相対的に右側に配置された船外機OMを「右船外機OMs」などといい、相対的に左側に配置された船外機OMを「左船外機OMp」などという。右船外機OMsおよび左船外機OMpをそれぞれ左右に転舵するために、右転舵装置STGsおよび左転舵装置STGpが船尾3に設けられている。これらを総称するときには、「転舵装置STG」という。転舵装置STGは、船外機OMが発生する推進力の方向を左右に変化させる機構であり、船外機OMのボディを船体2に対して左右に旋回(転舵)させ、それによって、船舶1の針路変更のために、舵角を変化させる。舵角は、この実施形態では、船外機OMの推進力が船体2の前後方向に対してなす角によって定義される。端的には、平面視において船体2の前後方向に沿う中心線2aに対して船外機OMの推進力の方向がなす角が舵角である。この実施形態では、右船外機OMsは中心線2aの右側に配置されており、左船外機OMpは中心線2aの左側に配置されている。
【0050】
船体2の内部には、乗船者のための居住空間4が確保されている。居住空間4内に操船席5が設けられている。操船席5には、ステアリングホイール6、リモコンレバー7、ジョイスティック8、ゲージ9(表示パネル)などが設けられている。ステアリングホイール6は、船舶1の針路を変更するために使用者によって操作される操舵操作子の一例である。リモコンレバー7は、船外機OMの推進力の大きさ(出力)およびその方向(前進または後進)を変更するために使用者によって操作される操作子であり、アクセル操作子に相当する。この実施形態では、2機の船外機OMs,OMpにそれぞれ対応する2本のリモコンレバー7s,7pが備えられている。ジョイスティック8は、ステアリングホイール6およびリモコンレバー7の代わりに、操船のために使用者によって操作される操作子である。ジョイスティック8は、操舵操作子の他の例でもある。ゲージ9は、操船のための情報を表示するための表示装置であり、報知装置の一例である。
【0051】
図2は、船舶1に備えられる操船システム100の構成例を説明するための図である。
【0052】
船外機OMは、エンジン船外機または電動船外機のいずれの形態であってもよい。
図2には、エンジン船外機の例を示す。各船外機OMは、船外機コントローラ(電子制御ユニット)21、エンジン23、シフト機構24、プロペラ20、発電機30などを備えている。発電機30は、エンジン23によって駆動される。発電機30は、船外機OMの電装品に電力を供給するほか、船体2(
図1参照)に搭載されるバッテリ15を充電する。バッテリ15は、典型的には、各船外機OMに対応して個別に備えられる。
【0053】
エンジン23が発生する動力は、シフト機構24を介してプロペラ20に伝達される。シフト機構24は、前進位置、後進位置およびニュートラル位置のうちのいずれかのシフト位置を選択可能に構成されている。シフト位置が前進位置のとき、エンジン23の回転が伝達されることによってプロペラ20が正転方向に回転し、船外機OMは前進方向に推進力を発生する前進運転状態となる。シフト位置が後進位置のとき、エンジン23の回転が伝達されることによってプロペラ20が逆転方向に回転し、船外機OMは後進方向に推進力を発生する後進運転状態となる。シフト位置がニュートラル位置のとき、エンジン23とプロペラ20との間の動力伝達が遮断され、船外機OMはアイドリング状態となる。
【0054】
船外機OMは、さらに、スロットルアクチュエータ27およびシフトアクチュエータ28を備えており、これらは船外機コントローラ21によって制御される。スロットルアクチュエータ27は、エンジン23のスロットルバルブ(図示せず)を作動させる電動アクチュエータ(典型的には電動モータを含む。)である。シフトアクチュエータ28は、シフト機構24を作動させるためのアクチュエータ(典型的には電動モータを含む。)である。
【0055】
各転舵装置STGは、ステアリングコントローラ22と、ステアリングアクチュエータ25とを備えている。ステアリングコントローラ22は、ステアリングアクチュエータ25を駆動する。ステアリングアクチュエータ25は、転舵装置STGの駆動源であり、典型的には、電動モータを含む。ステアリングアクチュエータ25は、電動モータによって駆動されるボールねじ機構を有していてもよい。また、ステアリングアクチュエータ25は、電動モータによって駆動されるポンプ(電動ポンプ)によって作動油が供給される油圧シリンダを有する油圧アクチュエータであってもよい。
【0056】
転舵装置STGは、この実施形態では、船外機OMとは別のユニットとして構成され、船尾3に取り付けられている。しかし、転舵装置STGは、対応する船外機OMと一体化され、船外機OMに組み込まれていてもよい。また、転舵装置STGの一部分(たとえばステアリングコントローラ22)が対応する船外機OMのボディ内に組み込まれていてもよい。転舵装置STGには、舵角を検出するための舵角センサ29が組み込まれている。舵角センサ29は、ステアリングアクチュエータ25の可動部の位置を検出する位置センサで構成されていてもよい。また、舵角センサ29は、ステアリングアクチュエータ25の駆動力を船外機OMに伝達するリンク機構(図示せず)の可動部の位置を検出する位置センサで構成されていてもよい。それにより、舵角センサ29は、船外機OMの舵角に対応する信号を出力する。位置センサは、ホール素子およびマグネットで構成した非接触型磁気センサであってもよい。
