(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101415
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】操船システムおよびそれを備える船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 25/42 20060101AFI20240722BHJP
B63H 25/24 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B63H25/42 B
B63H25/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005380
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠平
(72)【発明者】
【氏名】中西 諒
(57)【要約】
【課題】舵角センサの出力信号に関するキャリブレーションのための構成を備えた操船システムおよびそれを備える船舶を提供する。
【解決手段】操船システム100は、船舶1の針路変更のために舵角を変化させる転舵装置STGと、舵角センサ29と、舵角センサの出力信号に応じてステアリングアクチュエータ25を制御するステアリングコントローラ22と、を含む。ステアリングコントローラは、転舵装置の転舵領域の一端および他端における舵角センサの出力信号を記憶するためのキャリブレーションモードを有する。ステアリングコントローラは、転舵領域の一端および他端における舵角センサの出力信号の記憶を終えると、ステアリングアクチュエータを駆動して所定舵角まで転舵装置を作動させる自動転舵制御を実行する。一つの実施形態では、操船システムは、ステアリングホイール6と、その操作を検出する操作速度センサ12とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングアクチュエータを含み、船舶の針路変更のために舵角を変化させる転舵装置と、
前記舵角を検出する舵角センサと、
前記舵角センサの出力信号に応じて前記ステアリングアクチュエータを制御するステアリングコントローラと、を含み、
前記ステアリングコントローラは、前記転舵装置の転舵領域の一端および他端における前記舵角センサの出力信号を記憶するためのキャリブレーションモードを有し、前記一端および前記他端における前記舵角センサの出力信号の記憶を終えると、前記ステアリングアクチュエータを駆動して所定舵角まで前記転舵装置を作動させる自動転舵制御を実行する、操船システム。
【請求項2】
操舵のために操作者によって操作される操舵操作子と、
前記操舵操作子の操作を検出する操作センサと、をさらに含み、
前記ステアリングコントローラは、前記キャリブレーションモードにおいて、前記操作センサの出力信号に応じて前記ステアリングアクチュエータを駆動することにより、前記転舵装置の転舵角を前記一端および前記他端に順に導き、前記自動転舵制御の期間には、前記操作センサの出力信号によらずに前記ステアリングアクチュエータを駆動する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項3】
前記ステアリングコントローラは、前記転舵装置の転舵角が前記一端に達したことを検出して前記舵角センサの出力信号を記憶し、前記転舵装置の転舵角が前記他端に達したことを検出して前記舵角センサの出力信号を記憶する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項4】
前記キャリブレーションモードにおいて、前記ステアリングコントローラが前記転舵装置の転舵角が前記一端に達したことを検出すると通知を発行し、かつ前記転舵装置の転舵角が前記他端に達したことを検出すると通知を発行する通知ユニットと、
操作者が前記通知に応じて指令を入力するための指令ユニットと、をさらに含み、
前記ステアリングコントローラは、前記キャリブレーションモードにおいて、前記通知に応答して前記指令ユニットから指令が入力されると、前記舵角センサの出力信号を記憶する、請求項3に記載の操船システム。
【請求項5】
前記ステアリングコントローラが前記ステアリングアクチュエータを制御するときの目標舵角の領域は、前記転舵領域の前記一端および前記他端の内側の舵角領域である、請求項1に記載の操船システム。
【請求項6】
前記所定舵角は、前記目標舵角の領域内の舵角である、請求項5に記載の操船システム。
【請求項7】
前記ステアリングアクチュエータは、油圧シリンダと、前記油圧シリンダに作動油を供給する電動ポンプとを有する油圧アクチュエータを含む、請求項1に記載の操船システム。
【請求項8】
前記転舵装置は、船体に取り付けられる船外機を転舵させる、請求項1に記載の操船システム。
【請求項9】
ステアリングアクチュエータを含み、船舶の針路変更のために舵角を変化させる転舵装置と、
舵角センサの出力信号に応じて前記ステアリングアクチュエータを制御するステアリングコントローラと、を含み、
前記ステアリングコントローラは、前記舵角センサの出力信号を較正するためのキャリブレーションモードを終えるときに、前記ステアリングアクチュエータを駆動して所定舵角まで前記転舵装置を作動させる自動転舵制御を実行する、操船システム。
【請求項10】
船体と、
前記船体に装備される、請求項1~9のいずれか一項に記載の操船システムと、を含む、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、操船システムおよびそれを備える船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ステアリングホイールと、船外機と、船外機を転舵させる転舵ユニットとを備える船舶を開示している。転舵ユニットは、転舵ECU(電子制御ユニット)と、転舵アクチュエータと、転舵角センサとを備えている。転舵角センサは、船外機の転舵角を検出する。ステアリングホイールの操作角に応じて目標転舵角が設定され、転舵ECUは、その目標転舵角に応じて転舵アクチュエータを制御し、それによって、船外機を左右に回動させる。転舵角センサは、たとえばポテンショメータからなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
転舵角センサの出力信号に基づいて転舵角を正確に検出するためには、予め転舵角センサの出力信号と転舵角の値とを対応付けるためのキャリブレーションを実行する必要がある。特許文献1には、このようなキャリブレーションについての記述はない。
【0005】
特許文献1には、ジョイスティックの操作による横移動および回頭のためのキャリブレーションについての記述があるが、これらのキャリブレーションは、転舵角センサの出力信号に関するキャリブレーションではない。
【0006】
