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特開2024-101563熱可塑性組成物及びその製造方法並びに成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101563
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】熱可塑性組成物及びその製造方法並びに成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/12 20060101AFI20240722BHJP
   C08L 51/00 20060101ALI20240722BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20240722BHJP
   C08K 5/3435 20060101ALI20240722BHJP
   C08L 79/04 20060101ALI20240722BHJP
   C08K 5/3495 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C08L25/12
C08L51/00
C08L91/06
C08K5/3435
C08L79/04 Z
C08K5/3495
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024005246
(22)【出願日】2024-01-17
(31)【優先権主張番号】112102041
(32)【優先日】2023-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(31)【優先権主張番号】112142006
(32)【優先日】2023-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
(71)【出願人】
【識別番号】524025772
【氏名又は名称】奇美實業股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】林 耕竹
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AE043
4J002BC061
4J002BN122
4J002CM024
4J002EA016
4J002EE038
4J002EU087
4J002EU178
4J002EU188
4J002FD044
4J002FD047
4J002FD058
4J002FD099
4J002GL00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】熱可塑性組成物及びその製造方法並びに成形品を提供する。
【解決手段】100重量部のアクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)と、0.05重量部~10重量部のパラフィンワックス(B)と、0.1重量部~2重量部のジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)と、を含む熱可塑性組成物。上記のアクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)は、スチレン-アクリロニトリル系共重合体及びアクリル系ゴムグラフト共重合体を含む。この熱可塑性組成物は、低臭気、耐薬品性、流動性、及び低光沢等の特性を兼ね備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン-アクリロニトリル系共重合体及びアクリル系ゴムグラフト共重合体を含むアクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)100重量部と、
パラフィンワックス(B)0.05重量部~10重量部と、
分子量が200g/モル~600g/モルであるジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)0.1重量部~2重量部と、
を含む熱可塑性組成物。
【請求項2】
前記パラフィンワックス(B)は、炭素数17~50の飽和炭化水素化合物を含有し、融点が40℃を超え、75℃未満である請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項3】
前記パラフィンワックス(B)と、前記ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)との重量比は、0.025~100である請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
前記ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)は、下記式(I)に示される構造を有する請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【化1】
【請求項5】
分子量が1000g/モル~5000g/モルであるヒンダードアミン系光安定組成物(C2)0.1重量部~1.6重量部を更に含む請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
前記ヒンダードアミン系光安定組成物(C2)は、下記式(II)及び/又は式(III)に示される構造を含み、
【化2】
前記式(II)の中で、nは、2~20の整数を表す請求項5に記載の熱可塑性組成物。
【請求項7】
前記式(III)に示される構造を有する前記ヒンダードアミン系光安定組成物(C2)の含有量は、0.1重量部~1.0重量部である請求項6に記載の熱可塑性組成物。
【請求項8】
前記ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)と前記ヒンダードアミン系光安定組成物(C2)との重量比は、0.06~20である請求項5に記載の熱可塑性組成物。
【請求項9】
紫外線光安定剤(D)0.1重量部~1.5重量部を更に含む請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項10】
前記紫外線光安定剤(D)は、ベンゾトリアゾール系反応性紫外線光安定剤を含む請求項9に記載の熱可塑性組成物。
【請求項11】
前記紫外線光安定剤(D)は、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール又は2,2’-メチレンビス[6-(ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール]から選択される請求項9に記載の熱可塑性組成物。
【請求項12】
前記ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)と前記紫外線光安定剤(D)との重量比は、0.06~20である請求項9に記載の熱可塑性組成物。
【請求項13】
着色剤、染料及び/又は顔料(E)0.1重量部~10重量部、及び/又は
他の添加剤(F)0.05重量部~5重量部を更に含む請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項14】
請求項1~13の何れか1項に記載の熱可塑性組成物を含む成形品。
【請求項15】
スチレン-アクリロニトリル系共重合体及びアクリル系ゴムグラフト共重合体を含むアクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)100重量部と、パラフィンワックス(B)0.05重量部~10重量部と、分子量が200g/モル~600g/モルであるジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)0.1重量部~2重量部と、を含む組成物を提供する工程と、
前記組成物に混練作業を行って、熱可塑性組成物を得る工程と、
を含む熱可塑性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性組成物を提供し、特に、熱可塑性樹脂の臭気を改善でき、耐薬品性、流動性及び低光沢性を兼ね備える熱可塑性組成物及びその成形品を提供する。
【背景技術】
【0002】
ASA(Acrylonitrile Styrene Acrylate)樹脂は、熱可塑性のスチレン樹脂であり、アクリル系ゴムと、スチレンモノマーと、アクリロニトリルとを共重合させて得られる。それは、各分野(例えば自動車内装部品と建材等)に用いられ、近年では幅広く使用されている。
【0003】
ASA樹脂が建材(例えば、窓枠)の製造に使用される場合、窓枠は、室内と室外の領域の両方に使用されるため、室内の領域では、人体に危害を与えることを回避するために、人体との長期接触に対して低臭気効果を持つ必要がある一方、室外の領域では、外部環境の化学物質による侵食に耐えるために耐薬品性質を持たなければならない。また、窓枠部品は、大きな体積があるため、加工性や樹脂流動性にも極めて高く図られている。なお、ハイライト反射による視線への影響を回避するために、窓枠は、低光沢効果を持つ必要がある。従って、建材と自動車内装部品の低臭気に対する要求を満たすために、耐薬品性、流動性、及び低光沢等の特性を兼ね備えるASA樹脂組成物及びその成形品には市場ニーズがある。
【0004】
しかしながら、既知のASA樹脂が臭気を減らしたり、光沢を減らしたり、流動性を高めたりするためには、臭気抑制剤、艶消し剤、又は潤滑剤等の様々な機能性添加剤を追加添加する必要があるが、効果がよくないことが多く、低臭気、高耐薬品性、高流動性、及び低光沢を満たす需要を同時に満たすことができない。
【0005】
そのため、既知のASA樹脂材料の欠陥を解決するために、熱可塑性組成物及びその製造方法並びに成形品が緊急に必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに鑑み、本発明の一態様によれば、低臭気、耐薬品性、流動性、及び低光沢等の性質を兼ね備える熱可塑性組成物及びその製造方法、並びに前記熱可塑性組成物で形成される成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱可塑性組成物は、スチレン-アクリロニトリル系共重合体及びアクリル系ゴムグラフト共重合体を含むアクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)100重量部と、パラフィンワックス(B)0.05重量部~10重量部と、分子量が200g/モル~600g/モルであるジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)0.1重量部~2重量部と、を含む。
【0008】
本発明におけるいくつかの実施例によれば、前記パラフィンワックス(B)は、炭素数17~50の飽和炭化水素化合物を含有し、融点が40℃を超え、75℃未満である。
【0009】
本発明におけるいくつかの実施例によれば、前記パラフィンワックス(B)と、ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)との重量比は、0.025~100である。
