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特開2024-101742セルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法
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  • 特開-セルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101742
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】セルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 11/08 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
C08B11/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005844
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】今泉 卓三
(72)【発明者】
【氏名】後藤 直美
(72)【発明者】
【氏名】芝 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】竹内 和也
(72)【発明者】
【氏名】大石 陽介
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA24
4C090BB02
4C090BB12
4C090BB52
4C090BB65
4C090BB92
4C090CA02
4C090CA36
4C090DA28
4C090DA31
(57)【要約】
【課題】疎水化セルロースの製造方法に際し、不純物を確実かつ効率的に除去することが可能なセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法を提供する。
【解決手段】 疎水化セルロースを得るための疎水化反応を停止させつつ洗浄するセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法であって、容器内部にはニーディング形状のスクリューを二軸以上備え、かつ、前記容器内部の有効容積を前記容器内部の容積で除した値である容器内部の有効容積率が0.65以下である混練機を用いて、前記混練機に疎水化反応中の疎水化パルプと洗浄成分が供給されて混練されて洗浄される混練洗浄工程により疎水化反応を停止させつつ洗浄して疎水化セルロースを得ることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水化セルロースを得るための疎水化反応を停止させつつ洗浄するセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法であって、
容器内部にはニーディング形状のスクリューを二軸以上備え、かつ、前記容器内部の有効容積を前記容器内部の容積で除した値である容器内部の有効容積率が0.65以下である混練機を用いて、
前記混練機に疎水化反応中の疎水化パルプと洗浄成分が供給されて混練されて洗浄される混練洗浄工程により疎水化反応を停止させつつ洗浄して疎水化セルロースを得る
ことを特徴とするセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法。
【請求項2】
前記混練機が混練押出機である請求項1に記載のセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法。
【請求項3】
前記混練洗浄工程が向流洗浄である請求項1又は2に記載のセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法。
【請求項4】
前記洗浄成分が原料パルプ100重量部に対して85重量部以上の割合で供給される請求項1に記載のセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法。
【請求項5】
前記洗浄成分がプロトン性極性溶媒である請求項1に記載のセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法。
【請求項6】
前記疎水化パルプの固形分濃度が10重量%以上である請求項1に記載の疎水化反応停止及び洗浄方法。
【請求項7】
前記疎水化反応がエステル化反応である請求項1に記載の疎水化反応停止及び洗浄方法。
【請求項8】
前記疎水化反応のための修飾反応化剤がビニル系化合物である請求項1に記載の疎水化反応停止及び洗浄方法。
【請求項9】
前記疎水化反応のための反応溶媒が非プロトン性極性溶媒である請求項1に記載の疎水化反応停止及び洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、持続可能な開発目標(SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS(SDGs))と呼ばれる持続可能な開発のために国連が定める国際目標が掲げられ、このうちの環境問題としてプラスチック使用量の削減等がある。石油由来のプラスチックの使用量を削減することによって、GHG削減による気候変動の解決を目指す取り組みがなされている。
【0003】
