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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101545
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】リン酸塩光学ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/16 20060101AFI20240722BHJP
   C03C 3/062 20060101ALI20240722BHJP
   C03B 5/225 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C03C3/16
C03C3/062
C03B5/225
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023213388
(22)【出願日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2023005224
(32)【優先日】2023-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 菜那
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA04
4G062BB01
4G062BB09
4G062DA01
4G062DA02
4G062DA03
4G062DB01
4G062DC02
4G062DD04
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA01
4G062EB03
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4G062ED01
4G062EE01
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4G062EG03
4G062FA01
4G062FB04
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4G062FG05
4G062FH01
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4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA02
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH08
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ04
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062NN02
4G062NN29
4G062NN34
(57)【要約】
【課題】
リン酸塩光学ガラスにおいて熱処理前のガラスの還元色を低減することで生産性を向上させ、ひいては優れた透過率を有する高屈折率の光学ガラスを得ることができるリン酸塩光学ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】TiO、Nb、WOおよびBiからなる群より選択される少なくとも1種の高屈折率成分を含むガラス原料を、表面が貴金属元素から構成された熔融槽内で加熱して、前記ガラス原料を熔融ガラスにする熔融工程と、前記熔融ガラスを清澄する清澄工程と、前記清澄した熔融ガラスを攪拌する均質化工程と、前記均質化した熔融ガラスを流出させて成形する成形工程とを含み、前記清澄工程、前記均質化工程、および前記成形工程のうち少なくとも一つの工程において、酸化性ガス雰囲気下で前記熔融ガラスの表面に酸化性ガスを接触させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiO、Nb、WOおよびBiからなる群より選択される少なくとも1種の高屈折率成分を含むガラス原料を、表面が貴金属元素から構成された熔融槽内で加熱して、前記ガラス原料を熔融ガラスにする、熔融工程と、
前記熔融ガラスを清澄する、清澄工程と、
前記清澄した熔融ガラスを攪拌する、均質化工程と、
前記均質化した熔融ガラスを流出させて成形する、成形工程と、
を含み、
前記清澄工程、前記均質化工程、および前記成形工程のうち少なくとも一つの工程において、酸化性ガス雰囲気下、前記熔融ガラスの表面に酸化性ガスを接触させる、ことを特徴とする、リン酸塩光学ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記貴金属元素が白金である、請求項1に記載のリン酸塩光学ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記熔融工程、清澄工程および均質化工程を、連続したそれぞれ異なる熔融槽内で実施する、請求項1に記載のリン酸塩光学ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記清澄工程および前記均質化工程において、各熔融槽内を酸化性ガス雰囲気とし熔融ガラスの表面に酸素を接触させる、請求項3に記載のリン酸塩光学ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記酸化性ガスの接触が、酸化性ガスのフロー状態で実施される、請求項1に記載のリン酸塩光学ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸塩光学ガラスの製造方法に関し、より詳細には、熱処理前のガラスの還元色を低減できるリン酸塩光学ガラスの製造方法に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
