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特開2024-101416操船システムおよびそれを備える船舶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101416
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】操船システムおよびそれを備える船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/42 20060101AFI20240722BHJP
   B63H 25/02 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B63H25/42 B
B63H25/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005381
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠平
(72)【発明者】
【氏名】中西 諒
(57)【要約】
【課題】船舶の操舵に適した操船システムおよびそれを備える船舶を提供する。
【解決手段】操船システム100は、DCモータ(直流モータ)を有するステアリングアクチュエータ25を備える転舵装置STGと、舵角センサ29と、目標舵角および舵角センサの出力信号に基づいてDCモータをフィードバック制御することによりステアリングアクチュエータを駆動するステアリングコントローラ22と、を含む。一つの実施形態では、ステアリングコントローラは、モータ電流が所定の電流閾値を超えること(モータ電流条件)、およびモータ電流の上昇率が所定の上昇率閾値を超えること(電流上昇率条件)の少なくとも一方を含む電圧制限条件が成立すると、電圧制限を実行する。ステアリングコントローラは、電圧制限条件の成立が所定時間以上継続すると、電圧制限を実行してもよい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DCモータを有するステアリングアクチュエータを備え、船舶の針路変更のために舵角を変化させる転舵装置と、
前記舵角を検出する舵角センサと、
目標舵角および前記舵角センサの出力信号に基づいて前記DCモータをフィードバック制御することにより前記ステアリングアクチュエータを駆動するステアリングコントローラと、を含み、
前記ステアリングコントローラは、前記DCモータに印加する電圧を制御する電圧制御を実行し、かつ前記DCモータに流れるモータ電流に応じて、前記DCモータに印加する電圧を制限する電圧制限制御を実行する、操船システム。
【請求項2】
前記ステアリングコントローラは、前記モータ電流が所定の電流閾値を超えること、および前記モータ電流の上昇率が所定の上昇率閾値を超えることの少なくとも一方を含む電圧制限条件が成立すると、前記電圧制限制御を実行する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項3】
前記ステアリングコントローラは、前記電圧制限条件の成立が所定時間以上継続すると、前記電圧制限制御を実行する、請求項2に記載の操船システム。
【請求項4】
前記ステアリングコントローラは、前記DCモータに接続されたモータ駆動回路をPWM(Pulse Width Modulation)制御することによって前記電圧制御を実行し、前記電圧制限制御において、前記PWM制御のデューティ比を制限する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項5】
操舵のために操作者によって操作される操舵操作子と、
前記操舵操作子の操作を検出する操作センサと、をさらに含み、
前記ステアリングコントローラは、前記操作センサの出力信号に基づいて前記目標舵角を演算する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項6】
前記操舵操作子の操作によらない操船モードにおいて、前記目標舵角を生成して前記ステアリングコントローラに供給するメインコントローラをさらに含む、請求項5に記載の操船システム。
【請求項7】
前記ステアリングアクチュエータは、油圧シリンダと、前記油圧シリンダに作動油を供給するポンプとを有する油圧アクチュエータを含み、前記DCモータは前記ポンプを駆動する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項8】
前記転舵装置は、船体に取り付けられる船外機を転舵させる、請求項1に記載の操船システム。
【請求項9】
DCモータを有するステアリングアクチュエータを備え、船舶の針路変更のために舵角を変化させる転舵装置と、
前記DCモータを電圧制御によって駆動し、所定の過電流条件が成立すると、前記DCモータに印加する電圧を制限する電圧制限制御を実行するステアリングコントローラと、を含む、操船システム。
【請求項10】
船体と、