そこで、この発明の一実施形態は、舵角センサの出力信号に関するキャリブレーションのための構成を備えた操船システムおよびそれを備える船舶を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一実施形態は、ステアリングアクチュエータを含み、船舶の針路変更のために舵角を変化させる転舵装置と、前記舵角を検出する舵角センサと、前記舵角センサの出力信号に応じて前記ステアリングアクチュエータを制御するステアリングコントローラと、を含む、操船システムを提供する。前記ステアリングコントローラは、前記転舵装置の転舵領域の一端および他端における前記舵角センサの出力信号を記憶するためのキャリブレーションモードを有し、前記一端および前記他端における前記舵角センサの出力信号の記憶を終えると、前記ステアリングアクチュエータを駆動して所定舵角まで前記転舵装置を作動させる自動転舵制御を実行する。
【0008】
この構成によれば、転舵領域の一端および他端における舵角センサの出力信号を記憶することにより、その記憶された値に基づいて、舵角センサの出力信号から舵角を求めることができる。すなわち、舵角センサの出力信号を舵角に紐付けるためのキャリブレーション(較正)を行うことができる。
【0009】
しかも、転舵領域の一端および他端での舵角センサの出力信号を記憶した後に、所定舵角まで自動的に転舵されるので、ステアリングコントローラはその後の転舵制御をスムーズに開始することができる。
【0010】
一つの実施形態では、前記操船システムは、操舵のために操作者によって操作される操舵操作子と、前記操舵操作子の操作を検出する操作センサと、をさらに含む。前記ステアリングコントローラは、前記キャリブレーションモードにおいて、前記操作センサの出力信号に応じて前記ステアリングアクチュエータを駆動することにより、前記転舵装置の転舵角を前記一端および前記他端に順に導き、前記自動転舵制御の期間には、前記操作センサの出力信号によらずに前記ステアリングアクチュエータを駆動する。
【0011】
この構成によれば、操作者が操舵操作子を操作することによってステアリングアクチュエータが駆動され、転舵装置の転舵角が転舵領域の一端および他端に順に導かれる。それにより、操作者が転舵装置の動作を確認しながらキャリブレーションを行うことができる。転舵領域の一端および他端での舵角センサの出力信号が記憶された後は、ステアリングコントローラは操舵操作子の操作には応答せず、自動転舵制御によって、転舵装置を所定の舵角へと導く。したがって、キャリブレーションの後は、通常の制御へとスムーズに移行することができる。
【0012】
一つの実施形態では、前記ステアリングコントローラは、前記転舵装置の転舵角が前記一端に達したことを検出して前記舵角センサの出力信号を記憶し、前記転舵装置の転舵角が前記他端に達したことを検出して前記舵角センサの出力信号を記憶する。
【0013】
この構成によれば、転舵装置の転舵角が転舵領域の一端および他端に達したことを検出したうえで舵角センサの出力信号が記憶される。それにより、舵角センサの出力信号を確実にキャリブレーションできる。
【0014】
一つの実施形態では、前記操船システムは、前記キャリブレーションモードにおいて、前記ステアリングコントローラが前記転舵装置の転舵角が前記一端に達したことを検出すると通知を発行し、かつ前記転舵装置の転舵角が前記他端に達したことを検出すると通知を発行する通知ユニットと、操作者が前記通知に応じて指令を入力するための指令ユニットと、をさらに含む。前記ステアリングコントローラは、前記キャリブレーションモードにおいて、前記通知に応答して前記指令ユニットから指令が入力されると、前記舵角センサの出力信号を記憶する。
【0015】
この構成によれば、転舵装置の転舵角が転舵領域の一端および他端に達したことが検知され、さらに操作者に通知される。そして、操作者が指令ユニットを操作して指令を与えると、舵角センサの出力信号が記憶される。したがって、ステアリングコントローラによる検出に加えて操作者による確認を経て、舵角センサの出力信号が記憶されるので、一層確実に舵角センサの出力信号をキャリブレーションできる。
【0016】
なお、操作者への通知出力および操作者からの指令入力を省いて、ステアリングコントローラの検出に基づいて、舵角センサの出力信号を記憶することとしてもよい。
【0017】
一つの実施形態では、前記ステアリングコントローラが前記ステアリングアクチュエータを制御するときの目標舵角の領域(制御舵角領域)は、前記転舵領域の前記一端および前記他端の内側の舵角領域である。
【0018】
この構成によれば、ステアリングコントローラによって設定される目標舵角の領域、すなわち制御舵角領域は、転舵領域よりも狭く、転舵領域の内側に設定される。制御舵角領域をこのように定める理由は様々であるが、たとえば、隣り合う推進機の干渉の回避を目的とする場合を例示できる。
【0019】
一つの実施形態では、前記所定舵角は、前記目標舵角の領域(制御舵角領域)内の舵角である。
【0020】
この構成によれば、キャリブレーションを終了するときの自動転舵制御によって、制御舵角領域内の舵角に導かれるので、その後の通常の制御へとスムーズに移行できる。
【0021】
一つの実施形態では、前記ステアリングアクチュエータは、油圧シリンダと、前記油圧シリンダに作動油を供給する電動ポンプとを有する油圧アクチュエータを含む。
【0022】
一つの実施形態では、前記転舵装置は、船体に取り付けられる船外機を転舵させる。
【0023】
この発明の一実施形態は、ステアリングアクチュエータを含み、船舶の針路変更のために舵角を変化させる転舵装置と、舵角センサの出力信号に応じて前記ステアリングアクチュエータを制御するステアリングコントローラと、を含む、操船システムを提供する。前記ステアリングコントローラは、前記舵角センサの出力信号を較正するためのキャリブレーションモードを終えるときに、前記ステアリングアクチュエータを駆動して所定舵角まで前記転舵装置を作動させる自動転舵制御を実行する。
【0024】
この構成によれば、キャリブレーションを終えるときに、転舵装置が所定舵角まで自動的に転舵されるので、ステアリングコントローラはその後の転舵制御をスムーズに開始することができる。
【0025】
この発明の一実施形態は、船体と、前記船体に装備される前記操船システムと、を含む、船舶を提供する。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、舵角センサの出力信号に関するキャリブレーションのための構成を備えた操船システムおよびそれを備える船舶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、この発明の一実施形態に係る操船システムを搭載した船舶の構成例を示す平面図である。
【
図2】
図2は、操船システムの構成例を説明するための図である。
【
図3】
図3は、転舵装置の構成例を説明するための図である。
【
図4】
図4は、ステアリングコントローラの構成例を説明するためのブロック図である。
【
図5】
図5は、船外機の転舵領域と制御舵角領域との関係を説明するための図である。
【
図6】
図6は、舵角センサのキャリブレーションのための手順およびステアリングコントローラの処理等を説明するためのフローチャートである。
【
図7A-7F】
図7A~
図7Fは、舵角センサをキャリブレーションする際の転舵動作を説明するための図解的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0029】
