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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101801
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】積層体および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/10 20060101AFI20240723BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240723BHJP
   C09D 151/06 20060101ALI20240723BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240723BHJP
【FI】
B32B27/10
B32B27/00 L
C09D151/06
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005943
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鬼木 絵美
(72)【発明者】
【氏名】浅野 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 豊明
(72)【発明者】
【氏名】岩田 拓也
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AK03A
4F100AK03J
4F100AL04A
4F100AL04J
4F100AT00
4F100BA02
4F100DG10B
4F100GB90
4F100JA04A
4F100JA05A
4F100JK06
4F100JL11
4J038CP041
4J038DG191
4J038DG261
4J038KA06
4J038MA07
4J038MA13
4J038NA12
4J038PB14
(57)【要約】
【課題】紙基材との密着性に優れた積層体、および積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】基材紙である基材層(I)と、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)をグラフト変性して得られるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含み、前記基材層(I)に直接接する樹脂層(II)とを有する積層体であって、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)が要件(a)~(c)を満たす、積層体。
(a)示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が170~220℃である。
(b)DSCで測定した融解(吸熱)曲線における吸熱終了温度(TmE)が230℃以下である。
(c)DSCで測定した結晶化(発熱)曲線における発熱開始温度(TcS)が210℃以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材紙である基材層(I)と、
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)をグラフト変性して得られるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含み、前記基材層(I)に直接接する樹脂層(II)と
を有する積層体であって、
前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)が下記要件(a)~(c)を満たす、積層体。
(a)示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が170~220℃である。
(b)DSCで測定した融解(吸熱)曲線における吸熱終了温度(TmE)が230℃以下である。
(c)DSCで測定した結晶化(発熱)曲線における発熱開始温度(TcS)が210℃以下である。
【請求項2】
前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~5.0dl/gの範囲にある、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)における、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(U1)が80.0~100.0モル%であり、エチレンまたは炭素数3~20のα-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位の総量(U2)が20.0~0.0モル%(ただし、前記U1および前記U2の合計を100.0モル%とする)である、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記α-オレフィンが炭素数6~18のα-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテンを除く)である、請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記樹脂層(II)が、さらにイソシアネート化合物(C)を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
離型紙である、請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
合成皮革用の離型紙である、請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)と、溶媒(D)を含む組成物(Y)を準備する工程(1)と、
前記基材層(I)の少なくとも一方の面に前記組成物(Y)を塗布し、前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む樹脂層(II)を形成する工程(2)と、
を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~5.0dl/gの範囲にある、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む層を有する積層体、および該積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4-メチル-1-ペンテン系重合体は、表面張力が非常に低いことにより離型性に優れ、かつ耐熱性も高いため、4-メチル-1-ペンテン系重合体の樹脂層を紙もしくはプラスチック基板に積層した積層体は、産業用離型フィルム、合成皮革用部材(例えば、合成皮革の表面層)製造用の離型紙等として、しばしば利用されている。
【0003】
例えば、4-メチル-1-ペンテンおよび/または3-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位を80~99モル%含み、エチレンおよび炭素数3~4のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種類のオレフィンに由来する構成単位を1~20モル%含む共重合体の層を有する離型フィルムが提案されている(例えば、特許文献1)。また、4-メチル-1-ペンテンおよび/または3-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位を50~95モル%含み、エチレンおよび炭素数3~4のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種類のオレフィンに由来する構成単位を5~50モル%含む共重合体の層を有する離型フィルムも提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-227421号公報
【特許文献2】特開2015-34258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載の共重合体は、いずれも溶媒に溶解させてコーティング剤を調製し、フィルムや紙等の基材に塗工して積層体を得ることができ、かかる積層体は、コーティング剤の塗工で得られた共重合体の層に、粘着性のある表面を有する対象物を貼付することで、対象物の表面の保護などの用途に使用できる。しかしながら、特許文献1、2に記載の共重合体を塗工して得た積層体は、当該対象物を貼付後に剥離すると、貼付した対象物の表面の粘着性の強さによっては剥離時に共重合体が基材層から対象物に移行してしまい、対象物に移行した共重合体に起因して対象物の諸物性が損なわれることがあることがわかった。また、かかる課題は、特許文献1、2に記載の共重合体を紙基材に塗工して得られた積層体を、比較的粘着性の強いテープ用の剥離紙として用いた際に特に顕著であることもわかった。
かかることから、より紙基材との密着性が高く、対象物への移行が起きにくい積層体が求められている。
【0006】
本発明は、紙基材との密着性に優れた積層体、および積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが検討を進めた結果、基材紙である基材層(I)、ならびに、特定の要件を満たすグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む樹脂層(II)を有する積層体によれば、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、例えば以下[1]~[9]の事項を有する。
【0009】
[1] 基材紙である基材層(I)と、
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)をグラフト変性して得られるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含み、前記基材層(I)に直接接する樹脂層(II)と
を有する積層体であって、
前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)が下記要件(a)~(c)を満たす、積層体。
(a)示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が170~220℃である。
(b)DSCで測定した融解(吸熱)曲線における吸熱終了温度(TmE)が230℃以下である。
(c)DSCで測定した結晶化(発熱)曲線における発熱開始温度(TcS)が210℃以下である。
【0010】
[2] 前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~5.0dl/gの範囲にある、[1]に記載の積層体。
【0011】
[3] 前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)における、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(U1)が80.0~100.0モル%であり、エチレンまたは炭素数3~20のα-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位の総量(U2)が20.0~0.0モル%(ただし、前記U1および前記U2の合計を100.0モル%とする)である、[1]または[2]に記載の積層体。
【0012】
[4] 前記α-オレフィンが炭素数6~18のα-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテンを除く)である、[3]に記載の積層体。
【0013】
[5] 前記樹脂層(II)が、さらにイソシアネート化合物(C)を含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の積層体。
【0014】
[6] 離型紙である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の積層体。
【0015】
[7] 合成皮革用の離型紙である、[6]に記載の積層体。
【0016】
