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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101781
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】偏光シート
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/00 20060101AFI20240723BHJP
   G02C 7/12 20060101ALI20240723BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20240723BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20240723BHJP
   G01N 21/958 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
G01M11/00 T
G02C7/12
G02B5/18
G02B5/30
G01N21/958
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005911
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138519
【弁理士】
【氏名又は名称】奥谷 雅子
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 航太
(72)【発明者】
【氏名】松野 佑哉
(72)【発明者】
【氏名】赤木 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】木村 英明
【テーマコード(参考)】
2G051
2G086
2H149
2H249
【Fターム(参考)】
2G051AA41
2G051AC22
2G051CA04
2G051CB02
2G051CB06
2G086EE12
2H149AA22
2H149AA23
2H149AB26
2H149BA02
2H149BB13
2H149CA02
2H149EA12
2H149EA22
2H149FA03W
2H149FA13X
2H149FA15X
2H149FA69
2H149FB06
2H249AA02
(57)【要約】
【課題】
MIL-DTL-43511Dにて測定される光学歪みが少ない偏光積層体を測定する方法を提供する。
【解決手段】
回折格子を備える光学テスターに被検体を設置する工程と、
光学テスターにセットされた回折格子を透過する被検体の明線の画像を取得する工程と、
回折格子を透過した1つ以上の明線の形状を決定する工程と、
明線の形状を用いて、偏光積層体の光学歪みの程度を決定する工程と、
を含む、被検体の光学歪みを測定する方法。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折格子を備える光学テスターに被検体を設置する工程と、
光学テスターにセットされた回折格子を透過する被検体の明線の画像を取得する工程と、
回折格子を透過した1つ以上の明線の形状を決定する工程と、
明線の形状を用いて、被検体の光学歪みの程度を決定する工程と、
を含む、被検体の光学歪みを測定する方法。
【請求項2】
前記被検体が、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムに接着層を介して透明プラスチックシートを保護層として配置してなる偏光シート、偏光シートを所定の形状に打ち抜き加工した打ち抜き加工レンズ、打ち抜き加工品を熱曲げ加工してなる熱曲げ加工レンズ、熱曲げ加工品の凹面に溶融樹脂を射出成形してなる射出成形レンズ、あるいは偏光シートに保護層として用いる透明プラスチックシートのいずかである、請求項1に記載の被検体の光学歪みを測定する方法。
【請求項3】
前記明線の形状を決定する工程において、明線の形状を数値化する工程をさらに含む、請求項1に記載の被検体の光学歪みを測定する方法。
【請求項4】
前記明線の形状を数値化する工程において、取得された明線画像の幅の最小値と最大値を決定する工程をさらに含む、請求項3に記載の被検体の光学歪みを測定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサングラスやゴーグル等に用いられる偏光レンズを構成する偏光フィルム、偏光シート、およびこれらの光学性能を評価する方法に関する。特に、光学歪みが極度に少ない偏光フィルムの評価を定量的に行うための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール等の樹脂基材を実質的に一方向に配向し二色性色素等を吸着させてなる偏光フィルムの両面に接着剤を介して透明保護シートを張り合わせ、球面あるいは非球面に加工した曲げ偏光レンズまたは前記の曲げ偏光レンズの凹面にレンズ用透明樹脂を射出成形したサングラス用偏光レンズはよく知られている。
【0003】
これらの透明保護シートは、偏光フィルムの偏光方向を変化させることがないように、その光学歪みを小さくすることが求められている。そのために、透明保護フィルムの製造時に、表面の凹凸などを作らないように製造する方法が提案されている。一方で、パイロットなどの特殊な業務にあたる者が使用するアイウェアは一般に販売されているものよりも特殊な光学的要件が求められている。例えば、アメリカ軍が必要とする物資の調達に使用される規格があり、一般的にMIL規格と呼ばれている。このMIL規格における光学歪みについては、以下の非特許文献に示す装置を用いて、偏光レンズを透過する光を回折格子越しに目視により観察し、光学的な歪みの合否を判断している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】MIL-DTL-43511D,DETAIL SPECIFICATION VISORS,FLYER‘S HELMAT, POLUCARBONATE
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光学歪みが少ないアイウェア用レンズの指標となるものとしては、非特許文献に記載されているMIL規格による測定方法がある。この測定方法は合格および不合格品を検査者の目視により歪みの有無を判別するものである。そのため、検査者の熟練度による人間差が生じることが問題となる。規格規定されているにもかかわらず、客観的に光学歪みを評価できる方法はこれまでに提案されていなかった。また、このような規格に準じつつ、曲げ加工品やシートなど、アイウェア用レンズの前段階で光学歪みが合格となっていることを確認できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本願発明者らが鋭意検討した結果、MIL規格に合格する程度の光学歪みを画像データとして取り込み、検査視野中の各明線の形状を評価することで、偏光シートにおける光学歪みを客観的に評価することができ、定量的にも評価することを見出し、本願発明に至った。さらに、本発明は偏光積層体を構成する透明プラスチックシートに対しても、同様にMIL規格に適合するか否かの判断に用いることができる。
【0007】
すなわち、本発明は、
回折格子を備える光学テスターに被検体を設置する工程と、
光学テスターにセットされた回折格子を透過する被検体の明線の画像を取得する工程と、
回折格子を透過した1つ以上の明線の形状を決定する工程と、
明線の形状を用いて、被検体の光学歪みの程度を決定する工程と、
を含む、被検体の光学歪みを測定する方法である。
【0008】