このことから、樹脂原料に植物由来のセルロースを混合したセルロース複合樹脂が盛んに研究開発されている。例えば、フィブリル化したマイクロ繊維セルロースと樹脂粉末とを混合した繊維状セルロース含有物や(特許文献1参照。)、疎水化セルロースと熱可塑性樹脂を混練して変性セルロース配合樹脂組成物の製造方法(特許文献2参照。)等が挙げられる。
【0004】
環境問題の取り組みとしての樹脂組成物へのセルロースの利用だけでなく、セルロースファイバーを補強用フィラーとして樹脂に混合し複合させることにより、樹脂の補強材として作用し樹脂成形物の強度や弾性等が向上することから、セルロースファイバー複合樹脂の需要が高まっている。
【0005】
セルロースファイバーを樹脂に複合し補強用フィラーとして利用するために、ポリプロピレン等の疎水性の高い樹脂との親和性が良好な疎水化セルロースが好適に用いられる。疎水化セルロースを得るためには、反応容器中にセルロースと多量の反応溶媒を加えて攪拌してセルロース分散液を調製した後、修飾反応化剤、反応の促進のための触媒を投入してさらに一定時間攪拌する方法や、多段階反応によりセルロースに疎水基を導入する方法(例えば、特許文献3,4等参照。)が知られている。
【0006】
疎水化反応後には、反応物を水や溶媒等が添加されて疎水化反応が停止し、その後に洗浄操作が行われる。洗浄操作は、一般に、スラリー状の反応物と洗浄成分が混合され、攪拌されて洗浄される。例えば、スラリー状の反応物を加圧ろ過して洗浄液を供給して攪拌して洗浄したり、不要成分を溶媒抽出してろ過やデカンテーションで分離したり、フィルターへのトラップで分離する操作を繰り返し行うことにより、不要成分が除去されて洗浄される。
【0007】
しかしながら、これらの方法では、例えば、疎水化反応物が高固形分濃度で高粘性の塊状になった反応物が生じるような場合には、反応物の内部まで洗浄されることなく、不要成分が残留したままになるおそれがある。つまり、確実な反応停止及び洗浄は困難である。そして、不要成分が残留した疎水化セルロースを樹脂と複合化させたセルロースファイバー複合樹脂は、褐色となり意匠性に劣ることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6796111号公報
【特許文献2】特許第6787533号公報
【特許文献3】特許第6681499号公報
【特許文献4】特開2019-35041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記に鑑み提案されたものであり、疎水化セルロースの製造方法に際し、不純物を確実かつ効率的に除去することが可能なセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、第1の発明は、疎水化セルロースを得るための疎水化反応を停止させつつ洗浄するセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法であって、容器内部にはニーディング形状のスクリューを二軸以上備え、かつ、前記容器内部の有効容積を前記容器内部の容積で除した値である容器内部の有効容積率が0.65以下である混練機を用いて、前記混練機に疎水化反応中の疎水化パルプと洗浄成分が供給されて混練されて洗浄される混練洗浄工程により疎水化反応を停止させつつ洗浄して疎水化セルロースを得ることを特徴とするセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法に係る。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記混練機が混練押出機であるセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法に係る。
【0012】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記混練洗浄工程が向流洗浄であるセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法に係る。
【0013】
第4の発明は、第1の発明において、前記洗浄成分が原料パルプ100重量部に対して85重量部以上の割合で供給されるセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法に係る。
【0014】
第5の発明は、第1の発明において、前記洗浄成分がプロトン性極性溶媒であるセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法に係る。
【0015】
第6の発明は、第1の発明において、前記疎水化パルプの固形分濃度が10重量%以上であるセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法に係る。
【0016】
第7の発明は、第1の発明において、前記疎水化反応がエステル化反応であるセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法に係る。
【0017】
第8の発明は、第1の発明において、前記疎水化反応のための修飾反応化剤がビニル系化合物である疎水化反応の停止及び洗浄方法に係る。
【0018】
