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  • 特開-クロム含有鋼の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101527
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】クロム含有鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/00 20060101AFI20240722BHJP
   C21C 7/10 20060101ALI20240722BHJP
   C21C 5/28 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C21C7/00 A
C21C7/10 Z
C21C5/28 E
C21C7/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023149461
(22)【出願日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2023004878
(32)【優先日】2023-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 華栄
(72)【発明者】
【氏名】西川 涼祐
【テーマコード(参考)】
4K013
4K070
【Fターム(参考)】
4K013AA02
4K013BA02
4K013BA11
4K013BA16
4K013CE00
4K070AA03
4K070AB03
4K070AC03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】生産効率を高め、クロム酸化損失を抑えて、合金コストを低廉化したクロム含有鋼の製造方法を提供する。
【解決手段】高炉溶銑に溶銑予備処理を施し転炉脱炭した第1の溶湯と、クロムを含むスクラップまたは合金鉄を溶解し必要に応じて精錬を施した第2の溶湯とを合わせ湯する工程を含み、第1の溶湯の溶製にあたっては意図的にクロム含有原料を用いない、クロム含有鋼の製造方法である。第1の溶湯と第2の溶湯とを合わせ湯したクロム含有溶鉄に対し、必要に応じて炭素濃度を調整したうえで、減圧脱炭処理する工程を含むこと、減圧脱炭処理前の溶湯中窒素濃度[N](質量%)、減圧脱炭処理後の溶湯の目標炭素濃度[C](質量%)および目標窒素濃度[N](質量%)から式{[N]-[N]≦0.28×([C]-[C])-0.04}を満たすように減圧脱炭処理前の溶湯中炭素濃度[C](質量%)を調整することが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉溶銑に溶銑予備処理を施し転炉脱炭した第1の溶湯と、クロムを含むスクラップまたは合金鉄を溶解し必要に応じて精錬を施した第2の溶湯とを合わせ湯する工程を含み、前記第1の溶湯の溶製にあたっては意図的にクロム含有原料を用いない、クロム含有鋼の製造方法。
【請求項2】
前記第1の溶湯と前記第2の溶湯とを合わせ湯したクロム含有溶鉄に対し、必要に応じて炭素濃度を調整したうえで、減圧脱炭処理する工程を含む、請求項1に記載のクロム含有鋼の製造方法。
【請求項3】
減圧脱炭処理前の溶湯中窒素濃度[N](質量%)、減圧脱炭処理後の溶湯の目標炭素濃度[C](質量%)および目標窒素濃度[N](質量%)から下記式1を満たすように減圧脱炭処理前の溶湯中炭素濃度[C](質量%)を調整する、請求項2に記載のクロム含有鋼の製造方法。
[式1]
[N]-[N]≦0.28×([C]-[C])-0.04
【請求項4】
減圧脱炭処理前の前記溶湯中炭素濃度[C]は0.05質量%超である、請求項3に記載のクロム含有鋼の製造方法。
【請求項5】
