(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101441
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】筋疲労度測定装置、筋疲労度測定方法、筋疲労度測定プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/053 20210101AFI20240722BHJP
【FI】
A61B5/053
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005420
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 将也
(72)【発明者】
【氏名】勝野 高志
(72)【発明者】
【氏名】曽我 峰樹
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA06
4C127DD07
4C127GG15
(57)【要約】
【課題】筋肉の形状変化の影響の回避と、装着感の向上とを両立させる。
【解決手段】筋疲労度測定装置10は、BI測定部12に加え、変位測定部14を備えている。BIは、筋疲労だけでなく、肘の角度が変化しても変化する。|Z|は、肘角180度のときに比べ、肘角90度では、同じ疲労前であっても低下することがわかる。すなわち、BI測定部12で筋疲労を測定する場合、関節角度の変化が誤差要因となるため、この誤差を除去(相殺)するべく、筋疲労度測定装置10では、BI測定部12と、変位測定部14と併用した。上腕部16に固定するための矩形状、かつ可撓性の粘着テープ32が基材となっている。粘着テープ32は薄ければ薄いほどよいが、強度(肘の曲げ伸ばしで破損しない程度の強度)との兼ね合いで材質、薄さ等を選択すればよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の特定部位の電気インピーダンスを測定する電気インピーダンス測定部と、
前記生体の特定部位の筋肉を収縮させる関節部位の角度を測定する関節角度測定部と、
前記特定部位の運動前に、前記特定部位における、運動前関節角度と運動前電気インピーダンスとの関係を示す運動前特性データを記憶する記憶部と、
前記特定部位の運動中に、前記特定部位における、前記関節角度測定部で測定した運動中関節角度と運動中電気インピーダンス測定部で測定した前記運動中関節角度に対応する運動中電気インピーダンスとを含む運動中特性データを、前記特定部位の筋肉疲労度実測値として取得する取得部と、
前記取得部で取得した前記運動中特性データを、前記運動前特性データに基づいて補正する補正部と、
を有する筋疲労度測定装置。
【請求項2】
前記補正部が、前記記憶部に記憶した前記運動前特性データから、測定した運動中関節角度に相当する運動前関節角度に対応する運動前電気インピーダンスを読み出し、
前記測定した運動中関節角度と同じタイミングで測定した運動中電気インピーダンスから、読み出した運動前電気インピーダンスを差し引いて補正を行う、請求項1記載の筋疲労度測定装置。
【請求項3】
前記運動中特定データは、複数の運動中関節角度と、各々が前記複数の運動中関節角度の各々に対応する複数の運動中電気インピーダンスとを含み、
前記補正部は、各々が複数の運動中関節角度の各々に相当する複数の運動前関節角度の各々に対応する複数の運動前電気インピーダンスを用いて、複数の運動中電気インピーダンスの各々について補正を行う請求項2記載の筋疲労度測定装置。
【請求項4】
前記運動前特性データが、
前記生体の特定部位の運動開始前に、前記電気インピーダンス測定部及び前記関節角度測定部を用い、前記運動の負荷が無い状態で、所定の前記関節角度の各々の電気インピーダンスを測定したデータである、請求項1記載の筋疲労度測定装置。
【請求項5】
前記運動前特性データが、
識別符号に基づいて、予め生体の特定部位毎の既存データとしてデータベース化されている、請求項1記載の筋疲労度測定装置。
【請求項6】
前記生体の特定部が上腕部、及び、前記関節部位が肘であり、
前記運動が、負荷としてのダンベルを把持した状態での前記肘の曲げ伸ばしの繰り返し動作である、請求項1記載の筋疲労度測定装置。