[8] 前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)と、溶媒(D)を含む組成物(Y)を準備する工程(1)と、
前記基材層(I)の少なくとも一方の面に前記組成物(Y)を塗布し、前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む樹脂層(II)を形成する工程(2)と、
を含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載の積層体の製造方法。
【0017】
[9] 前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~5.0dl/gの範囲にある、[8]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、紙基材との密着性に優れた積層体を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
≪積層体≫
本発明の積層体は、基材層(I)と、所定の要件を満たすグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含み、前記基材層(I)に直接接する樹脂層(II)とを有する。
【0020】
<樹脂層(II)>
樹脂層(II)は、所定の要件を満たすグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む。ここで、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)をグラフト変性して得られる重合体である。以下、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)について説明した後、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)について説明する。
【0021】
[グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)]
グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、下記要件(a)~(c)を満たす。なお、以下の記載において、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)における、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位を「構成単位(i)」と記載することがある。同様に、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)における、エチレンまたは炭素数3~20のα-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位を「構成単位(ii)」と記載することがある。
【0022】
〔要件(a)〕
後述する実施例に記載の方法により、示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が、170~220℃であり、好ましくは180℃を超え220℃以下であり、より好ましくは185~217℃、さらに好ましくは195~215℃である。示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が上記範囲にあると、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は耐熱性に優れる。その結果、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む樹脂層(II)の耐熱性が良好である。
前記融点(Tm)の値は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の立体規則性、および、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)における構成単位(ii)の含有率に依存する傾向がある。このため、例えば、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の原料である4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の重合の際に後述するオレフィン重合用触媒を用い、さらには構成単位(ii)の含有率を制御することにより、融点(Tm)を調整することができる。
【0023】
〔要件(b)〕
後述する実施例に記載の方法により、示差走査熱量計(DSC)で測定した融解(吸熱)曲線における吸熱終了温度(TmE)が、230℃以下であり、好ましくは230℃未満、より好ましくは228℃以下、さらに好ましくは228℃未満である。ここで、吸熱終了温度とは、融解が終了した温度を意味する。吸熱終了温度および後述する発熱開始温度は、一般にいう、ベースラインと定常ライン接線との交点であるオンセット、オフセットとは異なる指標である。前記TmEは、好ましくは190℃以上であり、より好ましくは200℃以上であり、さらに好ましくは210℃以上である。前記TmEの上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。
前記吸熱終了温度は、例えば、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の原料である4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を重合する際のオレフィン重合用触媒を適切に選択すること、構成単位(ii)の含有率を制御することなどにより所望の値とすることができる。
【0024】
吸熱終了温度が上記範囲にあるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、耐熱性に優れる。このため、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む樹脂層(II)も耐熱性に優れる傾向がある。また、吸熱終了温度が上記範囲にあるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、吸熱終了温度が上記範囲にないグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体に比べて、コーティング剤の調製時に使用可能な溶媒に溶解しやすい。このため、吸熱終了温度が上記範囲にあるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を用いて調製されたコーティング剤等の性状が均一になりやすく、かつ、保存安定性が良好な傾向にある。
【0025】
〔要件(c)〕
後述する実施例に記載の方法により、示差走査熱量計(DSC)で測定した結晶化(発熱)曲線における発熱開始温度(TcS)が、210℃以下であり、好ましくは210℃未満、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは200℃未満である。前記TcSは、好ましくは160℃以上であり、より好ましくは170℃以上であり、さらに好ましくは175℃以上である。前記TcSの上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。
前記発熱開始温度は、例えば、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の原料である4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を重合する際のオレフィン重合用触媒を適切に選択すること、構成単位(ii)の含有率を制御することなどにより所望の値とすることができる。
【0026】
発熱開始温度が上記範囲にあるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、耐熱性に優れる。このため、発熱開始温度が上記範囲にあるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む樹脂層(II)も耐熱性に優れる傾向がある。また、発熱開始温度が上記範囲にあるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、発熱開始温度が上記範囲にないグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体に比べて、コーティング剤の調製時に使用可能な溶媒に溶解しやすい。このため、発熱開始温度が上記範囲にあるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を用いて調製されたコーティング剤等の性状が均一になりやすく、かつ、保存安定性が良好な傾向にある。
【0027】
本発明の積層体に用いられるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、要件(a)~(c)を満たすので、耐熱性を保ちつつ、溶媒への溶解性にも優れる。また、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、溶媒への溶解性に優れるため、溶媒中で溶解したままの状態を保ちやすい。このため、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、要件(a)~(c)のいずれか1つ以上を満たさないグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体に比べて、溶媒に溶解された場合の保存安定性も良好である。すなわち、要件(a)~(c)を満たすグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を溶解させることで、性状が均一でありかつ保存安定性の良好なコーティング剤を製造することができる。その結果、該コーティング剤を用いて樹脂層(II)を形成した場合、樹脂層(II)の性状が均一になる。
【0028】
グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、さらに、下記要件(d)~(g)の1つ以上を満たしてもよく、好ましくは下記要件(d)~(g)の2つ以上を満たす。
【0029】
〔要件(d)〕
後述する実施例に記載の方法により135℃デカリン中で測定した、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の極限粘度[η]が、好ましくは0.5~5.0dl/g、より好ましくは0.5~3.0dl/g、さらに好ましくは0.6~2.0dl/g、特に好ましくは0.7~1.5dl/gである。
極限粘度[η]の値が上記範囲にあるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、耐熱性が良好である。また、極限粘度[η]の値が上記範囲にあるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含むコーティング剤は、塗工性が良好であり、樹脂層の形成に適している。
極限粘度[η]は、例えば、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の原料である4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を製造する際の重合工程における水素の添加量により調整することが可能である。
【0030】
〔要件(e)〕
グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)における、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位を「構成単位(i)」、エチレンまたは炭素数3~20のα-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位を「構成単位(ii)」とすると、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は下記(e1)および(e2)を満たす。