前記船体に装備される、請求項1~9のいずれか一項に記載の操船システムと、を含む、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、操船システムおよびそれを備える船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両用操舵制御システムを開示している。この車両用操舵制御システムは、モータと、モータにより回転駆動される車輪操舵軸と、車輪操舵軸とともに回転するピニオンと、ピニオンに噛合するラックバーと、車輪操舵軸の角度位置を検出する操舵軸角度検出部とを含む。ステアリングホイールの角度位置に応じて目標角度位置が決定され、車輪操舵軸の角度位置がその目標角度位置に近づくようにモータドライバを介してモータの動作が制御される。モータは、三相ブラシレスモータであり、モータドライバは三相にそれぞれ対応する3対の半導体スイッチング素子をH型ブリッジを構成するように配線して構成されている。半導体スイッチング素子は、マイクロコンピュータからなる駆動制御部からのPWM信号によって制御される。モータに流れる電流は電流センサによって検出され、電流検出値が規定値を超えると、ロック機構を作動させて、ステアリングホイールに結合されたハンドル軸と車輪操舵軸とが結合され、モータが停止され、モータの保護が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4019315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、船舶に適用するための操舵制御システムに関する記載はない。
【0005】
そこで、この発明の一実施形態は、船舶の操舵に適した操船システムおよびそれを備える船舶を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一実施形態は、DCモータ(直流モータ)を有するステアリングアクチュエータを備え、船舶の針路変更のために舵角を変化させる転舵装置と、前記舵角を検出する舵角センサと、目標舵角および前記舵角センサの出力信号に基づいて前記DCモータをフィードバック制御することにより前記ステアリングアクチュエータを駆動するステアリングコントローラと、を含む、操船システムを提供する。前記ステアリングコントローラは、前記DCモータに印加する電圧を制御する電圧制御を実行し、かつ前記DCモータに流れるモータ電流に応じて、前記DCモータに印加する電圧を制限する電圧制限制御を実行する。
【0007】
この実施形態では、ステアリングアクチュエータはDCモータを有しており、DCモータの動力によって転舵装置を作動させ、船舶の針路変更のために舵角を変化させる。DCモータを用いることにより、ステアリングアクチュエータのコストを低減できる利点がある。一方、DCモータのモータ電流は、負荷トルクに依存して成り行きで定まり、モータ電流を直接的に制御することはできない。そこで、この実施形態では、電圧制御によってDCモータをフィードバック制御して舵角センサによって検出される舵角(実舵角)を目標舵角に導く一方で、モータ電流に応じてDCモータに印加する電圧を制限する。これにより、過電流状態を回避しながら、安価なDCモータを用いて、転舵装置を適切にフィードバック制御できる。こうして、船舶の操舵に適した操船システムを提供できる。
【0008】
一つの実施形態では、前記ステアリングコントローラは、前記モータ電流が所定の電流閾値を超えること(モータ電流条件)、および前記モータ電流の上昇率が所定の上昇率閾値を超えること(電流上昇率条件)の少なくとも一方を含む電圧制限条件が成立すると、前記電圧制限制御を実行する。
【0009】
この構成によれば、モータ電流条件および電流上昇率条件の少なくとも一つが電圧制限条件に含まれており、この電圧制限条件が成立すると電圧制限が実行される。それにより、過電流状態を回避しながら、DCモータを用いて、転舵装置を適切にフィードバック制御できる。
【0010】
一つの実施形態では、前記ステアリングコントローラは、前記電圧制限条件の成立が所定時間以上継続すると、前記電圧制限制御を実行する。
【0011】
この構成によれば、電圧制限条件の成立が所定時間以上継続することが電圧制限の条件であるので、不必要な電圧制限を回避できる。したがって、過電流状態を回避しながら、安定した制御が可能になる。
【0012】
一つの実施形態では、前記ステアリングコントローラは、前記DCモータに接続されたモータ駆動回路をPWM(Pulse Width Modulation)制御することによって前記電圧制御を実行し、前記電圧制限制御において、前記PWM制御のデューティ比を制限する。
【0013】
この構成によれば、PWM制御のデューティ比を制限することにより、DCモータに印加される電圧を制限できる。デューティ比の制限は、デューティ比の上限を通常時(電圧制限条件不成立のとき)よりも小さい値に制限するリミッタ処理であってもよいし、通常のデューティ比に1未満の係数(たとえば一定の係数)を乗じる処理であってもよい。
【0014】
一つの実施形態では、前記操船システムは、操舵のために操作者によって操作される操舵操作子と、前記操舵操作子の操作を検出する操作センサと、をさらに含む。前記ステアリングコントローラは、前記操作センサの出力信号に基づいて前記目標舵角を演算する。
【0015】
この構成によれば、ステアリングコントローラは、操舵操作子の操作を検出する操作センサの出力信号に基づいて目標舵角を演算するので、その目標舵角を用いてステアリングアクチュエータをフィードバック制御できる。よって、操舵操作子の操作に応じて、ステアリングアクチュエータのDCモータが電圧制御され、かつモータ電流に応じて印加電圧が制限されることにより過電流を回避できる。
【0016】
一つの実施形態では、前記操船システムは、前記操舵操作子の操作によらない操船モードにおいて、前記目標舵角を生成して前記ステアリングコントローラに供給するメインコントローラをさらに含む。
【0017】
この構成により、操舵操作子の操作によらない操船モードも可能となる。このような操船モードは、ジョイスティックモード、自動操船モード等であってもよい。
【0018】
一つの実施形態では、前記ステアリングアクチュエータは、油圧シリンダと、前記油圧シリンダに作動油を供給するポンプとを有する油圧アクチュエータを含み、前記DCモータは前記ポンプを駆動する。
【0019】
この構成によれば、DCモータを駆動源とする電動ポンプ式の油圧アクチュエータで転舵装置を作動させることができる。その場合に、DCモータを電圧制御しながら、モータ電流に応じた電圧制限によって過電流を適切に回避できる。
