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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101692
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ゴム成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20240723BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20240723BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20240723BHJP
   F16F 1/36 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L7/00
F16F15/08 D
F16F1/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005750
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(71)【出願人】
【識別番号】000158840
【氏名又は名称】鬼怒川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】古屋 和人
(72)【発明者】
【氏名】森田 靖
(72)【発明者】
【氏名】川合 真
(72)【発明者】
【氏名】野尻 和由
(72)【発明者】
【氏名】清水 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】原田 倫宏
(72)【発明者】
【氏名】谷 修
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭一
【テーマコード(参考)】
3J048
3J059
4J002
【Fターム(参考)】
3J048BA01
3J048BB10
3J048EA29
3J059AB02
3J059BA41
3J059BC06
3J059BC19
3J059GA05
4J002AC01X
4J002AC03W
4J002BB033
4J002EP016
4J002EV327
4J002EV347
4J002FD010
4J002FD157
4J002FD173
4J002FD176
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】低温雰囲気下(例えば、-40℃~5℃で、特に長期間使用後の低温雰囲気下)においても優れた摺動性を維持でき、該低温雰囲気下での所望の異音抑制効果を得ることが可能なゴム成形体を提供する。
【解決手段】ゴム成形体に係るゴム組成物において、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)を主ゴム成分とし、かつ、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)の割合をNR/BR比で80/20~10/90とし、全ゴム成分を100質量部とした場合に融点45~57℃のパラフィンワックスを20~70質量部含有するものとし、かつ、該パラフィンワックスと融点35~85℃の脂肪酸アミドの合計の含有量を40~100質量部とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物を用いて成るゴム成形体であって、該ゴム組成物は、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)を主ゴム成分とし、かつ、該天然ゴム(NR)と該ブタジエンゴム(BR)を質量比で天然ゴム/ブタジエンゴム=80/20~10/90の割合で含み、全ゴム成分を100質量部とした場合に、融点45~57℃のパラフィンワックスを20~70質量部含有し、かつ、該パラフィンワックスと融点35~85℃の脂肪酸アミドとの両方による含有量が30~100質量部であることを特徴とするゴム成形体。
【請求項2】
該ゴム組成物は、該天然ゴム(NR)と該ブタジエンゴム(BR)を質量比で天然ゴム/ブタジエンゴム=40/60~15/85の割合で含み、かつ、全ゴム成分を100質量部とした場合に、該ブタジエンゴム(BR)を50~85質量部含有し、該ブタジエンゴム(BR)はシス1,4-結合量が90%以上であることを特徴とする請求項1記載のゴム成形体。
【請求項3】
該ゴム組成物は、全ゴム成分を100質量部とした場合に、該融点35~85℃の脂肪酸アミドの含有量が10~40質量部であることを特徴とする請求項1記載のゴム成形体。
【請求項4】
該ブタジエンゴム(BR)は、100℃におけるムーニー粘度(ML1+4)が50~75であり、該ゴム組成物に50~90質量%含有することを特徴とする請求項2記載のゴム成形体。
【請求項5】
該ゴム組成物は、該全ゴム成分を100質量部とした場合に、加硫促進剤として、少なくとも、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、2‐(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、4,4’‐ジチオジモルホリンの群から選択された一つ以上を0.5~10質量部含有することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のゴム成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム成形体に関するものであり、例えば、金属等の他部材に対して摺接するように使用されるゴム成形体であって、特に長期間の使用後の低温雰囲気下(例えば-40℃から5℃)においても、良好な摺動性を維持できることによる異音抑制効果に優れた自動車用スタビライザブッシュなどのゴム成形品に適用可能なゴム成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム成形体は、柔軟性等の特徴を有することから、物同士の緩衝のために適用されることがある。例えば、ドアのように構成部品同士が接触するような箇所に適用されるゴム成形体の場合、該接触により構成部品が損傷しないように、該構成部品同士の接触面の間に成形品として介在させ、所望の機能を維持できるようにしている。一方で、ゴム成形体は、高い摩擦係数を保有している場合が多く、該ゴム成形体と適用箇所(例えば金属等の他部材)との間で擦れが生じると、異音が発生する場合がある。
【0003】
また、自動車用ゴム成形体、例えばスタビライザブッシュ等のように金属部品を嵌め込んで適用されるゴム成形品では、該自動車の発進時,急ブレーキ時,左右旋回時等の動作時に、取付け金具等との接触部分でスティックスリップ現象により異音が発生することがあり、その対策が求められている。かかる異音の対策として、脂肪酸アミドなどの潤滑剤を添加したゴム組成物を適用することが挙げられ、ゴム成形体表面(加硫ゴム表面)に潤滑剤をブルームさせて摩擦係数を低減させる自己潤滑型のゴム組成物が提案されている(特許文献1)。
