IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東邦瓦斯株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-潜熱蓄熱材組成物 図1
  • 特開-潜熱蓄熱材組成物 図2
  • 特開-潜熱蓄熱材組成物 図3
  • 特開-潜熱蓄熱材組成物 図4
  • 特開-潜熱蓄熱材組成物 図5
  • 特開-潜熱蓄熱材組成物 図6
  • 特開-潜熱蓄熱材組成物 図7
  • 特開-潜熱蓄熱材組成物 図8
  • 特開-潜熱蓄熱材組成物 図9
  • 特開-潜熱蓄熱材組成物 図10
  • 特開-潜熱蓄熱材組成物 図11
  • 特開-潜熱蓄熱材組成物 図12
  • 特開-潜熱蓄熱材組成物 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101868
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】潜熱蓄熱材組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
C09K5/06 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006040
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000221834
【氏名又は名称】東邦瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 大稀
(57)【要約】
【課題】主成分をリン酸水素二ナトリウム十二水和物とした潜熱蓄熱材である場合でも、融点を、20℃台より低い温度帯域まで降下させることができている潜熱蓄熱材組成物を提供する。
【解決手段】潜熱蓄熱材組成物1は、リン酸水素二ナトリウム十二水和物を主成分とする潜熱蓄熱材10に、該潜熱蓄熱材10の融点を調整する融点調整剤20を配合してなる潜熱蓄熱材組成物において、融点調整剤20は、第1融点調整剤21として、金属イオンを含む酢酸塩または酢酸塩水和物と共に、第2融点調整剤22として、ジカルボン酸に属するカルボン酸系物質を含有してなり、カルボン酸系物質は、炭素数18未満の脂肪族化合物に対し、単結合により炭素鎖をなす飽和化合物である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸水素二ナトリウム十二水和物[NaHPO・12HO]を主成分とする潜熱蓄熱材に、該潜熱蓄熱材の融点を調整する融点調整剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物において、
前記融点調整剤は、第1の添加剤として、金属イオンを含む酢酸塩または酢酸塩水和物と共に、第2の添加剤として、ジカルボン酸に属するカルボン酸系物質を含有してなり、
前記カルボン酸系物質は、炭素数18未満の脂肪族化合物に対し、単結合により炭素鎖をなす飽和化合物であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材組成物。
【請求項2】
請求項1に記載する潜熱蓄熱材組成物において、
前記カルボン酸系物質は、シュウ酸(Oxalic acid)、マロン酸(Malonic acid)、コハク酸(Succinic acid)、またはグルタル酸(Glutaric acid)のうち、少なくともいずれかの単数種の物質、または複数種の混合物であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材組成物。
【請求項3】
請求項2に記載する潜熱蓄熱材組成物において、
前記カルボン酸系物質は、グルタル酸であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材組成物。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載する潜熱蓄熱材組成物において、
前記潜熱蓄熱材の重量と前記第1の添加剤の重量との和である基準重量に対し、前記カルボン酸系物質の配合割合は、0wt%より大きく、かつ10wt%以下の範囲内であること、または、
当該潜熱蓄熱材組成物全体の重量に占める前記カルボン酸系物質の配合割合は、0wt%より大きく、かつ30wt%以下の範囲内であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材組成物。
【請求項5】
請求項1に記載する潜熱蓄熱材組成物において、
前記金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、またはカルシウムイオンのうち、少なくともいずれかであること、
を特徴とする潜熱蓄熱材組成物。
【請求項6】
請求項5に記載する潜熱蓄熱材組成物において、
前記酢酸塩または前記酢酸塩水和物は、酢酸カリウム[CHCOOK]、酢酸リチウム二水和物[CHCOOLi・2HO]、酢酸ナトリウム三水和物[CHCOONa・3HO]、酢酸マグネシウム四水和物[Mg(CHCOO)・4HO]、または酢酸カルシウム一水和物[Ca(CHCOO)・HO]のうち、少なくともいずれかの単数種の物質、または複数種の混合物であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材組成物。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載する潜熱蓄熱材組成物において、
当該潜熱蓄熱材組成物は、その融解温度を、前記融点調整剤により、リン酸水素二ナトリウム十二水和物の融点より低い10℃台の温度まで調整された物性であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材に、この潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合した潜熱蓄熱材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潜熱蓄熱材(PCM:Phase Change Material)は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う物性を有しており、予め排熱等の熱を蓄熱し、蓄えた熱を必要に応じて取り出すことで、エネルギが無駄なく有効に活用できる。このような潜熱蓄熱材は無数種あり、その中でも、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(融点35℃)を主成分とする蓄熱材は良く知られており、その一例が、特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1は、包晶系塩水和物の一つであるリン酸水素二ナトリウム十二水和物を主剤に、水と水膨潤性架橋重合体を加えた潜熱蓄熱材組成物であり、水膨潤性架橋重合体の含有により、リン酸水素二ナトリウム十二水和物で過冷却現象の発現を防止した潜熱蓄熱材組成物の過冷却防止方法である。特許文献1では、リン酸水素二ナトリウム十二水和物は、融点との差を5℃程に抑えた温度で過冷却現象を解除して、凝固できるとされている。
【0004】