【請求項7】
生体の特定部位の電気インピーダンスを測定する電気インピーダンス測定部と、前記生体の特定部位の筋肉を収縮させる関節部位の角度を測定する関節角度測定部と、を備えた筋肉疲労度測定装置による筋肉疲労度測定方法であって、
前記特定部位の運動前に、前記特定部位における、運動前関節角度と運動前電気インピーダンスとの関係を示す運動前特性データを記憶しておき、
前記特定部位の運動中に、前記特定部位における、前記関節角度測定部で測定した運動中関節角度と運動中電気インピーダンス測定部で測定した前記運動中関節角度に対応する運動中電気インピーダンスとを含む運動中特性データを、前記特定部位の筋肉疲労度実測値として取得し、
取得した前記運動中特性データを、前記運動前特性データに基づいて補正する、
筋疲労度測定方法。
【請求項8】
コンピュータを、
請求項1~請求項6の何れか1項記載の筋疲労度測定装置の前記記憶部、前記取得部、及び前記補正部として動作させる、
筋疲労度測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋疲労度測定装置、筋疲労度測定方法、筋疲労度測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、腕の生体電気インピーダンス(Bioelectrical Impedance: BI)を4電極法により測定し、インピーダンスの変化から筋肉の疲労度を評価することが記載されている。
【0003】
特許文献1には、BIの測定と同時に、測定部位の電極間の長さ(部位長Ml)と幅(部位幅Mw)を測定し、それらの値から筋肉組織の実効長を算出し、BIと実効長から生体等価モデルを算出し、筋疲労を評価することが記載されている。
【0004】
生体電気インピーダンスは、筋疲労時の筋肉内血液量の増減や、関節角度変化時の筋肉形状の歪みに伴い変化する。例えば、上腕部の生体電気インピーダンスは、疲労により減少するが、肘関節の屈曲によっても減少する。従って、特許文献1の方法を用いて、生体電気インピーダンスから疲労度合を評価する場合、関節の角度変化に伴う筋厚の変化の影響を除外する必要がある。これは、特許文献2の技術(筋肉の実効長を用いてBIを補正する)を用いれば、筋肉の形状変化の影響を回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第39960475号「特開2004-201877号」公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Todd J. Freeborn, Bo Fu, "Fatigue-Induced Cole Electrical Impedance Model Changes of Biceps Tissue Bioimpedance" Fractal Fract, Vol.2, No.4, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1を含む従来の測定装置は、関節の角度変化(例えば、腕の曲げ伸ばし等)に対して柔軟性に欠けるため、装着感が悪い(腕の曲げ伸ばしがし難い等)という課題がある。
【0008】
本発明は上記事実を考慮し、筋肉の形状変化の影響の回避と、装着感の向上とを両立させることができる筋疲労度測定装置、筋疲労度測定方法、筋疲労度測定プログラムを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る筋疲労度測定装置は、生体の特定部位の電気インピーダンスを測定する電気インピーダンス測定部と、前記生体の特定部位の筋肉を収縮させる関節部位の角度を測定する関節角度測定部と、前記特定部位の運動前に、前記特定部位における、運動前関節角度と運動前電気インピーダンスとの関係を示す運動前特性データを記憶する記憶部と、前記特定部位の運動中に、前記特定部位における、前記関節角度測定部で測定した運動中関節角度と運動中電気インピーダンス測定部で測定した前記運動中関節角度に対応する運動中電気インピーダンスとを含む運動中特性データを、前記特定部位の筋肉疲労度実測値として取得する取得部と、前記取得部で取得した前記運動中特性データを、前記運動前特性データに基づいて補正する補正部と、を有している。