光学機器等の高性能化や高機能化に伴い、これら光学機器に使用される光学レンズに対する要求も益々高まっており、具体的にはガラス内部の均質性が高く、透過率が極めて高く、かつ屈折率やアッベ数といった光学特性を満足する光学ガラスが求められている。
【0003】
高屈折率の光学ガラスは、通常、ガラス成分としてTiO、Nb、WO、Bi等の高屈折率成分を多量に含有している。これらの成分は、ガラスの熔融過程で還元されやすく、還元されたこれらの成分によりガラスが着色するといった問題がある。そのため、光学ガラスにおいて還元色を低減するための種々の技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、熔融したガラスに酸化性ガスをバブリングさせることで高屈折率成分の還元を抑制し、熔融工程でガラスの着色を低減することが提案されている。しかしながら、このような技術を用いてリン酸塩光学ガラスを製造すると、熔融槽を構成する貴金属材料が、熔融ガラス中に溶け込む問題が顕著となる。すなわち、光学ガラスのように透過性や均質性が極めて高いガラスを製造する際には、ガラス原料を熔融するために、容器表面が白金等の貴金属材料からなる熔融槽が使用されているところ、貴金属が酸素と反応してPtO等の貴金属酸化物を生じることがある。このような貴金属酸化物が熔融ガラスに溶け込むと、透過率の低下やフシの発生といったガラスの品質の低下を招き、さらには熔融槽の劣化を早めてしまう。また、高屈折率成分を多量に含むガラスを熔融する際には、酸化性ガスのバブリングにより貴金属材料が酸化されてPt4+等の貴金属イオンとして熔融ガラス中に溶け込み、この貴金属イオンも着色の原因となる。
【0005】
上記した問題に対して、酸化性ガスのバブリングに代えて、熔融するとNO等の酸化性ガスを放出させ得る成分(例えば硝酸ビスマス等)をガラス原料に使用するといった試みもなされている(例えば、特許文献2)。しかしながら、この技術は、ビスマスを主成分として含有する光学ガラスには好適であるものの、リン酸塩光学ガラスに適用した場合に、Bi成分の含有量が高くなりすぎると、透過率が悪化する傾向がある。
【0006】
得られたガラスを熱処理して還元された高屈折率成分を酸化することで還元色を低減できることも知られている。しかしながら、一般的に、ホウ酸ビスマス光学ガラスに比べてガラス転移温度が高いリン酸塩光学ガラスでは、熱処理温度を高くしたり熱処理時間を長くする必要があるため、生産性や経済性の観点から実用的でない。そのため、例えば特許文献3には、リン酸塩光学ガラスの原料組成においいてTiO成分とNb成分との割合を調整することでガラス転移温度を下げて、熱処理温度を低くし熱処理時間を短くできることが提案されている。しかしながら、引用文献3に記載された発明は、熱処理後に透過率が良好なガラスが得られるに留まり、熱処理前のガラスの透過率については検討されていない。また、熱処理を行う前に、フシや脈理等を有する品質の悪いガラスを予め確認することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-12852号公報
【特許文献2】特開2011-42556号公報
【特許文献3】特開2022-28819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、リン酸塩光学ガラスにおいて熱処理前のガラスの還元色を低減することで生産性を向上させ、ひいては優れた透過率を有する高屈折率の光学ガラスを得ることができるリン酸塩光学ガラスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、リン酸塩光学ガラスの製造工程において、ガラス原料を熔融した後に続く清澄、均質化および成形のいずれか一つ以上の工程において、熔融したガラスの表面に酸化性ガスを接触させることで、熱処理前のガラスの還元色が低減できるとの知見を得た。本発明は係る知見によるものである。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
[1] TiO、Nb、WOおよびBiからなる群より選択される少なくとも1種の高屈折率成分を含むガラス原料を、表面が貴金属元素から構成された熔融槽内で加熱して、前記ガラス原料を熔融ガラスにする、熔融工程と、
前記熔融ガラスを清澄する、清澄工程と、
前記清澄した熔融ガラスを攪拌する、均質化工程と、
前記均質化した熔融ガラスを流出させて成形する、成形工程と、
を含み、
前記清澄工程、前記均質化工程、および前記成形工程のうち少なくとも一つの工程において、酸化性ガス雰囲気下、前記熔融ガラスの表面に酸化性ガスを接触させる、ことを特徴とする、リン酸塩光学ガラスの製造方法。
[2] 前記貴金属元素が白金である、[1]に記載のリン酸塩光学ガラスの製造方法。
[3] 前記熔融工程、清澄工程および均質化工程を、連続したそれぞれ異なる熔融槽内で実施する、[1]に記載のリン酸塩光学ガラスの製造方法。
[4] 前記清澄工程および前記均質化工程において、各熔融槽内を酸化性ガス雰囲気とし熔融ガラスの表面に酸素を接触させる、[3]に記載のリン酸塩光学ガラスの製造方法。
[5] 前記酸化性ガスの接触が、酸化性ガスのフロー状態で実施される、[1]に記載のリン酸塩光学ガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ガラス原料の清澄、均質化および成形のいずれか一つ以上の工程において、熔融したガラスの表面に酸化性ガスを接触させることにより、リン酸塩光学ガラスにおいても熱処理前のガラスの還元色を大幅に低減し、ひいては優れた透過率を有する高屈折率の光学ガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の製造方法に使用する装置の一実施形態の概略断面図である。
