(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101883
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】回転シリンダ
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/12 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
B23Q11/12 C
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006069
(22)【出願日】2023-01-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-15
(71)【出願人】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】西宮 民和
【テーマコード(参考)】
3C011
3C032
【Fターム(参考)】
3C011FF01
3C032KK12
(57)【要約】
【課題】エネルギーロスを低減可能な回転シリンダを提供する。
【解決手段】本発明によれば、ベースと、前記ベースに対して相対回転可能に構成された回転体を備える回転シリンダであって、前記ベースと前記回転体が径方向に対向する径方向対向部での前記ベースと前記回転体の間の隙間を第1状態と第2状態の間で切替可能な状態切替部が設けられており、第2状態は、第1状態よりも前記隙間が大きい状態である、回転シリンダが提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、前記ベースに対して相対回転可能に構成された回転体を備える回転シリンダであって、
前記ベースと前記回転体が径方向に対向する径方向対向部での前記ベースと前記回転体の間の隙間を第1状態と第2状態の間で切替可能な状態切替部が設けられており、
第2状態は、第1状態よりも前記隙間が大きい状態である、回転シリンダ。
【請求項2】
請求項1に記載の回転シリンダであって、
前記状態切替部は、前記径方向対向部において前記ベースに設けられた切替用ピストンを備え、
前記回転体の軸方向への前記切替用ピストンの移動に伴って、第1状態と第2状態が切り替えられる、回転シリンダ。
【請求項3】
請求項2に記載の回転シリンダであって、
前記切替用ピストンは、筒状であり、
前記切替用ピストンの内周面と、前記回転体の外周面には、それぞれ、凸部と凹部が設けられており、
第1状態では、前記切替用ピストンの凸部と前記回転体の凸部が対向し、
第2状態では、前記切替用ピストンの凸部と前記回転体の凹部が対向し、前記切替用ピストンの凹部と前記回転体の凸部が対向するする、回転シリンダ。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1つに記載の回転シリンダであって、
前記回転体は、回転体本体と、主ピストンと、第1及び第2シリンダ室と、第1及び第2圧力保持弁を備え、
前記ベースは、作動流体の供給及び排出が可能に構成された第1及び第2ポートを備え、
第1及び第2ポートは、それぞれ、前記径方向対向部に配置されており、
第1ポートと第1シリンダ室は、第1流路を通じて接続されており、
第2ポートと第2シリンダ室は、第2流路を通じて接続されており、
前記主ピストンは、第1及び第2シリンダ室への前記作動流体の供給及び排出によって移動可能に構成され、
第1及び第2圧力保持弁は、それぞれ、第1及び第2シリンダ室内に供給された前記作動流体の圧力を保持可能に構成される、回転シリンダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に設置される回転シリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工作機械に用いる回転シリンダにおいて、回転体と共に回転する複数のファンを回転させることによって、外気を油溜め部内で通気させて油溜め部の内側を冷却する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、発生した熱を効率的に排出して回転シリンダの温度上昇が抑制されているものの、発熱自体が抑制されているのではないので、発熱に伴うエネルギーロスが発生している。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、エネルギーロスを低減可能な回転シリンダを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]ベースと、前記ベースに対して相対回転可能に構成された回転体を備える回転シリンダであって、前記ベースと前記回転体が径方向に対向する径方向対向部での前記ベースと前記回転体の間の隙間を第1状態と第2状態の間で切替可能な状態切替部が設けられており、第2状態は、第1状態よりも前記隙間が大きい状態である、回転シリンダ。