また、本発明は、被検体が、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムに接着層を介して透明プラスチックシートを保護層として配置してなる偏光シート、偏光シートを所定の形状に打ち抜き加工した打ち抜き加工レンズ、打ち抜き加工品を熱曲げ加工してなる熱曲げ加工レンズ、熱曲げ加工品の凹面に溶融樹脂を射出成形してなる射出成形レンズ(本明細書において、これらを総称して「偏光積層体」とも言う。)、あるいは偏光シートに保護層として用いる透明プラスチックシートのいずれでも測定可能な、被検体の光学歪みを測定する方法である。
【0009】
また、本発明は、明線の形状を決定する工程において、明線の形状を数値化する工程をさらに含む、被検体の光学歪みを測定する方法も含む。
【0010】
また、本発明は、明線の形状を数値化する工程において、取得された明線画像の幅の最小値と最大値を決定する工程をさらに含む、被検体の光学歪みを測定する方法も含む。
【0011】
また、本発明の他の態様は、被検体における1つ以上の明線が保護層の隣り合う2本のスリットであって、明線形状の最大値と最小値の差(スリット間隔)が、測定箇所すべてにおいて1.05mm以下である、被検体の光学歪みを測定する方法である。
【0012】
また、本発明の他の態様は、保護層が芳香族ポリカーボネート樹脂からなり、明線形状の最大値と最小値の差(スリット間隔)が、測定箇所すべてにおいて、0.75mm以下である、被検体の光学歪みを測定する方法である。
【0013】
また、本発明の他の態様は、保護層の厚みが100μmより厚い、被検体の光学歪みを測定する方法である。
【0014】
また、本発明の他の態様は、接着層の厚みが40μm未満である、被検体の光学歪みを測定する方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、偏光積層体およびこれを構成する要素において、ミリタリーグレード相当の光学歪みを客観的に評価および規格化することが容易に可能となった。また、保護層などの偏光積層体を構成する要素の光学歪みについて良品を事前に選別することも可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本願発明に用いる光学テスターの原理を示す概略図である。
図2図2は、本願発明に用いる光学歪み測定システムの概略図である。
図3図3は、本願発明により測定された光学歪みでの合否判定の一例である。
図4図4は、非特許文献に記載の合格品と不合格品のスリット間隔を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明の構成について説明する。
(光学テスター)
本発明に用いる光学テスターは、V.RonchiおよびM.Lenouvelによって導入された方法に基づいている。この方法は、図1のように、Pにある光源から発出された光が、レンズ、ミラー、または光学ウィンドウが、焦点平面近くにある等間隔の平行スリットが配列された回折格子を通過するときに、観察者Pが、スリットを透過した光を見るようになっている。この原理を利用した装置の例としては、Model C Optical tester(DATA OPTICS INC.)があるがこれらに限定されない。また、光学テスターの前(例えば、観察者の視点の位置)にカメラを設置することで回折格子の透過画像を記録することもできる。
【0018】
この光学テスターは、主として以下の4つの部分からなる。本発明に用いる光学テスターとしては、以下の4つの部分を組み合わせて構成することができるものであれは、上記で特定するものには限定されない。
a)光学歪み画像取得部
b)レンズ
c)サンプルホルダ
d)ミラー
【0019】
a)光学歪み画像取得部
本発明における光学歪画像取得部はサンプルに対して光を放射する光源を備え、検査者が検査画像を確認するウィンドウを備える。ウィンドウの片面には、回折格子が設置可能となっている。用いることができる回折格子としては、ロンキー・ルーリング(Ronchi Ruling)と言われるものがある。ロンキー・ルーリングは、一定距離の中に決まった遮光ラインが設けられている。すなわち、本明細書における回折格子を観察者の前に置くことにより、観察者は光透過部分と非光透過部分とを、被検体上に視認することができる。光透過部分は、回折格子の光透過部分またはスリット部分と回折格子の遮光ラインにぶつかり回折した光とからなる明るく見える帯状部分である。本明細書において、この帯状部分を、遮光部分が欠けている意味合いとして、スリットまたは明線と言う。この被検体上の光の像を機械的に画像として取り込み、その光の像の特徴を数値化することにより、被検体の光学歪みを客観的に評価することが可能となる。本発明の光学テスターにおいて、1インチ(2.54cm)あたり50本、100本、200本などの遮光ラインを有するロンキー・ルーリングが入手可能であるが、いずれのスケールのものが好ましいかは、検査対象に応じて当業者が適宜選択し得る。a)に設けられている光源は7.5ボルトのフィラメントランプであり、画像を確認するウィンドウは、観察者が肉眼で観察できるものでもよいし、検査画像を電気的に画像変換して視認できるものであってもよい。7.5ボルトのフィラメントランプの種類は特に限定されるものではないが、上記DATA OPTICS INC.に記載のものと同等の光学性能を有するものであれば本発明に用いることができる。
【0020】
b)レンズ
光学テスターに設置されるレンズは、d)のミラーから反射されて、c)にセットされたサンプルの回折格子像を拡大する。このとき、a)のウィンドウに映し出される視野には所定の本数の明線を確認できるように、a)との距離を調整することが好ましい。スリット間隔を確認するための測定本数や測定場所は被検体の種類に応じて適宜変更することができる。本発明の実施態様において、MIL-DTL-43511Dの指定する装置において、所定の位置の60本の明線のある板から13から14本の明線を確認するための視野を確保するためには、a)からd)までの距離を約200mmとすることが好ましい。装置の配置により、この距離は200mmより短くまたは長くすることが可能であるが、当然に短くすれば歪み部分が拡大され、遠くすれは歪み部分は縮小されて確認できづらくなる。
【0021】
c)サンプルホルダ
ここにはサンプルをセットする。本発明の一実施態様として、偏光フィルムの少なくとも片面に接着層を介して透明プラスチックシートを積層してなる偏光シート、これらを所定の形状に打ち抜き加工した打ち抜き加工レンズ、このような打ち抜き加工品を熱曲げしてなるサングラス用偏光レンズ、およびサングラス用偏光レンズの凹面に溶融樹脂を射出成形してなる射出成形品はサンプルホルダの形状を適宜選択することにより、本発明の装置および方法で、光学歪みを測定することができる。また、本発明において、被検体の設置方向などは、測定条件をそろえて比較可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、熱曲げ加工された偏光レンズの場合には、球面収差の少ない面をa)に向けることが好ましい。
【0022】
d)ミラー
d)はa)からの光を反射するとともにb)で拡大された被検体の像をa)に届ける。
【0023】
(測定システム)
上記のような光学システムは、レンズ、ミラー、または光学ウィンドウを、一軸上にそれぞれ距離を変更できるように構成された光学テスターベンチに設置して、本発明の方法を実行することができる。そのような、装置の例としては、MIL-DTL-43511D,DETAIL SPECIFICATION VISORS,FLYER‘S HELMAT, POLUCARBONATEに記載の、MODEL E DISTORTION TESTER(DATA OPTICS INC.)がある。
