(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101591
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】作業車両の操舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20240723BHJP
A01B 69/00 20060101ALI20240723BHJP
F16H 1/18 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B62D5/04
A01B69/00 303A
F16H1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005567
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林田 淳一
【テーマコード(参考)】
2B043
3D333
3J009
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB19
2B043BA02
2B043BA09
2B043BB06
2B043DA01
2B043DA04
2B043EB05
2B043EB12
2B043EB15
2B043EB23
2B043ED02
3D333CB06
3D333CB13
3D333CC08
3D333CC13
3D333CD04
3D333CD05
3D333CD12
3D333CD14
3D333CD17
3D333CE16
3D333CE49
3J009EA15
3J009FA06
3J009FA08
(57)【要約】
【課題】操舵系に設けるステアリングシャフトをステアリングホイールの人為的な操作や、ステッピングモータと歯車減速機構に基づいて回転させて、車両の進行方向を手動や自動で変更可能になす作業車両の操舵装置にあって、作業者が自動操舵で直進走行を行わせている際に、歯車減速機構やステッピングモータに過負荷が加わって発生する不快な振動や騒音を低減して、作業を快適に行うことができるようにする。
【解決手段】歯車減速機構はステッピングモータによって駆動されて回転する駆動軸に設けるはすば歯車とステアリングシャフトに設けるはすば歯車の対によって構成し、また、駆動軸に設けるはすば歯車にかなりな負荷が加わって、これにより駆動軸が弾機の付勢力に抗して軸心方向に移動したことを制御装置が変位計を用いて検出すると、制御装置はステッピングモータに対する励磁電流を遮断して、ステッピングモータの自己保持力を消失させる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両の操舵系に設けるステアリングシャフトをステアリングホイールの人為的な操作に基づいて回転させて、車両の進行方向を手動で変更可能になすと共に、係るステアリングシャフトをステッピングモータと歯車減速機構に基づいて回転させて、車両の進行方向を自動で変更可能になす操舵装置にあって、前記歯車減速機構はステッピングモータによって駆動されて回転する駆動軸に設けるはすば歯車とステアリングシャフトに設けるはすば歯車の対によって構成し、また、前記駆動軸に設けるはすば歯車にかなりな負荷が加わって、これにより駆動軸が弾機の付勢力に抗して軸心方向に移動したことを制御装置が変位計を用いて検出すると、制御装置はステッピングモータに対する励磁電流を遮断して、ステッピングモータの自己保持力を消失させることを特徴とする作業車両の操舵装置。
【請求項2】
前記駆動軸に設けるはすば歯車にかなりな負荷が加わって、これにより駆動軸が弾機の付勢力に抗して軸心方向に移動したことを制御装置が変位計を用いて検出すると、制御装置はステッピングモータに対する励磁電流を遮断して、ステッピングモータの自己保持力を消失させると共に、その後の自動操舵を作業者からの再開指示があるまで停止することを特徴とする請求項1に記載の作業車両の操舵装置。
【請求項3】
前記駆動軸の摺動面にグリスを充填して、駆動軸とその駆動軸に設けるはすば歯車の共振に伴う騒音の発生を充填したグリスの減衰力によって抑制することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の作業車両の操舵装置。
【請求項4】
前記駆動軸に設けるはすば歯車に過負荷が加わって、これにより駆動軸が弾機の付勢力に抗して軸心方向に移動すると、前記ステッピングモータと駆動軸の相互間の伝動をボールクラッチ機構によって断ち切ることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1つに記載の作業車両の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両の操舵装置に係り、詳しくは乗用型田植機やトラクタ等の主に農業用の作業車両に用いる走行機体(作業車両)の進行方向を手動や自動で変更可能になす操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用型田植機やトラクタ等の農業用の作業車両は、田畑に苗を植え付けたり耕耘装置によって土壌を耕す等の農作業を行う場合に、走行機体をできるだけ真っすぐに、且つ、一定の作業間隔で走行させることが未作業領域や重複作業領域を減らして作業能率を向上させるうえで重要である。そこで、作業者の負担軽減や未熟な作業者でも熟練者並みの直進走行を行うことができるようにするために、衛星測位システム等を用いて直進走行を行う自動操舵装置を備える作業車両が開発されている。
【0003】
また、このような自動操舵装置を備える作業車両の中には、圃場における直進作業走行のみならず枕地での走行機体の旋回を含めた全ての行程を自動で行うものも開発されてきている。ところで、このような自動操舵装置を用いて作業を行う場合に、作業者は自動操舵の開始や停止を押しボタン操作によって行い、例えば、自動で直進走行を行った後に枕地に至ってステアリングホイールを用いて手動で走行機体の旋回を行う場合には、押しボタンを押して自動操舵を停止させたうえで旋回を行うようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、圃場で作業走行を行っている場合に、作業を一緒に行っている補助作業者が誤って作業車両の進路を横切って塞いだり、或いは、圃場の溝に車輪が落ちてしまって自動操舵が適正に行えないといった種々の緊急事態に遭遇することがある。そして、このような場合に作業者が自動操舵を停止させることに手間取って、ステアリングホイールを用いた手動での作業車両の進行方向の変更が速やかにできないようでは、安心して自動操舵装置を使用することができない。
【0005】
そこで、この種の自動操舵装置にあっては、自動操舵中であってもステアリングホイールによる手動操作が優先して行えるように、例えば、作業車両の操舵系に設けるステアリングシャフトに対する自動操舵装置側からの自動操舵トルクを、ステアリングホイールによる手動操舵トルクより低く押さえて、自動操舵を必ずしも停止させなくともこの自動操舵トルクに打ち勝って、ステアリングホイールによる手動操舵を行えるようになして、前述の如き緊急事態に対処できるようにする。