図2】本発明の製造方法に使用する装置の別の実施形態の概略断面図である。
図3】本発明の製造方法に使用する装置の別の実施形態の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[定義]
本明細書において、「リン酸塩光学ガラス」とは、ガラス成分としてPを含有する光学ガラスをいうものとする。P成分は、原料として、例えば、Al(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いることで、得られる光学ガラスに含有させることができる。
【0014】
また、本明細書中において、リン酸塩光学ガラスを構成する各成分の含有量は、特に断りがない場合、全て酸化物換算組成の全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」は、ガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量数を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0015】
[リン酸塩光学ガラスの製造方法]
本発明によるリン酸塩光学ガラスの製造方法は、熔融工程と清澄工程と均質化工程と成形工程とを含み、清澄工程、均質化工程、および成形工程のうち少なくとも一つの工程において、酸化性ガス雰囲気下、熔融ガラスの表面に酸化性ガスを接触させることを特徴とするものである。従来のように、熔融したガラス中に酸素ガスをバブリングすると、熔融槽の表面を構成する貴金属元素(例えば白金)も酸素と反応してしまい、貴金属酸化物が熔融ガラスに溶け込み、透過率の低下やフシの発生といったガラスの品質の低下を招く。本発明においては、清澄工程、均質化工程、および成形工程のうち少なくとも一つの工程において、酸化性ガス雰囲気下、熔融したガラスの表面に酸化性ガスを接触させることで、熱処理前の還元色を低減できるとともに、上記したような熔融槽の劣化を抑制することができる。以下、本発明のリン酸塩光学ガラスの製造方法の各工程について詳述する。
【0016】
[ガラス原料の熔融工程]
ガラス原料としては、所望の特性の光学ガラスが得られるように、ガラス成分に対応する原材料を秤量し、十分混合して得られた調合原料(バッチ原料)や、調合カレットを用いることができる。
【0017】
ガラス原料としてカレットを使用する場合には、バッチ原料を粗熔解してカレット化するカレット化工程(ラフメルト工程)が、熔解工程(リメルト工程)の前に実施される。また、カレットは、好ましくは事前に屈折率を測定しておき、所望の屈折率値となるように各カレットを混合して、調合カレットしてもよい。
【0018】
ガラス原料を加熱して熔融するための熔融槽としては、石英製などの耐火物製の容器や器具を使用してもよく、また熔融槽の内壁(熔融ガラスが接触する面)が貴金属元素から構成されているものを使用してもよい。熔融槽の形状は特に限定されるものではないが、例えば上方が開口した容器であり、槽内壁面が、白金・ロジウム、白金・金などの白金含有合金や、ロジウム、金、イリジウム、パラジウムなどの貴金属から構成されたものを好適に使用することができる。
【0019】
熔融槽は、高周波誘導などの加熱手段を備え、その加熱によりガラス原料を熔融する。加熱手段は、熔融ガラスの温度をほぼ一定に保つように加熱を行うことが好ましい。これにより、熔融とガラス化が、複数回に分かれることで進められ易くなり、ガラス原料や熔融ガラスからの気泡の発生速度が低減されるため、ガラス原料や熔融ガラスの均熱性が向上し、より均一な組成および特性を有する光学ガラスを得ることができる。
【0020】
熔融工程でガラス原料を熔融する温度は、ガラス原料を熔融でき、かつ冷却後にガラス化できる温度の中から適宜選択される。より具体的には、熔融温度の下限は、950℃以上が好ましく、980℃以上がより好ましく、1000℃以上が最も好ましい。また、熔融温度の上限は、1300℃未満が好ましく、1250℃未満がより好ましく、1200℃未満が最も好ましい。このような熔融温度範囲とすることにより、ガラス原料の溶け残りを防止することができる。なお、本願明細書における「熔融温度」とは、熔融槽の上部におけるガラス原料の温度と、熔融槽の下部におけるガラス原料の温度との平均値をいうものとする。
【0021】
熔融時間は、ガラスの溶け残りがなくなる程度の時間であれば特に制限されるものではなく、ガラス原料の量や熔融温度により適宜調整することができる。
【0022】
なお、ガラス原料を連続して熔融槽に投入する連続熔融であってよいし、1回ごとにガラス原料を熔融するバッチ熔融であってもよい。連続熔融を行う場合は、連続熔融槽とすることが好ましい。連続熔融槽については後述する。
【0023】
[清澄工程]
次に、熔融したガラスを清澄する。清澄工程は、熔融工程を経たガラス中に含まれている溶存ガス化成分や泡を除去する脱気脱泡するとともに、ガラス化をより進行させる工程である。清澄工程を実施することで、ガラスの失透を低減できる。
【0024】
清澄する温度は、ガラス化を進めることが可能な温度の中から適宜選択されるが、熔融温度より高い温度であることが好ましい。より具体的には、清澄温度の下限値は、1000℃以上が好ましく、1030℃以上がより好ましく、1050℃以上が最も好ましい。また、清澄温度の上限値は、1400℃未満が好ましく、1380℃未満がより好ましく、1350℃未満が最も好ましい。このような清澄温度範囲とすることにより、熔融したガラスの熔融粘度を低減して溶存ガス化成分や泡を除去しやすくなる。
