(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101552
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物および該組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20240722BHJP
C08K 5/5435 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K5/5435
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024001169
(22)【出願日】2024-01-09
(31)【優先権主張番号】P 2023005041
(32)【優先日】2023-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 明弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊介
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP042
4J002CP141
4J002DE148
4J002DE149
4J002EX056
4J002EX057
4J002FA088
4J002FA089
4J002FD018
4J002FD019
4J002FD146
4J002FD147
4J002GJ01
(57)【要約】
【課題】 本発明では高い放熱性能(例えば5.0W/m・K以上)を有しながら、高温暴露時に物理特性(例えば接着性や硬度)の変化が少ないことによりボイドが生じない、かつ作業性に優れた硬化物を与える熱伝導性シリコーン組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物は、(A)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、(B)成分である1分子中にヒドロシリル基を2個以上有する直鎖状のオルガノポリシロキサンと、(C)成分である-SiRHO-の繰り返し単位のみを有し、重合度が4以上8以下である水素化環状シロキサンと、(D)成分である付加反応触媒と、(E)成分である熱伝導性フィラーとを含み、(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部としたときに、(C)成分の含有量が0.5質量部以上1.8質量部以下であり、(E)成分の含有量が500質量部以上3,000質量部以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:アルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、
(B)成分:1分子中にヒドロシリル基を2個以上有する直鎖状のオルガノポリシロキサンと、
(C)成分:下記一般式(1)で表される水素化環状シロキサンと、
【化1】
(ここで、nは4以上8以下の整数であり、Rは炭素数1以上6以下の一価炭化水素基である)
(D)成分:付加反応触媒と、
(E)成分:熱伝導性フィラーと、
を含む熱伝導性シリコーン組成物であって、
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、
前記(C)成分の含有量が0.5質量部以上1.8質量部以下であり、
前記(E)成分の含有量が500質量部以上3,000質量部以下である、熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
前記(C)成分は、1,3,5,7,9-ペンタメチルシクロペンタシロキサン(HD5)および1,3,5,7,9,11-ヘキサメチルシクロヘキサシロキサン(HD6)を含む、請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
前記(A)成分と前記(B)成分との質量の比((A)成分の質量:(B)成分の質量)は、80:20~50:50の範囲であり、
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、前記(HD5)と前記(HD6)の合計量が0.5質量部以上1.5質量部以下である、請求項2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、テトラデカメチルシクロヘプタシロキサン(D7)、およびヘキサデカメチルシクロオクタシロキサン(D8)の含有量合計は、前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、0.1質量部未満である、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項5】
前記熱伝導性シリコーン組成物を硬化して得られる硬化物の、下記硬度変化率評価方法による硬度変化率が10%以下であり、
前記硬化物の、下記熱伝導率測定方法による熱伝導率が5.0W/m・k以上であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
<硬度変化率評価方法>
23℃、24時間で硬化させて得られた硬化物を、ショアOO硬度デュロメーターを使用してASTM D 2240標準規格に従ってショアOO硬度を測定する。これを初期ショアOO硬度とする。
23℃、24時間で硬化させて得られた硬化物を、190℃で500時間暴露後に、23℃まで降温し、ショアOO硬度デュロメーターを使用してASTM D 2240標準規格に従ってショアOO硬度を測定する。これを高温暴露後ショアOO硬度とする。
初期ショアOO硬度に対する高温暴露後ショアOO硬度の変化率を算出する。
<熱伝導率測定方法>
熱伝導性シリコーン組成物を、直径30mm×高さ6mmの円柱状にプレス成型した後、23℃、24時間の条件で硬化させ、円柱状の硬化物を作製する。前記硬化物の熱伝導率をISO 22007-2に準拠したホットディスク法により熱伝導率を測定する。
【請求項6】
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、(B)成分の1分子中にヒドロシリル基を2個以上有する直鎖状のオルガノポリシロキサンと、(D)成分の付加反応触媒と、(E)成分の熱伝導性フィラーと、を含む熱伝導性シリコーン組成物であって、
(C)成分の水素化環状シロキサンを含むことにより、
前記熱伝導性シリコーン組成物を基材に塗布し、硬化させて得られる硬化物が、190℃以上の高温に暴露された後に前記硬化物と前記基材との接着部におけるボイドの発生を抑制可能である、熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項7】
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、(D)成分の付加反応触媒と、(E)成分の熱伝導性フィラーと、を混合して第1液を得る第一工程と、
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、(B)成分の1分子中にヒドロシリル基を2個以上有する直鎖状のオルガノポリシロキサンと、(C)成分の水素化環状シロキサンと、(E)成分の熱伝導性フィラーと、を混合して第2液を得る第二工程と、
を含む、2液型熱伝導性シリコーン組成物の製造方法。
【請求項8】
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、(B)成分の1分子中にヒドロシリル基を2個以上有する直鎖状のオルガノポリシロキサンと、(D)成分の付加反応触媒と、(E)成分の熱伝導性フィラーと、を含む熱伝導性シリコーン組成物中に、
(C)成分の1,3,5,7,9-ペンタメチルシクロペンタシロキサン(HD5)および1,3,5,7,9,11-ヘキサメチルシクロヘキサシロキサン(HD6)より選択される少なくとも1種を含む水素化環状シロキサンを配合することにより、
前記熱伝導性シリコーン組成物を基板に塗布して硬化させて得られる硬化物が190℃以上の高温に暴露された後に、前記硬化物と前記基材との接着部におけるボイドの発生を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性フィラーと所定の水素化環状シロキサンを含有する熱伝導性シリコーン組成物、および該組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン熱伝導性部材(例えばギャップフィラー)は、発熱する電気自動車のバッテリーや電子機器の半導体などから発する熱をヒートシンクなどの放熱部材に伝えるため、発熱体及び放熱体の間隙に充填され熱伝導材として機能する。
このギャップフィラーは、発熱体から発せられる熱を放熱体へ伝熱するために、常に両界面に接している必要がある。バッテリーの放熱体として使用される場合は、ギャップフィラーは一般的に冷却体と発熱体、例えばバッテリーセルやバッテリーパックのいずれかの表面に未硬化の状態で塗布され、圧縮され間隙を充填して双方部材に接した状態で硬化接着し、伝熱し機能する。
【0003】
従来、ギャップフィラーは、50℃程度までの温度上昇があるバッテリーの放熱用途で使用されていた。しかし近年、高温(例えば180℃以上など)に達するような車載電装モジュール、例えばインバーターなどの電気制御部品(ECU)などの構成部品の放熱用途としても使用されている。
このような場合、より高電流による高発熱が想定され、より効率的な放熱対策が求められ、一般的なバッテリー用放熱材よりも高い放熱性能(例えば5W/m・K以上)が要求される。また、高温下においても熱伝導性の確保が必要であり、温度依存による物理特性の変化が小さく、発熱体と放熱体の界面における材料の接着性が十分であることが望ましい。
【0004】
高温下であっても優れた特性を発揮する、いくつかのシリコーン製品が開発されている。
例えば特許文献1は、エポキシ基等の含酸素官能基を含む水素化環状シロキサンを配合することにより、接着性と、150℃でのエージング後でも硬度変化が小さい硬化物を与える熱伝導性シリコーン接着組成物を開示している。しかし、エージング後の接着性には言及がなく、熱伝導率もさらなる改善が求められる。
【0005】
特許文献2は、比表面積が大きく、平均粒子径が小さい熱伝導性無機フィラーに対して、分子量の小さいシランカップリング剤で表面処理することにより、耐熱性を向上させた熱伝導性シリコーン放熱材料を開示する。当該放熱材料は、空気中220℃で100時間エージングした後のアスカーC硬さが、初期硬さに比較してマイナス15~0であり、更に空気中220℃でエージングを継続した時の500時間のアスカーC硬さが初期硬さに比較してマイナス20~プラス20であることが記載されているが、接着性についての言及はない。また、熱伝導率のさらなる改善が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-113289号公報
【特許文献2】特許第6988023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高い放熱性を達成させるには熱伝導性フィラーを高充填する必要があり、その結果ポリマー分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンとヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンの含有割合は低くなる。