【0010】
本発明におけるいくつかの実施例によれば、前記ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)は、下記式(I)に示される構造を有する。
【化1】
【0011】
本発明におけるいくつかの実施例によれば、前記熱可塑性組成物は、選択的に、分子量が1000g/モル~5000g/モルであるヒンダードアミン系光安定組成物(C2)0.1重量部~1.6重量部を含む。
【0012】
本発明におけるいくつかの実施例によれば、前記ヒンダードアミン系光安定組成物(C2)は、下記式(II)及び/又は式(III)に示される構造を含む。式(II)において、nは、2~20の整数を表す。
【化2】
【0013】
本発明におけるいくつかの実施例によれば、式(III)に示される構造を有する前記ヒンダードアミン系光安定組成物(C2)の含有量は、0.1重量部~1.0重量部である。
【0014】
本発明におけるいくつかの実施例によれば、前記ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)とヒンダードアミン系光安定組成物(C2)との重量比は、0.06~20である。
【0015】
本発明におけるいくつかの実施例によれば、前記熱可塑性組成物は、選択的に、紫外線光安定剤(D)0.1重量部~1.5重量部を含む。
【0016】
本発明におけるいくつかの実施例によれば、前記紫外線光安定剤(D)は、ベンゾトリアゾール系反応性紫外線光安定剤を含む。
【0017】
本発明におけるいくつかの実施例によれば、前記紫外線光安定剤(D)は、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール又は2,2’-メチレンビス[6-(ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール]から選択される。
【0018】
本発明におけるいくつかの実施例によれば、前記ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)と紫外線光安定剤(D)との重量比は、0.06~20である。
【0019】
本発明におけるいくつかの実施例によれば、前記熱可塑性組成物は、選択的に、着色剤、染料及び/又は顔料(E)0.1重量部~10重量部及び/又は他の添加剤(F)0.05重量部~5重量部を含む。
【0020】
本発明の別の態様によれば、前記熱可塑性組成物を含む成形品を提供する。
【0021】
本発明の別の態様は、スチレン-アクリロニトリル系共重合体及びアクリル系ゴムグラフト共重合体を含むアクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)100重量部と、パラフィンワックス(B)0.05重量部~10重量部と、分子量が200g/モル~600g/モルであるジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)0.1重量部~2重量部と、を含む組成物を提供する工程と、前記組成物に混練作業を行って、熱可塑性組成物を得る工程と、を含む熱可塑性組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
以上をまとめると、本発明は、熱可塑性組成物及びその製造方法並びに成形品を提案する。この熱可塑性組成物は、アクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)100重量部と、パラフィンワックス(B)0.05重量部~10重量部と、ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)0.1重量部~2重量部を含む。アクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)は、スチレン-アクリロニトリル系共重合体及びアクリル系ゴムグラフト共重合体を含み、ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)の分子量が200g/モル~600g/モルである。本発明の熱可塑性組成物は、上記含有量の組成物によって、低臭気、耐薬品性、流動性及び低光沢等の特性を兼ね備える。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例の製造及び使用について詳細に検討する。しかしながら、実施例は、様々な特定のコンテンツに実施可能な多くの応用可能な発明概念を提供することが理解される。検討される特定の実施例は説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定するために使用されるものではない。
【0024】
低臭気、耐薬品性、流動性、及び低光沢等の特性を兼ね備える樹脂組成物を製造するために、本発明は、上記利点を達成できる熱可塑性組成物を提案する。以下、本発明を確かに実施できる例として、実施形態を挙げる。
【0025】
本発明におけるいくつかの実施例による熱可塑性組成物は、アクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)100重量部と、パラフィンワックス(B)0.05重量部~10重量部と、ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)0.1重量部~2重量部を含む。いくつかの実施例では、本発明の熱可塑性組成物は、選択的に、ヒンダードアミン系光安定組成物(C2)0.1重量部~1.6重量部、紫外線光安定剤(D)0.1重量部~1.5重量部、着色剤、染料及び/又は顔料(E)、他の添加剤(F)、又は上記成分の任意の組み合わせを含む。以下、上記成分を詳細に説明する。
【0026】
アクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)
【0027】
本発明のアクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)は、スチレン-アクリロニトリル系共重合体からなる連続相及びアクリル系ゴムグラフト共重合体からなる分散相を含む。詳細には、アクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)は、55重量百分率(wt%)~80wt%のスチレン-アクリロニトリル系共重合体及び20wt%~45wt%のアクリル系ゴムグラフト共重合体を含む。別の観点から、アクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)は、15wt%~25wt%のアクリロニトリル系モノマー単位、55wt%~65wt%のスチレン系モノマー単位、及び15wt%~25wt%のアクリル酸エステル系モノマー単位を含む。
【0028】
上記スチレン-アクリロニトリル系共重合体は、60wt%~74wt%のスチレン系モノマーと26wt%~40wt%のアクリロニトリル系モノマーとを重合反応させて製造されてもよい。前記重合反応は、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、又は他の好適な方法で行われてもよく、その中で塊状重合法又は溶液重合法が好ましい。前記スチレン系モノマーの具体例は、スチレン、α-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、又はブロモスチレン等を含んでもよいが、これらに限られず、その中でスチレン又はα-メチルスチレンが好ましい。前記アクリロニトリル系モノマーの具体例は、アクリロニトリル又はα-メタクリロニトリル等を含んでもよいが、これらに限られず、その中でアクリロニトリルが好ましい。
【0029】
上記アクリル酸エステル系モノマー単位、スチレン系モノマー単位及びアクリロニトリル系モノマー単位は、それぞれアクリル酸エステル系モノマー、スチレン系モノマーとアクリロニトリル系モノマーを重合させてグラフト反応させた後の、アクリル系ゴムグラフト共重合体又はスチレン-アクリロニトリル系共重合体における繰り返し構造単位を表す。
【0030】
また、前記スチレン-アクリロニトリル系共重合体の製造方法は、好ましくは、連続的な塊状又は溶液重合法を行うことができる反応器を用いて重合反応させることを含む。前記反応器は、円柱型流通式反応器、完全混合式反応器(CSTR)、又は静止型混合素子を含む管型反応器等を含んでもよいが、これらに限られず、その中で完全混合式反応器が好ましい。前記反応器の使用数は、1つであってもよく、2つ以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
いくつかの実施例では、前記スチレン-アクリロニトリル系共重合体の製造方法は、溶液重合反応により行われる。前記溶液重合反応で使用される溶媒は、例えば、トルエン、エチルベンゼン、又はメチルエチルケトン等であってもよい。好ましくは、前記溶液重合反応の作業温度は、70℃~140℃であり、より好ましくは、前記溶液重合反応の作業温度は、90℃~130℃である。
【0032】
いくつかの実施例では、スチレン-アクリロニトリル系共重合体を製造する時、熱重合方式を用いてもよく、又は重合開始剤を反応に添加してもよく、前記重合開始剤は、例えば、ヒドロペルオキシド(hydroperoxides)系化合物[例えば、tert-ブチルヒドロペルオキシド(tert-butyl hydro peroxide)、又はイソプロピルクミルヒドロペルオキシド(isopropylcumyl hydroperoxide)等]、ペルオキシケタール(peroxyketal)系化合物[例えば、1,1-ジ-tert-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(1,1-Di-(tert-butylperoxy)-3,3,5-trimethylcyclohexane)、又は2,2-ジ(4,4-ジ(tert-ブチルペルオキシ)シクロへキシル)プロパン(2,2-di-(4,4-di(tert-butylperoxy)cyclohexyl)propane)等]、ジアシルペルオキシド系(diacyl peroxides)化合物[例えば、ジラウロイルペルオキシド(dilauroyl peroxide)、ジデカノイルペルオキシド(didecanoyl peroxide)、又はジベンゾイルペルオキシド(dibenzoyl peroxide、BPO)等]、ペルオキシエステル系(peroxyesters)化合物[例えば、tert-ブチルペルオキシピバレート(tert-butylperoxy pivalate)、又は2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン(2,5-dimethyl-2,5-di(2-ethylhexanoyl peroxy)hexane)等]、ペルオキシケタール類[例えば、4,4-ジ-tert-ブチルペルオキシ-吉草酸-n-ブチルエステル(4,4-di-tert-butyl peroxy valeric acid-n-butyl ester、TX-17と略称)]、ペルオキシカーボネート系(peroxycarbonates)化合物[例えば、tert-アミルペルオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート(tert-amylperoxy 2-ethylhexyl carbonate)、又はtert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート(tert-butylperoxy 2-ethylhexyl carbonate)等]及びニトロとシクロヘキサン類を有するアゾ化合物等であってもよいが、これらに限られない。スチレン系モノマーとアクリロニトリル系モノマーの総使用量を100重量部として、前記重合開始剤の使用量は、0.01重量部~2.0重量部であってよく、好ましくは0.01重量部~1.0重量部である。