ところで、産業界は近年、潜熱蓄熱材の物性を利用した様々な技術開発に取り組む傾向にある。例えば、携帯端末機器に搭載したバッテリを保護する等、電子機器向けに温度管理を行う用途や、植物の温室栽培で温度管理を行う用途等では、特に潜熱蓄熱材の活用が期待されている。このような新規用途で潜熱蓄熱材を用いる場合、求められる潜熱蓄熱材の物性は、概ね十℃前後と二十数℃前後との間にある低温度帯域内で、蓄熱と放熱を可能とした物性である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-85785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無数種ある無機塩水和物系の蓄熱材の中でも、リン酸水素二ナトリウム十二水和物は、35℃という比較的低い融点で、蓄熱性能も優れていることから、前述した新規用途に適した蓄熱材となり得る。しかしながら、特許文献1では、水膨潤性架橋重合体の含有により、リン酸水素二ナトリウム十二水和物は、凝固した状態から30℃程で融解して蓄熱するため、特許文献1のような潜熱蓄熱材組成物は、新規用途に求められる蓄熱材の物性を満たさない。それ故に、新規用途にも対応可能となる蓄熱材の開発が、市場から希求されていた。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、主成分をリン酸水素二ナトリウム十二水和物とした潜熱蓄熱材である場合でも、融点を、20℃台より低い温度帯域まで降下させることができている潜熱蓄熱材組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物は、以下の構成を有する。
【0009】
(1)リン酸水素二ナトリウム十二水和物[NaHPO・12HO]を主成分とする潜熱蓄熱材に、該潜熱蓄熱材の融点を調整する融点調整剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物において、前記融点調整剤は、第1の添加剤として、金属イオンを含む酢酸塩または酢酸塩水和物と共に、第2の添加剤として、ジカルボン酸に属するカルボン酸系物質を含有してなり、前記カルボン酸系物質は、炭素数18未満の脂肪族化合物に対し、単結合により炭素鎖をなす飽和化合物であること、を特徴とする。
(2)(1)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記カルボン酸系物質は、シュウ酸(Oxalic acid)、マロン酸(Malonic acid)、コハク酸(Succinic acid)、またはグルタル酸(Glutaric acid)のうち、少なくともいずれかの単数種の物質、または複数種の混合物であること、を特徴とする。
(3)(2)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記カルボン酸系物質は、グルタル酸であること、を特徴とする。
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記潜熱蓄熱材の重量と前記第1の添加剤の重量との和である基準重量に対し、前記カルボン酸系物質の配合割合は、0wt%より大きく、かつ10wt%以下の範囲内であること、または、当該潜熱蓄熱材組成物全体の重量に占める前記カルボン酸系物質の配合割合は、0wt%より大きく、かつ30wt%以下の範囲内であること、を特徴とする。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、またはカルシウムイオンのうち、少なくともいずれかであること、を特徴とする。
(6)(5)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記酢酸塩または前記酢酸塩水和物は、酢酸カリウム[CHCOOK]、酢酸リチウム二水和物[CHCOOLi・2HO]、酢酸ナトリウム三水和物[CHCOONa・3HO]、酢酸マグネシウム四水和物[Mg(CHCOO)・4HO]、または酢酸カルシウム一水和物[Ca(CHCOO)・HO]のうち、少なくともいずれかの単数種の物質、または複数種の混合物であること、を特徴とする。
(7)(1)乃至(6)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材組成物において、当該潜熱蓄熱材組成物は、その融解温度を、前記融点調整剤により、リン酸水素二ナトリウム十二水和物の融点より低い10℃台の温度まで調整された物性であること、を特徴とする。
【0010】
上記構成を有する本発明に係る潜熱蓄熱材組成物の作用・効果について説明する。
【0011】
(1)リン酸水素二ナトリウム十二水和物[NaHPO・12HO]を主成分とする潜熱蓄熱材に、該潜熱蓄熱材の融点を調整する融点調整剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物において、融点調整剤は、第1の添加剤として、金属イオンを含む酢酸塩または酢酸塩水和物と共に、第2の添加剤として、ジカルボン酸に属するカルボン酸系物質を含有してなり、カルボン酸系物質は、炭素数18未満の脂肪族化合物に対し、単結合により炭素鎖をなす飽和化合物であること、を特徴とする。
【0012】
この特徴により、融点調整剤は、第1の添加剤と共に配合した第2の添加剤をカルボン酸系物質としているため、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物の融解温度は、潜熱蓄熱材であるリン酸水素二ナトリウム十二水和物単体の融解温度(融点35℃)より、温度差15℃超えで、20℃台を下回る低い温度帯域まで低くすることができている。しかも、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物は、このような融点調整剤を含有していても、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物の蓄熱量は、融点調整剤の添加に起因して、潜熱蓄熱材単体の場合の蓄熱量に比べ、一例として、30%前後の減少に留まって大幅に低下せず、150kJ/kg超えという、比較的高い熱量を確保することも可能になる。また、主成分である潜熱蓄熱材が、特にリン酸水素二ナトリウム十二水和物で構成されていると、潜熱蓄熱材は、蓄熱材の中でも比較的高い蓄熱量を呈するため、このような潜熱蓄熱材を含む、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物も、より高い蓄熱量を有した物性となる。
【0013】
従って、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物によれば、主成分をリン酸水素二ナトリウム十二水和物とした潜熱蓄熱材である場合でも、融点を、20℃台より低い温度帯域まで降下させることができる、という優れた効果を奏する。
【0014】
(2)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記カルボン酸系物質は、シュウ酸(Oxalic acid)、マロン酸(Malonic acid)、コハク酸(Succinic acid)、またはグルタル酸(Glutaric acid)のうち、少なくともいずれかの単数種の物質、または複数種の混合物であること、を特徴とする。また、(3)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記カルボン酸系物質は、グルタル酸であること、を特徴とする。
【0015】
この特徴により、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物の融解温度は、一例である概ね5℃付近から十数℃までの範囲内に調整される。また、第2の添加剤であるカルボン酸系物質は、飽和化合物であるため、リン酸水素二ナトリウム十二水和物や、第1の添加剤をなす酢酸塩または酢酸塩水和物に対し、変性に繋がる反応や、加熱に伴う変質は、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物に生じず、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物の物性は、安定した状態である。加えて、第1の添加剤が酢酸塩水和物である場合、酢酸塩水和物は、潜熱の蓄熱またはその放熱を可能とした蓄熱性能を有している。そのため、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物は、主成分であるリン酸水素二ナトリウム十二水和物(潜熱蓄熱材)のほか、第1の添加剤によっても、蓄熱性能を発揮できる物性となり、蓄熱材の物性としても優れている。
