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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101634
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】絶縁電線及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20240723BHJP
   H01B 13/08 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H01B7/02 H
H01B13/08
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005646
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】青木 萌子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏樹
【テーマコード(参考)】
5G309
5G325
【Fターム(参考)】
5G309QA02
5G325DA11
5G325DA15
5G325DA16
(57)【要約】
【課題】曲げ時において導体が露出する可能性を低減することができる絶縁電線及びその製造方法を提供する。
【解決手段】絶縁電線1は、絶縁層21と粘着層22とが積層された絶縁テープ20を導体10に対して粘着層22が導体10側となるように螺旋状に巻き付けたものであって、絶縁テープ20は、導体径をxmmとした場合、重ね代yがy≧1.5099ln(x)-0.4959mmであり、幅zがz≦-0.3774x+24.547mmであり、絶縁テープ20の粘着層22の反対側となる背面に対する粘着力cがc≧3.2N/19mmとされている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と粘着層とが積層された絶縁テープを導体に対して前記粘着層が前記導体側となるように螺旋状に巻き付けた絶縁電線であって、
前記絶縁テープは、導体径をxmmとした場合、重ね代yがy≧1.5099ln(x)-0.4959mmであり、幅zがz≦-0.3774x+24.547mmであり、前記絶縁テープの前記粘着層の反対側となる背面に対する粘着力cがc≧3.2N/19mmとされている
ことを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記幅zは、z<3.2978x+2.282mmとされている
ことを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
導体径xmmとなる導体を用意する第1工程と、
絶縁層と粘着層とが積層され、幅zがz≦-0.3774x+24.547mmとされ、前記粘着層の反対側となる背面に対する粘着力cがc≧3.2N/19mmとされた絶縁テープを用意する第2工程と、
前記第2工程において用意された前記絶縁テープを、前記粘着層が前記第1工程において用意された前記導体側となるように、且つ、重ね代yがy≧1.5099ln(x)-0.4959mmとなるように螺旋状に巻き付ける第3工程と、
を備えることを特徴とする絶縁電線の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程において用意された前記絶縁テープに対して耐熱温度を上げるための電子線架橋を行う第4工程をさらに備え、
前記第3工程では、前記第4工程において電子線架橋された前記絶縁テープを螺旋状に巻き付ける
ことを特徴とする請求項3に記載の絶縁電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導体の周囲に直接絶縁テープを螺旋状に巻き付けて被覆部を形成した絶縁電線が提案されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-97815号公報
【特許文献2】実開平06-73818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1,2に記載の絶縁電線は、絶縁テープが導体上に螺旋状に巻き付けられる関係上、絶縁電線が曲げられたときには、曲げ外側において絶縁テープ間が開いてしまい、導体が露出することがあった。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、曲げ時において導体が露出する可能性を低減することができる絶縁電線及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る絶縁電線は、絶縁層と粘着層とが積層された絶縁テープを導体に対して前記粘着層が前記導体側となるように螺旋状に巻き付けた絶縁電線であって、前記絶縁テープは、導体径をxmmとした場合、重ね代yがy≧1.5099ln(x)-0.4959mmであり、幅zがz≦-0.3774x+24.547mmであり、前記絶縁テープの前記粘着層の反対側となる背面に対する粘着力cがc≧3.2N/19mmとされている。