[2][1]に記載の回転シリンダであって、前記状態切替部は、前記径方向対向部において前記ベースに設けられた切替用ピストンを備え、前記回転体の軸方向への前記切替用ピストンの移動に伴って、第1状態と第2状態が切り替えられる、回転シリンダ。
[3][2]に記載の回転シリンダであって、前記切替用ピストンは、筒状であり、前記切替用ピストンの内周面と、前記回転体の外周面には、それぞれ、凸部と凹部が設けられており、第1状態では、前記切替用ピストンの凸部と前記回転体の凸部が対向し、第2状態では、前記切替用ピストンの凸部と前記回転体の凹部が対向し、前記切替用ピストンの凹部と前記回転体の凸部が対向するする、回転シリンダ。
[4][1]~[3]の何れか1つに記載の回転シリンダであって、前記回転体は、回転体本体と、主ピストンと、第1及び第2シリンダ室と、第1及び第2圧力保持弁を備え、前記ベースは、作動流体の供給及び排出が可能に構成された第1及び第2ポートを備え、第1及び第2ポートは、それぞれ、前記径方向対向部に配置されており、第1ポートと第1シリンダ室は、第1流路を通じて接続されており、第2ポートと第2シリンダ室は、第2流路を通じて接続されており、前記主ピストンは、第1及び第2シリンダ室への前記作動流体の供給及び排出によって移動可能に構成され、第1及び第2圧力保持弁は、それぞれ、第1及び第2シリンダ室内に供給された前記作動流体の圧力を保持可能に構成される、回転シリンダ。
【発明の効果】
【0007】
本発明の回転シリンダでは、ベースと回転体の間の隙間が第1及び第2状態の間で切替可能になっている。このため、ベースと回転体の間の隙間を小さくする必要がある場合にのみ、この隙間を小さくし、それ以外の場合は、ベースと回転体の間の隙間を大きくすることによって、回転体の回転に伴う発熱が抑制できるので、エネルギーロスが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1Aは、本発明の一実施形態の回転シリンダ1の斜視図であり、
図1Bは、回転シリンダ1を別の角度から見た斜視図である。
【
図2】
図1の回転シリンダ1の、回転体3の回転軸Cに平行で且つ回転軸Cと状態切替部22を通る断面の断面図である。
【
図3】
図2の回転シリンダ1を、ベース2と回転体3に分解した図である。
【
図4】
図3のベース2を、ベース本体21と状態切替部22に分解した図である。
【
図5】
図2の回転シリンダ1の、回転軸Cに垂直で且つ第1ポート2aを通る断面の断面図である。
【
図6】
図6Aは、
図2の領域Aの拡大図であり、隙間1bが第1状態である図であり、
図6Bは、状態切替部22を構成する切替用ピストン25を移動させて隙間1bの状態を第1状態から第2状態に変化させた後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴について独立して発明が成立する。
【0010】
1.回転シリンダ1の構成
図1~
図6を用いて、本発明の一実施形態の回転シリンダ1について説明する。
【0011】
1-1.基本構成
図1~
図2に示すように、本発明の一実施形態の回転シリンダ1は、ベース2と、ベース2に対して相対回転可能に構成された回転体3を備える。ベース2は、通常、ほぼ非回転状態となるように工作機械に連結される。回転体3は、工作機械のスピンドルへ固着されスピンドルの回転に伴って回転軸Cを中心に回転する。
【0012】
図2~
図3に示すように、回転体3は、往復動可能な主ピストン32を内蔵する。また、回転シリンダ1は、ベース2を通じて主ピストン32を往復動させるための作動流体(例:作動油)を回転体3内に供給するように構成されている。
図1に示すように、ベース2には、作動流体の供給及び排出が可能に構成された第1及び第2ポート2a,2bが設けられている。
