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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101429
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20240722BHJP
【FI】
H01L33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005400
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】面家 英樹
(72)【発明者】
【氏名】松井 慎一
(72)【発明者】
【氏名】牧野 浩明
(72)【発明者】
【氏名】水谷 浩一
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA03
5F241AA33
5F241AA43
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA13
5F241CA22
5F241CA40
5F241CA65
5F241CA72
5F241CA73
5F241CA74
5F241CA75
5F241CA83
5F241CA92
5F241CB11
5F241FF16
(57)【要約】
【課題】紫外発光に適した保護膜を有するIII族窒化物半導体からなる発光素子を提供する。
【解決手段】発光波長200~280nmのAlを含むIII族窒化物半導体からなる発光素子であり、p層14上に接して設けられ、Ru層を有するp電極15と、孔23の底面に露出するn層11上に設けられたn電極16と、素子上面全体を覆い、SiOからなる第1保護膜18Aと、SiNからなる第2保護膜18Bと、を順に積層させた構造である保護膜18と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光波長が200~280nmのAlを含むIII族窒化物半導体からなる発光素子において、
基板と、
前記基板上にn層、発光層、p層の順に積層された半導体層と、
前記p層表面の所定の領域に設けられ、前記n層に達する深さの孔と、
前記p層上に接して設けられ、Ru層、Rh層、Ni層、またはITO層のいずれかを有するp電極と、
前記孔の底面に露出する前記n層上に設けられたn電極と、
素子上面全体を覆い、SiOからなる第1保護膜と、SiNからなる第2保護膜とを順に積層させた構造である保護膜と、
を有する発光素子。
【請求項2】
前記第1保護膜と前記第2保護膜との間に、AlまたはAlを主とする合金からなる反射膜を有する、請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記孔は、複数形成され、前記孔の配列パターンは正方格子状、三角格子状、またはハニカム状であり、前記n電極は、各前記孔の底面に形成されている、請求項1または請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記第2保護膜の厚さは320nm以上である、請求項1または請求項2に記載の発光素子。
【請求項5】
前記第1保護膜の厚さに対する前記第2保護膜の厚さの比は、0.5~2である請求項1または請求項2に記載の発光素子。
【請求項6】
前記n電極は、前記n層上に接して位置し、AlNまたは前記n層よりもAl組成の高いAlGa1-yからなり、厚さが1nm以上3nm以下である層と、その層上に接して位置し、Alを主としVを含む金属からなり、厚さが50nm以上500nm以下である層と、を有する請求項1または請求項2に記載の発光素子。
【請求項7】
水の殺菌用または高湿度環境での空気殺菌用である請求項1または請求項2に記載の発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外線LEDを水や空気などの殺菌、消毒に使用することが注目されており、紫外線LEDの高効率化に向けた研究、開発が盛んに行われている。
【0003】
従来の青色発光や近紫外発光のIII族窒化物半導体からなる発光素子では、p電極が接するpコンタクト層としてp-GaNを用い、コンタクト抵抗を低減していた。一方、発光波長がUVC(波長200~280nm)のIII族窒化物半導体からなる発光素子では、pコンタクト層としてp-AlGaNを用いることが検討されている。これは、p-GaNでは紫外線を吸収してしまい、光取り出し効率を十分に向上できないためである。