【0007】
本発明に係る絶縁電線の製造方法は、導体径xmmとなる導体を用意する第1工程と、絶縁層と粘着層とが積層され、幅zがz≦-0.3774x+24.547mmとされ、前記粘着層の反対側となる背面に対する粘着力cがc≧3.2N/19mmとされた絶縁テープを用意する第2工程と、前記第2工程において用意された前記絶縁テープを、前記粘着層が前記第1工程において用意された前記導体側となるように、且つ、重ね代yがy≧1.5099ln(x)-0.4959mmとなるように螺旋状に巻き付ける第3工程と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、曲げ時において導体が露出する可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る絶縁電線を示す斜視図である。
図2図1に示した構成の一部拡大断面図である。
図3】本実施形態に係る絶縁電線の製造方法を示す工程図である。
図4】実施例1~12及び比較例1~4を示す図表である。
図5】実施例1~12及び比較例1~4の実験結果に基づく重ね代yの閾値を示す図表である。
図6】実施例1~12及び比較例1~4の実験結果及び閾値の詳細を示すグラフである。
図7】実施例13~21及び比較例5~7を示す図表である。
図8】実施例13~21及び比較例5~7の実験結果に基づく絶縁テープの幅zの閾値を示す図表である。
図9】実施例13~21及び比較例5~7の実験結果及び閾値の詳細を示すグラフである。
図10】巻きが困難となる絶縁テープの幅zの閾値を示す図表である。
図11】実施例22~27及び比較例8~13を示す図表である。
図12】実施例22~27及び比較例8~13の実験結果に基づく粘着力cの閾値を示す図表である。
図13】実施例22~27及び比較例8~13の実験結果及び閾値の詳細を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る絶縁電線1を示す斜視図であり、図2は、図1に示した構成の一部拡大断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る絶縁電線1は、導体10と、絶縁テープ20とを備えて構成されている。
【0012】
導体10は、例えば銅やアルミニウムやこれらの合金等の導電性金属によって構成されたものであって、断面形状が円形又は略円形とされたものである。絶縁テープ20は、図2に示すように、絶縁層21と粘着層22とが積層されたものである。この絶縁テープ20は、粘着層22が導体10側となるように導体10上に螺旋状に直接巻かれるものである。絶縁テープ20は、導体10上に巻かれるにあたり、絶縁テープ20同士が重なり合う重ね代yを有するように巻かれる。これにより、導体10を構成する金属が露出することなく、導体10上に直接絶縁テープ20を巻いた絶縁電線1が構成されている。なお、本実施形態において粘着層22の反対側となる背面は絶縁層21によって構成されているが、特にこれに限らず、絶縁層21上にさらに他の層が形成されて、当該他の層が背面に位置するものであってもよい。加えて、絶縁層21と粘着層22との間に他の層が設けられていてもよい。
【0013】
ここで、このような絶縁電線1は曲げ時(自己径曲げ時)においても導体10が露出しない必要がある。そこで、本実施形態に係る絶縁電線1において、絶縁テープ20は、絶縁テープ20の背面(図2に示す例において絶縁層21)に対する粘着力cが3.2N/19mm以上とされている。このため、絶縁テープ20は曲げ時において互いにズレ難く導体10が露出し難いものとされている。
【0014】
また、本実施形態に係る絶縁電線1において、導体10の直径(導体径)をxmmとした場合、絶縁テープ20は、重ね代yが1.5099ln(x)-0.4959mm以上とされている。このように重ね代yが1.5099ln(x)-0.4959mm以上であることから、曲げ時において仮に絶縁テープ20の重なり部分において絶縁テープ20が互いに多少ズレてしまったとしても重ね代yが確保されており、導体露出が防止される。
【0015】
さらに、本実施形態に係る絶縁電線1において、絶縁テープ20は、幅zが-0.3774x+24.547mm以下とされている。ここで、幅zが大きいと曲げ時において重ね代yの一か所に大きな力が掛かって絶縁テープ20同士がズレ易くなる。しかし、絶縁テープ20の幅zが-0.3774x+24.547mm以下であるため、このような事態を抑制することができる。
【0016】