【0006】
そして、自動操舵装置はこのように手動操舵を優先させながら、電動モータと歯車減速機構を用いてステアリングシャフトを過不足のない駆動トルクで駆動できるように構成する。また、この場合に、電動モータはオープンループ制御によってモータの回転角度を簡単に制御できて、比較的安価に得られるステッピングモータを用い、さらに、歯車減速機構はウォームギヤのようにセルフロックがかかると手動操舵が行えなくなるので、平歯車の減速機構を用いることによって手動操舵を行った際のステアリングシャフト側からの歯車減速機構の逆回転駆動を許容するようになす(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-16323号公報
【特許文献2】特開2021-75140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
自動車と同様に農作業に用いる作業車両の操舵装置は、操縦部に設けるステアリングホイールを手動操作して操舵系に設けるステアリングシャフトを回転させることによって、前輪等の操舵輪を操舵して、走行機体の進行方向を変更することができる。また、このような作業車両を自動で直進走行や旋回走行等を行わせる自動操舵装置は、前述の手動の操舵系に設けるステアリングシャフトを電動モータや歯車減速機構を用いて回転させることによって、走行機体の進行方向を変更することができる。
【0009】
そして、この自動操舵装置に使用する電動モータとしてステッピングモータを用いると、例えば、2相のステッピングモータであれば1.8度のステップ角ずつ回転させることができるから、制御装置がステータの相巻線の励磁電流を制御して切り替えることで、モータの回転角度や回転速度を正確に制御することができる。また、ステッピングモータは小型で高トルクを発生することができるから、歯車減速機構を組合わせて使用することにより、更に大きなトルクで過不足なくステアリングシャフトを回転させることができる。
【0010】
さらに、ステッピングモータは、励磁電流を流し続けることによって自らの回転停止状態をそのホールディングトルクによって自己保持するので、走行機体の直進状態等を保持し易くなる。しかし、ステッピングモータはステップ角ずつ回転して停止の繰り返しによって回転するので、この際のトルク変動による振動が歯車減速機構側に伝わって、これ等から騒音を発生し易くなる。また、ステッピングモータに過負荷が加わって励磁電流の切り替えに同期動作できなくなると自らの回転を停止し(脱調)、その上モータを更に回転させようとすると不快な騒音を出し続けるという問題がある。
【0011】
一方、ステッピングモータによって駆動する歯車減速機構は、前述のようにステアリングホイールによってステアリングシャフトを優先して回転させることができるようにしなければならないから、ウォームギヤのようなセルフロック作用を発揮しない平歯車の減速機構を用いる。そして、この減速機構における平歯車の噛み合いには少なからずバックラッシュを設けており、前述のようにステッピングモータから振動が伝わると、このバックラッシュによって平歯車の歯面同士が当接を繰り返して叩き音(打撃音)を発生させる。
【0012】
従って、自動操舵装置の電動モータと歯車減速機構をステッピングモータと平歯車となす歯車減速機構によって構成すると、従来の手動操舵のみを行う作業車両の操舵装置に安価で緊急事態にも支障なく対処可能な自動操舵装置を比較的簡単に組み込むことができる。しかし、ステッピングモータや平歯車の歯車減速機構は振動や騒音を発生し易く、特に自動操舵を行っている際に、作業者がステアリングホイールを操作したり、走行中に操舵輪が溝に嵌ってロックしたりすると、過大な負荷が歯車減速機構やステッピングモータにかかって振動や騒音が大きくなり作業者に不快感を与える。
【0013】
そこで、本発明は係る問題点に鑑み、操舵系に設けるステアリングシャフトをステアリングホイールの人為的な操作や、ステッピングモータと歯車減速機構に基づいて回転させて、車両の進行方向を手動や自動で変更可能になす作業車両の操舵装置にあって、作業者が自動操舵で直進走行を行わせている際に、歯車減速機構やステッピングモータに過負荷が加わって発生する不快な振動や騒音を低減して、作業を快適に行うことができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の作業車両の操舵装置は、前述の課題を解決するため第1に、作業車両の操舵系に設けるステアリングシャフトをステアリングホイールの人為的な操作に基づいて回転させて、車両の進行方向を手動で変更可能になすと共に、係るステアリングシャフトをステッピングモータと歯車減速機構に基づいて回転させて、車両の進行方向を自動で変更可能になす操舵装置にあって、前記歯車減速機構はステッピングモータによって駆動されて回転する駆動軸に設けるはすば歯車とステアリングシャフトに設けるはすば歯車の対によって構成し、また、前記駆動軸に設けるはすば歯車にかなりな負荷が加わって、これにより駆動軸が弾機の付勢力に抗して軸心方向に移動したことを制御装置が変位計を用いて検出すると、制御装置はステッピングモータに対する励磁電流を遮断して、ステッピングモータの自己保持力を消失させる。
【0015】
また、本発明の作業車両の操舵装置は第2に、前記駆動軸に設けるはすば歯車にかなりな負荷が加わって、これにより駆動軸が弾機の付勢力に抗して軸心方向に移動したことを制御装置が変位計を用いて検出すると、制御装置はステッピングモータに対する励磁電流を遮断して、ステッピングモータの自己保持力を消失させると共に、その後の自動操舵を作業者からの再開指示があるまで停止する。
【0016】
さらに、本発明の作業車両の操舵装置は第3に、前記駆動軸の摺動面にグリスを充填して、駆動軸とその駆動軸に設けるはすば歯車の共振に伴う騒音の発生を充填したグリスの減衰力によって抑制する。
【0017】
そして、本発明の作業車両の操舵装置は第4に、前記駆動軸に設けるはすば歯車に過負荷が加わって、これにより駆動軸が弾機の付勢力に抗して軸心方向に移動すると、前記ステッピングモータと駆動軸の相互間の伝動をボールクラッチ機構によって断ち切る。
【発明の効果】
【0018】
本発明の作業車両の操舵装置によれば、作業車両の操舵系に設けるステアリングシャフトをステアリングホイールの人為的な操作に基づいて回転させて、車両の進行方向を手動で変更可能になすと共に、係るステアリングシャフトをステッピングモータと歯車減速機構に基づいて回転させて、車両の進行方向を自動で変更可能になす操舵装置にあって、前記歯車減速機構はステッピングモータによって駆動されて回転する駆動軸に設けるはすば歯車とステアリングシャフトに設けるはすば歯車の対によって構成し、また、前記駆動軸に設けるはすば歯車にかなりな負荷が加わって、これにより駆動軸が弾機の付勢力に抗して軸心方向に移動したことを制御装置が変位計を用いて検出すると、制御装置はステッピングモータに対する励磁電流を遮断して、ステッピングモータの自己保持力を消失させる。
