(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010154
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】加熱調理器
(51)【国際特許分類】
F24C 7/02 20060101AFI20240116BHJP
F24C 7/04 20210101ALI20240116BHJP
【FI】
F24C7/02 320Z
F24C7/04 301Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023187947
(22)【出願日】2023-11-01
(62)【分割の表示】P 2020070647の分割
【原出願日】2020-04-09
(71)【出願人】
【識別番号】390010168
【氏名又は名称】東芝ホームテクノ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503376518
【氏名又は名称】東芝ライフスタイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 智志
(57)【要約】 (修正有)
【課題】調理室内に入れられた被調理物を自動で加熱調理を行ない、ユーザに不便さをもたらさない加熱調理器を提供する。
【解決手段】庫内温度が第1の設定温度に到達するまでの第1の工程と、庫内温度を第2の設定温度で安定させるようにする第2の工程と、を有し、第1の設定温度および第2の設定温度Tは被調理物の種類に応じて設定され、第2の設定温度が第1の設定温度よりも低く、自動オーブン調理制御部89は、空気を加熱する熱風ヒータと、調理室内に加熱した空気を送り込んで循環させる熱風ファンと、を有し、自動オーブン調理制御部89は、庫内温度が第1の設定温度に到達したと判断すると、熱風ヒータおよび熱風ファンを停止し、庫内温度が第2の設定温度まで低下したと判断すると、庫内温度が第2の設定温度で収束安定して飽和状態になるように熱風ヒータおよび熱風ファンの通断電を制御する構成としている。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被調理物を収容する調理室と、
前記被調理物を熱風コンベクション加熱する加熱手段と、
前記加熱手段を制御する制御手段と、
前記調理室の庫内温度を検出する庫内温度検出手段と、
前記被調理物の種類を選択する選択手段と、を備え、
前記庫内温度が第1の設定温度に到達するまでの第1の工程と、その後前記庫内温度を第2の設定温度で安定させるようにする第2の工程と、を有し、
前記第1の設定温度および前記第2の設定温度は、前記被調理物の種類に応じて設定され、
前記第2の設定温度が前記第1の設定温度よりも低く、
前記加熱手段は、空気を加熱する熱風ヒータと、前記調理室内に加熱した前記空気を送り込んで循環させる熱風ファンと、を有し、
前記制御手段は、
前記庫内温度が前記第1の設定温度に到達したと判断すると、前記熱風ヒータおよび前記熱風ファンを停止し、
前記庫内温度が前記第2の設定温度まで低下したと判断すると、前記庫内温度が前記第2の設定温度で収束安定して飽和状態になるように前記熱風ヒータおよび前記熱風ファンの通断電を制御することを特徴とする加熱調理器。
【請求項2】
前記第1の工程の時間に応じて前記第2の工程の時間が変動することを特徴とする請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第1の工程の時間、選択された前記被調理物の種類および前記第1の設定温度から前記被調理物の分量を判断して前記第2の工程の時間を調整し、前記被調理物の分量が異なっても前記第1の工程の時間と前記第2の工程の時間とを合わせた総時間が一定になるように構成され、
前記総時間は前記被調理物の種類に応じて設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の加熱調理器。
【請求項4】
調理の設定内容や進行状況などを表示する表示手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記熱風コンベクション加熱が終了するまでの残時間を算出して前記表示手段に当該残時間を表示するように構成され、
前記残時間は、前記被調理物の種類や前記被調理物の分量により異なる値になることを特徴とする請求項3に記載の加熱調理器。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第2の工程の開始時から前記残時間を表示するように構成されることを特徴とする請求項4に記載の加熱調理器。
【請求項6】
被調理物を収容する調理室と、
前記被調理物をレンジ加熱するマイクロ波加熱手段と、
前記被調理物を熱風コンベクション加熱するオーブン加熱手段と、
前記マイクロ波加熱手段および前記オーブン加熱手段を制御する制御手段と、
前記被調理物の表面温度を検出する赤外線センサで構成される被調理物温度検出手段と、
前記調理室の庫内温度を検出するサーミスタを含んだ庫内温度検出手段と、
前記被調理物の種類を選択する選択手段と、を備え、
前記制御手段は、前記レンジ加熱時において、前記被調理物温度検出手段の検出温度の第1の閾値と、前記庫内温度検出手段の検出温度の第2の閾値とをそれぞれ設定し、
前記制御手段は、前記レンジ加熱時に、2つの前記検出温度のどちらか一方が対応する前記第1の閾値以上または前記第2の閾値に到達したと判断すると、該判断からの前記レンジ加熱の継続時間である前記レンジ加熱の残時間を確定し、
前記熱風コンベクション加熱において最初の工程であり、前記庫内温度が第1の設定温度である第1の工程と、当該第1の工程後の工程であり、前記庫内温度が第2の設定温度である第2の工程と、を有し、
前記第1の設定温度および前記第2の設定温度は、前記被調理物の種類に応じて設定され、
前記第2の設定温度が前記第1の設定温度よりも低く、
前記オーブン加熱手段は、空気を加熱する熱風ヒータと、前記調理室内に加熱した前記空気を送り込んで循環させる熱風ファンと、を有し、
前記制御手段は、
前記庫内温度が前記第1の設定温度に到達したと判断すると、前記熱風ヒータおよび前記熱風ファンを停止し、
前記庫内温度が前記第2の設定温度まで低下したと判断すると、前記庫内温度が前記第2の設定温度で収束安定して飽和状態になるように前記熱風ヒータおよび前記熱風ファンの通断電を制御することを特徴とする加熱調理器。
【請求項7】
前記被調理物は、肉、または、野菜であることを特徴とする請求項1または6に記載の加熱調理器。
【請求項8】
前記熱風コンベクション加熱の設定が複数段階から選択可能に設けられることを特徴とする請求項1または6に記載の加熱調理器。
【請求項9】