【0010】
本発明によれば、記憶部は、特定部位の運動前に、特定部位における、運動前関節角度と運動前電気インピーダンスとの関係を示す運動前特性データを記憶する。
取得部は、特定部位の運動中に、特定部位における、関節角度測定部で測定した運動中関節角度と、運動中電気インピーダンス測定部で測定した運動中関節角度に対応する運動中電気インピーダンスとを含む運動中特性データを、特定部位の筋肉疲労度実測値として取得する。
【0011】
この実測値は、生体の特定部位の筋肉を収縮させる関節部位の角度変位による電気インピーダンスの変化値を含むため、補正部では、取得部で取得した運動中特性データを、運動前特性データに基づいて補正する。
【0012】
これにより、筋肉の形状変化の影響の回避と、装着感の向上とを両立させることができる。
【0013】
本発明において、前記補正部が、前記記憶部に記憶した前記運動前特性データから、測定した運動中関節角度に相当する運動前関節角度に対応する運動前電気インピーダンスを読み出し、前記測定した運動中関節角度と同じタイミングで測定した運動中電気インピーダンスから、読み出した運動前電気インピーダンスを差し引いて補正を行うことを特徴としている。
【0014】
補正部による補正として、記憶部に記憶した運動前特性データから、測定した運動中関節角度に相当する運動前関節角度に対応する運動前電気インピーダンスを読み出し、測定した運動中関節角度と同じタイミングで測定した運動中電気インピーダンスから、読み出した運動前電気インピーダンスを差し引いて補正を行う。この差分が本来の筋肉疲労に応じた電気インピーダンスとなる。
【0015】
本発明において、前記運動中特定データは、複数の運動中関節角度と、各々が前記複数の運動中関節角度の各々に対応する複数の運動中電気インピーダンスとを含み、前記補正部は、各々が複数の運動中関節角度の各々に相当する複数の運動前関節角度の各々に対応する複数の運動前電気インピーダンスを用いて、複数の運動中電気インピーダンスの各々について補正を行うことを特徴としている。
【0016】
本発明において、前記運動前特性データが、前記生体の特定部位の運動開始前に、前記電気インピーダンス測定部及び前記関節角度測定部を用い、前記運動の負荷が無い状態で、所定の前記関節角度の各々の電気インピーダンスを測定したデータであることを特徴としている。
【0017】
運動前に、都度、運動の負荷が無い状態で、所定の前記関節角度毎の電気インピーダンスを測定することで、生体の状態による運動前電気インピーダンスの精度を極力高めることができる。
【0018】
本発明において、前記運動前特性データが、識別符号に基づいて、予め生体の特定部位毎の既存データとしてデータベース化されていることを特徴としている。
【0019】
汎用性、利便性としては、運動前特性データを、識別符号に基づいて、予め生体の特定部位毎の既存データとしてデータベース化しておくことが好ましい。
【0020】
本発明において、前記生体の特定部が上腕部、及び、前記関節部位が肘であり、前記運動が、負荷としてのダンベルを把持した状態での前記肘の曲げ伸ばしの繰り返し動作であることを特徴としている。
【0021】
特に、上腕の肘の曲げ伸ばしでは、電気インピーダンスを測定する部位の皮膚の伸縮及び断面積の変化が大きい。
【0022】
これは、運動前特性データが有用な精度向上のパラメータとなる。
【0023】
本発明に係る筋疲労度測定方法は、生体の特定部位の電気インピーダンスを測定する電気インピーダンス測定部と、前記生体の特定部位の筋肉を収縮させる関節部位の角度を測定する関節角度測定部と、を備えた筋肉疲労度測定装置による筋肉疲労度測定方法であって、前記特定部位の運動前に、前記特定部位における、関節角度と電気インピーダンスとの関係を示す運動前特性データを記憶しておき、前記特定部位の運動中に、前記特定部位における、前記関節角度測定部で測定した関節角度と前記電気インピーダンス測定部で測定した電気インピーダンスとの関係を示す運動中特性データを、前記特定部位の筋肉疲労度実測値として取得し、取得した前記運動中特性データを、前記運動前特性データに基づいて補正することを特徴としている。