【0024】
(測定方法)
本発明の方法において、前記光学システムにおいて取得される画像は、例えばカメラで画像として記録される。画像記録手段の選択は本発明において、特に重要ではないが、画像として記録することで光学歪みを同じ基準で比較することができる。そのため、本発明において、同じ製品を比較する場合あるいは品質管理として用いる場合には同じ解像度の画像として画像記録を残すことが好ましい。
【0025】
(光学歪みの合否判定)
本発明において測定される光学歪みは、DATA OPTICS INC.製モデルEディスティネーションテスターまたはこれと同じ構成を有する装置において測定することができる。光学歪みを目視において個別に合否を判定していた従来の光学歪み試験において、モデルEディスティネーションテスターから得られる画像を、本発明に基づいて処理することにより、客観的な評価が可能になる。
【0026】
客観的評価のために、光学テスターにて視認される画像の特徴を数値化することが考えられる。光学歪みの少ない被検体では、スリットもしくはスリット間隔が直線的に視認され、光学歪みが一定程度ある偏光積層体はスリットもしくはスリット間隔に歪みが認められる。スリットのみの回折格子の透過画像を取得した後に被検体をセットし回折格子の透過画像を取得し、スリット間隔や面積の差をとる方法、視野に入るスリットの全長の長さ全体を測定する方法、所定本数のスリット間隔の最大値―最小値差の平均値を取る方法、スリット間隔の1本を数か所測定し、所定本数のスリット間隔の最大値のみを測定する方法、スリット間隔の1本を複数個所測定し、所定本数のスリット間隔の和を取る方法がある。あるいは明線のうねりを曲線として算出する方法があるが、これらに限定されない。
【0027】
(偏光フィルム)
本発明において、偏光フィルムは、基材となる樹脂フィルムを水中で膨潤させた後に、本発明の二色性有機染料を含有する染色液に、一方向に延伸させつつ含浸することにより、二色性色素を基材樹脂中に配向した状態で分散させて、偏光性および所望の色調を付与したフィルムを得ることによる。
【0028】
このときに用いる偏光フィルムの基材となる樹脂としては、ポリビニルアルコール類が用いられ、このポリビニルアルコール類としては、ポリビニルアルコール(以下PVA)、PVAの酢酸エステル構造を微量残したものおよびPVA誘導体または類縁体であるポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物等が好ましく、特にPVAが好ましい。
【0029】
また、PVAフィルムの分子量は、延伸性とフィルム強度の点から重量平均分子量が50,000から350,000のものが好ましく、より好ましくは分子量100,000から300,000、特に、分子量150,000以上が好ましい。PVAフィルムを延伸する際の倍率は、延伸後の二色比とフィルム強度の点から2~8倍が好ましく、特に3~6.5倍、特に3.5~4.5倍が好ましい。延伸後のPVAフィルムの厚みは特に制限はないが、保護フィルムなどと一体化せずに取り扱いできるとの点から厚み20μm以上で、50μm以下程度が好ましい。
【0030】
基材フィルムとしてPVAを用いる場合の典型的な製造工程は、
(1)PVAを水中にて膨潤させつつ水洗し、不純物を取り除き、
(2)適宜、延伸しつつ、
(3)染色槽にて染色し、
(4)ホウ酸または金属化合物による処理槽にて架橋ないしキレート化処理し、
(5)乾燥する、
との工程にて製造される。尚、工程(2)、(3)(場合により(4))は、適宜、その順序をかえても、また、同時に行っても良いものである。
【0031】
まず、工程(1)の膨潤・水洗の工程は、水を吸収させることにより、常温の乾燥状態では容易に破断するPVAフィルムを均一に軟化させて延伸可能とする。また、PVAフィルムの製造工程に使用される水溶性の可塑剤などを除くこと、あるいは、適宜、添加剤を予備的に吸着させる工程である。このときに、PVAフィルムは順次均一に膨潤するものではなく、必ずバラツキが生じる。この状態でも、局所的に伸ばされあるいは伸び不足のないように、また、皺などの発生を抑えるように可能なかぎり小さい力を均一に負荷するような工夫を行うことが肝要である。また、この工程では、単に均一に膨潤させることが最も望ましいものであり、過剰な延伸などはムラの原因となるので極力しない。
【0032】
工程(2)は、通常2~8倍となるように延伸を行うものである。本発明における偏光フィルムはその後の加工性が良いことも重要であるので、延伸倍率を3~6.5倍、特に3.5~4.5倍から選択し、この状態でも配向性を維持するのが好ましい。延伸配向された状態で、水中に存在する時間、さらに乾燥までの時間が長いと配向緩和が進むものであることから、より高い性能を維持するとの観点からは延伸処理はより短時間となるように設定し、延伸後は、出来るだけ早く水分を除く、すなわち、直ちに乾燥工程に導き過剰な熱負荷を避けつつ乾燥させることが好ましい。なお、延伸倍率はポリビニルアルコール樹脂フィルムの原反を基準とした延伸倍率である。
【0033】
工程(3)の染色は、配向したポリビニルアルコール樹脂フィルムのポリマー鎖への染料を吸着あるいは沈着させることによる。この工程は、一軸延伸の前中後のいずれでも可能であり大きな変化はないが、界面という規制の高い表面が最も配向しやすいものであり、これを生かすような条件を選択するのが好ましい。温度は、高い生産性との要求から通常は40~80℃の高温から選択されるが、本発明では通常25~45℃、好ましく30~40℃、特に30~35℃から選択する。
【0034】
工程(4)は、耐熱性の向上や耐水性や耐有機溶剤性を向上させるために行う。ホウ酸による処理はPVA鎖間の架橋にて耐熱性を向上させるものであるが、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの一軸延伸の前中後のいずれでも可能であり大きな変化はない。また、金属化合物は主に、染料分子とキレート化合物を形成して安定化させるものであり、通常、染色後あるいは染色と同時に行う。
【0035】
金属化合物としては、第4周期、第5周期、第6周期のいずれの周期に属する遷移金属であっても、その金属化合物に前記耐熱性および耐溶剤性効果の確認されるものが存在するが、価格面からクロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの第4周期遷移金属の酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩などの金属塩が好ましい。これらの中でも、ニッケル、マンガン、コバルト、亜鉛および銅の化合物が、安価で前記効果に優れるため、さらに好ましく、ニッケルが特に好適である。
【0036】
より具体的な例としては、例えば、酢酸マンガン(II)四水和物、酢酸マンガン(III)二水和物、硝酸マンガン(II)六水和物、硫酸マンガン(II)五水和物、酢酸コバルト(II)四水和物、硝酸コバルト(II)六水和物、硫酸コバルト(II)七水和物、酢酸ニッケル(II)四水和物、硝酸ニッケル(II)六水和物、硫酸ニッケル(II)六水和物、酢酸亜鉛(II)、硫酸亜鉛(II)、硝酸クロム(III)九水和物、酢酸銅(II)一水和物、硝酸銅(II)三水和物、硫酸銅(II)五水和物などが挙げられる。これらの金属化合物のうち、いずれか1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いることもできる。
【0037】
