(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101827
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】エラストマー組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20240723BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240723BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20240723BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C08L9/00
B60C1/00 A
B60C11/00 D
C08L33/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005982
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 友洋
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA03
3D131AA39
3D131BA02
3D131BA20
3D131BB01
3D131BB11
3D131BC12
3D131BC18
3D131DA12
3D131DA54
3D131EA10V
3D131EB11X
3D131EB27V
3D131EC01V
3D131EC01X
4J002AC03W
4J002AC07W
4J002AC08W
4J002BG13X
4J002BJ00X
4J002BP01W
4J002FD010
4J002FD030
4J002FD150
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】アイスグリップ性能及びドライグリップ性の総合性能に優れたエラストマー組成物、及びそれを用いたタイヤを提供する。
【解決手段】ブタジエン系エラストマーと、単量体A及び単量体Bのランダム共重合体Cとを含むエラストマー組成物であって、
前記単量体Aは、ホモポリマーが温度応答性高分子である化合物であり、
前記単量体Bは、ホモポリマーのガラス転移温度が-60℃以下である化合物であり、
前記ランダム共重合体Cは、前記単量体Aと前記単量体Bとの割合(単量体Aの質量:単量体Bの質量)が50:50~15:85である
エラストマー組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタジエン系エラストマーと、単量体A及び単量体Bのランダム共重合体Cとを含むエラストマー組成物であって、
前記単量体Aは、ホモポリマーが温度応答性高分子である化合物であり、
前記単量体Bは、ホモポリマーのガラス転移温度が-60℃以下である化合物であり、
前記ランダム共重合体Cは、前記単量体Aと前記単量体Bとの割合(単量体Aの質量:単量体Bの質量)が50:50~15:85である
エラストマー組成物。
【請求項2】
ランダム共重合体Cが、温度応答性樹脂である請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項3】
単量体Bが、極性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体である請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項4】
温度応答性高分子が、水中で下限臨界溶液温度を示す高分子である請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項5】
ランダム共重合体Cの重量平均分子量が、20,000~200,000である請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項6】
10℃以上の温度差がある所定の2点温度において、低温側温度かつ水浸漬時の弾性率/低温側温度かつ乾燥時の弾性率 ≦0.95、高温側温度かつ水浸漬時の弾性率/高温側温度かつ乾燥時の弾性率 >0.95を満たし、
前記低温側の温度は25℃未満である、請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項7】
請求項1に記載のエラストマー組成物からなる温度応答性部材を備えるタイヤ。
【請求項8】
温度応答性部材の最大厚みが0.5mm以上である請求項7に記載のタイヤ。
【請求項9】
温度応答性部材で構成されるキャップトレッドを備えた請求項7に記載のタイヤ。
【請求項10】
エラストマー組成物中のエラストマー成分100質量部に対するランダム共重合体Cの含有量Cc(質量部)と、キャップトレッドの厚みTcとの比(Cc/Tc)が、7~20である請求項9に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー組成物、及びそれを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からタイヤには種々の性能が求められている。特にオールシーズンタイヤでは、大きな外気温の変化や路面の状況変化に対応するため、アイスグリップ性能、ドライグリップ性能などの性能が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、前記課題を解決し、アイスグリップ性能及びドライグリップ性の総合性能に優れたエラストマー組成物、及びそれを用いたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、ブタジエン系エラストマーと、単量体A及び単量体Bのランダム共重合体Cとを含むエラストマー組成物であって、
前記単量体Aは、ホモポリマーが温度応答性高分子である化合物であり、
前記単量体Bは、ホモポリマーのガラス転移温度が-60℃以下である化合物であり、
前記ランダム共重合体Cは、前記単量体Aと前記単量体Bとの割合(単量体Aの質量:単量体Bの質量)が50:50~15:85である
エラストマー組成物に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、ブタジエン系エラストマーと、単量体A及び単量体Bのランダム共重合体Cとを含むエラストマー組成物であって、前記単量体Aは、ホモポリマーが温度応答性高分子である化合物であり、前記単量体Bは、ホモポリマーのガラス転移温度が-60℃以下である化合物であり、前記ランダム共重合体Cは、前記単量体Aと前記単量体Bとの割合(単量体Aの質量:単量体Bの質量)が50:50~15:85であるエラストマー組成物であるので、アイスグリップ性能及びドライグリップ性の総合性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
【
図2】
図1のタイヤのトレッドの近辺が示された拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、ブタジエン系エラストマーと、単量体A及び単量体Bのランダム共重合体Cとを含むエラストマー組成物であって、前記単量体Aは、ホモポリマーが温度応答性高分子である化合物であり、前記単量体Bは、ホモポリマーのガラス転移温度が-60℃以下である化合物であり、前記ランダム共重合体Cは、前記単量体Aと前記単量体Bとの割合(単量体Aの質量:単量体Bの質量)が50:50~15:85であるエラストマー組成物である。
【0008】
上記エラストマー組成物は前述の効果が得られるが、このような作用効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。
本発明で使用されるランダム共重合体Cは、ホモポリマーが温度応答性高分子となる化合物(単量体A)と、ホモポリマーのガラス転移温度が-60℃以下となる化合物(単量体B)とがランダムに共重合したポリマーであり、温度変化により親水/疎水性が変化する特性を有している。
単量体Aに由来する構成単位の部分において、温度変化により親水性/疎水性の変化が生じ、低温下において、エラストマー組成物の親水性が向上し、アイス路面上での水との馴染みが良くなり、アイスグリップ性が発揮されやすくなるものと考えられる。
一方で、乾燥路面上を走行する際は、走行時の発熱などにより、温度が上昇し、疎水性となるため、乾燥路面のアスファルトとの馴染みが良くなり、ドライグリップ性能が向上すると考えられる。
また、ホモポリマーのガラス転移温度が-60℃以下となる化合物の単量体Bに由来する構成単位を有し、かつ単量体Aに由来する構成単位:単量体Bに由来する構成単位(質量比)が50:50~15:85の範囲で、単量体Aに由来する構成単位と単量体Bに由来する構成単位とがランダムに結合されていることにより、親水性/疎水性が変化する下限臨界温度(LCST)付近においても、ランダム共重合体Cが柔軟な性質を有することができる。よって、低温下においてもエラストマー組成物全体の路面に対する追従性を阻害しにくくなると考えられる。
さらに、エラストマー成分として、ガラス転移温度が低いブタジエン系エラストマーを含むことにより、ゴム組成物内でランダム共重合体Cが転移する際の分子運動が阻害されにくくなることで、親水性/疎水性の可逆的な変化がしやすくなると考えられる。
以上により、エラストマー組成物内で、ランダム共重合体Cの親水性/疎水性が温度により変化し、かつ、この変化を周囲のエラストマー成分も阻害しにくくなるため、アイスグリップ性能及びドライグリップ性能の総合性能を向上できると推察される。
【0009】
以下、エラストマー組成物に使用可能な薬品について説明する。
【0010】
上記エラストマー組成物は、エラストマー成分を含む。
上記エラストマー組成物において、上記エラストマー成分はブタジエン系エラストマーを含んでいる。
【0011】
ここで、エラストマー成分(好ましくはゴム成分)は、架橋に寄与する成分であり、一般的に、重量平均分子量(Mw)が1万以上のポリマーで、アセトンにより抽出されないポリマー成分がゴム成分に該当する。前記エラストマー成分は、常温(25℃)で固体状態である。
【0012】
エラストマー成分(好ましくはゴム成分)の重量平均分子量は、好ましくは5万以上、より好ましくは15万以上、更に好ましくは20万以上、特に好ましくは27万以上であり、また、好ましくは200万以下、より好ましくは150万以下、更に好ましくは100万以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0013】
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0014】
エラストマー成分は、非変性ポリマーでもよいし、変性ポリマーでもよい。
変性ポリマーとしては、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基を有するポリマー(好ましくはジエン系ゴム)であればよく、例えば、ポリマーの少なくとも一方の末端を、上記官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性ポリマー(末端に上記官能基を有する末端変性ポリマー)や、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性ポリマーや、主鎖及び末端に上記官能基を有する主鎖末端変性ポリマー(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性ポリマー)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性ポリマー等が挙げられる。
【0015】
上記官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。なかでも、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1~6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)が好ましい。
【0016】
上記ブタジエン系エラストマーとしては、ブタジエンに基づく単位を有するエラストマーであれば特に限定されず、例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブタジエン系熱可塑性エラストマー、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-ブタジエン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBBS)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、効果がより好適に得られるという理由から、BR、SBRが好ましい。
【0017】
上記エラストマー組成物において、エラストマー成分100質量%(好ましくはゴム成分100質量%)中のブタジエン系エラストマーの含有量(好ましくはBR及びSBRの合計含有量)は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0018】
BRは特に限定されず、例えば、高シス含量のハイシスBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR、希土類系触媒を用いて合成したBR(希土類BR)等を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐摩耗性能が向上するという理由から、シス含量が90質量%以上のハイシスBRが好ましい。なお、シス含量は、赤外吸収スペクトル分析法により測定できる。
【0019】
