(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101620
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】時計用文字板および時計
(51)【国際特許分類】
G04B 19/06 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
G04B19/06 G
G04B19/06 Q
G04B19/06 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005625
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤 飛翔
(72)【発明者】
【氏名】釘本 愛海
(57)【要約】
【課題】新たな審美性を有する時計用文字板および時計を提供すること。
【解決手段】時計用文字板は、表面に機械加工によって凹凸形状が形成された金属製の基材と、前記基材の表面上に乾式めっき法により形成され、少なくとも1層の酸化膜またはフッ化膜と、少なくとも1層の金属層とが積層された第1着色膜と、前記第1着色膜上の一部に、塗装により形成された第2着色膜と、を有することを特徴とする。時計用文字板は、基材に形成された凹凸形状と、乾式めっき法で形成された第1着色膜と、塗装で形成された第2着色膜とを備えるので、新規で複雑な表現が可能となり、時計用文字板および時計の審美性を向上できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に機械加工によって凹凸形状が形成された金属製の基材と、
前記基材の表面上に乾式めっき法により形成され、少なくとも1層の酸化膜またはフッ化膜と、少なくとも1層の金属層とが積層された第1着色膜と、
前記第1着色膜上の一部に、塗装により形成された第2着色膜と、
を有することを特徴とする時計用文字板。
【請求項2】
請求項1に記載の時計用文字板において、
前記基材の表面に前記第1着色膜のみが形成された第1領域と、
前記基材の表面に前記第1着色膜および前記第2着色膜が形成された第2領域と、が設けられ、
前記第2着色膜の膜厚は、前記第1領域との境界から離れるにしたがって徐々に大きくなっている
ことを特徴とする時計用文字板。
【請求項3】
請求項2に記載の時計用文字板において、
前記第1領域は、前記基材の表面中央に設けられ、
前記第2領域は、前記第1領域の外側に設けられ、
前記第2着色膜の膜厚は、前記基材の外周に向かって徐々に大きくなっている
ことを特徴とする時計用文字板。
【請求項4】
請求項2に記載の時計用文字板において、
前記第1領域の色と、前記第2領域における膜厚が最大の部分の色との色差が所定の範囲内である
ことを特徴とする時計用文字板。
【請求項5】
請求項4に記載の時計用文字板において、
前記色差は、3以下である
ことを特徴とする時計用文字板。
【請求項6】
請求項4に記載の時計用文字板において、
前記色差は、3以上、40以下である
ことを特徴とする時計用文字板。
【請求項7】
請求項2に記載の時計用文字板において、
前記第1領域の明度は、前記第2領域よりも高く、
前記第2領域の明度は、前記第1領域との境界から離れるにしたがって徐々に低くなっている
ことを特徴とする時計用文字板。
【請求項8】
請求項7に記載の時計用文字板において、
前記第1領域は、前記基材の表面中央に設けられ、
前記第2領域は、前記第1領域の外周に設けられている
ことを特徴とする時計用文字板。
【請求項9】
請求項7に記載の時計用文字板において、
前記第1領域は、前記基材において、時計用文字板の12時位置および6時位置を結ぶ中心線を含んで設けられ、
前記第2領域は、前記第1領域に対して、時計用文字板の3時位置側および9時位置側に設けられている
ことを特徴とする時計用文字板。
【請求項10】
請求項1に記載の時計用文字板において、
前記金属層は、Ag、Pt、Au、Cu、Al、Cr、Sn、Fe、Ti、または、これらの合金から選択された1種類を含み、
前記酸化膜または前記フッ化膜は、Ta2O5、SiO2、TiO2、Al2O3、ZrO2、Nb2O5、HfO2、Na5Al3F14、Na3AlF6、AlF3、MgF2、CaF2、BaF2、YF3、LaF3、CeF3、および、NdF3から選択された1種類を含む
ことを特徴とする時計用文字板。
【請求項11】