第9の発明は、第1の発明において、前記疎水化反応のための反応溶媒が非プロトン性極性溶媒であるセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法に係る。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明に係るセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法によると、疎水化セルロースを得るための疎水化反応を停止させつつ洗浄するセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法であって、容器内部にはニーディング形状のスクリューを二軸以上備え、かつ、前記容器内部の有効容積を前記容器内部の容積で除した値である容器内部の有効容積率が0.65以下である混練機を用いて、前記混練機に疎水化反応中の疎水化パルプと洗浄成分が供給されて混練されて洗浄される混練洗浄工程により疎水化反応を停止させつつ洗浄して疎水化セルロースを得るから、不純物を確実かつ効率的に除去することができる。
【0020】
第2の発明に係るセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法によると、第1の発明において、前記混練機が混練押出機であるから、簡便でありかつ連続してセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄を行うことができる。
【0021】
第3の発明に係るセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法によると、第1又は2の発明において、前記混練洗浄工程が向流洗浄であるため、洗浄成分の使用量を削減でき、環境負荷の低減に資することができる。
【0022】
第4の発明に係るセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法によると、第1の発明において、前記洗浄成分が原料パルプ100重量部に対して85重量部以上の割合で供給されるため、不純物をより確実かつ効率的に除去することができる。
【0023】
第5の発明に係るセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法によると、第1の発明において、前記洗浄成分がプロトン性極性溶媒であるため、不純物をより確実かつ効率的に除去することができる。
【0024】
第6の発明に係るセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法によると、第1の発明において、前記疎水化パルプの固形分濃度が10重量%以上であるため、従来では困難であった高粘度状態の疎水化セルロースであっても不純物をより確実かつ効率的に除去することができる。
【0025】
第7の発明に係るセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法によると、第1の発明において、前記疎水化反応がエステル化反応であるため、セルロースの疎水化反応の進行が良好となる。
【0026】
第8の発明に係るセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法によると、第1の発明において、前記疎水化反応のための修飾反応化剤がビニル系化合物であるため、セルロースの疎水化反応の進行が良好となる。
【0027】
第9の発明に係るセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法によると、第1の発明において、前記疎水化反応のための反応溶媒が非プロトン性極性溶媒であるため、セルロースの疎水化反応の進行が良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明のセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法に用いられるニーディング形状のスクリューの具体例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のセルロースの疎水化反応の停止及び洗浄方法は、反応容器にセルロースの原料である原料パルプと、疎水化反応のための反応溶媒と修飾反応化剤と触媒とが混入されて疎水化セルロースを得るための疎水化パルプとされた後に、該疎水化パルプを洗浄して疎水化反応を停止させるものである。セルロースの疎水化反応は公知の方法が使用されることができる。疎水化反応は、エステル交換反応等によるエステル化や、エーテル化、シリル化等が挙げられる。特には、エステル化反応が高効率かつ簡便であるため好ましく用いられる。
【0030】
本発明のセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法は、原料パルプが疎水化反応されて得られた疎水化パルプと洗浄成分が、容器内部に供給されて混練される混練洗浄工程により疎水化反応を停止させつつ洗浄して疎水化セルロースを得る方法である。本発明の反応停止及び洗浄方法では、混練機が用いられる。該混練機は、疎水化パルプと洗浄成分が供給される容器を備え、本容器内部にはニーディング形状のスクリューが二軸以上配される。そして、容器内部の有効容積を容器内部の容積で除した値である容器内部の有効容積率が0.65以下に規定される。有効容積は、容器内部の容積からスクリューの体積を除したものであって、容器内部のいわゆる有効空間(材料を充填可能な空間)の容積を指す。
【0031】
容器内部には、図1に示されるようなニーディング形状のスクリュー10A,10Bが二軸以上配置されていて、疎水化パルプと水等の洗浄成分が容器内部に供給されて捏ねるように混ぜられて疎水化反応が停止され、かつ洗浄される。この工程を混練洗浄工程という。容器に投入される疎水化パルプは不要成分とともに塊状となる。この塊状物を水等の洗浄成分と共に混練することにより、該塊状物を解し、洗浄成分により析出した酢酸セルロース等の不要成分を洗浄成分中に分散させて疎水化パルプを解すとともに、不要成分を分離するのである。
【0032】