【0016】
(4)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、潜熱蓄熱材の重量と第1の添加剤の重量との和である基準重量に対し、カルボン酸系物質の配合割合は、0wt%より大きく、かつ10wt%以下の範囲内であること、または、当該潜熱蓄熱材組成物全体の重量に占めるカルボン酸系物質の配合割合は、0wt%より大きく、かつ30wt%以下の範囲内であること、を特徴とする。
【0017】
この特徴により、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物の融解温度は、一例である概ね5℃付近から十数℃までの範囲内に調整することができる。
【0018】
(5)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、またはカルシウムイオンのうち、少なくともいずれかであること、を特徴とし、例えば、(6)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、酢酸塩または酢酸塩水和物は、酢酸カリウム[CHCOOK]、酢酸リチウム二水和物[CHCOOLi・2HO]、酢酸ナトリウム三水和物[CHCOONa・3HO]、酢酸マグネシウム四水和物[Mg(CHCOO)・4HO]、または酢酸カルシウム一水和物[Ca(CHCOO)・HO]のうち、少なくともいずれかの物質の単種、または2種以上の混合物であること、を特徴とする。
【0019】
この特徴により、融点調整剤が、このような酢酸塩、酢酸塩水和物とした第1の添加剤と共に、カルボン酸系物質である第2の添加剤を配合して構成されていれば、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物の融解温度は、20℃台を下回る低い温度帯域まで低くすることができる。
【0020】
(7)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、当該潜熱蓄熱材組成物は、その融解温度を、融点調整剤により、リン酸水素二ナトリウム十二水和物の融点より低い10℃台の温度まで調整された物性であること、を特徴とする。
【0021】
この特徴により、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物は、例えば、電子機器を適正な温度に管理する用途や、植物栽培向けに温度管理を行う用途等をはじめ、日常生活の中で、数℃から10℃台までの温度帯域内で、外部で放ちたいとしている熱を、吸熱して潜熱を蓄熱する用途や、熱を必要としている外部に、蓄熱している潜熱を放熱して提供する用途で、幅広く使用することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物の構成成分を模式的に示す図である。
図2】実施例1~4、及びその比較例1~3に係る潜熱蓄熱材組成物による蓄熱とその放熱のプロセスを複数サイクルで繰り返す実験1で、条件と1サイクル目の蓄熱結果をまとめて掲載した表である。
図3図2に続き、実施例1~4、及びその比較例3に係る1サイクル目の蓄熱・放熱結果を示すグラフである。
図4図3に示すグラフのうち、時刻0~10000sまでを拡大して示すグラフである。
図5図2に続き、比較例1,2に係る1サイクル目の蓄熱結果を示すグラフである。
図6】実施例5~8に係る潜熱蓄熱材組成物による蓄熱とその放熱のプロセスを複数サイクルで繰り返す実験2で、条件と1サイクル目の蓄熱結果を示すグラフである。
図7図6に続き、実施例5~8に係る1サイクル目の蓄熱結果を示すグラフである。
図8】実験2で、実施例6に係る潜熱蓄熱材組成物による蓄熱とその放熱のプロセスを繰り返す複数サイクルのうち、最初の4サイクル分について、蓄熱とその放熱の挙動を示すグラフである。
図9】実施例1に係る潜熱蓄熱材組成物を試料としたDSC測定の下で、蓄熱とその放熱のプロセスを複数サイクルで繰り返し行った実験3で、蓄熱時の融解ピーク温度と蓄熱量の結果を示すグラフである。
図10】実施例5,9~13に係る潜熱蓄熱材組成物による蓄熱とその放熱のプロセスを複数サイクルで繰り返す実験4で、グルタル酸の含有割合を5wt%として、リン酸水素二ナトリウム十二水和物と酢酸ナトリウム三水和物との配合割合を変えた場合の条件と、1サイクル目の蓄熱結果をまとめて掲載した表である。
図11】実施例6,14~16に係る潜熱蓄熱材組成物による蓄熱とその放熱のプロセスを複数サイクルで繰り返す実験4で、グルタル酸の含有割合を10wt%として、リン酸水素二ナトリウム十二水和物と酢酸ナトリウム三水和物との配合割合を変えた場合の条件と、1サイクル目の蓄熱結果をまとめて掲載した表である。
図12図11に続き、実施例6,14~16に係る1サイクル目の蓄熱及び放熱の結果を示すグラフである。
図13】実施例17~20に係る潜熱蓄熱材組成物による蓄熱とその放熱のプロセスを複数サイクルで繰り返す実験5で、第1の融点調整剤である酢酸塩水和物等の物質を変えた場合の条件と、1サイクル目の蓄熱及び放熱の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物について、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
本発明に係る潜熱蓄熱材組成物は、袋やカプセル等の容器(図示せず)毎に小分けして、容器に漏れのない態様で、液密かつ気密に充填される。潜熱蓄熱材組成物は、液相と固相との相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄えた熱を必要に応じて取り出すことができ、蓄熱とその放熱のサイクルを複数回繰り返す。本発明に係る潜熱蓄熱材組成物は、概ね十℃前後と二十数℃前後との間にある低温度帯域内で、熱の授受を必要とした新規用途に向けて、需要先で熱エネルギを有効に活用する目的で使用される。
【0025】
新規用途の一例として、バッテリを搭載した携帯端末機器に対し、バッテリを保護する目的で、バッテリとの間で熱の授受を行う等、電子機器向けに温度管理を行う用途がある。また、植物の温室栽培で潜熱を活用してハウス内の温度管理を行う等、植物栽培向けに温度管理を行う用途がある。
【0026】
はじめに、潜熱蓄熱材組成物1について、説明する。図1は、実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物の構成成分を模式的に示す図である。図1に示すように、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物1は、蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材10として、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(NaHPO・12HO)を主成分に、その融点を調整する融点調整剤を配合してなる。融点調整剤20は、第1融点調整剤21(第1の添加剤)と共に、第2融点調整剤22(第2の添加剤)を含有してなる。
【0027】
リン酸水素二ナトリウム十二水和物単体の物性は、水和数12、分子量[g/mol]358.19、融点35℃、不燃性で無臭、水に可溶、人体にとって安全な物質で、白い結晶状の固体である。
【0028】
