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特開2024-101638モータユニット及びそれを備えた電動コンプレッサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101638
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】モータユニット及びそれを備えた電動コンプレッサ
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/18 20060101AFI20240723BHJP
   H02P 25/22 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H02P25/18
H02P25/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005651
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】柏原 辰樹
(72)【発明者】
【氏名】荒木 雄志
(72)【発明者】
【氏名】町田 尊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝次
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA06
5H505BB10
5H505CC04
5H505EE35
5H505EE55
5H505HA06
5H505HA10
5H505HB01
5H505LL01
5H505LL24
5H505MM16
(57)【要約】
【課題】低コスト、省スペースで、入力電圧のワイドレンジ化に対応可能なモータユニットを提供する。
【解決手段】モータユニット1は、三相の第1の巻線37及び第2の巻線38が巻装されたステータを有するモータ8を備える。各相の第1の巻線37は、各相のハーフブリッジ回路19U~19Wの中性点にそれぞれ接続され、各相の第2の巻線38は、切換用スイッチング素子18G~18Iを介してハーフブリッジ回路の中性点に接続される。制御装置21は、切換用スイッチング素子18G~18IをOFFし、第1の巻線37によりモータ8を駆動する第1の駆動状態と、ONして第2の巻線38を第1の巻線37に並列に接続し、モータ8を駆動する第2の駆動状態を切り換えて実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相の第1の巻線及び第2の巻線が巻装されたステータを有するモータと、
上下アームスイッチング素子が直列接続された三相のハーフブリッジ回路の中性点における相電圧を三相交流出力として前記モータに印加するインバータ回路と、
該インバータ回路の前記各相の上下アームスイッチング素子をスイッチング制御する制御装置を備え、
各相の前記第1の巻線は、各相の前記ハーフブリッジ回路の中性点にそれぞれ接続されると共に、
各相の前記第2の巻線は、それぞれ切換用スイッチング素子を介して各相の前記ハーフブリッジ回路の中性点に接続され、
前記制御装置は、
前記切換用スイッチング素子をOFFし、前記第1の巻線により前記モータを駆動する第1の駆動状態と、
前記切換用スイッチング素子をONすることで、前記第2の巻線を前記第1の巻線に並列に接続し、前記モータを駆動する第2の駆動状態を切り換えて実行することを特徴とするモータユニット。
【請求項2】
前記制御装置は、
入力電圧が所定値より高い場合、若しくは、前記所定値以上である場合、前記切換用スイッチング素子をOFFすると共に、
入力電圧が前記所定値以下の場合、若しくは、前記所定値より低い場合、前記切換用スイッチング素子をONすることを特徴とする請求項1に記載のモータユニット。
【請求項3】
前記第1の巻線の巻数は、入力電圧が前記所定値より高いとき、若しくは、前記所定値以上であるときに、制御上最小のモータ電流で要求駆動点を満足する値とされ、前記第2の巻線の巻数は、入力電圧が前記所定値以下のとき、若しくは、前記所定値より低いときに、制御上最小のモータ電流で要求駆動点を満足する値とされていることを特徴とする請求項2に記載のモータユニット。
【請求項4】
前記第1の巻線の巻数は、前記第2の巻線の巻数より多いことを特徴とする請求項1に記載のモータユニット。
【請求項5】
前記第1及び第2の巻線の巻数は、同一の入力電圧が印加された場合に、前記第2の巻線に流れる電流が、前記第1の巻線に流れる電流よりも大きくなる値に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のモータユニット。
【請求項6】
前記第1の巻線の発電定数は、前記第2の巻線の発電定数より大きいことを特徴とする請求項1に記載のモータユニット。
【請求項7】
前記制御装置は、前記モータが停止している状態で、前記切換用スイッチング素子をON/OFFすることを特徴とする請求項1に記載のモータユニット。
【請求項8】
前記切換用スイッチング素子と前記上アームスイッチング素子は、制御電極電圧値が同じスイッチング素子であることを特徴とする請求項1に記載のモータユニット。
【請求項9】
前記第1の巻線と前記第2の巻線は、前記ステータのティースに共通巻きされていることを特徴とする請求項1に記載のモータユニット。
【請求項10】
ハウジング内に前記モータと該モータにより駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構を備え、
前記上下アームスイッチング素子が、前記ハウジング内に吸入される冷媒と熱交換関係に配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項9のうちの何れかに記載のモータユニットを備えた電動コンプレッサ。
【請求項11】
ハウジング内に前記モータと該モータにより駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構を備え、
前記上下アームスイッチング素子及び前記切換用スイッチング素子が、前記ハウジング内に吸入される冷媒と熱交換関係に配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項9のうちの何れかに記載のモータユニットを備えた電動コンプレッサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ回路により三相交流出力をモータに印加して駆動するモータユニット及びそれを備えた電動コンプレッサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インバータで駆動されるモータは、入力電圧が低下した場合、回転数が高くなると出力可能トルクが低下するが、ハウジング内に収納されたモータにより圧縮機構を駆動する電動コンプレッサでは、従来入力電圧の要求範囲は広くなかった。
【0003】