【0019】
そのため、作業者が自動操舵を停止させることなく旋回等を行うためにステアリングホイールを操作してステアリングシャフトを回転させたり、圃場の溝に嵌って操舵輪がロックしてステアリングシャフトが回転不能となった際に、直進走行を行わせるべく制御装置がステッピングモータを回転させようとすると、歯車減速機構の駆動軸に設けるはすば歯車は、ステアリングシャフトに設けるはすば歯車側から駆動反力(負荷)を受けてステッピングモータに負荷を与える。また、駆動反力を受けた駆動軸に設けるはすば歯車には駆動反力に比例するスラスト力が加わる。
【0020】
そして、この歯車減速機構の駆動軸に設けるはすば歯車に加わる負荷が大きくなってステッピングモータに過負荷が加わると、ステッピングモータは脱調して自らの回転を停止する。また、ステアリングシャフト側から歯車減速機構が逆回転駆動されると、ステッピングモータも逆回転して、歯車減速機構やステッピングモータの振動や騒音は大きくなって、作業者に不快感を与える。
【0021】
しかし、この場合、駆動軸に設けるはすば歯車にかなりな負荷が加わると、駆動軸はそのはすば歯車からスラスト力を受けて弾機の付勢力に抗して軸心方向に移動する。また、この駆動軸の移動を変位計によって制御装置が検出すると、制御装置はステッピングモータに対する励磁電流を遮断して、ステッピングモータの自己保持力を消失させる。そのため、ステッピングモータは脱調が生ずる直前や、或いは脱調が生じた直後に速やかに停止されて自由に回転できる状態にすることができて、ステッピングモータの振動や騒音の発生を防止することができる。
【0022】
なお、歯車減速機構はステッピングモータによって駆動されて回転する駆動軸に設けるはすば歯車とステアリングシャフトに設けるはすば歯車の対によって構成し、平歯車よりかみあい率が高いはすば歯車を用いることによって歯車減速機構の振動や歯面同士の叩き音を少なくすることができる。また、はすば歯車を用いた歯車減速機構は平歯車を用いた減速機構と同様にセルフロックがかからず、手動操舵を行った際のステアリングシャフト側からの歯車減速機構の回転を許容する。
【0023】
また、本発明の作業車両の操舵装置によれば、前記駆動軸に設けるはすば歯車にかなりな負荷が加わって、これにより駆動軸が弾機の付勢力に抗して軸心方向に移動したことを制御装置が変位計を用いて検出すると、制御装置はステッピングモータに対する励磁電流を遮断して、ステッピングモータの自己保持力を消失させると共に、その後の自動操舵を作業者からの再開指示があるまで停止するので、その後に負荷が解消された際の意図しない不測な自動操舵を防止して、自動操舵装置の安全性を担保することができる。
【0024】
さらに、本発明の作業車両の操舵装置によれば、前記駆動軸の摺動面にグリスを充填して、駆動軸とその駆動軸に設けるはすば歯車の共振に伴う騒音の発生を充填したグリスの減衰力によって抑制する。つまり、ステッピングモータを駆動させた際に歯車減速機構の駆動軸に設けるはすば歯車は、前述のようにスラスト力を受けて駆動軸と共に駆動軸の軸心方向に移動し、また、弾機は駆動軸の移動を付勢力によって阻止しようとして、互いの力が均衡した位置で停止する。
【0025】
そして、このように弾機のみで歯車減速機構のはすば歯車と駆動軸の位置を保持しようとすると、特定の周波数でこれらが共振して振動や騒音を発生させる虞がある。そこで、駆動軸の摺動面にグリスを充填して、弾機がスラスト力によって蓄えたエネルギーをこの充填したグリスによって減衰させて、駆動軸とそのはすば歯車の共振に伴う音の発生を抑制することができる。
【0026】
また、本発明の作業車両の操舵装置によれば、前記駆動軸に設けるはすば歯車に過負荷が加わって、これにより駆動軸が弾機の付勢力に抗して軸心方向に移動すると、前記ステッピングモータと駆動軸の相互間の伝動をボールクラッチ機構によって断ち切る。
【0027】
すなわち、自動操舵を行っている際に、自動操舵装置自体が何らかの要因によって故障してステッピングモータを正常に停止させることが出来なかったり、或いは、何らかの要因によってステッピングモータのローターがロックして完全に回転不能に陥っている場合に、作業者がステアリングホイールを操作してステアリングシャフトを回転させようとすると、歯車減速機構のはすば歯車に瞬間的に高い負荷が繰り返し加わったり過大な負荷が加わって、その歯車等が破壊したり損傷する虞がある。
【0028】
そこで、このような場合には、ステッピングモータと駆動軸の相互間の伝動をボールクラッチ機構によって自動的に断ち切ることができるので、歯車減速機構に作用する負荷を取り除いてこれらの破壊や損傷を未然に防止することができる。また、故障によってステッピングモータを回転させることができなくなっても、作業者のステアリングホイールを用いた手動操舵は少なくとも行うことができるので、安心して自動制御装置を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明を適用する乗用型田植機の側面図である。
【
図5】駆動ユニットを示し、(a)は正面側から見た斜視図、(b)は底面側から見た斜視図である。
【
図6】駆動ユニットを示し、(a)は正面図、(b)は平面図、(c)背面図、(d)は底面図である。
【
図7】駆動ユニットを示し、(a)は下ハウジングを外した要部斜視図、(b)は更にアダプタを外した要部斜視図である。
【
図10】グリスの歯車噛み合い部への戻し構造を示し、(a)は要部斜視図、(b)は要部断面図である。
【
図11】コラムブラケットへの駆動ユニットの取付状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように農業用の作業車両である乗用型田植機1は、左右の前輪2と後輪3を備える走行機体4の後部に昇降リンク機構5を介して稲苗を水田に植え付ける植付装置6をローリング自在に連結する。そして、この植付装置6は、走行機体4の後部と昇降リンク機構5の後部に亘って取り付ける油圧シリンダ7によって下降させた作業姿勢と上昇させた非作業姿勢に亘って昇降自在に設ける。
【0031】
なお、後輪3と植付装置6との間には、走行機体4の旋回によって荒れた枕地を均す整地ロータ8を設け、この整地ロータ8は植付装置6と共に昇降するように設ける。一方、走行機体4は、左右のサイドメンバーに複数のクロスメンバーを固着するシャーシフレーム9と、このシャーシフレーム9に取り付けるトランスミッションケース10、並びに左右の後輪3を取り付けて設けるリヤアクスルケース12と、左右の前輪2を取り付けるフロントアクスルケース11を、
図2に示すようにトランスミッションケース10の左右側面から突出させて設ける。
【0032】
また、シャーシフレーム9の前部寄りにエンジンフレームを取り付け、このエンジンフレームにガソリンやディーゼルエンジン13を搭載する。さらに、エンジン13後方のシャ-シフレーム9に取り付けるトランスミッションケース10の上面には、油圧式のパワーステアリング装置を構成するトルクジェネレータ14を取り付け、このトルクジェネレータ14とトランスミッションケース10の上部にはコラムブラケット15を取り付ける。