【0025】
連続熔融槽を用いて清澄工程を実施する場合は、熔融槽とは別の清澄槽を使用することになるが、清澄槽の形状は特に限定されるものではなく、例えば上方が開口した容器であり、槽内壁面が、白金・ロジウム、白金・金などの白金含有合金や、ロジウム、金、イリジウム、パラジウムなどの貴金属から構成されたものを好適に使用することができる。
【0026】
清澄時間は、溶存ガス化成分や泡の除去効果が得られる範囲で短くし、ガラスの着色を抑制することが好ましい。
【0027】
[均質化工程]
続いて、清澄された熔融ガラスを攪拌して均質化する。均質化工程は熔融ガラスを均質化して成形したガラスの脈理等を低減するとともに、熔融ガラスを成形に適した粘度になるよう粘度を調整する工程でもある。
【0028】
撹拌は、回転軸の先端に撹拌翼を備えた撹拌機によって実施してもよい。その場合、熔融槽(連続熔融槽を用いる場合は、均質化槽)の底面に沿って撹拌翼が回転するように、撹拌装置を配置することが好ましい。これにより、撹拌槽から熔融ガラスを排出させる際にも、撹拌槽が空になる直前まで熔融ガラスを撹拌することができ、流出工程の開始時から終了時まで、気泡の形成を低減できる。撹拌翼や回転軸のように熔融ガラスと接触する部分の材質は、熔融ガラスとの反応性が低く、且つ撹拌工程の温度に耐え得る材質の中から適宜選択される。より具体的には、上記した貴金属を好適に使用することができる。
【0029】
均質化工程を実施する温度(撹拌温度)は、清澄温度以下の温度であることが好ましい。より具体的には、撹拌温度の上限値は、1250℃未満が好ましく、1200℃未満がより好ましく、1150℃未満が最も好ましい。また、撹拌温度の下限値は、950℃以上が好ましく、980℃以上がより好ましく、1000℃以上が最も好ましい。このような温度範囲であれば、気泡の除去や熔融ガラスの均一な状態にできる。
【0030】
均質化工程を実施する時間は、清澄された熔融ガラスを均質化でき、適した粘度になるよう調整できる範囲であれば、特に制限されない。
【0031】
[成形工程]
次に、均質化工程を経た熔融ガラスを熔融槽から流出し成形する。例えば、熔融槽の下部から延出した流出管を設けておき、流出管を介して熔融したガラスを流出させる。
【0032】
流出温度は、清澄温度および撹拌温度よりも低い温度であることが好ましい。より具体的には、流出工程における流出温度は、1250℃未満が好ましく、1200℃未満がより好ましく、1150℃未満が最も好ましい。また、撹拌温度の下限値は、950℃以上が好ましく、980℃以上がより好ましく、1000℃以上が最も好ましい。流出温度を上記の範囲とすることで、熔融ガラスの流動性を一定に保つことができる。なお、ここでの流出温度とは、熔融槽の温度ではなく、流出管を流れる熔融ガラスの温度を意味するものとする。
【0033】
熔融槽から流出した熔融ガラスは所定の形状に成形される。成形工程は、熔融ガラスを所定の形状に成形できるのであれば公知の成形方法を適宜利用できる。例えば、熔融ガラスを、鋳型に流し込んでブロック状としてもよく、流出管から流下させた熔融ガラス流を、一定の長さ(一定の量)ごとに切断してガラス塊としてもよい。また、後工程において、より精度の高い形状加工を行う場合は、成形工程を経て得られる個々のガラスの形状は均一でなくてもよい。
【0034】
[酸化性ガスとの接触工程]
本発明においては、上記した清澄工程、均質化工程、および成形工程のうち少なくとも一つの工程において、酸化性ガス雰囲気下、熔融したガラスの表面に酸化性ガスを接触させる。酸化性ガスをバブリング等することなく、熔融したガラスの表面に酸化性ガスを接触させることで、熱処理前の還元色を低減できるとともに、熔融槽の劣化を抑制することができる。
【0035】
酸化性ガスとしては、特に限定されないが、例えば、酸素、ハロゲン化酸素などを用いることができる。
【0036】
熔融槽内を酸化性ガス雰囲気とするには、清澄工程および均質化工程においては、熔融槽の上部開口から酸化性ガスを吹き付ける等などして、熔融したガラスの表面に酸化性ガスを接触させることができる。また、成形工程においては、流出管を介して熔融したガラスを流出させて成形する際に、酸化性ガスを成形物の表面に吹き付けるなどして行われることが好ましい。周囲雰囲気(空気)でも熔融したガラスと接していることである程度は還元色の低減には寄与するものの十分とは言えない。本発明においては、酸化性ガスを吹き付ける等などして、熔融したガラスの表面上を酸化性ガス雰囲気にして酸化性ガスを接触させることで、熱処理前の還元色を低減できる。この場合の酸化性ガスの流量は、熔融槽の容積によって適宜変更することができる。なお、熔融槽を略密閉状態としておくことで、還元色の低減効果を向上させることができる。また、熔融槽の上部開口から熔融ガラスに酸化性ガスを吹き付ける場合、その吹きつけ位置が熔融ガラスの表面に近いほど、熱処理前の還元色低減効果が高くなる。
【0037】
酸化性ガスとの接触は、熔融槽で熔融したガラスが貯留される間、連続して行ってもよいし、断続的に行ってもよい。
【0038】
熔融したガラスの表面に酸化性ガスを接触させる一実施形態として、熔融したガラスの表面に酸化性ガスの吹き付けを行うことが好ましい。その場合、酸化性ガスの吹き付け位置は、ガラス表面を酸化性ガス雰囲気とするために熔融したガラス表面に近い方が好ましく、例えば、熔融ガラス表面の上部200mm以下、150mm以下、100mm以下、90mm以下、80mm以下、70mm以下、60mm以下、50mm以下、40mm以下の位置から酸化性ガスを吹き付けることが好ましい。