【0004】
また、従来の青色発光や近紫外発光のIII族窒化物半導体からなる発光素子では、pコンタクト層上に形成する反射電極として、ITOとDBR反射膜が用いられていた。しかし、UVCのIII族窒化物半導体からなる発光素子では、ITOとDBR反射膜では紫外線を十分に反射できずロスが大きかった。そこでRh、Ru、Alなどの紫外反射率の高い材料を用いることが検討されている。
【0005】
III族窒化物半導体からなる発光素子の保護膜には、一般にSiOが用いられている。また、特許文献1-3には、保護膜としてSiN/SiOを用いることが記載されている。ここで「/」は積層であることを示し、A/BはA、Bの順に積層した構造であることを示す。以下、材料の説明において同様である。
【0006】
また、特許文献4には、AlGaNは水分に弱いことが記載されていて、パッシベーション膜のピンホールやクラックから水分が浸入してAlGaN層表面に到達し、水によってAlGaN中のAlNが分解され、さらにAlが酸化されてAlが生成されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-233783号公報
【特許文献2】特開2001-160650号公報
【特許文献3】特開2006-41403号公報
【特許文献4】特許第6331204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
UVCの発光素子を水の殺菌に用いる場合、発光素子の耐湿性が重要となる。しかし、pコンタクト層としてp-AlGaN、p電極としてRhやRu、またはAlを用いたUVCの発光素子において、保護膜としてSiOを用いた場合、湿度試験で電気特性不良が発生し、品質を確保できないことが分かった。これは、特許文献4のようにAlGaNが水分に弱いこと、Alがエレクトロマイグレーションを起こすこと、Ruは酸素と反応してガスが発生しやすいこと、などに起因すると考えられる。
【0009】
また、UVCの発光素子は現状では発光効率が低く、発熱が大きいため、青色発光に比べて寿命が短かった。そのため、放熱性の高い保護膜が求められていた。
【0010】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、UVCに適した保護膜を有するIII族窒化物半導体からなる発光素子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、
発光波長が200~280nmのAlを含むIII族窒化物半導体からなる発光素子において、
基板と、
基板上にn層、発光層、p層の順に積層された半導体層と、
前記p層表面の所定の領域に設けられ、前記n層に達する深さの孔と、
前記p層上に接して設けられ、Ru層、Rh層、Ni層、またはITO層のいずれかを有するp電極と、
前記孔の底面に露出する前記n層上に設けられたn電極と、
素子上面全体を覆い、SiOからなる第1保護膜と、SiNからなる第2保護膜とを順に積層させた構造である保護膜と、
を有する発光素子にある。
【発明の効果】
【0012】
上記発光素子では、保護膜としてSiO、SiNを順に積層させた構造としている。SiNはSiOよりも緻密で欠陥が少ないため、保護膜の防湿性を向上させることができる。また、SiNはSiOよりも熱伝導率が高く、保護膜の放熱性を向上させることができる。また、SiNはSiOに比べて絶縁性が高いので、保護膜の絶縁性を向上させることができる。また、SiOとSiNの積層とすることで膜応力を打ち消す方向に作用させることができ、膜応力を緩和させることができる。
【0013】
以上のごとく、上記態様によれば、UVCに適した保護膜を有するIII族窒化物半導体からなる発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態1における発光素子の構成を示した図であって、基板に垂直な断面図。
図2】電極の平面パターンを示した図。
図3】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