【0033】
そして、このコラムブラケット15には上方に立ち上がるステアリングコラム16を溶着して設け、また、ステアリングコラム16にはブッシュによって上部寄りを回転自在に支持するステアリングシャフト17を通して、トルクジェネレータ14の入力軸にステアリングシャフト17の下端部を連結する。さらに、ステアリングコラム16の上部から突出するステアリングシャフト17の上端部にステアリングホイール18を取り付けて設ける。
【0034】
一方、前述のトルクジェネレータ14は、エンジン13によって駆動する図示しない油圧ポンプが吐出する圧油によって作動し、その出力軸14aは
図11に示すようにトランスミッションケース10内に設ける減速歯車装置19に連結する。また、減速歯車装置19の出力軸19aはトランスミッションケース10の下面から下方に突出し、この出力軸19aにピットマンアーム20を取付ける。さらに、ピットマンアーム20に設ける左右のドラッグリンク21は、フロントアクスルケース11の左右下端部寄りに設けるファイナルケース22のナックルアーム22aに連結する。
【0035】
そのため、作業者(運転者)がステアリングホイール18を回転操作すると、ステアリングシャフト17は回転して、トルクジェネレータ14と減速歯車装置19、そして、ピットマンアーム20、ドラッグリンク21、ナックルアーム22aによってファイナルケース22をキングピン軸回りに回動させ、また、最終的にファイナルケース22に軸支した前輪駆動軸23の外端部に取り付けた左右の前輪2を操舵して、走行機体4の進行方向を変更することができる。
【0036】
以上、走行機体4に設ける手動操舵系について説明したが、前述のコラムブラケット15には、走行系に設ける静油圧式無段変速装置(HST)24を操作する主変速レバー25、トランスミッションケース10内に設ける歯車変速装置を操作する副変速レバー26、及びエンジンコントロールレバー27を回動自在に取り付ける。また、
図3に示すように、これ等の操作具の基部側を覆うと共に油圧感度調整ボリューム28や後述する自動操舵装置の電源を入り切りするメインスイッチ29等を纏めたアッシ30やモニタパネル31を備えるパネルカバー32や、その下方に設けるリヤカバー33も同様にコラムブラケット15に取り付けて設ける。
【0037】
さらに、パネルカバー32やリヤカバー33の前方側には、前照灯を備えてエンジン13を覆うボンネット34を設ける。また、ステアリングホイール18の後方に設ける運転席35はシャーシフレーム9の後部寄りに設けるシートフレームの上部に取り付け、ボンネット34の左右外側方やステアリングホイール18の下方、或いは運転席35の左右外側方等には、シャーシフレーム9にステップ36を取り付けて設け、作業者が予備苗載台37から植付装置6に苗等を運ぶ通路に構成する。
【0038】
ここで、植付装置6の構造について簡単に説明すると、この植付装置6は例えば、8条植えとなして走行機体4の後部にローリング自在に連結する植付フレーム38を備える。また、植付フレーム38には前高後低状に傾斜して複数のマット苗を載置する苗載台39、苗載台39の下端から1株分ずつ苗を植付爪40により掻き取って田面に植付けるロータリ植付機構41、走行跡や旋回跡を整地しながら植付け箇所を均すフロート42等を備えて構成する。
【0039】
また、乗用型田植機1の動力伝達系について簡単に説明すると、前述のエンジン13は伝動ベルト43を介してトランスミッションケース10に取り付けるHST24を駆動する。また、HST24からトランスミッションケース10内に伝達された動力は、トランスミッションケース10内に設ける歯車変速装置によって変速し、左右の前輪2は更に差動歯車装置とフロントアクスルケース11内に設ける伝動軸を介して駆動する。さらに、歯車変速装置からブレーキを介してリヤアクスルケース12内に伝達された動力は、左右の湿式ディスク型のサイドクラッチを介して後輪3を駆動する。
【0040】
また、植付装置6への伝動は、トランスミッションケース10内に設けるトルクリミッタと植付クラッチを介して株間変速装置を駆動する。そして、株間変速装置からドライブシャフト44を介して植付装置6のドライブケースに設ける植付入力シャフトを駆動する。なお、整地ロータ8は走行系のブレーキと左右のサイドクラッチの間から分岐した動力をロータクラッチとロータドライブシャフト45を介してロータドライブケース内に設ける伝動軸によって駆動する。
【0041】
以上、乗用型田植機1の基本的な構造について説明したが、次に、全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)を用いて走行機体4の位置や方位を取得して、圃場における直進走行を行わせる自動操舵装置について説明する。
図4のブロック図に示すように自動操舵装置は、衛星から出される電波を捕捉する位置用と方位用の2つのGNSSアンテナ46、47と、リアルタイムキネマティック(RTK:Real Time Kinematic)技術に基づいて基地局48から出される電波を捕捉する無線アンテナ49を備え、これ等のアンテナは予備苗載台37の取付フレームから立設する門型状のサポートフレーム50の上部に左右方向に間隔を空けて取り付けて設ける。
【0042】
また、前述の2つのGNSSアンテナ46、47が捕捉した電波を受け取って位置や速度情報を出力する2つのGNSS受信モジュール51、52、無線アンテナ49が捕捉した電波を受け取って補正情報を出力する特定小電力無線モジュール53、タブレット端末又はスマートフォン54との間で位置情報等の送受信を行う近距離無線モジュール55、或いは、走行機体4の姿勢を検出する慣性モジュール56等を備えるマイクロコントローラユニット(MCU)によって構成する操舵コントローラ(制御装置)57は、メインスイッチ29の投入によってバッテリー電源と繋がって各種の制御を行い、例えば、コラムブラケット15や運転席35の下方に設けるシートフレーム等に取り付けて、パネルカバー33やリヤカバー33等によって周囲を覆う防水対策を施して設ける。
【0043】
また、作業者が自動操舵の入り切りを指示する押ボタン方式の開始/停止スイッチ58と、自動操舵の入り切り状態等を示すLEDランプ59は、作業者の操作性を考慮して例えば、ステアリングホイール18の下方に設けるパネルカバー32の各種操作スイッチアッシ30等に含めて設けることが好ましい。また、作業者に自動操舵に関わる注意を喚起するブザー60は、リヤカバー33によって覆った状態でコラムブラケット15に取り付けて設ける。
【0044】
さらに、前輪2の操舵角を検出する操舵角センサ61(不図示)は、例えば、前輪2の操舵系に設けるピットマンアーム20の左右移動量を検出するポテンショメータによって構成する。なお、この場合にポテンショメータ61は、前輪2が跳ねた泥水等が降り掛からないようにするためにトランスミッションケース10の上面等に設けることが好ましく、その場合、ピットマンアーム20とポテンショメータ61の作動軸は遊びの少ないリンク機構を介して連係する。