金属化合物およびホウ酸の偏光フィルム中の含有率は、偏光フィルムに耐熱性および耐溶剤性を与える点から、偏光フィルム1g当たり、金属化合物では金属として0.2~20mg含有されることが好ましく、0.2~2mgがさらに好ましい。より具体的には、偏光フィルム中に含侵される金属化合物の濃度としては、200ppm~2500ppm、より好ましくは200ppm~2000ppm、更に好ましくは400ppm~1800ppm、更に好ましくは800ppm~2300ppm更に好ましくは600ppm~1600ppmである。金属化合物の濃度が200ppm未満の場合には、色ムラが発生する傾向にあり、2500ppmを超える場合には、耐湿熱性に問題が生じる。
【0038】
前述の通り、金属化合物を処理槽にて偏光フィルムに含侵させると、染料分子と偏光フィルム間でキレートを形成し、染料の配向変化を抑制できると考えられる。金属化合物を多く入れるとキレートに使われない過剰分の金属化合物が染料分子と反応し、色調の調整が困難になるが、金属化合物を全く加えないと二色比が低下し、二色比を補うために高二色比染料を入れる必要が出るため湿熱環境下では偏光フィルムが高配向化し、湿熱色変化が大きくなる。従って、キレート形成に必要な適量の金属化合物を加え、偏光フィルムを製造する。
【0039】
本発明において、ホウ酸の含有率は、ホウ素として0.3~30mgが好ましく、0.5~10mgがさらに好ましい。処理に用いる処理液の組成は以上の含有率を満たすように設定され、一般的には、金属化合物の濃度は0.5~30g/L、ホウ酸濃度は2~20g/Lであることが好ましい。
【0040】
偏光フィルムに含有される金属およびホウ素の含有率の分析は、原子吸光分析法により行うことができる。
【0041】
温度は、通常、染色と同じ条件を採用するが、通常、20~70℃、好ましくは25~45℃、より好ましく30~40℃、特に30~35℃から選択する。また、時間は、通常、0.5~15分から選択する。
【0042】
工程(5)にて、延伸、染色および適宜、ホウ酸または金属化合物にて処理された染色1軸延伸PVAフィルムを乾燥する。PVAフィルムは、含有する水分量に相当する耐熱性を示すものであり、水を多量に含む状態で温度が高くなってくると、より短時間で、1軸延伸状態からの乱れなどが生じ、二色比の低下が起こる。
【0043】
フィルムの乾燥は表面から進むものであり、両表面から乾燥させることが好ましく、乾燥空気送風にて水蒸気を除きつつ行うことが好ましい。また、周知のように、過剰な加熱を避ける点から、蒸発した水分を直ちに除去して蒸発を促進させる方法が温度上昇を抑えた乾燥ができる点から好ましく、乾燥空気の温度を乾燥状態の偏光フィルムが実質的に変色しない温度以下の範囲から、通常、70℃以上、好ましくは90~120℃の温度で、1~120分間、好ましくは3~40分間にて送風乾燥する。
【0044】
この段階における偏光フィルムの含水率は、5%以下とすることが好ましい。乾燥工程においては、2%を下回る含水率とすることは困難であり、また偏光フィルムの強度の観点からも好ましくない。好適な含水率としては2.5%から5.0%である。
【0045】
本発明において、染料は、PVA偏光フィルムに吸着配向できるものであれば、特に限定されない。例えば、二色性有機染料組成物と着色用有機染料組成物とを用いて染色する場合、二色性有機染料組成物にて染色されたPVA偏光フィルムの透過率を上限とし、着色用有機染料組成物にて染色されたPVA偏光フィルムの透過率を下限とする広い範囲の透過率の選択が可能となる。
また、色調は、主に着色用有機染料組成物にて調整され、偏光度の変化を実質的に考慮することなく使用量比の変更に対応した広い範囲の色調を得ることができる。
【0046】
(接着層)
偏光フィルムと透明保護シートとを積層して偏光シートとするために偏光フィルムと透明保護シートとの間に接着層を介在させる。通常、偏光シートに用いられる接着層の材料としては、ポリビニルアルコール樹脂系材料、アクリル樹脂系材料、ウレタン樹脂系材料、ポリエステル樹脂系材料、メラミン樹脂系材料、エポキシ樹脂系材料、シリコーン系材料等がある。
本願においては、熱曲げ加工、射出成型工程での安定性を考慮した場合、熱硬化性材料が好ましく、特にウレタン樹脂系材料であるポリウレタンプレポリマーと硬化剤からなる2液型の熱硬化性ウレタン樹脂が好ましい。
【0047】
ポリウレタンプレポリマーとしては、ジイソシアネート化合物とポリオキシアルキレンジオールとを一定割合で反応させた化合物であって、両末端にイソシアネート基を有する化合物である。ポリウレタンプレポリマーに使用されるジイソシアネート化合物としては、ジフェニールメタン-4,4’-ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、リジンイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートが使用できるが、ジフェニールメタン-4,4’-ジイソシアネートが好ましい。ポリオキシアルキレンジオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールが使用できるが、5~30の重合度を有するポリプロピレングリコールを使用することが好ましい。ポリウレタンプレポリマーの分子量は、特に限定されないが通常数平均分子量500~5000のものであり、好ましくは1500~4000、より好ましくは2000~3000である。
【0048】
一方、硬化剤としては、水酸基を2個以上有する化合物であれば特に限定されるものではなく、ポリウレタンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリカーボネートポリオール等が例示され、その中でも特定のイソシアネートと特定のポリオールから得られる末端に水酸基を有するポリウレタンポリオールが好ましい。特にジイソシアネート化合物とポリオールから誘導される少なくとも両末端に水酸基を有するポリウレタンポリオールが好ましい。該ジイソシアネート化合物としては、ジフェニールメタン-4,4’-ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、リジンイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートが使用できるが、トリレンジイソシアネートを使用することが好ましい。また、ポリオールとしては、トリメチロールプロパン等をエチレンオキサイド或いはプロピレンオキサイドと反応させたものが使用でき、重合度が5~30のポリプロピレングリコール誘導体を使用することが好ましい。この硬化剤の分子量は特に限定されないが通常数平均分子量500~5000であり、好ましくは1500~4000、より好ましくは2000~3000である。
【0049】
これらのポリウレタンプレポリマー及び硬化剤は粘度調節のために酢酸エチル及びテトラヒドロフランなどの溶媒を使用することができる。また、接着層に調光機能を付与する場合において、溶媒の使用はフォトクロミック化合物をウレタン樹脂中に均一に分散させるために有効な方法である。
【0050】
(保護層)
次に、本発明の偏光シートにおける保護層である透明プラスチックシートは、通常、厚み0.1~1mmであり、単層あるいは共押し出し法による多層のシートでもよく、例えば、芳香族ポリカーボネート/ポリアクリレートの共押し出しシートなど、が挙げられる。また、本発明の偏光シートは、通常、両表面に保護フィルムを付した状態で、個別のレンズ形状に打ち抜き、次に、熱曲げ加工され、表面保護フィルムを剥離して、射出成形金型に装着されて、溶融樹脂と一体化した射出成形偏光レンズの製造に好適である。
【0051】