図4】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
図5】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
図6】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
図7】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
図8】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
図9】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
図10】各試料のウェットエッチングレートを示したグラフ。
図11】各試料の膜応力を示したグラフ。
図12】Agナノペースト塗布後の基板表面を撮影した写真。
図13】各試料について印加電圧と絶縁抵抗値の関係を示したグラフ。
図14】Agナノペーストを塗布した各試料について印加電圧と絶縁抵抗値の関係を示したグラフ。
図15】Ag膜を成膜した各試料について印加電圧と絶縁抵抗値の関係を示したグラフ。
図16】Ti膜を成膜した各試料について印加電圧と絶縁抵抗値の関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発光素子は、発光波長が200~280nmのAlを含むIII族窒化物半導体からなる。また、基板と、基板上にn層、発光層、p層の順に積層された半導体層と、前記p層表面の所定の領域に設けられ、前記n層に達する深さの孔と、前記p層上に接して設けられ、Ru層、Rh層、Ni層、またはITO層のいずれかを有するp電極と、前記孔の底面に露出する前記n層上に設けられたn電極と、素子上面全体を覆い、SiOからなる第1保護膜と、SiNからなる第2保護膜と、を順に積層させた構造である保護膜と、を有する。
【0016】
前記第1保護膜と前記第2保護膜との間に、Alからなる反射膜を有していてもよい。
【0017】
前記孔は、複数形成され、前記孔の配列パターンは格子状であり、前記n電極は、各前記孔の底面に形成されていてもよい。
【0018】
前記第2保護膜の厚さは320nm以上であってもよい。また、前記第1保護膜の厚さに対する前記第2保護膜の厚さの比は、0.5~2であってもよい。
【0019】
前記n電極は、前記n層上に接して位置し、AlNまたは前記n層よりもAl組成の高いAlGa1-yからなり、厚さが1nm以上3nm以下である層と、その層上に接して位置し、Alを主としVを含む金属からなり、厚さが50nm以上500nm以下である層と、を有していてもよい。
【0020】
発光素子は水の殺菌用または高湿度環境での空気殺菌用であってもよい。
【0021】
(実施形態)
図1は、実施形態における発光素子の構成を示した図であり、基板に垂直な断面図である。また、図2は、実施形態における発光素子の電極について平面パターンを示した図である。実施形態における発光素子は、フリップチップ型の紫外発光素子であり、発光波長はUVC、たとえば200~280nmである。
【0022】
1.発光素子の構成
図1に示すように、実施形態における発光素子は、基板10、n層11、発光層12、電子ブロック層13、p層14、p電極15、n電極16、pn電極17A、17B、保護膜18、反射膜19、pパッド電極20、nパッド電極21、反射防止膜22を有している。以下、各構成について説明する。
【0023】
基板10は、c面を主面とするサファイアからなる基板である。サファイア以外にも、発光波長に対して透過率が高く、III族窒化物半導体を成長させることができる材料であれば任意の材料を用いてよい。
【0024】
基板10の裏面(n層11側とは反対側の面であり、光取り出し側)には、反射防止膜22が設けられている。反射防止膜22を設けることにより、基板10裏面で紫外線が反射して素子側に戻ってしまうことを抑制し、光取り出しを向上させている。反射防止膜22は、たとえば厚さが発光波長の1/4のSiOである。
【0025】
n層11は、基板10上にバッファ層(図示しない)を介して位置している。n層11は、n―AlGaNからなる。n型不純物はSiであり、Si濃度が5×1018~5×1019/cmである。n層11は複数の層で構成されていてもよい。
【0026】
