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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101862
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】窒化物半導体レーザ素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/22 20060101AFI20240723BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H01S5/22
H01S5/343 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006031
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】難波江 宏一
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA06
5F173AC03
5F173AC13
5F173AC35
5F173AF98
5F173AH22
5F173AJ04
5F173AJ10
5F173AP32
5F173AP33
(57)【要約】
【課題】第2エピ層の平坦性が改善された半導体レーザを提供する。
【解決手段】窒化物半導体レーザ素子において、活性層116を含む第1エピ層104、開口部107を有する電流狭窄層106、第2エピ層108は、半導体基板102上に形成される。第1エピ層104は、電流狭窄層106との界面近傍に、不純物の深さ方向の濃度分布が極大値を示す不純物濃度極大部130を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に形成された、活性層を含む第1エピ層、開口部を有する電流狭窄層、第2エピ層を備え、
前記電流狭窄層は、前記第1エピ層との界面近傍に、不純物の深さ方向の濃度分布が極大値を示す不純物濃度極大部を有することを特徴とする窒化物半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記電流狭窄層は、AlGaIn1-x-yNを含むことを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記不純物濃度極大部は、前記電流狭窄層から前記活性層までの間における前記濃度分布の最大値であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記不純物濃度極大部の前記極大値は、前記電流狭窄層に含まれる前記不純物の濃度の平均値よりも1桁以上高いことを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記極大値を有する前記不純物は、MgまたはBであることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記不純物濃度極大部において、前記濃度分布の半値全幅が10nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記極大値を有する前記不純物がMgであって、その面密度が2×1012cm-2以上かつ1×1015cm-2以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記極大値を有する前記不純物がBであって、その面密度が2×1012cm-2以上かつ1×1015cm-2以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記電流狭窄層は、素子上面の面積に対する配置面積の割合が、5%以上、40%未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項10】
前記開口部と前記電流狭窄層の素子表面における段差は、前記電流狭窄層の厚さの4倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項11】
前記開口部と前記電流狭窄層の素子表面における段差は、300nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ(レーザダイオード)は、活性層のキャリア密度を局所的に高めるために、電流狭窄構造を有する。電流狭窄構造として、インナーストライプ型構造が知られている(特許文献1~3)。インナーストライプ型の半導体レーザは、AlN層等を含む電流狭窄層を結晶成長によって埋め込んだものである。インナーストライプ型構造は、ドライエッチングでクラッド層の一部をエッチングして作製する一般的なリッジ型構造に比べて以下のメリットがある。
【0003】
・リッジ型構造で必要とされるドライエッチング起因のダメージや形状や寸法のばらつきが少ない。
・横モード特性に重要な横方向の光閉じ込め構造を結晶成長で精密に作りこむことができる。
・p型コンタクト面積やpクラッド層の電流経路を広げやすく、素子抵抗の低減に有利である。
【0004】
これらの理由から、インナーストライプ型構造は、ビーム品質が優れた高効率な半導体レーザの作製技術として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-78215号公報
