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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101547
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】音源位置推定装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/34 20060101AFI20240722BHJP
   G10K 11/28 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
H04R1/34 320
G10K11/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217965
(22)【出願日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2023004833
(32)【優先日】2023-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】000106944
【氏名又は名称】シナノケンシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】辺見 信彦
【テーマコード(参考)】
5D018
【Fターム(参考)】
5D018BB01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】音源から発せられた音波を反射部材を介して集音する際に、直接波の干渉を受けずに反射波を集音して音源位置を容易に推定可能な音源位置推定装置を提供する。
【解決手段】音源位置推定装置1は、反射部材3の開口部3aを検出対象装置9の騒音源2に向けて集音し、反射部材3の凹面部3bで反射させた反射音を、遮蔽部材5で直接音を遮蔽することで干渉を防いで集音部4に集音させて所定音圧レベルに到達した位置で、集音部4からの2つの焦点間距離から音源位置を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの焦点からの距離の和が一定である点の軌跡である楕円を長軸周りに回転させて形成される回転楕円体と、音源から発生した音波を前記回転楕円体の一部である反射部材で反射させて当該反射部材に近い焦点位置に配置された集音部で集音することで、前記集音部からの2つの焦点間距離から前記音源位置を推定する音源位置推定装置であって、
前記回転楕円体が少なくとも長軸を中心として長軸方向一方側が開口する開口部を有し凹面部を反射面とする前記反射部材と、
前記反射部材の外形を構成する前記回転楕円体の当該反射部材に近い焦点位置に配置された集音部と、
前記音源と前記集音部との間に配置され、前記音源から長軸方向に前記集音部に向かう直接音を遮蔽する遮蔽部材と、を備え、
前記反射部材の開口部を前記音源に向けて集音し、前記反射部材の凹面部で反射させた反射音を前記遮蔽部材で前記直接音を遮蔽することで干渉を防いで前記集音部に集音させて所定音圧レベルに到達した位置で、前記集音部からの前記2つの焦点間距離から前記音源位置を推定することを特徴とする音源位置推定装置。
【請求項2】
前記反射部材は、前記音源に向かう長軸方向一方側及び前記音源より離れる長軸方向他方側において、短軸と平行な軸線を含む平面で切断されて開口する開口部が各々形成されている請求項1記載の音源位置推定装置。
【請求項3】
前記反射部材は、前記音源に近い長軸方向一方側に大径開口部が設けられ、前記音源より離れる長軸方向他方側に小径開口部が設けられており、前記大径開口部が前記音源側に向くように配置され、前記音源と前記反射部材の小径開口部を結ぶ音線と前記遮蔽部材の外周縁部との間には所定のギャップが設けられている請求項2記載の音源位置推定装置。
【請求項4】
前記遮蔽部材は、平板の上下辺縁部に傾斜壁が連続して形成されている請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の音源位置推定装置。
【請求項5】
前記遮蔽部材は、断面Y字形状の板材と断面逆Y字形状の板材が平板を共用して一体に形成されている請求項4記載の音源位置推定装置。
