(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101480
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】歩行者保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/34 20110101AFI20240722BHJP
【FI】
B60R21/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005489
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】樫尾 篤
(72)【発明者】
【氏名】坂本 大樹
(57)【要約】
【課題】簡便な構成として、かつ、作動時に、フロントピラーにおけるアウタカバーを迅速に上方移動可能な歩行者保護装置の提供。
【解決手段】歩行者保護装置Mは、アウタカバー10と基材部3との間に配置されて、フロントピラーの長手方向に沿うような長尺状として、両端側をアウタカバーと基材部とに対してそれぞれ回動可能に連結される持ち上げアーム部20と、持ち上げアーム部における基材部との連結部位付近を押圧可能とされるアクチュエータ35と、持ち上げアーム部の回転に連動するリンクアーム部40と、を備える。持ち上げアーム部が、作動時のアクチュエータによって押圧される被押圧部位23を有し、アクチュエータの作動時に、基材部及びアウタカバーに対して回転されるようにして、アウタカバーを基材部に対して上方移動可能とされる。リンクアーム部が、長さ寸法を、持ち上げアーム部の長さ寸法よりも小さく設定されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両におけるフロントピラーに搭載されて、
前記フロントピラーの外表面を構成するアウタカバーと、前記アウタカバーの下方に配置されるボディ側の基材部と、の間に配置されて、作動時に、前記アウタカバーを前記基材部に対して上方移動可能な構成とされる歩行者保護装置であって、
前記フロントピラーの長手方向に沿うような長尺状として、両端側を、前記アウタカバーと前記基材部とに対してそれぞれ回動可能に連結される持ち上げアーム部と、
前記基材部側において、前記持ち上げアーム部の前方若しくは後方となる位置に配置されて、前記持ち上げアーム部における前記基材部との連結部位付近を、押圧可能とされるアクチュエータと、
長尺状として、前記持ち上げアーム部の回転に連動して回転可能に、両端側を、前記アウタカバー部と前記基材部とに対してそれぞれ回動可能に連結されるリンクアーム部と、
を備え、
前記持ち上げアーム部が、前記基材部に対して回動自在に軸支される基材部側回動軸部よりも基材部側となる位置に、作動時の前記アクチュエータによって押圧される被押圧部位を有するとともに、前記アクチュエータによる前記被押圧部位の押圧時に、前記基材部及び前記アウタカバーに対して回転されるようにして、前記アウタカバーを前記基材部に対して上方移動可能な構成とされ、
前記リンクアーム部が、長さ寸法を、前記持ち上げアーム部の長さ寸法よりも小さく設定されていることを特徴とする歩行者保護装置。
【請求項2】
前記持ち上げアーム部の回転移動状態を維持可能なロック機構が、配設されていることを特徴とする請求項1に記載の歩行者保護装置。
【請求項3】
前記持ち上げアーム部と前記リンクアーム部とが、前記アウタカバーによる歩行者受止時に、変形して衝撃吸収可能な変形予定部を、有していることを特徴とする請求項1または2に記載の歩行者保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロントピラーに搭載される歩行者保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フロントピラーに搭載される歩行者保護装置としては、内部にパンタグラフ機構を配置させ、このパンタグラフ機構の作動により、フロントピラーの外表面を構成しているアウタカバーを上方移動させる構成のものがあった(例えば、特許文献1参照)。