【0033】
いくつかの実施例では、製造されるスチレン-アクリロニトリル系共重合体の分子量は、60,000~400,000である。
【0034】
前記アクリル系ゴムグラフト共重合体は、100重量部のアクリル酸エステル系ゴム乳液と50重量部~100重量部のモノマー混合物をグラフト重合反応させて製造され、モノマー混合物は、65wt%~75wt%のスチレン系モノマー及び25wt%~35wt%のアクリロニトリル系モノマーを含む。モノマー混合物の添加方式は、一括に添加する方式、バッチで添加する方式、連続的に添加する方式、又はモノマー混合物中の様々なモノマーを段階的に添加する方式等を用いてもよい。また、アクリル系ゴムグラフト共重合体は、それぞれ異なる重量平均粒子径を有するアクリル系ゴムグラフト共重合体を2種以上含んでもよい。いくつかの実施例では、アクリル系ゴムグラフト共重合体の重量平均粒子径は、0.12μm及び0.45μmのダブルピーク分布パターンを示す。
【0035】
前記アクリル酸エステル系ゴム乳液の製造方法は、好ましくは、主成分であるアクリル酸エステル系モノマーを直接乳化重合法で重合反応させることを含む。前記アクリル酸エステル系モノマーは、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸へプチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸へプチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、又は他の好適なアクリル酸エステル系モノマー等であってもよく、その中でアクリル酸n-ブチルが好ましい。上記アクリル酸エステル系モノマーは、単独で又は複数種を併用してもよい。
【0036】
また、前記アクリル酸エステル系ゴム乳液の製造方法は、選択的に、重合反応の時、架橋剤を添加することを含んでもよい。架橋剤は、例えば、エチレンジアクリレート、ブチレンジアクリレート、ジビニルベンゼン、ブテンジオールジメタクリレート、ジメタクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)クリレート、メタクリル酸アリル(allyl methacrylate、AMA)、メタクリル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、メタクリル酸トリアリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、トリシクロデセニルアルコールのアクリレート、ポリアルキレングリコールのジアクリレート、又は他の好適な架橋剤等であってもよいが、これらに限られない。上記架橋剤は、単独で又は複数種を併用してもよい。いくつかの実施例では、アクリル酸エステル系モノマーと架橋剤の総使用量を100wt%として、架橋剤の使用量は、好ましくは0.1wt%~10wt%である。
【0037】
いくつかの実施例では、アクリル酸エステル系ゴム乳液の平均粒子径は、重合反応条件により制御されてもよい。例えば、重合温度、開始剤、乳化剤、又は活性剤の使用量及び種類、モノマーの添加方法等の反応条件を調整して、アクリル酸エステル系ゴム乳液の平均粒子径を制御する。
【0038】
前記開始剤は、様々な周知の遊離基重合反応開始剤であってもよく、前記開始剤の添加方式は、一括添加、連続添加、又は増分添加等の方法を用いてもよい。詳細には、開始剤の具体例は、過酸化ベンゾイル(benzoyl peroxide)、レイロイルペルオキシド(layroyl peroxide)、オレイルペルオキシド(oleyl peroxide)、トルイルペルオキシド(toluyl peroxide)、ジクミルペルオキシド(dicumyl peroxide)、tert-ブチルペルオキシド(tert-butyl peroxide)、ジ-tert-ブチルジペルフタレート(di-tert-butyl diperphthalate)、tert-ブチルペルアセテート(tert-butyl peracetate)、tert-ブチルペルベンゾエート(tert-butyl perbenzoate)、イソプロピルペルオキシジカーボネート(isoperopyl peroxy dicarbonate)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン(2,5-dimethyl-2,5-di(tert-butyl peroxy)hexane)、tert-ブチルヒドロペルオキシド(tert-butyl hydroperoxide)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)-ヘキサン-3-tert-ブチルヒドロペルオキシド(2,5-dimethyl-2,5-di(tert-butylperoxy)hexane-3-tert-butyl hydroperoxide)、クメンヒドロペルオキシド(cumene hydroperoxide)、p-メンタンヒドロペルオキシド(p-methane hydroperoxide)、シクロペンタンヒドロペルオキシド(cyclopentane hydroperoxide)、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド(diisopropylbenzene hydroperoxide)、p-tert-ブチルクメンヒドロペルオキシド(p-tert-butylcumene hydroperoxide)、ピナンヒドロペルオキシド(pinane hydroperoxide)、2,5-ジメチル-ヘキサン-2,5-ジヒドロペルオキシド(2,5-dimethyl-hexane-2,5-dihydroperoxide)、又は上記開始剤の混合物を含むが、これらに限られない。
【0039】
いくつかの実施例では、モノマー混合物の総使用量を100重量部として、開始剤の使用量は、0.01重量部~5重量部であってもよい。
【0040】
前記乳化剤の具体例は、好ましくはコハク酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸石鹸等の様々なカルボン酸塩、ナトリウムスルホコハク酸ジオクチル(sodium dihexyl sulfosuccinate)、硫酸アルキル又はアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の様々なスルホン酸塩化合物、又はポリエチレンオキシドノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のアニオン系乳化剤を含んでもよいが、これらに限られない。いくつかの実施例では、モノマー混合物の総使用量を100重量部として、乳化剤の使用量は、1重量部~10重量部であってもよい。
【0041】
前記活性剤の具体例は、硫酸第一鉄、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸ジナトリウム、又はピロリン酸四ナトリウム等を含んでもよいが、これらに限られない。いくつかの実施例では、モノマー混合物の総使用量を100重量部として、活性剤の使用量は、1重量部~10重量部である。
【0042】
いくつかの実施例では、上記アクリル系ゴムグラフト共重合体のグラフト分子量は、重合温度、開始剤、乳化剤、活性剤、又は連鎖移動剤の種類及び使用量、モノマーの添加方法等の重合条件の変更により調整されてもよい。グラフト重合の反応温度は、90℃以下であり、好ましくは25℃~40℃である。前記開始剤、乳化剤、及び活性剤の種類及び使用量は前述のとおりである。前記連鎖移動剤の具体例は、n-ブチルメルカプタン(n-butyl mercaptan)、n-オクチルメルカプタン(n-octyl mercaptan)、n-ドデシルメルカプタン(n-dodecyl mercaptan)又はtert-ドデシルメルカプタン(tert-dodecyl mercaptan)等を含んでもよい。一つの実施例では、モノマー混合物の総使用量を100重量部として、連鎖移動剤の使用量は、0.01重量部~0.1重量部であってもよい。
【0043】
なお、グラフト反応を行って、アクリル系ゴムグラフト共重合体を形成すると同時に、スチレンがアクリロニトリルと重合反応して、第2のスチレン-アクリロニトリル系共重合体を生成する。一つの実施例では、第2のスチレン-アクリロニトリル系共重合体の分子量は、10,000~100,000である。
【0044】
また、上記モノマー混合物に含まれるスチレン系モノマー及びアクリロニトリル系モノマーの具体例は、前記スチレン-アクリロニトリル系共重合体を製造するためのスチレン系モノマー及びアクリロニトリル系モノマーの具体例と同様であるため、ここではこれ以上説明しない。
【0045】
アクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)の製造方法は、特に限定されず、一般的な混合方法を用いてもよく、例えばスチレン-アクリロニトリル系共重合体及びアクリル系ゴムグラフト共重合体を均一に混合すればよい。いくつかの実施例では、前記一般的な混合方法は、一般的に使用されるヘンシェル(Henschel)ミキサーで乾式混合した後、そして押出ミキサー、ニーダー又はバンバリー(Banbury)ミキサー等のミキサーで溶融混合することを含んでもよい。
【0046】
パラフィンワックス(B)
【0047】
本発明の熱可塑性組成物は、パラフィンワックス(B)を含んでもよい。前記アクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)の使用量を100重量部として、パラフィンワックス(B)の使用量は、0.05重量部~10重量部であり、好ましくは2重量部~8重量部であり、より好ましくは3重量部~6重量部である。パラフィンワックス(B)の使用量が0.05重量部よりも小さい場合、製造された成形品は、耐薬品性、流動性、及び光沢を高めることができず、熱可塑性組成物の成形品の表面に臭気が発生しやすくなる。パラフィンワックス(B)の使用量が10重量部よりも大きい場合、製造された成形品は、加工成形性が低く、金型が汚れやすくなる。
【0048】
本発明のパラフィンワックス(B)は、無水硫酸又は発煙硫酸を用いて、石油潤滑油留分に含まれる芳香族炭化水素や硫化合物等の不純物を除去して得られた精製飽和系炭化水素化合物であってもよい。