クロム含有鋼の成分組成が、質量基準で、Cr:7%以上、C:0.005%以上およびN:0.05%以下を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のクロム含有鋼の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム含有鋼を製造する方法に関し、意図的にクロムを添加しない溶湯とクロム源を溶解した溶湯との合わせ湯を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、ステンレス鋼、つまり、クロムおよびニッケルの含有量が多い鋼の溶製方法として一般的には電気炉-AOD法や転炉-RHOB法が知られている。前者の方法ではステンレス鋼屑および高炭素フェロクロム原料を主とした原料配合にて電気炉で溶解し、AOD(Argon Oxygen Decarburization)にて脱炭精錬を行うものである。後者の方法は、転炉内に溶銑を装入するとともに溶銑中にニッケルおよびクロム原料を投入して溶湯を脱炭精錬し、この溶鋼をRHOB(RH Oxygen Blowing)にて仕上げ脱炭および所望の組成へ成分調整するものである。しかし、それぞれ問題点がある。電気炉-AOD法については、ステンレス屑の活用により、原料コストが抑えられている。その一方で、電気炉は転炉に対してヒートサイズが小さいため小ロット生産になって、歩留りの低下が大きい問題がある。加えて、電気炉ゆえのエネルギーコストおよび耐火物コストが高いことが問題となる。一方で、転炉-RHOB法についてはエネルギーコストおよび耐火物コストは比較的低廉価である。ところが、ステンレス屑を大量には使用できないため原料コストが高く、また溶銑を多く使用するためCO排出量が多くなる問題がある。
【0003】
このような背景から、特許文献1には、電気炉溶解工程で得られた溶鋼を溶銑、および転炉吹錬後の溶鋼と合わせる、「合わせ湯」の技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、高合金鋼、特に高ニッケル鋼を合わせ湯で製造する方法が開示されている。転炉でのニッケル汚染を抑止するために電気炉で高ニッケル鋼を溶解・溶製し、転炉精錬後の溶鋼と電気炉溶湯とを未脱酸で、[C]濃度が0.05質量%の合わせ湯をすることで復PおよびNピックアップを抑制することが可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平02-085334号公報
【特許文献2】特開平10-140227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術では、以下のような課題があった。
特許文献1に開示された技術では、電気炉で溶解した溶湯と転溶銑とを合わせて転炉に装入し、脱炭後にCr源を投入する。特許文献1では、溶銑装入量が低位な状況で攪拌動力を稼いだ状態でフェロクロムを投入し脱炭吹錬をすることでクロム損失の少ない脱炭吹錬が達成できるとしている。しかし、当該技術の効果として得られるクロム損失抑制技術としてはクロム損失が2%以上と高い。また、クロム源は基本的に転炉で投入するものであって電気炉で主にクロム源を溶製する技術については開示されていない。加えて、転炉がクロム汚染し、処理後にクロム規制の厳しい鋼種を溶製するにあたっては、転炉の洗浄が必要となるなどコスト増要因となる。
【0007】
また、特許文献2に開示された技術では、高ニッケル鋼についての合わせ湯の技術が開示されている。しかし、この技術では、クロム含有鋼溶製のため、電気炉で安価フェロクロム源(高炭素フェロクロム等)を使用し高クロム溶湯を製造し合わせ湯を行う場合、電気炉では所定の脱炭を必要とする。この技術をクロム含有鋼製造に適用しようとすると、大気下の電気炉でのクロム溶湯の脱炭は低C領域になるにつれて優先脱炭しにくく、[C]濃度が0.05質量%以下の溶湯を得るのは熱力学上困難である。したがって、クロム含有鋼溶製の場合には適したプロセスとは言えない。
【0008】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであって、生産効率を高め、クロム酸化損失を抑えて、合金コストを低廉化したクロム含有鋼を製造する方法を提案することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を有利に解決する本発明にかかるクロム含有鋼の製造方法は、高炉溶銑に溶銑予備処理を施し転炉脱炭した第1の溶湯と、クロムを含むスクラップまたは合金鉄を溶解し必要に応じて精錬を施した第2の溶湯とを合わせ湯する工程を含み、第1の溶湯の溶製にあたっては意図的にクロム含有原料を用いないことを特徴とする。
【0010】
なお、本発明にかかるクロム含有鋼の製造方法は、
(a)前記第1の溶湯と前記第2の溶湯とを合わせ湯したクロム含有溶鉄に対し、必要に応じて炭素濃度を調整したうえで、減圧脱炭処理する工程を含むこと、
