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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101702
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】果実酒
(51)【国際特許分類】
   C12G 1/00 20190101AFI20240723BHJP
   C12G 1/02 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C12G1/00
C12G1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005770
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【弁理士】
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】越智 尚子
(57)【要約】
【課題】濃縮ぶどう果汁を含有する果実酒においてワインらしさ(複雑味)が高められたものを提供すること。
【解決手段】濃縮ぶどう果汁を含有する果実酒において、タンパク質の含有量を0.210g/ml以上に調整する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の含有量が0.210g/100ml以上であり、原料として濃縮ぶどう果汁を含有する、果実酒。
【請求項2】
糖分の含有量が2.9g/100ml以下である、請求項1に記載の果実酒。
【請求項3】
添加物として亜硫酸を含まない、請求項1又は2に記載の果実酒。
【請求項4】
飲料中の亜硫酸の含有量が150ppm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の果実酒。
【請求項5】
濃縮ぶどう果汁が濃縮還元ぶどう果汁を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の果実酒。
【請求項6】
高甘味度甘味料を含まない、請求項1~5のいずれか1項に記載の果実酒。
【請求項7】
アルコール1.0v/v%あたりのタンパク質の含有量が0.018g/100ml以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の果実酒。
【請求項8】
ワインである、請求項1~7のいずれか1項に記載の果実酒。
【請求項9】
容器詰めされたものである、請求項1~8のいずれか1項に記載の果実酒。
【請求項10】
果実酒の製造方法であって、
濃縮ぶどう果汁を発酵させる工程、及び、
飲料中のタンパク質の含有量を0.210g/100ml以上に調整する工程、
を含む、前記製造方法。
【請求項11】
糖分の含有量を2.9g/100ml以下に調整する工程をさらに含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
濾過工程を含まない、請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項13】
添加物として亜硫酸を配合する工程を含まない、請求項10~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
濃縮ぶどう果汁が濃縮還元ぶどう果汁を含むものである、請求項10~13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
アルコール1.0v/v%あたりのタンパク質の含有量を0.018g/100ml以上に調整する工程をさらに含む、請求項10~14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
果実酒がワインである、請求項10~15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
容器詰めする工程をさらに含む、請求項10~16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
濃縮ぶどう果汁を含有する果実酒におけるワインらしさを高める方法であって、
濃縮ぶどう果汁を発酵させる工程、及び、
飲料中のタンパク質の含有量を0.210g/100ml以上に調整する工程、
