(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101523
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】ポリアリールエーテルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 65/40 20060101AFI20240722BHJP
【FI】
C08G65/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128630
(22)【出願日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2023005405
(32)【優先日】2023-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】中井 誠
(72)【発明者】
【氏名】土門 武徳
(72)【発明者】
【氏名】田窪 由紀
【テーマコード(参考)】
4J005
【Fターム(参考)】
4J005AA24
4J005BB01
4J005BB02
4J005BC00
(57)【要約】
【課題】高沸点溶媒を実質的に含まず、かつ比較的高い分子量のポリアリールエーテルを提供すること。
【解決手段】芳香族ジハロゲン化合物の残基とビスフェノール化合物の残基から構成され、数平均分子量が1,400以上であり、280℃で30分加熱した時に発生する揮発成分についてGC分析した場合に、沸点が150℃以上の溶媒のピークが検出されない、ポリアリールエーテル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジハロゲン化合物の残基とビスフェノール化合物の残基から構成され、
数平均分子量が1,400以上であり、
280℃で30分加熱した時に発生する揮発成分についてGC分析した場合に、沸点が150℃以上の溶媒のピークが検出されない、ポリアリールエーテル。
【請求項2】
前記芳香族ジハロゲン化合物が、ジクロロジフェニルスルホン、ジクロロベンゾフェノンおよびジフルオロベンゾフェノンからなる群から選択される1種以上の化合物であり、
前記ビスフェノール化合物が、ビスフェノールS、ビスフェノールA、ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシベンゾフェノンおよびヒドロキノンからなる群から選択される1種以上の化合物である、請求項1に記載のポリアリールエーテル。
【請求項3】
前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロジフェニルスルホンであって、前記ビスフェノール化合物がビスフェノールSである、請求項1または2に記載のポリアリールエーテル。
【請求項4】
前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロジフェニルスルホンであって、前記ビスフェノール化合物がビスフェノールAである、請求項1または2に記載のポリアリールエーテル。
【請求項5】
前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロジフェニルスルホンであって、前記ビスフェノール化合物がジヒドロキシビフェニルである、請求項1または2に記載のポリアリールエーテル。
【請求項6】
前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロベンゾフェノンまたはジフルオロベンゾフェノンであって、前記ビスフェノール化合物がジヒドロキシベンゾフェノンである、請求項1または2に記載のポリアリールエーテル。
【請求項7】
前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロベンゾフェノンまたはジフルオロベンゾフェノンであって、前記ビスフェノール化合物がヒドロキノンである、請求項1または2に記載のポリアリールエーテル。
【請求項8】
前記数平均分子量が10,000以上である、請求項1または2に記載のポリアリールエーテル。
【請求項9】
芳香族ジハロゲン化合物、ビスフェノール化合物およびアルカリ化合物を用いて、無溶媒下、固相状態にて100℃以下で粉砕する粉砕処理と180℃以上で加熱する加熱処理を繰り返すことを特徴とするポリアリールエーテルの製造方法。
【請求項10】
前記芳香族ジハロゲン化合物が、ジクロロジフェニルスルホン、ジクロロベンゾフェノンおよびジフルオロベンゾフェノンからなる群から選択される1種以上の化合物であり、
前記ビスフェノール化合物が、ビスフェノールS、ビスフェノールA、ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシベンゾフェノンおよびヒドロキノンからなる群から選択される1種以上の化合物である、請求項9に記載のポリアリールエーテルの製造方法。
【請求項11】
前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロジフェニルスルホンであって、前記ビスフェノール化合物がビスフェノールSである、請求項9に記載のポリアリールエーテルの製造方法。
【請求項12】
前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロジフェニルスルホンであって、前記ビスフェノール化合物がビスフェノールAである、請求項9に記載のポリアリールエーテルの製造方法。
【請求項13】
前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロジフェニルスルホンであって、前記ビスフェノール化合物がジヒドロキシビフェニルである、請求項9に記載のポリアリールエーテルの製造方法。
【請求項14】
前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロベンゾフェノンまたはジフルオロベンゾフェノンであって、前記ビスフェノール化合物がジヒドロキシベンゾフェノンである、請求項9に記載のポリアリールエーテル。
【請求項15】
前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロベンゾフェノンまたはジフルオロベンゾフェノンであって、前記ビスフェノール化合物がヒドロキノンである、請求項9に記載のポリアリールエーテルの製造方法。
【請求項16】
前記ポリアリールエーテルの数平均分子量が10,000以上である、請求項9に記載のポリアリールエーテルの製造方法。
【請求項17】
前記粉砕処理と前記加熱処理を10回以上繰り返す、請求項9~16のいずれかに記載のポリアリールエーテルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリールエーテルおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のポリアリールエーテルは、耐熱性、難燃性、耐薬品性に優れ、高性能の樹脂素材として用いられている。
【0003】