【0057】
ステアリングホイール6は、回転軸線まわりに回転操作可能に構成されている。ステアリングホイール6は、操作領域端がなく、無限回転操作領域を有する操舵操作子である。ステアリングホイール6に関連して、その回転操作の速度(操作速度)を検出する操作速度センサ12が設けられている。操作速度センサ12は、ステアリングホイール6の操作量を検出する操作量センサの一例であり、単位時間当たりの操作量を操作速度として検出し、その操作速度を表す信号を発生する。操作速度センサ12の出力信号は、ヘルムコントローラ16に入力される。ステアリングホイール6の回転軸に関連して、ステアリングホイール6の回転を規制する回転規制装置としてのブレーキ装置13(典型的には電磁ブレーキ装置)が設けられている。ブレーキ装置13は、ヘルムコントローラ16によって制御され、ステアリングホイール6の回転軸の回転を規制し、それによって、ステアリングホイール6の回転を規制する。
【0058】
前述のとおり、ステアリングホイール6は無限回転操作領域を有しており、右方向および左方向に無限に回転操作することができる。一方、船外機OMの転舵範囲には機械的な制約があるので、右転舵端および左転舵端が存在する。そこで、ヘルムコントローラ16は、船外機OMの舵角が右転舵端または左転舵端に相当するときに、ブレーキ装置13を作動させ、ステアリングホイール6の回転を規制する。それにより、ステアリングホイール6を操作する使用者は、ステアリングホイール6からの触覚フィードバックによって、船外機OMの舵角が転舵端に達したことを知ることができる。なお、転舵装置STGによって船外機OMが転舵される範囲の右転舵端および左転舵端は、船外機OMの機械的な転舵限界よりも内側(舵角中立位置寄り)に設定される場合がある。
【0059】
リモコンレバー7は、リモコンユニット17に回動操作可能に設けられている。リモコンユニット17は、使用者によって操作される2本のリモコンレバー7s,7pと、リモコンレバー7s,7pの操作位置をそれぞれ検出する2つの操作位置センサ19s,19p(総称するときには「操作位置センサ19」という。)とを有している。操作位置センサ19の出力信号は、2つのリモコンECU51s,51p(電子制御ユニット)に入力されている。2つのリモコンECU51s,51p(以下総称するときには「リモコンECU51」という。)は、2機の船外機OMs,OMpにそれぞれ対応している。
【0060】
船外機コントローラ21およびステアリングコントローラ22は、船外機制御ネットワーク56に接続されている。船外機制御ネットワーク56には、さらに、ヘルムコントローラ16およびリモコンECU51が接続されている。船外機制御ネットワーク56は、2つの転舵装置STGs,STGpにそれぞれ設けられた2つのステアリングコントローラ22の間を接続する通信線57を含み、全体としてリング状のネットワークを構成している。船外機コントローラ21は、エンジン23の運転状態を監視し、運転状態を表す情報を、たとえば周期的に、船外機制御ネットワーク56に送出する。運転状態を表す情報は、少なくとも、エンジン23が運転中か停止中かを表す情報を含む。たとえば、船外機コントローラ21は、エンジン23の回転速度の情報に基づいて、エンジン23の運転状態を検出することができる。
【0061】
ヘルムコントローラ16は、操作速度センサ12によって検出される操作速度を船外機制御ネットワーク56を介してステアリングコントローラ22に供給する。ステアリングコントローラ22は、ヘルムコントローラ16から与えられる操作速度に応じて、ステアリングアクチュエータ25を制御する。ステアリングコントローラ22は、舵角センサ29が検出する船外機OMの舵角または後述する目標舵角を船外機制御ネットワーク56に送出してもよい。ステアリングコントローラ22は、船外機OMの舵角が転舵端に到達すると、ヘルムコントローラに対して、ヘルムロック指令を与えてもよい。ヘルムコントローラ16は、ステアリングコントローラ22からヘルムロック指令を受けると、ブレーキ装置13を作動させ、ステアリングホイール6の回転を規制する。
【0062】
ステアリングコントローラ22は、たとえば、後述する目標舵角が転舵端に相当する値になると、ヘルムコントローラ16にヘルムロック指令を与えてもよい。また、ステアリングコントローラ22は、舵角センサ29によって検出される舵角(実舵角)が転舵端に相当する値になると、ヘルムコントローラ16にヘルムロック指令を与えてもよい。ヘルムロック指令は、船外機OMの舵角が転舵端に相当することを表す舵角情報の一例である。
【0063】