しかしながら、近年電動コンプレッサでも入力電圧の変化に対する駆動可能領域の要求が厳しくなってきている。ここで、一般的なインバータでは入力電圧とモータの特性(主に発電定数)によって出力可能な駆動領域が変化する。
【0004】
例えば、ステータ巻線の巻数が多く、発電定数が大きいモータでは、低い電流値で大きなトルクを出すことができるものの、回転数が高くなると発電電圧が逆起電圧となって電流を流せなくなる。即ち、高速領域で駆動することができなくなる。そこで、従来では高速領域での駆動を可能とするために、弱め磁束制御を用いて大電流をモータに流すことで、発電定数を見かけ上小さくする対策が行われていた。そのため、係るモータでは低速領域では効率が良いものの、高速領域では効率が悪くなる。また、弱め磁束制御の効果がある領域は限られるため、入力電圧が下がりすぎると、弱め磁束を利用しても高速領域でトルクを出すことができなくなる。
【0005】
一方、ステータ巻線の巻数が少なく、発電定数が小さいモータでは、大きなトルクを出すために大きな電流を流す必要があるものの、発電電圧が小さいために高速駆動が可能となる。そのため、係るモータでは低速領域で効率が悪くなるものの、高速領域では効率が良くなる。
【0006】
そこで、広い運転範囲において高効率にモータを駆動する方策として、運転領域に合わせてモータの巻線を切り換えるものや(例えば、特許文献1、特許文献2参照)、運転領域に合わせてインバータの構成を切り換えるものが開発されてきた(例えば、特許文献3参照)。また、より一般的な方策としては、インバータの前段に昇圧コンバータを配置するものがあった(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3948009号公報
【特許文献2】特開2019-187025号公報
【特許文献3】特開2006-149153号公報
【特許文献4】特許第5925526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、ステータ巻線の発電定数が大きい/小さいは、入力電圧に対して相対的なものであるため、運転条件が同じでも入力電圧が大きく変化すると上記特許文献1~3のような方策が必要となる。
【0009】
これについて、図5図9のグラフを用いてより具体的に説明する。図5図6図8図9はインバータで駆動されるモータのNT特性を示しており、横軸は回転数[rpm]、縦軸はトルク[Nm]である。各図中の黒丸は回転数の値に対してモータに要求されるトルクの値(要求駆動点)であり、モータはこの要求駆動点より高いトルクの出力が求められ、それを満たすことができるか否かで能力を評価することができる。尚、縦軸の縮尺を明瞭にするために、要求駆動点の最大トルク値を、描画する最大のトルク値として制限している。即ち、実際には要求駆動点の最大トルク値よりも高いトルクを出力可能な場合であっても、出力可能なトルクが要求駆動点の最大トルク値であるように制限している。
【0010】
図5はステータ巻線の巻数が多く、発電定数が大きい高電圧用のモータの場合であり、図中実線は通常の入力電圧のとき、点線は入力電圧が低下したときのNT特性を示している。この場合のモータでは、通常の入力電圧のときは駆動範囲(回転数)の全てで要求駆動点よりも高いトルクを出力できており、要求駆動点を満たすことができている(実線)。しかしながら、入力電圧が低下した場合、回転数が高い領域では要求駆動点よりも出力可能なトルクが低くなっていることが分かる(点線)。
【0011】
このような場合、一般的にはモータの特性を変更することで、駆動範囲を調整する。ここで、図6にステータ巻線の巻数が少なく、発電定数が小さい低電圧用のモータの特性を示す。この図においても実線は通常の入力電圧のとき、点線は入力電圧が低下したときのNT特性を示している。このようなモータであれば、通常の入力電圧の場合と、入力電圧が低下した場合の双方において、駆動範囲(回転数)の全てで要求駆動点を満たすことができることが分かる(実線と点線)。
【0012】
但し、図6に示したNT特性は、モータ電流の大きさを制限しておらず、無限に電流を流すことができた場合であり、実際にはステータ巻線及びインバータのスイッチング素子は電流が大きくなると損失と発熱が大きくなる。特に、損失は電流の二乗で増加するため、大電流を流した場合、発熱が急増し、ステータ巻線やスイッチング素子が破壊する恐れがある。そのため、実際のモータでは流すことができる電流の大きさに制限がある。
【0013】
図7にモータの回転数[rpm]に対するモータ電流の許容値(電流許容値)[A]の関係の一例を示す。この例は電動コンプレッサの圧縮機構を駆動するモータの場合を示している。電動コンプレッサのインバータ駆動モータの場合、ステータ巻線及びスイッチング素子は電動コンプレッサの吸入冷媒と熱交換関係に配置されるため、低温の冷媒によって冷却される。そのため、電動コンプレッサの回転数(モータの回転数)が低くなると、冷却特性が悪くなり、電流許容値は低くなる。
【0014】
また、図中の実線は通常の入力電圧の場合、点線は入力電圧が低下した場合を示している。入力電圧が高いほど、スイッチング素子の損失が増加するため、入力電圧の大きさにより電流許容値は変化し、入力電圧が低い方が(点線)多くの電流を流すことができる。
【0015】
このような電流制限(電流許容値)を考慮した場合のNT特性を図8図9に示す。図8はステータ巻線の巻数が多く、発電定数が大きい高電圧用のモータの場合、図9はステータ巻線の巻数が少なく、発電定数が小さい低電圧用のモータの場合であり、各図中の黒丸は図5図6と同様の要求駆動点、実線は通常の入力電圧のとき、点線は入力電圧が低下したときである。
【0016】
図8図9から分かるように、ステータ巻線の巻数が多く、発電定数が大きい高電圧用のモータの場合は、通常の入力電圧のときに低速高負荷領域での駆動が可能であるが、入力電圧が低下したときは、高速高負荷領域での駆動ができなくなる。一方、ステータ巻線の巻数が少なく、発電定数が小さい低電圧用のモータの場合は、入力電圧が低下したときにも高速高負荷領域での駆動が可能であるが、通常の入力電圧のときに低速高負荷領域での駆動ができなくなる。このように、入力電圧が変動した場合、一つのステータ巻線で全ての運転領域を満たすことが難しい。
【0017】
しかしながら、例えば電動コンプレッサの場合は、コストとサイズに制限があるため、前述した何れの方策もコストとスペースの面で採用することが難しい。その理由は、前記特許文献1ではステータ巻線の切換のためにスイッチング素子(IGBT)を2個、ダイオードを16個増設しなければならない。また、特許文献2や特許文献3ではスイッチング素子(IGBT)を6個、場合によっては電磁リレーを2個増設する必要があるからである。
【0018】
また、特に電動コンプレッサは小型化が求められるため、特許文献4のように昇圧コンバータを設けることは困難である。更に、特許文献2では巻線を切り換えるためのスイッチング素子(IGBT)のエミッタ電位がモータの中性点電位であるため、インバータのスイッチング素子(IGBT)のゲート駆動用とは別のゲート駆動用電源を作る必要があり、このこともコスト高騰の要因となる。