前記第1の工程では所定の最長時間が設けられ、調理開始から前記最長時間を経過すると、前記庫内温度が前記第1の設定温度に到達していなくても前記第2の工程に移行することを特徴とする請求項1または6に記載の加熱調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被調理物の分量、加熱時間、加熱温度などを入力せずに調理室内に入れられた被調理物を自動で加熱調理する加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の加熱調理器において、自動的にレンジ加熱調理を行なう加熱調理器として、調理室内の温度分布を検出する赤外線センサと、赤外線センサからの検出信号によりマグネトロンを制御する制御手段と、を備え、マグネトロンからのマイクロ波により被調理物を適切にレンジ加熱するものが知られている。しかしながらこの加熱調理器では、レンジ加熱調理に使用する被調理物の分量は、レシピに指定された分量を守る必要があり、指定通りの分量ではない場合は過加熱や加熱不足の虞があった。そこで、例えば特許文献1には、加熱室の後方上部に設けられて被加熱物の温度を検出する赤外線センサと、重量センサと、赤外線センサの検出結果に基づいて加熱手段を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、赤外線センサや重量センサの検出信号に基づき加熱手段の出力を調整するものが開示されている。
【0003】
また自動的にオーブン加熱調理を行なう加熱調理器として、例えば特許文献2には、循環風路を介して空気を吸い込み口から吸引し吹き出し口から吹き出して循環させる送風手段と、循環風路内の空気を加熱する加熱手段とを備え、吹き出し口から吹き出される循環熱風を拡散させることにより調理室内に置かれた被調理物の加熱を行なうものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-190682号公報
【特許文献2】特開2007-24365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の加熱調理器は、赤外線センサによる温度検出を利用しているため、例えば被調理物となる食材からの蒸気で赤外線が乱反射してしまい、この赤外線センサが食材を検知できないために当該食材の温度を正しく検出できず、過加熱や加熱不足になる虞があり、ユーザに不便さをもたらしていた。
【0006】
また特許文献2の加熱調理器は、例えばブロック肉などの厚みのある肉などの被調理物には対応しておらず、特許文献2の加熱調理器で厚みのある肉の自動オーブン加熱調理を行なうと、表面に焼き色が付く一方で内部が生焼けになる、といった状態になり、やはりユーザに不便さをもたらしていた。
【0007】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、調理室内に入れられた被調理物を自動で加熱調理を行ない、ユーザに不便さをもたらさない加熱調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の加熱調理器は、被調理物を収容する調理室と、前記被調理物を熱風コンベクション加熱する加熱手段と、前記加熱手段を制御する制御手段と、前記調理室の庫内温度を検出する庫内温度検出手段と、前記被調理物の種類を選択する選択手段と、を備え、前記庫内温度が第1の設定温度に到達するまでの第1の工程と、その後前記庫内温度を2の設定温度で安定させるようにする第2の工程と、を有し、前記第1の設定温度および前記第2の設定温度は、前記被調理物の種類に応じて設定され、前記第2の設定温度が前記第1の設定温度よりも低く、前記加熱手段は、空気を加熱する熱風ヒータと、前記調理室内に加熱した前記空気を送り込んで循環させる熱風ファンと、を有し、前記制御手段は、前記庫内温度が前記第1の設定温度に到達したと判断すると、前記熱風ヒータおよび前記熱風ファンを停止し、前記庫内温度が前記第2の設定温度まで低下したと判断すると、前記庫内温度が前記第2の設定温度で収束安定して飽和状態になるように前記熱風ヒータおよび前記熱風ファンの通断電を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、設定温度の異なる2つの工程を設け、第1の工程で最初に第1の設定温度に温度を上昇させて加熱した後、第2の設定温度に温度を下げて加熱することにより、被調理物がブロック肉などの厚みのある肉であっても、表面に焼き色をつけつつ、内側まで火を通すことができ、被調理物の分量、加熱時間、加熱温度などを入力せずに調理室内に入れられた被調理物を自動的にオーブン加熱調理できるため、ユーザに不便さをもたらさない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態を示すオーブンレンジの外観斜視図である。
【
図2】同上、扉を開けた時の正面前方から見た図である。
【
図4】同上、キャビネットやオーブン後板を外した状態の正面前方から見た図である。
【
図5】同上、側面から見たマイクロ波発生装置とその周辺の要部縦断面図である。
【
図7】同上、被調理物温度検出手段とその周辺の要部縦断面図である。
【
図8】同上、第1センサの検出素子を正面方向から見た図である。
【
図9】同上、第2センサの検出素子を正面方向から見た図である。
【
図10】同上、オーブンレンジの内部構造と、第1センサの視野を示す斜視図である。
【
図11】同上、オーブンレンジの内部構造と、第1センサの視野および移動方向を示す斜視図である。
【
図12】同上、オーブンレンジの内部構造と、第1センサおよび第2センサの視野を示す斜視図である。
【
図13】同上、主な電気的構成を示すブロック図である。
【
図14】本発明の第1の実施形態を示すオーブンレンジで、分量が多い被調理物および分量が少ない被調理物を自動レンジ加熱したときの各センサの温度計測結果をグラフで示した図である。
【
図15】同上、被調理物としての肉じゃがを自動レンジ加熱したときの各センサの温度計測結果をグラフで示した図である。
【
図16】同上、被調理物の種類と、その種類に対応する係数との関係を示す表である。
【
図17】本発明の第2の実施形態を示すオーブンレンジで、分量が多い肉および分量が少ない肉を熱風コンベクション加熱したときの調理室内の庫内温度と、熱風ヒータおよび熱風モータに入力する電圧との推移をあらわしたタイミングチャートである。
【
図18】同上、被調理物としての肉の種類と、その肉の種類に対応する工程温度および標準調理時間との関係を示す表である。
【
図19】同上、被調理物としての肉の種類と、その肉の種類に対応する調理時間との関係を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明における好ましい加熱調理器の実施形態について、添付図面を参照して説明する。なお、これらの全図面にわたり、共通する部分には共通する符号を付すものとする。