ステアリングコントローラ22がヘルムロック指令を送出する代わりに、ヘルムコントローラ16が、船外機制御ネットワーク56に表れる目標舵角または実舵角に応じて、ブレーキ装置13を作動させてもよい。すなわち、ヘルムコントローラ16は、目標舵角または実舵角が転舵端に相当する値になると、ブレーキ装置13を作動させて、ステアリングホイール6の回転を規制するように構成されていてもよい。
【0064】
リモコンECU51は、操作位置センサ19によって検出されるリモコンレバー7の位置に応じて、推進力指令を生成し、船外機制御ネットワーク56を介して船外機コントローラ21に供給する。推進力指令はシフト指令および出力指令を含む。船外機コントローラ21は、シフト指令に基づいてシフトアクチュエータ28を制御し、シフト機構24のシフト位置を制御する。また、船外機コントローラ21は、出力指令に基づいてスロットルアクチュエータ27を制御し、それによって、エンジン23の出力(回転速度)を制御する。
【0065】
リモコンECU51には、船内ネットワーク55(CAN:コントロールエリアネットワーク)を介して、メインコントローラ50が接続されている。メインコントローラ50に、ジョイスティックユニット18が接続されている。ジョイスティックユニット18は、前後左右(すなわち、360度の全方位)に傾倒させる操作と、軸まわりに回す(ツイストする)操作とが可能なジョイスティック8を備えている。図示は省略するが、ジョイスティックユニット18は、ジョイスティック8の傾倒操作方向および傾倒操作量を検出する傾倒センサと、ジョイスティック8の回動操作方向および回動操作量を検出する回動センサとを備えている。傾倒センサは、ジョイスティック8の前後方向傾倒成分を検出する前後方向成分センサと、ジョイスティック8の左右方向傾倒成分を検出する左右方向成分センサとを含む。傾倒センサおよび回動センサの検出値はメインコントローラ50に入力される。
【0066】
ジョイスティックユニット18は、この例では、さらに、複数の操作ボタンを備えている。複数の操作ボタンは、ジョイスティックボタン180および保持モード設定ボタン181~183を含む。ジョイスティックボタン180は、ジョイスティック8を用いる制御モード(操船モード)、すなわち、ジョイスティックモードを選択するときに操船者によって操作される操作子である。保持モード設定ボタン181~183は、位置/方位保持系の制御モード(自動操船モードの一例)を設定するために使用者によって操作される操作ボタンである。より具体的には、保持モード設定ボタン181は、船舶の位置および船首方位(または船尾方位)を保持する定点保持モード(Stay Point)を設定するために操作される。保持モード設定ボタン182は、船舶の位置を保持し船首方位(または船尾方位)は保持しない位置保持モード(Fish Point)を設定するために操作される。保持モード設定ボタン183は、船首方位(または船尾方位)を保持し位置の保持は行わない方位保持モード(Drift Point)を設定するために操作される。
【0067】
船内ネットワーク55には、さらに、GPS(Global Positioning System)受信機52、方位センサ53、アプリケーションスイッチパネル60などが接続されている。GPS受信機52は、位置検出装置の一例であり、地球を周回する人工衛星からの電波を受信して船舶1の位置を特定し、船舶1の位置を表す位置データと、船舶1の移動速度を表す速度データとを出力する。これらのデータは、メインコントローラ50によって取得され、船舶1の位置および/または方位の表示や制御のために用いられる。方位センサ53は、船舶1の方位を検出して、方位データを生成する。その方位データはメインコントローラ50によって利用される。
【0068】
アプリケーションスイッチパネル60は、予め定義した機能の実行を指令するための複数のファンクションスイッチ61を含む。たとえば、ファンクションスイッチ61は、自動操船を指令するためのスイッチを含んでいてもよい。より具体的には、一つのファンクションスイッチ61は、前進中に船首方位を維持する自動操舵を行う船首保持モード(Heading Hold)を指令するために割り当てられていてもよい。また、別のファンクションスイッチ61は、前進中に船首方位を保持し、かつ直進する進路を保持する自動操舵を行う直進保持モード(Course Hold)を指令するために割り当てられていてもよい。さらに別のファンクションスイッチ61は、指定した複数の通過点を順に通る経路(ルート)に従って航行させる自動操舵を行う通過点追従モード(Track Point)を指令するために割り当てられていてもよい。さらに別のファンクションスイッチ61は、所定の航走パターン(ジグザグパターン、スパイラルパターンなど)に従って航走させる自動操舵を行うパターン航走モード(Pattern Steer)を指令するために割り当てられていてもよい。これらのモードは、自動操船モードの例である。
【0069】
