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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101420
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】稚ナマコの育成礁
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/50 20170101AFI20240722BHJP
   A01K 61/78 20170101ALI20240722BHJP
   A01M 29/30 20110101ALI20240722BHJP
【FI】
A01K61/50
A01K61/78
A01M29/30
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005388
(22)【出願日】2023-01-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】592060307
【氏名又は名称】海洋建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301031392
【氏名又は名称】国立研究開発法人土木研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 真基
(72)【発明者】
【氏名】穴口 裕司
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 信晴
(72)【発明者】
【氏名】的野 博行
【テーマコード(参考)】
2B003
2B104
2B121
【Fターム(参考)】
2B003AA01
2B003BB02
2B003BB05
2B003CC04
2B003DD02
2B003DD03
2B003EE01
2B104AA22
2B104DA01
2B104DA06
2B104DB05
2B104DB16
2B121AA06
2B121BB27
2B121BB32
2B121DA70
2B121FA12
(57)【要約】
【課題】潮流及び外敵に影響を受けない育成環境を有しながら、稚ナマコの放流が容易な稚ナマコの育成礁を提供する。
【解決手段】貝殻を集積させた稚ナマコの育成環境を備えた礁本体2に、礁本体2の育成環境を覆う保護カバー3を着脱自在に被せて構成された稚ナマコの育成礁1で、礁本体2は、海底に接する閉塞板21上に、稚ナマコの育成環境となる貝殻を充填した通水性容器23を位置固定させ、通水性容器23の周囲の閉塞板21上に掛合部211を設け、保護カバー3は、礁本体2の通水性容器23の上方及び側方を通水性面32が覆い、下方の開口を囲む環状枠311を礁本体2の閉塞板21に密接させる構造で、礁本体2の掛合部211に掛合する被掛合部33を環状枠311に設ける。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝殻を集積させた稚ナマコの育成環境を備えた礁本体に、礁本体の育成環境を覆う保護カバーを着脱自在に被せて構成された稚ナマコの育成礁。
【請求項2】
礁本体は、海底に接する閉塞板上に、稚ナマコの育成環境となる貝殻を充填した通水性容器を位置固定させ、通水性容器の周囲の閉塞板上に掛合部を設け、
保護カバーは、礁本体の通水性容器の上方及び側方を通水性面が覆い、下方の開口を囲む環状枠を礁本体の閉塞板に密接させる構造で、礁本体の掛合部に掛合する被掛合部を環状枠に設けた請求項1記載の稚ナマコの育成礁。
【請求項3】
礁本体は、通水性容器の周囲の閉塞板上に、上方に延びる棒状の掛合部を設け、
保護カバーは、礁本体の棒状の掛合部に上方から嵌める嵌合孔を有する板状の被掛合部を環状枠に設けた請求項2記載の稚ナマコの育成礁。
【請求項4】
礁本体は、通水性容器を閉塞板から離して位置固定させた
請求項2記載の稚ナマコの育成礁。
【請求項5】
保護カバーは、通水性面又は環状枠に取手を設けた
請求項2記載の稚ナマコの育成礁。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稚ナマコが一定の大きさに育成するまで保護する稚ナマコの育成礁に関する。
【背景技術】
【0002】
ナマコは、一定の大きさ(3cm~5cm)になれば、育成に適した水域にそのまま放流しても育成できる。しかし、稚ナマコ(1cm~2cm)は、育成に適した水域にそのまま放流しても、潮流に流されたり、害敵に捕食されたりして、十分な育成が難しい。そこで、特許文献1は、稚ナマコが付着した第2の網と貝殻層とを交互に積層して第1の網に収納し、複数の貫通孔が形成された筒体に前記第1の網を挿入する放流方法(海鼠の種苗放流方法)を提案している(特許文献1・[請求項1])。筒体は海底に立設され、筒体の周囲に石材を積み上げる(特許文献1・[請求項2])。