【実施例0012】
図1~
図13は、本発明の第1および第2の実施形態に共通して、加熱調理器をオーブンレンジに適用した構成を示している。先ず
図1~
図6に基いて、オーブンレンジの全体構成を説明すると、1は略矩形箱状に構成される本体で、この本体1は、製品となるオーブンレンジの外郭を覆う部材として、金属製のキャビネット2を備えている。また3は、本体1の前面に設けられる開閉自在な扉である。
【0013】
扉3の上部には、縦開きの扉3を開閉するときに手をかける開閉操作用のハンドル4を備えており、扉3の側部には、表示や報知や操作のための操作パネル部5を備えている。操作パネル部5は、調理の設定内容や進行状況などを表示する表示手段6の他に、加熱調理に関する各種の操作入力を可能にする、例えば操作パネル部5に設けられるキーや表示手段6の表面に設けられるタッチパネルなどの操作手段7が配設される。扉3の内部で操作パネル部5の後側には、図示しないが、表示手段6や操作手段7などの制御を行なうために、操作パネルPC(印刷回路)板が配置される。
【0014】
本体1の下部には、本体1の前面より着脱が可能な給水カセット8と水受け9が各々配設される。給水カセット8は、後述のミスト供給装置43から噴出するミストの供給源として、液体となる水を入れる有底状の容器である。また水受け9は、本体1からの食品カスや水滴、蒸気などを受ける有底状の容器である。
【0015】
本体1の左右側面と上面を形成するキャビネット2は、本体1ひいてはオーブンレンジの底面を形成するオーブン底板11を覆うように、本体1の前面を形成するオーブン前板12と、本体1の後面を形成するオーブン後板13との間に設けられる。また本体1には、加熱調理すべき被調理物Sを内部に収容する調理室14と、調理室14の温度を検出する温度検出素子たるサーミスタ15が設けられる。調理室14の前面はオーブン前板12に達していて、被調理物Sを出し入れするために開口しており、この開口を扉3で開閉する構成となっている。また庫内温度検知手段となるサーミスタ15は、調理室14内部において、扉3の近傍に配設される。
【0016】
調理室14の内面を形成する周壁は、天井壁14aと、底壁14bと、左側壁14cと、右側壁14dと、奥壁14eとからなる。調理室14の奥壁14eは、その中央に吸込み口16を備えており、吸込み口16の周囲には複数の吹出し口17を備えている。また、調理室14の上壁面となるドーム状の天井壁14aに対向して、本体1の上部には、調理室14の上方から被調理物Sを輻射加熱するグリル用の上ヒータ18が設けられ、本体1の底部には、調理室14内に電波であるマイクロ波を供給するために、マグネトロンを含むマイクロ波発生装置19が設けられる。これにより、上ヒータ18への通電に伴う熱放射によって、調理室14内に収容した被調理物Sを上方向からグリル加熱し、またマイクロ波発生装置19への通電動作により、調理室14内に収容した被調理物Sにマイクロ波を放射して、被調理物Sをレンジ加熱する構成となっている。
【0017】
調理室14の左側壁14cと右側壁14dには、調理室14の内部に金属製の角皿21を吊設状態で収納保持するために、左右一対の棚支え22を上下二段に備えている。ここで使用する角皿21は、上面を開口した有底凹状で、その他は無孔に形成される収容部21Aと、収容部21Aの上端より外側水平方向に延設されるフランジ部21Bとにより構成される。またフランジ部21Bには、角皿21を通して熱風の流通を可能にする通気孔21Cが開口形成される。
図2では、調理室14の内部で下段の棚支え22に角皿21のフランジ部21Bを載せて、収容部21Aに被調理物Sを載せた状態を示しているが、調理に応じて角皿21を上段の棚支え22にだけ載せたり、2枚の角皿21を上段と下段の棚支え22に各々載せたりしてもよく、角皿21に代えて、焼き網(図示せず)などの別な付属品を収容保持してもよい。また上述したマイクロ波発生装置19によるレンジ加熱では、調理室14の内部に角皿21や焼き網などを入れずに、調理室14の内部で被調理物Sをレンジ加熱の可能な容器(図示せず)に入れて加熱調理することができる。
【0018】
24は、本体1の内部において、調理室14の室外後方から下方にかけて具備されるオーブン加熱用の熱風ユニットである。この熱風ユニット24は、被調理物Sの加熱手段として、奥壁14eに取付けられる凸状のケーシング26と、空気を加熱する熱風ヒータ27と、調理室14内に加熱した空気を送り込んで循環させる熱風ファン28と、熱風ファン28を所定方向に回転させる電動の熱風モータ29と、熱風モータ29からの駆動力を熱風ファン28に伝達する伝達機構30と、により概ね構成される。奥壁14eとケーシング26との間の内部空間として、調理室14の室外後方に形成された加熱室31には、熱風ヒータ27と熱風ファン28がそれぞれ配設される一方で、本体1の内部に形成された調理室14とオーブン底板11との間の下部空間32には、熱風モータ29が配設される。そして、熱風ユニット24全体を後側外方から覆うように、本体1の後部にオーブン後板13が配設される。
【0019】
本実施形態の熱風ファン28は、軸方向に取り入れた空気を、回転時の遠心力によって、軸方向と直角な放射方向に吐き出すいわゆる遠心ファンとして設けられており、管状の熱風ヒータ27は熱風ファン28の放射方向を取り囲んで配置される。発熱部でもある熱風ヒータ27は、例えばシーズヒータ、マイカヒータ、石英管ヒータやハロゲンヒータなどを用いる。前述した吸込み口16や熱風吹出し口17は、調理室14と加熱室31との間を連通する通風部として機能するものである。
【0020】
そして本実施形態では、熱風モータ29への通電に伴い熱風ファン28が回転駆動すると、調理室14の内部から吸込み口16を通して吸引された空気が、熱風ファン28の放射方向に吹出して、通電した熱風ヒータ27により加熱され、熱風が吹出し口17を通過して、調理室14内に供給される。これにより、調理室14の内外で熱風を循環させる経路が形成され、調理室14内の被調理物Sを熱風コンベクション加熱する構成となっている。
【0021】
続いて、被調理物Sを加熱する加熱手段として、マイクロ波加熱手段としてのマイクロ波発生装置19と、その周辺の細部構造について説明する。調理室14の底壁14bは、金属板材34に形成された凹状のアンテナ収納部35の上面開口を、セラミック板などのマイクロ波が透過可能な底板36で覆うことで構成される。マイクロ波が透過不能な金属板材34は、底壁14bの周囲部のみならず、左側壁14cや、右側壁14dや、奥壁14eを一体的に形成するもので、底板36を除く調理室14の内面は、全てマイクロ波が透過不能な材料で形成される。
【0022】