また、BRは、非変性BRでもよいし、変性BRでもよい。変性BRとしては、変性ポリマーと同様の官能基が導入された変性BRが挙げられる。
【0020】
BRとしては、例えば、宇部興産(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。
【0021】
上記エラストマー組成物において、エラストマー成分100質量%(好ましくはゴム成分100質量%)中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、特に好ましくは40質量%以上であり、また、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0022】
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)等を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
SBRのスチレン量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、特に好ましくは20質量%以上である。また、該スチレン量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、特に好ましくは30質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、SBRのスチレン量は、1H-NMR測定により算出される。
【0024】
SBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等により製造・販売されているSBRを使用できる。
【0025】
SBRは、非変性SBRでもよいし、変性SBRでもよい。変性SBRとしては、変性ポリマーと同様の官能基が導入された変性SBRが挙げられる。
【0026】
上記エラストマー組成物において、エラストマー成分100質量%(好ましくはゴム成分100質量%)中のSBRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、特に好ましくは60質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0027】
ブタジエン系エラストマー以外に使用可能なエラストマーとしては、特に限定されず、例えば、イソプレン系ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)等、タイヤ用組成物のゴム成分として一般的に使用されるジエン系ゴム;ブチルアクリレートゴム、エチルアクリレートゴム、オクチルアクリレートゴムなどのアクリルゴム、ニトリルゴム、イソブチレンゴム、メチルメタクリレート-ブチルアクリレートブロック共重合体、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、クロロスルホン化ポリエチレン、シリコーンゴム(ミラブル型、室温加硫型)、ブチルゴム、フッ素ゴム、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-イソブチレンブロック共重合体(SIB)、スチレン-エチレン・ブテン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ジエン系ゴムが好ましい。
【0028】
上記エラストマー組成物において、エラストマー成分100質量%(好ましくはゴム成分100質量%)中のジエン系ゴムの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0029】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRとしては、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、NRが好ましい。
【0030】
上記エラストマー組成物は、単量体A及び単量体Bのランダム共重合体Cを含む。
ここで、単量体Aは、ホモポリマーが温度応答性高分子となる化合物であり、単量体Bは、ホモポリマーのガラス転移温度が-60℃以下となる化合物であり、ランダム共重合体Cは、単量体Aと単量体Bとの割合(単量体Aの質量:単量体Bの質量)が50:50~15:85である。
なお、本明細書において、ランダム共重合体Cは、上記エラストマー成分に該当しないものとする。
【0031】
まず、単量体Aについて説明する。
単量体Aは、ホモポリマーが温度応答性高分子となる特性を持つ化合物である。
【0032】
ここで、温度応答性高分子は、水中で温度変化に応じて、水和と脱水和に伴うポリマー鎖のコンフォメーション変化を可逆的に生起し、温度の変化によって親水性、疎水性が可逆的に変化する材料である。この可逆変化は、一つの分子内に水素結合が可能な親水性基と、水とはなじみにくい疎水性基を有する分子構造に起因するものであることが知られている。
そして、温度応答性高分子は、水中だけではなく、樹脂及び/又はエラストマーを含む組成物中であっても、温度の変化によって親水性、疎水性が可逆的に変化する。
【0033】
温度応答性高分子としては、水中で下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature;LCST、下限臨界共溶温度、下限臨界溶解温度とも言う)を示す高分子と、水中で上限臨界溶液温度(Upper Critical Solution Temperature;UCST、上限臨界共溶温度、上限臨界溶解温度とも言う)を示す高分子が知られている。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
LCSTを示す高分子は、LCSTを境にそれより高い温度ではその分子内、又は分子間の疎水結合が強まりポリマー鎖が凝集し、疎水性となる。一方、LCSTよりも低い温度では、ポリマー鎖が水分子を結合し水和し、親水性となる。このように、LCSTを境に可逆的な相転移挙動を示す。
逆にUCSTを示す高分子は、UCSTよりも低温で疎水性となって不溶となる一方、UCSTよりも高温で親水性となり溶解する。このように、UCSTを境に可逆的な相転移挙動を示す。これは、複数個のアミド基を側鎖に有しており、側鎖間の水素結合を駆動力として分子間力が働き、UCST型挙動を示すと考えられている。
【0035】
なかでも、より効果が得られる観点から、単量体Aは、ホモポリマーがLCSTを示す高分子となる特性を持つ化合物であることが望ましい。
【0036】
単量体Aは、ホモポリマーがLCSTを示す高分子となる特性を持つ化合物である場合、より効果が得られるメカニズムは明らかではないが、LCSTを境に可逆的な相転移挙動を示し、疎水性/親水性の可逆的な変化がしやすくなるため、アイスグリップ性能及びドライグリップ性能の総合性能が顕著に向上すると推察される。
【0037】
単量体Aについて、LCSTを示す高分子となる特性を持つ化合物としては、特に限定されないが、N-置換(メタ)アクリルアミドが好ましく、下記式(A1)で表される化合物がより好ましい。
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子又はヒドロカルビル基を表し、R
1及びR
2の少なくとも1つが水素原子ではなく、R
1とR
2とで環構造を形成してもよい。)
【0038】
R1及びR2のヒドロカルビル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは14以下、特に好ましくは10以下、最も好ましくは6以下、より最も好ましくは4以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0039】
R1及びR2のヒドロカルビル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基などのアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;メチルフェニル基、エチルフェニル基等のアリール基等があげられる。なかでも、アルキル基、シクロアルキル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
【0040】
R1とR2とで形成する環構造の炭素数は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0041】
R1及びR2のヒドロカルビル基は、分岐であっても非分岐であってもよいが、分岐が好ましい。
【0042】
R
1及びR
2としては、水素原子、アルキル基(特に、分岐のアルキル基)、シクロアルキル基、R
1とR
2とで形成する環構造が好ましく、表1に示す組み合わせがより好ましく、水素原子、アルキル基(特に、分岐のアルキル基)の組み合わせが更に好ましく、水素原子、プロピル基(特に、イソプロピル基)の組み合わせが特に好ましい。
【表1】
【0043】
R3のヒドロカルビル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1以上、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、特に好ましくは1である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0044】
R3のヒドロカルビル基としては、R1及びR2のヒドロカルビル基と同様の基があげられる。なかでも、アルキル基が好ましい。
【0045】
R3のヒドロカルビル基は、分岐であっても非分岐であってもよい。
【0046】
R3としては、水素原子、アルキル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0047】
上記式(A1)で表される化合物としては、例えば、N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド(NNPAM)、N-エチル,N-メチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピル,N-メチルアクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-アクリロイルピロリジン、N-アクリロイルピペリジン等のN-アルキルアクリルアミド;
N-イソプロピルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-エチル,N-メチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N-イソプロピル,N-メチルメタクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-メタクリロイルピロリジン、N-メタクリロイルピペリジン等のN-アルキルメタクリルアミド;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、NIPAM、NNPAM、N,N-ジエチルアクリルアミドが好ましく、NIPAM、NNPAMがより好ましい。
【0048】
単量体Aについて、LCSTを示す高分子となる特性を持つ化合物としては、アルキルビニルエーテルも好ましく、下記式(A2)で表される化合物もより好ましい。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化2】
(式中、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子又はヒドロカルビル基を表す。)
【0049】
R4のヒドロカルビル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは14以下、特に好ましくは10以下、最も好ましくは6以下、より最も好ましくは4以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0050】
R5及びR6のヒドロカルビル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1以上であり、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、特に好ましくは1である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0051】
R4、R5及びR6のヒドロカルビル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基などのアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;メチルフェニル基、エチルフェニル基等のアリール基等があげられる。なかでも、アルキル基、シクロアルキル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
【0052】
R4がアルキル基、R5及びR6が、水素原子であることが好ましく、R4がエチル基、R5及びR6が、水素原子であることがより好ましい。
【0053】
上記式(A2)で表される化合物としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ペンテニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、ヘプチルビニルエーテル、オクチルエーテル)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、エチルビニルエーテル(EVE)が好ましい。
【0054】
単量体Aについて、LCSTを示す高分子となる特性を持つ化合物としては、下記式(A3)で表される化合物も好ましい。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化3】