【0049】
パラフィンワックス(B)の分子量は、動粘度により定義されてもよい。本発明のパラフィンワックス(B)の動粘度は、例えばJIS K2283に規定される方法で測定されてもよく、パラフィンワックス(B)の40℃での動粘度は、0.1mm/秒間~78mm/秒間、好ましくは1mm/秒間~40mm/秒間であってもよい。パラフィンワックス(B)の重量平均分子量は、150g/モル~500g/モルであってもよく、好ましくは180g/モル~450g/モル、より好ましくは200g/モル~350g/モルである。重量平均分子量は、例えば、ガスクロマトグラフィー法によってパラフィンワックス(B)中の各分子量成分の重量平均値を求めることで得られてもよい。より高い粘度又はより高い分子量を有するパラフィンワックスを使用する場合に比べて、前記粘度範囲又は分子量範囲を有するパラフィンワックス(B)を使用する場合には、得られた熱可塑性組成物を効果的に可塑化することができ、熱可塑性組成物で製造される成形品の加工性及び耐薬品性の改善に寄与する。好ましくは、粘度が0.1mm/秒間よりも大きい又は重量平均分子量が150g/モルよりも大きいパラフィンワックス(B)を使用すると、熱可塑性組成物の成形中の金型汚れと成形品の表面に漏れ出すという欠陥を効果的に抑制することができる。
【0050】
本発明のパラフィンワックス(B)は、融点が75℃よりも小さければ、特に限定されない。いくつかの具体例では、パラフィンワックス(B)は、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム(petrolatum)等の石油ワックス、フィッシャー・トロプシュ法(Fischer-Tropsch)による合成ワックス、又は例えばモンタンワックスの鉱物ワックス等を含んでもよい。熱可塑性組成物の成形品の加工性及び耐薬品性を高めるために、パラフィンワックス(B)は、石油ワックスであることが好ましい。好ましくは、本発明のパラフィンワックス(B)の含油量(oil content)は、0.5%~2.0%であり、より好ましくは0.5%~1.5%、最適には、0.5%~1.0%である。
【0051】
本発明のパラフィンワックス(B)は、特に限定されないが、通常、石油を減圧蒸留した留出物から分離精製することにより得られてもよい。前記パラフィンワックス(B)は、単独で又は複数種を組み合わせて使用されてもよい。
【0052】
好ましくは、本発明のパラフィンワックス(B)は、炭素数17~50の鎖状飽和炭化水素化合物を含んでもよい。鎖状飽和炭化水素化合物は、好ましくは17以上の炭化原子を有し、鎖状飽和炭化水素化合物の炭素原子数は、好ましくは50以下であり、更に好ましくは45以下である。前記飽和鎖炭化水素化合物は、直鎖状又は分岐状であってもよい。好ましくは、パラフィンワックス(B)は、分岐状飽和炭化水素化合物である。
【0053】
パラフィンワックス(B)は、融点が40℃を超えてもよく、好ましくは45℃以上であり、より好ましくは48℃以上であり、融点が75℃未満でもよく、好ましくは70℃以下であり、より好ましくは65℃以下である。パラフィンワックス(B)の融点が40℃を超えた場合には、熱可塑性組成物の成形品の表面のベタつきの欠陥を回避することができる。パラフィンワックス(B)の融点が75℃未満である場合には、高熱可塑性組成物の成形品の成形加工性を高めることができ、熱可塑性組成物の成形品の経時的クラックの欠陥を抑制することができる。前記パラフィンワックス(B)の融点は、JIS K2235 5.3(1991)の基準方法に基づいて測定されてもよい。
【0054】
ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)
【0055】
本発明のヒンダードアミン系光安定組成物(C1)は、ジピペリジン構造を有する少なくとも1種の化合物を含み、ジピペリジン構造の2と6位に、それぞれ少なくとも1つのアルキルがあり、ピペリジン構造の3、4又は5位のうちの1つに、飽和又は不飽和で炭素数12~21のいかなるエステルも含まず、ジピペリジン構造を有する前記少なくとも1種のヒンダードアミン系光安定剤組成物(C1)の分子量が200g/モル~600g/モルである。ジピペリジン構造を有する好適なヒンダードアミン系光安定剤組成物(C1)は、2つのピペリジン構造を有する化合物を含み、前記2つのピペリジン構造は、ピペリジン構造の3、4又は5位のうちの1つに結合される飽和又は不飽和で炭素数が3~11のジエステル基を介して結合されている。
【0056】
好ましくは、ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定剤組成物(C1)は、2つのピペリジン構造を有する化合物を含み、前記2つのピペリジン構造は、炭素数が3~11の飽和ジエステル基、特に炭素数が6~10の飽和ジエステル基を介して結合されている。前記飽和ジエステル基は、ピペリジン構造の3、4又は5位に結合され、ピペリジン構造の3、4又は5位のうちの1つに、飽和又は不飽和で炭素数12~21のいかなるエステルも含まない。
【0057】
いくつかの実施例では、本発明のヒンダードアミン系光安定組成物(C1)ジピペリジン構造を有する好適なヒンダードアミン系光安定剤は、好ましくは下記式(I)に示される。
【化3】
【0058】
この立体障害アミン(ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケート、CAS番号52829-07-9)及びその製造方法は、当業者には周知であり、文献(例えば米国特許US 4,396,769及びそれに引用された参考文献)に開示されている。式(I)に示す、ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定剤は、例えばBASF SE社製、型番Tinuvin(登録商標) 770の製品(分子量481g/モル)であってもよい。
【0059】
いくつかの実施例では、本発明のジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)として好適な他の好適例は、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケート(CAS番号が41556-26-7で、BASF SE社製で、型番Tinuvin(登録商標) 765の製品、分子量(Mw)が509g/モルである)、N,N’-ジホルミル-N,N’-ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-ヘキサメチレンジアミン(CAS番号が124172-53-8で、BASF SE社製で、型番Uvinul(登録商標) 4050 Hの製品であり、Mwが450g/モルである)、N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イソフタルアミド(CAS番号が42774-15-2で、Clariant社製で、型番Ny-lostab(登録商標) S-EED(登録商標)の製品であり、Mwが443g/molである)を含んでもよい。
【0060】
前記アクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)の使用量を100重量部として、ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)の使用量は、0.1重量部~2重量部であり、好ましくは0.4重量部~1.5重量部であり、より好ましくは0.8重量部~1.2重量部である。
【0061】
いくつかの実施例では、前記パラフィンワックス(B)と、ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)との重量比は、0.025~100であってもよく、好ましくは0.1~80であり、より好ましくは1~50である。パラフィンワックス(B)と、ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)との重量比が前記範囲である場合には、熱可塑性樹脂の臭気を改善でき、耐薬品性、流動性及び低光沢の性質を兼ね備える。
【0062】
ヒンダードアミン系光安定組成物(C2)
【0063】
本発明の熱可塑性組成物のヒンダードアミン系光安定組成物(C2)は、重合構造を有する少なくとも1種の化合物であってもよく、前記重合構造は、ピペリジン基を含み、ピペリジン基の2と6位に、それぞれ少なくとも1つのアルキル基があり、ピペリジン基の3、4又は5位のうちの1つに、炭素数12~21のいかなる飽和エステル基(ester moieties)又は不飽和エステル基も含まない。重合構造を有する前記ヒンダードアミン系光安定組成物(C2)は、重合可能なモノマーに由来する少なくとも2つの繰り返し単位を含み、好ましくは重合可能なモノマーに由来する少なくとも3つの繰り返し単位を有するものとして定義され、重合構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C2)の分子量は、1000g/モル~5000g/モルであってもよく、好ましくは1500g/モル~5000g/モルであり、より好ましくは2000g/モル~5000g/モルである。
【0064】
いくつかの実施例では、本発明のピペリジン基の重合構造を有する好適なヒンダードアミン系光安定組成物(C2)は、好ましくは下記式(II)及び/又は式(III)に示される構造を含む。式(II)において、nは、2~20の整数を表す。
【化4】
【0065】
いくつかの実施例では、本発明のピペリジン基の重合構造を有する好適なヒンダードアミン系光安定組成物(C2)については、この好適なヒンダードアミン系光安定組成物(C2)(CAS番号71878-19-8)及びその製造は、当業者には周知であり、文献(例えば、欧州特許EP-A-93693及びそれに引用された参考文献)に開示されている。式(II)に示される、ピペリジン基の重合構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物は、例えば、BASF SE社製、型番Chimassorb(登録商標) 944の製品(分子量2100g/モル~3000g/モル)であってもよい。式(III)に示される、ピペリジン基の重合構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物は、例えばSABO S.p.A社製、型番Sabostab(登録商標) UV 119の製品(分子量2286g/モル、CAS番号106990-43-6)、又はBASF SE社製、型番Chimassorb(登録商標) 119の製品であってもよい。
【0066】
いくつかの実施例では、アクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)の使用量を100重量部として、式(III)に示される構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C2)の含有量は、0.1重量部~1.0重量部であってもよく、好ましくは0.1重量部~0.8重量部であり、より好ましくは0.3重量部~0.6重量部である。式(III)に示される構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C2)の含有量がこの範囲にある場合には、熱可塑性樹脂の臭気を改善できるだけではなく、耐薬品性、流動性及び低光沢の性質を兼ね備える。