請求項1に記載の時計用文字板において、
前記第2着色膜上の一部に、塗装により形成された第3着色膜をさらに有する
ことを特徴とする時計用文字板。
【請求項12】
外装ケースと、
前記外装ケース内に配置された請求項1に記載の時計用文字板と、を備える
ことを特徴とする時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用文字板および時計に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、時計用の文字板として、基材の表面に、金属酸化膜の多層膜で構成された調色膜をイオンプレーティングで形成した文字板が開示されている。また、基材の表面に梨地加工などによって凹凸パターンの模様を設けてもよいことも開示されている。
微細な凹凸が形成された基材の表面に、イオンプレーティング等によって調色膜を形成した場合、薄い調色膜を形成できるため、基材表面の微細な凹凸を活かしたまま着色することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微細な凹凸が形成された基材の表面にイオンプレーティングなどで調色膜を形成することで、審美性を有する時計用文字板を提供できるが、さらに従来にない新たな審美性を有する時計用文字板および時計が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の時計用文字板は、表面に機械加工によって凹凸形状が形成された金属製の基材と、前記基材の表面上に乾式めっき法により形成され、少なくとも1層の酸化膜またはフッ化膜と、少なくとも1層の金属層とが積層された第1着色膜と、前記第1着色膜上の一部に、塗装により形成された第2着色膜と、を有することを特徴とする。
【0006】
本開示の時計は、外装ケースと、前記外装ケース内に配置された前記時計用文字板と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態の時計用文字板を有する時計を示す正面図である。
【
図2】第1実施形態の時計用文字板の製造工程を示す図である。
【
図3】第1実施形態の時計用文字板の製造工程を示す図である。
【
図4】第1実施形態の時計用文字板の外周部を示す拡大断面図である。
【
図5】第2実施形態の時計用文字板を示す正面図である。
【
図6】第2実施形態の時計用文字板の外周部を示す拡大断面図である。
【
図7】第3実施形態の時計用文字板を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の時計用文字板3を有する時計1を示す正面図である。時計1は、ユーザーの手首に装着される腕時計であり、円筒状の外装ケース2を備え、外装ケース2の内周側に、時計用文字板3が配置されている。外装ケース2の二つの開口のうち、表面側の開口は、カバーガラスで塞がれており、裏面側の開口は裏蓋で塞がれている。さらに、時計1は、外装ケース2内に収容された図示略のムーブメントと、時刻情報を指示する時針4A、分針4B、秒針4Cと、時計用文字板3に取り付けられる棒状のインデックス5と、時計用文字板3に形成されたカレンダー小窓8から視認可能な日車6と、りゅうず7とを備えている。
【0009】
時計用文字板3は、
図2~
図4にも示すように、基板10と、第1着色膜20と、第2着色膜30とを備える。第1着色膜20は、後述するように、基板10の表面全面に形成され、第2着色膜30は、第1着色膜20の表面の外周側に円環状に形成される。このため、時計用文字板3は、第1着色膜20が露出する第1領域100と、第2着色膜30が露出する第2領域200とを備える。第1領域100は、基板10の表面中央に設けられ、その外周がインデックス5の内端にほぼ沿った円形の領域であり、第2領域200は第1領域100の外側に設けられた円環状の領域である。
【0010】
次に、時計用文字板3の製造工程について、
図2~
図4を参照して説明する。
図2および
図3は、時計用文字板3の製造工程を示す図であり、
図4は、時計用文字板3の外周部の拡大断面図である。
【0011】
[基板の加工工程]
基板10は、金属材料で構成され、この金属材料としては、Al、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Hf、Ta、W、Bi、Mgや、これらのうち少なくとも1種を含む合金等が挙げられる。