図2に示すように、ポート2a,2bは、ベース2と回転体3が径方向に対向する径方向対向部1aに設けられている。径方向対向部1aにおいて、ベース2と回転体3の間で作動流体が授受される。各種部材間には作動流体の漏れを防ぐためのシール部材(例:Oリング)が設けられている。
【0013】
1-2.回転体3
図3に示すように、回転体3は、回転体本体31と、主ピストン32と、第1及び第2シリンダ室33a,33bと、第1及び第2圧力保持弁34a,34bを備える。回転体本体31は、フロントボディ31aと、リアボディ31bと、リアキャップ31cを備える。リアボディ31bは、ボルト31d(
図1Aに図示)によってフロントボディ31aに連結されている。リアキャップ31cは、ボルト31eによってリアボディ31bに連結されている。回転体本体31は、フロントボディ31aとリアボディ31bを貫通するボルト31fによってスピンドルに固定される。
【0014】
主ピストン32は、回転体本体31の収容空間31g内に配置され、回転軸芯方向へ摺動自在になっている。主ピストン32は、筒部32aと、フランジ部32bと、連結部32cを備える。収容空間31gは、筒空間31g1とフランジ空間31g2を備える。筒部32aは、筒空間31g1内に収容され、フランジ部32bは、フランジ空間31g2内に収容される。フランジ空間31g2は、フランジ部32bによってシリンダ室33a,33bに分割される。主ピストン32は、第1及び第2シリンダ室33a,33bへの作動流体の供給及び排出によって移動可能に構成されている。
【0015】
フランジ部32bは、ピン32dによって回転体本体31に連結されており、主ピストン32が、回転体本体31と一体回転可能になっている。連結部32cは、一例では、筒部32aの内面に設けられた雌ネジ部であり、連結バーの一端を連結部32cに固定し、他端をチャック装置に連結することによって、主ピストン32の往復動をチャック装置に伝達し、チャックによるワークの保持及び解放を行うことができるようになっている。
【0016】
回転体本体31には、第1ポート2aと第1シリンダ室33aを接続する第1流路31h1と、第2ポート2bと第2シリンダ室33bを接続する第2流路31h2が設けられており、第1及び第2流路31h1,31h2を通じてシリンダ室33a,33bへの作動流体の供給及び排出が可能になっている。圧力保持弁34a,34bは、それぞれ、流路31h1,31h2中に配置されており、シリンダ室33a,33b内の作動流体の圧力を保持可能に構成されている。圧力保持弁34a,34bは、それぞれ、パイロット操作チェック弁で構成されており、パイロット圧力によって作動流体の通過と阻止を制御可能になっている。
【0017】
1-3.ベース2
1-3-1.ベース2の基本構成
図3~
図4に示すように、ベース2は、ベース本体21と、状態切替部22と、ベアリング23と、油溜め部24を備える。ベース本体21は、フロントボディ21aと、リアボディ21bを備える。リアボディ21bは、ボルト2c(
図1Aに図示)によってフロントボディ21aに連結されている。ベース本体21は、筒状であり、ベース本体21の内部に状態切替部22とベアリング23が設けられている。回転体3は、一対のベアリング23によって軸受されて、ベース2に対して相対回転可能になっている。一対のベアリング23の間の部位が径方向対向部1aとなる。径方向対向部1aにおいて、ベース2と回転体3は、微小な隙間1b(
図6に図示)を介して、非接触で対向している。
【0018】
油溜め部24は、ボルト(不図示)によってベース本体21に連結されている。ベース本体21には、油溜め部24に連通するドレンポート21cが設けられており、ポート2a,2bを通じて供給された作動流体の一部は、隙間1bを通ってドレンポート21cから排出されるようになっている。このため、隙間1bには作動流体が充満している。
【0019】
回転体3が回転すると、隙間1bにある作動流体がせん断されるが、作動流体の粘度により抵抗トルクTが発生する。この抵抗トルクによる負荷はほぼ100%熱に変換される。時間当たりの発熱量Qは次の式で表され、発熱量Qは、せん断部半径隙間hに反比例する。hを大きくすると発熱は小さくなるが、ドレンポート21cを通じて排出される作動流体の量(ドレン量)が大きくなる。
【数1】
T:抵抗トルク ω:回転速度 τ:せん断応力 μ:作動流体の粘度
