(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101443
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】フラン化合物、電気光学用組成物、電気光学膜及び電気光学素子
(51)【国際特許分類】
C07D 409/06 20060101AFI20240722BHJP
G02F 1/061 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C07D409/06 CSP
G02F1/061 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005423
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】山縣 拓也
【テーマコード(参考)】
2K102
4C063
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102CA30
2K102DA02
2K102DD01
4C063AA01
4C063BB03
4C063CC92
4C063DD75
4C063EE10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明の課題は、高い耐熱性を有するフラン化合物と、前記化合物を含む電気光学用組成物、電気光学膜及び電気光学素子を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)
(式(1)中、R
1は水素原子、重水素原子、炭素数1~8のアルコキシ基など;R
2は、同一又は相異なっていてもよく、水素原子、重水素原子、炭素数1~8のアルキル基などを表し、ここで、2つのR
2は隣接する2つの炭素原子と一体となって、五員環又は六員環を形成してもよい;R
3及びR
4は、各々独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基などを表す;R
5は、同一又は相異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子などを表し、2つのR
5は隣接する2つの炭素原子と一体となって、五員環又は六員環を形成してもよい;R
6は、同一又は相異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子などを表す;k、m、qは、各々独立に、1又は2の整数である)で示されるフラン化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるフラン化合物:
【化1】
式(1)中、
R
1は水素原子、重水素原子、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数7~12のアラルキルオキシ基、炭素数3~12のトリアルキルシリルオキシ基又はヒドロキシ基を表す;
R
2は、同一又は相異なっていてもよく、水素原子、重水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数7~12のアラルキルオキシ基又はヒドロキシ基を示し、ここで、2つのR
2は隣接する2つの炭素原子と一体となって、五員環又は六員環を形成してもよい;
R
3及びR
4は、各々独立に、水素原子、重水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のハロアルキル基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数4~7のトリアルキルシリルオキシアルキル基、炭素数1~4のアミノアルキル基又は炭素数6の芳香族炭化水素基を表す;
R
5は、同一又は相異なっていてもよく、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のハロアルキル基を表し、2つのR
5は隣接する2つの炭素原子と一体となって、五員環又は六員環を形成してもよい;
R
6は、同一又は相異なっていてもよく、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子又はシアノ基を表す;
k及びmは、各々独立に、1又は2の整数である;
qは、1又は2の整数である:
【請求項2】
R3が、メチル基又はヒドロキシメチル基である、請求項1に記載のフラン化合物。
【請求項3】
R4が、メチル基又はヒドロキシメチル基である、請求項1に記載のフラン化合物。
【請求項4】
R3及びR4が、メチル基である、請求項1に記載のフラン化合物。
【請求項5】
R1が、水素原子、炭素数1~6のアルコキシ基、ベンジルオキシ基、炭素数3~12のトリアルキルシリルオキシ基又はヒドロキシ基であり;
R2が、同一又は相異なって、水素原子、重水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ベンジルオキシ基又はヒドロキシ基である、請求項1に記載のフラン化合物。
【請求項6】
R5が、同一又は相異なっていてもよく、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基であり;
R6は、同一又は相異なっていてもよく、水素原子又はフッ素原子である、請求項1に記載のフラン化合物。
【請求項7】
k、m及びqが、1である、請求項1に記載のフラン化合物。
【請求項8】
式(1)で示されるフラン化合物が下式(1-1)で表される、請求項1に記載のフラン化合物。
【化2】