【特許文献2】特開2006-121107号公報
【特許文献3】国際公開WO2007/066644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、従来のインナーストライプ型構造の半導体レーザについて検討した結果、以下の課題を認識するに至った。
【0007】
インナーストライプ構造の半導体レーザ用のウエハは、以下の製造プロセスで製造される。
1. 活性層を含む第1エピ層を半導体基板上に結晶成長する。
2. 第1エピ層の表面に、ストライプ状の開口部を有する電流狭窄層を形成する。
3. 電流狭窄層の上に、第2エピ層を再成長する。
【0008】
従来の方法を用いてGaN系半導体レーザ用ウエハを作製する場合、第2エピ層の再成長時において、選択成長効果により、開口部の上の部分の成長速度が、電流狭窄層(非開口部)の上の部分の成長速度よりも相対的に高くなる。その結果、第2エピ層の平坦性が悪化し、素子特性のばらつきや信頼性が低下の原因となる問題があった。
【0009】
本開示は係る状況においてなされてものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、第2エピ層の平坦性が改善された半導体レーザの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のある態様は、窒化物半導体レーザ素子に関する。窒化物半導体レーザ素子は、半導体基板上に形成された、活性層を含む第1エピ層、開口部を有する電流狭窄層、第2エピ層を備える。電流狭窄層は、第1エピ層との界面近傍に、不純物の深さ方向の濃度分布が極大値を示す不純物濃度極大部を有する。
【0011】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明あるいは本開示の態様として有効である。さらに、この項目(課題を解決するための手段)の記載は、本発明の欠くべからざるすべての特徴を説明するものではなく、したがって、記載されるこれらの特徴のサブコンビネーションも、本発明たり得る。
【発明の効果】
【0012】
本開示のある態様によれば、第2エピ層の平坦性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る半導体レーザ素子の素子構造を示す断面図である。
図2】比較技術に係る半導体レーザ素子の断面図である。
図3】実施形態に係る半導体レーザ素子の断面図である。
図4】実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法を説明する図である。
図5】実施形態に係る半導体レーザ素子の断面SEM(Scanning Electron Microscope)像および鳥瞰SEM像を示す図である。
図6】比較技術に係る半導体レーザ素子の断面SEM(Scanning Electron Microscope)像および鳥瞰SEM像を示す図である。
図7】段差とAlN層の厚みの比と、動作電圧および素子寿命の関係を示す図である。
図8】半導体レーザ素子の深さ方向のMgの濃度分布を示す図である。
図9】半導体レーザ素子の深さ方向のBの濃度分布を示す図である。
図10】不純物濃度極大部付近の拡大図である。
図11】面積比rと、平坦性、電流狭窄効果の関係を示す図である。
図12】実施形態に係る垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、または、実施形態の基本的な理解を目的としている。同概要は、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0015】
(実施形態の概要)
一実施形態に係る窒化物半導体レーザ素子は、半導体基板上に形成された、活性層を含む第1エピ層、開口部を有する電流狭窄層、第2エピ層を備える。電流狭窄層は、第1エピ層との界面近傍に、不純物の深さ方向の濃度分布が極大値を示す不純物濃度極大部を有する。
【0016】
この構成では、電流狭窄層の形成前に、第1エピ層の表面にパイルアップした不純物が、その後形成される電流狭窄層に取り込まれ、電流狭窄層が第1エピ層との界面に不純物濃度極大部を持つ。その後、電流狭窄層、第2エピ層を形成すると、電流狭窄層の開口部と非開口部の選択成長効果が弱まり、第2エピ層の平坦性が改善される。
【0017】
一実施形態において、電流狭窄層は、AlGaIn1-x-yNを含んでもよい。ただし、x,yは、0≦x+y≦1,0<x≦1、0≦y<1を満たす。
【0018】
一実施形態において、不純物濃度極大部は、電流狭窄層から活性層までの間における濃度分布の最大値であってもよい。つまり不純物濃度極大部は、濃度分布の極大値かつ最大値を有してもよい。
【0019】
一実施形態において、不純物濃度極大部の極大値は、電流狭窄層に含まれる不純物の濃度の平均値よりも1桁以上高くてもよい。
【0020】
一実施形態において、極大値を有する不純物は、MgまたはBであってもよい。
【0021】
不純物濃度極大部において、濃度分布の半値全幅が10nm以下であってもよい。
【0022】
一実施形態において、極大値を有する不純物がMgであって、その面密度が2×1012cm-2以上かつ1×1015cm-2以下であってもよい。
【0023】
一実施形態において、極大値を有する不純物がBであって、その面密度が2×1012cm-2以上かつ1×1015cm-2以下であってもよい。