船内ネットワーク55には、さらに、ゲージ9が接続されている。ゲージ9は、操船のための各種情報を表示するための表示装置である。ゲージ9は、たとえば、メインコントローラ50、リモコンECU51等と通信可能である。それにより、ゲージ9は、船外機OMの運転状態、船舶1の位置および/または方位などの情報を表示することができる。ゲージ9には、タッチパネルやボタン等の入力装置10が備えられていてもよい。使用者が入力装置10を操作することにより、操作信号が船内ネットワーク55に送出され、様々な設定や指令が行えるようになっていてもよい。ゲージ9に関連する表示制御信号を伝達するために、船内ネットワーク55とは別のネットワークが構築されていてもよい。
【0070】
メインコントローラ50は、プロセッサおよびメモリ(いずれも図示省略)を含み、メモリに格納されたプログラムをプロセッサが実行することによって、複数の機能を達成するように構成されている。メインコントローラ50は、複数の制御モードを有している。メインコントローラ50の制御モードは、操作系の観点からは、通常操船モード、ジョイスティックモードおよび自動操船モードに分類できる。
【0071】
通常操船モードは、ステアリングホイール6の操作に応じて転舵制御を行い、かつリモコンレバー7の操作に応じて推進力制御を行う制御モードである。この実施形態では、通常操船モードは、メインコントローラ50のデフォルト制御モードである。転舵制御とは、具体的には、ステアリングホイール6の操作に応じて操作速度センサ12が生成する操作速度信号またはリモコンECU51が生成する転舵角指令(具体的には目標舵角の指令)に応じて、ステアリングコントローラ22がステアリングアクチュエータ25を駆動させる制御動作をいう。これにより、船外機OMが左右に転舵して、船体2に対する推進力の方向が左右に変化する。推進力制御とは、具体的には、リモコンECU51が船外機コントローラに与える推進力指令(シフト指令および出力指令)に応じて、船外機コントローラ21がシフトアクチュエータ28およびスロットルアクチュエータ27を駆動させる制御動作をいう。これにより、船外機OMのシフト位置が前進位置、後進位置またはニュートラル位置に設定され、かつエンジン出力(具体的にはエンジン回転速度)が変化する。
【0072】
ジョイスティックモードは、ジョイスティック8の操作信号に応じて転舵制御および推進力制御を行う制御モードである。ジョイスティックモードでは、ジョイスティック8の操作に応じて転舵制御および推進力制御が行われる。すなわち、メインコントローラ50は、ジョイスティック8の操作に応じて、リモコンECU51に転舵角指令および推進力指令を与え、リモコンECU51はそれらをステアリングコントローラ22および船外機コントローラ21に与える。
【0073】
自動操船モードは、ステアリングホイール6、リモコンレバー7およびジョイスティック8の操作によることなく、メインコントローラ50等の働きによって、転舵制御および/または推進力制御を自動で行う制御モードである。すなわち、自動操船が行われる。自動操船には、航走時に使用される航走系の自動操船と、位置および方位の一方または両方を維持する位置/方位保持系の自動操船とがある。航走系の自動操船の例は、ファンクションスイッチ61の操作によって指令される前述の自動操舵である。位置/保持系の自動操船は、保持モード設定ボタン181~183の操作によって指令される、定点保持モード、位置保持モードおよび方位保持モードによる操船を含む。このような自動操船モードにおいて、メインコントローラ50は、GPS受信機52が生成する位置情報および/または方位センサ53が生成する方位情報を利用して、転舵角指令および推進力指令を生成する。自動操船モードにおいても、ジョイスティックモードの場合と同じく、メインコントローラ50は、リモコンECU51に転舵角指令および推進力指令を与え、リモコンECU51は、それらをステアリングコントローラ22および船外機コントローラ21に与える。
【0074】
ジョイスティックモードおよび自動操船モードにおいては、ヘルムコントローラ16は、操作速度センサ12の出力を船外機制御ネットワーク56に供給しなくてもよい。あるいは、ステアリングコントローラ22は、リモコンECU51から転舵角指令が与えられるときには、ヘルムコントローラ16が船外機制御ネットワーク56に送出する操作速度信号に応答しないようにプログラムされていてもよい。
【0075】
図3は、転舵装置STGの構成例を説明するための図である。転舵装置STGは、この例では、油圧式の転舵装置である。転舵装置STGは、油圧ポンプ45と、油圧ポンプ45を駆動する電動モータMと、油圧シリンダ40と、油圧ポンプ45と油圧シリンダ40との間で作動油を流動させる油圧回路46とを含む。油圧シリンダ40は、複動式シリンダであり、シリンダチューブ47と、シリンダチューブ47内に設けられたピストン43と、ピストン43に固定されその両側に延びたピストンロッド44とを含む。
【0076】
シリンダチューブ47およびピストンロッド44は左右方向に延びている。ピストンロッド44の両端部は、船外機OMのスイベルブラケット33に結合されている。シリンダチューブ47内の空間は、ピストン43によって右シリンダ室41および左シリンダ室42に区画されている。シリンダチューブ47は、船外機OMのステアリングアーム34に連結されている。シリンダチューブ47は、ピストンロッド44に案内されて左右に移動可能であり、それにより、船外機OMのステアリングアーム34を左右に移動させ、船外機OMをステアリング軸35まわりに左右に旋回(転舵)させる。
