(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101658
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/22 20060101AFI20240723BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B60C9/22 C
B60C9/00 C
B60C9/22 D
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005679
(22)【出願日】2023-01-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】藤森 弘章
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 隆充
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA34
3D131AA48
3D131BA02
3D131BA11
3D131BA20
3D131BB01
3D131BC31
3D131BC49
3D131DA54
3D131DA56
(57)【要約】
【課題】 ユニフォミティを良好に維持しながら、高速耐久性を改善することを可能にした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】 トレッド1部と一対のサイドウォール部2と一対のビード部3とを備え、これら一対のビード部3,3間にカーカス層4が装架され、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側にタイヤ周方向に対して傾斜するベルトコードを含む複数層のベルト層7が配置され、ベルト層7の外周側にタイヤ周方向に配向する有機繊維コードCを含むベルトカバー層8が配置された空気入りタイヤにおいて、ベルトカバー層8に使用される有機繊維コードCは、脂肪族ポリアミドから構成されると共に、20℃での初期引張剛性に対する80℃での初期引張剛性の比率からなる引張剛性保持率が90%以上であり、乾熱収縮率が3.5%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、これら一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側にタイヤ周方向に対して傾斜するベルトコードを含む複数層のベルト層が配置され、該ベルト層の外周側にタイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含むベルトカバー層が配置された空気入りタイヤにおいて、
前記ベルトカバー層に使用される有機繊維コードは、脂肪族ポリアミドから構成されると共に、20℃での初期引張剛性に対する80℃での初期引張剛性の比率からなる引張剛性保持率が90%以上であり、乾熱収縮率が3.5%以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ベルトカバー層に使用される有機繊維コードの下式(1)で表される上撚り係数Kが1050~1750の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
K=T√D ・・・(1)
但し、Tは前記有機繊維コードの上撚り数(回/10cm)であり、Dは前記有機繊維コードの総繊度(dtex)である。
【請求項3】
前記脂肪族ポリアミドがナイロン56であることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維コードからなるベルトカバー層を備えた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、ユニフォミティを良好に維持しながら、高速耐久性を改善することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、一対のビード部間にはカーカス層が装架され、トレッド部におけるカーカス層の外周側にはタイヤ周方向に対して傾斜するベルトコードを含む複数層のベルト層が配置され、該ベルト層の外周側にはタイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含むベルトカバー層が配置されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ベルトカバー層は、高速走行時におけるベルト層のせり上がりを抑制し、高速耐久性の改善に寄与する。このようなベルトカバー層の有機繊維コードとして、ナイロン66繊維コードが一般的に使用されている。
【0004】
しかしながら、ナイロン66繊維コードの引張剛性は温度依存性が大きく、常温での引張剛性に比べて高温での引張剛性が低下する傾向があるため、高速耐久性の改善効果が必ずしも十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ユニフォミティを良好に維持しながら、高速耐久性を改善することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、これら一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側にタイヤ周方向に対して傾斜するベルトコードを含む複数層のベルト層が配置され、該ベルト層の外周側にタイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含むベルトカバー層が配置された空気入りタイヤにおいて、