【0003】
特許文献1が開示する放流方法は、稚ナマコが第2の網から貝殻層に移動する段階では筒体や貝殻層によって保護され、十分に育成してから貫通孔を通じて筒体から外へ移動するとしている。また、海底に立設した筒体の周囲に積み上げられた石材は、筒体を海底に固定する働きのほか、筒体の外に移動した稚ナマコの生息場所となり、育成状況に応じた段階的な育成環境の提供ができる(特許文献1・[0012])。これにより、特許文献1が開示する放流方法は、安定したナマコの量産ができる効果を得ている(特許文献1・[0015])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-055719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1が開示する放流方法は、第2の網と貝殻層を交互に積層させて収納した第1の網を筒体に入れ替えることで新たな稚ナマコの放流が可能である。ただ、稚ナマコを放流する度に、第2の網と貝殻層を交互に積層させて収納した第1の網を作る作業に手間及び労力が掛かる。また、第2の網と貝殻層を交互に積層させて収納した第1の網を海底の筒体に持っていく作業や海底で筒体に挿入する作業に際し、稚ナマコの漏出を防ぐ必要があり、いずれの作業も手間及び労力が掛かる。そこで、潮流及び外敵に影響を受けない育成環境を有しながら、稚ナマコの放流が容易な稚ナマコの育成礁について、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
検討の結果開発したものが、貝殻を集積させた稚ナマコの育成環境を備えた礁本体に、礁本体の育成環境を覆う保護カバーを着脱自在に被せて構成された稚ナマコの育成礁である。本発明の稚ナマコの育成礁は、海底に置いた礁本体の育成環境に保護カバーを着脱自在に被せて利用する。稚ナマコは、保護カバーを外した状態で、育成環境に対して直接放流又は育成環境に置いた放流容器から稚ナマコを放流する。稚ナマコを放流した育成環境は、直ちに保護カバーで覆う。育成環境を形成する貝殻は潮流から稚ナマコを保護し、保護カバーは害敵の育成環境への侵入を防止する。稚ナマコが一定以上の大きさに育成したら、保護カバーを外して稚ナマコを周囲の海底に移動させる。
【0007】
礁本体は、海底に接する閉塞板上に、稚ナマコの育成環境となる貝殻を充填した通水性容器を位置固定させ、通水性容器の周囲の閉塞板上に掛合部を設け、保護カバーは、礁本体の通水性容器の上方及び側方を通水性面が覆い、下方の開口を囲む環状枠を礁本体の閉塞板に密接させる構造で、礁本体の掛合部に掛合する被掛合部を環状枠に設けるとよい。掛合部及び被掛合部は、礁本体に対する保護カバーの位置固定手段を構成し、被掛合部を掛合部に掛合させれば、礁本体に対する保護カバーの位置関係を決定する。
【0008】
通水性容器は、貫通孔を設けた面材やネットで囲まれた密閉容器で、内部に貝殻を充填する。貝殻がホタテ貝殻の場合、揃えて並べた状態で筒状の通水性容器に充填する。並べたホタテ貝殻の間にスペーサを挟んで隙間を形成してもよい。貝殻が牡蠣殻の場合、ランダムに筒状の通水性容器に充填する。複数の通水性容器を用いる場合、通水性容器を水平方向に並べたり、上下方向に積層したりして、全体として育成環境を構成する。閉塞板は、剛性の高い金属板又は樹脂板であり、一体に掛合部を形成したり、別体の掛合部を取り付けたりする。
【0009】
保護カバーは、貫通孔を設けた面材やネットを枠体に張った面を通水性面とし、下方を開口させ、残りを通水性面で囲んだ開放容器である。面材は、自身が通水性面の構造材となる。ネットを枠体に張った面は、枠体が通水性面の構造材である。環状枠が、ネットを張った枠体の一部を構成してもよい。環状枠は、構成要素(例えば棒材)を同一平面に揃えれば、閉塞板に密接できる。
【0010】
具体的な掛合部及び被掛合部として、礁本体は、通水性容器の周囲の閉塞板上に、上方に延びる棒状の掛合部を設け、保護カバーは、礁本体の棒状の掛合部に上方から嵌める嵌合孔を有する板状の被掛合部を環状枠に設けた構成とすれば、棒状の掛合部を板状の被掛合部の勘合孔に嵌め込ませるだけなので、保護カバーの礁本体に対する着脱作業が簡単になる。棒状の掛合部を板状の被掛合部の勘合孔に嵌め込ませた保護カバーは、上方向の移動(持ち上げ)が許されるものの、礁本体に対して水平方向に位置固定される。