基板10の表面には、型押し加工やレーザー加工などの機械加工によって凹凸の模様11が形成される。模様11の凹凸の段差、つまり凹部の底部から凸部の上端部までの高さ寸法は、1μm以上、100μm以下の範囲に設定されている。なお、時計用文字板3の基板10の表面を型押し加工する際に用いられる一般的な金型の凹凸の段差は50~60μmであるため、従来と同様の金型を用いて型押し加工することができる。
基板10には、カレンダー小窓8や、指針軸が挿通される貫通孔9も加工されている。
【0012】
[第1着色膜の形成工程]
次に、基板10の表面に、第1着色膜20を乾式めっき法によって形成する。乾式めっき法は、物理蒸着法(PVD)や化学蒸着法(CVD)を利用できる。物理蒸着法は、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等である。化学蒸着法は、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等である。
第1着色膜20は、少なくとも1層の酸化膜またはフッ化膜と、少なくとも1層の金属層とが積層されて構成される。酸化膜は、例えば、Ta
2O
5、SiO
2、TiO
2、Al
2O
3、ZrO
2、Nb
2O
5、HfO
2などが利用できる。フッ化膜は、例えば、Na
5Al
3F
14、Na
3AlF
6、AlF
3、MgF
2、CaF
2、BaF
2、YF
3、LaF
3、CeF
3、NdF
3などが利用できる。金属層は、例えば、Ag、Pt、Au、Cu、Al、Cr、Sn、Fe、Ti、または、これらの合金などが利用できる。
第1着色膜20の具体的な層構成は、第1着色膜20によって表示する色によって設定される。また、第1着色膜20の膜厚は1μm以下、つまり基板10の模様11の凹凸の段差以下とされ、全体が略均一の膜厚とされている。このため、
図3に示すように、第1着色膜20は、基板10の模様11の凹凸に沿って積層され、第1着色膜20も模様11と同じ凹凸模様とされている。
【0013】
本実施形態では、水色の第1着色膜20とするため、基板10側から、SiO2(厚さ113nm)、Cr(厚さ80nm)、Nb2O5(厚さ48nm)、Cr(厚さ4.5nm)、Al2O3(厚さ19.8nm)、Nb2O5(厚さ13.5nm)、SiO2(厚さ58.4nm)、クリア層がこの順に積層されている。なお、クリア層は、アクリル樹脂などで形成される透明な保護層であるが、第1着色膜20として必須ではないため、クリア層を設けない場合もある。
以上の層構成の第1着色膜20は、酸化膜としてSiO2、Nb2O5、Al2O3を備え、金属層としてCrを備えている。
なお、上記層構成は、第1着色膜20の色を設定するために設けられるが、一部の層は色設定以外の機能も有する。例えば、基板10に接する厚さ113nmのSiO2と、厚さ80nmのCrは、基板10との密着性を高める。Al2O3は、耐環境性を高める。
【0014】
[第2着色膜の形成工程]
次に、第1着色膜20の表面の一部に、第2着色膜30を塗装する。第2着色膜30の塗装方法は、スピンコート、ディッピング、刷毛塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等が利用できる。また、第2着色膜30の塗料は、第1着色膜20上に塗装可能な材料であればよく、例えばアクリル顔料などが利用できる。
本実施形態では、第1着色膜20は基板10の表面の全面に形成されるのに対し、第2着色膜30は、第1着色膜20の外周部に円環状に形成されている。本実施形態では、第2着色膜30の内周縁31つまり第1着色膜20との境界は、インデックス5の内端側の位置に応じて設定されている。また、第2着色膜30の外周縁32は、基板10および第1着色膜20の外周縁に合わせて設定されている。
【0015】
第2着色膜30は、
図3および
図4に示すように、内周縁31から外周縁32に向かって徐々に膜厚が大きくなるように塗装されている。例えば、内周縁31の膜厚は1μmであり、外周縁32の膜厚は10μmである。このため、第2着色膜30は、内周縁31から外周縁32に向かうにしたがって膜厚が大きくなることで、明度が徐々に低くなるように構成されている。
第2着色膜30の内周縁31側の膜厚が小さい部分は、基板10および第1着色膜20の凹凸に追従して形成され、表示される色は第1着色膜20の色も反映したものとなる。
