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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101805
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ガスエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/02 20060101AFI20240723BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
F02D19/02 B
F02M21/02 G
F02M21/02 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005947
(22)【出願日】2023-01-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーンイノベーション基金事業/次世代船舶の開発/水素燃料船の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】303047034
【氏名又は名称】株式会社ジャパンエンジンコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 哲司
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AB09
3G092BB08
3G092DE01S
3G092EA08
3G092HB01Z
(57)【要約】
【課題】ガスエンジンの回転数を、制御目標に安定的に追従させる。
【解決手段】エンジン1は、最小開弁期間が設定されたガスゲート弁42と、アキュムレータ41内のガス燃料を排出するブロー機構58と、アキュムレータ41に供給されるガス燃料の圧力を検出する第2ガス圧センサSw3と、エンジン1の目標回転数に基づいて、ガス燃料の目標圧力とガスゲート弁42の目標開弁期間とを算出するコントローラ100とを備える。コントローラ100は、目標開弁期間が最小開弁期間To2よりも長いことを示す第1条件と、第2ガス圧センサSw3による検出圧力が目標圧力に対して所定以上に過剰ではないことを示す第2条件とが双方とも非成立の場合、目標開弁期間を最小開弁期間To2に一致するように調整するとともに、ブロー機構58を作動させることで検出圧力と目標圧力のかい離を解消する。
【選択図】図6A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内でガス燃料を燃焼可能なガスエンジンであって、
前記ガス燃料を噴射するガス噴射弁と、
前記ガス噴射弁に供給される前記ガス燃料を蓄圧するアキュムレータと、
前記アキュムレータに供給される前記ガス燃料の圧力を検出する供給圧センサと、
前記アキュムレータ内の前記ガス燃料を外部に排出する排出機構と、
前記アキュムレータ及び前記ガス噴射弁を接続するガス供給管を開閉するガスゲート弁と、
前記ガスエンジンの目標回転数に基づいて、前記アキュムレータから前記ガス噴射弁に供給される前記ガス燃料の目標圧力と、前記ガスゲート弁の目標開弁期間とを算出するコントローラと、を備え、
前記ガスゲート弁の開弁期間には、該開弁期間が連続的に調整可能となる下限値としての最小開弁期間が設定され、
前記コントローラは、
前記目標圧力、前記目標開弁期間、及び前記供給圧センサによる検出圧力に基づいて、前記目標開弁期間が前記最小開弁期間よりも長いことを示す第1条件と、前記検出圧力が前記目標圧力に対して所定以上に過剰ではないことを示す第2条件と、がそれぞれ成立しているか否かを判定し、
前記第1条件及び前記第2条件が双方とも非成立の場合、前記目標開弁期間を前記最小開弁期間に一致するように調整するとともに、前記検出圧力と前記目標圧力とのかい離を解消するように前記排出機構を作動させる
ことを特徴とするガスエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載されたガスエンジンにおいて、
前記コントローラは、前記第1条件が成立する場合、前記目標開弁期間を前記最小開弁期間以上となる範囲内で調整することで前記検出圧力と前記目標圧力とのかい離を解消するとともに、前記排出機構を非作動とする
ことを特徴とするガスエンジン。
【請求項3】
請求項2に記載されたガスエンジンにおいて、
前記コントローラは、前記第1条件が成立しかつ前記第2条件が非成立の場合、
前記目標圧力に対する前記検出圧力の過剰分を除去するように前記目標開弁期間を短縮し、
短縮後の前記目標開弁期間に基づいて、前記第1条件が成立しているか否かを再判定し、
前記再判定に基づいて、前記排出機構を作動させるか否かを決定する
ことを特徴とするガスエンジン。
【請求項4】
請求項1に記載されたガスエンジンにおいて、
前記ガスゲート弁は、作動油が供給されることで作動する油圧駆動式の開閉弁であり、
前記ガスエンジンは、
前記ガスゲート弁に接続され、該ガスゲート弁に作動油を供給する油圧回路と、
前記油圧回路を開閉する電磁弁と、をさらに備え、
前記コントローラは、前記電磁弁の開弁期間を介して前記目標開弁期間を調整する
ことを特徴とするガスエンジン。
【請求項5】
シリンダ内でガス燃料を燃焼可能なガスエンジンであって、
前記ガス燃料を噴射するガス噴射弁と、
前記ガス噴射弁に供給される前記ガス燃料を蓄圧するアキュムレータと、
前記アキュムレータに供給される前記ガス燃料の圧力を検出する供給圧センサと、
前記アキュムレータ内の前記ガス燃料を外部に排出する排出機構と、
前記ガスエンジンの目標回転数に基づいて、前記アキュムレータから前記ガス噴射弁に供給される前記ガス燃料の目標圧力と、前記ガス噴射弁の目標開弁期間とを算出するコントローラと、を備え、
前記ガス噴射弁の開弁期間には、該開弁期間が連続的に調整可能となる下限値としての最小開弁期間が設定され、
前記コントローラは、
前記目標圧力、前記目標開弁期間、及び前記供給圧センサによる検出圧力に基づいて、前記目標開弁期間が前記最小開弁期間よりも長いことを示す第1条件と、前記検出圧力が前記目標圧力に対して所定以上に過剰ではないことを示す第2条件と、がそれぞれ成立しているか否かを判定し、
前記第1条件及び前記第2条件が双方とも非成立の場合、前記目標開弁期間を前記最小開弁期間に一致するように調整するとともに、前記検出圧力と前記目標圧力とのかい離を解消するように前記排出機構を作動させる
ことを特徴とするガスエンジン。
【請求項6】
前記ガス燃料に水素ガスを用いる
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載されたガスエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリンダ内でガス燃料を燃焼可能なガスエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ガスエンジンの一例として、シリンダ内で水素ガスを燃焼可能な水素エンジンが開示されている。具体的に、この特許文献1に開示されている水素エンジンは、シリンダと、シリンダに接続された水素ガス供給管と、この水素ガス供給管を開閉する水素供給弁と、水素ガス供給管内に設けられた出力制御用の圧力調整弁と、を備えている。前記特許文献1によると、圧力調整弁の調節等によって水素ガスの供給量を増減させることで、水素エンジンの出力を制御することができる。
【0003】
特許文献2には、ガスエンジンの別例として、燃料油及び燃料ガスの両方、又は燃料ガスを燃焼可能なディーゼル機関が開示されている。具体的に、この特許文献2に開示されているディーゼル機関は、燃料ガスを噴射する燃料噴射弁と、燃料噴射弁から噴射される燃料ガスを蓄圧するアキュムレータと、アキュムレータ及びガス噴射弁を結ぶ燃料ガス供給管の途中に設けられたガスゲート弁と、を備えている。前記特許文献2によると、ガスゲート弁を開くことで、燃料ガス供給管を開閉することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭54-52203号公報
【特許文献2】特開2015-14273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1及び2に開示されているようなガスエンジンでは、ガス燃料の圧力(ガス圧)を所定の目標圧力に調整した上で、所定の目標噴射期間にわたってシリンダ内にガス燃料を噴射することで、所望の回転数を実現することが広く知られている。
【0006】
しかしながら、実際のガス圧と前記目標圧力とがかい離している場合、そのかい離を解消するようなガス圧の調整は、通常、瞬時に行うことはできない。この場合、ガスエンジンの回転数を制御目標に追従させることは困難なものとなる。
【0007】
そこで、ガス燃料のガス圧を調整する代わりに、ガス燃料の噴射時間を変更することが考えられる。ガス燃料の噴射期間は、前記特許文献2に開示されているようなガスゲート弁の開弁期間と対応している。そのため、ガスゲート弁の目標開弁期間を変更することで、ガスエンジンの回転数を制御することが考えられる。
【0008】