通常、ポリアリールエーテルは溶液重合法で製造される。ポリアリールエーテルは、良好な耐薬品性に起因して、溶解する溶媒が限られ、例えば、N-メチルピロリドン、ジフェニルスルホン等の高沸点溶媒中で溶液重合をおこない製造されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、高沸点溶媒中で溶液重合した場合、官能基同士の均一な反応によって重合反応が進行し易く高分子量化が容易である一方、ポリマーを精製する段階でポリマー中に残存する高沸点溶媒を除去する必要がある。前記高沸点溶媒を除去するには、例えば、再沈殿法等によりおこなうが、費用が高コストになる問題がある。しかも、このような方法で高沸点溶媒を除去したとしても、溶媒を完全に除去することは実質的に不可能である。ポリマー中に溶媒が残存すると、溶融加工時に発泡したり、分解や着色を引き起こす原因となる問題がある。さらには、加工後の製品に溶媒が残存すると、特に衛生分野での使用において重大な問題がある。近年の環境意識の高まりから見ても溶媒の使用は好ましくない。
【0004】
このように、溶媒の使用には問題が多く、無溶媒でポリアリールエーテルを重合することが望まれている。一般に、無溶媒の重合方法としては、融点やガラス転移点以上の重合温度でおこなう溶融重合や、融点以下の重合温度でおこなう固相重合が考えられる。しかしながら、ポリアリールエーテルは溶融粘度が非常に高いため、溶融重合での生産は事実上困難である。また、ポリアリールエーテルは重合反応点となる末端官能基の分子運動性が不足しているため、空間的に離れた別の末端官能基と反応しづらく、従来の固相重合での生産も事実上困難である。
【0005】
他方で、固相重合方法を発展させた高分子化合物の合成方法としてメカノケミカル効果を利用した固相重合方法が提案されている。メカノケミカル効果とは、無機もしくは有機化合物の固体または粒子などに種々の機械エネルギー(圧縮、剪断、衝撃、摩砕等)を与えることで、それらの物質が活性化され、物理化学的性質を変化させるものである。
【0006】
中でも、有機化合物の官能基同士を反応させる重合方法として、反応に用いる原料化合物を粉砕する際に生じる機械的エネルギーを利用することで有機化合物の官能基同士を反応させる重合方法(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-047331号公報
【特許文献2】WO2020/009016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2の重合方法を工業的に有機化合物の重合反応に用いた場合、以下に示すような新たな問題が生じている。詳しくは、無機化合物のような硬い性質の物質とは違い、与える機械エネルギーは過剰になり易い。特に、ポリアリールエーテルの場合、重合反応は進行するものの、その過剰な機械エネルギーによって反応容器内で固結が発生する。その結果、原料化合物の表面更新が不十分となり末端基同士の反応を妨げるため、高分子量化することは難しい。
【0009】
本発明は、前記問題点を解決するものであり、高沸点溶媒を実質的に含まず、かつ比較的高い分子量のポリアリールエーテルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、無溶媒下、固相状態で粉砕することを含む特定の方法を用いることにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
本発明の要旨は、以下の通りである。
<1> 芳香族ジハロゲン化合物の残基とビスフェノール化合物の残基から構成され、
数平均分子量が1,400以上であり、
280℃で30分加熱した時に発生する揮発成分についてGC分析した場合に、沸点が150℃以上の溶媒のピークが検出されない、ポリアリールエーテル。
<2> 前記芳香族ジハロゲン化合物が、ジクロロジフェニルスルホン、ジクロロベンゾフェノンおよびジフルオロベンゾフェノンからなる群から選択される1種以上の化合物であり、)
前記ビスフェノール化合物が、ビスフェノールS、ビスフェノールA、ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシベンゾフェノンおよびヒドロキノンからなる群から選択される1種以上の化合物である、<1>に記載のポリアリールエーテル。
<3> 前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロジフェニルスルホンであって、前記ビスフェノール化合物がビスフェノールSである、<1>または<2>に記載のポリアリールエーテル。
<4> 前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロジフェニルスルホンであって、前記ビスフェノール化合物がビスフェノールAである、<1>~<3>のいずれかに記載のポリアリールエーテル。
<5> 前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロジフェニルスルホンであって、前記ビスフェノール化合物がジヒドロキシビフェニルである、<1>~<4>のいずれかに記載のポリアリールエーテル。
<6> 前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロベンゾフェノンまたはジフルオロベンゾフェノンであって、前記ビスフェノール化合物がジヒドロキシベンゾフェノンである、<1>~<5>のいずれかに記載のポリアリールエーテル。
<7> 前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロベンゾフェノンまたはジフルオロベンゾフェノンであって、前記ビスフェノール化合物がヒドロキノンである、<1>~<6>のいずれかに記載のポリアリールエーテル。
<8> 前記数平均分子量が10,000以上である、<1>~<7>のいずれかに記載のポリアリールエーテル。
<9> 芳香族ジハロゲン化合物、ビスフェノール化合物およびアルカリ化合物を用いて、無溶媒下、固相状態にて100℃以下で粉砕する粉砕処理と180℃以上で加熱する加熱処理を繰り返すことを特徴とするポリアリールエーテルの製造方法。
<10> 前記芳香族ジハロゲン化合物が、ジクロロジフェニルスルホン、ジクロロベンゾフェノンおよびジフルオロベンゾフェノンからなる群から選択される1種以上の化合物であり、
前記ビスフェノール化合物が、ビスフェノールS、ビスフェノールA、ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシベンゾフェノンおよびヒドロキノンからなる群から選択される1種以上の化合物である、<9>に記載のポリアリールエーテルの製造方法。
<11> 前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロジフェニルスルホンであって、前記ビスフェノール化合物がビスフェノールSである、<9>または<10>のいずれかに記載のポリアリールエーテルの製造方法。