(e1)グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)における構成単位(i)の量(U1)は、好ましくは80.0~100.0モル%、より好ましくは85.0~100.0モル%、さらに好ましくは90.0~99.0モル%、特に好ましくは95.0~98.5モル%である(ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)との合計を100.0モル%とする)。
(e2)グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)における、構成単位(ii)の総量(U2)は、好ましくは0.0~20.0モル%、より好ましくは0.0~15.0モル%、さらに好ましくは1.0~10.0モル%、特に好ましくは1.5~5.0モル%である(ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)との合計を100.0モル%とする)。
なお、U1およびU2は、実施例記載の方法により求められる。U1およびU2が上記範囲にあるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、耐熱性に優れる。このため、U1およびU2が上記範囲にあるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む樹脂層(II)も耐熱性に優れる傾向にある。
【0031】
上記構成単位(ii)を導くα-オレフィンは、直鎖状のα-オレフィンとすることができる。上記構成単位(ii)を導くα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。
これらの中でも耐熱性の観点から、炭素数が6~18の直鎖状のα-オレフィンが好ましい。具体的には、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン等が好ましく、中でも、1-デセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンが特に好ましい。
上記構成単位(ii)は、エチレンまたは炭素数3~20のα-オレフィンからなる群から選択される1種のみに由来するものであってもよく、また、エチレンまたは炭素数3~20のα-オレフィンからなる群から選択される2種以上に由来するものであってもよい。
【0032】
ここで、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)としては、構成単位(i)および構成単位(ii)のみからなる共重合体が挙げられる。この場合、構成単位(i)と構成単位(ii)との合計は100.0モル%である。
【0033】
グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、本発明の目的を損なわない程度の少量、具体的には10モル%以下、好ましくは5.0モル%以下、より好ましくは3.0モル%以下であれば、構成単位(i)および構成単位(ii)の他に、4-メチル-1-ペンテン、エチレン、および炭素数3~20のα-オレフィン以外の他の重合性モノマーから導かれる構成単位をさらに含んでいてもよい。
グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)に含まれる他の重合性モノマーから導かれる構成単位は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0034】
このような他の重合性モノマーの好ましい具体例としては、スチレン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルナン等の環状構造を有するビニル化合物;酢酸ビニル等のビニルエステル類;無水マレイン酸等の不飽和有機酸またはその誘導体;ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等の共役ジエン類;1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン等の非共役ポリエン類が挙げられる。
【0035】
ここで、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)が、他の重合性モノマーから導かれる構成単位を含む場合、構成単位(ii)と他の重合性モノマーから導かれる構成単位との合計含有量が、前記構成単位(ii)の含有量の範囲を満たすことが好ましい。この場合、構成単位(i)と構成単位(ii)と他の重合性モノマーから導かれる構成単位との合計は100.0モル%である。
【0036】
〔要件(f)〕
後述する実施例に記載の方法により、示差走査熱量計(DSC)で求めた結晶化温度(Tc)が、好ましくは110~220℃、より好ましくは135~205℃、さらに好ましくは160~190℃である。
結晶化温度が上記範囲にあるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、耐熱性および成形性の観点から好ましい。このため、結晶化温度が上記範囲にあるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む組成物から得られるコーティング剤等は、性状や保存安定性が良好になる傾向にある。その結果、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含むコーティング剤等は、性状や保存安定性が良好になる傾向にある。したがって、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含むコーティング剤等を用いて樹脂層(II)を形成した場合に、樹脂層(II)の性状が均一になりやすい。
【0037】
〔要件(g)〕
グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)のグラフト変性量は、変性後の4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の質量を100質量%とすると、好ましくは、0.1~5.0質量%、より好ましくは0.5~3.0質量%、さらに好ましくは1.0~2.0質量%である。グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)のグラフト変性量が前記範囲にあると、基材層(I)と樹脂層(II)との密着性に優れる傾向にある。さらに、積層体が後述する樹脂層(III)を有する場合、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)のグラフト変性量が前記範囲にあると、樹脂層(II)と樹脂層(III)との密着性にも優れる傾向にある。
【0038】
[4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)]
グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の材料となる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、要件(a)~(c)を満たすグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)が得られる限り、特に限定されないが、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の製造しやすさから、要件(a)~(c)の1つ以上を満たすことが好ましい。
【0039】
また、後述する実施例に記載の方法により135℃デカリン中で測定した、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の極限粘度[η]は、好ましくは1.0~10.0dl/g、より好ましくは1.5~8.0dl/g、さらに好ましくは2.0~6.0dl/gである。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の極限粘度[η]が上記範囲内であると、好ましい極限粘度を有するグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)が得られやすい。
さらに、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は要件(e)~(f)のいずれか1つを満たしてもよく、好ましくは両方を満たす。
【0040】
[4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の製造方法]
前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、オレフィン重合用触媒の存在下、4-メチル-1-ペンテンと、上述した構成単位(ii)を導く特定のオレフィン、さらに必要に応じて上記他の重合性モノマーとを、公知の方法により重合することにより得ることができる。
【0041】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の製造の際に使用可能なオレフィン重合用触媒の例として、メタロセン触媒を挙げることができる。好ましいメタロセン触媒としては、国際公開第01/53369号、国際公開第01/27124号、特開平3-193796号公報、特開平02-41303号公報、国際公開第06/025540号、あるいは、国際公開第2014/123212号に記載のメタロセン触媒が挙げられる。
【0042】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、一旦上記触媒等で製造した4-メチル-1-ペンテン系重合体を、押出機やミキサー等の中で熱処理することにより、調製した4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)であってもよい。また、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、市販の4-メチル-1-ペンテン系重合体(例えば、三井化学株式会社製TPX等)を、押出機やミキサー等の中で熱処理することにより調製した4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)であってもよい。
【0043】
[グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の製造方法]
グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の製造方法は特に制限されないが、例えばグラフト変性されていない(未変性の)4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を任意の方法でグラフト変性することで得ることができる。ここで、グラフト変性の過程において、加熱の影響または系内に添加した過酸化物などの影響により未変性の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)が分解してもよい。この場合、低分子量化した後の重合体が変性されたものが、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)となる。また、未変性の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)が低分子量化することなくグラフト変性が行われて、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)が製造されてもよい。
【0044】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を変性してグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を製造する際には、官能基を有するエチレン性不飽和モノマーが用いられる。変性に使用されるエチレン性不飽和モノマーは、好ましくは不飽和カルボン酸および/またはその誘導体である。不飽和カルボン酸および/またはその誘導体としては、カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物、カルボン酸基を有する化合物とアルキルアルコールとのエステル、無水カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物等を挙げることができる。
