(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101472
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】ウェビング巻取装置
(51)【国際特許分類】
B60R 22/28 20060101AFI20240722BHJP
B60R 22/36 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B60R22/28 107
B60R22/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005476
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横井 友哉
(72)【発明者】
【氏名】村仲 淳一
(72)【発明者】
【氏名】坂口 善輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優太
(72)【発明者】
【氏名】福和 佑太
(72)【発明者】
【氏名】中條 健吾
【テーマコード(参考)】
3D018
【Fターム(参考)】
3D018DA07
3D018HB00
3D018HE00
(57)【要約】
【課題】ウェビングの引出許容荷重の上昇を抑制する。
【解決手段】ウェビング巻取装置10では、ウェビング16からの荷重によってトーションシャフト20が捩れ変形されることで、スプール14の引出方向への回転が許容されて、ウェビング16のスプール14からの引出しが許容される。ここで、トーションシャフト20が捩れ変形される際には、トーションシャフト20が伸張されて、スプール14の回転面14Bの摺動対象がピニオン24の連結面24Bから変更面24Cに変更されることで、スプール14の摺動抵抗が低下される。このため、ウェビング16の引出許容荷重の上昇を抑制できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員に装着されるウェビングが巻取られ、引出方向に回転されてウェビングが引出されると共に、車両の緊急時に引出方向への回転が制限されるスプールと、
前記スプールの引出方向への回転が制限された際にウェビングからの荷重により捩れ変形されることで前記スプールの引出方向への回転が許容されてウェビングの前記スプールからの引出しが許容されるトーション部材と、
前記トーション部材が捩れ変形されることで前記トーション部材が伸長されて前記スプールの摺動抵抗を低下させる低下機構と、
を備えるウェビング巻取装置。
【請求項2】
前記トーション部材が伸長されることで前記スプールの摺動部分と前記スプールが摺動する被摺動部分との少なくとも一方が変更される請求項1記載のウェビング巻取装置。
【請求項3】
前記摺動部分及び前記被摺動部分の一方が前記摺動部分及び前記被摺動部分の他方に挿入されると共に、前記トーション部材が伸長されることで前記摺動部分の径と前記被摺動部分の径との差が大きくされて前記スプールの摺動抵抗が低下される請求項2記載のウェビング巻取装置。
【請求項4】
前記トーション部材が伸長されることで前記摺動部分と前記被摺動部分との少なくとも一方が複数回変更される請求項2記載のウェビング巻取装置。
【請求項5】
前記トーション部材が伸長されることで前記スプールの摺動面積が低下されて前記スプールの摺動抵抗が低下される請求項1記載のウェビング巻取装置。
【請求項6】
前記スプールの摺動抵抗を低下させる潤滑剤を備える請求項1記載のウェビング巻取装置。
【請求項7】
前記スプールの摺動部分と前記スプールが摺動する被摺動部分との最大体積材料が同一にされる請求項1記載のウェビング巻取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプールの引出方向への回転が許容されるウェビング巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載のベルトリトラクタでは、ベルトリールにウェビングが巻き取られており、ベルトリールの引出方向への回転が制限された際に、ウェビングからの荷重によりトーションロッドが捩れ変形されることで、ベルトリールの引出方向への回転が許容されて、ウェビングのベルトリールからの引出しが許容される。
【0003】