このため、ヒドロシリル化反応による初期架橋密度は低い傾向にある。その結果として、反応初期の組成物の硬度は低いが、高温暴露中に硬度が急激に上昇し、基材との間に空隙(ボイド)が発生する。ボイドの発生により、基材との密着性が低下し、その結果、放熱特性が低下するという問題があった。
特に、近年のハイブリッド車、電気自動車、及び燃料電池車等のパワーコントロールユニット内で使用されるリアクトルなどは使用時に高温になり、そのような部品に放熱材を使用する場合にこのような問題が顕著であった。
【0008】
また、架橋密度を向上させるためにヒドロシリル基含有シロキサン配合量を増やすと、相対的なポリマー配合量が増すため、熱伝導性フィラーの配合量が低下して熱伝導性が不十分になるという問題がある。
単位重量当たりのヒドロシリル基含有量が高いシロキサンを使用する場合、一部のヒドロシリル基含有シロキサンでは硬化速度が速くなり、ポットライフ(作業可能時間)が短くなる。そのため、熱伝導性シリコーン組成物を塗布してから圧縮するまでの時間を短くするように、短時間で塗布作業をする必要性があり、つまり作業性が悪くなるという問題が生じる。
【0009】
以上の背景から、高い放熱性能を有しながら、190℃の高温暴露後でも物理特性の変化が少なく、接着性や作業性に優れたバランスを有する熱伝導性シリコーン組成物の開発が求められている。
本発明では高い放熱性能(例えば5.0W/m・K以上)を有しながら、高温暴露時に物理特性(例えば接着性や硬度)の変化が少ないことによりボイドが生じない、かつ作業性に優れた硬化物を与える熱伝導性シリコーン組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、オルガノポリシロキサンを含むシリコーン組成物において、-SiRHO-の繰り返し単位のみを有し、重合度が4以上8以下である水素化環状シロキサンと、熱伝導性フィラーとを配合することにより、本発明の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
熱伝導性シリコーン組成物に上記水素化環状シロキサンを配合することにより、少量の配合であっても架橋密度を向上させることができ、かつ、常温(例えば10℃以上30℃以下)における硬化速度が遅すぎない組成物が得られる。このため、硬化反応開始後の所定時間内に架橋反応(硬化反応ともいう)が完了し、その後に高温に暴露された場合にも硬化物の硬度の変化が少なく、高温暴露後にボイドが発生しにくいという特性がある。
少量の配合で上記の効果が得られるため、相対的に熱伝導性フィラーを多く配合することが可能となり、高熱伝導性の硬化物を得ることが可能である。
また、架橋反応の完了までには、ギャップフィラーとしてリアクトルやヒートシンク等の基材に塗布するための十分なポットライフ(作業可能時間)を確保可能であるので、作業性も良好である。
【0012】
本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物は、
(A)成分:アルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、
(B)成分:1分子中にヒドロシリル基を2個以上有する直鎖状のオルガノポリシロキサンと、
(C)成分:下記一般式(1)で表される水素化環状シロキサンと、
【化1】
(ここで、nは4以上8以下の整数であり、Rは炭素数1以上6以下の一価炭化水素基である)
(D)成分:付加反応触媒と、
(E)成分:熱伝導性フィラーと、
を含む熱伝導性シリコーン組成物であって、
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、
前記(C)成分の含有量が0.5質量部以上1.8質量部以下であり、
前記(E)成分の含有量が500質量部以上3,000質量部以下である、熱伝導性シリコーン組成物である。
【0013】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物(以下、単に「組成物」ともいう)は、発熱体や放熱体といった基材表面等、特にリアクトル表面、バッテリーセル表面、またはバッテリーパック表面に配置される熱伝導性部材として使用される硬化物を形成するための組成物であればよく、熱伝導性部材の形態としては例えばギャップフィラーが挙げられる。
【0014】
上記の本発明の一局面による熱伝導性シリコーン組成物は、上記(C)成分を含有することを特徴とする。
【0015】
熱伝導性シリコーン組成物中の(A)成分(アルケニル基含有オルガノポリシロキサン)と、(B)成分(1分子中にヒドロシリル基を2個以上有する直鎖状のオルガノポリシロキサン)と、(C)成分(上記一般式(1)で表される水素化環状シロキサン)とは、(D)成分(付加反応触媒)の存在下で架橋反応することにより硬化する。ここで、ヒドロシリル基を有するシロキサンとして(B)成分だけでなく、(C)成分も上記配合量範囲で配合することにより、熱伝導性シリコーン組成物を硬化して得られる硬化物の架橋密度を向上させると同時に、十分なポットライフが確保可能な範囲で硬化速度を早くすることができる。このため、高温(例えば約190℃)に暴露されても硬化物の硬度変化が小さく、基材と硬化物との間にボイドが生じにくいという特性があり、良好な熱伝導性を維持することが可能となる。
【0016】
また、(C)成分は比較的少量であっても架橋密度を十分に向上させることが可能であるため、相対的に(E)成分の熱伝導性フィラーの配合量を減らさずに済むことから、熱伝導性が良好な硬化物を得ることができる。
【0017】
さらに、(C)成分は単位重量当たりの-SiH基含有量が多いため、配合量が少量であっても、硬化物の基材への良好な接着性を得ることが可能である。
【発明の効果】
【0018】
上述の通り、本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物は、ポットライフを十分確保可能であり、その硬化物は高温暴露後にも硬度変化が小さく、基材と硬化物との間にボイドが生じにくく、良好な熱伝導性を発揮する。このため、高温暴露後にも、高い熱伝導性を維持する硬化物を得ることができる。このような硬化物は、例えば車両に搭載されるバッテリーやリアクトル等と放熱体との間隙に適用するギャップフィラーとして特に適している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明に係る、熱伝導性シリコーン組成物および該組成物の製造方法の詳細を説明する。
【0020】
本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物は
(A)成分:アルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、
(B)成分:1分子中にヒドロシリル基を2個以上有する直鎖状のオルガノポリシロキサンと、
(C)成分:下記一般式(1)で表される水素化環状シロキサンと、
【化1】
(ここで、nは4以上8以下の整数であり、Rは炭素数1以上6以下の一価炭化水素基である)
(D)成分:付加反応触媒と、
(E)成分:熱伝導性フィラーと、
を含む熱伝導性シリコーン組成物であって、
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、
前記(C)成分の含有量が0.5質量部以上1.8質量部以下であり、
前記(E)成分の含有量が500質量部以上3,000質量部以下である。
【0021】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導性部材である硬化物を形成するための組成物であればよく、熱伝導性部材としては例えば車のバッテリー、リアクトル等の発熱体、発熱体を被覆するフィルム、発熱体を梱包するケース等に適用されるギャップフィラーが挙げられる。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、その硬化前に液体状態で基材に塗布され、塗布後に硬化させて熱伝導性部材である硬化物を与えるものである。
【0022】
((A)成分)
(A)成分は、組成物の主剤であり、ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンである。
(A)成分の粘度や重合度は特に限定されず、要求される組成物の混合粘度等に応じて選択することができ、例えば25℃における粘度が10mPa・s以上10,000mPa・s以下であってもよい。
オルガノポリシロキサンは、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。オルガノポリシロキサンは、組成物の主剤であり、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に平均して、少なくとも2個、好ましくは2~50個、より好ましくは2~20個有するものである。
【0023】
(A)成分の分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状構造、一部分岐を有する直鎖状構造、分岐鎖状構造、環状構造、分岐を有する環状構造であってもよい。(A)成分は、このうち、実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサンであることが好ましく、具体的には、分子鎖が主にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のオルガノポリシロキサンであってもよい。分子鎖末端の一部または全部、または側鎖の一部がシラノール基であってもよい。
【0024】
(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の位置は特に制限されず、(A)成分は、分子鎖両末端にケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンであってもよい。
分子鎖両末端にアルケニル基を1つずつ有するオルガノポリシロキサンであれば、架橋反応の反応点となるアルケニル基含有量が少なく、硬化後に得られる硬化物の柔軟性が高められるという利点がある。
分子鎖両末端に加えて、分子鎖側鎖にもアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンであれば、架橋密度を向上させ、硬化物の硬度を高めることが可能となる。
(A)成分1分子内のアルケニル基の数は、要求される硬化物の硬度や、(A)成分の分子量等に応じて適宜決定することができる。1分子内のアルケニル基の数は2個以上であればよく、2個以上5個以下がより好ましく、2個であること(分子鎖両末端にアルケニル基を1つずつ有すること)が最も好ましい。
【0025】
アルケニル基は分子鎖末端のケイ素原子又は分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子のどちらか一方にのみ結合していてもよいし、これら両者に結合していてもよい。
また、(A)成分は、単一のシロキサン単位からなる重合体であっても、2種以上のシロキサン単位からなる共重合体であってもよい。
【0026】
(A)成分の25℃における粘度は、10mPa・s以上10,000mPa・s以下であってもよく、50mPa・s以上1,000mPa・s以下であれば好ましく、100mPa・s以上500mPa・s以下であればより好ましい。