詳細には、従来の歩行者保護装置では、パンタグラフ機構は、フロントピラーの長手方向に沿って複数箇所に配設される構成であり、それぞれ、駆動源として、内部に膨張用ガスを流入させて膨張するエアバッグの膨張力を利用していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の歩行者保護装置では、駆動源としてエアバッグを使用していることから、エアバッグに膨張用ガスを供給するインフレーター等の部材が必要であり、構成を簡便とする点に、改善の余地があった。また、従来の歩行者保護装置では、エアバッグを膨張させることにより、パンタグラフ機構を駆動させて、アウタカバーを上方移動させる構成であることから、作動時に、瞬時にアウタカバーを上方移動させ難く、迅速にアウタカバーを持ち上げる点に改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、簡便な構成として、かつ、作動時に、フロントピラーにおけるアウタカバーを迅速に上方移動可能な歩行者保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る歩行者保護装置は、車両におけるフロントピラーに搭載されて、
フロントピラーの外表面を構成するアウタカバーと、アウタカバーの下方に配置されるボディ側の基材部と、の間に配置されて、作動時に、アウタカバーを基材部に対して上方移動可能な構成とされる歩行者保護装置であって、
フロントピラーの長手方向に沿うような長尺状として、両端側を、アウタカバーと基材部とに対してそれぞれ回動可能に連結される持ち上げアーム部と、
基材部側において、持ち上げアーム部の前方若しくは後方となる位置に配置されて、持ち上げアーム部における基材部との連結部位付近を、押圧可能とされるアクチュエータと、
長尺状として、持ち上げアーム部の回転に連動して回転可能に、両端側を、アウタカバー部と基材部とに対してそれぞれ回動可能に連結されるリンクアーム部と、
を備え、
持ち上げアーム部が、基材部に対して回動自在に軸支される基材部側回動軸部よりも基材部側となる位置に、作動時のアクチュエータによって押圧される被押圧部位を有するとともに、アクチュエータによる前記被押圧部位の押圧時に、基材部及びアウタカバーに対して回転されるようにして、アウタカバーを前記基材部に対して上方移動可能な構成とされ、
リンクアーム部が、長さ寸法を、持ち上げアーム部の長さ寸法よりも小さく設定されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の歩行者保護装置では、アクチュエータを作動させて、持ち上げアーム部における被押圧部位を押圧すれば、フロントピラーの長手方向に略沿うように配置されている持ち上げアーム部が、基材部から立ち上がるように回転移動することとなり、このような持ち上げアーム部の回転移動により、アウタカバーを、基材部に対して上方移動させることとなる。このとき、リンクアーム部も、持ち上げアーム部の回転移動に連動して、基材部から立ち上がるように回転移動することとなる。このリンクアーム部は、長さ寸法を、持ち上げアーム部よりも小さく設定されていることから、持ち上げアーム部は、リンクアーム部によって、アウタカバー側の端部(アウタカバーの上方移動時における上端)を上死点を超えて回転させるような回転移動を規制されることとなり、リンクアーム部が、持ち上げアーム部の回転移動を止めるストッパとして作用することとなる。そのため、アウタカバーの上方移動状態を安定して維持することができる。すなわち、本発明の歩行者保護装置では、エアバッグやエアバッグを膨張させるためのインフレーターが不要であり、従来の歩行者保護装置と比較して、簡便な構成とすることができる。また、本発明の歩行者保護装置では、アクチュエータを、持ち上げアーム部の被押圧部位を押圧するように作動させれば、持ち上げアーム部の回転移動により、アウタカバーを上方移動させることができることから、アウタカバーを迅速に上方移動させることができる。
【0008】
したがって、本発明の歩行者保護装置では、簡便な構成として、かつ、作動時に、フロントピラーにおけるアウタカバーを迅速に上方移動させることができる。
【0009】