【0004】
さらに、自動車用スタビライザブッシュ等に用いるゴム組成物として、範囲の広い温度雰囲気下(例えば10℃~50℃)においても、ゴム成形体表面の摩擦係数を大幅に低減し、該広い温度雰囲気下でスティックスリップ現象による異音の発生を抑制することも検討されている。例えば、低分子量成分領域と高分子量成分領域の2山の炭素数分布を有するゴム組成物において、該低分子量成分領域のCmaxがC24~C29、該高分子量成分領域のCmaxがC32~C38である石油系ワックスを、2~25重量部配合することが提案されている(特許文献2)。
【0005】
一方で、前記のように脂肪酸アミドを含有したゴム組成物は、加硫開始が早く、成形時にスコーチ(早期加硫)を起こし易くなることが知られている。そこで、スコーチを起こし難くする、かつ摺動抵抗を低くするために、前記のように脂肪酸アミドを添加する替わりに、分子鎖末端に二重結合を有するα-オレフィンワックスを添加することが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-100731号公報
【特許文献2】特開2002-265691号公報
【特許文献3】特開2006-206788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のようなゴム組成物を適用したゴム成形体は、他部材(該ゴム成形体が摺接し得る金属等の他部材;以下、単に摺接対象部材と適宜称する)に対して摺接するように使用される場合であって、-40℃~5℃のような低温雰囲気下(特に長期間使用された後の低温雰囲気下)で使用される場合には、スティックスリップによる異音発生を抑制する効果(以下、単に異音抑制効果と適宜称する)が不十分となるおそれがあった。
【0008】
例えば、特許文献2の石油系ワックスを含有したゴム組成物は、該ワックスの融点に関して何ら検討されておらず、該特許文献2の実施例で用いられているマイクロクリスタリンワックスの融点も60℃以上である。このため、スタビライザブッシュなどのゴム成形品用のゴム組成物として用いた場合には、比較的低温(例えば5℃以下)での異音抑制効果は不十分となるおそれがあった。
【0009】
特許文献3のゴム組成物は、分子鎖末端に二重結合を有するα-オレフィンワックスを用いることによりスコーチタイムを調整することが記載されているものの、使用する加硫促進剤の種類や添加量によってスコーチタイムを調整することについては、何ら検討されていない。さらに、低温雰囲気下での異音防止効果も何ら検討されていない。このため、スタビライザブッシュなどのゴム成形品用のゴム組成物として用いた場合には、比較的低温での異音抑制効果は不十分となるおそれがあった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、低温雰囲気下(例えば、-40℃~5℃で、特に長期間使用後の低温雰囲気下)においても優れた摺動性を維持でき、該低温雰囲気下での所望の異音抑制効果を得ることが可能な自動車用スタビライザブッシュなどのゴム成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、ゴム成形品に用いるゴム組成物として、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)を主ゴム成分とし、かつ、全ゴム成分を100質量部とした場合に、比較的低融点のパラフィンワックスを特定量含有し、かつ比較的低融点の脂肪酸アミドと比較的低融点のパラフィンワックスとの両者を特定量含有せしめることで、低温雰囲気下で摺接対象部材と摺接しても異音抑制効果を発揮可能なゴム成形品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の一態様としては、以下の[1]~[5]が挙げられる。
【0013】
[1]ゴム組成物を用いて成るゴム成形体であって、該ゴム組成物は、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)を主ゴム成分とし、かつ、該天然ゴム(NR)と該ブタジエンゴム(BR)を質量比で天然ゴム/ブタジエンゴム=80/20~10/90の割合で含み、全ゴム成分を100質量部とした場合に、融点45~57℃のパラフィンワックスを20~70質量部含有し、かつ、該パラフィンワックスと融点35~85℃の脂肪酸アミドとの両方による含有量が30~100質量部であることを特徴とするゴム成形体。
【0014】
[2]該ゴム組成物は、該天然ゴム(NR)と該ブタジエンゴム(BR)を質量比で天然ゴム/ブタジエンゴム=40/60~15/85の割合で含み、かつ、全ゴム成分を100質量部とした場合に、該ブタジエンゴム(BR)を50~85質量部含有し、該ブタジエンゴム(BR)はシス1,4-結合量が90%以上であることを特徴とする[1]記載のゴム成形体。
【0015】
[3]該ゴム組成物は、全ゴム成分を100質量部とした場合に、該融点35~85℃の脂肪酸アミドの含有量が10~40質量部であることを特徴とする[1]のゴム成形体。
【0016】
[4]該ブタジエンゴム(BR)は、100℃におけるムーニー粘度(ML1+4)が50~75であり、該ゴム組成物に50~90質量%含有することを特徴とする[2]記載のゴム成形体。
【0017】
[5]該ゴム組成物は、該全ゴム成分を100質量部とした場合に、加硫促進剤として、少なくとも、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、2‐(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、4,4’‐ジチオジモルホリンの群から選択された一つ以上を0.5~10質量部含有することを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載のゴム成形体。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、低温雰囲気下(例えば、-40℃~5℃で、特に長期間使用後の低温雰囲気下)においても優れた摺動性を維持でき、該低温雰囲気下での所望の異音抑制効果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例で用いたスタビライザブッシュの正面図である。
図2】実施例で用いたスタビライザブッシュの断面図である。
図3】実施例で用いた摩擦係数測定方法を説明するヘイドン摩擦摩耗試験機の概略構成図である。
図4】実施例で用いた異音評価試験方法を説明する斜視図である。
図5】実施例で用いた異音評価試験方法を説明する正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0021】