(式中、R
7、R
8及びR
9は、それぞれ独立に、水素原子又はヒドロカルビル基を表す。)
【0055】
R7のヒドロカルビル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは14以下、特に好ましくは10以下、最も好ましくは6以下、より最も好ましくは4以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0056】
R8及びR9のヒドロカルビル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1以上であり、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、特に好ましくは1である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0057】
R7、R8及びR9のヒドロカルビル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基などのアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;メチルフェニル基、エチルフェニル基等のアリール基等があげられる。なかでも、アルキル基、シクロアルキル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
【0058】
R7がアルキル基、R8及びR9が、水素原子であることが好ましく、R7がn-プロピル基又はイソプロピル基、R8及びR9が、水素原子であることがより好ましい。
【0059】
上記式(A3)で表される化合物としては、例えば、イソプロピルビニルアクリルアミド(NIPVM、R7がイソプロピル基、R8及びR9が、水素原子)、n-ブチルビニルアクリルアミド(R7がn-ブチル基、R8及びR9が、水素原子)、tert-ブチルビニルアクリルアミド(R7がtert-ブチル基、R8及びR9が、水素原子)、sec-ブチルビニルアクリルアミド(R7がsec-ブチル基、R8及びR9が、水素原子)、メチルビニルアクリルアミド(R7がメチル基、R8及びR9が、水素原子)、エチルビニルアクリルアミド(R7がエチル基、R8及びR9が、水素原子)、n-ペンチルビニルアクリルアミド(R7がn-ペンチル基、R8及びR9が、水素原子)、イソペンチルビニルアクリルアミド(R7がイソペンチル基、R8及びR9が、水素原子)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、NIPVM、n-ブチルビニルアクリルアミド、tert-ブチルビニルアクリルアミドが好ましく、NIPVMがより好ましい。
【0060】
単量体Aについて、上記式(A1)で表される化合物、上記式(A2)で表される化合物、上記式(A3)で表される化合物以外のLCSTを示す高分子となる特性を持つ化合物としては、例えば、下記式(A4)で表されるN-ビニル-カプロラクタム、下記式(A5)で表される2-アルキル-2-オキサゾリン(R:エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基)、N-エトキシエチルアクリルアミド、N-エトキシエチルメタクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド、ビニルメチルエーテル、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、3-エチル-N-ビニル-2-ピロリドン、ヒドロキシルブチルキトサン、エトキシル化イソ-C
13H
27-アルコール(好ましくは4~8のエトキシル化度を有するもの)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化4】
【化5】
(式(A5)中、Rは、n-プロピル基、イソプロピル基又はエチル基から選択されるアルキル基である。)
【0061】
次に、単量体Bについて説明する。
単量体Bは、ホモポリマーのガラス転移温度が-60℃以下となる特性を持つ化合物である。
【0062】
単量体Bのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-70℃以下、より好ましくは-75℃以下、更に好ましくは-80℃以下である。該Tgの下限は特に限定されないが、好ましくは-120℃以上、より好ましくは-115℃以上、更に好ましくは-110℃以上である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、ガラス転移温度(Tg)は、JIS-K7121:1987に従い、示差走査熱量計を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定した値である。
【0063】
単量体Bとしては、(メタ)アクリル系単量体、シリコーン系単量体などが挙げられる。なかでも、より効果が得られる観点から、(メタ)アクリル系単量体などを好適に使用できる。
【0064】
(メタ)アクリル系単量体としては、より効果が得られる観点から、(メタ)アクリル酸エステル系単量体が好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸のいずれでもよいことを意味し、他に、(メタ)アクリレートなどというときの「(メタ)」も同様の趣旨である。
【0065】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、より効果が得られる観点から、ヘテロ原子を有することが好ましく、水素結合の形成が可能なヘテロ原子を有することがより好ましい。
ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などが挙げられる。なかでも、より効果が得られる観点から、窒素原子、酸素原子が好ましく、酸素原子がより好ましい。
【0066】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、より効果が得られる観点から、極性官能基を有する単量体であることが望ましい。極性官能基としては、ヒドロキシ基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、置換もしくは無置換アミノ基、メルカプト基(-SH)、エポキシ基などの複素環基などが挙げられる。なかでも、ヒドロキシ基、置換もしくは無置換アミノ基が好ましく、ヒドロキシ基がより好ましい。
【0067】
極性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体を用いる場合、より効果が得られるメカニズムは明らかではないが、極性官能基を有することで、温度変化により親水性/疎水性の可逆的な変化がしやすくなり、その結果、アイスグリップ性能及びドライグリップ性能の総合性能が顕著に向上すると推察される。
【0068】
(メタ)アクリル系ホモポリマーを構成する好適な(メタ)アクリル酸エステル系単量体として、例えば、下記式(B1)で示される化合物が挙げられる。
【化6】
(式中、R
11は、水素原子又はメチル基である。R
12は、ヘテロ原子を有する炭素数1~14のアルキル基又はヘテロ原子を有する炭素数6~20芳香族炭化水素基である。)
【0069】
式(B1)において、R12は、好ましくはヘテロ原子を有する炭素数1~14のアルキル基である。具体的には、水酸基、アミノ基及びメルカプト基からなる群より選択される少なくとも1つを含む炭素数1~14のアルキル基が望ましい。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~8、より好ましくは2~6である。
【0070】
好適な(メタ)アクリル酸エステル系単量体の具体例としては、
(メタ)アクリル酸1-ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸1-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸1-ヒドロキシヘプチル、(メタ)アクリル酸1-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-ヒドロキシペンチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシペンチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシペンチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシヘプチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシペンチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシヘプチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸2-クロロ-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル、(メタ)アクリル酸5-ヒドロキシペンチル、(メタ)アクリル酸5-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸5-ヒドロキシヘプチル、(メタ)アクリル酸5-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸5-ヒドロキシノニル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘプチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシノニル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸7-ヒドロキシヘプチル、(メタ)アクリル酸7-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸7-ヒドロキシノニル、(メタ)アクリル酸7-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸7-ヒドロキシウンデシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシノニル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシウンデシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシドデシル、(メタ)アクリル酸9-ヒドロキシノニル、(メタ)アクリル酸9-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸9-ヒドロキシウンデシル、(メタ)アクリル酸9-ヒドロキシドデシル、(メタ)アクリル酸9-ヒドロキシトリデシル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシウンデシル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシドデシル、アクリル酸10-ヒドロキシトリデシル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシテトラデシル、(メタ)アクリル酸11-ヒドロキシウンデシル、(メタ)アクリル酸11-ヒドロキシドデシル、(メタ)アクリル酸11-ヒドロキシトリデシル、(メタ)アクリル酸11-ヒドロキシテトラデシル、(メタ)アクリル酸11-ヒドロキシペンタデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシドデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシトリデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシテトラデシル、(メタ)アクリル酸13-ヒドロキシペンタデシル、(メタ)アクリル酸13-ヒドロキシテトラデシル、(メタ)アクリル酸13-ヒドロキシペンタデシル、(メタ)アクリル酸14-ヒドロキシテトラデシル、(メタ)アクリル酸14-ヒドロキシペンタデシル、(メタ)アクリル酸15-ヒドロキシペンタデシル、(メタ)アクリル酸15-ヒドロキシヘプタデシル等のヒドロキシ基を有する単量体;
(メタ)アクリル酸、カルボキシアルキル(メタ)アクリレート(例えば、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート)、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等のカルボキシル基を有する単量体;
アクリロイルモルホリン、ビニルカプロラクタム、N-ビニル-2-ピロリドン、ビニルピリジン、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリルアクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2,5-ジヒドロフラン等の複素環基を有する単量体;
アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の置換もしくは無置換アミノ基を有する単量体が挙げられる。
【0071】
より効果が得られる観点から、ヒドロキシ基を有する単量体が好ましい。
ヒドロキシ基を有する単量体のなかでも、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸5-ヒドロキシペンチル、アクリル酸6-ヒドロキシヘキシルが好ましく、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸5-ヒドロキシペンチルがより好ましく、アクリル酸4-ヒドロキシブチルが更に好ましい。