<12> 前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロジフェニルスルホンであって、前記ビスフェノール化合物がビスフェノールAである、<9>~<11>のいずれかに記載のポリアリールエーテルの製造方法。
<13> 前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロジフェニルスルホンであって、前記ビスフェノール化合物がジヒドロキシビフェニルである、<9>~<12>のいずれかに記載のポリアリールエーテルの製造方法。
<14> 前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロベンゾフェノンまたはジフルオロベンゾフェノンであって、前記ビスフェノール化合物がジヒドロキシベンゾフェノンである、<9>~<13>のいずれかに記載のポリアリールエーテル。
<15> 前記芳香族ジハロゲン化合物がジクロロベンゾフェノンまたはジフルオロベンゾフェノンであって、前記ビスフェノール化合物がヒドロキノンである、<9>~<14>のいずれかに記載のポリアリールエーテルの製造方法。
<16> 前記ポリアリールエーテルの数平均分子量が10,000以上である、<9>~<15>のいずれかに記載のポリアリールエーテルの製造方法。
<17> 前記粉砕処理と前記加熱処理を10回以上繰り返す、<9>~<16>のいずれかに記載のポリアリールエーテルの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、芳香族ジハロゲン化合物とビスフェノール化合物とアルカリ化合物とを反応させ、フェノキシドを作製して、無溶媒下、固相状態にて、粉砕処理と加熱処理を繰り返すことを含む方法で製造することにより、高沸点溶媒を実質的に含まず、かつ比較的高い分子量のポリアリールエーテルを提供することができる。
本発明の製造方法は、従来の溶液重合法と比較して安価で環境負荷が小さい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[ポリアリールエーテル]
本発明のポリアリールエーテルは、芳香族ジハロゲン化合物の残基とビスフェノール化合物の残基から構成され、繰り返し単位にエーテル結合を有する。簡潔には、本発明のポリアリールエーテルは、芳香族ジハロゲン化合物およびビスフェノール化合物をモノマー成分として含有するポリエーテルと称することができる。
【0014】
芳香族ジハロゲン化合物の残基を与える芳香族ジハロゲン化合物としては、1分子中、1つ以上の芳香族環を有し、かつ2つのハロゲン原子を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)、ジクロロベンゾフェノン(DCBP)、ジフロオロベンゾフェノン(DFBP)が挙げられる。ポリアリールエーテルは、1種以上の芳香族ジハロゲン化合物の残基を含有してもよい。当該芳香族ジハロゲン化合物は、分子量のさらなる増大の観点から、DCDPSが好ましい。芳香族ジハロゲン化合物が1分子中に含む2つのハロゲン原子は、重合により脱離する原子であり、このため残基を構成するものではない。当該2つのハロゲン原子は、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等からなる群から選択されてもよく、分子量のさらなる増大の観点から、好ましくはフッ素原子、塩素原子からなる群から選択され、より好ましくは塩素原子である。当該2つのハロゲン原子は、相互に異なる原子であってもよいし、または同様の原子であってもよく、通常は同様の原子である。
【0015】
ビスフェノール化合物の残基を与えるビスフェノール化合物としては、1分子中、2つ以上の芳香族環を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、ビスフェノールS(BisS)、ビスフェノールA(BisA)、ジヒドロキシビフェニル(HBP)、4.4-ジヒドロキシベンゾフェノン(DHBP)、ヒドロキノン(HQ)が挙げられる。ポリアリールエーテルは、1種以上のビスフェノール化合物の残基を含有してもよい。当該ビスフェノール化合物は、分子量のさらなる増大の観点から、BisS、BisA、DHBP、HQが好ましく、BisS、BisA、DHBPがより好ましく、BisS、BisAがさらに好ましい。
【0016】
ポリアリールエーテルにおいて、芳香族ジハロゲン化合物の残基は、ビスフェノール化合物の残基と、同じ構造を有していてもよいし、または相互に異なる構造を有していてもよい。
【0017】
ポリアリールエーテルは、その具体例として、例えば、下記一般式(I)で表されるポリエーテルスルホン類、下記一般式(II)で表されるポリスルホン類、下記一般式(III)で表されるポリフェニルスルホン類、下記一般式(IV)で表されるポリエーテルケトン類、および下記一般式(V)で表されるポリエーテルエーテルケトン類等を包含する。本発明のポリアリールエーテルは通常、下記一般式(I)~(V)から選択されるいずれか1種の一般式における繰り返し単位を有し、下記一般式(I)~(V)から選択される2種以上の一般式における繰り返し単位を有することを妨げるものではない。
【0018】
【0019】
一般式(I)~(V)において、炭素原子と結合する水素原子は省略されているところ、当該水素原子は、炭素原子数1~5、特に1~3のアルキル基、またはフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子により置換されていてもよい;nは、当該ポリアリールエーテルが後述する分子量を有するような値であればよい。
【0020】
ポリアリールエーテルの詳しい具体例として、例えば、下記一般式(i)で表されるポリエーテルスルホン(PESU)、下記一般式(ii)で表されるポリスルホン(PSU)、下記一般式(iii)で表されるポリフェニルスルホン(PPSU)、下記一般式(iv)で表されるポリエーテルケトン(PEK)、および下記一般式(v)で表されるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。例えば、ポリエーテルスルホン(PESU)は下記一般式(i)における繰り返し単位を有するポリマーである。また例えば、ポリスルホン(PSU)は下記一般式(ii)における繰り返し単位を有するポリマーである。また例えば、ポリフェニルスルホン(PPSU)は下記一般式(iii)における繰り返し単位を有するポリマーである。また例えば、ポリエーテルケトン(PEK)は下記一般式(iv)における繰り返し単位を有するポリマーである。また例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は下記一般式(v)における繰り返し単位を有するポリマーである。
【0021】
【0022】
一般式(i)~(v)において、炭素原子と結合する水素原子は省略されており、当該水素原子は何らの基または原子によっても置換されていない;nは、当該ポリアリールエーテルが後述する分子量を有するような値であればよい。
【0023】