発光層12は、n層11上に位置している。発光層12は、井戸層と障壁層が交互に繰り返し積層されたMQW構造である。繰り返し数はたとえば2~5である。井戸層はAlGaNからなり、そのAl組成は所望の発光波長に応じて設定される。障壁層は、井戸層よりもAl組成の大きなAlGaNである。井戸層よりもバンドギャップエネルギーの大きなAlGaInNでもよい。また、発光層12はSQW構造でもよい。
【0027】
電子ブロック層13は、発光層12上に位置している。電子ブロック層13は、発光層12の障壁層よりもAl組成比の高いp-AlGaNからなる。電子ブロック層13によって、n電極16から注入した電子が発光層12を超えてp層14側に拡散してしまうのを抑制している。
【0028】
p層14は、電子ブロック層13上に位置している。p層14は、p-AlGaNからなる。実施形態における発光素子は、n層11からp層14まですべての半導体層がAlGaNであり、これによって半導体層による紫外線の吸収を抑制している。p層14のAl組成はたとえば5~80%である。p型不純物はMgである。Mg濃度は、1×1019/cm以上である。p層14はAl組成やMg濃度の異なる複数の層で構成されていてもよい。その場合、p電極15と接する層がAl組成5~80%のp-AlGaNであればよい。また、p層14は、AlGaNに限らず、Alを含むIII族窒化物半導体であればよく、AlGaInNでもよい。
【0029】
p層14表面の一部領域には、n層11に達する深さの孔23が形成されている。孔23はドット状であり、複数の孔23が格子状に配列されて設けられている(図2参照)。孔23の底面にはn層11が露出している。n層11を露出させるための孔23をドット状の配列パターンとすることで、面内の発光の均一さを確保しつつ、孔23による発光面積(p層14の面積)の減少をなるべく少なくし、光出力の向上を図っている。
【0030】
各孔23の平面パターンは、たとえば円である。他に、正六角形などの多角形でもよい。正六角形の場合は孔23の側面をm面とするのがよい。孔23の配列パターンは、たとえば正方格子状、三角格子状、ハニカム状のパターンである。
【0031】
p電極15は、p層14上に設けられている。p電極15は、p層14表面のうち、孔23の設けられていない領域とp層14の端辺近傍を除いて設けられており(図2参照)、これにより発光面積を広く取っている。p電極15は、発光層12から放射される紫外線を基板10側に反射させて光取り出し効率を高める反射電極である。p電極15の材料は、p層14に対して低コンタクトであってUVCの反射率の高い材料であり、たとえばRh、Ruである。また、NiやITOと反射層の積層でもよい。
【0032】
素子上面の面積(孔23とp層14の面積の合計)に対するp電極15の面積の割合は、70%以上とする。孔23およびp電極15の平面パターンはこれを満たすように設定する。たとえば、孔23の直径や配列数、配列間隔を調整する。Ruからなるp電極15の面積を広く取ることにより、p電極15による紫外線の反射を増やし、光取り出し効率を向上させることができる。より好ましくは80%以上である。
【0033】
n電極16は、各孔23の底面に露出するn層11上に設けられている。そのため、n電極16もドット状に配列されたパターンである(図2参照)。n電極16の材料は、V/Al/Tiを熱処理した構造体である。他にもTi/Al/Tiなどを用いることができる。V/Al/Tiを熱処理した構造体は、具体的には、AlNからなる層と、Alを主としVとTiを含む金属からなる層と、Tiからなる層と、を順に積層させた構造である。
【0034】
AlNからなる層は、厚さ1~3nmである。xは、たとえば0.4~0.7である。またxは、厚さ方向にn層11から離れるにつれて減少していてもよい。この場合はxの厚さ方向の平均が0.4~0.7である。また、n層11側からのGaの拡散がある場合もあり、その場合には、n層11よりもAl組成比が高いAlGa1-y(0.4≦x≦0.7)である。n層11のAl組成比がaであれば、a<y≦1である。yはたとえば0.7以上である。またこの場合も、xは厚さ方向にn層11から離れるにつれて減少していてもよく、yは厚さ方向にn層11から離れるにつれて増加していてもよい。
【0035】