【0067】
ヒンダードアミン系光安定組成物(C2)の具体例は、2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジンを有する1,6-ヘキサンジアミン,N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)重合体と、N-ブチル-1-ブチルアミン及びN-ブチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジンアミンとの反応生成物(CAS番号が192268-64-7で、BASF SE社製で、型番Chimassorb(登録商標) 2020の製品、分子量は、2600g/モル~3400g/モルであってもよい)、コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールとの重合体(CAS番号が65447-77-0で、BASF SE社製で、型番Tinuvin(登録商標) 622の製品、Mwは、3100g/モル~4000g/モルであってもよい)、オレフィンと、無水マレイン酸を有し且つ炭素数20~24のα-ポリマーと、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジンアミンとの反応生成物(CAS番号が152261-33-1で、BASF SE社製で、型番Uvinul(登録商標) 5050Hの製品、Mwは、3000g/モル~4000g/モルであってもよい)、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン、N2,N2''-1,2-エタンジイル-ビス[N2-[3-[[4,6-ビス[ブチル(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2-イル]アミノ]プロピル]-N’,N''-ジブチル-N’,N''-ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル){1,3,5-triazine-2,4, 6-triamine,N2,N2''-1,2-ethanediylbis[N2-[3-[4,6-bis[butyl(1,2,2,6,6-pentamethyl-4-piperidinyl)amino]-1,3,5-triazin-2-yl]amino]propyl]-N’,N''-dibutyl-N’,N''-bis(1,2,2,6,6-pentamethyl-4-piperidinyl)}(CAS番号が106990-43-6で、SABO S.p.A社製で、型番Sabostab(登録商標) UV 119の製品、Mwが2286g/モルである)、ポリ[(6-モルホリノ-s-トリアジン-2,4-ジイル)[2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル]イミノ]-ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]]{Poly[(6-morpholino-s-triazine-2,4-diyl)[2,2,6,6-tetramethyl-4-piperidyl]imino]-hexa-methylene[(2,2,6,6-tetramethyl-4-piperidyl)imino]]}(CAS番号が82451-48-7又は90751-07-8で、Solvay社製で、型番Cyasorb(登録商標) UV-3346の製品、Mwが1600g/モルである)、1,6-ヘキサンジアミンとN,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)との重合体と、モルホリン-2,4,6-トリクロロ1,3,5-トリアジンとの反応生成物(CAS番号が193098-40-7又は219920-30-6で、Solvay社製で、型番Cyasorb(登録商標) UV-3529の製品)を含んでもよいが、これらに限られない。
【0068】
前記アクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)の使用量を100重量部として、ヒンダードアミン系光安定組成物(C2)の使用量は、0.1重量部~1.6重量部であり、好ましくは0.3重量部~1.4重量部であり、より好ましくは0.5重量部~1.2重量部である。
【0069】
前記ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)と、ヒンダードアミン系光安定組成物(C2)との重量比は、0.06~20であってもよく、好ましくは0.1~15であり、より好ましくは0.5~10である。ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)と、ヒンダードアミン系光安定組成物(C2)との重量比がこの範囲にある場合には、熱可塑性樹脂の臭気を改善できるだけではなく、耐薬品性、流動性及び低光沢の性質を兼ね備える。
【0070】
紫外線光安定剤(D)
【0071】
本発明の紫外線光安定剤(D)の具体例は、ベンゾフェノン化合物(例えばo-ヒドロキシベンゾフェノン)、ベンゾトリアゾール化合物(例えば2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール)、トリアジン化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン化合物(例えば2-(2-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン)、オキサルアニリド、サリシレート、シンナメート、ニッケルキレート、フェノール類酸化防止剤、前記ヒンダードアミン系光安定組成物(C1)とヒンダードアミン系光安定組成物(C2)に属しない他のヒンダードアミン化合物、ヒドロキシアミン、二官能性化合物、他の好適な紫外線光安定剤、又は上記化合物の混合物を含んでもよいが、これらに限られない。
【0072】
例えば、前記紫外線光安定剤(D)は、CAS番号が2440-22-4、3147-75-9、3896-11-5、3846-71-7、23328-53-2、25973-55-1、36437-37-3、3864-99-1、70321-86-7、103597-45-1又は84268-08-6の化合物、又はこれらの化合物の混合物を含んでもよいが、これらに限られない。
【0073】
好ましくは、紫外線光安定剤(D)は、型番がTinuvin(登録商標) 329(CAS番号3147-75-9)、Tinuvin(登録商標) 234(CAS番号70321-86-7)又はTinuvin(登録商標) 360(CAS番号103597-45-1)の市販品であってもよい。
【0074】
本発明における一つの実施例では、紫外線光安定剤(D)として、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(Tinuvin(登録商標) 329)又は2,2’-メチレンビス[6-(ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール](Tinuvin(登録商標) 360)を選択してもよい。
【0075】
前記アクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)の使用量を100重量部として、紫外線光安定剤(D)の使用量は、0.1重量部~1.5重量部であり、好ましくは0.1重量部~1.3重量部であり、より好ましくは0.3重量部~1.0重量部である。
【0076】
前記ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)と、紫外線光安定剤(D)との重量比は、0.06~20であってもよく、好ましくは0.1~15であり、より好ましくは0.5~10である。ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)と、紫外線光安定剤(D)との重量比がこの範囲にある場合には、熱可塑性樹脂の臭気を改善できるだけではなく、耐薬品性、流動性及び低光沢の性質を兼ね備える。
【0077】
着色剤、染料及び/又は顔料(E)
【0078】
上記したように、本発明の熱可塑性組成物は、0.1重量部~10重量部、一般的に、0.1重量部~5重量部の着色剤、染料及び/又は顔料(E)を更に含んでもよく、マスターバッチの形で添加されてもよく、マスターバッチは、ポリマーマトリックスと、着色剤、染料及び/又は顔料とを含む。いくつかの実施例では、着色剤、染料及び/又は顔料は、マスターバッチの形で添加され、前記マスターバッチは、マスターバッチの総使用量を基準として、20wt%~70wt%の着色剤、染料及び/又は顔料、又は、着色剤、染料及び/又は顔料の混合物とポリマーマトリックスである30wt%~80wt%のビニル芳香族オレフィン・アクリロニトリルの共重合体を含む。好ましくは、ポリマーマトリックスは、ポリ(スチレン-アクリロニトリル)(SAN)、ポリ(α-メチルスチレン/アクリロニトリル)(AMSAN)及び/又はポリ(スチレン-メタクリル酸メチル)(SMMA)から選択される。
【0079】
いくつかの具体例では、顔料は、二酸化チタン、フタロシアニン、群青、酸化鉄とカーボンブラック及び有機顔料の全クラスを含んでもよいが、これらに限られない。着色剤の具体例は、ポリマーの透明、半透明又は不透明な着色に使用できるすべての染料、特にスチレン共重合体に適する着色染料を含むが、これらに限られない。
【0080】
他の添加剤(F)
【0081】
本発明の熱可塑性組成物は、選択的に、1種以上の他の添加剤(F)を含み、他の添加剤(F)は、前記アクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)と、パラフィンワックス(B)と、ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)、ヒンダードアミン系光安定組成物(C2)、紫外線光安定剤(D)及び着色剤、染料及び/又は顔料(E)に記述されているいかなる添加剤ではない。例えば、他の添加剤(F)は、可塑剤、脂肪族アミドワックス、脂肪族脂肪酸エステル及び紫外線光安定剤(D)に属しない他の紫外線光安定剤から選択されてもよい。
【0082】
任意選択的には、様々な添加剤は、0.05重量部~5重量部、一般的に0.1重量部~5重量部の用量で熱可塑性組成物に助剤及び/又は加工添加剤として添加されてもよい。好適な他の添加剤(F)は、ポリマーの加工又は処理に一般的に使用されるすべての物質を含む。
【0083】
