(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101643
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】プレス金型の設計方法およびプレス金型の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/00 20060101AFI20240723BHJP
B21D 37/00 20060101ALI20240723BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B21D22/00
B21D37/00 Z
B21D22/20 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005659
(22)【出願日】2023-01-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】岸上 靖廣
【テーマコード(参考)】
4E050
4E137
【Fターム(参考)】
4E050AA11
4E137AA12
4E137AA17
4E137BA01
4E137BA02
4E137BA05
4E137BA06
4E137BB01
4E137BC01
4E137BC06
4E137CA09
4E137CB01
4E137EA01
4E137GA03
4E137GA08
4E137GB03
4E137HA08
(57)【要約】
【課題】製造コストを高価にすることなく、また構造を複雑にすることなく、プレス成形荷重を低減できるプレス金型の設計方法およびプレス金型の製造方法を得る。
【解決手段】本発明に係るプレス金型の設計方法は、基本となる実金型である基本実金型をモデル化した基本金型モデルを作成する基本金型モデル作成工程(S1)と、前記基本金型モデルによってプレス成形解析を実施し、プレス成形下死点において前記基本金型モデルに作用する面圧分布を取得する面圧分布取得工程(S3)と、前記面圧分布に基づいて面圧の高い部位を含む高面圧領域とそれ以外の低面圧領域とを特定する面圧領域特定工程(S5)と、前記基本金型モデルにおける剛性低減可能な領域を特定する剛性低減可能領域特定工程(S7)と、前記剛性低減可能領域内でかつ前記高面圧領域を含む部位について、前記基本金型モデルよりも剛性を低減した金型構造を決定する金型構造決定工程(S9)を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形荷重を低減できるプレス金型の設計方法であって、
基本となる実金型である基本実金型をモデル化した基本金型モデルを作成する基本金型モデル作成工程と、
前記基本金型モデルによってプレス成形解析を実施し、プレス成形下死点において前記基本金型モデルに作用する面圧分布を取得する面圧分布取得工程と、
前記面圧分布に基づいて面圧の高い部位を含む高面圧領域とそれ以外の低面圧領域とを特定する面圧領域特定工程と、
前記基本金型モデルにおける剛性低減可能な領域を特定する剛性低減可能領域特定工程と、
前記剛性低減可能領域内でかつ前記高面圧領域を含む部位について、前記基本金型モデルよりも剛性を低減した金型構造を決定する金型構造決定工程を含むことを特徴とするプレス金型の設計方法。
【請求項2】
前記金型構造決定工程は、リブ配置の変更、リブの削除、金型の厚み低減、金型の材質強度低減のいずれか一つ又はこれらの組み合わせによって剛性を低減することを特徴とする請求項1に記載のプレス金型の設計方法。
【請求項3】
前記高面圧領域は、前記低面圧領域よりも面圧が5倍以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス金型の設計方法。
【請求項4】
前記金型構造決定工程は、剛性低減可能領域の剛性を、基本金型モデルの剛性の1/8以下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス金型の設計方法。
【請求項5】
前記金型構造決定工程は、剛性低減可能領域の剛性を、基本金型モデルの剛性の1/8以下とすることを特徴とする請求項3に記載のプレス金型の設計方法。
【請求項6】
プレス成形荷重を低減できるプレス金型の製造方法であって、
請求項1又は2に記載のプレス金型設計方法により、基本実金型よりも剛性を低減した剛性低減金型構造を決定するプレス金型設計工程と、