ところが、一般に、ガスゲート弁の開弁期間には、連続的に制御可能となる下限値(以下、これを「最小開弁期間」ともいう)が、ハードの制約から設定される場合がある。例えば、変更後の目標開弁期間が最小開弁期間を下回る場合、その目標開弁期間を実現すること自体が困難なものとなる。
【0009】
したがって、ガス燃料のガス圧を調整する代わりに、ガスゲート弁の目標開弁期間を変更しようとしても、その目標開弁期間が過度に小さい場合にはガスゲート弁の開弁が安定せず、ガスエンジンの回転数を制御目標に追従させる上で支障を来す可能性があった。
【0010】
こうした問題は、ガスゲート弁のみならず、いわゆるガス噴射弁においても共通である。つまり、ガス噴射弁においても、ガスゲート弁と同様の最小開弁期間が設定される場合がある。この場合、ガス噴射弁における最小開弁期間と目標開弁期間との大小関係次第では、ガス噴射弁の開弁が安定せず、ガスエンジンの回転数を制御目標に追従させる上で、やはり支障を来す可能性があった。
【0011】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ガスエンジンの回転数を、制御目標に安定的に追従させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の第1の態様は、シリンダ内でガス燃料を燃焼可能なガスエンジンに係る。このガスエンジンは、前記ガス燃料を噴射するガス噴射弁と、前記ガス噴射弁に供給される前記ガス燃料を蓄圧するアキュムレータと、前記アキュムレータに供給される前記ガス燃料の圧力を検出する供給圧センサと、前記アキュムレータ内の前記ガス燃料を外部に排出する排出機構と、前記アキュムレータ及び前記ガス噴射弁を接続するガス供給管を開閉するガスゲート弁と、前記ガスエンジンの目標回転数に基づいて、前記アキュムレータから前記ガス噴射弁に供給される前記ガス燃料の目標圧力と、前記ガスゲート弁の目標開弁期間とを算出するコントローラと、を備え、前記ガスゲート弁の開弁期間には、該開弁期間が連続的に調整可能となる下限値としての最小開弁期間が設定される。
【0013】
そして、前記第1の態様によれば、前記コントローラは、前記目標圧力、前記目標開弁期間、及び前記供給圧センサによる検出圧力に基づいて、前記目標開弁期間が前記最小開弁期間よりも長いことを示す第1条件と、前記検出圧力が前記目標圧力に対して所定以上に過剰ではないことを示す第2条件と、がそれぞれ成立しているか否かを判定し、前記第1条件及び前記第2条件が双方とも非成立の場合、前記目標開弁期間を前記最小開弁期間に一致するように調整するとともに、前記検出圧力と前記目標圧力とのかい離を解消するように前記排出機構を作動させる。
【0014】
第2条件が非成立の場合、検出圧力は、目標圧力に対して所定以上に過剰となる。この場合、ガスエンジンの回転数が過剰にならないようにするためには、例えばガスゲート弁の目標開弁期間を短縮することが考えられる。しかしながら、第2条件に加えて第1条件も非成立の場合、ガスゲート弁の目標開弁期間をそれ以上短縮することはできない。
【0015】
そこで、前記第1の態様によると、前記コントローラは、第1条件と第2条件とが両方とも非成立の場合、排出機構を作動させる。排出機構を作動させることで、ガス燃料を減圧することができる。これにより、ガスエンジンの回転数を制御目標に追従させる上で有利になる。
【0016】
さらに、前記コントローラは、第1条件と第2条件とが両方とも非成立の場合、ガスゲート弁の目標開弁期間を最小開弁期間に設定する。これにより、開弁期間の拡大に伴うガスエンジンの負荷の増大を抑制しつつ、ガスゲート弁の開弁期間を調整可能な状態に保つことができる。そのことで、ガスエンジンの回転数を制御目標に追従させる上でさらに有利になる。
【0017】
また、本開示の第2の態様によれば、前記コントローラは、前記第1条件が成立する場合、前記目標開弁期間を前記最小開弁期間以上となる範囲内で調整するとともに前記排出機構を非作動とすることで、前記検出圧力と前記目標圧力とのかい離を補償する、としてもよい。
【0018】
第1条件が成立する場合、ガスゲート弁の目標開弁期間には変更の余地がある。そこで、前記第2の態様に係るコントローラは、目標開弁期間の調整を通じて、検出圧力と目標圧力とのかい離を解消する。これにより、排出機構を作動させることなく、ガスエンジンの回転数を制御目標に追従させることができる。排出機構を非作動とすることで、ガス燃料の排出量を抑制することができる。このことは、ガスエンジンの燃費向上に資する。
【0019】
また、本開示の第3の態様によれば、前記コントローラは、前記第1条件が成立しかつ前記第2条件が非成立の場合、前記目標圧力に対する前記検出圧力の過剰分を除去するように前記目標開弁期間を短縮し、短縮後の前記目標開弁期間に基づいて、前記第1条件が成立しているか否かを再判定し、前記再判定に基づいて、前記排出機構を作動させるか否かを決定する、としてもよい。
【0020】
第1条件が成立する場合、ガスゲート弁の目標開弁期間には、前述のように変更の余地がある。しかしながら、変更後の目標開弁期間は、最小開弁期間以上となる必要がある。そこで、目標開弁期間を短縮した場合、コントローラ100は、第1条件を再び判定する。これにより、目標開弁期間を最小開弁期間以上に保つことができる。これにより、ガスエンジンの回転数を制御目標に追従させる上でさらに有利になる。
【0021】
また、本開示の第4の態様によれば、前記ガスゲート弁は、作動油が供給されることで作動する油圧駆動式の開閉弁であり、前記ガスエンジンは、前記ガスゲート弁に接続され、該ガスゲート弁に作動油を供給する油圧回路と、前記油圧回路を開閉する電磁弁と、をさらに備え、前記コントローラは、前記電磁弁の開弁期間を介して前記目標開弁期間を調整する、としてもよい。
【0022】
また、本開示の第5の態様は、シリンダ内でガス燃料を燃焼可能なガスエンジンに係る。このガスエンジンは、前記ガス燃料を噴射するガス噴射弁と、前記ガス噴射弁に供給される前記ガス燃料を蓄圧するアキュムレータと、前記アキュムレータに供給される前記ガス燃料の圧力を検出する供給圧センサと、前記アキュムレータ内の前記ガス燃料を外部に排出する排出機構と、前記ガスエンジンの目標回転数に基づいて、前記アキュムレータから前記ガス噴射弁に供給される前記ガス燃料の目標圧力と、前記ガス噴射弁の目標開弁期間とを算出するコントローラと、を備え、前記ガス噴射弁の開弁期間には、該開弁期間が連続的に調整可能となる下限値としての最小開弁期間が設定される。
【0023】
そして、前記第5の態様によれば、前記コントローラは、前記目標圧力、前記目標開弁期間、及び前記供給圧センサによる検出圧力に基づいて、前記目標開弁期間が前記最小開弁期間よりも長いことを示す第1条件と、前記検出圧力が前記目標圧力に対して所定以上に過剰ではないことを示す第2条件と、がそれぞれ成立しているか否かを判定し、前記第1条件及び前記第2条件が双方とも非成立の場合、前記目標開弁期間を前記最小開弁期間に一致するように調整するとともに、前記検出圧力と前記目標圧力とのかい離を解消するように前記排出機構を作動させる。
【0024】
第2条件が非成立の場合、検出圧力は、目標圧力に対して所定以上に過剰となる。この場合、ガスエンジンの回転数が過剰にならないようにするためには、例えばガス噴射弁の目標開弁期間を短縮することが考えられる。しかしながら、第2条件に加えて第1条件も非成立の場合、ガス噴射弁の目標開弁期間をそれ以上短縮することはできない。
【0025】
そこで、前記第5の態様によると、前記コントローラは、第1条件と第2条件とが両方とも非成立の場合、排出機構を作動させる。排出機構を作動させることで、ガス燃料を減圧することができる。これにより、ガスエンジンの回転数を制御目標に追従させる上で有利になる。
【0026】
さらに、前記コントローラは、第1条件と第2条件とが両方とも非成立の場合、ガス噴射弁の目標開弁期間を最小開弁期間に設定する。これにより、開弁期間の拡大に伴うガスエンジンの負荷の増大を抑制しつつ、ガス噴射弁の開弁期間を調整可能な状態に保つことができる。そのことで、ガスエンジンの回転数を制御目標に追従させる上でさらに有利になる。
【0027】
また、本開示の第6の態様によれば、前記ガスエンジンは、前記ガス燃料に水素ガスを用いる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本開示によれば、ガスエンジンの回転数を、制御目標に安定的に追従させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、ガスエンジンの構成を例示する模式図である。
図2図2は、ガスエンジンを含んだガス噴射システム全体の概略図である。
図3図3は、ガスエンジンのコントローラの構成を例示するブロック図である。
図4図4は、ガス噴射弁及びガスゲート弁の開弁期間について例示するグラフである。
図5図5は、エンジン制御の基本的な処理を例示するフローチャートである。
図6A図6Aは、ガスゲート弁に関連した制御の詳細を例示するフローチャートである。
図6B図6Bは、ガスゲート弁に関連した制御の詳細を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は例示である。図1は、ガスエンジン(以下、単に「エンジン」ともいう)1の構成を例示する模式図である。また、図2は、エンジン1を含んだガス噴射システム全体の概略図である。図3は、エンジン1のコントローラ100の構成を例示するブロック図である。図4は、ガス噴射弁30及びガスゲート弁42の開弁期間について例示するグラフである。