他の添加剤(F)は、ポリマーマトリックスに他の添加剤(F)が含まれるマスターバッチの形で添加されてもよい。いくつかの実施例では、他の添加剤(F)は、マスターバッチの形で添加され、前記マスターバッチは、マスターバッチの総使用量を基準として、20wt%~70wt%、好ましくは40wt%~60wt%の他の添加剤(F)、又は、それらの混合物と30wt%~80wt%、好ましくはポリマーマトリックスである40wt%~60wt%(マスターバッチの総使用量を基準として)のビニル芳香族オレフィンとアクリロニトリルとの共重合体を含む。好ましくは、ポリマーマトリックスは、ポリ(スチレン-アクリロニトリル)(SAN、Styrene AcryloNitrile)、ポリ(α-メチルスチレン/アクリロニトリル)(AMSAN、Alphamethylstyrene Acrylonitrile)及び/又はポリ(スチレン-メタクリル酸メチル)(SMMA、Styrene Methyl Methacrylate)から選択される。
【0084】
他の添加剤(F)の具体例は、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、熱安定性を高めるための安定剤、光安定性を高めるための安定剤、耐加水分解性と耐薬品性を高めるための安定剤、熱分解防止剤、又は潤滑剤であってもよい。特に潤滑剤は、成形品の生産に寄与する。更に添加されるこれらの他の添加剤(F)は、製造プロセスのどの段階でも混合することができるが、他の添加剤(F)の安定効果(又は他の特定効果)を早期に発揮するように、好ましくは初期の段階で混合する。
【0085】
好適な帯電防止剤の具体例は、アミン誘導体(例えば、N,N-ビス(ヒドロキシアルキル)アルキルアミン又は-アルキレンアミン)、ポリエチレングリコール、エチレンオキシドグリコールとプロピレンオキシドグリコールとの共重合体(特にエチレンオキシドのジブロック又はトリブロック共重合体ブロックとプロピレンオキシドブロック)、グリセリンモノステアレートとジステアレート及びそれらの混合物を含んでもよいが、これらに限られない。
【0086】
好適な酸化防止剤の具体例は、単環又は多環の立体ヒンダードフェノール類酸化防止剤を含んでもよいが、これらに限られず、様々な置換基を含んでもよく、置換基によって架橋されていてもよい。これらの酸化防止剤は、モノマー化合物を含むだけではなく、複数のフェノール単位からなるオリゴマー化合物も含む。ハイドロキノンとハイドロキノンの類似化合物も好適な酸化防止剤であり、置換化合物とトコフェロール及びその誘導体に基づく酸化防止剤も好適である。使用される酸化防止剤は、異なる酸化防止剤からなる混合物を含んでもよい。原則として、商業的に一般的に使用される任意の化合物又はスチレン共重合体に適した化合物、例えば、Irganox(登録商標)シリーズに由来する酸化防止剤を使用してもよい。以上に挙げられた引用されたフェノール類酸化防止剤に加えて、更に共安定剤、特にリン又は硫黄を含有する共安定剤を使用してもよく、これらのリン又は硫黄を含有する共安定剤は、当業者には周知のものである。
【0087】
好適な難燃剤の具体例は、当業者に周知のハロゲン又はリンを含有する化合物、水酸化マグネシウム及び他の一般的に使用される難燃剤化合物又はそれらの混合物を含む。
【0088】
好適な光安定剤の具体例は、様々な置換レゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、及びベンゾフェノンを含む。
【0089】
好適な艶消し剤は、タルク、ガラスビーズ又は金属炭酸塩(例えばMgCO又はCaCO等)等の無機物質を含むだけでなく、ポリマー粒子(例えばメタクリル酸メチル、スチレン化合物、アクリロニトリル又はそれらの混合物の、直径D50が1μmよりも大きい球形粒子状)を含んでもよい。艶消し剤としては、共重合した酸性及び/又はアルカリ性モノマーを含むポリマーを使用してもよい。
【0090】
好適な液だれ防止剤の具体例は、ポリテトラフルオロエチレン(Teflon)ポリマーと超高分子量ポリスチレン(重量平均分子量(Mw)が2,000,000g/モルよりも高い)を含んでもよい。
【0091】
繊維状/粉末充填剤の具体例は、カーボン又はガラス繊維を含んでもよく、その形態は、ガラス織物、ガラスマット又はフィラメントガラスロービング、チョップドガラス、ガラスビーズ、及びワラストナイトであってもよく、好ましくはガラス繊維である。ガラス繊維を使用すると、ブレンド成分との適合性を向上させるために、サイジング剤やカップリング剤で処理することができる。混ぜられたガラス繊維は、短いガラス繊維又は連続的なフィラメント(ロービング)の形態を用いてもよい。
【0092】
好適な粒子充填剤の具体例は、非晶質シリカ、炭酸マグネシウム、セキエイ粉末、雲母、ベントナイト、タルク、長石、又はワラストナイト、及びカオリン等のケイ酸カルシウムを含んでもよい。
【0093】
好適な安定剤の具体例は、ヒンダードフェノール、ビタミンE及び/又はその類似構造の化合物、及びp-クレゾールとジシクロペンタジエニルとのブチル縮合生成物を含む。前記ヒンダードアミン系光安定組成物(C1)とヒンダードアミン系光安定組成物(C2)ではない他のヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾフェノン、レゾルシノール、サリシレート又はベンゾトリアゾールも好適な安定剤である。他の好適な化合物は、例えばチオカルボン酸エステルであってもよく、炭素数が6~20のチオプロピオン酸のアルキルエステル、特にステアリン酸エステルとラウリン酸エステルを使用してもよい。
【0094】
更にチオジプロピオン酸ジラウリル(dilauryl thiodipropionate)、チオジプロピオン酸ジステアリル(distearyl thiodipropionate)、又は上記化合物の混合物を使用してもよい。他の添加剤の具体例は、紫外線光吸収剤(例えば、2H-ベンゾトリアゾール-2-イル-(4-メチルフェノール))を含んでもよい。
【0095】
好適な潤滑剤と離型剤は、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ステアリン酸エステル及び/又は一般的な高級脂肪酸、その誘導体と炭素数1~45の対応する脂肪酸混合物を含む。好ましくは、いくつかの実施例では、前記組成物は、式R-CONH-Rに示すアミド化合物を含み、RとRは、それぞれ独立して、炭素数1~30の脂肪族、飽和又は不飽和炭化水素基から選択される。RとRは、それぞれ好ましくは炭素数12~24の脂肪族、飽和又は不飽和炭化水素基を表し、より好ましくは炭素数16~20の脂肪族、飽和又は不飽和炭化水素基を表す。いくつかの実施例では、前記組成物は、式R-CONH-Rに示す脂肪酸エステル化合物を更に含んでもよく、RとRは、それぞれ独立して炭素数1~45の脂肪族、飽和又は不飽和炭化水素基から選択される。RとRは、それぞれ好ましくは炭素数15~40の脂肪族、飽和又は不飽和炭化水素基を表し、より好ましくは炭素数が25~35の脂肪族、飽和又は不飽和炭化水素基を表す。エチレンビス(ステアリン酸アミド)は、特に好適である。
【0096】
いくつかの実施例では、本発明の熱可塑性組成物は、有機、無機又は混合されたリン酸塩、特にアルカリ金属又はアルカリ土金属類リン酸塩、例えばCa(PO及び/又は炭素数1~12のアルキル又はアリールを含有する有機リン酸塩を含んでもよい。
【0097】
いくつかの実施例では、本発明の熱可塑性組成物は、ポリエステル変性ポリシロキサン、特にポリエステル-ポリシロキサン-ブロック共重合体、好ましくは[ポリエステル-b-ポリシロキサン-b-ポリエステル]トリブロック共重合体を更に含んでもよい。ポリエステル-ポリシロキサン-ブロック共重合体に含まれるポリシロキサン部分の具体例は、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(ジエチルシロキサン)、ポリ(ジプロピルシロキサン)、ポリ(ジブチルシロキサン)及びそれらの混合物に由来してもよい。
【0098】
本発明の熱可塑性組成物の製造方法は、特に限定されず、一般的な混合方法を用いてもよく、例えばアクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)と、パラフィンワックス(B)と、ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)を均一に混合すればよく、選択的にヒンダードアミン系光安定組成物(C2)、紫外線光安定剤(D)、着色剤、染料及び/又は顔料(E)及び/又は他の添加剤(F)を添加してもよい。いくつかの実施例では、前記の一般的な混合方法は、一般的なヘンシェル(Henschel)ミキサーで乾式混合した後、そして例えば押出ミキサー、ニーダー又はバンバリー(Banbury)ミキサー等のミキサーで溶融混合することを含む。
【0099】
いくつかの実施例では、熱可塑性組成物の製造方法は、100重量部のアクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)と、0.05重量部~10重量部のパラフィンワックス(B)と、0.1重量部~2重量部のジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物(C1)とを提供し、そして200℃~230℃の温度で混練して得られることである。
【0100】
なお、本発明の熱可塑性組成物には、必要に応じてヒンダードアミン系光安定組成物(C2)、紫外線光安定剤(D)、着色剤、染料及び/又は顔料(E)及び/又は他の添加剤(F)を添加してもよい。例えば、他の添加剤(F)は、酸化防止剤、可塑剤、加工助剤、紫外線光安定剤(D)と異なる紫外線光安定剤、紫外線吸収剤、充填剤、強化剤、着色剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、熱安定剤、カップリング剤又は他の添加剤等を含んでもよいが、これらに限られない。上記添加剤は、押出混練のプロセスで添加されてもよい。
【0101】
本発明の別の実施態様は、前記熱可塑性組成物で形成される成形品を提供する。成形品の形成方法は、当業者に周知の射出成形を用いてもよいため、これ以上説明しない。
【0102】
以下、実施例を用いて、本発明の使用を説明するが、本発明を限定するためのものではなく、当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修飾を加えることができる。
【実施例0103】
実施例1
【0104】
スチレン-アクリロニトリル系共重合体の製造
【0105】
68重量部のスチレンモノマー、32重量部のアクリロニトリルモノマー、8重量部のエチルベンゼン、0.01重量部の1,1-ジ-tert-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、及び0.15重量部のtert-ドデシルメルカプタン等の原料を均一に混合し、2つの直列接続型連続完全混合形反応器に連続的に供給し、反応器の容積が共に40リットルであり、この2つの反応器の内温をそれぞれ110℃及び115℃に維持し、反応器の圧力が共に4kg/cmであった。均一に混合された原料を35kg/hrの供給速度で反応器内に供給して、重合反応を行った。重合反応全体の転化率が約50%であった。
【0106】
重合反応後、得られた共重合体溶液を予熱器で加熱し、そして減圧脱気槽で未反応のモノマー及び他の揮発成分を揮発して除去した。そして、押出造粒によって、実施例1で必要とされるスチレン-アクリロニトリル系共重合体を得ることができた。