前記ベルトカバー層に使用される有機繊維コードは、脂肪族ポリアミドから構成されると共に、20℃での初期引張剛性に対する80℃での初期引張剛性の比率からなる引張剛性保持率が90%以上であり、乾熱収縮率が3.5%以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明者は、空気入りタイヤのベルトカバー層に使用される有機繊維コードの材料について鋭意研究した結果、脂肪族ポリアミドの中にもナイロン56のように昇温時の引張剛性保持率が比較的高い材料があり、そのような材料からなる有機繊維コードの乾熱収縮率を規定することにより、ユニフォミティを良好に維持しながら、高速耐久性の改善効果が享受されることを知見し、本発明に至ったのである。
【0009】
即ち、本発明では、ベルトカバー層に使用される有機繊維コードは、脂肪族ポリアミドから構成されると共に、20℃での初期引張剛性に対する80℃での初期引張剛性の比率からなる引張剛性保持率が90%以上であることにより、高速走行時においても十分な引張剛性を確保することができるので、高速耐久性を改善することができる。また、ベルトカバー層に使用される有機繊維コードの乾熱収縮率が3.5%以下であることにより、ベルトカバー層の過剰な収縮を抑制し、空気入りタイヤのユニフォミティを良好に維持することが可能となる。
【0010】
本発明において、ベルトカバー層に使用される有機繊維コードの下式(1)で表される上撚り係数Kが1050~1750の範囲にあることが好ましい。これにより、高速耐久性を効果的に改善することができる。
K=T√D ・・・(1)
但し、Tは前記有機繊維コードの上撚り数(回/10cm)であり、Dは前記有機繊維コードの総繊度(dtex)である。
【0011】
脂肪族ポリアミドがナイロン56であることが好ましい。ナイロン56は上記引張剛性保持率が高いので、ベルトカバー層に使用される有機繊維コードがナイロン56から構成されることにより、高速耐久性を効果的に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図2】
図1の空気入りタイヤのベルト層及びベルトカバー層を抽出して示す展開図である。
【
図3】(a)~(b)はそれぞれベルトカバー層を構成する有機繊維コードを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0015】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本のカーカスコードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。カーカス層4のカーカスコードとしては、レーヨン繊維コードやポリエステル繊維コードのような有機繊維コードが好ましく使用される。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0016】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本のベルトコードを含み、かつ層間でベルトコードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、ベルトコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7のベルトコードとしては、スチールコードが好ましく使用される。
【0017】
ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、有機繊維コードCをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなるベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8としては、ベルト層7の幅方向の全域を覆うフルカバー層や、ベルト層7のタイヤ幅方向の両端部を局所的に覆う一対のエッジカバー層をそれぞれ単独で、またはこれらを組み合わせて設けることができる。ベルトカバー層8は、例えば、
図2に示すように、少なくとも1本の有機繊維コードCを引き揃えてコートゴムで被覆したストリップ材10をタイヤ周方向に螺旋状に巻回して構成することができる。
【0018】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。
【0019】
上述した空気入りタイヤにおいて、ベルトカバー層8を構成する有機繊維コードCとして、脂肪族ポリアミドから構成されると共に、20℃での初期引張剛性に対する80℃での初期引張剛性の比率からなる引張剛性保持率が90%以上であり、乾熱収縮率が3.5%以下であるコードが使用されている。有機繊維コードCは、予め下撚りされた複数本のヤーンYが撚り合わされた構造を有しているが、ヤーンYの本数は特に限定されるものではない。例えば、
図3(a)のように2本のヤーンYを撚り合わせた構造や、
図3(b)のように3本のヤーンYを撚り合わせた構造を採用することができる。
【0020】
このようにベルトカバー層8に使用される有機繊維コードCは、脂肪族ポリアミドから構成されると共に、20℃での初期引張剛性に対する80℃での初期引張剛性の比率からなる引張剛性保持率が90%以上であることにより、高速走行時においても十分な引張剛性を確保することができるので、高速耐久性を改善することができる。
【0021】