【0077】
油圧回路46は、右シリンダ室41および左シリンダ室42に接続されている。電動モータMは正逆回転可能に構成されており、その回転方向に応じて、油圧ポンプ45が、2つのシリンダ室41,42の一方に作動油を送り込む。それにより、そのシリンダ室の容積が大きくなり、他方のシリンダ室の容積が小さくなるように、シリンダチューブ47が左右に移動する。
【0078】
電動モータMおよび油圧ポンプ45により、電動ポンプが構成されている。また、電動モータM、油圧ポンプ45、油圧回路46および油圧シリンダ40によって、油圧アクチュエータからなるステアリングアクチュエータ25が構成されている。舵角センサ29は、シリンダチューブ47の左右方向の位置を検出してもよい。また、舵角センサ29は、ステアリングアーム34の回転位置を検出してもよい。それによって、舵角センサ29は、船外機OMの舵角を検出する。
【0079】
油圧回路46には、左右のシリンダ室41,42の間を連通させるバイパス油路46aと、そのバイパス油路46aを開閉するためのリリーフバルブ46bとが設けられていることが好ましい。リリーフバルブ46bを手動で開くことにより、左右のシリンダ室41,42がバイパス油路46aを介して連通するので、使用者は、船外機OMに外力を加えて、左右に手動で転舵させることができる。そして、所望の舵角の状態でリリーフバルブ46bを手動で閉じると、その舵角を保持することができる。こうして、リリーフバルブ46b等により、緊急時のための手動機構を構成することができる。
【0080】
図4は、ステアリングコントローラ22の構成例を説明するためのブロック図である。ステアリングコントローラ22は、処理装置65と駆動回路66とを備えている。処理装置65はプロセッサ65aおよびメモリ65bを備え、プロセッサ65aがメモリ65bに記憶されているプログラムを実行することにより複数の機能を実現するように構成されている。具体的には、処理装置65は、フィードバック制御部70、パラメータ変更部80等の機能を有するようにプログラムされている。
【0081】
フィードバック制御部70は、目標舵角を達成するように舵角センサ29の出力信号(操作速度信号)に基づいてステアリングアクチュエータ25(より具体的には電動モータM)をフィードバック制御する。
【0082】
フィードバック制御部70は、目標舵角演算部71、偏差演算部72、PID(比例積分微分)制御部73、およびPWM(パルス幅変調)信号生成部74としての機能を有する。目標舵角演算部71は、ヘルムコントローラ16から与えられる操作速度信号に基づいて、目標舵角を演算する。具体的には、操作速度信号を積算して目標舵角を演算する。積算のための初期値には、舵角センサ29によって検出される舵角が用いられる。偏差演算部72は、舵角センサ29によって検出される舵角(実舵角)の目標舵角に対する偏差を演算する。用いられる目標舵角は、目標舵角演算部71によって演算される目標舵角である場合と、リモコンECUから与えられる転舵角指令に含まれる目標舵角の場合とがある。PID制御部73は、偏差演算部72によって求められる偏差に対して比例積分微分演算を行って、偏差を減少させるための制御値を生成する。その制御値に応じたデューティ比のPWM信号がPWM信号生成部74によって生成される。PWM信号生成部74によって生成されるPWM信号によって駆動回路66が駆動される。
【0083】
駆動回路66は、船外機OMに備えられる発電機30によって充電されるバッテリ15(
図2を併せて参照)に接続されたH型ブリッジ回路で構成されている。バッテリ15は、2機の船外機OMにそれぞれ対応して2個設けられていてもよい。駆動回路66を構成するH型ブリッジ回路には、上アームスイッチング素子U1,U2および下アームスイッチング素子L1,L2の直列回路が2組設けられており、この2組の直列回路がバッテリ15に対して並列に接続されている。スイッチング素子U1,U2,L1,L2は、典型的には、パワートランジスタ等の半導体スイッチである。第1の直列回路を構成する一対のスイッチング素子U1,L1の間の接続点N1と、第2の直列回路を構成する一対のスイッチング素子U2,L2の間の接続点N2とに、電動モータMの一対の端子がそれぞれ接続されている。電動モータMは、たとえば、DCモータ(直流モータ)である。PWM信号生成部74によって生成されるPWM信号によって、各スイッチング素子U1,U2,L1,L2がスイッチングされることにより、PWM信号のデューティ比に応じた電圧が電動モータMに印加される。
【0084】