【0107】
アクリル系ゴムグラフト共重合体の製造
【0108】
まず、99.0重量部のn-ブチルアクリレート、1.0重量部のメタクリル酸アリル、5.0重量部のナトリウムスルホコハク酸ジオクチル、2.0重量部のtert-ブチルヒドロペルオキシド溶液(濃度70wt%)、3.0重量部の硫酸第一鉄溶液(濃度0.2wt%)、3.0重量部のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム溶液(濃度10wt%)、及び4000.0重量部の蒸留水を60℃の反応温度で7時間反応させて、重量平均粒子径が0.1μmのアクリル酸エステル系ゴム乳液が得られた。
【0109】
そして、100.0重量部の重量平均粒子径0.1μmの上記アクリル酸エステル系ゴム乳液(乾燥重量)、70.0重量部のスチレン、30.0重量部のアクリロニトリル、6.0重量部のナトリウムスルホコハク酸ジオクチル、1.0重量部のクメンヒドロペルオキシド、3.0重量部の硫酸第一鉄溶液(濃度0.2wt%)、3.0重量部のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム溶液(濃度10wt%)、及び3000.0重量部の蒸留水を混合し、グラフト重合反応を行い、スチレン及びアクリロニトリルを連続的添加方式で5時間内に反応システムに添加した。グラフト重合反応終了後、重量平均粒子径が0.12μmのアクリル系ゴムグラフト乳液が得られた。
【0110】
また、99.0重量部のn-ブチルアクリレート、1.0重量部のメタクリル酸アリル、3.0重量部のナトリウムスルホコハク酸ジオクチル、1.0重量部のtert-ブチルヒドロペルオキシド溶液(濃度70wt%)、3.0重量部の硫酸第一鉄溶液(濃度0.2wt%)、3.0重量部のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム溶液(濃度10wt%)、及び4000.0重量部の蒸留水を均一に混合し、65℃温度で7時間反応させて、重量平均粒子径が0.4μmのアクリル酸エステル系ゴム乳液が得られた。
【0111】
同様に、100.0重量部の重量平均粒子径0.4μmの上記アクリル酸エステル系ゴム乳液(乾燥重量)、37.6重量部のスチレン、16.1重量部のアクリロニトリル、4.0重量部のナトリウムスルホコハク酸ジオクチル、1.0重量部のクメンヒドロペルオキシド、3.0重量部の硫酸第一鉄溶液(濃度0.2wt%)、3.0重量部のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム溶液(濃度10wt%)、及び2000.0重量部の蒸留水を混合し、グラフト重合反応を行い、スチレン及びアクリロニトリルを連続的添加方式で5時間内に反応システムに添加した。グラフト重合反応終了後、重量平均粒子径が0.45μmのアクリル系ゴムグラフト乳液が得られた。
【0112】
最後に、60wt%(乾燥重量)の重量平均粒子径0.12μmの上記アクリル系ゴムグラフト乳液と40wt%(乾燥重量)の重量平均粒子径0.45μmの上記アクリル系ゴムグラフト乳液とを混合し、塩化カルシウム(CaCl)で凝固及び脱水した後、更に含水量が2%以下になるまで乾燥させ、実施例1で必要とされるアクリル系ゴムグラフト共重合体が得られ、その重量平均粒子径は、0.12μm及び0.45μmのダブルピーク分布パターンであった。
【0113】
アクリル系ゴム変性樹脂組成物の製造
【0114】
乾燥状態で、二軸押出機(台湾沢機工業株式会社製、型番ZPT-25の装置)を用いて65.1wt%の上記スチレン-アクリロニトリル系共重合体、34.9wt%の重量平均粒子径が0.12μm、0.45μmの上記ダブルピーク分布パターンのアクリル系ゴムグラフト共重合体と1.04wt%の滑剤を混練温度220℃で混練した。そして、二軸押出機で押出すると、必要とされるアクリル系ゴム変性樹脂組成物が得られた。
【0115】
熱可塑性組成物の製造
【0116】
乾燥状態で、二軸押出機(台湾沢機工業株式会社製、型番ZPT-25の装置)を用いて100重量部のアクリル系ゴム変性樹脂組成物、1.0重量部のTinuvin(登録商標) 770、2重量部のパラフィンワックスと1.6重量部のカーボンブラックを混練温度220℃で混練した。そして、二軸押出機で押出すると、実施例1の熱可塑性組成物が得られた。
【0117】
実施例2~実施例6
【0118】
実施例2~実施例6は、熱可塑性組成物の製造時に使用されるパラフィンワックス(B)の種類及び/又は添加量が同じではなく、その詳細な配合を表1に示す。それ以外、実施例1と同様である。なお、実施例2~実施例6は、実施例1と同じ製造方式を有する。
【0119】
実施例7~実施例9
【0120】
実施例7~実施例9は、熱可塑性組成物の製造時に分子量が1000g/モル~5000g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物(C2)又は紫外線光安定剤(D)を追加添加し、その詳細な配合を表1に示す。それ以外、実施例1と同様である。なお、実施例7~実施例9は、実施例1と同じ製造方式を有する。
【0121】
実施例10
【0122】
実施例10は、熱可塑性組成物の製造時に分子量が1000g/モル~5000g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物(C2)及び紫外線光安定剤(D)を追加添加し、その詳細な配合を表1に示す。それ以外、実施例1と同様である。なお、実施例10は、実施例1と同じ製造方式を有する。
【0123】
比較例1、比較例3及び比較例4
【0124】
比較例1、比較例3及び比較例4は、熱可塑性組成物の製造時にパラフィンワックス(B)を使用しておらず、その詳細な配合を表1に示す。それ以外、実施例1と同様である。なお、比較例1、比較例3及び比較例4は、実施例1と同じ製造方式を有する。
【0125】
比較例2
【0126】
比較例2は、熱可塑性組成物の製造時に、ジピペリジン構造を有する分子量200g/モル~600g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物(C1)を使用しておらず、その詳細な配合を表1に示す。それ以外、実施例1と同様である。なお、比較例2は、実施例1と同じ製造方式を有する。
【0127】
比較例5
【0128】
比較例5は、熱可塑性組成物の製造時に、ジピペリジン構造を有する分子量200g/モル~600g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物(C1)を使用しておらず、その詳細な配合を表1に示す。それ以外、実施例1と同様である。なお、比較例5は、実施例1と同じ製造方式を有する。
【0129】
実施例11と実施例14
【0130】
実施例11と実施例14は、熱可塑性組成物の製造時に使用されるパラフィンワックス(B)の種類及び/又は添加量が同じではなく、紫外線光安定剤(D)を追加添加し、その詳細な配合を表2に示す。それ以外、実施例1と同様である。なお、実施例11と実施例14は、実施例1と同じ製造方式を有する。
【0131】
実施例12と実施例13
【0132】
実施例12と実施例13は、熱可塑性組成物の製造時に使用されるパラフィンワックス(B)の種類及び/又は添加量が同じではなく、分子量1000g/モル~5000g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物(C2)及び紫外線光安定剤(D)を追加添加し、その詳細な配合を表2に示す。それ以外、実施例1と同様である。なお、実施例12と実施例13は、実施例1と同じ製造方式を有する。
【0133】
実施例15~実施例17
【0134】
実施例15~実施例17は、熱可塑性組成物の製造時に使用されるスチレン-アクリロニトリル系共重合体とアクリル系ゴムグラフト共重合体の使用量が同じではなく、使用されるパラフィンワックス(B)の種類及び/又は添加量が同じではなく、分子量1000g/モル~5000g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物(C2)及び紫外線光安定剤(D)を追加添加し、その詳細な配合を表2に示す。それ以外、実施例1と同様である。なお、実施例15~実施例17は、実施例1と同じ製造方式を有する。
【0135】
比較例6
【0136】
比較例6は、熱可塑性組成物の製造時に、パラフィンワックス(B)を使用しておらず、紫外線光安定剤(D)を追加添加し、その詳細な配合を表2に示す。それ以外、実施例1と同様である。なお、比較例6は、実施例1と同じ製造方式を有する。
【0137】
比較例7
【0138】
比較例7は、熱可塑性組成物の製造時に、ジピペリジン構造を有する分子量200g/モル~600g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物(C1)を使用していないが、分子量1000g/モル~5000g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物(C2)及び紫外線光安定剤(D)を追加添加し、その詳細な配合を表2に示す。それ以外、実施例1と同様である。なお、比較例7は、実施例1と同じ製造方式を有する。
【0139】
以下、実施例1~実施例17及び比較例1~比較例7の熱可塑性組成物に対して行った物性試験の原理及び評価基準を詳細に説明し、各試験結果をそれぞれ表1と表2に示す。
【0140】
熱可塑性組成物の物性試験
【0141】
1.メルトボリュームフローレート(MVR)
【0142】
ASTM D-1238の基準方法に従って測定し、試験温度が220℃であり、荷重が10kgであり、g/10minで表す。
【0143】
2.表面光沢度(gloss)
【0144】
各実施例及び比較例で製造された熱可塑性組成物を直径が5.5cmの円盤試験片に射出成形し、ASTM D-523の基準方法に従って測定し、%をその単位とする。
【0145】
3.耐薬品性
【0146】
1/4楕円法を用いて熱可塑性組成物の耐薬品性を評価し、試薬として95無鉛ガソリンと氷酢酸を用いた。試験片の成形歪みの影響を減らすために、各実施例及び比較例で製造された熱可塑性組成物を射出機で射出成形して、耐薬品性の楕円状試験片を製造した。試験片の形状は、230mm×30mm×2mmであるが、楕円の長半径は、190mm、楕円の短半径は、77mmである。
【0147】
試薬を試験片に塗布し、23℃で48時間放置した後に試験片のクラックを観察し、以下の式で試験片の臨界歪みを計算し、下記基準に従って耐薬品性を判断した。「E級」は、日常使用でクラックが発生しないことを表し、「D級」は、日常の大きな応力条件下で使用されるとクラックが発生することを表し、「C級」は、日常使用でクラックが発生する可能性があることを表す。
【数1】
【0148】
ここで、εは、臨界歪みを表し、aは、長半径を表し、bは、短半径を表し、Xは、クラック発生点を表し、tは、試験片の厚さを表す。
E級:2.0≦εである。
D級:0.8≦ε<2.0である。
C級:0.5≦ε<0.8である。
【0149】
4.臭気試験
【0150】