Alを主としVとTiを含む金属からなる層は、厚さ50~500nmである。Al、V、Tiの比率は、たとえばAlが50~85mol%、Vが5~20mol%、Tiが10~30mol%である。
【0036】
上記構造のn電極16では、n層11に対するコンタクト抵抗が低減されている。たとえば、n層11に対するn電極16のコンタクト抵抗率は4×10―4Ω・cm以下である。その理由は、第1に、AlNからなる層がn層11に対する良好なコンタクト層として機能しているためと考えられる。また、第2に、n層11表面に窒素空孔が生じ、n型化するためコンタクト抵抗が低下していると考えられる。
【0037】
Tiからなる層は、アロイ時にn電極16中のAlが蒸発してしまうのを抑制するカバーとして設けるものである。Ti以外にもTiN、Ni、Pt、Auなどを用いることができる。
【0038】
保護膜18は、素子上面全体を覆うように設けられている。すなわち、p電極15およびn電極の側面と表面、半導体層の表面と側面、素子分離溝26の側面、孔23の内部、に連続して設けられている。
【0039】
保護膜18は、SiOからなる第1保護膜18Aと、SiNからなる第2保護膜18Bとが順に積層された構造である。保護膜18をこのような2層構造とすることで、以下のような利点があり、UVCの発光素子に適している。
【0040】
第1に、保護膜18の防湿性を向上させることができる。防湿性が向上する理由は次の通りである。スパッタや蒸着によって製膜したSiOにはピンホールなどの欠陥が存在する。この欠陥を通って水分が浸入し保護膜18の下部に到達するため、保護膜18をSiOの単層とした場合は防湿性が低い。
【0041】
一方、SiNはSiOよりも緻密で欠陥が少ない。そこで、SiOからなる第1保護膜18A上にSiNからなる第2保護膜18Bを設けることで、第1保護膜18Aと第2保護膜18Bの界面で欠陥を不連続とし、第1保護膜18A中の欠陥が第2保護膜18Bに引き継がれないようにしている。そのため、第1保護膜18Aから第2保護膜18Bまで連続する欠陥が少なくなり、水分が保護膜18中の欠陥を通ってその保護膜18の下部に侵入することが防止されている。発光素子を構成するAlGaNは水分に弱いが、防湿性の高い保護膜18によって適切に保護することができる。
【0042】
第2に、保護膜18の放熱性を向上させることができる。SiOの熱伝導率は1.4W/m・Kであり、SiNの熱伝導率は24W/m・Kであるから、SiNはSiOに比べて熱伝導率が高い。そのため、保護膜18をSiOの単層とする場合よりも熱伝導率を向上させることができる。UVCの発光素子は現状では発光効率が低く、発熱が大きいが、保護膜18によって効率的に素子外部へ放熱することができる。またその結果、素子の寿命を改善することができる。
【0043】
第3に、保護膜18の膜応力を緩和することができる。SiOには面内方向に圧縮応力が発生し、SiNには面内に引張応力が発生するため、SiOとSiNの積層とすることで膜応力を打ち消す方向に作用させることができる。その結果、保護膜18の剥がれや割れを抑制でき、信頼性の向上を図ることができる。
【0044】
第4に、保護膜18の絶縁性を高めることができる。SiNはSiOに比べて絶縁抵抗値が高い。そのため、SiOとSiNの積層とすることで、SiOの単層とする場合よりも絶縁性を向上させることができる。同じ厚さで比較すれば、SiNはSiOのおよそ2倍の耐圧である。また、SiNの厚さを2倍にすると耐圧もおよそ2倍とすることができる。
【0045】
第1保護膜18Aと第2保護膜18Bの厚さは、面内方向における応力がなるべく打ち消すようにすることが好ましい。たとえば、第1保護膜18Aの応力と第2保護膜18Bの応力との和が、第1保護膜18Aの応力に対して-50~50%となるようにする。第1保護膜18A、第2保護膜18Bの膜応力は、厚さ、成膜方法、成膜条件などによるため、それに応じて第1保護膜18Aと第2保護膜18Bの厚さを設定する。第1保護膜18Aの厚さに対する第2保護膜18Bの厚さの比は、たとえば0.5~2である。また、絶縁性の点から第2保護膜18Bは320nm以上とすることが好ましく、640nm以上とすることがより好ましい。第2保護膜18Bの厚さの上限は特にないが、成膜時間などを考慮して2μm以下が好ましい。また、第1保護膜18Aの厚さは、絶縁性確保と成膜時間などを考慮すると、320~2000nmとすることが好ましい。
【0046】