【0019】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するためになされたものであり、低コスト、省スペースで、入力電圧のワイドレンジ化に対応可能なモータユニット及びそれを備えた電動コンプレッサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のモータユニットは、三相の第1の巻線及び第2の巻線が巻装されたステータを有するモータと、上下アームスイッチング素子が直列接続された三相のハーフブリッジ回路の中性点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、このインバータ回路の各相の上下アームスイッチング素子をスイッチング制御する制御装置を備え、各相の第1の巻線は、各相のハーフブリッジ回路の中性点にそれぞれ接続されると共に、各相の第2の巻線は、それぞれ切換用スイッチング素子を介して各相のハーフブリッジ回路の中性点に接続され、制御装置は、切換用スイッチング素子をOFFし、第1の巻線によりモータを駆動する第1の駆動状態と、切換用スイッチング素子をONすることで、第2の巻線を第1の巻線に並列に接続し、モータを駆動する第2の駆動状態を切り換えて実行することを特徴とする。
【0021】
請求項2の発明のモータユニットは、上記発明において制御装置は、入力電圧が所定値より高い場合、若しくは、所定値以上である場合、切換用スイッチング素子をOFFすると共に、入力電圧が所定値以下の場合、若しくは、所定値より低い場合、切換用スイッチング素子をONすることを特徴とする。
【0022】
請求項3の発明のモータユニットは、上記発明において第1の巻線の巻数は、入力電圧が所定値より高いとき、若しくは、所定値以上であるときに、制御上最小のモータ電流で要求駆動点を満足する値とされ、第2の巻線の巻数は、入力電圧が所定値以下のとき、若しくは、所定値より低いときに、制御上最小のモータ電流で要求駆動点を満足する値とされていることを特徴とする。
【0023】
請求項4の発明のモータユニットは、請求項1の発明において第1の巻線の巻数は、第2の巻線の巻数より多いことを特徴とする。
【0024】
請求項5の発明のモータユニットは、請求項1の発明において第1及び第2の巻線の巻数は、同一の入力電圧が印加された場合に、第2の巻線に流れる電流が、第1の巻線に流れる電流よりも大きくなる値に設定されていることを特徴とする。
【0025】
請求項6の発明のモータユニットは、請求項1の発明において第1の巻線の発電定数は、第2の巻線の発電定数より大きいことを特徴とする。
【0026】
請求項7の発明のモータユニットは、請求項1の発明において制御装置は、モータが停止している状態で、切換用スイッチング素子をON/OFFすることを特徴とする。
【0027】
請求項8の発明のモータユニットは、請求項1の発明において切換用スイッチング素子と上アームスイッチング素子は、制御電極電圧値が同じスイッチング素子であることを特徴とする。
【0028】
請求項9の発明のモータユニットは、請求項1の発明において第1の巻線と第2の巻線は、ステータのティースに共通巻きされていることを特徴とする。
【0029】
請求項10の発明の電動コンプレッサは、上記各発明のモータユニットを備え、ハウジング内にモータとこのモータにより駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構が設けられ、上下アームスイッチング素子が、ハウジング内に吸入される冷媒と熱交換関係に配置されていることを特徴とする。
【0030】
請求項11の発明の電動コンプレッサは、請求項1乃至請求項9の発明のモータユニットを備え、ハウジング内にモータとこのモータにより駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構が設けられ、上下アームスイッチング素子及び切換用スイッチング素子が、ハウジング内に吸入される冷媒と熱交換関係に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明のモータユニットは、三相の第1の巻線及び第2の巻線が巻装されたステータを有するモータと、上下アームスイッチング素子が直列接続された三相のハーフブリッジ回路の中性点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、このインバータ回路の各相の上下アームスイッチング素子をスイッチング制御する制御装置を備えており、各相の第1の巻線を、各相のハーフブリッジ回路の中性点にそれぞれ接続すると共に、各相の第2の巻線を、それぞれ切換用スイッチング素子を介して各相のハーフブリッジ回路の中性点に接続し、制御装置により、切換用スイッチング素子をOFFし、第1の巻線によりモータを駆動する第1の駆動状態と、切換用スイッチング素子をONすることで、第2の巻線を第1の巻線に並列に接続し、モータを駆動する第2の駆動状態を切り換えて実行するようにしたので、三つの切換用スイッチング素子により、モータの第1の駆動状態と第2の駆動状態を切り換えることができるようになり、モータの巻線切換を低コスト、省スペースで実現することが可能となる。この場合、リレーでは無くスイッチング素子で巻線切換を行うので、更なるコストの削減と小型化を実現することができる。
【0032】
更に、請求項2の発明の如く制御装置によって、例えば入力電圧が所定値より高い場合、若しくは、所定値以上である場合、切換用スイッチング素子をOFFすると共に、入力電圧が所定値以下の場合、若しくは、所定値より低い場合、切換用スイッチング素子をONすることにより、入力電圧のワイドレンジ化に対応可能となる。
【0033】
この場合、請求項3の発明の如く第1の巻線の巻数を、入力電圧が所定値より高いとき、若しくは、所定値以上であるときに、制御上最小のモータ電流で要求駆動点を満足する値とし、第2の巻線の巻数を、入力電圧が所定値以下のとき、若しくは、所定値より低いときに、制御上最小のモータ電流で要求駆動点を満足する値とすることで、所定値より高い若しくは所定値以上の通常の入力電圧のときには、第1の駆動状態として第1の巻線により、電流許容値をクリアしながら駆動領域(回転数)の全てで要求駆動点を満足し、入力電圧が低下して所定値以下若しくは所定値より低くなったときには、第2の駆動状態として第2の巻線により、電流許容値をクリアしながら駆動領域の全てで要求駆動点を満足することが可能となる。
【0034】
この第2の駆動状態でも第1の巻線は回路から切り離されないが、第1の巻線の巻数は、通常の入力電圧のときに制御上最小のモータ電流で要求駆動点を満足する値であるので、入力電圧が低下したときには、発電電圧の関係で第1の巻線に流れる電流値は小さくなる。従って、実質的にモータは第2の巻線で駆動されることになる。
【0035】
また、請求項4の発明の如く第1の巻線の巻数を、第2の巻線の巻数より多くし、或いは、請求項5の発明の如く、第1及び第2の巻線の巻数を、同一の入力電圧が印加された場合に、第2の巻線に流れる電流が、第1の巻線に流れる電流よりも大きくなる値に設定することにより、若しくは、請求項6の発明の如く第2の巻線よりも発電定数が大きい第1の巻線を採用することによっても、例えば前述した如く通常の入力電圧では第1の駆動状態とし、入力電圧が低下したときに第2の駆動状態に切り換えることにより、入力電圧のワイドレンジ化に対応することが可能である。