スクリューの形状は、例えば、順ねじれ型や逆ねじれ型、直行型、中立型等があり、塊状物を捏ね(ニーディング)て解すことができれば、特に限定されるものではない。ニーディング形状のスクリューが二軸以上備えられることにより、容器内部のスクリュー近傍の塊状物は、捏ねるように混練されて解されることとなる。スクリューの数は、二軸以上であれば十分に捏ね合せられることができると考えられるため、混練機の軸数はその規模に応じて適宜決定される。
【0033】
セルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法は、疎水化パルプと洗浄成分がニーディング形状のスクリューの存する容器内で捏ねられながら(ニーディングされながら)混練されて、疎水化反応が停止されつつ洗浄される。この際に用いられる混練機は、実施例に記載される通り、いわゆるバッチ式の多軸混練機であったり、連続式の多軸混練押出機等が用いられることができる。先述したように、混練機の容器(反応室)内部の有効容積率が0.65以下とされることで、容器とスクリューとの間隙が狭小となり、パルプに効率よいせん断をかけることができる。つまり、スクリューに対して容器の容積が大きすぎたり、容器に対してスクリューが小さすぎることで、疎水化パルプがと洗浄成分が効率的に捏ねられない状態となる。一定の圧力がかけられながら混ぜられることにより、疎水化パルプの内部まで洗浄成分が浸透するとともに解されることとなるため、不純物ないし不要成分の効率的かつ確実な除去を望むことができる。
【0034】
さらに、容器内で捏ねられて疎水化反応の停止及び洗浄がなされることから、固形分濃度が高く粘度が高い疎水化パルプの疎水化反応の停止及び洗浄も可能となるのである。通常の洗浄方法で用いられるような、疎水化パルプと洗浄成分とを反応窯で攪拌されて行われる反応停止及び洗浄方法は、疎水化パルプ濃度がおおよそ5%以上となると疎水化パルプの粘度が高くなってしまい、攪拌力が不足して疎水化パルプが解されることなく塊状のまま析出される。そして、不純物が残留したまま疎水化反応が停止されて洗浄が不十分となってしまう。本発明のセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法では、固形分濃度が10重量%以上の疎水化パルプであっても、ニーディング形状のスクリューによって混練されながら洗浄されるため、従来では困難であった高粘度状態の疎水化セルロースであっても不純物をより確実かつ効率的に除去することができる。
【0035】
混練洗浄工程は、向流洗浄によりなされると洗浄成分の使用量を低減でき環境負荷の低減を図ることができる。向流洗浄とは、被洗浄物の進行方向と、洗浄用水の流れ方向が互いに向流(カウンターカレント)になるような洗浄方法である。洗浄槽が一槽での向流洗浄では洗浄効果が少ないため、多段方式が採用されるのがよい。混練押出機が用いられる場合には、洗浄成分の供給部と洗浄成分をろ過分離して回収する脱液部を2か所以上設定し、下流側の脱液部より回収されたろ液(洗浄後の洗浄成分)を上流側の供給部から供給する向流洗浄方式とされることが考えられる。
【0036】
混練洗浄工程を終えた際には、さらに追加で洗浄、ろ過を繰り返し行うことが考えられる。必要に応じて、撹拌機に移されて水等の洗浄成分をさらに追加して疎水化セルロースを洗浄成分に分散させて攪拌洗浄し、濾過して不要成分を除去することもできる。
【0037】
洗浄成分は、プロトン性極性溶媒が好ましく用いられる。そのうち、水やメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類がより好ましく用いられる。環境負荷やコスト低減の観点から、洗浄成分として水が使用されるのがよい。これらの溶媒を2種以上混合した混合溶媒も用いられることができる。洗浄成分は疎水化反応に用いられる原料パルプ100重量部に対して85重量部以上の割合で供給されることにより、疎水化反応の確実な停止、及び不純物のより確実かつ効率的な洗浄が行われる。
【0038】
続いて、セルロースの疎水化反応から本発明のセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法を用いた疎水化セルロースの製造方法を具体的に説明する。
【0039】
出発原料となるセルロースとしては、パルプが用いられる。主に木材を粉砕し、リグニン等の不純物を除去してセルロース成分の純度が高められた原料である木材パルプが用いられる。また、綿花からも不純物を除去してセルロース成分の純度が高められたコットンリンターパルプが用いられる。これらパルプは、繊維状であるため薬品との反応性が高く、セルロース原料として好ましい。疎水化反応の効率化や混練機への供給をしやすくするために、パルプはシュレッダー等で粉砕等されて一定程度小さくされるのがよい。実施例においては、パルプは3×25mm程度の大きさの短冊状に加工されて用いられる。本発明に用いられるパルプは、解繊装置による予備解繊は要せず、後述の通り、反応溶媒の添加量が少なく疎水化反応時のパルプの固形分濃度が高い。
【0040】
反応溶媒は、反応性の観点からカルボン酸類であるギ酸や非プロトン系極性溶媒が好ましく用いられる。非プロトン系極性溶媒としては、スルホキシド類、ピロリドン類、アミド類、ピリジン類が挙げられる。非プロトン系化合物のうち、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド又はピリジンが好ましく、特には、パルプを膨潤させて修飾反応化剤がパルプの内部まで浸透しやすくなるため、ジメチルスルホキシドがより好ましく用いられる。
【0041】