本発明のポリアリールエーテルのより詳しい具体例として、例えば、非晶性ポリマーであるポリエーテルスルホン(PESU、ガラス転移温度Tg=225℃)、ポリスルホン(PSU、ガラス転移温度Tg=185℃)、ポリフェニルスルホン(PPSU、ガラス転移温度Tg=220℃)、半結晶性ポリマーであるポリエーテルケトン(PEK、ガラス転移温度Tg=152℃、結晶融点Tm=373℃)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、ガラス転移温度Tg=143℃、結晶融点Tm=343℃)が挙げられる。上記したポリアリールエーテルのより詳しい具体例において、ガラス転移温度および結晶融点は、記載の温度に限定されるものではなく、例えば、分子量に応じて変化し得るものである。
【0024】
本発明のポリアリールエーテルの数平均分子量は、1,400以上であり、分子量のさらなる増大の観点から、10,000以上であることが好ましく、11,000以上であることがより好ましく、12,000以上であることがさらに好ましく、13,000以上であることが特に好ましい。ポリアリールエーテルの数平均分子量の上限値は特に限定されず、当該分子量は通常、5万以下、特に2万以下である。
【0025】
本発明のポリアリールエーテルは、高沸点溶媒を実質的に含まない。本発明において、実質的に含まないとは、280℃で30分加熱した時に発生する揮発成分について、ガスクロマトグラフィー(GC分析)した場合に、沸点が150℃以上の溶媒のピークが検出されないことをいう。本発明において、高沸点溶媒とは、沸点が150℃以上の溶媒のことをいう。沸点が150℃以上の溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン(沸点:202℃)、ジフェニルスルホン(沸点:379℃)、N,N-ジメチルアセトアミド(沸点:165℃)、ジメチルスルホキシド(沸点:189℃)が挙げられる。具体的には、本発明において、「高沸点溶媒を実質的に含まない」とは、本発明のポリアリールエーテルを120℃で20時間真空乾燥し、GC装置に備え付けのパイロライザー装置内で、ヘリウム雰囲気下、280℃で30分間加熱し、発生する揮発成分についてGC分析したときに、150℃以上の溶媒のピークが検出されない、ことをいう。GC分析は、検量線法によって行い、測定限界値が1ppmである。従って、本発明のポリアリールエーテルにおける沸点150℃以上の高沸点溶媒の含有量は1ppm未満である。ポリアリールエーテルは工業的には溶液重合で製造している場合が多いが、その場合、ポリアリールエーテルを溶解可能で、比較的汎用であることから、通常、溶媒としては、N-メチルピロリドン、ジフェニルスルホン、N,N-ジメチルアセトアミドおよびジメチルスルホキシドから選択される溶媒(いずれも沸点150℃以上の高沸点溶媒)が用いられる。そのため、工業的に溶液重合で製造された市販のポリアリールエーテルでは通常、前記4種の高沸点溶媒のピークが検出される。
【0026】
[ポリアリールエーテルの製造方法]
本発明のポリアリールエーテルは、芳香族ジハロゲン化合物、ビスフェノール化合物およびアルカリ化合物を用いて、無溶媒下、固相状態で粉砕処理および加熱処理を繰り返す方法により製造される。なお、粉砕処理および加熱処理を繰り返すに際しては、分子量のさらなる増大の観点から、好ましくは粉砕処理、加熱処理および冷却処理をこの順序で繰り返す。
【0027】
本発明の製造方法においては、アルカリ化合物を用いる。アルカリ化合物は、ビスフェノール化合物と反応しフェノキシドを形成する。アルカリ化合物としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。ビスフェノール化合物とアルカリ化合物の混合割合は、モル比で1.00:1.00~1:00:1.10とすることが好ましく、1.00:1.02~1:00:1.08とすることがより好ましい。
【0028】
本発明の製造方法においては、芳香族ジハロゲン化合物、ビスフェノール化合物およびアルカリ化合物を全て同時に反応させてもよいが、先にビスフェノール化合物とアルカリ化合物を反応させフェノキシドを作製した後、前記フェノキシドを芳香族ジハロゲン化合物と反応させることが、分子量のさらなる増大の観点から好ましい。先にビスフェノール化合物とアルカリ化合物を反応させることにより、反応物が高融点化し、固体での粉砕がおこないやすくなる。従って、本発明の製造方法における好ましい実施態様において、詳しくは、先にビスフェノール化合物とアルカリ化合物を反応させフェノキシドを作製した後、高分子化(フェノキシドと芳香族ジハロゲン化合物との反応)に際して、無溶媒下、固相状態で粉砕処理および加熱処理を繰り返す。分子量のさらなる増大の観点から、より好ましい実施態様においては、先にビスフェノール化合物とアルカリ化合物を反応させフェノキシドを作製した後、高分子化(フェノキシドと芳香族ジハロゲン化合物との反応)に際して、無溶媒下、固相状態で粉砕処理、加熱処理および冷却処理をこの順序で繰り返す。
【0029】
(フェノキシド作製工程)
本工程は通常、後述する高分子化工程と同様に、無溶媒下、固相状態で行う。詳しくは、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物を混合し、無溶媒下、固相状態にて粉砕を行い、後述の高分子化工程の説明で詳述するメカノケミカル効果と同様の効果に基づいて、フェノキシドを作製する。フェノキシドは、ビスフェノール化合物において芳香族環に結合する水酸基の水素原子がアルカリ金属と置換されてなる金属塩の形態を有する化合物である。
【0030】
ビスフェノール化合物とアルカリ化合物の混合割合は、上記した通りである。
【0031】
本工程において、詳しくは、無溶媒下、固相状態にて、粉砕処理および加熱処理を行う。粉砕処理および加熱処理は、別々に行うことが好ましい。同時に行った場合、原料モノマー表面の付着水分により原料モノマー同士の固結が進行し易くなり、フェノキシドの反応を阻害する可能性がある。本工程において固相状態とは、ビスフェノール化合物およびアルカリ化合物等の原料化合物が固相を維持した状態という意味である。溶媒を使用したり、原料化合物が溶融したりしていると、実質的に粉砕することができない。粉砕することにより、ビスフェノール化合物およびアルカリ化合物に、衝撃、摩擦、剪断、圧縮等の力を与えることができ、後述のメカノケミカル効果により、原料化合物が活性化される。このため、主として本工程の加熱処理により、反応が進行することができる。本発明は、本工程の粉砕処理によりビスフェノール化合物とアルカリ化合物と反応が進行することを妨げるものではないが、当該粉砕処理は、主として、原料化合物の活性化を達成し、本工程の加熱処理が、主として、当該反応を進行させるものと考えられる。
【0032】
本工程の粉砕処理は、原料化合物を活性化し、結果として後述の加熱処理でフェノキシドを作製できる装置であれば、あらゆる装置(例えば、いわゆる粉砕装置、混合装置または撹拌装置)によって達成されてもよい。例えば、後述の高分子化工程における粉砕処理で使用される粉砕装置を用いることができる。
【0033】