前記剛性低減金型構造に基づいて、NC加工用のNCデータを取得するNCデータ取得工程と、
前記NCデータを用いてNC工作機械により鋼材製金型又は鋳造用金型模型を製作する工程を含むことを特徴とするプレス金型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材のプレス加工に伴うプレス金型に作用するプレス成形荷重を低減できるプレス金型の設計方法およびプレス金型の製造方法に関する。
ここで、金属部材とは、熱延鋼板、冷延鋼板、あるいは鋼板に表面処理(電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、有機皮膜処理等)を施した表面処理鋼板をはじめ、SUS、アルミニウム、マグネシウム等、各種金属類から構成される板でもよい。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化による燃費向上や衝突安全性向上等のニーズの高まりから、自動車車体における高張力鋼板の適用が拡大している。高張力鋼板はその延性の低さによる成形性の低下や、材料強度が高いことに起因する寸法精度の悪化が高張力鋼板を適用するための課題とされている。
【0003】
また、高張力鋼板をプレス成形する際にはプレス成形荷重が増加するため、プレスラインの変更や部品の分割が必要となり、このようなプレス成形荷重の増加についても高張力鋼板適用の阻害要因となっている。そのため、プレス成形荷重を低減できるプレス金型が求められている。
特許文献1には、プレス金型を分割可動させて逐次成形を行うことでプレス成形荷重を低減させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1では、金型を分割かつ可動構造とするため、プレス金型の製造コストが高価であり、また分割成形にともなうプレス成形不具合の発生が懸念される。
【0006】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、製造コストを高価にすることなく、また構造を複雑にすることなく、プレス成形荷重を低減できるプレス金型の設計方法およびプレス金型の製造方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、プレス成形荷重を低減できるプレス金型の設計方法であって、
基本となる実金型である基本実金型をモデル化した基本金型モデルを作成する基本金型モデル作成工程と、
前記基本金型モデルによってプレス成形解析を実施し、プレス成形下死点において前記基本金型モデルに作用する面圧分布を取得する面圧分布取得工程と、
前記面圧分布に基づいて面圧の高い部位を含む高面圧領域とそれ以外の低面圧領域とを特定する面圧領域特定工程と、
前記基本金型モデルにおける剛性低減可能な領域を特定する剛性低減可能領域特定工程と、
前記剛性低減可能領域内でかつ前記高面圧領域を含む部位について、前記基本金型モデルよりも剛性を低減した金型構造を決定する金型構造決定工程を含むことを特徴とするものである。
【0008】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記金型構造決定工程は、リブ配置の変更、リブの削除、金型の厚み低減、金型の材質強度低減のいずれか一つ又はこれらの組み合わせによって剛性を低減することを特徴とするものである。
【0009】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記高面圧領域は、前記低面圧領域よりも面圧が5倍以上であることを特徴とするものである。
【0010】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記金型構造決定工程は、剛性低減可能領域の剛性を、基本金型モデルの剛性の1/8以下とすることを特徴とするものである。
【0011】
(5)本発明に係るプレス金型の製造方法は、プレス成形荷重を低減できるプレス金型の製造方法であって、
上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のプレス金型設計方法により、基本実金型よりも剛性を低減した剛性低減金型構造を決定するプレス金型設計工程と、
前記剛性低減金型構造に基づいて、NC加工用のNCデータを取得するNCデータ取得工程と、