また、本発明の歩行者保護装置では、持ち上げアーム部は、フロントピラーの長手方向に略沿うような長尺状として構成されていることから、持ち上げアーム部の被押圧部位を押圧するようにアクチュエータを作動させて、持ち上げアーム部を、単に立ち上がらせるように回転移動させるだけで、この持ち上げアーム部の長さ分程度、アウタカバーを上方移動させることができる。そのため、所定のアウタカバーの持ち上げ量(上方移動量)を確保しやすく、また、搭載スペースを確保し難いフロントピラーの領域にも、容易に搭載することができる。そして、本発明の歩行者保護装置では、歩行者が、フロントピラーの領域と干渉することとなっても、上方移動させたアウタカバーによって、歩行者を受け止めることができて、歩行者が、フロントピラーにおける基材部等と接触することを、的確に抑制することができる。
【0010】
また、本発明の歩行者保護装置において、持ち上げアーム部の回転移動状態を維持可能なロック機構を、配設させる構成とすれば、アウタカバーの上方移動後に、持ち上げアーム部の位置をロックすることができ、持ち上げアーム部の回転移動状態(基材部に対する立ち上がり状態)を、安定して維持できることから、アウタカバーと基材部との離隔距離(アウタカバーの上方移動状態)を一層安定して確保することが可能となって、好ましい。
【0011】
さらに、上記構成の歩行者保護装置において、持ち上げアーム部とリンクアーム部とに、アウタカバーによる歩行者受止時に、変形して衝撃吸収可能な変形予定部を、配設させる構成とすれば、歩行者受止時に、持ち上げアーム部とリンクアーム部とを変形させることにより、接触時のエネルギーを吸収することができて、歩行者とフロントピラーにおける基材部等との接触を、一層的確に抑制することが可能となって、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態である歩行者保護装置の搭載状態を示す車両の側面図である。
【
図2】実施形態の歩行者保護装置の搭載状態を示す部分拡大側面図である。
【
図3】実施形態の歩行者保護装置の搭載状態を示す概略横断面図であり、
図2のIII-III部位に対応する。
【
図4】実施形態の歩行者保護装置を示す概略図である。
【
図5】実施形態の歩行者保護装置において、持ち上げアーム部の前下端側とアクチュエータとを示す概略平面図である。
【
図6】実施形態の歩行者保護装置において、ロック機構の部位を示す概略断面図であり、持ち上げアーム部の回転前と回転後との状態を示す。
【
図7】実施形態の歩行者保護装置の作動状態を示す概略側面図である。
【
図8】実施形態の歩行者保護装置の作動状態の概略図である。
【
図9】実施形態の歩行者保護装置において、歩行者受止時における持ち上げアーム部とリンクアーム部との変形後の状態を示す概略図である。
【
図10】本発明の他の実施形態である歩行者保護装置の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明すると、実施形態の歩行者保護装置Mは、
図1~3に示すように、車両Vの左右のフロントピラー1の部位に、搭載されている。なお、本明細書において、前後,上下,左右の方向は、フロントピラー1の軸方向(長手方向)を基準とするもので、特に断らない限り、フロントピラー1の軸方向(長手方向)に沿った方向を前後方向とし、フロントピラー1の軸直交方向である上下方向に略沿った方向を上下方向とし、フロントピラー1の軸直交方向である左右方向に略沿った方向を左右方向とするものである。
【0014】
実施形態では、車両Vにおいて左側に位置するフロントピラー1L(1)に搭載される歩行者保護装置Mについて、詳細に説明をする。右側のフロントピラーにも、詳細な図示は省略するが、同一の構成の歩行者保護装置が、搭載されている。
【0015】
フロントピラー1L(1)は、
図3に示すように、鋼板等からなるアウタパネル3と、インナパネル4と、アウタパネル3とインナパネル4との間に配置されるリインホースメント5と、を備えて構成されるもので、車両Vの構造体として高い剛性を具備している。また、アウタパネル3の上面側には、フロントピラー1Lの外表面を構成する板金製のアウタカバー10が、アウタパネル3の上面側を略全面にわたって覆うように、配設されている。なお、
図1~3において、符号13で示す部材は、フロントピラー1Lの左右方向の内側に配設されるフロントウィンドシールドであり、符号14で示す部材(