第1融点調整剤21は、金属イオンを含む酢酸塩、または酢酸塩水和物である。金属イオンは、アルカリ金属やアルカリ土類金属に属する金属のイオンであり、本実施形態では、リチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、またはカルシウムイオンのうち、少なくともいずれかに該当するイオンである。具体的には、酢酸塩は、例えば、金属イオンをカリウムイオンとした酢酸カリウム(CHCOOK)である。酢酸カリウムの物性は、分子量[g/mol]98.15、融点292℃、密度1.57[g/cm]、水に可溶な無色固体である。
【0029】
酢酸塩水和物は、金属イオンをリチウムイオンとした酢酸リチウム二水和物(CHCOOLi・2HO)である。酢酸リチウム二水和物の物性は、分子量[g/mol]102.02、融点53~56℃、密度1.3[g/cm]、水に易溶な白色結晶・粉末である。また、酢酸塩水和物は、金属イオンをナトリウムイオンとした酢酸ナトリウム三水和物(CHCOONa・3HO)である。酢酸ナトリウム三水和物単体の物性は、水和数3、分子量[g/mol]136.08、融点58℃、蓄熱量約276kJ/kg(400kJ/L)、融点より低い温度では、水に易溶な固体の状態のカルボン酸塩である。
【0030】
また、酢酸塩水和物は、金属イオンをマグネシウムイオンとした酢酸マグネシウム四水和物(Mg(CHCOO)・4HO)である。酢酸マグネシウム四水和物の物性は、分子量[g/mol]214.455、融点80℃、密度1.45[g/cm]、水に易溶で潮解性を有した白色結晶である。酢酸塩水和物は、金属イオンをカルシウムイオンとした酢酸カルシウム一水和物(Ca(CHCOO)・HO)である。酢酸マグネシウム四水和物の物性は、分子量[g/mol]158.17、融点160℃、密度1.509[g/cm]、水に易溶で白色結晶である。
【0031】
第2融点調整剤22は、ジカルボン酸に属するカルボン酸系物質であり、カルボン酸系物質は、炭素数18未満の脂肪族化合物に対し、単結合により炭素鎖をなす飽和化合物である。具体的には、カルボン酸系物質は、本実施形態では、シュウ酸(Oxalic acid)、マロン酸(Malonic acid)、コハク酸(Succinic acid)、またはグルタル酸(Glutaric acid)のうち、少なくともいずれかの物質である。
【0032】
シュウ酸の物性は、無水物で、構造式[HOOC-COOH]、分子量[g/mol]90.03、融点189.5℃、密度1.90[g/cm]、水に易溶、融点より低い温度では、無色の結晶である。マロン酸の物性は、構造式[HOOC-CH-COOH]、分子量[g/mol]104.1、融点135℃、密度1.60[g/cm]、水に易溶、融点より低い温度では、無色の結晶である。
【0033】
コハク酸の物性は、構造式[HOOC-(CH-COOH]、分子量[g/mol]118.09、融点185~187℃、密度1.56[g/cm]、水に易溶、融点より低い温度では、無色または白色の結晶である。グルタル酸の物性は、構造式[HOOC-(CH-COOH]、分子量[g/mol]132.11、融点95~98℃、密度1.429[g/cm]、水に可溶、融点より低い温度では、無色または僅かに薄い黄色の結晶である。
【0034】
また、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、及びグルタル酸以外にも、カルボン酸系物質の一例として、アジピン酸(HOOC-(CH-COOH)、ピメリン酸(HOOC-(CH-COOH)、スベリン酸(HOOC-(CH-COOH)、アゼライン酸(HOOC-(CH-COOH)、セバシン酸(HOOC(CH-COOH)等が挙げられる。
【0035】
本出願人は、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物1の有意性を検証する目的で、潜熱蓄熱材10の融点を調整するにあたり、融点調整剤の効果を検証するための実験を、全部で5つ(実験1~5)行った。以下、実験1から順に説明する。
【0036】
(実験1)
実験1は、実施例1~4、及びその比較例1~3に係る潜熱蓄熱材組成物に対し、主剤である潜熱蓄熱材10をリン酸水素二ナトリウム十二水和物とし、第1融点調整剤21を酢酸ナトリウム三水和物とした上で、第2融点調整剤22をなす物質毎に変えた場合の融解開始温度を確認する実験である。実験1は、それぞれ蓄熱材毎にアルミラミネート袋に封入したサンプルを用いて行われた。
【0037】
<実験方法>
実験1では、前処理として、実施例1~4、及び比較例1~3に対し、潜熱蓄熱材組成物1等(試料)がそれぞれ、完全に融解した融液状態になっていることを確認後、実施例1~4、及び比較例1~3のそれぞれで、試料50gをアルミラミネート袋に充填し、液密状態に封入した試料入パックを、サンプルとして全7種作製した。熱電対を試料入パック表面に貼付した状態で、実施例1~4、及び比較例1~3とも、試料入パックを、恒温槽内に密閉状態で設置した。そして、試料入パック内の潜熱蓄熱材組成物1等が実験開始時に-10℃となるよう、恒温槽内の雰囲気温度を調節した。なお、実験開始以降、恒温槽内の雰囲気温度は、設定された温度制御プログラムに基づく制御により、試料入パックの温度は管理されている。
【0038】
前処理後、恒温槽内で、大気圧の下、表面に熱電対を貼付した試料入パックに対し、低温側保温プロセスまたは高温側保温プロセスを介して、1サイクル内にある昇温プロセスと降温プロセスとを、交互に複数サイクル(本実施形態では4サイクル)繰り返すことにより、試料入パック内の潜熱蓄熱材組成物1等の相変化に伴う潜熱の蓄熱とその放熱の挙動を観察した。併せて、実験1では、1サイクル目の降温・昇温プロセスについて、潜熱蓄熱材組成物1等の融解開始温度の測定も行った。
【0039】
具体的には、まず昇温プロセスを実施して実験を開始した。昇温プロセスでは、恒温槽内の雰囲気温度を制御することにより、試料入パック内の潜熱蓄熱材組成物1等を、-10℃から40℃になるまで昇温速度20℃/h.で加熱した。昇温プロセスの後、高温側保温プロセスでは、恒温槽内で試料入パックを5時間、40℃(高温側保持温度)に保温した。
【0040】
試料入パックを5時間、40℃に保温した後、降温プロセスを実施。降温プロセスでは、恒温槽内の雰囲気温度を制御することにより、高温側保持温度40℃に保温されていた試料入パックの潜熱蓄熱材組成物1等を、-10℃になるまで降温速度20℃/h.で冷却した。降温プロセスの後、低温側保温プロセスでは、恒温槽内で試料入パックを5時間、-10℃(低温側保持温度)に保温して、試料を完全に固化させた。このような昇温プロセスから高温側保温プロセス、降温プロセスを経て、低温側保温プロセスに至るまでの一連のプロセスを、1サイクルとした。
【0041】
ところで、実験1では、前述の通り、1サイクルを遂行する間に、降温プロセスの実施にあたり、その直前の高温側保温プロセスで試料入パックを5時間、高温側保持温度に保温したほか、昇温プロセスの実施に向けて、その直前の低温側保温プロセスで、試料入パックを5時間、低温側保持温度に保温して、試料入パックを静置し続けた。このように、試料入パックを5時間、高温側保温プロセスと低温側保温プロセスで静置した理由は、試料入パック内の試料を、降温プロセス前に完全に融解させた状態にしておくと共に、昇温プロセス前に完全に凝固させた状態にしておくためであり、試料入パックが5時間保温され続ければ、試料は、完全な融解状態、または完全な凝固状態に、十分なし得るからである。それ故に、試料の不完全な融解や凝固に起因した誤差要因、異常値等を完全に排除し、過大または過小な評価となる結果を回避した下で、実験1は実施されている。
【0042】