【0027】
液状組成物を混合して得られる組成物の硬化前の粘度(混合粘度)調整のため、粘度の異なる2種類以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンを用いることもできる。
【0028】
具体的には、(A)成分は、平均組成式が下記一般式(1)で表される。
R1
aSiO(4-a)/2 (1)
(ただし、式(1)中、R1は、互いに同一または異種の炭素数1~18の非置換のまたは置換された一価炭化水素基である。aは1.7~2.1である。また、aは好ましくは1.8~2.5、より好ましくは1.95~2.05である。)
【0029】
一つの実施形態において、上記R1で示される一価炭化水素基のうち、少なくとも2個以上はビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基などのアルケニル基から選ばれ、それ以外の基は、炭素数1~18の置換または非置換の一価炭化水素基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基などのアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基などのアラルキル基や、これらの炭化水素基中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子、シアノ基などによって置換されたクロロメチル基、2-ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基、シアノエチル基などのハロゲン置換アルキル基やシアノ置換アルキル基などから選ばれる。
【0030】
R1の選択にあたって、2個以上必要なアルケニル基としてはビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、2ーメチルー1ープロペニル基、2ーメチルアリル基、2ーブテニル基が好ましく、ビニル基が特に好ましい。アルケニル基以外のR1としてはメチル基およびフェニル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。また、全R1中の70モル%以上がメチル基であることが、硬化物の物性および経済性などの点で好ましく、通常はメチル基が80モル%以上のものが用いられる。
【0031】
(A)成分の分子構造としては、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサンコポリマー、式:(CH3)2ViSiO1/2で示されるシロキサン単位、式:(CH3)3SiO1/2で示されるシロキサン単位、式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン(式中のViは、ビニル基を表す)、これらのオルガノポリシロキサンのメチル基の一部または全部をエチル基、プロピル基などのアルキル基;フェニル基、トリル基などのアリール基;3,3,3-トリフルオロプロピル基などのハロゲン化アルキル基で置換したオルガノポリシロキサン、およびこれらのオルガノポリシロキサンの2種類以上の混合物が例示されるが、分子鎖長の増長によって硬化物の切断時の伸びを高める観点から、直鎖状のジオルガノポリシロキサンで分子鎖両末端に各1個のビニル基を有するものが好ましい。
【0032】
これらのオルガノポリシロキサンは市販のものを使用してもよく、また当業者に公知の方法で製造されたものを使用してもよい。
【0033】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物中、(A)成分および(B)成分の合計量を100質量部としたときの、(A)成分のオルガノポリシロキサンの含有量は、20質量部以上90質量部未満であることが好ましく、40質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。上記範囲内であれば、組成物全体の粘度が適切な範囲となり、適度な流動性を有することにより、得られる硬化物の熱伝導性を高く維持することが可能となる。
【0034】
((B)成分)
(B)成分は、ケイ素原子に結合している水素原子を2個以上有する直鎖状オルガノポリシロキサンである。
(B)成分の粘度や重合度は特に限定されず、要求される組成物の混合粘度等に応じて選択することができ、例えば25℃における粘度が10mPa・s以上10,000mPa・s以下であってもよい。
(B)成分は1分子中にケイ素原子に結合している水素原子を2個含有するオルガノポリシロキサンであり、本発明の組成物を硬化させるための架橋剤の役割を果たす成分である。
ケイ素原子に結合している水素原子の数は2個以上であれば結合箇所は特に限定されず、2個以上4個以下であってもよい。直鎖状の(B)成分の分子鎖両末端に各1個のケイ素原子に結合している水素原子を有することが特に好ましく、分子中の1つのケイ素原子に結合している水素原子数が2個であってもよい。
【0035】
(B)成分は、1分子中にケイ素原子と結合している水素原子(ヒドロシリル基)を2個含有するオルガノポリシロキサンであればいかなるものでもよく、例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー、メチルフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー、環状メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルハイドロジェンシロキシ単位とSiO4/2単位からなるコポリマーが用いられる。(B)成分は、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
(B)成分の分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状、分岐状、環状、又は三次元網状構造のいずれのものであってもよいが、具体的には、下記平均組成式(2)で示されるものを用いることができる。
R3
pHqSiO(4-p-q)/2 (2)
(式中、R3は脂肪族不飽和炭化水素基を除く、非置換又は置換の一価炭化水素基である。またpは0~3.0、好ましくは0.7~2.1、qは0.0001~3.0、好ましくは0.001~1.0で、かつp+qは0.5~3.0、好ましくは0.8~3.0を満足する正数である。)
【0037】
式(2)中のR3としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等の、脂肪族不飽和炭化水素基を除く、通常、炭素数1~10、好ましくは1~8程度の非置換又はハロゲン置換の1価炭化水素基等が例示され、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0038】
(B)成分としては、具体的には、例えば分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、H(CH3)2SiO1/2単位とSiO2単位との共重合体、H(CH3)2SiO1/2単位と(CH3)3SiO1/2単位とSiO2単位との共重合体や、これらのオルガノシロキサンの2種以上の混合物等が例示できる。
【0039】
上記組成物中、(B)成分の含有量は、(A)成分中のアルケニル基に対する(B)成分中のヒドロシリル基の個数の比が1/5~7となる範囲であることが好ましく、1/3~2となる範囲であることがより好ましく、2/5~1の範囲であることがさらにより好ましい。上記範囲内であれば組成物が十分に硬化し、組成物全体の硬さがより好適な範囲となり、本組成物の硬化物を使用する場合に割れが生じにくくなるほか、縦位置に基材を配置した場合にも組成物が垂れ下がらず、垂直方向の保持性を維持できるという利点がある。
1分子内のヒドロシリル基の数は、要求される硬化物の硬度や、(A)成分の分子量等に応じて適宜決定することができる。1分子内のヒドロシリル基の数は2個以上であればよく、加工性の観点から、2個以上5個以下がより好ましく、2個以上3個以下がさらにより好ましい。(B)成分として、直鎖状であり、分子鎖両末端に1個ずつのヒドロシリル基を有するものを使用する場合が、未硬化の組成物を塗布する際の加工性、作業性に最も優れている。
【0040】
(B)成分中のヒドロシリル基は、分子鎖末端にあってもよく、側鎖にあってもよく、分子鎖末端と側鎖の両方にあってもよい。分子鎖末端にのみ各1個のヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンと、分子鎖側鎖にのみヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンとを混合して使用してもよい。
【0041】
(B)成分は、分子鎖両末端にのみケイ素原子に結合している水素原子を有するオルガノポリシロキサンであってもよい。分子鎖両末端にヒドロシリル基を1つずつ有するオルガノポリシロキサンであれば、単位重量当たりのヒドロシリル基含有量が少なく、硬化反応の速度を十分なポットライフを確保できる範囲内に調整することが可能であり、硬化後に得られる硬化物の柔軟性が高まり、基材との密着性をより高められるという利点がある。
分子鎖末端にのみヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンは、立体障害が少ないことから反応性が高いという利点があり、側鎖にヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンは架橋反応によりネットワーク構築に寄与するため硬化物とした際の強度を向上させるという利点がある。硬化後の硬化物に柔軟性を付与するためには、分子鎖末端にのみヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンを使用するのが好ましい。
【0042】
(B)成分は、接着性および耐熱性向上の観点からは、分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基であるジメチルポリシロキサンが最も好ましい。
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基を有するもので、分子中に芳香族の基を少なくとも1個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含むこともできる。経済的な理由により芳香族の基としてはフェニル基であることがより好ましい。芳香族基含有オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、芳香族基を含まないオルガノハイドロジェンポリシロキサンを混合して用いることもできる。
【0043】
(B)成分の25℃における粘度は、10mPa・s以上10,000mPa・s以下であり、20mPa・s以上5,000mPa・s以下が好ましく、30mPa・s以上2,000mPa・s以下がさらに好ましい。
最終的な生成物である組成物の粘度調整のため、粘度の異なる2種類以上の、ヒドロシリル基を2個以上有するオルガノポリシロキサンを用いることもできる。熱伝導性シリコーン組成物の混合粘度は10Pa・s以上1,000Pa・s以下の範囲であってもよく、20Pa・s以上500Pa・s以下の範囲であればより好ましく、30Pa・s以上250Pa・s以下の範囲であればさらにより好ましい。