たとえば、電動モータMを正転方向に駆動するときには、第1の直列回路の下アームスイッチング素子L1および第2の直列回路の上アームスイッチング素子U2はオフ状態に維持される。そして、第1の直列回路の上アームスイッチング素子U1および第2の直列回路の下アームスイッチング素子L2がPWM信号によってオン/オフされる。また、電動モータMを逆転方向に駆動するときには、第1の直列回路の上アームスイッチング素子U1および第2の直列回路の下アームスイッチング素子L2をオフ状態に維持する。そして、第1の直列回路の下アームスイッチング素子L1および第2の直列回路の上アームスイッチング素子U2がPWM信号によってオン/オフされる。
【0085】
こうして、実舵角の目標舵角に対する偏差(舵角偏差)に応じたデューティ比のPWM信号によって駆動回路66が駆動されることにより、舵角偏差を減少させる電圧が電動モータMに印加され、それによって、船外機OMを目標舵角へと導くことができる。すなわち、舵角センサ29によって検出される実舵角を目標舵角へと導くように、ステアリングアクチュエータ25のフィードバック制御が実行される。
【0086】
駆動回路66から電動モータMに供給される電流(モータ電流)を検出するための電流センサ68(電流検出回路)が設けられている。電流センサ68の出力信号は処理装置65に入力されている。処理装置65は、電流センサ68の出力信号に基づいてモータ電流を検出できる。処理装置65は、モータ電流を監視し、必要に応じてPWM信号のデューティ比を制限して、電動モータMに印加される電圧を制限してもよい。
【0087】
パラメータ変更部80は、PID制御部73における比例積分微分演算のパラメータを変更する。具体的には、比例ゲインおよび積分ゲインの一方または両方が変更される。さらに具体的には、パラメータ変更部80は、所定のモード選択基準に基づいて、第1フィードバックパラメータと、それとは異なる第2フィードバックパラメータとのいずれかを選択してPID制御部73に設定する。それにより、フィードバック制御部70は、第1フィードバックパラメータを適用する第1モードと、第2フィードバックパラメータを適用する第2モードとを有し、いずれかモードによるフィードバック制御を実行する。
【0088】
第2フィードバックパラメータは、第1モードよりも第2モードの方がステアリングアクチュエータ25の応答性および転舵速度の一方または両方が低下するように定められていてもよい。また、第2フィードバックパラメータは、第1モードよりも第2モードの方がステアリングアクチュエータ25の消費電力が小さくなるように定められていてもよい。端的には、第2フィードバックパラメータは、第1フィードバックパラメータよりも小さくてもよい。
【0089】
所定のモード選択基準は、ステアリングアクチュエータ25に電力を供給するバッテリ15の充放電状態に関する基準を含んでいてもよい。所定のモード選択基準は、船外機OMの運転状態の情報、より具体的にはエンジン23の運転状態の情報に関する基準を含んでいてもよい。また、所定のモード選択基準は、他の船外機OMの運転状態(たとえばエンジンの運転状態)に関する基準を含んでいてもよい。また、所定のモード選択基準は、船外機制御ネットワーク56および船内ネットワーク55の一方または両方の通信状態に関する基準を含んでいてもよい。
【0090】
図5は、フィードバック制御部70におけるモード切り替え基準の一例を定めるテーブルを示す。この例では、2機の船外機OMのエンジン23が運転中か停止中か、および通信フェールが生じているかどうかに応じて、フィードバック制御のモードが決定される。
【0091】
より具体的には、2機の船外機OM(右船外機OMsおよび左船外機OMp)のうちの少なくとも一つのエンジン23が運転中であれば、2つの転舵装置STG(STGs,STGp)のステアリングコントローラ22は、いずれも第1モードでフィードバック制御を実行する。また、2つの転舵装置STGのステアリングコントローラの少なくとも一方が通信フェールを検出しているとき、したがって、少なくとも一つの船外機OMのエンジン23の運転状態が不明であるときは、2つの転舵装置STGのステアリングコントローラ22は、いずれも第1モードでフィードバック制御を実行する。いずれのステアリングコントローラ22も通信フェールを検出しておらず、2機の船外機OMのエンジン23がいずれも停止中であれば、2つのステアリングコントローラ22は、いずれも第2モードでフィードバック制御を実行する。
【0092】
すなわち、各転舵装置STGのステアリングコントローラ22は、通信フェールを検出しておらず、したがって、2機の船外機OMのエンジン23の運転状態の情報を取得することができるとき、少なくとも一つの船外機OMのエンジン23が運転中であれば第1モードでフィードバック制御を行う。そして、全ての船外機OMのエンジン23が停止中であれば第2モードでフィードバック制御を行う。
【0093】
各転舵装置STGのステアリングコントローラ22は、通信フェールのために少なくとも一つの船外機OMの運転状態が不明であれば第1モードでフィードバック制御を実行する。
【0094】