なお、本実施形態に係る絶縁電線1において、絶縁テープ20の幅zは、3.2978x+2.282mm未満とされていることが好ましい。幅zが3.2978x+2.282以上となり導体径xに対して大きくなり過ぎると、絶縁テープ20を螺旋状に巻く際にシワが寄ったり重ね代yが次第に大きくなる等、螺旋状に巻き難くなってしまうからである。
【0017】
次に、本実施形態に係る絶縁電線1の製造方法を説明する。図3は、本実施形態に係る絶縁電線1の製造方法を示す工程図である。まず、図3に示すように、導体用意工程(第1工程)が実行される。この工程において導体径xmmとなる導体10が用意される。
【0018】
次に、絶縁テープ用意工程(第2工程)が実行される。この工程において用意される絶縁テープ20は、絶縁層21と粘着層22とが積層されたものであって、幅zが-0.3774x+24.547mm以下とされたものである。さらに、この工程では、絶縁テープ20の背面に対する粘着力cが3.2N/19mm以上とされた絶縁テープ20が用意される。
【0019】
次いで、電子線架橋工程(第4工程)が実行される。この工程においては、絶縁テープ用意工程で用意された絶縁テープ20に対して耐熱温度を上げるための電子線架橋が行われる。
【0020】
その後、巻き付け工程(第3工程)が実行される。この工程においては、導体用意工程において用意された導体10上に、絶縁テープ用意工程において用意され電子線架橋工程において電子線架橋された絶縁テープ20が重ね代y≧1.5099ln(x)-0.4959mmとなるように螺旋状に巻き付けられる。この際、絶縁テープ20の粘着層22が導体10側となるように絶縁テープ20が巻き付けられる。
【0021】
以上により、本実施形態に係る絶縁電線1が得られる。ここで、上記したように、電子線架橋工程が巻き付け工程に先立って行われる。巻き付け後に電子線架橋を行うと絶縁テープ20の一側に電子線が照射され、導体10を挟んで他側には電子線が照射され難く、他側の耐熱温度を向上させ難くなってしまう。しかし、絶縁テープ20が巻かれる前の状態で照射を行うことで、電子線照射が導体10によって阻害されることなく、絶縁テープ20の全体に電子線を照射し易くなる。
【0022】
次に、実施例及び比較例を説明する。図4は、実施例1~12及び比較例1~4を示す図表である。図4に示す実施例1~12及び比較例1~4については、粘着力cが3.2N/19mm且つ幅zが19mmの絶縁テープ(塩化ビニルテープ)を様々な重ね代yで導体に対して巻き付けることで形成した。
【0023】
詳細に説明すると、実施例1~4については、導体径xが5.4mm(10sq)の導体に絶縁テープを巻き付けて形成した。重ね代yは、実施例1において2mmであり、実施例2において4mmであり、実施例3において4.8mmであり、実施例4において6.3mmであった。
【0024】
また、比較例1,2及び実施例5~9については、導体径xが9.4mm(40sq)の導体に絶縁テープを巻き付けて形成した。重ね代yは、比較例1において1.5mmであり、比較例2において2mmであり、実施例5において3mmであり、実施例6において4mmであった。また、重ね代yは、実施例7において4.3mmであり、実施例8において4.8mmであり、実施例9において5mmであった。
【0025】
また、比較例3,4及び実施例10~12については、導体径xが14.7mm(95sq)の導体に絶縁テープを巻き付けて形成した。重ね代yは、比較例3において2mmであり、比較例4において3mmであり、実施例10において3.5mmであり、実施例11において4mmであり、実施例12において4.5mmであった。
【0026】
以上のように形成した実施例1~12及び比較例1~4の絶縁電線に対して、自己径曲げを行った状態で数秒保持し、導体が露出するか否かを測定した。この結果、実施例1~12については露出が無く、比較例1~4において露出が確認された。
【0027】
図5は、実施例1~12及び比較例1~4の実験結果に基づく重ね代yの閾値を示す図表である。図4及び図5に示すように、導体径xが5.4mmでは実施例1以上、すなわち重ね代yが2mm以上であると導体露出が防止されることがわかった。また、導体径xが9.4mmでは実施例5以上、すなわち重ね代yが3mm以上であると導体露出が防止されることがわかった。また、導体径xが14.7mmでは実施例10以上、すなわち重ね代yが3.5mm以上であると導体露出が防止されることがわかった。
【0028】
図6は、実施例1~12及び比較例1~4の実験結果及び閾値の詳細を示すグラフである。図6に示すように、導体径xが5.4mmでは重ね代yが2mm以上必要であり、導体径xが9.4mmでは重ね代yが3mm以上必要であり、導体径xが14.7mmでは重ね代yが3.5mm以上必要である。このため、これらに基づいて対数近似により近似式を求めた結果、粘着力cが3.2N/19mm且つ幅zが19mmの絶縁テープを巻き付ける場合において、重ね代yは1.5099ln(x)-0.4959mm以上であれば、自己径曲げの際に導体露出が防止されることがわかった。
【0029】