【請求項6】
前記音源から発生した音の伝達方向をZ軸方向とすると、前記集音部は前記反射部材の大径側開口端を結びかつ前記遮蔽部材から前記反射部材側に延設された傾斜壁の端部を結ぶ直線とZ軸との交点に配置されている請求項1又は請求項2記載の音源位置推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音源から発生した音波を回転楕円体の一部である反射部材で反射させて焦点位置に配置された集音部で集音することで、集音部からの焦点間距離から音源位置を推定する音源位置推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
音源位置を特定する手法としては、マイクロホンアレーと呼ばれる複数のマイクロホンを用いて音源位置を推定する手法が知られている。マイクロホンアレーに基づく手法では、音声が各マイクロホンに到達する時間が音源の位置によって異なる点に着目し,各マイクロホンにおける観測信号間の時間差(位相差)を用いて音源位置を推定している。
【0003】
これに対して、単一マイクで処理を行おうとする試みは雑音抑圧や音源分離などの分野でも研究されており、関連手法も複数提案されている。しかしながら,単一マイクロホンで音源の位置や方向を推定しようとした場合、従来手法のような信号間の位相差といったマイク間の情報が使えないため、別の情報を用いた音源位置・方向推定手法が必要となる。
【0004】
例えば、焦点間距離が音源と集音部までの距離に対応する楕円を、焦点間を連結する長軸を中心に回転させて生成する回転楕円体の包絡面を音反射要素の反射面として使用して音源位置を特定する音源位置取得システムが提案されている。
これは、反射波は、焦点間を直接到達する音波と常に楕円曲線に規定された一定の経路差に伴う遅延時間を伴うことを利用し、音源位置に対応した遅延量を持つ主要な反射波を発生させ、直接波と反射波との間の遅延量を検出することにより、音源位置を推定している。
【0005】
具体的には、音源位置取得部は、音反射要素によりディジタルデータとして記録部に一旦格納された音響データを読み出して、処理のために格納する音響データ格納部と、基準テンプレート格納部と、背景ノイズ・テンプレート格納部とを含んで構成されている。音源位置取得部は、残差を算出するためのプロファイル・フィッティング部と、プロファイル・フィッティング部により得られた残差を格納するための残差格納部と、正規化された残差から最小残差を与える基準テンプレートを選択する選択部と、必要とされるアプリケーションを実行するためのアプリケーション実行部とを含んで構成されている。
【0006】
プロファイル・フィッティング部は、音響データを読み込んで、観測プロファイルへと変換し、その後、基準テンプレート格納部から基準テンプレートを読み出すと共に、背景ノイズ・テンプレート格納部から背景ノイズ・テンプレートの読み出しを実行する。プロファイル・フィッティング部は、テンプレートの一次結合と、観測プロファイルとの残差を算出し、その結果を、残差格納部へ登録する。さらに、音源位置取得部は、残差格納部に格納された残差を正規化し、正規化された残差を比較することにより、選択部において残差の最小を与える正規化残差が特定される。その後、該当する残差を与えた基準テンプレートを参照して格納された3次元位置を適切な形式として取得するというものである(特許文献1:特開2004-279241号参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-279241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1の音源位置取得システムは、音源位置に対応した直接波に対して遅延量を持つ反射波を発生させ、直接波と反射波との間の遅延量を検出するものである。このとき、反射波と直接波が互いに干渉し合って、音響データとしての精度が低下し易い。また、音源から発生した直接音及び反射音も同時に音響データとして収録され、プロファイル・フィッティング部でデータ処理が行われて音源の3次元位置座標を特定するため、データ処理装置が大掛かりとなって複雑なデータ処理を伴う。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、音源から発せられた音波を反射部材を介して集音する際に、直接波の干渉を受けずに反射波を集音して音源位置を容易に推定可能な音源位置推定装置を提供することにある。