【0020】
一つの実施形態では、前記転舵装置は、船体に取り付けられる船外機を転舵させる。
【0021】
この発明の一実施形態は、DCモータ(直流モータ)を有するステアリングアクチュエータを備え、船舶の針路変更のために舵角を変化させる転舵装置と、前記DCモータを電圧制御によって駆動し、所定の過電流条件が成立すると、前記DCモータに印加する電圧を制限する電圧制限制御を実行するステアリングコントローラと、を含む、操船システムを提供する。
【0022】
この実施形態では、ステアリングアクチュエータはDCモータを有しており、DCモータの動力によって転舵装置を作動させ、船舶の針路変更のために舵角を変化させる。DCモータを用いることにより、ステアリングアクチュエータのコストを低減できる利点がある。一方、DCモータのモータ電流は、負荷トルクに依存して成り行きで定まり、モータ電流を直接的に制御することはできない。そこで、この実施形態では、電圧制御によってDCモータを制御一方で、モータ電流に応じてDCモータに印加する電圧を制限する。これにより、過電流状態を回避しながら、安価なDCモータを用いて、転舵装置を適切に制御できる。こうして、船舶の操舵に適した操船システムを提供できる。
【0023】
この発明の一実施形態は、船体と、前記船体に装備される前記操船システムと、を含む、船舶を提供する。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、船舶の操舵に適した操船システムおよびそれを備える船舶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、この発明の一実施形態に係る操船システムを搭載した船舶の構成例を示す平面図である。
図2図2は、操船システムの構成例を説明するための図である。
図3図3は、転舵装置の構成例を説明するための図である。
図4図4は、ステアリングコントローラの構成例を説明するためのブロック図である。
図5図5は、ステアリングコントローラによる電圧制限制御の例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
図1は、この発明の一実施形態に係る操船システム100を搭載した船舶1の構成例を示す平面図である。船舶1は、船体2と、推進機の一例である船外機OMとを備えている。船外機OMは、船体2の船尾3に取り付けられている。船外機OMを左右に転舵するために、転舵装置STGが船尾3に設けられている。転舵装置STGは、船外機OMが発生する推進力の方向を左右に変化させる機構であり、船外機OMのボディを船体2に対して左右に旋回(転舵)させ、それによって、船舶1の針路変更のために、舵角を変化させる。舵角は、この実施形態では、船外機OMの推進力が船体2の前後方向に対してなす角によって定義される。端的には、平面視において船体2の前後方向に沿う中心線2aに対して船外機OMの推進力の方向がなす角が舵角である。
【0028】
船体2の内部には、乗船者のための居住空間4が確保されている。居住空間4内に操船席5が設けられている。操船席5には、ステアリングホイール6、リモコンレバー7、ジョイスティック8、ゲージ9(表示パネル)などが設けられている。ステアリングホイール6は、船舶1の針路を変更するために使用者によって操作される操舵操作子の一例である。リモコンレバー7は、船外機OMの推進力の大きさ(出力)およびその方向(前進または後進)を変更するために使用者によって操作される操作子であり、アクセル操作子に相当する。ジョイスティック8は、ステアリングホイール6およびリモコンレバー7の代わりに、操船のために使用者によって操作される操作子である。ジョイスティック8は、操舵操作子の他の例でもある。ゲージ9は、操船のための情報を表示するための表示装置であり、報知装置の一例である。
【0029】
図2は、船舶1に備えられる操船システム100の構成例を説明するための図である。
【0030】
船外機OMは、エンジン船外機または電動船外機のいずれの形態であってもよい。図2には、エンジン船外機の例を示す。船外機OMは、船外機コントローラ(電子制御ユニット)21、エンジン23、シフト機構24、プロペラ20、発電機30などを備えている。発電機30は、エンジン23によって駆動される。発電機30は、船外機OMの電装品に電力を供給するほか、船体2(図1参照)に搭載されるバッテリ15を充電する。
【0031】
エンジン23が発生する動力は、シフト機構24を介してプロペラ20に伝達される。シフト機構24は、前進位置、後進位置およびニュートラル位置のうちのいずれかのシフト位置を選択可能に構成されている。シフト位置が前進位置のとき、エンジン23の回転が伝達されることによってプロペラ20が正転方向に回転し、船外機OMは前進方向に推進力を発生する前進運転状態となる。シフト位置が後進位置のとき、エンジン23の回転が伝達されることによってプロペラ20が逆転方向に回転し、船外機OMは後進方向に推進力を発生する後進運転状態となる。シフト位置がニュートラル位置のとき、エンジン23とプロペラ20との間の動力伝達が遮断され、船外機OMはアイドリング状態となる。
【0032】
船外機OMは、さらに、スロットルアクチュエータ27およびシフトアクチュエータ28を備えており、これらは船外機コントローラ21によって制御される。スロットルアクチュエータ27は、エンジン23のスロットルバルブ(図示せず)を作動させる電動アクチュエータ(典型的には電動モータを含む。)である。シフトアクチュエータ28は、シフト機構24を作動させるためのアクチュエータ(典型的には電動モータを含む。)である。
【0033】