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は果実酒に関する。より詳細には、本発明は、濃縮ぶどう果汁を含有し、かつタンパク質の含有量が0.210g/100ml以上である果実酒などに関する。
【背景技術】
【0002】
果実酒の製造方法の一つに、果汁を加熱処理などにより濃縮した濃縮果汁を希釈し、これに酵母を添加してアルコール発酵させて製造する方法が知られている。濃縮果汁は、原料の長期保存が可能になる、希釈などによる味の調整が可能になる、大量生産に適するなどの利点から、果実酒の原料として汎用されている。しかし、濃縮果汁を用いて製造された果実酒は、ぶどう果実又はストレート果汁をアルコール発酵させて製造された果実酒と比較して、ワインらしさに欠けるという課題があった。
【0003】
一方、特許文献1には、有機酸の組成を調整して、ワイン様の風味が改善・向上されたワイン風味飲料を提供する技術が記載されている。また、特許文献2には、特定の高級アルコール及び脂肪酸エステルの含有量をそれぞれ調整して、ワイン風味飲料に発酵感を付与する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-255490号公報
【特許文献2】特開2021-106526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、濃縮ぶどう果汁を含有する果実酒においてワインらしさ(複雑味)が高められたものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の通り、濃縮ぶどう果汁を含有する果実酒においては、ぶどう果実又はストレート果汁をアルコール発酵させて製造された果実酒と比較して、ワインらしさに欠けるという課題があった。このような状況において、本発明者らは鋭意検討した結果、濃縮ぶどう果汁を含有する果実酒中のタンパク質を一定量含ませることで、ワインらしさを付与できることを見出した。より具体的には、濃縮ぶどう果汁を含有する果実酒において、タンパク質の含有量を一定量以上に調整することで、果実味やワインらしさを付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のものに関するが、これらに限定されない。
(1)タンパク質の含有量が0.210g/100ml以上であり、原料として濃縮ぶどう果汁を含有する、果実酒。
(2)糖分の含有量が2.9g/100ml以下である、(1)に記載の果実酒。
(3)添加物として亜硫酸を含有しない、(1)又は(2)に記載の果実酒。
(4)飲料中の亜硫酸の含有量が150ppm以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の果実酒。
(5)濃縮ぶどう果汁が濃縮還元ぶどう果汁を含む、(1)~(4)のいずれかに記載の果実酒。
(6)高甘味度甘味料を含まない、(1)~(5)のいずれかに記載の果実酒。
(7)アルコール1.0v/v%あたりのタンパク質の含有量が0.018g/100ml以上である、(1)~(6)のいずれかに記載の果実酒。
(8)ワインである、(1)~(7)のいずれかに記載の果実酒。
(9)容器詰めされたものである、(1)~(8)のいずれかに記載の果実酒。
(10)果実酒の製造方法であって、
濃縮ぶどう果汁を発酵させる工程、及び、
飲料中のタンパク質の含有量を0.210g/100ml以上に調整する工程、
を含む、前記製造方法。
(11)糖分の含有量を2.9g/100ml以下に調整する工程をさらに含む、(10)に記載の製造方法。
(12)濾過工程を含まない、(10)又は(11)に記載の製造方法。
(13)添加物として亜硫酸を配合する工程を含まない、(10)~(12)のいずれかに記載の製造方法。
(14)濃縮ぶどう果汁が濃縮還元ぶどう果汁を含むものである、(10)~(13)のいずれかに記載の製造方法。
(15)アルコール1.0v/v%あたりのタンパク質の含有量を0.018g/100ml以上に調整する工程をさらに含む、(10)~(14)のいずれかに記載の製造方法。
(16)果実酒がワインである(10)~(15)のいずれかに記載の製造方法。
(17)容器詰めする工程をさらに含む、(10)~(16)のいずれかに記載の製造方法。
(18)濃縮ぶどう果汁を含有する果実酒におけるワインらしさを高める方法であって、
濃縮ぶどう果汁を発酵させる工程、及び、
飲料中のタンパク質の含有量を0.210g/100ml以上に調整する工程、