図3参照)は、アウタカバー10とフロントウィンドシールド13との間の隙間を塞ぐシールゴムである。
図3における符号15で示す部材は、フロントピラー1LとフロントドアFD(
図1参照)の間に介在されるドアウェザストリップである。また、
図1における符号16で示す部材は、フードパネルである。
【0016】
歩行者保護装置Mは、フロントピラー1Lにおけるアウタパネル3をボディ側の基材部として、アウタパネル3とアウタカバー10との間に配置されるもので(
図3参照)、持ち上げアーム部20と、作動時に持ち上げアーム部20の前端側を押圧するアクチュエータ35と、リンクアーム部40と、持ち上げアーム部20の回転移動状態を維持する(回転移動後の持ち上げアーム部15の戻りを規制する)ロック機構50と、を備えている。実施形態の場合、歩行者保護装置Mは、
図1,2に示すように、フロントピラー1Lの前端1a側に配設される構成とされており、フロントピラー1Lの後端1b側には、歩行者保護装置Mの作動時に連動する補助リンクアーム部40Bが、配設されている。
【0017】
持ち上げアーム部20は、板金製として、
図2,4に示すように、フロントピラー1Lの長手方向(前後方向)に略沿うような長尺状として構成されるもので、前端20a側を、アウタパネル3(基材部)から延びる取付ブラケット部7に取り付けられ、後端20b側を、アウタカバー10から延びる取付片部11に取り付けられている。具体的には、持ち上げアーム部20は、
図4に示すように、作動前の状態でアウタカバー10に対して後上がりに僅かに傾斜するように構成される本体部21と、本体部21の前端側において本体部21から下方に延びるように形成される前側取付部22と、本体部21の後端側においてアウタカバー10に略沿うように形成される後側取付部25と、を備えている。また、実施形態の場合、持ち上げアーム部20は、前側取付部22と後側取付部25との部位も含めて、全長にわたって、左右方向に略沿って配設される横板部20cと、横板部20cの右縁(左右方向側における内縁)から横板部20cに対して略直交するように延びる縦板部20dとを有した断面略L字形状とされている(
図4,5参照)。そして、持ち上げアーム部20は、前後方向あるいは上下方向に略沿うように配設される縦板部20dの部位で、取付ブラケット部7や取付片部11に、取り付けられている。
【0018】
詳細には、持ち上げアーム部20の前端20a側に設けられる前側取付部22は、左右方向に略沿って配設される基材部側回動軸部30を、縦板部20dの部位において、縦板部20dに略沿うように(上下方向に略沿うように)アウタパネル3から上方に延びる取付ブラケット部7とともに貫通させることにより、取付ブラケット部7、すなわち、アウタパネル3(基材部)に対して回動自在に軸支されている。持ち上げアーム部20の後端20b側に設けられる後側取付部25は、同様に、左右方向に略沿って配設されるアウタパネル側回動軸部31を、縦板部20dの部位において、縦板部20dに略沿うように(上下方向に略沿うように)アウタカバー10から下方に延びる取付片部11とともに貫通させることにより、取付片部11、すなわち、アウタカバー10に対して回動自在に軸支されている。前側取付部22は、回動前の状態で、基材部側回動軸部30よりもアウタパネル3側(下方)に延びるように構成されており、前側取付部22において、取付ブラケット部7から立ち上がるように配置される横板部20cの下端側の領域(基材部側回動軸部30よりも下方の領域)が、作動時のアクチュエータ35における後述するヘッド37aと当接可能な被押圧部位23を、構成している(
図4,5参照)。
【0019】
持ち上げアーム部20には、回転移動後における上方からの衝撃力作用時(アウタカバー10による歩行者受止時)に、変形可能な変形予定部が、形成されている。詳細には、実施形態の場合、縦板部20dにおいて、前側取付部22と本体部21との境界部位付近に、後縁側から切込を入れるような切欠部27が、形成されており(
図4参照)、縦板部20dにおけるこの切欠部27の周縁の部位が、アウタカバー10によって歩行者Pを受け止めた衝撃力の作用時に、塑性変形することとなる。具体的には、持ち上げアーム部20は、衝撃力の作用時に、
図8,9に示すように、本体部21を、切欠部27の周縁の部位で屈曲させるように、塑性変形することとなる。