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のフラン化合物を含む、電気光学組成物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載のフラン化合物と、前記フラン化合物が分散されるホスト材料とを含有しており、前記ホスト材料は、前記化合物との間に共有結合を形成し得る反応性官能基を有する樹脂を含有し、前記化合物の少なくとも一部は、前記樹脂と結合している電気光学組成物。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載のフラン化合物によって形成される膜を有する電気光学素子。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項に記載のフラン化合物によって形成される光導波路を有する電気光学素子。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか1項に記載のフラン化合物を含む電気光学素子。
【請求項14】
請求項9に記載の電気光学組成物によって形成される膜を有する電気光学素子。
【請求項15】
請求項9に記載の電気光学組成物によって形成される光導波路を有する電気光学素子。
【請求項16】
請求項10に記載の電気光学組成物によって形成される膜を有する電気光学素子。
【請求項17】
請求項10に記載の電気光学組成物によって形成される光導波路を有する電気光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性の高い電気光学化合物として有用なフラン化合物に関するものである。また、前記化合物を含む電気光学材料及び電気光学素子に関するものである
【背景技術】
【0002】
光変調器、光スイッチ、光インターコネクト、光電子回路、波長変換、電界センサー、THz(テラヘルツ)波発生及び検出、光フェーズドアレイ等の光制御素子(光学素子)に適用できる電気光学(以下、「EO」と省略する場合がある。)材料として、従来、無機強誘電体電気光学材料が使用されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、無機強誘電体電気光学材料は、高速性及び小型化・集積化の点において限界がある。そのため、次世代の超高速光通信を実現するために、高速動作が可能で、かつシリコンフォトニクスとハイブリッドが可能な材料が必要とされている。
【0003】
このような観点から、有機電気光学材料が注目されている。有機電気光学材料は、無機強誘電体電気光学材料に比べて大きな電気光学効果を示し、高速動作が可能であること、及びシリコンフォトニクスとのハイブリッドによって小型化・集積化が可能であることから、次世代の光通信を担う材料として期待されている。
【0004】
有機電気光学材料は、電気光学活性を有する化合物(以下に単に「電気光学化合物」という)を高分子材料等のホスト材料に分散又は結合させることによって得られる。
【0005】
電気光学化合物は、基本構造としてドナーとアクセプターとをπ共役ブリッジで連結した構造を有している。電気光学材料の電気光学係数を高めるためには、電子供与性の高いドナー及び電子吸引性の高いアクセプターを具え、長いπ共役ブリッジを有する電気光学化合物を選択するのが効果的なことが知られており、このような構造を有する電気光学化合物としては、種々の構造を有するものが報告されている(例えば、特許文献2~4、非特許文献1等)。
【0006】
また、電気光学材料によって光導波路が形成された電気光学素子を作製するに際しては、電気光学材料の2次のEO活性を生じさせるためにEO化合物に対して配向処理を施す場合がある。EO化合物の配向処理方法としては、一般に電界ポーリング法が用いられる。電界ポーリング法とは、EO材料に電界を印加し、EO化合物の双極子モーメントと印加電界とのクーロン力によって、EO化合物を印加電界方向に配向させる方法である。このような電界ポーリング法では、通常、ホスト材料のガラス転移温度付近の温度まで加熱し、EO化合物の分子運動を促進した状態で電界が印加される。したがって、優れたEO性能を発揮するEO素子を得るためには、EO化合物が優れたEO特性を有することに加え、EO化合物が配向処理における加熱によって変質しない耐熱性を有することが要求される。
【0007】
さらに、電子回路の高速性の要求から電子回路間を光回路で接続することによる信号伝達の速度を向上させる取り組みが行われており、EO材料を用いたEO素子を電気信号及び光信号の変換に用いることが検討されている。このとき、高速で動作する電子回路は高温となることから、EO化合物の分子運動が盛んになり、配向が緩和してしまうおそれがある。そのため、ホスト材料としては、より高いガラス転移温度を有するものが要求され、それに伴いEO化合物もより高い温度での耐熱性(熱安定性)が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許7134378号公報
【特許文献2】特表2004-501159号公報
【特許文献3】特許5945905号公報
【特許文献4】特開2022-97407号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Chem.Mater.2008年,120巻,6372-6377頁.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のEO化合物は耐熱性(熱安定性)が充分でなく、一定以上の高温条件で分解するため、素子化などの加工プロセス条件が限定されてしまうおそれがある。
【0011】