【0044】
本発明の組成物中、(A)成分および(B)成分の合計量を100質量部としたときの(B)成分のオルガノポリシロキサンの含有量は、10質量部以上80質量部未満であることが好ましく、20質量部以上60質量部未満であることがより好ましい。上記範囲内であれば、組成物の硬化後の硬さが適切な範囲となり、硬化後の硬化物は柔軟性及び頑強性を有することができる。
【0045】
((C)成分)
(C)成分は下記一般式(1)で表される水素化環状シロキサンである。
【化1】
上記一般式(1)において、nは4以上8以下の整数であり、Rは炭素数1以上6以下の一価炭化水素基である。(C)成分中のケイ素原子にはいずれも1つの炭化水素基と1つの水素原子が結合している。nが4以上8以下である水素化環状シロキサンであれば、少量であっても架橋密度を向上させることができると同時に、環状構造に起因する立体障害により硬化反応の速度を十分なポットライフが確保できる範囲で早くすることが可能である。
nが3以下であると、分子量が小さく揮発性が高いため、熱伝導性シリコーン組成物中の配合量が不安定となりやすい。またnが9以上である場合には、開環反応が起きやすく、環状構造そのものが不安定になりやすい。
【0046】
上記(C)成分を配合することにより、本発明の熱伝導性シリコーン組成物を基材上で常温(例えば10℃以上30℃以下)で硬化させた後に、硬化物が高温(例えば190℃)に暴露された場合に、常温硬化後と比較してショアOO硬度の変化を少なくすることが可能である(例えば変化率10%以内)。また熱膨張が比較的低く、硬化物と基材との間のボイドの発生を抑制することができる。
【0047】
分子鎖両末端にのみヒドロシリル基を有する直鎖状の低分子量のシロキサンを使用する場合と比較すると、上記(C)成分を使用する場合には硬化反応が十分に進行し、おおむね24時間以内で硬化反応が完了する。硬化反応完了後には高温に暴露されても硬化物の硬度変化が小さく、ボイドが生じにくい。
また、(C)成分は少量の添加で効果を発揮するため、相対的に多くの熱伝導性フィラーを配合可能となる。
【0048】
分子鎖両末端及び側鎖にヒドロシリル基を有し、分子内のヒドロシリル基の数が多い直鎖状のシロキサンを使用する場合には硬化反応の進行が早すぎて、基材への塗布が完了する前に硬化が開始してしまうという問題がある。そのような場合と比較すると、上記(C)成分は反応速度が遅く、基材等に塗布したのち、室温(例えば約23℃)において30分~1時間程度のポットライフを確保可能である。
さらに、本発明に使用される(C)成分の環状の水素化シロキサンであれば、架橋反応によりネットワークを形成したときの熱膨張係数が鎖状の場合よりも小さい。この点においても、ボイドの発生の抑制が可能である。
【0049】
ここで、室温でのポットライフとは、特に、温度23℃±5℃、湿度50%RH±5%RHの環境下にて熱伝導性シリコーン組成物を使用可能な時間である。使用可能な時間とは、容器に充填された未硬化の熱伝導性シリコーン組成物が2液型とした場合に、第1液と第2液とを混合した時から、熱伝導性シリコーン組成物の粘度が容器充填時の粘度の2倍となるまでの時間である。なお、本明細書内において記載する粘度は、23℃、特に記載がない場合はせん断速度:10/sで、回転粘度計(JIS K7117-2)により測定した値である。
【0050】
本発明の(C)成分として、n=4、5、6、7、または8であるいずれか1種のみを配合しても良く、n=4以上8以下の成分を2種以上混合して配合しても良い。
n=5、6および7の3種を混合して配合してもよく、n=4、5、6および7の4種を混合して配合してもよい。特に、複数の(C)成分を使用する場合にはn=5およびn=6である(C)成分を多く配合することが好ましい。
例えば、(C)成分の合計量を100質量部とした場合に、n=4である(C)成分を0質量部以上10質量部未満、n=5である(C)成分を10質量部以上70質量部未満、n=6である(C)成分を10質量部以上70質量部未満、n=7である(C)成分を0質量部以上30質量部未満、n=8である(C)成分を0質量部以上10質量部未満の割合で含むことができる。
【0051】
本発明の(C)成分として、1,3,5,7,9-ペンタメチルシクロペンタシロキサン(HD5)および1,3,5,7,9,11-ヘキサメチルシクロヘキサシロキサン(HD6)を含むことが特に好ましい。
【0052】
(C)成分の配合量は、必要な架橋密度や硬化速度に応じて適宜選択することができるが、(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、0.5質量部以上1.8質量部以下となる範囲であることが好ましい。0.6質量部以上1.5質量部以下であればより好ましく、0.7質量部以上1.3質量部以下であれば、さらにより好ましい。上記範囲であれば、高温暴露後にも硬化物の硬度変化が小さく、基材と硬化物が良好に接着可能なため、熱伝導性に優れた(例えば、5.0W/m・K以上の熱伝導度を有する)硬化物が形成可能である。
【0053】
(C)成分が0.5質量部未満であると、基材に塗布した際の硬化反応の進行が不十分となり、高温に暴露されると未硬化であった官能基部分が反応し硬化して急激に硬化物の硬度が上昇し、ボイド発生の要因となり、その結果熱伝導性が低下する。
(C)成分が1.8質量部より多い場合、相対的に(E)成分の熱伝導性フィラーの含有量が減少し、その結果として硬化物の熱伝導性が低下する。
【0054】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物において、上記(A)成分と上記(B)成分との質量の比((A)成分の質量:(B)成分の質量)は、80:20~50:50の範囲であり、上記(A)成分と上記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、(C)成分である上記HD5と上記HD6の合計量が0.5質量部以上1.5量部以下であることが最も好ましい。
上記の全ての条件を満たす範囲内であれば、硬化物の硬度が好適な範囲となり、硬化物をギャップフィラーとして使用する場合に振動の吸収性も良好である。
【0055】
((D)成分)
(D)成分の付加反応触媒は、上述した(A)成分におけるケイ素原子に結合しているアルケニル基と、上述した(B)成分におけるケイ素原子に結合している水素原子との付加硬化反応を促進する付加反応触媒であって、当業者には公知の触媒である。(D)成分としては、例えば、白金、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、ルテニウムなどの白金族金属、または、これらを微粒子状の担体材料(例えば、活性炭、酸化アルミニウム、酸化ケイ素)に固定したものが挙げられる。
さらに、(D)成分としては、白金ハロゲン化物、白金-オレフィン錯体、白金-アルコール錯体、白金-アルコラート錯体、白金-ビニルシロキサン錯体、ジシクロペンタジエン-白金ジクロライド、シクロオクタジエン-白金ジクロライド、シクロペンタジエン-白金ジクロライド等の白金化合物が挙げられる。
【0056】
また、経済的な観点から、上述したような白金族金属以外の金属化合物触媒を(D)成分として用いてもよい。例えば、ヒドロシリル化鉄触媒としては、鉄-カルボニル錯体触媒、シクロペンタジエニル基を配位子として有する鉄触媒、ターピリジン系配位子や、ターピリジン系配位子とビストリメチルシリルメチル基を有する鉄触媒、ビスイミノピリジン配位子を有する鉄触媒、ビスイミノキノリン配位子を有する鉄触媒、アリール基を配位子として有する鉄触媒、不飽和基を有する環状または非環状のオレフィン基を有する鉄触媒、不飽和基を有する環状または非環状のオレフィニル基を有する鉄触媒などが挙げられる。その他、ヒドロシリル化のコバルト触媒、バナジウム触媒、ルテニウム触媒、イリジウム触媒、サマリウム触媒、ニッケル触媒、マンガン触媒などが例示される。
【0057】
(D)成分の配合量は用途により所望される硬化温度や硬化時間に応じた有効量が用いられるが、通常、熱伝導性シリコーン組成物の合計質量に対して、触媒金属元素の濃度として好ましくは0.5ppm以上1,000ppm以下、より好ましくは1ppm以上500ppm以下、より一層好ましくは1ppm以上100ppm以下の範囲である。配合量が0.5ppm未満の場合は、付加反応が著しく遅くなり、一方、配合量が1,000ppmを超えるとコストが上昇するため経済的に好ましくない。
【0058】
((E)成分)
(E)成分の熱伝導性フィラーは、組成物の熱伝導率を向上させるための充填材成分である。本発明で使用される熱伝導性フィラーは、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、および金属炭化物の中から選択される少なくとも1種または2種以上である。熱伝導性フィラーの比表面積や粒径は、熱伝導性シリコーン組成物に求められる特性に応じて適宜選択することができ、特に限定されず、例えばBET比表面積が30m2/g以下であり、平均粒径が1~100μmであってもよい。熱伝導性フィラーの表面には、大気中の水分と反応することによりOH基が生成していてもよい。表面OH基により、熱伝導性フィラーが(C)成分との相互作用により熱伝導性シリコーン組成物中に均一に分散し、長期間貯蔵した場合にも沈降しにくいという特性を発揮する。これは(C)成分のシラノール基と、熱伝導性フィラー表面のOH基による水素結合と、(A)成分、(B)成分、および(C)成分がいずれもシロキサン骨格を有し相溶性が高いことに起因すると推定される。
【0059】
熱伝導性フィラーは、硬化物の熱伝導性を高く(例えば5.0W/m・K以上)するために必要となる量が配合されていればよく、例えば(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部としたときに、(E)成分の含有量は、300質量部以上2,500質量部以下が好ましく、400質量部以上2,000質量部以下がより好ましく、500質量部以上1,800質量部以下がさらにより好ましい。
上記範囲内であれば、組成物全体として十分な熱伝導率を有し、配合時に混合しやすく、硬化後にも柔軟性が維持され、さらに比重も大きくなりすぎないことから、熱伝導性と軽量化が求められる硬化物を形成するための組成物としてより好適である。(E)成分の含有量が少なすぎると、得られる組成物の硬化物の熱伝導率を十分に高めることが困難となり、一方、成分(E)の含有量が多すぎると組成物は高粘度になり、組成物を均一に塗布することが困難となるおそれがあり、また硬化後の組成物の熱抵抗値の上昇、柔軟性の低下といった問題が生じる場合がある。
【0060】
熱伝導性フィラーの形状は、例えば、球状、不定形、微粉末、繊維状、鱗片状等であってもよい。硬化物の熱伝導性を高くするために必要な量の熱伝導性フィラーを配合するためには、熱伝導性フィラーの形状は球状であることが好ましく、平均粒径は1~100μmであってもよい。ここでいう球状とは、真球状のみならず、丸み状であってもよい。
熱伝導性フィラーのBET比表面積は特に限定されず、例えば0.01m2/g以上500m2/g以下であってもよく、0.03m2/g以上50m2/g以下であれば好ましく、0.05m2/g以上10m2/g以下であればさらにより好ましい。
【0061】
熱伝導性フィラーは、熱伝導率が10W/m・K以上であることが好ましい。熱伝導率が10W/m・K未満であると、熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率そのものが小さくなるおそれがある。