【0031】
<全体構成>
エンジン1は、ガス燃料を燃焼可能な直列多気筒式のガスエンジンである。このエンジン1は、ユニフロー掃気方式の2ストローク1サイクル機関として構成されており、タンカー、コンテナ船、自動車運搬船等、大型の船舶に搭載される。
【0032】
エンジン1は、ガス燃料に水素ガスを用いるように構成されており、この水素ガスをシリンダ16内で燃焼させることができる。エンジン1は、ガス燃料の単独燃焼と、ガス燃料と油燃料を併用した混焼と、の少なくとも一方を実行可能とすればよい。例えば、以下に詳述するエンジン1は、ガス燃料としての水素ガスを単独で燃焼させるように構成されているが、そうした構成に代えて、パイロット燃焼、重油燃料等を用いた混焼を行うように構成してもよい。
【0033】
船舶に搭載されたエンジン1は、その船舶を推進させるための主機関として用いられる。エンジン1の出力軸は、プロペラ軸(不図示)を介して船舶のプロペラ(不図示)に連結されている。エンジン1が運転することで、その出力がプロペラに伝達されて、船舶が推進するようになっている。
【0034】
<エンジンの主要構成>
図1図3に示されるように、エンジン1は、機関本体10と、アキュムレータモジュール4と、ガスバルブモジュール5と、ガス貯留系統7と、コントローラ100と、を備えている。コントローラ100については、図3にのみ示す。ここで、アキュムレータモジュール4は、機関本体10及びガスバルブモジュール5を接続する。ガスバルブモジュール5は、アキュムレータモジュール4を介して機関本体10及びガス貯留系統7を接続する。コントローラ100は、機関本体10、アキュムレータモジュール4、ガスバルブモジュール5及びガス貯留系統7を制御する。
【0035】
以下、エンジン1の各部について順番に説明する。
【0036】
(1)機関本体10
機関本体10は、複数(図1では1つのみ例示)のシリンダ16を有している。機関本体10は、2ストローク式の機関を構成しており、船舶の機関室Rに設置されている(機関室Rについては、図1を参照)。
【0037】
本実施形態に係る機関本体10は、そのロングストローク化を実現するべく、いわゆるクロスヘッド式の内燃機関を構成している。すなわち、この機関本体10においては、下方からピストン21を支持するピストン棒22と、クランクシャフト23に連接される連接棒24と、がクロスヘッド25により連結されている。
【0038】
具体的に、機関本体10は、下方に位置する台板11と、台板11上に設けられる架構12と、架構12上に設けられるシリンダジャケット13と、を備えている。各シリンダ16は、シリンダジャケット13内に設けられている。機関本体10はまた、シリンダ16内に配置されるピストン21と、ピストン21の往復運動に連動して回転する出力軸(例えばクランクシャフト23)と、を備えている。
【0039】
ここで、台板11は、エンジン1のクランクケースを構成するものであり、クランクシャフト23と、クランクシャフト23を回転自在に支持する軸受26と、を収容している。クランクシャフト23には、クランク27を介して連接棒24の下端部が連結されている。
【0040】
架構12は、一対のガイド板28と、連接棒24と、クロスヘッド25とを収容している。一対のガイド板28は、エンジン1の幅方向(図1の紙面左右方向)に間隔を空けて配置されている。連接棒24は、その下端部がクランクシャフト23に連結された状態で、一対のガイド板28の間に配置されている。連接棒24の上端部は、クロスヘッド25を介してピストン棒22の下端部に連結されている。
【0041】
クロスヘッド25は、一対のガイド板28の間に配置されており、各ガイド板28に沿って上下方向に摺動する。すなわち、一対のガイド板28は、クロスヘッド25の摺動を案内する。クロスヘッド25は、クロスヘッドピン29を介してピストン棒22及び連接棒24と接続されている。クロスヘッドピン29は、ピストン棒22に対しては一体的に上下動するよう接続されている一方、連接棒24に対しては、連接棒24の上端部を支点として、連接棒24を回動させるように接続されている。
【0042】
シリンダジャケット13は、内筒としてのシリンダライナ14を支持している。シリンダライナ14の内部には、前述のピストン21が配置されている。このピストン21は、シリンダライナ14の内壁に沿って上下方向に往復運動する。また、シリンダライナ14の上部にはシリンダカバー15が固定されている。シリンダカバー15は、シリンダライナ14とともにシリンダ16を構成している。
【0043】
また、シリンダカバー15には、不図示の動弁装置によって作動される排気弁18が設けられている。排気弁18は、シリンダライナ14及びシリンダカバー15から構成されるシリンダ16、並びに、ピストン21の頂面とともに燃焼室17を区画している。排気弁18は、その燃焼室17と排気管19との間を開閉するものである。排気管19は、燃焼室17に通じる排気口を有しており、排気弁18は、その排気口を開閉するように構成されている。
【0044】
また、シリンダカバー15には、燃焼室17に水素ガスを供給するためのガス噴射弁30が設けられている。ガス噴射弁30は、燃焼室17の室内に臨むような姿勢で設けられており、水素ガスを噴射するための噴射口を有している。
【0045】
図2に示すように、ガス噴射弁30は、シリンダ16毎に例えば2本ずつ設けられており、それぞれ、アキュムレータモジュール4に接続されている。このアキュムレータモジュール4と、ガスバルブモジュール5と、を介して、ガス貯留系統7から各ガス噴射弁30に水素ガスが供給されるようになっている。
【0046】
ここで、本実施形態に係るガス噴射弁30は、作動油が供給されることで作動する油圧駆動式の開閉弁である。図4の(a)に示すように、ガス噴射弁30における作動油の供給維持時間が所定の第1下限値Os1以上の場合、ガス噴射弁30の開弁期間(開状態を維持する期間)は、連続的に制御可能となる。なお、ここでいう「供給維持時間」とは、ガス噴射弁30への作動油の供給を維持する時間(期間)を示す。
【0047】
詳しくは、作動油の供給維持時間が前記第1下限値Os1以上の場合、ガス噴射弁30に一定量(ガス噴射弁30の開弁に要する所定量)の作動油が供給されてガス噴射弁30が開状態になる。その後、ガス噴射弁30において前記一定量の作動油を保持することで、ガス噴射弁30は開状態を維持する。この場合、作動油の供給維持時間が長くなるにしたがって、ガス噴射弁30の開弁期間が長くなる。ガス噴射弁30の開弁期間が長くなるにしたがって、ガス噴射弁30からの水素ガスの噴射量が増える。
【0048】
一方、作動油の供給維持時間が第1下限値Os1未満の場合、ガス噴射弁30の開弁は不安定なものとなる。この場合、ガス噴射弁30を開弁できない可能性がある(図例では、開弁期間=0)。ガス噴射弁30の開弁期間には、事実上、所定の最小開弁期間(以下、「第1最小期間」ともいう)To1が設定されているとみなすことができる。
【0049】
第1最小期間To1は、作動油の供給維持時間が第1下限値Os1に一致する場合の開弁期間に相当する。第1最小期間To1は、ガス噴射弁30の開弁期間が連続的に調整可能となる下限値を示す。
【0050】
ガス噴射弁30の開閉を制御すべく、本実施形態に係るエンジン1は、ガス噴射弁30に接続された第1油圧回路61と、第1電磁弁62と、をさらに備えている。ここで、第1油圧回路61は、ガス噴射弁30に作動油を供給する。第1電磁弁62は、第1油圧回路61を開閉する。第1電磁弁62は、コントローラ100と電気的に接続されており、このコントローラ100からの制御信号を受けて作動する。
【0051】
第1電磁弁62の開弁期間が長くなると、ガス噴射弁30における作動油の供給維持時間が増加する。そのため、図4(a)の横軸は、第1電磁弁62の開弁期間とみなすこともできる。第1電磁弁62の開弁期間が所定の最小指令期間(第1最小指令期間Ot1)に達したとき、ガス噴射弁30における作動油の供給維持時間は、第1下限値Os1に到達する。このとき、ガス噴射弁30の開弁期間は、第1最小期間To1となる。
【0052】
このように、ガス噴射弁30の開弁期間、及び、ガス噴射弁30による水素ガスの噴射期間は、第1電磁弁62の開弁期間と対応している。本実施形態に係るコントローラ100は、ガス噴射弁30の目標開弁期間を、第1電磁弁62の目標開弁期間を介して調整することができる。
【0053】
各ガス噴射弁30は、アキュムレータモジュール4等を介して供給された水素ガスを噴射することで、燃焼室17内で燃焼を生じさせる。この燃焼によって、ピストン21が上下方向に往復運動をする。このとき、排気弁18が開弁されると、燃焼によって生じた排ガスが排気管19に押し出されるとともに、不図示の掃気ポートから燃焼室17に燃焼用空気が導入される。
【0054】
また、燃焼によってピストン21が往復運動をすると、ピストン21とともにピストン棒22が上下方向に往復運動をする。これにより、ピストン棒22に連結されたクロスヘッド25が、上下方向に往復運動をする。このクロスヘッド25は、連接棒24の回動を許容するようになっており、クロスヘッド25との接続部位を支点として、連接棒24を回動させる。そして、連接棒24の下端部に接続されるクランク27がクランク運動し、そのクランク運動に応じてクランクシャフト23が回転する。こうして、クランクシャフト23は、ピストン21の往復運動を回転運動に変換し、プロペラ軸とともに船舶のプロペラを回転させる。これにより、船舶が推進する。