そこで、本発明は、耐熱性に優れる化合物を提供することを目的とする。また、本発明は、このような化合物を用いた電気光学膜、及び電気光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、ドナー/π共役ブリッジ/アクセプター構造におけるドナー構造において、アミノ基に特定の置換基を導入することで、耐熱性に優れるEO化合物を与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち本発明は、
[1]
一般式(1)で表されるフラン化合物:
【0014】
【0015】
式(1)中、
R1は水素原子、重水素原子、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数7~12のアラルキルオキシ基、炭素数3~12のトリアルキルシリルオキシ基又はヒドロキシ基を表す;
R2は、同一又は相異なっていてもよく、水素原子、重水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数7~12のアラルキルオキシ基又はヒドロキシ基を示し、ここで、2つのR2は隣接する2つの炭素原子と一体となって、五員環又は六員環を形成してもよい;
R3及びR4は、各々独立に、水素原子、重水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のハロアルキル基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数4~7のトリアルキルシリルオキシアルキル基、炭素数1~4のアミノアルキル基又は炭素数6の芳香族炭化水素基を表す;
R5は、同一又は相異なっていてもよく、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のハロアルキル基を表し、2つのR5は隣接する2つの炭素原子と一体となって、五員環又は六員環を形成してもよい;
R6は、同一又は相異なっていてもよく、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子又はシアノ基を表す;
k及びmは、各々独立に、1又は2の整数である;
qは、1又は2の整数である:
[2]
R3が、メチル基又はヒドロキシメチル基である、[1]に記載のフラン化合物。
[3]
R4が、メチル基又はヒドロキシメチル基である、[1]又は[2]に記載のフラン化合物。
[4]
R3及びR4が、メチル基である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のフラン化合物。
[5]
R1が、水素原子、炭素数1~6のアルコキシ基、ベンジルオキシ基、炭素数3~12のトリアルキルシリルオキシ基又はヒドロキシ基であり;
R2が、同一又は相異なって、水素原子、重水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ベンジルオキシ基又はヒドロキシ基である、[1]~[4]のいずれか1項に記載のフラン化合物。
[6]
R5が、同一又は相異なっていてもよく、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基であり;
R6は、同一又は相異なっていてもよく、水素原子又はフッ素原子である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のフラン化合物。
[7]
k、m及びqが、1である、[1]~[6]のいずれか1項に記載のフラン化合物。
[8]
式(1)で示されるフラン化合物が下式(1-1)で表される、[1]に記載のフラン化合物。
【0016】
【0017】
[9]
[1]~[8]のいずれか1項に記載の化フラン合物を含む、電気光学組成物。
[10]
[1]~[8]のいずれか1項に記載のフラン化合物と、前記フラン化合物が分散されるホスト材料とを含有しており、前記ホスト材料は、前記化合物との間に共有結合を形成し得る反応性官能基を有する樹脂を含有し、前記化合物の少なくとも一部は、前記樹脂と結合している電気光学組成物。
[11]
[1]~[8]のいずれか1項に記載のフラン化合物によって形成される膜を有する電気光学素子。
[12]
[1]~[8]のいずれか1項に記載のフラン化合物によって形成される光導波路を有する電気光学素子。
[13]
[1]~[8]のいずれか1項に記載のフラン化合物を含む電気光学素子。
[14]
[9]に記載の電気光学組成物によって形成される膜を有する電気光学素子。
[15]
[9]に記載の電気光学組成物によって形成される光導波路を有する電気光学素子。
[16]
[10]に記載の電気光学組成物によって形成される膜を有する電気光学素子。
[17]
[10]に記載の電気光学組成物によって形成される光導波路を有する電気光学素子。
【0018】
本発明のフラン化合物(1)におけるR1~R6、k、m及びqの定義について説明する。
【0019】
R1で表される炭素数1~8のアルコキシ基としては、直鎖状または分岐状のアルコキシ基のいずれでもよく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、イソプロポキシ基、2-メチルプロピルオキシ基、2-ブチルオキシ基、tert-ブトキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基などを例示することができ、得られるフラン化合物(1)の性能が良い点で、炭素数1~6のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
【0020】
R1で表される炭素数6~12のアリールオキシ基としては、フェニルオキシ基、トリルオキシ基、ナフチルオキシ基などを例示することができる。