【0045】
また、前述の操舵系に設けるステアリングシャフト17を後述する歯車減速機構を介して回転させるステッピングモータ62は、
図5に示すように駆動ユニット63のメンバーとしてコラムブラケット15に取り付けて設ける。そして、以上のようなメンバーによって構成する自動操舵装置は、自動操舵の要となる操舵コントローラ57が実行する直進走行の自動制御プログラムにおいて、前述のGNSS受信モジュール51、52から得られる位置と方位情報や特定小電力無線モジュール53から得られる補正情報、或いは慣性モジュール56から得られる姿勢情報等から走行機体4の現在の位置と方位を演算する。
【0046】
一方、タブレット端末又はスマートフォン54はナビゲーションソフトウェアを実行して、操舵コントローラ57が近距離無線モジュール55を用いて送信する走行機体4の現在の位置と方位を随時受信する。また、作業者が行うティーチング走行等に基づいて直進走行を行う作業走行経路の作成を行って、走行機体4の追従すべき走行経路と現在位置、並びにその間の偏差等をディスプレイに表示する。さらに、偏差に基づいてこの偏差を無くすための前輪2の操舵角を演算して、この値を操舵コントローラ57に返信する。
【0047】
そして、タブレット端末又はスマートフォン54から操舵角の指示が返信されると、操舵コントローラ57は、開始/停止スイッチ58によって作業者が指示する自動操舵の入り切り状態に基づいて、例えば自動操舵が選択されていれば、前輪2の操舵角が指示された値になるようにステッピングモータ62に励磁電流を流してステッピングモータ62を回転させる。また、それにより歯車減速機構を介してステアリングシャフト17が回転して前輪2は指示された操舵角に操舵される。
【0048】
以上、全地球航法衛星システムを用いて直進走行を行う自動操舵装置の概要について説明したが、次に前述のステッピングモータ62や歯車減速機構を設ける駆動ユニット63について説明する。
図5や
図6に示すように駆動ユニット63は、2つ割になしてボルトで連結するハウジング64をベースにしてステッピングモータ62等を取り付けて構成する。また、歯車減速機構65はハウジング64に内蔵して塵埃等による作動不良や故障を防止する。
【0049】
次に、歯車減速機構65の詳細について説明すると、
図7乃至
図9に示すようにステッピングモータ62によって駆動されて回転する駆動軸66に設けるはすば歯車67とステアリングシャフト17に結合するはすば歯車68は、歯車減速機構65の主要なメンバーであって、この2つのはすば歯車67、68をハウジング64に収容して設ける。また、この対となるはすば歯車67、68は、ねじれ角を45°となす、そのねじれ方向を同じくして直角となす食い違い軸に設ける歯車の形態で、両歯車67、68同士を噛み合わせて設ける。
【0050】
そして、従動側の大径になすはすば歯車68は、そのボス部にスラストベアリング69を設けて上下のハウジング64a、64bに形成する丸い凹部に平置きして収容する。また、ハウジング64はその凹部の中央に上下方向となる孔64cを設けているので、係る歯車減速機構65を操舵系に組み込む際に、ステアリングシャフト17をこの孔64cに通して、ステアリングシャフト17の下端部に形成するセレーションを、はすば歯車68のボス部に設けるセレーション溝68aに嵌め合わせると、ステアリングシャフト17の下端部に歯車減速機構65のはすば歯車68を一体に回転するように結合することができる。
【0051】
一方、駆動側のはすば歯車67を自らの中程外周に一体形成する駆動軸66の両端部の外周には、半球状の凹部66aを120°の等角度で夫々3つずつ穿設する。また、この半球状の凹部66aに対応する半円状の軸心方向に沿う3つのボール溝70a、71aを夫々の内周に120°の等角度で穿設する略円筒状のアダプタ70、71を用意する。そして、このアダプタ70、71の筒内部に形成する弾機室70b、71bに圧縮コイルスプリング(弾機)72を夫々組み込むと共に、各凹部66aとボール溝70a、71aの間に鋼球(ボール)73を1つずつ収容しながら各アダプタ70、71を駆動軸66の左右端部に嵌め合わせる。
【0052】
また、このように駆動軸66の両端部に装着した左右のアダプタ70、71は、駆動軸66と共に上下のハウジング64a、64bに形成する円弧状の凹部にスラストベアリング74とジャーナルベアリング75を取り付けて収容する。そして、ハウジング64の凹部における両端部には小孔64d、64eを設けているので、一方の小孔64dからステッピングモータ62の出力軸62aを右アダプタ70に設ける小径孔70cに嵌めて、図示しない止めボルトによって出力軸62aと右アダプタ70が一体回転するように締結し、その後にステッピングモータ62はその本体をハウジング64にボルトで固定して取り付ける。
【0053】
ところで、前述の駆動軸66はその一端面に丸棒状のピン76を螺着して、軸心方向に突出させている。そして、左アダプタ71を駆動軸66に嵌めてハウジング64の凹部に収容する際に、駆動軸66に設けるピン76は左アダプタ71に設ける小径孔71cとハウジング64の凹部における他方の小孔64eを通して、ハウジング64から外にその先端を突出させている。
【0054】
一方、下ハウジング64bの外周縁に二股状の取付部64fを形成し、この取付部64fには駆動軸66の移動量の測定を行う変位計を構成するポテンショメータ77をボルトで取り付けて設ける。また、ポテンショメータ77の作動軸77aにアーム78を設ける。さらに、下ハウジング64bに取り付けた支点軸79、80に2又状の回転アーム81、82を各支点軸79、80中心に回動自在に取り付けて設け、作動軸77aのアーム78と回転アーム81並びに回転アーム81と回転アーム82を夫々ロッド83、84で繋ぐ。
【0055】
そして、回転アーム82の側面から突出させた延出部82aの先端に横溝85aを備える当金85を設け、前述の駆動軸66に設けるピン76の先端を当金85の横溝85aに係合させる。従って、駆動軸66が軸心方向に移動すると、以上説明したリンク機構によってポテンショメータ77の作動軸77aが回動して、このポテンショメータ77によって駆動軸66の移動量を測定することができる。なお、ピン76は駆動軸66とともに回転するのでピン76の摩耗を防ぐために、ピン76の先端にベアリングを取り付けると共に、このベアリングにキャップを被せて、係るキャップを介して当金85を支点軸80回りに回動させてもよい。
【0056】
そして、このように歯車減速機構65を収容したハウジング64とステッピングモータ62とポテンショメータ77等によって構成する駆動ユニット63を、コラムブラケット15に取り付ける際には、前述のようにハウジング64に設ける孔64cにステアリングシャフト17を通して、ステアリングシャフト17の下端部に形成するセレーションを、はすば歯車68のボス部に設けるセレーション溝68aに嵌め合わせる。また、これによりステアリングシャフト17とはすば歯車68を結合することができたら、
図11に示すようにハウジング64をコラムブラケット15に上下2本ずつのボルトを用いて取り付ける。