マイクロ波発生装置19は、マイクロ波の供給源となるマグネトロン(図示せず)の他に、本体1内部の下部空間32において、マグネトロンで発振されたマイクロ波をアンテナ収納部35の直下に導く導波管37と、導波管37の下方に配設されるアンテナモータ38と、その下端部が導波管37の内部に配置され、アンテナモータ38の回転軸に取付け固定されるアンテナホルダ39と、アンテナホルダ39内に挿入固定される円柱状のケーブル軸40と、その中心にケーブル軸40の上端部が取付け固定され、アンテナ収納部35の内部で回動可能に設けられるアンテナ41と、により主に構成される。アンテナ収納部35の上面開口を底板36で塞いだ状態では、調理室14の底壁14bを形成する平板状の底板36に対向して、アンテナ41の全体が底板36と平行に配置される。
【0023】
調理室14内にミストを送り込むミスト供給装置43は、上述した給水カセット8の他に、供給される液体である水をミスト状にするノズル45と、給水カセット8とノズル45との間に連結する給水管46と、給水カセット8からの水をノズル45に導く給水ポンプ47と、ノズル45内に連通する複数のミスト噴出孔44と、を備えている。これによりミスト供給装置43の動作中には、給水カセット8からの水を給水ポンプ47でノズル45に送り込み、このノズル45で供給された水がミスト化され、ミスト噴出孔44から調理室14の内部に供給される。このとき、調理室14内の温度が大気圧でセ氏100℃(以下、温度の値は大気圧でセ氏での温度の値とする)より高い場合は、このミストが調理室14内で瞬時に気化して過熱水蒸気になることにより、調理室14内に入れられた被調理物Sを適度な水分子(過熱水蒸気)ですばやく、ムラなく加熱する構成となっている。
【0024】
図7は、被調理物温度検出手段とその周辺の要部を示している。同図に示されるように、調理室14と本体1との間には、窓53を含む隆起部材52の外方に臨んで、第1センサ55やセンサモータ56が配設され、窓54に臨んで第2センサ58が配設される。また、センサモータ56や第2センサ58は、本体1の内部に取付け固定される一方で、第1センサ55はセンサモータ56の回動自在な回転軸59に取付けられる。
【0025】
第1センサ45の駆動装置となるセンサモータ56は、ステッピングモータなどで構成され、本体1の内部で第1センサ55を前後方向に揺動させる回転軸59を備えている。第1センサ55は、回転軸59に取付け固定される中空状のセンサケース61と、センサケース61の内部に収納されるセンサ基板62と、センサ基板62の表面に搭載される複数個(例えば8個)の赤外線検出素子63と、この赤外線検出素子63に臨んでセンサケース61に取付け固定されるレンズ64と、を主な構成要素としている。
【0026】
本実施形態では
図7や
図8に示すように、調理室14の上下方向に沿って、複数個の赤外線検出素子63が一直線上に並べて配置されており、
図10や
図11に示すように、各赤外線検出素子63の視野V1が、調理室14の右側壁14dの上部中央から窓53を通して、略矩形状をなす底壁14bの左右方向に並ぶようにしている。また、本実施形態では
図11に示すように、後述する制御手段71(
図13を参照)からのモータ駆動信号を受けて、センサモータ56がその回転軸59を正方向と逆方向に所定角度だけ往復回動すると、第1センサ55が揺動するのに伴い、調理室14の底壁14bに達する複数個の赤外線検出素子63の視野V1が、各赤外線検出素子63を中心として移動方向X1に沿って扇状に繰り返しスイングするように、
図7の一点鎖線で示す複数個の赤外線検出素子63を結ぶ直線と、回転軸59の回転中心軸線とを略一致させている。なお、本体1内部への熱影響を低減するために、図示しない赤外線透過部材で窓53を塞いでもよい。
【0027】
一方、
図7や
図9に示すように、第2センサ58は、本体1の内部に取付け固定される中空状のセンサケース66と、センサケース66の内部に収納されるセンサ基板67と、センサ基板67の表面に搭載される1個の赤外線検出素子68と、この赤外線検出素子68に臨んでセンサケース66に取付け固定されるレンズ69と、を主な構成要素としている。そして
図12に示すように、赤外線検出素子68の視野V2が、右側壁14dの上下前後の中央から窓54を通して、常に底壁14bの前後左右の中心に達するように、第2センサ58が本体1の内部に取付け固定される。なお、本体1内部への熱影響を低減するために、図示しない赤外線透過部材で窓54を塞いでもよい。
【0028】
第1センサ55と第2センサ58は何れも赤外線センサで、本実施形態の被調理物温度検出手段65を構成する。ここでの被調理物温度検出手段65は、スイングする第1センサ55と、固定した第2センサ58とにより、調理室14内全体の温度分布を検出することで、そこに収容された被調理物Sが放射する赤外線の量から、被調理物Sの表面温度を短時間で検出するものである。
【0029】
図13は、本実施形態のオーブンレンジの主な電気的構成を図示したものである。同図において、71はマイクロコンピュータにより構成される制御手段であり、この制御手段71は周知のように、演算処理手段としてのCPUや、記憶手段としてのメモリや、計時手段としてのタイマや、入出力デバイスなどを備えている。
【0030】
制御手段71の入力ポートには、前述したキーやタッチパネルによる操作手段7や、被調理物温度検出手段65の他に、調理室14内の温度を検出するサーミスタ15を含んだ庫内温度検出手段72と、熱風ファン28の回転速度を検出する熱風モータ回転検出手段73と、扉3の開閉状態を検出する扉開閉検出手段74と、マイクロ波発生装置19を構成するアンテナの原点位置を検出するアンテナ位置検出手段75とが、それぞれ電気的に接続される。
【0031】
制御手段71の出力ポートには、前述した表示手段6の他に、マグネトロンやその駆動手段を含むマイクロ波加熱手段78と、グリル加熱用の上ヒータ18や、オーブン加熱用の熱風ヒータ27や、スチーム加熱用の蒸発用ヒータをそれぞれ通断電させるリレーなどのヒータ駆動手段79と、調理室14内にマイクロ波を放射するアンテナ41を回転駆動させるアンテナモータ38を動作させるためのアンテナ駆動手段80と、熱風モータ29を回転駆動させるための熱風モータ駆動手段81と、センサモータ56を正逆回転駆動させるためのセンサモータ駆動手段82と、ミスト供給装置43の給水ポンプ47を動作させるためのポンプ駆動手段83が、それぞれ電気的に接続される。
【0032】
制御手段71は、操作手段7からの操作信号と、被調理物温度検出手段41や、庫内温度検出手段72や、熱風モータ回転検出手段73や、扉開閉検出手段74や、アンテナ位置検出手段75からの各検出信号を受けて、計時手段からの計時に基づく所定のタイミングで、マイクロ波加熱手段78と、アンテナ駆動手段80と、ヒータ駆動手段79と、熱風モータ駆動手段81と、センサモータ駆動手段82と、ポンプ駆動手段83に駆動用の制御信号を出力し、また表示手段6に表示用の制御信号を出力する機能を有する。こうした機能は、記憶媒体としての前記メモリに記録したプログラムを、制御手段71が読み取ることで実現するが、特に本実施形態では、制御手段71を加熱調理制御部85と、表示制御部86として機能させるプログラムを備えている。