を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、原料として濃縮ぶどう果汁を含有する果実酒であっても、ワインらしさに優れた果実酒を提供することができる。これにより、比較的低価格でワインらしさに優れた果実酒を市場に流通させることが可能となり、消費者の満足度を高めることができる。なお、本明細書において、「ワインらしさ」とは、ぶどう果実又はストレート果汁を発酵させたときに感じられる複雑味を意味する。また、本発明により作られた果実酒は雑味を抑えることもできた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
特に断りがない限り、本明細書において用いられる「ppm」は、重量/容量(w/v)のppmを意味する。
【0010】
(果実酒)
本発明の一態様は、タンパク質の含有量が0.210g/100ml以上であり、原料として濃縮ぶどう果汁を含有する、果実酒である。
【0011】
本明細書における「果実酒」とは、原料となる濃縮ぶどう果汁を酵母の作用によりアルコール発酵させて得られる発酵飲料、及びそのような発酵飲料を主な原料として含む飲料を意味する。本発明の果実酒に用いられる発酵原料としては、ぶどう果汁を単独で用いてもよいし、ぶどう果汁の他にりんご果汁、もも果汁、グレープフルーツ果汁、パイナップル果汁、マンゴー果汁などの果汁を適宜組み合わせて用いてもよい。前記定義を満たす限り、本発明における果実酒は、酒税法などの法律に基づくカテゴリーに限定されないが、本発明における果実酒の範囲には、日本の酒税法による果実酒、甘味果実酒、リキュール、その他の醸造酒が含まれる。
【0012】
本発明における好ましい果実酒の一つはワインである。本明細書における「ワイン」とは、ぶどう果汁を主な原料として製造される発酵飲料、及びそのような発酵飲料を主な原料として含む飲料を意味する。ワインには、赤ワイン、白ワイン、ロゼワインが含まれる。
【0013】
本発明の果実酒のpHは特に限定されないが、pHの下限値は好ましくはpH2.5、pH2.7、又はpH3.0であり、より好ましくはpH3.2である。また、pHの上限値は好ましくはpH4.0、pH3.9、又はpH3.8であり、より好ましくはpH3.7である。典型的には、本発明の果実酒のpHの範囲は、好ましくはpH2.5~4.0、pH2.7~3.9、又はpH3.0~3.8であり、より好ましくはpH3.2~3.7である。果実酒のpHは、pH調整剤などを用いて調整することができる。pH調整剤の具体例としては、クエン酸、クエン酸ナトリウム(クエン酸三ナトリウムなど)、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リンゴ酸、リン酸、グルコン酸、コハク酸などが挙げられる。
【0014】
本発明の果実酒のアルコール度数は、特に限定されないが、アルコール度数の下限値は好ましくは1v/v%、3v/v%、5v/v%、7v/v%、9v/v%、又は10v/v%であり、より好ましくは11v/v%である。また、アルコール度数の上限値は好ましくは20v/v%、18v/v%、16v/v%、15v/v%、又は14v/v%であり、より好ましくは13v/v%である。典型的には、本発明の果実酒のアルコール度数の範囲は、好ましくは1~20v/v%、3~18v/v%、5~16v/v%、7~15v/v%、9~14v/v%、又は10~14v/v%であり、より好ましくは11~13v/v%である。アルコール度数の調整方法は、添加するアルコール成分の量の調整などの、公知のいずれの方法を用いてもよい。
【0015】
本明細書に記載の「アルコール」との用語は、特に断らない限りエタノールを意味する。本明細書において、果実酒のアルコール度数は公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、果実酒を直火蒸留し、得られた留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。アルコール度数が1.0%未満の低濃度の場合は、市販のアルコール測定装置や、ガスクロマトグラフィーを用いても良い。なお、果実酒が炭酸を含む場合は、濾過又は超音波によって炭酸ガスを抜いて測定用の試料とすることができる。
【0016】