図1は、この発明の一実施形態に係る操船システム100を搭載した船舶1の構成例を示す平面図である。船舶1は、船体2と、推進機の一例である船外機OMとを備えている。船外機OMは、船体2の船尾3に取り付けられている。この実施形態では、2機の船外機OMが左右方向に並んで船尾に取り付けられている。これらを区別するときには、相対的に右側に配置された船外機OMを「右船外機OMs」などといい、相対的に左側に配置された船外機OMを「左船外機OMp」などという。右船外機OMsおよび左船外機OMpをそれぞれ左右に転舵するために、右転舵装置STGsおよび左転舵装置STGpが船尾3に設けられている。これらを総称するときには、「転舵装置STG」という。転舵装置STGは、船外機OMが発生する推進力の方向を左右に変化させる機構であり、船外機OMのボディを船体2に対して左右に旋回(転舵)させ、それによって、船舶1の針路変更のために、舵角を変化させる。舵角は、この実施形態では、船外機OMの推進力が船体2の前後方向に対してなす角によって定義される。端的には、平面視において船体2の前後方向に沿う中心線2aに対して船外機OMの推進力の方向がなす角が舵角である。この実施形態では、右船外機OMsは中心線2aの右側に配置されており、左船外機OMpは中心線2aの左側に配置されている。
【0030】
船体2の内部には、乗船者のための居住空間4が確保されている。居住空間4内に操船席5が設けられている。操船席5には、ステアリングホイール6、リモコンレバー7、ジョイスティック8、ゲージ9(表示パネル)などが設けられている。ステアリングホイール6は、船舶1の針路を変更するために使用者によって操作される操舵操作子の一例である。リモコンレバー7は、船外機OMの推進力の大きさ(出力)およびその方向(前進または後進)を変更するために使用者によって操作される操作子であり、アクセル操作子に相当する。この実施形態では、2機の船外機OMs,OMpにそれぞれ対応する2本のリモコンレバー7s,7pが備えられている。ジョイスティック8は、ステアリングホイール6およびリモコンレバー7の代わりに、操船のために使用者によって操作される操作子である。ジョイスティック8は、操舵操作子の他の例でもある。ゲージ9は、操船のための情報を表示するための表示装置であり、報知装置の一例である。
【0031】
図2は、船舶1に備えられる操船システム100の構成例を説明するための図である。
【0032】
船外機OMは、エンジン船外機または電動船外機のいずれの形態であってもよい。
図2には、エンジン船外機の例を示す。各船外機OMは、船外機コントローラ(電子制御ユニット)21、エンジン23、シフト機構24、プロペラ20、発電機30などを備えている。発電機30は、エンジン23によって駆動される。発電機30は、船外機OMの電装品に電力を供給するほか、船体2(
図1参照)に搭載されるバッテリ15を充電する。バッテリ15は、典型的には、各船外機OMに対応して個別に備えられる。
【0033】
エンジン23が発生する動力は、シフト機構24を介してプロペラ20に伝達される。シフト機構24は、前進位置、後進位置およびニュートラル位置のうちのいずれかのシフト位置を選択可能に構成されている。シフト位置が前進位置のとき、エンジン23の回転が伝達されることによってプロペラ20が正転方向に回転し、船外機OMは前進方向に推進力を発生する前進運転状態となる。シフト位置が後進位置のとき、エンジン23の回転が伝達されることによってプロペラ20が逆転方向に回転し、船外機OMは後進方向に推進力を発生する後進運転状態となる。シフト位置がニュートラル位置のとき、エンジン23とプロペラ20との間の動力伝達が遮断され、船外機OMはアイドリング状態となる。
【0034】
船外機OMは、さらに、スロットルアクチュエータ27およびシフトアクチュエータ28を備えており、これらは船外機コントローラ21によって制御される。スロットルアクチュエータ27は、エンジン23のスロットルバルブ(図示せず)を作動させる電動アクチュエータ(典型的には電動モータを含む。)である。シフトアクチュエータ28は、シフト機構24を作動させるためのアクチュエータ(典型的には電動モータを含む。)である。
【0035】
各転舵装置STGは、ステアリングコントローラ22と、ステアリングアクチュエータ25とを備えている。ステアリングコントローラ22は、ステアリングアクチュエータ25を駆動する。ステアリングアクチュエータ25は、転舵装置STGの駆動源であり、典型的には、電動モータを含む。ステアリングアクチュエータ25は、電動モータによって駆動されるボールねじ機構を有していてもよい。また、ステアリングアクチュエータ25は、電動モータによって駆動されるポンプ(電動ポンプ)によって作動油が供給される油圧シリンダを有する油圧アクチュエータであってもよい。
【0036】
転舵装置STGは、この実施形態では、船外機OMとは別のユニットとして構成され、船尾3に取り付けられている。しかし、転舵装置STGは、対応する船外機OMと一体化され、船外機OMに組み込まれていてもよい。また、転舵装置STGの一部分(たとえばステアリングコントローラ22)が対応する船外機OMのボディ内に組み込まれていてもよい。転舵装置STGには、舵角を検出するための舵角センサ29が組み込まれている。舵角センサ29は、ステアリングアクチュエータ25の可動部の位置を検出する位置センサで構成されていてもよい。また、舵角センサ29は、ステアリングアクチュエータ25の駆動力を船外機OMに伝達するリンク機構(図示せず)の可動部の位置を検出する位置センサで構成されていてもよい。それにより、舵角センサ29は、船外機OMの舵角に対応する信号を出力する。位置センサは、ホール素子およびマグネットで構成した非接触型磁気センサであってもよい。
【0037】
ステアリングホイール6は、回転軸線まわりに回転操作可能に構成されている。ステアリングホイール6は、操作領域端がなく、無限回転操作領域を有する操舵操作子である。ステアリングホイール6に関連して、その回転操作の速度(操作速度)を検出する操作速度センサ12が設けられている。操作速度センサ12は、ステアリングホイール6の操作量を検出する操作量センサの一例であり、単位時間当たりの操作量を操作速度として検出し、その操作速度を表す信号を発生する。操作速度センサ12は、ステアリングホイール6の操作を検出する操作センサの一例である。操作速度センサ12の出力信号は、ヘルムコントローラ16に入力される。ステアリングホイール6の回転軸に関連して、ステアリングホイール6の回転を規制する回転規制装置としてのブレーキ装置13(典型的には電磁ブレーキ装置)が設けられている。ブレーキ装置13は、ヘルムコントローラ16によって制御され、ステアリングホイール6の回転軸の回転を規制し、それによって、ステアリングホイール6の回転を規制する。
【0038】
前述のとおり、ステアリングホイール6は無限回転操作領域を有しており、右方向および左方向に無限に回転操作することができる。一方、船外機OMの転舵範囲には機械的な制約があるので、右転舵端および左転舵端が存在する。そこで、ヘルムコントローラ16は、船外機OMの舵角が右転舵端または左転舵端に相当するときに、ブレーキ装置13を作動させ、ステアリングホイール6の回転を規制する。それにより、ステアリングホイール6を操作する使用者は、ステアリングホイール6からの触覚フィードバックによって、船外機OMの舵角が転舵端に達したことを知ることができる。なお、転舵装置STGによって船外機OMが転舵される範囲の右転舵端および左転舵端は、船外機OMの機械的な転舵限界よりも内側(舵角中立位置寄り)に設定される場合がある。