【0024】
一実施形態において、電流狭窄層は、素子上面の面積に対する配置面積の割合が、5%以上、40%未満であってもよい。
【0025】
一実施形態において、開口部と非開口部の素子表面における段差は、電流狭窄層の厚さの4倍以下であってもよい。
【0026】
一実施形態において、開口部と非開口部の素子表面における段差は、300nm以下であってもよい。
【0027】
(実施形態)
以下、好適な実施の形態をもとにして、図面を参照しながら、本開示について説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、開示を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示の本質的なものであるとは限らない。
【0028】
図面に記載される各部材の寸法(厚み、長さ、幅など)は、理解の容易化のために適宜、拡大縮小されている場合がある。さらには複数の部材の寸法は、必ずしもそれらの大小関係を表しているとは限らず、図面上で、ある部材Aが、別の部材Bよりも厚く描かれていても、部材Aが部材Bよりも薄いこともあり得る。
【0029】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る半導体レーザ素子100の素子構造を示す断面図である。
【0030】
半導体レーザ素子100は、インナーストライプ型の電流狭窄構造を有する。半導体レーザ素子100は、化合物半導体基板102、第1エピ層104、電流狭窄層106、第2エピ層108を備える。第1エピ層104、電流狭窄層106、第2エピ層108は、化合物半導体基板102の上に順に形成されている。
【0031】
化合物半導体基板102はたとえばn型GaN基板である。
【0032】
第1エピ層104は、バッファ層110、n型クラッド層112、n側ガイド層114、活性層116、p側第1ガイド層118、電子ブロック層120、p側第2ガイド層122を備える。
【0033】
バッファ層110は、たとえばn型GaN層である。n型クラッド層112は、たとえばn型AlGaN層あるいはAlGaInN層である。n側ガイド層114は、たとえばn型GaN層である。
【0034】
活性層116は、たとえばAlInGaNからなる量子井戸構造を有しており、単一量子井戸でもよいし、井戸数が複数の多重量子井戸としてもよい。さらに量子井戸構造を有しない単層のAlGaInN層で構成してもよい。
【0035】
p側第1ガイド層118およびp側第2ガイド層122は、たとえばp型GaN層であり、それらの間には、電子ブロック層120が挟まれる。
【0036】
第1エピ層104の上には、電流狭窄層106が形成される。電流狭窄層106は、紙面奥行き方向に伸びるストライプ状の開口部107を有している。電流狭窄層106の材料としては、AlGaIn1-x-yN(ただし、x,yは、0≦x+y≦1,0<x≦1、0≦y<1を満たす実数である)を用いることができる。たとえば電流狭窄層106は、AlN(x=1,y=0)を用いることができる。
【0037】
第2エピ層108は、p型クラッド層124、p型コンタクト層126、128を含む。p型クラッド層124は、たとえばp型GaNとp型AlGaNからなる歪超格子層(SLS:Strained-Layer Superlattice)であり、コンタクト層126,128はそれぞれ、p型GaN層および高濃度p型GaN層である。
【0038】
電流狭窄層106は、第1エピ層104との界面近傍に、不純物の深さ方向の濃度分布が極大値を示す不純物濃度極大部130を有している。本実施形態において、不純物濃度極大部130は、MgおよびB(ホウ素)の少なくとも一方を含む。
【0039】
以上が半導体レーザ素子100の構成である。半導体レーザ素子100の利点は、比較技術との対比によって明確となる。そこではじめに比較秘術について説明する。
【0040】
(比較技術)
図2は、比較技術に係る半導体レーザ素子100Rの断面図である。半導体レーザ素子100Rの断面構造は、基本的には実施形態の半導体レーザ素子100と同様であるが、第1エピ層104に、不純物濃度極大部130が形成されない点で、実施形態と異なっている。
【0041】
比較技術に係る半導体レーザ素子100Rは、第1エピ層104、電流狭窄層106の順で形成される。そして、電流狭窄層106の上に、p型クラッド層124を含む第2エピ層108が再成長によって形成される。
【0042】
比較技術では、第2エピ層108の再成長時において、選択成長効果により、開口部107の上の部分の成長速度が、電流狭窄層106(非開口部)の上の部分の成長速度よりも相対的に高くなる。その結果、開口部107の近傍の段差Δhによって、第2エピ層108の平坦性が悪化し、素子特性のばらつきや信頼性が低下の原因となる問題があった。
【0043】
図3は、実施形態に係る半導体レーザ素子100の断面図である。実施形態では、電流狭窄層106は、第1エピ層104との界面に不純物濃度極大部130を有している。不純物濃度極大部130によって、第2エピ層108を再成長する際の選択成長の効果が抑制され、p型クラッド層124を平坦化することができ、ひいては素子特性のばらつきを低減し、信頼性を改善できる。
【0044】
続いて半導体レーザ素子100の製造方法を説明する。
【0045】