本工程において粉砕条件は、メカノケミカル効果が発現して原料化合物の活性化が達成される限り特に限定されない。例えば、ビーズの寸法および量、回転速度ならびに処理時間はそれぞれ、後述の高分子化工程における粉砕条件の説明で記載したビーズの寸法および量、回転速度ならびに処理時間と同様であってもよい。
【0034】
具体的には、例えば、横型ビーズミル方式粉砕装置を用い、粉砕処理のための容器の容量が10~15L(特に12.4L)であり、原料混合物の重量が30~50kg(特に39.5kg)であり、ビーズ直径(アルミナ製、比重:3.8)が1~10mm(特に3mm)であり、ビーズ充填量が15kg~25kg(特に21kg)である場合、後述の高分子化工程における粉砕処理の説明で記載した回転速度および粉砕時間と同様の回転速度および粉砕時間を採用することができる。
【0035】
本工程において粉砕処理は通常、高分子化工程における粉砕処理と同様に、非加熱下で行われ、例えば100℃以下で行う。粉砕処理時の温度は、原料化合物の粉砕が行われる限り特に限定されず、分子量のさらなる増大の観点から、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。粉砕処理時の温度の下限値は特に限定されず、当該温度は通常、20℃(室温)以上であってもよい。粉砕処理において、当該温度が高すぎると固結し、十分な粉砕を行うことができず、結果として後述する本工程の加熱処理によってもフェノキシドを生成できない。
【0036】
本工程において加熱処理では、原料モノマーが揮発(昇華)しない温度、例えば、原料モノマーの分解温度よりも低い温度に加熱することが好ましい。原料モノマーが揮発(昇華)してしまうとモルバランスが崩れ、その後のフェノキシドの生成反応が進まない。加熱温度は通常、220~260℃であり、分子量のさらなる増大の観点から、好ましくは230~250℃である。
【0037】
本工程の加熱処理は、均一処理に基づくフェノキシドの収率増大の観点から、撹拌しながら行うことが好ましい。撹拌装置は、被処理物の均一な混合が達成される限り特に限定されず、例えば、加熱しながら撹拌可能な装置が使用される。そのような装置として、例えば、後述の高分子化工程における加熱処理で使用される装置を用いることができる。
【0038】
例えば、円錐型リボン混合器を用い、加熱処理のための容器の容量が90~110L(特に100L)であり、原料混合物の重量が30~50kg(特に39.5kg)である場合、撹拌翼回転数は通常、10~50rpm(特に40rpm)であり、加熱時間は通常、30分間~2時間(特に1時間)である。なお、このような条件では、粉砕はほとんど起こらない。
【0039】
本工程において加熱処理された被処理物を冷却する冷却処理を行ってもよい。冷却方法は、特に限定されず、例えば、加熱処理装置から払い出された被処理物を冷却装置内で冷却する。冷却は通常、被処理物が100℃以下、特に90℃以下、好ましくは80℃以下になるまで行われる。冷却は放置冷却であってもよい。
【0040】
本工程において、粉砕処理および加熱処理は、後述する高分子化工程のように繰り返しおこなう必要はなく、それぞれ1回ずつ実施されるだけで、フェノキシドは生成する。
【0041】
(高分子化工程)
本工程は、フェノキシドと芳香族ジハロゲン化合物との反応により高分子化を行う工程であり、結果として、ポリアリールエーテルを作製する。
【0042】
フェノキシドと芳香族ジハロゲン化合物との混合割合は、フェノキシドを構成するビスフェノール化合物と芳香族ジハロゲン化合物の混合割合が後述の範囲内となるような割合であればよい。ビスフェノール化合物と芳香族ジハロゲン化合物の混合割合は、モル比で1.00:0.95~1:00:1.10とすることが好ましく、得られるポリアリールエーテルの数平均分子量が大きくなることから、1.00:1.02~1:00:1.08とすることがより好ましい。
【0043】
本工程においては、無溶媒下、固相状態にて、粉砕処理および加熱処理を繰り返すことが必要である。本工程において、固相状態とは、フェノキシドおよび芳香族ジハロゲン化合物等の原料化合物が固相を維持した状態という意味である。溶媒を使用したり、原料化合物が溶融したりしていると、実質的に粉砕することができない。粉砕することにより、芳香族ジハロゲン化合物およびフェノキシド(ビスフェノール化合物)に、衝撃、摩擦、剪断、圧縮等の力を与えることができ、メカノケミカル効果により、原料化合物が活性化される。このため、主として本工程の加熱処理により、重合を進行することができる。メカノケミカル効果とは、反応環境下において固体状態にある原料化合物に機械的エネルギー(圧縮力、せん断力、衝撃力、摩砕力等)を付与することにより、当該原料化合物を粉砕し、形成される粉砕界面を活性化させる効果(または現象)のことである。このようなメカノケミカル効果により、原料化合物が活性になり、物理化学的性質を変化させる。このため、主として、本工程の加熱処理において、化学反応により高分子化を達成することができる。本発明は、本工程の粉砕処理により高分子化反応が進行することを妨げるものではないが、当該粉砕処理は、主として、原料化合物の活性化を達成し、本工程の加熱処理が、主として、高分子化を進行させるものと考えられる。
【0044】
ポリアリールエーテルは剛直な構造であるため重合反応点となる末端官能基の分子運動性が低い。そのため、従来の固相重合では、空間的に離れた別の末端官能基と反応しづらく、空間的に反応可能な末端官能基が反応してしまえばそれ以上は反応しない。一方、本工程では、粉砕処理と加熱処理の繰り返しにおいて、衝撃、摩擦、剪断、圧縮等の力を与えることにより、末端官能基が空間的に移動し、継続的に反応可能な末端官能基が発生するため、末端官能基同士が反応しやすく、重合が進行すると考えらえる。
【0045】
本工程の粉砕処理は、原料化合物の活性化を達成できる装置であれば、あらゆる装置(例えば、いわゆる粉砕装置、混合装置または撹拌装置)によって達成されてもよい。本工程の粉砕処理のための粉砕装置としては、例えば、すり合わせ式、ビーズミル式(容器駆動型、媒体撹拌式)、気流式が挙げられる。中でも、工業的な生産の観点から、重合効率が良好なビーズミル式(媒体撹拌式)が好ましい。ビーズミル式(媒体撹拌式)としては、バッチ式の縦型ビーズミル方式、連続式の横型ビーズミル方式、が挙げられる。
【0046】
縦型ビーズミル方式粉砕装置は、縦型容器にビーズを収納させ、被処理物とともに撹拌・混合することにより、被処理物を粉砕するバッチ式の粉砕装置である。
横型ビーズミル方式粉砕装置は、横型容器にビーズを収納させ、被処理物とともに撹拌・混合することにより、被処理物を粉砕する連続式の粉砕装置である。
【0047】
本工程において粉砕条件は、メカノケミカル効果が発現して原料化合物の活性化が達成される限り特に限定されない。例えば、ビーズの寸法および量は、使用する装置によって異なり、十分なエネルギーを与えられるビーズの寸法および量を選択する必要がある。また例えば、回転速度は、使用する装置によって異なり、十分なエネルギーを与えられる速度を選択する必要がある。また例えば、処理時間は、使用する装置によって異なり、十分なエネルギーを与えられる時間を選択する必要がある。
【0048】