【0039】
リモコンレバー7は、リモコンユニット17に回動操作可能に設けられている。リモコンユニット17は、使用者によって操作される2本のリモコンレバー7s,7pと、リモコンレバー7s,7pの操作位置をそれぞれ検出する2つの操作位置センサ19s,19p(総称するときには「操作位置センサ19」という。)とを有している。操作位置センサ19の出力信号は、2つのリモコンECU51s,51p(電子制御ユニット)に入力されている。2つのリモコンECU51s,51p(以下総称するときには「リモコンECU51」という。)は、2機の船外機OMs,OMpにそれぞれ対応している。
【0040】
船外機コントローラ21およびステアリングコントローラ22は、船外機制御ネットワーク56に接続されている。船外機制御ネットワーク56には、さらに、ヘルムコントローラ16およびリモコンECU51が接続されている。船外機制御ネットワーク56は、2つの転舵装置STGs,STGpにそれぞれ設けられた2つのステアリングコントローラ22の間を接続する通信線57を含み、全体としてリング状のネットワークを構成している。船外機コントローラ21は、エンジン23の運転状態を監視し、運転状態を表す情報を、たとえば周期的に、船外機制御ネットワーク56に送出する。運転状態を表す情報は、少なくとも、エンジン23が運転中か停止中かを表す情報を含む。たとえば、船外機コントローラ21は、エンジン23の回転速度の情報に基づいて、エンジン23の運転状態を検出することができる。
【0041】
ヘルムコントローラ16は、操作速度センサ12によって検出される操作速度を船外機制御ネットワーク56を介してステアリングコントローラ22に供給する。ステアリングコントローラ22は、ヘルムコントローラ16から与えられる操作速度に応じて、ステアリングアクチュエータ25を制御する。ステアリングコントローラ22は、舵角センサ29が検出する船外機OMの舵角または後述する目標舵角を船外機制御ネットワーク56に送出してもよい。ステアリングコントローラ22は、船外機OMの舵角が転舵端(具体的には、後述する制御舵角領域の端)に到達すると、ヘルムコントローラに対して、ヘルムロック指令を与えてもよい。ヘルムコントローラ16は、ステアリングコントローラ22からヘルムロック指令を受けると、ブレーキ装置13を作動させ、ステアリングホイール6の回転を規制する。
【0042】
ステアリングコントローラ22は、たとえば、後述する目標舵角が転舵端に相当する値になると、ヘルムコントローラ16にヘルムロック指令を与えてもよい。また、ステアリングコントローラ22は、舵角センサ29によって検出される舵角(実舵角)が転舵端に相当する値になると、ヘルムコントローラ16にヘルムロック指令を与えてもよい。ヘルムロック指令は、船外機OMの舵角が転舵端に相当することを表す舵角情報の一例である。
【0043】
ステアリングコントローラ22がヘルムロック指令を送出する代わりに、ヘルムコントローラ16が、船外機制御ネットワーク56に表れる目標舵角または実舵角に応じて、ブレーキ装置13を作動させてもよい。すなわち、ヘルムコントローラ16は、目標舵角または実舵角が転舵端に相当する値になると、ブレーキ装置13を作動させて、ステアリングホイール6の回転を規制するように構成されていてもよい。
【0044】
なお、後述するキャリブレーションモードにおいては、ブレーキ装置13の作動に関する上記の処理は行われない。すなわち、キャリブレーションモード中は、ブレーキ装置13は作動せず、ステアリングコントローラ22の無限回転操作が許容される。
【0045】
リモコンECU51は、操作位置センサ19によって検出されるリモコンレバー7の位置に応じて、推進力指令を生成し、船外機制御ネットワーク56を介して船外機コントローラ21に供給する。推進力指令はシフト指令および出力指令を含む。船外機コントローラ21は、シフト指令に基づいてシフトアクチュエータ28を制御し、シフト機構24のシフト位置を制御する。また、船外機コントローラ21は、出力指令に基づいてスロットルアクチュエータ27を制御し、それによって、エンジン23の出力(回転速度)を制御する。
【0046】
リモコンECU51には、船内ネットワーク55(CAN:コントロールエリアネットワーク)を介して、メインコントローラ50が接続されている。メインコントローラ50に、ジョイスティックユニット18が接続されている。ジョイスティックユニット18は、前後左右(すなわち、360度の全方位)に傾倒させる操作と、軸まわりに回す(ツイストする)操作とが可能なジョイスティック8を備えている。図示は省略するが、ジョイスティックユニット18は、ジョイスティック8の傾倒操作方向および傾倒操作量を検出する傾倒センサと、ジョイスティック8の回動操作方向および回動操作量を検出する回動センサとを備えている。傾倒センサは、ジョイスティック8の前後方向傾倒成分を検出する前後方向成分センサと、ジョイスティック8の左右方向傾倒成分を検出する左右方向成分センサとを含む。傾倒センサおよび回動センサの検出値はメインコントローラ50に入力される。
【0047】
ジョイスティックユニット18は、この例では、さらに、複数の操作ボタンを備えている。複数の操作ボタンは、ジョイスティックボタン180および保持モード設定ボタン181~183を含む。ジョイスティックボタン180は、ジョイスティック8を用いる制御モード(操船モード)、すなわち、ジョイスティックモードを選択するときに操船者によって操作される操作子である。保持モード設定ボタン181~183は、位置/方位保持系の制御モード(自動操船モードの一例)を設定するために使用者によって操作される操作ボタンである。より具体的には、保持モード設定ボタン181は、船舶の位置および船首方位(または船尾方位)を保持する定点保持モード(Stay Point)を設定するために操作される。保持モード設定ボタン182は、船舶の位置を保持し船首方位(または船尾方位)は保持しない位置保持モード(Fish Point)を設定するために操作される。保持モード設定ボタン183は、船首方位(または船尾方位)を保持し位置の保持は行わない方位保持モード(Drift Point)を設定するために操作される。
【0048】
船内ネットワーク55には、さらに、GPS(Global Positioning System)受信機52、方位センサ53、アプリケーションスイッチパネル60などが接続されている。GPS受信機52は、位置検出装置の一例であり、地球を周回する人工衛星からの電波を受信して船舶1の位置を特定し、船舶1の位置を表す位置データと、船舶1の移動速度を表す速度データとを出力する。これらのデータは、メインコントローラ50によって取得され、船舶1の位置および/または方位の表示や制御のために用いられる。方位センサ53は、船舶1の方位を検出して、方位データを生成する。その方位データはメインコントローラ50によって利用される。
【0049】