本発明の果実酒は、炭酸ガスを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。例えば、発酵過程で発生する二酸化炭素が果実酒に溶け込んだものでもよい。また、炭酸ガスは当業者に通常知られる方法を用いて果実酒に付与することもできる。具体的には、二酸化炭素を加圧下で果実酒に溶解させてもよく、カーボネーターなどのミキサーを用いて配管中で二酸化炭素と果実酒とを混合してもよく、二酸化炭素が充満したタンク中に果実酒を噴霧することにより二酸化炭素を果実酒に吸収させてもよく、果実酒と炭酸水とを混合してもよいが、これらに限定されるものではない。また、これらの手段を適宜用いて炭酸ガス圧を調節する。
【0017】
炭酸ガス圧の測定は、公知の方法によって行うことができる。例えば、京都電子工業製ガスボリューム測定装置GVA-500Aを用いて測定することができる。より詳細には、試料温度を20℃とし、前記ガスボリューム測定装置において容器内空気中のガス抜き(スニフト)、振とう後、炭酸ガス圧を測定する。本明細書においては、特段の記載がない限り、当該方法によって炭酸ガス圧を測定する。
【0018】
本発明の果実酒が炭酸ガスを含む場合、その炭酸ガス圧は、特に限定されないが、測定時の液温が20℃の際の果実酒のスニフト後のガス圧が、好ましくは0.7~3.5kgf/cm、より好ましくは0.8~2.8kgf/cm、さらにより好ましくは0.8~2.5kgf/cmである。
【0019】
本発明の果実酒は、容器詰め飲料(容器詰め果実酒)とすることができる。容器詰め飲料とすることにより長期間に渡って安定に保存することが可能になるため好適である。容器詰め飲料の容器は特に限定されず、金属製容器、樹脂製容器、紙容器、ガラス製容器など、通常用いられる容器のいずれも用いることができる。具体的には、アルミ缶やスチール缶などの金属製容器、PETボトルなどの樹脂製容器、紙パックなどの紙容器、ガラス瓶などのガラス製容器などを挙げることができる。これらの中では、ガラス瓶又はPETボトルを用いることが好ましく、ガラス瓶詰め又はPETボトル詰めの果実酒とすることができる。
【0020】
また、本発明の果実酒には殺菌処理を施すこともできる。殺菌処理としては、加熱殺菌処理と非加熱殺菌処理とが挙げられ、これらのうち加熱殺菌を行うことが好ましい。加熱殺菌処理は、例えば50~80℃(好ましくは60~70℃)で5分以上(好ましくは10分以上)の条件で行うことができる。非加熱殺菌としては、例えば、メンブレンフィルターや中空糸を用いたろ過滅菌、紫外線殺菌などが挙げられる。また、上記の通り本発明の果実酒を容器詰め飲料とする場合には、殺菌処理の有無に関わらず無菌充填法を用いることができ、無菌充填された容器詰め飲料とすることができる。
【0021】
(タンパク質)
本発明の果実酒は、タンパク質の含有量は0.210g/100ml以上である。また、一態様では、本発明の果実酒中のタンパク質の含有量の下限値は、好ましくは0.215ml以上、0.220g/100ml以上であり、より好ましくは0.225g/100ml以上である。また、本発明の果実酒中のタンパク質の含有量の上限値は特に限定されないが、0.400g/100ml以下、0.380g/100ml以下、又は0.360g/100ml以下であることが好ましく、0.340g/100ml以下であることがより好ましい。典型的には、本発明の果実酒おけるタンパク質の含有量の範囲は、好ましくは0.210~0.400g/100ml、0.215~0.380g/100ml、又は0.220~0.360g/100mlであり、より好ましくは0.225~0.340g/100mlである。濃縮ぶどう果汁を含有する果実酒において、タンパク質の含有量の下限値を0.215g/100ml以上とすることでワインらしさを付与できるが、タンパク質の含有量が高すぎると雑味が増える傾向にあった。
【0022】
本発明の果実酒は、一態様では、アルコール1.0v/v%あたりのタンパク質の含有量が0.018g/100ml以上である。また、一態様では、本発明の果実酒のアルコール1.0v/v%あたりのタンパク質の含有量は、好ましくは0.019g/100ml以上であり、より好ましくは0.020g/100ml以上である。本発明の果実酒において、アルコール1.0v/v%あたりのタンパク質の含有量の上限値は特に限定されないが、好ましくは0.030g/100ml以下、0.029g/100ml以下、又は0.028g/100ml以下であり、より好ましくは0.027g/100ml以下である。典型的には、本発明の果実酒おけるアルコール1.0v/v%あたりのタンパク質の含有量の範囲は、好ましくは0.018~0.030g/100ml、0.019~0.029g/100ml、又は0.019~0.028g/100mlであり、より好ましくは0.020~0.027g/100mlである。
【0023】