上記の透明プラスチックシートの樹脂としては、芳香族ポリカーボネート、非晶性ポリオレフィン、ポリアクリレート、ポリスルフォン、アセチルセルロース、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、およびこれらの混合物からなる透明樹脂が挙げられる。これらの中で、最も汎用的な偏光フィルムの製造において必須であるアセチルセルロースがあり、機械的強度や耐衝撃性などの特性から芳香族ポリカーボネート系樹脂が好ましく、耐薬品性などからはポリオレフィン、ポリアクリレートやポリアミドが挙げられ、レンズ成形後の染色性からはポリアクリレートやポリアミドが挙げられる。
【0052】
芳香族ポリカーボネートシートは、フィルム強度、耐熱性、耐久性あるいは曲げ加工性の点から2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカンや2,2-(4-ヒドロキシ-3,5-ジハロゲノフェニル)アルカンで代表されるビスフェノール化合物から周知の方法で製造された重合体が好ましく、その重合体骨格に脂肪酸ジオールに由来する構造単位やエステル結合を持つ構造単位が含まれても良く、特に、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネートが好ましい。芳香族ポリカーボネートの分子量は、粘度平均分子量で12,000~40,000のものが好ましく、20,000~35,000のものがより好ましい。また、芳香族ポリカーボネートは、光弾性定数が大きく、応力や配向による複屈折に基づいて着色干渉縞が発生しやすい。
【0053】
芳香族ポリカーボネートとの組成物として、保護層用のシート或いはフィルムとして用いられる本発明の脂環式ポリエステル樹脂は、例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸で代表されるジカルボン酸成分と1,4-シクロヘキサンジメタノールで代表されるジオール成分と、必要に応じて他の少量の成分とを、エステル化またはエステル交換反応させ、次いで、適宜、重合触媒を添加し徐々に反応槽内を減圧し重縮合反応させる公知方法により得られるものである。
【0054】
脂環式ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体は、具体的には、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-デカヒドロナフタレンジカルボン酸、1,5-デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,6-デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,7-デカヒドロナフタレンジカルボン酸、およびそのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0055】
本発明の透明プラスチックシートに用いるポリアミド樹脂は、透明性や成形加工性の観点から非晶性ポリアミド或いは微結晶性ポリアミドと称されるものが望ましく、後述する射出成形加工ができるものが好ましい。すなわち、熱可塑性で、熱分解温度以下で成形可能な溶融流動性を示すものであり、適度のTg(ガラス転移温度)を有するものであれば、好適に用いることができる。
【0056】
非晶性を条件とした場合、結晶性となる繰り返し単位の量に制限が生じ、結晶性を阻害する分子構造の例として立体障害性を付与する構造が挙げられ、分岐構造や置換基の導入、シクロアルカンのような嵩高い分子構造が用いられる。適度の耐熱性との条件においては、繰り返し単位中(単位分子鎖長)にエンタルピーの大きい構造や、繰り返し単位内及び繰り返し単位相互間の分子運動を制限する構造が必須となり、前者の典型例が芳香族であり、後者の例が合成物では芳香核の不飽和結合を水素添加した構造のシクロアルカン、シクロアルケンなどが用いられる。また、脂環構造を持つものは、上記したように、耐熱性と結晶性を阻害する分子構造とを有することから、熱曲げ加工等に供するポリアミドを保護層としたサングラス用の機能性シートとするために有用な材料といえる。
【0057】
ポリアミドは一般的にジアミン、ジカルボン酸、アミノカルボン酸等のモノマーに由来する構成単位を有する。芳香族ポリアミドや脂環族ポリアミドは、原理的には、全脂肪族ポリアミドを構成する少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位を芳香族または脂環族とすることにより製造される。これらモノマーの全部または一部を芳香族または脂環族として、部分芳香族ポリアミド、芳香族部分脂環族ポリアミド、部分芳香族部分脂環族ポリアミド、部分芳香族脂環族ポリアミド、部分脂環族ポリアミドなど、或いはそれらの組み合わせが本願発明に使用可能であるが、非晶性と適度な耐熱性とを有する非晶性ポリアミドの典型例の一つとして、脂環構造を持つポリアミドを好適に用いることができる。尚、後述するリタデーションなどの光学特性を考慮した場合には、芳香族部分を含むことが望ましい。
【0058】
当然に、ポリアミドの酸化劣化、加工不具合への対処などのために、本発明に使用するポリアミド樹脂には適宜、滑剤、酸化防止剤などの添加剤が用いられる。レンズ用透明ポリアミド樹脂として公知のものが挙げられ、耐熱性の一指標である熱変形温度100~170℃の範囲であり、芳香族ポリアミド樹脂、脂環族ポリアミド樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、ならびに、これらの共重合体が挙げられ、機械的強度、耐薬品性、透明性等のバランスから脂環式ポリアミド樹脂は好ましいものであるが、2種以上のポリアミド樹脂を組み合わせてもよい。このようなポリアミド樹脂の例として、GLILAMID TR FE5577、XE 3805(EMS製)、NOVAMID X21(三菱エンジニアリングプラスチックス製)、東洋紡ナイロン T-714E(東洋紡製)などが例示される。
【0059】
(メタ)アクリル樹脂は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メチルメタクリレート(MMA)に代表される各種(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、またはPMMAやMMAと他の1種以上の単量体との共重合体であり、さらにそれらの樹脂の複数種が混合されたものでもよい。これらのなかでも、低複屈折性、低吸湿性、耐熱性に優れた環状アルキル構造を含む(メタ)アクリレートが好ましい。以上のような(メタ)アクリル樹脂の例として、アクリペット(三菱レイヨン製)、デルペット(旭化成ケミカルズ製)、パラペット(クラレ製)などが例示される。
【0060】
本発明の偏光積層体は内層に設けられた偏光フィルム層の機能を阻害しない程度のリタデーション値を示す保護層を、少なくともレンズ加工後に凸面となる位置に配置することが望ましい。
このような低いリタデーションとする場合、より分子配向を促しにくいキャスト法などにより製造されたフィルムを保護層として好適に用いることができるが、キャスト製法においても、引き取り時に不要な応力が発生して必要以上にリタデーション値が大きくなることの無いように注意が必要である。
【0061】
或いは、リタデーション値を小さく保つ以外の方法では、逆にリタデーション値を極端に大きく、例えば、1300nm以上、好ましくは2000nm以上、より好ましくは3000nm以上、より好ましくは4000nm以上とした保護層をレンズに加工した後の凸面に配置されるようにして、「色ムラ」や「偏光漏れ」という現象を、肉眼では問題とならない程度に分かり難くすることにより対処できる。このようにリタデーション値を極端に高くする場合には、透明樹脂からなる保護層を延伸処理する必要がある。その場合、溶融押し出し法などによりある程度の厚み、例えば100μm以上、好ましくは150μm以上、より好ましくは200μm以上、更に好ましくは300μm以上の厚みに成型したシートを延伸し、所望のリタデーション値と厚みを有する保護フィルムにするなどの方法が望ましい。なお、本願発明においてリタデーション値は面内リタデーション値である。面内リタデーション値は入射直線偏光を遅相軸及び進相軸に分解したときに、遅相軸方向の屈折率、進相軸方向の屈折率、およびフィルムの厚みから導きだせることは当業者の知識の範囲内である。なお、本開示において、リタデーション値は590nmにて測定した値である。測定装置としては、大塚電子製リタデーション測定装置:RETS-100などがある。