(b)減圧脱炭処理前の溶湯中窒素濃度[N](質量%)、減圧脱炭処理後の溶湯の目標炭素濃度[C](質量%)および目標窒素濃度[N](質量%)から下記式1を満たすように減圧脱炭処理前の溶湯中炭素濃度[C](質量%)を調整すること、
(c)減圧脱炭処理前の前記溶湯中炭素濃度[C]は0.05質量%超であること、
(d)クロム含有鋼の成分組成が、質量基準で、Cr:7%以上、C:0.005%以上およびN:0.05%以下を含むこと、
などがより好ましい解決手段になり得る。
[式1]
[N]-[N]≦0.28×([C]-[C])-0.04
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかるクロム含有鋼の製造方法によれば、クロム含有鋼溶製のため高炉溶銑と電気炉溶湯の合わせ湯を実施する。これにより、電気炉-AOD法および転炉-RHOB法で製造する場合に比べて生産効率を高め、クロム酸化損失および合金コストの低廉化が達成される。さらに、合わせ湯したクロム含有溶鋼を減圧脱炭することで、窒素濃度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態にかかるクロム含有鋼の製造方法のフロー図である。
図2】クロム含有溶鋼の減圧脱炭処理での鋼中脱炭素量Δ[C](質量%)と鋼中脱窒素Δ[N](質量%)の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明の実施形態の説明に先立ち、発明の理解を容易にするため、発明の概要を説明する。本発明に関連する技術として特許文献2に記載の技術があげられる。特許文献2に記載の技術は、主に高Ni鋼の溶製についての技術であり、転炉・電気炉ともにCOガスの発生抑制、吸N抑制および復P防止が前提条件となる。そのため、未脱酸出鋼、つまり、溶鋼中[O](酸素)濃度の増加、および、溶鋼の[C]濃度は0.05質量%以下を前提としている。一方、本発明にかかる技術は高Cr鋼についての技術である。まず、合わせ湯プロセスでの高Cr溶湯の電気炉溶解処理では大気雰囲気下で脱炭を行うこととなる。そこで、電気炉でのCr損失ロスを抑制するために、脱酸処理を行ってCr回収を行うことと、および、高[C]濃度の溶湯を製造することになる。転炉溶湯と電気炉溶湯の合わせ湯を大気下で行う場合、合わせられた溶湯は窒素との親和性の高いCrの濃度が高いため合わせ後の溶湯のN濃度は飽和窒素濃度まで吸Nされる。この点において、特許文献2に記載の技術とは、合わせ湯の前提条件が異なる。このような違いから、特許文献2に記載の技術により転炉精錬して得た溶鋼の[C]濃度は0.05質量%以下であり、電気炉溶解した高合金鋼の溶湯も0.05質量%以下である。つまり、特許文献2に記載の技術は合わせ湯後の溶湯の[C]濃度が0.05質量%以下とするものである。対して、本発明においては、減圧脱炭処理前の溶湯中炭素濃度を0.05質量%超(0.3質量%等)とすることが原理上好ましい。
【0014】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための設備や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
本発明の一実施形態にかかるクロム含有鋼の製造フローを図1に示す。クロム含有鋼の1ヒートを製造するにあたり、高炉溶銑S1は、必要に応じて、溶銑予備処理工程S2によって、脱珪処理、脱リン処理および脱硫処理のいずれかまたは複数の処理を組み合わせて成分調整する。第1の合わせ工程S4では、高炉溶銑S1を転炉に装入する前に第1の電気炉溶解工程S3により製造された溶鉄と合わせ湯を行ってもよいが行わなくてもよい。第1の合わせ工程S4を実施する場合は、第1の電気炉溶解工程S3では、その後の転炉の酸素吹錬によって酸化損失を生ずるクロム合金の添加を避け、クロム以外の合金もしくは一般炭素鋼と同等成分の溶鉄に溶解することが好ましい。すなわち、ここでの溶湯の溶製にあたっては意図的にクロム含有原料を用いない。「意図的にクロム含有原料を用いない」とは、転炉吹錬中にクロム含有原料を全く添加しない場合の他、積極的には所定の割合以上となるクロム含有原料を添加しない場合を含む。質量基準で溶湯中のクロム濃度[Cr]の所定の割合は、たとえば、最大でも1%未満であり、0.5%とすることが好ましく、0.3%とすることがより好ましく、0.2%とすることがさらに好ましい。