ここで、このようなベルトリトラクタでは、トーションロッドの捩れ変形量が大きくされるに従い、トーションロッドが捩れ変形されるための荷重が徐々に大きくされて、ウェビングの引出許容荷重が徐々に上昇される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事実を考慮し、ウェビングの引出許容荷重の上昇を抑制できるウェビング巻取装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様のウェビング巻取装置は、乗員に装着されるウェビングが巻取られ、引出方向に回転されてウェビングが引出されると共に、車両の緊急時に引出方向への回転が制限されるスプールと、前記スプールの引出方向への回転が制限された際にウェビングからの荷重により捩れ変形されることで前記スプールの引出方向への回転が許容されてウェビングの前記スプールからの引出しが許容されるトーション部材と、前記トーション部材が捩れ変形されることで前記トーション部材が伸長されて前記スプールの摺動抵抗を低下させる低下機構と、を備える。
【0007】
本発明の第2態様のウェビング巻取装置は、本発明の第1態様のウェビング巻取装置において、前記トーション部材が伸長されることで前記スプールの摺動部分と前記スプールが摺動する被摺動部分との少なくとも一方が変更される。
【0008】
本発明の第3態様のウェビング巻取装置は、本発明の第2態様のウェビング巻取装置において、前記摺動部分及び前記被摺動部分の一方が前記摺動部分及び前記被摺動部分の他方に挿入されると共に、前記トーション部材が伸長されることで前記摺動部分の径と前記被摺動部分の径との差が大きくされて前記スプールの摺動抵抗が低下される。
【0009】
本発明の第4態様のウェビング巻取装置は、本発明の第2態様又は第3態様のウェビング巻取装置において、前記トーション部材が伸長されることで前記摺動部分と前記被摺動部分との少なくとも一方が複数回変更される。
【0010】
本発明の第5態様のウェビング巻取装置は、本発明の第1態様~第4態様の何れか1つのウェビング巻取装置において、前記トーション部材が伸長されることで前記スプールの摺動面積が低下されて前記スプールの摺動抵抗が低下される。
【0011】
本発明の第6態様のウェビング巻取装置は、本発明の第1態様~第5態様の何れか1つのウェビング巻取装置において、前記スプールの摺動抵抗を低下させる潤滑剤を備える。
【0012】
本発明の第7態様のウェビング巻取装置は、本発明の第1態様~第6態様の何れか1つのウェビング巻取装置において、前記スプールの摺動部分と前記スプールが摺動する被摺動部分との最大体積材料が同一にされる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1態様のウェビング巻取装置では、乗員に装着されるウェビングがスプールに巻取られており、スプールが引出方向に回転されて、ウェビングがスプールから引出される。また、車両の緊急時にスプールの引出方向への回転が制限された際に、ウェビングからの荷重によりトーション部材が捩れ変形されることで、スプールの引出方向への回転が許容されて、ウェビングのスプールからの引出しが許容される。
【0014】
ここで、トーション部材が捩れ変形されることで、トーション部材が伸長されて、低下機構がスプールの摺動抵抗を低下させる。このため、ウェビングの引出許容荷重の上昇を抑制できる。
【0015】
本発明の第2態様のウェビング巻取装置では、トーション部材が伸長されることで、スプールの摺動部分とスプールが摺動する被摺動部分との少なくとも一方が変更される。このため、スプールの摺動抵抗を変更できる。
【0016】
本発明の第3態様のウェビング巻取装置では、摺動部分及び被摺動部分の一方が前記摺動部分及び被摺動部分の他方に挿入されており、トーション部材が伸長されることで、摺動部分の径と被摺動部分の径との差が大きくされて、スプールの摺動抵抗が低下される。このため、簡単な構成でスプールの摺動抵抗を低下させることができる。
【0017】
本発明の第4態様のウェビング巻取装置では、トーション部材が伸長されることで、摺動部分と被摺動部分との少なくとも一方が複数回変更される。このため、スプールの摺動抵抗を複数回変更できる。
【0018】
本発明の第5態様のウェビング巻取装置では、トーション部材が伸長されることで、スプールの摺動面積が低下されて、スプールの摺動抵抗が低下される。このため、簡単な構成でスプールの摺動抵抗を低下させることができる。
【0019】
本発明の第6態様のウェビング巻取装置では、スプールの摺動抵抗を潤滑剤が低下させる。このため、簡単な構成でスプールの摺動抵抗を低下させることができる。
【0020】
本発明の第7態様のウェビング巻取装置では、スプールの摺動部分とスプールが摺動する被摺動部分との最大体積材料が同一にされる。このため、摺動部分と被摺動部分とが焼付くことで、スプールの摺動抵抗を大きくできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係るウェビング巻取装置を示す後側から見た断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るウェビング巻取装置の主要部を示す下斜め右方から見た斜視図である。