続く2サイクル目では、5時間経過後、低温側保持温度-10℃に保温されていた試料入パック内の潜熱蓄熱材組成物1等を、40℃になるまで昇温速度20℃/h.で加熱した後、試料入パックを5時間、高温側保持温度40℃で保温した。そして、40℃から-10℃になるまで降温速度20℃/h.で、試料入パック内の潜熱蓄熱材組成物1等を冷却した後、1サイクル目と同様に、試料入パックを5時間、低温側保持温度-10℃で保温した。3サイクル目以降でも、このような2サイクル目の昇温・降温プロセスを、繰り返し連続で行った。
【0043】
また、各試料入パックとも、グラフ化した1サイクル目の降温・昇温プロセスに基づいて、昇温プロセス中に、固相から液相に変化し始めるときの温度(融解開始温度)を、熱電対で検知して確認した。
【0044】
<実施例1~4、及び比較例1,2の共通条件>
・潜熱蓄熱材10;リン酸水素二ナトリウム十二水和物
・第1融点調整剤21;酢酸ナトリウム三水和物
・潜熱蓄熱材組成物全体に占める潜熱蓄熱材10の含有割合;81.8wt%
・潜熱蓄熱材組成物全体に占める第1融点調整剤21の含有割合;9.1wt%
・潜熱蓄熱材組成物全体に占める第2融点調整剤22の含有割合;9.1wt%(潜熱蓄熱材10:第2融点調整剤22:第1融点調整剤21=9:1:1)
【0045】
<実施例1の条件>
・第2融点調整剤22;グルタル酸
<実施例2の条件>
・第2融点調整剤22;コハク酸
<実施例3の条件>
・第2融点調整剤22;マロン酸
<実施例4の条件>
・第2融点調整剤22;シュウ酸
<比較例1の条件>
・第2融点調整剤22;ソルビン酸[C
<比較例2の条件>
・第2融点調整剤22;ステアリン酸[CH(CH)16COOH]
<比較例3の条件>
・第2融点調整剤22;配合せず
・潜熱蓄熱材組成物全体に占める潜熱蓄熱材10の含有割合;90wt%
・潜熱蓄熱材組成物全体に占める第1融点調整剤21の含有割合;10wt%(潜熱蓄熱材10:第1融点調整剤21=9:1)
【0046】
<実験1の結果>
図2は、実施例1~4、及びその比較例1~3に係る潜熱蓄熱材組成物による蓄熱とその放熱のプロセスを複数サイクルで繰り返す実験1で、条件と1サイクル目の蓄熱結果をまとめて掲載した表である。図3は、図2に続き、実施例1~4、及びその比較例3に係る1サイクル目の蓄熱・放熱結果を示すグラフであり、図3に示すグラフのうち、時刻0~10000sまでを拡大したグラフを、図4に示す。図5は、図2に続き、比較例1,2に係る1サイクル目の蓄熱結果を示すグラフである。
【0047】
図3図5に示すグラフでは、昇温プロセスにおいて、恒温槽内の雰囲気温度は、加熱制御の下で、時間の経過共に、昇温速度20℃/h.で上限40℃になるまで、略線形性を有した挙動で変化しながら上昇した。試料入パック内の潜熱蓄熱材組成物1等(試料)の温度は、恒温槽内の加熱開始以降、雰囲気温度の変動と同様、略線形性を有した挙動で変化しながら上昇した。
【0048】
しかしながら、試料の温度が、概ね5℃を超えた温度域になると、雰囲気温度の変化挙動から外れて変化し始め、時間が経過しても、しばらくの間、試料の温度は、それまでの変化のように上昇せず、概ね一定の温度を維持した状態(潜熱蓄熱現象)を経ながら、恒温槽内の温度変化に追従しない挙動で温度変化した。実験1では、変化し続ける温度推移の中で、潜熱蓄熱事象の発現により、試料の温度が、それまで概ね等価であった雰囲気温度と離れ始めた時刻tを基に、時刻tに対応する温度Teを、試料の「融解開始温度」と定義している。
【0049】
実験1の結果を図2図5に示す。図2図5に示すように、1サイクル目の昇温プロセスにおいて、実施例1に係る融解開始温度Te1は、16.7℃であった。実施例2に係る融解開始温度Te2は、5.5℃であった。実施例3に係る融解開始温度Te3は、8.1℃であった。実施例4に係る融解開始温度Te4は、12.5℃であった。これに対し、比較例1,2では、図5に示すように、いずれの融解開始温度とも、20℃を上回っていた。また、比較例3に係る融解開始温度Tex3は、25.5℃であった。
【0050】
<実験1の考察>
主剤であるリン酸水素二ナトリウム十二水和物(潜熱蓄熱材10)の融点は35℃である。実施例1~4に係る潜熱蓄熱材組成物1は、酢酸ナトリウム三水和物(第1融点調整剤21)と共に、カルボン酸系物質の一種であるシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸をそれぞれ第2融点調整剤22とした融点調整剤20を含有してなる。実験1の結果より、潜熱蓄熱材組成物1等では、昇温プロセスにおいて、潜熱蓄熱の挙動を示す事象は、確認できている。特に実施例1~4では、潜熱蓄熱材組成物1の融解開始温度Te1~Te4は、20℃を下回っており、実施例1~4に係る潜熱蓄熱材組成物1は、いずれも10℃台という比較的低い温度で蓄熱を開始している。
【0051】
このように、潜熱蓄熱材組成物1の融解開始が、潜熱蓄熱材10の融点より20℃以上も低い温度で生じた理由として、酢酸ナトリウム三水和物である第1融点調整剤21と共に、カルボン酸系物質とした第2融点調整剤22が、潜熱蓄熱材組成物1に含有しているためだと考えられる。但し、第2融点調整剤22がカルボン酸系物質であることによって、潜熱蓄熱材組成物1の融解を10℃台の温度で開始するメカニズム等の理由については、現段階で解明できていない。
【0052】
これに対し、比較例1~3に係る潜熱蓄熱材組成物は、いずれも20℃を大幅に上回る融解開始温度で、潜熱蓄熱の挙動を呈している。その理由として、比較例1の場合、酢酸ナトリウム三水和物である第1融点調整剤21以外に、融点を調整する添加剤を配合しておらず、第1融点調整剤21だけでは、潜熱蓄熱材10の融点を10℃以上低く調整することができなかったためであると考えられる。一方、比較例2,3では、酢酸ナトリウム三水和物である第1融点調整剤21以外に、別の添加剤が配合されているが、比較例2の場合、この別の添加剤は、不飽和脂肪酸の一種であるソルビン酸となっており、カルボン酸系物質となっていないためだと推察される。比較例3の場合には、別の添加剤はステアリン酸となっているが、ステアリン酸は、炭素数18を有する飽和脂肪酸をなすジカルボン酸であり、第1融点調整剤21以外に配合した添加剤が、炭素数18未満のジカルボン酸で、飽和脂肪酸をなすカルボン酸系物質となっていないためだと推察される。
【0053】
(実験2)
次に、実験2について、説明する。実験2は、実施例5~8に係る潜熱蓄熱材組成物に対し、主剤である潜熱蓄熱材10をリン酸水素二ナトリウム十二水和物とし、第1融点調整剤21を酢酸ナトリウム三水和物とし、第2融点調整剤22をグルタル酸とした上で、第2融点調整剤22の含有割合毎に変えた場合の融解開始温度を確認する実験である。実験2は、実験1の試料と異にするが、実験1と同様の実験方法で行われた。
【0054】
<実施例5~8の条件>
・潜熱蓄熱材10(図6中、「主剤a」と表記);リン酸水素二ナトリウム十二水和物
・第1融点調整剤21(図6中、「第1融点調整剤b」と表記);酢酸ナトリウム三水和物
・第2融点調整剤22(図6中、「第2融点調整剤c」と表記);グルタル酸
・潜熱蓄熱材10と第1融点調整剤21との合算重量に占める潜熱蓄熱材10の重量比;9
・潜熱蓄熱材10と第1融点調整剤21との合算重量に占める第1融点調整剤21の重量比;1
・潜熱蓄熱材10と第1融点調整剤21との混合物重量を基準に、配合した第2融点調整剤22の含有割合[wt%];5(実施例5)、10(実施例6)、15(実施例7)、30(実施例8)
【0055】
<実験2の結果>
図6は、実施例5~8に係る潜熱蓄熱材組成物による蓄熱とその放熱のプロセスを複数サイクルで繰り返す実験2で、条件と1サイクル目の蓄熱結果を示すグラフである。図7は、実施例5~8に係る1サイクル目の蓄熱結果を示すグラフである。図8は、実施例6に係る潜熱蓄熱材組成物による蓄熱とその放熱のプロセスを繰り返す複数サイクルのうち、最初の4サイクル分について、蓄熱とその放熱の挙動を示すグラフである。
【0056】