【0033】
加熱調理制御部95は、主に被調理物Sの加熱調理に係る各部の動作を制御するもので、操作手段7の操作に伴う操作信号を受け取ると、扉開閉検出手段74からの検出信号により、扉3が閉じていると判断した場合に、その操作信号に応じて、マイクロ波加熱手段78や、アンテナ駆動手段80や、ヒータ駆動手段79や、熱風モータ駆動手段81や、センサモータ駆動手段82や、ポンプ駆動手段83に制御信号を送出して、被調理物Sに対する種々の加熱調理を制御する。本実施形態では、加熱調理を実行するための被加熱物Sの材料および加熱条件を含む調理情報として、予め複数のメニューが前記メモリに記憶保持されており、加熱調理制御部95はその中から選択された一つのメニューについて、操作手段7から加熱調理を実行する操作が行われると、その選択されたメニューに従う所定の手順で、被調理物Sを自動的に加熱する自動調理機能を備えている。
【0034】
こうした自動調理機能の中で、本実施形態では、例えば被調理物Sを温めたり、解凍したりする自動レンジのメニューを選択した場合に、マイクロ波発生装置19からのマイクロ波を調理室14の内部に放射しながら、調理時間やレンジ出力などを操作手段7からの操作入力無しに自動的に設定して、マイクロ波発生装置19を設定時間に達するまで設定出力で駆動制御し、調理室14に入れられた被調理物Sをレンジ加熱する自動レンジ調理制御部88を、加熱調理制御部95の中の一機能として備えている。また同じく本実施形態では、被調理物Sとしての、例えばブロック肉や骨付き肉などの肉を加熱する自動オーブン調理のメニューを選択し、その後で肉の種類を選択した場合に、熱風ヒータ27で加熱された空気が熱風ファン28により調理室14の内部に供給されながら、調理時間や加熱温度などを操作手段7からの操作入力無しに自動的に設定して、熱風ヒータ27および熱風ファン28を設定時間に達するまで設定温度で駆動制御し、調理室14に入れられた被調理物Sとしての肉を熱風コンベクション加熱する自動オーブン調理制御部89を、加熱調理制御部85の中の一機能として備えている。
【0035】
表示報知制御部96は、加熱調理制御部95と連携して、表示手段6の表示に係る動作を制御するものである。表示報知制御部96の制御対象となる表示手段6は、液晶パネルや照明灯により構成されるが、それ以外の表示器を用いてもよい。
【0036】
次に
図14および
図15を参照しつつ、第1の実施形態において上記構成のオーブンレンジについて、その作用を詳しく説明する。予め調理室14内に被調理物Sを入れた状態で、ハンドル4を手で握りながら扉3を閉め、操作手段7により調理メニューを選択操作した後に、被調理物Sの加熱調理開始を指示すると、制御手段71のメモリに組み込まれた制御プログラムに従って、選択した調理メニューに対応して生成された制御信号が、制御手段71の出力ポートから所定のタイミングで出力され、被調理物Sが加熱調理される。
【0037】
ここで例えば、レンジ加熱の調理メニューを選択した場合、制御手段71の加熱調理制御部85は被調理物温度検出手段65や庫内温度検出手段72からの各検出信号を受けて、被調理物Sが設定した温度に加熱されるように、マイクロ波加熱手段78と、アンテナ駆動手段80と、センサモータ駆動手段82とに各々制御信号を送出する。これにより、マイクロ波発生装置19が通電動作してマイクロ波が供給放射され、アンテナモータ38に発生した回転力がアンテナ41に伝達されて回転駆動させ、調理室14内にマイクロ波が放射されて底壁14bに置かれた被加熱物Sがレンジ加熱される。
【0038】
このレンジ加熱調理時において、センサモータ56の回転軸59は、回転角度が0°の位置(
図10に示すように、8個の赤外線検出素子63の視野V1が、調理室14の底壁14bの前後方向の中央に一列に並ぶ状態のとき)から、時計回り方向(正方向)と反時計回り方向(逆方向)への回転を繰り返し行なう。その結果、本体1の内部で第1センサ55は揺動し、各赤外線検出素子63の視野V1は、
図11に示すような移動方向X1に沿って扇状に繰り返しスイングする。このときセンサモータ56の回転軸59は所定の角度で間欠的に回転しており、制御手段71は回転軸59を所定の角度で回転させる毎に、各赤外線検出素子63からの検出信号を取り込んで、調理室14内に置かれた被調理物Sの温度を監視する。こうして各赤外線検出素子63は、実質的に調理室14の底壁14bのほぼ全域から赤外線を受光して、調理室14内に入れられた被調理物Sの温度を検出することが可能になる。
【0039】
センサモータ56は、所定時間となる例えば5秒間を1周期として第1センサ55を揺動させ、その間に第1センサ55は、1つの赤外線検出素子63につき片道で64か所、往復で128か所の温度を検出する。つまり、8個の赤外線検出素子63を有する第1センサ55をスイングすることで、第1センサ55は1周期当り128×8=1024か所もの温度を測定でき、第1センサ55により広い調理室14の内部温度を広範囲に細かく隅々まで検出できる。
【0040】
これとは別に、本体1に固定した第2センサ58により、
図12に示すような赤外線検出素子68の視野V2に置かれた被調理物Sの温度を連続的に検出する。制御手段71は、少なくともセンサモータ56の回転軸59が所定の角度で回転する毎に、若しくはそれよりも短い時間間隔で、単独の赤外線検出素子68からの検出信号を取り込んで、調理室14内の中央部付近における被調理物Sの温度を監視する。
【0041】
こうして、8個の赤外線検出素子63を有する第1センサ55からの各検出信号により、調理室14内の温度を広範囲に細かく隅々まで検出すると共に、1個の赤外線検出素子68を有する第2センサ58からの検出信号により、調理室14内の中央部付近の温度を、連続的に検出することが可能になる。制御手段71はこれらの検出信号を受けて、被調理物Sに対して所望のレンジ加熱調理が行われるように、マイクロ波発生装置19の動作を制御する。また異常監視の機能として、被調理物Sの検出温度が通常の範囲を超えている場合は、機器に異常が発生したと判断して、マイクロ波発生装置19への通電を強制的に停止する。何れの場合も、第1センサ55と第2センサ58との併用で、被調理物Sの温度を瞬時に判断することで、結果的に加熱調理の制御や異常監視を正確に行なうことが可能になる。
【0042】
またオーブン加熱のメニューを選択した場合、加熱調理制御部85は庫内温度検出手段72からの検出信号を受けて、調理室14内が設定した温度に加熱されるように、ヒータ駆動手段79と熱風モータ駆動手段81とに各々制御信号を送出し、熱風ヒータ27および熱風モータ29の通断電を制御する。これにより、熱風モータ29に発生した回転力が熱風ファン28に伝達し、熱風ファン28が加熱室31の内部で回転して、その速度は熱風モータ回転検出手段73により加熱調理制御部85に取り込まれると共に、調理室14から吸込み口16を通して加熱室31に吸込んだ空気を、通電した熱風ヒータ27側に送り出し、それにより加熱された空気が吹出し口17を通して調理室14に熱風として供給することで、調理室14内の被調理物Sが熱風コンベクション加熱される。