【0021】
R1で表される炭素数7~12のアラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などを例示することができ、得られるフラン化合物(1)の性能が良い点で、ベンジルオキシ基が好ましい。
【0022】
R1で表される炭素数3~12のトリアルキルシリルオキシ基としては、トリメチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基、トリプロピルシリルオキシ基、トリイソプロピルシリルオキシ基、トリブチルシリルオキシ基、tert-ブチルジメチルシリルオキシ基などを例示することができ、得られるフラン化合物(1)の合成が容易な点で、トリメチルシリルオキシ基又はtert-ブチルジメチルシリルオキシ基が好ましい。
【0023】
R1は、得られるフラン化合物(1)の合成が容易な点で、水素原子、炭素数1~6のアルコキシ基、ベンジルオキシ基、炭素数3~12のトリアルキルシリルオキシ基又はヒドロキシ基が好ましく、メトキシ基又はベンジルオキシ基がより好ましく、メトキシ基がさらに好ましい。
【0024】
R2で表される炭素数1~8のアルキル基としては、直鎖状、分岐状又は環状アルキル基のいずれでもよく、具体的には、メチル基、シクロヘキシルメチル基、エチル基、2-シクロペンチルエチル基、プロピル基、2-メチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、3-シクロプロピルプロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、2-ブチル基、3-メチルブタン-2-イル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、2-メチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、2-ペンチル基、2-メチルペンタン-2-イル基、4,4-ジメチルペンタン-2-イル基、3-ペンチル基、3-エチルペンタン-3-イル基、シクロペンチル基、2,5-ジメチルシクロペンチル基、3-エチルシクロペンチル基、ヘキシル基、2-メチルヘキシル基、3,3-ジメチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、2-ヘキシル基、2-メチルヘキサン-2-イル基、5,5-ジメチルヘキサン-2-イル基、3-ヘキシル基、2,4-ジメチルヘキサン-3-イル基、シクロヘキシル基、4-エチルシクロヘキシル基、4,4-ジメチルシクロヘキシル基、ヘプチル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、オクチル基、2-オクチル基、3-オクチル基、4-オクチル基、シクロオクチル基又はビシクロ[2.2.2]オクチル基などを例示することができ、得られるフラン化合物(1)の合成が容易な点で、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0025】
R2で表される炭素数1~8のアルコキシ基としては、R1で例示した炭素数1~8のアルコキシ基と同様のものを例示することができ、得られるフラン化合物(1)の合成が容易な点で、炭素数1~6のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
【0026】
R2で表される炭素数6~12のアリールオキシ基としては、R1で例示した炭素数6~12のアリールオキシ基と同様のものを例示することができる。
【0027】
R2で表される炭素数7~12のアラルキルオキシ基は、R1で例示した炭素数7~12のアラルキルオキシ基と同様のものを例示することができ、得られるフラン化合物(1)の性能が良い点で、ベンジルオキシ基が好ましい。
【0028】
2つのR2は隣接する2つの炭素原子と一体となって、五員環又は六員環を形成してもよく、五員環又は六員環としては、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、ベンゼン環などを例示することができ、その中でも得られるフラン化合物(1)の収率が良い点でベンゼン環が好ましい。
【0029】
R2は、得られるフラン化合物(1)の合成が容易な点で、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ベンジルオキシ基、炭素数3~12のトリアルキルシリルオキシ基又はヒドロキシ基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0030】
R3及びR4で表される炭素数1~4のアルキル基としては、直鎖状、分岐状又は環状アルキル基のいずれでもよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、2-メチルプロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基などを例示することができ、得られるフラン化合物(1)の合成が容易な点で、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、1-プロピル基、2-プロピル基又はシクロプロピル基がより好ましく、メチル基、エチル基又は1-プロピル基がさらに好ましく、メチル基又はエチル基が殊更好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0031】