具体的には、例えば、横型ビーズミル方式粉砕装置を用い、粉砕処理のための容器の容量が10~15L(特に12.4L)であり、原料混合物の重量が40~60kg(特に50kg)であり、ビーズ直径(アルミナ製、比重:3.8)が1~10mm(特に3mm)であり、ビーズ充填量が15kg~25kg(特に21kg)である場合、回転速度は通常、150~500rpm(特に350rpm)であり、粉砕時間は通常、10分間~2時間(特に30分間)である。上記ビーズ充填量は、70~80%(特に75%)のビーズ充填率に対応する。
【0049】
本工程において粉砕処理は通常、非加熱下で行われ、例えば100℃以下で行う。粉砕処理時の温度は、原料化合物の粉砕が行われる限り特に限定されず、分子量のさらなる増大の観点から、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。粉砕処理時の温度の下限値は特に限定されず、当該温度は通常、20℃(室温)以上であってもよい。粉砕処理において、当該温度が高すぎると固結し、十分な粉砕を行うことができず、結果として高分子化を達成できない。
【0050】
本工程において加熱処理では、効率よく重合させるため、原料化合物が固結および溶融しない温度以下に加熱することが好ましい。加熱温度は、得られるポリマーの種類や製造工程に合わせて適宜選択すればよいが、通常は180℃以上(特に180~320℃)であり、200~320℃とすることが好ましい。具体的には、PESUであれば、200~280℃とすることが好ましく、230~260℃とすることがより好ましい。PSUであれば、180~250℃とすることが好ましく、200~250℃とすることがより好ましい。PPSUであれば、200~280℃とすることが好ましく、230~260℃とすることがより好ましい。PEKであれば、220~300℃とすることが好ましく、240~260℃とすることがより好ましい。PEEKであれば、220~300℃とすることが好ましく、240~260℃とすることがより好ましい。加熱時間も、得られるポリマーの種類や製造工程に合わせて選択すればよいが、通常は30分間以上(特に30分間~30時間)であり、30分間~10時間程度とすることが好ましい。加熱処理において、加熱温度が低すぎると、十分に重合しないため、高分子化を達成できない。
【0051】
本工程の加熱処理は、均一処理に基づく分子量のさらなる増大の観点から、撹拌しながら行うことが好ましい。撹拌装置は、被処理物の均一な混合が達成される限り特に限定されず、例えば、加熱しながら撹拌可能な装置が使用される。そのような装置として、例えば、円錐型リボン混合器が使用されてもよい。円錐型リボン混合器は、円錐型容器に、螺旋リボン回転翼を収納したバッチ式の粉粒体混合器である。
【0052】
例えば、円錐型リボン混合器を用い、加熱処理のための容器の容量が90~110L(特に100L)であり、原料混合物の重量が40~60kg(特に50kg)である場合、撹拌翼回転数は通常、10~50rpm(特に40rpm)であり、加熱時間は通常、30分間~2時間(特に1時間)である。なお、このような条件では、粉砕はほとんど起こらない。
【0053】
本工程において冷却処理は、加熱処理された被処理物を冷却する処理である。冷却方法は、特に限定されず、例えば、加熱処理装置から払い出された被処理物を冷却装置内で冷却する。冷却は通常、被処理物が100℃以下、特に90℃以下、好ましくは80℃以下になるまで行われる。冷却は放置冷却であってもよい。
【0054】
本発明の製造方法において、実用的な分子量(Mn1,400以上、特に10,000以上)とするには、粉砕処理と加熱処理を繰り返しおこなうことが必要である。分子量のさらなる増大の観点から、粉砕処理、加熱処理および後述の冷却処理をこの順序で繰り返しおこなうことが好ましい。加熱処理と粉砕処理を同時に行うと、高温領域での融着により原料化合物および低分子量体の固着が起こり易い。固着すると混ざりが不十分となるため末端官能基の移動が不十分となり、分子量が上がり難くなる。固着を回避するためには低温(例えば100℃以下)での粉砕処理と高温(例えば180℃以上)での加熱処理を繰り返すことが必要である。
【0055】
繰り返し回数は、製造されるポリマーにおいて必要とする分子量に合わせて適宜選定することができる。繰り返し回数は通常、2回以上であり、分子量のさらなる増大の観点から、好ましくは5回以上、より好ましくは10回以上、さらに好ましくは15回以上、十分に好ましくは20回以上、より十分に好ましくは25回以上である。繰り返し回数の上限は特に限定されず、繰り返し回数は通常、50回以下、特に30回以下である。繰り返し回数は、粉砕処理および加熱処理を繰り返す場合は粉砕処理および加熱処理の繰り返し回数のことであり、粉砕処理、加熱処理および冷却処理を繰り返す場合は粉砕処理、加熱処理および冷却処理の繰り返し回数のことである。繰り返し回数は、高分子化工程における最初の実施回を考慮した、合計の実施回数のことである。例えば、繰り返し回数は、高分子化工程で原料混合物を初めて粉砕処理および加熱処理する回を含む合計の実施回数のことである。例えば、フェノキシド作製工程を行う場合、繰り返し回数は、高分子化工程におけるフェノキシドと芳香族ジハロゲン化合物の粉砕処理およびそれらの混合物の加熱処理の繰り返し回数のことであり、フェノキシド作製工程における粉砕処理および加熱処理の回数を含まない。また例えば、フェノキシド作製工程を行わない場合、繰り返し回数は、高分子化工程におけるビスフェノール化合物と芳香族ジハロゲン化合物(および所望によりアルカリ化合物)の粉砕処理およびそれらの混合物の加熱処理の繰り返し回数のことである。
【0056】
高分子化工程において、粉砕処理と加熱処理を同時におこなう場合、ポリアリールエーテルの重合温度に加熱する機構を備えた粉砕装置が必要となるが、そのような装置の作製は技術的に難しく、粉砕方法の選択肢が狭くなる。一方、粉砕処理と加熱処理を交互におこなう場合、すなわち粉砕処理を非加熱下でおこなう場合、粉砕方法の選択肢が格段に広くなる。この場合、加熱処理と粉砕処理を繰り返しおこなう機構が必要である。加熱処理と粉砕処理を繰り返しおこなう機構としては、粉砕装置と粉体加熱装置を循環するように組み合わせることが好ましい。粉砕装置と粉体加熱装置のどちらか一方または両方を連続式にしてもよい。
【0057】
本発明の製造方法においては、酸化反応を抑制するため、各処理を窒素等の不活性ガス下でおこなうことが好ましい。詳しくは、フェノキシドの作製工程から高分子化工程までの一連の工程にわたって、各処理を窒素等の不活性ガス下で行うことが好ましい。
【0058】
本発明の製造方法においては、重合反応後、芳香族ジハロゲン化合物とアルカリ化合物から生じる塩が複成する。塩は、精練により除去することが好ましい。精練に用いる溶媒としては、低沸点の溶媒が好ましく、水やアルコールが好ましい。
【0059】
本発明の製造方法においては、粉砕処理を経るため、メカノケミカル効果により重合しポリマーが得られるとともに、得られたポリマーが粉砕される。粉砕後のポリマーの粒径は、1mm~1μm(特に1~1000μm)とすることが好ましい。前記粒径が1mmを超える場合、精練効率が不十分となる場合があり、1μm未満の場合だと、付着や飛散等のため粉体の取扱いが困難となる場合がある。