【0036】
即ち、請求項4の発明では、通常の入力電圧では第1の駆動状態として巻数の多い第1の巻線により、電流許容値をクリアしながら駆動領域(回転数)の全てで要求駆動点を満足し、入力電圧が低下したときには第2の駆動状態として巻数の少ない第2の巻線により、電流許容値をクリアしながら駆動領域の全てで要求駆動点を満足することが可能となるからである。
【0037】
また、請求項5の発明では、通常の入力電圧では第1の駆動状態として第1の巻線により、電流許容値をクリアしながら駆動領域(回転数)の全てで要求駆動点を満足し、入力電圧が低下したときには第2の駆動状態とし、より電流が流れ易く、正のトルクが発生し易い第2の巻線により、電流許容値をクリアしながら駆動領域の全てで要求駆動点を満足することが可能となるからである。
【0038】
更に、請求項6の発明では、通常の入力電圧では第1の駆動状態として発電定数が大きい第1の巻線により、電流許容値をクリアしながら駆動領域(回転数)の全てで要求駆動点を満足し、入力電圧が低下したときには第2の駆動状態として発電定数が小さい第2の巻線により、電流許容値をクリアしながら駆動領域の全てで要求駆動点を満足することが可能となるからである。
【0039】
上記請求項4~6の発明においても、第2の駆動状態では第1の巻線が回路から切り離されないが、請求項4の発明では第1の巻線の巻数が第2の巻線より多く、請求項5の発明では第2の巻線の方が電流が流れ易く、請求項6の発明では第1の巻線の発電定数が第2の巻線より大きいので、例えば入力電圧が低下したときに第2の駆動状態とすることにより、第1の巻線に流れる電流値は小さくなる。従って、実質的にモータは第2の巻線で駆動されることになる。
【0040】
また、請求項7の発明の如く制御装置が、モータが停止している状態で、切換用スイッチング素子をON/OFFするようにすることで、誤作動や機器の損傷を来す不都合を未然に回避することができるようになる。
【0041】
特に、本発明では切換用スイッチング素子を各相のハーフブリッジ回路の中性点に接続することになるので、請求項8の発明の如く切換用スイッチング素子と上アームスイッチング素子を、制御電極電圧値が同じスイッチング素子により構成することで、切換用スイッチング素子を上アームスイッチング素子と同様に駆動することが可能となる。これにより、切換用スイッチング素子の制御電極電圧を作るための別途の電源を準備する必要が無くなり、より一層効果的に低コスト、省スペース化を図ることができるようになる。
【0042】
更に、請求項9の発明の如く第1の巻線と第2の巻線を、ステータのティースに共通巻きすることで、モータ構造の簡素化と小型化を実現することが可能となる。
【0043】
ここで、ハウジング内にモータとそれにより駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構が設けられた電動コンプレッサの場合、前述した如く上下アームスイッチング素子はハウジング内に吸入される冷媒と熱交換関係に配置されて冷却されるように構成される。その場合、低速駆動時には冷媒流量が減るため、スイッチング素子の冷却性能が悪化し、その結果、低速高負荷時にモータに大電流を流すと、スイッチング素子の冷却が不足して、駆動ができなくなる。また、スイッチング素子の発熱(損失)は入力電圧が高い程、大きくなる。
【0044】
そのため、通常の入力電圧のときには、低速高負荷条件のときに小さい電流で駆動することができるようにステータ巻線の巻数を多くして発電定数を大きくする必要がある。
【0045】
一方、入力電圧が低下したときには、高速駆動時にモータの逆起電圧が大きくなり、電流を流せなくなってトルクが出せなくなる。弱め磁束制御を行っても、逆起電圧を低減できる量は決まっているため、入力電圧が大きく低下すると、弱め磁束制御をしてもトルクを出せなくなる。
【0046】
そのため、入力電圧が低下したときには、高速高負荷条件のときに電流が流せるようにステータ巻線の巻数を少なくして発電定数を小さくする必要がある。
【0047】
そこで、上記各発明のモータユニットを、請求項10や請求項11の発明の如くハウジング内にモータとそれにより駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構が設けられ、上下アームスイッチング素子、又は、当該上下アームスイッチング素子と切換用スイッチング素子が、ハウジング内に吸入される冷媒と熱交換関係に配置された電動コンプレッサに採用すれば、入力電圧のワイドレンジ化に極めて有効となるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明の一実施例のモータユニットの電気回路図である。
図2図1のモータユニットを備えた一実施例の電動コンプレッサの概略縦断正面図である。
図3図2の電動コンプレッサをインバータ収容部側から見たカバーと基板を除く側面図である。
図4図1のモータユニットで採用されるモータのティース部分の拡大断面図である。
図5】高電圧用モータのNT特性を説明する図である。
図6】低電圧用モータのNT特性を説明する図である。
図7】モータの回転数と電流許容値の関係を説明する図である。
図8】電流許容値を考慮した場合の高電圧用モータのNT特性を説明する図である。
図9】電流許容値を考慮した場合の低電圧用モータのNT特性を説明する図である。
図10図1のモータユニットの第2の駆動状態におけるモータのNT特性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。先ず、図2図4を参照しながら本発明のモータユニット1を備えた実施例の電動コンプレッサ(所謂インバータ一体型電動コンプレッサ)16の構造について説明する。尚、実施例の電動コンプレッサ16は、空気調和装置(エアコン)の冷媒回路の一部を構成するものである。
【0050】
(1)電動コンプレッサ16の構成
図2において、電動コンプレッサ16の金属性の筒状ハウジング2内は、当該ハウジング2の軸方向に交差する仕切壁3により圧縮機構収容部4とインバータ収容部6とに区画されており、圧縮機構収容部4内に例えばスクロール型の圧縮機構7と、この圧縮機構7を駆動するモータ8が収容されている。実施例の場合、モータ8はハウジング2に固定されたステータ9と、このステータ9の内側で回転するロータ11から成るIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である。
【0051】
仕切壁3の圧縮機構収容部4側の中心部には軸受部12が形成されており、ロータ11の駆動軸13の一端はこの軸受部12に支持され、駆動軸13の他端は圧縮機構7に連結されている。ハウジング2の圧縮機構収容部4に対応する位置の仕切壁3近傍には吸入口14が形成されており、モータ8のロータ11(駆動軸13)が回転して圧縮機構7が駆動されると、この吸入口14からハウジング2の圧縮機構収容部4内に作動流体である低温の冷媒が流入し、圧縮機構7に吸引されて圧縮される。