第2着色膜30の外周縁32側の膜厚が大きくなった部分では、基板10および第1着色膜20の凹凸の影響は抑制され、凹凸模様が識別しにくくなる。また、外周縁32側に表示される色は第1着色膜20の色の影響が軽減され、第2着色膜30の塗料の色が主体となる。
例えば、第1着色膜20を水色となる層構成とし、第2着色膜30を青色の塗料を塗装して形成した場合、第1着色膜20が露出する第1領域100は水色とされる。第2着色膜30が露出する第2領域200は、内周縁31側が水色から青色の範囲の色とされ、外周縁32側が暗い青色とされる。すなわち、第2領域200は、内周縁31から外周縁32に向かって、つまり第1領域100との境界から離れるにしたがって、明度が徐々に低下するグラデーションになっている。
【0016】
また、第1領域100の色と、第2領域200の膜厚が最大となる部分つまり外周縁32の色との色差ΔE*が所定範囲内となるように、第1着色膜20の層構成および第2着色膜30の塗料の種類が設定されている。色差の設定は、時計1に求めるデザインに応じて設定される。
また、第1領域100は、露出する第1着色膜20の膜厚がほぼ一定であるため、第1領域100内で色のバラツキは殆ど無く、同一色に統一される。一方、第2領域200は、内周縁31から外周縁32に向かって膜厚が徐々に大きくなってグラデーションになっているため、色、主に明度が変化する。このため、色差ΔE*は、第1領域100の色と、第2領域200の膜厚が最大となる外周縁32の色とを比較している。
【0017】
色差ΔE*を3以下に設定すれば、第1領域100および第2領域200をほぼ同じ色あるいは近い色に設定でき、統一感のあるデザインにできる。例えば、色差ΔE*を1.6以下に設定した場合は、ほぼ同色、つまり第1領域100および第2領域200が隣接配置された境界部分で僅かに色差を感じることができる程度にできる。また、色差ΔE*が3であれば、紺色と藍色の差程度となる。
また、色差ΔE*を3以上、40以下に設定すれば、第1領域100および第2領域200で色が変わっていることを認識できる。例えば、第1領域100が紺色であり、第2領域200の外周縁32が黒色である場合、色差ΔE*は40程度となる。なお、第1領域100と、第2領域200の外周縁32との色差ΔE*が40以上となるように設定してもよいが、色の差が大きくなるため、色の組合せに配慮して設定することが好ましい。
【0018】
時計用文字板3では、第1領域100に比べて第2領域200の明度が低くなるように設定し、第2領域200においても内周縁31に比べて外周縁32の明度が低くなるように設定している。このため、時計用文字板3の中心側が明るくなり、外周側が暗い印象となるため、時計用文字板3に立体感を与えることができる。
【0019】
[インデックスの取付工程]
第2着色膜30の形成後、インデックス5を基板10に取り付ける。本実施形態のインデックス5は、例えば銀色にメッキされた棒状のパーツを基板10に植え込む植字タイプである。
インデックス5の色は、適宜設定できるが、例えば、第2着色膜30との色差を大きくすれば、インデックス5の視認性を向上できる。例えば、第1着色膜20を紺色、第2着色膜30の外周縁32を黒色、インデックス5を銀色とすればよい。第1着色膜20および第2着色膜30の外周縁32の色差ΔE*をE1、第1着色膜20およびインデックス5の色差ΔE*をE2、第2着色膜30およびインデックス5の色差ΔE*をE3とした場合、E1<E2およびE1<E3とすることで、インデックス5の色を、第1着色膜20や第2着色膜30との色差が大きな色とすることができ、インデックス5の視認性を向上できる。特に、E2<E3として、第2着色膜30とインデックス5との色差を、第1着色膜20とインデックス5との色差よりも大きくすると、インデックス5の視認性をより向上できる。
なお、E1、E2、E3の具体的な数値は、時計用文字板3のデザインによって適宜設定できるが、例えば、E1は3~40、E2は40~80、E3は80~100等に設定できる。
【0020】
[第1実施形態の効果]
時計用文字板3は、基板10の表面に型押し等の機械加工で凹凸の模様11を形成し、模様11が形成された基板10の表面に第1着色膜20を乾式めっき法で形成し、さらに第1着色膜20の一部の表面に第2着色膜30を塗装で形成したので、基板上に蒸着膜を形成しただけの文字板に比べて、新たな審美性を有することができる。