R3及びR4で表される炭素数1~4のハロアルキル基としては、直鎖状、分岐状又は環状ハロアルキル基のいずれでもよく、具体的には、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、ペルフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1-ジフルオロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、1,1-ジフルオロプロピル基、ペルフルオロイソプロピル基、2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチル基、ペルフルオロシクロプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロシクロプロピル基、ペルフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル基、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、1,2,2,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-(トリフルオロメチル)プロピル基、1-(トリフルオロメチル)プロピル基、1-メチル-3,3,3-トリフルオロプロピル基、ペルフルオロシクロブチル基、2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロシクロブチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、2-クロロエチル基又は3-ブロモプロピル基などを例示することができる。
【0032】
R3及びR4で表される炭素数1~4のヒドロキシアルキル基は、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシプロピル基又は4-ヒドロキシブチル基などを例示することができ、得られるフラン化合物(1)の分散性が良い点で、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基又は4-ヒドロキシブチル基が好ましく、ヒドロキシメチル基又は2-ヒドロキシエチル基がより好ましく、ヒドロキシメチル基がさらに好ましい。
【0033】
R3及びR4で表される炭素数4~13のトリアルキルシリルオキシアルキル基は、トリメチルシリルオキシメチル基又はトリメチルシリルオキシメチル基などを例示することができる。
【0034】
R3及びR4で表される炭素数1~4のアミノアルキル基としては、アミノメチル基、2-アミノエチル基、3-アミノプロピル基、4-アミノブチル基、(N,N-ジメチルアミノ)メチル基又は2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル基などを例示することができる。
【0035】
R3及びR4で表される炭素数6の芳香族炭化水素基としては、フェニル基などを例示することができる。
【0036】
R3及びR4は、得られるフラン化合物(1)の合成が容易な点で、各々独立に、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のハロアルキル基又は炭素数1~3のヒドロキシアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、1-プロピル基、2-プロピル基、シクロプロピル基又はヒドロキシメチル基がより好ましく、メチル基又はヒドロキシメチル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0037】
R5で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を例示することができる。
【0038】
R5で表される炭素数1~6のアルキル基としては、直鎖状、分岐状又は環状アルキル基のいずれでもよく、具体的には、メチル基、シクロヘキシルメチル基、エチル基、2-シクロペンチルエチル基、プロピル基、2-メチルプロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基などを例示することができ、得られるフラン化合物(1)の合成が容易な点でメチル基が好ましい。
【0039】
R5で表される炭素数1~6のアルコキシ基としては、直鎖状または分岐状のアルコキシ基のいずれでもよく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、イソプロポキシ基、2-メチルプロピルオキシ基、2-ブチルオキシ基又はtert-ブトキシ基などを例示することができ、得られるフラン化合物(1)の合成が容易な点で、メトキシ基が好ましい。
【0040】
R5で表される炭素数1~6のハロアルキル基としては、直鎖状、分岐状又は環状ハロアルキル基のいずれでもよく、具体的には、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、ペルフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1-ジフルオロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基などを例示することができる。
【0041】
R5は、得られるフラン化合物(1)の合成が容易な点で、同一又は相異なっていてもよく、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基が好ましく、水素原子、メチル基又はメトキシ基がより好ましく、水素原子又はメトキシ基がさらに好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0042】