図4は、実施形態に係る半導体レーザ素子100の製造方法を説明する図である。はじめに、従来同様のプロセスにより、化合物半導体基板102、n型半導体層150、活性層116、p型半導体層152の積層体を形成する(S100)。n型半導体層150は、図1のバッファ層110、n型クラッド層112、n側ガイド層114に対応する。p型半導体層152は、図1のp側第1ガイド層118、電子ブロック層120、p側第2ガイド層122に対応する。
【0046】
続いて、p型半導体層152の表層に、不純物であるMg、Bを堆積させる(S102)。この不純物は、炉内に残留している不純物であってもよい。ステップS100の完了後、積層体を炉内に適切な時間、置いておくことにより、p型半導体層152の表層に不純物131が積み上がる(パイルアップ)。
【0047】
続いて、電流狭窄層106の形成プロセスに移る。はじめに、後に電流狭窄層106となるAlN層154を形成する(S104)。AlN層154の形成に際し、p型半導体層152の表面に堆積した不純物が、AlN層154に取り込まれ、不純物濃度極大部130を形成する。続いて酸化膜156を形成する(S106)。続いて、ストライプ状の開口を有するように、レジスト158をパターニングする(S108)。
【0048】
続いて、酸化膜156のレジスト158によって覆われてない部分をドライエッチによって除去する(S110)。そして、ウェットエッチングにより、AlN層154に開口部を形成する。これにより図1の電流狭窄層106が形成される(S112)。
【0049】
そして、酸化膜156を除去した後に、第2エピ層160を再成長する(S114)。
【0050】
以上が半導体レーザ素子100の製造方法である。次に実施形態に係る半導体レーザ素子100のサンプルを作成し、評価した結果を説明する。
【0051】
図5は、実施形態に係る半導体レーザ素子100の断面SEM(Scanning Electron Microscope)像および鳥瞰SEM像を示す図である。図6は、比較技術に係る半導体レーザ素子100Rの断面SEM(Scanning Electron Microscope)像および鳥瞰SEM像を示す図である。図6の比較技術では、開口部107付近の高さが、その周囲に比べて0.3μmほど高くなっている。これに対して、図5の実施形態では、平坦性が著しく改善されていることがわかり、段差はわずかに0.1μm程度である。
【0052】
図7は、段差とAlN層の厚みの比と、動作電圧および素子寿命の関係を示す図である。動作電圧および素子寿命はA~Dの4段階で評価した。動作電圧に関して、A~Dは、Aが最も低く、Dが最も高いことを表す指標値である。動作電圧Vopについては、たとえば素子長800μm、開口幅1.5μmの素子の場合の動作電圧Vopでは、以下のように指標値を付すことができる。
A: Vop≦5.0V
B: 5.0V<Vop≦5.5V
C: 5.5V<Vop≦6.0V
D: 6.0V<Vop
【0053】
寿命τに関して、A~Dは、Aが最も長く、Dが最も短いことを表す指標値である。寿命はたとえば定光出力動作試験(APC動作試験)によって評価することができる。動作電圧Vopの例の場合と同様の寸法の素子を想定した場合、動作電流が試験開始時に比べて30%上昇するまでの時間を寿命τと定義することができ、その場合、寿命τの判断基準は以下のように定めることができる。
A: τ≧15,000h
B: 15,000h>τ≧10,000h
C: 10,000h>τ≧5,000h
D: 5,000h>τ
【0054】
まとめると、開口部107と電流狭窄層106(非開口部)の素子表面における段差は、電流狭窄層106の厚さの4倍以下とすることが望ましく、開口部107と電流狭窄層106の素子表面における段差は、300nm以下とすることが望ましい。言い換えると、この条件を満たすように、不純物濃度極大部130の濃度分布を調節するとよい。
【0055】
続いて作製したサンプルについて、深さ方向の不純物濃度を解析した結果を説明する。
【0056】
図8は、半導体レーザ素子100の深さ方向のMgの濃度分布を示す図である。この濃度分布は、図8の左の断面図において、B-B線に沿って測定したものである。測定したサンプルは、第1エピ層104および電流狭窄層106を形成した段階の構造体である。電流狭窄層106の直下においても、Mgの濃度分布は極大点p1を有していることが分かる。極大点p2は、電子ブロック層120の直下、p側第1ガイド層118の最表層付近に位置している。
【0057】
なお、図8において、電流狭窄層106の表層付近において不純物濃度が高くなっているが、これは分析サンプルの表面汚染の影響によるもので、実際の第2エピ層108の形成時には問題にならない。
【0058】
図9は、半導体レーザ素子100の深さ方向のBの濃度分布を示す図である。この濃度分布は、図9の左の断面図において、B-B線に沿って測定したものである。測定したサンプルは、第1エピ層104および電流狭窄層106を形成した段階の構造体である。電流狭窄層106の直下においても、Bの濃度分布は極大点p1を有していることが分かる。極大点p2は、電子ブロック層120の直下、p側第1ガイド層118の最表層付近に位置している。なお、図9において、電流狭窄層106の表層付近において不純物濃度が高くなっているが、これは分析サンプルの表面汚染の影響によるもので、実際の第2エピ層108の形成時には問題にならない。