【0024】
本発明に係る筋疲労度測定プログラムは、コンピュータを、上記の筋疲労度測定装置の前記記憶部、前記取得部、及び前記補正部として動作させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
以上説明した如く本発明では、筋肉の形状変化の影響の回避と、装着感の向上とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】(A)は本実施の形態に係る筋疲労度測定装置の概略構成図、(B)は測定対象である生体の腕の正面図である。
【
図2】(A)はBI測定に特化した測定対象の腕の正面図、(B)は上腕の肘角90度のときの疲労前後のBI値の比較を示す特性図、(C)は疲労前の肘角90度と180度のBI値の比較を示す特性図である。
【
図3】(A)は変位測定部に特化した測定対象の腕(肘角180度)の正面図、(B)は変位測定部に特化した測定対象の腕(肘角90度)の正面図、(C)は、変位測定部の概略構成図である。
【
図4】(A)は本実施の形態に係る筋疲労度測定装置の実装を考慮した構造の正面図、(B)は
図4(A)のIVB-IVB線断面図、(C)は
図4(A)のIVC-IVC線断面図である。
【
図5】測定対象の腕部の変位特性図であり、(A)は肘角度-測定部位長さ特性図、(B)は、肘角度-周囲長特性図である。
【
図6】運動前に測定し記憶される、肘角90度から180度でのBI値特性図である。
【
図7】運動前と運動中の、肘角90度から180度でのBI値特性図である。
【
図8】本実施の形態に係る疲労度の測定のための制御フローチャートである。
【
図9】
図8による疲労度測定に基づく、計測データの具体例であり、(A)は運動前から運動中でのBI値及び肘角度の時系列遷移特性図、(B)は運動前の肘角度-BI値特性図、(C)は運動中の肘角度-BI値特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1には、本実施の形態に係る筋疲労度測定装置10が示されている。
【0028】
筋疲労度測定装置10は、生体電気インピーダンス(Bioelectrical Impedance: BI)の測定部12(以下、BI測定部12という)と、測定部の変位を測定する変位測定部14と、で構成されている。
【0029】
筋疲労度測定装置10は、人体の上腕部16に取り付けられており、例えば、ダンベル等の器具を用いた運動(肘の曲げ伸ばし)に基づく疲労度を計測するものである。
【0030】
本実施の形態では、
図1に示すBI測定部12の測定を行う際、この測定と同時に、変位測定部14による変位測定(主として、肘の曲げ伸ばしに起因する変位)を行い、変位量に応じたBI測定値(Z)の誤差を相殺するようになっている。なお、
図1(A)が上腕部16の肘を伸ばした状態(肘角180度)を示し、
図1(B)は肘を曲げた状態(肘角90度)を示している。
【0031】
(BI測定部12及び変位測定部14の併用の根拠)
図2(A)は、BI測定部12の基本構成であり、本実施の形態の基礎となる構成である。BI測定部12は、通電用の一対の電極及び電圧測定用の一対の電極を有する4個の電極(P1、P2、P3、P4)を備えており、上腕部16に直線的に貼り付けている。
【0032】
外側の2個の電極(P1及びP4)間には、電流I[A]を流すように配線されている。また、電極P1-P4間に電流を流した状態で、内側の2個電極(P2及びP3)間の電圧を測定する。電流値と電圧値との比から、生体電気インピーダンスBI Z[Ω]が演算される。
【0033】
電流Iは、周波数が異なる複数の正弦波から選択された電流が使用され、電流Iの周波数は、例えば、2kHz、50kHz、及び200kHzの正弦波であり、実効値は、例えば0.05mAである。
【0034】
ここで、筋肉は、筋力トレーニング(上記したダンベルを持ちながらの肘の曲げ伸ばし等)により疲労すると、筋肉内の血液量が増加する。
【0035】
血液の抵抗率は他の体組織に比べて低いため、血液量が増加するとBIは低下する。従って、BIを測定することで、筋肉の疲労を測定できる(
図2(B)参照)。
【0036】
図2(B)は、