【0052】
そして、この圧縮機構7で圧縮され、高温・高圧となった冷媒は、図示しない吐出口よりハウジング2外の前記冷媒回路に吐出される構成とされている。また、吸入口14から流入した低温の冷媒は、仕切壁3近傍を通ってモータ8の周囲を通過し、圧縮機構7に吸引されることから、仕切壁3も冷却されることになる。
【0053】
そして、この仕切壁3で圧縮機構収容部4と区画されたインバータ収容部6内には、モータ8を駆動制御するインバータ5が収容される。このインバータ5とモータ8により、本発明のモータユニット1が構成される。この場合、インバータ5は、仕切壁3を貫通する密封端子やリード線を介してモータ8に給電する構成とされている。
【0054】
(2)インバータ5の構造(スイッチング素子18A~18F、18G~18Iの配置)
実施例の場合、インバータ5は、基板17と、この基板17の一面側に配線された上アームスイッチング素子18A、18B、18Cと、下アームスイッチング素子18D、18E、18Fの計6個のスイッチング素子から成るインバータ回路28と、同じく基板17の一面側に配線された切換用スイッチング素子18G、18H、18Iの計3個のスイッチング素子から成る切換回路30と、基板17の他面側に配線された制御装置21と、図示しないHVコネクタ、LVコネクタ等から構成されている(図2では一部のスイッチング素子を省略)。
【0055】
各上下アームスイッチング素子18A~18F、及び、切換用スイッチング素子18G~18Iは、実施例ではMOS構造をゲート部に組み込んだ絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等の半導体パワースイッチング素子から構成されている。特に、上アームスイッチング素子18A~18Cと、切換用スイッチング素子18G~18Iとしては、制御電極電圧値(ゲート電圧値:ONとOFFの電圧の値)が同じものが使用される。実施例では全てのスイッチング素子18A~18Iとして同一のIGBTを用いる。
【0056】
この場合、実施例では三相のインバータ回路28のU相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18D、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18E、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fは二つずつそれぞれ並んだかたちとされ、この並んだ一組の上下アームスイッチング素子18A及び18D、上下アームスイッチング素子18B及び18E、上下アームスイッチング素子18C及び18Fが、図3に示す如く基板17の中心(駆動軸13の位置。ハウジング2の軸)の周囲に放射状に配置されている。
【0057】
また、切換回路30の切換用スイッチング素子18G~18Iは、図3に示す如く基板17の各スイッチング素子18A~18Fが設けられた箇所以外の箇所に配置されている。
【0058】
また、実施例ではU相ハーフブリッジ回路19Uの上下アームスイッチング素子18A及び18Dが吸入口14側に位置しており、それに対して図3における反時計回り90°の位置にV相ハーフブリッジ回路19Vの上下アームスイッチング素子18B及び18Eが配置され、基板17の中心に対して吸入口14とは反対側の位置にW相ハーフブリッジ回路19Wの上下アームスイッチング素子18C及び18Fが配置されたかたちとされている。
【0059】
また、実施例では切換用スイッチング素子18G~18Iは、基板17の中心に対してV相ハーフブリッジ回路19Vの上下アームスイッチング素子18B及び18Eとは反対側に配置されている。
【0060】
そして、吸入口14から吸入された冷媒は、図3中破線矢印の如くハウジング2の軸を中心として反時計回りに回転する。そのため、吸入冷媒の流れに対してインバータ回路28のU相ハーフブリッジ回路19Uの上下アームスイッチング素子18A及び18Dが最も上流側(電動コンプレッサ16で最も低温となる箇所)に位置し、その下流側にV相ハーフブリッジ回路19Vの上下アームスイッチング素子18B及び18Eが位置し、その下流側にW相ハーフブリッジ回路19Wのスイッチング素子18C及び18Fが位置し、最も下流側に切換回路30の切換用スイッチング素子18G~18Iが配置されたかたちとなる。
【0061】
また、各スイッチング素子18A~18Iの端子部22は、基板17の中心側となった状態で基板17に接続されている。そして、このように組み立てられたインバータ5は、各スイッチング素子18A~18Iがある一面側が仕切壁3側となった状態でインバータ収容部6内に収容されて仕切壁3に取り付けられ、カバー23にて塞がれる。この場合、基板17は仕切壁3から起立するボス部24を介して仕切壁3に固定されることになる。
【0062】
このようにインバータ5が仕切壁3に取り付けられた状態で、各スイッチング素子18A~18Iは仕切壁3に直接若しくは所定の絶縁熱伝導材を介して密着し、ハウジング2の仕切壁3と熱交換関係となる。このとき、各スイッチング素子18A~18Iは軸受12及び駆動軸13に対応する箇所を避けた位置に配置され、その周囲を囲繞するかたちで配置される(図3)。
【0063】
そして、前述した如く仕切壁3は圧縮機構収容部4内に吸入される冷媒によって冷やされているので、各スイッチング素子18A~18Iは仕切壁3を介して吸入冷媒と熱交換関係となり、仕切壁3の厚みを介して圧縮機構収容部4内に吸入された冷媒によって冷却され、各スイッチング素子18A~18I自体は仕切壁3を介して冷媒に放熱するかたちとなる。
【0064】
(3)モータ8の巻線構造
次に、モータ8のステータ9の巻線構造について説明する。図4は実施例のモータユニット1で採用されるモータ8のティース33の部分の拡大断面図を示している。ステータ9のティース33には、絶縁フィルム34やインシュレータ36を介して三相の第1の巻線37(ステータ巻線)と、三相の第2の巻線38(ステータ巻線)が共通巻きにて巻装されている。この場合、実施例では図4に示す如く、第2の巻線38が第1の巻線37よりティース33の先端側に配置されている(第2の巻線38をハッチングで示す)。ここで、図4に示した第1の巻線37と第2の巻線38の配置は、それに限らず、図示は省略するが、例えば第1の巻線37が内側、第2の巻線38が外側となるように巻いて良く、二つの巻線37、38を重ねて巻いても良い。
【0065】
(4)ステータ9の第1の巻線37と第2の巻線38
この場合、第1の巻線37の巻数は第2の巻線38の巻数よりも多くする。これにより、第1の巻線37の発電定数は、第2の巻線38の発電定数より大きくなる。また、同一の入力電圧Vdcが印加された場合に、第2の巻線38に流れる電流は、第1の巻線37に流れる電流よりも大きくなる。
【0066】