他方で、酸化性ガスの吹き付け位置は、熔融ガラス内部に気泡が発生しない程度まで熔融したガラスの表面から離しておくことが好ましく、例えば、熔融ガラス表面の上部0mm超、5mm以上、10mm以上の位置から酸化性ガスを吹き付けることが好ましい。
【0039】
本発明の実施形態として、清澄工程および均質化工程において、各熔融槽内を酸化性ガス雰囲気とし熔融ガラスの表面に酸素を接触させることが好ましい。
【0040】
また、本発明においては、熔融工程において、熔融したガラス表面に酸化性ガスを接触させても良い。特に、熔融工程を行う熔融槽が石英製である場合、酸化性ガス雰囲気下で熔融したガラス表面に酸化性ガスを接触させることで、より一層、熱処理前の還元色を低減できる。さらに白金坩堝を使用しないためPtO等の貴金属酸化物の溶けこみ抑制することができる。
【0041】
[連続熔融槽]
上記した熔融工程、清澄工程および均質化工程は、一つの熔融槽を使用して実施してもよいが、熔融工程、清澄工程および均質化工程を、連続したそれぞれ異なる熔融槽内で実施することもできる。図1は、本実施形態に係る光学ガラスの製造方法において使用する連続熔融槽を備えた光学ガラスの製造装置1の断面構成を示したものである。光学ガラスの製造装置1は、熔融槽10と、清澄槽20と、均質化槽30とを備えている。熔融槽10と清澄槽20とは、底部において連通管11により連通されており、清澄槽20と均質化槽30とは、底部において連通管21により連通されている。
【0042】
熔融槽10において、ガラス原料12を熔融する熔融工程が実施される。次いで、熔融槽10において熔融したガラスは、連通管11を介して清澄槽20に排出され、清澄槽20において清澄工程が実施される。続いて、清澄された熔融ガラスは、連通管21を介して清澄槽20から均質化槽30に排出され、均質化槽30において撹拌工程が実施される。これにより、熔融したガラスは、熔融槽10と、清澄槽20と、均質化槽30の順に流動する。
【0043】
続いて、均質化工程を経た熔融ガラスは、均質化槽30の底部から延出した流出管31を介して、成形型40に排出され、そこで固化してガラスとなる。
【0044】
上記した連続熔融槽を備えた光学ガラスの製造装置1を用いて本発明の製造方法を実施する場合は、酸化性ガスとの接触工程は、図1に示すように、酸化性ガス供給装置50から延出するガス共有管51を介して、熔融槽10、清澄槽20および均質化槽30に酸化性ガスを供給し、各槽の開口上部(槽の開口部と熔融したガラス表面との間)へ供給することで、酸化性ガス雰囲気とすることができる。また、ガス共有管51の途中に設けられたガス供給弁52によって、酸化性ガスの流量を調整したり、供給を停止したりすることができる。一部のガス供給弁を閉めることにより、所望する各槽に酸化性ガスを供給することもできる。さらに、ガス共有管51のガス吹き出し口から熔融したガラス表面までの距離を適宜調整することでも、より効率的に酸化性ガス雰囲気下とすることができる。なお、図2に示すように各槽を略密閉状態にし、槽内を酸化性ガス雰囲気にすることでも同様の効果を得ることができる。
【0045】
また、成形工程においては、図1に示すように、熔融ガラスが成形型40に流し込まれる際に、成形型40の開口上部から、ガス共有管51を介して酸化性ガスを熔融ガラスに吹き付けることで、成形型の周囲を酸化性ガス雰囲気とし、熔融ガラスの表面に酸素を接触させることができる。また、図3に示すように、成形型40に流し込まれた熔融ガラスに、成形型40の背面側から酸化性ガスを吹き付けることで、熔融ガラスの表面に酸素を接触させてもよい。
【0046】
[熱処理工程]
本発明の製造方法においては、成形工程で成形されたガラスに対して必要に応じて熱処理を行ってもよい。これにより、成形されたガラスに還元した状態の高屈折率成分が含まれたとしても、当該成分を酸化してガラスの着色をより一層低減できる。なお、熱処理は、例えば、精密アニールやプレス成形と同時に行ってもよい。これにより、所望の形状に成形され、ガラスが熱処理されることでガラスに含まれる高屈折率成分が酸化されるため、還元色がより一層低減された高い分光透過率を有する光学ガラスを得ることができる。
【0047】
熱処理温度は、得られたリン酸塩光学ガラスのガラス転移温度よりも低い温度で実施することが好ましく、具体的には、大気雰囲気下で、昇温速度30℃/hで加熱し、550~700℃の熱処理温度で1~30時間保持し、降温速度10℃/hで室温まで徐冷する。この操作を1回以上繰り返し実施してもよい。
【0048】
[ガラス成分]
本発明によるリン酸塩光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を、説明する。
【0049】
成分は、ガラス形成酸化物成分である。従って、P成分の含有量は、好ましくは15.0%以上、より好ましくは16.0%以上、さらに好ましくは18.0%以上、さらに好ましくは20.0%以上を下限とする。
他方で、P成分の含有量を40.0%以下にすることで、所望の屈折率、アッベ数を得ることが出来る。従って、P成分の含有量は、好ましくは40.0%以下とし、より好ましくは35.0%以下、最も好ましくは30.0%以下を上限とする。
【0050】
Nb成分は、屈折率を高め、アッベ数を低くする成分である。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは25.0%以上、より好ましくは28.0%以上、さらに好ましくは30.0%以上を下限とする。
他方で、Nb成分の含有量を60.0%以下にすることで、ガラスの材料コストを低減でき、且つ耐失透性を高められる。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは60.0%以下、より好ましくは58.0%以下、さらに好ましくは55.0%以下、さらに好ましくは53.0%以下、さらに好ましくは50.0%以下を上限とする。