R6で表されるハロゲン原子としては、R5で例示したハロゲン原子と同様のものを例示することができ、得られるフラン化合物(1)の合成が容易な点で、フッ素原子が好ましい。
【0043】
R6は、得られるフラン化合物(1)の合成が容易な点で、水素原子又はハロゲン原子が好ましく、水素原子又はフッ素原子がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
【0044】
k及びmは、各々独立に、1又は2の整数を表し、得られるフラン化合物(1)の合成が容易な点で、1が好ましい。
【0045】
qは、1又は2の整数を表し、得られるフラン化合物(1)の合成が容易な点で、1が好ましい。
【0046】
本発明のフラン化合物(1)としては、特に限定するものではなく、以下の1-1~1-42に示す構造の化合物を具体的に例示することができる。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
なお本明細書中、Meはメチル基を表す。
【0051】
1-1から1-42で示される化合物のうち、本発明のフラン化合物(1)としては、合成が容易な点で1-1~1-18、1-24~1-26、1-30、1-33、1-37、1-40~1-42で示される化合物が好ましく、1-1~1-16、1-26、1-30、1-36、1-37、1-40~1-42で示される化合物がより好ましく、1-1又は1-40で示される化合物がさらに好ましく、1-1で示される化合物が特に好ましい。
【0052】
本発明のフラン化合物(1)は、当業者の良く知る汎用的方法(例えば特許第5945905号公報など)を用いて製造することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0053】
次に、本発明のフラン化合物(1)を含む、電気光学用組成物、電気光学膜、電気光学素子(以下、それぞれ「本発明のEO用組成物、本発明のEO膜、本発明のEO素子」と称する。)について説明する。
【0054】
本実施形態のEO用組成物、EO膜、及びEO素子は、公知の方法(例えば、Oh et al.,IEEE Journal of Selected Topics inQuantum Electronics,Vol.7,No.5,pp.826-835,Sept./Oct.2001;Dalton et al.,Journalof Materials Chemistry,1999,9,pp.1905-1920;戒能俊邦、電子情報通信学会論文誌,C Vol.J84-C,No.9,pp.744-755,2001年9月;Ma et al.,Advanced Materials,Vol.14,No.19,2002,pp.1339-1365等に記載の方法)によって製造することができる。
【0055】
本実施形態のEO用組成物は、本発明のフラン化合物(1)をEO化合物として含む。本実施形態のEO用組成物は、フラン化合物(1)を分散させることが可能なホスト材料をさらに含んでいてもよい。一般に、優れたEO特性を示すためには、EO化合物がホスト材料中に高濃度で均一に分散されていることが重要である。そのため、ホスト材料は、EO化合物と高い相溶性を示すことが好ましい。本実施形態のEO用組成物は、EO膜を形成するため、又は、EO素子を形成するために好適に用いることができる。すなわち、本実施形態のEO用組成物は、EO膜形成用組成物又はEO素子形成用組成物であり得る。
【0056】
本発明のEO用組成物に用いるホスト材料の例としては、例えば、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)等のポリ(メタ)アクリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、シリコン系樹脂、エポキシ系樹脂などの樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、フラン化合物(1)との相溶性に優れており、EO素子として用いる場合においては、透明性及び成形性も優れる傾向にある。
【0057】
フラン化合物(1)をホスト材料に分散させる方法としては、例えば、フラン化合物(1)とホスト材料とを適切な混合比で有機溶媒中に溶解させる方法等が挙げられる。
【0058】
ホスト材料は、フラン化合物(1)との間に共有結合を形成し得る反応性官能基を有する樹脂を含んでいてもよい。さらに、フラン化合物(1)の少なくとも一部が、前記反応性官能基を有する樹脂と結合していることが好ましい。このようなホスト材料を含むことにより、フラン化合物(1)を高密度でホスト材料中に分散させることが可能であり、高いEO特性を達成することができる。
【0059】
反応性官能基としては、例えば、ハロアルキル基、ハロゲン化アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヒドロキシ基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、カルボキシ基等が挙げられる。前記反応性官能基は、フラン化合物(1)中の、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基等と反応して共有結合を形成することができる。
【0060】
本実施形態のEO膜は、上記EO用組成物を用いて形成することができる。EO膜は、例えば、EO用組成物の有機溶媒溶液を、スピンコートによって基板上に塗布する工程と、得られた塗膜を加熱乾燥させる工程とを含む方法によって得ることができる。
【0061】
EO膜の厚さは、例えば、0.01~100μmであってよい。
【0062】