【0072】
上記ランダム共重合体Cは、単量体Aと単量体Bとの割合(単量体Aの質量:単量体Bの質量)が50:50~15:85である。下限は、好ましくは40:60、より好ましくは35:65、更に好ましくは30:70であり、上限は、好ましくは20:80、より好ましくは25:75である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
単量体Aと単量体Bとの割合は、NMRにより測定できる。
【0073】
ランダム共重合体Cは、公知の重合方法を用いて単量体Aと単量体Bとをランダム共重合することにより、製造できる。
【0074】
ランダム共重合体Cの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、更に好ましくは50,000以上であり、また、好ましくは250,000以下、より好ましくは200,000以下、更に好ましくは150,000以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0075】
ランダム共重合体CのMwが所定範囲、特に20,000~200,000の場合、より効果が得られるメカニズムは明らかではないが、ゴム組成物内でランダム共重合体Cが転移する際の分子運動が生じやすいことで、親水性/疎水性の可逆的な変化がしやすくなり、その結果、アイスグリップ性能及びドライグリップ性能の総合性能が顕著に向上すると推察される。
【0076】
上記エラストマー組成物において、エラストマー成分100質量部(好ましくはゴム成分100質量部)に対する上記ランダム共重合体Cの含有量は、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上、特に好ましくは20質量部以上であり、また、好ましくは45質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは35質量部以下、特に好ましくは30質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0077】
上記ランダム共重合体Cは、より効果が得られる観点から、温度応答性樹脂であることが好ましく、温度変化により親水性が変化する温度応答性樹脂であることがより好ましい。
【0078】
温度応答性樹脂を用いる場合、より効果が得られるメカニズムは明らかではないが、温度応答性樹脂の特性を有することで、温度変化により親水性/疎水性の可逆的な変化がしやすくなり、その結果、アイスグリップ性能及びドライグリップ性能の総合性能が顕著に向上すると推察される。
【0079】
なお、本明細書において、温度変化により親水性が変化する温度応答性樹脂とは、温度変化により親水性が変化する任意の樹脂を指す。
本明細書において、樹脂とは、0℃以上で固体の有機化合物、すなわち、容器とは異なる形状の有機化合物を1分間、当該容器内に静置しても容器に沿わない部分が生じる有機化合物を意味する。
【0080】
温度変化によって、温度応答性樹脂がより好適に親水性を変化するためには、水が存在していることが好ましい。そのため、エラストマー組成物は、吸水性の繊維、吸水性のエラストマー、吸水性の樹脂などの吸水性の材料を含むことが好ましい。これにより、エラストマー組成物に水が好適に取り込まれて、温度応答性樹脂がより好適に温度変化によって親水性を変化させることが可能となる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
吸水性の材料としては、ヘテロ原子を有する材料(繊維、エラストマー、樹脂)が挙げられる。
【0081】
ヘテロ原子は、炭素原子、水素原子以外の原子を意味し、水に対して、水素結合、イオン結合などの可逆的な分子結合が可能な限り特に限定されないが、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であることが好ましく、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子がより好ましく、酸素原子が更に好ましい。
【0082】
酸素原子を含む構造、基としては、エーテル基、エステル、カルボキシ基、カルボニル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。なかでも、エーテル基が好ましく、オキシアルキレン基がより好ましい。
窒素原子を含む構造、基としては、アミノ基(第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基)、アミド基、ニトリル基、ニトロ基等が挙げられる。なかでも、アミノ基が好ましく、第三級アミノ基がより好ましい。
ケイ素原子を含む構造、基としては、シリル基、アルコキシシリル基、シラノール基等が挙げられる。なかでも、シリル基が好ましく、アルコキシシリル基がより好ましい。
硫黄原子を含む構造、基としては、スルフィド基、硫酸基、硫酸エステル、スルホ基等が挙げられる。
リン原子を含む構造、基としては、リン酸基、リン酸エステル等が挙げられる。
ハロゲン原子を含む構造、基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲノ基等が挙げられる。
【0083】
例えば、セルロース繊維は水酸基を有するため、吸水性の繊維としては、セルロース繊維が挙げられる。
セルロース繊維としては、セルロースミクロフィブリルが好ましい。セルロースミクロフィブリルとしては、天然物由来のものであれば特に制限されず、例えば、果実、穀物、根菜などの資源バイオマス、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、及びこれらを原料として得られるパルプや紙、布、農作物残廃物、食品廃棄物や下水汚泥などの廃棄バイオマス、稲わら、麦わら、間伐材などの未使用バイオマスの他、ホヤ、酢酸菌等の生産するセルロースなどに由来するものが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
吸水性のエラストマーとしては、例えば、オキシアルキレン基を有するエラストマーが挙げられる。該エラストマーとしては、例えば、エポキシド・アリルグリシジルエーテル共重合体、アミン・アリルグリシジルエーテル共重合体、シリル・アリルグリシジルエーテル共重合体等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
吸水性の樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
上記エラストマー組成物において、エラストマー成分100質量部(好ましくはゴム成分100質量部)に対する吸水性の繊維、吸水性のエラストマー、吸水性の樹脂の含有量は、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、好ましくは25質量部以下、より好ましくは23質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、吸水性の繊維、吸水性のエラストマー、吸水性の樹脂として、2種以上を併用する場合は、上記含有量は合計含有量を意味する。
【0087】
なお、本明細書において、上記エラストマー組成物の親水性、疎水性は、例えば、水100mlに対し、粉砕した上記エラストマー組成物のサンプル1gを混合して30分攪拌した後、24時間静置し溶解しているか否かにより定義可能であり、溶解した場合は親水性、不溶の場合は疎水性とできる。
【0088】
上記エラストマー組成物は、充填剤を含むことが望ましい。
充填剤としては特に限定されず、ゴム分野で公知の材料を使用でき、例えば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレイ、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、マイカなどの無機フィラー、バイオ炭(BIO CHAR);難分散性フィラー等が挙げられる。なかでも、カーボンブラックなどの炭素由来フィラー(炭素含有フィラー)、シリカが好ましい。
【0089】
上記エラストマー組成物において、充填剤の含有量(シリカ、カーボンブラックなどのフィラーの総量)は、エラストマー成分100質量部(好ましくはゴム成分100質量部)に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは50質量部以上、更に好ましくは70質量部以上、特に好ましくは90質量部以上であり、また、好ましくは250質量部以下、より好ましくは200質量部以下、更に好ましくは150質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0090】
上記エラストマー組成物に使用可能なカーボンブラックとしては、特に限定されないが、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762等が挙げられる。市販品としては、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、従来の鉱物油などを原料としたカーボンブラックのほか、リグニンなどのバイオマス材料を原料としたカーボンブラックを用いても良い。また、タイヤなどのカーボンブラックを含むゴム製品、プラスチック製品などを分解して得られたリサイクルカーボンブラックを適宜、上記カーボンブラックと等量置換して用いても良い。
【0091】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、30m2/g以上が好ましく、50m2/g以上がより好ましく、70m2/g以上が更に好ましい。また、上記N2SAは、200m2/g以下が好ましく、150m2/g以下がより好ましく、130m2/g以下が更に好ましく、120m2/g以下が特に好ましい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0092】
上記ゴム組成物において、カーボンブラックの含有量は、エラストマー成分100質量部(好ましくはゴム成分100質量部)に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは8質量部以上、更に好ましくは10質量部以上であり、また、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0093】
上記エラストマー組成物に使用可能なシリカとしては、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)などが挙げられる。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。市販品としては、デグッサ社、ローディア社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
シリカとして、植物由来シリカも好適に使用できる。
植物由来シリカとしては、シリカ分を含有する植物に由来するシリカなどが挙げられる。シリカ分を含有する植物としては、イネ、トウモロコシ、サトウキビ、トクサ、コムギ、オオムギ、ライムギ、ハトムギ、キビ、アワ、ヒエ、ススキ、エリアンサスなどが挙げられる。また、前記シリカ分を含有する植物の糖化処理残渣も使用できる。なかでも、シリカ含有量が高いイネの籾殻や藁などが好ましく、さらには籾殻が好ましい。また、シリカ分を含有する植物は、燃焼処理によって灰になったものでも、炭化処理を施されたものでもよい。
【0095】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは50m2/g以上、より好ましくは100m2/g以上、更に好ましくは150m2/g以上である。また、シリカのN2SAの上限は特に限定されないが、好ましくは350m2/g以下、より好ましくは300m2/g以下、更に好ましくは250m2/g以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、シリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0096】
上記エラストマー組成物において、シリカの含有量は、エラストマー成分100質量部(好ましくはゴム成分100質量部)に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは50質量部以上、更に好ましくは70質量部以上、特に好ましくは80質量部以上であり、また、好ましくは150質量部以下、より好ましくは120質量部以下、更に好ましくは100質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0097】
上記エラストマー組成物がシリカを含む場合、更にシランカップリング剤を含むことが好ましい。
シランカップリング剤としては、特に限定されず、ゴム分野で公知のものが使用可能であり、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT-Zなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。市販品としては、デグッサ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0098】
上記エラストマー組成物において、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは5質量部以上、特に好ましくは7質量部以上である。該含有量の上限は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0099】