修飾反応化剤は、ビニル系化合物、酸無水物、酸ハロゲン化物、カルボン酸類、イソシアネート類、エポキシ類、ハロゲン化アルキル類が挙げられる。反応性が良好であり、比較的安価であることや安全面において取り扱いやすいことからビニル系化合物が好ましく用いられる。ビニル系化合物は、下記式(I)で表されるカルボン酸ビニルエステルが好ましい。カルボン酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、アジピン酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等が挙げられる。
R-COO-CH=CH ・・・(I)
(式中、Rは炭素数1~24のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基又はアリール基を表す。)
【0042】
ビニル系化合物のうち、分子鎖が短く、エステル交換反応が進行しやすく、置換度の制御が容易である酢酸ビニルがより好ましく用いられる。一方で、ラウリン酸ビニルのような長鎖アルキル基を有するビニル化合物は立体障害が大きく、疎水化反応が進みにくいが、疎水化反応後の疎水化セルロースはポリオレフィン等の疎水性が高い樹脂との相溶性が向上する。このため、修飾反応化剤は、目的に応じて適宜選択されることができる。セルロースの疎水化反応に際して、反応容器内部の温度は、修飾反応化剤の沸点よりも低温に抑制されてコントロールされるのがよい。修飾反応化剤が気化しない程度の温度域で疎水化反応が促進されるため、セルロースの疎水化は高効率で生じると考えられる。
【0043】
触媒は、酸触媒又は塩基触媒のいずれでもよく、修飾反応化剤としてカルボン酸ビニルエステルを用いた場合の組み合わせとしては、塩基触媒が好ましく用いられる。塩基触媒としては、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、ピリジン類、アミン類、イミダゾール類が挙げられる。これらのうち、比較的安価で入手が容易であることや、粒状の固体触媒であることから、混練時におけるビーズ様の挙動により、パルプのせん断が促進される点から炭酸塩である炭酸カリウムがより好ましく用いられる。
【0044】
これら原料パルプ、反応溶媒、修飾反応化剤、触媒が窯等の反応容器内に投入されて攪拌されることで原料パルプの疎水化反応が進行し、疎水化パルプとなる。疎水化反応は、前述の通り公知の方法が用いられる。この方法によれば、セルロースの疎水化反応は非常にゆっくりと進行するため、所望する水酸基の置換度を超える疎水化セルロースを得るためには、数時間の反応時間を要する。また、反応溶媒の添加量をセルロースの原料となるパルプに対して過剰量としてセルロース分散液を調製するため、反応溶媒の使用量の増加に伴う環境負荷の増大も懸念されている。
【0045】
このため、本発明のセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法の前段階としてのセルロースの疎水化方法は、下記の方法が好適に用いられる。後述するように、この疎水化方法を用いることにより、セルロースの疎水化反応と該反応停止及び洗浄方法を連続して行うことができることから、良質な疎水化セルロースを効率的に得ることができる。
【0046】
セルロースの疎水化方法は、有効容積が小さい反応容器内にニーディング形状のスクリューを2軸以上備えられた混練機に各原料が投入され、混練されることによって行われるのがよい。反応容器には、本発明のセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法に用いられるものと同様に、図1に示されるようなニーディング形状のスクリュー10A,10Bが二軸以上配置される。当該スクリューにより、上記した各材料が捏ねるように混ぜられて反応が促進される。各材料は捏ねられることで、原料パルプの内部にまで反応溶媒が浸透し、修飾反応化剤や触媒との接触効率が向上することとなる。スクリューの形状は、例えば、順ねじれ型や逆ねじれ型、直行型、中立型等があり、各材料を捏ねる(ニーディング)ことができれば、特に限定されるものではない。ニーディング形状のスクリューが二軸以上備えられることにより、反応容器内部のスクリュー近傍の各材料は、捏ねるように混練されることとなる。スクリューの数は、二軸以上であれば十分に各材料を捏ね合せられることができると考えられるため、混練機の軸数はその規模に応じて適宜決定される。
【0047】
反応容器は、材料の効率的な混練の観点から、反応容器内部の有効容積率が規定される。有効容積率は、有効容積を反応容器内部の容積で除した値であって、0.65以下とされる。有効容積は、反応容器内部の容積からスクリューの体積を除したものであって、容器内部のいわゆる有効空間(材料を充填可能な空間)の容積を指す。有効容積率が大きすぎると、各材料の混練の効率が悪くなり、疎水化反応の促進が図られないおそれがある。
【0048】
これら材料は、ニーディング形状のスクリューの存する反応容器内で捏ねられながら(ニーディングされながら)混練されて、原料パルプのセルロースが疎水化反応される。この際に用いられる混練機は、本発明のセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法と同様に、バッチ式の多軸混練機であったり、連続式の多軸混練押出機等が用いられるのがよい。先述したように、混練機の反応容器(反応室)内部の有効容積率が小さく規定されることで、反応容器とスクリューとの間隙を狭小とし、パルプに効率よいせん断をかけることができる。一定の圧力がかけられながら混ぜられることにより、パルプの内部まで反応溶媒が浸透するとともに修飾反応化剤、触媒との接触効率が向上するため、疎水化セルロースを効率的に得ることができる。