転舵装置STGは、ステアリングコントローラ22と、ステアリングアクチュエータ25とを備えている。ステアリングコントローラ22は、ステアリングアクチュエータ25を駆動する。ステアリングアクチュエータ25は、転舵装置STGの駆動源であり、典型的には、電動モータを含む。ステアリングアクチュエータ25は、電動モータによって駆動されるボールねじ機構を有していてもよい。また、ステアリングアクチュエータ25は、電動モータによって駆動されるポンプ(電動ポンプ)によって作動油が供給される油圧シリンダを有する油圧アクチュエータであってもよい。
【0034】
転舵装置STGは、この実施形態では、船外機OMとは別のユニットとして構成され、船尾3に取り付けられている。しかし、転舵装置STGは、船外機OMと一体化され、船外機OMに組み込まれていてもよい。また、転舵装置STGの一部分(たとえばステアリングコントローラ22)が船外機OMのボディ内に組み込まれていてもよい。転舵装置STGには、舵角を検出するための舵角センサ29が組み込まれている。舵角センサ29は、ステアリングアクチュエータ25の可動部の位置を検出する位置センサで構成されていてもよい。また、舵角センサ29は、ステアリングアクチュエータ25の駆動力を船外機OMに伝達するリンク機構(図示せず)の可動部の位置を検出する位置センサで構成されていてもよい。それにより、舵角センサ29は、船外機OMの舵角に対応する信号を出力する。位置センサは、ホール素子およびマグネットで構成した非接触型磁気センサであってもよい。
【0035】
ステアリングホイール6は、回転軸線まわりに回転操作可能に構成されている。ステアリングホイール6は、操作領域端がなく、無限回転操作領域を有する操舵操作子である。ステアリングホイール6に関連して、その回転操作の速度(操作速度)を検出する操作速度センサ12が設けられている。操作速度センサ12は、ステアリングホイール6の操作量を検出する操作量センサの一例であり、単位時間当たりの操作量を操作速度として検出し、その操作速度を表す信号を発生する。操作速度センサ12は、ステアリングホイール6の操作を検出する操作センサの一例である。操作速度センサ12の出力信号は、ヘルムコントローラ16に入力される。ステアリングホイール6の回転軸に関連して、ステアリングホイール6の回転を規制する回転規制装置としてのブレーキ装置13(典型的には電磁ブレーキ装置)が設けられている。ブレーキ装置13は、ヘルムコントローラ16によって制御され、ステアリングホイール6の回転軸の回転を規制し、それによって、ステアリングホイール6の回転を規制する。
【0036】
前述のとおり、ステアリングホイール6は無限回転操作領域を有しており、右方向および左方向に無限に回転操作することができる。一方、船外機OMの転舵範囲には機械的な制約があるので、右転舵端および左転舵端が存在する。そこで、ヘルムコントローラ16は、船外機OMの舵角が右転舵端または左転舵端に相当するときに、ブレーキ装置13を作動させ、ステアリングホイール6の回転を規制する。それにより、ステアリングホイール6を操作する使用者は、ステアリングホイール6からの触覚フィードバックによって、船外機OMの舵角が転舵端に達したことを知ることができる。なお、転舵装置STGによって船外機OMが転舵される範囲の右転舵端および左転舵端は、船外機OMの機械的な転舵限界よりも内側(舵角中立位置寄り)に設定される場合がある。
【0037】
リモコンレバー7は、リモコンユニット17に回動操作可能に設けられている。リモコンユニット17は、リモコンレバー7の操作位置を検出する操作位置センサ19を有している。操作位置センサ19の出力信号は、リモコンECU51(電子制御ユニット)に入力されている。
【0038】
船外機コントローラ21およびステアリングコントローラ22は、船外機制御ネットワーク56に接続されている。船外機制御ネットワーク56には、さらに、ヘルムコントローラ16およびリモコンECU51が接続されている。
【0039】
ヘルムコントローラ16は、操作速度センサ12によって検出される操作速度を船外機制御ネットワーク56を介してステアリングコントローラ22に供給する。ステアリングコントローラ22は、ヘルムコントローラ16から与えられる操作速度に応じて、ステアリングアクチュエータ25を制御する。ステアリングコントローラ22は、舵角センサ29が検出する船外機OMの舵角または後述する目標舵角を船外機制御ネットワーク56に送出してもよい。ステアリングコントローラ22は、船外機OMの舵角が転舵端に到達すると、ヘルムコントローラに対して、ヘルムロック指令を与えてもよい。ヘルムコントローラ16は、ステアリングコントローラ22からヘルムロック指令を受けると、ブレーキ装置13を作動させ、ステアリングホイール6の回転を規制する。
【0040】
ステアリングコントローラ22は、たとえば、後述する目標舵角が転舵端に相当する値になると、ヘルムコントローラ16にヘルムロック指令を与えてもよい。また、ステアリングコントローラ22は、舵角センサ29によって検出される舵角(実舵角)が転舵端に相当する値になると、ヘルムコントローラ16にヘルムロック指令を与えてもよい。ヘルムロック指令は、船外機OMの舵角が転舵端に相当することを表す舵角情報の一例である。
【0041】
ステアリングコントローラ22がヘルムロック指令を送出する代わりに、ヘルムコントローラ16が、船外機制御ネットワーク56に表れる目標舵角または実舵角に応じて、ブレーキ装置13を作動させてもよい。すなわち、ヘルムコントローラ16は、目標舵角または実舵角が転舵端に相当する値になると、ブレーキ装置13を作動させて、ステアリングホイール6の回転を規制するように構成されていてもよい。
【0042】
リモコンECU51は、操作位置センサ19によって検出されるリモコンレバー7の位置に応じて、推進力指令を生成し、船外機制御ネットワーク56を介して船外機コントローラ21に供給する。推進力指令はシフト指令および出力指令を含む。船外機コントローラ21は、シフト指令に基づいてシフトアクチュエータ28を制御し、シフト機構24のシフト位置を制御する。また、船外機コントローラ21は、出力指令に基づいてスロットルアクチュエータ27を制御し、それによって、エンジン23の出力(回転速度)を制御する。