SiNは、成膜条件によってSiとNの組成比を変化させることで屈折率を変化させることができる。たとえば、屈折率を1.2~1.3の間で変化させることができる。発光素子は封止材料によって封止され、第2保護膜18Bは封止材料と接するが、封止材料の屈折率に応じて第2保護膜18Bの屈折率を調整し、封止材料と第1保護膜18Aとの間での屈折率のマッチングを取ることで光取り出しを向上させることができる。
【0047】
pn電極17A、17Bは、第1保護膜18Aと第2保護膜18Bの間にそれぞれ設けられている。なお、図2ではpn電極17A、17Bの図示は省略している。pn電極17Aは、第1保護膜18Aに設けられた孔を介してp電極15と接続されている。また、pn電極17Bは、第1保護膜18Aに設けられた孔を介してドット状の各n電極16と接続されている。pn電極17A、17Bの材料は、たとえばTi/Ni/Au/Alである。
【0048】
第1保護膜18Aと第2保護膜18Bの間であってpn電極17A、17Bとは離間した領域に、Alからなる反射膜を設けてもよい。反射膜によって基板10側に光を反射させ、光取り出し効率の向上を図ることができる。また、保護膜18の放熱性を向上させることができる。反射膜を保護膜18の中に埋め込んでいるのはマイグレーション防止のためである。
【0049】
反射膜の材料はAlに限らず、発光波長における反射率の高い任意の材料でよい。Alを主とする合金でもよい。また、反射膜は、第1保護膜18Aと第2保護膜18Bの間ではなく、第1保護膜18A中や第2保護膜18B中に反射膜を設けてもよい。反射膜を複数設ける場合、平面パターンを変えてもよい。
【0050】
なお、実施形態では保護膜18は第1保護膜18A、第2保護膜18Bの2層であるが、第2保護膜18B上にさらに層を設けてもよい。
【0051】
pパッド電極20およびnパッド電極21は、保護膜18上に離間して設けられている。pパッド電極20は、第2保護膜18Bに開けられた孔を介してpn電極17Aと接続されている。また、nパッド電極21は、第2保護膜18Bに開けられた孔を介してpn電極17Bと接続されている。pパッド電極20およびnパッド電極21の材料は、たとえばTi/Pt/Au/AuSnである。
【0052】
以上、実施形態における発光素子では、保護膜18をSiOからなる第1保護膜18AとSiNからなる第2保護膜18Bの積層構造としており、これにより耐湿性、放熱性、絶縁性を向上させることができ、保護膜18の膜応力も緩和することができる。
【0053】
実施形態における発光素子は、発光波長がUVCであり、半導体層(n層11、発光層12、電子ブロック層13、p層14)での紫外線の吸収を防ぐため半導体層のすべてがAlGaNで構成されていて、最上層であるp層14もAlGaNである。AlGaNは水分に弱いため、素子外部からの水分がAlGaN(特に最上層のp層14)に触れないように保護する必要があるが、耐湿性の高い保護膜18によってAlGaNを適切に保護することができる。
【0054】
実施形態における発光素子は、上記のように耐湿性に優れているため、水の殺菌用や高湿度環境での空気殺菌用として好適である。
【0055】
2.発光素子の製造工程
実施形態における発光素子の製造工程について、図を参照に説明する。
【0056】
まず、サファイアからなる基板10を用意する。そして、基板10上に、MOCVD法によってn層11、発光層12、電子ブロック層13、p層14を順に形成する(図3参照)。
【0057】
次に、p層14の所定領域をドライエッチングし、n層11に達する深さの孔23を複数形成する(図4参照)。
【0058】
次に、p層14上にスパッタや蒸着によってp電極15を形成する(図5参照)。次に、孔23の底面に露出するn層11上にスパッタや蒸着によってV層、Al層、Ti層を順に積層してn電極16を形成する(図6参照)。p電極15よりも先にn電極16を形成してもよいが、なるべくp層14表面が清浄な状態でp電極15を形成したいため、実施形態ではp電極15を先に形成している。
【0059】
次に、温度500~650℃、1~10分間の熱処理を行う。雰囲気は、たとえば窒素などの不活性ガス雰囲気である。熱処理は減圧下で行うことが好ましく、たとえば1×10~1×10Paである。熱処理温度は好ましくは550~650℃である。
【0060】