【0062】
溶融押し出し法で成型したフィルムを延伸してリタデーション値を高めるには、引き取る際に延伸しながら引き取るドロー延伸法や、成型後に一度巻取り、別途延伸を行うオフライン延伸法などが挙げられる。溶融押出成形法では、例えば、前記ポリアミド樹脂又は保護層を構成する樹脂を押出機などで溶融混合し、ダイ(例えば、Tダイなど)から押出成形し、冷却することにより保護層に用いる透明プラスチックシートを製造できる。保護層を構成する樹脂を溶融して成形する(溶融成形する)際の樹脂温度は、樹脂により異なるものであるが、通常、120℃~350℃程度の温度範囲から選択でき、例えば、130~300℃、好ましくは150~280℃、さらに好ましくは160~250℃程度である。この際、冷却ロールの速度よりも引き取る速度を速めることにより延伸処理を行うことができる。
【0063】
延伸の具体的方法は特に限定されるものではない。延伸部分のロールは、延伸ムラを抑制するために、適宜金型温調器などでロールを加温しつつ樹脂温を一定に保つことが好ましい。一般には、保護層を構成する樹脂のTg付近においてサングラス用のシートとして好適な外観性を維持した延伸が可能となる。樹脂温度が、使用する樹脂のTgに対して低い温度帯で延伸する場合には、均一に延伸されない延伸ムラを招きやすく、延伸された箇所と延伸されていない箇所のムラ模様が生じる。また、Tgに対して高い温度帯で延伸する場合には、透明プラスチックフィルムのロールへの溶着を招くため、ロールからフィルムが引き剥がされる際の跡が残るなどの問題を招く。適宜、後述するリタデーションとの関係も考慮しつつ、ロールやその他温調機の条件を選択する必要がある。尚、本発明でいうTgとは、DSCで測定した場合のTg曲線における始点、中間点、終点温度の内、中間点温度を示唆している。
【0064】
また、延伸時における保護層の樹脂温度は、リタデーションの付与にも関係する。延伸時のフィルムの樹脂温度が、使用している樹脂のTgに対して低い温度帯で延伸処理を行うならば、より高いリタデーションを付与しやすく、また高い温度となるほどにリタデーションは発現しにくいものとなる。更に、延伸後は、可能な限りすばやく冷却することが好ましく、それによりリタデーション及び、遅走軸と進走軸の角度を固定することができる。また、Tgに対して低い温度帯で延伸した場合には、シート成型後に収縮などの問題に影響する場合があるので、その点を考慮して延伸温度条件を選択することが必須である。逆に、Tgに対して高い樹脂温度で延伸した場合には、延伸中にシートのネックインの影響が大きくなって厚み分布に影響し、リタデーションや進相軸角度のバラツキを大きくさせる場合があるので、延伸倍率を上げすぎないなどの注意が必要となる。
【0065】
溶融押し出し法で成型された樹脂を延伸して保護層とする場合には、樹脂としての固有複屈折値が高いものを用いることが好ましい。これにより、より低い応力にてリタデーションを高く発現させやすく、また、Tgより高い樹脂温で延伸してもリタデーションを維持しやすくなる。樹脂の組成または種類により固有複屈折値は異なり、また所望するリタデーション値にもよる為、延伸処理における延伸倍率については適宜調整が必須となる。尚、一般的には、最低でも1.1倍、好ましくは1.2倍、より好ましくは1.3倍以上が必要となる。倍率が高まるほどにネックインが促進され、或いは破断のリスクが生じるなどの理由から生産効率の観点でその上限が決まる。通常には2.2倍程度、好ましくは2.0倍以下程度である。
【0066】
保護層である透明プラスチックシートの延伸による着色干渉縞を防ぐためには1500~10000nmのリタデーション(Re、以下単にリタデーションという場合は面内リタデーションを意味する)を有することが好ましい。この場合の好ましいリタデーションの下限値は2000nm、次に好ましい下限値は2500nm、より好ましい下限値は3000nm、更に好ましい下限値は3500nm、より更に好ましい下限値は4000nmである。バックライト光源の種類にもよるが、リタデーションが低すぎる場合には、虹斑が現れることがある。好ましい上限は8000nmであり、さらに好ましい上限は7000nmであり、さらに好ましい上限は6000nm、特に好ましい上限は5500nmであり、最も好ましい上限は5000nmである。これ以上のリタデーションを有する透明プラスチックシートでは厚みが大きくなり、本発明に用いるには不適である。
【0067】
本偏光シートにおける透明プラスチックシートは、面内リタデーションの偏差が小さいものが好ましい。本発明における面内リタデーションの偏差とは、成型された或いは延伸された透明プラスチックシートを長さ方向に平行に3分割し、中央とその両端のエリア内のリタデーションを測定したときの測定値を基準として求めることができる。
【0068】
(偏光シートの作製)
上記した偏光フィルムを機能層とし、上記接着層をグラビアコーター、或いはダイコーターなどで塗布して、上記保護層を両面に貼り合わせ、所望の長さに裁断することにより本発明の偏光積層体とすることができる。ラミネート方法においては特に限定はないが、接着材塗工時に塗工液不足による気泡巻き込みなどを回避するために、十分な吐出量を維持する。また、貼り合わせ時の張力、及び貼り合わせロールのニップ圧などは、貼り合わせ後のシートの反り状態などを考慮して、適切に調節することが望ましい。
【0069】
(サングラス用偏光レンズの作製)
次いで、偏光シートを個々のレンズ用の形状に打ち抜きなどにて加工した後、曲げ加工を施す。個々のレンズ形状品への加工は、生産性などから、通常、トムソン刃からなる打ち抜き刃を用いた、複数のレンズ形状品の打ち抜き加工による。個別レンズ形状品の形状は、最終製品の形状(サングラス、ゴーグルなど)により適宜、選択される。二眼用の場合の標準的なレンズ形状品は、直径80mmの円盤あるいはその両端を偏光軸に垂直な方向に同幅切り取ったスリット形状である。また、曲げ加工は、上記の本偏光シートに用いる保護層用の透明プラスチックシートの種類の選択でも触れたが、本発明の着色偏光フィルムを含む本偏光シートの機能性を発揮する層の劣化が実質的に発生しないとの条件により決定される。
【0070】
射出偏光レンズとして用いる場合、曲げ加工は、射出成形に用いる金型表面に沿うように曲げられる。高リタデーションシートの保護層を用いるとき、偏光フィルムは曲げ加工において延伸方向に沿った亀裂、いわゆる膜切れが生じやすいのでこれらの発生を抑えた条件を選択する必要がある。偏光シートの曲げ加工における金型温度は使用した樹脂のガラス転移温度以下の温度が好ましく、加えて、予熱処理により曲げ加工直前の偏光シート温度が使用した樹脂のガラス転移点より50℃低い温度以上ガラス転移点未満の温度であることが好ましく、特に、ガラス転移点より40℃低い温度以上ガラス転移点より5℃低い温度未満であることが好ましい。
【0071】