〔ゴム成形体の調製方法〕
本発明のゴム成形体に係るゴム組成物は、その必須材料であるゴム成分、パラフィンワックス、その他、脂肪酸アミド、カーボンブラックや加硫促進剤や加硫剤、加硫助剤等の資材を、加圧ニーダー,バンバリーミキサー,インターミックスミキサー,オープンロール等の混練機を用いて混練することにより、調製することができる。
【0022】
本発明のゴム成形体は、使用するゴム組成物や成型機によっても加硫条件(加硫温度と加硫時間)は異なるが、例えば該ゴム組成物を加硫温度145~170℃,3~60分間で加硫することにより、所望の弾性を有したゴム成形体を得ることができる。成型機としては各種成型機を使用することが出来る。例えば、金型にゴムを仕込んで加圧プレスするコンプレッション成型、あるいは、トランスファー成型機やインジェクション機を用いて金型中にゴム組成物を注入して加圧加硫する方法などが使用することができる。中でも、加硫時間を短くできるなどの生産性に優れたインジェクション成型が、好ましく用いられる。
【0023】
なお、本発明のゴム成形体における摺接対象部材と摺接する部位(以下、単に被摺接部位と適宜称する)の形状は、該摺接対象部材の形状にも依存する。例えば、摺接対象部材が金属シャフトのようなものであれば、被摺接部位の形状は、該金属シャフトを挿入するための挿入孔が設けられたような形状となる。そして、本発明のゴム成形体は、温度環境や継続的使用に起因する摺動性の低下を解消することができ、摺接対象部材との間の摩擦抵抗の上昇を効果的に抑えることができる。そのため、ゴム成形体の被摺接部位と摺接対象部材が摺動した場合に、該摺動による異音(スティックスリップ音)が発生しないように抑制でき、車両の乗り心地が悪くなる等の問題を解消することができる。
【0024】
図1及び図2は、本発明のゴム組成物を用いて成るゴム成形品として、スタビライザブッシュ1の一例を示したものである。図示するように、スタビライザブッシュ1は、断面円形状をなす中空部2にスタビライザバー4を挿通保持するように構成されている。また、厚肉筒状をなすスタビライザブッシュ1の本体(ゴム部)3は、略U字形のブラケット(不図示)内に保持されて、該ブラケットを介して車体側に固定されるように構成されている。
【0025】
このようなスタビライザブッシュ1は、金属部品であるスタビライザバー4を嵌め込んで使用されるため、自動車の発進時,急ブレーキ時,左右旋回時等の動作時に、スタビライザバー4とスタビライザブッシュ1内孔表面(中空部2内周面)との接触部分において回転力や擦れ力がかかり、スティックスリップ現象により異音が発生し易い。そのため、スタビライザブッシュ1においては、後述で詳細に説明する潤滑性のゴム組成物で形成することにより、潤滑成分(パラフィンワックスなど)が、徐々にスタビライザブッシュ1表面(ゴム表面)に析出して自己潤滑剤として働き、スタビライザバー4とスタビライザブッシュ1の擦れ時の滑り性が良くなることで、異音の発生を防止することができる。
【0026】
なお、一般的な潤滑性のゴム組成物を用いた場合、低温雰囲気下では、自己潤滑成分がゴム表面に析出し難くなるため、スティックスリップ現象による異音が発生し易くなる。特に低温雰囲気下において、ゴム表面の摩耗により自己潤滑成分が削りとられてしまうと、該ゴム表面の自己潤滑剤が不足して異音発生が起こり易くなる。
【0027】
一方、本発明のゴム成形体(例えば防振ゴム等)に係るゴム組成物は、自己潤滑剤である低融点の特定のワックスを比較的多量に含有せしめることにより、低温雰囲気下でも異音抑制効果を十分発揮することができる。低融点の特定のワックスを多量含有することが必要な理由は定かではないが、-40℃から5℃の広い範囲での適切な析出性と、その析出した成分の潤滑性と、が影響しているものと思われる。
【0028】
次に、本発明のゴム成形体に用いられるゴム組成物の各成分について説明する。
【0029】
[ゴム成分]
本発明に係るゴム成形体に係るゴム組成物においては、主ゴム成分として、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)の両方を含有する。天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)を主ゴム成分として含有するとは、全ゴム成分中の90質量%以上が天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)から成る(天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)の合計量(NR+BR)が90質量%以上)であることを意味する。
【0030】
天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)の割合は、天然ゴム(NR)/ブタジエンゴム(BR)比で80/20~10/90(質量比)である(以下、天然ゴムをNR、ブタジエンゴムをBRと適宜称する)。
【0031】
NR/BR=80/20~10/90(質量比)の場合に、低融点のパラフィンワックスの表面析出(ゴム成形体の表面への析出)による低温雰囲気下での異音抑制効果が高くなる。また、継続的に摩擦を受けてゴム成形体の表面にブルームしたワックスが削られても、該ワックスがゴム成形体中から表面に順次適切量出てき易いと思われ、異音抑制効果が持続される。天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)の含有割合においては、好ましくは、NR/BR=40/60~15/85(質量比)である。BRの割合が高くなるに連れて、より低温雰囲気下でのゴム弾性を維持し易くなる傾向となる。なお、NRの含有量が少なくなり過ぎると、所望のゴム組成物の作成時において混練性(いわゆるゴム練りの纏まり性等)が低下したり、ゴム強度が低下し易くなり、繰り返し変形等によって破断し易くなるおそれがある。
【0032】
ゴム成分中には、例えば全ゴム成分の10質量%の割合で、NR,BR以外のゴム成分を含有させることができる。このNR,BR以外のゴム成分としては、高硬度化と摩擦係数低減のためのハイスチレンゴムや加工性改善のためのスチレンブタジエンゴム(SBR)が挙げられる。さらに、作業環境改善や加工性改善を目的とした加硫促進剤やイオウなどのマスターバッチが使用可能であり、該マスターバッチにEPDMなどの他ゴム成分が少量含まれても、何ら問題はない。
【0033】
本発明で使用するブタジエンゴム(BR)としては、低温特性や耐久性(繰り返し変形に対する耐久性)の観点から、シス1,4-結合量は高い方が好ましい。例えば、シス1,4-結合量が90%以上である高シスBRを使用することが好ましく、シス1,4-結合量が93%以上であることがより好ましい。このシス1,4-結合量が90%以上の高シスBRを適用する場合の含有量においても、適宜設定することが可能であるが、ゴム組成物の全ゴム成分を100質量部とした場合、該含有量を50~85質量部とすることが好ましい。