アプリケーションスイッチパネル60は、予め定義した機能の実行を指令するための複数のファンクションスイッチ61を含む。たとえば、ファンクションスイッチ61は、自動操船を指令するためのスイッチを含んでいてもよい。より具体的には、一つのファンクションスイッチ61は、前進中に船首方位を維持する自動操舵を行う船首保持モード(Heading Hold)を指令するために割り当てられていてもよい。また、別のファンクションスイッチ61は、前進中に船首方位を保持し、かつ直進する進路を保持する自動操舵を行う直進保持モード(Course Hold)を指令するために割り当てられていてもよい。さらに別のファンクションスイッチ61は、指定した複数の通過点を順に通る経路(ルート)に従って航行させる自動操舵を行う通過点追従モード(Track Point)を指令するために割り当てられていてもよい。さらに別のファンクションスイッチ61は、所定の航走パターン(ジグザグパターン、スパイラルパターンなど)に従って航走させる自動操舵を行うパターン航走モード(Pattern Steer)を指令するために割り当てられていてもよい。これらのモードは、自動操船モードの例である。
【0050】
船内ネットワーク55には、さらに、ゲージ9が接続されている。ゲージ9は、操船のための各種情報を表示するための表示装置である。ゲージ9は、たとえば、メインコントローラ50、リモコンECU51等と通信可能である。それにより、ゲージ9は、船外機OMの運転状態、船舶1の位置および/または方位などの情報を表示することができる。ゲージ9には、タッチパネルやボタン等の入力装置10が備えられていてもよい。使用者が入力装置10を操作することにより、操作信号が船内ネットワーク55に送出され、様々な設定や指令が行えるようになっていてもよい。ゲージ9に関連する表示制御信号を伝達するために、船内ネットワーク55とは別のネットワークが構築されていてもよい。
【0051】
メインコントローラ50は、プロセッサおよびメモリ(いずれも図示省略)を含み、メモリに格納されたプログラムをプロセッサが実行することによって、複数の機能を達成するように構成されている。メインコントローラ50は、複数の制御モードを有している。メインコントローラ50の制御モードは、操作系の観点からは、通常操船モード、ジョイスティックモードおよび自動操船モードに分類できる。
【0052】
通常操船モードは、ステアリングホイール6の操作に応じて転舵制御を行い、かつリモコンレバー7の操作に応じて推進力制御を行う制御モードである。この実施形態では、通常操船モードは、メインコントローラ50のデフォルト制御モードである。転舵制御とは、具体的には、ステアリングホイール6の操作に応じて操作速度センサ12が生成する操作速度信号またはリモコンECU51が生成する転舵角指令(具体的には目標舵角の指令)に応じて、ステアリングコントローラ22がステアリングアクチュエータ25を駆動させる制御動作をいう。これにより、船外機OMが左右に転舵して、船体2に対する推進力の方向が左右に変化する。推進力制御とは、具体的には、リモコンECU51が船外機コントローラに与える推進力指令(シフト指令および出力指令)に応じて、船外機コントローラ21がシフトアクチュエータ28およびスロットルアクチュエータ27を駆動させる制御動作をいう。これにより、船外機OMのシフト位置が前進位置、後進位置またはニュートラル位置に設定され、かつエンジン出力(具体的にはエンジン回転速度)が変化する。
【0053】
ジョイスティックモードは、ジョイスティック8の操作信号に応じて転舵制御および推進力制御を行う制御モードである。ジョイスティックモードでは、ジョイスティック8の操作に応じて転舵制御および推進力制御が行われる。すなわち、メインコントローラ50は、ジョイスティック8の操作に応じて、リモコンECU51に転舵角指令および推進力指令を与え、リモコンECU51はそれらをステアリングコントローラ22および船外機コントローラ21に与える。
【0054】
自動操船モードは、ステアリングホイール6、リモコンレバー7およびジョイスティック8の操作によることなく、メインコントローラ50等の働きによって、転舵制御および/または推進力制御を自動で行う制御モードである。すなわち、自動操船が行われる。自動操船には、航走時に使用される航走系の自動操船と、位置および方位の一方または両方を維持する位置/方位保持系の自動操船とがある。航走系の自動操船の例は、ファンクションスイッチ61の操作によって指令される前述の自動操舵である。位置/保持系の自動操船は、保持モード設定ボタン181~183の操作によって指令される、定点保持モード、位置保持モードおよび方位保持モードによる操船を含む。このような自動操船モードにおいて、メインコントローラ50は、GPS受信機52が生成する位置情報および/または方位センサ53が生成する方位情報を利用して、転舵角指令および推進力指令を生成する。自動操船モードにおいても、ジョイスティックモードの場合と同じく、メインコントローラ50は、リモコンECU51に転舵角指令および推進力指令を与え、リモコンECU51は、それらをステアリングコントローラ22および船外機コントローラ21に与える。
【0055】
ジョイスティックモードおよび自動操船モードにおいては、ヘルムコントローラ16は、操作速度センサ12の出力を船外機制御ネットワーク56に供給しなくてもよい。あるいは、ステアリングコントローラ22は、リモコンECU51から転舵角指令が与えられるときには、ヘルムコントローラ16が船外機制御ネットワーク56に送出する操作速度信号に応答しないようにプログラムされていてもよい。
【0056】
図3は、転舵装置STGの構成例を説明するための図である。転舵装置STGは、この例では、油圧式の転舵装置である。転舵装置STGは、油圧ポンプ45と、油圧ポンプ45を駆動する電動モータMと、油圧シリンダ40と、油圧ポンプ45と油圧シリンダ40との間で作動油を流動させる油圧回路46とを含む。油圧シリンダ40は、複動式シリンダであり、シリンダチューブ47と、シリンダチューブ47内に設けられたピストン43と、ピストン43に固定されその両側に延びたピストンロッド44とを含む。
【0057】
シリンダチューブ47およびピストンロッド44は左右方向に延びている。ピストンロッド44の両端部は、船外機OMのスイベルブラケット33に結合されている。シリンダチューブ47内の空間は、ピストン43によって右シリンダ室41および左シリンダ室42に区画されている。シリンダチューブ47は、船外機OMのステアリングアーム34に連結されている。シリンダチューブ47は、ピストンロッド44に案内されて左右に移動可能であり、それにより、船外機OMのステアリングアーム34を左右に移動させ、船外機OMをステアリング軸35まわりに左右に旋回(転舵)させる。
【0058】
油圧回路46は、右シリンダ室41および左シリンダ室42に接続されている。電動モータMは正逆回転可能に構成されており、その回転方向に応じて、油圧ポンプ45が、2つのシリンダ室41,42の一方に作動油を送り込む。それにより、そのシリンダ室の容積が大きくなり、他方のシリンダ室の容積が小さくなるように、シリンダチューブ47が左右に移動する。
【0059】
電動モータMおよび油圧ポンプ45により、電動ポンプが構成されている。また、電動モータM、油圧ポンプ45、油圧回路46および油圧シリンダ40によって、油圧アクチュエータからなるステアリングアクチュエータ25が構成されている。舵角センサ29は、シリンダチューブ47の左右方向の位置を検出してもよい。また、舵角センサ29は、ステアリングアーム34の回転位置を検出してもよい。それによって、舵角センサ29は、船外機OMの舵角を検出する。