次いで、溶融樹脂を射出して射出偏光レンズとする。射出成形の加工条件は、外観に優れたレンズが製造できることが必須である。この点から、バリの出ない範囲で充填率の高いレンズ成形品の得られる射出条件、例えば、射出圧、保持圧、計量、成形サイクルなどを選択され、また、樹脂温度は、用いる樹脂の溶融温度であり、特に260~320℃から適宜選択される。また、金型温度は芳香族ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度より100℃低い温度以上ガラス転移点未満の温度から選択され、好ましくはガラス転移温度より80℃低い温度以上ガラス転移点より15℃低い温度未満、特に、ガラス転移温度より70℃低い温度以上ガラス転移点より25℃低い温度未満が好ましい。
【0072】
本発明の一実施態様は、上記で説明される曲げ偏光レンズおよび射出偏光レンズも含む。上記のような加工工程を経て射出偏光レンズを製造する場合には、偏光積層体が物理的な応力を受けるため一定程度の光学歪みが生じることが容易に推測される。しかしながら、本発明における測定方法により、MIL規格を十分にクリアする光学歪みを、容易にかつ精度よく規格化することができ、合格品と不合格品を簡単に区別することができる。特に、本明細書に記載の方法により測定されるMIL-DTL-43511Dに基づき測定される光学歪みにおいて、隣り合う2本のスリットからなる間隙の幅の最大値と最小値の差を、1.05mm以下とすることで、二眼用偏光サングラスにおけるMIL規格の合否を容易に測定することができる。
【0073】
次いで、本発明の偏光積層体においてハードコート処理を施すことができる。ハードコートの材質あるいは加工条件については、特に制限はないが、外観や使用した樹脂に対して、あるいは続いてコートされるミラーコートや反射防止コート等の無機層に対する密着性に優れている必要がある。また、焼成温度は偏光シートに使用した樹脂のガラス転移温度より50℃低い温度以上ガラス転移点未満の温度が好ましく、特に、ガラス転移点より40℃低い温度以上ガラス転移点より15℃低い温度未満である120℃前後の温度であり、ハードコートの焼成に要する時間は概ね30分から2時間の間である。
【実施例0074】
以下、実施例に基づき本発明の詳細を説明する。
【0075】
(実施例1)
a)偏光フィルムの作製
ポリビニルアルコール(クラレ株式会社製、商品名:VF-PS#7500)を35℃の水中で270秒間膨潤しつつ、2倍に延伸した。
引き続いて、0.41g/Lの二色性色素アイゼンプレミアムブルー6GLH(C.I.Blue 202)、0.09g/Lのスミライトレッド4B(C.I.Red 81)、0.03g/Lのクリソフェニン(C.I.Yellow 12)及び10g/Lの無水硫酸ナトリウムを含む35℃の水溶液中で染色した。
この染色フィルムを酢酸ニッケル2.3g/Lおよびホウ酸4.4g/Lを含む水溶液中35℃で120秒間浸漬しつつ、4倍に延伸した。そのフィルムを緊張状態が保持された状態で室温にて3分乾燥を行った後、110℃で3分間加熱処理し、偏光フィルムを得た。
【0076】
b)保護層の作製およびリタデーション測定
b-1)ポリカーボネート保護層
芳香族ポリカーボネート樹脂を加熱溶融し、短軸押し出し機でTダイから溶融樹脂を押し出し、冷却ロールで冷却後に巻取り機で巻き取る溶融押し出し製法にて製膜された厚み275μmのポリカーボネートフィルムを得た。次いで、上記で得たポリカーボネートシートを40cm角に切り出し、四方をクランプで固定してTg(DSC測定における中間点)温度で20分保持した後、1.5倍の延伸倍率、2m/minの延伸速度で一軸方向のみに延伸して、延伸後緊張状態を保持したまま室温で30分間冷却し、厚さ200μmのポリカーボネート保護フィルムを得た。後延後フィルムの幅方向に対して、左右両端からおよそ25mmを切断し、リタデーション測定を行うとともに偏光積層シートの製造に用いた。
b-2)リタデーション測定
リタデーション測定はフォトニクスラティス社製のWPA-200-Lを用いて、長さ300mm、幅295mmのポリカーボネート保護フィルムにて、幅方向で3分割(L、C、R)し、一辺70mmの範囲をしてエリア測定した平均レタデーション値を算出した。
【0077】
c)偏光シートの作製
上記で取得した偏光フィルムに熱硬化性ポリウレタン系接着剤を塗布して、上記で取得した厚み200μmのポリカーボネート保護フィルムを積層し、偏光フィルムの残りの片面へ同じように厚み200μmのポリカーボネート保護フィルムを積層した。積層後、70℃の恒温槽に放置して接着剤を硬化させ、接着層10μmの偏光シートを得た。
【0078】
d)偏光レンズの作製
直径80mmの円盤をその中心を通る直線の両側を平行に同量切り取り、幅55mmとしたスリット形状或いはカプセルや俵の縦断面形状であり、切り取られない両側の円弧部分に位置決め用の小突起を持つ二眼レンズ用の打ち抜き片を作成した。打ち抜き方向は、打ち抜き片の長手方向を偏光フィルムの吸収軸方向とした。製造した打ち抜き片を熱曲げ加工した。
熱曲げは、打ち抜き片を予熱器にて予備加熱し、これを所定の温度、所定の曲率の部分球面雌型に乗せ、シリコンゴム製雄型にて押し付けると同時に減圧を開始して雌型に吸着させ、雄型を引き上げ、雌型に吸着された打ち抜き片を所定の時間、所定の温度の熱風雰囲気中で保持した後、取り出す工程からなる連続熱曲げ装置を使用した。
上記において、打ち抜き片の予備加熱は芳香族ポリカーボネートを保護層として用いた場合には136℃雰囲気温度とし、雌型は8R相当(半径約65.6mm)の部分球面で表面温度139℃、シリコンゴム製雄型による押し付け時間は4秒、雌型への吸着は、吹き込み熱風温度が170℃である雰囲気下で5分間とした。
上記で製造した熱曲げ打ち抜き片の保護フィルムを剥離し、射出成形機の金型キャビチーに装着し、溶融芳香族ポリカーボネート(紫外線吸収剤配合、商品名;三菱エンジニアリングプラスチックス社、IUPILON、CLS-3400)を用いて、射出成形した。射出成形条件は、樹脂温度290℃、射出充填速度30mm/s、保持圧30MPa、金型温度90℃、冷却時間30秒とし、射出サイクル70秒にそれぞれ設定して射出し、厚み2.2mmの射出レンズを得た。
【0079】
d)光学歪み測定
d-1)目視による光学歪み測定方法
米国国防省の定めるミリタリー規格であるMIL-DTL-43511Dに記載の3.5.5項、4.3.5項に従い、DATA OPTICS INC.社製のモデルEディストネーションテスターを用いて規格書に記載の測定方法に準じて試験体の光学歪みを測定し、規格書に記載の光学歪み許容基準において合格、不合格を目視にて判断した。
d-2)画像判別装置による光学歪み測定方法
DATA OPTICS INC.のモデルEディストネーションテスターを用いてMIL-DTL-43511D、4.4.5項およびFigure4の記載に従ってサンプルをセットし、観察される光学歪みをデジタルスチールカメラ(Panasonic LUMIX、DMC-TZ10)にて撮影した(露光:1/5、ISO感度:100、F値:6.3)。
モデルEディストネーションテスターは上記のように以下の4つの構成からなり、これらが24インチ(約60cm)のレール上で一直線上に移動可能になっている。
a)光学歪み画像取得部
b)レンズ
c)サンプルホルダ
d)ミラー
本実施態様において、a)及びb)の距離は199mmであった。この距離はサンプルの焦点距離から決定することができる。このときに、a)にて視認される明線は14本となっていた。本実施態様において、b)、c)およびd)は、連結した状態で測定を行った。被検体の向きとしては球面収差の少ない側をa)に向けて測定した。
【0080】
a)光学歪み画像取得部にて撮影した画像は、画像判別装置により、光学歪みを客観的に評価するために、定量化される。本実施態様においては、まず、MIL-DTL-43511Dに記載の合格品および不合格品を測定した。具体的には、キーエンス社製画像判別ソフトIV3-CP50で読み込み、画像中の明線における隣り合う明線の幅(スリット間隔)を、1間隔につき上、中、下の3箇所測定した。測定した1間隔ごとでの最大幅と最小幅の差を、本実施態様における光学歪みとして定量化し、偏光積層体の場合はスリット間隔が1.05mm未満を合格とした。結果を図4に示す。