【0055】
(2)ガス貯留系統
図2に示すように、ガス貯留系統7は、タンクモジュール71と、高圧ポンプ72と、熱交換器モジュール73と、バッファモジュール74と、焼却炉モジュール75と、を備えている。
【0056】
このうち、タンクモジュール71は、水素ガスと、ボイルオフガス(Boil Off Gas:BOG)と、を貯留するガスタンクによって構成されている。タンクモジュール71は、高圧ポンプ72に水素ガス又は液体水素を供給するとともに、高圧ポンプ72において生じたBOGを貯留するように構成されている。
【0057】
高圧ポンプ72は、タンクモジュール71から供給された水素ガス又は液体水素の圧力を調整し、調整後の水素ガス又は液体水素を熱交換器モジュール73に供給する。高圧ポンプ72において生じたBOGは、前述のようにタンクモジュール71へ送り戻される。なお、高圧ポンプ72の作動は、第1ガス圧センサSw2の検出信号に基づいて制御される。この第1ガス圧センサSw2は、ガスバルブモジュール5に設けられている。なお、第1ガス圧センサSw2は必須ではない。高圧ポンプ72の作動は、後述の第2ガス圧センサSw3の検出信号に基づいて制御してもよい。
【0058】
熱交換器モジュール73は、蒸気等を熱源とした熱交換器によって構成されている。熱交換器モジュール73は、熱源との熱交換によって、高圧ポンプ72から供給された水素ガスを加熱する。熱交換器モジュール73はまた、加熱後の水素ガスをバッファモジュール74へ供給する。なお、バッファモジュール74への水素ガスの供給量は、ガス流量センサSw1の検出信号に基づいて制御される。このガス流量センサSw1は、バッファモジュール74及び熱交換器モジュール73を接続する配管に設けられている。
【0059】
バッファモジュール74は、いわゆるバッファタンクと、該バッファタンクからのガスの供給を制御する制御弁とによって構成されている。バッファモジュール74は、高圧ポンプ72によって加圧されかつ熱交換器モジュール73によって加熱された水素ガスを一時的に貯えるとともに、これをガスバルブモジュール5又は焼却炉モジュール75へと送り出すように構成されている。
【0060】
焼却炉モジュール75は、焼却炉と、煙道と、ガスバルブモジュール5又はバッファモジュール74からのオフガスの供給を制御する制御弁とによって構成されている。焼却炉モジュール75は、機関本体10等から排出される水素ガスを焼却処理したり、水素ガスの排出に用いられる不燃性ガスを船外に排出したりするために用いられるようになっている。なお、焼却炉モジュール75は必須ではない。焼却炉モジュール75を省略した場合、水素ガスは、焼却されることなく大気へ放出されることになる。
【0061】
タンクモジュール71に貯留されている水素ガスは、高圧ポンプ72及び熱交換器モジュール73を経てバッファモジュール74に供給され、該バッファモジュール74において一時的に貯留される。一時的に貯留された水素ガスは、エンジン1の運転に際してガスバルブモジュール5へと供給されることになる。
【0062】
(3)ガスバルブモジュール5
ガスバルブモジュール5は、図2に示すように、第1供給管51と、第2供給管52と、排出管53と、を備えている。
【0063】
このうち、第1供給管51は、バッファモジュール74とアキュムレータモジュール4とを接続している。水素ガスによるエンジン1の運転時に、第1供給管51は、アキュムレータモジュール4を介してシリンダ16に水素ガスを供給する。
【0064】
図2に示すように、第1供給管51には、水素ガスの流れ方向(特に、シリンダ16への水素ガス供給時における流れ方向)に沿って上流側から順に、第1ガス圧センサSw2と、第1遮断弁55aと、第2遮断弁55bと、第2ガス圧センサSw3と、が設けられている。
【0065】
第1ガス圧センサSw2は、コントローラ100と電気的に接続されている(図3参照)。第1ガス圧センサSw2は、第1供給管51の上流側部分における水素ガスの圧力を検出し、その検出信号をコントローラ100に入力する。
【0066】
第1遮断弁55a及び第2遮断弁55bは、それぞれ、第1供給管51を開閉するように構成されており、その開弁時には水素ガスの流通を許容する一方、その閉弁時には水素ガスの流通を遮断することができる。第1遮断弁55a及び第2遮断弁55bは、それぞれ、コントローラ100からの制御信号を受けて開閉する。
【0067】
第2ガス圧センサSw3は、第1ガス圧センサSw2と同様に、コントローラ100と電気的に接続されている(図3参照)。第2ガス圧センサSw3は、第1供給管51の下流側部分(具体的には、第2遮断弁55bとアキュムレータ41との間の部分)における水素ガスの圧力を検出し、その検出信号をコントローラ100に入力する。第2ガス圧センサSw3は、アキュムレータ41に供給される水素ガスの圧力を検出することができる。第2ガス圧センサSw3によって、本実施形態における供給圧センサが構成されている。
【0068】
第2供給管52は、不燃性ガスを貯留する不燃性ガスタンク(不図示)と、アキュムレータモジュール4及び第1供給管51と、を接続している。水素ガスによるエンジン1の非運転時(言い換えると、水素ガスの非供給時)に行われるパージ制御時に、第2供給管52は、アキュムレータモジュール4を介して第1供給管51に不燃性ガスを供給したり、第1供給管51に不燃性ガスを直に供給したりする。
【0069】
特に、本実施形態に係る第2供給管52は、不燃性ガスとしての窒素ガスを第1供給管51に供給することができる。不燃性ガスとしては、アルゴンガス、窒素ガス等、水素ガスと比べて可燃性に劣る不活性ガスを用いることができる。
【0070】
図2に示すように、第2供給管52は、不燃性ガスの流れ方向の中途の部位である分岐部52dにおいて、アキュムレータモジュール4に接続される第1枝管52aと、第1供給管51に接続される第2枝管52b及び第3枝管52cと、に分岐している。
【0071】
第1枝管52aは、逆止弁56を介して分岐部52dとアキュムレータ41とを接続している。第2枝管52bは、分岐部52dと、第1供給管51における第1ガス圧センサSw2及び第1遮断弁55aの間の部位と、を接続している。第3枝管52cは、分岐部52dと、第1供給管51における第1遮断弁55a及び第2遮断弁55bの間の部位と、を接続している。なお、逆止弁56は、第2供給管52からアキュムレータ41へと向かうガス流を許容し、アキュムレータ41から第2供給管52へと向かうガス流を規制するように構成されている。
【0072】
第2供給管52における分岐部52dよりも上流側の部位には、第1パージ弁57aが設けられている。同様に、第1枝管52aには第2パージ弁57bが設けられており、第2枝管52bには第3パージ弁57cが設けられており、第3枝管52cには第4パージ弁57dが設けられている。
【0073】
第1パージ弁57a、第2パージ弁57b、第3パージ弁57c及び第4パージ弁57dは、それぞれ、第2供給管52における分岐部52dよりも上流側の部位、第1枝管52a、第2枝管52b及び第3枝管52cを開閉するように構成されている。各弁57a~57dの開弁時には、対応する配管における不燃性ガスの流通が許容される一方、各弁57a~57dの閉弁時には、対応する配管における不燃性ガスの流通を遮断することができる。第1パージ弁57a、第2パージ弁57b、第3パージ弁57c及び第4パージ弁57dは、それぞれ、コントローラ100からの制御信号を受けて開閉する。
【0074】
第1パージ弁57a、第2パージ弁57b、第3パージ弁57c及び第4パージ弁57dによって、本実施形態におけるパージ機構57が構成されている。このパージ機構57は、アキュムレータ41内の水素ガス燃料を外部に排出する排出機構の一例である。
【0075】
排出管53は、第1供給管51と焼却炉モジュール75とを接続している。前記パージ制御時、及び、該パージ制御と同様に水素ガスの非供給時に行われるブロー制御時に、排出管53は、第1供給管51を介して焼却炉モジュール75に水素ガス及び不燃性ガスを送り込む。
【0076】
図2に示すように、排出管53の上流側部分は、第1上流管53aと第2上流管53bとの2つの配管に別れている。第1上流管53aと第2上流管53bは、合流部53cにおいて合流し、1つの配管となって焼却炉モジュール75に至る。
【0077】
第1上流管53aの上流端は、第1供給管51及びアキュムレータ41の接続部と、第2遮断弁55bと、の間の部位に接続されている。第2上流管53bの上流端は、第1供給管51における、第1遮断弁55aと第2遮断弁55bとの間の部位に接続されている。
【0078】
第1上流管53aには第1排出弁58aが設けられており、第2上流管53bには第2排出弁58bが設けられている。
【0079】
第1排出弁58a及び第2排出弁58bは、それぞれ、第1上流管53a及び第2上流管53bを開閉するように構成されており、その開弁時には水素ガス及び不燃性ガスの流通を許容する一方、その閉弁時には水素ガス及び不燃性ガスの流通を遮断することができる。第1排出弁58a及び第2排出弁58bは、それぞれ、コントローラ100からの制御信号を受けて開閉する。
【0080】