難分散性フィラーとしては、例えば、ミクロフィブリル化植物繊維、短繊維状セルロース、ゲル状化合物等が挙げられる。なかでも、ミクロフィブリル化植物繊維が好ましい。
【0100】
上記ミクロフィブリル化植物繊維としては、良好な補強性が得られるという点から、セルロースミクロフィブリルが好ましい。セルロースミクロフィブリルとしては、天然物由来のものであれば特に制限されず、例えば、果実、穀物、根菜などの資源バイオマス、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、及びこれらを原料として得られるパルプや紙、布、農作物残廃物、食品廃棄物や下水汚泥などの廃棄バイオマス、稲わら、麦わら、間伐材などの未使用バイオマスの他、ホヤ、酢酸菌等の生産するセルロースなどに由来するものが挙げられる。これらのミクロフィブリル化植物繊維は、1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
なお、本明細書において、セルロースミクロフィブリルとは、典型的には、平均繊維径が10μm以下の範囲内であるセルロース繊維、より典型的には、セルロース分子の集合により形成されている平均繊維径500nm以下の微小構造を有するセルロース繊維を意味する。典型的なセルロースミクロフィブリルは、例えば、上記のような平均繊維径を有するセルロース繊維の集合体として形成されている。
【0102】
上記エラストマー組成物が難分散性フィラーを含有する場合、難分散性フィラーの含有量は、エラストマー成分100質量部(好ましくはゴム成分100質量部)に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは5質量部以上である。該含有量の上限は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0103】
上記エラストマー組成物は、可塑剤を含有してもよい。
本明細書において、可塑剤とは、エラストマー成分に可塑性を付与する材料であり、常温(25℃)において液体であっても、固体であっても良い。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、本明細書において、上記ランダム共重合体Cがエラストマー成分に可塑性を付与する場合、当該共重合体Cは可塑剤に含まれ、可塑性を付与しない場合、当該共重合体Cは可塑剤に含まれないものとする。
【0104】
上記エラストマー組成物が可塑剤を含有する場合、可塑剤の含有量(可塑剤の総量)は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは40質量部以上であり、また、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、可塑剤の含有量には、油展ゴム、樹脂伸展ゴムに含まれるオイルや樹脂の量も含まれる。
【0105】
可塑剤としては、オイル、液状ポリマー、樹脂類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
上記オイルとしては、特に限定されず、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどのプロセスオイル、TDAE、MES等の低PCA(多環式芳香族)プロセスオイル、植物由来オイル、及びこれらの混合物等、従来公知のオイルを使用できる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、ライフサイクルアナリシスの観点から、ゴム混合用ミキサーや自動車エンジンなどで使用されたあとの潤滑油や廃食油などを適宜用いても良い。
【0107】
上記植物由来オイル(植物油とも称する)としては、例えば、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。
【0108】
上記オイルとしては、例えば、出光興産(株)、三共油化工業(株)、(株)ジャパンエナジー、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)、日清オイリオグループ(株)等の製品を使用できる。
【0109】
上記エラストマー組成物がオイルを含有する場合、オイルの含有量(オイルの総量)は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上であり、また、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは70質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイルの量も含まれる。
【0110】
上記液状ポリマーとしては、例えば、25℃で液状ジエン系ポリマー(液状ゴム)や液状ファルネセン系ポリマーなどが挙げられる。液状ゴムとしては液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)、液状スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(液状SBSブロックポリマー)、液状スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(液状SISブロックポリマー)等が挙げられる。これらは、末端や主鎖が極性基で変性されていても構わない。また、これらの水素添加物も使用可能である。
【0111】
上記液状ジエン系ポリマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、1.0×103~5.0×104であることが好ましく、3.0×103~1.5×104であることがより好ましい。
なお、本明細書において、液状ジエン系ポリマーのMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算値である。
【0112】
上記液状ジエン系ポリマーとしては、例えば、サートマー社、(株)クラレ等の製品を使用できる。
【0113】
上記樹脂としては、タイヤ配合物として、通常用いられる樹脂(レジン)を使用でき、常温(25℃)において液体であっても固体であっても良い。例えば芳香族ビニル重合体、クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、フェノール樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、テルペン系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられる。また、樹脂は、水添されていてもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、樹脂自体が複数の由来のモノマー成分を共重合したものでもよい。これらのなかでも、効果がより良好に得られる観点から、芳香族ビニル重合体、石油樹脂、テルペン系樹脂が好ましく、芳香族ビニル重合体が特に好ましい。
【0114】
上記樹脂の軟化点は、常温において固体である樹脂を用いる場合は50℃以上が好ましく、55℃以上がより好ましく、60℃以上が更に好ましく、85℃以上が特に好ましい。また、160℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、140℃以下が更に好ましく、100℃以下が特に好ましい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。なお、樹脂が常温において液体である場合には軟化点は20℃以下が好ましく、10℃以下が好ましく、0℃以下であることが好ましい。
なお、上記樹脂の軟化点は、JIS K6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0115】
上記芳香族ビニル重合体は、芳香族ビニルモノマーを構成単位として含むポリマーである。例えば、α-メチルスチレン及び/又はスチレンを重合して得られる樹脂が挙げられ、具体的には、スチレンの単独重合体(スチレン樹脂)、α-メチルスチレンの単独重合体(α-メチルスチレン樹脂)、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体、スチレンと他のモノマーの共重合体などが挙げられる。
【0116】
上記クマロンインデン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、クマロン及びインデンを含む樹脂である。クマロン、インデン以外に骨格に含まれるモノマー成分としては、スチレン、α-メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
【0117】
上記クマロン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、クマロンを含む樹脂である。
【0118】
上記インデン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、インデンを含む樹脂である。
【0119】
上記フェノール樹脂としては、例えば、フェノールと、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラールなどのアルデヒド類とを酸又はアルカリ触媒で反応させることにより得られるポリマー等の公知のものを使用できる。なかでも、酸触媒で反応させることにより得られるもの(ノボラック型フェノール樹脂など)が好ましい。
【0120】
上記ロジン樹脂としては、天然ロジン、重合ロジン、変性ロジン、これらのエステル化合物、これらの水素添加物に代表されるロジン系樹脂等が挙げられる。
【0121】
上記石油樹脂としては、C5系樹脂、C9系樹脂、C5/C9系樹脂、ジシクロペンタジエン(DCPD)樹脂、C9/DCPD樹脂、これらの水素添加物などが挙げられる。なかでも、DCPD樹脂、水添DCPD樹脂、C9/DCPD樹脂、C9/水添DCPD樹脂が好ましい。
【0122】
上記テルペン系樹脂は、テルペンを構成単位として含むポリマーであり。例えば、テルペン化合物を重合して得られるポリテルペン樹脂、テルペン化合物と芳香族化合物とを重合して得られる芳香族変性テルペン樹脂などが挙げられる。芳香族変性テルペン樹脂としては、テルペン化合物及びフェノール系化合物を原料とするテルペンフェノール樹脂や、テルペン化合物及びスチレン系化合物を原料とするテルペンスチレン樹脂、テルペン化合物、フェノール系化合物及びスチレン系化合物を原料とするテルペンフェノールスチレン樹脂も使用できる。なお、テルペン化合物としては、α-ピネン、β-ピネンなど、フェノール系化合物としては、フェノール、ビスフェノールAなど、芳香族化合物としては、スチレン系化合物(スチレン、α-メチルスチレンなど)が挙げられる。
【0123】
上記アクリル系樹脂は、アクリル系モノマーを構成単位として含むポリマーである。例えば、カルボキシル基を有し、芳香族ビニルモノマー成分とアクリル系モノマー成分とを共重合して得られる、スチレンアクリル樹脂等のスチレンアクリル系樹脂などが挙げられる。なかでも、無溶剤型カルボキシル基含有スチレンアクリル系樹脂を好適に使用できる。
【0124】
上記樹脂としては、例えば、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、RutgersChemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、エクソンモービル社、KRATON社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、ENEOS(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0125】
上記ゴム組成物は、耐クラック性、耐オゾン性等の観点から、老化防止剤を含有することが好ましい。
【0126】
老化防止剤としては特に限定されないが、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α’-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤などが挙げられる。なかでも、p-フェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤が好ましく、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物がより好ましい。市販品としては、例えば、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。
【0127】
上記エラストマー組成物において、老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは2.0質量部以上である。該含有量は、好ましくは7.0質量部以下、より好ましくは4.0質量部以下である。
【0128】
上記ゴム組成物は、ステアリン酸を含むことが好ましい。
上記ゴム組成物において、ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは0.5~4質量部である。
【0129】
なお、ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、例えば、日油(株)、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。
【0130】
上記エラストマー組成物は、酸化亜鉛を含むことが好ましい。
上記エラストマー組成物において、酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0131】