実験2の結果を図6図8に示す。図6及び図7に示すように、1サイクル目の昇温プロセスにおいて、実施例5に係る融解開始温度Te5は、17.4℃であった。実施例6に係る融解開始温度Te6は、15.5℃であった。実施例7に係る融解開始温度Te7は、13.2℃であった。実施例8に係る融解開始温度Te8は、6.4℃であった。また、図7及び図8に示すように、2サイクル目以降の昇温プロセスの一例として、実施例6に係る潜熱蓄熱材組成物の融解開始温度Teは、1サイクル目の昇温プロセス時と同様に、概ね15℃であった。
【0057】
<実験2の考察>
実験2の結果より、実施例6~8では、第2融点調整剤22であるグルタル酸の配合割合が変化しても、昇温プロセスにおいて、潜熱蓄熱の挙動を示す事象は確認できている。しかも、潜熱蓄熱材組成物1の融解開始温度Te5~Te8は、いずれも20℃を下回る温度帯域下で、グルタル酸の配合割合の増加と伴って、徐々に低くなる傾向となっている。また、2サイクル目以降の昇温プロセスでも、一例で挙げた実施例6のように、潜熱蓄熱材組成物1の融解開始温度が、1サイクル目とほとんど変わらない温度であったことが判る。
【0058】
このような結果になった理由として、主剤であるリン酸水素二ナトリウム十二水和物(潜熱蓄熱材10)を含む潜熱蓄熱材組成物1では、酢酸ナトリウム三水和物(第1融点調整剤21)と共に、カルボン酸系物質の一種であるグルタル酸(第2融点調整剤22)が、潜熱蓄熱材10の融点を35℃から約20℃以上の低下に寄与し、特にグルタル酸の配合量の増大により、潜熱蓄熱材10の融点をさらに低くするのに寄与しているものと推察される。また、酢酸ナトリウム三水和物(第1融点調整剤21)とグルタル酸(第2融点調整剤22)を、潜熱蓄熱材組成物1の融点調整剤20としているため、潜熱蓄熱材組成物1において、蓄熱とその放熱のサイクルを複数回繰り返しても、潜熱蓄熱の挙動が、サイクル毎に安定しているものと推察される。
【0059】
(実験3)
実験3は、周知の示差走査熱量測定装置(DSC:Differential scanning calorimetry)により、実施例9に係る潜熱蓄熱材組成物1に対し、蓄熱温度及び蓄熱量を確認するための実験である。
【0060】
<実験方法>
実験3では、実施例1に係る潜熱蓄熱材組成物1から試料約10mgを採取し、アルミ容器に充填し蓋で閉塞した上で、DSCの測定室にこのアルミ容器を静置し、50ml/min.の窒素フローを行った条件下で、試料の蓄熱量を測定した。具体的には、実験開始から5分間、試料を20℃に保温し続けた後、前処理として、20℃に保温されていた試料を-40℃になるまで、2℃/min.の降温速度で冷却した。そして、試料が-40℃に到達した時点から100分間、試料を-40℃に保温し続けた。
【0061】
次いで、試料を40℃超えになるまで2℃/min.の昇温速度で加熱(第1回目の加熱)した。そして、20℃超えになるまで試料を加熱している間、試料に蓄熱された潜熱の熱量を測定し、試料の蓄熱量を求めた。引き続き、試料が40℃に到達した時点から20分間、試料を40℃に保温(高温側保温)し続けた。そして20分間、20℃に保温されていた試料を-20℃になるまで、2℃/min.の降温速度で冷却(第1回目の冷却)した。試料が-20℃に到達した時点から20分間、試料を-20℃に保温(低温側保温)し続けた。このように、第1回目の加熱から高温側保温、第1回目の冷却を経て、低温側保温に至るまでの一連のプロセスを1サイクルとした。実験3では、このような温度制御のサイクルを、1サイクル目と同じ要領で、複数回連続で繰り返し、第1回目の加熱時と同様、第2回目と第3回目の加熱時も、潜熱の熱量及び試料の蓄熱量の測定を行った。
【0062】
<実施例1の条件>
・潜熱蓄熱材10;リン酸水素二ナトリウム十二水和物
・第1融点調整剤21;酢酸ナトリウム三水和物
・第2融点調整剤22;グルタル酸
・潜熱蓄熱材組成物全体に占める潜熱蓄熱材10の含有割合;81.8wt%
・潜熱蓄熱材組成物全体に占める第1融点調整剤21の含有割合;9.1wt%
・潜熱蓄熱材組成物全体に占める第2融点調整剤22の含有割合;9.1wt%
(潜熱蓄熱材10:第1融点調整剤21:第2融点調整剤22=9:1:1)
【0063】
図9は、実施例1に係る潜熱蓄熱材組成物を試料としたDSC測定の下で、蓄熱とその放熱のプロセスを複数サイクルで繰り返し行った実験3で、蓄熱時の融解ピーク温度と蓄熱量の結果を示すグラフである。
【0064】
図9に示すグラフでは、縦軸右側の目盛りが、単位時間に試料に蓄熱または放熱した熱量を示しており、この目盛りの「負」の領域は、試料に吸熱される熱量を示し、「正」の領域は、試料から放熱される熱量を示す。また、グラフでは、試料の融解時と凝固時に、時間経過と共に推移する熱量の線図の中で、熱量の絶対値が一時的に大きくなり、融解時に、最大値(ピークトップ)に達した時刻tに対応する試料の温度Tr(「融解温度」と定義)となったとき、最大の蓄熱量を呈する条件となる。同様に、凝固時に、最大値(ピークトップ)に達した時刻に対応する試料の温度(「凝固温度」と定義)となったとき、最大の放熱量を呈する条件となる。試料における融解潜熱や凝固潜熱の熱量は、熱量の線図の中で、蓄熱量のピーク(融解ピーク)の開始時間と終了時間との間で積算して得られるピーク面積(図9では、融解潜熱の熱量S)の大きさで示されている。また、熱量の単位は〔W/g〕で、試料の質量の単位は〔mg〕であるが、単位換算を行った上で、蓄熱量の単位は、〔kJ/kg〕としている。
【0065】
<実験3の結果>
図9に示すように、実施例1では、3サイクルとも、融解ピークは1つであった。融解ピークの時刻t1に対応する温度(凝固温度)Tr1は、17℃で、その直後の蓄熱量S1は、167kJ/kgであった。また、融解ピークの時刻t2,t3に対応する温度(凝固温度)Tr2,Tr3は、約18℃,19℃であり、その直後の蓄熱量S2,S3も、概ね167kJ/kgであった。
【0066】
<実験3の考察>
リン酸水素二ナトリウム十二水和物(潜熱蓄熱材10)単体は、融点35℃で、一般的に知られている蓄熱量は、概ね265kJ/kgである。実施例1に係る潜熱蓄熱材組成物1では、その潜熱蓄熱材10を主剤に、グルタル酸とした第2融点調整剤22が、酢酸ナトリウム三水和物である第1融点調整剤21と共に含有されている。そのため、潜熱蓄熱材組成物1は、潜熱蓄熱材10単体の場合での対比で、その70%近くに相当に留まる比較的高い蓄熱量を維持しつつ、潜熱蓄熱材10の融点を10℃台にまで調整できたものと推察される。
【0067】
(実験4)
実験4は、実施例5、9~11に係る潜熱蓄熱材組成物に対し、主剤の潜熱蓄熱材10をリン酸水素二ナトリウム十二水和物とし、第1融点調整剤21を酢酸ナトリウム三水和物とし、第2融点調整剤22をグルタル酸の含有割合を一定とした上で、潜熱蓄熱材10と第1融点調整剤21との含有割合を変えた場合の融解開始温度を確認する実験である。実験4は、実験1の試料と異にして、実験1と同様の実験方法で行われ、グルタル酸の含有割合は、5wt%とした場合と、10wt%とした場合の2種である。なお、実験4にある実施例5,6は、実験2で行った実施例5,6を再掲したものである。
【0068】
<実施例5、9~11の共通条件>
・潜熱蓄熱材10(図10中、「主剤a」と表記);リン酸水素二ナトリウム十二水和物
・第1融点調整剤21(図10中、「第1融点調整剤b」と表記);酢酸ナトリウム三水和物
・第2融点調整剤22(図10中、「第2融点調整剤c」と表記);グルタル酸
・潜熱蓄熱材10と第1融点調整剤21との混合物重量を基準に、配合した第2融点調整剤22の含有割合[wt%];5(実施例5、9~11)
・潜熱蓄熱材10と第1融点調整剤21との合算重量に占める潜熱蓄熱材10の重量比;9:1(実施例5)、8:2(実施例9)、7:3(実施例10)、6:4(実施例11)、5:5(実施例12)、4:6(実施例13)