本発明の果実酒において、果実酒中のタンパク質の含有量の調整方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができ、例えば、発酵条件(例えば、発酵温度、発酵時間、発酵後の貯酒期間など)や発酵後の処理条件(遠心分離、濾過方法など)によって調整することができる。一般に、濃縮ぶどう果汁の発酵時間や発酵後の貯酒期間が長いほど、果実酒中のタンパク質の含有量は多くなる。一方で、濃縮ぶどう果汁を発酵した後の遠心分離処理の回転数が大きいほど、遠心分離時間が長いほど、果実酒中のタンパク質の含有量は減少する。また、濃縮ぶどう果汁を発酵した後の濾過方法(捕捉サイズやフィルター材質など)によっても果実酒中のタンパク質の含有量の減少量は変動する。これらの遠心分離処理や濾過方法を組み合わせることで、本発明の果実酒におけるタンパク質含有量を所望の範囲に調整することができる。
【0024】
また、本発明の果実酒におけるタンパク質の含有量は、原料の種類、使用量及び添加タイミングを調整することによっても、所定の範囲に適宜調整することができる。タンパク質の含有量を調整する際に使用するタンパク質の種類は飲料に使用できる限り特に制限はなく、任意のタンパク質を使用することができる。タンパク質の具体例としては、例えば、酵母由来のタンパク質(酵母エキスなど)、乳、卵、肉由来の動物性タンパク質、及び大豆、小麦、大麦由来の植物性タンパク質などが挙げられる。
【0025】
本発明の果実酒において、タンパク質の含有量の測定法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、「食品表示基準について(令和2年11月30日改正消食表第454号)」に沿った窒素定量換算法(ケルダール法、燃焼法など)により測定することができる。
【0026】
(濃縮ぶどう果汁)
本発明の果実酒は、原料として濃縮ぶどう果汁を含有する。濃縮ぶどう果汁とは、ストレートぶどう果汁に対し、加熱濃縮法や冷凍濃縮法などによってぶどう果汁中の水分を取り除き、果汁の濃度を高めたものをいう。また、一態様では、本発明の果実酒には、原料として濃縮ぶどう果汁のみを用いてもよいし、濃縮ぶどう果汁とストレートぶどう果汁とを組み合わせて使用してもよい。
【0027】
また、一態様では、本発明の果実酒において、原料として用いる濃縮ぶどう果汁は、濃縮還元ぶどう果汁を含有することが好ましい。濃縮還元ぶどう果汁とは、濃縮ぶどう果汁に対し、計算上、ストレートぶどう果汁と同等の濃度となるように水などで希釈した果汁をいう。本発明の果実酒において濃縮還元ぶどう果汁を原料に使用した場合、果実の搾汁液をそのまま使用して調製した場合よりも品質安定性が向上することが期待される。また、濃縮還元ぶどう果汁では果実の搾汁液と比べて揮発性香気成分の組成が異なることから、果実酒における果実らしい香りや味わい、あるいは芳醇な香りをより強く感じられることもある。
【0028】
濃縮還元ぶどう果汁は、非加熱殺菌されたものであってもよいし、加熱殺菌されたものであってもよい。非加熱殺菌としては、例えば、メンブレンフィルターや中空糸を用いたろ過滅菌、紫外線殺菌などが挙げられる。また、加熱殺菌としては、例えば、100℃以上で行う高温殺菌、100℃未満で行う低温殺菌などが挙げられる。
【0029】
濃縮還元ぶどう果汁を用いる場合、通常は濃縮果汁を水などで希釈するが、元の果汁(濃縮前の果汁)に対して少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%、特に好ましくは100%の果汁率となるように調整して希釈することができる。即ち、例えば10倍濃縮された濃縮果汁を用いた場合は、これを10倍希釈することにより、元の果汁(濃縮前の果汁)に対して100%の果汁率となるように調整されたとすることができる。
【0030】
(糖分)
一態様では、本発明の果実酒における糖分の含有量は2.9g/100ml以下であり、2.5g/100ml以下、2.0g/100ml以下、1.5g/100ml以下、又は1.2g/100ml以下であることが好ましく、1.0g/100ml以下であることがより好ましい。近年の健康志向の高まりにより、果実酒においても低糖分飲料の人気が高まっていることに加え、糖分の含有量を低く抑えた果実酒は味質を改善する点でも好ましい。
【0031】
本明細書において「糖分」とは、飲料などに含まれる、単糖類、少糖類、及び多糖類を意味する。ワイン等の果実酒の主要な糖は、単糖であるグルコースとフルクトースである。糖分の含有量を測定する方法は特に限定されないが、例えば、国税庁所定分析法に記載されているような滴定法、又はフローインジェクション分析法である。