【0011】
また、貝殻を充填した通水性容器を育成環境とする場合、礁本体は、通水性容器を閉塞板から離して位置固定させるとよい。通水性容器は、通水性容器自体に設けた脚を閉塞板に接地させたり、閉塞板上に構築した支持枠に載せる又は支持させたりして、閉塞板から離した状態で位置固定させる。通水性容器が複数ある場合、通水性容器の全部を閉塞板から離すことが好ましいが、一部の通水性容器のみ閉塞板から離すようにしてもよい。
【0012】
保護カバーは、通水性面又は環状枠に取手を設けるとよい。貫通孔を設けた面材が通水性面の場合、取手は、すべての貫通孔を塞がないように、面材に設ける。ネットを枠体に張った面が通水性面の場合、取手は、枠体に設ける。取手を設ける位置及び数は自由であるが、保護カバーを礁本体に着脱する作業者が両手で保護カバーを持てるように、左右一対の2つを一組とした取手を、保護カバーの上面側に設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の稚ナマコの育成礁は、育成環境を覆う保護カバーを着脱自在にしているので、保護カバーを外した状態で、稚ナマコを育成環境に対して直接放流又は育成環境に置いた放流容器から放流できるため、稚ナマコを放流する手間及び労力が低減される。
【0014】
礁本体は、閉塞板上に位置固定する通水性容器の数や配置によって自由に育成環境を構築できる。閉塞板は、海底からの外敵の侵入を防止する。保護カバーは、環状枠を閉塞板に密着させ、通水性面で育成環境を囲むことにより、通水性面が海水の侵入を許しながら、外敵の侵入を防止できる。掛合部及び被掛合部は、環状枠を安定して閉塞板に密着させ、保護カバーによる外敵侵入防止の効果を安定させる。
【0015】
棒状の掛合部と嵌合孔を有する板状の被掛合部とを位置固定手段とすれば、礁本体に対する保護カバーの着脱作業が簡単になる。保護カバーは、礁本体に対して水平方向に位置固定できれば、潮流の影響を受けずに、礁本体に対する取付状態を安定して維持できる。
【0016】
育成環境を構成する通水性容器が閉塞板から離して位置固定されていると、海底に接地させた閉塞板が海底の泥を被っても、通水性容器が泥を被る事態を回避できると共に、通水性容器の下面側に海水が侵入できるようになり、通水性容器からなる育成環境の清浄性を維持しやすくなる。
【0017】
保護カバーは、通水性面又は環状枠に取手を設けることにより、礁本体に対する着脱作業が容易になる。掛合部及び被掛合部の位置固定手段が、礁本体に対する保護カバーを上下方向及び水平方向に掛合するものであれば、保護カバーの取手は、礁本体及び保護カバーを一体とした育成礁自体の移動にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明を適用した稚ナマコの育成礁の一例を表す斜視図である。
図2】本例の育成礁の礁本体と保護カバーとの組み付け関係を表す斜視図である。
図3】通水性容器及び通水性面のネット表示を省略した図2相当斜視図である。
図4】稚ナマコの放流手順1(保護カバーを外す)を表す正面図である。
図5】稚ナマコの放流手順2(放流容器を置く)を表す正面図である。
図6】稚ナマコの放流手順3(保護カバーを被せる)を表す正面図である。
図7】稚ナマコの放流手順4(ナマコを外部に移動させる)を表す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。本発明の稚ナマコの育成礁1は、図1に見られるように、稚ナマコの育成環境を備えた礁本体2に保護カバー3を着脱自在に被せて構成される。本例の礁本体2及び保護カバー3は、相似な直方体の外形である。礁本体2及び保護カバー3の外形は、直方体に限られず、また礁本体2及び保護カバー3が相似な関係にあることを要しない。このことから、例えば礁本体2及び保護カバー3の一方又は双方が半球状の外形であってもよい。
【0020】
本例の礁本体2は、図2及び図3に見られるように、閉塞板21上に構築された支持フレーム22に複数の通水性容器23を支持させた構成である。閉塞板21は、保護カバー3の平面視より大きな正方形の鋼板で、支持フレーム22を左右に挟む位置関係で、前後1本ずつの掛合部211を設けている。掛合部211は、断面丸形の鋼製棒材で、閉塞板21から直上に向け、溶接により閉塞板21に固定している。断面丸形の鋼製棒材である掛合部211は、閉塞板21を貫通させた部分に雄ネジを設け、閉塞板21にナット止めしてもよい。
【0021】