ここで、20℃での初期引張剛性に対する80℃での初期引張剛性の比率からなる引張剛性保持率が90%よりも低いと、高速走行時においてベルトカバー層8の引張剛性が低下するため、高速耐久性の改善効果が不十分になる。引張剛性保持率は、有機繊維コードCの20℃での初期引張剛性に対する80℃での初期引張剛性の百分率である。「初期引張剛性」は、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施した際に得られる荷重-歪み曲線の0N~44.1Nの範囲での傾きである。
【0022】
また、ベルトカバー層8に使用される有機繊維コードCの乾熱収縮率が3.5%以下であることにより、ベルトカバー層8の過剰な収縮を抑制し、空気入りタイヤのユニフォミティを良好に維持することが可能となる。
【0023】
ここで、ベルトカバー層8に使用される有機繊維コードCの乾熱収縮率が3.5%よりも高いと、ベルトカバー層8の過剰な収縮により空気入りタイヤのユニフォミティが悪化する。「乾熱収縮率」は、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、試料長さ500mm、加熱条件150℃×30分の条件にて加熱したときに測定される試料コードの乾熱収縮率(%)である。
【0024】
上述のような物性を有する有機繊維コードCの材質としては、ナイロン56が好適である。ナイロン56は、下記化学反応式のように、1,5ペンタンジアミン(C5H14N2)とアジピン酸(C6H10O4)との重合(nは整数)により生成される。1,5ペンタンジアミンは、例えば、トウモロコシから得られるブドウ糖を発酵させることで生成可能である。ナイロン56の原料として、トウモロコシ由来の原料(1,5ペンタンジアミン)を使用した場合、石油由来の原料の使用量を削減することができるという利点がある。
【0025】
【0026】
上記空気入りタイヤにおいて、ベルトカバー層8に使用される有機繊維コードCの下式(1)で表される上撚り係数Kが1050~1750の範囲にあると良い。これにより、高速耐久性を効果的に改善することができる。
K=T√D ・・・(1)
但し、Tは有機繊維コードCの上撚り数(回/10cm)であり、Dは有機繊維コードCの総繊度(dtex)である。
【0027】
ここで、有機繊維コードCの上撚り係数Kが1050よりも小さいと、高速走行時のタイヤの径成長が小さくなるものの、有機繊維コードCの耐疲労性の悪化により高速耐久性が低下し、逆に1750よりも大きいと、高速走行時のタイヤの径成長が大きくなるため高速耐久性が低下する。
【0028】
また、有機繊維コードCの上撚り数Tは20回/10cm~40回/10cmの範囲にあると良い。更に、有機繊維コードCの総繊度Dは1800dtex~3000dtexの範囲にあると良い。このような上撚り数T及び総繊度Dを前提として、上撚り係数Kを上記範囲内に設定することにより、高速耐久性を効果的に改善することができる。
【実施例0029】
タイヤサイズが245/40R18であり、トレッド部と一対のサイドウォール部と一対のビード部とを備え、これら一対のビード部間にカーカス層が装架され、トレッド部におけるカーカス層の外周側にタイヤ周方向に対して傾斜するベルトコードを含む複数層のベルト層が配置され、該ベルト層の外周側にタイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含むベルトカバー層が配置された空気入りタイヤにおいて、ベルトカバー層の有機繊維コードの仕様を種々異ならせた従来例、比較例1及び実施例1~5のタイヤを製作した。
【0030】
有機繊維コードとして、ナイロン66繊維コードを用いた場合を「N66」と表示し、ナイロン56繊維コードを用いた場合を「N56」と表示した。有機繊維コードの繊度、上撚り数T、上撚り係数K、20℃及び80℃での初期引張剛性(0N~44.1N)、20℃での初期引張剛性に対する80℃での初期引張剛性の比率からなる引張剛性保持率、乾熱収縮率を表1のように設定した。なお、20℃及び80℃での初期引張剛性については、従来例の20℃での初期引張剛性の値を100とする指数にて示した。
【0031】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、ユニフォミティ、高速耐久性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0032】
ユニフォミティ:
各試験タイヤをユニフォミティ試験機に取り付け、ラジアル・フォース・バリエーション(RFV)を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどユニフォミティが良好であることを意味する。
【0033】
高速耐久性:
各試験タイヤをリムサイズ18×7.0Jのホイールに組み付けて、空気圧を220kPaとして、ドラム表面が平滑な鋼製でかつ直径が1707mmであるドラム試験機に装着し、周辺温度を38±3℃に制御しながら走行試験を実施した。走行試験では、初期速度を120km/hとし、荷重をJATMA最大荷重の88%とする条件下で20分間走行させ、完走したら引き続き速度を10km/hだけ上昇させて20分間走行させた。このようにして速度上昇と20分間走行を中断することなく繰り返し、タイヤが破壊するまで試験を続け、破壊までの総走行距離を計測した。評価結果は、従来例を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど高速耐久性が優れていることを意味する。
【0034】
【0035】
表1から判るように、実施例1~5のタイヤは、ナイロン66繊維コードを用いた従来例との対比において、ユニフォミティを良好に維持しながら、高速耐久性が改善されていた。一方、比較例1のタイヤでは、ナイロン56繊維コードの乾熱収縮率が高過ぎるため、ユニフォミティが悪化し、高速耐久性の改善効果も低下していた。