時計用文字板3の第1領域100は、乾式めっき法で形成された第1着色膜20が露出し、この第1着色膜20は、少なくとも1層の酸化膜またはフッ化膜と、少なくとも1層の金属層とを積層して構成されるため、角度依存性を大きくでき、模様11の凹凸もシャープに見せることができる。すなわち、第1着色膜20は、光を透過させて干渉を生じさせる酸化膜またはフッ化膜を有するため、角度依存性を大きくできる。また、第1着色膜20は、色のベースを作る金属層を有するため、金属層の材質を選択することで、第1着色膜20の色を調整できる。さらに、乾式めっき法によって薄膜でかつ膜厚も均一にできるので、凹凸の模様11をシャープに見せることができる。したがって、凹凸の模様11による意匠に加えて、角度依存性が大きいために見る角度によって色を変化させることができ、審美性を向上できる。
また、時計用文字板3の第2領域200は、塗装した第2着色膜30が露出するため、角度依存性は第1領域100に比べて小さくなり、模様11の凹凸も第1領域100に比べてシャープに見えなくなる。
このように、第1領域100および第2領域200を備えることで、第1着色膜20と第2着色膜30との色の変化に加えて、第1着色膜20と第2着色膜30とで角度依存性が異なることによる見え方の変化と、凹凸の模様11のシャープさの変化とが生じるため、新規で複雑な表現が可能となり、時計用文字板3の審美性を向上できる。
【0021】
第2着色膜30は、内周縁31から外周縁32に向かって膜厚を徐々に大きくすることで、第2着色膜30の色を順次変化させたので、第2領域200に塗装グラデーションによる色の変化を追加できる。このため、時計1の利用者は、第1領域100および第2領域200において、第1着色膜20と第2着色膜30との色の変化と角度依存性の変化と、凹凸の模様11のシャープさの変化と、塗装グラデーションによる色の変化との複数の変化を視認できるため、時計用文字板3の審美性を一層向上できる。
【0022】
時計用文字板3は、中心側に設けられた第1領域100の明度を高くし、外周側の第2領域200の明度を低くし、さらに、第2領域200においても、内周縁31から外周縁32に向かって明度を徐々に低くしているので、時計用文字板3が立体的に見えるようにでき、この点でも時計用文字板3の審美性を向上できる。
【0023】
第1着色膜20は、少なくとも1層の金属層と、少なくとも1層の酸化膜またはフッ化膜とを備えた多層膜で構成しているので、各膜の材料や膜厚を適宜設定することで、所望の色に着色できる。
第2着色膜30は、アクリル塗料などを塗装しているので、塗料の色を選択することで所望の色に着色できる。
したがって、様々な色調の時計用文字板3を容易に製造でき、デザインバリエーションを容易に増やすことができる。
【0024】
基板10として金属材料を用いているので、第1着色膜20や第2着色膜30を形成する際の制約が少なく、自由な構造で加飾することができる。すなわち、時計用文字板の裏面側にソーラーパネルが配置される場合、時計用文字板は光を透過させる必要があり、透光性を有する樹脂製の基板を用いる必要があり、さらに光の透過率を確保するために、基板上に形成する膜にも制約が生じる。これに対し、本実施形態の時計用文字板3は、光の透過を考慮する必要が無いため、加飾に関して制約がなく、表面の凹凸の模様11も制約無く加工できるため、自由な構造で加飾できる。
【0025】
[第2実施形態]
第2実施形態の時計用文字板3Bについて、
図5および
図6を参照して説明する。時計用文字板3Bは、基板10Bと、第1着色膜20Bと、第2着色膜30Bと、第3着色膜40とを備える。
基板10B、第1着色膜20B、第2着色膜30Bは、第1実施形態の基板10、第1着色膜20、第2着色膜30と同じ構成であるため、説明を省略する。
【0026】
第3着色膜40は、第2着色膜30Bの表面の一部に塗装によって形成されている。第3着色膜40の塗装方法は、第2着色膜30Bと同様に、スピンコート、ディッピング、刷毛塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等が利用できる。また、第3着色膜40の塗料は、第2着色膜30B上に塗装可能な材料であればよく、例えばアクリル顔料などが利用できる。
本実施形態では、第3着色膜40は、第2着色膜30Bの外周部に円環状に形成されている。第3着色膜40の内周縁41つまり第2着色膜30Bとの境界は、第2着色膜30Bの内周縁31および外周縁32の略中間位置に設定され、第3着色膜40の外周縁42は、第2着色膜30Bの外周縁に合わせて設定されている。