【0051】
TiO成分は、屈折率を高め、アッベ数を低くできる成分である。従って、TiO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは5.0%以上を下限とする。
他方で、TiO成分の含有量を30.0%以下とすることで短波長側の透過率悪化を抑制し、且つ耐失透性を高められる。従って、TiO成分の含有量は、好ましくは30.0%以下、より好ましくは25.0%以下、より好ましくは23.0%以下、さらに好ましくは20.0%以下を上限とする。
【0052】
BaO成分は、白金の溶け込みを抑えつつ、ガラスの屈折率や熔融性、耐失透性を調整できる成分である。
従って、BaO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは2.0%以上を下限としてもよい。
他方で、BaO成分の含有量を25.0%以下にすることで、屈折率の低下や、失透を低減できる。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは25.0%以下、より好ましくは23.0%以下、さらに好ましくは20.0%以下、さらに好ましくは18.0%以下、さらに好ましくは16.0%以下を上限とする。
【0053】
MgO成分、CaO成分及びSrO成分は、白金の溶け込みを抑えつつ、ガラスの屈折率や熔融性、耐失透性を調整できる成分である。
他方で、MgO成分、CaO成分及びSrO成分の含有量を5.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えることができ、かつこれらの成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、MgO成分、CaO成分及びSrO成分の含有量は、それぞれ好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.5%以下、さらに好ましくは4.0%未満、さらに好ましくは3.5%以下、さらに好ましくは3.0%以下を上限とする。
【0054】
ZnO成分はガラスの光学定数を調整するために含まれていてもよいが、ZnO成分の含有量を5.0%未満にすることで、屈折率の低下を抑えられ、かつ過剰な含有による失透を低減できる。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは5.0%未満、より好ましくは4.5%未満、さらに好ましくは4.0%未満、さらに好ましくは3.5%以下を上限としてもよい。
【0055】
LiO成分は、ガラス原料の熔融性を高められ、透過率を良好にできる成分である。従って、LiO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.03%以上、さらに好ましくは0.05%以上を下限としてもよい。
他方で、LiO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下にすることで、過剰な含有によるガラスの屈折率の低下や、失透を低減でき、リヒートプレス時の失透を抑制できる。
【0056】
NaO成分は、ガラス原料の熔融性を高められ、透過率を良好にできる成分である。従って、NaO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは2.0%以上を下限としてもよい。
他方で、NaO成分の含有量を15.0%以下にすることで、過剰な含有によるガラスの屈折率の低下や、失透を低減でき、リヒートプレス時の失透を抑制できる。従って、NaO成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは13.5%以下、さらに好ましくは12.0%以下を上限とする。
【0057】
O成分は、ガラス原料の熔融性を高め、透過率を良好にできる成分である。従って、KO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%超を下限としてもよい。
他方で、KO成分の含有量を15.0%以下にすることで、過剰な含有によるガラスの屈折率の低下や、失透を低減でき、リヒートプレス時の失透を抑制できる。従って、KO成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは13.5%以下、さらに好ましくは12.0%以下を上限とする。
【0058】
SiO成分は、ガラス形成酸化物成分として用いられる成分である。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.3%以上を下限とする。
他方で、SiO成分の含有量を5.0%以下にすることで、ガラス転移点の上昇を抑えられ、かつ屈折率の低下を抑えられる。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.5%以下、さらに好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.5%以下、さらに好ましくは3.0%以下を上限とする。
【0059】
成分は、ガラス形成酸化物として用いられる成分である。従って、B成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.3%以上を下限とする。
他方で、B成分の含有量を5.0%以下にすることで、リヒートプレス時の失透性の悪化を低減でき、かつ化学的耐久性の悪化を抑えられる。従って、B成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.5%以下、さらに好ましくは4.0%以下を上限とする。