【0020】
アクチュエータ35は、
図2,4に示すように、持ち上げアーム部20の前方となる位置に配置されるもので、外形形状を、軸方向をフロントピラー1L(前後方向)に略沿わせるような略円柱状とされている。アクチュエータ35は、薬剤の点火によって燃焼ガスを発生させるガス発生器(図示省略)を、シリンダ36内部の前端側となる位置に配設させ、作動時にこのガス発生器から発生する燃焼ガスにより、シリンダ36内に配設されたピストンロッド37を、後方に突出させるような構成とされている(
図5,7,8参照)。ピストンロッド37は、シリンダ36内部においてガス発生器近傍に配置される図示しないピストン部を備えるとともに、先端側(後端側)に、大径のヘッド37aを配設させている。このヘッド37aは、上述したごとく、持ち上げアーム部20の前側取付部22の下端側に配置される被押圧部位23と当接可能な構成とされるもので、作動時(ピストンロッド37の後方への突出時)に、被押圧部位23を後方に向かって押圧することにより、持ち上げアーム部20を、アウタパネル3に対して立ち上げるように、回転移動させることとなる(
図8参照)。このアクチュエータ35は、図示しない所定のブラケット等を用いて、アウタパネル3側に固定されている。また、アクチュエータ35は、車両Vの図示しないフロントバンパに設けられているセンサによって車両Vと歩行者との衝突を検知した際に、作動するように、構成されている。
【0021】
リンクアーム部40は、板金製として、持ち上げアーム部20の後側に隣接されるもので、持ち上げアーム部20に略沿うような(フロントピラー1Lの長手方向に略沿うような)長尺状として、前端40a側を、アウタパネル3(基材部)から延びる取付片部8に取り付けられ、後端40b側を、アウタカバー10から延びる取付片部11に取り付けられている(
図2,4参照)。リンクアーム部40は、幅方向を上下方向に略沿わせた長尺板状とされるもので、持ち上げアーム部20の回転に連動して回転可能に、前端40a側と後端40b側とを、それぞれ、アウタカバー10とアウタパネル3(基材部)に対して回動可能に、連結されている。詳細には、リンクアーム部40の前端40aは、
図4に示すように、持ち上げアーム部20における前側取付部22の後方となる位置において、左右方向に略沿って配設される基材部側回動軸部42を、アウタパネル3から上方に延びる取付片部8とともに貫通させることにより、取付片部8、すなわち、アウタパネル3(基材部)に対して回動自在に軸支されている。リンクアーム部40の後端40bは、同様に、左右方向に略沿って配設されるアウタパネル側回動軸部43を、持ち上げアーム部20の後側取付部25の後方において、この後側取付部25を取り付けている取付片部11とともに貫通させることにより、持ち上げアーム部20の後側取付部25の後側となる位置において、取付片部11、すなわち、アウタカバー10に対して回動自在に軸支されている。このリンクアーム部40は、長さ寸法(基材部側回動軸部42とアウタパネル側回動軸部43との離隔距離L1、
図4参照)を、持ち上げアーム部20の長さ寸法(基材部側回動軸部30とアウタパネル側回動軸部31との離隔距離L2、
図4参照)よりも小さく設定されている。
【0022】
リンクアーム部40には、回転移動後における上方からの衝撃力作用時(アウタカバー10による歩行者受止時)に、変形可能な変形予定部が、形成されている。詳細には、リンクアーム部40には、実施形態の場合、持ち上げアーム部20に形成される切欠部27の位置と、回転移動時の上下の位置を略一致させるようにして、前端40a付近の部位に、後縁側から切込を入れるような切欠部41が、形成されており(
図8参照)、リンクアーム部40におけるこの切欠部41の周縁の部位が、アウタカバー10によって歩行者を受け止めた衝撃力の作用時に、塑性変形することとなる。具体的には、リンクアーム部40は、衝撃力の作用時に、
図8,9に示すように、切欠部41の周縁の部位で屈曲させるように、塑性変形することとなる。
【0023】
持ち上げアーム部20の回転移動状態を維持する(回転移動後の持ち上げアーム部20の戻りを規制する)ロック機構50は、実施形態の場合、