【0010】
本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。
2つの焦点からの距離の和が一定である点の軌跡である楕円を長軸周りに回転させて形成される回転楕円体と、音源から発生した音波を前記回転楕円体の一部である反射部材で反射させて当該反射部材に近い焦点位置に配置された集音部で集音することで、前記集音部からの2つの焦点間距離から前記音源位置を推定する音源位置推定装置であって、前記回転楕円体が少なくとも長軸を中心として長軸方向一方側が開口する開口部を有し凹面部を反射面とする前記反射部材と、前記反射部材の外形を構成する前記回転楕円体の当該反射部材に近い焦点位置に配置された集音部と、前記音源と前記集音部との間に配置され、前記音源から長軸方向に前記集音部に向かう直接音を遮蔽する遮蔽部材と、を備え、前記反射部材の開口部を前記音源に向けて集音し、前記反射部材の凹面部で反射させた反射音を前記遮蔽部材で前記直接音を遮蔽することで干渉を防いで前記集音部に集音させて所定音圧レベルに到達した位置で、前記集音部からの前記2つの焦点間距離から前記音源位置を推定することを特徴とする。
上記構成によれば、音源から長軸方向に集音部に向かう直接音を遮蔽する遮蔽部材を備えたことで、反射部材からの反射音と直接音の干渉を防いで、集音部に集音することができる。これにより、集音部に集音させた音波が所定音圧レベルに到達した位置で反射部材に近い焦点位置に配置された集音部からの2つの焦点間距離から音源位置を容易に推定することができる。
【0011】
前記反射部材は、前記音源に向かう長軸方向一方側及び前記音源より離れる長軸方向他方側において、短軸と平行な軸線を含む平面で切断されて開口する開口部が各々形成されていてもよい。
これにより、音源に向かう長軸方向一方側の開口部より入射した音波が反射部材の凹面部で反射させて焦点位置にある集音部に集音させる際に、長軸方向一方側の開口部から入射した直接波は遮蔽部材で遮蔽されるため、直接波の干渉を防ぐことができる。また、音源より離れる長軸方向他方側の反射部材は機能しないためこれを省略することで、装置を長軸方向に小型化することができる。
【0012】
前記反射部材は、前記音源に近い長軸方向一方側に大径開口部が前記音源より離れる長軸方向他方側に小径開口部が設けられており、前記大径開口部が前記音源側に向くように配置され、前記音源と前記反射部材の小径開口部を結ぶ音線と前記遮蔽部材の外周縁部との間には所定のギャップが設けられていてもよい。
これにより、反射部材の音源に向かう大径開口部より入射した音波が、音源より離れた小径開口部に規定される反射面に確実に届いて集音部に向けて反射させることができ、音圧レベルを安定させることができる。
【0013】
前記遮蔽部材は、平板の上下辺縁部に傾斜壁が連続して形成されていてもよい。特に、遮蔽部材は、断面Y字形状の板材と断面逆Y字形状の板材が平板を共用して一体に形成されていてもよい。
これにより、音源からの直接波の反射率を高めて遮蔽し、反射波と干渉するのを防ぐことができる。
【0014】
前記音源から発生した音の伝達方向をZ軸方向とすると、前記集音部は前記反射部材の大径側開口端を結びかつ前記遮蔽部材から前記反射部材側に延設された傾斜壁の端部を結ぶ直線とZ軸との交点に配置されていてもよい。
これにより、集音部で集音される音波は、反射部材からの反射波が支配的となるため、音源から発せられた音波が遮蔽部材から延設された傾斜壁の端部を回り込む回折波の影響を可及的に少なくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
音源から発せられた音波を反射部材を介して集音する際に、直接波の干渉を受けずに反射波を集音して音源位置を容易に推定可能な音源位置推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第一実施例に係る音源位置推定装置の概念図と測定装置のブロック構成図である。