【0032】
果実酒中の糖分の含有量を調整する方法は特に限定されない。例えば、糖分を構成する物質を、又はそれを含む材料を、原料として製造工程の任意のタイミングで添加することができる。
【0033】
(亜硫酸)
本発明の果実酒において、添加物として亜硫酸を含有しないことが好ましい。本明細書において亜硫酸は、化学式HSOで表される硫黄のオキソ酸を意味し、亜硫酸塩も包含する概念である。亜硫酸塩としては、特に限定されないが、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸鉄等が挙げられる。なお、亜硫酸塩が用いられる場合は、これを亜硫酸の遊離体(即ち、SO)の量に換算した上で亜硫酸の添加量を算出することができる。
【0034】
もっとも、果実酒の製造過程の中で亜硫酸は、果実酒の原料となる果実の破砕時やアルコール発酵時などに用いられたり、アルコール発酵中に酵母によって亜硫酸が生成されたりする場合がある。そのような場合には、製造後の果実酒においても若干量の亜硫酸は存在することになる。そのため、本発明の果実酒における亜硫酸の含有量は150ppm以下、100ppm以下、80ppm以下、又は40ppm以下であることが好ましい。
【0035】
本発明の果実酒において亜硫酸は、重亜硫酸イオン(HSO )、亜硫酸イオン(SO 2-)及び亜硫酸(HSO)を包含する遊離型として、又はアセトアルデヒドなどのカルボニル化合物と結合した結合型として存在し得る。本明細書においては、これら遊離型及び結合型の亜硫酸の合計値を果実酒中の亜硫酸含有量と定義し、その量をppm(w/v)で表す。亜硫酸含有量の測定方法としては、ランキン法(Aeration-Oxidation法)、ヨード滴定法のリッパー法、及び酵素法が知られているが、本明細書では、ランキン法によって分析するものとする。
【0036】
(その他の成分など)
本発明の果実酒はまた、味(例えば、甘味)の調整のために、甘味料を含有してもよいが、高甘味度甘味料は含まないことが好ましい。本明細書において「高甘味度甘味料」との用語は、ショ糖に比べて強い甘味を有する(例えばショ糖の数倍から数百倍の甘味を有する)天然甘味料及び合成甘味料を意味する。そのような高甘味度甘味料としては、ペプチド系甘味料、例えばアスパルテーム、アリテームなど;配糖体系甘味料、例えばステビア甘味料(ステビア抽出物及びステビアを酵素処理してブドウ糖を付加した酵素処理ステビア及びステビアの甘味成分の中で最も甘味質のよいレバウディオサイドAを含む)、カンゾウ抽出物など;ショ糖誘導体、例えばスクラロースなど;合成甘味料、例えばアセスルファムK、サッカリンなどが挙げられる。
【0037】
本発明の果実酒には、飲料に通常配合する添加剤、例えば、香料、ビタミン、色素、着色剤、乳化剤、保存料(ソルビン酸、ソルビン酸カリウムなど)、粘ちょう剤(グリセリン、カラギナン、アラビアガムなど)、有機酸(乳酸、酒石酸、リンゴ酸など)、アミノ酸(アラニン、グリシン、グルタミン酸など)、無機塩類(炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなど)、エキス類、pH調整剤などを配合することができる。
【0038】
本発明の果実酒のBrix値は特に限定されないが、好ましくは5~15、より好ましくは7~9である。飲料のBrixは、公知の方法を用いて測定してもよく、例えば、市販のBrix計を使用することができる。
【0039】
(果実酒の製造方法、濃縮ぶどう果汁を含有する果実酒におけるワインらしさを高める方法)
本発明は、一態様では、果実酒の製造方法である。当該方法は、濃縮ぶどう果汁を発酵させる工程、及び、飲料中のタンパク質の含有量を0.210g/100ml以上に調整する工程を含む。また、当該方法には、糖分の含有量を2.9g/100ml以下に調整する工程や、アルコール1.0v/v%あたりのタンパク質の含有量を0.018g/100ml以上に調整する工程、容器詰めする工程をさらに含めることもできる。また、一態様では、当該方法には、濾過工程や添加物として亜硫酸を配合する工程を含めないことが好ましい。さらに、この方法は、濃縮ぶどう果汁を含有する果実酒におけるワインらしさを高めることができるため、別の側面では、当該果実酒におけるワインらしさを高める方法でもある。
【0040】