この熱処理は、p層14のMg活性化処理とp電極15およびn電極16の低コンタクト抵抗化とを兼ねている。
【0061】
実施形態では、n電極16としてV/Al/Tiを用いることで熱処理温度を低減し、p層14のMg活性化処理とp電極15およびn電極16のコンタクト抵抗の低減とを共通化して同時に行うことで熱処理回数を減らしている。熱処理温度の低温化と熱処理回数減少の結果、発光素子の電気特性の劣化を抑制できる。
【0062】
ここで、n電極16は、上記熱処理によって次のような構造に変化する。n電極16であるV/Al/TiのうちVはAl中に拡散していき、n層11やTiには拡散しない。この拡散の結果、V層は消失する。また、V/Al/Ti中のAlは、n層11中のNと反応し、n層11とAl層の界面にはAlNが形成される。Vは、AlとNの反応を促進する触媒のような作用をしていると考えられる。この熱処理の結果、n電極16の構造は、AlNからなる層と、Alを主としVとTiを含む金属からなる層と、Tiからなる層との3層構造に変化する。
【0063】
n電極16がこのような構造に変化することにより、n層11に対するn電極16のコンタクト抵抗が低減する。その理由はすでに述べたとおりである。すなわち、第1に、AlNからなる層がn層11に対して良好なコンタクト層として機能していると考えられること、第2に、AlNの形成によりn層11に窒素空孔が生じたことでn層11のn型化がより促進したと考えられることである。
【0064】
次に、素子分離溝26を形成する。素子分離溝26は基板10が露出する深さである。次に、素子上面全体を覆うSiOからなる第1保護膜18Aを形成する(図7参照)。第1保護膜18Aの成膜は蒸着やスパッタである。膜の緻密性からスパッタが好ましい。
【0065】
次に、第1保護膜18Aの所定領域に孔を形成し、さらに第1保護膜18A上の所定領域にpn電極17A、17Bを形成して、孔を介してpn電極17Aとp電極15、pn電極17Bとn電極16とを接続する(図8参照)。pn電極17A、17Bの成膜は蒸着やスパッタ、パターニングはリフトオフである。
【0066】
次に、第1保護膜18A上およびpn電極17A、17B上に第2保護膜18Bを形成する。第2保護膜18Bの成膜は蒸着やスパッタである。膜の緻密性からスパッタが好ましい。これにより第1保護膜18A、第2保護膜18Bを順に積層させた保護膜18を形成する(図9参照)。なお、素子分離溝26の底面には保護膜18を形成せず、素子ごとに保護膜18が分離していることが好ましい。素子ごとに分割する際、保護膜18に力が加わったり、保護膜18の応力に変動が生じたりしないようにするためである。
【0067】
次に、保護膜18の所定領域をドライエッチングしてpn電極17A、17Bに達する孔を形成する。そして、保護膜18上にpパッド電極20、nパッド電極21をそれぞれ形成し、pパッド電極20は孔を介してpn電極17Aと接続し、nパッド電極21は孔を介してpn電極17Bと接続するようにする。pパッド電極20、nパッド電極21のパターンは図2に示す通りである。pパッド電極20、nパッド電極21の成膜は蒸着やスパッタ、パターニングはリフトオフである。次に、基板10の裏面に反射防止膜22を形成する。次に基板10を個々の素子に分割する。以上によって図1に示す実施形態における発光素子が製造される。
【0068】
3.実験結果
実施形態に係る各種実験結果について説明する。
【0069】
(実験1)
SiO、SiNをそれぞれ製膜したSi基板を用意し、SiO、SiNのウェットエッチングレートを比較した。SiOはCVD、スパッタ、熱酸化の3種類の方法で成膜した(それぞれ試料B1~B3とする)。また、SiNはCVDで成膜し、出力を100W、130W、160Wと変えた(試料A1~A3)。また、SiNをCVDで成膜し、出力160Wでアンモニアを供給せずに形成した(試料A4)。SiO膜、SiN膜の厚さは320nmとした。
【0070】
図10は、各試料のウェットエッチングレートを示したグラフである。ウェットエッチングレートの値は、SiOを熱酸化により形成した試料B3を1とする相対値とした。図10のように、SiNはSiOに比べてウェットエッチングレートが低く、緻密な膜であることが分かった。この結果、SiNはSiOに比べて耐湿性が高いことが分かった。
【0071】
(実験2)