第1排出弁58a及び第2排出弁58bによって、本実施形態におけるブロー機構58が構成されている。このブロー機構58は、アキュムレータ41内の水素ガス燃料を外部に排出する排出機構の別例である。
【0081】
例えば水素ガスによるエンジン1の運転時には、第1供給管51における第1遮断弁55a及び第2遮断弁55bを開弁するとともに、第2供給管52における第1パージ弁57a、第2パージ弁57b及び第3パージ弁57cと、排出管53における第1排出弁58a及び第2排出弁58bとを閉弁する。これにより、バッファモジュール74から第1供給管51へと水素ガスを供給するとともに、その第1供給管51からアキュムレータ41へと水素ガスを供給することが可能になる。
【0082】
(4)アキュムレータモジュール4
アキュムレータモジュール4は、図2に示すように、アキュムレータボックス40と、アキュムレータ41と、ガスゲート弁42と、を備えている。
【0083】
アキュムレータボックス40は、いわゆる筐体、ブロック、又はブロックの集合体であり、アキュムレータ41と、ガスゲート弁42と、第1供給管51及びアキュムレータ41の接続部と、第2供給管52及びアキュムレータ41の接続部と、前述の逆止弁56と、ガス供給管32の一部と、を収容するように構成されている。アキュムレータボックス40がこれらの部材を収容することで、仮にガス漏れが生じたとしても、漏れ出したガスをアキュムレータボックス40内に封じ込めることができる。
【0084】
アキュムレータ41は、ガス噴射弁30に供給される水素ガスを蓄圧する。具体的に、本実施形態に係るアキュムレータ41は、圧力容器によって構成されており、ガス噴射弁30を介して各シリンダ16に供給される直前の水素ガスを貯えることができる。
【0085】
ガスゲート弁42は、アキュムレータ41及びガス噴射弁30を接続するガス供給管32を開閉する。ガスゲート弁42がガス供給管32を開閉することで、アキュムレータ41から各ガス噴射弁30への水素ガスの供給を制御することができる。ここで、ガス供給管32は、シリンダ16毎に、アキュムレータボックス40の外部又は内部で二股に分岐している。ガスゲート弁42は、ガス供給管32におけるアキュムレータボックス40内の部分(二股に分岐していない部分)を開閉する。
【0086】
詳しくは、本実施形態に係るガスゲート弁42は、作動油が供給されることで作動する油圧駆動式の開閉弁である。図4の(b)に示すように、ガスゲート弁42における作動油の供給維持時間が所定の第2下限値Os2以上の場合、ガスゲート弁42の開弁期間(開状態を維持する期間)は、連続的に制御可能となる。なお、ここでいう「供給維持時間」とは、ガスゲート弁42への作動油の供給を維持する時間(期間)を示す。
【0087】
詳しくは、作動油の供給維持時間が前記第2下限値Os2以上の場合、ガスゲート弁42に一定量(ガスゲート弁42の開弁に要する所定量)の作動油が供給されてガスゲート弁42が開状態になる。その後、ガスゲート弁42において前記一定量の作動油を保持することで、ガスゲート弁42は開状態を維持する。この場合、作動油の供給維持時間が長くなるにしたがって、ガスゲート弁42の開弁期間が長くなる。ガスゲート弁42の開弁期間が長くなるにしたがって、ガス噴射弁30への水素ガスの供給量が増える。
【0088】
一方、作動油の供給維持時間が第2下限値Os2未満の場合、ガスゲート弁42の開弁は不安定なものとなる。この場合、ガスゲート弁42を開弁できない可能性がある(図例では、開弁期間=0)。ガスゲート弁42の開弁期間には、事実上、所定の最小開弁期間(以下、「第2最小期間」ともいう)To2が設定されているとみなすことができる。
【0089】
第2最小期間To2は、作動油の供給維持時間が第2下限値Os2に一致する場合の開弁期間に相当する。第2最小期間To2は、ガスゲート弁42の開弁期間が連続的に調整可能となる下限値を示す。
【0090】
ガスゲート弁42の開閉を制御すべく、本実施形態に係るエンジン1は、ガスゲート弁42に接続された第2油圧回路(油圧回路)63と、第2電磁弁(電磁弁)64と、をさらに備えている。ここで、第2油圧回路63は、ガスゲート弁42に作動油を供給する。第2電磁弁64は、第2油圧回路63を開閉する。第2電磁弁64は、コントローラ100と電気的に接続されており、このコントローラ100からの制御信号を受けて作動する。
【0091】
第2電磁弁64の開弁期間が長くなると、ガスゲート弁42における作動油の供給維持時間が増加する。そのため、図4(b)の横軸は、第2電磁弁64の開弁期間とみなすこともできる。第2電磁弁64の開弁期間が所定の最小指令期間(第2最小指令期間Ot2)に達したとき、ガスゲート弁42における作動油の供給維持時間は、第2下限値Os2に到達する。このとき、ガスゲート弁42の開弁期間は、第2最小期間To2となる。
【0092】
このように、ガスゲート弁42の開弁期間は、第2電磁弁64の開弁期間と対応している。本実施形態に係るコントローラ100は、ガスゲート弁42の目標開弁期間を、第2電磁弁64の目標開弁期間を介して調整することができる。
【0093】
なお、図4(a)及び(b)に示すように、第2下限値Os2は、第1下限値Os1よりも大きい。すなわち、ガスゲート弁42を第2最小期間To2以上の期間にわたって開弁させるために要する供給維持時間は、ガス噴射弁30を第1最小期間To1以上の期間にわたって開弁させるために要する供給維持時間よりも長い。言い換えると、第2下限値Os2に対応した第2電磁弁64の開弁期間は、第1下限値Os1に対応した第1電磁弁62の開弁期間よりも長い。
【0094】
したがって、少なくともガスゲート弁42の開弁が安定する場合、ガス噴射弁30の開弁も安定することになる。また、作動油の供給量が不足する場合、ガス噴射弁30よりもガスゲート弁42が先に不動となる。
【0095】
また、後述の制御フローのように、ガスゲート弁42の最小開弁期間To2を用いる代わりに、その最小開弁期間To2に対応した第2電磁弁64の開弁期間(最小指令期間)を用いてもよい。なお、ガスゲート弁42及びガス噴射弁30のうち、ガスゲート弁42についてのみ目標開弁期間の補正(後述の第1バルブ制御)が行われる場合、ガス噴射弁30が先に閉まらなくなる可能性もある。
【0096】
例えば水素ガスによるエンジン1の運転時には、第2電磁弁64の開弁に伴ってガスゲート弁42への作動油の供給が開始される。この作動油の供給量が第2下限値Os2まで到達すると、ガスゲート弁42は、安定的に開弁するようになる。これにより、アキュムレータ41に蓄えられた水素ガスは、ガス供給管32を介して各ガス噴射弁30へと至り、各ガス噴射弁30から対応するシリンダ16へと噴射されることになる。噴射された水素ガスが燃焼すると、その燃焼によって生じた排ガスは、前述の排気管19を介して排出される。
【0097】
(5)コントローラ100
コントローラ100は、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ及び入出力バスを有している。コントローラ100には、前述のガス流量センサSw1、第1ガス圧センサSw2及び第2ガス圧センサSw3に加え、図3のみに示した回転数センサSw4と、テレグラフ101と、が接続されている。
【0098】
回転数センサSw4は、エンジン1の回転数を検出し、その検出結果(検出回転数)を示す信号をコントローラ100に入力する。テレグラフ101は、船員によって操作されるデバイスである。テレグラフ101は、船員による操作量を示す信号をコントローラ100に入力する。
【0099】
コントローラ100は、それらのセンサ及びデバイスから入力された信号に基づいて制御信号を生成し、その制御信号を、例えば、ガス貯留系統7の各部と、ガスバルブモジュール5の第1遮断弁55a、第2遮断弁55b、第1パージ弁57a、第2パージ弁57b、第3パージ弁57c及び第4パージ弁57d、第1排出弁58a及び第2排出弁58bと、アキュムレータモジュール4のガスゲート弁42と、機関本体10の各部と、第1電磁弁62及び第2電磁弁64と、に入力する。
【0100】
コントローラ100がエンジン1の各部に制御信号を入力することで、水素ガスによる機関本体10の運転を制御したり、水素ガスをブローするためのブロー制御を実行したり、水素ガスをパージするためのパージ制御を実行したりすることができる。
【0101】
例えば、水素ガスによって機関本体10を運転する場合、コントローラ100は、テレグラフ101から入力された信号に基づいて、エンジン1の指令値(目標回転数)を決定する。コントローラ100は、その目標回転数に基づいて、アキュムレータ41からガス噴射弁30に供給される水素ガスの目標圧力と、ガス噴射弁30の目標開弁期間と、ガスゲート弁42の目標開弁期間と、を算出する。
【0102】
コントローラ100は、そうして決定された各パラメータに基づいて各デバイスを制御することで、各シリンダ16へと水素ガスを供給する。例えば、コントローラ100は、第1遮断弁55a及び第2遮断弁55bを開弁することで、ガス貯留系統7から各シリンダ16へ至る水素ガスの供給経路を構築する。
【0103】
コントローラ100は、ガス燃料に用いる水素ガスを、その供給経路を通じて各シリンダ16へと送り込むことができる。そうして送り込んだ水素ガスを燃焼させることで、前述のように船舶を推進させることが可能になる。
【0104】