なお、酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、例えば、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0132】
上記エラストマー組成物には、ワックスを配合してもよい。
上記エラストマー組成物において、ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
【0133】
ワックスとしては特に限定されず、石油系ワックス、天然系ワックスなどが挙げられ、また、複数のワックスを精製又は化学処理した合成ワックスも使用可能である。これらのワックスは、単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0134】
石油系ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。天然系ワックスとしては、石油外資源由来のワックスであれば特に限定されず、例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ライスワックス、ホホバろうなどの植物系ワックス;ミツロウ、ラノリン、鯨ろうなどの動物系ワックス;オゾケライト、セレシン、ペトロラクタムなどの鉱物系ワックス;及びこれらの精製物などが挙げられる。市販品としては、例えば、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。
【0135】
上記エラストマー組成物には、ポリマー鎖に適度な架橋鎖を形成し、良好な性能を付与するという点で、硫黄を配合することが好ましい。
【0136】
上記エラストマー組成物において、硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上である。該含有量は、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下、更に好ましくは2.0質量部以下である。
【0137】
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。市販品としては、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0138】
上記エラストマー組成物は、加硫促進剤を含むことが好ましい。
上記エラストマー組成物において、加硫促進剤の含有量は特に制限はなく、要望する加硫速度や架橋密度に合わせて自由に決定すれば良いが、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは2.0質量部以上、更に好ましくは2.7質量部以上である。上限は、好ましくは8.0質量部以下、より好ましくは6.0質量部以下、更に好ましくは5.0質量部以下である。
【0139】
加硫促進剤の種類は特に制限はなく、通常用いられているものを使用可能である。加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系、グアニジン系、ベンゾチアゾール系加硫促進剤が好ましい。
【0140】
上記エラストマー組成物には、前記成分以外にも、タイヤ工業において一般的に用いられている配合剤、例えば、離型剤等の材料を適宜配合してもよい。
【0141】
上記エラストマー組成物には、例えば、上記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0142】
混練条件としては、架橋剤(加硫剤)及び加硫促進剤以外の添加剤を混練するベース練り工程では、混練温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上であり、また、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃である。加硫剤、加硫促進剤を混練する仕上げ練り工程では、混練温度は、好ましくは80℃以上であり、また、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下である。また、加硫剤、加硫促進剤を混練した組成物は、通常、プレス加硫などの加硫処理が施される。加硫温度としては、好ましくは140℃以上、より好ましくは150℃以上であり、また、好ましくは190℃以下、より好ましくは185℃以下である。
【0143】
上記エラストマー組成物は、10℃以上の温度差がある所定の2点温度において、低温側温度かつ水浸漬時の弾性率/低温側温度かつ乾燥時の弾性率 ≦0.95、高温側温度かつ水浸漬時の弾性率/高温側温度かつ乾燥時の弾性率 >0.95を満たし、上記低温側の温度は25℃未満であることが望ましい。これにより、温度変化に応答してタイヤ性能を変化させることができる。
【0144】
上記エラストマー組成物は前述の効果が得られるが、このような作用効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。
「低温側温度かつ水浸漬時の弾性率/低温側温度かつ乾燥時の弾性率 ≦0.95」は、低温では、水浸漬時に乾燥時に比べて比較的大きく弾性率が低下することを意味する。一方、「高温側温度かつ水浸漬時の弾性率/高温側温度かつ乾燥時の弾性率 >0.95」は、高温では、水浸漬時においても乾燥時と同等又は少し劣る程度の弾性率が維持されることを意味する。このように、上記エラストマー組成物では、温度変化により、エラストマー組成物の弾性率の挙動が変化するため、温度変化に応答してタイヤ性能を変化させることができる。
このような特性を有するエラストマー組成物は、上記ランダム共重合体Cを含有することにより達成できる。すなわち、上記ランダム共重合体Cを用いることで、温度変化により親水性が変化するため、該共重合体Cを配合することにより、上記特性を有するエラストマー組成物が得られる。
上記ランダム共重合体Cを配合することにより、該共重合体Cとエラストマーとの相溶性が比較的高く、また、該共重合体Cが水に溶解すること等によりエラストマー組成物から流出することもないため、温度変化に応答してタイヤ性能を可逆的に変化させることができる。
【0145】
このように、上記弾性率のパラメーターを満たすエラストマー組成物の構成にすることにより、温度変化に応答してタイヤ性能を変化させるという課題(目的)を解決できる。すなわち、当該パラメーターは課題(目的)を規定したものではなく、ここでの課題は、温度変化に応答してタイヤ性能を変化させることであり、そのための解決手段として、エラストマー組成物を上記弾性率のパラメーターを満たす構成にしたものである。
【0146】
特に、上記ランダム共重合体Cが、水中で下限臨界溶液温度(LCST)を示す温度応答性樹脂である場合、該温度応答性樹脂は、LCSTよりも高温では疎水性を示し、LCSTよりも低温では親水性を示す。
よって、低温時にエラストマー表面が親水性となる(接触角が低下する)ことにより、アイス路面(氷上路面ともいう)の表面に存在する水膜の水が好適に除去され、アイスグリップ性能が向上する。
更には、高温時、例えば、30℃では、上記ランダム共重合体Cは疎水性を示し、可塑剤を周囲に引き寄せているものの、低温時、例えば、0℃では、上記ランダム共重合体Cは親水性を示し、可塑剤をマトリクスエラストマー中に放出しやすいため、マトリクスエラストマー中の可塑剤濃度が高くなり、エラストマー組成物の弾性率が低下し、アイスグリップ性能が向上する。
特に、低温時に水が存在する場合、エラストマー表面が親水性となるため、上述の弾性率の低下が顕著となる。
以上の通り、上記エラストマー組成物は、アイス路面において、低温にさらされると、接触角の低下による高除水化、マトリクスエラストマー中への可塑剤の放出による弾性率の低下化によって、アイスグリップ性能が向上する。
よって、上記エラストマー組成物は、良好なアイスグリップ性能が得られ、また、アイスグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能にも優れる。
【0147】
上記のとおり、上記エラストマー組成物は、10℃以上の温度差がある所定の2点温度において、低温側温度かつ水浸漬時の弾性率/低温側温度かつ乾燥時の弾性率 ≦0.95、高温側温度かつ水浸漬時の弾性率/高温側温度かつ乾燥時の弾性率 >0.95を満たし、上記低温側の温度は25℃未満であることが望ましいが、10℃以上差のある2点の温度において、上記関係式を可逆的に満たすことが好ましい。本明細書において、上記関係式を可逆的に満たすとは、温度変化を繰り返しても、水と接触しても、10℃以上差のある2点の温度において、弾性率の温度依存性が上記関係式を満たすことを意味する。
【0148】
また、本明細書において、弾性率は、動的弾性率E*を意味し、実施例に記載の方法により測定される。
なお、本明細書において、エラストマー組成物の弾性率は、加硫(架橋)後のエラストマー組成物の弾性率を意味する。
【0149】
本明細書において、乾燥時の弾性率とは、乾燥している状態のエラストマー組成物(加硫後)の弾性率を意味し、具体的には、実施例に記載の方法により乾燥したエラストマー組成物(加硫後)の弾性率を意味する。
本明細書において、水浸漬時の弾性率とは、水に浸漬した後のエラストマー組成物(加硫後)の弾性率を意味し、具体的には、実施例に記載の方法により、水に浸漬した後のエラストマー組成物(加硫後)の弾性率を意味する。
【0150】
本明細書において、エラストマー組成物(加硫後)の弾性率(動的弾性率E*)は、(株)上島製作所製のスペクトロメータを用いて、加硫ゴム組成物のサンプルに対して、温度5℃または30℃、初期歪10%、動歪±2%、周波数10Hz、伸長モード、測定時間10分の条件にて測定される。
【0151】
10℃以上の温度差がある所定の2点温度は、低温側の温度が25℃未満が望ましく、タイヤの使用温度の範囲内に収まる温度であればよく、-80℃以上80℃以下の範囲内に収まる温度が好ましく、温度範囲の下限は-50℃以上がより好ましく、-20℃以上が更に好ましく、温度範囲の上限は80℃以下がより好ましく、60℃以下が更に好ましい。
例えば、10℃以上差のある2点の温度として、5℃、30℃とすればよい。
【0152】
低温側の温度は、好ましくは25℃未満、より好ましくは15℃以下、更に好ましくは10℃以下、特に好ましくは5℃以下であり、また、好ましくは0℃以上、より好ましくは1℃以上、更に好ましくは2℃以上である。
【0153】
低温側温度かつ水浸漬時の弾性率/低温側温度かつ乾燥時の弾性率は、好ましくは0.92以下、より好ましくは0.90以下、更に好ましくは0.85以下、特に好ましくは0.80以下である。下限は特に限定されないが、好ましくは0.50以上、より好ましくは0.60以上、更に好ましくは0.70以上以上である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0154】
低温側温度かつ水浸漬時の弾性率(MPa)は、好ましくは10以上、より好ましくは15以上、更に好ましくは20以上、特に好ましくは22以上であり、また、好ましくは35以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは25以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0155】
高温側温度かつ水浸漬時の弾性率/高温側温度かつ乾燥時の弾性率は、好ましくは1.02以上、より好ましくは1.05以上、更に好ましくは1.08以上、特に好ましくは1.09以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは1.30以下、より好ましくは1.25以下、更に好ましくは1.20以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0156】
高温側温度かつ水浸漬時の弾性率(MPa)は、好ましくは12以上、より好ましくは15以上、更に好ましくは18以上であり、また、好ましくは30以下、より好ましくは25以下、更に好ましくは20以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0157】
次に、上記弾性率のパラメーター、水浸漬時の弾性率を満たすための製造指針について説明する。
【0158】
「低温側温度かつ水浸漬時の弾性率/低温側温度かつ乾燥時の弾性率 ≦0.95」は、低温では、水浸漬時に乾燥時に比べて比較的大きく弾性率が低下することを意味する。一方、「高温側温度かつ水浸漬時の弾性率/高温側温度かつ乾燥時の弾性率 >0.95」は、高温では、水浸漬時においても乾燥時と同等又は少し劣る程度の弾性率が維持されることを意味する。このような特性を有するエラストマー組成物は、上記ランダム共重合体Cを含有することにより達成できる。
低温側温度かつ水浸漬時の弾性率が上記数値範囲内であることは、親水性であることを意味する。このような特性を有するエラストマー組成物は、上記ランダム共重合体Cを含有することにより達成できる。
高温側温度かつ水浸漬時の弾性率が上記数値範囲内であることは、疎水性であることを意味する。このような特性を有するエラストマー組成物は、上記ランダム共重合体Cを含有することにより達成できる。
より具体的には、これらの特性を有するゴムは、水中で下限臨界溶液温度(LCST)を示す温度応答性樹脂を使用することにより製造できる。
【0159】
なお、乾燥時の弾性率(絶対値)は、組成物に配合される薬品(特に、ゴム成分、充填材、可塑剤)の種類や量によって調整することが可能であり、例えば、可塑剤の量を増量すると乾燥時の弾性率は小さくなる傾向、充填材の量を増量すると乾燥時の弾性率は大きくなる傾向、硫黄の量を減らすと乾燥時の弾性率は小さくなる傾向がある。また、硫黄と加硫促進剤の配合量を調整することによっても、乾燥時の弾性率を調整できる。より具体的には、硫黄量を増やすと乾燥時の弾性率は大きくなる傾向、加硫促進剤を増やすと乾燥時の弾性率は大きくなる傾向がある。