【0043】
リモコンECU51には、船内ネットワーク55(CAN:コントロールエリアネットワーク)を介して、メインコントローラ50が接続されている。メインコントローラ50に、ジョイスティックユニット18が接続されている。ジョイスティックユニット18は、前後左右(すなわち、360度の全方位)に傾倒させる操作と、軸まわりに回す(ツイストする)操作とが可能なジョイスティック8を備えている。図示は省略するが、ジョイスティックユニット18は、ジョイスティック8の傾倒操作方向および傾倒操作量を検出する傾倒センサと、ジョイスティック8の回動操作方向および回動操作量を検出する回動センサとを備えている。傾倒センサは、ジョイスティック8の前後方向傾倒成分を検出する前後方向成分センサと、ジョイスティック8の左右方向傾倒成分を検出する左右方向成分センサとを含む。傾倒センサおよび回動センサの検出値はメインコントローラ50に入力される。
【0044】
ジョイスティックユニット18は、この例では、さらに、複数の操作ボタンを備えている。複数の操作ボタンは、ジョイスティックボタン180および保持モード設定ボタン181~183を含む。ジョイスティックボタン180は、ジョイスティック8を用いる制御モード(操船モード)、すなわち、ジョイスティックモードを選択するときに操船者によって操作される操作子である。保持モード設定ボタン181~183は、位置/方位保持系の制御モード(自動操船モードの一例)を設定するために使用者によって操作される操作ボタンである。より具体的には、保持モード設定ボタン181は、船舶の位置および船首方位(または船尾方位)を保持する定点保持モード(Stay Point)を設定するために操作される。保持モード設定ボタン182は、船舶の位置を保持し船首方位(または船尾方位)は保持しない位置保持モード(Fish Point)を設定するために操作される。保持モード設定ボタン183は、船首方位(または船尾方位)を保持し位置の保持は行わない方位保持モード(Drift Point)を設定するために操作される。
【0045】
船内ネットワーク55には、さらに、GPS(Global Positioning System)受信機52、方位センサ53、アプリケーションスイッチパネル60などが接続されている。GPS受信機52は、位置検出装置の一例であり、地球を周回する人工衛星からの電波を受信して船舶1の位置を特定し、船舶1の位置を表す位置データと、船舶1の移動速度を表す速度データとを出力する。これらのデータは、メインコントローラ50によって取得され、船舶1の位置および/または方位の表示や制御のために用いられる。方位センサ53は、船舶1の方位を検出して、方位データを生成する。その方位データはメインコントローラ50によって利用される。
【0046】
アプリケーションスイッチパネル60は、予め定義した機能の実行を指令するための複数のファンクションスイッチ61を含む。たとえば、ファンクションスイッチ61は、自動操船を指令するためのスイッチを含んでいてもよい。より具体的には、一つのファンクションスイッチ61は、前進中に船首方位を維持する自動操舵を行う船首保持モード(Heading Hold)を指令するために割り当てられていてもよい。また、別のファンクションスイッチ61は、前進中に船首方位を保持し、かつ直進する進路を保持する自動操舵を行う直進保持モード(Course Hold)を指令するために割り当てられていてもよい。さらに別のファンクションスイッチ61は、指定した複数の通過点を順に通る経路(ルート)に従って航行させる自動操舵を行う通過点追従モード(Track Point)を指令するために割り当てられていてもよい。さらに別のファンクションスイッチ61は、所定の航走パターン(ジグザグパターン、スパイラルパターンなど)に従って航走させる自動操舵を行うパターン航走モード(Pattern Steer)を指令するために割り当てられていてもよい。これらのモードは、自動操船モードの例である。
【0047】
船内ネットワーク55には、さらに、ゲージ9が接続されている。ゲージ9は、操船のための各種情報を表示するための表示装置である。ゲージ9は、たとえば、メインコントローラ50、リモコンECU51等と通信可能である。それにより、ゲージ9は、船外機OMの運転状態、船舶1の位置および/または方位などの情報を表示することができる。ゲージ9には、タッチパネルやボタン等の入力装置10が備えられていてもよい。使用者が入力装置10を操作することにより、操作信号が船内ネットワーク55に送出され、様々な設定や指令が行えるようになっていてもよい。ゲージ9に関連する表示制御信号を伝達するために、船内ネットワーク55とは別のネットワークが構築されていてもよい。
【0048】
メインコントローラ50は、プロセッサおよびメモリ(いずれも図示省略)を含み、メモリに格納されたプログラムをプロセッサが実行することによって、複数の機能を達成するように構成されている。メインコントローラ50は、複数の制御モードを有している。メインコントローラ50の制御モードは、操作系の観点からは、通常操船モード、ジョイスティックモードおよび自動操船モードに分類できる。
【0049】
通常操船モードは、ステアリングホイール6の操作に応じて転舵制御を行い、かつリモコンレバー7の操作に応じて推進力制御を行う制御モードである。この実施形態では、通常操船モードは、メインコントローラ50のデフォルト制御モードである。転舵制御とは、具体的には、ステアリングホイール6の操作に応じて操作速度センサ12が生成する操作速度信号またはリモコンECU51が生成する転舵角指令(具体的には目標舵角の指令)に応じて、ステアリングコントローラ22がステアリングアクチュエータ25を駆動させる制御動作をいう。これにより、船外機OMが左右に転舵して、船体2に対する推進力の方向が左右に変化する。推進力制御とは、具体的には、リモコンECU51が船外機コントローラに与える推進力指令(シフト指令および出力指令)に応じて、船外機コントローラ21がシフトアクチュエータ28およびスロットルアクチュエータ27を駆動させる制御動作をいう。これにより、船外機OMのシフト位置が前進位置、後進位置またはニュートラル位置に設定され、かつエンジン出力(具体的にはエンジン回転速度)が変化する。