【0034】
また、同じ化学組成のBRでは、ムーニー粘度(ML1+4)が高いほど分子量が高くなる傾向があり、耐久性が良好になるため、100℃におけるムーニー粘度(ML1+4)は50以上が好ましい。一方で、ムーニー粘度(ML1+4)が高くなるに連れて、ゴムの流動性が低下する傾向にあり、該ムーニー粘度(ML1+4)が高くなり過ぎている場合には、ゴム組成物の混練加工性や成形加工性等が低下し易くなるおそれがある。そのため、100℃におけるムーニー粘度(ML1+4)は、例えば75以下に設定することが好ましい。より好ましくは、ムーニー粘度(ML1+4)65以下に設定する。このようなムーニー粘度(ML1+4)が50~75のブタジエンゴム(BR)の含有量においても、適宜設定することが可能であるが、該ゴム組成物に対して50~90質量%含有するように設定することが好ましい。
【0035】
このようなブタジエンゴムの具体例としては、JSR BR730,JSR BR54,JSR BR740(以上、それぞれJSR社製)、ウベポール390L(宇部興産社製)、BUNA CB21,CB22,CB1221(以上、それぞれアランセオ社製)などが挙げられる。
【0036】
[ワックス成分]
本発明のゴム成形体に係るゴム組成物には、前述のような全ゴム成分100質量部に対して、融点45~57℃のパラフィンワックスを20~70質量部含有する。融点がこの範疇のパラフィンワックスの場合、低温雰囲気下でのスティックスリップによる異音抑制効果が大きい。
【0037】
さらに、融点45~57℃のパラフィンワックスと融点35~85℃の脂肪酸アミドの合計の含有量は、30~100質量部である必要がある。即ち、ワックス成分としては、融点45~57℃のパラフィンワックスを単独で30~70質量部含有するように使用しても良く、融点45~57℃のパラフィンワックスと融点35~85℃の脂肪酸アミドを併用して合計量が30~100質量部含有するように使用しても良い。好ましくは、融点45~57℃のパラフィンワックスと融点35~85℃の脂肪酸アミドの合計の含有量は、40質量部~80質量部である。
【0038】
本発明で使用するパラフィンワックスとしては、融点が45~57℃の範疇のものであれば特に制限はないが、取り扱い性の観点により、粒状や顆粒状のものが好ましく用いられる。
【0039】
融点45~57℃のパラフィンワックスとしては、Paraffin Wax-115、Paraffin Wax-120、Paraffin Wax-125、Paraffin Wax-130(以上、それぞれ日本精蝋株式会社製)などが挙げられる。
【0040】
パラフィンワックスは、ジエン系ゴムの静的耐オゾン性の向上等を目的として、全ゴム成分100質量部に対して例えば5質量部以下の範疇で適用されることがある。このように耐オゾン性の向上を目的としてパラフィンワックスを適用する場合、3質量部以上の範疇で適用(持続性を考慮しても5質量部以下の範疇で適用)しても、該耐オゾン性の向上効果は期待するほどは得られない。自動車用防振ゴムの耐オゾン性向上を目的とした場合には、高温雰囲気下にも曝されることを考慮して、通常、融点60℃以上のパラフィンワックスが使用される場合がある。
【0041】
本発明のゴム成形体に係るゴム組成物においても、耐オゾン性向上等を目的として、融点57℃を超えるパラフィンワックスを、例えば5質量部以下の範疇で適用しても構わない。
【0042】
本発明のゴム成形体に係るゴム組成物は、前述の如く、融点45~57℃のパラフィンワックスと融点35~85℃の脂肪酸アミドの合計の含有量が40~100質量部である。前述の如く、ワックス成分として融点45~57℃のパラフィンワックスを単独で40~70質量部含有するように使用しても良いが、該パラフィンワックスと共に脂肪酸アミドを含有させた場合の方が、より早くゴム成形体表面にワックス成分が析出し易くなり、好ましい。融点35~85℃の脂肪酸アミドの含有量は、10~30質量部であることが好ましい。
【0043】
融点35~85℃の脂肪酸アミドは、低温雰囲気下でもゴム成形体表面に析出し易く、該低温領域でも低摩擦化に十分寄与することができる。この融点35~85℃の脂肪酸アミドの含有量においても、適宜設定することが可能であるが、ゴム組成物の全ゴム成分を100質量部とした場合、該含有量を10~40質量部とすることが好ましい。
【0044】
融点35~85℃の脂肪酸アミドとしては、N-オレイルオレイン酸アミド(融点35℃)、オレイン酸アミド(融点75℃)、エルカ酸アミド(融点81℃)、N-ステアリルオレイン酸アミド(融点67℃)、N-ステアリルエルカ酸アミド(融点74℃)、などが挙げられる。好ましくは、融点50℃~85℃である。融点が50℃よりも低い場合、例えば輸送中など場合に、脂肪酸アミドによる塊が発生するおそれがある。中でもオレイン酸アミド(融点75℃)、エルカ酸アミド(融点81℃)は、比較的低温雰囲気下で析出し易く、好ましく使用される。
【0045】
また、本発明のゴム成形体に係るゴム組成物には、高温雰囲気下に長時間曝された場合の摺動持続性などを目的として、融点85℃を超える脂肪酸アミドを含有しても構わない。融点85℃を超える脂肪酸アミドとしては、ラウリン酸アミド(融点87℃)、パルミチン酸アミド(融点100℃)、ステアリン酸アミド(融点101℃)、ヒドロキシステアリン酸アミド(融点107℃)、N-ステアリルステアリン酸アミド(融点95℃)、エチレンビスオレイン酸アミド(融点119℃)、エチレンビスエルカ酸アミド(融点120℃)、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド(融点110℃)、N,N’-ジオレイルアジピン酸アミド(融点118℃)、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミド(融点113℃)、メチレンビスステアリン酸アミド(融点142℃)、エチレンビスラウリン酸アミド(融点157℃)、エチレンビスステアリン酸アミド(融点145℃)、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド(融点145℃)、エチレンビスベヘン酸アミド(融点142℃)、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド(融点140℃)、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド(融点142℃)、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド(融点135℃)、N,N’-ジステアリルアジピン酸アミド(融点141℃)などが挙げられる。この比較的高融点の脂肪酸アミドの含有量は、例えば全ゴム成分100質量部に対して10質量部以下となるように設定することが挙げられる。この脂肪酸アミドにおいては、さらに10質量部を超えて多量に含有させても摺動性の向上効果は殆ど変わらなくなり、むしろ材料費の高騰につながるおそれがあるため、好ましくない。