【0045】
不飽和化合物が有する不飽和基としては、ビニル基、ビニレン基、不飽和環状炭化水素基等を挙げることができる。不飽和カルボン酸および/またはその誘導体は、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。これらエチレン性不飽和モノマーの中では、不飽和ジカルボン酸またはその酸無水物が好適であり、特にマレイン酸、ナジック酸またはこれらの酸無水物が好ましい。
【0046】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)をエチレン性不飽和モノマーでグラフト変性させてグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を製造する方法は、特に限定されず、溶液法、溶融混練法等、従来公知のグラフト重合法を採用することができる。例えば、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を溶融し、エチレン性不飽和モノマーを添加してグラフト変性させる方法、あるいは4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を溶媒に溶解して溶液とし、そこへエチレン性不飽和モノマーを添加してグラフト変性させる方法等がある。
【0047】
[樹脂層(II)の組成]
樹脂層(II)は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含み、任意にイソシアネート化合物(C)等の他の成分をさらに含み得る。なお、樹脂層(II)に含まれるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、1種類でもよく、また、2種類以上であってもよい。
【0048】
樹脂層(II)の質量を100質量%とした場合、樹脂層(II)におけるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の含有量は、好ましくは20~100質量%、より好ましくは50~100質量%、さらに好ましくは80~100質量%である。樹脂層(II)中のグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の含有量が前記範囲であると、樹脂層(II)と基材層(I)との間で十分な密着性を持たせることができる。さらに、積層体に後述する樹脂層(III)が含まれる場合には、樹脂層(II)中のグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の含有量が前記範囲であると、樹脂層(II)と樹脂層(III)との間でも十分な密着性を持たせることができる。
また、樹脂層(II)がイソシアネート化合物(C)を含む場合、樹脂層(II)中のグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の含有量が20質量%以上(ただし、樹脂層(II)の質量を100質量%とする)であると、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)とイソシアネート化合物(C)との間の反応が効果的であり、樹脂層(II)と基材層(I)との間の密着性がさらに良好になる。さらに、積層体に後述する樹脂層(III)が含まれ、かつ、樹脂層(II)がイソシアネート化合物(C)を含む場合、樹脂層(II)中のグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の含有量が前記範囲であると、樹脂層(II)と樹脂層(III)との間の密着性がさらに良好になる。
【0049】
〔イソシアネート化合物(C)〕
イソシアネート化合物(C)は、イソシアネート基を有する化合物であれば、特に限定されないが、樹脂層(II)と基材層(I)との間の密着性を向上させる観点から、1分子内に2以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネート化合物であることが好ましい。なお、積層体に後述する樹脂層(III)が含まれる場合には、イソシアネート化合物(C)が1分子内に2以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネート化合物であると、樹脂層(II)と樹脂層(III)との間の密着性も向上する。
【0050】
1分子内に2つのイソシアネート基を有する2官能イソシアネート化合物としては、例えば、メチレンジイソシアネート、ジメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジプロピルエーテルジイソシアネート、2,2-ジメチルペンタンジイソシアネート、3-メトキシヘキサンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルペンタンジイソシアネート、ノナメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、3-ブトキシヘキサンジイソシアネート、1,4-ブチレングリコールジプロピルエーテルジイソシアネート、チオジヘキシルジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;
m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ジメチルベンゼンジイソシアネート、エチルベンゼンジイソシアネート、イソプロピルベンゼンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、1,4-ナフタレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、2,6-ナフタレンジイソシアネート、2,7-ナフタレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、パラキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;および
水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン4,4'-ジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートが挙げられる。
【0051】
イソシアネート化合物(C)は、2官能イソシアネート化合物の3量体であるビウレット体又はイソシアヌレート体であってもよく、トリメチロールプロパン等のポリオールと2官能イソシアネート化合物との付加体(すなわち、アダクト体)であってもよく、メタノール等のアルコールと2官能イソシアネート化合物との付加体(すなわち、アロファネート体)であってもよい。
【0052】
これらの中でも、耐黄変、密着性および耐熱性の観点から、イソシアネート化合物(C)は、脂肪族イソシアネート化合物であることが好ましく、1分子内に2以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物であることがより好ましく、脂肪族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネートのイソシアヌレート体、脂肪族ジイソシアネートとアルコールとのアロファネート体、又は脂肪族ジイソシアネートとポリオールとのアダクト体であることがさらに好ましく、脂肪族ジイソシアネート、又は脂肪族ジイソシアネートのイソシアヌレート体であることが特に好ましい。
【0053】
イソシアネート化合物(C)は、市販品であってもよく、市販品としては、例えば、タケネートD103H、D204、D160N、D170N、D165N、D178NL、D110N、D370N等のタケネート(登録商標)シリーズ(三井化学株式会社製)、およびコロネートHX、HXR、HXL、HXLV、HK、HK-T、HL、2096(日本ポリウレタン工業株式会社製)が挙げられる。
【0054】
樹脂層(II)がイソシアネート化合物(C)を含む場合、その含有量は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)100質量部に対して、通常、0.001~2.00質量部であり、0.001~1.50質量部であることが好ましい。
イソシアネート化合物(C)は、樹脂層(II)中に1種単独で含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0055】
〔樹脂層(II)に含まれるその他の成分〕
樹脂層(II)は、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに必要に応じて、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、レベリング剤、強化剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、充填剤等を含有することができる。
その他の成分の配合量は、本発明の目的を損なわない任意の量とすることができるが、その他の成分の配合量の総量は、樹脂層(II)の質量を100質量部とすると、通常0.005~5質量部、好ましくは0.01~3質量部である。
【0056】
酸化防止剤としては、公知の酸化防止剤が使用可能である。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、イオウ系酸化防止剤、ラクトーン系酸化防止剤、有機ホスファイト化合物、有機ホスフォナイト化合物、あるいはこれらを数種類組み合わせたものが使用できる。
【0057】
滑剤としては、例えばラウリル酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の飽和または不飽和脂肪酸のナトリウム、カルシウム、マグネシウム塩等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。またかかる滑剤の配合量は、樹脂層(II)の質量を100質量部とすると通常0.1~3質量部、好ましくは0.1~2質量部である。
【0058】
スリップ剤としては、ラウリル酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、エルカ酸、ヘベニン酸等の飽和または不飽和脂肪酸のアミド、あるいはこれらの飽和または不飽和脂肪酸のビスアマイドを用いることが好ましい。これらのうちでは、エルカ酸アミドおよびエチレンビスステアロアマイドが特に好ましい。これらの脂肪酸アミドは、樹脂層(II)中のグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)100質量部に対して0.01~5質量部の範囲で配合することが好ましい。
【0059】
アンチブロッキング剤としては、微粉末シリカ、微粉末酸化アルミニウム、微粉末クレー、粉末状、もしくは液状のシリコーン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、微粉末架橋樹脂、例えば架橋されたアクリル、メタクリル樹脂粉末等をあげることができる。これらのうちでは、微粉末シリカおよび架橋されたアクリル、メタクリル樹脂粉末が好ましい。
【0060】
また後述するように樹脂層(II)をコーティング剤から作製する場合には、該コーティング剤にレベリング剤を添加するのも好ましい態様である。この場合、作製される樹脂層(II)にもレベリング剤が含まれる。樹脂層(II)の表面粗さを小さくするためのレベリング剤としてはフッ素系ノニオン界面活性剤、特殊アクリル樹脂系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤等を用いることができ、溶媒と相溶性が良いものが好ましく、添加量は樹脂層(II)中のグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)に対して1~50,000ppmの範囲である。
【0061】