【0049】
当該疎水化方法によれば、ニーディングによって各材料が加圧されながら混ぜられることで、疎水化反応が効率的に進行するため、反応時間の大幅な短縮が可能となり、反応溶媒の使用量も削減できることから、生産効率の向上とともに環境負荷低減を図ることができる。さらに、反応溶媒の使用量が少なくなるため、少ない洗浄液で反応後の疎水化セルロースから反応溶媒、修飾反応化剤の残分、触媒の残分、その他副生成物を除去することができる。よって、洗浄時の廃液が少なくなり、環境負荷の低減を図ることができるのである。
【0050】
そして、原料パルプのセルロースが疎水化反応されて疎水化パルプとなった後、洗浄成分が添加、供給されてともに混練されて混練洗浄工程を経ることにより疎水化反応が停止され洗浄されて疎水化セルロースが得られることとなる。
【0051】
このセルロースの疎水化方法と疎水化反応停止及び洗浄方法が、混練押出機が用いられれて、原料パルプ他の各材料と下流において洗浄成分が供給されることにより、連続して疎水化反応及び停止ないし洗浄を行うことが可能となる。一連して原料パルプから不純物が除去された疎水化セルロースが得られることから、効率よく簡易に疎水化セルロースを製造することが可能となる。
【実施例0052】
発明者らは、疎水化セルロースの作製に際し、下記のセルロース原料であるパルプ、反応溶媒、修飾反応化剤、触媒を用い、配合量や製造条件をそれぞれ変更してセルロースの疎水化反応、疎水化反応の停止、洗浄実験を行った。
【0053】
〔混練機〕
混練機は、バッチ式二軸混練機(「イリプスブレード1884」、株式会社井元製作所製)(K1)、二軸混練押出機(「TEX25αIII」、株式会社日本製鋼所製)(K2)を使用した。混練機(K1)の反応容器の有効容積率は0.59である。混練機(K2)の反応容器の有効容積率は0.45である。なお、混練機(K2)のスクリュー構成は、フルフライト38%、ニーディング60%、シールリング2%と設定した。
【0054】
〔洗浄機〕
洗浄機は、スーパーミキサー(「SMP-2」、株式会社カワタ製)を使用した。
【0055】
〔セルロース原料〕
出発原料となるセルロース原料は、製紙用パルプシート(「CA-KP」、Canfor社製)をシュレッダーで3×25mm程度の短冊状に細断して使用した。
【0056】
〔反応溶媒〕
反応溶媒は、ジメチルスルホキシド(富士フィルム和光純薬株式会社製)を使用した。
【0057】
〔反応触媒〕
反応触媒は、炭酸カリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製製)を使用した。
【0058】
〔修飾反応化剤〕
修飾反応化剤は、酢酸ビニル(富士フィルム和光純薬株式会社製)を使用した。
【0059】
〔洗浄成分〕
洗浄成分は、蒸留水、エタノール(富士フィルム和光純薬株式会社製)を使用した。
【0060】
〔セルロースの疎水化反応工程〕
上記した「混練機K1」又は「混練機K2」に各セルロース原料、反応溶媒、反応触媒、修飾反応剤を供給し、疎水化パルプを調製した。
【0061】
<疎水化パルプ1(HP1)>
混練機(K1)にセルロース原料としてのパルプ100質量部、反応溶媒としてのジメチルスルホキシド900質量部、反応触媒としての炭酸カリウム15質量部、修飾反応剤としての酢酸ビニル160質量部を投入し、反応温度60℃、回転数50rpm、反応時間15分として疎水化反応を行い、反応中の疎水化パルプ1(HP1)を得た。なお、パルプの添加量をパルプと溶媒の添加量で除したパルプ濃度は10%である。
パルプ濃度(%) = パルプ/(パルプ+反応溶媒)×100
【0062】
<疎水化パルプ2(HP2)>
反応溶媒としてのジメチルスルホキシドを233質量部とした以外は疎水化パルプ1(HP1)と同様の調製方法により、反応中の疎水化パルプ2(HP2)を得た。なお、疎水化パルプ2のパルプ濃度は30%である。
【0063】
<疎水化パルプ3(HP3)>
反応溶媒としてのジメチルスルホキシドを100質量部とした以外は疎水化パルプ1(HP1)と同様の調製方法により、反応中の疎水化パルプ3(HP3)を得た。なお、疎水化パルプ3のパルプ濃度は50%である。
【0064】
<疎水化パルプ4(HP4)>
混練機(K2)にセルロース原料としてのパルプ100質量部、反応溶媒としてのジメチルスルホキシド150質量部、反応触媒としての炭酸カリウム15質量部、修飾反応剤としての酢酸ビニル160質量部を投入し、反応温度60℃、回転数100rpm、反応時間6分として疎水化反応を行い、反応中の疎水化パルプ4(HP4)を得た。疎水化パルプ4のパルプ濃度は40%である。
【0065】
〔疎水化反応の停止・洗浄工程〕
上記のように調製した疎水化パルプ1~4(HP1~4)を、下記の条件の各工程(「工程A1」,「工程A2」,「工程B」)により、疎水化反応停止及び洗浄を行った。
・工程A1:セルロースの疎水化反応工程後の混練機内にセルロース原料(パルプ)100質量部に対して280質量部の洗浄成分を供給して混練し、採取した混練物にセルロース原料100質量部に対して4000質量部の蒸留水を加えて洗浄装置を用いて3000rpmで1分間撹拌洗浄を行い、液体をろ過した後、同様の洗浄操作を再度行う。
・工程A2:セルロースの疎水化反応工程後の混練機内にセルロース原料100質量部に対して85質量部の洗浄成分を供給して混練し、採取した混練物にセルロース原料100質量部に対して4000質量部の蒸留水を加えて洗浄装置を用いて3000rpmで1分間撹拌洗浄を行い、液体をろ過した後、同様の洗浄操作を再度行う。