【0059】
図8および図9から分かるように、不純物濃度の極大値p1は、電流狭窄層106に含まれる不純物の濃度の平均値よりも1桁以上高くなっている。
【0060】
図10は、不純物濃度極大部付近の拡大図である。ピーク濃度(極大値)をnとするとき、ピーク濃度の1/2となる幅を半値全幅Wとする。異なる条件下でいくつかのサンプルを作製して評価したところ、半値全幅W<10nmの場合に、顕著な平坦化の効果が得られ、W>10nmの場合、平坦化の効果が低減した。このことから、W<10nmであることが好ましい。
【0061】
また、図10においてハッチングを付した部分の積分値を、1分子層の厚み(GaN:0.259nm)で割った値を、面密度dとする。このとき、Mgの面密度dMGに関して、以下の条件を満たすときに、顕著な平坦化の効果が得られた。
2×1012cm-2<dMG<1×1015cm-2
【0062】
Bの面密度dに関しても同様に、以下の条件を満たすときに、顕著な平坦化の効果が得られた。
2×1012cm-2<d<1×1015cm-2
【0063】
したがって、不純物の面密度dは、
2×1012cm-2<d<1×1015cm-2
の範囲とすることが好ましい。
【0064】
続いて、電流狭窄層106の面積を変化させて、平坦性および電流狭窄効果について評価した。半導体レーザ素子100の全面に対する電流狭窄層106の占有率、すなわち半導体レーザ素子100の面積に対する電流狭窄層106の面積の比rをとする。図11は、面積比rと、平坦性、電流狭窄効果の関係を示す図である。平坦性および電流狭窄効果はA~Dの4段階で評価した。A~Dは、Aが最も優れており、Dが最も悪いことを表す。
【0065】
平坦性は、開口部と電流狭窄層の段差(Δh)と電流狭窄層の厚さ(t)の比r(Δh/t)を指標として以下のように評価できる。
A: r(Δh/t)≦2.0
B: 2.0<r(Δh/t)≦4.0
C: 4.0<r(Δh/t)≦6.0
D: 6.0<r(Δh/t)
【0066】
電流狭窄効果については、 開口部以外へのリーク電流(L)と全注入電流(T)の比r(L/T)を指標として以下のように評価できる。
A: r(L/T)≦10%
B: 10%<r(L/T)≦25%
C: 25%<r(L/T)≦50%
D: 50%<r(L/T)
【0067】
この結果から、5%≦r<40%の範囲において、平坦化の効果が得られるとともに、必要な電流狭窄効果が得られている。より好ましくは、10%≦r<30%の範囲とすれば、平坦化と電流狭窄効果を高い程度で両立できる。
【0068】
(変形例)
上述した実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なことが当業者に理解される。以下、こうした変形例について説明する。
【0069】
(変形例1)
実施形態では、不純物としてBとMgの両方を含む構造を説明したが、本開示はそれに限定されない。すなわち不純物濃度極大部130は、Bのみについて形成されてよいし、Mgのみについて形成されてもよい。あるいは、B、Mg以外の不純物を高濃度で第1エピ層104の表層近傍に形成してもよい。
【0070】
(変形例2)
実施形態では、端面発光レーザを説明したが、本開示の適用はそれに限定されない。たとえば本開示は、垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)にも適用可能である。
【0071】
図12は、実施形態に係るVCSEL200の断面図である。VCSEL200は、半導体基板202、n電極En、p電極Ep、第1エピ層204、電流狭窄層206、第2エピ層208を備える。第1エピ層204は、n型DBR(Distributed Bragg Reflector)層212n側ガイド層214、活性層216、p側ガイド層218を含む。第2エピ層208は、p型DBR層220を含む。電流狭窄層206は、第1エピ層204との界面に不純物濃度極大部230を有する。電流狭窄層206は矩形または円形の開口部を有する。
【0072】
VCSELの場合、電流狭窄層206の上にp型DBR層220が形成される。不純物濃度極大部230を形成しない場合、電流狭窄層206の開口部周辺においてp型DBR層220に大きな段差が生ずるが、不純物濃度極大部230を形成することで、p型DBR層220を平坦化できる。
【0073】
実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0074】
100 半導体レーザ素子
102 化合物半導体基板
104 第1エピ層
106 電流狭窄層
108 第2エピ層
110 バッファ層
112 n型クラッド層
114 n側ガイド層
116 活性層
118 p側第1ガイド層
120 電子ブロック層
122 p側第2ガイド層
124 p型クラッド層
126,128 p型コンタクト層
130 不純物濃度極大部
150 n型半導体層
152 p型半導体層
154 AlN層
156 酸化膜
158 レジスト
160 第2エピ層
200 VCSEL
202 半導体基板
204 第1エピ層
206 電流狭窄層
208 第2エピ層
212 n型DBR層
216 活性層
220 p型DBR層
230 不純物濃度極大部
図1
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図12