図2(A)に示すBI測定部12による、BI測定結果である。なお、Zは複素数であるため、実部を横軸、虚部を縦軸としたcole-coleプロット表示で表現できる。
図2(B)に示される如く、例えば、50kHzの|Z|は、疲労前に比べ、疲労後に低下することが分かる。
【0037】
ところで、
図1に示される如く、本実施の形態では、筋疲労度測定装置10は、BI測定部12に加え、変位測定部14を備えている。
【0038】
BIは、筋疲労だけでなく、肘の角度が変化しても変化する。
【0039】
図2(C)は、肘の角度が180度(肘角180度)、及び90度(肘角90度)の場合のBI測定結果を示している。
【0040】
図2(C)に示される如く、肘角180度と肘角90度のBIの測定値Zの測定結果(いずれも疲労前)の例である。
【0041】
図2(C)の結果から、|Z|は、肘角180度のときに比べ、肘角90度では、同じ疲労前であっても低下することがわかる。
【0042】
すなわち、BI測定部12で筋疲労を測定する場合、関節角度の変化が誤差要因となるため、この誤差を除去(相殺)するべく、本実施の形態の筋疲労度測定装置10では、BI測定部12と、変位測定部14とを併用した。
【0043】
以下に、BI測定部12及び変位測定部14の詳細構成について説明する。
【0044】
(BI測定部12の構成)
図1に示される如く、本実施の形態のBI測定部12は、上記基本構成と同様に4個の電極P1、P2、P3、P4を備えている。
【0045】
各電極P1、P2、P3、P4は、人体の上腕部16に直線的に貼り付けられている。また、各電極P1、P2、P3、P4は、信号線18の一端が電気的に接続されており、信号線の他端はBI測定部12に接続されている。
【0046】
BI測定部12は、
図2(A)で示したように、電極P1、P4間に、所定の周波数(正弦波)の電流(例、実効値:0.05mA)を流す電源部12Aと、電極P2、P3間の電圧を測定する電圧計12Bとを備えている。なお、周波数は、適宜変化させてもよいし、固定であってもよい。
【0047】
また、BI測定部12は、演算部12Cを備えている。演算部12Cは、電源部12Aで流した電流値と、電圧計12Bで測定した電圧値との比から、BI Z[Ω]を演算する。
【0048】
BI測定部12には、処理部20を介して表示部22が接続されている。
【0049】
演算部12Cでの演算結果は、処理部20での所定の処理後、表示部22に表示されるようになっている。なお、演算結果は、表示部22に表示する以外に、紙媒体へのプリントアウト、及び端末装置への通信の少なくとも一方であってもよい。
【0050】
なお、処理部20での所定の処理の詳細は後述するが、処理部20は、疲労前のθ-|Z|特性テーブルを記憶データとして記憶する記憶部20Aと、記憶データと、運動中にBI測定部12から入力されるBI値との差を算出(補正)する算出部20Bとを備えている。
【0051】
(変位測定部14の構成)
図1に示される如く、変位測定部14には、変位センサ24が接続されており、この変位センサ24が、上腕部16の皮膚に、BI測定部12に併設されるように貼り付けられている。
【0052】
以下、
図3に従い、変位測定部14の詳細について説明する。
図3(A)及び(B)では、上腕部16に貼り付けられている電極P1、P2、P3、P4(BI測定部12の構成部材)については、図示を省略しているが、
図1に示される如く、変位測定部14の変位センサ24と、電極P1、P2、P3、P4とは、互いに、並列的に設けられている。
【0053】
本実施の形態では、変位センサ24として、所謂直線可変抵抗器型の変位センサ24が適用されている(
図3(C)参照)。変位センサ24で測定した測定値は、変位測定部14に送出されるようになっている。変位測定部14では、測定値(変位量)を肘の角度に換算し、処理部20に送出する。
【0054】
変位センサ24は、上腕部16に取り付けて、肘の曲げ伸ばしがあっても、柔軟に変形し得る機能を有しており、本実施の形態の特徴の一つとして挙げることができる。言い換えれば、変位センサ24は、本実施の形態で適用した直線可変抵抗器型の変位センサ24に限定されるものではない。
【0055】