【0046】
[脂肪酸アミドおよびパラフィンワックス以外のワックス成分]
本発明のゴム成形体に係るゴム組成物には、前述のようなワックス成分以外にも、例えばマイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックスなどを5質量部以下含有しても構わない。マイクロクリスタリンワックスは、ジエン系ゴムの耐オゾン性向上や加工性向上を目的としてパラフィンワックスと混合して用いられることもあるワックスであるが、パラフィンワックスよりも比較的高融点であることが知られている。マイクロクリスタリンワックスの成分としては、主成分のイソパラフィンワックスに少量のノルマルパラフィンとナフテンを含んだものであるが、パラフィンワックスとは製造法の違いや融点の違いで分類されている。
【0047】
[加硫系薬品(加硫剤、加硫促進剤、および加硫遅延剤)]
本発明のゴム成形体に係るゴム組成物の説明において記述する加硫系薬品とは、加硫剤や加硫促進剤、あるいは加硫遅延剤(リターダー)などの加硫反応に寄与する薬品全般を意味する。加硫促進剤として分類されているものの中には、加硫剤として作用するものもあり、加硫促進剤であるか加硫剤であるかの分類分けが難しい場合もある。このため、以下の説明では便宜上、加硫促進剤や加硫剤を単に加硫系薬品と称することがあるものとする。
【0048】
本発明のゴム成形体に係るゴム組成物に使用する加硫剤としては、公知の加硫剤を使用することができ、イオウないしイオウ系化合物による加硫、樹脂加硫、キノイド加硫、ビスマレイミド加硫、有機過酸化物加硫などの加硫方法が採用できる。これらの中ではイオウないしイオウ系化合物を使用した加硫が、防振ゴムの耐久性に優れることから、好ましく使用される場合がある。
【0049】
イオウないしイオウ系化合物としては、具体的には、硫黄、塩化硫黄、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、4,4’-ジチオジモルホリン、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどが例示できる。この中で、イオウにおいては、0.1~0.8質量部含有することが好ましい。ゴムのイオウ加硫は、耐久性には優れるが、イオウ量が多くなると耐熱性に劣ることが知られている。このため、耐熱性と耐久性の両立を考慮する場合、イオウ量は0.1~0.8質量部の範疇で含有することが好ましい。
【0050】
加硫系薬品としては、少なくとも、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、2‐(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、4,4’‐ジチオジモルホリンの群から一つ以上を選択し、当該選択した一つ以上を0.5~10質量部含有することが好ましく、より好ましくは1~10質量部含有するように設定することが好ましい。
【0051】
前記テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、2‐(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、4,4’‐ジチオジモルホリンの群から選択した一つ以上を0.5~10質量部とは、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールと4,4’-ジチオジモルホリンの合計量が0.5~10質量部という意味である。前記の如く、本発明のゴム組成物には、ゴム成分100質量部に対して、脂肪酸アミドの合計量が10質量部以上含有される。このように脂肪酸アミドが比較的多量に含有するゴム組成物では、加硫速度が速くなり、スコーチタイムが短くなる傾向にある。
【0052】
テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールと4,4’-ジチオジモルホリンの合計量が0.5~10質量部の場合、耐熱性に優れ、かつ耐スコーチ性に優れた(スコーチを起こしにくい)ゴム組成物が容易に得られることから、好ましい。
【0053】
また加硫剤としてイオウ化合物を使用する場合は、加硫促進剤を併用することが好ましい。加硫促進剤としては、具体的には、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系化合物や、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(2,4-ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、2-(2,6-ジエチル-4-モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等のチアゾール系化合物や、ジフェニルグアニジン、トリフェニルグアニジン、ジオルソニトリルグアニジン、オルソニトリルバイグアナイド、ジフェニルグアニジンフタレート等のグアニジン化合物や、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなど等のチウラム系化合物などを、挙げることができる。
【0054】
また、加硫速度の調整として、加硫遅延剤(スコーチ防止剤)であるN-シクロヘキシルチオフタルイミド、N-フェニル-N-(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミドなどを、好ましく使用することができる。
【0055】
[カーボンブラック]
本発明のゴム成形品に係るゴム組成物に使用するカーボンブラックとしては特に制限はなく、例えば市販のカーボンブラックを使用することが出来る。中でも、窒素吸着比表面積が38~120m/gのカーボンブラックは、例えば40~90質量部含有することが好ましい。窒素吸着比表面積は、カーボンブラックの粒子径の指標とされているものであり、該窒素吸着比表面積が大きいということは、粒子径が小さいことを示す。このような範疇のカーボンブラックを適用した場合、良補強性(耐久性)と低摩擦性、及び低圧縮永久ひずみ率のゴム成形体(変形が小さいもの)が得られ易くなる。このようなカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネスブラックとして知られるISAF級、ISAF-HS級、ISAF-LS級、HAF級、HAF-HS級、HAF-LS級、MAF級、MAF-HS級、FEF級などのカーボンブラックが該当する。さらには、カラー用カーボンブラックや導電性カーボンブラックでも、窒素吸着比表面積が38~120m/gのものであれば、何ら問題なく使用することができる。例えば、トーカブラック♯7360SB、トーカブラック♯7270SB、トーカブラック♯4500(以上東海カーボン株式会社製)、MA8、MA230、MA220(以上三菱化学株式会社製)、SB735、SBSB285、SB335、SB605、SB625(以上旭カーボン株式会社製)などが挙げられる。