【0081】
図4において、各スリット間隔(白い線)の最大値と最小値との差を計算し、差が最も大きいところを表の数値としている。なお、明線がくっついてしまっている部分(不合格の1枚目と3枚目の一部)はスリット間隔が測定できなかったため、それ以外の部分にてスリット間隔を算出した。
【0082】
また、ポリカーボネート保護層のスリット間隔は0.75mm以下を合格として合否判定を行うことが好適であることを、上記方法で合格品とした偏光積層体から確認した。なお、本発明における偏光積層体および保護層に用いる被検体については、その測定を12間隔行っている。
【0083】
e)偏光漏れ
偏光積層体を熱曲げ加工した曲面偏光板を、互いの偏光軸が直交位となるように配置した平面偏光板と重ねた状態で平面偏光板側から蛍光灯の光を当てた際に、光が透過しないかを目視にて観察した。
【0084】
(実施例2)
片面の保護層にて、延伸工程を除いた、厚み200μmのポリカーボネート保護フィルムに変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0085】
(実施例3)
両面の保護層にて、ポリカーボネート樹脂の溶融押し出しから延伸までを連続して行える装置にて、延伸倍率1.7倍で製膜した、厚み320μmのポリカーボネート保護フィルムに変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0086】
(実施例4)
片面の保護層にて、ポリカーボネート樹脂の溶融押し出しから延伸までを連続して行える装置にて、延伸倍率1.7倍で製膜した、厚み320μmのポリカーボネート保護フィルムとし、もう一方の保護層は延伸工程を除いた、厚み280μmのポリカーボネート保護フィルムに変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0087】
(実施例5)
片面の保護層を、延伸工程を除いた、厚み200μmポリカーボネート保護フィルムとし、硬化した接着層の厚みを5μmに変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0088】
(実施例6)
片面の保護層にて、ポリカーボネート樹脂の溶融押し出しから延伸までを連続して行える装置にて、延伸倍率1.3倍で製膜した、厚み700μmのポリカーボネート保護フィルムとし、もう一方の保護層は延伸工程を除いた、厚み700μmのポリカーボネート保護フィルムに変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0089】
(実施例7)
片面の保護層は、脂肪族、及び脂環族からなる非晶質透明ポリアミド樹脂の溶融押出し、冷却ロールで冷却後に巻き取り機で巻き取る溶融押し出し製法にて作製した、厚みを275μmのポリアミド保護フィルムとした。また、もう一方の保護層は、上記で得たポリアミド保護フィルムを40cm角に切り出し、四方をクランプで固定してTg(DSC測定における中間点)温度で20分保持した後、1.5倍の延伸倍率、2m/minの延伸速度で一軸方向のみに延伸して、延伸後緊張状態を保持したまま室温で30分間冷却して、厚みを200μmとしたポリアミド保護フィルムとした以外は実施例1と同様に偏光積層体を作成した。
打ち抜き加工は実施例1と同様とし、熱曲げ加工も実施例1と同様に連続熱曲げ装置を使用した。なお、ポリアミド樹脂からなる透明プラスチックシートを保護層とした場合には、136℃雰囲気温度とし、雌型は8R相当(半径約65.6mm)の部分球面で表面温度135℃、シリコンゴム製雄型による押し付け時間は4秒、雌型への吸着は、吹き込み熱風温度が166℃である雰囲気下で5分間とした。
上記で製造した熱曲げ打ち抜き片の保護フィルムを剥離し、射出成形機の金型キャビチーに装着し、溶融ポリアミド樹脂(商品名;EMS-CHEMIE社、Grilamid、TR90)を用いて、射出成形した。射出成形条件は、樹脂温度280℃、射出充填速度30mm/s、保持圧30MPa、金型温度80℃、冷却時間30秒とし、射出サイクル70秒にそれぞれ設定して射出し、厚み2.2mmの射出レンズを得た。
【0090】
(比較例1)
両面の保護層にて、ポリカーボネート樹脂の溶融押し出しから延伸までを連続して行える装置にて、延伸倍率2倍で製膜した、厚み320μmのポリカーボネート保護フィルムに変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0091】
(比較例2)
片面の保護層にて、ポリカーボネート樹脂の溶融押し出しから延伸までを連続して行える装置にて、延伸倍率1.8倍で製膜した、厚み400μmのポリカーボネート保護フィルムとし、もう一方の保護層は延伸工程を除いた、厚み300μmのポリカーボネート保護フィルムに変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0092】
(比較例3)
両面の保護層にて、ポリカーボネート樹脂の溶融押し出しから延伸までを連続して行える装置にて、延伸倍率1.5倍で製膜した、厚み700μmのポリカーボネート保護フィルムに変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0093】
(比較例4)
硬化した接着層の厚みを40μmに変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0094】
(比較例5)
片面の保護層にて、ポリカーボネート樹脂の溶融押し出しから延伸までを連続して行える装置にて、延伸倍率1.7倍で製膜した、厚み320μmのポリカーボネート保護フィルムとし、もう一方の保護層は延伸工程を除いた、厚み100μmのポリカーボネート保護フィルムに変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0095】
(比較例6)
両面の保護層にて、延伸工程を除いた、厚み200μmのポリカーボネート保護フィルムに変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0096】
(比較例7)
延伸速度を4m/minとして、両面の保護層を厚み320μmのポリアミド保護フィルムに変えた以外は実施例7と同様に行った。
【0097】
上記のように作製した各実施例および比較例の評価結果を下記表1に示す。
【0098】
表1
【0099】
表1に示したように、保護層の光学歪みは、偏光積層体の光学歪みに影響することが明らかとなった。具体的には、本発明の方法にて合格品と判断される偏光積層体において、保護層のスリット間隔が0.75mmよりも大きい場合は、偏光積層体で1.05mmよりもスリット間隔が大きくなっており目視での光学歪みも不合格相当となることが明らかとなった。この保護層の光学歪みはリタデーションのバラつきが大きいと悪化する傾向がみられることが明らかとなった。
【0100】
また、保護層の光学歪み以外にも、比較例4から接着層の厚みが40μm以上と厚くなる、比較例6から保護層の厚みが100μm以下と薄くなることでも偏光積層体での光学歪みが悪化することも判明した。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によりスリット幅が均一な偏光積層体を効率的に選別することが可能となる。そのため、所謂ミリタリーグレード相当の光学歪みが極めて少ない偏光シートを容易に精度よく提供することが可能となった。
図1
図2
図3
図4