特に、硬化物に電気絶縁性が必要な場合は、非導電性の熱伝導性フィラーを選択することが考えられる。
【0062】
(E)成分は、金属酸化物、金属水酸化物、窒化物、またはこれらの混合物であってもよく、両性水酸化物または両性酸化物であってもよく、具体的には、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、窒化ホウ素の中から選択される少なくとも1種又は2種以上を用いることが好ましく、水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムから選択される少なくとも1種を含有することがより好ましい。
なお、酸化アルミニウムは絶縁材料であり、(A)成分および(B)成分との相溶性が比較的良好であり、工業的に広範囲な粒径の品種が選択可能であり、資源的に入手が容易であり、比較的安価で入手可能であることから、熱伝導性フィラーとして好適である。
(E)成分として球状酸化アルミニウムを用いる場合には、高温溶射法あるいはアルミナ水和物の水熱処理により得られるα-アルミナを使用してもよい。
【0063】
(E)成分の平均粒径は特に限定されず、1μm以上100μm以下の範囲であってもよく、2μm以上80μm以下がより好ましく、2μm以上70μm以下がさらにより好ましい。平均粒径が小さすぎると、組成物の流動性が低下し、平均粒径が大きすぎるとディスペンス性が低下する上、塗布装置の摺動部分に挟まり、装置の削れなどの問題発生のおそれがある。なお、本発明において、(E)成分の平均粒径は、レーザー回折式粒度測定装置で測定された体積基準累積粒度分布における50%粒子径であるD50(又はメジアン径)である。
【0064】
(E)成分として、球状の熱伝導性フィラーを使用してもよく、不定形、粉末状、繊維状、板状等の球状以外の熱伝導性フィラーを併用してもよい。形状が異なる少なくとも2種以上の熱伝導性フィラーを併用すると、最密充填に近い状態で充填でき、熱伝導性がより高くなる効果が得られる。球状と球状以外の熱伝導性フィラーを併用する場合、(E)成分全体を100質量%とした場合の、球状熱伝導性フィラーの割合は30質量%以上とすると、より熱伝導性を高めることが可能となる。
【0065】
本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物には、(E)成分以外のフィラーをさらに配合することもできる。(E)成分以外のフィラーとしては、例えば、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ、沈降性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、カーボンブラック、ケイ藻土、ガラス繊維、シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー等の非熱伝導性を有するフィラーや、熱伝導性フィラーであるがBET比表面積が500m2/g以上の物が挙げられる。
ここで、BET比表面積が500m2/gを超えるフィラーを配合すると組成物の粘度が高くなり、また硬化後の組成物と基材との密着性が悪くなり、柔軟性も低下する傾向にある。その結果放熱性が低下するおそれがある。また、かさ高いフィラーの高充填は組成物内のシリコーンゴム分子の運動が妨げられるために復元性が悪くなる。よって、本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物では、BET比表面積が500m2/g以上であるフィラーの含有量が、(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部としたときに、3質量部以下とする必要がある。
なお、本発明において、(E)成分のBET比表面積は、粒子を低温状態にした時に粒子表面に物理吸着したガス量を測定し比表面積を計算した値である。
【0066】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、さらに、上記(A)~(E)成分以外のさらなる任意成分として、シリコーンゴム、ゲルへの添加物として従来公知のものを使用することができる。このような添加物としては、架橋剤、加水分解によりシラノールを生成する有機機ケイ素化合物またはオルガノシロキサン(シランカップリング剤ともいう)、縮合触媒、接着助剤、顔料、染料、硬化抑制剤、耐熱付与剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、気密性向上剤、放射線遮蔽剤、電磁波遮蔽剤、防腐剤、安定剤、有機溶剤、可塑剤、防かび剤、あるいは、1分子中に1個のケイ素原子結合水素原子またはアルケニル基を含有し、他の官能性基を含有しないオルガノポリシロキサンや、ケイ素原子結合水素原子およびアルケニル基を含有しない無官能性のオルガノポリシロキサンが例示され、これらのさらなる任意成分は、1種を単独で使用してもよく、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
(架橋剤)
本発明の熱伝導性シリコーン組成物では(C)成分が架橋剤として作用するため、別途の架橋剤を配合しなくてもよいが、任意で別途の架橋剤を配合しても良い。架橋剤としては、(B)成分、(C)成分以外のオルガノハイドロジェンポリシロキサン使用することができる。架橋剤はアルケニル基と付加反応することにより硬化物を形成するものであり、分子中の側鎖に少なくとも1個以上のケイ素原子に結合した水素原子(ヒドロシリル基)を有するものであってもよい。架橋剤は、好ましくは1分子中のヒドロシリル基の数が3個以上であり、かつ、分子中の側鎖に少なくとも1個のヒドロシリル基を有するものである。
本発明において使用しうる架橋剤としては、ヒドロシリル基を5個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンがより好ましく、10個以上15個以下有するものであってもよい。架橋剤であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、その側鎖に少なくとも2個のヒドロシリル基を有するものである。分子鎖末端のヒドロシリル基の数は0個以上2個以下であることができるが、2個であることが経済的には好ましい。オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよい。水素原子が結合するケイ素原子の位置は特に制約はなく、分子鎖の末端でも非末端、側鎖でもよい。その他の条件、ヒドロシリル基以外の有機基、結合位置、重合度、構造等については特に限定されず、また2種以上のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用してもよい。
【0068】
上記の通り別途の架橋剤は必ずしも配合する必要はないが、配合する場合の配合量は、例えば(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部としたときに、0質量部超10質量部以下であってもよく、1質量部以上6質量部以下がより好ましく、1質量部以上4質量部以下がさらにより好ましい。
【0069】
(シランカップリング剤)
シランカップリング剤としては、1分子中にエポキシ基、アルキル基、アリール基、ビニル基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、イソシアヌレート基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、酸無水物等の有機基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物またはオルガノシロキサンが挙げられる。シランカップリング剤の一例としてオクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシラン,ドデシルトリメトキシシラン,ドデシルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物等のシラン化合物がある。前記シラン化合物は、ヒドロシリル基を有しない化合物であってもよく、一種又は二種以上混合して使用することができる。前記シランカップリング剤で熱伝導性フィラーの表面を処理することにより、シリコーンポリマーとの親和性が良くなり、組成物の粘度を下げることができ、熱伝導性フィラーの充填性を向上させることが可能となる。したがってより多くの熱伝導性フィラーを配合することで、熱伝導率を向上することが可能である。
【0070】
加水分解により生成したシラノールは金属基材または有機樹脂基材の表面に存在する縮合性基(例えば、水酸基、アルコキシ基、酸基等)と反応・結合し得るものであり、後述する縮合触媒の触媒効果によりシラノールと縮合性基とが反応・結合することにより、硬化物の各種基材への接着を進行させる。
シランカップリング剤の熱伝導性フィラーに対する配合量は用途により所望される硬化温度や硬化時間に応じた有効量が用いられるが、通常、熱伝導性フィラーに対して0.5wt%以上2wt%以下が一般的な最適量であるが、必要量の目安として次の式により計算され、1~3倍量配合してもよい。
シランカップリング剤の必要量(g)=熱伝導性フィラー質量(g)×熱伝導性フィラーの比表面積(m2/g)÷シランカップリング剤の固有の最小被覆面積(m2/g)
【0071】
(縮合触媒)
必要に応じて、上記シランカップリング剤と共に縮合触媒を使用してもよい。縮合触媒としては、マグネシウム、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、タングステン、ビスマスから選ばれる金属の化合物等が使用できる。アルミニウム三価、鉄三価、コバルト三価、亜鉛二価、ジルコニウム四価、ビスマス三価の有機酸塩、アルコキシド、キレート化合物等の金属化合物が好ましく挙げられる。例えば、オクチル酸、ラウリン酸、ステアリン酸等の有機酸、プロポキシド、ブトキシド等のアルコキシド、カテコール、クラウンエーテル、多価カルボン酸、ヒドロキシ酸、ジケトン、ケト酸等の多座配位子キレート化合物が挙げられ、一つの金属に複数種類の配位子が結合していてもよい。特に、配合や使用条件が多少異なっても安定した硬化性が得られ易いジルコニウム、アルミニウム、鉄の化合物が好ましく、更に望ましい化合物は、ジルコニウムのブトキサイド、または、マロン酸エステル、アセト酢酸エステル、アセチルアセトン、それらの置換誘導体等を多座配位子としたアルミニウム又は鉄の三価キレート化合物である。アルミニウム三価、鉄三価の金属化合物では更にオクチル酸等の炭素数5~20の有機酸も好ましく使用でき、上述の多座配位子と有機酸とが一つの金属に結合している構造でもよい。
【0072】
上記置換誘導体としては、上記化合物中に含まれる水素原子をメチル基、エチル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基等のアリール基、塩素原子、フッ素原子等のハロゲン原子、水酸基、フルオロアルキル基、エステル基含有基、エーテル含有基、ケトン含有基、アミノ基含有基、アミド基含有基、カルボン酸含有基、ニトリル基含有基、エポキシ基含有基等で置換したものであって、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオーネ、ヘキサフルオロペンタンジオーネを挙げることができる。