【
図3】(A)は、本発明の実施形態に係るウェビング巻取装置のピニオンを示す右側から見た斜視図であり、(B)は、当該ウェビング巻取装置の主要部を示す後側から見た断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るウェビング巻取装置におけるウェビングの引出ストローク(横軸)とウェビングの引出許容荷重(縦軸)との関係を示すグラフである。
【
図5】(A)は、本発明の実施形態の第1変形例に係るウェビング巻取装置のピニオンを示す右側から見た斜視図であり、(B)は、当該ウェビング巻取装置の主要部を示す後側から見た断面図である。
【
図6】(A)は、本発明の実施形態の第2変形例に係るウェビング巻取装置のピニオンを示す右側から見た斜視図であり、(B)は、当該ウェビング巻取装置の主要部を示す後側から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1には、本発明の実施形態に係るウェビング巻取装置10が後側から見た断面図にて示されており、
図2には、ウェビング巻取装置10の主要部が下斜め右方から見た斜視図にて示されている。なお、図面では、ウェビング巻取装置10の前方を矢印FRで示し、ウェビング巻取装置10の右方を矢印RHで示し、ウェビング巻取装置10の上方を矢印UPで示している。
【0023】
本実施形態に係るウェビング巻取装置10は、車両に設置されており、ウェビング巻取装置10の前方、左方及び上方は、それぞれ例えば車幅方向外方、車両前方及び上方に向けられている。
【0024】
図1及び
図2に示す如く、ウェビング巻取装置10は、支持体としての鉄製で断面U字形板状のフレーム12を備えており、フレーム12には、後側の背板12Aと、左側の脚板12Bと、右側の脚板12Cと、が設けられている。フレーム12は、背板12Aにおいて、車体に固定されており、これにより、ウェビング巻取装置10が車両に設置されている。脚板12B及び脚板12Cには、それぞれ円状の支持孔12D及び支持孔12Eが貫通形成されており、支持孔12D及び支持孔12Eは、同軸上に配置されている。また、支持孔12Dの周面は、低下機構を構成する被摺動部分としての被摺動周面12Fにされている。
【0025】
フレーム12の脚板12Bと脚板12Cとの間には、回転体としての略円筒状のスプール14が配置されており、スプール14は、アルミニウムダイカスト製にされている。このため、スプール14の材料とフレーム12の材料とは、異種の金属にされており、スプール14とフレーム12とは、最大体積材料が異なる金属にされている。スプール14の左端部は、脚板12Bの支持孔12Dに同軸上に貫通されると共に、スプール14の右端部は、脚板12Cの支持孔12Eに同軸上に貫通されており、スプール14は、中心軸線周りの巻取方向及び引出方向に回転可能に支持されている。
【0026】
スプール14内には、略円柱状の内孔14Aが同軸上に貫通形成されている。内孔14Aの左端部は、同軸上に拡径されており、内孔14Aの左端部の周面は、低下機構を構成する摺動部分としての円筒面状の回転面14B(
図3(B)参照)にされている。また、スプール14の左端部の外周面は、低下機構を構成する摺動部分としての摺動周面14C(
図3(B)参照)にされている。
【0027】
スプール14には、長尺帯状のウェビング16が基端側から巻取られており、スプール14が巻取方向に回転されて、スプール14にウェビング16が巻取られると共に、スプール14からウェビング16が引出されて、スプール14が引出方向に回転される。また、スプール14からウェビング16が引出されることで、車両の座席に着座した乗員にウェビング16が装着される。
【0028】
フレーム12の右側には、付勢機構18が設けられており、付勢機構18は、スプール14の右端部に連結されて、スプール14を巻取方向に付勢している。
【0029】
スプール14の内孔14Aには、トーション部材(エネルギー吸収部材)としての略円柱状のトーションシャフト20が同軸上に挿入されており、トーションシャフト20は、軟鉄製にされている。トーションシャフト20の右端部は、スプール14の内孔14Aの右端部に一体回転可能に連結されており、トーションシャフト20は、スプール14と一体回転可能にされている。また、トーションシャフト20の左端部は、内孔14Aの回転面14B内に配置されている。
【0030】
スプール14の左側には、規制機構としてのロック機構22が設けられている。
【0031】
ロック機構22には、規制体を構成する連結部材としての略円板状のピニオン24(
図3の(A)及び(B)参照)が設けられており、ピニオン24は、アルミニウムダイカスト製にされている。このため、ピニオン24の材料とスプール14の材料とは、同種の金属にされており、ピニオン24とスプール14とは、最大体積材料が同一の金属にされている。