図2】反射部材の形状決定の説明図である。
図3】上段は遮蔽部材の有無により長軸半径位置と音圧レベルの関係を示すグラフ図、下段は遮蔽部材の有無により音場の様子を示す波形図である。
図4】音線と遮蔽部材との隙間dgapと音圧レベルの関係を示すグラフ図である。
図5】遮蔽部材の長軸方向の板厚Wと音圧レベルの関係を示すグラフ図である。
図6】遮音部材と焦点位置との間隔dと音圧レベルの関係を示すグラフ図である。
図7】端部形状が異なる遮蔽部材ごとの音源位置と反射率との関係を示すグラフ図である。
図8】遮蔽部材及び反射部材の形態及び遮蔽部材、集音部、反射部材のZ軸方向の位置関係を示す説明図である。
図9】3D-FEM時刻歴応答の解析結果とシュミュレーション条件を示す図表である。
図10】定常応答の解析結果とシュミュレーション条件を示す図表である。
図11】音源位置と音圧レベルの関係をFDTD,FEM時刻歴応答、FEM定常応答により比較したグラフ図である。
図12図11の音源位置と音圧レベルの関係を1kHz,2kHz,5kHzで比較したグラフ図である。
図13】反射部材、遮蔽部材の形状検討のためのシミュレーション条件(一部抜粋)を示す図表である。
図14】反射部材の形状を特定するため、長軸半径に対する最大集音率の変化と集音率変化、最大集音率×集音率変化のグラフ図である。
図15】第二実施例に係る試作した音源位置推定装置の音源及び集音部、反射部材及び遮蔽部材の配置構成を示す説明図である。
図16】試作した実験装置の説明図である。
図17図16においてZ軸方向及びY軸方向(紙面に垂直方向)の変位を零とし、X軸方向のみ変位させた場合の音源周波数2kHz,3kHz,4kHz毎の集音データを示すグラフ図である。
図18図16においてZ軸方向及びY軸方向(紙面に垂直方向)の変位を零とし、X軸方向のみ変位させた場合の音源周波数5kHz,6kHz,7kHz毎の集音データを示すグラフ図である。
図19図16においてZ軸方向及びY軸方向(紙面に垂直方向)の変位を零とし、X軸方向のみ変位させた場合の音源周波数8kHz,9kHz,10kHz毎の集音データを示すグラフ図である。
図20図16においてZ軸方向及びY軸方向(紙面に垂直方向)の変位を零とし、X軸方向のみ変位させた場合の音源周波数11kHz,12kHz,13kHz毎の集音データを示すグラフ図である。
図21図16においてZ軸方向及びY軸方向(紙面に垂直方向)の変位を零とし、X軸方向のみ変位させた場合の音源周波数14kHz,15kHzの集音データを示すグラフ図である。
図22図22(a)は、Z軸方向及びX軸方向の変位は零とし、Y軸方向(紙面に垂直方向)に100mm位置において測定した場合の音源周波数3kH、9kHz、15kHz毎の集音データを示すグラフ図であり、図22(b)は音源周波数15kHzでY=0mm、100mm位置において測定した集音データを示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第一実施例]
以下、本発明に係る音源位置推定装置の概略構成について図1を参照して説明する。音源位置推定装置1は、音源2から発生した音波を回転楕円体の一部である反射部材3(リフレクタ)で反射させて焦点位置に配置された集音部4(マイクロホン)で集音することで、集音部4からの焦点間距離から音源位置を容易に推定するものである。尚、回転楕円体とは、2つの焦点からの距離の和が一定である点の軌跡である楕円を長軸周りに回転させて形成されるものを言う。
【0018】
反射部材3を回転楕円体の一部として利用する理由は以下の通りである。音源2から発生した音波が反射部材3の異なる位置で反射して集音部4に向かう場合、反射点が異なっていても音源2から反射点介して集音点に至る幾何学的距離が等しくないと、集音する音波に位相差が生じる。この音波に位相差が生じない反射を実現するためには、音源2と集音部4を焦点に配置した回転楕円体でなければならないからである。
【0019】
図1において、反射部材3は、長軸及び短軸を有する楕円を長軸周りに回転させて形成される回転楕円体が少なくとも長軸方向一端が開口する一端開口部3aを有し、凹面部3bを反射面としている。
具体的には、反射部材3は、音源2に近い長軸方向一端開口部3a(大径開口部)及び音源2より離れた長軸方向他端が開口する他端開口部3c(小径開口部)が、回転楕円体を短軸と平行な軸線を含む平面で各々切断されて筒状に形成されている。