【0073】
(接着助剤)
接着助剤としては、その分子内に有機官能基を有する有機ケイ素化合物またはオルガノシロキサンなどが好ましい。有機官能基としては、ケイ素原子結合アルコキシ基であることが好ましい。ケイ素原子結合アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が挙げられる。ケイ素原子結合アルコキシ基を含むシリル基としては例えば、メチルジメトキシシリル基、エチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基などのアルキルジアルコキシシリル基が好ましい。この場合、アルキレン基などの他の基を介してケイ素原子に結合していてもよい。
これ以外の基として含まれうる有機基としては、例えば、ビニル基などのアルケニル基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロキシ基、ヒドロシリル基、イソシアネート基、エポキシ基、アルキル基、アリール基、などが挙げられる。好ましくは、少なくとも1個の有機基(例えばエポキシ基、アルキル基、アリール基など)と、少なくとも2個以上のケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物またはオルガノシロキサンがより好ましい。
他の有機基としてエポキシ基が含まれる場合、炭素数1~20の直鎖状または分岐状のアルキル基、または芳香環をもつエポキシ基であり得、1分子中に2~3個のエポキシ基を含有しうる。エポキシ基含有基の例としては、グリシドキシプロピル基などのグリシドキシアルキル基、2,3-エポキシシクロヘキシルエチル基、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル基などのエポキシ含有シクロヘキシルアルキル基などの形でケイ素原子に結合している基が挙げられる。
【0074】
接着助剤として具体的にはテトラエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランのオリゴマー、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランのオリゴマー、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランや3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのメタクリロキシシランや、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、ジヒドロ-3-(3-(トリエトキシシリル)プロピル)-2,5-フランジオンなどのフランジオンなどが挙げられる。
【0075】
(顔料)
顔料としては、酸化チタン、アルミナケイ酸、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、カーボンブラック、希土類酸化物、酸化クロム、コバルト顔料、群青、セリウムシラノレート、アルミニウムオキシド、アルミニウムヒドロキシド、チタンイエロー、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム等、および、これらの混合物が例示される。
顔料の配合量は用途により所望される硬化温度や硬化時間に応じた有効量が用いられるが、通常、熱伝導性シリコーン組成物の合計質量に対して、顔料成分の配合量は0.001%から5%の範囲が望ましい。好ましくは0.01%以上2%以下、より好ましくは0.05%以上1%以下、の範囲である。配合量が0.001%未満の場合は、着色が不十分であり、第1液と第2液を視覚的に区別することが困難となる。一方、配合量が5%を超えるとコストが上昇するため経済的に好ましくない。
【0076】
(硬化抑制剤)
硬化抑制剤としては、付加反応の硬化速度を調整する能力を有するものであり、アセチレン系化合物、ヒドラジン類、トリアゾール類、フォスフィン類、メルカプタン類が例示され、硬化抑制効果を持つ化合物として当該技術分野で従来公知の硬化抑制剤はすべて使用することができる。かかる化合物としては、トリフェニルホスフィン等のリン含有化合物、トリブチルアミンやテトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール等の窒素含有化合物、硫黄含有化合物、アセチレン系化合物、アルケニル基を2個以上含有する化合物、ハイドロパーオキシ化合物、マレイン酸誘導体などが例示される。また、アミノ基を有する、シランおよびシリコーン化合物を使用してもよい。
【0077】
硬化抑制剤の配合量は用途により所望される硬化温度や硬化時間に応じた有効量が用いられるが、通常、(A)成分および(B)成分の合計量を100質量部としたとき、0.1質量部から15質量部の範囲が望ましい。好ましくは0.2質量部から10質量部の範囲、より好ましくは0.5質量部から5質量部の範囲である。0.1質量部未満であると付加反応が著しく速くなり、塗布作業性中に硬化反応が進行し、作業性を悪化させるおそれがある。一方10質量部を超えると、付加反応が遅くなり、ポンプアウトの発生のおそれがある。
【0078】
硬化抑制剤は、具体的には、3-メチル-3-ペンテンー1-イン、および3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-インのような各種の「エン-イン」システム;3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、および2-フェニル-3-ブチン-2-オールのようなアセチレン性アルコール;周知のジアルキル、ジアルケニル、およびジアルコキシアルキルフマラートおよびマレアート;およびシクロビニルシロキサンを含有するものが例示される。
【0079】
特にギャップフィラー用途においては、組成物は室温で硬化が進行することが好ましい。このような場合には、低粘度(例えば粘度100mPa・s以下)であり、3個以上のビニル基を有するシリコーン化合物が硬化抑制剤として好適に用いられる。
【0080】
(耐熱付与剤)
耐熱付与剤としては、水酸化セリウム、酸化セリウム、酸化鉄、ヒューム二酸化チタン等、および、これらの混合物が例示される。
【0081】
(気密性向上剤)
気密性向上剤としては、硬化物の通気性を低下させる効果を有するものであればいかなるものでもよく、有機物、無機物を問わず、具体的にはウレタン、ポリビニルアルコール、ポリイソブチレン、イソブチレン-イソプレン共重合体や、板状形状を有するタルク、マイカ、ガラスフレーク、ベーマイト、各種金属箔や金属酸化物の粉体、および、これらの混合物が例示される。
【0082】
本発明の組成物は、1分子内にアルケニル基と、ケイ素原子に結合しているアルコキシ基をそれぞれ1つ以上有する有機ケイ素化合物を含まないものであってもよい。同一分子内にアルケニル基と、ケイ素原子に結合しているアルコキシ基を有する化合物が含まれると、当該化合物は基材と本発明の組成物の硬化物であるギャップフィラーとを接着させる成分として働く。このような成分を含まない本発明の組成物であれば、高温に暴露され、硬化物が基材からはがれるときに、バッテリー等の変形、破壊等をより軽減させることが可能となる。
【0083】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、テトラデカメチルシクロヘプタシロキサン(D7)、ヘキサデカメチルシクロオクタシロキサン(D8)からなる群から選択されるいずれか1種または2種以上を含んでいてもよい。
上記(D4)、(D5)、(D6)、(D7)および(D8)の含有量合計は、前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、0.1質量部未満(すなわち1,000ppm未満)であってもよい。
熱伝導性シリコーン組成物中の(D4)~(D8)の含有量合計が上記範囲内であれば、該組成物全体としての引火点が高くなり、貯蔵中の安全性を向上させることが可能となる。また、該組成物を硬化させて得られる硬化物について、電子部品等への接点障害を起こしにくい硬化物を提供することが可能となる
上記(D4)~(D8)の含有量の合計が、(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、0.1質量部未満である熱伝導性シリコーン組成物は、(D4)~(D8)の含有量合計xAが0.1質量部未満である(A)成分と、(D4)~(D8)の含有量合計xBが0.1質量部未満である(B)成分と、(D4)~(D8)の含有量合計xCが0.1質量部未満である(C)成分とを、xA+xB+xC<0.1質量部となるように使用することにより製造することが可能である。
(D4)~(D8)の含有量はガスクロマトグラフィーにより測定される。ガスクロマトグラフィーの測定条件は従来公知の方法に従い適宜選択されればよい。
【0084】
(D4)、(D5)、(D6)、(D7)、(D8)の含有量が少ない(A)成分、(B)成分、および(C)成分を使用することにより、(D4) ~(D8)の含有量を上記範囲とすることができる。(A)~(C)成分中の(D4)~(D8)の含有量を減らす手法としては、加熱及び減圧処理を行う方法が広く知られており、例えば、(A)~(C)成分の原料作製時に180℃、20mmHgにて8h程度の加熱減圧処理を行うことが望ましい。
【0085】
本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物を硬化して得られる硬化物は、下記硬度変化率評価方法による硬度変化率が10%以下であり、
前記硬化物の、下記熱伝導率測定方法による熱伝導率が5.0W/m・k以上でありうる。
<硬度変化率評価方法>
23℃、24時間で硬化させて得られた硬化物を、ショアOO硬度デュロメーターを使用してASTM D 2240標準規格に従ってショアOO硬度を測定する。これを初期ショアOO硬度とする。
23℃、24時間で硬化させて得られた硬化物を、190℃で500時間暴露後に、23℃まで降温し、ショアOO硬度デュロメーターを使用してASTM D 2240標準規格に従ってショアOO硬度を測定する。これを高温暴露後ショアOO硬度とする。
初期ショアOO硬度に対する高温暴露後ショアOO硬度の変化率を算出する。
<熱伝導率測定方法>
熱伝導性シリコーン組成物を、直径30mm×高さ6mmの円柱状にプレス成型した後、23℃、24時間の条件で硬化させ、円柱状の硬化物を作製する。前記硬化物の熱伝導率をISO 22007-2に準拠したホットディスク法により熱伝導率を測定する。
【0086】
ここで、硬度とは、特定の条件下で測定されたとき、永続的な押し込みに対する抵抗性をいう。例えば硬度ShOOとして又はショアスケールOO硬度としても言及されるショアOO硬度は、ショアOO硬度デュロメーターを使用してASTM D 2240標準規格に従って決定される。
【0087】
本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物は、付加硬化型組成物であり、1液型組成物としてもよいが、2液型組成物としてもよい。1液型の場合には、加熱硬化により硬化させる組成物にする等の工夫により、貯蔵性を向上させることができる。