強化剤としては、ケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム等の金属の酸化物、多官能アルコキシ化合物あるいはそのオリゴマー、粘土鉱物を樹脂層(II)中のグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)100質量部に対して、例えば5~50質量部、配合することもでき、樹脂層(II)の硬度や弾性率を高めることができる。添加量が5質量部未満では効果が低すぎ、50質量部を超えると樹脂層(II)の透明性または機械強度が損なわれることがある。
【0062】
[樹脂層(II)の厚さ]
本発明の積層体に含まれる樹脂層(II)の厚さは、好ましくは25μm以下であり、より好ましくは0.01~20μm、さらに好ましくは0.03~10μmである。
樹脂層(II)の厚さは、例えば、樹脂層(II)を形成する際に用いられるコーティング剤(後述する組成物(Y))中のグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の濃度によって調整され得る。コーティング剤に含まれるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の濃度が低いほど、得られる樹脂層(II)の厚さが薄くなる傾向がある。樹脂層(II)の厚さが上記範囲にあると、基材層(I)の一方の面だけに樹脂層(II)を形成した場合でも、得られる積層体にカールが発生しづらくなる。
【0063】
<基材層(I)>
本発明の積層体に含まれる基材層(I)は、基材紙である。
【0064】
基材紙の素材としては、例えば、天然パルプすなわち植物体から取り出されたセルロース繊維の集合体(例えば、上質加工原紙、クラフト紙、晒クラフト紙、白板紙、グラシン、和紙等)、レーヨン、アセテート繊維等の有機繊維、ガラス繊維、アスベスト繊維、炭素繊維等の無機繊維、合成パルプ等が挙げられる。これらのうちではセルロース繊維の集合体が好ましく用いられる。このような素材からなる基材紙には、顔料、染料、バインダー等が含まれていてもよい。
基材紙の厚さは、通常は20~500μm、好ましくは30~400μm、さらに好ましくは100~300μmであるが、特に限定されない。
【0065】
<積層体>
本発明の積層体は、上述した基材層(I)と樹脂層(II)とを有しており、樹脂層(II)は基材層(I)に直接接している。
本発明の積層体中に含まれる樹脂層(II)は、1層であっても2層であってもよい。なお、積層体中に樹脂層(II)が2層ある場合には、基材層(I)の両面に、樹脂層(II)が直接接している。本発明の積層体に樹脂層(II)が2層含まれる場合は、上述した樹脂層(II)の要件を満たす限り、これら樹脂層(II)は同一でも異なっていてもよい。
また、本発明の積層体は、基材層(I)と樹脂層(II)以外の樹脂層(III)を有していてもよい。樹脂層(III)は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含むが基材層(I)に直接接していない層であってもよい。また、樹脂層(III)は、グラフト変性されていない4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を主成分とする層であってもよい。ここで、「主成分」とは、樹脂層(III)中に、通常50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上含むことをいう。樹脂層(III)がグラフト変性されていない4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を主成分とする層である場合、樹脂層(III)に含まれる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、樹脂層(II)に含まれるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の材料とした4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と同じであってもよく、また、異なっていてもよい。
なお、本発明の積層体に樹脂層(III)が2層以上含まれていてもよい。本発明の積層体に樹脂層(III)が2層以上含まれる場合は、樹脂層(III)は同一でも異なっていてもよい。
本発明の積層体が後述するように離型紙として用いられる場合等は、本発明の積層体としては、その積層体の最外層にグラフト変性されていない4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を主成分とする層を有することが好ましい一形態である。
【0066】
≪積層体の製造方法≫
本発明の積層体は、例えば以下の製造方法により好適に製造できる。すなわち、前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)と、溶媒(D)を含む組成物(Y)を準備する工程(1)と、基材層(I)の少なくとも一方の面に前記組成物(Y)を塗布し、前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む樹脂層(II)を形成する工程(2)とを含む方法等により、本発明の積層体が製造され得る。ここで、樹脂層(II)に、イソシアネート化合物(C)および上述のその他の成分からなる群から選択される少なくとも1つ以上の任意成分を含む場合、樹脂層(II)に含まれる任意成分も組成物(Y)に含められる。なお、本発明の積層体は、基材層(I)の片側のみに樹脂層(II)を有していてもよく、また、基材層(I)の両側に樹脂層(II)を有していてもよい。
【0067】
[組成物(Y)]
組成物(Y)は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)と溶媒(D)とを含む。組成物(Y)に含まれるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、1種類であってもよく、また、2種類以上であってもよい。組成物(Y)は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を溶媒(D)に溶解させたコーティング剤であってもよい。組成物(Y)は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)に加えて、イソシアネート化合物(C)および上述のその他の成分からなる群から選択される少なくとも1つ以上の任意成分も溶媒(D)に溶解させたコーティング剤であってもよい。
【0068】
組成物(Y)におけるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の含有量は、通常、0.01~50質量%であり、好ましくは0.05~30質量%、より好ましくは0.07~25質量%、さらに好ましくは0.1~20質量%、特に好ましくは1.0~20質量%、最も好ましくは3.0~20質量%である。組成物(Y)における溶媒(D)の含有量は、通常、50~99.99質量%であり、好ましくは70~99.95質量%、より好ましくは75~99.93質量%、さらに好ましくは80~99.90質量%、特に好ましくは80.0~99.0質量%、最も好ましくは80.0~97.0質量%である。
【0069】
組成物(Y)におけるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)および溶媒(D)の含有量が前記範囲内であることにより、組成物(Y)は、コーティング剤等として用いた場合に、ハンドリング性とコーティング剤から樹脂層(II)を形成する際の溶媒の除去のしやすさとのバランスが良好となる。
【0070】
〔溶媒(D)〕
溶媒(D)は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を溶解することができれば特に制限はないが、有機系溶媒を好適に用いることができる。溶媒(D)としては、例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等を挙げることができる。さらに、これらの溶媒を2種類以上混合した混合溶媒も、溶媒(D)として使用され得る。これらの中でも、トルエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等を好適に用いることができる。
【0071】
〔組成物(Y)の製造方法〕
組成物(Y)の製造方法は特に限定されず、通常用いられる方法で製造することができる。例えば、溶媒(D)にグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)と任意にイソシアネート化合物(C)などの他の成分とを添加し、溶媒(D)の沸点以下の温度で、所定の時間攪拌することで製造することができる。また、別途準備した4-メチル-1-ペンテン系重合体を熱処理して、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を調整した後、得られた4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)をグラフト変性することで得られたグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)と、任意にイソシアネート化合物(C)などの他の成分とを溶媒(D)に添加し、溶媒(D)の沸点以下の温度で、所定の時間攪拌することでも、組成物(Y)を製造することができる。
【0072】
[樹脂層(II)を形成する工程]
以下、樹脂層(II)を形成する工程(工程(2))で行われる処理の例を説明する。工程(2)では、具体的には、組成物(Y)を、基材層(I)の表面に塗布し、組成物(Y)中の溶媒(D)の沸点に近い温度に加熱することで組成物(Y)中の溶媒(D)をある程度、除去する。組成物(Y)を塗布する方法は、特に限定されないが、はけやブラシを用いた塗布、スプレーによる吹き付け、スクリーン印刷法、フローコーティング、スピンコート、ディッピングによる方法や、バーコーター、Tダイ、バー付きTダイ、ドクターナイフ、ロールコート、ダイコート等を用いてロールや平板に塗布する方法等が挙げられる。
【0073】
なお本願でいう溶媒の除去とは、組成物(Y)中から溶媒(D)を完全に取り去ることのみを意味するものではなく、組成物(Y)中に含まれているグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)などを樹脂層(II)として形成し得る程度に溶媒(D)を取り去ることも含む。具体的には、組成物(Y)を用いて作製した樹脂層(II)の重量100%に対して、溶媒(D)が0.001~0.5重量%程度になるまで、溶媒を取り去ることが含まれる。溶媒(D)を除去する方法は特に限定されず、放置することで乾燥してもよいが、一般的には30~220℃で加熱し乾燥することで除去される。またグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の熱劣化や熱分解を防ぐために、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の融点(Tm)以下の温度で溶媒(D)を除去するのが好ましい。一方、乾燥温度が低すぎると乾燥時間が長くなるため生産性が悪化し、高すぎると発泡や劣化等の問題が生じる。発泡を防ぎながら短時間で乾燥させるために、2段階以上もしくは連続的に温度を上昇させながら乾燥してもよい。また、乾燥工程の後に水、メタノール、エタノール、アセトン、塩化メチレン等のグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)が溶解しにくい溶媒に浸漬する工程、あるいはその溶媒の蒸気雰囲気下に曝す工程を経ることによって樹脂層(II)に残留する溶媒(D)を低減することもできる。乾燥後の樹脂層(II)中に残留する溶媒は、0.5重量%以下、好ましくは0.05重量%以下さらに好ましくは0.01重量%以下である。
【0074】
[樹脂層(III)を形成する工程]
本発明の積層体が、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含むが基材層(I)に直接接していない層を樹脂層(III)として有しており、かつ、その樹脂層(III)が樹脂層(II)に直接接する場合、樹脂層(III)は、樹脂層(II)の表面に前記組成物(Y)を塗布し、組成物(Y)中の溶媒(D)を除去して、前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む樹脂層を形成する工程(3a)によって形成される。組成物(Y)を塗布する方法は前記工程(2)と同様である。