【0050】
ジョイスティックモードは、ジョイスティック8の操作信号に応じて転舵制御および推進力制御を行う制御モードである。ジョイスティックモードでは、ジョイスティック8の操作に応じて転舵制御および推進力制御が行われる。すなわち、メインコントローラ50は、ジョイスティック8の操作に応じて、リモコンECU51に転舵角指令および推進力指令を与え、リモコンECU51はそれらをステアリングコントローラ22および船外機コントローラ21に与える。
【0051】
自動操船モードは、ステアリングホイール6、リモコンレバー7およびジョイスティック8の操作によることなく、メインコントローラ50等の働きによって、転舵制御および/または推進力制御を自動で行う制御モードである。すなわち、自動操船が行われる。自動操船には、航走時に使用される航走系の自動操船と、位置および方位の一方または両方を維持する位置/方位保持系の自動操船とがある。航走系の自動操船の例は、ファンクションスイッチ61の操作によって指令される前述の自動操舵である。位置/保持系の自動操船は、保持モード設定ボタン181~183の操作によって指令される、定点保持モード、位置保持モードおよび方位保持モードによる操船を含む。このような自動操船モードにおいて、メインコントローラ50は、GPS受信機52が生成する位置情報および/または方位センサ53が生成する方位情報を利用して、転舵角指令および推進力指令を生成する。自動操船モードにおいても、ジョイスティックモードの場合と同じく、メインコントローラ50は、リモコンECU51に転舵角指令および推進力指令を与え、リモコンECU51は、それらをステアリングコントローラ22および船外機コントローラ21に与える。
【0052】
ジョイスティックモードおよび自動操船モードにおいては、ヘルムコントローラ16は、操作速度センサ12の出力を船外機制御ネットワーク56に供給しなくてもよい。あるいは、ステアリングコントローラ22は、リモコンECU51から転舵角指令が与えられるときには、ヘルムコントローラ16が船外機制御ネットワーク56に送出する操作速度信号に応答しないようにプログラムされていてもよい。
【0053】
図3は、転舵装置STGの構成例を説明するための図である。転舵装置STGは、この例では、油圧式の転舵装置である。転舵装置STGは、油圧ポンプ45と、油圧ポンプ45を駆動する電動モータMと、油圧シリンダ40と、油圧ポンプ45と油圧シリンダ40との間で作動油を流動させる油圧回路46とを含む。油圧シリンダ40は、複動式シリンダであり、シリンダチューブ47と、シリンダチューブ47内に設けられたピストン43と、ピストン43に固定されその両側に延びたピストンロッド44とを含む。
【0054】
シリンダチューブ47およびピストンロッド44は左右方向に延びている。ピストンロッド44の両端部は、船外機OMのスイベルブラケット33に結合されている。シリンダチューブ47内の空間は、ピストン43によって右シリンダ室41および左シリンダ室42に区画されている。シリンダチューブ47は、船外機OMのステアリングアーム34に連結されている。シリンダチューブ47は、ピストンロッド44に案内されて左右に移動可能であり、それにより、船外機OMのステアリングアーム34を左右に移動させ、船外機OMをステアリング軸35まわりに左右に旋回(転舵)させる。
【0055】
油圧回路46は、右シリンダ室41および左シリンダ室42に接続されている。電動モータMは正逆回転可能に構成されており、その回転方向に応じて、油圧ポンプ45が、2つのシリンダ室41,42の一方に作動油を送り込む。それにより、そのシリンダ室の容積が大きくなり、他方のシリンダ室の容積が小さくなるように、シリンダチューブ47が左右に移動する。
【0056】
電動モータMおよび油圧ポンプ45により、電動ポンプが構成されている。また、電動モータM、油圧ポンプ45、油圧回路46および油圧シリンダ40によって、油圧アクチュエータからなるステアリングアクチュエータ25が構成されている。舵角センサ29は、シリンダチューブ47の左右方向の位置を検出してもよい。また、舵角センサ29は、ステアリングアーム34の回転位置を検出してもよい。それによって、舵角センサ29は、船外機OMの舵角を検出する。
【0057】
油圧回路46には、左右のシリンダ室41,42の間を連通させるバイパス油路46aと、そのバイパス油路46aを開閉するためのリリーフバルブ46bとが設けられていることが好ましい。リリーフバルブ46bを手動で開くことにより、左右のシリンダ室41,42がバイパス油路46aを介して連通するので、使用者は、船外機OMに外力を加えて、左右に手動で転舵させることができる。そして、所望の舵角の状態でリリーフバルブ46bを手動で閉じると、その舵角を保持することができる。こうして、リリーフバルブ46b等により、緊急時のための手動機構を構成することができる。
【0058】
図4は、ステアリングコントローラ22の構成例を説明するためのブロック図である。ステアリングコントローラ22は、処理装置65と駆動回路66とを備えている。処理装置65はプロセッサ65aおよびメモリ65bを備え、プロセッサ65aがメモリ65bに記憶されているプログラムを実行することにより複数の機能を実現するように構成されている。具体的には、処理装置65は、フィードバック制御部70、電圧制限制御部80等の機能を有するようにプログラムされている。