これにより、音源2に近い長軸方向一端開口部3aより入射した音波が反射部材3の凹面部3bで反射させて焦点位置にある集音部4に集音させる。このとき、長軸方向に一端側開口部3aから入射した直接波は、後述する遮蔽部材5で遮蔽されるため、音源2より離れた長軸方向他端側の反射部材3は機能しないためこれを省略することとした。このように、他端側開口部3cを設けることで、装置を長軸方向に小型化することができる。
【0020】
反射部材3の外形を構成する楕円の当該反射部材3に近い焦点位置は集音部4が配置されている。上述したように、長軸及び短軸で規定される楕円の2つの焦点位置は固有であるため、集音部4で検出される音圧レベルから、他の焦点位置にある音源2が特定される。図1において、集音部4は、反射部材3に対して楕円長軸上に配置されるように支持されている。
【0021】
遮蔽部材5は、音源2と集音部4との間に配置され、音源2から長軸方向に集音部4に向かう直接音を遮蔽する。このように、音源2から長軸方向に集音部4に向かう直接音を遮蔽部材5で遮蔽することにより、反射部材3からの反射音に直接音の干渉を防いで、集音部4に集音することができる。図1において、遮蔽部材5は、反射部材3に対して楕円長軸上に中心位置が配置されるように支持されている。
【0022】
上述した反射部材3、集音部4、遮蔽部材5は、支持部材6に一体となって支持されていてもよい。この支持部材6は、上下左右に向きを変えることが可能に例えば軸継手や自在継手等を介して回動可能に支柱7に設けられていてもよい。支柱7は、装置の向きを変えたり移動したりし易いようにキャスター8により移動可能に支持されていてもよい。或いは、支柱7は、支持部材6の高さ位置が可変となるように伸縮可能に構成されていてもよい。
【0023】
尚、以下に説明する実験では、図1の音源2にスピーカーを配置し、ファンクションジェネレータより任意の周波数で信号音を発生させてオーディオアンプで信号音を増幅させて雑音を発生させて行った。また、集音部4には10Hz ~ 20kHz までの可聴域をカバーする周波数帯域を持つ測定用マイクロホンを配置して集音し、プリアンプ、センサーアンプを介して増幅し、デジタル記憶部に記憶してデータ解析を行った。
【0024】
先ず、楕円を長軸を中心に回転させて形成される回転楕円体の一部(図1参照)を反射面として用いた反射部材3の集音性能を検討した。尚、音源2と集音部4の間に配置される遮蔽部材5を省略して解析した。
ANSYS社製のFEM(有限要素法)解析の解析結果とシミュレーション条件を図9に示す。時刻歴応答では、音波の吸収境界条件が(音響無限放射境界、無反射境界)にするため、反射面を球面領域にする必要があり、かつSommerfeldの放射条件(平面波で垂直入射)を満たす必要がある。
【0025】
次に、図10にFEM定常応答(音波5kHzの時の解析結果)を示す。FEM定常応答は、完全整合層(PML,3要素以上,波長の1/10以上)の境界条件にする必要がある。また、境界条件を満たしても、完全には収束していないように見える。
よって、現状では、FEM解析では、実質的な解析が困難で、FDTD法(Finite Difference Time Domain Method)を検討することにした。FDTD法は、波動方程式を離散化し、時間領域で隣り合う離散値の差分をとり、近似解を得る方法である。数値解析ソフト(MATLAB:登録商標)でプログラミングして実験装置における音圧の時間変化を2次元FDTD法で計算した。
【0026】
図11は音源周波数を1kHz,2kHz,5kHz,10kHz,15kHzと変化させた場合の集音部4で得られた音圧の時間変化を示すグラフ図であり、図12は音源周波数を1kHz,2kHz,5kHzとした場合の音圧の時間変化を示すグラフ図であり、FDTD法、FEM時刻歴法、FEM定常応答を比較したものである。FEM時刻歴法、FEM定常応答はいずれも音源周波数を変えても顕著な音圧の時間変化がみられなかった。特に、ANSYS社のFEM(有限要素法)解析は、計算負荷が高く、高精度化が望めない。またFEM定常応答であっても、メッシュサイズ10mmでは、高域は6~7kHzまでが限界となる。そこで、10kHz以上の高域で安定した音圧の時間変化がみられる2次元FDTD法を採用して解析することとした。