【0060】
本発明の製造方法においては、無溶媒で重合するため、従来の溶液重合で、通常用いられる高沸点溶媒を実質的に含有せず、ポリアリールエーテルを、安価に、環境負荷をかけることなく、製造することができる。
【0061】
本発明のポリアリールエーテルは、電子・電気部品分野をはじめ、自動車分野、医療分野、食品分野、塗料分野等の用途で好適に用いることができる。
【実施例0062】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、ポリアリールエーテルの特性値の評価は以下の方法によりおこなった。
【0063】
(1)数平均分子量(1H-NMR)
得られたポリアリールエーテルについて、高分分解能核磁気共鳴装置(日本電子社製ECA-500NMR、500MHz)を用いて、23℃で1H-NMR分析をおこなった。溶媒は、ポリエーテルスルホン(PESU)、ポリスルホン(PSU)またはポリフェニルスルホン(PPSU)の場合は、ジメチルスルホキシド(DMSO)と重水素化トリフルオロ酢酸(TFA)との容積比が100/3の混合溶媒を用いて、ポリエーテルケトン(PEK)またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の場合は、重水素化クロロホルム(CDCl3)とペンタフルオロフェノール(PFP)と重水素化トリフルオロ酢酸(TFA)との容積比が100/100/5の混合溶媒を用いた。
【0064】
(2)沸点が150℃以上の溶媒のピーク(GC)
得られたポリアリールエーテル粉末試料を真空乾燥機を使用して120℃で20時間乾燥した。そこから試料4gを秤量して良溶媒で一旦溶かしたのち、貧溶媒で再沈操作した。次に、その液をヘリウムガス雰囲気下で80℃から400℃まで30℃/分の昇温速度で加熱した時に発生する発生ガス量(ppm)についてGC-FIDで分析した。良溶媒は、ポリエーテルスルホン(PESU)、ポリスルホン(PSU)またはポリフェニルスルホン(PPSU)の場合は、ジメチルスルホキシド(DMSO)と重水素化トリフルオロ酢酸(TFA)との容積比が100/3の混合溶媒を用いて、ポリエーテルケトン(PEK)またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の場合は、重水素化クロロホルム(CDCl3)とペンタフルオロフェノール(PFP)と重水素化トリフルオロ酢酸(TFA)との容積比が100/100/5の混合溶媒を用いた。貧溶媒として、メタノールを用いた。GC分析し、沸点150℃以上の溶媒(特に、N-メチルピロリドン、ジフェニルスルホン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド)のピークが検出されないか確認した(測定限界値1ppm)。沸点150℃以上の溶媒のピークが検出されなかった場合は「○」、検出された場合は「×」とした。
【0065】
実施例1
(フェノキシドの作製工程)
定量フィーダー、原料投入口、窒素ガス導入口、風送循環ラインを備えた横型円筒形乾式ビーズミル装置の円筒形ベッセル(内容積12.4L)内に充填率75%になるようにアルミナ製ビーズ(直径3mm、比重:3.8)をセットした。ビーズ充填量は21kgであった。
次に、窒素気流下、横型円筒形乾式ビーズミル装置の原料投入口から、ビスフェノールS(BisS)と炭酸カリウム(K2CO3)を、混合割合がモル比で1:1.05、合計が39.5kgとなるように、定量フィーダーを用いて、5kg/分で供給し、非加熱下(周囲温度20℃下)、回転速度350rpmにて混合粉砕した(粉砕処理)。粉砕時間は30分間であった。粉砕処理時の装置内部の温度は70℃以下であった。
混合粉砕後払出した混合物(39.5kg)を、加熱機構、撹拌機構、窒素ガス導入口、ガス排出口を備えた円錐型リボン混合器(内容積100リットル)に供給し、240℃、撹拌翼回転数40rpmで1時間加熱攪拌し反応させ、フェノキシドを得た(加熱処理)。その後、反応容器から払出し、冷却装置で冷却した。
【0066】
(高分子化工程)
横型円筒形乾式ビーズミル装置および円錐型リボン混合器それぞれとして、フェノキシドの作製工程で使用された横型円筒形乾式ビーズミル装置および円錐型リボン混合器を用いて、高分子化工程を実施した。なお、横型円筒形乾式ビーズミル装置において、ビーズの種類、直径および充填量もそれぞれ、フェノキシド作製工程における当該装置のビーズの種類、直径および充填量と同様であった。
【0067】
詳しくは、窒素気流下、横型円筒形乾式ビーズミル装置の原料投入口から、前記フェノキシドと、ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)を、混合割合がモル比で1:1.03、フェノキシドの作製時に投入したBisSとK2CO3およびDCDPSの仕込合計が50.0kgになるように、定量フィーダー2台を用いて、10分間かけて供給した。次いで、非加熱下(周囲温度20℃下)、回転速度350rpmにて0.5時間、混合粉砕し、混合生成物を得た(粉砕処理:1回目)。粉砕処理時の装置内部の温度は70℃以下であった。当該粉砕処理直前の混合物中におけるフェノキシドおよびジクロロジフェニルスルホンの平均一次粒径はそれぞれ100μmおよび80μmであった。混合粉砕後、払出した混合生成物を、円錐型リボン混合器に供給し、240℃、撹拌翼回転数40rpmにて1時間加熱攪拌し反応させた(加熱処理:1回目)。その後、混合器から払出し、冷却装置で80℃以下になるまで冷却した(冷却処理:1回目)。本工程において、横型円筒形乾式ビーズミル装置および円錐型リボン混合器の各々は同じ装置を用いた。
【0068】
冷却した反応生成物を、再度、窒素気流下、横型円筒形乾式ビーズミル装置に5kg/分で定量フィーダーを用いて供給した。次いで、70℃以下で0.5時間混合粉砕した(粉砕処理:2回目)。混合粉砕後、払出した反応生成物を円錐型リボン混合器に供給し、240℃、撹拌翼回転数40rpmにて1時間加熱攪拌した(加熱処理:2回目)。その後、反応容器から払出し、冷却装置で80℃以下になるまで冷却した(冷却処理:2回目)。このような横型円筒形乾式ビーズミル装置での混合粉砕(粉砕処理)、円錐型リボン混合器での加熱攪拌(加熱処理)、冷却装置での冷却(冷却処理)を循環させて合計で15回繰り返し、粉末状のポリアリールエーテル(精練前)(ポリエーテルスルホン)を得た。
【0069】
(精練工程)
加熱機構、撹拌機構を備えた温浴槽を150リットル(内容積200リットル)の純水で満たし、撹拌翼回転数50rpmで攪拌しながら、100℃に昇温した。前記温浴槽に、前記粉末状のポリアリールエーテル(精練前)を、定量フィーダーを用いて、5kg/分で投入し、3時間、攪拌精練し、その後、金属フィルターを用いて濾過した。
温浴槽の純水を新しい純水に入れ替えた後、上記で精錬した粉末状のポリアリールエーテル(ポリエーテルスルホン)を再度温浴槽に投入し、100℃に昇温してから、1時間攪拌精練した後、金属フィルターで濾過した。新しい純水への入れ替え、ポリアリールエーテルの投入、攪拌精練、濾過を3回繰り返した。その後、窒素雰囲気下、120℃48時間乾燥して、精練した粉末状のポリアリールエーテル(ポリエーテルスルホン)を得た。