転炉吹錬S5ではクロムを含む原料を投入せずに吹錬を実施する。ただし、意図的添加をしないクロム源については含まれても良いものとする。転炉吹錬後の溶湯は脱酸処理する。一方で、第2の電気炉溶解工程S6では、電気炉にフェロクロムやクロム含有鋼屑などクロム原料を主体とした溶解を行う。電気炉のヒートサイズもしくは屑配合率の観点から第2の電気炉溶解工程S6は複数回処理してもよい。ただし、電気炉で複数回の溶解処理を行う場合は温度降下を鑑みてVAD(Vacuum Arc Degassing)やLF(Ladle Furnace)など加熱保持できる設備にて待機させることが好ましい。
【0016】
第2の電気炉溶解工程S6では、原料コストの低廉化のために、高炭素フェロクロム([C]~10質量%、[Cr]~70質量%)の使用が好ましい。また、合わせてクロム含有製品屑やその他合金を含むスクラップを溶解してもよい。ここで、電気炉溶湯の仕上げ炭素濃度[C]は低い方が好ましいため、C含有量の大きい原料を使用する場合は必要に応じて脱炭処理を行う。第2の電気炉溶解工程S6を経て出湯された電気炉溶湯は鍋で受湯しその後搬送され、第2の合わせ工程S7にて転炉吹錬S5を施した溶鋼を受湯した鍋と合わせ湯を行う。第2の合わせ工程S7にて転炉吹錬S5後の溶鋼と電気炉溶湯とを合わせ湯するとき、溶鉄中溶存酸素濃度が高い状態であると合わせ時のCO生成反応により、COガスが発生し操業トラブルが懸念される。そのため、第2の電気炉溶解工程S6では電気炉精錬時には溶湯未脱酸でも良いが、出湯時もしくは出湯後合わせ湯をする前に脱酸材を用いて溶湯脱酸する、もしくは炉内精錬時に溶湯脱酸をすることが好ましい。また、第2の合わせ工程S7での配合比率は、S5の溶湯が1に対し、S6の溶湯が0.15~0.50の範囲で実施することが好ましい。たとえば、200~350t容量の転炉溶鋼と30~100t容量の電気炉の溶湯とを合わせ湯する際に、歩留まり、つまり、1回あたりの製造量を最優先にし、合金コストを最小化するクロム含有鋼を製造する場合、転炉溶鋼の比率が高い方が良いためである。
【0017】
第2の合わせ工程S7を経るため、溶鉄の温度降下が大きい場合がある。そのためLFなどの加熱工程S8を経ることが好ましい。LF等の加熱工程では昇熱を実施するため、鋳込み鍋持ち込みスラグからのPやMnピックアップが懸念される。PやMn規格に応じてこの加熱工程S8の前に除滓工程を加えることが好ましいが、必ずしも実施するものではない。
【0018】
第2の電気炉溶解工程S6で、電気炉溶湯は脱酸された状態で合わせ湯をするため、大気下での第2の合わせ工程S7時に空気の巻き込みが大きくなり、大気中窒素のピックアップが発生する。この時、溶湯中クロムは窒素活量を下げる特性があり、大気下での第2の合わせ工程S7により飽和状態まで窒素をピックアップする。そのため、製品規格を満足する窒素濃度[N](質量%)を得るために脱窒処理が必須となる。脱窒処理はRH式真空処理装置などの減圧設備で実施する。
【0019】
本実施形態では減圧脱炭工程S9で脱炭処理と脱窒処理とを並行して行う。たとえば、脱窒処理は減圧脱炭処理でのCO生成反応に伴って進行することが知られている。図2にRH式真空処理装置を用いてクロム含有溶鋼を減圧脱炭処理したときの、減圧脱炭量Δ[C](質量%)と脱窒量Δ[N](質量%)の関係を示す。図2で用いたクロム含有溶鋼は、[Cr]:10.2~13.5質量%の範囲であった。ここで、減圧脱炭量Δ[C](質量%)は減圧脱炭処理前の溶湯中炭素濃度[C](質量%)と減圧脱炭処理後の溶湯中炭素濃度[C](質量%)との差である。また、脱窒量Δ[N](質量%)は減圧脱炭処理前の溶湯中窒素濃度[N](質量%)と減圧脱炭処理後の溶湯中窒素濃度[N](質量%)との差である。この結果から目標窒素濃度を得るための減圧脱炭処理前の炭素濃度を得る下記式1が導き出される。
[式1]
[N]-[N]≦0.28×([C]-[C])-0.04
ここで、[N]は減圧脱炭処理前の溶湯中窒素濃度(質量%)、
[N]は減圧脱炭処理後の目標窒素濃度(質量%)、
[C]は減圧脱炭処理前の溶湯中炭素濃度(質量%)、
[C]は減圧脱炭処理後の溶湯の目標炭素濃度(質量%)
を表す。
【0020】