h:せん断部半径隙間 S:せん断部面積 R:せん断部半径 L:せん断部幅合計
【0020】
1-3-2.状態切替部22の構成
状態切替部22は、径方向対向部1aでのベース2と回転体3の間の隙間1bを、
図6Aに示す第1状態と、
図6Bに示す第2状態の間で切替可能に構成されている。第2状態は、第1状態よりも隙間1bが大きい状態である。状態切替部22は、一対のベアリング23の間に配置されることが好ましい。
【0021】
本実施形態では、状態切替部22は、径方向対向部1aにおいてベース2に設けられた切替用ピストン25を備える。切替用ピストン25は、筒状の部材であり、切替用ピストン25の内面が回転体3に対向し、切替用ピストン25の外面がベース本体21に対向する。切替用ピストン25の軸方向移動(回転軸Cが延びる方向への移動。
図2の左右方向)に伴って、第1状態と第2状態が切り替えられる。切替用ピストン25を移動させるための駆動機構は、特に限定されないが、本実施形態では、切替用ピストン25は、バネなどの付勢部材26によって一方向に付勢されており、作動流体圧(例:油圧)機構によって他方向(一方向と逆の方向)に移動可能になっている。
【0022】
作動流体は、ベース本体21に設けられた状態切替ポート21dを通じて、切替用ピストン25の軸方向の端面に加わる作動流体圧を変化させるように、作動流体の供給及び排出を行う。本実施形態では、状態切替ポート21dに作動流体を供給していない状態では、切替用ピストン25が付勢部材26によって押されることによって隙間1bが第2状態となり、状態切替ポート21dに作動流体を供給することによって付勢部材26による付勢力に逆らって切替用ピストン25を移動させると隙間1bが第1状態となるように構成されている。切替用ピストン25は、付勢部材26によってベース本体21に連結されており、ベース本体21に対して相対回転不能になっている。
【0023】
図4~
図5に示すように、ポート2a,2bは、ベース本体21に設けられた貫通孔2a1,2b1と、切替用ピストン25に設けられた貫通孔2a2,2b2で構成される。第1状態では、貫通孔2a1と貫通孔2a2が互いに連通してポート2aとなり、貫通孔2b1と貫通孔2b2が互いに連通してポート2bとなる。このため、切替用ピストン25の内周面への作動流体の供給及び排出が可能になる。一方、第2状態では、貫通孔2a1と貫通孔2a2の位置が互いにずれるとともに、貫通孔2b1と貫通孔2b2の位置が互いにずれる。このため、第2状態では、ポート2a,2bを通じて作動流体を流入させたり、排出させたりすることができない。このように、切替用ピストン25は、ポート2a,2bの開閉を制御する切替弁としても機能する。なお、第2状態でも、ベース本体21と切替用ピストン25の間の僅かな隙間分は作動流体が流れるので、ベアリング23に給油を行なったり、隙間1bに留まる作動流体を排出して冷却を促進したりすることが可能になっている。
【0024】
図7に示すように、切替用ピストン25の内周面には凸部25aと凹部25bが設けられており、回転体3の外周面には、凸部3aと凹部3bが設けられている。凸部25a,3a及び凹部25b,3bは環状に設けられている。凹部25bは、一対の凸部25aで挟まれ、凹部3bは、一対の凸部3aで挟まれている。第1状態では、切替用ピストン25の凸部25aと回転体3の凸部3aが対向し、隙間1bが狭くなる。一方、第2状態では、切替用ピストン25の凸部25aと回転体3の凹部3bが対向し、切替用ピストン25の凹部25bと回転体3の凸部3aが対向し、第1状態よりも隙間1bが広くなる。
【0025】
凹部25b及び凹部3bは、それぞれ複数(本実施形態では2つずつ)設けられている。ポート2a,2bは、それぞれ、別々の凹部25b内に設けられている。流路31h1,31h2は、別々の凹部3b内に開口している。
【0026】
第1及び第2状態で隙間1bが最も狭い部位の隙間の大きさをそれぞれh1,h2とすると、h2/h1は、例えば、2以上であり、5以上が好ましく、10以上がさらに好ましい。この値は、例えば2~1000であり、具体的には例えば、2、5、10、20、30、40、50、100、1000であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲又は何れか以上であってもよい。h1[mm]は、例えば、0.01~0.1であり、好ましくは、0.02~0.03であり、具体的には例えば、0.01、0.02、0.025、0.03、0.04、0.05、0.10であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲であってもよい。h2[mm]は、例えば、0.2~10であり、好ましくは、0.5~1.5であり、具体的には例えば、0.2、0.5、1、1.5、2、3、4、5、10であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲であってもよい。
【0027】
2.回転シリンダ1の動作
図1~
図7を用いて、回転シリンダ1の動作について説明する。以下、主ピストン32を後退させることによってチャックがワークを保持する場合を例に挙げて説明する。主ピストン32を前進させることによってチャックがワークを保持する場合は、作動流体の供給及び排出を行うポート2a,2bが逆になるが、その他の作用効果は同様である。なお、主ピストン32の「後退」とは、主ピストン32が
図2の左方向に移動することを意味する。
【0028】
(1)初期状態
まず、チャックがワークを保持しておらず、状態切替部22が
図6Bに示す第2状態になっている状態を初期状態とする。
【0029】
(2)ワークの保持
ワーク保持の方向にチャックを移動させる際には、状態切替部22によって隙間1bを
図6Aに示す第1状態にすると共にポート2aからシリンダ室33aに作動流体を供給する。シリンダ室33aとシリンダ室33bの合計容量は一定なので、シリンダ室33aに供給した作動流体の体積分だけ、シリンダ室33b内の作動流体をポート2bとドレンポート21cを通じて排出する。これによって、主ピストン32が後退する。この動作は、チャックがワークを保持するまで継続させる。この動作中は、隙間1bが第1状態となっているので、隙間1bが小さく、ドレン量が多くなることがない。
【0030】
(3)第1状態から第2状態への切替
チャックによるワークの保持が完了すると、状態切替部22によって隙間1bを第2状態に切り替える。シリンダ室33aに連通する流路31h1には圧力保持弁34aが設けられているので、シリンダ室33a内の作動流体の圧力は維持され、チャックによるワークの保持が解除されることはない。この状態でスピンドルを回転させると、スピンドルと一緒に回転体3が回転する。この際に発生する熱は、隙間1bの大きさに反比例するが、第2状態では隙間1bが大きいので、発熱量が少なく、発熱に伴うエネルギーロスが少ない。また、発熱量が少ないので、回転体3の温度上昇が少なく、回転体3からの熱がスピンドルに伝わることによる加工精度の低下が抑制される。状態切替部22による状態の切替は、回転体3を停止させた状態で行ってもよく、回転体3を回転させながら行ってもよい。
【0031】
(4)リフレッシュ動作
理想的には、圧力保持弁34aによってシリンダ室33a内の作動流体の圧力が維持されるので、工作機械による加工の終了まで第2状態のままにしておくことが可能であるが、実際は、シリンダ室33aからの作動流体のリークによって、シリンダ室33a内の作動流体の圧力が低下してしまう場合がある。作動流体の圧力が低下するとチャックによるワークの保持力が低下してしまうので、作動流体の圧力が所定の閾値を下回る前に、リフレッシュ動作を行ってシリンダ室33aからの作動流体を高めることが好ましい。リフレッシュ動作は、定期的に行ってもよく、作動流体の圧力が所定の閾値を下回ったことを検出したときに行ってもよい。リフレッシュ動作を定期的に行う場合、リフレッシュ動作の周期は、0.1~10分であり、0.5~2分が好ましく、具体的には例えば、0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10分であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲であってもよい。作動流体の圧力を検出してリフレッシュ動作を行う場合、隙間1bを第2状態に切り替えた直後の圧力をP0とすると、リフレッシュ動作を行う圧力の閾値は、α×P0であり、αは、例えば0.50~0.99であり、0.8~0.95が好ましい。αは、具体的には例えば、0.50、0.55、0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、0.95、0.99であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲であってもよい。
【0032】
リフレッシュ動作は、「(2)ワークの保持」と同様に、状態切替部22によって隙間1bを第1状態にすることによって行うことができる。リフレッシュ動作では、わずかな量の作動流体がシリンダ室33aに流入して、シリンダ室33a内の作動流体の圧力が高められる。シリンダ室33a内の作動流体の圧力が高められた後は、「(3)第1状態から第2状態への切替」と同様に第2状態に切り替えることができる。
【0033】
リフレッシュ動作は、シリンダ室33a内の作動流体の圧力を高めるのに十分な時間行えばよく、リフレッシュ動作を行う時間は、例えば1秒以上である。この時間は、例えば、1~60秒であり、具体的には例えば、1、5、10、20、30、40、50、60秒であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲又は何れか以上であってもよい。
【0034】
(5)ワークの解放
ワークの加工が終わると、チャックによるワークの保持を解除してワークを解放する。ワークを解放する方向にチャックを移動させる際には、状態切替部22によって隙間1bを第1状態にしてポート2bからシリンダ室33bに作動流体を供給し、シリンダ室33bに供給した作動流体の体積分だけ、シリンダ室33a内の作動流体をポート2aとドレンポート21cを通じて排出する。これによって、主ピストン32が前進する。この動作中は、隙間1bが第1状態となっているので、隙間1bが小さく、ドレン量が多くなることがない。
【0035】
3.その他実施形態
上記実施形態では、第2状態においても、作動流体を供給するためのポンプを作動させることを想定しているが、ベアリングへの給油や冷却効率を向上させる必要がない場合には、ポンプを停止させてもよい。この場合、ポンプの動作に必要なエネルギーを低減できるので、さらなる省エネが可能となる。
【符号の説明】
【0036】
1 :回転シリンダ
1a :径方向対向部
1b :隙間
2 :ベース
2a :第1ポート
2b :第2ポート
22 :状態切替部
25 :切替用ピストン
25a :凸部
25b :凹部
3 :回転体
3a :凸部
3b :凹部
31h1 :第1流路
31h2 :第2流路
32 :主ピストン
33a :第1シリンダ室
33b :第2シリンダ室
34a :第1圧力保持弁
34b :第2圧力保持弁
【手続補正書】
【提出日】2023-04-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、前記ベースに対して相対回転可能に構成された回転体を備える回転シリンダであって、
前記ベースと前記回転体が径方向に対向する径方向対向部での前記ベースと前記回転体の間の隙間を第1状態と第2状態の間で切替可能な状態切替部が設けられており、
第2状態は、第1状態よりも前記隙間が大きい状態であり、
前記状態切替部は、前記径方向対向部において前記ベースに設けられた切替用ピストンを備え、
前記回転体の軸方向への前記切替用ピストンの移動に伴って、第1状態と第2状態が切り替えられる、回転シリンダ。
【請求項2】
請求項1に記載の回転シリンダであって、
前記切替用ピストンは、筒状であり、
前記切替用ピストンの内周面と、前記回転体の外周面には、それぞれ、凸部と凹部が設けられており、
第1状態では、前記切替用ピストンの凸部と前記回転体の凸部が対向し、
第2状態では、前記切替用ピストンの凸部と前記回転体の凹部が対向し、前記切替用ピストンの凹部と前記回転体の凸部が対向するする、回転シリンダ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の回転シリンダであって、
前記回転体は、回転体本体と、主ピストンと、第1及び第2シリンダ室と、第1及び第2圧力保持弁を備え、
前記ベースは、作動流体の供給及び排出が可能に構成された第1及び第2ポートを備え、
第1及び第2ポートは、それぞれ、前記径方向対向部に配置されており、
第1ポートと第1シリンダ室は、第1流路を通じて接続されており、
第2ポートと第2シリンダ室は、第2流路を通じて接続されており、
前記主ピストンは、第1及び第2シリンダ室への前記作動流体の供給及び排出によって移動可能に構成され、
第1及び第2圧力保持弁は、それぞれ、第1及び第2シリンダ室内に供給された前記作動流体の圧力を保持可能に構成される、回転シリンダ。