支持フレーム22は、閉塞板21の四隅に対応する位置関係で、4本の断面丸形の鋼製棒材を閉塞板21から直上に向けて溶接により固定し、前記鋼製棒材の上端に、同じく鋼製棒材を掛け渡して構成している。本例の支持フレーム22は、直上に向けた左右の鋼製棒材の下方寄りに別の鋼製棒材を架け渡して溶接した下段フレーム221と、直上に向けた前後の鋼製棒材の上方寄りに別の鋼製棒材を架け渡して溶接した上段フレーム222とを有する。支持フレーム22、下段フレーム221及び上段フレーム222を構成する断面丸形の鋼製棒材の組み付けは、溶接に代えてボルト及びナットを利用してもよい。
【0022】
支持フレーム22は、下段フレーム221及び上段フレーム222それぞれに、3本ずつの通水性容器23を並べた容器列を、互いの向きを直交させて載せ、位置固定させている。下段フレーム221に載せられた通水製容器23は、閉塞板21から離れて位置固定される。通水性容器23は、樹脂ネットで囲まれた円筒状の樹脂製容器で、向きを揃えたホタテ貝殻(図示略)がスペーサを挟んで並べられた状態で充填されており、支持フレーム22に対して紐状の結束部材(例えば樹脂製の結束バンド)により固定される。本例の礁本体2は、支持フレーム22の下段フレーム221及び上段フレーム222それぞれに支持された合計6本の通水性容器23が、ホタテ貝殻を集積させた稚ナマコの育成環境を構成する。
【0023】
本例の保護カバー3は、直方体外形のカバーフレーム31の下面を開放し、残る5面が通水性面32として構成される。カバーフレーム31は、下面を囲む4本の鋼製棒材を環状枠311とし、礁本体2の閉塞板21に設けた掛合部211に対応する位置に、平面視形状が長方形である鋼板状の被掛合部33を水平に張り出した状態で、溶接している。被掛合部33は、掛合部211を貫通させる嵌合孔331が設けられている。本例のカバーフレーム31は、上面を囲む鋼製棒材のうち前後2本それぞれの左右中央位置に、鋼製棒材をコ字状に曲げた取手312を溶接により固着している。
【0024】
通水性面32は、カバーフレーム31の下面を除く5面をそれぞれ囲む鋼製棒材に、隙間なく張り合わせたネットが例示される。通水性面32を構成するネットは、材料及び構造を問わない。例えば全体が樹脂素材で構成された樹脂製ネット(例えばトリカルネット)は、紐状の結束部材(例えば樹脂製の結束バンド)で結び付けたり、接着したりして、鋼製棒材に対して隙間を設けることなく取り付ける。また、耐食性を備えた樹脂皮膜で覆われた金属製ネットであれば、鋼製棒材に対して隙間を設けることなく取り付ける。通水性面32を構成するネットは、稚ナマコの外敵の侵入を十分に阻止できる目合(例えば10mm以下)であればよい。
【0025】
保護カバー3は、上方から礁本体2に向けて降ろし、被掛合部33の嵌合孔331に礁本体2の掛合部211を下方から貫通させて水平方向に掛合させ、下面の開口を囲む環状枠311を礁本体2の閉塞板21に密着させた状態で、礁本体2に被せられる。被掛合部33及び掛合部211は、水平面内の4箇所で掛合させるため、礁本体2に対する保護カバー3の被せる位置関係を特定する。こうして特定の位置関係で保護カバー3が被せられた礁本体2は、下面が閉塞板21に塞がれ、残る5面が保護カバー3の通水性面32に囲まれて、外敵の侵入が阻止される。
【0026】
保護カバー3は、被掛合部33の嵌合孔331に礁本体2の掛合部211を下方から貫通させるだけなので、礁本体2に対して水平方向にのみ位置固定される。これは、保護カバー3が礁本体2に対して上下方向に位置固定されず、保護カバー3を真っ直ぐ上方に持ち上げれば礁本体2から簡単に取り外せることを意味する。このため、保護カバー3は、潮流の影響を受けて上下方向にがたつくことがあるものの、一定の長さを有する棒状の掛合部221の4本すべてから同時に被掛合部33が外れることはなく、礁本体2から勝手に外れることがない。
【0027】
本例の育成礁1による稚ナマコの放流手順を説明する。礁本体2及び保護カバー3から構成される育成礁1は、海底4に置いた礁本体2に保護カバー3が被せられた状態で設置される。育成礁1は、礁本体2に保護カバー3が被せられた状態で海底まで運んでもよいし、それぞれ別に海底4まで運び、海底4に先に置いた礁本体2に保護カバー3を後から被せてもよい。また、保護カバー3は、礁本体2から常態として取り外しておき、実際に稚ナマコを礁本体2に放流する際、改めて海中に持ち込み、礁本体2に被せてもよい。
【0028】
海底4に設置された育成礁1は、図4に見られるように、放流手順1として、稚ナマコ(例えば全長1cm~2cm)を放流するため、保護カバー3を持ち上げて礁本体2から取り外す。保護カバー3は、既述したように、礁本体2に対して上方に真っ直ぐ持ち上げれば、礁本体2から簡単に取り外すことができる。保護カバー3は、潜水作業員が取手312を用いて、礁本体2に対して上方に真っ直ぐ持ち上げる。放流手順1は、保護カバー3を礁本体2から常態として取り外していれば、実施しない。