また、第1の巻線37は通常の入力電圧(高電圧)用、第2の巻線38は入力電圧が低下した低入力電圧(低電圧)用であり、入力電圧Vdcが変動した場合に想定される最大電圧時で第1の巻線37の巻数を設定し、最低電圧時で第2の巻線38の巻数を設定する。それにより、第1の巻線37の巻数は、後述する入力電圧Vdcが所定値V1より高いとき、若しくは、所定値V1以上であるときに、制御上最小のモータ電流で要求駆動点を満足する値とし、第2の巻線38の巻数は、入力電圧Vdcが所定値V1以下のとき、若しくは、所定値V1より低いときに、制御上最小のモータ電流で要求駆動点を満足する値とする。
【0067】
(5)モータユニット1の回路構成
次に、図1においてモータユニット1は、前述した如くインバータ5とモータ8から構成され、インバータ5は、前述した如く三相のインバータ回路28と、切換回路30と、制御装置21を備えている。インバータ回路28は、直流電源(バッテリ:例えば、350V)29の直流電圧(インバータ5の入力電圧Vdc)を三相交流電圧(三相交流出力:インバータ5の出力電圧)に変換してモータ8に印加する回路である。
【0068】
このインバータ回路28は、U相ハーフブリッジ回路19U、V相ハーフブリッジ回路19V、W相ハーフブリッジ回路19Wを有しており、各相ハーフブリッジ回路19U~19Wは、それぞれ上アームスイッチング素子18A~18Cと、下アームスイッチング素子18D~18Fを個別に有している。更に、各スイッチング素子18A~18Fには、それぞれフライホイールダイオード31が逆並列に接続されている。
【0069】
そして、インバータ回路28の上アームスイッチング素子18A~18Cの上端側(IGBTのコレクタ)は、直流電源29の上アーム電源ライン(正極側母線)10に接続されている。一方、インバータ回路28の下アームスイッチング素子18D~18Fの下端側(IGBTのエミッタ)は、直流電源29の下アーム電源ライン(負極側母線)15に接続されている。
【0070】
この場合、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dが直列に接続され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eが直列に接続され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fが直列に接続されている。
【0071】
そして、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点である中性点(U相電圧Vu)は、モータ8の第1の巻線37のU相の電機子コイル41に接続され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点である中性点(V相電圧Vv)は、モータ8の第1の巻線37のV相の電機子コイル42に接続され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点である中性点(W相電圧Vw)は、モータ8の第1の巻線37のW相の電機子コイル43に接続されている。
【0072】
一方、モータ8の第2の巻線38は前述した切換回路30の切換用スイッチング素子18G~18Iを介してインバータ回路28に接続される。この場合、モータ8の第2の巻線38のU相の電機子コイル46は、切換用スイッチング素子18Gを介してU相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点である中性点(U相電圧Vu)に接続され、モータ8の第2の巻線38のV相の電機子コイル47は、切換用スイッチング素子18Hを介してV相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点である中性点(V相電圧Vv)に接続され、モータ8の第2の巻線38のW相の電機子コイル48は、切換用スイッチング素子18Iを介してW相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点である中性点(W相電圧Vw)に接続されている。
【0073】
また、切換用スイッチング素子18Gの上端側(IGBTのコレクタ)が電機子コイル46に接続され、下端側(IGBTのエミッタ)がU相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点である中性点に接続され、切換用スイッチング素子18Hの上端側(IGBTのコレクタ)が電機子コイル47に接続され、下端側(IGBTのエミッタ)がV相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点である中性点に接続され、切換用スイッチング素子18Iの上端側(IGBTのコレクタ)が電機子コイル48に接続され、下端側(IGBTのエミッタ)がW相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点である中性点に接続されている。尚、各切換用スイッチング素子18G~18Iにも、それぞれフライホイールダイオード31が逆並列に接続されている。
【0074】
(6)制御装置21の構成
次に、制御装置21はプロセッサを有するマイクロコンピュータから構成されており、回転数指令値と、モータ8から入力するモータ電流(相電流)に基づき、インバータ回路28の各上下アームスイッチング素子18A~18FのON/OFF状態(スイッチング)を制御すると共に、各切換用スイッチング素子18G~18IのON/OFF状態(スイッチングも制御する。具体的には、各スイッチング素子18A~18Iの制御電極(IGBTのゲート)に印加する制御電極電圧(ゲート電圧)を制御する。
【0075】
制御装置21は、モータ8の電気角、電流指令値と相電流から得られる界磁制御効果のあるd軸電流、トルク制御効果のあるq軸電流に基づくベクトル制御により、モータ8の第1の巻線37や第2の巻線38の各相の電機子コイル41~43、46~48に印加するU相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwを生成するための三相変調電圧指令値を演算し、生成する。この三相変調電圧指令値とは、モータ8の三相変調制御を行う場合における電圧指令値である。また、上記の如く主にトルク制御効果があるのはq軸電流であるため、制御装置21はトルクを出力するためにq軸電流を流すように電圧制御を行う。
【0076】
そして、制御装置21は上記三相変調電圧指令値とキャリア信号との大小を比較することによって、インバータ回路28のU相ハーフブリッジ回路19U、V相ハーフブリッジ回路19V、W相ハーフブリッジ回路19Wの駆動指令信号となるPWM信号を生成し、出力する。
【0077】
更に、制御装置21は上記PWM信号に基づき、U相ハーフブリッジ回路19Uのスイッチング素子18A、18Dの制御電極電圧(ゲート電圧)と、V相ハーフブリッジ回路19Vのスイッチング素子18B、18Eの制御電極電圧(ゲート電圧)と、W相ハーフブリッジ回路19Wのスイッチング素子18C、18Fの制御電極電圧(ゲート電圧)を発生させる。
【0078】