【0027】
2次元FDTD法を採用し、図1に示す音源位置推定装置1の反射部材3、遮蔽部材5の形状検討のためのシミュレーション条件(一部抜粋)を図13に示す。
音源の移動距離:X軸方向にX=0,-20,-50,-100mm
音源音圧レベル:80dB、音波周波数波長:15kHz
以上の条件で実験を行なって反射部材3の形状を特定した。
【0028】
先ず、反射部材3の形状を決定するため、図2に示すように、楕円の大きさを焦点間距離dが700mm、音源2に向かう開口径を300mmとして、長半径a=400mm~900mmに対する集音率の変化を調査した。図14に示すように最大集音率の変化と集音率変化のデータを取得し、最大集音率×集音率変化が最大となる長半径aの値を460mmに決定した。また、反射部材3の長軸方向の幅wは概ね26mmとした。
【0029】
次に、遮蔽部材5の必要性について図3を参照して検証する。尚、図3上段図に記載したx=〇〇mmというのは図2で示すX軸における音源2の配置を表している。すなわちx=0mmでは音源2は長軸上にあり、x=-100では音源2は図2紙面上での上方向に長軸から100mm離れていることを示す。また、図4乃至図6内のxも同様である。また、図3下段図のX、Zも図2で示すX軸、Z軸と同様の方向を示している。おおよそX軸716、Z軸366にあるのが音源2、X軸716、Z軸1066にあるのが集音部4である。
【0030】
図3の左半図の上段は、音源2と集音部4との間に遮蔽部材5がある場合の長軸半径aと音圧レベルの関係を示すグラフ図であり、下段は解析終了時の音場の様子を示す。
遮蔽部材5を長軸半径a=460mmにおくと、反射部材3の反射波と音源2からの直接波の干渉がなくなるため、遮蔽部材5より長軸半径aが大きくなるにつれて音圧レベルが安定し、遮蔽部材5から音源2より遠ざかる向きの音場の音圧レベルが低下する様子が分かる。これにより、音源2からの直接波を遮蔽部材5で反射して遮蔽し、反射波と干渉するのを防ぐことができることが判明した。
【0031】
図3の右半図の上段は、音源2と集音部4との間に遮蔽部材5がない場合の長軸半径aと音圧レベルの関係を示すグラフ図であり、下段は解析終了時の音場の様子を示す。
音源2と集音部4との間に遮蔽部材5がないと、反射部材3の反射波と音源2からの直接波の干渉が生じて長軸方向に音圧レベルが不安定となり、遮蔽部材5から音源より遠ざかる音場の音圧レベルの低下も少ないことが分かる。
【0032】
図1に示すように、反射部材3は、音源2に近い長軸方向一方側に大径開口部3aが設けられおり、音源2より離れる長軸方向他方側に小径開口部3cが設けられている。大径開口部3aが音源2側に向くように配置され、音源2と反射部材3の小径開口部3cを結ぶ音線と遮蔽部材5の外周縁部5cとの間には所定のギャップ(dgap)が設けられる(図4参照)。これにより、反射部材3の音源2に向かう大径開口部3aより入射した音波が、音源2より離れた小径開口部3cに規定される反射面に確実に届いて集音部4に向けて反射させることができ、音圧レベルを安定させることができる。図4は、dgapの変化と音圧レベルとの関係を示すグラフ図である。図4によれば、dgapの値が6mm~36mmで音圧レベルが比較的安定し、dgap=9mmが好ましいとのデータが得られた。
【0033】
次に、遮蔽部材5の形態を特定する。遮蔽部材5の長軸方向の板厚Wとすると、図5は板厚Wの変化と音圧レベルとの関係を示すグラフ図である。図5によれば、板厚Wの値が3mm~28mmで音圧レベルが比較的安定し、W=18mmが好ましいとのデータ得られた。
【0034】
次に、遮蔽部材5の集音部4からの距離dを特定する。図6は、距離dの変化と音圧レベルとの関係を示すグラフ図である。図6によれば、距離dの値が68mm~218mmで音圧レベルが比較的安定し、距離d=68mmで最小距離となることが判明した。
【0035】