・工程B:疎水化パルプを洗浄装置に投入し、セルロース原料100質量部に対して4000質量部の蒸留水を加えて洗浄装置を用いて3000rpmで1分間撹拌洗浄を行い、液体をろ過した後、同様の洗浄操作を再度行う。
【0066】
<試作例1>
混練機(K1)を用い、洗浄成分として蒸留水を用いて疎水化パルプ1(HP1)を疎水化反応の停止・洗浄工程の「工程A1」に基づいて洗浄し、試作例1の疎水化セルロースとした。
【0067】
<試作例2>
反応停止・洗浄される疎水化パルプを疎水化パルプ2(HP2)とした以外は試作例1と同様とし、試作例2の疎水化セルロースとした。
【0068】
<試作例3>
反応停止・洗浄される疎水化パルプを疎水化パルプ3(HP3)とした以外は試作例1と同様とし、試作例3の疎水化セルロースとした。
【0069】
<試作例4>
反応停止・洗浄工程を工程A2とした以外は試作例3と同様とし、試作例4の疎水化セルロースとした。
【0070】
<試作例5>
洗浄成分をエタノールとした以外は試作例3と同様とし、試作例5の疎水化セルロースとした。
【0071】
<試作例6>
洗浄成分を蒸留水とエタノールの混合溶媒(重量比1:1)とした以外は試作例3と同様とし、試作例6の疎水化セルロースとした。
【0072】
<試作例7>
混練機(K2)を用い、反応停止・洗浄される疎水化パルプを疎水化パルプ4(HP4)とした以外は試作例3と同様とし、試作例7の疎水化セルロースとした。
【0073】
<比較例1>
反応停止・洗浄工程を工程Bとした以外は試作例1と同様とし、比較例1の疎水化セルロースとした。
【0074】
<比較例2>
反応停止・洗浄工程を工程Bとした以外は試作例2と同様とし、比較例2の疎水化セルロースとした。
【0075】
<比較例3>
反応停止・洗浄工程を工程Bとした以外は試作例3と同様とし、比較例3の疎水化セルロースとした。
【0076】
<比較例4>
反応停止・洗浄工程を工程Bとした以外は試作例7と同様とし、比較例4の疎水化セルロースとした。
【0077】
各試作例及び比較例の疎水化セルロースについて、置換度を算出するとともに、疎水化セルロースを樹脂に複合化させたときの色味の評価(外観、明度、黄色度)を行った。各試作例及び比較例の各材料の配合量(質量部)や混練機の種類、反応停止・洗浄工程の種類等とともに後述の表1,2に示す。
【0078】
〔置換度の算出〕
各試作例及び比較例の疎水化セルロースについて置換度(DS)を算出した。置換度(DS)は、平均酢化度を測定することにより算出した。平均酢化度は、ASTM D-817-91(セルロースアセテート等の試験方法)における酢化度の測定方法に準拠して測定した。乾燥した疎水化セルロース1.9gを精秤し、そこにアセトンとジメチルスルホキシドとの混合溶液(容量比4:1)150mLを添加した。さらに1N-水酸化ナトリウム水溶液30mLを添加し、25℃で2時間攪拌した。これをろ過、水洗、乾燥してろ紙上の試料のFT-IR測定を行い、エステル結合のカルボニル基に基づく吸収ピークが消失していること、つまりエステル結合が加水分解されていることを確認した。ろ液にフェノールフタレインを指示薬として添加し、1N-硫酸(濃度ファクター:F)で過剰の水酸化ナトリウムを滴定した。また、上記と同様の方法でブランク試験を行い、下記式に従って平均酢化度を計測し置換度を算出した。式中、Aは試料の1N-硫酸の滴定量(mL)、Bはブランク試験の1N-硫酸の滴定量(mL)、Fは1N-硫酸の濃度ファクター、Wは試料の重量を示す。
平均酢化度(%) = {6.5×(B-A)×F}/W
置換度(DS) = (平均酢化度×162)/(6005-平均酢化度×42)
【0079】
〔疎水化セルロース複合樹脂の色味評価〕
セルロースの疎水化反応においては、塩基性条件下の反応によってセルロース還元性末端から糖残基が脱離する(ピーリング反応)。熱に不安定である脱離した単糖が疎水化パルプ内に残留する場合には、樹脂と複合する際の加熱により褐色成分が生成されることとなる。このため、疎水化セルロースとした際に不純物である単糖が残留しているかどうかの判定を行うために、各試作例及び比較例の疎水化セルロースを複合樹脂とした際の色味評価を行うこととした。
【0080】
疎水化セルロース複合樹脂の作製に際し、疎水化セルロース100質量部、蒸留水566質量部、ポリプロピレン粉末800質量部の配合割合とし、混練機K1を用いてシリンダー温度25℃、回転数80rpmとして10分間せん断混合して疎水化セルロース複合樹脂原料を得た。得られた疎水化セルロース複合樹脂原料を混練機K1を用いてシリンダー温度200℃、回転数80rpmとして5分間加熱混練し、疎水化セルロース複合樹脂を得た。
【0081】
疎水化セルロース複合樹脂を平板加熱プレス機(「IMC-19EB」、株式会社井元製作所製)を用いて、設定温度180℃、表示圧力20MPaとして、厚さ100μmのシート状物を成形した。得られた厚さ100μmのシート状物を8枚重ねて、色味評価用サンプルとした。この色味評価用サンプルについて、明度、黄色度、外観による色味評価を行った。
【0082】
明度(L)は、明るさを示す指標であって、紫外可視分光光度計(「UV-2600」、株式会社島津製作所製)を用いて、JIS Z 8722(2009)に準拠する色の測定方法に基づき、白色基準として測定した。明度(L)では、数値が大きいほど明るく、小さいほど暗いことを示す。
【0083】
黄色度(YI)は、上記白色基準から色相が黄方向に離れる度合いを示すものであって、パルプ未配合のポリプロピレンシート(PPシート)の黄色度(YI)を基準として下記の式に基づいて相対値を算出した。なお、黄色度(YI)では、正の数に大きくなるほど黄色みが強く、負の数に大きくなるほど青みが強いことを示す。