図4,6のAに示すように、持ち上げアーム部20の前側取付部22を取り付けている取付ブラケット部7に、配設されている。詳細には、ロック機構50は、取付ブラケット部7において、基材部側回動軸部30の後方となる位置であって、非作動状態の前側取付部22によって左方を覆われる領域に、配設されている(
図6のA参照)。ロック機構50は、先端51a側を取付ブラケット部7に形成される挿通孔7aに挿通される係止ピン51と、取付ブラケット部7の右側面側に配置されて係止ピン51を左方に突出可能に付勢する付勢手段52と、を備える構成である。係止ピン51は、略円柱状とされるもので、外径寸法や長さ寸法を、付勢手段52の付勢力によって先端51a側を取付ブラケット部7から左方に突出させた際に(
図6のB参照)、この先端51a側の部位により、持ち上げアーム部20における前側取付部22の下面22a(詳細には、前側取付部22における縦板部20dの部位の下面、
図4参照)を支持して係止可能な寸法に、設定されている。付勢手段52としては、具体的には、板ばねが用いられている。このロック機構50では、アクチュエータ35の作動時における持ち上げアーム部20の回転移動時に、前側取付部22が移動して、挿通孔7aの左方が開放された際に、
図6のBに示すように、係止ピン51が、付勢手段52の付勢力を受けて左方に突出することとなり、この係止ピン51における取付ブラケット部7から突出している先端51a側の部位が、前側取付部22の下面22aと接触して支持し(
図8参照)、前側取付部22のさらなる下降移動(持ち上げアーム部20の戻り)を規制することとなる。
【0024】
フロントピラー1Lの後端1b側に配設される補助リンクアーム部40Bは、リンクアーム部40と略同一の構成とされるもので、長さ寸法を、リンクアーム部40よりも若干小さく設定されている。この補助リンクアーム部40Bを構成する部材には、リンクアーム部40と同一の図符号の末尾に「B」を付して、詳細な説明を省略する。この補助リンクアーム部40Bも、リンクアーム部40と同様に、持ち上げアーム部20の回転に連動して回転することとなる。
【0025】
実施形態の歩行者保護装置Mでは、図示しない作動回路が、図示しないフロントバンパに配置されるセンサからの作動信号に基づいて、車両Vと歩行者との衝突を検知した際に、アクチュエータ35が作動されることとなる。そして、アクチュエータ35の作動により、持ち上げアーム部20が回転移動することとなり、この持ち上げアーム部20の回転に連動して、リンクアーム部40が回転移動し、アウタカバー10が、アウタパネル3に対して上方移動するように持ち上げられることとなる。このとき、補助リンクアーム部40Bも、持ち上げアーム部20の回転に連動して回転移動することとなって、実施形態の歩行者保護装置Mでは、アウタカバー10は、
図7に示すように、前端10a側と後端10b側とをともに押し上げられて、前後の略全長にわたって、略平行移動するように、アウタパネル3に対して上方移動することとなる。
【0026】
そして、実施形態の歩行者保護装置Mでは、アクチュエータ35を作動させて、持ち上げアーム部20における被押圧部位23を押圧すれば、フロントピラー1Lの長手方向に略沿うように配置されている持ち上げアーム部20が、基材部としてのアウタパネル3から立ち上がるように回転移動することとなり、このような持ち上げアーム部20の回転移動により、アウタカバー10を、アウタパネル3に対して上方移動させることとなる(
図8参照)。このとき、リンクアーム部40も、持ち上げアーム部20の回転移動に連動して、アウタパネル3から立ち上がるように回転移動することとなる。このリンクアーム部40は、長さ寸法を、持ち上げアーム部20よりも小さく設定されていることから、持ち上げアーム部20は、リンクアーム部40によって、アウタカバー10側の端部(アウタカバー10の上方移動時における上端、後側取付部25)を上死点を超えて回転させるような回転移動を規制されることとなり、リンクアーム部40が、持ち上げアーム部20の回転移動を止めるストッパとして作用することとなる。そのため、アウタカバー10の上方移動状態を安定して維持することができる。すなわち、実施形態の歩行者保護装置Mでは、エアバッグやエアバッグを膨張させるためのインフレーターが不要であり、従来の歩行者保護装置と比較して、簡便な構成とすることができる。また、実施形態の歩行者保護装置Mでは、アクチュエータ35を、持ち上げアーム部20の被押圧部位23を押圧するように作動させれば、持ち上げアーム部20の回転移動により、アウタカバー10を上方移動させることができることから、アウタカバー10を迅速に上方移動させることができる。