【0059】
フィードバック制御部70は、目標舵角を達成するように舵角センサ29の出力信号(操作速度信号)に基づいてステアリングアクチュエータ25(より具体的には電動モータM)をフィードバック制御する。
【0060】
フィードバック制御部70は、目標舵角演算部71、偏差演算部72、PID(比例積分微分)制御部73、およびPWM(パルス幅変調)信号生成部74としての機能を有する。目標舵角演算部71は、ヘルムコントローラ16から与えられる操作速度信号に基づいて、目標舵角を演算する。具体的には、操作速度信号を積算して目標舵角を演算する。積算のための初期値には、舵角センサ29によって検出される舵角が用いられる。偏差演算部72は、舵角センサ29によって検出される舵角(実舵角)の目標舵角に対する偏差を演算する。用いられる目標舵角は、目標舵角演算部71によって演算される目標舵角である場合と、リモコンECUから与えられる転舵角指令に含まれる目標舵角の場合とがある。PID制御部73は、偏差演算部72によって求められる偏差に対して比例積分微分演算を行って、偏差を減少させるための制御値を生成する。その制御値に応じたデューティ比のPWM信号がPWM信号生成部74によって生成される。PWM信号生成部74によって生成されるPWM信号によって駆動回路66が駆動される。
【0061】
駆動回路66は、船外機OMに備えられる発電機30によって充電されるバッテリ15(図2を併せて参照)に接続されたH型ブリッジ回路で構成されている。バッテリ15は、2機の船外機OMにそれぞれ対応して2個設けられていてもよい。駆動回路66を構成するH型ブリッジ回路には、上アームスイッチング素子U1,U2および下アームスイッチング素子L1,L2の直列回路が2組設けられており、この2組の直列回路がバッテリ15に対して並列に接続されている。スイッチング素子U1,U2,L1,L2は、典型的には、パワートランジスタ等の半導体スイッチである。第1の直列回路を構成する一対のスイッチング素子U1,L1の間の接続点N1と、第2の直列回路を構成する一対のスイッチング素子U2,L2の間の接続点N2とに、電動モータMの一対の端子がそれぞれ接続されている。電動モータMは、たとえば、DCモータ(直流モータ)である。PWM信号生成部74によって生成されるPWM信号によって、各スイッチング素子U1,U2,L1,L2がスイッチングされることにより、PWM信号のデューティ比に応じた電圧が電動モータMに印加される。
【0062】
たとえば、電動モータMを正転方向に駆動するときには、第1の直列回路の下アームスイッチング素子L1および第2の直列回路の上アームスイッチング素子U2はオフ状態に維持される。そして、第1の直列回路の上アームスイッチング素子U1および第2の直列回路の下アームスイッチング素子L2がPWM信号によってオン/オフされる。また、電動モータMを逆転方向に駆動するときには、第1の直列回路の上アームスイッチング素子U1および第2の直列回路の下アームスイッチング素子L2をオフ状態に維持する。そして、第1の直列回路の下アームスイッチング素子L1および第2の直列回路の上アームスイッチング素子U2がPWM信号によってオン/オフされる。
【0063】
こうして、実舵角の目標舵角に対する偏差(舵角偏差)に応じたデューティ比のPWM信号によって駆動回路66が駆動されることにより、舵角偏差を減少させる電圧が電動モータMに印加され、それによって、船外機OMを目標舵角へと導くことができる。すなわち、舵角センサ29によって検出される実舵角を目標舵角へと導くように、ステアリングアクチュエータ25のフィードバック制御が実行される。
【0064】
駆動回路66から電動モータMに供給される電流(モータ電流)を検出するための電流センサ68(電流検出回路)が設けられている。電流センサ68の出力信号は処理装置65に入力されている。処理装置65は、電流センサ68の出力信号に基づいてモータ電流を検出できる。
【0065】
電圧制限制御部80は、モータ電流に応じて、電動モータMに印加される電圧を制限する電圧制限制御を実行する。より具体的には、電圧制限制御部80は、電源電圧制限条件が成立すると、電圧制限制御を実行する。
【0066】
ステアリングコントローラ22は、DCモータからなる電動モータMに印加する電圧制御を実行し、かつ電動モータMに流れるモータ電流に応じて当該電動モータMに印加する電圧を制限する電圧制限制御を実行する(電圧制限制御部80としての機能)。デューティ比の設定されたPWM信号によって駆動回路66を駆動することによって、電動モータMに印加される電圧を制御する電圧制御が行われる。この場合、電動モータMに流れるモータ電流は、電動モータMの負荷トルクに依存し、負荷トルクが大きいほど大きなモータ電流が流れる。つまり、DCモータで構成される電動モータMのモータ電流は、負荷トルクに依存して成り行きで定まり、モータ電流を直接的に制御することはできない。過大なモータ電流は電動モータMの温度上昇を招き、効率低下に繋がる。また、駆動回路66を構成するスイッチング素子U1,L1,U2,L2を保護する観点からも、過大なモータ電流を回避することが好ましい。
【0067】
そこで、この実施形態では、所定の電圧制限条件(過電流条件)が成立すると、電動モータに印加する電圧を制限する電圧制限制御が実行され、それによって、モータ電流の低減が図られる。
【0068】
図5は、ステアリングコントローラ22の電圧制限制御の例(電圧制限制御部80としての機能)を説明するためのフローチャートであり、ステアリングコントローラ22が所定の制御周期で繰り返す処理の一例を示す。ステアリングコントローラ22は、電流センサ68の出力信号に基づいてモータ電流を検出する(ステップS1)。また、ステアリングコントローラ22は、所定の制御周期毎に電流センサ68の出力信号を読み込んで検出するモータ電流の値に基づいて、モータ電流の上昇率(たとえば、制御周期間のモータ電流の増分)を求める(ステップS2)。