【0069】
<実施例6、14~16の共通条件>
・潜熱蓄熱材10(図11中、「主剤a」と表記);リン酸水素二ナトリウム十二水和物
・第1融点調整剤21(図11中、「第1融点調整剤b」と表記);酢酸ナトリウム三水和物
・第2融点調整剤22(図11中、「第2融点調整剤c」と表記);グルタル酸
・潜熱蓄熱材10と第1融点調整剤21との混合物重量を基準に、配合した第2融点調整剤22の含有割合[wt%];10(実施例6、14~16)
・潜熱蓄熱材10と第1融点調整剤21との合算重量に占める潜熱蓄熱材10の重量比;9:1(実施例6)、8:2(実施例14)、7:3(実施例15)、6:4(実施例16)
【0070】
図10は、実施例5,9~13に係る潜熱蓄熱材組成物による蓄熱とその放熱のプロセスを複数サイクルで繰り返す実験4で、グルタル酸の含有割合を5wt%として、リン酸水素二ナトリウム十二水和物と酢酸ナトリウム三水和物との配合割合を変えた場合の条件と、1サイクル目の蓄熱結果をまとめて掲載した表である。図11は、実施例6,14~16に係る潜熱蓄熱材組成物による蓄熱とその放熱のプロセスを複数サイクルで繰り返す実験4で、グルタル酸の含有割合を10wt%として、リン酸水素二ナトリウム十二水和物と酢酸ナトリウム三水和物との配合割合を変えた場合の条件と、1サイクル目の蓄熱結果をまとめて掲載した表である。図12は、実施例6,14~16に係る1サイクル目の蓄熱及び放熱の結果を示すグラフである。
【0071】
実験4の結果を図10図12に示す。図10に示すように、グルタル酸の含有割合を5wt%とした場合、1サイクル目の昇温プロセスにおいて、実施例1に係る融解開始温度は、17.4℃であった。実施例9に係る融解開始温度は、15.4℃であった。実施例10に係る融解開始温度は、18.6℃であった。実施例11に係る融解開始温度は、15.2℃であった。実施例12に係る融解開始温度は、17.3℃であった。実施例13に係る融解開始温度は、17.5℃であった。
【0072】
また、図11及び図12に示すように、グルタル酸の含有割合を10wt%とした場合、1サイクル目の昇温プロセスにおいて、実施例6に係る融解開始温度は、15.5℃であった。実施例14に係る融解開始温度は、14.5℃であった。実施例15に係る融解開始温度は、11.6℃であった。実施例16に係る融解開始温度は、13.1℃であった。
【0073】
<実験3の考察>
実験4の結果より、グルタル酸が、5wt%含有する場合と10wt%含有する場合との対比で、リン酸水素二ナトリウム十二水和物と酢酸ナトリウム三水和物との含有割合を同じ重量比同士で比較すると、グルタル酸10wt%を含む潜熱蓄熱材組成物1の方で、その融解開始温度が、全体的に低くなる傾向にあることが判る。一方、グルタル酸5wt%、10wt%の場合とも、リン酸水素二ナトリウム十二水和物と酢酸ナトリウム三水和物との含有割合が変わっても、融解開始温度への影響はほとんどない傾向にあることが判る。
【0074】
(実験5)
実験1は、実施例17~20に係る潜熱蓄熱材組成物に対し、主剤である潜熱蓄熱材10をリン酸水素二ナトリウム十二水和物とし、第2融点調整剤22をグルタル酸とした上で、第1融点調整剤21をなす物質毎に変えた場合の融解開始温度を確認する実験である。実験5は、実験1に用いた試料と異にするが、実験1と同様の実験方法で行われた。
【0075】
<実施例17~20の共通条件>
・潜熱蓄熱材10;リン酸水素二ナトリウム十二水和物
・第2融点調整剤22;グルタル酸
・潜熱蓄熱材組成物全体に占める潜熱蓄熱材10の含有割合;81.8wt%
・潜熱蓄熱材組成物全体に占める第1融点調整剤21の含有割合;9.1wt%
・潜熱蓄熱材組成物全体に占める第2融点調整剤22の含有割合;9.1wt%
(潜熱蓄熱材10:第1融点調整剤21:第2融点調整剤22=9:1:1)
【0076】
<実施例17の条件>
・第1融点調整剤21;酢酸カリウム
<実施例18の条件>
・第1融点調整剤21;酢酸リチウム二水和物
<実施例19の条件>
・第1融点調整剤21;酢酸マグネシウム四水和物
<実施例20の条件>
・第1融点調整剤21;酢酸カルシウム一水和物
【0077】
<実験5の結果>
図13は、実施例17~20に係る潜熱蓄熱材組成物による蓄熱とその放熱のプロセスを複数サイクルで繰り返す実験5で、第1の融点調整剤である酢酸塩水和物等の物質を変えた場合の条件と、1サイクル目の蓄熱及び放熱の結果を示すグラフである。図13に示すように、実施例17~20に係る潜熱蓄熱材組成物1では、融解開始温度は、実施例17~20とも、概ね10~15℃の範囲内であった。
【0078】
<実験5の考察>
前述した実験1の結果より、潜熱蓄熱材組成物1では、第1融点調整剤21と共に含有する第2融点調整剤22を、カルボン酸系物質の一種であるグルタル酸としたために、融解開始温度が、潜熱蓄熱材10の融点より20℃以上も低くなったものと考えられる。実験5では、実験1で用いた酢酸ナトリウム三水和物に代えて、実施例17では酢酸カリウムを、実施例18では酢酸リチウム二水和物を、実施例19では酢酸マグネシウム四水和物を、実施例20では酢酸カルシウム一水和物を、それぞれ第1融点調整剤21に用いた潜熱蓄熱材組成物1としたが、実施例17~20とも、融解開始温度は、酢酸ナトリウム三水和物を第1融点調整剤21に用いた場合と同様、概ね10~15℃であった。このことから、カルボン酸系物質とする第2融点調整剤22と共に加える第1融点調整剤21として、酢酸ナトリウム三水和物以外の酢酸塩水和物や酢酸塩であっても、潜熱蓄熱材組成物1の融解開始温度は、20℃台より低い温度帯域まで降下することが判る。
【0079】
次に、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物1の作用・効果について説明する。
【0080】
本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物1は、リン酸水素二ナトリウム十二水和物を主成分とする潜熱蓄熱材10に、該潜熱蓄熱材10の融点を調整する融点調整剤20を配合してなる潜熱蓄熱材組成物において、融点調整剤20は、第1融点調整剤21(第1の添加剤)として、金属イオンを含む酢酸塩または酢酸塩水和物と共に、第2融点調整剤22(第2の添加剤)として、ジカルボン酸に属するカルボン酸系物質を含有してなり、カルボン酸系物質は、炭素数18未満の脂肪族化合物に対し、単結合により炭素鎖をなす飽和化合物であること、を特徴とする。
【0081】
この特徴により、融点調整剤20は、第1融点調整剤21と共に配合した第2融点調整剤22をカルボン酸系物質としているため、潜熱蓄熱材組成物1の融解温度は、潜熱蓄熱材10であるリン酸水素二ナトリウム十二水和物単体の融解温度(融点35℃)より、温度差15℃超えで、20℃台を下回る低い温度帯域まで低くすることができている。しかも、潜熱蓄熱材組成物1は、このような融点調整剤20を含有していても、潜熱蓄熱材組成物1の蓄熱量は、融点調整剤20の添加に起因して、潜熱蓄熱材10単体の場合の蓄熱量に比べ、一例として、30%前後の減少に留まって大幅に低下せず、150kJ/kg超えという、比較的高い熱量を確保することも可能になる。また、主成分である潜熱蓄熱材10が、特にリン酸水素二ナトリウム十二水和物で構成されていると、潜熱蓄熱材10は、蓄熱材の中でも比較的高い蓄熱量を呈するため、このような潜熱蓄熱材10を含む潜熱蓄熱材組成物1も、より高い蓄熱量を有した物性となる。
【0082】
従って、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物1によれば、主成分をリン酸水素二ナトリウム十二水和物とした潜熱蓄熱材10である場合でも、融点(融解温度)を、20℃台より低い温度帯域まで降下させることができる、という優れた効果を奏する。