例えば、直線可変抵抗器型の変位センサ24以外で、肘の曲げ伸ばしがあっても、柔軟に変形し得る機能を有する変位センサとしては、ひずみゲージ型センサ、ワイヤ変位センサ、及び静電容量変位計等が適用可能である。
【0056】
図3は、本実施の形態で適用した直線可変抵抗器の変位センサ24の詳細構成である。
【0057】
変位センサ24は、帯状の導体26が設けられた矩形状の基板28と、基板28を収容する袋体30とを備えている。
【0058】
基板28は、その一部が袋体30に収容された状態で、外端(
図3(C))に示す基板28の左端が固定点28Aを介して、及び袋体30の右端が固定点30Aを介して、それぞれ上腕部16(皮膚)に固定されている。
【0059】
前記袋体30には、前記導体26上を移動可能な押込点30Bが取り付けられている。
【0060】
また、導体26の左端が端子1に配線され、導体26の右端がアースされている。押込点30Bは、端子2に配線されている。
【0061】
上記構成において、押込点30Bが導体26上の移動することで、端子1と端子2との間の抵抗値が変化することになる。
【0062】
押込点30Bの移動は、上腕部16の皮膚の伸縮(肘の曲げ伸ばし)による、基板28と袋体30との相対移動に依存するため、変位センサ24の端子1と端子2との間の抵抗値を測定することで、測定部位の長さを求めることができる。
【0063】
当該長さは、肘の角度と相関関係があるため、結果として、変位センサ24の測定値から、肘の角度を取得することができる。
【0064】
なお、本実施の形態で適用可能な直線可変抵抗器型の変位センサ24の基板28として適用可能な製品の一例として、「Spectrasymbol社、SoftPot」が挙げられる。
【0065】
(筋疲労度測定装置10の実装構成)
図4は、筋疲労度測定装置10の、BI測定部12と、変位測定部14とを上腕部16に実装するための構成を示している。
【0066】
図4(A)に示される如く、上腕部16に固定するための矩形状、かつ可撓性の粘着テープ32が基材となっている。粘着テープ32は薄ければ薄いほどよいが、強度(肘の曲げ伸ばしで破損しない程度の強度)との兼ね合いで材質、薄さ等を選択すればよい。また、所謂肌にやさしい(かぶれ等が発症しない)材質であればより好ましい。
【0067】
図4(B)は、BI測定部12の電極部分の断面図であり、電極P1、P2、P3、P4は、それぞれ、粘着テープ32の表裏面を貫通して取り付けられたAg/AgCl電極34と、粘着テープ32の裏面側(上腕部16と対峙する側)に配置された生体電極ジェル36で構成されている。Ag/AgCl電極34と生体電極ジェル36が一対となって、それぞれ電極P1、P2、P3、P4を構成する。
【0068】
Ag/AgCl電極34は、BI測定部12(
図1(A)参照)に信号線18を介して接続される。
【0069】
また、生体電極ジェル36は、上腕部16に対して、Ag/AgCl電極34を導通可能とする。
【0070】
図4(C)は、変位測定部14の断面図であり、粘着テープ32に対して、固定点28Aを介して基板28が取り付けられ、固定点30Aを介して袋体30が取り付けられている。上腕部16が曲げ伸ばしされると、可撓性の粘着テープ32が撓み、押込点30Bが変位センサ24の導体26上を移動することになる。
【0071】
(肘の曲げ伸ばしによるBI値変化の検証)
図5(A)は、肘の角度に対する、変位センサ24での測定部位の長さ(L1)の一例である。
【0072】
肘角180度のときは、L1は30mmであるが、肘角90度のときは、長さ(L1’)は25mmとなる。
【0073】
図5(B)は、肘の角度に対する、変位センサ24での測定部位の周囲長(L2)の一例である。
【0074】
肘角180度のときは、L2は255mmであるが、肘角90度のときは、周囲長L2’は263mmとなる。
【0075】
以上から、インピーダンス|Z|の変化量を概算できる。測定部位内の抵抗率を一定と仮定し、その大きさを|ρ|、上腕部16の測定部位の断面積をSとすると、インピーダンス|Z|は、(1)式で表すことができる。
|Z|=|ρ|×L1/S・・・(1)
【0076】
ここで、上腕部16の測定部位の断面を真円と仮定すると、周囲長L2の断面積Sは、(2)で表すことができる。