【0057】
以上、自動操舵装置に用いる新たな駆動ユニット63について説明したが、前述のように操舵コントローラ57が直進走行を行うためにステッピングモータ62を回転させると、歯車減速機構65は、駆動側のはすば歯車67と従動側のはすば歯車68の歯数比をもって、ステッピングモータ62の回転速度を減速させてステアリングシャフト17を回転させるので、小型のステッピングモータ62であっても駆動トルクを増大させて、ステアリングシャフト17を過不足なく回転させて前輪2を操舵することができる。
【0058】
つまり、操舵コントローラ57の指示に従ってステッピングモータ62が正回転又は逆回転すると、ステッピングモータ62の出力軸62aに連結する右アダプタ70は回転し、また、右アダプタ70は鋼球73を介して駆動軸66を一体に回転させる。そのため、駆動軸66に設けるはすば歯車67は、互いに噛み合うはすば歯車68を回転させ、また、はすば歯車68はセレーションを介してステアリングシャフト17を回転させる。そして、これによりトルクジェネレータ14がステッピングモータ62の操舵力をアシストして前輪2を操舵する。
【0059】
なお、ステッピングモータ62の各相のコイルに決まった順番で励磁電流を流してロータを回転させた後、ロータの回転を停止させた状態において操舵コントローラ57は、ロータの停止直前に電流を流した相のコイルにそのまま励磁電流を流し続けることによって、ロータの回転をそのホールディングトルクによって阻止する(自己保持)。そのため、ステッピングモータ58が指示された角度だけ回転した後に停止した場合であっても、ステアリングシャフト17が手動で回転されない限り、不測に回転して前輪2が勝手に操舵されることはない。
【0060】
さらに、駆動軸66と左アダプタ71とは鋼球73によって結合されているので、駆動軸66が右アダプタ70によって回転駆動されると、左アダプタ71も駆動軸66と共に回転する。そして、駆動軸66は、その左右端部に設ける左右のアダプタ70、71が夫々ジャーナルベアリング75によってハウジング64に回転自在に軸支されていることから、駆動軸66も間接的にハウジング64に回転自在に軸支されていることになって、これにより駆動軸66の振れを防止することができ、はすば歯車67、68の噛み合いも良好に保持することができる。
【0061】
ところで、操舵コントローラ57の指示に従ってステッピングモータ62が回転している場合に、作業者がステアリングホイール18を回転操作したり、圃場の轍跡等の溝に前輪2が落ちたりして、従動側となるステアリングシャフト17から負荷が加わり、この負荷がステッピングモータ62の最大トルクを超えると、ステッピングモータ62は回転を自ら停止(脱調)したり、或いは、ステッピングモータ62が駆動方向とは逆方向に回転する。そして、このような状態に至ると、ステッピングモータ62や歯車減速機構65は振動して不快な騒音を発生させる。
【0062】
そこで、このような振動や不快な騒音の発生を減らすために、自動操舵装置の操舵コントローラ57はステッピングモータ62に、前述の脱調が生ずるような過負荷が加わるようであれば、ステッピングモータ62の駆動を諦めて自動による前輪2の操舵を停止し、また、ステッピングモータ58への励磁電流を断つことによってステッピングモータ62のホールディングトルクを消失させ、これによりステッピングモータ62や歯車減速機構65からの振動や騒音の発生を減らすことを目論む。
【0063】
すなわち、自動操舵系に設ける歯車減速機構65のはすば歯車67、68は、互いに噛み合って回転する際に軸心方向へのスラスト力が生じ、このスラスト力ははすば歯車67、68の回転方向に作用する負荷に比例する。そこで、ステッピングモータ62に加わる負荷を、はすば歯車67、68の噛み合って回転する際のスラスト力に置き換えて、これを検出することができるようになす。
【0064】
従って、本発明の実施形態にあっては、歯車減速機構65の駆動側となるはすば歯車67を設ける駆動軸66を左右のアダプタ70、71に対して、その軸心方向に移動できるようになすべく、左右のアダプタ70、71に形成する軸心方向となるボール溝70a、71aに沿って自ら転がりながら移動する鋼球73を駆動軸66の凹部66aに収めて設ける、という駆動軸66の左右移動構造を採用する。また、係る駆動軸66を無負荷時の中立位置に戻す圧縮コイルスプリング72をアダプタ70、71の弾機室70b、71bに組み込み、この圧縮コイルスプリング72の付勢力を駆動軸66の両端部に作用させる。
【0065】
そして、ステッピングモータ62を駆動している場合に、駆動側のはすば歯車67に負荷が加わって、前述の圧縮コイルスプリング72の付勢力に抗して駆動軸66が軸心方向の中立位置から右方向又は左方向に移動すると、その駆動軸66の左右移動量をリンク機構を介してポテンショメータ77は測定する。また、このポテンショメータによって構成する変位計77が測定する駆動軸66の左右移動量は操舵コントローラ57に入力されている。
【0066】
そこで、操舵コントローラ57は、変位計77から出力される駆動軸66の移動量と、予め定めた設定量とを比較することによって、例えば、移動量が設定量を超えた場合には、駆動側のはすば歯車67と共に回転するステッピングモータ62にかなりな負荷が加わって脱調する虞があると判断することができる。従って、操舵コントローラ57はそのような場合に、前述のようにステッピングモータ62の駆動を諦めて自動による前輪2の操舵を停止し、また、ステッピングモータ62に対する励磁電流を遮断することによってステッピングモータ62のホールディングトルクを消失させ、これによりステッピングモータ62や歯車減速機構65からの振動や騒音の発生を減らす。
【0067】
なお、以上のような操舵コントローラ57が行う制御内容を、
図7に示す「操舵角制御」の概略を説明するフローチャートによって改めて説明すると、操舵角制御では、先ず自動操舵装置の故障の有無を判断し(ステップS1)、例えば、操舵コントローラ57等に供給される電源電圧が低下したり、ステッピングモータ62の温度超過、電圧過大、電流過大、操舵角センサ61や変位計77の入力信号における開放/短絡等の検出がなされると、自動操舵装置の故障が疑われるので安全性の確保のために、作業者の開始/停止スイッチ58操作によって自動操舵が選択されている場合であってもこれを切りに変更する(ステップS2)。
【0068】
また、この故障の発生を作業者にブザー60で単音を数回発生させること、並びにランプ59の点滅によって報知する(ステップS3)。さらに、ステッピングモータ62の各相のコイルに対する励磁電流を遮断することによってホールディングトルクを無くして(自己保持を消失させて)、駆動ユニット63の振動や騒音の発生を無くす(ステップS4)。
【0069】
一方、自動操舵装置の故障が疑われなかった際には、開始/停止スイッチ58の立上り信号を判断し(ステップS5)、ここでスイツチ58の立上りが検出されると、自動操舵フラグを反転する(ステップS6)。従って、開始/停止スイッチ58を押す度に自動操舵フラグは「入」と「切」に切り替わって、作業者が直進走行を自動操舵によって開始させるか、或いは停止させるか選択することができる。