なお、粘着力cについては高くなればなるほど導体露出が防止されることが明らかである。このため、重ね代yが1.5099ln(x)-0.4959mm以上であれば、粘着力cが3.2N/19mmを超える絶縁テープにおいても自己径曲げでの導体露出が防止されるといえる。さらに、絶縁テープについても、上記したように、幅zが小さいことが好ましいことから、重ね代yが1.5099ln(x)-0.4959mm以上であれば、幅zが19mm未満の絶縁テープにおいても自己径曲げでの導体露出が防止されるといえる。
【0030】
図7は、実施例13~21及び比較例5~7を示す図表である。図7に示す実施例13~21及び比較例5~7については、粘着力cが3.2N/19mmである様々な幅zの絶縁テープ(塩化ビニルテープ)を図5に示した閾値となる重ね代yで導体に対して巻き付けることで形成した。
【0031】
詳細に説明すると、実施例13,14については、導体径xが5.4mmの導体に重ね代yを2mmとして絶縁テープを巻き付けて形成した。絶縁テープの幅zは、実施例13において13mmであり、実施例14において19mmであった。
【0032】
また、実施例15~17及び比較例5については、導体径xが9.4mmの導体に重ね代yを3mmとして絶縁テープを巻き付けて形成した。絶縁テープの幅zは、実施例15において13mmであり、実施例16において19mmであり、実施例17において21mmであり、比較例5において25mmであった。
【0033】
また、実施例18~21及び比較例6,7については、導体径xが14.7mmの導体に重ね代yを3.5mmとして絶縁テープを巻き付けて形成した。絶縁テープの幅zは、実施例18において13mmであり、実施例19において15mmであり、実施例20において17mmであり、実施例21において19mmであり、比較例6において21mmであり、比較例7において25mmであった。
【0034】
以上のように形成した実施例13~21及び比較例5~7の絶縁電線に対して、自己径曲げを行った状態で数秒保持し、導体が露出するか否かを測定した。この結果、実施例13~21については露出が無く、比較例5~7において露出が確認された。
【0035】
図8は、実施例13~21及び比較例5~7の実験結果に基づく絶縁テープの幅zの閾値を示す図表である。図7及び図8に示すように、導体径xが5.4mmでは実施例13,14に示すように導体が露出が無く、閾値を確認できなかった。一方、導体径xが9.4mmでは実施例17以下、すなわち幅zが21mm以下であると導体露出が防止されることがわかった。また、導体径xが14.7mmでは実施例21以下、すなわち幅zが19mm以下であると導体露出が防止されることがわかった。
【0036】
図9は、実施例13~21及び比較例5~7の実験結果及び閾値の詳細を示すグラフである。図9に示すように、導体径xが9.4mmでは絶縁テープの幅zが21mm以下であることが必要であり、導体径xが14.7mmでは絶縁テープの幅zが19mm以下であることが必要である。このため、これらに基づいて線形一次近似により近似式を求めた結果、粘着力cが3.2N/19mmであり図5に示す重ね代yで絶縁テープを巻き付ける際の絶縁テープの幅zは-0.3774x+24.547以下であれば、自己径曲げの際に導体露出が防止されることがわかった。
【0037】
なお、図6に示したように重ね代yは大きくなればなるほど導体露出が防止されることが明らかである。このため、絶縁テープの幅zが-0.3774x+24.547mm以下であれば、重ね代yが図5に示した閾値を超える場合においても自己径曲げでの導体露出が防止されるといえる。また、粘着力cについては高くなればなるほど導体露出が防止されることが明らかである。このため、絶縁テープの幅zが-0.3774x+24.547mm以下であれば、粘着力cが3.2N/19mmを超える絶縁テープにおいても自己径曲げでの導体露出が防止されるといえる。
【0038】
図10は、巻きが困難となる絶縁テープの幅zの閾値を示す図表である。ここで、絶縁テープは幅zが大きくなり過ぎると、螺旋状に巻く際にシワが寄ったり重ね代yが次第に大きくなる等、螺旋状に巻き難くなってしまう。螺旋状に巻くことが極端に困難となる幅zは、(導体の円周の長さ)+(重ね代yの閾値)+1にて算出できる。このため、絶縁テープの幅zは、3.2978x+2.282未満であることが好ましく、図10に示すように、導体径xが5.4mmで20mmであり、導体径xが9.4mmで34mmであり、導体径xが14.7mmで51mmとなる。よって、シワが寄らず且つ重ね代yを維持し易く、且つ、自己径曲げで導体露出が防止される絶縁テープの幅zは、-0.3774x+24.547mm以下、且つ、3.2978x+2.282mm未満となる。すなわち、図9においては斜線領域となる。
【0039】