【0043】
そしてグリル調理のメニューを選択した場合、加熱調理制御部85は庫内温度検出手段72からの検出信号を受けて、調理室14内が設定した温度に加熱されるように、ヒータ駆動手段79により上ヒータ18の通断電を制御し、調理室14内の被調理物Sが上方向からグリル加熱される。
【0044】
またミスト過熱水蒸気を使った蒸し料理(スチーム調理)のメニューを選択した場合、加熱調理制御部85は庫内温度検出手段72からの検出信号を受けて、調理室14内が設定した温度に加熱されるように、ヒータ駆動手段79により上ヒータ18の通断電を制御する。そして調理室14の庫内温度が設定した温度に達していると加熱調理制御部85が判断すると、ポンプ駆動手段83に制御信号を送出し、ミスト供給装置43に組み込まれた給水ポンプ47の動作を制御して、ミスト噴出孔44から調理室14の内部に水を噴出してミストを供給する。
【0045】
調理室14の内部にミストを供給すると、調理室14内の庫内温度が減少する。加熱調理制御部85は調理室14の庫内温度が設定した温度に達しているかどうかを庫内温度検出手段72からの検出信号により判断し、達していないと加熱調理制御部85が判断した場合、加熱調理制御部85は調理室14内が設定した温度に加熱されるように、ヒータ駆動手段79により上ヒータ18の通断電を制御する。そして調理室14の庫内温度が設定した温度に達していると加熱調理制御部85が判断した場合は、上述のように調理室14の内部に水を噴出してミストを再度供給する。これにより、ミストを瞬時に過熱水蒸気に気化させて、調理室14内の被調理物Sを適度な水分子(過熱水蒸気)で加熱する。
【0046】
次に第1の実施形態において上述したレンジ加熱の中で、特に自動レンジ調理制御部88による自動レンジの調理メニューについて、
図14~
図16を参照しつつ、その動作を詳しく説明する。
図14において、赤外線センサのグラフG
I1とG
I2、および温度センサのグラフG
T1とG
T2とを示しており、G
I1とG
T1は被調理物Sの分量が少ないときのグラフ、G
I2とG
T2は被調理物Sの分量が多いときのグラフである。特に本実施形態では、操作手段7を1回押す自動レンジの調理メニューで、被調理物Sのあたため不足やあたため過ぎが生じたり、食材や分量によってあたため具合が違ったりする潜在的なユーザの不満を解消するために、被調理物温度検出手段65を構成する2種類の赤外線センサである第1センサ55および第2センサ58と、庫内温度検出手段72を構成する温度センサ15とを併用している。
図15は肉じゃが3人分を自動レンジの調理メニューで加熱したときの各センサの温度計測結果であり、赤外線センサのグラフG
I3、および温度センサのグラフG
T3を示している。
【0047】
第1センサ55および第2センサ58は被調理物Sの表面温度を検知しており、上述したように第1センサ55はスイングして広範囲を検知し、第2センサ58はある一点を連続して検知している。しかし赤外線センサは、庫内温度が70℃付近になると被調理物Sから蒸気が発生しだすため、当該蒸気による乱反射で精度が落ちてしまうという特徴がある。その一方で、サーミスタ15は被調理物Sから発生する蒸気により調理室14の庫内温度を検知している。そのため、蒸気が発生するまでは温度の立ち上がりが遅いという特徴がある。したがって、1つだけのセンサで被調理物Sの食材の温度を判断すると、蒸気による乱反射や温度の立ち上がりが遅いなどの理由で食材の温度が正確に検出できない場合があり、過加熱や加熱不足により加熱調理の仕上がりが悪化する虞がある。しかしながら本実施形態では、これらのセンサ15,55,58を併用したトリプルセンサで、自動レンジ調理制御部88がマイクロ波発生装置19およびアンテナ駆動装置80の動作を制御することで、被調理物Sを自動であたためるレンジ加熱性能の大幅な改善を図っている。
【0048】
予め調理室14内に被調理物Sを入れた状態で、ハンドル4を手で握りながら扉3を閉め、操作手段7により被調理物Sをあたためる自動レンジの調理メニューを選択して、調理の開始を指示すると、自動レンジ調理制御部88は、調理室14に入れられた被加熱物Sのレンジ加熱中に、被調理物Sから蒸気が発生するまでは、被調理物温度検出手段65からの検出信号を取り込んで、そこから被調理物Sの温度を測定する一方で、被調理物Sから蒸気が発生したら、庫内温度検出手段72からの検出信号も取り込んで、そこから被調理物Sの温度となる食材温度を測定し、その測定した食材温度が常温よりも高い適切な設定温度に加熱され、被調理物S内の水分が沸騰するように、マイクロ波加熱手段78およびアンテナ駆動手段80を制御する。また自動レンジ調理制御部88は、制御手段71の計時手段としてのタイマの計時により、調理の開始からの時間を計測する。なお被加熱物Sのレンジ加熱において、被調理物Sの食材そのものよりも当該食材に添付された調味料に応じて、上述した食材温度がより上昇する傾向がある。
【0049】
被調理物Sが主に葉菜である場合は沸騰する前にあまり蒸気が発生せず、この被調理物Sから蒸気が発生して調理室14内に充満する前に被調理物S内の水分が沸騰する温度に達してしまう。そこで本実施形態では第1の沸騰検出として、こうしたレンジ加熱中に被調理物温度検出手段65から、被調理物Sの検出温度が赤外線センサの第1の閾値Th1以上になったという検出信号を受けると、自動レンジ調理制御部88は被調理物S内の水分が沸騰したと判断するように構成される。
【0050】
また被調理物Sが肉類、根菜、果菜など、主に葉菜以外である場合は沸騰する前から蒸気が発生し、被調理物S内の水分が沸騰する前に、この蒸気が調理室14内に充満してしまい、被調理物温度検出手段65の精度が低下してしまう。そのため
図14に示されるように、赤外線センサのグラフG
I1,G
I2は蒸気による乱反射のために100℃に到達せず、92℃付近で収束安定して飽和状態になる。また庫内温度が70℃付近になると被調理物Sから蒸気が発生しだすため、当該蒸気が多いと
図15に示されるように、赤外線センサのグラフG
I3は70℃付近で、所定期間内における被調理物温度検出手段65からの検出信号の変化量、すなわち赤外線センサのグラフG
I3の傾きが急激に緩やかになる。そこで本実施形態では第2の沸騰検出として、こうしたレンジ加熱中に庫内温度検出手段72から、被調理物Sの検出温度が温度センサの第1の閾値Th
2以上になったという検出信号を受けると、自動レンジ調理制御部88は被調理物S内の水分が沸騰したと判断するように構成される。
【0051】
ここで