そして、インバータ回路28の各上下アームスイッチング素子18A~18Fは、制御装置21から出力される制御電極電圧(ゲート電圧)に基づき、ON/OFF駆動される。即ち、制御電極電圧(ゲート電圧)がONの電圧の値(所定の電圧値)となるとスイッチング素子がON動作し、制御電極電圧(ゲート電圧)がOFFの電圧の値(零)となるとスイッチング素子がOFF動作する。
【0079】
そして、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点である中性点の電圧がU相電圧Vu(相電圧)としてモータ8の第1の巻線37のU相の電機子コイル41に印加され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点である中性点の電圧がV相電圧Vv(相電圧)としてモータ8の第1の巻線37のV相の電機子コイル42に印加され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点である中性点の電圧がW相電圧Vw(相電圧)としてモータ8の第1の巻線37のW相の電機子コイル43に印加される。
【0080】
更に、各切換用スイッチング素子18G~18Iも、制御装置21から出力される制御電極電圧(ゲート電圧)に基づき、ON/OFFされる。即ち、制御電極電圧(ゲート電圧)がONの電圧の値(所定の電圧値)となると各切換用スイッチング素子18G~18IがONし、制御電極電圧(ゲート電圧)がOFFの電圧の値(零)となると各切換用スイッチング素子18G~18IがOFFする。
【0081】
尚、制御装置21はモータ8が停止しているときに、各切換用スイッチング素子18G~18Iを同時にON/OFFする。切換用スイッチング素子18G~18IがONされると、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点である中性点の電圧がU相電圧Vu(相電圧)としてモータ8の第2の巻線38のU相の電機子コイル46に印加され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点である中性点の電圧がV相電圧Vv(相電圧)としてモータ8の第2の巻線38のV相の電機子コイル47に印加され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点である中性点の電圧がW相電圧Vw(相電圧)としてモータ8の第2の巻線38のW相の電機子コイル48に印加される。
【0082】
即ち、切換用スイッチング素子18G~18IがONされると、第2の巻線38のUVW相の電機子コイル46~47は、第1の巻線37のUVW各相の電機子コイル41~43に対してそれぞれ並列に接続されたかたちとなる。これを以下、第2の駆動状態とする。また、切換用スイッチング素子18G~18IがOFFされると、第2の巻線38は電気回路から切り離されたかたちとなる。これを以下、第1の駆動状態とする。
【0083】
(7)制御装置21の動作
次に、図1図8図10を参照しながら、制御装置21の動作について説明する。制御装置21は前述した如くインバータ回路28の各上下アームスイッチング素子18A~18FをON/OFF(スイッチング)して、UVWの各相電圧Vu、Vv、Vwを生成し、モータ8に印加するが、制御装置21には直流電源29の直流電圧(入力電圧Vdc)に関する情報が入力されており、制御装置21はこの入力電圧Vdcの大きさに基づいて、各切換用スイッチング素子18G~18IのOFFとONを切り換えることにより、モータ8を前述した第1の駆動状態と第2の駆動状態に切り換える。
【0084】
(7-1)第1の駆動状態(V1<Vdc、若しくは、V1≦Vdc)
この場合、制御装置21は実施例では入力電圧Vdcが所定値V1より高いとき(V1<Vdc)、若しくは、所定値V1以上であるとき(V1≦Vdc)、切換用スイッチング素子18G~18Iを三相同時にOFFしてモータ8を第1の駆動状態とする。前述した如く、切換用スイッチング素子18G~18IのOFFは、モータ8が停止しているときに行う。
【0085】
ここで、入力電圧Vdcが所定値V1より高いとき(V1<Vdc)、若しくは、所定値V1以上であるとき(V1≦Vdc)とは、入力電圧Vdcが通常の入力電圧である場合を云う。即ち、入力電圧Vdcが通常の電圧であるとき、切換用スイッチング素子18G~18IがOFFされると、前述した如く第2の巻線38は電気回路から切り離されるので、インバータ回路28から出力される相電圧Vu、Vv、Vwはモータ8の第1の巻線37のみに印加される。
【0086】
このときのモータ8のNT特性は前述した図8に示した通りである。前述した如く第1の巻線37の巻数は、入力電圧Vdcが所定値V1より高いとき、若しくは、所定値V1以上であるときに、制御上最小のモータ電流で要求駆動点を満足する値とされている。そして、この場合入力電圧Vdcは通常の入力電圧であるので(図8の実線)、駆動範囲(回転数)の全てで要求駆動点よりも高いトルクを出力でき、要求駆動点を満たすことができる。
【0087】
(7-2)第2の駆動状態(Vdc≦V1、若しくは、Vdc<V1)
一方、入力電圧Vdcが低下して所定値V1以下になったとき(Vdc≦V1)、若しくは、所定値V1より低くなったとき(Vdc<V1)、切換用スイッチング素子18G~18Iを三相同時にONしてモータ8を第2の駆動状態とする。同様に切換用スイッチング素子18G~18IのONは、モータ8が停止しているときに行う。
【0088】
ここで、入力電圧Vdcが所定値V1以下のとき(Vdc≦V1)、若しくは、所定値V1より低いとき(Vdc<V1)とは、入力電圧Vdcが通常より低い入力電圧である場合を云う。即ち、入力電圧Vdcが通常より低い電圧であるとき、切換用スイッチング素子18G~18IがONされると、前述した如く第2の巻線38が第1の巻線37に対して並列に接続された状態になるので、インバータ回路28から出力される相電圧Vu、Vv、Vwはモータ8の第2の巻線38と第1の巻線37に印加されるようになる。
【0089】
ここで、前述した如く第2の巻線38は第1の巻線37よりも巻数が少なく、第2の巻線38の発電定数は第1の巻線38の発電定数より小さい。また、第2の巻線38は第1の巻線37よりも電流が流れ易いので、インバータ回路28から出力された電流の大部分が第2の巻線38に流れるようになり、実質的にモータ8は第2の巻線38で駆動されるようになる。
【0090】
この場合のモータ8のNT特性を図10に示す。前述した如く第2の巻線38の巻数は、入力電圧Vdcが所定値V1以下のとき、若しくは、所定値V1より低いときに、制御上最小のモータ電流で要求駆動点を満足する値とされている。そして、この場合入力電圧Vdcは通常の入力電圧よりも低下しているので(図10の実線)、駆動範囲(回転数)の全てで要求駆動点よりも高いトルクを出力でき、要求駆動点を満たすことができる。
【0091】