図11は、実施例22~27及び比較例8~13を示す図表である。図11に示す実施例22~27及び比較例8~13については、幅zが19mmである様々な粘着力cの絶縁テープ(塩化ビニルテープ)を図5に示した閾値となる重ね代yで導体に対して巻き付けることで形成した。
【0040】
詳細に説明すると、比較例8,9及び実施例22,23については、導体径xが5.4mmの導体に重ね代yを2mmとして絶縁テープを巻き付けて形成した。粘着力cは、比較例8において2.36N/19mmであり、比較例9において2.74N/19mmであり、実施例22において3.2N/19mmであり、実施例23において5N/19mmであった。
【0041】
また、比較例10,11及び実施例24,25については、導体径xが9.4mmの導体に重ね代yを3mmとして絶縁テープを巻き付けて形成した。粘着力cは、比較例10において2.36N/19mmであり、比較例11において2.74N/19mmであり、実施例24において3.2N/19mmであり、実施例25において5N/19mmであった。
【0042】
また、比較例12,13及び実施例26,27については、導体径xが14.7mmの導体に重ね代yを3.5mmとして絶縁テープを巻き付けて形成した。粘着力cは、比較例12において2.36N/19mmであり、比較例13において2.74N/19mmであり、実施例26において3.2N/19mmであり、実施例27において5N/19mmであった。
【0043】
以上のように形成した実施例22~27及び比較例8~13の絶縁電線に対して、自己径曲げを行った状態で数秒保持し、導体が露出するか否かを測定した。この結果、実施例22~27については露出が無く、比較例8~13において露出が確認された。
【0044】
図12は、実施例22~27及び比較例8~13の実験結果に基づく粘着力cの閾値を示す図表である。図11及び図12に示すように、導体径xが5.4mmでは実施例22以上、すなわち粘着力cが3.2N/19mm以上であると導体露出が防止されることがわかった。また、導体径xが9.4mmでは実施例24以上、すなわち粘着力cが3.2N/19mm以上であると導体露出が防止されることがわかった。また、導体径xが14.7mmでは実施例26以上、すなわち3.2N/19mm以上であると導体露出が防止されることがわかった。
【0045】
図13は、実施例22~27及び比較例8~13の実験結果及び閾値の詳細を示すグラフである。図13に示すように、導体径xが5.4mm、9.4mm及び14.7mmの全てにおいて絶縁テープの粘着力cは3.2N/19mm以上が必要である。このため、幅zが19mmであり図5に示す重ね代yで絶縁テープを巻き付ける場合の絶縁テープの粘着力cが3.2N/19mm以上であれば、自己径曲げの際に導体露出が防止されることがわかった。
【0046】
なお、図6に示したように重ね代yは大きくなればなるほど導体露出が防止されることが明らかである。よって、絶縁テープの粘着力cについて3.2N/19mmを確保すれば、重ね代yが図5に示した閾値を超える絶縁テープにおいても自己径曲げでの導体露出が防止されるといえる。また、図7に示すように絶縁テープの幅zは小さくなるほど導体露出が防止される。このため、絶縁テープの粘着力cについて3.2N/19mmを確保すれば、幅zが19mm以下となる絶縁テープにおいても自己径曲げでの導体露出が防止されるといえる。
【0047】
以上、上記実施例1~27及び比較例1~13を総合すると、絶縁テープは、重ね代yが1.5099ln(x)-0.4959mm以上であり、幅zが-0.3774x+24.547mm以下であり、絶縁テープの背面に対する粘着力cが3.2N/19mm以上であれば、自己径曲げによる導体露出が防止されることがわかった。
【0048】
このようにして、本実施形態に係る絶縁電線1によれば、絶縁テープ20は絶縁テープ20の背面に対する粘着力cが3.2N/19mm以上とされているため、曲げ時において絶縁テープ20が互いにズレ難いものとされている。また、重ね代yが1.5099ln(x)-0.4959mm以上であることから、仮に多少のズレがあったとしても重ね代yが確保されており、導体露出が防止される。加えて、絶縁テープ20の幅zが-0.3774x+24.547mm以下とされていることから、絶縁テープ20の幅zが大きいと曲げ時において重ね代yの一か所に大きな力が掛かって絶縁テープ20がズレ易くなるが、このような事態が抑制される。従って、曲げ時において導体10が露出する可能性を低減することができる。
【0049】
また、絶縁テープ20の幅zは、3.2978x+2.282mm未満とされているため、絶縁テープ20の幅zが導体径xに対して大きくなり過ぎてしまい、螺旋状に巻く際にシワが寄ったり重ね代yが次第に大きくなる等、螺旋状に巻き難くなる事態を防止することができる。
【0050】
また、本実施形態に係る絶縁電線1の製造方法によれば、曲げ時において導体10が露出する可能性を低減した絶縁電線1を提供することができる。
【0051】