【0029】
保護カバー3が外された育成礁1は、図5に見られるように、放流手順2として、稚ナマコの入った放流容器5を潜水作業員が礁本体2まで運び、稚ナマコが放流できる状態で上段の通水性容器23の上に置く。本例の放流容器5は、器本体52の開口に着脱自在な蓋51を有する食品容器(例えばタッパー)を想定している。放流容器5は、稚ナマコが詰め込まれた器本体52に蓋51をした状態で海底まで運ばれる。これにより、育成礁1まで、稚ナマコを散逸させず、簡単に運ぶことができる。
【0030】
育成礁1近傍まで運ばれた放流容器5は、そこで初めて蓋52を外し、上下反転させて開口を下向きにした器本体52を、礁本体2の上段に並ぶ通水性容器23の上に置く。器本体52は、開口を下向きにするとり、稚ナマコが通水性容器23に移りやすい。そして、放流容器5の器本体52が通水性容器23の上に置かれた育成礁1は、図6に見られるように、放流手順3として、器本体52を残したまま、すぐさま保護カバー3が礁本体2に被せられる。これにより、稚ナマコは、海中に散逸することなく保護カバー内に留められ、随時通水性容器23に向けて移動させる(図6中破線矢印参照)。
【0031】
稚ナマコすべてが器本体52から礁本体2に移動すれば、一旦保護カバー3を外し、器本体52を回収できる。しかし、保護カバー3を外すと、礁本体2に移動した稚ナマコが海中に散逸する虞がある。また、稚ナマコすべてが器本体52から通水性容器23に移るには時間が掛かる。このことから、器本体52は、礁本体2に載せたまま保護カバー3を被せ、稚ナマコの育成終了後に回収する。器本体52は、潮流を受けて保護カバー3内を移動することもあるが、保護カバー3外に出ていくことはなく、確実に回収できる。
【0032】
こうして礁本体2の育成環境に放流された稚ナマコは、通水性容器23内の貝殻の隙間に生息することで潮流から保護され、かつ保護カバー3により外敵の侵入が防止された状態で育成される。そして、稚ナマコが外敵に襲われない大きさのナマコ(例えば全長3cm~5cm)に成長した時点で、図7に見られるように、放流手順4として、保護カバー3を外してナマコを育成礁1外の海底に移動させる(図7中破線矢印参照)。放流容器5の器本体52は、保護カバー3を取り外した段階で回収する。保護カバー3は、ナマコすべてが礁本体2外に移動するまで外しておく。
【0033】
ナマコすべてが礁本体2外に移動すれば、保護カバー3を礁本体2に被せる。このとき、次の放流容器5を運んで来て、次の稚ナマコを礁本体2に放流してから保護カバー3を礁本体2に被せれば、次の稚ナマコの育成が開始できる。本例の場合、1年単位の育成期間を繰り返す場合を想定する。具体的には、春先(例えば5月頃)に稚ナマコを礁本体2に放流し、育成礁1で半年ほどの育成期間を経て、年末に保護カバー3を外し、礁本体2外へのナマコの移動を開始させ、ナマコすべての移動が完了した時点として、次の春先に新たな稚ナマコを礁本体2に放流する。
【符号の説明】
【0034】
1 稚ナマコの育成礁
2 礁本体
21 閉塞板
211 棒状の掛合部
22 支持フレーム
221 下段フレーム
222 上段フレーム
23 通水性容器
3 保護カバー
31 カバーフレーム
311 環状枠
312 取手
32 通水性面
33 板状の被掛合部
331 嵌合孔
4 海底
5 放流容器
51 蓋
52 器本体

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-05-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝殻を集積させた稚ナマコの育成環境を備えた礁本体に、礁本体の育成環境を覆う保護カバーを着脱自在に被せて構成され
礁本体は、海底に接する閉塞板上に、稚ナマコの育成環境となる貝殻を充填した通水性容器を位置固定させ、通水性容器の周囲の閉塞板上に掛合部を設け、
保護カバーは、礁本体の通水性容器の上方及び側方を通水性面が覆い、下方の開口を囲む環状枠を礁本体の閉塞板に密接させる構造で、礁本体の掛合部に掛合する被掛合部を環状枠に設け
稚ナマコの育成礁。
【請求項2】
礁本体は、通水性容器の周囲の閉塞板上に、上方に延びる棒状の掛合部を設け、
保護カバーは、礁本体の棒状の掛合部に上方から嵌める嵌合孔を有する板状の被掛合部を環状枠に設けた請求項記載の稚ナマコの育成礁。
【請求項3】
礁本体は、通水性容器を閉塞板から離して位置固定させた
請求項記載の稚ナマコの育成礁。
【請求項4】
保護カバーは、通水性面に取手を設けた
請求項記載の稚ナマコの育成礁。