尚、前述した如く上アームスイッチング素子18A~18Cと、切換用スイッチング素子18G~18Iは、制御電極電圧値(ゲート電圧値:ONとOFFの電圧の値)が同じものが使用されている。そして、上アームスイッチング素子18A~18Cのエミッタと、切換用スイッチング素子18G~18Iのエミッタは、各相のハーフブリッジ回路19U~19Wの中性点に接続されているので、同様の一般的で安価なブートストラップ回路により、それらの制御電極電圧(ゲート電圧)を生成してON/OFFすることができる。
【0092】
また、この第2の駆動状態でも第1の巻線37には電流が流れるので、損失が生じるが、発電電圧の関係で第1の巻線37に流れる電流値は極めて小さくなる(設定によっては殆ど流れなくすることも可能)。更に、設定によっては第1の巻線37に負のトルクが発生する場合もあるが、第2の巻線38が発生する正のトルクと比較して小さくなる。従って、特に電動コンプレッサの場合等では殆ど問題は生じない。第1の巻線37とインバータ回路28との間にリレーやスイッチング素子を取り付ければ、第2の巻線38で駆動する際に、第1の巻線37を電気回路から完全に切り離すことができるが、リレーやスイッチング素子の数が増加するため、コストアップとなると共に、図3に示すようにスペースが狭いため、電動コンプレッサ16で採用することは配置上難しい。
【0093】
以上詳述した如く本発明によれば、三つの切換用スイッチング素子18G~18Iにより、モータ8の第1の駆動状態と第2の駆動状態を切り換えることができるようになるので、モータ8の巻線切換を低コスト、省スペースで実現することが可能となる。この場合、リレーでは無くスイッチング素子18G~18Iで巻線切換を行うので、更なるコストの削減と小型化を実現することができる。
【0094】
更に、実施例では制御装置21によって、入力電圧Vdcが所定値V1より高い場合、若しくは、所定値V1以上である場合、切換用スイッチング素子18G~18IをOFFすると共に、入力電圧Vdcが所定値V1以下の場合、若しくは、所定値V1より低い場合、切換用スイッチング素子18G~18IをONするようにしているので、入力電圧Vdcのワイドレンジ化に対応可能となる。
【0095】
この場合、実施例では第1の巻線37の巻数を、入力電圧Vdcが所定値V1より高いとき、若しくは、所定値V1以上であるときに、制御上最小のモータ電流で要求駆動点を満足する値とし、第2の巻線38の巻数を、入力電圧Vdcが所定値V1以下のとき、若しくは、所定値V1より低いときに、制御上最小のモータ電流で要求駆動点を満足する値としているので、所定値V1より高い若しくは所定値V1以上の通常の入力電圧Vdcのときには、第1の駆動状態として第1の巻線37により、電流許容値をクリアしながら駆動領域(回転数)の全てで要求駆動点を満足し、入力電圧Vdcが低下して所定値V1以下若しくは所定値V1より低くなったときには、第2の駆動状態として第2の巻線38により、電流許容値をクリアしながら駆動領域の全てで要求駆動点を満足することが可能となる。
【0096】
また、実施例では更に第1の巻線37の巻数を、第2の巻線38の巻数より多くし、第1及び第2の巻線37、38の巻数を、同一の入力電圧Vdcが印加された場合に、第2の巻線38に流れる電流が、第1の巻線37に流れる電流よりも大きくなる値に設定し、第2の巻線38よりも発電定数が大きい第1の巻線37を採用し、通常の入力電圧Vdcでは第1の駆動状態とし、入力電圧Vdcが低下したときに第2の駆動状態に切り換えるようにしているので、効果的に入力電圧のワイドレンジ化に対応することができる。
【0097】
即ち、通常の入力電圧Vdcでは第1の駆動状態として巻数の多い第1の巻線37により、電流許容値をクリアしながら駆動領域(回転数)の全てで要求駆動点を満足し、入力電圧Vdcが低下したときには第2の駆動状態として巻数の少ない第2の巻線38により、電流許容値をクリアしながら駆動領域の全てで要求駆動点を満足することが可能となるからであり、通常の入力電圧Vdcでは第1の駆動状態として第1の巻線37により、電流許容値をクリアしながら駆動領域(回転数)の全てで要求駆動点を満足し、入力電圧Vdcが低下したときには第2の駆動状態とし、より電流が流れ易い第2の巻線38により、電流許容値をクリアしながら駆動領域の全てで要求駆動点を満足することが可能となり、通常の入力電圧Vdcでは第1の駆動状態として発電定数が大きい第1の巻線37により、電流許容値をクリアしながら駆動領域(回転数)の全てで要求駆動点を満足し、入力電圧Vdcが低下したときには第2の駆動状態として発電定数が小さい第2の巻線38により、電流許容値をクリアしながら駆動領域の全てで要求駆動点を満足することが可能となるからである。
【0098】
また、実施例では制御装置21が、モータ8が停止している状態で、切換用スイッチング素子18G~18IをON/OFFするようにしているので、誤作動や機器の損傷を来す不都合を未然に回避することができるようになる。
【0099】
特に、実施例では切換用スイッチング素子18G~18Iを各相のハーフブリッジ回路19U~19Wの中性点に接続しており、切換用スイッチング素子18G~18Iと上アームスイッチング素子18A~18Cを、制御電極電圧値が同じスイッチング素子により構成しているので、切換用スイッチング素子18G~18Iを上アームスイッチング素子18A~18Cと同様の駆動回路で動作させることが可能となる。これにより、切換用スイッチング素子18G~18Iの制御電極電圧を作るための別途の電源を準備する必要が無くなり、より一層効果的に低コスト、省スペース化を図ることができるようになる。
【0100】
更に、実施例では第1の巻線37と第2の巻線38を、ステータ9のティース33に共通巻きしているので、モータ8の構造の簡素化と小型化を実現することが可能となる。
【0101】
尚、実施例では本発明のモータユニット1を電動コンプレッサ16に適用したが、請求項1~請求項9の発明ではそれに限らず、インバータモータを備えた種々の機器について本発明は有効である。しかしながら、本発明のモータユニット1を電動コンプレッサ16に採用することで、入力電圧のワイドレンジ化に極めて有効となるものとなる。
【0102】
また、実施例では上下アームスイッチング素子18A~18F及び切換用スイッチング素子18G~18Iをハウジング2の仕切壁3と熱交換関係に配置したが、請求項1~請求項10の発明ではそれに限らず、上下アームスイッチング素子18A~18Fのみをハウジング2の仕切壁3と熱交換関係に配置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0103】
1 モータユニット
2 ハウジング
5 インバータ
7 圧縮機構
8 モータ
9 ステータ
16 電動コンプレッサ
18A~18F 上下アームスイッチング素子
18G~18I 切換用スイッチング素子
19U U相ハーフブリッジ回路
19V V相ハーフブリッジ回路
19W W相ハーフブリッジ回路
21 制御装置
28 インバータ回路
29 直流電源
30 切換回路
33 ティース
37 第1の巻線
38 第2の巻線
41~42、46~48 電機子コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10