【0056】
また、前記カーボンブラック以外にも、硬さ調整や加工性調整を目的として、窒素吸着比表面積が38m/gよりも小さいカーボンブラックを併用して含有することが出来る。この窒素吸着比表面積が38m/gよりも小さいカーボンブラックは、例えばゴム成分100質量部に対して20質量部以下の範囲で使用することが好ましい。
【0057】
[加硫助剤]
また加硫剤としてイオウ化合物を使用する場合は、酸化亜鉛(ZnO)、複合亜鉛華、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛等の加硫助剤を併用することが好ましい。これらの加硫助剤は、単独もしくは二種以上併せて用いられる。
【0058】
ここで、複合亜鉛華とは、表面に酸化亜鉛(亜鉛華)の層を有し、コア成分として内部に無機金属塩を含有するものなどが知られており、例えば井上石灰工業社製のMETA-Z Lシリーズ(META-Z L40、L50、L60)などが例示される。
【0059】
酸化亜鉛若しくは複合亜鉛華の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、3質量部以上15質量部以下とすることが挙げられる。
【0060】
ステアリン酸若しくはステアリン酸亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上3質量部以下とすることが挙げられる。
【0061】
[老化防止剤]
本発明のゴム成形体に係るゴム組成物には、老化防止剤を含有させることが好ましい。本発明で使用するジエン系ゴム(天然ゴム、ブタジエンゴム)は、ゴム成分として耐オゾン性や耐熱性が高いというものではないため、公知の老化防止剤により適宜改良することが好ましい。老化防止剤としては、例えば、カルバメート系老化防止剤、フェニレンジアミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、ジフェニルアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、ワックス類等が挙げられる。これらは単独もしくは二種以上併せて用いられる。
【0062】
前記老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、1~15質量部の範囲が好ましく、3~10質量部の範囲がより好ましい。
【0063】
[充填剤]
本発明のゴム成形体に係るゴム組成物には、硬さ等の調整や加工性の改善を目的として、充填剤を含有させることができる。充填剤としては、湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカ等のシリカ、炭酸カルシウム、クレー、タルク等の通常のゴム組成物に使用される充填剤を、使用することができる。これらの充填剤は、単独もしくは二種以上併せて用いることができる。
【0064】
[プロセスオイル]
本発明のゴム成形体に係るゴム組成物には、硬さ等の調整や加工性の改善を目的として、プロセスオイルを含有させることができる。プロセスオイルとしては、例えば、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、アロマ系オイル等が挙げられる。これらは単独もしくは二種以上併せて用いることができる。
【0065】
[加工助剤]
本発明のゴム成形体に係るゴム組成物には、加工性の改善を目的として、加工助剤を含有させることができる。
【0066】
加工助剤としては、通常のゴムの加工に利用されている化合物を使用することができる。具体的には、リシノール酸、ステアリン酸、パルチミン酸、ラウリン酸等の高級脂肪酸や、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸の塩や、リシノール酸、ステアリン酸、パルチミン酸、ラウリン酸等の高級脂肪酸のエステル類などが、挙げられる。これらは単独もしくは二種以上併せて用いることができる。
【0067】
[カップリング剤]
本発明のゴム成形体に係るゴム組成物には、振動特性の調整を目的として、カーボンブラックとのカップリング剤や、シランカップリング剤が使用できる。カーボンブラックとのカップリング剤としては、例えば、ヒドラジド化合物系カップリング剤、スルフィド化合物系カップリング剤、ピラゾロン系化合物系カップリング剤などが挙げられ、シランカップリング剤としては、例えば、メルカプト系シランカップリング剤、スルフィド系シランカップリング剤、アミン系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤等が挙げられる。これらは、単独もしくは二種以上併せて用いることができる。中でも、前記シランカップリング剤においては、メルカプト系シランカップリング剤やスルフィド系シランカップリング剤などが好適なものとして挙げられる。これらは単独もしくは二種以上併せて用いることができる。
【実施例0068】
以下、本発明の実施例(実施例1~10)を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
≪ゴム成形品の作成≫
後述の表1,表2に示す実施例1~10および比較例1~8のゴム組成物において、型締め力50トン(約490kN)のインジェクション成形機により、図1に示すスタビライザブッシュ1の形状となるように成形(温度160℃にて8分間加硫成形)することにより、後述の表3,表4の評価用のゴム成形品(スタビライザブッシュ;以下、評価用成形品と適宜称する)をそれぞれ得た。
【0070】
≪ゴム組成物の作成≫
表1及び表2に示す割合で各種材料を配合して混練することにより、実施例1~10および比較例1~8のゴム組成物を調製した。なお、前記混練は、まず、加硫剤と加硫促進剤以外の材料を、バンバリーミキサーを用いて5分間混練して、混練物を得た。次いで、該混練物において、オープンロールを用いて冷却(オープンロール内の冷却水温度を約20℃に設定して冷却)しながら、加硫剤と加硫促進剤を添加して5分間混練することにより、それぞれのゴム組成物を作成した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
なお、表1、表2に記載した各種材料は、次の通りである。
・天然ゴム;SVR CV60
・ブタジエンゴム-1;シス1,4-結合量96、ムーニー粘度(ML1+4)63、ARLANXEO株式会社製「BUNA-CB21」
・ブタジエンゴム-2;シス1,4-結合量96、ムーニー粘度(ML1+4)44、JSR株式会社製「BR-01」
・パラフィンワックス-1;融点48、日本精蝋株式会社製「Paraffin Wax-115」
・パラフィンワックス-2;融点53、日本精蝋株式会社製「Paraffin Wax-125」