【0160】
より具体的に説明すると、乾燥時の弾性率を所望の範囲内に調整した上で、上記ランダム共重合体C、好ましくは温度変化により親水性が変化する温度応答性樹脂、より好ましくは水中で下限臨界溶液温度(LCST)を示す温度応答性樹脂を配合することにより、上記弾性率のパラメーター、水浸漬時の弾性率を満たすことが可能となる。
【0161】
上記エラストマー組成物は、例えば、トレッド、サイドウォール、ベーストレッド、アンダートレッド、クリンチ、ビードエイペックス、ブレーカークッションゴム、カーカスコード被覆用ゴム、インスレーション、チェーファー、インナーライナー等や、ランフラットタイヤのサイド補強層などのタイヤ部材に(タイヤ用ゴム組成物として)適用できる。なかでも、トレッド、サイドウォール、クリンチ、インナーライナーなどタイヤの外層部材に好適に用いられ、トレッドにより好適に用いられる。
【0162】
本発明のタイヤは、上記組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合した組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材(特に、トレッドなどタイヤの外層部材)の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。
【0163】
上記タイヤとしては、特に限定されず、例えば、空気入りタイヤ、ソリッドタイヤ、エアレスタイヤ等が挙げられる。なかでも、空気入りタイヤが好ましい。
【0164】
上記タイヤは、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤ、冬用タイヤ(スタッドレスタイヤ、スノータイヤ、スタッドタイヤ)、オールシーズンタイヤ、ランフラットタイヤ、航空機用タイヤ、鉱山用タイヤ等として好適に用いられる。なかでも、冬用タイヤ(スタッドレスタイヤ、スノータイヤ、スタッドタイヤ)、オールシーズンタイヤとしてより好適に用いられる。
なお、オールシーズンタイヤとは、春、夏、秋、冬のすべての季節に使用可能なタイヤであり、ドライ路面、ウェット路面、氷上路面、雪上路面のいずれの路面での使用可能なタイヤである。路面の温度は、例えば、-20℃~100℃で使用可能である。
【0165】
上記タイヤは、より効果が得られる観点から、上記エラストマー組成物からなる温度応答性部材を備え、当該温度応答性部材の最大厚みが0.5mm以上であることが望ましい。
ことが望ましい。
【0166】
上記温度応答性部材の最大厚みは、好ましくは1.0mm以上、より好ましくは1.3mm以上、更に好ましくは1.5mm以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは10.0mm以下、より好ましくは5.0mm以下、更に好ましくは3.0mm以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
ここで、温度応答性部材としては、上記外層部材であることが好ましく、キャップトレッドであることがより好ましい。
【0167】
所定の最大厚みを持つ温度応答性部材を備える場合、より効果が得られるメカニズムは明らかではないが、所定以上の厚みを有することで、温度変化により親水性/疎水性の変化が促進され、その結果、アイスグリップ性能及びドライグリップ性能の総合性能が顕著に向上すると推察される。
【0168】
なお、本発明において、最大厚みとは、上記エラストマー組成物からなる温度応答性部材の表面上の各点における厚みのうち、最大寸法であり、この各点における厚みは、当該点における温度応答性部材の表面の法線に沿って計測される。
【0169】
上記温度応答性部材に隣接し、上記エラストマー組成物とは異なる材料からなる少なくとも1つの隣接部材を備え、当該隣接部材と上記温度応答性部材との25℃における硬度差が15以下であることが好ましい。
該硬度差は、より好ましくは13以下、更に好ましくは10以下、特に好ましくは7以下、最も好ましくは5以下、より最も好ましくは2以下、更に最も好ましくは0である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
温度応答性部材の25℃における硬度は、好ましくは55以上、より好ましくは60以上であり、好ましくは80以下、より好ましくは75以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
ここで、温度応答性部材としては、キャップ層(キャップトレッド)、隣接部材としては、ベース層(ベーストレッド)であることが好ましい。
なお、隣接部材の配合としては、例えば、上記エラストマー組成物から温度応答性樹脂を省いた配合が挙げられる。
なお、本明細書において、硬度は、JIS K6253-3(2012)の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方-第3部:デュロメータ硬さ」に従って、タイプAデュロメータにより、測定されるJIS-A硬度である。
【0170】
以下、図を用いて本発明のタイヤの一例を説明するが、本発明はこのような形態に限定されるものではない。
【0171】
本明細書では、特に断りがない限り、タイヤの各部の寸法は、正規状態で測定された値である。
本明細書において、「正規状態」とは、タイヤが正規リム(図示省略)にリム組みされ、かつ、正規内圧が充填された無負荷の状態である。
【0172】
正規リムにタイヤを組んだ状態で測定できない場合、タイヤの子午線断面における各部の寸法及び角度は、回転軸を含む平面に沿ってタイヤを切断することにより得られる、タイヤの断面において、左右のビード間の距離を、正規リムに組んだタイヤにおけるビード間の距離に一致させて、測定される。
【0173】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMA(日本自動車タイヤ協会)であれば「JATMA YEAR BOOK」に記載されている適用サイズにおける“標準リム”、ETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organisation)であれば「STANDARDS MANUAL」に記載されている“Measuring Rim”、TRA(The Tire and Rim Association,Inc.)であれば「YEAR BOOK」に記載されている“Design Rim”を指し、JATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、参照時に適用サイズがあればその規格に従う。そして規格に定められていないタイヤの場合には、リム組み可能であって、内圧が保持できるリム、即ちリム/タイヤ間からエア漏れを生じさせないリムの内、最もリム径が小さく、次いでリム幅が最も狭いものを指す。
【0174】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば“最高空気圧”、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値を指し、「正規リム」の場合と同様にJATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、その規格に従う。そして、規格に定められていないタイヤの場合、前記正規リムを標準リムとして記載されている別のタイヤサイズ(規格に定められているもの)の正規内圧(但し、250kPA以上)を指す。なお、250kPa以上の正規内圧が複数記載されている場合には、その中の最小値を指す。
【0175】
また、本明細書において、「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値を指し、前記した「正規リム」や「正規内圧」の場合と同様に、JATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、その規格に従う。そして、規格に定められていないタイヤの場合は以下の計算により、正規荷重WLを求める。
V={(Dt/2)2-(Dt/2-Ht)2}×π×Wt
WL=0.000011×V+175
WL:正規荷重(kg)
V:タイヤの仮想体積(mm3)
Dt:タイヤ外径(mm)
Ht:タイヤの断面高さ(mm)
Wt:タイヤの断面幅(mm)
【0176】
タイヤの「断面幅Wt(mm)」は正規状態において、タイヤ側面に模様または文字などがある場合にはそれらを除いたものとしてのサイドウォール外面間の最大幅である。
【0177】
タイヤの「外径Dt(mm)」は正規状態におけるタイヤの外径を指す。
【0178】
タイヤの「断面高さHt(mm)」はタイヤの半径方向断面における、タイヤ半径方向の高さを指し、タイヤのリム径をR(mm)としたとき、タイヤの外径Dtとリム径Rとの差の半分に相当する。言い換えると、断面高さHtは(Dt-R)/2により求めることが可能である。
【0179】
図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。タイヤ2は、左右対称である。トレッド4は、キャップ層30(キャップトレッド)及びベース層28(ベーストレッド)を備えている。
【0180】
なお、
図1では、キャップ層30及びベース層28からなる2層構造トレッド4の例が示されているが、単層構造トレッド、3層以上の構造を有するトレッドでもよい。
【0181】
図1のタイヤ2では、キャップ層30が上記エラストマー組成物で構成されている。
【0182】
なお、キャップトレッド(キャップ層)とは、トレッドのうち、タイヤ径方向の最も外側に配され、路面と接地する部材を指す。トレッドが単層構造トレッドの場合はその単層がキャップトレッドに相当し、キャップ層及びベース層の2層構造のトレッドの場合はキャップ層がキャップトレッドに相当し、3層以上の構造を有するトレッドの場合は3層以上のうち路面と接地する最外層がキャップトレッド(キャップ層)に相当する。
【0183】
キャップトレッド(キャップ層30)の厚みTcは、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1.0mm以上、更に好ましくは1.5mm以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは10.0mm以下、より好ましくは5.0mm以下、更に好ましくは3.0mm以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる傾向がある。
【0184】
なお、キャップトレッド(キャップ層)の厚みTcは、タイヤ半径方向断面におけるタイヤ赤道面上のキャップトレッドの厚みを意味する。そして、キャップトレッドの厚みTcは、タイヤの半径方向断面において、トレッド部を構成するゴム層のうち、最表面を構成するゴム層(キャップトレッド)の厚みを指し、トレッド表面(キャップトレッドの表面)からキャップトレッドのタイヤ半径方向内側面までの直線距離である。
【0185】
タイヤ赤道面上のキャップトレッドの厚みは、タイヤ赤道面上におけるキャップトレッド最表面からタイヤ赤道面に沿って計測される値である。
タイヤ赤道面上に通電部材などが存在している場合には、通電部材により遮られた界面の端部を繋ぎ合わせた直線からタイヤ赤道面に沿って計測される値である。
タイヤ赤道面上に溝が存在している場合には、タイヤ赤道面に最も近い陸部のタイヤ幅方向中央部で測定した厚みで、キャップトレッド表面の法線方向に測定した厚みである。
【0186】
なお、本明細書において、キャップトレッドの厚みの寸法は、タイヤのビード部を正規リム幅に合わせた状態で測定される。測定時には、タイヤをタイヤ半径方向に切り出し、該サンプルの両側のビード端部を正規リムの幅に合わせた状態で固定する。
【0187】
タイヤ2において、それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端から半径方向略内向きに延びている。このサイドウォール6の半径方向外側部分は、トレッド4と接合されている。このサイドウォール6の半径方向内側部分は、クリンチ10と接合されている。このサイドウォール6は、カーカス14の損傷を防止できる。
【0188】
図1のそれぞれのウィング8は、トレッド4とサイドウォール6との間に位置している。ウィング8は、トレッド4及びサイドウォール6のそれぞれと接合している。
【0189】
それぞれのクリンチ10は、サイドウォール6の半径方向略内側に位置し、少なくとも1か所以上、リムと接する部分を有している。
【0190】
カーカス14は、カーカスプライ36を備えている。このタイヤ2では、カーカス14は1枚のカーカスプライ36からなるが、2枚以上で構成されてもよい。
【0191】
このタイヤ2では、カーカスプライ36は、両側のビードコア32の間に架け渡されており、トレッド4及びサイドウォール6に沿っている。カーカスプライ36は、それぞれのビードコア32の周りにて、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この折り返しにより、カーカスプライ36には、主部36aと一対の折り返し部36bとが形成されている。すなわち、カーカスプライ36は、主部36aと一対の折り返し部36bとを備えている。
【0192】
それぞれのビードコア32は、このビードコア32から半径方向外向きに延びるビードエイペックス34を備えている。ビードコア32はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含むことが望ましい。ビードエイペックス34は、半径方向外向きに先細りである。
【0193】