【0070】
実施例2
用いるDCDPS/K2CO3/BisSのモル比を1.00/1.05/1.00と変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、粉末状のポリアリールエーテル(ポリエーテルスルホン)を得た。
【0071】
実施例3
用いるビスフェノール化合物をビスフェノールA(BisA)とする以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、粉末状のポリアリールエーテル(ポリスルホン)を得た。
【0072】
実施例4
用いるビスフェノール化合物をジヒドロキシビフェニル(HBP)とし、粉砕処理、加熱処理および冷却処理の繰り返し回数を合計で27回とする以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、粉末状のポリアリールエーテル(ポリフェニルスルホン)を得た。
【0073】
実施例5
用いる芳香族ジハロゲン化合物をジクロロベンゾフェノン(DCBP)、ビスフェノール化合物をジヒドロキシベンゾフェノン(DHBP)とする以外は、実施例1と同様の条件で同様の操作をおこなって、粉末状のポリアリールエーテル(ポリエーテルケトン)を得た。
【0074】
実施例6
用いる芳香族ジハロゲン化合物をDCBP、ビスフェノール化合物をヒドロキノン(HQ)とし、粉砕処理、加熱処理および冷却処理の繰り返し回数を合計で25回とする以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、粉末状のポリアリールエーテル(ポリエーテルエーテルケトン)を得た。
【0075】
実施例7(繰り返し回数が少ない実施例(Mn1,500)
粉砕処理、加熱処理および冷却処理の繰り返し回数を合計で5回にする以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、粉末状のポリアリールエーテル(ポリエーテルスルホン)を得た。
【0076】
比較例1
(ポリアリールエーテルの作製)
原料投入口、加熱機構、撹拌機構を備えた溶液重合反応装置(内容積5L)に、BisS、K2CO3を混合割合がモル比で1:1.05、合計790gとなるように仕込み、さらにジフェニルスルホン2kgを加え、窒素雰囲気下、150℃まで加熱した。さらに50rpmで撹拌しながら235℃まで昇温し、1時間反応させた。さらに、DCDPSを、BisSに対してモル比で1:1.03、DCDPSとK2CO3とBisSの仕込合計が1kgになるように追加して、280℃で、50rpmで攪拌し3時間重合した。反応溶液を冷却後、10Lのメタノール/アセトン混合溶媒に加え、析出したポリアリールエーテル(精練前)(ポリエーテルスルホン)をメタノール、アセトン、水で繰返し洗浄した。
(精練)
加熱機構、撹拌機構を備えた温浴槽を6リットル(内容積10リットル)の純水で満たし、撹拌翼回転数50rpmで攪拌しながら、100℃に昇温した。前記温浴槽に、前記の析出ポリアリールエーテル(精練前)を投入し、1時間、攪拌精練し、その後、金属フィルターを用いて濾過した。
温浴槽の純水を新しい純水に入れ替えた後、上記で精錬した粉末状のポリアリールエーテル(ポリエーテルスルホン)を再度温浴槽に投入し、100℃に昇温してから、1時間攪拌精練した後、金属フィルターで濾過した。新しい純水への入れ替え、ポリアリールエーテルの投入、攪拌精練、濾過をさらに3回繰り返した。その後、窒素雰囲気下、120℃48時間乾燥して、精練した粉末状のポリアリールエーテル(ポリエーテルスルホン)を得た。
【0077】
比較例2
用いる芳香族ジハロゲン化合物をジフルオロベンゾフェノン(DFBP)、ビスフェノール化合物をHQとする以外は、比較例1と同様の操作をおこなって、粉末状のポリアリールエーテル(ポリエーテルエーテルケトン)を得た。
【0078】
比較例3(粉砕処理と加熱処理を同時に行った例)
(ポリアリールエーテルの作製)
熱媒ジャケット加熱機構、無段変速機付き撹拌機構、原料投入口、窒素ガス導入口を備えた縦型円筒形乾式ビーズミル装置のタンク(内容積25L)内に充填率70%になるようにアルミナ製ビーズ(直径3mm)をセットした。
次に、縦型円筒形乾式ビーズミル装置の原料投入口からBisSとK2CO3を、混合割合がモル比で1:1.05、合計574gとなるように仕込んだのちに、窒素気流下で30分窒素置換した。続いて、タンクを240℃に昇温しつつ、撹拌翼回転数100rpmで1時間撹拌した。加熱後、一旦冷却をおこない、粉体温度が80℃以下になった時点で、原料投入口よりDCDPSを、BisSに対してモル比で1:1.03、BisSとK2CO3とDCDPSの仕込合計が1kgになるように追加して、再度、撹拌翼回転数100rpmにて撹拌しつつ、240℃で加熱し、18時間重合したが、タンク内壁への固着が多く払い出せなかった。その後、固着した粉末状のポリアリールエーテル(精練前)(ポリエーテルスルホン)を回収し分子量測定を行った。
【0079】
比較例4(繰り返し回数が1回の例)
高分子化工程において粉砕処理、加熱処理および冷却処理の繰り返し回数を合計で1回にする以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、粉末状のポリアリールエーテル(ポリエーテルスルホン)を得た。
【0080】
実施例1~7、比較例1~4で得られたポリアリールエーテルの製造条件(仕込組成)およびその特性値を表1に示す。
【0081】
【0082】
実施例1~7では、沸点が150℃以上の溶媒を用いずに、粉砕処理および加熱処理を繰り返して固相重合をおこなった。このため、280℃で30分加熱した時に発生する揮発成分についてGC分析した場合であっても、沸点が150℃以上の溶媒のピークは検出されないポリアリールエーテルであって、有意に高い分子量(1400以上の分子量)のポリアリールエーテルを得ることができた。
特に粉砕処理および加熱処理の繰り返し回数を10回以上、好ましくは15回以上とすることで、より十分に高い分子量(10000以上の分子量)のポリアリールエーテルを得ることができた。
【0083】
比較例1、2は、沸点が150℃以上の溶媒を用いて溶液重合をおこなったため、280℃で30分加熱した時に発生する揮発成分についてGC分析した場合、沸点が150℃以上の溶媒のピークが検出された。
【0084】
比較例3では、粉砕処理および加熱処理を同時に実施して固相重合をおこなったため、十分に高い分子量のポリアリールエーテルを得ることはできなかった。
【0085】
比較例4では、粉砕処理および加熱処理を繰り返すことなく、固相重合をおこなったため、十分に高い分子量のポリアリールエーテルを得ることはできなかった。
本発明のポリアリールエーテルおよびその製造方法は、ポリアリールエーテル本来の性能としての耐熱性、難燃性および耐薬品性のうち、少なくとも1つ以上の性能(好ましくは全ての性能)が要求される用途に有用である。そのような用途して、例えば、電子・電気部品分野、自動車分野、医療分野、食品分野、塗料分野等が挙げられる。