・パラフィンワックス-3;融点56、日本精蝋株式会社製「Paraffin Wax-130」
・パラフィンワックス-4;融点65、日本精蝋株式会社製「Ozoace-0100」
・マイクロクリスタリンワックス;融点75、日本精蝋株式会社「Hi-Mic-1070」
・脂肪酸アミド-1;オレイン酸アミド、融点75℃、三菱ケミカル株式会社製「ダイヤミッドO-200」
・脂肪酸アミド-2;エルカ酸アミド、融点81℃、三菱ケミカル株式会社製「ダイヤミッドL-200」
・脂肪酸アミド-3;ステアリン酸アミド、融点101℃、三菱ケミカル株式会社製「ダイヤミッド200」
・酸化亜鉛;堺化学工業社製「亜鉛華2種」
・ステアリン酸;日本油脂株式会社製「ステアリン酸つばき」
・老化防止剤-1;N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、LANXESS社製「ブルカノックス4020」
・老化防止剤-2;2-メルカプトベンズイミダゾール、大内振興株式会社製「ノクラックMB」
・カーボンブラック-1;窒素吸着比表面積75m/g(HAF級)、キャボットジャパン株式会社製「VULCAN 3D」
・カーボンブラック-2;窒素吸着比表面積47m/g(MAF級)、日鉄カーボン株式会社製「ニテロン♯10」
・オイル;ENEOS株式会社製「クリセフオイルH56」
・加硫系薬品-1;硫黄、鶴見化学工業社製「金華印微粉硫黄200Mesh」
・加硫系薬品-2;2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、大内振興化学株式会社製「ノクセラーMDB-P」
・加硫系薬品-3;4,4’-ジチオジモルホリン、川口化学株式会社製「アクターR」
・加硫系薬品-4;テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、大内振興化学株式会社製「ノクセラーTOT-N」
・加硫系薬品-5;テトラメチルチウラムジスルフィド、大内振興化学株式会社製「ノクセラーTT-P」
・加硫系薬品-6;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内振興化学株式会社製「ノクセラーCZ-G」
・加硫系薬品-7;1,3-ジフェニルグアニジン、大内振興化学株式会社製「ノクセラーD」
≪ゴム物性測定用の加硫ゴムシートの作成≫
表1,表2に示す実施例1~10及び比較例1~8のゴム組成物において、厚みが2mmとなるキャビティの2mmシート用金型を用いたコンプレッション成形により、160℃にて加硫時間(ct90+5)分加硫成型を行って、厚み2mmの加硫ゴムシート(以下、単に評価用ゴムシートと適宜称する)を得た。
【0074】
以上のようにして得られた実施例1~10及び比較例1~8のゴム組成物,評価用ゴムシート,評価用成形品を用い、下記の基準に従って、各特性の評価を行い、その結果を後記の表3及び表4にそれぞれ示した。なお、実施例1~10及び比較例1~8の各評価項目の評価方法は、次の通りである。
【0075】
≪加工性≫
実施例1~10及び比較例1~8のゴム組成物において、それぞれの作成時の混練性(いわゆるゴム練りの纏まり性等)を観察して評価した。この加工性の評価判断(表3,表4の〇,×)においては、各ゴム組成物の混練性を比較し、該混練性が比較的高い場合には〇、該混練性が比較的低い場合には×とした。
【0076】
≪加硫特性試験‐加硫速度の測定(未加硫試験)≫
実施例1~10及び比較例1~8のゴム組成物において、JIS K6300-2に準拠し、キュラストメータV型を用い、測定温度150℃、振幅角度±1°、振動数100cpmにて20分間加硫曲線を描き、加硫曲線からtC(10)分,tC(90)分値を求めた。
【0077】
≪ムーニースコーチタイム(ムーニースコーチ試験)≫
実施例1~10及び比較例1~8のゴム組成物において、JIS K 6300-1に準拠して、ムーニー粘度計にてL形ロータを用い、測定温度125℃におけるムーニー粘度の最低値をVmとし、Vmより5M上昇する時間t5を測定し、該t5をムーニースコーチタイムとした。
【0078】
このムーニースコーチ試験の評価判断においては、該ムーニースコーチタイムが12分より短い場合を、早期加硫の恐れがあり、ゴム成形品(異音防止用ブッシュ)としての生産性悪化が懸念されるものと見做し(不適合と判断し)、×とした。一方、該ムーニースコーチタイムが12分以上の場合は、ゴム成形品に適しているものと判断し、〇とした。
【0079】
≪加硫ゴム硬さ≫
実施例1~10及び比較例1~8のゴム組成物を用いて得た各評価用ゴムシートにおいて、それぞれ所定形状に切断加工してサンプル(加硫ゴム)を作成し、JIS K 6253-3に準拠して、タイプAデュロメータを用いて硬さHAを測定した。
【0080】
≪引張特性(引張試験)≫
実施例1~10及び比較例1~8のゴム組成物を用いて得た各評価用ゴムシートにおいて、それぞれJIS3号ダンベルで打ち抜き、JIS K 6251に準拠して、切断時引張強さ(Tb)、切断時伸び(Eb)を測定した。
【0081】
この引張試験の評価判断においては、破断強度(Tb)が14MPa以上の場合を、〇とした。一方、14MPaよりも小さい場合は、ゴム強度が低く、ゴム成形品として強い力が加わると破断し易くなるものと見做し(不適合と判断し)、×とした。
【0082】
≪摩擦係数≫
実施例1~10及び比較例1~8のゴム組成物を用いて得た各評価用ゴムシートにおいて、50mm×10mmに切断加工してサンプルSを作成し、23℃雰囲気下で24時間放置後、図4に示すヘイドン摩擦摩耗試験機6を用いて摩擦係数を測定した。すなわち、可動方向50mm・幅10mmの厚み2mmのサンプルSを、図4に示すように固定台60上を移動可能な可動台61上に接着し、この可動台61を面方向(図中黒抜き矢印方向)に毎秒16.7mmの速度で16.7mm移動させたとき、ロードセル62に固定されて移動不可能な相手材63に加わる力(F)をロードセル62で測定した。符号64は、ロードセル62と相手材63との間を支点にして当該相手材63を位置調整するする操作レバーであり、符号65は、ロードセル62と前記支点との間に装着されるバランサーである。
【0083】
ここで、相手材63としては、接触面が10mm×10mm、面粗度(Rmax)が5~10μmのステンレス製のものを使用した。また、相手材63には、100gの荷重(ウェイト)Wを載置した。摩擦係数μは、F=μMの式にて算出されるμ値である。なお、可動台61を移動し始めて最初に得られる摩擦係数ピークを静摩擦係数(μs)、その後16.7mm移動する間に得られる摩擦係数の平均値を動摩擦係数(μd)とした。
【0084】
≪ゴム成形品(スタビライザブッシュ)評価(異音評価試験)≫
〔製品初期の異音評価〕
図1及び図2に示すように中空部2(直径18mm)を有したスタビライザブッシュ1(外寸43mm)の評価用成形品において、以下に示す方法により、製品初期を模擬して異音の有無を測定した。
【0085】