SiO膜を形成した試料B1、B2およびSiN膜を形成した試料A1~A4について、膜応力を測定した。図12は、各試料の膜応力を示したグラフである。図11のように、SiO膜には圧縮応力が生じ、SiN膜には試料A3を除いて引張応力が生じていた。したがって、SiOとSiNの積層とすることで応力を打ち消すようにすることができ、応力を緩和させることができることがわかった。
【0072】
(実験3)
SiN、SiOをそれぞれ成膜したSi基板を用意し、Agマイクロペーストを塗布した。そして塗布したAgナノペーストに微小な力を加え、Agナノペーストの密着性を調べた。
【0073】
図12は、Agナノペースト塗布後の基板表面を撮影した写真である。図12のように、SiO膜上にAgマイクロペーストを塗布した場合は、Agマイクロペーストは剥がれずしっかりと密着していた。SiO膜中のクラックやピンホールからAgマイクロペーストがSiO膜中に浸透し、それがアンカーとなって密着していると考えられる。一方、SiN膜上にAgマイクロペーストを塗布した場合は、Agマイクロペーストはほとんど密着しておらず、微力で剥がれ落ちた。SiNにクラックやピンホールが少ないため、SiN膜中にAgマイクロペーストが浸透しないためと考えられる。この結果、SiNはSiOに比べて耐湿性、耐溶剤性が高いことが分かった。
【0074】
(実験4)
SiOをスパッタで成膜した試料B2、SiNをCVDで製膜した試料A1、A3~A5を用意し、SiOまたはSiNの表面とSi基板裏面との間に電圧を印加して絶縁抵抗を測定した。試料A5は、Si基板上にCVDでSiNを成膜し、出力は160W、厚さは640nmとしたものである。
【0075】
図13は、各試料について印加電圧と絶縁抵抗値の関係を示したグラフである。絶縁抵抗値が下がり始める時の印加電圧が耐圧である。図13のように、試料B1の耐圧は125Vであるのに対し、試料A1、A3、A4の耐圧は250Vであった。この結果、同じ厚さで比較すると、SiNはスパッタで製膜したSiOに比べて約2倍の耐圧であることが分かった。また、試料A5の耐圧は500Vであった。この結果、SiNの厚さを2倍にすると耐圧も約2倍となることが分かった。
【0076】
(実験5)
実験4と同様の試料B2、A1、A3~A5を用意し、それぞれの試料のSiO膜上またはSiN膜上にAgナノペーストを塗布し、AgナノペーストとSi基板裏面の間に電圧を印加して絶縁抵抗を測定した。同様にして、SiO膜またはSiN膜上にAg膜、Ti膜をスパッタで形成した場合も絶縁抵抗を測定した。
【0077】
図14は、Agナノペーストを塗布した各試料について印加電圧と絶縁抵抗値の関係を示したグラフである。図14のように、印加電圧300~400V付近において、試料A3~A5は試料B1に比べて絶縁抵抗が高かった。
【0078】
図15は、Ag膜を成膜した各試料について印加電圧と絶縁抵抗値の関係を示したグラフである。図15のように、印加電圧300~400V付近において、試料A1、A3~A5は試料B2に比べて絶縁抵抗が高かった。また、試料A5はA1、A3、A4よりも絶縁抵抗が高く、SiNが厚くなるほど絶縁抵抗が高くなることが分かった。
【0079】
図16は、Ti膜を成膜した各試料について印加電圧と絶縁抵抗値の関係を示したグラフである。図16のように、図16と同様の傾向であることが分かった。つまり、印加電圧300~400V付近において、試料A1、A3~A5は試料B2に比べて絶縁抵抗が高かった。また、試料A5はA1、A3、A4よりも絶縁抵抗が高く、SiNが厚くなるほど絶縁抵抗が高くなることが分かった。
【0080】
図14~16から、CVDで製膜したSiNはスパッタで製膜したSiOに比べて絶縁抵抗が高く、SiNが厚いほど絶縁抵抗が高くなることが分かった。図14~16の結果、SiNを厚くすることが電流リークの防止の観点から好ましいことが分かり、SiNの厚さは好ましくは320nm以上、より好ましくは640nm以上であることが分かった。
【符号の説明】
【0081】
10:基板
11:n層
12:発光層
13:電子ブロック層
14:p層
15:p電極
16:n電極
17A、17B:pn電極
18:保護膜
18A:第1保護膜
18B:第2保護膜
19:反射膜
20:pパッド電極
21:nパッド電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図16