次に遮蔽部材5の端部形状と反射率を決定した。遮蔽部材5の断面形状は図7に示すように(a)平板5aのみの平板タイプ、(b)平板5aの上下辺縁部にV字状に傾斜壁5bが連続する傾斜タイプ、(c)平板5aの上下左右の辺縁部に傾斜壁5bが連続する断面Y字形状の板材と断面逆Y字形状の板材が連続して一体に形成されたY字タイプの3種類について音圧レベルとの関係を検討した。尚、傾斜壁5bの傾斜角度は平板5aの厚さ方向(水平方向)に対して±45°に設定した。反射率は25%~100%で音圧レベルの変化をグラフ図(a)~(c)に示す。図7(a)~(c)に対比により、(c)平板5aの上下左右の辺縁部に傾斜壁5bが連続する断面Y字形状の板材と断面逆Y字形状の板材が平板5aを共用して一体に形成されたY字タイプの遮蔽部材5で、反射率100%の場合が、音圧レベルが高く安定性が高いことが判明した。
【0036】
以上の検討を踏まえて、遮蔽部材5及び反射部材3の形態及び遮蔽部材5、集音部4、反射部材3のZ軸方向の位置関係の一例を示すと、図8の通りである。
【0037】
例えば、図1に示すように検出対象装置9の騒音源2を特定しようとする場合、音源位置推定装置1の反射部材3の大径開口部3aを検出対象装置9に向けて集音部4に集音させる。反射部材3は支持部材6を支柱7に対して回転可能であり、反射部材3の大径開口部3aを音源2に向けて集音する。そして、音圧レベルが所定レベルまで高くなる位置までキャスター8を通じて支柱7を楕円長軸方向に移動させる。
このとき、反射部材3の凹面部3bで反射させた反射音を集音部4に集音させて音圧レベルが安定した所定音圧レベルに到達した位置で、集音部4からの2つの焦点間距離から音源2の位置を推定することができる。
【0038】
以上説明したように、音源2から長軸方向に集音部4に向かう直接音を遮蔽する遮蔽部材5を備えたことで、反射部材3からの反射音に直接音の干渉を防いで、集音部4に集音することができる。これにより、反射部材3に近い焦点位置に配置された集音部4からの2つの焦点間距離から音源位置を容易に推定することができる。
【0039】
尚、音源位置推定装置1は、音源2の位置を推定するため、反射部材3を構成する回転楕円体の楕円の寸法(長軸及ぶ短軸)の大きさを適宜変更することができる。即ち、大きさの異なる楕円を想定することで、焦点間距離が変わり、測定対象物に応じた大きさの反射部材3を形成すればよい。
また、集音部4に配置されたマイクロホンで集音された音圧レベルが安定した所定レベルに到達したことを判定表示する表示を設けてもよい。
音源2の種類は任意であるが、例えば任意の駆動装置における騒音源を特定するために用いてもよい。
【0040】
[第二実施例]
第一実施例は、2次元FDTD法に基づく2次元シミュレーション解析結果より音源位置推定装置1の形態を特定したが、以下では、実際に設計試作した音源位置推定装置1に基づく実験結果を示す。尚、音源位置推定装置1の音源位置の推定原理は第一実施例と同様であり、同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとする。尚、第一実施例(2次元データ)に基づく音源位置推定装置1と、以下に説明する試作製品(3次元データ)とでは、測定できる音圧レベルに差異がある。
【0041】
図15は、実際に設計試作した音源位置推定装置1の音源2、集音部4、反射部材3及び遮蔽部材5の配置構成を示す。第一実施例(図2参照)と異なる点は、回転楕円体の方程式で長軸及び短軸の寸法を変更したこと、これに伴い反射部材3の大きさも変更し当該反射部材3の大小の開口径を拡大変更したこと、集音部4の配置を設計上の理由及び遮蔽部材5からの回折波の影響を抑制する理由から以下のように変更した。即ち、音源2から発生した音の伝達方向をZ軸方向とすると、集音部4は反射部材3の大径側開口端3aを結びかつ遮蔽部材5から反射部材3側に延設された傾斜壁5bの端部を結ぶ直線とZ軸との交点に配置されている。
これにより、集音部4で集音される音波は、反射部材3からの反射波が支配的となるため、音源2から発せられた音波が遮蔽部材5から延設された傾斜壁5bの端部を回り込む回折波の影響を可及的に少なくすることができる。
【0042】
図16は試作した実験装置の説明図であり、音源2から伝達する音の伝達方向をZ軸方向とすると、音源2に対して、反射部材3,集音部4及び遮蔽部材5(装置本体)をX軸方向(横方向)、Y軸方向(高さ方向)のうちいずれかに変位させて音圧データを測定した。尚、一例として音源2で発生させた音圧レベルは70dBとし、音源2から集音部4までのZ軸方向距離は50cmとして周波数を変化させて測定を行った。