図14の赤外線センサのグラフG
I1とG
I2、および温度センサのグラフG
T1とG
T2とを比較したとき、分量が多い方のグラフG
I2およびG
T2が、分量が少ない方のグラフG
I1およびG
T1よりも検出信号の変化量が小さく、すなわちグラフの傾きが緩やかであることが理解されよう。
図15に示されるように被調理物Sの分量が多い場合、実際には時間t
1の時点で被調理物Sが沸騰しているときでも、第1の沸騰検出の方法では自動レンジ調理制御部88がこの沸騰を検出できず、第2の沸騰検出の方法でも温度センサのグラフG
T3がT
1になる時間t
2になるまで、自動レンジ調理制御部88がこの沸騰を検出できないため、Δtだけ時間がかかってしまい、過加熱になる虞がある。
【0052】
そこで本実施形態では第3の沸騰検出として、こうしたレンジ加熱中に、被調理物温度検出手段65から被調理物Sの検出温度が赤外線センサの第1の閾値Th1より低く設定された赤外線センサの第2の閾値Th3上の点T2以上の温度であるという検出信号を受け、かつ庫内温度検出手段72から被調理物Sの検出温度が第1の閾値Th2より低く設定された温度センサの第2の閾値Th4上の点T3以上の温度であるという検出信号を受けると、自動レンジ調理制御部88は被調理物S内の水分が沸騰したと判断するように構成される。そのため被調理物Sの分量が多く、被調理物温度検出手段65からの検出信号および庫内温度検出手段72からの検出信号の両方とも、赤外線センサおよび温度センサの第1の閾値Th1およびTh2に到達していなくても、これらの検出信号が所定の値である赤外線センサおよび温度センサの第2の閾値Th3およびTh4に両方到達している時間t1に、自動レンジ調理制御部88は被調理物S内の水分が沸騰したと判断することができ、被調理物Sの過加熱を防止することができる。なお被調理物Sの調理開始から所定時間を経過した後に第3の沸騰検出で被調理物Sの沸騰を検出できるように、自動レンジ調理制御部88を構成してもよい。
【0053】
なお本実施形態では、被調理物Sの食材から蒸気が発生すると、赤外線センサのグラフGI1,GI2,GI3の傾きが緩やかになる一方で、温度センサのグラフGT1,GT2,GT3の傾きが急になる。この現象を沸騰検出に利用して、上述された閾値Th1~Th4の代わりに、所定期間内における被調理物温度検出手段65からの検出信号の変化量、すなわち赤外線センサのグラフGI1,GI2,GI3の傾き、および所定期間内における庫内温度検出手段72からの検出信号の変化量、すなわち温度センサのグラフGT1,GT2,GT3の傾きを第1~第4の閾値Th1~Th4として設定し、これらの閾値Th1~Th4よりも傾きが急になったときに、自動レンジ調理制御部88は第1~第3の沸騰検知で上述された閾値Th1~Th4以上の温度になったのと同様の判断をし、被調理物S内の水分が沸騰したと判断する構成としてもよい。また第1の閾値Th1が検出信号の変化量に対して設定され、第2~第4の閾値Th2~Th4が所定温度に対して設定されてもよく、閾値の設定は限定されない。
【0054】
自動レンジ調理制御部88は被調理物Sが沸騰したと判断すると、タイマの計時により測定された被調理物Sが沸騰するまでに経過した時間、すなわち調理開始から設定された閾値Th
1か、Th
2か、Th
3およびTh
4に到達して沸騰と判断されるまでの時間である所定時間tを算出し、この所定時間tを基に、沸騰してからのレンジ加熱の継続時間である残時間を確定する。
図15を参照しつつ具体的に説明すると、自動レンジ調理制御部88が第1の沸騰検出で被調理物Sの沸騰を判断した場合、自動レンジ調理制御部88は被調理物Sを、例えば野菜炒め、ほうれん草のベーコンソテー、小松菜の煮浸しなどの葉菜であると判断し、葉菜は煮込む必要がないため、所定時間tに係数0.2~0.3を掛けた値0.2t~0.3tを残時間として確定する。
【0055】
上述したように被調理物Sの食材から蒸気が発生すると、当該蒸気による乱反射で第1センサ55および第2センサ58の精度が落ちてしまい、赤外線センサのグラフGI1,GI2,GI3の傾きが緩やかになる。その一方で、サーミスタ15はこの蒸気により庫内温度を検知するため、被調理物Sの食材から蒸気が発生すると温度センサのグラフGT1,GT2,GT3の傾きが急になる。そこで、自動レンジ調理制御部88が第2の沸騰検出または第3の沸騰検出で被調理物Sの沸騰を判断した場合、自動レンジ調理制御部88は、所定時間t、所定期間内における被調理物温度検出手段65からの検出信号の変化量、すなわち赤外線センサのグラフGI1,GI2,GI3の傾き、および所定期間内における庫内温度検出手段72からの検出信号の変化量、すなわち温度センサのグラフGT1,GT2,GT3の傾きから被調理物Sが肉類か根菜果菜かを判断する。
【0056】
ここで自動レンジ調理制御部88が、被調理物Sを、例えばじゃがいもとベーコンのバターソテー、かぼちゃの煮物、なすの煮物、きんぴらごぼうなどの根菜果菜であると判断した場合、根菜果菜はある程度、茹でる、煮込むなどの工程が必要であるため、自動レンジ調理制御部88は所定時間tに係数0.5~0.7を掛けた値0.5t~0.7tを残時間として確定する。
【0057】
また自動レンジ調理制御部88が被調理物Sを、例えば酢豚、肉じゃが、豚肉とベーコンの炒め物などの肉類であると判断した場合、肉類はじっくり煮込む必要があるため、自動レンジ調理制御部88は所定時間tに係数1.0を掛けた値tを残時間として確定する。
【0058】
自動レンジ調理制御部88は、残時間を確定した後、この残時間を表示手段6に表示するように表示制御部86を制御する。自動レンジ調理制御部88は、タイマの計時によりこの表示された残時間が時間経過と共に減少していき、自動レンジ調理の終了時に0秒になるように表示制御部86を制御している。そのため残時間の確定以降は、ユーザが表示手段6により自動レンジ調理が終了するまでの残時間を確認することができる。
【0059】
また自動レンジ調理制御部88は、表示手段7に表示された残時間が0になるまで、被調理物温度検出手段65および庫内温度検出手段72からの検出信号を取り込んで、そこから被調理物Sの温度となる食材温度を測定し、その測定した食材温度の設定温度へのレンジ加熱が継続されるように、マイクロ波加熱手段78およびアンテナ駆動手段80を制御する。そして自動レンジ調理制御部88は、表示手段7に表示された残時間が0になったと判断すると、レンジ加熱を停止するようにマイクロ波加熱手段78およびアンテナ駆動手段80を制御する。
【0060】