本実施形態のEO素子は、上記EO膜を備える。上述のとおり、EO化合物は、高い超分極率を有しながらも耐熱性に優れることから、本実施形態のEO素子は、優れたEO特性と長期間の使用に耐え得る優れた耐久性を有するものとなる。
【0063】
本実施形態のEO素子の用途は、上記EO膜を有するものであれば、光変調器に限定されない。本実施形態のEO素子は、光変調器(超高速用途、光インターコネクト用途、光信号処理用途等)に加えて、例えば、光スイッチ、光メモリー、波長変換器、マイクロ波、ミリ波、テラヘルツ波等の電界センサー、筋電、脳波等の生体電位センサー、光空間変調器、光スキャナなどに用いることができ、さらには、電子回路との組み合わせによって電子回路間の光による信号伝達等にも用いることができる。
【発明の効果】
【0064】
本発明によれば、耐熱性に優れるフラン化合物が提供される。そのため、前記フラン化合物をEO素子の製造に用いることによって、ポーリング時の高温プロセス、膜配向固定のための熱硬化プロセス、実装時の高温プロセス等に必要とされる耐熱性を向上させることができ、素子製造のプロセス自由度を高くすることができる。また、本発明によれば、このような化合物を用いた電気光学用組成物、電気光学膜、及び電気光学素子が提供される。
【実施例0065】
以下、実施例、参考例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
[1H-NMR測定]
1H-NMRの測定には、Bruker ASCEND 400(400MHz;BRUKER社製)を用いた。1H-NMRは、重クロロホルム(CDCl3)を測定溶媒とし、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて測定した。
[TG/DTA測定]
5%重量減少温度及び分解温度の測定は株式会社リガク製 試料観察型示差熱-熱重量同時測定装置 Thermo plus EVO2 TG-DTA8122/Cを用いた。窒素ガス気流下(500mL/分)、10℃/分の速度で温度を上昇させて、測定を行った。
[DSC測定(結晶化温度、融点)]
結晶化温度及び融点の測定は株式会社リガク製 示差走査熱量計 Thermo plus EVO2 DSCvestaを用いて行った。DSC測定におけるリファレンスは酸化アルミニウム(Al2O3)を使用した。
【0066】
試料を30℃から10℃/分の速度で温度を上昇させ、結晶化温度及び融点を測定した。
[質量分析]
質量分析はBruker compact QTOFを使用して測定を行った。
【0067】
試薬類は市販品を用いた。
【0068】
実施例-1
【0069】
【0070】
5-[(1E)-2-[4-(ジメチルアミノ)-2-メトキシフェニル]エテニル]チオフェン-2-カルボアルデヒド(144mg、0.5mmol)と、2-[3-シアノ-4-メチル-5-フェニル-5-(トリフルオロメチル)-2,5-ジヒドロフラン-2-イリデン]プロパンジニトリル(158mg、0.5mmol)をエタノール:THF(=3.2mL:1mL)に溶解させ、70℃に昇温し、4時間撹拌した。NMR、TLCによる反応追跡で目的物の生成を確認後、反応を停止させ、溶媒留去を行った。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=98:2)で精製し収率99%で目的物を得た(289mg)。
1H-NMR(CDCl3):δ7.77(d,J=16.0Hz,1H)、δ7.47-7.59(m,6H)、δ7.40(d,J=9.6Hz,1H)、δ7.29(d,J=4.2Hz,1H)、δ7.11(d,J=15.9Hz,1H)、δ7.00(d,J=4.2Hz,1H)、δ6.58(d,J=15.2Hz,1H)、δ6.33(dd,J=9.5Hz、2.3Hz,1H)、δ6.14(d,J=2.3Hz,1H)、δ3.93(s,3H)、δ3.07(s,6H).
HRMS(APCI,m/z,[M+H]+):Calcd.For C32H24F3N4O2S:585.1567,Found:585.1589.
得られた化合物(1-1、7.2mg)のTG/DTAを測定した結果、分解温度は223℃であった。
【0071】
また得られた化合物(1-1、4.2mg)の融点は207℃、分解温度は216℃であり、結晶化温度は測定されなかった。
【0072】
比較例―1
化合物NEO-823の評価
【0073】
【0074】
フラン化合物(1)に代えて、12.3mgの市販化合物NEO-823(東京化成工業株式会社製)を用いて、TG/DTAを測定した結果、分解温度は209℃であった。
【0075】
またNEO-823(8.7mg)の融点は196℃であり、分解温度は208℃であり、結晶化温度は測定されなかった。
【0076】
以上の結果より、本発明のフラン化合物(1)は、比較例-1で得られた従来公知の有機電気光学材料と比べて高い融点及び分解温度を有することから、優れた耐熱性を有することがわかった。さらに、フラン化合物(1)はその骨格の特徴から結晶性が低く、結晶化温度が検出されないか若しくは高い結晶化温度を有することがわかった。従ってフラン化合物(1)は薄膜形成時に高いアモルファス性が期待でき、フラン化合物(1)を用いたEO素子を作製した際に高い駆動安定性を発揮すると推測される。
本発明のフラン化合物(1)は、光変調器(超高速用途、光インターコネクト用途、光信号処理用途等)に加えて、例えば、光スイッチ、光メモリー、波長変換器、マイクロ波、ミリ波、テラヘルツ波等の電界センサー、筋電、脳波等の生体電位センサー、光空間変調器、光スキャナなどに用いることができ、さらには、電子回路との組み合わせによって電子回路間の光による信号伝達等にも用いることができる。