果実酒中のタンパク質の含有量及び糖分の含有量を調整する方法や、アルコール度数を調整する方法は、当該果実酒に関する前述の記載から自明であり、そのタイミングも限定されない。例えば、上記工程を同時に行ってもよいし、別々に行ってもよいし、工程の順番を入れ替えてもよい。最終的に得られた飲料が、上記の条件を満たせばよい。また、上記成分の含有量等の好ましい範囲は、果実酒に関して前述した通りである。さらに、追加的な他の成分やパラメーターの具体例や量も、果実酒に関して前述した通りである。
【0041】
(数値範囲)
明確化のために記載すると、本明細書において下限値と上限値によって表されている数値範囲、即ち「下限値~上限値」は、それら下限値及び上限値を含む。例えば、「1~2」により表される範囲は、1及び2を含む。
【実施例0042】
以下、実験例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0043】
1.サンプル1~8の調製
まず、亜硫酸無添加の濃縮赤ぶどう果汁を、糖度が25.3%となるように水で希釈した。その後、リン酸水素二アンモニウムと酵母(ワイン酵母)を添加してアルコール発酵を行った。発酵後は酵母を取り除いて原料酒とした(サンプル8)。その後、前記原料酒を水で希釈して、アルコール度数を12v/v%に調整した(サンプル3)。
【0044】
次に、前述の原料酒を珪藻土濾過して濾過原料酒を調製し、その後アルコール度数が12%になるよう水で調整してサンプル1を得た。また、前述の原料酒と濾過原料酒を1:1の割合で混合し、アルコール度数が12%になるよう水で調整してサンプル2を得た。
【0045】
さらに、前述の原料酒に水と酵母エキス(ワイン酵母エキス)を下記表1に示す割合で配合し、サンプル4~7を得た。
【0046】
2.比較対照(対照サンプル)の設定
前述の通り、濃縮ぶどう果汁を含有する果実酒においては、ぶどう果実又はストレート果汁をアルコール発酵させて製造された果実酒と比較して、ワインらしさに欠けるという課題があった。そこで、比較対照(対照サンプル)として、ぶどう果実をアルコール発酵させて製造されたワイナリーワイン(ボジョレー・ヌーヴォー 2022 セレクション・ド・デュブッフ、2022年製造)を設定した。
【0047】
3.タンパク質の含有量の測定
各サンプル中のタンパク質の含有量は、外部分析機関として日本食品分析センターに委託して測定した。具体的には、消費者庁所定の分析方法に従い、燃焼法を用いた窒素定量換算法を用いて測定した。
【0048】
4.官能評価試験
各サンプル及び比較対象を9名のパネラーが試飲して、「果実味」、「雑味」及び「ワインらしさ」について以下の基準(1~4点の間で0.1点刻み)で官能評価を行い、評価点数(評点)の平均値を算出した。「果実味」と「ワインらしさ」については2点以上を合格点とし、「雑味」については3点未満を合格点とした。なお、前述の通り、「ワインらしさ」とは、ぶどう果実又はストレート果汁を発酵させたときに感じられる複雑味を意味する。また、パネラー間では、各評価項目について評価基準となるサンプル(対照サンプル)を使用して、ワインらしさなどの評価内容とそれに対応する点数との関係を確認し、点数付けをできる限り共通化してから官能評価試験を実施した。
【0049】
<果実味>
4点:強く感じる
3点:感じる
2点:やや感じる
1点:感じない
【0050】
<雑味>
1点:感じない
2点:ほとんど感じない
3点:やや感じる
4点:感じる
【0051】
<ワインらしさ>
4点:強く感じる
3点:感じる
2点:やや感じる
1点:感じない
【0052】
結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示す通り、ぶどう果実をアルコール発酵させて製造されたワイナリーワイン(対照サンプル)は、果実味と共にワインらしさも強く感じられた。また、対照サンプルでは雑味も低く抑えられていた。一方で、原料として濃縮ぶどう果汁を含有する果実酒であって、タンパク質の含有量が0.210g/100mlを下回るサンプル(サンプル1)では、果実味が弱く、ワインらしさも感じられなかった。しかしながら、飲料中のタンパク質の含有量を0.210g/100ml以上に高めることで、果実味と共に、ワインらしさも強く感じられるようになることが明らかとなった。また、飲料中のタンパク質の含有量を0.210g/100ml以上に高めても、雑味は抑えられたままであった。
【0055】
以上の結果、濃縮ぶどう果汁を含有する果実酒において、タンパク質の含有量を0.210g/100ml以上とすることで、果実味が強く、ワインらしい果実酒を提供できることが明らかとなった。