以上のように、本実施形態の加熱調理器としてのオーブンレンジは、被調理物Sを収容する調理室14と、被調理物Sをレンジ加熱するマイクロ波加熱手段78と、マイクロ波加熱手段78を制御する制御手段としての自動レンジ調理制御部88と、被調理物Sの表面温度を検出する被調理物温度検出手段65と、調理室14の庫内温度を検出する庫内温度検出手段72と、を備え、自動レンジ調理制御部88は、被調理物温度検出手段65の検出温度の第1の閾値としての赤外線センサの第1の閾値Th1と、庫内温度検出手段72の検出温度の第2の閾値としての温度センサの第1の閾値Th2とをそれぞれ設定し、自動レンジ調理制御部88は、2つの前記検出温度のどちらか一方が対応する赤外線センサまたは温度センサの第1の閾値Th1またはTh2に到達したと判断すると、該判断からのレンジ加熱の継続時間であるレンジ加熱の残時間を確定するように構成される。
【0061】
このように構成することにより、センサが食材の温度を正確に検出できないということを抑制して、過加熱や加熱不足により加熱調理の仕上がりが悪化することを防止することができ、被調理物Sの分量、加熱時間、加熱温度などを入力せずに調理室14内に入れられた被調理物Sを自動的にレンジ加熱調理できるため、ユーザに不便さをもたらさない。
【0062】
また本実施形態の自動レンジ調理制御部88は、第1の閾値Th1より低く設定された被調理物温度検出手段65の検出温度の第3の閾値としての赤外線センサの第2の閾値Th3と、第1の閾値Th2より低く設定された庫内温度検出手段72の検出温度の第4の閾値としての温度センサの第2の閾値Th4とを設定し、自動レンジ調理制御部88は、被調理物温度検出手段65の検出温度が赤外線センサの第2の閾値Th3に到達し、かつ庫内温度検出手段72の検出温度が温度センサの第2の閾値Th4に到達したと判断すると、該判断からの残時間を確定するように構成される。
【0063】
このように構成することにより、被調理物Sの分量が多く、被調理物温度検出手段65からの検出信号および庫内温度検出手段72からの検出信号の両方とも、赤外線センサまたは温度センサの第1の閾値Th1およびTh2に到達していなくても、これらの検出信号が所定の値である赤外線センサの第2の閾値Th3に到達し、かつ所定の値である温度センサの第2の閾値Th4に到達している場合に被調理物Sが沸騰したと判断することができ、被調理物Sの過加熱を防止することができる。
【0064】
また本実施形態のオーブンレンジは、第1~第4の閾値Th1~Th4の少なくとも1つが被調理物温度検出手段65または庫内温度検出手段72の検出温度の単位時間当たりの温度差に設定される値、例えば赤外線センサのグラフGI1,GI2,GI3の傾きや温度センサのグラフGT1,GT2,GT3の傾きであってもよく、この場合、自動レンジ調理制御部88は、これらの検出温度の単位時間当たりの温度差により被調理物S内の水分が沸騰したと判断するように構成される。
【0065】
このように構成することにより、被調理物Sの食材から蒸気が発生すると、赤外線センサのグラフGI1,GI2,GI3の傾きが緩やかになり、温度センサのグラフGT1,GT2,GT3の傾きが急になることを利用して、自動レンジ調理制御部88が沸騰検出を行なうことができる。
【0066】
また本実施形態のオーブンレンジは、レンジ加熱の開始から、被調理物温度検出手段65または庫内温度検出手段72からの検出温度の閾値Th1か、Th2か、Th3およびTh4に到達して被調理物Sの水分が沸騰したと自動レンジ調理制御部88が判断するまでの時間tに、肉類、根菜果菜、葉菜など被調理物Sの種類に応じて係数を掛けることにより、残時間を算出して確定している。そのため、被調理物Sの水分の沸騰後に茹でる、煮込むなどの工程が必要である場合に、この工程時間である残時間を、沸騰するまでの時間tを基にして算出することができる。
【0067】
なお本実施形態のオーブンレンジでは、さらに湿度センサを備えてもよく、沸騰検出のときに庫内温度検出手段72の代わりに当該湿度センサを使用してもよい。この場合、自動レンジ調理制御部88は湿度の閾値を設定し、レンジ加熱中に湿度センサから、被調理物Sの食材から発生した蒸気による湿度が当該湿度の閾値以上になったという検出信号を受けると、被調理物S内の水分が沸騰したと判断するように構成される。
その後で調理の開始を指示すると第1の工程に移行し、自動オーブン調理制御部89は、庫内温度検出手段72からの検出信号を取り込んで調理室14の庫内温度を測定し、この庫内温度が第1の設定温度T11である200℃に達するまで熱風ヒータ27で加熱された空気が熱風ファン28により調理室14の内部に供給され、調理室14内の被調理物Sが熱風コンベクション加熱されるように、ヒータ駆動手段79および熱風モータ駆動手段81を制御する。
そして自動オーブン調理制御部89は、表示手段7に表示された残時間が0になったと判断すると、熱風コンベクション加熱を停止するように、ヒータ駆動手段79および熱風モータ駆動手段81を制御する。
また本実施形態では、第1の工程および第2の工程の2つの工程を設けているが、3つ以上の工程を設けてもよい。この場合、後の工程に行くに従い設定温度が低く設定されてもよく、ブロック肉など厚みのある肉であっても、表面の焼き色をつけつつ、より内部まで火を通すことができる。
以上のように、本実施形態の加熱調理器としてのオーブンレンジは、被調理物Sとしての肉を収容する調理室14と、肉を熱風コンベクション加熱する加熱手段としてのヒータ駆動手段79および熱風モータ駆動手段81と、ヒータ駆動手段79および熱風モータ駆動手段81を制御する制御手段としての自動オーブン調理制御部89と、調理室14の庫内温度を検出する庫内温度検出手段72と、肉の種類を選択する選択手段としての操作手段7と、を備え、最初の工程であり、庫内温度が第1の設定温度T11である第1の工程と、当該第1の工程後の工程であり、庫内温度が第2の設定温度T12である第2の工程と、を有し、第1の設定温度T11および第2の設定温度T12は、例えば鶏肉、豚肉、牛肉やブロック肉、骨つき肉という肉の種類に応じて設定され、第2の設定温度T12が第1の設定温度T11よりも低く構成されている。
また本実施形態のオーブンレンジは、調理の設定内容や進行状況などを表示する表示手段6をさらに備え、自動オーブン調理制御部89は、熱風コンベクション加熱としての自動オーブン調理が終了するまでの残時間を算出して表示手段6に当該残時間を表示するように構成され、この残時間は、肉の種類や肉の分量により、異なる値になる。そのため、ユーザが表示手段6により自動オーブン調理が終了するまでの残時間を確認することができる。
また本実施形態の自動オーブン調理制御部89は、第2の工程の開始時から残時間を表示するように構成される。そのため、ユーザが表示手段6により第2の工程が開始したことを確認することができる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更可能である。例えば、第1の実施形態のオーブンレンジと第2の実施形態のオーブンレンジとを個別に説明しているが、第1の実施形態と第2の実施形態の両方の構成を備えてもよい。また本実施形態の各部の構成や形状は、図示したものに限定されず、適宜変更が可能である。