【0083】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物1では、カルボン酸系物質は、シュウ酸(Oxalic acid)、マロン酸(Malonic acid)、コハク酸(Succinic acid)、またはグルタル酸(Glutaric acid)のうち、少なくともいずれかの物質の単種、または2種以上の混合物であること、を特徴とする。
【0084】
この特徴により、潜熱蓄熱材組成物1の融解温度は、一例である概ね5℃付近から十数℃までの範囲内に調整される。また、カルボン酸系物質(第2融点調整剤22)は、飽和化合物であるため、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(潜熱蓄熱材10)や、第1融点調整剤21をなす酢酸塩または酢酸塩水和物に対し、変性に繋がる反応や、加熱に伴う変質は、潜熱蓄熱材組成物1に生じず、潜熱蓄熱材組成物1の物性は、安定した状態である。そのため、潜熱蓄熱材組成物1は、主成分であるリン酸水素二ナトリウム十二水和物(潜熱蓄熱材10)のほか、第1融点調整剤21によっても、蓄熱性能を十分に発揮できる物性となり、蓄熱材の物性としても優れている。
【0085】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物1では、カルボン酸系物質は、グルタル酸であること、を特徴とする。
【0086】
この特徴により、カルボン酸系物質の中でも、特にグルタル酸を配合した潜熱蓄熱材組成物1では、潜熱の蓄熱と、蓄えた潜熱の放熱との一連のプロセスが、繰り返し複数サイクルに亘って行われても、融解と凝固の各挙動が、サイクル毎にほとんど変化せず、蓄熱・放熱性能は安定している。そのため、この潜熱蓄熱材組成物1は、充填された蓄熱材充填容器の内外で、液相と固相との相変化に伴って、熱を蓄えるときや、蓄えた熱を必要に応じて取り出すときに、安定した状態で使用することができる。
【0087】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物1では、潜熱蓄熱材10の重量と第1融点調整剤21の重量との和である基準重量に対し、カルボン酸系物質の配合割合は、0wt%より大きく、かつ10wt%以下の範囲内であること、または、当該潜熱蓄熱材組成物1全体の重量に占めるカルボン酸系物質の配合割合は、0wt%より大きく、かつ30wt%以下の範囲内であること、を特徴とする。
【0088】
この特徴により、潜熱蓄熱材組成物1の融解温度は、一例である概ね5℃付近から十数℃までの範囲内に調整することができる。なお、カルボン酸系物質は、蓄熱・放熱特性を具備していない。そのため、カルボン酸系物質が、前述した配合割合の上限を超えて含有されると、潜熱蓄熱材組成物1では、体積当たりの潜熱の蓄熱量・放熱量が、潜熱蓄熱材10(リン酸水素二ナトリウム十二水和物)単体の場合と比べ、一例として、50%以上も低下しまうため、潜熱蓄熱材組成物の使い勝手が悪くなり、好ましくない。
【0089】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物1では、金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、またはカルシウムイオンのうち、少なくともいずれかであること、を特徴とする。特に、酢酸塩または酢酸塩水和物は、酢酸カリウム[CHCOOK]、酢酸リチウム二水和物[CHCOOLi・2HO]、酢酸ナトリウム三水和物[CHCOONa・3HO]、酢酸マグネシウム四水和物[CHCOOMg・4HO]、または酢酸カルシウム一水和物[Ca(CHCOO)・HO]のうち、少なくともいずれかの物質の単種、または2種以上の混合物であること、を特徴とする。
【0090】
この特徴により、融点調整剤20が、このような酢酸塩、酢酸塩水和物とした第1融点調整剤21と共に、カルボン酸系物質である第2融点調整剤22を配合して構成されていれば、潜熱蓄熱材組成物1の融解温度は、20℃台を下回る低い温度帯域まで低くすることができる。
【0091】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物1では、当該潜熱蓄熱材組成物1は、その融解温度を、融点調整剤により、リン酸水素二ナトリウム十二水和物の融点より低い10℃台の温度まで調整された物性であること、を特徴とする。
【0092】
この特徴により、潜熱蓄熱材組成物1を、例えば、バッテリを搭載した携帯端末機器に装着した場合には、潜熱蓄熱材組成物1は、バッテリから発熱した熱を奪って蓄熱することにより、バッテリの温度を下げて、バッテリを保護することや、低温状態下にあるバッテリを、放熱した潜熱で温めることにより、バッテリの性能低下を防止する等、電子機器を適正な温度に管理する用途で使用することができる。また、例えば、植物を温室栽培するハウス内で、潜熱蓄熱材組成物1を利用する場合でも、潜熱蓄熱材組成物1は、昼間、太陽光による熱を潜熱蓄熱材に蓄熱しておき、その潜熱を夜間、放熱することにより、室温の低下を抑えて植物に適す温度に調節する等、植物栽培向けに温度管理を行う用途で使用することができる。
【0093】
従って、潜熱蓄熱材組成物1は、例示したように、日常生活の中で、数℃から10℃台までの温度帯域内で、外部で放ちたいとしている熱を、吸熱して潜熱を蓄熱する用途や、熱を必要としている外部に、蓄熱している潜熱を放熱して提供する用途で、大いに貢献することができる。しかも、潜熱蓄熱材組成物1は、安全性の高い物質で構成されており、パラフィン系の潜熱蓄熱材と異なり、潜熱蓄熱材組成物1自体に引火性がなく、火気に関する安全対策を採る必要もないため、潜熱蓄熱材組成物1の使い勝手は良い。
【0094】
以上において、本発明を実施形態の実施例1~20、及び比較例1~3に即して説明したが、本発明は上記実施形態の実施例1~20に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
【0095】
例えば、実施形態では、実験1,3,5において、潜熱蓄熱材組成物1に配合した潜熱蓄熱材10と、第1融点調整剤21と、第2融点調整剤22との各重量比を、9:1:1としたが、潜熱蓄熱材10、第1融点調整剤21、及び第2融点調整剤22の各配合割合は、実施形態に限定されるものではなく、潜熱蓄熱材組成物の融点に対し、例えば、10℃台の温度、10℃を下回る温度等、調整したい所望温度に合わせて、適宜変更可能である。
【0096】
また、実施形態では、第1融点調整剤21とする物質を、単種の酢酸塩または酢酸塩水和物とした。しかしながら、潜熱蓄熱材組成物の使用上、支障が生じなければ、第1の添加剤は、例えば、酢酸カリウムと酢酸リチウム二水和物等のように、単種の酢酸塩と1種以上の酢酸塩水和物との混合物や、一例として、酢酸ナトリウム三水和物と酢酸マグネシウム四水和物との混合物等のように、互いに異なる物質同士の酢酸塩水和物の混合物で構成しても良い。同様に、第2融点調整剤22とする物質を、単種のカルボン酸系物質としたが、第2の添加剤は、例えば、シュウ酸とマロン酸との混合物等のように、複数種のカルボン酸系物質の混合物で構成しても良い。
【0097】
また、実施形態では、潜熱蓄熱材10に、第1融点調整剤21と第2融点調整剤22とを添加した潜熱蓄熱材組成物1を挙げたが、潜熱蓄熱材組成物は、これらの他にも、必要に応じて、増粘剤、着色剤等の添加剤をも加えた組成物であっても良い。
【符号の説明】
【0098】
1 潜熱蓄熱材組成物
10 潜熱蓄熱材(リン酸水素二ナトリウム十二水和物)
20 融点調整剤
21 第1の融点調整剤(第1の添加剤、酢酸塩、酢酸塩水和物)
22 第2の融点調整剤(第2の添加剤、カルボン酸系物質)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13