【0027】
したがって、実施形態の歩行者保護装置Mでは、簡便な構成として、かつ、作動時に、フロントピラー1Lにおけるアウタカバー10を迅速に上方移動させることができる。
【0028】
また、実施形態の歩行者保護装置Mでは、持ち上げアーム部20は、フロントピラー1Lの長手方向に略沿うような長尺状として構成されていることから、持ち上げアーム部20の被押圧部位23を押圧するようにアクチュエータ35を作動させて、持ち上げアーム部20を、単に立ち上がらせるように回転移動させるだけで、この持ち上げアーム部20の長さ分程度、アウタカバー10を上方移動させることができる。そのため、所定のアウタカバーの持ち上げ量(上方移動量)を確保しやすく、また、搭載スペースを確保し難いフロントピラー1Lの領域にも、容易に搭載することができる。そして、実施形態の歩行者保護装置Mでは、歩行者Pが、フロントピラー1Lの領域と干渉することとなっても、上方移動させたアウタカバー10によって、歩行者Pを受け止めることができて、歩行者Pが、フロントピラー1Lにおいて高い剛性を具備しているアウタパネル3等と接触することを、的確に抑制することができる。
【0029】
さらに、実施形態の歩行者保護装置Mでは、持ち上げアーム部20の回転移動状態を維持可能なロック機構50が、配設される構成である。そのため、アウタカバー10の上方移動後に、持ち上げアーム部20の位置をロックして、持ち上げアーム部20の戻り(アウタカバー10の下降移動)を防止することができ、持ち上げアーム部20の回転移動状態(アウタパネル3に対する立ち上がり状態)を、安定して維持できることから、アウタカバー10とアウタパネル3(基材部)との離隔距離を安定して確保することができる。
【0030】
さらにまた、実施形態の歩行者保護装置Mでは、持ち上げアーム部20とリンクアーム部40とに、アウタカバー10による歩行者受止時に、変形して衝撃吸収可能な変形予定部が、配設される構成である。具体的には、実施形態の歩行者保護装置Mでは、持ち上げアーム部20とリンクアーム部40とに、切欠部27,41が、形成される構成であり、アウタカバー10による歩行者Pの受止時に、持ち上げアーム部20とリンクアーム部40とを、この切欠部27,41周縁の部位で屈曲させるように塑性変形させることができる(
図8,9参照)。そのため、このように持ち上げアーム部20とリンクアーム部40とを塑性変形させることにより、接触時のエネルギーを吸収することができて、歩行者Pとフロントピラー1Lにおけるアウタパネル3等との接触を、一層的確に抑制することができる。
【0031】
実施形態では、フロントピラー1Lの前端1a側に歩行者保護装置Mを配置させ、フロントピラー1Lの後端1b側に補助リンクアーム部40Bを配置させることにより、作動時に、アウタカバー10を前後の略全域にわたって平行移動させるように上方移動させる構成のものを例示している。歩行者保護装置の態様は、実施形態に限定されるものではなく、例えば、
図10に示すように、後端側の補助リンクアーム部を配設させない構成として、前端1a側に設けられる歩行者保護装置Mのみによって、アウタカバー10を、前端10a側のみを上方移動させるような構成としてもよい。さらには、歩行者保護装置を、フロントピラーの前端側と後端側との両方に、配設させる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1(1L)…フロントピラー、1a…前端、1b…後端、3…アウタパネル(基材部)、10…アウタカバー、20…持ち上げアーム部、20a…前端、20b…後端、22…前側取付部、23…被押圧部位、25…後側取付部、27…切欠部、30…基材部側回動軸部、31…アウタパネル側回動軸部、35…アクチュエータ、40…リンクアーム部、40a…前端、40b…後端、41…切欠部、42…基材部側回動軸部、43…アウタパネル側回動軸部、50…ロック機構、V…車両、M…歩行者保護装置。