【0069】
電圧制限条件は、モータ電流が所定の電流閾値を超えること(ステップS3:モータ電流条件)、およびモータ電流の上昇率が所定の上昇率閾値を超えること(ステップS4:電流上昇率条件)の一方または両方を含む。たとえば、ステアリングコントローラ22は、電圧制限条件の成立状態が所定時間以上継続すると(ステップS5:YES)、電圧制限(ステップS6)を実行するようにプログラムされていてもよい。図5には、モータ電流条件(ステップS3)および電流上昇率条件(ステップS4)の両方が所定時間以上継続するときに(ステップS5:YES)、電圧制限(ステップS6)を実行する例を示す。
【0070】
電圧制限は、具体的には、PWM信号のデューティ比を制限することであってもよい。たとえば、電圧制限が実行されていないときには、0%~100%のデューティ比が許容され、電圧制限が開始されるとデューティ比の上限値が100%よりも小さい値(たとえば80%程度)に制限されてもよい。また、電圧制限は、PID演算によって求められたデューティ比に1未満の所定の係数(たとえば0.8程度)を乗じることによって、デューティ比を制限する処理を含んでいてもよい。
【0071】
ステアリングコントローラ22は、所定の電圧制限時間だけ電圧制限を継続し(ステップS7)、その後、ステップS1に戻り、電圧制限条件(ステップS3,S4)を再判定するようにプログラムされていてもよい。すなわち、ステアリングコントローラ22は、所定の電圧制限時間に渡って電圧制限を実行した後(ステップS7:YES)も電圧制限条件が成立していれば(ステップS3,S4,S5:YES)、電圧制限(ステップS6)を引き続き実行する。一方、電圧制限条件が不成立であれば(ステップS3またはS4でNO)、電圧制限条件成立の継続時間を計測するタイマを初期化して計時動作を停止し、処理を終える。したがって、電圧制限が終了する。その後は、ステップS1からの処理が繰り返される。
【0072】
電圧制限条件成立(ステップS3およびS4でYES)の継続時間が所定時間に満たないときには(ステップS5:NO)、その継続時間の計時を継続したまま(すなわちタイマを初期化せずに)、処理を終える。その後は、ステップS1からの処理が繰り返される。
【0073】
以上のように、この実施形態では、ステアリングアクチュエータ25の動力源である電動モータMはDCモータ(直流モータ)で構成されている。DCモータは、典型的には、ブラシ付きDCモータである。ブラシ付DCモータは、たとえば、磁石を取り付けたステータと、巻線を施したロータと、巻線の両端に接続された整流子と、整流子に接触するブラシとを有する。このようなDCモータを用いることにより、ステアリングアクチュエータ25のコストを低減できる利点がある。一方、DCモータのモータ電流は、負荷トルクに依存して成り行きで定まり、モータ電流を直接的に制御することはできない。そこで、この実施形態では、電圧制御によってDCモータをフィードバック制御して舵角センサ29によって検出される舵角(実舵角)を目標舵角に導く一方で、モータ電流に応じてDCモータに印加する電圧を制限する。これにより、過電流状態を回避しながら、安価なDCモータを用いて、転舵装置STGを適切にフィードバック制御できる。こうして、船舶1の操舵に適した操船システム100を提供できる。
【0074】
また、この実施形態では、ステアリングコントローラ22は、モータ電流が所定の電流閾値を超えること(モータ電流条件)、およびモータ電流の上昇率が所定の上昇率閾値を超えること(電流上昇率条件)の少なくとも一方を含む電圧制限条件が成立すると、電圧制限制御を実行する。したがって、過電流状態を回避しながら、DCモータを用いて、転舵装置STGを適切にフィードバック制御できる。
【0075】
また、この実施形態では、ステアリングコントローラ22は、電圧制限条件の成立が所定時間以上継続すると、電圧制限制御を実行する。それにより、不必要な電圧制限を回避できる。したがって、過電流状態を回避しながら、安定した制御が可能になる。
【0076】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、以下に例示するように、さらに他の形態で実施することができる。
【0077】
前述の実施形態では、1機の船外機OMを船体2に取り付けた構成の船舶1を示したが、2機以上の船外機を船体2に取り付けた構成の船舶に上記の実施形態が応用されてもよい。
【0078】
船外機以外の形態の推進機が用いられてもよい。具体的には、船内機、船内外機、ウォータージェット等の形態の推進機を備える船舶に上記の実施形態が応用されてもよい。
【0079】
推進機の原動機は、エンジンである必要はなく、電動モータであってもよい。
【0080】
舵角は、船外機の舵角である必要はなく、舵板の角度であってもよい。
【0081】
操舵操作子としては、ステアリングホイールの代わりにジョイスティックが用いられてもよい。
【0082】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1:船舶、2:船体、6:ステアリングホイール、8:ジョイスティック、12:操作速度センサ、21:船外機コントローラ、22:ステアリングコントローラ、25:ステアリングアクチュエータ、29:舵角センサ、40:油圧シリンダ、45:油圧ポンプ、50:メインコントローラ、55:船内ネットワーク、56:船外機制御ネットワーク、65:処理装置、66:駆動回路、68:電流センサ、70:フィードバック制御部、71:目標舵角演算部、72:偏差演算部、73:PID制御部、74:PWM信号生成部、80:電圧制限制御部、100:操船システム、M:電動モータ、OM:船外機、STG:転舵装置
図1
図2
図3
図4
図5