船内ネットワーク55および船外機制御ネットワーク56は、通信ネットワークの一例である。メインコントローラ50、リモコンECU51、船外機コントローラ21およびステアリングコントローラ22は、それぞれ、通信フェールを検出するための処理を実行し、通信フェールを検出すると、通信フェール検出信号をネットワーク55,56に送出する。ステアリングコントローラ22は、自身の処理によって通信フェールを検出するほか、ネットワーク55,56に送出される通信フェール検出信号によって通信フェールを検出する。
【0095】
図6は、ステアリングコントローラ22が所定の制御周期で繰り返す処理の一例を説明するためのフローチャートである。ステアリングコントローラ22は、通信フェールが生じているかどうかを判断し(ステップS1)、通信フェールが生じていれば(ステップS1:YES)、フィードバック制御のモードを第1モードとする(ステップS4)。通信フェールが生じていないときには(ステップS1:NO)、当該ステアリングコントローラ22に対応する船外機OM(自機)のエンジン23の運転状態を調べ(ステップS2)、運転中であれば(ステップS2:YES)、フィードバック制御のモードを第1モードとする(ステップS4)。自機のエンジンが停止中であれば(ステップS2:NO)、操船システム100に含まれる他の船外機OM(他機)のエンジン23の運転状態を調べ(ステップS3)、少なくとも一つの他機のエンジン23が運転中であれば(ステップS3:YES)、フィードバック制御のモードを第1モードとする(ステップS4)。全ての他機のエンジン23が停止中であれば(ステップS3:NO)、フィードバック制御のモードを第2モードとする(ステップS5)。こうして、決定されたモード(第1モードまたは第2モード)に従って、フィードバック制御が行われる(ステップS6)。
【0096】
船外機コントローラ21はエンジン23の運転状態の情報を船外機制御ネットワーク56に周期的に送出する。したがって、通信フェールが生じていないときには、ステアリングコントローラ22は、操船システム100に含まれる全ての船外機OMのエンジンの運転状態の情報を取得できる。
【0097】
以上のように、この実施形態によれば、複数の船外機OMの舵角が複数の転舵装置STGによってそれぞれ変化させられる。複数の転舵装置STGのステアリングアクチュエータ25をそれぞれ制御する複数のステアリングコントローラ22は、舵角センサ29の出力信号に基づくフィードバック制御を実行する。ステアリングコントローラ22は、第1フィードバックパラメータを適用する第1モードと、第2フィードバックパラメータを適用する第2モードとを制御モードとして有しており、複数の船外機OMの運転状態に応じて第1モードまたは第2モードを適切に選択して適用する。具体的には、少なくとも一つの船外機OMが運転中であれば第1モードが選択され、全ての船外機OMが停止中であれば第2モードが選択される。このようにして、推進機としての船外機OMを備える船舶1に適した態様でステアリングアクチュエータ25を制御できる。
【0098】
また、この実施形態では、ステアリングコントローラ22は、複数の船外機OMの少なくとも一つの運転状態が不明であれば第1モードでフィードバック制御を実行する。より具体的には、ステアリングコントローラ22は、船外機制御ネットワーク56または船内ネットワーク55に通信フェールが生じていれば、第1モードでフィードバック制御を実行する。通信フェールが生じていると、少なくとも一つの船外機OMの運転状態が不明である可能性がある。そこで、この実施形態では、ステアリングコントローラ22は、通信フェールが生じているときには、第1モードでフィードバック制御を実行する。これにより、少なくとも一つの船外機OMの運転状態が不明である可能性があるときには、第1フィードバックパラメータを適用してステアリングアクチュエータ25を制御できる。
【0099】
この実施形態では、第2フィードバックパラメータは、第1モードよりも第2モードの方がステアリングアクチュエータ25の応答性および転舵速度の少なくとも一つが低下するように定められている。具体的には、第2フィードバックパラメータは、第1フィードバックパラメータよりも小さい。したがって、第2フィードバックパラメータを適用する第2モードにおいては、ステアリングアクチュエータ25の応答性および転舵速度の少なくとも一つが低下するので、それに応じて、エネルギー消費を低減できる。
【0100】
第2モードは、全ての船外機OMが停止中(より具体的には全ての船外機OMのエンジン停止中)に適用されるので、応答性および転舵速度の優先度は低い。加えて、応答性および転舵速度の少なくとも一つが低下することで、転舵装置STGの作動音を低減することもできる。第2モードは、全ての船外機OMが停止中に適用されるので、船外機OMの作動音(とくにエンジン音)のない状況では第2モードが適用されることになる。したがって、いずれの船外機OMも作動していないときに、転舵装置STGの作動音を低減できることにより、静音性に優れた商品性の高い操船システム100を提供できる。
【0101】
いずれの船外機OMも運転していないときの転舵は、主として、出航前の点検やメンテナンスの際に行われる。したがって、応答性/転舵速度に対する要求は低く、むしろ省エネルギー性および静音性の観点でフィードバックパラメータを設定することにより、商品性を高めることができる。