第1液と第2液とのセットとして構成される2液型組成物の場合には、これらの工夫なしに貯蔵安定性をさらに向上させることが可能になり、室温(例えば23℃)で硬化する組成物とすることが容易である。その場合、本発明に係る組成物を例えば次のように第1液と第2液とに分配することができる。
【0088】
第1液は(B)成分を含まず、(D)成分を含むことを特徴とし、第2液は(B)成分および(C)成分を含み、(D)成分を含まないことを特徴とする。(A)成分、(E)成分および任意に配合される成分は第1液、第2液のいずれに配合されていてもよく、第1液と第2液の両方に配合されていても良い。
(D)成分と、(B)および(C)成分が別々の液に含まれる構成であれば、本願の熱伝導性シリコーン組成物の各成分が3液以上に分配されている多液型組成物としてもよい。
【0089】
したがって、本発明の2液型熱伝導性シリコーン組成物の製造方法は、
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、(D)成分の付加反応触媒と、(E)成分の熱伝導性フィラーと、を混合して第1液を得る第一工程と、
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、(B)成分の1分子中にヒドロシリル基を2個以上有する直鎖状のオルガノポリシロキサンと、(C)成分の水素化環状シロキサンと、(E)成分の熱伝導性フィラーと、を混合して第2液を得る第二工程と、
を含む方法であってもよい。
【0090】
第1液と第2液へ分配される各成分の量は、第1液に(D)成分を、第2液に(B)および(C)成分を分配する点以外には特に限定されない。例えば、第1液と第2液とを当量混合して使用する場合においては、第1液に分配する(A)成分の量を100質量部とした場合に次の通りとすることができる。なお、第1液と第2液の量比は用途に応じて任意に設定することが可能である。
【0091】
(第1液)
(A)成分:100質量部
(D)成分:15ppm以上30、000ppm以下
(E)成分:500質量部以上3,000質量部以下
(任意成分)
シランカップリング剤:熱伝導性フィラーに対して0wt%以上2wt%以下
縮合触媒:0質量部以上20質量部以下
硬化抑制剤:0質量部以上20質量部以下
顔料:0質量部以上20質量部以下
【0092】
(第2液)
(A)成分:0質量部以上80質量部以下
(B)成分:20質量部以上100質量部以下
(C)成分:0.5質量部以上1.8質量部以下
(E)成分:500質量部以上3,000質量部以下
(任意成分)
架橋剤:0質量部以上10質量部以下
シランカップリング剤:熱伝導性フィラーに対して0wt%以上2wt%以下
顔料:0質量部以上20質量部以下
なお、顔料は第1液、第2液のいずれに入れても良く、両方に入れても良い。
【0093】
本発明はまた、上記の第1液と前記第2液とを混合して熱伝導性シリコーン組成物を得る混合工程と、
前記混合工程で得られた熱伝導性シリコーン組成物を放熱体と発熱体との間隙に充填する充填工程と、
前記充填工程で充填した未硬化の熱伝導性シリコーン組成物を硬化させる硬化工程と、
を含む、ギャップフィラーの製造方法も提供する。
【0094】
充填工程では、組成物は未硬化の状態で発熱体と放熱体との間隙(例えば、ヒートシンクとリアクトルまたはリアクトルを収納する筐体との間隙)に充填されることにより基材(発熱体や放熱体の表面)に塗布される。充填工程が0℃以上60℃以下の常温で実施された場合、充填後概ね120分以内に非流動性の硬化物を形成する(硬化工程)。
充填工程の温度は特に限定されず、例えば0℃以上30℃以下の温度であってもよい。基材等への熱ダメージを軽減させるため、10℃以上30℃以下の温度としてもよい。特に、基材が耐熱性の低いポリカーボネートやPETである場合には、加熱を行わないことが好ましい。
【0095】
硬化工程は加熱をせずに常温(10℃以上30℃以下の温度)で実施されても良いが、加熱硬化性組成物である場合には、基材等に組成物を塗布したのちに加熱してもよく、放熱部材の放熱を利用して硬化させてもよい。加熱硬化させる場合の温度は、例えば40℃以上180℃以下であってもよく、50℃以上150℃以下であってもよい。
【0096】
熱伝導性シリコーン組成物が適応される基材は特に限定されず、例えばセラミックス、樹脂、ガラス、及びアルミニウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、チタン、ステンレス、銅、鉛、亜鉛、モリブデン、シリコンから選択される金属、エナメル被覆されたこれらの金属が挙げられる。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物が硬化して接着するセラミックス基材は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、アルミナジルコニア、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、酸化ベリリウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、などそのほか、酸化物、炭化物、窒化物であることが好ましい。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物が硬化して接着する樹脂基材は、ポリエステル、エポキシ、ポリアミド、ポリイミド、エステル、ポリアクリルアミド、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、スチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、アクリル、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびシリコーンから選択される樹脂基材であることが好ましい。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物が硬化して得られる硬化物が、バッテリーユニット用ギャップフィラーである場合、接着する基材であるバッテリーユニット筐体は、基材表面がカチオン電着塗装により少なくとも一部を被覆された鉄表面を有してもよく、ヒートシンクとしてはアルミニウム表面を有してもよい。
熱伝導性シリコーン組成物は、放熱体に塗布された後に組成物を挟むように発熱体を配置してもよく、発熱体に塗布したのちに組成物を挟むように放熱体を配置してもよく、発熱体と放熱体の間の空隙に組成物を注入してもよい。
【0097】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の硬化物をギャップフィラーとして用いると、良好な放熱特性を有するギャップフィラーにより発熱体で生じた熱を放熱体、例えばヒートシンクへと拡散させることが可能であり、放熱特性の優れたパワーコントロールユニットが形成可能である。
【0098】
本発明はまた、(A)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、(B)である1分子中にヒドロシリル基を2個以上有する直鎖状のオルガノポリシロキサンと、(D)成分である付加反応触媒と、(E)成分である熱伝導性フィラーと、を含む熱伝導性シリコーン組成物中に、(C)成分である1,3,5,7,9-ペンタメチルシクロペンタシロキサン(HD5)および1,3,5,7,9,11-ヘキサメチルシクロヘキサシロキサン(HD6)より選択される少なくとも1種を含む水素化環状シロキサンを配合することにより、前記熱伝導性シリコーン組成物を基板に塗布して硬化させて得られる硬化物が190℃以上の高温に暴露された後に、前記硬化物と前記基材との接着部におけるボイドの発生を抑制する方法も包含する。
【実施例0099】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。実施例および比較例の各成分の配合比と、評価結果を表1に示す。表1中に示す配合比の数値は質量部を示す。表1に示す水素含有量は、第1液または第2液の(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部としたときの水素含有量(質量%)である。
【0100】
<作業性評価>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、各組成物を作製した。各組成物の、23℃、せん断速度:1/sまたは10/sにおける粘度を、回転粘度計(JIS K7117-2)により測定した。
せん断速度:1/sにおける粘度が1,000Pas未満であり、かつ、せん断速度:10/sにおける粘度が200Pas未満である場合に、作業性は良好であると評価した。
【0101】
<熱伝導性評価>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、これを、直径30mm×高さ6mmの円柱状にプレス成型した後、23℃、24時間の条件で硬化させ、円柱状の硬化物を作製した。硬化物の熱伝導率はISO 22007-2に準拠したホットディスク法により測定する機械[TPS-500、京都電子工業(株)製]を用いて測定した。上記で作成した2個の円柱状の硬化物にセンサーを挟み、上記装置で熱伝導率を測定した。
熱伝導率は5.0W/m・k以上であることが好ましい。
【0102】
<硬度変化率評価>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、これを、直径30mm×高さ6mmの円柱状にプレス成型した後、23℃、24時間の条件で硬化させ、円柱状の硬化物を作製した。硬化物のショアOO硬度は、上記で作成した2個の円柱状の硬化物にセンサーを挟みASTM D 2240標準規格に従って、ショアOO硬度デュロメーター[型番GS754、テクロック社製]を用いて測定した。これを「ショアOO硬度(初期)」とした。
上記と同様に23℃、24時間の条件で硬化させた後、190℃に500時間暴露した硬化物のショアOO硬度を上記条件で測定した。これを「ショアOO硬度(高温暴露後)」とした。
「ショアOO硬度(初期)」を基準にした場合に、「ショアOO硬度(高温暴露後)」の硬度変化率が10%以下である場合に、高温暴露後の硬度変化が小さいと評価した。
【0103】
<せん断接着応力の測定方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行った。これを縦約60cm×横約25cm×厚み2mmのアルミ板を基材とし、縦約25mm、横約25mmの面積で、厚み約1mmで第一基材に塗布し、もう一方の基材で挟み、23℃で24時間で硬化させた。これを高温暴露前の試験片とした。
高温暴露前の試験片を190℃で500時間暴露したものを、高温暴露後の試験片とした。
高温暴露前または高温暴露後のせん断接着強さは、JIS K6850に準拠し、各試験片のせん断引張強度を測定することにより評価した。せん断引張強度は、島津製作所製オートグラフを使用し、23℃の環境下で測定した。その後、前記第1基材および前記第2基材をせん断方向に、速度50mm/分で引っ張り、2枚の前記基材が剥がれた際の応力をせん断接着強さとした。
高温に暴露する前は、基材への密着性が必要なため、高温暴露前のせん断接着強さは0.1MPa以上が好ましい。高温暴露後のせん断接着強さも0.1MPa以上であることが好ましい。
【0104】