図示されていないが、カーカスプライ36は、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなることが望ましい。それぞれのコードが赤道面CLに対してなす角度の絶対値は、75°から90°が好適である。換言すれば、このカーカス14はラジアル構造を有することが好ましい。
【0194】
図1のベルト層16は、トレッド4の半径方向内側に位置している。ベルト層16は、カーカス14と積層されている。ベルト層16は、カーカス14を補強する。
図1のタイヤ2では、ベルト層16は、内側層38及び外側層40からなる。
図1から明らかなように、軸方向において、内側層38の幅は外側層40の幅よりも若干大きいことが望ましい。このタイヤ2では、ベルト層16の軸方向幅はタイヤ2の断面幅の0.6倍以上が好ましく、0.9倍以下が好ましい。
【0195】
内側層38及び外側層40のそれぞれは、並列された多数のスチールコードとトッピングゴム(被覆ゴム)とからなることが望ましい。言い換えれば、ベルト層16は並列された多数のスチールコードを含んでいる。
【0196】
図1のバンド18は、ベルト層16の半径方向外側に位置している。軸方向において、バンド18はベルト層16の幅と同等の幅を有している。このバンド18が、このベルト層16の幅よりも大きな幅を有していてもよい。
【0197】
図示されていないが、バンド18は、コードとトッピングゴムとからなることが望ましい。コードは、螺旋状に巻かれている。このバンド18は、いわゆるジョイントレス構造を有する。コードは、実質的に周方向に延びている。周方向に対するコードの角度は、5°以下、さらには2°以下であることが好ましい。このコードによりベルト層16が拘束されるので、ベルト層16のリフティングが抑制される。
【0198】
図1のベルト層16及びバンド18は、補強層を構成している。ベルト層16のみから、補強層が構成されてもよい。
【0199】
図2は、
図1のトレッド4付近の拡大図である。
図2のタイヤは、タイヤ赤道面上(CL上)に溝26を有するタイヤ2である。
この場合、キャップトレッドの厚み(Tc)は、タイヤの半径方向断面において、タイヤ赤道面上の溝26に最も近い陸部のタイヤ幅方向中央部で測定した厚みで、キャップ層30(キャップトレッド)の表面の法線方向に測定した厚みであり、具体的には、キャップ層30の表面からベース層28のタイヤ最表面側の界面までの法線方向の直線距離を指す。
【0200】
インナーライナー20は、カーカス14の内側に位置している。インナーライナー20は、カーカス14の内面に接合されている。インナーライナー20の典型的な基材ゴムは、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。インナーライナー20は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0201】
それぞれのチェーファー22は、ビード12の近傍に位置している。この実施形態では、チェーファー22は布とこの布に含浸したゴムとからなることが望ましい。このチェーファー22が、クリンチ10と一体とされてもよい。
【0202】
このタイヤ2では、トレッド4は溝26として主溝42を備えている。
図1に示されているように、このトレッド4には、複数本、詳細には、3本の主溝42が刻まれている。これらの主溝42は、軸方向に間隔をあけて配置されている。このトレッド4には、3本の主溝42が刻まれることにより、周方向に延在する4本のリブ44が形成されている。つまり、リブ44とリブ44との間が主溝42である。
【0203】
それぞれの主溝42は、周方向に延在している。主溝42は、周方向に途切れることなく連続している。主溝42は、例えば雨天時において、路面とタイヤ2との間に存在する水の排水を促す。このため、路面が濡れていても、タイヤ2は路面と十分に接触することができる。
【0204】
タイヤ2では、上記エラストマー組成物で構成されるキャップ層30中のエラストマー成分100質量部に対するランダム共重合体Cの含有量Cc(質量部)と、キャップ層30の厚みTcとの比(Cc/Tc)が、5~45であることが望ましい。
Cc/Tcは、好ましくは7以上、より好ましくは9以上、更に好ましくは10以上であり、また、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは15以下、特に好ましくは13以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0205】
Cc/Tcが所定範囲、特に7~20の範囲の場合、より効果が得られるメカニズムは明らかではないが、キャップトレッドの厚みに対するランダム共重合体Cの量を調整することで、温度変化により親水性/疎水性の可逆的な変化が促進され、その結果、アイスグリップ性能及びドライグリップ性能の総合性能が顕著に向上すると推察される。
【実施例0206】
以下では、実施をする際に好ましいと考えられる例(実施例)を示すが、本発明の範囲は実施例に限られない。
【0207】
(温度応答性樹脂の製造)
以下の方法で、温度応答性樹脂の合成を行う。
容器にアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)を計量し、容器内を窒素置換する。
次いで、4-ヒドロキシブチルアクリレート、N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)を溶媒に溶かして窒素バブリングを5分間行い、容器内に注入してAIBN、MBAAを溶解する。
80℃、24時間攪拌し、次いで、ヘキサンで洗浄して固体を得る。
該固体を60℃、24時間減圧乾燥機で乾燥することで、目的の温度応答性樹脂1~5(ランダム共重合体Cなど)を得る。
【0208】
(ガラス転移温度(Tg)の測定)
温度応答性樹脂の製造で用いる4-ヒドロキシブチルアクリレート(単量体B)のホモポリマーのTgについて、以下の方法で測定する。
ガラス転移温度は、JIS-K7121:1987に従い、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製の示差走査熱量計(Q200)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定する値である。
【0209】
以下、以下の実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR:日本ゼオン(株)製のNipol 1502(E-SBR、スチレン量:23.5質量%、ビニル量:20%未満)
BR:宇部興産(株)製のBR150B(シス含量:98質量%)
NR:TSR20(天然ゴム)
カーボンブラック:三菱ケミカル(株)製のシーストN220(N2SA:111m2/g、DBP:115ml/100g)
シリカ:エボニックテグッサ社製のウルトラシルVN3(N2SA:175m2/g)
シランカップリング剤:エボニックテグッサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
ワックス:日本精鑞(株)製のオゾエースワックス
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
オイル:出光興産(株)製のPS-32
温度応答性樹脂1:上記温度応答性樹脂の製造(NIPAM及び4-ヒドロキシブチルアクリレートのランダム共重合体、Mw15万、NIPAM:4-ヒドロキシブチルアクリレート=50:50、4-ヒドロキシブチルアクリレートのホモポリマーのTg:-80℃)
温度応答性樹脂2:上記温度応答性樹脂の製造(NIPAM及び4-ヒドロキシブチルアクリレートのランダム共重合体、Mw5万、NIPAM:4-ヒドロキシブチルアクリレート=30:70、4-ヒドロキシブチルアクリレートのホモポリマーのTg:-80℃)
温度応答性樹脂3:上記温度応答性樹脂の製造(NIPAM及び4-ヒドロキシブチルアクリレートのランダム共重合体、Mw1万、NIPAM:4-ヒドロキシブチルアクリレート=30:70、4-ヒドロキシブチルアクリレートのホモポリマーのTg:-80℃)
温度応答性樹脂4:上記温度応答性樹脂の製造(NIPAM及び4-ヒドロキシブチルアクリレートのランダム共重合体、Mw25万、NIPAM:4-ヒドロキシブチルアクリレート=30:70、4-ヒドロキシブチルアクリレートのホモポリマーのTg:-80℃)
温度応答性樹脂5:上記温度応答性樹脂の製造(NIPAMの単独重合体、Mw5万)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0210】
(実施例及び比較例)
表2に示す配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得る。
該混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得る。
該未加硫ゴム組成物を用いて、キャップトレッドの形状に合わせて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃で15分間加硫して試験用タイヤ(サイズ:195/65R15、仕様:表2)を得る。
【0211】
該試験用タイヤについて、下記の評価を行う。結果を表2に示す。
【0212】
(弾性率の測定)
試験タイヤのトレッド部から厚みが1mm、幅4mm、長さ40mmの試験サンプルを作成する。サンプルの厚み方向はタイヤの径方向と一致させ、サンプルの長さ方向はタイヤ周方向と一致させる。試験温度は5℃、30℃とし、各温度での弾性率を測定する。
具体的には、厚みが1mmのサンプルを測定温度に10分間保温してから、(株)上島製作所製のスペクトロメータを用いて、サンプルに対して、初期歪10%、動歪±2%、周波数10Hz、伸長モードの条件にて動的弾性率E*を測定する。
なお、測定用のサンプルは、以下のように調製する。
タイヤのトレッド部から切り出したサンプルを10時間、25℃の水に浸漬し、次いで、80℃、1kPa以下の条件で恒量になるまで減圧乾燥し、乾燥後の測定サンプルを得る。
該乾燥後の測定サンプルの温度を25℃に戻し、次いで、該サンプルを乾燥時の弾性率測定用サンプルとする。
また、乾燥後の測定用サンプルを再度10時間、25℃の水に浸漬したものを水浸漬時の弾性率測定用のサンプルとする。
測定結果を表2に示す。
【0213】
(アイスグリップ性能)
前記弾性率測定とは別個体の試験用タイヤを国産2000ccのFR車に装着し、氷上を実車走行し、アイスグリップ性能を評価する。
アイスグリップ性能評価としては、具体的には、上記車両を用いて氷上を走行し、時速30km/hでロックブレーキを踏み、停止させるまでに要する停止距離(氷上制動停止距離)を測定し、比較例1を100とするときの指数で表示する(アイスグリップ性能指数)。指数が大きいほど、氷上での制動性能(アイスグリップ性能)に優れることを示す。
【0214】
(ドライグリップ性能)
前記弾性率測定とは別個体の試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着して、ドライアスファルト路面にて初速度100km/hからの制動距離を求め、比較例1を100とするときの指数で表示する(ドライグリップ性能指数)。指数が大きいほど、制動距離が短く、ドライグリップ性能に優れることを示す。
【0215】
(総合性能)
アイスグリップ性能及びドライグリップ性能の総合性能について、アイスグリップ性能(指数)及びドライグリップ性能(指数)の和をこれらの総合性能として評価する。
【0216】
【0217】
本発明(1)は、ブタジエン系エラストマーと、単量体A及び単量体Bのランダム共重合体Cとを含むエラストマー組成物であって、
前記単量体Aは、ホモポリマーが温度応答性高分子である化合物であり、
前記単量体Bは、ホモポリマーのガラス転移温度が-60℃以下である化合物であり、
前記ランダム共重合体Cは、前記単量体Aと前記単量体Bとの割合(単量体Aの質量:単量体Bの質量)が50:50~15:85である
エラストマー組成物である。
【0218】
本発明(2)は、ランダム共重合体Cが、温度応答性樹脂である本発明(1)に記載のエラストマー組成物である。
【0219】
本発明(3)は、単量体Bが、極性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体である本発明(1)又は(2)に記載のエラストマー組成物である。
【0220】
本発明(4)は、温度応答性高分子が、水中で下限臨界溶液温度を示す高分子である本発明(1)~(3)のいずれかとの任意の組合せのエラストマー組成物である。
【0221】
本発明(5)は、ランダム共重合体Cの重量平均分子量が、20,000~200,000である本発明(1)~(4)のいずれかとの任意の組合せのエラストマー組成物である。
【0222】
本発明(6)は、10℃以上の温度差がある所定の2点温度において、低温側温度かつ水浸漬時の弾性率/低温側温度かつ乾燥時の弾性率 ≦0.95、高温側温度かつ水浸漬時の弾性率/高温側温度かつ乾燥時の弾性率 >0.95を満たし、
前記低温側の温度は25℃未満である、本発明(1)~(5)のいずれかとの任意の組合せのエラストマー組成物である。
【0223】
本発明(7)は、本発明(1)~(6)のいずれかとの任意の組合せのエラストマー組成物からなる温度応答性部材を備えるタイヤである。
【0224】
本発明(8)は、温度応答性部材の最大厚みが0.5mm以上である本発明(7)に記載のタイヤである。
【0225】
本発明(9)は、温度応答性部材で構成されるキャップトレッドを備えた本発明(7)又は(8)に記載のタイヤである。
【0226】
本発明(10)は、エラストマー組成物中のエラストマー成分100質量部に対するランダム共重合体Cの含有量Cc(質量部)と、キャップトレッドの厚みTcとの比(Cc/Tc)が、7~20である本発明(9)に記載のタイヤである。