【0102】
一方、少なくとも一つの船外機OMが運転中(より具体的にはエンジン運転中)であるときに適用される第1モードでは、ステアリングアクチュエータ25の応答性/転舵速度を高める第1フィードバックパラメータが適用されることになる。これにより、操舵応答性のよい操船システム100を提供できる。船外機OMの作動音(とくにエンジン音)のある状況では転舵装置STGの作動音は目立たないので、商品性に影響しない。
【0103】
また、少なくとも一つの船外機OMが運転中であれば、全ての転舵装置STGのステアリングアクチュエータ25は第1モードでフィードバック制御されるので、同様の応答性/転舵速度で作動する。そのため、複数の船外機OMが接近して配置される場合であっても、隣り合う船外機OMの干渉を生じることなく、複数の船外機OMを同期して転舵させることができる。
【0104】
また、この実施形態では、全ての船外機OMのエンジン23が停止中であり、したがって、発電機30が電力を発生せず、バッテリ15を充電できないときには、第2フィードバックパラメータが適用され、省電力が図られる。これにより、バッテリ残量の低下を抑制できる。一方、少なくとも一つの船外機OMのエンジン23が運転中であれば、第1フィードバックが適用され、応答性/転舵速度のよい第1モードでステアリングアクチュエータ25をフィードバック制御できる。こうして、エンジン23を駆動源とする推進機であるエンジン船外機OMを備える船舶1に適した態様でステアリングアクチュエータ25を制御できる。
【0105】
図7は、この発明の他の実施形態の特徴を説明するための図であり、ステアリングコントローラが所定の制御周期で繰り返す処理の一例を示すフローチャートである。この実施形態の船舶では、船体に一つの船外機が備えられ、それに対応する一つの転舵装置が備えられている。転舵装置のステアリングコントローラは、船外機のエンジンの運転状態を調べ、運転中であれば(ステップS11:YES)、フィードバック制御のモードを第1モードとする(ステップS12)。船外機のエンジンが停止中であれば(ステップS11:NO)、フィードバック制御のモードを第2モードとする(ステップS13)。こうして、決定されたモード(第1モードまたは第2モード)に従って、フィードバック制御が行われる(ステップS14)。
【0106】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、以下に例示するように、さらに他の形態で実施することができる。
【0107】
前述の実施形態では、2機または1機の船外機OMを船体2に取り付けた構成の船舶1を示したが、3機以上の船外機を船体2に取り付けた構成の船舶に上記の実施形態が応用されてもよい。
【0108】
船外機以外の形態の推進機が用いられてもよい。具体的には、船内機、船内外機、ウォータージェット等の形態の推進機を備える船舶に上記の実施形態が応用されてもよい。
【0109】
推進機の原動機は、エンジンである必要はなく、電動モータであってもよい。
【0110】
舵角は、船外機の舵角である必要はなく、舵板の角度であってもよい。
【0111】
操舵操作子としては、ステアリングホイールの代わりにジョイスティックが用いられてもよい。
【0112】
第1モードおよび第2モードの選択に関するモード選択基準は、前述のとおり、バッテリ15の充放電状態に関する基準を含んでいてもよい。前述の実施形態では、バッテリ15の充放電状態に関する基準の一例は、エンジン23が運転中かどうかである。エンジン23が運転中であれば発電機30が電力を発生してバッテリ15への充電が行われ、エンジン23が停止中であれば発電機30が作動せず、バッテリ15への充電が行われないからである。むろん、バッテリ15への充電が行われているか否かを調べるために、エンジン23が運転中か否か以外の判断基準を用いてもよい。たとえば、バッテリ15に出入りする電流を検出してもよい。また、バッテリ15の充放電に関する基準の他の例として、バッテリ残量を挙げることができる。具体的には、バッテリ残量が閾値以上であれば第1モードを適用し、バッテリ残量が閾値未満であれば第2モードを適用してもよい。
【0113】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0114】
1:船舶、2:船体、6:ステアリングホイール、8:ジョイスティック、12:操作速度センサ、15:バッテリ、16:ヘルムコントローラ、20:プロペラ、21:船外機コントローラ、22:ステアリングコントローラ、23:エンジン、25:ステアリングアクチュエータ、29:舵角センサ、30:発電機、50:メインコントローラ、51:リモコンECU、55:船内ネットワーク、56:船外機制御ネットワーク、65:処理装置、66:駆動回路、70:フィードバック制御部、71:目標舵角演算部、72:偏差演算部、73:PID制御部、74:PWM信号生成部、80:パラメータ変更部、100:操船システム、M:電動モータ、OM:船外機、STG:転舵装置