また、ブロー制御を実行する場合、コントローラ100は、第1パージ弁57a、第2パージ弁57b、第3パージ弁57c及び第4パージ弁57dを全て閉じた状態で、第1排出弁58a及び第2排出弁58bのうちの少なくとも一方を開く。これにより、アキュムレータ41から焼却炉モジュール75、船外等へと至る水素ガスの排出経路が構築される。
【0105】
この場合、コントローラ100は、アキュムレータ41内に蓄圧された水素ガス、及び、第1供給管51の管路内に残存した高圧の水素ガスを、排出経路を通じて外部に排出することができる。
【0106】
また、パージ制御を実行する場合、コントローラ100は、第1排出弁58a及び第2排出弁58bのうちの少なくとも一方を開いた状態で、第1パージ弁57aと、第2パージ弁57b、第3パージ弁57c及び第4パージ弁57dのうちの少なくとも1つと、を開く。コントローラ100は、必要に応じて第1遮断弁55a及び第2遮断弁55bの少なくとも1つを閉弁する。これにより、第2供給管52を通じてアキュムレータ41及び第1供給管51に至る不燃性ガスの供給経路と、水素ガス及び不燃性ガスを外部へと排出するための排出経路と、がそれぞれ構築される。
【0107】
この場合、コントローラ100は、アキュムレータ41及び第1供給管51内に残存した水素ガス(例えば、第1供給管51の内壁に吸収された水素ガス)を、供給経路を介して供給された不燃性ガスによって、排出経路を通じて外部にパージする(排出する)ことができる。
【0108】
ところで、従来知られた構成では、水素ガスの圧力(ガス圧)を所定の目標圧力に調整した上で、所定の目標噴射期間にわたってシリンダ16内に水素ガスを噴射することで、所望の回転数を実現することが知られていた。
【0109】
しかしながら、実際のガス圧と前記目標圧力とがかい離している場合に、そのかい離を解消するようにガス圧を調整することは、瞬時にはできない。この場合、エンジン1の回転数を制御目標に追従させることは困難なものとなる。
【0110】
そこで、水素ガスのガス圧を調整する代わりに、水素ガスの目標噴射期間を変更することが考えられる。水素ガスの噴射期間は、前述のようにガスゲート弁42の開弁期間と対応している。そのため、第2電磁弁64等を通じてガスゲート弁42の開弁期間を短縮することで、シリンダ16内へのガス燃料の目標噴射期間を短縮することが考えられる。
【0111】
ところが、一般に、ガスゲート弁42の開弁期間には、前述の如き最小開弁期間To2が設定される場合がある。例えば、変更後の目標開弁期間が最小開弁期間To2を下まわる場合、その目標開弁期間を実現すること自体が困難なものとなる。
【0112】
したがって、水素ガスのガス圧を調整する代わりに、ガスゲート弁42の目標開弁期間を変更しようとしたとしても、その目標開弁期間が過度に小さい場合にはガスゲート弁42の開弁が安定せず、エンジン1の回転数を制御目標に追従させる上で支障を来す可能性があった。同様の問題は、ガス噴射弁30の目標開弁期間にも存在する。
【0113】
すなわち、ガス噴射弁30及びガスゲート弁42の目標開弁期間が過度に短い場合、ガスゲート弁42及びガス噴射弁30の開弁が不安定なものとなり、水素ガスの供給量が不足することになる。そのため、このサイクルにおいて実現されるエンジン1の回転数は、ガスゲート弁42等の開弁が安定している場合と比べて小さくなる。
【0114】
そして、次回サイクルにおいて要求される目標開弁期間は、前回サイクルで回転数が小さくなった分を補うために長期化し、水素ガスを過剰に供給することになる。そのため、このサイクルにおいて実現されるエンジン1の回転数は、ガスゲート弁42等の開弁が安定している場合と比べて大きくなる。
【0115】
このように、水素ガスのガス圧を調整する代わりに目標開弁期間を変更するだけでは、所望よりも低い回転数と高い回転数とが交互に繰り返されてしまい、回転数のハンチングを招く恐れがある。このことは、エンジン1を所望の負荷に追従させるには不都合なものとなる。
【0116】
また、一般に、水素ガスの流速(特に音速)は、他のガス燃料と比べて速い。そのため、ガスゲート弁42等の開弁期間が仮に僅かな期間であったとしても、その期間内に供給されるガスのボリュームは、他のガス燃料と比べて多量となる。そのため、ガスゲート弁42を最小開弁期間To2付近で制御したときに、前述のようなハンチングの影響が相対的に大きなものとなる。
【0117】
こうした課題に対し、本願発明者らは、目標圧力に対する検出圧力のかい離の程度を考慮した上で、ガスゲート弁42等、油圧駆動式の開閉弁を制御することに着目し、本開示を想到するに至った。
【0118】
以下、本実施形態に係るエンジン制御について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0119】
<エンジン制御の詳細>
図5は、エンジン制御の基本的な処理を例示するフローチャートである。また、図6A及び図6Bは、ガスゲート弁42に関連した制御の詳細を例示するフローチャートである。
【0120】
まず、図5におけるスタート後のステップS1において、コントローラ100は、テレグラフ101の操作量を示す信号を読み込む。このステップS1において、コントローラ100は、回転数センサSw4の検出信号を読み込んでもよい。
【0121】
続くステップS2において、コントローラ100は、エンジン1の目標回転数を算出する。具体的に、ステップS2において、コントローラ100は、ステップS1で読み込んだテレグラフ101の操作量に基づいて、エンジン1の目標回転数を算出する。
【0122】
続くステップS3において、コントローラ100は、エンジン1に負荷変動が要求されているか否かを判定する。この判定は、例えば、エンジン1の目標回転数と、エンジン1の検出回転数と、を比較することで行うことができる。
【0123】
ステップS3の判定がNOの場合、制御プロセスは、ステップS4をスキップしてリターンする。一方、ステップS3の判定がYESの場合、制御プロセスはステップS4に進む。ステップS4に進んだ場合、コントローラ100は、第2電磁弁64及びガスゲート弁42に係る第1バルブ制御と、第1電磁弁62及びガス噴射弁30に係る第2バルブ制御と、を行うべく、図6Aに示すフローチャートを開始する。
【0124】
まず、図6AのステップS401において、コントローラ100は、第2電磁弁64の目標開弁期間を示す指令期間(Tt)と、アキュムレータ41に供給される水素ガスの目標圧力(Pt)と、を算出する。
【0125】
具体的に、コントローラ100は、エンジン1の目標回転数に基づいて、水素ガスの目標噴射量を算出する。コントローラ100は、その目標噴射量に基づいて、第2電磁弁64の指令期間を算出する。この指令期間は、所定の最小指令期間(Tm)を上回る場合、ガスゲート弁42の目標開弁期間に対して正の相関を有する。
【0126】
また、コントローラ100は、エンジン1の目標回転数に基づいて、水素ガスの目標圧力(Pt)を算出する。なお、エンジン1の目標回転数が所定の閾値を下まわる場合、すなわち、シリンダ16内に供給される水素ガスの総量(特に、1サイクルあたりの総量)が相対的に少なく、前述したようなハンチングの問題が懸念される場合、コントローラ100は、水素ガスの目標圧力を一定に保持してもよい。この場合、コントローラ100は、ガスゲート弁420の目標開弁期間、ひいては第2電磁弁64の指令期間のみを調整することになる。
【0127】
言い換えると、図6Aに示すフローは、目標圧力を一定に保持する場合に限られるものではなく、指令期間に加えて目標圧力を変化させる場合に用いることもできる。
【0128】
続くステップS402において、コントローラ100は、ガスゲート弁42の最小開弁期間To2に対応した指令期間として、事前に設定された最小指令期間を読み込む。第2電磁弁64の最小指令期間は、ガスゲート弁42の最小開弁期間To2に対応しており、図4(b)に示した第2最小指令期間Ot2に一致している。第2電磁弁64を最小指令期間で開弁させることは、ガスゲート弁42を最小開弁期間To2で開弁させることに等しい。
【0129】
その後、コントローラ100は、目標圧力、目標開弁期間(具体的には、目標開弁期間に対応した指令期間)、及び検出圧力に基づいて、ステップS403に示す第1条件と、ステップS404に示す第2条件と、がそれぞれ成立しているか否かを判定する。ここで、第1条件は、ガスゲート弁42の目標開弁期間が最小開弁期間To2よりも長い場合に成立する。第2条件は、検出圧力が目標圧力に対して所定以上に過剰ではないときに成立する。
【0130】
具体的に、ステップS403において、コントローラ100は、指令期間が最小指令期間を上回っているか否か(Tt>Tm?)を判定する。前述のように、第2電磁弁64の最小指令期間は、ガスゲート弁42の最小開弁期間To2に対応している。そのため、ステップS403の処理は、ガスゲート弁42の開弁期間が最小開弁期間To2を上回っているか否かを間接的に判定するものとみなすことができる。
【0131】
また、コントローラ100は、指令期間を介した間接的な判定を行う代わりに、その指令期間に基づいてガスゲート弁42の開弁期間を算出し、算出した開弁期間に基づいた判定を行ってもよい。
【0132】
ステップS403の判定がYESの場合(第1条件:成立)、制御プロセスはステップS404に進む。この場合、指令期間は最小指令期間を上回っており、指令期間を短縮する処理が許容される。