ある一定の脱窒量を得るためには所定の脱炭量を必要とする。すなわち減圧脱炭処理開始前にある一定の鋼中炭素濃度[C](質量%)を有していないと飽和状態までピックアップした鋼中窒素濃度[N]から目標窒素濃度[N](質量%)までの脱窒処理が行えない。減圧脱炭処理開始時の鋼中炭素濃度[C](質量%)を確保するためには、電気炉出湯炭素濃度[C]を高めたり、減圧処理開始前(脱炭開始前)もしくは減圧処理開始前の加熱工程S8で合金等を投入し加炭したり、することが好ましい。くわえて、転炉吹錬S5後の溶鋼の炭素濃度[C]を0.05質量%超えとすることが好ましい。なお、減圧脱炭処理開始時の鋼中炭素濃度[C]を過剰に高くすると、クロム含有鋼の炭素濃度規格を達成するために過度の脱炭処理が必要となるので、脱窒処理に必要十分な程度の炭素濃度とすることが好ましい。
【0021】
RH式真空処理装置を用いた減圧脱炭処理では送酸脱炭および真空脱炭を行うことができる。たとえば、ステンレス鋼の優先脱炭温度(下記式2)に基づき計算した温度T以上の条件で実施するとクロムの酸化損失が最小限に抑えられる。そのため、脱炭を開始する溶鋼温度Tを式2で計算される温度以上とすることが好ましい。こうしてRH式真空処理装置にて成分調整されたクロム含有溶鋼は、そのまま鋳造工程S11へと搬送して鋳造してもよい。また、減圧脱炭処理にてクロムが酸化したスラグを還元するためにLF等の取鍋精錬工程S10を経て鋳造工程S11へ移行する方が好ましい。
[式2]
log{(aCr 2/3・PCO)/a}=8.48-13520/T
ここで、aCrはクロム含有溶鋼中のクロムの活量、
COは雰囲気中の一酸化炭素の分圧(atm)、
はクロム含有溶鋼中の炭素の活量、
Tはクロム含有溶鋼の温度(K)
を表す。
【0022】
上記実施形態では、減圧脱炭工程S9にRH式真空処理装置を用いる例を記載したが、これに限らない。本実施形態は減圧脱炭処理が可能な設備が適用可能である。鋳造工程S11は造塊分解法や連続鋳造法を適用することができる。歩留まりの観点から連続鋳造法が好ましい。
【0023】
本実施形態にかかるクロム含有鋼の製造方法における合わせ湯の実施に際しては、Cr、CおよびNの含有量に特に上下限の制約はない。しかしながら、質量基準で、Cr:7%以上、C:0.005%以上およびN:0.05%以下を含むクロム含有鋼に適用することが好ましい。Cr含有量が7%未満であれば、電気炉を用いてクロム原料を溶解するよりも転炉もしくは取鍋精錬でクロム原料を添加した方が安価である。なお、Cr含有量の上限については特に規定するものではないが、規格の観点から現実的に作り得る鋼のCr含有量の上限は一般的に30%程度である。C含有量を0.005%未満とするには、Cr含有量が前記の範囲では、過度の脱炭処理が必要で、クロムの歩留まりが酸化損失で低下するおそれがある。一方、C含有量の上限を規定するものではないが、一般的に想定しうる鋼のC含有量の上限は0.5%程度である。N含有量が0.05%を超えると低温靭性が劣化するおそれがある。その他の元素を必要に応じて含有させることができる。
【実施例0024】
(実施例1)
上記実施形態にかかるクロム含有鋼の製造方法に基づき、図1のフローに準拠し、13Cr鋼を製造した。13Cr鋼の目標成分組成は、[C]:0.20質量%、[N]:0.030質量%以下および[Cr]:13.0質量%であった。高炉溶銑S1に溶銑予備処理工程S2を経て転炉吹錬S5を施し、240tの溶鋼を得た。溶鋼の成分組成は、Crを含まず、炭素濃度[C]が0.03質量%であった。第2の電気炉溶解工程S6では、1回あたり50t規模の容量の電気炉で、高炭素フェロクロムおよび13Crビレット屑を主原料としアーク溶解した。溶解後、大気圧下の送酸脱炭を行い溶湯中の炭素濃度を調整した。得られたクロム含有溶湯の成分組成は、[C]:2質量%、[Cr]:66質量%であった。第2の合わせ工程S7では、クロムを含まない溶鋼240tとクロム含有溶湯50tとを大気圧下で合わせ湯し、290tの溶湯とした。合わせ湯後の溶湯の成分組成は、[C]:0.37質量%、[N]:0.0458質量%および[Cr]:11.38質量%であった。減圧脱炭工程S9では、この溶湯をRH式真空処理装置で減圧脱炭処理した。80~100Torr(10666~13332Pa)の減圧条件下で30分間送酸脱炭処理し、その後、5Torr(667Pa)以下の減圧条件下で真空脱炭処理を施した。減圧脱炭処理後の溶湯の成分組成は、[C]:0.15質量%、[N]:0.0098質量%および[Cr]:11.02質量%であった。その後、取鍋精錬工程S10にて、クロム損失としてスラグに移行したクロム分を還元し、併せて、目標成分組成の規格を満たすように合金を投入し成分調整した。最後に鋳造工程S11にて連続鋳造し、半製品のビレットを製造した。