YI相対値=(疎水化セルロース複合樹脂シートのYI/PPシートのYI)×100
【0084】
外観は、目視にてサンプルの外観を観察して色味を評価し、「淡茶色」、「褐色」に分類した。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
[結果と考察]
パルプ濃度10%で疎水化反応した疎水化パルプ1(HP1)を用いた反応停止・洗浄において、反応停止・洗浄工程が「工程A1」の試作例1と「工程B」とで異なる比較例1とを対比すると、疎水化反応工程後の混練機内にパルプ100質量部に対して280質量部の洗浄成分を供給して混練する混練洗浄工程を含む反応停止・洗浄工程である「工程A1」を行った試作例1が、混練洗浄工程を含まない反応停止・洗浄工程である「工程B」を行った比較例1より明度及び黄色度のいずれも良好であった。
【0088】
このことから、疎水化反応工程後の疎水化反応停止及び洗浄に際して、反応工程後の混練機内に洗浄成分を供給して混練する混練洗浄工程を行うことによって、塊状物である疎水化パルプが解されて不要成分が分離されたと考えられ、純度の高い疎水化セルロースが得られ、樹脂と複合化した際に黄色度が小さく明度の高い疎水化セルロース複合樹脂が得られたと考えられる。「工程B」を行った比較例1は、塊状の疎水化パルプが十分に解されず、不純物である単糖類が内部に残留してしまい、樹脂と複合化した際に黄色度が高く、明度が低い複合樹脂となったと考えられる。
【0089】
同様に、パルプ濃度30%で疎水化反応した疎水化パルプ2(HP2)を用いた反応停止・洗浄において、反応停止・洗浄工程が「工程A1」の試作例2と「工程B」とで異なる比較例2、パルプ濃度40%で疎水化反応した疎水化パルプ4(HP4)を用いた反応停止・洗浄において、反応停止・洗浄工程が「工程A1」の試作例7と「工程B」とで異なる比較例4とをそれぞれ対比すると、混練洗浄工程を含む「工程A1」を行った試作例2,7が、対応する比較例2,4より明度及び黄色度がいずれも良好であった。
【0090】
また、パルプ濃度50%で疎水化反応した疎水化パルプ3(HP3)を用いた反応停止・洗浄において、反応停止・洗浄工程が「工程A1」の試作例3と「工程A2」の試作例4と、「工程B」の比較例3とをそれぞれ対比すると、混練洗浄工程の洗浄成分の供給量が280質量部の「工程A1」を行った試作例3と、「工程A1」より洗浄成分の供給量が少ない85質量部の「工程A2」を行った試作例4は、混練洗浄工程を含まない「工程B」を行った比較例3より明度及び黄色度のいずれも良好であった。
【0091】
これらの試作例から、本発明によっては、パルプ濃度が高い、つまり固形分濃度が高く高粘度の疎水化パルプであっても、短時間で疎水化反応の停止及び洗浄ができ、かつ疎水化パルプから確実に不要成分が除去されて、樹脂との複合化に際しては黄色度が小さく明度の高い疎水化セルロース複合樹脂が得られることが示された。さらに、混練洗浄工程の洗浄成分がパルプ100重量部に対して85重量部以上の割合で供給されることで、疎水化セルロース複合樹脂の着色が改善されることがわかった。つまり、少ない洗浄成分で疎水化反応の停止及び洗浄が可能であって、環境負荷の低減にも資することができることが示された。
【0092】
特に、パルプ濃度40%で疎水化反応した疎水化パルプ4(HP4)を用いた比較例4や、パルプ濃度50%で疎水化反応した疎水化パルプ3(HP3)を用いた比較例3では、外観が褐色であり、明度が極端に低く、黄色度が極めて高い値であったが、同一のパルプ濃度で混練洗浄工程を含む「工程A1」を行った試作例7や、試作例3,4では、複合樹脂の外観が淡茶色となり、明度及び黄色度が飛躍的に改善された。このように、有効容積率が0.65以下の容器内で、疎水化パルプと洗浄成分とが二軸以上のスクリューにより混練されて疎水化反応が停止されつつ洗浄されることによって、高固形分濃度の疎水化パルプであっても効率よく、かつ確実に疎水化反応を停止させて不純物ないし不要成分の除去ができることが示された。
【0093】
加えて、パルプ濃度50%で疎水化反応した疎水化パルプ3(HP3)を用いて混練洗浄工程の洗浄成分としてエタノールを使用した試作例5と、洗浄成分として蒸留水とエタノールの混合溶媒を使用した試作例6と、比較例3とを対比すると、試作例3,4と同様に比較例3に対して外観や明度、黄色度が飛躍的に改善された。従って、洗浄成分は、水、アルコール類、水とアルコール類の混合溶媒のいずれであっても良好な着色改善効果が得られることがわかった。
【0094】
以上示されたように、疎水化反応工程後に混練機内に洗浄成分を供給して混練する混練洗浄工程を含む疎水化反応停止及び洗浄方法を行うことにより、疎水化セルロース複合樹脂の着色改善効果が得られる。これは、反応工程後に疎水化パルプと洗浄成分とを混練して洗浄することによって、疎水化反応を停止させつつ洗浄が行われて不純物を確実かつ効率的に除去することができたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法によれば、疎水化セルロースの製造に際して不純物を確実かつ効率的に除去することが可能となり、高品質の疎水化セルロースが得られる。さらに、高固形分濃度の疎水化パルプに対しても、用いられることができ、洗浄成分の使用量低減も図られることから、環境負荷の低減に資することができる。そのため、従来のセルロースの疎水化反応停止及び洗浄方法の代替として有望である。
【符号の説明】
【0096】
10A,10B スクリュー
図1