本発明の積層体が、樹脂層(III)として、グラフト変性されていない4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を主成分とする層を樹脂層(II)に直接接する樹脂層(III)として有する場合、樹脂層(III)は、樹脂層(II)の表面に、後述する組成物(X)を塗布し、組成物(X)中の溶媒(D)を除去して、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を主成分とする樹脂層を形成する工程(3b)によって形成される。組成物(X)を塗布する方法は前記工程(2)と同様である。
本発明の積層体において、樹脂層(III)が2層以上積層される場合、直近に形成された樹脂層(III)の表面に、組成物(Y)もしくは組成物(X)を塗布し、溶媒(D)を除去する工程(4)によって、2層目以降の樹脂層(III)が形成される。なお、組成物(Y)もしくは組成物(X)を塗布する方法および乾燥する方法は前記工程(2)と同様である。
【0075】
〔組成物(X)〕
組成物(X)は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と溶媒(D)とを含む。組成物(X)は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を溶媒(D)に溶解させたコーティング剤であってもよい。また、組成物(X)は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)に加えて、任意に他の成分(ただし、イソシアネート化合物(C)を除く)をさらに含むが、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含まない。組成物(X)から形成される樹脂層(III)には、組成物(X)に含まれる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と他の成分が含まれ得る。ここで、他の成分は、樹脂層(II)に含まれるその他の成分と同様である。
組成物(X)に含まれる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、1種類でもよく、また、2種類以上であってもよい。
【0076】
〔組成物(X)の製造方法〕
組成物(X)の製造方法は特に限定されず、通常用いられる方法で製造することができる。例えば、溶媒(D)に4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と任意に他の成分とを添加し、溶媒(D)の沸点以下の温度で、所定の時間攪拌することで製造できる。
【0077】
≪積層体の用途≫
本発明の積層体は、離型紙等の各種工程紙、印画紙、テープセパレーターとして好適に用いられる。例えば、合成皮革用離型紙、ゴム製造用工程紙、ウレタン硬化用離型紙、エポキシ硬化用離型紙、太陽電池製造用工程紙、半導体製造用工程紙、燃料電池製造用工程紙、電気電子部品製造用工程紙、半導体製品製造用工程紙、回路基板製造用工程紙、フレキシブルプリント基板用離型紙、リジット基板用離型紙、リジットフレキシブル基板用離型紙、先端複合材料製造用工程紙、炭素繊維複合材硬化用離型紙、ガラス繊維複合材硬化用離型紙、アラミド繊維複合材硬化用離型紙、ナノ複合材硬化用離型紙、フィラー充填材硬化用離型紙、耐熱耐水印画紙、OA紙、粘着テープセパレーター、シリコンテープセパレーター、接着剤セパレーター等の用途があり、この中でも特に合成皮革用離型紙として好ましく用いられる。
【実施例0078】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0079】
<重合体の物性の測定方法>
[組成]
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)中の構成単位(i)の量(4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量、U1)、および、構成単位(ii)の総量(α-オレフィンから導かれる構成単位の量、U2)は、以下の装置および条件により、13C-NMRスペクトルより算出した。
【0080】
日本電子(株)製ECP500型核磁気共鳴装置を用い、溶媒としてo-ジクロロベンゼン/重ベンゼン(80/20容量%)混合溶媒、試料濃度55mg/0.6mL、測定温度120℃、観測核は13C(125MHz)、シーケンスはシングルパルスプロトンデカップリング、パルス幅は4.7μ秒(45°パルス)、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上、27.50ppmをケミカルシフトの基準値として測定した。得られた13C-NMRスペクトルにより、4-メチル-1-ペンテン、α-オレフィンの組成を定量化した。
なお、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)中の構成単位(i)および構成単位(ii)の総量は、グラフト変性に用いた4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の構成単位(i)および構成単位(ii)の総量と同じである。
【0081】
[極限粘度[η]]
極限粘度[η]は、デカリン溶媒を用いて、135℃で測定した。すなわち、試料である4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を約20mg計り取り、デカリン15mLに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5mL追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿したときのηsp/Cの値を極限粘度として求めた(下式参照)。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0082】
[グラフト変性量]
グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)のグラフト変性量(すなわち、変性後の4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の質量を100質量%とした場合における、変性に使用されたエチレン性不飽和モノマーから導かれる構成単位の含有量)は、以下の方法で求めた。まず、試料とする4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を250℃、予熱5分、プレス3分で処理してプレスフィルムを作成し、該プレスフィルムに対して、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社製、FT-IR410型)により、透過法でIR測定を行った。下記実施例では、グラフト変性に無水マレイン酸を用いたため、1860cm-1と4321cm-1のピーク強度より、グラフト変性量を算出した。
【0083】
[融点(Tm)、吸熱終了温度(TmE)、発熱開始温度(TcS)、結晶化温度(Tc)]
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)とグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)のいずれについても、セイコーインスツル(株)製のDSC測定装置(DSC220C)を用い、ASTM D3418に準拠して発熱・吸熱曲線を求め、以下のように融点(Tm)、結晶化温度(Tc)、吸熱終了温度(TmE)および発熱開始温度(TcS)を求めた。
【0084】
試料約5mgを測定用アルミパンにつめ、10℃/分の加熱速度で20℃から280℃に昇温し、280℃で5分間保持した後、10℃/分の冷却速度で20℃まで降温し、20℃で5分間保持した後、再度10℃/分の加熱速度で20℃から280℃に昇温した。1回目の降温時に発現した結晶化ピークを、結晶化温度(Tc)とした。結晶化ピークが複数検出された場合は、温度が最大のものを結晶化温度(Tc)とした。2回目の昇温時に発現した融解ピークを、融点(Tm)とした。融解ピークが複数検出された場合は、温度が最大のものを融点(Tm)とした。
【0085】
上記融解(吸熱)曲線の、吸熱が終了したときの温度を吸熱終了温度(TmE)とした。また、上記結晶化(発熱)曲線の、発熱が開始されたときの温度を発熱開始温度(TcS)とした。
【0086】
上記開始および終了点は、吸熱または発熱の、開始または終了時に熱量が一定になるベースラインに対し、ベースラインから曲線が乖離して熱量に差が出始めたことが確認できる点である。
【0087】
<調製例1:(8-オクタメチルフルオレン-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドの調製>
国際公開第2014/123212号の予備実験5(段落0346~0348)に記載の方法を用いて、(8-オクタメチルフルオレン-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドを合成した。
【0088】
<製造例1:重合体1の製造>
充分窒素置換した容量1.5Lの攪拌翼付SUS製オートクレーブに、23℃で4-メチル-1-ペンテン500mLとヘプタン220mLを装入した。このオートクレーブに、1-デセン30mLと、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mLトルエン溶液0.3mLとを続けて装入し、攪拌を開始した。次に、オートクレーブに水素を140mL装入し、オートクレーブを内温60℃まで加熱した。
その後、液体状のメチルアルミノキサンをアルミニウム原子換算で0.039mmol含み、さらに、前記調製例1で得られた(8-オクタメチルフルオレン-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドを0.00013mmol含むトルエン溶液2mLを、窒素でオートクレーブに圧入し、重合を開始した。
重合反応中、オートクレーブ内温が60℃になるように温度調整した。重合開始10分後、オートクレーブにメタノール5mLを窒素で圧入して重合を停止し、オートクレーブを大気圧まで脱圧した。アセトンに反応溶液を攪拌しながら注ぎ、重合体1を析出させた。得られた重合体1を130℃、減圧下で10時間乾燥した。
重合体1中の構成単位の量を求めたところ、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量は94.1mol%、α-オレフィンから導かれる構成単位の総量は5.9mol%であった。重合体1の融点(Tm)は190℃であり、極限粘度[η](135℃デカリン中)は2.3dl/gであった。重合体1のその他の物性を表1に示す。
【0089】
<製造例2:重合体2の製造>
充分窒素置換した容量1.5Lの攪拌翼付SUS製オートクレーブに、23℃で4-メチル-1-ペンテン500mLとヘプタン230mLを装入した。このオートクレーブに、リニアレン168(出光興産製、1-ヘキサデセンと1-オクタデセンの混合物)20mLと、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mLトルエン溶液0.3mLとを続けて装入し、攪拌を開始した。次に水素を140mL装入し、オートクレーブを内温60℃まで加熱した。
その後、液体状のメチルアルミノキサンをアルミニウム原子換算で0.033mmol含み、さらに、前記調製例1で得られた(8-オクタメチルフルオレン-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドを0.00011mmol含むトルエン溶液2mLを、窒素でオートクレーブに圧入し、重合を開始した。
重合反応中、オートクレーブ内温が60℃になるように温度調整した。重合開始13分後、オートクレーブにメタノール5mLを窒素で圧入して重合を停止し、オートクレーブを大気圧まで脱圧した。アセトンに反応溶液を攪拌しながら注ぎ、重合体2を析出させた。得られた重合体2を130℃、減圧下で10時間乾燥した。