【0025】
本実施例において、クロムを意図的に添加しない高炉溶銑を転炉吹錬することで、転炉のCr汚染およびクロムの酸化損失を回避し、第2の電気炉溶解工程S6で13Crビレット屑を原料として合わせて溶解することで原料コストを低廉化した。したがって、13Cr鋼を高い生産能力で製造することができた。
【0026】
(実施例2)
実施例1と同様のフローにて、13Cr鋼を製造した。13Cr鋼の目標成分組成は、[C]:0.015質量%、[N]:0.020質量%以下および[Cr]:12.5質量%であった。高炉溶銑S1に溶銑予備処理工程S2を経て転炉吹錬S5を施し、200tの溶鋼を得た。溶鋼の成分組成は、Crを含まず、炭素濃度[C]が0.01質量%であった。第2の電気炉溶解工程S6では、1回あたり50t規模の容量の電気炉で、高炭素フェロクロムおよび13Crビレット屑を主原料としアーク溶解を2回行った。溶解後、大気圧下の送酸脱炭を行い溶湯中の炭素濃度を調整した。[C]:0.60質量%および[Cr]:28質量%のクロム含有溶湯を50t、[C]:1.31質量%および[Cr]:55質量%のクロム含有溶湯を40t、2回の溶解の合計溶湯は90tであった。第2の合わせ工程S7では、クロムを含まない溶鋼200tとクロム含有溶湯90tとを大気圧下で合わせ湯し、290tの溶湯とした。合わせ湯後の溶湯の成分組成は、[C]:0.30質量%、[N]:0.0645質量%および[Cr]:12.41質量%であった。加熱工程S8では、式1に基づき、減圧脱炭処理前の必要炭素濃度[C]を計算し、加炭材を添加し、鋼中炭素濃度[C]:0.36質量%とした。減圧脱炭工程S9では、この溶湯をRH式真空処理装置で減圧脱炭処理した。80~100Torr(10666~13332Pa)の減圧条件下で60分間送酸脱炭処理し、その後、5Torr(667Pa)以下の減圧条件下で真空脱炭処理を施した。減圧脱炭処理後の溶湯の成分組成は、[C]:0.005質量%、[N]:0.0070質量%および[Cr]:11.02質量%であった。その後、取鍋精錬工程S10にて、クロム損失としてスラグに移行したクロム分を還元し、併せて、目標成分組成の規格を満たすように合金を投入し成分調整した。最後に鋳造工程S11にて連続鋳造し、半製品のビレットを製造した。
【0027】
本実施例において、クロムを意図的に添加しない高炉溶銑を転炉吹錬することで、転炉のCr汚染およびクロムの酸化損失を回避し、第2の電気炉溶解工程S6で13Crビレット屑を原料として合わせて溶解することで原料コストを低廉化した。したがって、13Cr鋼を高い生産能力で製造することができた。
【0028】
(比較例)
実施例2と同様のフローにて、13Cr鋼を製造した。転炉吹錬S5を施した200tの溶鋼の成分組成は、Crを含まず、炭素濃度[C]が0.01質量%であった。第2の電気炉溶解工程S6では、2回の電気炉溶解により、[C]:0.56質量%および[Cr]:29質量%のクロム含有溶湯を50t、[C]:1.25質量%および[Cr]:55質量%のクロム含有溶湯を40t、2回の溶解の合計溶湯は90tであった。第2の合わせ工程S7では、クロムを含まない溶鋼200tとクロム含有溶湯90tとを大気圧下で合わせ湯し、290tの溶湯とした。合わせ湯後の溶湯の成分組成は、[C]:0.28質量%、[N]:0.0610質量%および[Cr]:12.59質量%であった。加熱工程S8では、加炭を行わず、そのまま、減圧脱炭工程S9を施した。減圧脱炭工程S9では、この溶湯をRH式真空処理装置で減圧脱炭処理した。80~100Torr(10666~13332Pa)の減圧条件下で60分間送酸脱炭処理し、その後、5Torr(667Pa)以下の減圧条件下で真空脱炭処理を施した。減圧脱炭処理後の溶湯の成分組成は、[C]:0.007質量%、[N]:0.0215質量%および[Cr]:11.74質量%であった。その結果、窒素濃度が規格より高く、成分外れとなった。
【0029】
本明細書中で、[M]は、クロム含有溶鉄またはクロム含有合金中の成分元素Mを表す。圧力の単位「atm」は101325Paとする。また、圧力の単位「Torr」は、133.3Paとする。質量の単位「t」は10kgとする。

図1
図2