まず、図4図5に示すように、スタビライザブッシュ1(評価用成形品)の本体3に設けられている中空部2に、表面が電着塗装(カチオン塗装)された直径19mmの鉄製バー4を挿通してから、当該スタビライザブッシュ1を、略U字状ブラケット5により中空部2径方向(図5中では矢印で示す軸直方向)に圧縮をかけた状態で、固定台50に固定した。
【0086】
次に、鉄製バー4を、ねじり方向(図5中では矢印で示すねじり方向)へ±15°,周波数1Hzで軸回転(入力)した。この軸回転を、低温雰囲気下(本実施例では温度0℃,-10℃,-20℃,-30℃,-40℃)で5分間行い、その際の異音発生の有無を測定した。
【0087】
この製品初期を模擬した異音評価の判断においては、前記軸回転開始から5分までの間に異音発生が無かった場合を〇とし、異音発生が生じた場合を×とした。
【0088】
〔製品耐久後の異音評価〕
前記項目〔製品初期の異音評価〕の測定で〇と判断された場合においては、以下に示す方法により、製品耐久後を模擬して異音の有無を測定した。
【0089】
まず、前記項目〔製品初期の異音評価〕の測定の直後に、該測定と同様の軸回転条件(ねじり方向±15°、周波数1Hz、低温雰囲気下)で鉄製バー4の軸回転を168時間行い、その後、中空部2と鉄製バー4との両者間(隙間)に水を注入してから、該鉄製バー4の軸回転を更に5分間行い、その際の異音発生の有無を測定した。
【0090】
この製品耐久後を模擬した異音評価の判断においては、前記項目〔製品初期の異音評価〕と同様である。
【0091】
≪総合判定≫
前記各評価項目の全てが〇のものは総合判定〇、一つでも判定に×が含まれるものは総合判定×とした。
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
表1及び表2に示す各ゴム組成物の配合割合と、表3及び表4に示す結果から、以下に示すことが言える。
【0095】
まず、実施例1~10は、使用したゴム組成物において、天然ゴム(NR)/ブタジエンゴム(BR)比が80/20~10/90であり、全ゴム成分を100質量部とした場合に、融点45~57℃のパラフィンワックスを20~70質量部含有し、かつ、融点45~57℃のパラフィンワックスと融点35~85℃の脂肪酸アミドの合計の含有量が30~100質量部という範疇(以下、本発明範疇と適宜称する)になっている。そして、実施例1~10の各評価項目は全てが〇であり、総合判定は〇であった。
【0096】
一方で、本発明範疇を1つでも外れるゴム組成物を用いた場合、すなわち比較例1~8においては、各評価項目のうち何れかの項目で×があり、総合判定が×であった。
【0097】
具体的に、使用したゴム組成物においてパラフィンワックスを含有せず脂肪酸アミド-2のみ含有している比較例1および比較例2は、室温雰囲気下での摩擦係数は低いものの、製品初期もしくは製品耐久後の何れかにおける低温雰囲気下の異音評価試験で異音が発生した。なお、製品初期の異音評価試験で異音が発生した場合は、ゴム成形品として不適合であると判断し、製品耐久後の異音評価試験は実施しなかった(以下同様)。
【0098】
また、使用したゴム組成物においてパラフィンワックスと脂肪酸アミドの合計量が30質量部未満である比較例3は、製品初期における低温雰囲気下の異音評価試験で異音が発生した。また、使用したゴム組成物において融点が高いパラフィンワックス-4もしくはマイクロクリスタリンワックスを含有している比較例4および比較例5と、使用したゴム組成物において高融点の脂肪酸アミドとパラフィンワックス-2を併用している比較例6は、製品初期における低温雰囲気下の異音評価試験で異音が発生した。使用したゴム組成物においてゴム成分中に天然ゴム(NR)を含有せずブタジエンゴム(BR)のみ含有している比較例7は、ゴム練り加工性が悪く、さらに、引張試験でのゴム強度が低く、ゴム成形品として不適合と判断した(これにより、比較例7における異音評価試験は実施しなかった)。使用したゴム組成物においてブタジエンゴム(BR)を含有していない比較例8は、製品初期における低温雰囲気下の異音評価試験で異音が発生した。
【0099】
なお、使用したゴム組成物のワックス成分としてパラフィンワックスのみ50質量部含有した実施例5と、使用したゴム組成物における天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)の比率がNR/BR=70/30である実施例6は、全ての評価項目で良好な結果が得られており、室温雰囲気下の摩擦係数が僅かに高くなる傾向はあるものの、特に問題は無い。また、使用したゴム組成物のブタジエンゴム(BR)においてムーニー粘度(ML1+4)44である実施例6は、全ての評価項目で良好な結果が得られており、実施例1と比較してゴム強度が僅かに低くなる傾向はあるものの、特に問題は無い。
【0100】
ゆえに、本発明のゴム成形体に係るゴム組成物のように、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)を主ゴム成分とし、かつ、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)の割合をNR/BR比で80/20~10/90とし、全ゴム成分を100質量部とした場合に融点45~57℃のパラフィンワックスを20~70質量部含有するものとし、かつ、該パラフィンワックスと融点35~85℃の脂肪酸アミドの合計の含有量を40~100質量部の範疇とすることにより、低温雰囲気下(特に長期間使用後の低温雰囲気下)での使用においても異音抑制効果に優れたゴム成形品を得ることができる。
【0101】
本発明のゴム成形体においては、従来のゴム組成物(例えば特許文献1~3に示すようなゴム組成物)を用いた場合のゴム成形体と比較すると、擦れによる異音が発生し易い低温雰囲気下での使用においても優れた異音抑制効果を発揮でき、長期間使用した後の低温雰囲気下や摩擦を繰り返した後の低温雰囲気下でも優れた異音発生抑制効果を維持できる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明に係るゴム成形体は、ゴム部と摺接対象部材との間で接触や擦れが生じても摺動性に優れ、特に低温雰囲気下での接触や擦れ時にも異音が発生し難くなる。特に、長期間摺動した後の低温雰囲気下においても、擦れによる異音が発生し難くなる。
【0103】
例えば、スタビライザブッシュ等のように外気に曝されることが多いゴム成形品は、寒冷地や冬場において、-40℃~5℃のような低温雰囲気下で使用されることがある。従って、本発明に係るゴム成形体は、長期間擦れが発生し得るものであって低温雰囲気下でも使用され得る自動車用ゴム成形品、例えばスタビライザブッシュなどとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0104】
1…スタビライザブッシュ
2…中空部
3…本体(ゴム部)
4…スタビライザバー
5…ブラケット
図1
図2
図3
図4
図5