【0027】
第3着色膜40は、第2着色膜30Bと同様に、内周縁41から外周縁42に向かって徐々に膜厚が大きくなるように塗装されている。例えば、内周縁41の膜厚は1μmであり、外周縁42の膜厚は10μmである。このため、第3着色膜40は、第2着色膜30Bと同じく、内周縁41から外周縁42に向かうにしたがって膜厚が大きくなることで、明度が徐々に低くなるように構成されている。
第3着色膜40は、第2着色膜30B上に形成されるため、基板10Bの模様11は認識し難くなっている。
【0028】
時計用文字板3Bでは、第1着色膜20Bが露出する中心部が第1領域100Bであり、第2着色膜30Bが露出する第1領域100Bの外周部分が第2領域200Bであり、第3着色膜40が露出する第2領域200Bの外周部分が第3領域300である。
第1着色膜20B、第2着色膜30B、第3着色膜40の色は、第1実施形態と同様に適宜設定できるが、例えば、第1着色膜20Bは水色が表示される層構成であり、第2着色膜30Bは青の塗料で塗装され、第3着色膜40は黒の塗料で塗装される。
【0029】
[第2実施形態の効果]
第2実施形態の時計用文字板3Bによれば、第1実施形態の時計用文字板3と同じ基板10B、第1着色膜20B、第2着色膜30Bを備えるため、第1実施形態と同様の効果が得られる。さらに、第2着色膜30B上に第3着色膜40を塗装により形成し、時計用文字板3Bに第1領域100B、第2領域200B、第3領域300の3つの領域を形成したので、第1実施形態の時計用文字板3に比べてさらに複雑なデザインを実現でき、審美性をより向上できる。
【0030】
[第3実施形態]
第3実施形態の時計用文字板3Cについて、
図7を参照して説明する。時計用文字板3Cは、基板10Cと、第1着色膜20Cと、第2着色膜30Cとを備える。
基板10Cは、第1実施形態の基板10と同様に、金属材料で構成され、表面に金属加工による凹凸の模様11Cが形成されている。また、基板10Cには、指針軸が挿通される貫通孔9と、日車6を露出させるカレンダー小窓8に加えて、パワーリザーブ用の扇形のサブダイヤルが取り付けられる開口50が形成されている。
【0031】
第1着色膜20Cは、第1着色膜20と同じく、乾式メッキ法で基板10Cの表面に形成される。本実施形態では、銀色の第1着色膜20Cとするため、基板10C側から、SiO2(厚さ113nm)、Cr(厚さ70nm)、Ag(厚さ160nm)、Al2O3(厚さ147nm)、SiO2(厚さ69.8nm)、クリア層がこの順に積層されている。なお、クリア層は、第1実施形態と同様に、設けても設けなくてもよい。
以上の層構成の第1着色膜20Cは、酸化膜としてSiO2、Al2O3を備え、金属層としてCr、Agを備えている。
【0032】
第2着色膜30Cは、第2着色膜30と同様に、黒色の塗料で塗装され、内周縁から外周縁に向かって膜厚が大きくなるように形成されることでグラデーションとされている。
【0033】
[第3実施形態の効果]
第3実施形態の時計用文字板3Cにおいても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0034】
[変形例]
時計用文字板の第1領域、第2領域、第3領域は、平面円形や円環状のものに限定されない。例えば、
図8に示す時計用文字板3Dは、第3実施形態の基板10Cと同様に模様11Dが表面に形成された基板10Dを有する。この基板10Dの表面に、乾式めっき法により第1着色膜20Dが形成され、第1着色膜20Dの一部に塗装により第2着色膜30Dが形成されている。
第1着色膜20Dは、第1着色膜20Cと同じく、基板10Dの全面に形成されている。第2着色膜30Dは、時計用文字板3Dの3時側および9時側に形成されている。このため、第1着色膜20Dは、時計用文字板3Dの12時位置および6時位置を結ぶ中心線を含んで設けられる。第2着色膜30Dは、第1着色膜20Dに対して、時計用文字板3Dの3時位置側および9時位置側に設けられている。なお、第2着色膜30Dは、時計用文字板3Dの12時位置から開口50の近傍位置までは、12時および6時を結ぶ中心線に平行に形成され、第1着色膜20Dが一定幅の帯状に形成される。また、第2着色膜30Dは、開口50の近傍位置からは、略4.5時位置および略7.5時位置に向かって斜めに形成され、第1着色膜20Dも扇形に広がって形成される。このように、第2着色膜30Dの塗装領域を適宜設定することで、時計用文字板のデザインバリエーションをさらに増やすことができる。