【0070】
そして、この作業者の選択を自動操舵フラグによって判断し(ステップS7)、ここで自動操舵フラグが切に選択されていれば、ランプ59を消灯させる(ステップS8)。また、自動操舵装置の故障が疑われる場合と同様にステップS4を実行して、駆動ユニット63の振動や騒音の発生を無くす。さらに、前述のステップS7において自動操舵フラグが入に選択されていれば、ランプ59を点灯させて作業者に自動操舵を開始していることを報知する(ステップS9)。
【0071】
ところで、枕地に至って走行機体4を旋回させる場合には、前輪2を最大操舵角近くの例えば40°以上の角度に操舵して旋回を行うことが多い。そして、このような旋回中に直進走行の自動操舵が不測に行われると作業者の安全が損なわれる虞がある。そこで、このような問題を無くすために次のステツプS10では、前輪2の操舵角が操舵角センサ61によって40°以上検出されていないかを判断する。また、変位計77によってステッピングモータ62にかなりな負荷が加わって脱調する虞があるか否かを判断する(ステップS11)。
【0072】
さらに、タブレット端末又はスマートフォン54が指示する前輪2の操舵角に応じてステッピングモータ62を回転させた際に、実際に指示された操舵量が間違いなく得られているかを操舵角センサ61から得られる操舵量と指示操舵量の一致状態等によって検証したり、或いは、ステッピングモータ62に流れる電流値が予め定めた安全な電流値を超えていないかといった、ステッピングモータ62の異常の有無を判断する(ステップS12)。そして、以上のステップS10~S12において真や有であれば、前述のステップS2~S4を実行して復帰する。
【0073】
一方、何れの問題も見つからなかった場合には、次にタブレット端末又はスマートフォン54が指示する前輪2の操舵角に基づいて、ステッピングモータ62を今回実際に回転させる必要があるか否かを判断する(ステップS13)。即ち、タブレット端末又はスマートフォン54の操舵指示角が「0」であれば、ステッピングモータ62を今回は回転させる必要がないので、ステッピングモータ62のコイルに対して励磁電流をそのまま流し続けて、モータの回転停止状態を自己保持させる(ステップS14)。
【0074】
そして、当然ながらステッピングモータ62を今回は回転させないので、各相のコイルに順番に励磁電流を流してロータを回転させるような励磁電流は出さない(ステップS15)。しかし、ステップS13において操舵指示角が「0」でなければ、ステッピングモータ62を回転させることになって、その場合には操舵指示角のプラスマイナスによって前輪2を右方向に操舵するのか逆の左方向に操舵するかを判断する(ステップS16)。
【0075】
そこで、操舵指示角が「+」であれば、前輪2を右方向に操舵するためにステッピングモータ62の回転方向を正転に設定し(ステップS17)、操舵指示角が「-」であれば、前輪2を左方向に操舵するためにステッピングモータ62の回転方向を逆転に設定する(ステップS18)。そして、この場合はステップS14と同様に回転を停止した際にもステッピングモータ62のコイルに励磁電流を流し続けることを前提として(ステップS19)、その操舵指示角に一致させるために必要となるステッピングモータ62の回転角を演算して、さらに、指示された回転方向を参照して各相のコイルに励磁電流を流す順番を決定し、ステッピングモータ62を回転させる(ステップS20)。
【0076】
なお、ステッピングモータ62にかなりな負荷が加わって脱調する虞がある場合のように、操舵コントローラ57が強制的に自動操舵フラグを切として(ステップS2)、自動操舵を停止させた場合には、その後に例え負荷が解消されたとしても、操舵コントローラ57は自らの判断によって自動操舵を再開することはない。従って、このような場合には作業者の意思に基づいて、作業者が開始/停止スイッチ58を再操作することによってのみ自動操舵を開始させることができる。
【0077】
また、前述の操舵角制御を行って前輪2の操舵を自動操舵によって行っている際に、自動操舵装置自体が何らかの要因によって故障してステッピングモータ62を正常に停止させることが出来なかったり、或いは、何らかの要因によってステッピングモータ62のローターがロックして完全に回転不能に陥っている場合に、作業者がステアリングホイール18を操作してステアリングシャフト17を回転させようとすると、歯車減速機構65のはすば歯車67、68に瞬間的に高い負荷が繰り返し加わったり過大な負荷が加わって、その歯車67、68等が破壊したり損傷する虞がある。
【0078】
そのため、自動操舵装置はこのように歯車減速機構65に過大な負荷が加わると、ステッピングモータ62と歯車減速機構65の相互間の伝動を断ち切って、歯車減速機構65に作用する負荷を取り除くことによって、作業者がステアリングホイール18を操作して少なくとも前輪2の手動操舵だけは行うことができるようにする、という対応策を用意しておく必要がある。そこで、この危急事態の対応策として、ステッピングモータ62の出力軸62aに連結する右アダプタ70と歯車減速機構65の駆動軸66は、そのボール溝70aと凹部66aに鋼球73を収容して、係る鋼球73を介して相互間の伝動を行っている点に注目する。
【0079】
つまり、駆動軸66はそのはすば歯車67に負荷が加わると軸心方向に左右移動するから、例えば、かなり大きな過負荷が加わって駆動軸66が最大に移動した際に、駆動軸66の凹部66aに収容した鋼球73が、右アダプタ70の内周面に形成する軸心方向となるボール溝70aから、右アダプタ70の同じく内周面に形成する半円状の円周溝70dに臨んで、それ以後、この円周溝70dに鋼球73が嵌って自由に転がることができるようにすると、ステッピングモータ62と歯車減速機構65の相互間の伝動を、係るボールクラッチ機構によって簡単に断ち切ることができる。
【0080】
但し、この場合、ステッピングモータ62と歯車減速機構65の相互間の伝動がボールクラッチ機構によって断たれると、歯車減速機構65に作用するステッピングモータ62側からの負荷が途絶える。そのため、駆動軸66が歯車減速機構65側から回転させられて鋼球73が右アダプタ70の内周面に形成するボール溝70aに臨むと、圧縮コイルスプリング72の付勢力によって駆動軸66と共に鋼球73が元のボール溝70aに嵌って相互間の伝動が復活するので、結局、相互間の伝動が断たれたり繋がったりの繰り返しとなる。
【0081】
従って、この場合に作業者がステアリングホイール18を操作して前輪2の手動操舵を行おうとするとその操舵自体は可能ではあるが、ステッピングモータ62側からの前述の抵抗反力が断続的にステアリングホイール18に加わることになるので、作業者は係るステアリングホイール18の回転操作に難渋することになる。そのため、作業者は圃場から走行機体4を脱出させた段階で、故障したステッピングモータ62等を早めに修理して、路上での走行は修理後に行うことが望ましい。
【0082】