【0032】
ピニオン24の右側には、連結部としての略円筒状の連結筒24Aが同軸上に一体形成されており、連結筒24Aは、スプール14(内孔14A)の回転面14B内に同軸上に挿入されている。連結筒24A内には、トーションシャフト20の左端部が一体回転可能に連結されており、ピニオン24は、トーションシャフト20と一体回転可能にされている。
【0033】
連結筒24Aの外周面の左端部は、低下機構を構成する被摺動部分としての連結面24Bにされており、連結面24Bは、円筒面状にされて、スプール14(内孔14A)の回転面14Bに嵌合(接触)されている。連結筒24Aの外周面の左端部以外の部分は、低下機構を構成する被摺動部分としての変更面24Cにされており、変更面24Cは、右方へ向かうに従い連結筒24Aの径方向内側へ向かう方向に傾斜されて、回転面14Bから離間されている。
【0034】
ピニオン24の左側には、規制体を構成する規制部材としての金属製で略円板状のロックベース26が同軸上に配置されており、ロックベース26は、ピニオン24と一体回転可能に連結されている。
【0035】
ロック機構22には、ロックベース26の左側において、センサ機構28が設けられている。車両の衝突時(車両の急減速時及びウェビング16のスプール14からの急引出し時等の車両の緊急時)には、センサ機構28が作動されて、ロック機構22がロックベース26の引出方向への回転を規制(ロック)することで、ピニオン24の引出方向への回転が規制されて、トーションシャフト20を介してスプール14の引出方向への回転が制限される。
【0036】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0037】
以上の構成のウェビング巻取装置10では、スプール14からウェビング16が引出されて、乗員にウェビング16が装着される。また、付勢機構18の付勢力により、スプール14が巻取方向に回転されて、ウェビング16がスプール14に巻取られることで、乗員に装着されたウェビング16の弛みが除去される。
【0038】
車両の衝突時には、ロック機構22のセンサ機構28が作動されて、ロック機構22がロックベース26の引出方向への回転を規制することで、ピニオン24の引出方向への回転が規制されて、トーションシャフト20を介してスプール14の引出方向への回転が制限される。これにより、ウェビング16のスプール14からの引出しが制限されることで、ウェビング16によって乗員が拘束される。
【0039】
また、ロックベース26及びピニオン24の引出方向への回転が規制された状態で、乗員によってウェビング16にスプール14からの引出荷重が作用されて、スプール14の引出方向への回転荷重によりトーションシャフト20が捩れ変形されることで、スプール14のロックベース26及びピニオン24に対する引出方向への回転が許容されて、ウェビング16のスプール14からの引出しが許容される。これにより、乗員の運動エネルギーがトーションシャフト20の捩れ変形によって吸収される。
【0040】
ところで、トーションシャフト20が捩れ変形(塑性変形)される際には、トーションシャフト20の捩れ変形量の増加に比例して、トーションシャフト20が捩れ変形されるための荷重(トーションシャフト20の捩れ変形荷重)が徐々に大きくされる(
図4の破線参照)。また、ウェビング16の引出しが許容される際(スプール14の引出方向への回転が許容される際)には、ウェビング16が引出されるための荷重(ウェビング16の引出許容荷重、フォースリミッタ荷重)がトーションシャフト20の捩れ変形荷重とスプール14の摺動荷重との合計にされる。
【0041】
トーションシャフト20が捩れ変形される(ウェビング16の引出しが許容される)初期には、スプール14(内孔14A)の回転面14Bがピニオン24(連結筒24A)の連結面24Bに対し摺動する。また、スプール14(回転面14B)の材料とピニオン24(連結面24B及び変更面24C)の材料とが同種の金属にされている。このため、回転面14Bが連結面24Bに対し摺動する際には、回転面14Bと連結面24Bとが焼付くことで、回転面14Bの連結面24Bに対する摺動荷重が大きくされて、スプール14の摺動荷重が大きくされる。
【0042】
これにより、トーションシャフト20が捩れ変形される初期には、トーションシャフト20の捩れ変形荷重が小さくても、スプール14の摺動荷重が大きくされることで、ウェビング16の引出許容荷重が大きくされる(
図4の実線参照)。
【0043】