【0060】
油圧回路46には、左右のシリンダ室41,42の間を連通させるバイパス油路46aと、そのバイパス油路46aを開閉するためのリリーフバルブ46bとが設けられていることが好ましい。リリーフバルブ46bを手動で開くことにより、左右のシリンダ室41,42がバイパス油路46aを介して連通するので、使用者は、船外機OMに外力を加えて、左右に手動で転舵させることができる。そして、所望の舵角の状態でリリーフバルブ46bを手動で閉じると、その舵角を保持することができる。こうして、リリーフバルブ46b等により、緊急時のための手動機構を構成することができる。
【0061】
図4は、ステアリングコントローラ22の構成例を説明するためのブロック図である。ステアリングコントローラ22は、処理装置65と駆動回路66とを備えている。処理装置65はプロセッサ65aおよびメモリ65bを備え、プロセッサ65aがメモリ65bに記憶されているプログラムを実行することにより複数の機能を実現するように構成されている。具体的には、処理装置65は、フィードバック制御部70等の機能を有するようにプログラムされている。
【0062】
フィードバック制御部70は、目標舵角を達成するように舵角センサ29の出力信号(操作速度信号)に基づいてステアリングアクチュエータ25(より具体的には電動モータM)をフィードバック制御する。
【0063】
フィードバック制御部70は、目標舵角演算部71、偏差演算部72、PID(比例積分微分)制御部73、およびPWM(パルス幅変調)信号生成部74としての機能を有する。目標舵角演算部71は、ヘルムコントローラ16から与えられる操作速度信号に基づいて、目標舵角を演算する。具体的には、操作速度信号を積算して目標舵角を演算する。積算のための初期値には、舵角センサ29によって検出される舵角が用いられる。偏差演算部72は、舵角センサ29によって検出される舵角(実舵角)の目標舵角に対する偏差を演算する。用いられる目標舵角は、目標舵角演算部71によって演算される目標舵角である場合と、リモコンECUから与えられる転舵角指令に含まれる目標舵角の場合とがある。PID制御部73は、偏差演算部72によって求められる偏差に対して比例積分微分演算を行って、偏差を減少させるための制御値を生成する。その制御値に応じたデューティ比のPWM信号がPWM信号生成部74によって生成される。PWM信号生成部74によって生成されるPWM信号によって駆動回路66が駆動される。
【0064】
駆動回路66は、船外機OMに備えられる発電機30によって充電されるバッテリ15(
図2を併せて参照)に接続されたH型ブリッジ回路で構成されている。バッテリ15は、2機の船外機OMにそれぞれ対応して2個設けられていてもよい。駆動回路66を構成するH型ブリッジ回路には、上アームスイッチング素子U1,U2および下アームスイッチング素子L1,L2の直列回路が2組設けられており、この2組の直列回路がバッテリ15に対して並列に接続されている。スイッチング素子U1,U2,L1,L2は、典型的には、パワートランジスタ等の半導体スイッチである。第1の直列回路を構成する一対のスイッチング素子U1,L1の間の接続点N1と、第2の直列回路を構成する一対のスイッチング素子U2,L2の間の接続点N2とに、電動モータMの一対の端子がそれぞれ接続されている。電動モータMは、たとえば、DCモータ(直流モータ)である。PWM信号生成部74によって生成されるPWM信号によって、各スイッチング素子U1,U2,L1,L2がスイッチングされることにより、PWM信号のデューティ比に応じた電圧が電動モータMに印加される。
【0065】
たとえば、電動モータMを正転方向に駆動するときには、第1の直列回路の下アームスイッチング素子L1および第2の直列回路の上アームスイッチング素子U2はオフ状態に維持される。そして、第1の直列回路の上アームスイッチング素子U1および第2の直列回路の下アームスイッチング素子L2がPWM信号によってオン/オフされる。また、電動モータMを逆転方向に駆動するときには、第1の直列回路の上アームスイッチング素子U1および第2の直列回路の下アームスイッチング素子L2をオフ状態に維持する。そして、第1の直列回路の下アームスイッチング素子L1および第2の直列回路の上アームスイッチング素子U2がPWM信号によってオン/オフされる。
【0066】
こうして、実舵角の目標舵角に対する偏差(舵角偏差)に応じたデューティ比のPWM信号によって駆動回路66が駆動されることにより、舵角偏差を減少させる電圧が電動モータMに印加され、それによって、船外機OMを目標舵角へと導くことができる。すなわち、舵角センサ29によって検出される実舵角を目標舵角へと導くように、ステアリングアクチュエータ25のフィードバック制御が実行される。
【0067】
駆動回路66から電動モータMに供給される電流(モータ電流)を検出するための電流センサ68(電流検出回路)が設けられている。電流センサ68の出力信号は処理装置65に入力されている。処理装置65は、電流センサ68の出力信号に基づいてモータ電流を検出できる。処理装置65は、モータ電流を監視し、必要に応じてPWM信号のデューティ比を制限して、電動モータMに印加される電圧を制限してもよい。
【0068】
図5は、船外機OMの転舵領域と目標舵角の領域である制御舵角領域との関係を説明するための図である。船外機OMの転舵領域とは、船外機OMを機械的に転舵可能な舵角領域である。すなわち、転舵領域の一端および他端の舵角において、船外機OMの転舵が機械的に規制される。目標舵角が設定される制御舵角領域は、転舵領域内で設定可能な舵角領域である。典型的には、制御舵角領域は転舵領域よりも狭く、制御舵角領域の右端は制御舵角領域の右端よりも内方(左)に位置し、制御舵角領域の左端は制御舵角領域の左端よりも内方(右)に位置している。たとえば、2機以上の船外機OMが左右に並んで配置されている複数機掛けの場合には、船外機OM同士の干渉を回避するために、転舵領域よりも狭い制御舵角領域が設定される。
【0069】
たとえば、舵角中立位置での舵角を零とし、船外機OMの後端が舵角中立位置よりも右側に位置するときの舵角に正符号を付し、船外機OMの後端が舵角中立位置よりも左側に位置するときの舵角に負符号を付すことにする。このとき、転舵領域は-α≦θ≦α(α>0。たとえばαは38度程度)の舵角θの範囲であり、制御舵角領域は-β≦θ≦β(α>β>0。たとえばβは30度程度)の舵角θの範囲である。
【0070】
図6は、舵角センサ29のキャリブレーションのための手順およびステアリングコントローラ22の処理等を説明するためのフローチャートである。ステアリングコントローラ22は、通常の制御モードのほかに、転舵装置STGの転舵領域の右端および左端における舵角センサ29の出力信号をメモリ65b(
図4参照)に記憶するためのキャリブレーションモードを有する。転舵領域の両端での舵角センサ29の出力信号を記憶することにより、ステアリングコントローラ22は、舵角センサ29の出力信号に基づいて、船外機OMの舵角を演算することができる。すなわち、キャリブレーションモードは、舵角センサ29の出力信号を較正するためのキャリブレーションを実行するための制御モードである。キャリブレーションは、典型的には、ボートビルダまたはボートディーラにおいて、船舶1の組立またはメンテナンスの際に実行される。