各実施例及び比較例で製造された熱可塑性組成物10gを500mlのガラス瓶に添加し、70℃のオーブンで加熱した。2時間加熱した後、0.5時間~1.5時間室温まで冷却し、下記評価等級(1~5級)に従って臭気試験を判断した。
1級:臭気がない。
2級:知覚可能で許容できるわずかな臭気がある。
3級:臭気があるが、刺激性がなく、我慢できる。
4級:明らかな臭気があり且つ嫌悪感がある。
5級:強くて耐えられない刺激的臭気がある。
【0151】
5.成形加工性
【0152】
前記メルトボリュームフローレートの測定結果、下記基准に従って成形加工性を判断した。「◎」は、加工性に優れることを表し、「○」は、加工性が良好であることを表す。
◎:11.5g/10min≦MVRである。
○:9.5g/10min≦MVR<11.5g/10minである。
【0153】
【表1】
B-1:台蝋(TAIWAN WAX COMPANY LTD.)製、型番Taiwan wax 145Fのパラフィンワックス(T62℃)。
B-2:台蝋(TAIWAN WAX COMPANY LTD.)製、型番Taiwan wax 160Fのパラフィンワックス(T71℃)。
C1-1:BASF SE社製、型番Tinuvin(登録商標) 770のヒンダードアミン系光安定組成物、分子量200g/モル~600g/モル。
C2-1:BASF SE社製、型番Chimassorb(登録商標) 119のヒンダードアミン系光安定組成物、分子量1000g/モル~5000g/モル。
C2-2:BASF SE社製、型番Chimassorb(登録商標) 944のヒンダードアミン系光安定組成物、分子量1000g/モル~5000g/モル。
D-1:BASF SE社製、型番Tinuvin(登録商標) 329の紫外線光安定剤。
E-1:Orion製、型番Hi Black 890のカーボンブラック。
F-1:Palmamide製、型番Armowax EBSの滑剤。
【0154】
表1から分かるように、実施例1~実施例6で製造された熱可塑性組成物中のアクリル系ゴム変性樹脂組成物(即ち、スチレン-アクリロニトリル系共重合体とアクリル系ゴムグラフト共重合体)では、パラフィンワックスとTinuvin(登録商標) 770は、熱可塑性組成物の臭気を減らすとともに、その流動性及び耐薬品性を高め且つ光沢を減らすことができる。また、パラフィンワックスの使用量が増加すると、熱可塑性組成物の流動性が高まるだけでなく、その耐薬品性及び低光沢性も高まる。また、実施例1~実施例3と比較して、実施例4~実施例6では、熱可塑性組成物は、比較的に高い融点を有するパラフィンワックスにより、同様に低臭気、高耐薬品性、高流動性及び低光沢度等の特性を兼ね備えることができる。
【0155】
実施例7~実施例9では、熱可塑性組成物に分子量1000g/モル~5000g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物(例えばChimassorb(登録商標) 119又はChimassorb(登録商標) 944)又は紫外線光安定剤(例えばTinuvin(登録商標) 329)を追加添加すると、熱可塑性組成物は、低臭気、高耐薬品性を維持することができるとともに、流動性及び低光沢性も更に高まる。
【0156】
実施例1と比較して、実施例10では、熱可塑性組成物に分子量1000g/モル~5000g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物(例えばChimassorb(登録商標) 119とChimassorb(登録商標) 944)及び紫外線光安定剤(例えばTinuvin(登録商標) 329)を追加添加すると、製造された熱可塑性組成物は、低臭気、高耐薬品性、高流動性及び低光沢度等の特性を兼ね備える。
【0157】
比較例1で製造された熱可塑性組成物は、パラフィンワックスを使用しておらず、ジピペリジン構造を有する分子量200g/モル~600g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物のみを含有するため、比較的に低い臭気性能、耐薬品性、流動性を有し、光沢性能を効果的に減らすことができない。比較例1と比較して、比較例2の熱可塑性組成物は、臭気性能、耐薬品性、流動性及び低光沢性能がわずかに高まるが、パラフィンワックスのみを使用し、ジピペリジン構造を有する分子量200g/モル~600g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物を使用していないため、依然として適用の需要を満たすことができない。
【0158】
比較例3では、ジピペリジン構造を有する分子量200g/モル~600g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物と紫外線光安定剤のみを使用し、パラフィンワックスを使用していなかった。比較例4では、ジピペリジン構造を有する分子量200g/モル~600g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物と、分子量1000g/モル~5000g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物との組み合わせを使用するが、パラフィンワックスを使用していなかった。比較例3と比較例4では、熱可塑性組成物は、何れもパラフィンワックスが添加されていないため、その臭気性能、耐薬品性、流動性及び低光沢性能が何れも比較的に低い。比較例1と比較して、比較例5では、パラフィンワックスを使用するが、分子量1000g/モル~5000g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物と紫外線光安定剤との組み合わせを使用するため、物性の面では臭気性能、耐薬品性、流動性及び低光沢性能をわずかに高めることができるが、ジピペリジン構造を有する分子量200g/モル~600g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物を使用していないため、依然として比較的に低い流動性、低光沢性、耐薬品性、臭気性能及び加工性を有し、従って、適用の需要を満たすことができない。
【0159】
【表2】
【0160】
表2において、成分B-1、B-2、C1-1、C2-1、C2-2、E-1とF-1で表される種類は、何れも表1に記載したものと同じであるため、ここでこれ以上説明しない。そして、表2の成分D-2は、BASF SE社製、型番Tinuvin(登録商標) 360の紫外線光安定剤を表す。
【0161】
実施例1と比較して、実施例11~実施例17では、熱可塑性組成物に分子量1000g/モル~5000g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物(例えばChimassorb(登録商標) 119とChimassorb(登録商標) 944)及び/又は紫外線光安定剤(例えばTinuvin(登録商標) 360)を追加添加すると、製造された熱可塑性組成物は、低臭気、高耐薬品性、高流動性及び低光沢度等の特性を兼ね備える。そして、実施例8と実施例10で使用される紫外線光安定剤(D-1)と比較して、実施例11~実施例17で使用される紫外線光安定剤(D-2)も同じ効果が得られるため、製造された熱可塑性組成物は、低臭気、高耐薬品性、高流動性及び低光沢度等の特性を兼ね備える。
【0162】
比較例6では、ジピペリジン構造を有する分子量200g/モル~600g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物と紫外線光安定剤のみを使用し、パラフィンワックスを使用していないため、その臭気性能、耐薬品性、流動性及び低光沢性能が何れも比較的に低い。比較例7では、パラフィンワックスを使用したが、分子量1000g/モル~5000g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物と紫外線光安定剤との組み合わせを使用するため、物性の面では臭気性能、耐薬品性、流動性及び低光沢性能をわずかに高めることができるが、ジピペリジン構造を有する分子量200g/モル~600g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物を使用していないため、依然として比較的に低い流動性、低光沢性、耐薬品性、臭気性能及び加工性を有するため、適用の需要を満たすことができない。
【0163】
実施例1~実施例17と、比較例1~比較例7との比較から分かるように、熱可塑性組成物がパラフィンワックスのみを含む又はジピペリジン構造を有する分子量200g/モル~600g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物のみを含む場合に、その流動性、低光沢性能、耐薬品性及び臭気性能が何れも比較的に低く、適用の需要を満たすことができない。従って、本発明では、パラフィンワックスと分子量200g/モル~600g/モルの両者を添加することによって、ジピペリジン構造を有するヒンダードアミン系光安定組成物~ASA樹脂では、両者の相乗効果により、熱可塑性組成物の流動性を効果的に高めることができるほか、臭気性能、耐薬品性及び低光沢性能を更に高めることができる。
【0164】
更に、熱可塑性組成物がパラフィンワックスのみを含む又はジピペリジン構造を有する分子量200g/モル~600g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物のみを含む場合に、分子量1000g/モル~5000g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物又は紫外線光安定剤の少なくとも1つを追加添加したとしても、熱可塑性組成物の流動性、低光沢性能、耐薬品性及び臭気性能が適用の需要を満たすことができない。
【0165】
明らかに、本発明は、パラフィンワックスとジピペリジン構造を有する分子量200g/モル~600g/モルのヒンダードアミン系光安定組成物の両者をアクリル系ゴム変性樹脂組成物に添加することによって、熱可塑性組成物の流動性、低光沢性能、耐薬品性及び臭気性能を相乗的にかつ顕著に高めることができ、更に適用の需要を満たす。
【0166】
以上のように、本発明は、熱可塑性組成物を提案し、それは、含有量が100重量部のアクリル系ゴム変性樹脂組成物(A)と、含有量が0.05重量部~10重量部のパラフィンワックス(B)と、ジピペリジン構造を有する含有量が0.1重量部~2重量部のヒンダードアミン系光安定組成物(C1)とを含み、前記ヒンダードアミン系光安定組成物(C1)の分子量が200g/モル~600g/モルである。本発明の熱可塑性組成物は、上記含有量の組成物によって、低臭気、高耐薬品性、高流動性及び低光沢度等の特性を兼ね備える。
【0167】
本発明は、上記実施形態で以上のように開示されたが、本発明を限定するためのものではなく、本発明の当業者であれば、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、様々な変更と修飾を加えることができる。したがって、本発明の保護範囲は、添付の特許出願の範囲によって限定されるものを基準とする。