【0133】
一方、ステップS403の判定がNOの場合(第1条件:非成立)、制御プロセスはステップS411に進む。ステップS411において、コントローラ100は、第1条件に続いて、第2条件の判定を実行する。この場合、指令期間は最小指令期間以下であり、指令期間を短縮する処理は禁止される。
【0134】
そして、コントローラ100は、第1条件及び第2条件の少なくとも一方が成立する場合、ガスゲート弁42の目標開弁期間を、最小開弁期間以上となるように調整する。図6Aに示すフローの場合、コントローラ100は、第2電磁弁64の指令期間を変更することで、目標開弁期間を間接的かつ結果的に調整する。
【0135】
特に、ステップS403の判定がYESだった場合のように、第1条件及び第2条件のうち第1条件が成立する場合、コントローラ100は、目標開弁期間を最小開弁期間To以上となる範囲内で調整することで検出圧力と目標圧力とのかい離を解消するとともに、排出機構としてのパージ機構57又はブロー機構58を非作動とする。図6Aに示すフローの場合、コントローラ100は、第2電磁弁64の指令期間を変更することで、目標開弁期間を間接的かつ結果的に調整する。
【0136】
具体的に、ステップS404において、コントローラ100は、検出圧力と目標圧力の差分(言い換えると、検出圧力に対する目標圧力のかい離の大きさ)が、所定のマージン(α)以下であるか否か(|Ps-Pt|≦α?)を判定する。
【0137】
ステップS404の判定に用いられるマージンは、正の値となる。このマージンの大きさは、エンジン1の目標回転数に応じて変更してもよいし、そうしたパラメータにかかわらず一定としてもよい。前者の場合、マージンの大きさは、エンジン1の目標回転数が低いときには、該目標回転数が高いときと比べて小さくしてもよい。そうすることで、ハンチングが懸念されるような状況下では、そうでない状況下と比べてマージンは小さくなる。
【0138】
ステップS404の判定がYESの場合、制御プロセスはステップS405に進む。この場合、検出圧力は、目標圧力に対して過度にかい離していないとみなすことができる。コントローラ100が第2電磁弁64の指令期間を調整せずとも、所望の回転数(前述の目標回転数)が実現されることになる。
【0139】
したがって、ステップS405において、コントローラ100は、指令期間の値を、ステップS401で算出した値から変更せずに保持する(Tt=Tt)。この場合、ステップS405から続くステップS406において、コントローラ100は、ステップS401で算出した指令期間にわたって第2電磁弁64を開く。これにより、ガスゲート弁42を、遅滞なく安定的に開弁させることができる。
【0140】
一方、ステップS404の判定がNOの場合、制御プロセスはステップS407に進む。この場合、目標圧力は、検出圧力に対して過度にかい離しているとみなすことができる。コントローラ100が指令期間を調整しなくては、所望の回転数は実現できないことになる。
【0141】
ステップS407において、コントローラ100は、検出圧力が、目標圧力から前記マージンを減算した値よりも小さいか否か(Ps<Pt-α?)を判定する。ステップS407で行われる処理は、検出圧力が、目標圧力に対して過度に低いか否かを判定することに等しい。ステップS407で用いられるマージンは、ステップS404で用いられるマージンに等しい。
【0142】
ステップS407の判定がYESの場合、制御プロセスはステップS408に進む。この場合、検出圧力は、目標圧力に対して過度に低いとみなすことができる。
【0143】
そこで、ステップS408において、コントローラ100は、目標圧力に対する検出圧力の不足分を補償するように、目標開弁期間を延長する。図6Aに示すフローの場合、コントローラ100は、指令期間に所定の補整時間(δT)を加算する(Tt=Tt+δT)ことで、目標開弁期間を間接的かつ結果的に延長する。
【0144】
ステップS408の処理に用いられる補整時間は、正の値となる。この補整時間は、目標圧力と検出圧力とのかい離が大きいときには、該かい離が小さいときと比べてより長くなる。言い換えると、調整後の指令期間は、検出圧力が不足するほど長くなる。
【0145】
ステップS408において指令期間を調整すると、制御プロセスはステップS406に進む。ステップS406において、コントローラ100は、調整後の指令期間に基づいて第2電磁弁64を開く。これにより、ガスゲート弁42は、検出圧力の不足分を補うように、指令期間の非調整時と比べて長期間にわたって開弁される。
【0146】
一方、ステップS407の判定がNOの場合、制御プロセスはステップS409に進む。この場合、検出圧力は、目標圧力に対して過度に高いとみなすことができる。そのため、コントローラ100は、前述の第2条件が非成立であるとみなす。すなわち、制御プロセスがステップS409に進むケースは、第1条件が成立しかつ前記第2条件が非成立の場合に相当する。
【0147】
ステップS409において、コントローラ100は、目標圧力に対する検出圧力過剰分を除去するように、目標開弁期間を短縮する。図6Aに示すフローの場合、コントローラ100は、指令期間から所定の補整時間(δT)を減算する(Tt=Tt-δT)ことで、目標開弁期間を間接的かつ結果的に短縮する。
【0148】
ステップS409の処理に用いられる補整時間は、ステップS408と同様に正の値となる。この補整時間は、目標圧力と検出圧力とのかい離が大きいときには、該かい離が小さいときと比べてより長くなる。言い換えると、調整後の指令期間は、検出圧力が過剰になるほど短くなる。
【0149】
なお、ステップS409において指令期間を短縮した場合、短縮後の指令期間と、最小指令期間との大小関係が問題となる。仮に、短縮後の指令期間が最小指令期間を下まわる場合、指令期間を再度調整する必要がある。
【0150】
そこで、コントローラ100は、指令期間を介して目標開弁期間を短縮した後、短縮後の目標開弁期間又は指令期間に基づいて、第1条件が成立しているか否かを再判定する。
【0151】
図6Aに示すフローの場合、ステップS409から続くステップS410において、コントローラ100は、短縮後の指令期間が最小指令期間よりも大きいか否か(Tt>Tm?)を判定する。これにより、第1条件の成否が再判定される。
【0152】
そして、コントローラ100は、ステップS410で行われる再判定に基づいて、排出機構としてのブロー機構58を作動させるか否かを決定する。具体的に、ステップS410の判定がYESの場合、制御プロセスは、ステップS410からステップS406に進む。
【0153】
この場合、コントローラ100は、調整後の指令期間に基づいて第2電磁弁64を開く。これにより、ガスゲート弁42は、検出圧力の過剰分を相殺するように、指令期間の非調整時と比べて短期間、開弁される。
【0154】
一方、ステップS410の判定がNOの場合、制御プロセスは、ステップS410からステップS412に進む。この場合の処理については後述する。
【0155】
続いて、第1条件が非成立となり、制御プロセスをステップS403からステップS411へ進めた場合について説明する。この場合、コントローラ100は、第2条件の成否を判定する。
【0156】
具体的に、ステップS411において、コントローラ100は、検出圧力が、目標圧力に対して所定以上に過剰であるか否かを判定する。具体的に、コントローラ100は、検出圧力が、目標圧力に前記マージンを加算した値以上であるか否か(Ps≧Pt+α?)を判定する。ステップS411で用いられるマージンは、ステップS404及びステップS407で用いられるマージンに等しい。
【0157】
ステップS411の判定がNOの場合、制御プロセスは、図6BのステップS414に進む。この場合、コントローラ100は、第2条件が成立していると判定する。検出圧力は、目標圧力に対して所定以上に過剰ではないとみなすことができる。この場合、検出圧力の不足が懸念されるため、コントローラ100は、ステップS414において指令期間を延長する(Tt=Tt+δT)。その後、ステップS414から続くステップS415において、コントローラ100は、延長後の指令期間が最小指令期間を上回っているか否か(Tt>Tm?)を判定する。この判定がYESの場合、コントローラ100は、制御プロセスを図6AのステップS406に進める。ステップS406において、コントローラ200は、延長後の指令期間に基づいて第2電磁弁64を作動させる。一方、ステップS415の判定がNOの場合、コントローラ100は、制御プロセスを図6AのステップS412に進める。この場合、コントローラ100は、ステップS411の判定がYESの場合と同様にブロー機構58を作動させる(ステップS412)とともに、ステップS414における指令期間の延長をキャンセルする。その後、コントローラ100は、後述のように、最小指令期間に基づいて第2電磁弁64を作動させる(ステップS413及びステップS406)。
【0158】
詳しくは、ステップS411の判定がYESの場合、制御プロセスはステップS412に進む。この場合、コントローラ100は、第2条件が非成立であると判定する。検出圧力は、目標圧力に対して所定以上に過剰であるとみなすことができる。指令期間の短縮が許容されない一方、検出圧力が過剰であることから、シリンダ16内に、必要以上の水素ガスを供給してしまう虞がある。
【0159】