【0071】
たとえば、ゲージ9の入力装置10から所定のキャリブレーション開始指令を入力することによって、ステアリングコントローラ22をキャリブレーションモードに設定できる。キャリブレーションモードにおいて、ステアリングコントローラ22は、前述のフィードバック制御を行わず、操作速度センサ12の出力信号に応じてステアリングアクチュエータ25を駆動するフィードフォワード型の制御を実行する。キャリブレーションを完了する前は、舵角センサ29の出力信号に基づく舵角の演算はできない。したがって、ステアリングコントローラ22は、目標舵角の演算を行わず、また船外機制御ネットワーク56に舵角情報を送出しない。したがって、ブレーキ装置13が作動されることはなく、ステアリングホイール6の回転は規制されない。
【0072】
キャリブレーションモードが開始されると、ゲージ9には、船外機OMが転舵領域の一端に達するまでステアリングホイール6を操作すべき旨の指示が表示される(ステップS1)。これに従って操作者がステアリングホイール6を左右いずれか一方(たとえば右方)に回転操作すると、それに応じて、ステアリングホイール6の操作方向側の端に配置されている船外機OMに対応するステアリングアクチュエータ25が作動し、対応する転舵装置STGによって、船外機OMが転舵領域の一端まで転舵される(ステップS2)。
【0073】
たとえば、
図7Aに示すように、キャリブレーションモードの開始時に左右の船外機OMがいずれも舵角中立位置にある場合を考える。キャリブレーションモードが開始され、ステアリングホイール6が右方向に回転操作されると、右端の船外機OMsが転舵領域の右端に向かって転舵される。その船外機OMsの舵角が、
図7Bに示すように、転舵領域の右端に達すると、船外機OMsの転舵が機械的に規制されるので、舵角センサ29の出力信号が変化しなくなる。また、電動モータMの負荷が大きくなるので、モータ電流が増加する。これらに基づいて、ステアリングコントローラ22は、転舵領域の一端(ここでは右端)に到達したことを検知し(ステップS3)、そのときの舵角センサ29の出力信号を当該船外機OMsの転舵領域の一端(ここでは右端)での値としてメモリ65bに記憶する(ステップS6)。この実施形態では、船外機OMsの舵角が転舵領域の一端(ここでは右端)に達すると、そのことがゲージ9に表示され、操作者に通知される(ステップS4)。この通知を受けた操作者は、入力装置10を操作して、指令を入力する(ステップS5)。その指令を受けて、ステアリングコントローラ22は、舵角センサ29の出力信号をメモリ65bに格納する(ステップS6)。この場合、ゲージ9は通知ユニットとして機能し、入力装置10は指令ユニットとして機能する。
【0074】
複数の船外機OMに対応するステアリングコントローラ22は、互いに連携して、キャリブレーションが未了の船外機OMがあるかどうかを判断する(ステップS7)。キャリブレーション未了の船外機OMがある場合には(ステップS7:YES)、ステップS1からの処理が繰り返される。
【0075】
すなわち、ゲージ9には、次の船外機OM、すなわち、右端側から2番目に配置されている船外機OMpが転舵領域の一端(ここでは右端)に達するまでステアリングホイール6を操作すべき旨の指示が表示される(ステップS1)。したがって、操作者は、ステアリングホイール6を同じ方向(ここでは右方向)に回転操作することになる。すると、その操作方向の端(ここでは右端)から2番目に配置されている船外機OMpに対応するステアリングコントローラ22が、対応する転舵装置STGpのステアリングアクチュエータ25を作動させる(ステップS2)。それにより、
図7Cに示すように、当該船外機OMpが転舵領域の一端(ここでは右端)に向かって転舵される。そして、転舵領域の一端(ここでは右端)に到達したときの舵角センサ29の出力信号が当該船外機OMpの転舵領域の一端(ここでは右端)での値としてメモリ65bに記憶される(ステップS3,S6)。転舵領域の一端(ここでは右端)に達したときのゲージ9による通知(ステップS4)、および操作者による入力装置10からの指令入力(ステップS5)についても前述の場合と同様である。
【0076】
同様の処理が全ての船外機OMに関して当該一端側(たとえば右端側)での舵角センサ29の値をメモリ65bに格納するまで繰り返され(ステップS7)、それによって、一方側(ここでは右側)のキャリブレーションが終了する(ステップS7:NO)。
【0077】
すると、ゲージ9には、他方側(ここでは左側)の端の船外機OMが転舵領域の他端(ここでは左端)に達するまでステアリングホイール6を操作すべき旨の指示が表示される(ステップS8)。これに従って操作者がステアリングホイール6を他方側(ここでは左方側)に回転操作する。すると、それに応じて、ステアリングホイール6の操作方向側の端(ここでは左端)に配置されている船外機OMpに対応するステアリングアクチュエータ25が作動し、対応する転舵装置STGpによって、船外機OMpが転舵領域の他端(ここでは左端)に向かって転舵される(ステップS9。
図7D参照)。船外機OMpが転舵領域の他端(ここでは左端)に達すると、船外機OMpの転舵が機械的に規制されるので、舵角センサ29の出力信号が変化しなくなる。また、電動モータMの負荷が大きくなるので、モータ電流が増加する。これらに基づいて、ステアリングコントローラ22は、転舵領域の他端(ここでは左端)に到達したことを検知し(ステップS10)、そのときの舵角センサ29の出力信号を当該船外機OMpの転舵領域の他端(ここでは左端)での値としてメモリ65bに記憶する(ステップS13)。この実施形態では、船外機OMpの舵角が転舵領域の他端(ここでは左端)に達すると、そのことがゲージ9に表示され、操作者に通知される(ステップS11)。この通知を受けた操作者は、入力装置10を操作して、指令を入力する(ステップS12)。その指令を受けて、ステアリングコントローラ22は、舵角センサ29の出力信号をメモリ65bに格納する(ステップS13)。
【0078】
複数の船外機OMに対応するステアリングコントローラ22は、互いに連携して、キャリブレーションが未了の船外機OMがあるかどうかを判断する(ステップS14)。キャリブレーション未了の船外機OMがある場合には(ステップS14:YES)、ステップS8からの処理が繰り返される。
【0079】
すなわち、ゲージ9には、次の船外機OM、すなわち、左端側から2番目に配置されている船外機OMsが転舵領域の他端(ここでは左端)に達するまでステアリングホイール6を操作すべき旨の指示が表示される(ステップS8)。したがって、操作者は、ステアリングホイール6を同じ方向(ここでは右方向)に回転操作する。すると、その操作方向の端(ここでは左端)から2番目に配置されている船外機OMsに対応するステアリングコントローラ22が対応する転舵装置STGpを作動させる(ステップS9)。それによって、