【0060】
WO成分は、屈折率及び耐失透性を高め、アッベ数を低くする成分である。
特に、WO成分の含有量を10.0%以下にすることで、短波長側の透過率の低下を抑えられる。従って、WO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.5%以下、より好ましくは7.0%以下、さらに好ましくは5.5%以下を上限とする。
【0061】
Bi成分の含有量を5.0%以下にすることで、耐失透性を高められ、短波長側の透過率の低下を抑えられる。従って、Bi成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0062】
Al成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラス原料の熔融性を高められ、ガラスの耐失透性を高められる。従って、Al成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0063】
ZrO成分は、屈折率及び可視光透過率を高め、且つ耐失透性を高める成分である。ZrO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0064】
La成分、Y成分、Gd成分及びYb成分は、屈折率及び可視光透過率を高め、且つ化学的耐久性を高める成分である。
他方で、La成分、Y成分、Gd成分及びYb成分の各々の含有量を10.0%以下にすることで、アッベ数の上昇を抑えられ、且つ耐失透性を高められる。従って、La成分、Y成分、Gd成分及びYb成分の含有量は、それぞれ好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0065】
GeO成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とし、最も好ましくは含有しない。
【0066】
TeO成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とし、最も好ましくは含有しない。
【0067】
Ta成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とする。
【0068】
Ga成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とし、最も好ましくは含有しない。
【0069】
SnO成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは0.1%以下を上限とする。
【0070】
Sb成分は、熔解したガラスの脱泡を促進できる成分である。
他方で、Sb成分の含有量が多いと、可視光透過率も低下し易くなり、さらに熔解設備(特にPt等の貴金属)との合金化が起こり易くなる。従って、Sb成分の含有量は、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.05%以下を上限とする。
【0071】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSnO成分やSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0072】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明のガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0073】
上述されていない他の成分を、本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Ce、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じることで、本願発明の可視光透過率を高める効果を減殺する性質があるため、特に可視領域の波長を透過させるガラスでは、実質的に含まないことが好ましい。
【0074】
また、PbO等の鉛化合物及びAs等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0075】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、使用した場合には、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要になる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0076】
[リン酸塩光学ガラス]
本発明による製造方法により得られたリン酸塩光学ガラスは、高い屈折率(n)を有するとともに還元色が抑制されており、透光性に優れている。特に、光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.70000以上、より好ましくは1.72000以上、さらに好ましくは1.75000以上、さらに好ましくは1.78000以上、さらに好ましくは1.80000以上、さらに好ましくは1.82000以上、さらに好ましくは1.85000以上、さらに好ましくは1.88000以上、最も好ましくは1.90000以上を下限とし、他方で好ましくは2.10000以下、より好ましくは2.00000以下、さらに好ましくは1.98000以下、最も好ましくは1.95000以下を上限とする。アッベ数(ν)は、好ましくは15.00以上、より好ましくは16.00以上、さらに好ましくは17.00以上を下限とし、他方で好ましくは25.00以下、より好ましくは22.50以下、さらに好ましくは22.00以下を上限とする。
【0077】