そこで、本実施形態に係るコントローラ100は、第1条件及び第2条件が双方とも非成立の場合、最小開弁期間To2に一致するように目標開弁期間を調整する(ステップS413)とともに、検出圧力と目標圧力とのかい離を解消するように、排出機構としてのブロー機構58を作動させる(ステップS412)。なお、コントローラ100は、ブロー機構58を作動させる代わりに、パージ機構57を作動させてもよい。
【0160】
具体的に、ステップS412において、コントローラ100は、ブロー機構58を構成する第1排出弁58a及び第2排出弁58bのうち、少なくとも一方を開弁させる。これにより、アキュムレータ41内の高圧の水素ガスが外部に排出されて、検出圧力が減少し始める。これにより、検出圧力と目標圧力とのかい離が徐々に緩和される。
【0161】
コントローラ100は、目標圧力に至るまで検出圧力を減少させる。この処理は、第2ガス圧センサSw3の検出信号に基づいて行うことができる。検出圧力が目標圧力付近まで減少すると、コントローラ100は、第1排出弁58a及び第2排出弁58bを双方とも閉弁し、制御プロセスをステップS413へ進める。
【0162】
ステップS413において、コントローラ100は、第2電磁弁64の指令期間を最小指令期間に一致させることで、ガスゲート弁42の開弁期間を最小開弁期間To2に一致させる。ステップS413とステップS412を併用することで、ガスゲート弁42の制御性を確保しつつ、シリンダ16内に供給される水素ガスのボリュームを抑制することができる。
【0163】
その後、ステップS413から続くステップS406において、コントローラ100は、最小指令期間にわたって第2電磁弁64を開く。これにより、ガスゲート弁42を、遅滞なく安定的に開弁させることができる。
【0164】
以上の処理が完了すると、コントローラ100は、制御プロセスを図5のステップS4から同図のステップS5に進める。ステップS5で行われる処理は、図6A及び図6Bに示したものと同様である。
【0165】
すなわち、図6A及び図6Bに例示した処理は、ガスゲート弁42の開閉にのみ適用可能なものではなく、ガス噴射弁30の開閉に適用することもできる。ガス噴射弁30の開閉に適用する場合、図6AのステップS401で算出される指令時間(Tt)は、第2電磁弁64の指令時間ではなく、第1電磁弁62の指令時間となる。
【0166】
続くステップS402において、コントローラ100は、第1電磁弁62の最小指令時間を読み込むことになる。この最小指令時間は、ガス噴射弁30の最小開弁期間To1に対応しており、図4(b)に示した第2最小指令期間Ot2に一致している。第1電磁弁62を最小指令期間(第2最小指令期間Ot2)で開弁させることは、ガス噴射弁30を最小開弁期間To1で開弁させることに等しい。
【0167】
以降の処理は、ガスゲート弁42の開閉時と同様である。前述の説明において、第2電磁弁64なる語を第1電磁弁62に置き換えるとともに、ガスゲート弁42なる語をガス噴射弁30に置き換えればよい。
【0168】
例えば、コントローラ100は、第1電磁弁62の指令時間(Tt)と、水素ガスの目標圧力(Pt)と、に基づいて、ガス噴射弁30の目標開弁期間が最小開弁期間To1よりも長いことを示す第1条件と、水素ガスの検出圧力(Ps)が目標圧力に対して所定以上に過剰ではないことを示す第2条件と、がそれぞれ成立しているか否かを判定する(図6AのステップS403及びステップS411を参照)。
【0169】
なお、コントローラ100は、第1電磁弁62の指令期間が最小指令期間を上回っているか否か(Tt>Tm?)を判定することで、第1条件の判定を実行する。前述のように、第1電磁弁62の最小指令期間は、ガス噴射弁弁20の最小開弁期間To1に対応している。そのため、第1電磁弁62の指令期間と最小指令期間とを用いた判定は、ガス噴射弁30の開弁期間が最小開弁期間To1を上回っているか否かを間接的に判定するものとみなすことができる。
【0170】
コントローラ100は、記第1条件及び第2条件が双方とも非成立の場合(ステップS403:NO、かつ、ステップS411:YES)、ガス噴射弁30の目標開弁期間を最小開弁期間To1に一致するように調整するとともに、検出圧力と目標圧力とのかい離を解消するように、ブロー機構58を作動させる。なお、ガス噴射弁30における目標開弁期間の調整は、第1電磁弁62の指令期間を延長又は短縮することで行うことができる。
【0171】
また、コントローラ100は、第1条件が成立する場合(ステップS403:YES)、目標開弁期間を最小開弁期間以上となる範囲内で調整することで、検出圧力と目標圧力とのかい離を解消する(図6AのステップS408及びステップS409を参照)。その際、コントローラ100は、排出機構としてのブロー機構58を非作動とする。
【0172】
また、コントローラ100は、第1条件が成立しかつ第2条件が非成立の場合(ステップS403:YES、かつ、ステップS407:NO)、目標圧力に対する検出圧力の過剰分を除去するように目標開弁期間を短縮する(図6AのステップS409を参照)その後、コントローラ100は、短縮後の前記目標開弁期間に基づいて、前記第1条件が成立しているか否かを再判定し、その再判定に基づいて、排出機構としてのブロー機構58を作動させるか否かを決定する(図6AのステップS410を参照)。
【0173】
このように、本実施形態に係るコントローラ100は、図6A及び図6Bに例示した処理を、ガスゲート弁42の開閉時と、ガス噴射弁30の開閉時との双方にて実施する。これにより、エンジン1の負荷を、制御目標により確実に追従させることができる。
【0174】
<本実施形態に係るバルブ制御の意義>
第2条件が非成立の場合、検出圧力は、目標圧力に対して所定以上に過剰となる。この場合、エンジン1の回転数が過剰にならないようにするためには、例えばガスゲート弁422の目標開弁期間を短縮することが考えられる。しかしながら、第2条件に加えて第1条件も非成立の場合、ガスゲート弁42の目標開弁期間をそれ以上短縮することはできない。
【0175】
そこで、本実施形態に係るコントローラ100は、第1条件と第2条件とが両方とも非成立の場合、図6AのステップS412に示したように、ブロー機構58を作動させる。ブロー機構58を作動させることで、水素ガスを減圧することができる。これにより、エンジン1の回転数を制御目標に追従させる上で有利になる。
【0176】
さらに、コントローラ100は、第1条件と第2条件とが両方とも非成立の場合、図6AのステップS413に示したように、ガスゲート弁42の目標開弁期間を最小開弁期間To2に設定する。これにより、開弁期間の拡大に伴うエンジン1の負荷の増大を抑制しつつ、ガスゲート弁42の開弁期間を調整可能な状態に保つことができる。そのことで、エンジン1の負荷を制御目標に追従させる上でさらに有利になる。
【0177】
また、第1条件が成立する場合、ガスゲート弁42の目標開弁期間には変更の余地がある。そこで、コントローラ100は、図6AのステップS405~S409に示したように、目標開弁期間の調整を通じて、検出圧力と目標圧力とのかい離を解消する。これにより、ブロー機構58を作動させることなく、エンジン1負荷を制御目標に追従させることができる。ブロー機構58を非作動とすることで、水素ガスの排出量を抑制することができる。このことは、エンジン1の燃費向上に資する。
【0178】
また、第1条件が成立する場合、ガスゲート弁42の目標開弁期間には、前述のように変更の余地がある。しかしながら、変更後の目標開弁期間は、最小開弁期間To2以上となる必要がある。そこで、目標開弁期間を短縮した場合、コントローラ100は、図6AのステップS410に示したように、第1条件を再び判定する。これにより、目標開弁期間を最小開弁期間To2以上に保つことができる。これにより、エンジン1の負荷を制御目標に追従させる上でさらに有利になる。
【0179】
また、図5のステップS5に例示したように、コントローラ100は、ガス噴射弁30においてもガスゲート弁42と同様の処理を実行する。これにより、エンジン1の回転数を制御目標に追従させる上で有利になる。
【0180】
<他の実施形態>
図5に示したフローは例示に過ぎない。コントローラ100は、ステップS4及びステップS5のうち、ステップS4のみを実行してもよいし、ステップS5のみを実行してもよい。また、コントローラ100は、ステップS5を実行してからステップS4を実行してもよいし、ステップS4とステップS5を並行してもよい。
【0181】
また、図6Aに例示した処理のうち、ステップS404~S405、及び、ステップS407~S410に係る処理は、必須ではない。ステップS403の判定がYESの場合、目標開弁期間を調整することなく、その目標開弁期間に対応した指令時間によって第2電磁弁64を開弁してもよい。
【符号の説明】
【0182】
1 エンジン(ガスエンジン)
16 シリンダ
30 ガス噴射弁
32 ガス供給管
41 アキュムレータ
42 ガスゲート弁
57 パージ機構(排出機構)
58 ブロー機構(排出機構)
63 第2油圧回路(油圧回路)
64 第2電磁弁(電磁弁)
100 コントローラ
Sw3 第2ガス圧センサ(供給圧センサ)
To1 最小開弁期間(ガス噴射弁の最小開弁期間)
To2 最小開弁期間(ガスゲート弁の最小開弁期間)
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B