S=L2×L2/(4π)・・・(2)
【0077】
上記(1)式及び(2)式から、|Z|は、(3)で表すことができる。
|Z|=4×π×|ρ|×L1/(L2×L2)・・・(3)
【0078】
ここで、|ρ|=9000Ωmmとした場合の、肘角に対する|Z|を
図6に示す。
【0079】
図6に示される如く、肘角180度のとき、|Z|は、52.2Ω、肘角90度のとき、|Z|は、40.9Ωとなる。
【0080】
図7は、肘角の疲労前後のBI値(|Z|Ω)の例を示す。BI値は、疲労の大きさと、肘の曲げに伴い変化する。
【0081】
従って、処理部20に、
図6に示すような、疲労前のθ-|Z|特性テーブルを記憶データとして記憶しておく(
図7では、鎖線Bに相当)。
【0082】
処理部20では、この記憶データと、運動中にBI測定部12から入力されるBI値(
図7に示す実線A参照)との差を算出する。この算出値が、任意の肘角における疲労度になり、精度よく疲労度を評価することができる。
【0083】
以下に、本実施の形態の作用を説明する。
【0084】
図8は、本実施の形態に係る疲労度の測定のための制御フローチャートである。
【0085】
ステップ100では、運動前の、θ-|Z|特性を計測し、テーブル化して処理部20に記憶する。
【0086】
次のステップ102では、運動を開始したか否かを判断する。このステップ102で肯定判定されると、ステップ104へ移行して、運動中のθ-|Z|特性を計測し、ステップ106へ移行する。
【0087】
ステップ106では、ステップ100で処理部20に記憶した、運動前のθ-|Z|特性テーブルを読み出し、ステップ108へ移行する。
【0088】
ステップ108では、運動中のθ-|Z|特性と、運動前のθ-|Z|特性との差分ΔZを算出Hし、ステップ110へ移行して、算出したΔZを疲労度として表示し、このルーチンは終了する。
【0089】
図9は、
図8による疲労度測定に基づく、計測データの具体例である。
【0090】
まず、運動前に、肘を90度から180度まで動かし、θと|Z|を記憶する(
図9(A)のタイミングチャートの測定開始から前半の運動前の範囲)。
【0091】
図9(B)は、運動前の記憶結果であり、θ-|Z|特性テーブルに相当し、処理部20に予め記憶される。
【0092】
次に、運動中は、常時、肘角θと、|Z|を測定する。この測定値は、
図9(C)の○印で示す実線特性となる。
【0093】
この実線特性から、θ-|Z|特性テーブルのデータとの差分ΔZを疲労度として算出する(
図9(C)参照)。すなわち、記憶部には、
図9(B)に示すように、運動前の肘角度(例えば、90度、135度、180度)と、運動前肘角度を測定した際に測定した運動前インピーダンス|Z|との関係を示す特性テーブルが記憶されているので、運動中に、運動中関節角度である肘角度と運動中インピーダンス|Z|とを同じタイミングで測定し、記憶されている特性テーブルから、測定した運動中肘角度と同じ大きさの運動前肘角度に対応する運動前インピーダンス|Z|を読み出す。読み出した後、運動中電気インピーダンスから、読み出した運動前電気インピーダンスを差し引いて差分ΔZを疲労度として算出する。運動中に測定する肘角度は1つの角度で、1つの差分ΔZを算出しても良いが、
図9(A)、(B)に示すように、運動中に複数の肘角度(例えば、90度、135度、180度)を測定し、複数の肘角度を測定したタイミングの各々で運動中インピーダンス|Z|を測定してもよい。この場合、記憶された特性テーブルから測定した複数の運動中肘角度の各々と同じ大きさの運動前肘角度各々の運動前インピーダンス|Z|を読み出す。読み出した後、同じ大きさの肘角度毎に、運動中電気インピーダンスから、読み出した運動前電気インピーダンスを差し引いて差分ΔZを複数個算出し、算出した差分の平均値を疲労度としてもよい。
【0094】
なお、本実施の形態では、肘の曲げ伸ばしにおける疲労度を測定したが、上半身を垂直にしたままの膝の屈伸運動(スクワット)等、他の生体の特定部位の運動時の筋疲労度の測定にも適用可能である。また、
図9では、都度運動前の電気インピーダンスを計測するようにしたが、例えば、運動する対象(人)の識別番号に基づいて、予め運動前特性テーブルをデータベース化して記憶しておき、運動前に識別番号に基づいて読み出すようにしてもよい。データベースは定期的又は不定期に更新することが好ましい。