重合体2中の構成単位の量を求めたところ、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量は97.6mol%、α-オレフィンから導かれる構成単位の総量は2.4mol%であった。重合体2の融点(Tm)は207℃であり、極限粘度[η](135℃デカリン中)は2.4dl/gであった。重合体2のその他の物性を表1に示す。
【0090】
<製造例3:重合体3の製造>
充分窒素置換した容量1.5Lの攪拌翼付SUS製オートクレーブに、23℃で4-メチル-1-ペンテン500mLとヘプタン230mLを装入した。このオートクレーブに、1-デセン15mLと、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mLトルエン溶液0.3mLとを続けて装入し、攪拌を開始した。次に水素を140mL装入し、オートクレーブを内温60℃まで加熱した。
その後、予め調製しておいた液体状のメチルアルミノキサンをアルミニウム原子換算で0.06mmol含み、さらに、前記調製例1で得られた(8-オクタメチルフルオレン-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドを0.0002mmol含むトルエン溶液2mLを、窒素でオートクレーブに圧入し、重合を開始した。
重合反応中、オートクレーブ内温が60℃になるように温度調整した。重合開始30分後、オートクレーブにメタノール5mLを窒素で圧入して重合を停止し、オートクレーブを大気圧まで脱圧した。アセトンに反応溶液を攪拌しながら注ぎ、重合体3を析出させた。得られた重合体3を130℃、減圧下で10時間乾燥した。
重合体3中の構成単位の量を求めたところ、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量は96.7mol%、α-オレフィンから導かれる構成単位の総量は3.3mol%であった。重合体3の融点(Tm)は212℃であり、極限粘度[η](135℃デカリン中)は2.3dl/gであった。重合体3のその他の物性を表1に示す。
【0091】
<製造例4:重合体4の製造>
[合成例4-1:オレフィン重合触媒の製造]
30℃下、充分に窒素置換した200mLの攪拌機を付けた三つ口フラスコ中に、窒素気流下で精製デカン30mLおよび粒子状でありD50が28μm、アルミニウム原子含有量が43質量%である固体状ポリメチルアルミノキサン(国際公開第2014/123212号に記載の方法を用いて合成)をアルミニウム原子換算で14.65mmol装入し、懸濁液とした。その懸濁液に、前記調製例1で得られた(8-オクタメチルフルオレン-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライド50.0mg(0.0586mmol)を4.58mmol/Lのトルエン溶液として撹拌しながら加えた。1時間後、攪拌を止め、得られた混合物をデカンテーション法によりデカン100mLで洗浄した後、デカンを加え50mLのスラリー液とした(ジルコニウム原子担持率98%)。
【0092】
[合成例4-2:予備重合触媒成分の調製]
合成例4-1で調製したスラリー液に、25℃、窒素気流下でトリイソブチルアルミニウム(TIBAL)のデカン溶液(アルミニウム原子換算で0.5mmol/mL)を1.0mL装入した。15℃に冷却した後、4-メチル-1-ペンテン10mLを60分かけて反応器内に装入した。4-メチル-1-ペンテンの装入開始時点を予備重合開始とした。予備重合開始から2.0時間後に攪拌を止め、得られた混合物をデカンテーション法によりデカン100mLで3回洗浄した。予備重合触媒成分はデカンスラリー(9.5g/L、ジルコニウム原子換算で0.56mmol/L)とした。
【0093】
[重合体4aの製造]
室温、窒素気流下で、内容積1Lの攪拌機を付けたSUS製重合器に、精製デカンを425mL挿入し40℃まで昇温した。40℃到達後、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)のデカン溶液(アルミニウム原子換算で0.5mmol/mL)を0.8mL(アルミニウム原子換算で0.4mmol)装入し、次いで前記合成例4-2の予備重合触媒成分のデカンスラリーをジルコニウム原子換算で0.00175mmol装入した。水素を23.75NmL装入し、次いで、4-メチル-1-ペンテン230mLとリニアレン168(出光興産製、1-ヘキサデセンと1-オクタデセンの混合物)22.4mLとの混合液を2時間かけて重合器内へ連続的に一定の速度で装入した。前記混合液の装入開始時点を重合開始とし、45℃で4.5時間保持した。重合開始から1時間後および2時間後にそれぞれ水素を23.75NmL装入した。重合開始から4.5時間経過後、室温まで降温し、脱圧した後、ただちに白色固体を含む重合液を濾過して固体状物質を得た。この固体状物質を減圧下、80℃で8時間乾燥し、重合体4aを得た。収量は142gであった。
重合体4a中の構成単位の量を求めたところ、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量は96.5mol%、α-オレフィンから導かれる構成単位の総量は3.5mol%であった。重合体4aの融点(Tm)は201℃、吸熱終了温度(TmE)は213℃、結晶化温度(Tc)は154℃、発熱開始温度(TcS)は169℃であり、極限粘度[η](135℃デカリン中)は4.2dl/gであった。
【0094】
[重合体4の製造]
重合体4aに、耐熱安定剤としてフェノール系安定剤Irganox1010 0.02phr(チバBASF製)を配合し、東洋精機製作所社製ラボプラストミルのミキサーを使用して、樹脂温度280℃、スクリュー回転数150rpmで混錬することにより、重合体4を得た。
重合体4中の構成単位の量は、重合体4aと同じである。重合体4の融点(Tm)は201℃であり、極限粘度[η](135℃デカリン中)は1.0dl/gであった。重合体4のその他の物性を表1に示す。
【0095】
<製造例5:重合体5の製造>
[重合体5aの製造]
室温、窒素気流下で、内容積1Lの攪拌機を付けたSUS製重合器に、精製デカンを425mL挿入し40℃まで昇温した。40℃到達後、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)のデカン溶液(アルミニウム原子換算で0.5mmol/mL)を0.8mL(アルミニウム原子換算で0.4mmol)装入し、次いで前記合成例4-2の予備重合触媒成分のデカンスラリーをジルコニウム原子換算で0.0020mmol装入した。水素を16.25NmL装入し、次いで、4-メチル-1-ペンテン231mLとリニアレン168(出光興産製、1-ヘキサデセンと1-オクタデセンの混合物)20.6mLとの混合液を2時間かけて重合器内へ連続的に一定の速度で装入した。前記混合液の装入開始時点を重合開始とし、45℃で4.5時間保持した。重合開始から1時間後および2時間後にそれぞれ水素を16.25NmL装入した。重合開始から4.5時間経過後、室温まで降温し、脱圧した後、ただちに白色固体を含む重合液を濾過して固体状物質を得た。この固体状物質を減圧下、80℃で8時間乾燥し、重合体5aを得た。収量は128gであった。
重合体5a中の構成単位の量を求めたところ、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量は97.0mol%、α-オレフィンから導かれる構成単位の総量は3.0mol%であった。重合体5aの融点(Tm)は203℃、吸熱終了温度(TmE)は215℃、結晶化温度(Tc)は159℃、発熱開始温度(TcS)は176℃であり、極限粘度[η](135℃デカリン中)は5.3dl/gであった。
【0096】
[重合体5の製造]
重合体5a(100質量部)と、無水マレイン酸1質量部と、有機過酸化物として、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3(パーヘキシン25B、日油株式会社製)を0.02質量部とを配合し、東洋精機製作所社製ラボプラストミルのミキサーを使用して、樹脂温度280℃、スクリュー回転数150rpmで混錬することにより、重合体5を得た。
重合体5中の構成単位の量は、重合体5aと同じである。重合体5の融点(Tm)は203℃であり、極限粘度[η](135℃デカリン中)は0.8dl/g、グラフト変性量は1.5質量%であった。重合体5のその他の物性を表1に示す。
【0097】
<製造例6:重合体6の製造>
重合体5aの代わりに重合体4aを用いた以外は、重合体5と同様に製造を行うことにより、重合体6を得た。
重合体6中の構成単位の量は、重合体4aと同じである。重合体6の融点(Tm)は201℃であり、極限粘度[η](135℃デカリン中)は0.9dl/g、グラフト変性量は1.5質量%であった。重合体6のその他の物性を表1に示す。
【0098】
<製造例7:重合体7の製造>
[重合体7aの製造]
室温、窒素気流下で、内容積1Lの攪拌機を付けたSUS製重合器に、精製デカンを425mL挿入し40℃まで昇温した。40℃到達後、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)のデカン溶液(アルミニウム原子換算で0.5mmol/mL)を0.8mL(アルミニウム原子換算で0.4mmol)装入し、次いで前記合成例4-2の予備重合触媒成分のデカンスラリーをジルコニウム原子換算で0.00175mmol装入した。水素を23.75NmL装入し、次いで、4-メチル-1-ペンテン232mLとリニアレン168(出光興産製、1-ヘキサデセンと1-オクタデセンの混合物)19.6mLとの混合液を2時間かけて重合器内へ連続的に一定の速度で装入した。前記混合液の装入開始時点を重合開始とし、45℃で4.5時間保持した。重合開始から1時間後および2時間後にそれぞれ水素を23.75NmL装入した。重合開始から4.5時間経過後、室温まで降温し、脱圧した後、ただちに白色固体を含む重合液を濾過して固体状物質を得た。この固体状物質を減圧下、80℃で8時間乾燥し、重合体7aを得た。収量は146gであった。
重合体7a中の構成単位の量を求めたところ、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量は96.7mol%、α-オレフィンから導かれる構成単位の総量は3.3mol%であった。重合体7aの融点(Tm)は203℃、吸熱終了温度(TmE)は214℃、結晶化温度(Tc)は159℃、発熱開始温度(TcS)は173℃であり、極限粘度[η](135℃デカリン中)は4.0dl/gであった。
【0099】
[重合体7の製造]
重合体5aの代わりに重合体7aを用いた以外は、重合体5と同様に製造を行うことにより、重合体7を得た。
重合体7中の構成単位の量は、重合体7aと同じである。重合体7の融点(Tm)は203℃であり、極限粘度[η](135℃デカリン中)は0.9dl/g、グラフト変性量は1.6質量%であった。重合体7のその他の物性を表1に示す。
【0100】
<製造例8:重合体8の製造>
重合体5aの代わりに重合体3を用いた以外は、重合体5と同様に製造を行うことにより、重合体8を得た。
重合体8中の構成単位の量は、重合体3と同じであるとした。重合体8の融点(Tm)は210℃であり、極限粘度[η](135℃デカリン中)は1.1dl/g、グラフト変性量は1.5質量%であった。重合体8のその他の物性を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
<原材料>
以下の調製例2~9で使用した原材料は以下のとおりである。
・「4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)」:前記製造例1~4により製造された重合体1~4
・「グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)」:前記製造例5~8により製造された重合体5~8
・「イソシアネート化合物(C1)」:タケネートD170N(三井化学株式会社製)
【0103】
<組成物(X)の調製>
[調製例2:組成物(X1)の調製]