また、トーションシャフト20が捩れ変形される際には、トーションシャフト20が軸方向(左右方向)に徐々に伸張されて、トーションシャフト20の左端部と一体にピニオン24(連結筒24Aを含む)が徐々に左側に変位される。このため、回転面14Bが連結筒24Aの連結面24Bに対し摺動する状態から、回転面14Bが連結筒24Aの変更面24Cに対し摺動する状態に変更された後に、スプール14の摺動周面14C(左端部外周面)がフレーム12(脚板12B)の被摺動周面12F(支持孔12D周面)に対し摺動する状態に変更される。これにより、トーションシャフト20が捩れ変形される中期には、回転面14Bが変更面24Cに対し摺動すると共に、トーションシャフト20が捩れ変形される後期には、摺動周面14Cが被摺動周面12Fに対し摺動する。
【0044】
また、回転面14Bが変更面24Cに対し摺動する際には、回転面14Bと変更面24Cとが焼付くものの、トーションシャフト20の伸張により変更面24Cが徐々に左側に変位されることで、回転面14Bの変更面24Cに対する摺動面積が徐々に小さくされて、回転面14Bの変更面24Cに対する摺動荷重が徐々に小さくされる。さらに、スプール14(摺動周面14C)の材料とフレーム12(被摺動周面12F)の材料とが異種の金属にされている。このため、摺動周面14Cが被摺動周面12Fに対し摺動する際には、摺動周面14Cの被摺動周面12Fに対する摺動荷重が極めて小さくされる(略0にされる)。
【0045】
これにより、トーションシャフト20が捩れ変形される中期には、トーションシャフト20の捩れ変形荷重が徐々に大きくされる一方、回転面14Bの変更面24Cに対する摺動荷重が徐々に小さくされて、スプール14の摺動荷重が徐々に小さくされることで、ウェビング16の引出許容荷重が維持される(
図4の実線参照)。
【0046】
そして、トーションシャフト20が捩れ変形される後期には、トーションシャフト20の捩れ変形荷重が徐々に大きくされる一方、被摺動周面12Fの被摺動周面12Fに対する摺動荷重が極めて小さくされて(略0にされて)、スプール14の摺動荷重が極めて小さくされる(略0にされる)ことで、ウェビング16の引出許容荷重が徐々に大きくされる(
図4の実線参照)。
【0047】
以上により、トーションシャフト20が捩れ変形される際には、トーションシャフト20の捩れ変形量に対し、ウェビング16の引出許容荷重が平均化される。
【0048】
ここで、上述の如く、トーションシャフト20が捩れ変形される初期から中期には、スプール14の回転面14Bがピニオン24の連結面24Bに対し摺動する状態からスプール14の回転面14Bがピニオン24の変更面24Cに対し摺動する状態に変更されて、スプール14の摺動抵抗が低下される。さらに、トーションシャフト20が捩れ変形される中期から後期には、スプール14の回転面14Bがピニオン24の変更面24Cに対し摺動する状態からスプール14の摺動周面14Cがフレーム12の被摺動周面12Fに対し摺動する状態に変更されて、スプール14の摺動抵抗が低下される。このため、ウェビング16の引出許容荷重の上昇を抑制できる。しかも、スプール14の摺動抵抗を複数回低下でき、ウェビング16の引出許容荷重の上昇を効果的に抑制できる。
【0049】
また、トーションシャフト20が捩れ変形される初期から中期には、スプール14の回転面14Bの摺動対象がピニオン24の連結面24Bから変更面24Cに変更されて、回転面14Bの径と回転面14Bの摺動対象の径との差が大きくされることで、スプール14の摺動面積が小さくされて、スプール14の摺動抵抗が低下される。しかも、トーションシャフト20が捩れ変形される中期には、変更面24Cが徐々に左側に変位されて、回転面14Bの径と回転面14Bの摺動対象の径との差が徐々に大きくされることで、スプール14の摺動面積が徐々に小さくされて、スプール14の摺動抵抗が徐々に低下される。このため、簡単な構成でスプール14の摺動抵抗を低下させることができる。
【0050】
さらに、トーションシャフト20が捩れ変形される際には、スプール14(回転面14B及び摺動周面14C)の摺動対象がピニオン24の連結面24B及び変更面24Cからピニオン24とは別部材のフレーム12の被摺動周面12Fに変更される。このため、スプール14の摺動抵抗を容易に低下させることができる。
【0051】
また、スプール14(回転面14B)の材料とピニオン24(連結面24B)の材料とが同種の金属にされており、トーションシャフト20が捩れ変形される初期には、回転面14Bが連結面24Bに対し摺動して、回転面14Bと連結面24Bとが焼付く。このため、スプール14の摺動抵抗を大きくでき、トーションシャフト20の捩れ変形荷重が小さくても、ウェビング16の引出許容荷重を大きくできて、ウェビング16による乗員の拘束力を大きくできる。
【0052】
なお、上記実施形態では、ピニオン24において、連結筒24A外周面の左端部が連結面24Bにされると共に、連結筒24A外周面の左端部以外の部分が変更面24Cにされる。しかしながら、上記実施形態の第1変形例に係るウェビング巻取装置50(