【0043】
図17図21は、図16においてZ軸方向及びY軸方向(紙面に垂直方向)の変位を零とし、X軸方向のみ変位させた場合の音源2の周波数毎の集音データを示すグラフ図である。図17(a)~(c)は音源2の周波数2kHz、3kHz、4kHzの場合の集音部4の集音データを示すグラフ図である。図18(a)~(c)は音源2の周波数5kHz、6kHz、7kHzの場合の集音部4の集音データを示すグラフ図である。図19(a)~(c)は音源2の周波数8kHz、9kHz、10kHzの場合の集音部4の集音データを示すグラフ図である。図20(a)~(c)は音源2の周波数11kHz、12kHz、13kHzの場合の集音部4の集音データを示すグラフ図である。図21(a)(b)は音源2の周波数14kHz、15kHzの場合の集音部4の集音データを示すグラフ図である。
【0044】
図17乃至図21に示す集音データのグラフ図から、音源2で発生する音の周波数が3kHから15kHzへと高くなるにつれ、音圧変化のグラフに中央部に山と周辺部に谷が現れることがわかる。また、音源2で発生するいずれの周波数によらずX=0が最大音圧となる。更には、音源2で発生する音の周波数が高くなるほど、山と谷の数がX軸方向の正側及び負側でほぼ対称に表れ、谷がX=0に近づくことが分かる。
したがって、音源位置推定装置1において集音部4で得られた集音データのグラフ形状(X=0に対して対称形状か否か、X=0で音圧レベルが最大となっているか否か)から、集音部4を含む装置本体の測定位置がX軸方向にずれがあるか否かを注意喚起するようにしてもよい。
【0045】
図22(a)は、Z軸方向及びX軸方向の変位は零とし、Y軸方向(紙面に垂直方向)に100mm位置において測定した場合の音源2の周波数3kHz、9kHz、15kHzの場合の集音部4の集音データを示すグラフ図であり、図22(b)は音源2の周波数15kHzでY=0mm、100mm位置において測定した集音部4の集音データを示すグラフ図である。
これらより、集音部4のY軸方向位置が変化すると、X軸方向の変位に対する谷の位置がX=0より遠のくことが分かる。また、谷の深さ(音圧変化)も小さくなることが分かる。このため、周波数帯を変更して集音部4にて測定する際に、集音データのX=0における谷の位置変化や谷の深さの変化から、測定位置がY軸方向に位置ずれが生じているか否かを注意喚起するようにしてもよい。
【0046】
また、集音部4に特定の周波数帯の音を検知する周波数フィルタを設け、音圧レベルの山と谷が比較的明瞭に表れる周波数帯(例えば13kHz~14kHz)の音を周波数フィルタ(例えばバンドパスフィルタ)を通過させて検知して集音データのX=0が最大音圧か否か或いは音圧データの波形の対象軸がX=0からのずれ量から装置本体のX軸方向の位置を修正したり、周波数帯を変更して谷の位置がX=0より遠のいたり谷の深さが小さくなるように変化した場合にはY軸方向の位置を修正したり、或いは周波数フィルタを通過した異音の周波数から、音源2に配置された製品の故障個所(筐体、駆動源、駆動伝達部等)を推定したりするのに使用してもよい。
【0047】
このように、音源位置推定装置1の集音部4に特定周波数帯の音を検知する周波数フィルタを設けると共に装置本体に表示部(音圧データ表示部)を設けて周波数レベルや音圧データを表示させることで、集音部4を含む装置本体の集音位置を補正することができる。また、周波数フィルタとしては、ローパスフィルタやハイパスフィルタを選択的に使用したりこれらを組み合わせてバンドパスフィルタを設けることで、異音の特定の周波数やZ軸上の音源の位置から製品によって異常の発生源を推定したりすることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 音源位置推定装置 2 音源 3 反射部材 3a 一端開口部 3b凹面部 3c 他端開口部 4 集音部 5 遮蔽部材 5a 平板 5b 傾斜壁 5c 外周縁部 6 支持部材 7 支柱 8 キャスター 9 検出対象装置
図1
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