10gの重合体1に対して(すなわち、重合体1の質量を100質量%として)、酸化防止剤としてのトリ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェートを0.1質量%、耐熱安定剤としてのn-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネートを0.1質量%添加し、固形分濃度が5質量%になるようにメチルシクロヘキサン(和光純薬工業株式会社製)を添加して、90℃、1時間、200rpmで攪拌して重合体1を含む組成物(X1)を製造した。
【0104】
[調製例3:組成物(X2)の調製]
重合体1の代わりに重合体2を用いた以外は、組成物(X1)の調製と同様の方法で、組成物(X2)を製造した。
【0105】
[調製例4:組成物(X3)の調製]
重合体1の代わりに重合体3を用いた以外は、組成物(X1)の調製と同様の方法で、組成物(X3)を製造した。
【0106】
[調製例5:組成物(X4)の調製]
重合体1の代わりに重合体4を用いた以外は、組成物(X1)の調製と同様の方法で、組成物(X4)を製造した。
【0107】
<組成物(Y)の調製>
[調製例6:組成物(Y1)の調製]
10gの重合体5に対して、酸化防止剤としてのトリ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェートを0.1質量%、耐熱安定剤としてのn-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネートを0.1質量%添加し、固形分濃度が5質量%になるようにメチルシクロヘキサン(和光純薬工業株式会社製)を添加して、90℃、1時間、200rpmで攪拌した。23℃へ降温後、イソシアネート化合物としてタケネートD170N(三井化学株式会社製)を0.01質量%添加して5分間、200rpmで攪拌し、重合体5を含む組成物(Y1)を製造した。
【0108】
[調製例7:組成物(Y2)の調製]
重合体5の代わりに重合体6を用いた以外は、組成物(Y1)の調製と同様の方法で、組成物(Y2)を製造した。
【0109】
[調製例8:組成物(Y3)の調製]
重合体5の代わりに重合体7を用いた以外は、組成物(Y1)の調製と同様の方法で、組成物(Y3)を製造した。
【0110】
[調製例9:組成物(Y4)の調製]
重合体5の代わりに重合体8を用いた以外は、組成物(Y1)の調製と同様の方法で、組成物(Y4)を製造した。
【0111】
[調製例10:組成物(Y5)の調製]
重合体1の代わりに重合体5を用いた以外は、組成物(X1)の調製と同様の方法で、組成物(Y5)を製造した。すなわち、組成物(Y5)は、重合体5(グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)に該当)を含むが、イソシアネート化合物(C)を含まない組成物(Y)である。
【0112】
[調製例11:組成物(Y6)の調製]
重合体1の代わりに重合体6を用いた以外は、組成物(X1)の調製と同様の方法で、組成物(Y6)を製造した。
【0113】
[調製例12:組成物(Y7)の調製]
重合体1の代わりに重合体7を用いた以外は、組成物(X1)の調製と同様の方法で、組成物(Y7)を製造した。
【0114】
[調製例13:組成物(Y8)の調製]
重合体1の代わりに重合体8を用いた以外は、組成物(X1)の調製と同様の方法で、組成物(Y8)を製造した。
【0115】
<実施例1>
[積層体の作製]
塗布した組成物の乾燥後に得られる層の厚さが0.1μmとなるように、アプリケーターの設定を調整した。組成物(Y1)を合成皮革用離型紙用の上質紙(厚さ200μm)に、塗布してアプリケーターで均一に伸ばした後、100℃で20秒乾燥することで、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)として重合体5を含む樹脂層(II-1)を得た。
その後、樹脂層(II-1)の上に、組成物(X1)を塗布してアプリケーターで均一に伸ばした後、100℃で20秒乾燥し、樹脂層(III-1)を作製した。さらに80℃で20時間保持し、積層体を得た。
【0116】
[残留接着率の評価]
〔樹脂層に貼付後の粘着テープの剥離強さ〕
積層体の樹脂層(III-1)の表面に、幅25mmの粘着テープ(31B、日東電工社製)を軽く押しつけ、その上を2kgのローラーで一往復させ貼りつけた。粘着テープを貼り付けた後、23℃/50%RHの部屋に3時間放置し、手で剥がした。剥がした後の粘着テープの粘着面を、ポリエステルフィルム(東レ(株)製ルミラー(登録商標)S10)に軽く押しつけ、その上を2kgのローラーで一往復させて貼りつけ(再貼付)、23℃/50%RHの部屋に3時間放置した。その後、前記ポリエステルフィルムに貼り付けられている粘着テープについて、180゜剥離強さ(クロスヘッドスピード300mm/min)を測定した(装置:インテスコ製201X型万能試験機)。
【0117】
〔テフロン(登録商標)板に貼付後の粘着テープの剥離強さ〕
比較用に、別途、上記積層体の代わりに、テフロン板を用いた以外は、樹脂層に貼付後の粘着テープの剥離強さを測定したときと同様に幅25mmの粘着テープの貼り付け、該粘着テープのポリエステルフィルムへの再貼付、および、再貼付後の粘着テープの剥離強さの測定を行った。
【0118】
〔残留接着率の計算〕
残留接着率を次式から計算した。
なお、次式において、ADlamは、積層体の樹脂層に貼りつけた粘着テープを剥離した後でポリエステルフィルムに貼付した場合における、粘着テープの剥離強さである。また、ADtは、テフロン板に貼りつけた粘着テープを剥離した後でポリエステルフィルムに貼付した場合における、粘着テープの剥離強さである。
残留接着率(%)=ADlam/Adt×100
【0119】
得られた残留接着率を以下の評価基準に従って評価した。得られた結果を表2に示す。
〔評価基準〕
A:残留接着率 80%以上、100%以下
B:残留接着率 50%以上、80%未満
C:残留接着率 0%以上、50%未満
【0120】
なお、表2には、評価に使用した積層体の樹脂層に含まれる組成物の種類、組成物に含まれる重合体の種類、該重合体がグラフト変性されているか、および、組成物にイソシアネート化合物(C)が含まれているかも記載する。重合体がグラフト変性されている場合、「変性物」と記載する。一方、重合体がグラフト変性されていない場合、「未変性」と記載する。
【0121】
<実施例2>
積層体の作製の際に、組成物(X1)の代わりに組成物(X2)を用いた以外は、実施例1と同様に、積層体の作製および残留接着率の評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0122】
<実施例3>
積層体の作製の際に、組成物(X1)の代わりに組成物(X3)を用いた以外は、実施例1と同様に、積層体の作製および残留接着率の評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0123】
<実施例4>
積層体の作製の際に、組成物(X1)の代わりに組成物(X4)を用いた以外は、実施例1と同様に、積層体の作製および残留接着率の評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0124】
<実施例5>
積層体の作製の際に、組成物(Y1)の代わりに組成物(Y2)を用いた以外は、実施例1と同様に、積層体の作製および残留接着率の評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0125】
<実施例6>
積層体の作製の際に、組成物(Y1)の代わりに組成物(Y3)を用いた以外は、実施例1と同様に、積層体の作製および残留接着率の評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0126】
<実施例7>
積層体の作製の際に、組成物(Y1)の代わりに組成物(Y4)を用いた以外は、実施例1と同様に、積層体の作製および残留接着率の評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0127】
<実施例8>
[積層体の作製]
塗布した組成物の乾燥後に得られる層の厚さが0.1μmとなるように、アプリケーターの設定を調整した。組成物(Y1)を合成皮革用離型紙用の上質紙(厚さ200μm)に、塗布してアプリケーターで均一に伸ばした後、100℃で20秒乾燥し、樹脂層(II)を作製した。さらに80℃で20時間保持し、積層体を得た。
【0128】
[残留接着率の評価]
得られた積層体を用いた以外は、実施例1と同様に残留接着率の評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0129】
<実施例9>
積層体の作製の際に、組成物(Y1)の代わりに組成物(Y2)を用いた以外は、実施例8と同様に、積層体の作製および残留接着率の評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0130】
<実施例10>
積層体の作製の際に、組成物(Y1)の代わりに組成物(Y3)を用いた以外は、実施例8と同様に、積層体の作製および残留接着率の評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0131】
<実施例11>
積層体の作製の際に、組成物(Y1)の代わりに組成物(Y4)を用いた以外は、実施例9と同様に、積層体の作製および残留接着率の評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0132】
<実施例12>
塗布した組成物の乾燥後に得られる層の厚さが0.1μmとなるように、アプリケーターの設定を調整した。組成物(Y5)を合成皮革用離型紙用の上質紙(厚さ200μm)に、塗布してアプリケーターで均一に伸ばした後、100℃で20秒乾燥し、樹脂層(II)を作製した。
【0133】
[残留接着率の評価]
得られた積層体を用いた以外は、実施例1と同様に残留接着率の評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0134】
<実施例13>
積層体の作製の際に、組成物(Y5)の代わりに組成物(Y6)を用いた以外は、実施例12と同様に、積層体の作製および残留接着率の評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0135】
<実施例14>
積層体の作製の際に、組成物(Y5)の代わりに組成物(Y7)を用いた以外は、実施例12と同様に、積層体の作製および残留接着率の評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0136】
<実施例15>
積層体の作製の際に、組成物(Y5)の代わりに組成物(Y8)を用いた以外は、実施例12と同様に、積層体の作製および残留接着率の評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0137】
<比較例1>
積層体の作製の際に、組成物(Y5)の代わりに組成物(X1)を用いた以外は、実施例12と同様に、積層体の作製および残留接着率の評価を行った。得られた結果を表4に示す。なお、比較例では基材層(I)に直接接する層は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含んでおらず、樹脂層(II)に該当しないので、以下の表4では「基材層(I)に直接接する層」と記載する。
【0138】
<比較例2>
積層体の作製の際に、組成物(Y5)の代わりに組成物(X2)を用いた以外は、実施例12と同様に、積層体の作製および残留接着率の評価を行った。得られた結果を表4に示す。
【0139】
<比較例3>
積層体の作製の際に、組成物(Y1)の代わりに組成物(X1)を用い、組成物(X1)の代わりに組成物(Y1)を用いた以外は、実施例1と同様に、積層体の作製および残留接着率の評価を行った。得られた結果を表4に示す。
【0140】
<比較例4>
積層体の作製の際に、組成物(Y1)の代わりに組成物(X2)を用い、組成物(X1)の代わりに組成物(Y5)を用いた以外は、実施例1と同様に、積層体の作製および残留接着率の評価を行った。得られた結果を表4に示す。
【0141】
【表2】
【0142】
【表3】
【0143】
【表4】