【0035】
基板の表面に乾式めっき法で形成される第1着色膜は、基板の全面に形成されるものに限らず、第2着色膜や第3着色膜で覆われない第1領域のみに形成してもよい。この場合、基板の第1領域以外をマスクして乾式めっき法で第1着色膜を形成すればよい。
また、第1着色膜が露出する第1領域を基板の外周側に形成し、第2着色膜が露出する第2領域を基板の中心側に形成してもよい。
【0036】
第2着色膜や第3着色膜は、第1着色膜から離れるにしたがって膜厚が厚くなるものに限定されず、膜厚がほぼ均一となるように塗装してもよいし、第1着色膜から離れるにしたがって膜厚が薄くなるように塗装してもよい。すなわち、第2着色膜や第3着色膜の膜厚は、膜厚の変化による色の変化デザインを考慮して適宜設定すればよい。
塗装により形成される第2着色膜の膜厚は、基板表面の凹凸の段差以上でもよいし、凹凸の段差未満でもよい。第2着色膜の膜厚を、基板の凹凸の段差以上にすれば、凹凸の模様が目立ちにくくなり、模様の影響が軽減された第2領域とすることができる。
【0037】
時計用文字板に設けられるインデックスは、棒状のものに限定されず、くさび形や丸型など他の形状でもよいし、さらにアラビア数字やローマ数字でもよい。また、インデックスは植字タイプに限定されず、タコ印刷で形成されるものでもよい。
時計用文字板の平面形状は円形に限定されず、長方形、正方形、樽型、楕円形、八角形など様々な形状が採用できる。また、第1領域、第2領域、第3領域は、時計用文字板の平面形状に合わせて設定してもよい。
したがって、時計用文字板の形状、表面の模様、第1着色膜の多層膜の材料や形成領域や形成方法、第2着色膜の塗料の種類や形成領域や形成方法、第3着色膜の有無などは、時計用文字板のデザインに応じて適宜設定すればよい。
【0038】
[本開示のまとめ]
本開示の時計用文字板は、表面に機械加工によって凹凸形状が形成された金属製の基材と、前記基材の表面上に乾式めっき法により形成され、少なくとも1層の酸化膜またはフッ化膜と、少なくとも1層の金属層とが積層された第1着色膜と、前記第1着色膜上の一部に、塗装により形成された第2着色膜と、を有することを特徴とする。
本開示の時計用文字板によれば、機械加工で凹凸形状が形成された基板の表面に、第1着色膜を乾式めっき法で形成し、さらに第1着色膜の一部の表面に第2着色膜を塗装で形成したので、基板上に蒸着膜を形成しただけの文字板に比べて、新たな審美性を有することができる。第1着色膜は、少なくとも1層の酸化膜またはフッ化膜と、少なくとも1層の金属層とを積層して構成されるため、角度依存性を大きくでき、模様の凹凸もシャープに見せることができる。第2着色膜は塗装で形成されるため、角度依存性は第1着色膜に比べて小さくなり、模様の凹凸も第1着色膜に比べてシャープに見えなくなる。
このように、第1着色膜と第2着色膜との色の変化に加えて、第1着色膜と第2着色膜とで角度依存性が異なることによる見え方の変化と、凹凸の模様のシャープさの変化とが生じるため、新規で複雑な表現が可能となり、時計用文字板の審美性を向上できる。
【0039】
本開示の時計用文字板において、前記基材の表面に前記第1着色膜のみが形成された第1領域と、前記基材の表面に前記第1着色膜および前記第2着色膜が形成された第2領域と、が設けられ、前記第2着色膜の膜厚は、前記第1領域との境界から離れるにしたがって徐々に大きくなっていることが好ましい。
本開示の時計用文字板によれば、第2着色膜は、第1領域との境界から離れるにしたがって膜厚が徐々に大きくされているので、第2着色膜の色を順次変化させることができ、第2領域に塗装グラデーションによる色の変化を追加できる。このため、時計の利用者は、第1着色膜と第2着色膜との色の変化と角度依存性の変化と、凹凸の模様のシャープさの変化と、塗装グラデーションによる色の変化との複数の変化を視認できるため、時計用文字板の審美性を一層向上できる。
【0040】
本開示の時計用文字板において、前記第1領域は、前記基材の表面中央に設けられ、前記第2領域は、前記第1領域の外側に設けられ、前記第2着色膜の膜厚は、前記基材の外周に向かって徐々に大きくなっていることが好ましい。