図5の(A)及び(B)参照)の如く、ピニオン24において、連結筒24A外周面の左側部分が連結面24Bにされると共に、連結筒24A外周面の右側部分が変更面24Cにされてもよい。さらに、上記実施形態の第2変形例に係るウェビング巻取装置60(
図6の(A)及び(B)参照)の如く、ピニオン24において、連結筒24A外周面の右端部以外の部分が連結面24Bにされると共に、連結筒24A外周面の右端部が変更面24Cにされてもよい。このように、連結面24B及び変更面24Cの軸方向寸法を変更することで、スプール14の摺動荷重の大きさ及びスプール14の摺動荷重の低下タイミングを調整できる。
【0053】
また、上記実施形態(第1変形例及び第2変形例を含む)では、スプール14(摺動部材)とピニオン24(被摺動部材)とがアルミニウムダイカスト製にされる。しかしながら、スプール14(摺動部材)とピニオン24(被摺動部材)とが例えば亜鉛ダイカスト製にされてもよい。しかも、スプール14(摺動部材)の材料とピニオン24(被摺動部材)の材料とは、完全に同一の金属でなくてもよく、スプール14とピニオン24とは、最大体積材料が同一の金属であればよい。さらに、スプール14(摺動部材)の材料とピニオン24(被摺動部材)の材料とは、異なる材料であってもよい。
【0054】
さらに、上記実施形態(第1変形例及び第2変形例を含む)では、ピニオン24の変更面24Cが傾斜面にされる。しかしながら、ピニオン24の変更面24Cがピニオン24の連結面24Bに比し径を小さくされる円筒面にされてもよい。
【0055】
また、上記実施形態(第1変形例及び第2変形例を含む)において、ピニオン24の変更面24Cに低下機構及び潤滑剤としてのグリスが配置(塗布)されてもよい。この場合、トーションシャフト20が捩れ変形される際には、スプール14の回転面14Bがピニオン24の連結面24Bに対し摺動する状態から回転面14Bがグリスを介して変更面24Cに対し摺動する状態に変更されることで、スプール14の摺動抵抗が低下される。
【0056】
さらに、上記実施形態(第1変形例及び第2変形例を含む)では、ピニオン24の連結筒24A外周面に連結面24B及び変更面24Cが設けられる。しかしながら、スプール14の回転面14Bに連結面24B及び変更面24C(グリスを含んでもよい)が設けられてもよい。この場合、回転面14Bの右側に連結面24Bが配置されると共に、回転面14Bの左側に変更面24Cが配置される。そして、変更面24Cが左方へ向かうに従い径方向外側へ向かう方向に傾斜され、又は、変更面24Cが連結面24Bに比し径を大きくされる円筒面にされる。これにより、トーションシャフト20が捩れ変形される際には、連結面24B(摺動部分)が連結筒24Aの外周面(被摺動部分)に対し摺動する状態から変更面24C(摺動部分)が連結筒24Aの外周面に対し摺動する(変更面24Cがグリスを介して連結筒24Aの外周面に対し摺動してもよい)状態に変更される。
【0057】
また、上記実施形態(第1変形例及び第2変形例を含む)では、スプール14とピニオン24との間に連結面24B及び変更面24Cが設けられて、トーションシャフト20が捩れ変形される際にスプール14がピニオン24に対し摺動される。しかしながら、スプール14とピニオン24以外の部分(例えばトーションシャフト20の左部)との間に連結面24B及び変更面24C(グリスを含んでもよい)が設けられて、トーションシャフト20が捩れ変形される際にスプール14が当該ピニオン24以外の部分に対し摺動されてもよい。
【0058】
さらに、上記実施形態(第1変形例及び第2変形例を含む)では、トーションシャフト20が捩れ変形される際に、スプール14の摺動抵抗が低下されて略0にされる。しかしながら、トーションシャフト20が捩れ変形される際に、スプール14の摺動抵抗が低下されて0にされてもよい。
【0059】
また、上記実施形態((第1変形例及び第2変形例を含む)では、トーションシャフト20が捩れ変形(塑性変形)される際に、トーションシャフト20の捩れ変形量の増加に比例して、トーションシャフト20の捩れ変形荷重が徐々に大きくされる。しかしながら、トーションシャフト20が捩れ変形(塑性変形)される際に、トーションシャフト20の捩れ変形量が大きくされるに従い、トーションシャフト20の捩れ変形荷重が大きくされればよい。
【符号の説明】
【0060】
10・・・ウェビング巻取装置、12F・・・被摺動周面(低下機構、被摺動部分)、14・・・スプール、14B・・・回転面(低下機構、摺動部分)、14C・・・摺動周面(低下機構、摺動部分)、16・・・ウェビング、20・・・トーションシャフト(トーション部材)、24B・・・連結面(低下機構、被摺動部分)、24C・・・変更面(低下機構、被摺動部分)、50・・・ウェビング巻取装置、60・・・ウェビング巻取装置