前記NCデータを用いてNC工作機械により鋼材製金型又は鋳造用金型模型を製作する工程を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、基本金型モデル作成工程と、面圧分布取得工程と、面圧領域特定工程と、剛性低減可能領域特定工程と、金型構造決定工程とを備えたことにより、金型の構造を適正化してプレス成形荷重を低減する事ができるようになる。そして、高張力鋼板をプレス成形する際のプレス成形荷重を低減できるプレス成形金型を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施の形態1におけるプレス金型の設計方法のフロー図である。
【
図2】実施例で対象としたプレス成形品の説明図である。
【
図3】実施例における従来例のプレス金型の説明図である。
【
図4】実施例における比較例のプレス金型の説明図である。
【
図5】実施例における発明例のプレス金型の説明図である。
【
図6】実施例において発明例のプレス金型を設計する過程を説明する図である(その1)。
【
図7】実施例において発明例のプレス金型を設計する過程を説明する図である(その2)。
【
図8】実施例において、従来例、比較例及び発明例のプレス金型によるプレス成形荷重を比較したグラフである。
【
図9】本実施の形態2におけるプレス金型の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態の説明に先立って、本発明に至った経緯について説明する。
発明者らは、プレス成形荷重を低減できるプレス金型を検討するにあたり、まず、プレス成形試験およびプレス成形解析により、プレス成形荷重が大きくなる現象について検討した。
【0015】
プレス成形荷重はプレス成形下死点付近において急激に増加するが、このプレス成形下死点付近の荷重には、プレス成形品(ブランク)の変形による反力だけでなく、プレス成形品(ブランク)を介して接触することによる対面するプレス金型からの反力が含まれている。この反力は対面するプレス金型の弾性変形がプレス金型構造による剛性によって抑制されることで発生する。
【0016】
プレス成形荷重を低減するためには、プレス成形下死点付近でプレス成形荷重(面圧)が作用する部位において、プレス金型の剛性を低下させて金型変形を抑制する反力を低減させれば、該当部位のプレス成形荷重(面圧)を下げられる、との着想を得るに至った。
そして、プレス金型の剛性を低下させる部位の選択は、プレス成形解析における下死点での荷重分布(面圧分布)をもとにすればよいとの結論に達した。
本発明はかかる検討結果に基づいてなされたものであり、具体的には以下の実施の形態で示す構成からなるものである。
[実施の形態1]
【0017】
本実施の形態1に係るプレス金型の設計方法は、
図1に示すように、基本金型モデル作成工程(S1)と、面圧分布取得工程(S3)と、面圧領域特定工程(S5)と、剛性低減可能領域特定工程(S7)と、金型構造決定工程(S9)を含むものである。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0018】
<基本金型モデル作成工程>
基本金型モデル作成工程(S1)は、基本となる実金型である基本実金型を、ソリッド要素又はシェル要素でモデル化した基本金型モデルを作成する工程である。
基本実金型とは、本発明を適用して剛性低減する前の実金型である。
【0019】
<面圧分布取得工程>
面圧分布取得工程(S3)は、基本金型モデル作成工程(S1)において作成した基本金型モデルによって有限要素解析(FEM)等によるプレス成形解析を実施し、プレス成形下死点において基本金型モデルに作用する面圧分布を取得する工程である。
【0020】
<面圧領域特定工程>
面圧領域特定工程(S5)は、面圧分布取得工程(S3)で取得した面圧分布に基づいて面圧の高い部位を含む高面圧領域とそれ以外の低面圧領域とを特定する工程である。
ここで、低面圧領域の特定方法は、例えば、プレス成形解析でプレス成形下死点における基本金型モデルの各要素の荷重(面圧)の頻度分布を作成し、例えば、累積相対度数が0.5となる面圧PLを求め、PL以下の面圧となる領域を、低面圧領域として決定してもよい。あるいは、プレス成形下死点における基本金型モデルの面圧分布のコンター図において、局部的に高い面圧の領域(例えば、後述する
図6の面圧分布のコンター図において、100MPa以上の領域)の周辺に広く分布する面圧20MPa以下の領域を低面圧領域として決定してもよい。
【0021】
プレス成形下死点においてプレス金型に作用する面圧が、低面圧領域の5倍以上となる部位を高面圧領域として特定することが好ましい。