本開示の時計用文字板によれば、時計用文字板の中央部分に基板の凹凸の模様を活かした第1領域を形成でき、デザイン性を向上できる。また、第2着色膜の膜厚を、基材の外周に向かって徐々に大きくしているので、第2着色膜の色を順次変化させることができ、第2領域に塗装グラデーションによる色の変化を追加できる。このため、時計の利用者は、時計用文字板の中心から外周に向かって、第1着色膜と第2着色膜との色の変化と角度依存性の変化と、凹凸の模様のシャープさの変化と、塗装グラデーションによる色の変化との複数の変化を視認できるため、時計用文字板の審美性を一層向上できる。
【0041】
本開示の時計用文字板において、前記第1領域の色と、前記第2領域における膜厚が最大の部分の色との色差が所定の範囲内であることが好ましい。
本開示の時計用文字板によれば、第1領域の色と、第2領域の色との変化を所定範囲に設定でき、時計用文字板のデザインイメージを統一できる。
【0042】
本開示の時計用文字板において、前記色差は、3以下であることが好ましい。
本開示の時計用文字板によれば、第1領域および第2領域をほぼ同じ色あるいは近い色に設定でき、統一感のあるデザインにできる。
【0043】
本開示の時計用文字板において、前記色差は、3以上、40以下であることが好ましい。
本開示の時計用文字板によれば、第1領域および第2領域で色が変化したことを認識でき、色の組合せによってデザイン性を向上できる。
【0044】
本開示の時計用文字板において、前記第1領域の明度は、前記第2領域よりも高く、前記第2領域の明度は、前記第1領域との境界から離れるにしたがって徐々に低くなっていることが好ましい。
本開示の時計用文字板によれば、第1領域の明度は一定に維持でき、第2領域では、第1領域との境界部分に比べて第1領域から離れた部分の明度が低くなるため、時計用文字板において明度をなめらかに変化させることができ、デザイン性を向上できる。
【0045】
本開示の時計用文字板において、前記第1領域は、前記基材の表面中央に設けられ、前記第2領域は、前記第1領域の外周に設けられていることが好ましい。
本開示の時計用文字板によれば、時計用文字板の中心側が明るくなり、外周側が暗い印象となるため、時計用文字板に立体感を与えることができる。
【0046】
本開示の時計用文字板において、前記第1領域は、前記基材において、時計用文字板の12時位置および6時位置を結ぶ中心線を含んで設けられ、前記第2領域は、前記第1領域に対して、時計用文字板の3時位置側および9時位置側に設けられていることが好ましい。
本開示の時計用文字板によれば、時計用文字板の12時および6時のインデックスを結ぶ中心線に沿って第1領域を配置でき、第1領域を挟んで3時側および9時側に第2領域を配置できるので、時計用文字板を左右対称のデザインにできる。
【0047】
本開示の時計用文字板において、前記金属層は、Ag、Pt、Au、Cu、Al、Cr、Sn、Fe、Ti、または、これらの合金から選択された1種類を含み、前記酸化膜または前記フッ化膜は、Ta2O5、SiO2、TiO2、Al2O3、ZrO2、Nb2O5、HfO2、Na5Al3F14、Na3AlF6、AlF3、MgF2、CaF2、BaF2、YF3、LaF3、CeF3、および、NdF3から選択された1種類を含むことが好ましい。
本開示の時計用文字板によれば、金属層と、酸化膜またはフッ化膜とを適宜選択することで、第1着色膜の色を様々に設定できる。
【0048】
本開示の時計用文字板において、前記第2着色膜上の一部に、塗装により形成された第3着色膜をさらに有することが好ましい。
本開示の時計用文字板によれば、第3着色膜をさらに有するため、時計用文字板としてさらに複雑なデザインを実現でき、審美性をより向上できる。
【0049】
本開示の時計は、外装ケースと、前記外装ケース内に配置された前記時計用文字板と、を備えることを特徴とする。
本開示の時計によれば、機械加工で凹凸形状が形成された基板の表面に、第1着色膜を乾式めっき法で形成し、さらに第1着色膜の一部の表面に第2着色膜を塗装で形成した時計用文字板を備えるため、時計用文字板および時計の審美性を向上できる。
【符号の説明】
【0050】
1…時計、2…外装ケース、3、3B、3C、3D…時計用文字板、5…インデックス、9…貫通孔、10、10B、10C、10D…基板、11、11C、11D…模様、20、20B、20C、20D…第1着色膜、30、30B、30C、30D…第2着色膜、31…内周縁、32…外周縁、40…第3着色膜、41…内周縁、42…外周縁、100、100B…第1領域、200、200B…第2領域、300…第3領域。