また、絶縁テープ20の巻き付けに先立って、電子線架橋が行われるため、全体に電子線を照射し易くすることができる。すなわち、巻き付け後に電子線を照射すると絶縁テープ20の一側に電子線が照射され、導体10を挟んで一側と反対側となる他側には電子線が照射され難く、他側の耐熱温度を向上させ難くなる。しかし、絶縁テープ20が巻かれる前の状態で照射を行うことで、電子線が導体10によって阻害されることなく、絶縁テープ20の全体に電子線を照射し易くなる。従って、耐熱温度を適切に向上させ易くすることができる。
【0052】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、可能であれば公知又は周知の技術を組み合わせてもよい。
【0053】
例えば、上記において導体10は単線を想定しているが、これに限らず、複数本の素線を撚り合わせた撚線であってもよい。
【0054】
また、上記実施例及び比較例においては、導体径xについて5.4mm以上で実験を行った。これは、導体径xが5.4mm未満では、押出被覆の方が効率が良いためである。導体10に絶縁テープ20を巻いて絶縁電線1を構成する理由は、絶縁電線1自体を細径化したいという目的もある。導体径xが5.4mm未満では押出被覆しても絶縁電線1を充分に細くできる。さらに、上記実施例及び比較例においては、14.7mm以下で実験を行った。これは、導体径xが14.7mmを超えると絶縁テープ20を巻いた状態で自己径曲げが困難となるためである。
【符号の説明】
【0055】
1 :絶縁電線
10 :導体
20 :絶縁テープ
21 :絶縁層
22 :粘着層
c :粘着力
x :導体径
y :重ね代
z :幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2024-05-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と粘着層とが積層された絶縁テープを導体に対して前記粘着層が前記導体側となるように螺旋状に巻き付けた絶縁電線であって、
前記絶縁テープは、導体径をxmmとした場合、重ね代yがy≧1.5099ln(x)-0.4959mmであり、幅zがz≦-0.3774x+24.547mmであり、前記絶縁テープの前記粘着層の反対側となる背面に対する粘着力cがc≧3.2N/19mmとされており、
さらに、前記幅zは、z<導体の円周の長さ+重ね代yの閾値+1を満たしている
ことを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
導体径xmmとなる導体を用意する第1工程と、
絶縁層と粘着層とが積層され、幅zがz≦-0.3774x+24.547mm且つz<導体の円周の長さ+重ね代yの閾値+1とされ、前記粘着層の反対側となる背面に対する粘着力cがc≧3.2N/19mmとされた絶縁テープを用意する第2工程と、
前記第2工程において用意された前記絶縁テープを、前記粘着層が前記第1工程において用意された前記導体側となるように、且つ、前記重ね代yがy≧1.5099ln(x)-0.4959mmとなるように螺旋状に巻き付ける第3工程と、
を備えることを特徴とする絶縁電線の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程において用意された前記絶縁テープに対して耐熱温度を上げるための電子線架橋を行う第4工程をさらに備え、
前記第3工程では、前記第4工程において電子線架橋された前記絶縁テープを螺旋状に巻き付ける
ことを特徴とする請求項2に記載の絶縁電線の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本発明に係る絶縁電線は、絶縁層と粘着層とが積層された絶縁テープを導体に対して前記粘着層が前記導体側となるように螺旋状に巻き付けた絶縁電線であって、前記絶縁テープは、導体径をxmmとした場合、重ね代yがy≧1.5099ln(x)-0.4959mmであり、幅zがz≦-0.3774x+24.547mmであり、前記絶縁テープの前記粘着層の反対側となる背面に対する粘着力cがc≧3.2N/19mmとされており、さらに、前記幅zは、z<導体の円周の長さ+重ね代yの閾値+1を満たしている。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明に係る絶縁電線の製造方法は、導体径xmmとなる導体を用意する第1工程と、絶縁層と粘着層とが積層され、幅zがz≦-0.3774x+24.547mm且つz<導体の円周の長さ+重ね代yの閾値+1とされ、前記粘着層の反対側となる背面に対する粘着力cがc≧3.2N/19mmとされた絶縁テープを用意する第2工程と、前記第2工程において用意された前記絶縁テープを、前記粘着層が前記第1工程において用意された前記導体側となるように、且つ、前記重ね代yがy≧1.5099ln(x)-0.4959mmとなるように螺旋状に巻き付ける第3工程と、を備える。