さらに、前述のはすば歯車の対で構成する歯車減速機構65は、互いに噛み合うはすば歯車67、68の歯面に摩耗を生じたり、或いは、駆動側のはすば歯車67を設ける駆動軸66と、この駆動軸66を支持しながらその軸心方向の移動を許容する左右アダプタ70、71との嵌合部の摺動面Sに摩耗を生じたりする虞があるから、これ等に潤滑材を供給して摩耗を防ぐ対策を行う必要がある。そこで、駆動ユニット63のハウジング64の上下各2箇所に充填口64gを設け、この充填口64gから高粘度のグリスをハウジング64内に補給できるようにする。
【0083】
より詳細に説明すると、前述の充填口64gはハウジング64内に収容する駆動側のはすば歯車67の歯幅に相当する箇所の両端部上下に臨むように設け、この充填口64gから注入するグリスははすば歯車67、68の噛み合い部や、駆動軸66と左右アダプタ70、71の嵌合部に直接的に供給することになる。そして、この内、はすば歯車対67、68の噛み合い部に供給したグリスは大径となる従動側のはすば歯車68の歯先中央に新たに形成する窪み68b等に溜まって、その後、はすば歯車67、68の回転に伴って夫々の歯面を潤滑する。
【0084】
しかし、ここで、はすば歯車67、68同士の噛み合いによって上方又は下方に歯面から押し退けられたグリスは、従動側のはすば歯車68の上下面とこれに対向するハウジング64内の上下面の間に滞留することになる。そのため、はすば歯車67、68の噛み合い部に供給するグリス量が不足することになって、歯面の潤滑が疎かになり摩耗が進んで騒音も発生し易くなるといった問題と共に、前述のはすば歯車68の上下面に滞留するグリスが、はすば歯車68自体を回転させる際の抵抗となって好ましくない。
【0085】
そこで、係る問題を解決するために、
図10に示すように互いに噛み合って回転することによって従動側のはすば歯車68の歯面から上方又は下方に押し退けられたグリスを掻き取ると共に、この掻き取ったグリスをはすば歯車67、68の噛み合い部における取分け、従動側のはすば歯車68の歯先に戻す突起64hをハウジング64内の上下面に一体に形成する。つまり、新たに設ける突起64hははすば歯車67、68の噛み合い部の両端部を結ぶ1直線状の凸部に形成するので、従動側のはすば歯車68の歯面から上方又は下方に押し退けられたグリスを残らずその大半を速やかに掻き取ることができる。
【0086】
また、この掻き取られてはすば歯車68の上面又は下面に溜まったグリスは、はすば歯車68の回転に伴ってその回転方向に前進角を備える側の突起64hに誘導されてはすば歯車68の外周側に移動して、遂にはその歯先を超えてうまくいけば歯先中央に形成する窪み68bに戻すことができる。そして、これによりはすば歯車68の上下面とこれに対向するハウジング64内の上下面の間に滞留するグリスを減らして、はすば歯車68の回転抵抗の増大を抑制することができ、また、はすば歯車67、68の潤滑と防音性を良好に維持することができる。
【0087】
一方、駆動軸66と左右アダプタ70、71の嵌合部に供給するグリスは、駆動軸61の両端に嵌合する左右のアダプタ64、65のはすば歯車62側の端面に形成する略45°の角度で切り欠いて形成する内周側開口70e、71dに、はすば歯車67、68の回転に伴って運ばれたグリスが押し込まれて、その嵌合部にグリスが充填されるようになして、駆動軸66と左右アダプタ70、71の嵌合部の摺動面Sを過不足なく潤滑することができる。
【0088】
また、ステッピングモータ62を駆動させた際に歯車減速機構65の駆動軸66に設けるはすば歯車67は、前述のようにスラスト力を受けて駆動軸66と共に駆動軸66の軸心方向に移動し、また、圧縮コイルスプリング72は駆動軸66の移動を付勢力によって阻止しようとして、互いの力が均衡した位置で停止する。
【0089】
そして、このように圧縮コイルスプリング72のみで歯車減速機構65のはすば歯車67と駆動軸66の位置を保持しようとすると、特定の周波数でこれらが共振して振動や騒音を発生させる虞がある。そこで、前述のように駆動軸66の摺動面にグリスを充填して、弾機がスラスト力によって蓄えたエネルギーをこの充填したグリスによって減衰させて、駆動軸66とそのはすば歯車67の共振に伴う音の発生を抑制することができる。
【0090】
なお、ステッピングモータ62からの振動の伝達によって歯車減速機構65が騒音を発生する要因の一つは、対となる歯車67、68のバックラッシュに基づく歯面同士の当接によって発生する叩き音である。そこで、この叩き音を無くして作業者に不快感を与えないために、平歯車よりかみあい率が高いはすば歯車67、68を用いて、歯車減速機構65の振動や歯面同士の打撃音を少なくすることができる。
【0091】
また、従動側のはすば歯車68にステアリングシャフト17側から負荷が加わっている状態でステッピングモータ62を回転させると、駆動軸66はその駆動側のはすば歯車67に加わる負荷に応じて、軸心方向に移動することは前述の通りである。
【0092】
しかし、この状態で仮にステッピングモータ66の回転を止めたとしても、駆動側のはすば歯車67に同様な負荷が残っている場合には、はすば歯車67、68の歯面同士が依然として当接しているので、駆動軸66が完全に中立位置に戻らずに、寧ろ駆動軸66に作用する圧縮コイルスプリング72の付勢力によって、はすば歯車67、68の歯面同士がより密着するように圧力が加わった状態となる。そのため、ここではバックラッシュに基づく歯面同士の当接によって発生する叩き音が発生する余地はなく、これも負荷に応じて駆動軸66を軸心方向に移動させて設ける構造を採用する利点として捉えることができる。
【0093】
以上、乗用型田植機1の進行方向を手動や自動で変更可能になす新たな操舵装置について説明したが、例えば、自動操舵装置の操舵コントローラ57は演算負荷等を考慮して2つ以上のマイクロコントローラユニットに分けて構成しても良いし、また、ステッピングモータ62を回転させるために専用のドライバを用いて、操舵コントローラ57はこのドライバに各種の指令信号を出してステッピングモータ62を間接的に回転制御しても構わない。
【0094】
さらに、例えば、駆動ユニット63の歯車減速機構65を構成する駆動側となるはすば歯車67を一体に設ける駆動軸66と左右のアダプタ70、71は、夫々の役割を交代させて、例えば、中実な軸で構成するアダプタに筒軸で構成する駆動軸を嵌合させて、係る駆動軸をその外周に設ける駆動側となるはすば歯車と共に、その軸心方向に移動可能に設けるといった構造上の変更は、夫々の役割をすべからく果たす限り支障は全くなく、係ることからしても本発明の作業車両の操舵装置は、必ずしも前述の実施形態に限定して解釈されるものではない。
【符号の説明】
【0095】
1 乗用型田植機(作業車両)
2 前輪(操舵輪)
4 走行機体(作業車両)
17 ステアリングシャフト
18 ステアリングホイール
57 操舵コントローラ(制御装置)
62 ステッピングモータ
65 歯車減速機構
66 駆動軸
67 はすば歯車(駆動側)
68 はすば歯車(従動側)
72 圧縮コイルスプリング(弾機)
77 ポテンショメータ(変位計)