面圧を高くする要因には、プレス機械の剛性の他に、金型同士の干渉等、金型の剛性を低くしてもプレス成形荷重の低減効果を見込めないものもある。ただし、前者による面圧の増加は、後者による面圧の増加よりも大きく、経験上、低面圧領域よりも5倍以上高い場合が多い。そのため、プレス金型に作用する面圧が低面圧領域の5倍以上となる部分を高面圧領域として特定することで、金型の剛性を低くすることでプレス成形荷重の低減効果を見込める領域のみを選別することができる。
【0022】
<剛性低減可能領域特定工程>
剛性低減可能領域特定工程(S7)は、基本金型モデルにおける剛性低減可能な領域を特定する工程である。
剛性低減可能な部位とは、金型を構成する基本構造部25を除いた部位である。金型を構成する基本構造部25とは、金型をプレス機に設置、固定するのに必要な構造、金型の吊具、安全上必要な構造、その他、金型機能上必要な構造部をいう。
【0023】
<金型構造決定工程>
金型構造決定工程(S9)は、剛性低減可能領域特定工程(S7)で特定した剛性低減可能領域内でかつ面圧領域特定工程(S5)で特定した高面圧領域を含む部位について基本金型モデルよりも剛性を低減した金型構造を決定する工程である。
剛性低減の対象部位(剛性低減部位)として高面圧領域を含む部位としているのは、当該部位の剛性を低減することで金型変形を抑制する反力を低減して、プレス荷重を下げることができるからである。
また、剛性低減の具体的な方法としては、
例えば、リブの撤去、リブ配置を変更することが有効である。
リブとは金型の弾性変形による金型の逃げを防止するために、基本構造部25を除く金型の裏面に設けられる補剛部位をいう。リブ配置を変更したり、リブを撤去したりすることで剛性低減部位の剛性を低減することができる。
【0024】
また、剛性低減には金型の厚みを低減することも有効である。
金型表面の弾性変形を断面が長方形の単純梁の変形と単純化して考えると、単純梁のたわみは、断面二次モーメントに比例し、長方形の断面二次モーメントは板厚の3乗に比例するので、金型の厚みを基本金型モデルの1/nにすると、剛性は基本金型モデルの1/n3に低減できる。
【0025】
また、剛性低減には金型の材質の変更も有効である。
金型には、炭素工具鋼鋼材(SK材)、合金工具鋼(SKS3、SKD11等)が用いられるが、剛性低減する部位の材質を縦弾性係数の低い材質に変更する。
【0026】
なお、剛性低減には、リブの撤去、リブ配置の変更、金型厚みの低減、金型の材質強度を低減、のいずれか一つを適用しても、あるいはこれらを組み合わせて適用してもよい。
【0027】
また、剛性低減の程度としては、例えば基本金型モデルの剛性の1/8以下とすればよい。これは、金型の厚みを低減することにより剛性低減を図る場合、金型の厚みを基本金型モデルの1/2以下にすることに相当する。高面圧領域は、その周辺に分布する低面圧領域よりも面圧が5倍以上であるので、剛性低減の程度としては、少なくとも1/5以下(金型の厚みを基本金型モデルの58%以下)とする必要があり、プレス成形荷重の低減効果をより確実に得るために1/8以下(金型の厚みを基本金型モデルの50%以下)とするのが好ましい。
【0028】
本実施の形態1によれば、金型の剛性を適切に低減するようにしたので、金型の構造を複雑化することなく、プレス成形荷重を低減することができるようになる。
【0029】
[実施形態2]
実施形態2の説明に先立ち、プレス金型の種類について説明する。
プレス金型には、鋳物製のものと、鋼材製のものがある。鋳物製のプレス金型の場合、発泡スチロールのように高温で消失する素材からNC工作機械を用いたNC加工により鋳造用金型模型を製作するフルモールド鋳造法(消失模型鋳造法)が用いられる。
また、鋼材製のプレス金型の場合、鋼材をNC加工により機械加工(切削、研削、研磨)する必要がある。
【0030】
本実施の形態2に係るプレス金型の製造方法は、
図9に示すように、プレス金型設計工程(S11)、NCデータ取得工程(S13)、NC加工工程(S15)を含むものである。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0031】
<プレス金型設計工程>
プレス金型設計工程(S11)は、実施形態1のプレス金型設計方法により、基本実金型よりも剛性を低減した剛性低減金型構造を決定する工程である。
【0032】
<NCデータ取得工程>