本発明による製造方法により得られたリン酸塩光学ガラスの透過率は、分光透過率70%を示す波長(λ70)が500nm以下であり、より好ましくは480nm以下であり、さらに好ましくは470nm以下であり、最も好ましくは460nm以下である。
【0078】
本発明による製造方法により得られたリン酸塩光学ガラスは、精密プレス成形をされ、典型的にはレンズ、プリズム、ミラー用途に使用することができる。特に、プレス成形用のプリフォーム材として使用することができ、あるいは、熔融ガラスをダイレクトプレスすることも可能である。プリフォーム材として使用する場合、その製造方法および精密プレス成形方法は特に限定されるものではなく、公知の製造方法および成形方法を使用することができる。
【0079】
光学ガラスは、様々な光学素子および光学設計に有用であるが、その中でも特に、本発明の製造方法により得られたリン酸塩光学ガラスに対してプレス成形を行って、レンズ、プリズムおよびミラー等の光学素子を作製することが好ましい。これにより、得られる光学素子を、カメラおよびプロジェクタ等のような、可視光を透過させる光学機器に用いたときに、高精細で高精度な結像特性を実現しつつ、これら光学機器における光学系の小型化を図ることができる。
【実施例0080】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0081】
[ガラス原料の調製]
下記の各成分の原料として、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を使用した。
Nb 47.4%
24.7%
TiO 12.8%
BaO 3.8%
NaO 9.9%
SiO 1.0%
0.5%
Sb 0.025%
【0082】
酸化物換算組成で上記の配合割合となるように調合したバッチ原料を石英坩堝に投入し、1000~1350℃の温度範囲内で熔融し、鋳型に流し込んでカレットを取得した。得られ各カレットの屈折率を測定し、所望の屈折率になるようカレットを調合した。
【0083】
[実施例1]
調合したカレットを内壁が白金合金からなる熔融槽に投入し、1250℃の温度で3.0時間、ガラス原料を熔融し、熔融したガラスを1.0~1.5時間かけて清澄(清澄工程)を行って泡等を除去した後、1200℃以下の温度まで降温し、仕上げ攪拌(均質化工程)を行って脈理を除去した。この均質化工程の際、熔融槽の開口から酸素ガスを10L/分の流量にて供給し、熔融したガラスの表面から上部130mmの位置から酸素ガスを吹きつけ、熔融ガラスの表面に酸化性ガスを接触させた。酸素ガスの吹きつけは、1.5時間実施した。
次いで、熔融したガラスを熔融槽から1125℃にて排出して鋳型に流し込み、徐冷する(成形工程)ことでガラスを得た。得られたガラスを50mm×50mm×20mmに切断し、660℃にて24時間の熱処理を行った。
【0084】
[実施例2]
均質化工程において、熔融したガラスの表面から上部40mmの位置から酸素ガスを吹きつけた以外は実施例1と同様にしてガラスを作製した。
【0085】
[実施例3]
均質化工程においては酸素ガスの供給は行わず、成形工程において鋳型に10L/分の流量にて供給した以外は、実施例1と同様にガラスを作製した。
【0086】
[実施例4]
均質化工程において、熔融したガラスの表面から上部100mmの位置から酸素ガスを吹きつけ、熔融したガラスを熔融槽から1110℃にて排出して鋳型に流し込むとともに、鋳型に酸素ガスを25L/分の流量にて供給した以外は、実施例1と同様にガラスを作製した。
【0087】
[比較例1]
酸素ガスの供給を行わなかった以外は実施例1と同様にしてガラスを作製した。
【0088】
[比較例2]
酸素ガスの供給を行わなかった以外は実施例4と同様にしてガラスを作製した。
【0089】
[屈折率およびアッベ数の測定]
ガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)は、JIS B 7071-2:2018に規定されるVブロック法に準じて測定した。
具体的には、ヘリウムランプのd線(587.56nm)に対する測定値で示した。また、アッベ数(ν)は、上記d線の屈折率と、水素ランプのF線(486.13nm)に対する屈折率(n)、C線(656.27nm)に対する屈折率(n)の値を用いて、アッベ数(ν)=[(n-1)/(n-n)]の式から算出した。
測定結果は下記の表1に示されるとおりであった。
【0090】
[着色度の評価]
ガラスの着色度合いを透過率によって評価した。各ガラスについて、熱処理前のガラスと熱処理後のガラスの両方の透過率を測定した。
ガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格(JOGIS02-2019 光学ガラスの着色度の測定方法)に準じて測定した。具体的には、両面が互いに平行かつ平坦に研磨された厚さ10mm±0.1mmの板状ガラス試料を用意し、研磨面に垂直方向から光を入射して、波長280nm~2600nmの範囲で表面反射損失を含む分光透過率を測定する。分光透過率が70%になる波長をλ70とした。
評価結果は下記表1に示されるとおりであった。
【0091】
【表1】
【0092】
表1の評価結果からも明らかなように、熔融工程以降のいずれかの工程(清澄工程、均質化工程、成形工程)において、酸化性ガス雰囲気下で熔融したガラスに酸化性ガスを接触させることで、リン酸塩光学ガラスにおいても熱処理前のガラスの還元色を低減し、ひいては優れた透過率を有する高屈折率の光学ガラスが得られることがわかる(実施例1~4)。
一方、熔融したガラスに酸化性ガスを接触させない従来の製造方法では、熱処理前のガラスの還元色を十分に低減することができないことがわかる(比較例1、2)。
図1
図2
図3