<ボイド発生評価>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行った。これを縦約60cm×横約60cm×厚み2mmのガラス板2枚を基材とし、縦約25mm、横約25mmの面積で、厚み約2mmで一方のガラス板基材に塗布し、これをもう一方の基材で挟み、23℃で24時間で硬化させた。
ボイド発生評価は、上記試験片を190℃で500時間暴露し、高温暴露後に硬化物におけるボイドの有無を確認した。目視にて空隙、亀裂等があればボイドあり(Y),無ければボイドなし(N)と判断した。
【0105】
<外観評価方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行った。これを縦約60cm×横約60cm×厚み2mmのガラス板2枚を基材とし、縦約25mm、横約25mmの面積で、厚み約2mmで一方のガラス板基材に塗布し、もう一方の基材で挟み、23℃で24時間で硬化させた。
外観評価は、上記試験片を190℃で500時間暴露し、高温暴露後に硬化物の外観変化の有無を確認することにより実施した。目視にて黄変(高温暴露前との比較において黄色く変色している状態)があれば黄変あり(Y),無ければ黄変なし(N)と判断した。
【0106】
<ポットライフ評価方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、これを、JIS K 7117―2に従い、25℃における粘度を測定した。具体的には直径25mmのパラレルプレート間に上記未硬化の組成物を乗せ、せん断速度10(1/s)、ギャップ0.5mmで粘度をAnton Paar社製 Physica MR 301で測定し、初期粘度に対して粘度が2倍になった時間をポットライフとした。
【0107】
<低分子環状シロキサン量の評価方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、これを、100mm×100mm×高さ6mmの板状にプレス成型した後、23℃、24時間の条件で硬化させ、硬化物を作製した。この硬化物を0.3g秤量し、サンプルバイアル瓶にいれたアセトン10ml中に入れ、密閉し、12時間かけて抽出を行った。この抽出溶液を使用し、ガスクロマトグラフを用いて、低分子環状体(オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、テトラデカメチルシクロヘプタシロキサン(D7)、およびヘキサデカメチルシクロオクタシロキサン(D8))を計量した。
【0108】
<熱伝導性シリコーン組成物の硬化物の作製方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液とを、表に示す組成に従い、それぞれ以下の手順により作成した。表に示す各成分の配合比の単位は質量部である。
【0109】
[実施例1~4、比較例1~2の第1液]
(A)成分として、アルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン、(D)成分の付加反応触媒として、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、をそれぞれ計量し加え、プラネタリミキサーを用いて室温で30分間混練りした。
(A)成分は両末端にのみアルケニル基を各1個有し、粘度が120mPa・sである直鎖のジメチルポリシロキサンである。
その後、(E)成分として熱伝導性フィラー(平均粒径80μmの球状アルミナと平均粒径5μmの球状アルミナと平均粒径0.4μmの不定形状アルミナを7:2:1で混合したもの)の半量を加え、プラネタリミキサーを用いて室温で15分間混練りした。
熱伝導性フィラーの残りの半量を加え、プラネタリミキサーを用いて室温で15分間混練りし、第1液を作製した。
【0110】
[実施例1~4、比較例1~2の第2液]
(A)成分として、第1液と同じアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン、(B)成分として、両末端に水素原子各1個を有する粘度が70mPa・sである直鎖状ジメチルポリシロキサン、(C)成分として、2,4,6,8,10-ペンタメチルシクロペンタシロキサン(HD5)と2, 4, 6, 8, 10, 12-ヘキサメチルシクロヘキサシロキサン(HD6)とを(C)成分中に合計90重量%含み、HD5とHD6が6:4の重量比で含む混合物を計量し加え、プラネタリミキサーを用いて室温で30分間混練りした。(C)成分の水素含有量は1.6重量%であった。
その後、(E)成分として第1液と同じ熱伝導性フィラーを加え、プラネタリミキサーを用いて室温で15分間混練りし、第2液を作製した。
2,4,6,8,10-ペンタメチルシクロペンタシロキサン(CAS6166-86-5)は、Sigma-Aldrich Corpから入手した。2,4,6,8,10,12-ヘキサメチルシクロヘキサシロキサン(CAS6166-87-6)を、N.OmuraおよびJ.P.Kennedy、Macromolecules、30、3204 (1997)の方法により調製した。分留により化合物を得て、純度をガスクロマトグラフィー(GC)により調べた。
【0111】
(比較例3~4)
(C)成分の代わりに末端にのみ各1個のSi-H基を有する直鎖状の低分子ポリマーをそれぞれ、1.5質量部、7.7質量部加えた点以外は、実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
末端にのみ各1個のSi-H基を有する直鎖状の低分子ポリマーとしては、水素含有量が0.31重量%である分子量650のジメチルポリシロキサンを使用した。
【0112】
(比較例5~6)
(C)成分の代わりに側鎖にのみSiH基を低置換率(低置換度)で含有する分子量6800である直鎖ジメチルポリシロキサンをそれぞれ、1.5質量部、13質量部加えた点以外は、実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。なお、本明細書において分子量は、例えば、トルエン等を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析におけるポリスチレン換算での数平均分子量を示す。
側鎖にのみSiH基を低置換率(低置換度)で含有する直鎖シロキサンとしては、水素含有量0.19重量%のトリメチルシリル基封鎖ジメチルポリシロキサンを使用した。
【0113】
(比較例7)
(C)成分の代わりに側鎖にのみSiH基を中置換率(中置換度)で含有する直鎖シロキサンを1.5質量部加えた点以外は、実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
側鎖にのみSiH基を中置換率(中置換度)で含有する直鎖シロキサンとしては、水素含有量1.15重量%の直鎖状トリメチルシリル基封鎖ジメチルポリシロキサン(Wacker Chemie AG社製、Crosslinker V90)を使用した。
【0114】
(比較例8)
(C)成分の代わりに側鎖にのみSiH基を高置換率(高置換度)で含有する直鎖シロキサンを1.5質量部加えた点以外は、実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
側鎖にのみSiH基を高置換率(高置換度)で含有する直鎖シロキサンとしては、水素含有量1.63重量%の直鎖状トリメチルシリル基封鎖ジメチルポリシロキサン(Wacker Chemie AG社製、Crosslinker V24)を使用した。
【0115】
(比較例9)
(C)成分の代わりに公知の耐熱性向上剤として、酸化セリウムを10質量部加えた点以外は、実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0116】
評価結果は表1に示す通りであった。
実施例1から4では、(C)成分の水素化環状シロキサンを1.0から3.0質量部配合したが(熱伝導性シリコーン組成物全体に含まれる(A)成分と(B)成分の合計量を100質量部とすると、(C)成分の配合量は0.5から1.5質量部となるが、表1中では第2液の(A)成分と(B)成分の合計量を100質量部とした場合の配合量として記載)、いずれも初期硬度と高温暴露後の硬度の変化率は10%以下であり、また高温暴露後のボイド、黄変の発生はなく耐熱性は良好である言える。さらに初期及び高温暴露後のせん断接着応力はいずれも0.1MPa以上であり接着性において良好な結果であった。ポットライフにおいてもいずれも60分以上確保できており、作業性は良好である。
【0117】
比較例1は、(C)成分の水素化環状シロキサンを0.8質量部配合したが(熱伝導性シリコーン組成物全体に含まれる(A)成分と(B)成分の合計量を100質量部とすると、0.4質量部)、高温暴露後の硬度変化率が大きく耐熱性が十分とは言えない。
【0118】
比較例2は、(C)成分の水素化環状シロキサンを4.0質量部配合したが(熱伝導性シリコーン組成物全体に含まれる(A)成分と(B)成分の合計量を100質量部とすると、2.0質量部)、相対的なフィラー含有量が減るため熱伝導率が十分ではない。
【0119】
比較例3は、実施例2の(C)成分の代わりに末端にのみ各1個のSi-H基を有する低分子ポリマーを等量質量部加えた配合である。相対的な水素含有量が不足するため初期硬度が低く高温暴露後の硬度が高くなるため、硬度の変化が大きく、ボイドの発生も見られ、耐熱性が不十分である。
【0120】
比較例4は、実施例2の(C)成分の代わりに末端にのみ各1個のSi-H基を有する低分子ポリマーを等量の水素含有量となるように加えた配合である。末端にのみSi-H基を含有する低分子ポリマーの添加量が増えるため相対的な熱伝導性フィラーの配合量が減り、その結果、熱伝導率が不十分となった。また硬度変化は依然として大きく、耐熱性も十分ではない。
【0121】
比較例5は、実施例2の(C)成分の代わりに側鎖にのみSiH基を低置換率(低置換度)で含有する直鎖シロキサンを等量質量部加えた配合である。相対的な水素含有量が不足するため、初期硬度が低く、高温暴露後の硬度が高くなる結果、高温暴露後の硬度の変化が大きく、黄変の発生も見られ、耐熱性が不十分である。
【0122】
比較例6は、実施例2の(C)成分の代わりに側鎖にのみSiH基を低置換率(低置換度)で含有する直鎖シロキサンを等量の水素含有量となるように加えた配合である。ポットライフが短く、第1液と第2液とを混合する作業中に硬化が進行してしまい、試験片の作成ができなかった。実際に発熱体や放熱体に塗布する際も作業時間に制約が生じるため、作業性が悪く、好ましくない。
【0123】
比較例7は、実施例2の(C)成分の代わりに側鎖にのみSiH基を中置換率(中置換度)で含有する直鎖シロキサンを等量質量部加えた配合である。ポットライフが短く、第1液と第2液とを混合する作業中に硬化が進行してしまい、試験片の作成ができなかった。実際に発熱体や放熱体等に塗布する際も作業時間に制約が生じるため、作業性が悪く、好ましくない。
【0124】
比較例8は、実施例2の(C)成分の代わりに側鎖にのみSiH基を高置換率(高置換度)で含有する直鎖シロキサンを等量質量部加えた配合である。ポットライフが短く、第1液と第2液とを混合する作業中に硬化が進行してしまい、試験片の作成ができなかった。実際に発熱体や放熱体等に塗布する際も作業時間に制約が生じるため、作業性が悪く、好ましくない。
【0125】
比較例9は、耐熱性の向上を目的に酸化セリウムを加えた配合であるが、高温暴露後の硬度変化が大きく及びボイドの発生が見られ、期待した効果は得られなかった。
【0126】