NCデータ取得工程(S13)は、プレス金型設計工程(S11)で取得した剛性低減金型構造に基づいて、NC加工用のNCデータを取得する工程である。
剛性低減金型構造とは、ソリッド要素またはシェル要素の基本金型モデルにおけるリブ配置、金型の厚みの分布及び材質を変更した金型モデルとして取得されたものをいう。
【0033】
この剛性低減金型構造の金型モデルに関するデータを、NC工作機械と連携したCAD/CAMプログラムに入力し、NC加工用のNCデータ(NCプログラム)に変換する。なお、NC工作機械は、発泡スチロール製の鋳造用金型模型又は鋼材製金型を機械加工するものである。
【0034】
<NC加工工程>
NC加工工程(S15)は、NCデータ取得工程(S13)で取得したNCデータ(NCプログラム)を用いて、NC工作機械により発泡スチロール製の鋳造用金型模型又は鋼材製金型を実際に製作する工程である。
【0035】
本実施の形態2によれば、高張力鋼板をプレス成形する際のプレス成形荷重を低減できるプレス成形金型を製造することができる。
【実施例0036】
発明の効果を確認するシミュレーションを行ったので、以下説明する。
本実施例で対象としたプレス成形品1は、
図2に示すように、天板部3と、縦壁部5と、フランジ部7と、パンチ肩R部9と、ダイ肩R部11を有するハット断面形状である。
プレス成形品1を成形するブランクの材質は1180MPa級の高張力鋼板、板厚1.6mmである。
金型として、
図3のプレス金型13(従来例)、
図4のプレス金型15(比較例)、
図5のプレス金型17(発明例)を用い、プレス成形荷重を評価した。
なお、
図3~
図5においては、パンチのみを示しているが、プレス金型13、15、17としてはパンチに対応するダイ、パッドも備えている。
【0037】
図3に示すプレス金型13(従来例)は、上面を示す
図3(a)に示すように、成形面側には、プレス成形品1に対応する溝形状部19が形成されており、溝底の両側にはプレス成形品1のパンチ肩R部9に相当する第1R部21を有し、また、溝の入口部には、プレス成形品1のダイ肩R部11に相当する第2R部23を有している。
【0038】
また、プレス金型13は、
図3(b)の下面に示すように、周縁が変形しない基本構造部25となっている。また、溝底に相当する部分も変形しない基本構造部25となっている。
図3(b)では基本構造部25をハッチングで示している。
なお、プレス金型13は、基本構造部25以外に、型裏中央部に型裏を横断する横断リブ27を有している。
図3(c)の断面に示すように、外周部の基本構造部25以外の部分の厚みは40mmである。
【0039】
図4に示すプレス金型15(比較例)は、
図3に示すプレス金型13より、横断リブ27を除去したものである。
図5に示すプレス金型17(発明例)は、
図4に示すプレス金型15の剛性低減可能範囲の金型厚みを40mmから10mmに薄肉化し、薄肉化した部分の剛性を1/64に低減したものである。
【0040】
図5に示す金型構造に至る過程を説明する。
図4に示すプレス金型15(比較例)を基本金型モデルとしてプレス成形下死点における面圧分布を取得した。この面圧分布を
図6に示す。
図7は、
図6に対して面圧を低減できない基本構造部25をハッチングで示すと共に、主な面圧を数値で示したものである。
【0041】
図7に示すように、長手方向の屈曲部におけるパンチ肩R部9に相当する部位の面圧が500MPaと最も高く、長手方向の屈曲部のフランジ部7に相当する部位の面圧が350Mpaとなっている。また、長手方向の屈曲部に連続する直線部のフランジ部7に相当する部位には面圧が130MPaの箇所が散在する。
これらのプレス金型15に作用する面圧が、周辺部である低面圧領域の面圧20MPaの5倍以上となっており、高面圧領域として特定した。
特定した高面圧領域は、基本構造部25ではないので、高面圧領域を含む剛性低減可能な全ての領域を剛性低減可能領域として特定した。
この特定された剛性低減可能領域におけるプレス金型15の金型厚みを薄肉化したのが、
図5に示すプレス金型17(発明例)である。
【0042】
図8は、従来例、比較例及び発明例のプレス金型13、15、17でプレス成形した際のプレス成形荷重を比較したものである。
プレス成形荷重は、従来例が303トンに対し、比較例によるプレス金型15は従来例よりも7%低減した281トン、発明例によるプレス金型17では比較例よりもさらに低減し、従来例よりも25%低減した228トンとなった。
以上より、本発明によるプレス金型の設計方法により、プレス成形荷重を低減できることを実証できた。