図7Eに示すように、当該船外機OMsが転舵領域の他端(ここでは左端)に向かって転舵される(ステップS10)。そして、転舵領域の他端(ここでは左端)に到達したときの舵角センサ29の出力信号が当該船外機OMsの転舵領域の他端(ここでは左端)での値としてメモリ65bに記憶される(ステップS13)。転舵領域の他端(ここでは左端)に達したときのゲージ9による通知(ステップS11)、および操作者による入力装置10からの指令入力(ステップS12)についても前述の場合と同様である。
【0080】
同様の処理が全ての船外機OMに関して当該他端側(ここでは左端側)での舵角センサ29の値をメモリ65bに格納するまで繰り返され、それによって、他方側(ここでは左側)のキャリブレーションが終了する。
【0081】
こうして、全ての船外機OMに関して転舵領域の右端および左端での出力信号の記憶を終えると、ステアリングコントローラ22は、全ての船外機OMを所定舵角の位置(たとえば舵角中立位置)に導くように転舵装置STGを作動させる自動転舵制御を実行する(ステップS15。
図7F参照)。全ての船外機OMが同時に自動転舵されてもよく、また順次に自動転舵されてもよい。順次に自動転舵されるときには、キャリブレーションのために最後に転舵された船外機OMから順に自動転舵によって所定舵角の位置(たとえば舵角中立位置)に導かれる。すなわち、自動転舵が始まるとき、全ての船外機OMは転舵領域の他端(たとえば左端)まで転舵されているので、転舵領域の一端(たとえば右端)に位置する船外機から順に自動転舵される。それにより、船外機OM同士の干渉を回避しながら、全ての船外機を所定舵角の位置(たとえば中立位置)に導くことができる。全ての船外機OMが同時に自動転舵される場合には、実質的に等しい速度で同時に転舵すれば船外機OM同士が干渉することはない。
【0082】
自動転舵は、舵角センサ29のキャリブレーションを終えた後に行われるので、ステアリングコントローラ22は、舵角センサ29の出力信号を参照することによって、船外機OMを所定舵角の位置まで導くことができる。自動転舵のときの転舵速度を適切に制限しておき、船外機OMをゆっくりと自動転舵させることが好ましい。所定舵角は、制御舵角領域内の舵角(たとえば中立位置の舵角)であることが好ましい。それにより、ステアリングコントローラ22は、目標舵角に基づくフィードバック制御にスムーズに移行できる。
【0083】
自動転舵が実行されている期間中は、ステアリングコントローラ22は、操作速度信号に応答しない状態となる。すなわち、ステアリングホイール6の操作によらずに、所定舵角まで自動転舵される。
【0084】
以上のように、この実施形態によれば、転舵領域の一端および他端における舵角センサ29の出力信号を記憶することにより、ステアリングコントローラ22は、その記憶された値に基づいて、舵角センサ29の出力信号から舵角を求めることができる。すなわち、舵角センサ29の出力信号を舵角に紐付けるためのキャリブレーション(較正)を行うことができる。しかも、転舵領域の一端および他端での舵角センサ29の出力信号を記憶した後に、所定舵角(たとえは舵角中立位置)まで自動的に転舵されるので、ステアリングコントローラ22はその後の通常の転舵制御をスムーズに開始することができる。
【0085】
また、この実施形態では、ステアリングコントローラ22は、キャリブレーションモードにおいて、操作速度センサ12の出力信号に応じてステアリングアクチュエータ25を駆動することにより、転舵装置STGの転舵角を転舵領域の一端および他端に順に導く。それにより、操作者が転舵装置STGの動作を確認しながらキャリブレーションを行うことができる。そして、自動転舵制御の期間には、操作速度センサ12の出力信号によらずにステアリングアクチュエータ25を駆動して、所定の舵角に導く。つまり、転舵領域の一端および他端での舵角センサ29の出力信号が記憶された後は、ステアリングコントローラ22はステアリングホイール6の操作には応答せず、自動転舵制御によって、船外機OMを所定の舵角へと導く。したがって、キャリブレーションの後は、通常の制御へとスムーズに移行することができる。
【0086】
また、ステアリングコントローラは、転舵装置STGの転舵角が転舵領域の一端に達したことを検出して舵角センサ29の出力信号を記憶し、転舵装置STGの転舵角が転舵領域の他端に達したことを検出して舵角センサ29の出力信号を記憶する。したがって、舵角センサ29の出力信号を確実にキャリブレーションできる。
【0087】
さらに、この実施形態では、ステアリングコントローラ22によって、転舵装置STGの転舵角が転舵領域の一端および他端に達したことが検知され、そのことがゲージ9の表示によって操作者に通知される。そして、操作者が入力装置10を操作して指令を与えると、舵角センサ29の出力信号が記憶される。したがって、ステアリングコントローラ22による検出に加えて操作者による確認を経て、舵角センサ29の出力信号が記憶されるので、一層確実に舵角センサ29の出力信号をキャリブレーションできる。
【0088】
なお、操作者への通知出力(ステップS4,S11)および操作者からの指令入力(ステップS5,S12)を省いて、ステアリングコントローラ22の検出(ステップS3,S10)に基づいて、舵角センサ29の出力信号を記憶(ステップS6,S13)することとしてもよい。
【0089】
また、この実施形態では、ステアリングコントローラ22がステアリングアクチュエータ25を制御するときの目標舵角の領域(制御舵角領域)は、転舵領域の一端および他端の内側の舵角領域である。これにより、隣り合う船外機OM同士の干渉を回避しながら転舵制御を行える。そして、キャリブレーションを終了するときの自動転舵により、制御舵角領域内の舵角に導かれる。よって、その後の通常の制御へとスムーズに移行できる。
【0090】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、以下に例示するように、さらに他の形態で実施することができる。
【0091】
前述の実施形態では、2機の船外機OMを船体2に取り付けた構成の船舶1を示したが、1機または3機以上の船外機を船体2に取り付けた構成の船舶に上記の実施形態が応用されてもよい。
【0092】
船外機以外の形態の推進機が用いられてもよい。具体的には、船内機、船内外機、ウォータージェット等の形態の推進機を備える船舶に上記の実施形態が応用されてもよい。
【0093】
推進機の原動機は、エンジンである必要はなく、電動モータであってもよい。
【0094】
舵角は、船外機の舵角である必要はなく、舵板の角度であってもよい。
【0095】
操舵操作子としては、ステアリングホイールの代わりにジョイスティックが用いられてもよい。
【0096】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0097】
1:船舶、2:船体、6:ステアリングホイール、8:ジョイスティック、9:ゲージ、10:入力装置、12:操作速度センサ、20:プロペラ、21:船外機コントローラ、22:ステアリングコントローラ、25:ステアリングアクチュエータ、29:舵角センサ、40:油圧シリンダ、50:メインコントローラ、55:船内ネットワーク、56:船外機制御ネットワーク、65:処理装置、65a:プロセッサ、65b:メモリ、66:駆動回路、68:電流センサ、70:フィードバック制御部、100:操船システム、M:電動モータ、OM:船外機、STG:転舵装置