【0095】
(実施態様)
本発明は、以下の付記に示す従属関係の実施態様を構成し得る。
[付記1]
生体の特定部位の電気インピーダンスを測定する電気インピーダンス測定部と、
前記生体の特定部位の筋肉を収縮させる関節部位の角度を測定する関節角度測定部と、
前記特定部位の運動前に、前記特定部位における、運動前関節角度と運動前電気インピーダンスとの関係を示す運動前特性データを記憶する記憶部と、
前記特定部位の運動中に、前記特定部位における、前記関節角度測定部で測定した運動中関節角度と運動中電気インピーダンス測定部で測定した前記運動中関節角度に対応する運動中電気インピーダンスとを含む運動中特性データを、前記特定部位の筋肉疲労度実測値として取得する取得部と、
前記取得部で取得した前記運動中特性データを、前記運動前特性データに基づいて補正する補正部と、
を有する筋疲労度測定装置。
【0096】
[付記2]
前記補正部が、前記記憶部に記憶した前記運動前特性データから、測定した運動中関節角度に相当する運動前関節角度に対応する運動前電気インピーダンスを読み出し、
前記測定した運動中関節角度と同じタイミングで測定した運動中電気インピーダンスから、読み出した運動前電気インピーダンスを差し引いて補正を行う、付記1記載の筋疲労度測定装置。
【0097】
[付記3]
前記運動中特定データは、複数の運動中関節角度と、各々が前記複数の運動中関節角度の各々に対応する複数の運動中電気インピーダンスとを含み、
前記補正部は、各々が複数の運動中関節角度の各々に相当する複数の運動前関節角度の各々に対応する複数の運動前電気インピーダンスを用いて、複数の運動中電気インピーダンスの各々について補正を行う付記2記載の筋疲労度測定装置。
【0098】
[付記4]
前記運動前特性データが、
前記生体の特定部位の運動開始前に、前記電気インピーダンス測定部及び前記関節角度測定部を用い、前記運動の負荷が無い状態で、所定の前記関節角度の各々の電気インピーダンスを測定したデータである、付記1~付記3の何れかの付記に記載の筋疲労度測定装置。
【0099】
[付記5]
前記運動前特性データが、
識別符号に基づいて、予め生体の特定部位毎の既存データとしてデータベース化されている、付記1~付記4の何れかの付記に記載の筋疲労度測定装置。
【0100】
[付記6]
前記生体の特定部が上腕部、及び、前記関節部位が肘であり、
前記運動が、負荷としてのダンベルを把持した状態での前記肘の曲げ伸ばしの繰り返し動作である、付記1~付記5の何れかの付記に記載の筋疲労度測定装置。
【0101】
[付記7]
生体の特定部位の電気インピーダンスを測定する電気インピーダンス測定部と、前記生体の特定部位の筋肉を収縮させる関節部位の角度を測定する関節角度測定部と、を備えた筋肉疲労度測定装置による筋肉疲労度測定方法であって、
前記特定部位の運動前に、前記特定部位における、関節角度と電気インピーダンスとの関係を示す運動前特性データを記憶しておき、
前記特定部位の運動中に、前記特定部位における、前記関節角度測定部で測定した関節角度と前記電気インピーダンス測定部で測定した電気インピーダンスとの関係を示す運動中特性データを、前記特定部位の筋肉疲労度実測値として取得し、
取得した前記運動中特性データを、前記運動前特性データに基づいて補正する、
筋疲労度測定方法。
【0102】
[付記8]
コンピュータを、
付記1~付記6の何れかの付記に記載の筋疲労度測定装置の前記記憶部、前記取得部、及び前記補正部として動作させる、
筋疲労度測定プログラム。
【符号の説明】
【0103】
P1、P2、P3、P4 電極
10 筋疲労度測定装置
12 BI測定部(電気インピーダンス測定部)
12A 電源部
12B 電圧計
12C 演算部(取得部)
14 変位測定部(関節角度測定部)
16 上腕部
18 信号線
20 処理部
20A 記憶部(記憶部)
20B 算出部(補正部)
22 表示部
24 変位センサ
26 導体
28 基板
28A 固定点
30 袋体
30A 固定点
30B 押込点
32 粘着テープ
34 Ag/AgCl電極
36 生体電極ジェル